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特許7195221バラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測方法、そのプログラム及び予測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】バラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測方法、そのプログラム及び予測システム
(51)【国際特許分類】
   E01B 35/12 20060101AFI20221216BHJP
   E01B 37/00 20060101ALI20221216BHJP
   B61K 9/08 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
E01B35/12
E01B37/00 B
B61K9/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019112252
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020204185
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】楠田 将之
(72)【発明者】
【氏名】西宮 裕騎
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076681(JP,A)
【文献】特開2013-257258(JP,A)
【文献】特開2011-149227(JP,A)
【文献】国際公開第2018/149650(WO,A1)
【文献】特開2008-241322(JP,A)
【文献】特開2018-053557(JP,A)
【文献】特開2019-019454(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0029001(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 35/12
E01B 37/00
B61K 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のレールに沿ってまくらぎを所定間隔で与えた軌きょうをバラスト道床の上に支持させたバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測方法であって、
前記レールの一方について長手方向及び鉛直方向に2次元断面モデルを設定した上で、軌道検測機構を有する車両を走行させて前記レールに沿って下向きに荷重を付与しながら測定された前記レールの上面の高低変位から得られる復元波形を前記バラスト道床におけるバラスト層の表面形状として推定し、
続いて、前記レールを前記復元波形の上に支持された自重を有する剛性梁とみなして、前記まくらぎに対応する位置毎に、前記レール及び前記復元波形の間に鉛直に所定長の支持バネを前記復元波形に対応したクリアランスを設けて配置するとともに、前記レールに下向きの所定荷重を与えたとしたときの前記レールのたわみ形状を数値計算し、
次に、前記復元波形及び前記たわみ形状を重ね合わせて、その差分に基づいた前記支持バネの反力を算出し、
前記支持バネ毎の前記反力に基づいて、前記レールの横方向に生じるレール座屈の発生箇所を予測することを特徴とするレール座屈の発生箇所の予測方法。
【請求項2】
前記支持バネ毎の前記反力に対応させて、前記まくらぎと前記バラスト層との間の摩擦力を推測し、前記まくらぎに対応する位置毎の道床横抵抗力を算出することを特徴とする請求項1に記載のレール座屈の発生箇所の予測方法。
【請求項3】
算出された前記道床横抵抗力の分布に基づいて、前記道床横抵抗力が前記摩擦力に抗してした仕事と温度との関係から、前記まくらぎに対応する位置毎の座屈発生温度をさらに算出することを特徴とする請求項2に記載のレール座屈の発生箇所の予測方法。
【請求項4】
一対のレールに沿ってまくらぎを所定間隔で与えた軌きょうをバラスト道床の上に支持させたバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所を予測するプログラムであって、
軌道検測機構を有する車両を走行させて前記レールに沿って下向きに荷重を付与しながら測定された前記レールの上面の高低変位から復元波形を得る復元波形取得手段と、前記復元波形を前記バラスト道床におけるバラスト層の表面形状として推定し、前記レールを前記復元波形の上に支持された自重を有する剛性梁とみなして、前記剛性梁の前記まくらぎに対応する位置毎に、前記レール及び前記復元波形の間に鉛直に所定長の支持バネを前記復元波形に対応したクリアランスを設けて配置し、前記レールに下向きの所定荷重を与えたとしたときの前記レールのたわみ形状を数値計算するたわみ計算手段と、前記支持バネ毎のバネ反力を算出し、このバネ反力に基づいて前記レールのレール座屈の発生箇所を予測する座屈予測手段と、を含み、
前記座屈予測手段は、前記復元波形及び前記たわみ形状を重ね合わせて、その差分に基づいた前記支持バネの反力を算出し、前記レールの横方向に生じるレール座屈の発生箇所を予測することを特徴とするレール座屈の発生箇所を予測するプログラム。
【請求項5】
前記座屈予測手段は、前記支持バネ毎の前記反力に対応させて、前記まくらぎと前記バラスト層との間の摩擦力を推測し、前記まくらぎに対応する位置毎の道床横抵抗力を算出することを特徴とする請求項4に記載のレール座屈の発生箇所を予測するプログラム。
【請求項6】
前記座屈予測手段は、算出された前記道床横抵抗力の分布に基づいて、前記道床横抵抗力が前記摩擦力に抗してした仕事と温度との関係から、前記まくらぎに対応する位置毎の座屈発生温度をさらに算出することを特徴とする請求項5に記載のレール座屈の発生箇所を予測するプログラム。
【請求項7】
請求項4乃至6のうちの1つのプログラムを実行するコンピュータを前記軌道検測機構を有する前記車両に与えてなることを特徴とするバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道支持状態のシミュレーションからバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測をする方法、そのためのプログラム及び予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バラスト軌道において、一対のレールに沿った複数のまくらぎを所定間隔で格子状に組み上げて与えられる軌きょうは、路盤上の砕石や砂利等からなるバラストを敷き詰めた道床によってその荷重を分散させて支持されている。ここで、レールは、外気温度の上昇とともに長さ方向へと膨張しようとするが、まくらぎを介してバラスト層上に拘束されることとなり、圧縮力を生じることになる。通常、まくらぎは、バラスト層と底面、側面、及び端面でそれぞれ接触し、道床横抵抗力を受けている。かかる道床横抵抗力がレールの圧縮力に対して相対的に小さくなると、レールが側方に移動するようなレール座屈を生じることとなる。そこで、軌道の安全性を確保する上で、この座屈を予測することが必要とされる。
【0003】
例えば、非特許文献1には、バラスト軌道におけるレール座屈に対する安定性をシミュレーションで評価する方法を開示している。詳細には、レール1本分を梁要素でモデル化するとともに、道床抵抗力とレール締結装置の回転抵抗モーメントを非線形バネ要素でモデル化した解析モデルを用いて、道床横抵抗力と座屈発生温度や最低座屈強さとの関係をFEM解析による演算で求めている。この手法によれば、列車通過時のアップリフトに伴う道床横抵抗力の低下の影響を予測でき、レール座屈に対する安定性を評価できる。
【0004】
上記したように、道床横抵抗力は、軌道支持状態によって変化する。例えば、いわゆる「浮きまくらぎ」と称されるような軌道支持状態であると、バラスト層とまくらぎの底面とが接触せず、道床横抵抗力は本来得られるはずの値からバラストとまくらぎとの間の摩擦力の分だけ低下する。そこで、この道床横抵抗力が低下する所定値分をモデル化することにより、軌道支持状態から道床横抵抗力を推測し、レール座屈を予測することが考慮できる。
【0005】
例えば、特許文献1では、載荷板上に重錘を自由落下させて衝撃荷重を加える小型FWD(Falling Weight Deflectometer)装置を用いた軌道支持剛性の測定方法を開示している。測定される軌道支持剛性の分布からバラツキの大きい箇所を不良箇所として特定し、「浮きまくらぎ」を検出するとしている。かかる方法を用いて得られる軌道支持状態から道床横抵抗力を推測し、レール座屈を予測することも考慮し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-234693号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】西宮裕騎、片岡宏夫、「座屈発生点を考慮したロングレールの座屈安定性の評価法に関する一考察」、鉄道工学シンポジウム論文集、土木学会構造工学委員会鉄道工学連絡小委員会、2016年7月14日、20号、第9~15ページ、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような、FWDを用いた軌道支持剛性の測定のためには、人手による煩雑な作業が必要となり、座屈箇所の予測といった長距離に亘る測定は現実的ではない。一方、FEM解析を用いて座屈安定性を評価するにしても、一定の精度を得るには、コンピュータに対する演算負荷が非常に大きく、現実的ではない。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、軌道支持状態の簡易なシミュレーションからバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所を予測する方法、そのプログラム及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来のようなFWDを使用せず、軌道検測車等の軌道変位を測定する検測機構を与えられた車両によってレールに沿った下向きの荷重を付与した状態での上下方向の動的変位の波形を測定することで、バラスト軌道におけるまくらぎの支持状態を把握し、このとき得られるパラメータに基づいてレール座屈の発生箇所を推定することに想到した。
【0011】
詳細には、本発明による方法は、一対のレールに沿ってまくらぎを所定間隔で与えた軌きょうをバラスト道床の上に支持させたバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測方法であって、前記レールの一方について長手方向及び鉛直方向に2次元断面モデルを設定した上で、軌道検測機構を有する車両を走行させて前記レールに沿って下向きに荷重を付与しながら測定された前記レールの上面の高低変位から得られる復元波形を前記バラスト道床におけるバラスト層の表面形状として推定し、続いて、前記レールを前記復元波形の上に支持された自重を有する剛性梁とみなして、前記まくらぎに対応する位置毎に、前記レール及び前記復元波形の間に鉛直に所定長の支持バネを前記復元波形に対応したクリアランスを設けて配置するとともに、前記レールに下向きの所定荷重を与えたとしたときの前記レールのたわみ形状を数値計算し、次に、前記復元波形及び前記たわみ形状を重ね合わせて、その差分に基づいた前記支持バネの反力を算出し、前記支持バネ毎の前記反力に基づいて、前記レールの横方向に生じるレール座屈の発生箇所を予測することを特徴とする。
【0012】
また、本発明によるプログラムは、一対のレールに沿ってまくらぎを所定間隔で与えた軌きょうをバラスト道床の上に支持させたバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所を予測するプログラムであって、軌道検測機構を有する車両を走行させて前記レールに沿って下向きに荷重を付与しながら測定された前記レールの上面の高低変位から復元波形を得る復元波形取得手段と、前記復元波形を前記バラスト道床におけるバラスト層の表面形状として推定し、前記レールを前記復元波形の上に支持された自重を有する剛性梁とみなして、前記剛性梁の前記まくらぎに対応する位置毎に、前記レール及び前記復元波形の間に鉛直に所定長の支持バネを前記復元波形に対応したクリアランスを設けて配置し、前記レールに下向きの所定荷重を与えたとしたときの前記レールのたわみ形状を数値計算するたわみ計算手段と、前記支持バネ毎のバネ反力を算出し、このバネ反力に基づいて前記レールのレール座屈の発生箇所を予測する座屈予測手段と、を含み、前記座屈予測手段は、前記復元波形及び前記たわみ形状を重ね合わせて、その差分に基づいた前記支持バネの反力を算出し、前記レールの横方向に生じるレール座屈の発生箇所を予測することを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、軌道変位を測定する検測機構を有する車両を走行させて、下向きの荷重を付与しながらレール上面の高低変位を測定して得られた復元波形データと、レールを模擬した剛性梁を用いて算出したたわみ形状とに基づいて、レールの横方向に生じるレール座屈の発生箇所を予測することにより、実際に測定した軌道変位のデータに基づいて、簡易的にレール座屈の発生箇所を予測できるのである。
【0014】
上記した発明において、前記支持バネ毎の前記反力に対応させて、前記まくらぎと前記バラスト層との間の摩擦力を推測し、前記まくらぎに対応する位置毎の道床横抵抗力を算出するように構成してもよい。このとき、算出された前記道床横抵抗力の分布に基づいて、前記道床横抵抗力が前記摩擦力に抗してした仕事と温度との関係から、前記まくらぎに対応する位置毎の座屈発生温度をさらに算出するように構成してもよい。かかる発明によれば、レール座屈の発生箇所を予測するだけでなく、レールの横方向変位や座屈発生温度の推定を行うこともできる。
【0015】
また、本発明による、バラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測システムは、上記したプログラムを実行することを特徴とする。かかる発明によれば、実際に測定した軌道変位のデータに基づいて、簡易的にレール座屈の発生箇所を予測できるのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の代表的な一例によるバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測システムのブロック図である。
図2】バラスト軌道の側面図である。
図3】代表的なレール座屈の発生箇所の予測方法のフロー図である。
図4】軌道支持状態の推定に用いる解析モデルを説明する図である。
図5】キロ程に対する復元波形、レールのたわみ量及びバネ反力の結果の一例を示すグラフである。
図6】レール座屈の発生箇所の予測方法の変形例によるフロー図である。
図7】算出されたまくらぎ位置毎の座屈発生温度の分布の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の代表的な一例による、バラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測方法、そのプログラム及び予測システムの具体的な実施態様について、図1乃至図7を用いて説明する。なお、以下の実施例及び変形例においては、軌きょうを支持する道床としてバラスト道床を適用した場合を例示して説明する。
【0018】
図1に示すように、バラスト軌道50におけるレール座屈の発生箇所の予測システム60では、一対のレール40の上面を走行する軌道変位を測定する軌道検測機構61を有する車両62、一般には、軌道検測車によって測定されたデータから、レール40の上面の高低変位である復元波形を求め、計算が行われる。予測システム60は、その一例として、演算処理を行い得るコンピュータからなる。
【0019】
予測システム60は、車両(軌道検測車)62を走行させることにより、レール40に沿って下向きに荷重を付与しながら測定されたレール40の上面の高低変位から復元波形を得る復元波形取得手段60aと、得られた復元波形をバラスト層20の表面形状として推定し、レール40を復元波形の上に支持された自重を有する剛性梁とみなして、この剛性梁のまくらぎ30に対応する位置毎に、鉛直に所定長の支持バネ(図4の符号130A乃至D参照)をクリアランスを設けて配置し、レール40に下向きの所定荷重を与えたとしたときのレール40のたわみ形状を数値計算するたわみ計算手段60bと、これら支持バネ毎のバネ反力を算出し、このバネ反力に基づいてレール40のレール座屈の発生箇所を予測する座屈予測手段60cと、を含む。
【0020】
予測システム60には、レール座屈の発生箇所を予測するプログラムが内蔵されており、かかるプログラムに基づいて演算処理が実行される。このプログラムでは、剛性梁をまくらぎ30に対応する任意の位置に非線形バネ(支持バネ)で支持させた有限長さの弾性支持モデル(図4参照)を採用し、その剛性梁のたわみと設定された隙間との位置関係により、外力としての剛性梁の自重と反力の釣り合いを考慮してたわみを補正して支持バネ毎のバネ反力を算出する。そして、上記プログラムは、算出されたバネ反力に基づいて、レール40の横方向に生じるレール座屈の発生箇所を予測するものである。なお、図4においては、その一例として、支持バネ(まくらぎ30)を等間隔に配置した場合を示している。
【0021】
ここで、バラスト軌道50の構造、及び軌道の支持状態の1つの状態例として「浮きまくらぎ」の形成について、概ね以下のように説明される。
【0022】
図2(a)に示すように、バラスト軌道50は、路盤10と、その上に砕石や砂利等の多数のバラスト22を敷き詰めて形成されたバラスト層20と、バラスト層20の上面に載置された複数の所定間隔で配置されたまくらぎ30と、まくらぎ30に固定されたレール40とを含む。ここで、バラスト層20の沈下が生じていない場合では、複数のまくらぎ30の下面はそれぞれバラスト層20の上面と接触し、バラスト層20に支持されている。なお、実際のバラスト層20には、まくらぎ30の下面よりも高い位置まで積層されるが、後述するように、バラスト層20をまくらぎ30を支持する層としたモデルを考慮するため、まくらぎ30の下面に当接する面をバラスト層20の上面とする。
【0023】
ここで、図2(b)に示すように、個々のバラスト22は、鉄道車両の走行などによってまくらぎ30からの力を繰り返し受けるなどして互いに変位し、バラスト層20の上面を沈下させる。このとき、複数のまくらぎ30とレール40とは通常、締結装置(図示せず)により固定されているため、まくらぎ30及びレール40の自重によるたわみによってもなおまくらぎ30の下面とバラスト層20の上面との間に空隙Gを生じる、いわゆる「浮きまくらぎ」の状態となることがある。
【0024】
図2(c)に示すように、このような浮きまくらぎの状態で車両等が走行すると、レール40の上面を走行する車輪66から鉄道車両の重量に相当する下向きの荷重Fを受けるため、レール40は空隙Gに相当する分だけたわむ(弾性変形する)ことができる。このとき、荷重Fによるたわみ量を空隙Gよりも大としようとする場合には、個々のまくらぎ30の下面はバラスト層20の上面と接触して反力Rを負荷される。
【0025】
以下に、図3乃至図5を参照して、レール座屈の発生箇所の予測方法の具体的な動作及びその予測結果の一例を説明する。
【0026】
図3に沿って説明すると、まず、図1に示した車両(軌道検測車)62を走行させながらレール40に沿って下向きの荷重を付与することによってレール上面の動的な高低変位を得て、復元波形取得手段60aがこの高低変位に基づいて復元波形Wに変換する(S1)。高低変位は軌道検測機構61によって軌道上のキロ程に対して位置合わせされ、適宜、フィルタ処理等が行われて、復元波形Wとされる。
【0027】
なお、車両62における高低変位の計測においては、レール40に車両62の重量が負荷されながら計測される。よって、得られた復元波形Wは、バラスト層20に対するまくらぎ30の隙間に応じてたわんだレール40の形状になる(図2(c)参照)。そこで、この復元波形Wはバラスト層20の上面の形状としてみなし得るため、この復元波形Wに対して所定の対象計算区間を設定し、当該対象計算区間においてレール40のキロ程に対応させてまくらぎ30に相当する位置にS個の支持点P~P(但し、Sは自然数)を設定する。
【0028】
次いで、たわみ計算手段60bが、図4に示すような軌きょうモデルを用いて、レール40が自重によってたわんだ際のレール40のたわみ量及びまくらぎを含む軌道の支持状態を表す各種パラメータを演算する(S2)。
【0029】
詳細には、図4(a)に示すように、レール40の長手方向及び鉛直方向の直線を含む平面による2次元断面モデルである軌きょうモデル100を用いる。軌きょうモデル100は、上記した対象計算区間よりも短い長さでレールを模擬したレール要素110と、複数のまくらぎを模擬したまくらぎ要素120A~Dと、個々のまくらぎの下面とバラスト層20との弾性的な接触を模擬したバネ要素130A~Dと、により構成されている。
【0030】
レール要素110は、レール40と同等の質量及び弾性を有するものとして定義されるものであり、例えば、質量は1mあたり50kgとすることができる。同様に、複数のまくらぎ要素120A~Dは、レール要素110に対して所定の間隔ごとに固定配置された質量を有する点としてモデル化されたもので、個々のまくらぎ30及び締結装置の合計の半分(片側レール分)と同等の質量を有するものとして定義される。
【0031】
なお、まくらぎ要素120A~Dは、上記支持点と同様に、まくらぎ30に対応する位置に等間隔に配置される。このため、使用目的に応じて、現地の間隔や、まくらぎ30の実際の配置を計測せずとも、例えば、まくらぎ30の設計上の間隔に対応する位置に配置すればよい。また、後述するが、軌きょうモデル100を用いた実際の演算においては、レール要素110とまくらぎ要素120とは、一体の2次元梁とみなしてモデル化される。
【0032】
複数のまくらぎ要素120A~Dの下面には、上述のように、まくらぎ30の下面を支持するバラスト層20の上面を鉛直方向に模擬した長さLのバネ要素130A~Dがそれぞれ配置される。ここで、上記したように、バラスト軌道50において車両62の走行時に、バラスト層20に対するまくらぎ30の隙間に応じてレール40がたわむ。
【0033】
また、まくらぎ30とバラスト層20との間には隙間を有するので、かかる隙間に相当する変位に至るまでは、圧縮方向の反力を負荷されない状態が維持される。一方、まくらぎ30をバラスト層20へ接触させてからさらに荷重を付与すると、まくらぎ30はバラスト層20から反力Rを受ける。そこで、バネ要素130A~Dは、所定長Lを有するとともにバラスト層20の上面との間にその形状に対応したクリアランス(隙間ε)を設けて配置される。これにより、変位によってバラスト層20に接触し反力Rを受けたときに縮むものとして、まくらぎ30とバラスト層20との弾性的な接触が模擬される。
【0034】
上記したように、復元波形Wをバラスト層20の上面の形状としてみなした場合には、バネ要素130A~Dの下端が復元波形Wと接触しない場合、両者の間にはクリアランスεが定義され、バネ要素130A~Dは当該クリアランスεによって非線形特性を有するように設定される。なお、図4に示した軌きょうモデル100においては、説明を単純化するためにまくらぎ要素及びバネ要素をそれぞれ4つずつ設けた場合を例示しているが、これに限定されない。
【0035】
例えば、得られた復元波形Wにおけるモデル計算区間に対応する所定範囲で最も高さの高い点(高位点)を抽出し(例えば点PA)、この高位点PAを通る水平基準線HLを決定する。すると、各まくらぎ要素120A~Dは、レール要素110のたわみによって水平基準線HLの高さから降下すると、水平基準線HLから復元波形Wまでの鉛直方向差分Gの距離までは反力が負荷されず、鉛直方向差分Gと同じ距離だけ降下してから反力を負荷されこれを上昇させることになる。
【0036】
すなわち、図4(b)に示すように、たわみ(レール要素110のたわみによるまくらぎ要素120A~Dの降下距離)を一定値(鉛直方向差分Gに相当し、それぞれ0、DB、DC、DD)とするまで反力が負荷されず、その後たわみに伴って反力が上昇するのである。この鉛直方向差分Gに相当する距離は復元波形W及び水平基準線HLの差分によって得ることができる。
【0037】
このような軌きょうモデル100を用い、たわみ計算手段60bが、レール要素110に下向きの所定荷重を負荷したときの釣り合いからレール要素110のたわみ量を演算する。ここでは、所定荷重としてレール要素110とまくらぎ要素120とを合算した質量を負荷する。つまり、軌道検測車のような重量物を支持しておらず、レール要素110及び複数のまくらぎ要素120A~Dを一体の梁部材とみなして、当該梁部材による自重のみが負荷されたときのたわみ量をレール要素110の剛性に基づき釣り合いから計算する。これにより、鉛直方向のたわみ形状を推定できるとともに、軌道支持状態をも推定できる。
【0038】
続いて、座屈予測手段60cが、復元波形Wとレール要素110のたわみ量とを重ね合わせることにより、軌きょうモデル100のバネ要素130A~D毎のバネ反力Rを算出し、このバネ反力Rに基づいてレール40のレール座屈の発生箇所を予測する(S3)。
【0039】
詳細には、座屈予測手段60cは、まず、復元波形Wと得られたレール要素110のたわみ量とを重ね合わせ、その差分に基づいて各バネ要素130A~130Dのバネ反力Rを得る。なお、各バネ要素130A~130Dのバネ反力Rは、各まくらぎ要素120A~120Dの下面の圧力と等価であるため、これらの圧力によってまくらぎ要素120B乃至120Dが浮きまくらぎの状態にあるか否かを推定できる。
【0040】
続いて、座屈予測手段60cは、上記のように得られた各バネ要素130A~130D毎のバネ反力Rに基づいて、レール40の座屈が発生しやすいと思われる箇所の予測(推定)を実行する。この予測動作は、例えば、復元波形W、レール要素のたわみ量D及びバネ反力Rを、キロ程を横軸としたグラフで表し、当該グラフから読み取れる情報により判別を行う。
【0041】
詳細には、図5に示すように、横軸をキロ程とし、縦軸をレール位置(高さ)あるいはバネ反力とした折線グラフを作成し、復元波形W、レールのたわみ量D及びバネ反力Rのそれぞれのキロ程毎の推移に基づいて、座屈予測手段60cが座屈の発生箇所の予測を行う。例えば、復元波形Wとたわみ量Dとが概ね同値として推移し、バネ反力Rが概ね高い値を間欠的に呈する領域A1では、ランダムに浮きまくらぎとなる箇所(バネ反力がゼロとなる箇所)が存在するものの、概ね等しい間隔で高いバネ反力Rが得られていることから、レール40はまくらぎ30を介してバラスト層20に十分に支持されていると推定できる。
【0042】
一方、復元波形Wとたわみ量Dとの間に大きな差異が認められ、かつバネ反力Rがゼロで推移している領域A2~A4では、当該領域A2~A4の全域で反力Rがゼロ、すなわち浮きまくらぎ状態が生じていると考えられるため、これらの領域A2~A4では、レール40はその領域の端点に位置するまくらぎ30のみで2点支持された長尺の剛性梁として模擬できる。このような領域A2~A4では、まくらぎ30がバラスト層20からの下面摩擦力(道床横抵抗力)を受けることがないため、レール40の横方向変位に対する抗力が小さくなると考えられることから、結果として、レール座屈が生じやすい箇所であると推定できる。
【0043】
このとき、バネ反力Rが連続でゼロとなる領域A2~A4において、それらの区間の長さ(キロ程による領域幅)が広いほど、よりレール座屈が発生するリスクが高いと考えられる。例えば、「浮きまくらぎ」状態となるまくらぎ30が9本以上連続する場合には、よりレール座屈が発生するリスクが高くなり、またその予測精度も高められることがわかった。
【0044】
さらに、復元波形Wとたわみ量Dとの間に大きな差異はないものの、バネ反力Rがゼロあるいは所定の閾値Rt以下の値で推移している領域A5では、浮きまくらぎとなっているまくらぎ30と下面摩擦力(道床横抵抗力)が極めて小さいまくらぎ30とが混在する領域と考えられる。このような領域A5は、領域全体での道床横抵抗力が小さいと考えられるため、上記した領域A2~A4に次いでレール座屈が生じる可能性がある箇所であると推定できる。
【0045】
上記したバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測方法及びそのシステムによれば、軌道変位を測定する検測機構を有する車両を走行させて、下向きの荷重を付与しながらレール上面の高低変位を測定して得られた復元波形データと、レールを模擬した剛性梁を用いて算出したたわみ形状とに基づいて、レールの横方向に生じるレール座屈の発生箇所を予測することができる。すなわち、演算負荷の高いコンピュータによる数値解析等を行うことなく、実際に測定した軌道変位のデータに基づいて、簡易的にレール座屈の発生箇所を予測できるのである。
【0046】
次に、図6及び図7を参照して、レール座屈の発生箇所の予測方法の変形例を説明する。
【0047】
図6に示すように、レール座屈の発生箇所の予測方法の変形例において、座屈予測手段60cは、ステップS3で得られたまくらぎ位置毎の支持バネのバネ反力Rの値に基づいて、当該バネ反力Rを、まくらぎ30とバラスト層20との間の摩擦力を模擬した所定の関係式に代入することにより、上記した各まくらぎ位置における道床横抵抗力gを算出する(S4)。
【0048】
支持バネのバネ反力Rからまくらぎ毎の道床横抵抗力gを算出する関係式ついては、様々なモデルが提案されているが、その一つの手法として、まくらぎ底面とバラスト層上面との摩擦力である底面負担分が全体の1/3を占めることを考慮して、レールやまくらぎ、及びこれらの締結具、さらにはレール連結装置等のパーツを合計したまくらぎ1本分に相当する自重Mとバネ反力Rを用いて、次式のように表すことができる。
g=μ×(2M+P)/3 (式1)
ここで、μはバラスト層とまくらぎとの間の摩擦係数を示す。この式によれば、まくらぎがいわゆる「浮きまくらぎ」の状態の場合、P=0であるため、
g=2μM/3 (式2)
となる。
【0049】
上記式1にステップS3で算出されたまくらぎ位置毎のバネ反力Rをそれぞれ代入することにより、まくらぎ位置毎の道床横抵抗力gのキロ程に対する分布が得られる。このキロ程に対する道床横抵抗力gの分布と図5に示した復元波形W、レールのたわみ量D及びバネ反力Rのグラフとを組み合わせることにより、レール座屈の発生箇所の予測精度を向上させることができる。
【0050】
さらに、図6に示すように、本変形例では、座屈予測手段60cは、ステップS4で得られたまくらぎ位置毎の道床横抵抗力gの分布に基づいて、道床横抵抗力gがまくらぎ底面とバラスト層上面との摩擦力に抗してした仕事と温度との関係から、各まくらぎ位置における座屈発生温度Tを算出する(S5)。
【0051】
詳細には、上記のとおり、「浮きまくらぎ」状態が9本以上連続する場合に、レール座屈の発生箇所における予測精度の向上が期待できることから、まず、その一例として、まくらぎ30が9本分連続するキロ程範囲において、まくらぎ30の横方向変位が道床横抵抗力gに抗して行う仕事量の総和Eを求める。そして、その仕事量の総和Eが9本のうちの中央のまくらぎ30の代表値であると仮定して、この代表値と座屈発生温度Tとの線形回帰を行って両者の間の関係式を定義し、この関係式に基づいて、まくらぎ位置毎の座屈発生温度Tを算出する。
【0052】
図7に、ステップS5で算出されたまくらぎ位置毎の座屈発生温度の分布の一例を示す。なお、図7では、上記したステップS5で算出した結果と従来技術のFEM解析を適用して同様に算出した結果とを重ね合わせて示している。
【0053】
図7に示すように、本発明の手法による座屈発生温度Tの分布は、FEM解析を用いた手法による分布と極めて近い結果を得ることができた。ここで、図7に示したキロ程範囲における相関関数は0.90となり、上記した予測方法によって、精度良く座屈発生温度Tを得られることがわかった。
【0054】
上記したバラスト軌道におけるレール座屈の発生箇所の予測方法、そのプログラム及び予測システムによれば、軌道検測車を走行させるなどして下向きの荷重を付与しながら得られるデータを取得するだけで、レール座屈の発生箇所を予測できる。また、レールのたわみ量から算出されるバネ反力に基づいて、まくらぎ位置毎の道床横抵抗力や座屈発生温度の分布を得ることもできる。つまり、FEM解析等の演算負荷の大きな手法を用いなくても、簡易的に精度良くレール座屈の予測を行うことが可能となるのである。
【0055】
なお、上記した実施例においては、軌きょうモデルを用いてバネ反力Rを得る手法として、復元波形Wとたわみ量Dをと重ね合わせてその差分からバネ反力を得る場合を例示したが、レールのたわみ量Dを算出するにあたって、別の算出方法を採用してもよい。
【0056】
詳細には、復元波形Wにおける最高位データの高さ位置を通る水平基準線の上に軌きょうモデル100を配置し、レール要素110にその自重が載荷されたときのバネ要素130A~130Dごとの変位量を演算し、当該変位量に基づいてバネ要素130A~130Dと復元波形Wとの間の隙間がゼロとなるように、これらバネ要素130A~130Dに対応する位置毎に、レール要素110に下向きに載荷されるべき追加的な相当荷重をそれぞれ算出する。そして、このように算出した相当荷重をまくらぎ位置毎に載荷したときに、各まくらぎ位置でのバネ要素130A~Dと復元波形Wとの局所隙間を算出し、この局所隙間となるようなバネ要素130A~Dの縮み量に基づいて、バネ要素130毎のバネ反力Rを算出してもよい。
【0057】
以上、本発明による代表的な実施例及びこれに伴う変形例について述べたが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、適宜、当業者によって変更され得る。すなわち、当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0058】
10 路盤
20 バラスト層
22 バラスト
30 まくらぎ
40 レール
50 バラスト軌道
60 予測システム
60a 復元波形取得手段
60b たわみ計算手段
60c 座屈予測手段
61 軌道検測機構
62 車両(軌道検測車)
100 軌きょうモデル
110 レール要素
120A、120B、120C、120D まくらぎ要素
130A、130B、130D、130D バネ要素

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7