IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-内燃機関 図1
  • 特許-内燃機関 図2
  • 特許-内燃機関 図3
  • 特許-内燃機関 図4
  • 特許-内燃機関 図5
  • 特許-内燃機関 図6
  • 特許-内燃機関 図7
  • 特許-内燃機関 図8
  • 特許-内燃機関 図9
  • 特許-内燃機関 図10
  • 特許-内燃機関 図11
  • 特許-内燃機関 図12
  • 特許-内燃機関 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01P 5/12 20060101AFI20221216BHJP
   F01P 5/10 20060101ALI20221216BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20221216BHJP
   F04D 29/08 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
F01P5/12 B
F01P5/10 A
F01M1/06 M
F04D29/08 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019065736
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165357
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 康平
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-1819(JP,A)
【文献】特開2002-115546(JP,A)
【文献】特開平5-39718(JP,A)
【文献】実開平5-47493(JP,U)
【文献】実開昭63-7233(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトの回転に伴って回転するシャフト(51)と同軸上にウォーターポンプ(40)が配置された内燃機関(20)において、
前記ウォーターポンプ(40)のハウジング(104)は、前記ウォーターポンプ(40)のインペラ(100)を回転させる回転部材(102)を回動可能に支持するベアリング(90a、90b)が配置されたベアリング部(92)と前記内燃機関内のオイルをシールするオイルシール部(120)を有していると共に、
前記ベアリング部(92)には前記ベアリング部(92)内にオイルを供給するための第1の開口部(111)が設けられ、前記オイルシール部(120)には前記オイルシール部(120)から水を排出するための第2の開口部(112)が設けられ
前記第1の開口部(111)は前記第2の開口部(112)と同軸上に設けられ、
前記ベアリング部(92)には2つ以上のベアリング(90a、90b)が設けられており、前記第1の開口部(111)は前記ベアリング(90a、90b)が配置されている間の空間に向けて開口するように設けられている内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関において、前記第1の開口部(111)および前記第2の開口部(112)は、前記インペラ(100)の回転軸に垂直方向の軸線に対して傾斜している内燃機関。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関において、前記第1の開口部(111)は前記内燃機関(20)の内側に向けて上方に傾斜して設けられ、前記第2の開口部(112)は外気空間に向けて下方に傾斜するように設けられている内燃機関。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の内燃機関において、前記ウォーターポンプ(40)はシリンダヘッド(26)と前記シリンダヘッド(26)から延びるステー(32)によって支持されており、前記ステー(32)はシリンダ軸線上からみて前記ハウジング(104)と少なくとも一部が重なるように配置されている内燃機関。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の内燃機関において、前記ウォーターポンプ(40)を駆動させる被動ギア(63)は前記ウォーターポンプ(40)を駆動させる為の軸部(80)と前記軸部(80)を中心とした凹部(83)が設けられており、前記軸部(80)と篏合する前記回転部材(102)を回動可能に支持する前記ベアリング(90a、90b)が前記被動ギア(63)の回転軸線方向において、前記凹部(83)と重なるように配置されている内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内部空間に連通する水抜き通路を備えるウォーターポンプが知られている(例えば、下記特許文献1等を参照)。吸気用カムと排気用カムとを含むカム軸の軸線方向に配置されるウォーターポンプを備えるエンジンが知られている(例えば、下記特許文献2等を参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2002-115546号公報
[特許文献1] 特開2015-10551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ベアリング部には、ベアリングに潤滑油を供給するための給油路となる開口を設けることが望ましい。また、オイルシール部には外部に溜まるオイル、水、埃等を排出する為の開口を設けることが望ましい。しかし、異なる場所に開口を形成するには工数がかかるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、請求項1に係る内燃機関は、クランクシャフトの回転に伴って回転するシャフトと同軸上にウォーターポンプが配置されている。前記ウォーターポンプのハウジングは、前記ウォーターポンプのインペラを回転させる回転部材を回動可能に支持するベアリングが配置されたベアリング部と前記内燃機関内のオイルをシールするオイルシール部を有していると共に、前記ベアリング部と前記オイルシール部には同軸上に設けられた開口部が設けられている。
【0005】
請求項2に記載の内燃機関は、前記開口部は、前記インペラの回転軸に垂直方向の軸線に対して傾斜している。
【0006】
請求項3に記載の内燃機関は、前記ベアリング部に設けられた開口部は前記内燃機関の内側に向けて上方に傾斜して設けられ、前記オイルシール部に設けられた開口部は外気空間に向けて下方に傾斜するように設けられている。
【0007】
請求項4に記載の内燃機関は、前記ベアリング部には2つ以上のベアリングが設けられており、前記ベアリング部の開口は前記ベアリングが配置されている間の空間に向けて開口するように設けられている。
【0008】
請求項5に記載の内燃機関は、前記ウォーターポンプはシリンダヘッドとシリンダヘッドから延びるステーによって支持されており、前記ステーはシリンダ軸線上からみて前記ハウジングと少なくとも一部が重なるように配置されている。
【0009】
請求項6に記載の内燃機関は、前記ウォーターポンプを駆動させる被動ギアは前記ウォーターポンプを駆動させる為の軸部と径方向中心部に凹部が設けられており、前記軸部と篏合する前記回転部材を回動可能に支持する前記ベアリングが前記被動ギアの軸線方向において、前記凹部と重なるように配置されている。
【0010】
請求項1に記載の内燃機関によれば、ハウジングに同軸上に形成された開口部をベアリング部及びオイルシール部に設けることで、ベアリング部ではオイル供給ができると共にオイルシール部では水抜き穴としての機能を備えた開口部の加工工数を削減することができる。
【0011】
請求項2に記載の内燃機関によれば、開口部を傾斜させることで、ベアリング部とオイルシール部がインペラの回転軸に沿って配置させることができ、径方向への大型化を抑制することができる。
【0012】
請求項3に記載の内燃機関によれば、ベアリング部の開口部が上方に向けて開口しているので、効果的に内燃機関内のオイルを給油できる。また、オイルシール部の開口部が外気空間に向けて下方に傾斜しているので効率的に水抜きができる上にウォーターポンプハウジングを内燃機関側に寄せて配置してもオイルシール部の開口部を外気に開放できる。
【0013】
請求項4に記載の内燃機関によれば、ベアリングが配置されている間の空間に給油口を設けたことで、両側のベアリングへ効果的にオイルを給油することができる。
【0014】
請求項5に記載の内燃機関によれば、ステーとウォーターポンプハウジングがシリンダ軸線上から見て少なくとも一部が重なるように配置されているので内燃機関の小型化を図ることができる。
【0015】
請求項6に記載の内燃機関によれば、被動ギアに設けられた凹部と被動ギアの軸部を支持するベアリングが被動ギアの軸線方向において重なるので、内燃機関を小型化することができる。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の自動二輪車10を概略的に示す側面図である。
図2】エンジン20の外観を示す。
図3】第1シリンダヘッド26の内部構造を示す。
図4】駆動ギア61、中間ギア62、及び被動ギア63を含む回転減速機構60のカムシャフト軸方向に直交する面で切断した断面図である。
図5】駆動ギア61の断面を示す。(シリンダ軸線の上面視)
図6】中間ギア62の断面を示す。(A-A断面:図3参照)
図7】第1カムホルダ64の外観を示す斜視図である。
図8】被動ギア63及びウォーターポンプ40の断面図を示す。(B-B断面:図2参照)
図9】駆動ギア61、中間ギア62及び被動ギア63の噛み合いを示す図である。
図10】被動ギア63の軸部80とウォーターポンプ40の軸部102との噛み合い部の断面図を示す。(C-C断面:図8参照)
図11】ステー32の外観を示す図である。
図12】ウォーターポンプ40と第1シリンダヘッド26との取り付け部分をシリンダ軸線AXに沿って上方からからみた図である。
図13】第1カムホルダ64の変形例としての第1カムホルダ564a及び第1カムホルダ564bを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、図面において、同一または類似の部分には同一の参照番号を付して、重複する説明を省く場合がある。
【0019】
図1は、第1実施形態の自動二輪車10を概略的に示す側面図である。自動二輪車10は、エンジン20と、メインフレーム1と、前輪4と、後輪6とを備える。エンジン20は、クランクケース11と、第1シリンダバンク21と、第2シリンダバンク22と、オイルパン15と、ウォーターポンプ40とを備える。
【0020】
本実施形態において、後輪6から前輪4に向かう方向のことを前方と呼び、前輪4から後輪6に向かう方向のことを後方と呼ぶ場合がある。後輪6から前輪4に向かった場合の左手を左と呼び、後輪6から前輪4に向かった場合の右手を右と呼ぶ場合がある。左右方向は、自動二輪車10の車両幅方向となる。自動二輪車10の前輪4及び後輪6が接地している場合に地面に向かう方向を下方向と呼び、下方向の反対方向を上方向と呼ぶ場合がある。
【0021】
フロントフォーク2は、自動二輪車10のメインフレーム1の前端に、左右に旋回可能に設けられる。操舵ハンドル3は、フロントフォーク2の上端にフロントフォーク2と一体に取り付けられる。前輪4は、フロントフォーク2の下部に回転可能に支持される。
【0022】
スイングアーム5は、メインフレーム1の後部に上下へ揺動可能に設けられる。後輪6は、スイングアーム5の後端に回転可能に支持される。後輪6は、エンジン20からの動力により駆動チェーン7を介して回転駆動される。燃料タンク8は、メインフレーム1の前部上方に載置される。燃料タンク8の後方にシート9が設けられている。
【0023】
ラジエータ18は、エンジン20との間で循環する冷却水を走行風により冷却する。エンジン20には、排気管25が取付けられている。排気管25は、排気マフラー19に接続される。
【0024】
図2は、エンジン20の外観を示す。エンジン20は、内燃機関の一例である。エンジン20は、V型エンジンである。エンジン20は、4気筒エンジンである。エンジン20は、DOHC型4ストロークエンジンである。
【0025】
第1シリンダバンク21及び第2シリンダバンク22は、クランクケース11の上方に位置する。オイルパン15は、クランクケース11の下方に取り付けられている。
【0026】
第1シリンダバンク21は、エンジン20の前側に配置されるシリンダバンクである。第2シリンダバンク22は、エンジン20の後側に配置されるシリンダバンクである。第1シリンダバンク21は、車両幅方向に2気筒を有する。第2シリンダバンク22は、車両幅方向に2気筒を有する。
【0027】
第1シリンダバンク21は、第1シリンダブロック24と、第1シリンダヘッド26と、第1ヘッドカバー27とを備える。第1シリンダブロック24は、クランクケース11から前上方に延伸する。第1シリンダヘッド26は、第1シリンダブロック24に取付けられる。第1シリンダヘッド26には、排気マフラー19に接続される排気管25が接続される。第1ヘッドカバー27は、第1シリンダヘッド26に取付けられている。
【0028】
第2シリンダバンク22は、第2シリンダブロック28と、第2シリンダヘッド29と、第2ヘッドカバー31とを備える。第2シリンダヘッド29は、第2シリンダブロック28に取付けられる。
【0029】
クランクケース11内には、第1シリンダバンク21及び第2シリンダバンク22が備えるピストンの進退動作により回転駆動されるクランクシャフトと、クランクシャフトの回転を変速してスプロケット17を回転させる変速機とを備える。スプロケット17には駆動チェーン7が巻き掛けられ、スプロケット17は駆動チェーン7を通じて後輪6を回転駆動する。なお、本実施形態において、クランクケース11内のクランクシャフトのことを「クランクシャフト」と呼ぶ。
【0030】
ウォーターポンプ40は、第1シリンダヘッド26に取り付けられる。ウォーターポンプ40は、ウォーターポンプ40を第1シリンダヘッド26に取り付けるためのポンプ側ステー41及びポンプ側ステー42を備える。ポンプ側ステー42は、第1シリンダヘッド26から延伸するステー32に締結される。ウォーターポンプ40は、エンジン20の冷却液を循環させる。ウォーターポンプ40により循環する冷却水は、冷却水を冷却するラジエータ18とエンジン20との間を循環する。
【0031】
図3は、第1シリンダヘッド26の内部構造を示す。図3は、第1ヘッドカバー27を取り外した状態を示す。第1シリンダヘッド26には、第1カムギア53と、第2カムギア54と、第1カムシャフト51と、第2カムシャフト52と、回転減速機構60と、第1カムホルダ64と、第2カムホルダ65と、第3カムホルダ66とが設けられる。回転減速機構60は、エンジン20のカムシャフトの回転に伴って駆動される。回転減速機構60は、駆動ギア61と、中間ギア62と、被動ギア63とを備える。
【0032】
第1カムギア53及び第2カムギア54は、ギアトレインを介してクランクシャフトに連結されている。クランクシャフトの回転は、ギアトレインを介して第1カムギア53及び第2カムギア54に伝達される。第1カムギア53及び第2カムギア54は、クランクシャフトが2回転する毎に1回転する。
【0033】
第1カムシャフト51の一方の端部には、第1カムギア53が接続されている。第1カムギア53の回転軸は、第1カムシャフト51と同軸上に設けられる。第2カムシャフト52の一方の端部には、第2カムギア54が接続されている。第2カムギア54の回転軸は、第2カムシャフト52と同軸上に設けられる。
【0034】
第1カムホルダ64、第2カムホルダ65、及び第3カムホルダ66は、第1シリンダヘッド26に固定される、例えば、第1カムホルダ64には、締結部68が設けられ、締結部材69が締結部68に挿入されて、第1カムホルダ64が第1シリンダヘッド26に締結される。これにより、第1カムホルダ64は、第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52を第1シリンダヘッド26のカムシャフト軸受け部(不図示)に押しつけるとともに、第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52を回転可能に支持する。このように、第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52は、第1カムホルダ64、第2カムホルダ65、及び第3カムホルダ66によって支持されている。
【0035】
第1カムシャフト51は、第1カムギア53を通じて、クランクシャフトの回転に同期して回転する。第2カムシャフト52は、第2カムギア54を通じて、クランクシャフトの回転に同期して回転する。第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52は、クランクシャフトの回転に伴って回転するシャフトである。
【0036】
第1カムシャフト51は、クランクシャフトの回転に同期して回転して、吸気ポートの吸気口を開閉する。第2カムシャフト52は、クランクシャフトの回転に同期して回転して、排気ポートの排気口を開閉する。具体的には、第1カムシャフト51が回転することで、ロッカーアームが搖動し、タペットネジが吸気弁を開閉する。また、第2カムシャフト52が回転することで、ロッカーアームが搖動し、タペットネジが排気弁を開閉する。
【0037】
プラグ挿入筒58は、第1カムシャフト51と第2カムシャフト52との間に設けられる。プラグ挿入筒58には、エンジン20の気筒を点火する点火プラグ59が挿入されている。
【0038】
第1カムシャフト51において、第1カムギア53が接続された端部とは反対側の端部に、駆動ギア61が接続されている。駆動ギア61は、中間ギア62を介して、被動ギア63に連結されている。中間ギア62は、軸部材70によって第1カムホルダ64に支持されている。カムシャフト軸方向に見た場合、中間ギア62は、第1カムシャフト51と第2カムシャフト52との間に位置する。したがって、カムシャフト軸方向に見た場合、中間ギア62はプラグ挿入筒58と重なる位置に設けられる。
【0039】
図4は、駆動ギア61、中間ギア62、及び被動ギア63を含む回転減速機構60の断面図である。図4は、カムシャフト軸方向に直交する面で切断した場合の断面図を、第1シリンダヘッド26の第1ヘッドカバー27及び本体部300並びに点火プラグ取り付け部34及び点火プラグカバー35の一実施例とともに示す図である。図3及び図4から分かるように、回転減速機構60は、第1シリンダヘッド26の本体部300と第1ヘッドカバー27によって囲われる。すなわち、回転減速機構60は、第1シリンダヘッド26内に設けられる。また、カムシャフト軸方向に見た場合、中間ギア62は点火プラグ取り付け部34と重なる。
【0040】
駆動ギア61は中間ギア62と噛み合う。中間ギア62は被動ギア63と噛み合う。これにより、第1カムシャフト51の回転は、駆動ギア61及び中間ギア62を介して被動ギア63に伝達される。被動ギア63は、駆動ギア61より大径のギアである。後述するように、被動ギア63は、ウォーターポンプ40のインペラに接続されている。このように、第1カムシャフト51の回転は、駆動ギア61、中間ギア62及び被動ギア63を含む回転減速機構60を介してウォーターポンプ40のインペラに伝達される。
【0041】
被動ギア63は、第2カムシャフト52と同軸に設けられる。被動ギア63は、第2カムシャフト52とは直接に連結されていない。被動ギア63は、第2カムシャフト52には接触していない。
【0042】
ウォーターポンプ40は、第2カムシャフト52の中心軸線方向に配置される。ウォーターポンプ40は、被動ギア63の回転によって駆動される。ウォーターポンプ40は、第1シリンダブロック24、第1シリンダヘッド26、第2シリンダブロック28、及び第2シリンダヘッド29を冷却する冷却液を循環させる。
【0043】
図3及び図4に示されるように、駆動ギア61、中間ギア62、及び被動ギア63は、第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52の並び方向において一列に並んでいる。つまり、駆動ギア61、中間ギア62、及び被動ギア63は、第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52の軸線方向に重なるように設けられている。これにより、第1シリンダヘッド26がカムシャフト軸線方向に大型化することを防ぐことができる。
【0044】
また、駆動ギア61と被動ギア63とは、中間ギア62によってつながれている。これにより、回転減速機構を形成するうえで駆動ギア61と被動ギア63を直接噛み合わせる必要がなく、レイアウトの自由度を向上することができる。また、駆動ギア61及び被動ギア63の大径化を抑制することができるので、第1シリンダヘッド26の大型化を防ぐことができる。
【0045】
図5は、駆動ギア61の断面を示す。駆動ギア61は、第1カムシャフト51と同軸上に設けられている。駆動ギア61は、第1カムシャフト51に直接に接続されている。具体的には、駆動ギア61は、第1カムシャフト51の外周にスプライン結合されている。駆動ギア61は、第1カムシャフト51と同じ回転速度で回転する。
【0046】
図6は、中間ギア62の断面を示す。中間ギア62は、軸部材70に回転自在に軸支される。軸部材70は、第1カムホルダ64に支持される。中間ギア62のギア部72は、駆動ギア61のギア部と噛み合う。また、前記ギア部72は、被動ギア63のギア部と噛み合う。中間ギア62は、駆動ギア61と被動ギア63とをつなぐ中間部材としてのギア部材の一例である。
【0047】
図7は、第1カムホルダ64の外観を示す斜視図である。第1カムホルダ64は支持部74を備える。支持部74は、中間ギア62を支持する。支持部74は、一体に成形された第1カムホルダ64の一部である。すなわち、支持部74は第1カムホルダ64と一体に設けられる。このように、中間ギア62の支持部74は、第1カムホルダ64ホルダと一体に設けられているので、部品点数を削減することができる。
【0048】
支持部74には、軸部材70を差し込む開口部(73)が形成されている。また、支持部74の上面には開口部75が形成されている。軸部材70は径方向外側に抜け止め用凹部77が形成され、開口部75と抜け止め用凹部77に支持部材76を差し込むことによって支持される。支持部材76は、ピン状の部材である。これにより、軸部材70は、支持部材76によって、第1カムホルダ64に回転不可能な状態で固定される。
【0049】
このように、支持部74は、軸部材70の径方向外側に向けた開口部75を有しており、前記開口部75から支持部材76を差し込むことで軸部材70の抜け止め用凹部77と支持部材76が篏合し、軸部材70を固定する。そのため、簡単な構造で中間ギア62を支持する軸部材70の固定及び抜け止めができる。
【0050】
支持部74は、第1カムシャフト51の軸線AX1及び第2カムシャフト52の軸線AX2よりも、シリンダ軸線AXにおいて上方に位置している。このように、シリンダ軸線上において支持部74がカムシャフトよりも上方に位置しているので、第1カムホルダ64の下方に、他部材を配置するための空間を十分に確保することができる。
【0051】
中間ギア62の支持部74は、第1カムホルダ64の締結部68に隣接している。このように、支持部74に隣接した位置に第1カムホルダ64の締結部68が設けられているので、支持部74をしっかりと固定することができる。
【0052】
第1カムホルダ64は、プラグ挿入筒58が貫通する貫通口78を備える。中間ギア62は、支持部74に支持されるので、カムシャフト軸方向に見た場合、中間ギア62は貫通口78と重なる位置に設けられる。このように、中間ギア62は、点火プラグ59の取り付け部と重なる位置に設けられる。
【0053】
図8は、被動ギア63及びウォーターポンプ40の断面図を示す。図9は、駆動ギア61、中間ギア62及び被動ギア63の噛み合いを示す。図9は、図4のD-D断面を示す。
【0054】
被動ギア63は、軸部80と、ギア部82とを備える。ウォーターポンプ40は、ハウジング104と、インペラ100と、軸部102とを備える。軸部102は、被動ギア63と同軸に設けられる。軸部102は、被動ギア63の軸部80と嵌合する。具体的には、軸部102の内周に、被動ギア63の軸部80が嵌合する。軸部102は、インペラ100を回転させる回転部材である。
【0055】
ハウジング104には、ベアリング90aと、ベアリング90bとを備えるベアリング部92が配置される。ベアリング90a及びベアリング90bは、軸部102の周部とハウジング104の内面との間に設けられる。第2カムシャフト52の軸線AX2方向において、ベアリング90bは、ベアリング90aよりインペラ100側に設けられる。径方向において、ベアリング90a及びベアリング90bは、軸部102とハウジング104の内壁との間に設けられる。ベアリング90a及びベアリング90bのことを「ベアリング90」と総称する場合がある。
【0056】
ベアリング90は、軸部と篏合する回転部材を回動可能に支持する。ベアリング90は、軸部102を回転可能に支持する。軸部102にはインペラ100が固定されている。インペラ100は、ウォーターポンプ40の軸部102において被動ギア63の軸部80が設けられた側とは反対側の端部に固定される。
【0057】
被動ギア63は、第2カムシャフト52と同軸上に設けられている。被動ギア63の軸部80は、第2カムシャフト52に接触していない。このように、被動ギア63は、第2カムシャフト52に接触していない。
【0058】
被動ギア63は、第2カムシャフト52の軸方向に伸びる延出部84が設けられている。被動ギア63の延出部84は、第2カムシャフト52に設けられている中空部87と第2カムシャフト52の軸方向で重なる。このように、被動ギア63は、第2カムシャフト52に設けられた中空部87内にまで延びる延出部84を有する。そのため、ウォーターポンプ40をエンジン20から取り外す際やウォーターポンプ40の組み立てる際に、延出部84は中空部87に支持され被動ギア63の位置を保持することができる。
【0059】
被動ギア63の軸部80は、ウォーターポンプ40が備えるインペラ100を駆動させる。被動ギア63には、軸部80を中心として第2カムシャフト52の軸線方向にへこんだ凹部83が設けられている。軸部80を回動可能に軸支するベアリング90が、第2カムシャフト52の軸方向において凹部83と重なるように配置されている。このように、被動ギア63に設けられた凹部83と被動ギア63の軸部を軸支するベアリング90が、車幅方向(被動ギア63の軸線方向)で重なるように配置されている。これにより、ウォーターポンプ40を含むエンジン20全体を小型化することができる。
【0060】
第1カムシャフト51は、吸気ポートの吸気口を開閉するためのカムシャフトである。第2カムシャフト52は、排気ポートの排気口を開閉するためのカムシャフトである。一般に、排気口を開閉するためのカムシャフトの軸線方向の長さは、吸気口を開閉するためのカムシャフトの軸線方向の長さより短くすることができる。したがって、第2カムシャフト52側には凹部83を形成するスペースが存在する。エンジン20によれば、凹部83にベアリング90の一部を配置することで、第2カムシャフト52側のスペースを有効に利用することができる。
【0061】
ハウジング104と軸部102との間には、オイルシール部120a及びオイルシール部120bが設けられる。第2カムシャフト52の軸線AX2方向において、オイルシール部120aは、ベアリング90よりインペラ100側に設けられる。オイルシール部120bは、第2カムシャフト52の軸線AX2方向において、オイルシール部120aよりインペラ100側に設けられる。
【0062】
オイルシール部120a及びオイルシール部120bは、エンジン20内のオイル及びウォーターポンプ40の冷却液をシールする。オイルシール部120aは、エンジン20内のオイルが外部に吐出されるのを抑制する。吐出されるのを抑制されたオイルは、ベアリング部92の潤滑油となり得る。オイルシール部120bは、主としてウォーターポンプ40から冷却水が外部に吐出されるのを抑制する。オイルシール部120a及オイルシール部120bのことを「オイルシール部120」と総称する場合がある。
【0063】
ベアリング部92及びオイルシール部120には、開口部111及び開口部112が設けられている。具体的には、ベアリング部92には、開口部111が設けられる。オイルシール部120には、開口部112が設けられる。開口部111及び開口部112は、同軸上に設けられている。開口部111及び開口部112は、インペラ100の軸部102に垂直方向の軸線に対して傾斜している。
【0064】
ベアリング部92に設けられた開口部111は、エンジン20の内側に向けて上方に傾斜して設けられている。オイルシール部120に設けられた開口部112は、外気空間に向けて下方に傾斜するように設けられている。ベアリング部92には2つ以上のベアリング90が設けられており、ベアリング部92の開口部111は、複数のベアリング90が配置されている間の空間に向けて開口するように設けられている。具体的には、開口部111は、ベアリング90aとベアリング90bとの間の空間に向けて開口するように設けられている。
【0065】
エンジン20によれば、ハウジング104に同軸上に形成された開口部111及び開口部112を、ベアリング部92及びオイルシール部120に設けている。そのため、ベアリング部92では、開口部111からベアリング部92にオイルを供給することができると共に、オイルシール部120では開口部111が、オイルシール部120の近傍に溜まるオイル、水、埃等を外部に抜く水抜き穴として機能する。開口部111及び開口部112は同軸状に設けられているので、開口部111及び開口部112を一度の機械加工で同時に形成することができる。
【0066】
開口部111及び開口部112の軸線は、軸部102の軸線に直交する軸線に対して傾斜する。そのため、ベアリング部92とオイルシール部120が軸部102の軸線に沿って配置されている場合でも、ベアリング部92及びオイルシール部120を一度の機械加工で同時に形成することができる。
【0067】
ベアリング部92の開口部111は上方に向けて開口しているので、エンジン20内のオイルをベアリング部92内に効率的に給油できる。また、オイルシール部120の開口部112が外気空間に向けて下方に傾斜しているので、開口部112から効率的に水抜きすることができる。また、ハウジング104をエンジン20に寄せて配置しても、オイルシール部120の開口部112を外気に開放できる。
【0068】
開口部111は、ベアリング90aが配置された位置とベアリング90bが配置された位置との間に設けられているので、単一の開口部111から両側のベアリング90に効果的に給油することができる。
【0069】
図10は、被動ギア63の軸部80とウォーターポンプ40の軸部102との噛み合い部の断面図を示す。被動ギア63の軸部80は、ウォーターポンプ40の軸部102と対向する面に、平面部81を持つ。ウォーターポンプ40の軸部102は、被動ギア63と対向する面に、平面部101を有する。インペラ100は、被動ギア63の軸部80の平面部81とウォーターポンプ40の軸部102の平面部101とがかみ合うことによって回転する。
【0070】
以上に説明したように、エンジン20は、ウォーターポンプ40のインペラ100を、第2カムシャフト52と同軸かつ同方向に回す構造を備える。また、第1カムシャフト51の回転を、駆動ギア61、中間ギア62及び被動ギア63を含む回転減速機構を介してインペラ100に伝達して回転させることができる。エンジン20によれば、駆動ギア61と被動ギア63のギア比を調節することで、インペラ100の回転数を適切な値に設計することができる。これにより、インペラ100を、クランクシャフトの回転数の1/2より低い適切な回転数で回転させるよう設計することができる。そのため、インペラ100の攪拌フリクションを低減できる。また、第2カムシャフト52の延長線上にインペラ100を配置することができるので、インペラ100を第2カムシャフト52で直接回転させる駆動方式の設計に基づいて、配管類について最小限の設計変更で対応することができる。なお、被動ギア63に替えて第2カムシャフト52と軸部102とを結合するカップリングジョイントを設ければ、インペラ100を第2カムシャフト52で直接回転させる駆動方式に変更することができる。
【0071】
図11は、ステー32の外観を示す図である。図12は、ウォーターポンプ40と第1シリンダヘッド26との取り付け部分をシリンダ軸線AXに沿って上方からからみた図である。
【0072】
第1シリンダヘッド26は、第1シリンダヘッド26の本体部300にシリンダーヘッド側第1取付部301を備える。ステー32は、第1シリンダヘッド26の本体部300から第1ヘッドカバー27側に延伸するように取り付けられている。ステー32には、シリンダーヘッド側第2取付部302が設けられている。
【0073】
ウォーターポンプ40には、ポンプ側ステー41の先端部にウォーターポンプ側第1取付部401が設けられている。ウォーターポンプ40には、ポンプ側ステー42の先端部にウォーターポンプ側第2取付部402が設けられている。ウォーターポンプ40は、締結部材411及び締結部材412により、第1シリンダヘッド26に締結される。
【0074】
具体的には、ポンプ側ステー41のウォーターポンプ側第1取付部401は、第1シリンダヘッド26のシリンダーヘッド側第1取付部301及びハウジング104と、車幅方向に共締めされる。ポンプ側ステー42のウォーターポンプ側第2取付部402は、第1シリンダヘッド26に取り付けられたステー32の先端のシリンダーヘッド側第2取付部302及びハウジング104と、車幅方向に共締めされる。このように、ステー32はシリンダ軸線上からみてハウジング104と少なくとも一部が重なるように配置され、ウォーターポンプ40は、第1シリンダヘッド26から延びるステー32によって第1シリンダヘッド26に支持される。ステー32とハウジング104がシリンダ軸線上から見て少なくとも一部が重なるように配置されるので、エンジン20の小型化を図ることができる。
【0075】
図13は、第1カムホルダ64の変形例としての第1カムホルダ564a及び第1カムホルダ564bを示す。図13は、第1シリンダヘッド26の内部構造を示し、図3に対応する図である。第1カムホルダ564aは、第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52を支持し、第1カムホルダ564bは第1カムシャフト51を支持する。
【0076】
第1カムホルダ64と同様に、第1カムホルダ564a及び第1カムホルダ564bのそれぞれには、中間ギア62の軸部を差し込む開口部が設けられる。中間ギア62の軸部の軸方向の一方が第1カムホルダ564aの開口部に支持され、中間ギア62の軸部の軸方向の他方が第1カムホルダ564bの開口部に支持される。これにより、中間ギア62は、第1カムホルダ564aと第1カムホルダ564bとの間に挟まれるように設けられ、第1カムホルダ564aと第1カムホルダ564bとの間に支持される。
【0077】
以上に説明したウォーターポンプ40のインペラ100は、カムシャフトにより駆動される機能部材の一例である。カムシャフトにより駆動される機能部材として、インペラ以外の様々な部材を適用できる。また、インペラ100の駆動方式は、第1カムシャフト51から減速して回転させる方式に限られない。インペラ100は、第2カムシャフト52に接続されて、第2カムシャフト52と同じ回転速度で駆動されてよい。第1カムシャフト51及び第2カムシャフト52は、クランクシャフトの回転に伴って回転するシャフトの一例である。インペラ100は、クランクシャフトの回転に伴って回転する任意のシャフトから回転を伝達してよい。
【0078】
以上、自動二輪車の実施形態を用いて、エンジン20が備える構造を説明した。しかし、エンジン20が備える構造は、自動二輪車以外の鞍乗り型車両のエンジンに適用できる。例えば、エンジン20が備える構造は、三輪の鞍乗り型車両や、4輪の鞍乗り型車両にも適用できる。エンジン20の構造は、鞍乗り型車両に限らず、任意の輸送機器のエンジンの構造に適用できる。
【0079】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、技術的に矛盾しない範囲において、特定の実施形態について説明した事項を、他の実施形態に適用することができる。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0080】
1 メインフレーム、2 フロントフォーク、3 操舵ハンドル、4 前輪、5 スイングアーム、6 後輪、7 駆動チェーン、8 燃料タンク、9 シート、10 自動二輪車、11 クランクケース、15 オイルパン、17 スプロケット、18 ラジエータ、19 排気マフラー、20 エンジン
21 第1シリンダバンク
22 第2シリンダバンク
24 第1シリンダブロック
25 排気管
26 第1シリンダヘッド
27 第1ヘッドカバー
28 第2シリンダブロック
29 第2シリンダヘッド
31 第2ヘッドカバー
32 ステー
34 点火プラグ取り付け部
35 点火プラグカバー
40 ウォーターポンプ
41、42 ポンプ側ステー
51 第1カムシャフト、52 第2カムシャフト
53 第1カムギア、54 第2カムギア
58 プラグ挿入筒、59 点火プラグ
60 回転減速機構
61 駆動ギア、62 中間ギア、63 被動ギア
64 第1カムホルダ、65 第2カムホルダ、66 第3カムホルダ
68 締結部、69 締結部材
70 軸部材
72 ギア部
73 開口部
74 支持部
75 開口部
76 支持部材
77 抜け止め用凹部
78 貫通口
80 軸部
81 平面部
82 ギア部
83 凹部
84 延出部
87 中空部
90a、90b ベアリング
92 ベアリング部
100 インペラ
101 平面部
102 軸部
104 ハウジング
111、112 開口部
120 オイルシール部
300 本体部
301 シリンダーヘッド側第1取付部
302 シリンダーヘッド側第2取付部
401 ウォーターポンプ側第1取付部
402 ウォーターポンプ側第2取付部
411、412 締結部材
564 第1カムホルダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13