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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 8/04 20060101AFI20221216BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B43K8/04 100
B43K8/02 100
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019068424
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163782
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】住吉 聡
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-006924(JP,A)
【文献】特開平11-128820(JP,A)
【文献】実開昭58-163285(JP,U)
【文献】実開昭60-062985(JP,U)
【文献】特開平08-038982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 33/00-40/30
B43K 1/00- 1/12
5/00- 8/24
B05C 17/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒と、
弁座及び前記弁座に向かって前方に付勢された弁体を有する弁機構と、
前記軸筒の前端から突出し且つ前後動可能な摺動子と、
前記摺動子に対する係合位置及び非係合位置間を移動可能な係合子と、を具備し、
前記係合子が前記係合位置にあるときに前記摺動子を後退させると、前記係合子が前記弁体と係合して前記弁体が後退し、
前記係合子が前記非係合位置にあるときに前記摺動子を後退させると、前記弁体が後退しないように構成されていることを特徴とする筆記具。
【請求項2】
前記係合子の前記係合位置及び前記非係合位置間の移動が、前記軸筒の姿勢に応じた重力によって行われ、当該筆記具を鉛直方向に沿って配置すると、前記係合子が前記係合位置に移動し、当該筆記具を鉛直方向に対して傾斜させると、前記係合子が前記非係合位置に移動する請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記摺動子が凹部を有し、前記係合位置では前記係合子が前記凹部の中に配置され且つ前記係合子の一部が前記凹部の外に突出し、前記非係合位置では前記係合子が前記凹部の外に配置されている請求項1又は2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記係合子が球体である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
インク室と、筆穂等の荷重支持能力の無い筆記部とを備えた筆記具において、弁機構を介してインクを筆記部に供給する筆記具が公知である(特許文献1)。弁機構は、スプリングによって弁座に向かって前方に付勢され且つピン形状の押圧部を備えた弁体を有している。スプリングの付勢力に抗して押圧部を筆記面に対して押圧すると、弁体が後退する。それによって、弁体が弁座から離間し、弁機構が開放されることで、インク室のインクが筆記部に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭60-62985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の筆記具では、前方に付勢された押圧部が筆記部に埋没している。したがって、筆記時において、筆記部と共に押圧部が筆記面に当接し、押圧部が筆記面を擦過してしまう場合がある。その場合、押圧部によって筆記が妨げられ、押圧部による擦過が使用者に対して不快な感触を与え、さらには押圧部が筆記面を損傷する可能性がある。
【0005】
本発明は、筆記を妨げることなく開閉可能な弁機構を備えた筆記具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、軸筒と、弁座及び前記弁座に向かって前方に付勢された弁体を有する弁機構と、前記軸筒の前端から突出し且つ前後動可能な摺動子と、前記摺動子に対する係合位置及び非係合位置間を移動可能な係合子と、を具備し、前記係合子が前記係合位置にあるときに前記摺動子を後退させると、前記係合子が前記弁体と係合して前記弁体が後退し、前記係合子が前記非係合位置にあるときに前記摺動子を後退させると、前記弁体が後退しないように構成されていることを特徴とする筆記具が提供される。
【0007】
前記係合子の前記係合位置及び前記非係合位置間の移動が、前記軸筒の姿勢に応じた重力によって行われるようにしてもよい。また、当該筆記具を鉛直方向に沿って配置すると、前記係合子が前記係合位置に移動し、当該筆記具を鉛直方向に対して傾斜させると、前記係合子が前記非係合位置に移動するようにしてもよい。前記摺動子が凹部を有し、前記係合位置では前記係合子が前記凹部の中に配置され且つ前記係合子の一部が前記凹部の外に突出し、前記非係合位置では前記係合子が前記凹部の外に配置されていてもよい。また、前記凹部が前記摺動子の外面において環状に設けられていてもよい。前記係合子が球体であってもよい。また、筆記部が筆穂であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の態様によれば、筆記を妨げることなく開閉可能な弁機構を備えた筆記具を提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態による筆記具の部分断面斜視図である。
図2図2は、鉛直状態の筆記具の縦断面図である。
図3図3は、傾斜状態の筆記具の縦断面図である。
図4図4は、摺動子の斜視図である。
図5図5は、弁体の側面図である。
図6図6は、インク供給中の筆記具の縦断面図である。
図7図7は、筆記中の筆記具の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0011】
図1は、本発明の実施形態による筆記具1の部分断面斜視図であり、図2は、鉛直状態の筆記具1の縦断面図であり、図3は、傾斜状態の筆記具1の縦断面図である。なお、参照符号については、図2を中心に参照されたい。
【0012】
筆記具1は、筒状の前軸3及び後軸4を有する筒状の軸筒2と、軸筒2、すなわち前軸3の前端部に嵌合する筒状の保持部材5と、保持部材5によって保持される筆記部6とを有している。本明細書中では、筆記具1の軸線方向において、筆記部6側を「前」側と規定し、筆記部6とは反対側を「後」側と規定する。
【0013】
前軸3の前端部には、嵌合部31が形成されている。嵌合部31の後方には小径部32が形成されている。小径部32の後方には、より大径の大径部33が形成されている。小径部32及び大径部33の境界部の内面には、前方に向かって縮径するテーパー状の弁座34が形成されている。前軸3の前端面、すなわち嵌合部31の前端面には、円形の突出孔35が形成されている。小径部32の前端部の内面には、前方に向かって縮径する急峻なテーパー状の傾斜面36が形成されている。嵌合部31の外面には、環状の係止突起37が形成されている。
【0014】
後軸4の前端部には、より小径の接続部41が形成されている。接続部41の後部近傍における後軸4の内面には、径方向内方に突出する環状突起42が形成されている。環状突起42の後端面と後軸4の内面とによって、後軸4の内部にインクが収容されるインク室43が画成されている。後軸4の接続部41の外面に対して、前軸3の後端部の内面が嵌合することによって、前軸3と後軸4とが一体的に接続される。
【0015】
保持部材5は、前軸3の係止突起37に対してスナップ式に嵌合することによって、筆記部6を保持しつつ、前軸3と一体的に接続される。本実施形態における筆記部6は、非常に柔軟なため荷重支持能力の無い筆穂である。
【0016】
筆記具1は、軸筒2の内部において、摺動子7と、弁体8と、係合子9と、スプリング10とを有している。係合子9は、球体である。
【0017】
図4は、摺動子7の斜視図である。摺動子7は、図4において、下方が前側となるように軸筒2内に配置される。摺動子7は、円柱状の本体部71と、本体部71の前端面から前方に延びる棒状の押圧部72とを有している。本体部71の外面には、全周に亘る環状の凹部73が形成されている。凹部73は、図2及び図3に示されるように、U字形の断面形状である。摺動子7の外面には、前端から後端に亘る4つの縦溝74が周方向に沿って等間隔に形成されている。
【0018】
図5は、弁体8の側面図である。弁体8は、図5において、下方が前側となるように軸筒2内に配置される。弁体8は、全体として円柱状に形成されている。弁体8は、図1乃至図3に示されるように、前端面81から後方に向かって延びる挿入穴82が形成されている。挿入穴82は、弁体8を貫通していない。前端面81は、前方に向かって縮径スル急峻なテーパー状に形成されている。弁体8の前端面81の縁部には、前方に向かって縮径するテーパー状の当接面83が形成されている。当接面83の後方には、後方に面する環状の支持面84が形成されている。弁体8の外面には、後端から前端近傍に亘る6つの縦溝85が周方向に沿って等間隔に形成されている。
【0019】
図1乃至図3に示されるように、弁体8の後部は、後軸4の環状突起42によって画成された孔の中に配置される。スプリング10は、弁体8を包囲するように配置されている。スプリング10の後端は、後軸4の環状突起42の前端面によって支持され、スプリング10の前端は、弁体8の支持面84(図5)によって支持されている。そのため、弁体8は、スプリング10によって前方に付勢されている。弁体8の当接面83は、軸筒2内、すなわち前軸3内に設けられた弁座34に対向して配置されている。したがって、弁体8は、弁座34に向かって前方に付勢されている。
【0020】
摺動子7の本体部71が弁体8の挿入穴82内に挿入されつつ、摺動子7は、軸筒2の前端から突出し且つ前後動可能である。すなわち、摺動子7の押圧部72は、前軸3の突出孔35から突出している。突出孔35から前方に突出した押圧部72は、保持部材5によって保持された筆記部6の内部に埋没している。
【0021】
弁座34、及び、弁体8、特に当接面83は、弁機構20を構成する。図1乃至図3は弁機構20の閉鎖状態を示しており、弁体8の当接面83が弁座34に対して全周に亘って密着している。また、図1乃至図3において、上方は鉛直上方であり、下方は鉛直下方である。すなわち、重力が、各図において下方に向かって作用する。係合子9は、前軸3の内面、摺動子7の凹部73及び弁体8の前端面81によって画成された空間内において移動可能である。
【0022】
図1及び図2では、筆記具1が鉛直方向に沿って配置される鉛直状態であるため、係合子9は、傾斜面36の傾斜に沿って軸筒2内において径方向内方へ移動する。それによって、係合子9は、摺動子7の凹部73の中に配置されるように移動する。したがって、摺動子7の凹部73の断面形状は、前軸3の傾斜面36との境界、及び、弁体8の前端面81との境界において、係合子9の移動を阻害しないように、筆記具1の中心軸線に直交する方向に対して傾斜したU字形を呈している。そのため、凹部73、並びに、傾斜面36及び前端面81は、各々の境界において面一である。係合子9が摺動子7の凹部73の中に配置された状態で、係合子9の一部は凹部73の外に突出している。
【0023】
図3では、筆記具1が鉛直方向に対して傾斜した傾斜状態であるため、係合子9は、軸筒2内において径方向外方へ移動する。それによって、係合子9は、摺動子7の凹部73の外に配置されるように移動する。
【0024】
次に、図6及び図7を参照しながら、筆記具1の使用方法について説明する。図6は、インク供給中の筆記具1の縦断面図であり、図7は、筆記中の筆記具1の縦断面図である。
【0025】
インク室43から筆記部6に対してインクを供給するためには、図6に示されるように、筆記具1を鉛直状態としながら筆記部6を筆記面Sに対して鉛直下方に押圧する。それによって、筆記部6に埋もれた押圧部72が後退すると、凹部73に配置された係合子9も後退する。このとき、係合子9が弁体8と係合する。具体的には、凹部73の外に突出している係合子9の一部が、弁体8の挿入穴82の縁部又は前端面81と係合する。そのため、摺動子7が後退すると共に、弁体8が、スプリング10の付勢力に抗して後退して弁座34から離間し、弁機構20が開放される。
【0026】
弁機構20が開放されると、インク室43に収容されたインクは、弁体8の縦溝85、弁体8の当接面83及び弁座34間の間隙、及び、摺動子7の縦溝74の順に通過し、筆記部6に供給される。筆記部6に対して十分なインク量が供給されると、筆記部6の筆記面Sに対する押圧を解除する。その結果、スプリング10の付勢力によって、弁体8が前方に移動して弁体8の当接面83が弁座34に対して全周に亘って密着し、弁機構20は再び閉鎖される。
【0027】
筆記具1を用いて筆記するときは、筆記具1は、通常、図3に示されるような傾斜状態とされる。このとき、上述したように、係合子9は、軸筒2内において径方向外方へ移動する。この状態で、図7に示されるように筆記動作をすると、押圧部72は、筆記面Sから筆記圧の分力を受け、摺動子7は後退する。すなわち、係合子9は、完全に摺動子7の凹部73の外に配置されていることから、摺動子7と共に移動することはなく、弁体8と係合して弁体8を後退させることもない。したがって、摺動子7は、ほとんど抵抗なく弁体8の挿入穴82の中に後退することから、押圧部72が筆記面を擦過して損傷することはなく、また、押圧部72と筆記面との抵抗によって筆記が妨げられることはない。
【0028】
本発明の実施形態によれば、係合子9は、摺動子7の凹部73の中と外との間、すなわち摺動子7に対する係合位置及び非係合位置間を移動可能である。そして、筆記具1は、係合子9が係合位置にあるときに摺動子7を後退させると、係合子9が弁体8と係合し弁体8が後退し、係合子9が非係合位置にあるときに摺動子7を後退させると、弁体8が後退しないように構成されている。係合子9の係合位置及び非係合位置間の移動は、筆記具1の姿勢、すなわち軸筒2の姿勢に応じた重力によって行われ、筆記具1を鉛直方向に沿って配置すると、係合子9が係合位置に移動し、筆記具1を鉛直方向に対して傾斜させると、係合子9が非係合位置に移動する。したがって、本発明の実施形態によれば、筆記を妨げることなく開閉可能な弁機構20を備えた筆記具を提供することができる。
【0029】
摺動子7は、円柱状でなく、角柱状であってもよい。本実施形態では、摺動子7の凹部73は、全周に亘って設けられていることによって、筆記具1の姿勢によらず、係合子9を係合位置及び非係合位置間で移動させることができる。すなわち、筆記具1の鉛直状態においては環状の凹部73の周方向における任意の位置に、又は、筆記具1の傾斜状態においては軸筒2内の任意の位置に、球体の係合子9をルーレットのように軸筒2内で移動させることができる。しかしながら、例えば軸筒の側面にクリップを設けて使用者の把持位置を周方向において一定にさせことによって、摺動子7の凹部73を、摺動子7の外面の半周又は一部にのみ設けるようにしてもよい。したがって、係合子9が、係合位置及び非係合位置間を径方向に往復するように構成してもよい。
【0030】
係合子9は、係合位置及び非係合位置間を移動可能な限りにおいて、球体以外、例えば立方体であってもよい。係合子9が中に配置され且つ係合子9の一部が凹部の外に突出する限りにおいて、凹部73の形状は、任意に構成することできる。係合子9の係合位置及び非係合位置間の移動を、重力によってではなく、手動によって行うようにしてもよい。筆記部6は、マーキングペンの繊維束芯等であってもよく、材料や形態に限定されないが、特に実施形態での荷重に対して柔軟な筆穂や、熱可塑性エラストマーや熱硬化性ゴムで形成された軟質な塗布芯とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0031】
1 筆記具
2 軸筒
3 前軸
34 弁座
35 突出孔
36 傾斜面
4 後軸
42 環状突起
43 インク室
5 保持部材
6 筆記部
7 摺動子
72 押圧部
73 凹部
74 縦溝
8 弁体
81 前端面
82 挿入穴
83 当接面
85 縦溝
9 係合子
10 スプリング
20 弁機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7