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特許7195253MG7、高グリコシル化CEAに特異的に結合する一本鎖抗体並びに検出及び治療におけるその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】MG7、高グリコシル化CEAに特異的に結合する一本鎖抗体並びに検出及び治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20221216BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221216BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221216BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221216BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20221216BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20221216BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221216BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221216BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20221216BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20221216BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K19/00 ZNA
C07K16/28
C12N5/10
A61K39/00 H
A61K35/17 Z
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P1/00
C12N5/0783
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019526356
(86)(22)【出願日】2017-07-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 CN2017094755
(87)【国際公開番号】W WO2018019275
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】201610614701.3
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519030811
【氏名又は名称】ザ フォース ミリタリー メディカル ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】519030822
【氏名又は名称】シャンハイ ジーンケム カンパニー、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ダイミン
(72)【発明者】
【氏名】ニエ、ヨンジャン
(72)【発明者】
【氏名】ウー、カイチュン
(72)【発明者】
【氏名】カオ、ユエチュオン
(72)【発明者】
【氏名】ユアン、ジジュン
(72)【発明者】
【氏名】イー、シュエジュン
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104910279(CN,A)
【文献】特表2009-520734(JP,A)
【文献】国際公開第2015/021871(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/153685(WO,A1)
【文献】特表2009-520733(JP,A)
【文献】特表2006-500913(JP,A)
【文献】特表平07-502167(JP,A)
【文献】特表2009-539380(JP,A)
【文献】Immunological Reviews, 2014, Vol.257, pp.107-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)グリコシル化CEAを標的とする抗原結合ドメイン、
ii)膜貫通ドメイン、及び
iii)共刺激ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメイン
を含むキメラ抗原受容体(CAR)であって、
前記グリコシル化CEAを標的とする前記抗原結合ドメインが重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、以下を特徴とするキメラ抗原受容体:
前記重鎖可変領域が、配列番号35に示されるポリペプチド断片を含み;前記軽鎖可変領域が、配列番号36に示されるポリペプチド断片を含む。
【請求項2】
抗原結合ドメインが、ヒトグリコシル化CEAを特異的に認識する一本鎖抗体であり、前記一本鎖抗体のアミノ酸配列が配列番号173又は配列番号178である、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
ヒンジ領域をさらに含み、膜貫通ドメインが、CD8α及び/又はCD28の全長からの一部である膜貫通ドメインであるか、又はCD8α及び/又はCD28の全長からの一部である膜貫通ドメインを含み、細胞内シグナル伝達ドメインがCD28、CD137、及びCD3ゼータの全長からの一部である細胞内シグナル伝達ドメインのうちの1つ以上を含む、請求項1又は2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
請求項に記載のキメラ抗原受容体であって、
ヒンジ領域が配列番号52又は配列番号53に示される配列によってコードされ、
膜貫通領域配列が配列番号54又は配列番号55に示される配列によってコードされ、
細胞内シグナル配列が配列番号56に示される配列、配列番号57に示される配列、又は配列番号58に示される配列によってコードされるキメラ抗原受容体。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のキメラ抗原受容体をコードする核酸分子。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のキメラ抗原受容体を発現する細胞であって、T細胞、NK細胞及びB細胞からなる群から選択される、細胞。
【請求項7】
ヒトグリコシル化CEAに特異的に結合する一本鎖抗体であって、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域は、以下を特徴とする、一本鎖抗体:
前記重鎖可変領域が、配列番号35に示されるポリペプチド断片を含み;前記軽鎖可変領域が、配列番号36に示されるポリペプチド断片を含む。
【請求項8】
請求項に記載の一本鎖抗体であって、前記一本鎖抗体のアミノ酸配列が配列番号173又は配列番号178である一本鎖抗体。
【請求項9】
腫瘍治療薬の製造における、請求項1~のいずれかに記載のキメラ抗原受容体、又は請求項の細胞、又は請求項7もしくは8の一本鎖抗体の使用であって、腫瘍が胃癌、結腸直腸癌、及び食道癌からなる群から選択される使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍の免疫療法の分野に関し、より具体的には、本発明はグリコシル化CEA特異的一本鎖抗体、及びグリコシル化CEAを過剰発現する腫瘍に対するトランスジェニック改変養子Tリンパ球療法の分野に関する。
【0002】
背景技術
胃癌の発生率は、中国の消化管悪性腫瘍で1位、世界で2位である。年間死亡者数は悪性腫瘍による死亡者数の約24%を占め、5年生存率はわずか約27%である。胃癌患者の診断は遅れることが多いので、予後は極めて悪い。胃癌に対する効果的な標的療法はない。CEA(癌胎児性抗原)は膜結合タンパク質であり、一般に胎児の肝臓、腸及び膵臓において発現される。通常、それは腸に分泌され、その血清レベルは低い。細胞が癌性である場合、血清のレベルが上昇し、これは膵臓癌及び結腸癌の早期診断にとって補助的な意味を有し、腫瘍の進展、治療効果、再発及び予後についての一定の基準値を有する。第4軍医大学のFan Daiming教授は、グリコシル化CEAは非常に感度が高く、様々な消化管癌に特異的であることを発見した。臨床研究は、胃癌の組織におけるグリコシル化CEAの陽性率が80%を上回り、結腸癌の組織における陽性率が40%を上回り、胃の前癌性病変における陽性率が30%を上回り、食道癌の組織における陽性率が18%以上であることを示してきた。同時に、臨床試験の結果は、胃癌患者28人における血清グリコシル化CEAの陽性率が手術前と比較して有意に減少し、グリコシル化CEAと胃癌の間に密接な関係があることを示唆した(Gadler et al.,Int J Cancer 25(1):91-4,1980)。
【0003】
現在、標的養子細胞療法技術を用いた新たなキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)が、様々な悪性腫瘍の治療において重要な役割を果たしている。CAR-Tは、腫瘍関連抗原(TAA)特異的認識ペプチド、例えば一本鎖抗体、特異的受容体と、CD3ゼータなどのT細胞活性化シグナルとの融合体で、融合タンパク質は、レンチウイルスなどによりT細胞の表面において特異的に発現し、修飾されたT細胞に腫瘍細胞を特異的に認識させて死滅させ、主要組織適合抗原(MHC)から独立し、MHC欠失による腫瘍免疫回避を回避することを可能にする。
【0004】
キメラ抗原受容体は、細胞外抗原標的化及び認識領域、ヒンジ領域、膜貫通領域、及び細胞内共刺激シグナル伝達領域を含む。抗原認識領域は、ほとんどが一本鎖抗体又は特異的受容体であり、それは改変したT細胞が標的細胞を特異的に認識し、標的細胞を特異的に死滅させるように活性化され得ることを確実にする。ヒンジ領域は一般にCD8α、CD28ECD、IgG Fc断片などを採用し、それはT細胞が標的細胞と接触し、そしてT細胞の作用に影響を与えることを確実にする。また、細胞内シグナル領域は免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)、例えばCD3ゼータ及び共刺激シグナル、例えばCD28、CD137、CD27、ICOS、OX40、DAP10などを採用する(Sadelain et al.,Cancer Discov 3(4):388-98,2013)。
【0005】
CAR-Tは血液悪性腫瘍の治療において良好な適用価値を示しているが、CAR-Tは固形腫瘍の治療において期待される結果を奏さないことが多い。いくつかの臨床試験でさえ、CAR-Tはオフターゲットの効果により毒性を示すことがある。理由として重要なものは、固形腫瘍には効果的で特異的な標的が存在しない場合が多いということである。多くの腫瘍関連抗原では、正常組織でのある程度の発現が頻繁に見られる。例えばHER2は悪性の神経膠腫や乳癌などの悪性腫瘍の重要な標的であるが、HER2が標的のCAR-T臨床試験において患者はCAR-T再注入後に肺不全を患い、「サイトカインストーム」が起こり、間もなく患者の死の原因となった。したがって、固形腫瘍において非常に特異的且つ高感度の標的を見出すことは、固形腫瘍におけるCAR-T治療の適用におけるキーポイントである(Morgan et al.,Mol Ther 18(4):843-51,2010)。
【0006】
NK細胞はCD16及びCD56を発現するリンパ球であり、自然免疫において重要な成分である。NK細胞はMHC欠損標的細胞を死滅させることができる。T細胞との比較において、NK細胞はT細胞受容体を発現しないため移植片対宿主反応(GVHD)を受けない。NK細胞の活性化は、KAR(キラー活性化受容体)及びKIR(キラー阻害受容体)に対するシグナルの平衡状態にある。インビボでの主なKIRリガンドはMHCである。KIRリガンドのミスマッチ又は欠失に対しては、それはNK細胞の活性化を引き起こす。CAR-NK技術は、癌の治療のために、NK細胞又はNK細胞株(NK92など)の表面におけるCAR構造の発現を使用する新しい技術であり、その利点はNK細胞がIL6を分泌しないこと、NK細胞が末梢血で非常に短い循環的な半減期を有すること、NK細胞が高いトランスフェクション効率(非ウイルスベクター)を有していること、及びNK細胞株がGMPレベルで大規模に培養できることである。NK細胞又はNK細胞株の表面でCAR構造が発現すると、NK細胞にターゲティング能力を付与することができる。同時に、CAR-NK同種移植片において、KIR受容体のミスマッチは、NK細胞の活性化を増強して、より良好な腫瘍の排除を達成し得る。インビボでのNK細胞株の循環時間は非常に短いため、安全性を考慮する必要がある(Han et al.,Sci Rep 5:11483,2015)。
【0007】
発明の要約
第1の側面では、本発明は、i)グリコシル化CEAを標的とする抗原結合ドメイン、
ii)膜貫通ドメイン、及び
iii)共刺激ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメイン
を含み、
グリコシル化CEAを標的とする抗原結合ドメインが重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、以下の、
a.重鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号1に示されるCDR-H1、配列番号2に示されるCDR-H2、又は配列番号3に示されるCDR-H3の1つ以上のCDRを含み、軽鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号4に示されるCDR-L1、配列番号5に示されるCDR-L2、又は配列番号6に示されるCDR-L3の1つ以上のCDRを含むということ、
b.重鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号7に示されるCDR-H1、配列番号8に示されるCDR-H2、又は配列番号9に示されるCDR-H3の1つ以上のCDRを含み、軽鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号10に示されるCDR-L1、配列番号11に示されるCDR-L2、又は配列番号12に示されるCDR-L3の1つ以上のCDRを含むということ、
c.重鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号13に示されるCDR-H1、配列番号14に示されるCDR-H2、又は配列番号15に示されるCDR-H3の1つ以上のCDRを含み、軽鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号16に示されるCDR-L1、配列番号17に示されるCDR-L2、又は配列番号18に示されるCDR-L3の1つ以上のCDRを含むということ、
d.重鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号19に示されるCDR-H1、配列番号20に示されるCDR-H2、又は配列番号21に示されるCDR-H3の1つ以上のCDRを含み、軽鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号22に示されるCDR-L1、配列番号23に示されるCDR-L2、又は配列番号24に示されるCDR-L3の1つ以上のCDRを含むということ、又は
e.重鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号25に示されるCDR-H1、配列番号26に示されるCDR-H2、又は配列番号27に示されるCDR-H3の1つ以上のCDRを含み、軽鎖可変領域が、以下に記載される、配列番号28に示されるCDR-L1、配列番号29に示されるCDR-L2、又は配列番号30に示されるCDR-L3の1つ以上のCDRを含むということ、
の組み合わせのいずれか1つから選択されることを特徴とする、キメラ抗原受容体(CAR)を提供する。
【0008】
具体的な実施態様では、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が、以下の、a)重鎖可変領域が配列番号31に示されるポリペプチド断片を含み、軽鎖可変領域が配列番号32に示されるポリペプチド断片を含むということ、b)重鎖可変領域が配列番号33に示されるポリペプチド断片を含み、軽鎖可変領域が配列番号34に示されるポリペプチド断片を含むということ、c)重鎖可変領域が配列番号35に示されるポリペプチド断片を含み、軽鎖可変領域が配列番号36に示されるポリペプチド断片を含むということ、d)重鎖可変領域が配列番号37に示されるポリペプチド断片を含み、軽鎖可変領域が配列番号38に示されるポリペプチド断片を含むということ、又はe)重鎖可変領域が配列番号39に示されるポリペプチド断片を含み、軽鎖可変領域が配列番号40に示されるポリペプチド断片を含むということの組み合わせのいずれか1つから選択される。
【0009】
別の実施態様では、本発明の抗原結合ドメインは、グリコシル化CEAを特異的に認識する一本鎖抗体であり、一本鎖抗体のアミノ酸配列が配列番号171~180のいずれか1つに示されており、最も好ましくは、一本鎖抗体のアミノ酸配列が配列番号173又は配列番号178である。
【0010】
好ましくは、本発明のキメラ抗原受容体において、膜貫通ドメインはCD8α及び/又はCD28を含み、細胞内シグナル伝達ドメインがCD28、CD137、及びCD3ゼータのうちの1つ以上を含み、CD8αヒンジ領域が配列番号52に示されている配列によってコードされ、CD8α膜貫通ドメインが配列番号54に示されている配列によってコードされ、CD28ヒンジ領域が配列番号53に示されている配列によってコードされ、CD28膜貫通領域が配列番号55に示されている配列によってコードされ、CD28共刺激ドメインが配列番号56に示されている配列によってコードされ、CD137共刺激ドメインが配列番号57に示されている配列によってコードされ、CD3ゼータが配列番号58で示される配列によりコードされる。
【0011】
他の側面では、本発明は、本発明のキメラ抗原受容体をコードする核酸分子を提供する。
【0012】
別の側面では、本発明は、本発明のキメラ抗原受容体を発現する細胞を提供し、好ましくは細胞はT細胞、NK細胞及びB細胞からなる群から選択され、より好ましくは細胞はT細胞である。
【0013】
別の側面において、本発明は、キメラ抗原受容体を発現するリンパ球であって、順番に連結されている場合、キメラ抗原受容体が細胞外標的認識抗原配列、ヒンジ領域配列、膜貫通領域配列、及び細胞内シグナル配列を含むリンパ球を提供する。細胞外認識抗原配列は、上記のように定義される、本発明に記載されているようなグリコシル化CEAを特異的に認識する一本鎖抗体である。ヒンジ領域は、CD8α、CD28ECD、及びIgG Fc断片からなる群から選択される。細胞内シグナル領域は、CD3ゼータなどの免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)、及びCD28、CD137、CD27、ICOS、OX40、DAP10などの共刺激シグナルを使用してもよい。一実施態様では、キメラ抗原受容体のヒンジ領域配列は、それぞれ配列番号52又は配列番号53に示される配列によってコードされるCD8α又はCD28を含み、キメラ抗原受容体の膜貫通領域配列は、それぞれ配列番号54又は配列番号55に示される配列によってコードされるCD8α又はCD28を含み、キメラ抗原受容体の細胞内シグナル配列は、CD28、CD137、CD3ゼータ及びそれらの組み合わせを含み、CD28は配列番号56に示される配列によりコードされ、CD137は配列番号57に示される配列によりコードされ、CD3ゼータは、配列番号58に示される配列によってコードされる。一実施態様において、リンパ球は、T細胞、B細胞又はNK細胞などであってよい。特定の実施態様では、リンパ球はT細胞であり、キメラ抗原受容体は以下の
scFv-CD8α-CD137-CD3ゼータ,
scFv-CD28-CD28-CD137-CD3ゼータ,
scFv-CD28-CD28-CD3ゼータ
が発現される。
【0014】
好ましい実施態様では、本発明にて構築されたキメラ抗原受容体は、配列番号69~128に示される配列を有する。
【0015】
キメラ抗原受容体の抗原結合ドメインがその対応する抗原に結合すると、キメラ抗原受容体を含む細胞は抗腫瘍免疫を示す。
【0016】
本発明は、グリコシル化CEAに対する一連の一本鎖抗体を構築する。本発明の一本鎖抗体は、胃癌、結腸直腸癌、及び食道癌などの腫瘍の検出及び治療に使用することができる。これらの一本鎖抗体は、T細胞やNK細胞などのリンパ球の表面に発現させて、グリコシル化CEA発現陽性細胞及び組織を特異的に死滅させるために、グリコシル化CEAに対するキメラ抗原受容体T細胞又はキメラ抗原受容体NK細胞を構築及び形成することができる。
【0017】
第2の側面において、本発明は、それぞれFM2、FM3、FM4、FM5、FM6であるグリコシル化CEAに対する一本鎖抗体を提供し、この場合それらの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDR配列は配列番号1~30であり、それらのコード化ヌクレオチドは、それぞれ配列番号129~158であり、配列のリストを参照されたい。
【0018】
本発明は、それぞれFM2、FM3、FM4、FM5、FM6であるグリコシル化CEAに対する一本鎖抗体を提供し、それらの重鎖可変領域は配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37又は配列番号39であり、それらの軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38又は配列番号40である。一実施態様では、本発明は、グリコシル化CEAに対する一本鎖抗体であって、VH-リンカー-VL又はVL-リンカー-VHの形態で配置され、VHが上記の重鎖可変領域配列から選択され、VLが上記の軽鎖可変領域配列から選択される一本鎖抗体を提供する。好ましい実施態様では、リンカー、すなわちリンカーペプチドは、配列番号41に示される配列である。
【0019】
本発明は、本発明の一本鎖抗体をコードする単離された核酸分子を提供する。一実施態様では、一本鎖抗体の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号48又は配列番号50である。一実施態様では、一本鎖抗体の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49又は配列番号51である。
【0020】
本発明はまた、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含むベクターを提供する。特定の実施態様では、ベクターは、pGC-EIF1α-MCS(CV185、Genechem)、及びpGC-EIF1α-MCS-2A-EGFP(CV178、Genechem)である。
【0021】
腫瘍診断用の試薬又は腫瘍治療薬の製造における、本発明によるキメラ抗原受容体及び前記一本鎖抗体の使用であって、好ましくは、前記腫瘍が消化管の腫瘍であり、より好ましくは、胃癌、結腸直腸癌、及び食道癌からなる群から選択される使用である。
【0022】
本発明はまた、哺乳動物に抗腫瘍免疫を付与する方法を提供する。一実施態様では、この方法は、有効量の本発明のキメラ抗原受容体T細胞を哺乳動物に投与し、それによって哺乳動物に抗腫瘍免疫を付与することを含む。
【0023】
本発明はまた、腫瘍抗原発現の上昇に関連する疾患、障害又は状態を有する哺乳動物の治療方法、例えばCEAの高い発現を伴う胃腸の腫瘍を治療する方法を含む。一実施態様では、この方法は、有効量の本発明のキメラ抗原受容体T細胞を哺乳動物に投与し、それによって哺乳動物の腫瘍を治療することを含む。
【0024】
本発明はまた、腫瘍抗原発現の上昇に関連する疾患、障害、又は状態を診断する方法、例えば、高いCEA発現を伴う消化管の腫瘍を診断する方法も含む。一実施態様では、この方法は、腫瘍及び腫瘍の周辺組織を検出するための、ある量のグリコシル化CEAの発現を含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】フローサイトメトリーによるSW620-CEAのCEA発現の検出。
図2】FM2(VL→VH)、FM4(VL→VH)、FM5(VL→VH)、FM6(VL→VH)を、構造scFv-CD8α-CD137-CD3ゼータ及び感染したヒトT細胞に従ってレンチウイルスとして設計し、10日目まで培養し、図面の標的細胞(SW620-CEA、LOVO、KATO3)とともに16時間インキュベートし、IL2の放出を測定した。
図3】FM2(VL→VH)、FM4(VL→VH)、FM5(VL→VH)、FM6(VL→VH)を、構造scFv-CD8α-CD137-CD3ゼータ及び感染したヒトT細胞に従ってレンチウイルスとして設計し、10日目まで培養し、図面の標的細胞(SW620-CEA、LOVO、KATO3)とともに16時間インキュベートし、TNFαの放出を測定した。
図4】FM2(VL→VH)、FM4(VL→VH)、FM5(VL→VH)、FM6(VL→VH)を、構造scFv-CD8α-CD137-CD3ゼータ及び感染したヒトT細胞にレンチウイルスとして設計し、10日目まで培養し、図面の標的細胞(SW620-CEA、LOVO、KATO3)とともに16時間インキュベートし、INFγの放出を測定した。
図5】FM2(VL→VH)、FM4(VL→VH)を、構造scFv-CD28-CD28-CD3ゼータ及び感染したヒトT細胞にレンチウイルスとして設計し、10日目まで培養し、図面の標的細胞(SW620、SW620-CEA、LOVO、KATO3、クリプト)とともに16時間インキュベートし、IL2の放出を測定した。
図6】FM2(VL→VH)、FM4(VL→VH)を、構造scFv-CD28-CD28-CD3ゼータ及び感染したヒトT細胞にレンチウイルスとして設計し、10日目まで培養し、図面の標的細胞(SW620、SW620-CEA、LOVO、KATO3、クリプト)とともに16時間インキュベートし、TNFαの放出を測定した。
図7】FM2(VL→VH)、FM4(VL→VH)を、構造scFv-CD28-CD28-CD3ゼータ及び感染したヒトT細胞にレンチウイルスとして設計し、10日目まで培養し、図面の標的細胞(SW620、SW620-CEA、LOVO、KATO3、クリプト)とともに16時間インキュベートし、INFγの放出を測定した。
図8】FM2(VL→VH)-BBzをE:T比で4時間標的細胞と混合し、上清のLDH放出を測定してFM2(VL→VH)-BBzによる標的細胞の死滅を判定した。
図9】FM4(VL→VH)-BBzをE:T比で4時間標的細胞と混合し、上清のLDH放出を測定してFM4(VL→VH)-BBzによる標的細胞の死滅を判定した。
図10】PDXモデルマウスの末梢血(peripheral blood)でのIFNγ放出の検出。
図11】PDXモデルの腫瘍増殖曲線。
図12】FM4(VL→VH)-BBz-NK92サイトカイン分泌アッセイ。
図13】FM4(VL→VH)-BBz-NK92細胞死滅アッセイ。
図14】腫瘍モデルのマウスにおけるINFγ放出の検出。
図15】腫瘍モデルのマウスにおける腫瘍殺傷効果。
【0026】
本発明を実施するための具体的な形態
まず本発明をより容易に理解できるようにいくつかの用語について定義を行う。他に示さない限り、本明細書で使用するすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似又は同等の方法及び材料を本発明の実施又は試験に使用することができるところ、適切な方法及び材料を以下に記載する。本明細書に引用されたすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾がある場合には、本明細書(定義を含む)が優先するものとする。さらに、材料、方法、及び例は例示的なものにすぎず、限定的なものではない。
【0027】
一本鎖抗体
本明細書で使用する場合、「一本鎖抗体(一本鎖Fv、scFv)」は、連結ペプチドを介して免疫グロブリンの重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を連結することによって形成される組換えタンパク質である。これは完全な抗原結合部位を有する最小の抗体断片である。ヒト免疫グロブリン(Ig)は、IgA、IgD、IgM、IgE及びIgGの5つのサブタイプを含み、そのうちIgGがヒト免疫グロブリンの75%を占める。IgGは、鎖間のジスルフィド結合を介して2つの重鎖IgH及び2つの軽鎖IgLによって形成される「Y」型の抗体の構造物である。IgHは、重鎖可変領域(VH)及び定常の領域(定常領域)を含む。IgLは、軽鎖可変領域(VL)及び定常の領域(定常領域)を含む。VH及びVLの多様性は、免疫グロブリンの抗原への結合の基礎である。VH及びVLは、フレーム領域(FR)及び相補性決定定領域(CDR)から構成され、CDR領域は非常に可変性があり、抗原及び抗体の特異的結合を判定する。ここで、VHは、CDRH1、CDRH2、CDRH3と称される3つのCDR領域を含む。VLは、CDRL1、CDRL2、CDRL3と称される3つのCDR領域を含む。
【0028】
本発明はまた、一本鎖抗体の変異体、誘導体及び類似体も含む。本文で使用される「変異体」、「誘導体」及び「類似体」という用語は、本発明の一本鎖抗体の同じ生物学的機能又は活性を実質的に保持するポリペプチドを示す。本発明のポリペプチド変異体、誘導体又は類似体は、(i)1つ以上の保存的又は非保存的アミノ酸残基(好ましくは保存的アミノ酸残基)が置換されているポリペプチド、かような置換アミノ酸残基は遺伝子コードによってコードされてもされなくてもよい、又は(ii)1つ以上のアミノ酸残基が置換基を有するポリペプチド、又は(iii)追加のアミノ酸配列をポリペプチド配列に融合することによって形成されるポリペプチド(リーダー配列若しくは分泌配列、又は、ポリペプチド若しくは融合ポリペプチドを精製するために使用される配列若しくはポリペプチド配列など)であってよい。これらの変異体、誘導体及び類似体は当業者の知識の範囲内にあり、本明細書の定義に従う。
【0029】
本発明の「一本鎖抗体」は、グリコシル化CEAに特異的に結合するポリペプチドを示す。この用語はまた、グリコシル化CEAに特異的に結合することができるポリペプチド配列を有する変異体も含む。これらの変異体は、いくつかの(通常1~50、好ましくは1~30、より好ましくは1~20、最も好ましくは1~10、さらにより好ましくは1~8又は1~5の)アミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換、並びにC末端及び/又はN末端に1つ以上(通常20以内、好ましくは10以内、より好ましくは5つ以内)のアミノ酸の付加又は欠失を含む(しかしこれらに限定されない)。例えば、当技術分野において、近似又は類似の性質のアミノ酸による置換は通常タンパク質の機能を変えない。別の例として、C末端及び/又はN末端での1つ以上のアミノ酸の付加又は欠失は、一般にタンパク質の機能も同様に変えない。
【0030】
本発明はまた、一本鎖抗体の類似体も提供する。これらの類似体と天然の一本鎖抗体との間の相違は、アミノ酸の配列における相違、配列に影響を及ぼさない修飾形態における相違、又はそれらの組み合わせであってよい。これらのポリペプチドは天然の又は誘導された遺伝的変異体を含む。誘導変異体は、照射によるランダムな突然変異誘発若しくは突然変異誘発物質への曝露、又は部位特異的突然変異誘発若しくは分子生物学の他の公知の技術などの様々な技術によって得ることができる。類似体はまた、天然のL-アミノ酸以外の残基(例えば、D-アミノ酸)を有する類似体、並びに非自然発生のアミノ酸又は合成アミノ酸(例えば、β-アミノ酸、γ-アミノ酸)を有する類似体も含む。本発明のポリペプチドは上に例示した代表的なポリペプチドに限定されないことを理解すべきである。
【0031】
さらに、本発明の一本鎖抗体の活性、発現量及び安定性に実質的に影響を及ぼさない他のアミノ酸配列を、一本鎖抗体のアミノ末端又はカルボキシ末端に付加することができる。好ましくは、これらの付加されたアミノ酸配列は発現を促進し(例えばシグナルペプチド)、精製を促進し(例えば6×His配列)、又は一本鎖抗体の活性、発現若しくは安定性を促進する他の配列である。
【0032】
本発明はまた、本発明の一本鎖抗体又はその変異体、誘導体をコードするDNA分子も含む。DNA分子はすべて人工的に合成することができるか、PCR増幅によって得ることができる。
【0033】
宿主細胞の発現レベルをさらに増加させるために、本発明の一本鎖抗体のコード配列は、例えば、宿主細胞に好ましいコドンを用いて遺伝子の転写及び翻訳に寄与しない配列を排除するように操作することができる。
【0034】
一本鎖抗体の発現
本発明の新規一本鎖抗体又はその変異体若しくは誘導体をコードするDNA配列を得た後、それを適切な発現ベクターにクローニングし、適切な宿主細胞に移入する。最終的に、形質転換宿主細胞を培養し、単離精製することにより本発明の新規の一本鎖抗体を得る。
【0035】
本明細書で使用する「ベクター」という用語は、プラスミド、コスミド、発現ベクター、クローニングベクター、ウイルスベクターなどを含む。
【0036】
本発明においては、当技術分野で公知の種々のベクターを使用し得る。例えば、市販のベクターを選択した後、本発明の新規の一本鎖抗体をコードするヌクレオチド配列を発現調節配列に作動可能に連結して発現ベクターを形成する。
【0037】
本発明において、「宿主細胞」という用語は原核細胞及び真核細胞を含む。一般的に使用される原核生物の宿主細胞の例には、大腸菌、枯草菌などが含まれる。一本鎖抗体を発現するための宿主細胞には、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、COS細胞、CHO細胞などが含まれる。好ましくは、宿主細胞は原核細胞、より好ましくは大腸菌細胞である。
【0038】
形質転換宿主細胞を得た後、細胞を本発明の一本鎖抗体の発現に適した条件下で培養して一本鎖抗体を発現させることができる。そして発現された一本鎖抗体を単離することができる。
【0039】
リンカーペプチド
本明細書で使用する場合、「リンカーペプチド」(リンカー)という用語は、抗体(又はその変異体)の重鎖可変領域と抗体(又はその変異体)の軽鎖可変領域との間の短いペプチドを示す。それはリンカーとして作用して重鎖及び軽鎖可変領域が自由に折り畳まれることを可能にし、分子動力学を変化させることなく抗原結合部位を適切な配置に残す。一般に、リンカーペプチドは、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列の正しい折り畳み及び空間的立体配座の形成に影響を及ぼさない、又は著しくは影響を及ぼさない。あるいは、リンカーペプチドは、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)との間の柔軟な連結を構成し、これはそれらの通常の折り畳みを容易にする。リンカーペプチドの長さは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が自由に折り畳まれ、抗原結合部位が分子動力学に変化を引き起こさずに適切な配置になることができる限り、特に限定されない。例えば、リンカーペプチドの長さはまた4~30アミノ酸であってよい。好ましくは、本発明のリンカーペプチドの配列は配列番号1に記載されている。
【0040】
キメラ抗原受容体(CAR)
本発明の一本鎖抗体は、胃癌、結腸直腸癌、食道癌などの腫瘍の検出及び治療に用いることができる。本発明の一本鎖抗体をT細胞の表面に特異的に発現させることにより、グリコシル化CEAに対するキメラ抗原受容体T細胞を構築し、特異的にグリコシル化CEA発現陽性細胞及び組織を死滅させることができる。本発明の一本鎖抗体のそれぞれについて、3つの構造のCAR-Tを別々に構築し、各抗体の下の3つの構造の機能的差異を比較し、適切なCAR-T構造を適切な標的細胞に採用する。3つの構造のCAR-Tはそれぞれ
scFv-CD8α-CD137-CD3ゼータ、
scFv-CD28-CD28-CD137-CD3ゼータ、
scFv-CD28-CD28-CD3ゼータ
である。
【0041】
本発明のキメラ抗原受容体構造において:
ヒンジ領域は、CD8α、CD28、ヒトIgG1 Fc、ヒトIgG4 Fc、DAP10などからなる群から選択される細胞外領域であってよい。
【0042】
膜貫通領域は、CD8α、CD28、DAP10などからなる群から選択される膜貫通領域であってよい。
【0043】
共刺激ドメインは、CD28、CD134(OX40)、CD137(4-1BB)、ICOS、DAP10などからなる群から選択される細胞内領域であってよい。
【0044】
必須シグナルドメインはCD3ゼータから選択してよい。
【0045】

本発明をについて具体的な例及び添付の図面と併せて以下にさらに説明する。それらは本発明を限定することを意図しない。具体的には条件が記載されていない以下の例の実験方法は、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning Experiment Guide,Science Press,2002に記載されているものなどの従来の条件、又は製造業者の推奨する条件に従って行われる。百分率及び部は重量によるものであり、他の記載がある場合はその限りではない。
【0046】
例1:一本鎖抗体の構築
表1
【表1】
【0047】
一本鎖抗体の発現方法
各合成したヌクレオチド配列FM2、3、4、5、6の3’末端に8His(CACCATCACCATCACCATCACCAT)を付加し、増幅させた断片の両端にsfiI、NotI制限部位を付加し、その後pCANTAB5Eベクター(GE HealthCare)に挿入した。構築したpCANTAB5E(GE)ベクターを大腸菌HB2151株に形質転換し、IPTGにより誘導して一晩発現させた。細胞をPBS緩衝液に再懸濁し、氷で10分間超音波処理した。遠心分離後、上清をHis Trap Column(GE)で精製し、20mMイミダゾールを含むPBS緩衝液で5~10カラム容量で洗浄し、次いで500mMイミダゾールを含むPBSで溶出した。続いてイミダゾールをDesalting G25カラム(GE)で脱塩し、PBSに溶解した一本鎖抗体を得た。
【0048】
例2:CAR組換えレンチウイルスベクターの構築
本発明において構築されたウイルスを表2に示す。
表2:
【表2-1】

【表2-2】
【0049】
1.レンチウイルスプラスミドベクターの構築
1)遺伝子配列の全遺伝子合成
表2のレンチウイルスを構築するために、必須の遺伝子配列を、表2に示す構造に従って、遺伝子全体の合成に供した。
【0050】
2)核酸断片の増幅
配列番号69~78、89~98、109~118として番号付けされた合成遺伝子産物を上流プライマー(配列番号159~168)及び下流プライマー(配列番号169)を用いて増幅した。PCR増幅条件は次の通りであった:前変性:95℃で5分間;変性:95℃で30秒間;アニーリング:55℃で30秒間;伸長:72℃で1分間、35サイクル;最後の伸長:72℃で10分間。
【0051】
配列番号79~88、99~108、119~128として番号付けされた合成遺伝子産物を上流プライマー(配列番号159~168)及び下流プライマー(配列番号170)で増幅した。PCR増幅条件は上記と同じであった。
【0052】
3)ウイルスプラスミドベクターの構築
a)配列番号79~88、99~108、119~128の増幅断片を制限エンドヌクレアーゼの消化に供した。使用した制限酵素はBamHI及びEcoRIであり、消化システムは次の通りであった:0.5μlのBamHI、0.5μlのEcoRI、2μlの緩衝液、2μlのBSA、2μgの増幅断片で、20μlまで滅菌水を補充した。37℃で2時間インキュベートした後、酵素消化システムをDNA洗浄及び回収に供した。回収方法は以下の通りであった:80μlの緩衝液PCR-Aを消化システムに添加した後、混合物を調製用の管に移し、調製用の管を2mlの遠心分離用の管に入れ、12,000×gで1分間遠心分離し、濾液を捨てた。調製用の管を2mlの遠心分離用の管に戻し、700μlの緩衝液W2を加え、12,000×gで1分間遠心分離し、濾液を捨てた。調製用の管を清潔な1.5mlの遠心分離用の管に入れ、25~30μlの溶出液又は脱イオン水を調製用の管の膜の中心に添加し、室温で1分間放置した。DNAを12,000×gで1分間の遠心分離により溶出した。
【0053】
配列番号69~78、89~98、109~118の増幅断片を制限エンドヌクレアーゼの消化に供した。使用した制限エンドヌクレアーゼはBamHIであった。消化システムは次の通りであった:0.5μlのBamHI、0.5μlのEcoRI、2μlの緩衝液、2μlのBSA、2μgの増幅断片で、20μlまで滅菌水を補充した。37℃で2時間インキュベートした後、酵素消化システムをDNAの洗浄及び回収に供した。リサイクルの方法は上記と同じである。
【0054】
b)ベクター断片を制限エンドヌクレアーゼの消化に供し、酵素消化システム及び方法は上記のものと同じであった。消化後、システムをDNAアガロースゲル電気泳動に供し、ベクター断片(約8Kb)をゲルにより回収した。回収システムは以下の通りであった:目的のDNA断片をアガロース電気泳動により他のDNAバンドから分離し、次いで回収すべきDNAを含有するアガロースゲルブロックを清浄なメスで切断し、予め番号を付していた1.5mlのEP管に入れた。アガロースゲルブロックはできるだけ薄く切るべきであり、紫外線照射の時間はできるだけ短くするべきである。500μlのゲル溶液を各々の管に加え、65℃の温かい槽の中で5~10分間インキュベートし、その間に混合物を2分毎に反転させてゲルを完全に融解させた。溶解したゲルを水の槽から取り出し、室温に冷却されるまで室温で2分間放置した。UNIQ-10回収カラムに500μlの平衡化溶液を加え、12,000rpmで1分間遠心分離し、収集溶液を捨て、除外した。液体をUNIQ-10カラムに移し、室温で1分間静置し、8,000rpmで1分間遠心分離した。UNIQ-10カラムを降ろして収集用の管内の廃液を捨て(標的の一片が非常に軽い場合、収集用の管の液体は再びUNIQ-10カラムを通ることができる)、UNIQ-10カラムを同じ収集用の管に入れて、700μlの洗浄用緩衝液を加え、10,000rpmで30秒間遠心分離して、もう一度繰り返した。UNIQ-10カラムを降ろし、収集用の管内の廃液を捨て、UNIQ-10カラムを同じ収集用の管に入れ、12,000rpmで2分間遠心分離した。UNIQ-10カラムを新しい1.5mlのEP用の管に入れ、UNIQ-10カラムの蓋を開け、65℃の乾燥機に10分間入れてエタノールを十分に蒸発させた。40μlの溶出緩衝液をカラムのメンブレンの中心に添加し(注:汚染を避けるために先端部を交換しなければならない)、UNIQ-10カラムの蓋を閉め、65℃のオーブンに2分間入れた。目的のDNAを12,000rpmで1分間の遠心分離により回収した。
【0055】
EGFP発現ベクターを制限エンドヌクレアーゼの消化に供した。使用した制限酵素はBamHIであり、酵素消化システム及びゲルの回収方法は上記と同じであった。
【0056】
c)プラスミドベクターと目的の断片の連結
配列番号79~88、99~108、119~128の消化産物をEGFPの発現がないベクター(CV185、Genechem)に連結し、配列番号69~78、89~98、109~118の増幅させた消化産物をEGFP発現ベクター(CV178、Genechem)に連結した。
【0057】
連結システムは以下の通りであった:25ngの挿入断片、100ngのベクター断片、2μlのT4リガーゼ緩衝液、1μlのT4リガーゼを、20μlまで滅菌水を補って、22℃で1時間連結させた。
【0058】
2.レンチウイルスのパッケージング
第3世代のレンチウイルスパッケージングシステムを使用した:トランスファープラスミド:CV178又はCV185(Genechem)、エンベローププラスミド:H1(Genechem)、パッケージングプラスミド:H2(Genechem)Zufferey et al.,J Virol 72(12):9873-80,1998)。
【0059】
HEK-293T細胞を24時間の継代期間に従って補充し、培地をトランスフェクション前に交換した。細胞の各プレートを、電気ピペットを用いて2%FBSを含有する5mlのDMEM培地と交換した。HBW、H1(12μg/プレート、プレートとは10cmの細胞培養皿を指し、以下同様)、組換えH2(10μg/プレート)、ベクター(24μg/プレート)、CaCl(50μl/プレート)を順に加え、最後に2×HBS(500μl/ディスク)を滴下してボルテックス発振器で振動させた。トランスフェクションシステムは1ml/プレートであった。その中でも、ベクターはステップ1で構築されたベクターであった。トランスフェクションシステムを注意深くピペッティングし、混合物1000μlを取り、混合後293T細胞に滴下して加え、操作を安定した状態に保ち、トランスフェクションシステムを10cmのプレートに均一に分配した。プレートを水平に保ち、プレート内の液体を前後左右の各方向に10回振った。混合プロセスは十分なはずであるが、液体がプレートの外側にこぼれたり流れたりした可能性はなかった。その後、37℃、5%COのインキュベータに入れる。トランスフェクションの8時間後、上清を捨て、DMEM培地を電気ピペットと交換した。トランスフェクションの終了後28~30時間の間に、上清を初めて回収し、10mlのDMEM培地を補うために添加した。トランスフェクションの終了後48~50時間の間に、上清を2回目のために集めた。超遠心分離後、後に使用するためにそれを100μlのDMEMに再懸濁した。
【0060】
例3:組換えレンチウイルスによるTリンパ球の感染
感染実験は、当業者に公知の通例の方法に従って行われた。感染ステップを以下のように簡潔に説明する:
【0061】
1.末梢血単核球リンパ球(Peripheral blood mononuclear lymphocytes)(PBMC)を得て、血液アフェレーシスシステムにより>1×10の細胞が得られた。
【0062】
2.細胞培養皿の実験的な抗ヒトCD3/CD28抗体の処理。
抗ヒトCD3抗体(OKT3クローン、MACS)及び抗ヒトCD28抗体(15E8クローン、MACS)を、PBSで最終的な濃度を1μg/mlに希釈し、希釈した抗体混合物を細胞培養皿に加え、皿に培養物が広がるようにした。室温で2時間インキュベートした後、皿をPBSで1回洗浄し、除外した。
【0063】
3.Tリンパ球の活性化
単離したPBMCを、Tリンパ球培養培地(TexMACS培地+10%FBS+30IU/組換えヒトIL-2)に、最終的な濃度が1×10細胞/mlになるように再懸濁し、ステップ2で処理した皿に入れて培養した。培養条件は37℃+5%CO、培養時間は24時間であった。
【0064】
4.活性化Tリンパ球の感染
1)感染試薬の調製
一定量のT細胞培養培地を取り、1mg/mlという最終的な濃度に達するようにSynperonic F108を添加し、十分に混合し、水に浸して37℃に加熱して除外した。
【0065】
2)培養プレートの処理
1mg/mlのCD3及び0.5mg/mlのCD28抗体を採取し、1:1000の体積比で適切な量のPBS緩衝液に希釈し、レトロネクチン試薬(タカラ、カタログ番号T100A)を取得してPBS緩衝液に1:40の体積比で希釈した。よく混合した後、緩衝液を細胞皿に均一に広げ、室温で2時間インキュベートした。2時間後、皿をPBSで洗浄して除外した。
【0066】
3)レンチウイルスによるTリンパ球の感染及びTリンパ球の維持
1)で調製した感染試薬を用いて活性化Tリンパ球を希釈し、レンチウイルスをMOI=3に従って添加し、混合した。混合物を2)で処理したように皿に均等に広げた。
【0067】
細胞の密度を感染後にモニターして、細胞を1×10細胞/mlに維持した。典型的には、14日後に細胞を30~100倍に増幅した。
【0068】
例4:消化管供給源の癌細胞株におけるグリコシル化CEA発現の検出
フローサイトメトリーを用いて、様々な標的細胞におけるグリコシル化CEAの発現レベルを検出した。具体的な検出方法は以下の通りであった:
1.表3に示すように6×10細胞/群を採取し、200gで5分間遠心分離し、上清を捨てた。
2.200μlのPBSに再懸濁した後、再懸濁した細胞を2群に分け、そのうちの1つに本発明のグリコシル化CEAに対する一本鎖抗体1μgを加え、4℃で2時間インキュベートした。
3.1mlのPBSを各群に添加し、混合し、200gで5分間遠心分離し、上清を捨てた。細胞を100μlのPBSで再懸濁した後、5μlのヤギ抗マウスIgG1 FITC標識二次抗体を細胞懸濁液に添加し、4℃で1時間インキュベートした。
4.細胞をPBSで3回洗浄し、フローサイトメトリーで測定及び分析した。
【0069】
結果を表3に示す。グリコシル化CEA抗原の発現はSW620では検出されなかったが、異なる程度のグリコシル化CEA発現はKATO3、クリプト、並びにCEAを過剰発現するSW620-CEA及びLOVO細胞株で検出された。
【0070】
SW620-CEA細胞系の構築方法:SW620細胞を、10%FBSを添加した1640培地で維持し培養した。全長のCEA遺伝子(CEACAM5、NM-004363)は、全遺伝子合成によって得られた。GV348ベクター(Genechem)にクローニングした後、2つのヘルパープラスミドを有する遺伝子をリン酸カルシウムで293T細胞にトランスフェクトし、パッケージングしてレンチウイルスを形成した。SW620細胞を24ウェルプレート(10/ウェル)に接種し、一晩培養した。SW620をMOI=3に従ってCEA発現レンチウイルスに感染させ、感染の24時間後にピューロマイシンを添加して1μg/mlの最終濃度にした。細胞をピューロマイシンでスクリーニングしてモノクローンを得た。CEAの発現がFACSにより検出された。結果を図1に示す。
表3:
【表3】
【0071】
例4a:FM4一本鎖抗体及びCEA抗体を用いた腫瘍試料でのCEA発現の検出
患者の胃癌腫瘍組織の試料を流動パラフィンに包埋して凍結し、切片をスライドガラスに固定した。キシレンで脱蝋した後、クエン酸緩衝液を用いて抗原の回収を行った。修復した試料をPBS緩衝液に入れた5%FBSで30分間ブロックし、本発明のFM4一本鎖抗体又はCEA抗体(クローンCB30)(ebioscience、カタログ番号14-0669-82)2μg/mlを4℃の冷蔵庫に一晩加えた。組織のスライドをPBSで3回洗浄し、二次抗体を加えて発色させた。
【0072】
FM4一本鎖抗体は(表4に示すように)相対的に高い感度及び組織特異性を示した。
表4:
【表4】
【0073】
例5:グリコシル化CEA陽性細胞に対するCAR-Tの特異性に関する研究
CAR-Tがグリコシル化CEA陽性細胞(低レベルの抗原の発現を伴うLoVo、KATO3、クリプト、及びSW620-CEA)における特異的な機能を特異的に認識し産生するかどうかを調べるために、本研究室は、標的細胞と共に同時培養をした後、同様の感染効率で、対照としてCARウイルスに感染していないTリンパ球を用いて、4つの構築されたCAR-T、すなわちFM2(VL→VH)-BBz、FM4(VL→VH)-BBz、FM5(VL→VH)-BBz、及びFM6(VL→VH)-BBz(配列番号80、配列番号84、配列番号86、配列番号88)の特異的なサイトカインの放出及び標的の細胞特異的な死滅を検出した。
【0074】
1.CAR-T感染効率のフローの検出
EGFPタンパク質とCARタンパク質がCAR-T細胞において同時発現されたので、フローサイトメトリーによって検出されたEGFP陽性細胞の割合で、CAR陽性細胞を表すことができる。CARウイルスに感染していないT細胞を対照として使用し、試験結果を以下の表に示した(表5)。
表5:
【表5】
【0075】
2.CAR-Tと標的細胞との相互作用後のサイトカイン分泌レベル
標的細胞は、SW620、SW620-CEA、LoVo、及びKATO3細胞であった。エフェクター細胞は表5に記載の5つの細胞であり、サイトカインの分泌はCARウイルスの感染の10日後に検出された。
【0076】
方法は以下の通りであった:1×10の標的細胞を100μlのRPMI 1640+2%FBS培地で1:1の比でエフェクター細胞と別々に混合し、37℃、5%COインキュベータで約16時間インキュベートした。16時間後、200gで5分間遠心分離を行い、上清を採取して上清のサイトカインの分泌レベルを測定した。サイトカインの含有量は、BD社製のHU TH1-TH2 CBA KITにより測定した。測定のメカニズムは、反応溶液の中のサイトカインが、対応するビーズの抗体に結合することができ、各サイトカインに対応するビーズが、異なる強度のAPC蛍光標識を有するというものであった。サイトカインがビーズに結合した後、ビーズに結合したサイトカインを別のPE蛍光標識抗体でさらに標識し、サイトカインの含有量を、PEの蛍光強度を測定することによって判定し、異なるサイトカインの種をAPCの蛍光の強度の差により識別した。本研究では、3つのサイトカイン、すなわちIL-2、IFN-γ及びTNF-αの分泌レベルが検出された。具体的な試験方法はキットの説明書を参照した。検査結果はFCAP Array v3ソフトウェアで分析し、その結果を図2図3図4図5図6、及び図7に示している。
【0077】
結果は、IL-2、TNF-α、IFN-γ及び他のサイトカインが、FM2(VH→VL)-BBz及びFM4(VH→VL)-BBzが標的細胞と相互作用した後に顕著に増加することを示した。
【0078】
3.標的細胞とCAR-Tの相互作用後の標的細胞に対するインビトロの死滅毒性
グリコシル化CEA陽性標的細胞に対するCAR-Tの死滅作用を検証するために、低レベルの抗原の発現を伴う抗原発現陽性細胞LoVo、KATO3及びクリプト、並びにSW620-CEAを、本研究で使用した。使用したキットは、Cytotox96非放射性細胞毒性アッセイキット(Promega)であった。この方法のメカニズムは、従来型の放射性元素が、細胞において安定して発現されて分泌されない乳酸脱水素酵素(LDH)で置き換えられ、細胞のアポトーシスが起こると、LDHは細胞外に放出され、LDHにより酸化されたホルマザンの含有量を検出して、上清の酵素のレベルを判定し、それによってアポトーシスのレベルを判定するというものであった。エフェクター細胞はFM4(VH→VL)-28zであり、標的細胞に対するエフェクター細胞の比はそれぞれ1:2、1:5、1:10、1:20、1:30であった。標的細胞の数は10,000細胞/ウェルであり、各群に2つの補助的なウェルを設置しており、検出した時間は相互作用の4時間後であった。
【0079】
これらのうち、実験群及び対照群をそれぞれ以下のように設定した。
実験群:標的細胞及び異なる標的細胞に対して異なる比率のエフェクター細胞を伴うCAR-T細胞。
対照群1:標的細胞の中で最大のLDH放出をする群。
対照群2:標的細胞の中でLDHを自発的に放出する群。
対照群3:エフェクター細胞の中で自発的な放出をする群。
【0080】
具体的な実験方法はキットの説明書を参照した。細胞傷害性は以下の式によって計算した。
特異的溶解=(実験群-対照群2-対照群3)/(対照群1-対照群2)。
【0081】
結果は、FM4(VH→VL)‐28zがLoVo、KATO3及びクリプト細胞に対して強い死滅作用を有するが、SW620-CEAにはほとんど死滅作用を与えないことを示した。関連する結果を図8及び図9に示す。
【0082】
本研究は、FM4(VH→VL)-28zがグリコシル化CEA抗原を特異的に認識し、グリコシル化度がより低いCEA抗原に対する感受性が低いことを実証する。
【0083】
例6:グリコシル化CEA陽性PDX腫瘍モデルに対するCAR-Tの効果
NCGマウス(南京大学のモデル生物学研究所から購入)に、グリコシル化CEA抗原陽性の患者由来の腫瘍細胞を皮下注射した。患者の腫瘍組織を摘出した後、表面の結合組織と血管を除去した。腫瘍の塊を正中線に沿って切断し、壊死した組織、石灰化した大きな箇所、及び分泌物を除去し、慎重に洗浄した後、質と強靭性が良好な腫瘍組織を、新鮮な氷冷RPMI-1640培地に移した。腫瘍組織を約3×3mmの小さな腫瘍の塊に切断し、NSGマウスの片側に移植した。腫瘍の体積の平均が160~180mmに達したとき、モデルの動物にエフェクター細胞を腫瘍内注射した。
【0084】
本研究で使用されたエフェクター細胞はFM4(VH→VL)-BBzであり、対照群はCAR及び等量のPBSでトランスフェクトされていないT細胞であった。注射の前に、エフェクター細胞をPBSで2回洗浄し、それぞれ3E7/ml及び1E8/mlに達するようにPBSにおいて再懸濁し、それぞれ低用量群及び高用量群として記録した。各マウスに30μlのエフェクター細胞/PBSを腫瘍内注射した。
【0085】
本研究の調査内容は次の通りである。
マウスの体重及び腫瘍の体積/3日/時間、
マウスの末梢血のサイトカインの検出/7日/時間、
マウスの末梢血のCARコピー数/7日/時間。
【0086】
腫瘍の体積の結果を図10に示す。CAR-Tの注射後4日目から、FM4(VH→VL)-BBz高用量群の腫瘍の体積は減少し始めたが、空のT細胞群及びPBS群は減少傾向を示さなかった。これは、CAR-Tが、グリコシル化CEA陽性の腫瘍に対して有意な抑制効果を有することを示している。CAR-Tの注射後、空のT細胞群及びPBS対照群と比較して、CAR-Tを注射したマウスの体重に有意差はなかった。
【0087】
末梢血のサイトカインの分泌傾向を図11に示す。CAR-T注射群では、末梢血で様々なヒトサイトカイン(IL-2、TNF-α、IFN-γ)の分泌が検出され、腫瘍の体積の減少とともに、サイトカインの分泌量は徐々に減少した。これは、CAR-Tが腫瘍細胞に対して有意な活性化応答を生じることを証明した。
【0088】
例6a:マウスの腫瘍モデル
NSGマウス(NOD scid IL2Rγnull)に、1E7/マウスのLovo細胞(CCL229、ATCC)を皮下接種して、200mm~300mmの体積の腫瘍を形成した。腫瘍に対照としてのPBMC及びFM4(VH→VL)-BBzを注射した。具体的な群は以下の通りである。
【表6】
【0089】
PBMC又はFM4BBzのT細胞を輸血したNSGマウスを、尾静脈から40μl(3日目及び7日目)採血し、試料を等量のPBSに再懸濁し、遠心分離し、上清をサイトカイン放出アッセイ(BD Cytometric Bead Array)用に使用した。結果を図14に示す。
【0090】
図14に示すように、IFNγは、高用量又は低用量のFM4BBz輸血群両方において、末梢血で検出され、FM4BBzは腫瘍細胞と接触してサイトカインの放出を引き起こしたが、対照群においてはPBMCはサイトカインの放出を誘導しなかった(FM4BBzH/L対PBMC群、p値<0.001)。腫瘍の体積を週に2回、35日間測定した。腫瘍増殖曲線を図15に示す。
【0091】
図15に示すように、高用量及び低用量のFM4BBz群の両方が腫瘍の増殖に対して有意な阻害を示しており、これはFM4BBzが腫瘍を死滅させる効果を有することを示唆している。
【0092】
例7:FM4(VH→VL)-BBzレンチウイルスによるNK92細胞の感染
NK92細胞を、20%FBS、150IU/mlのhIL-2を含有する1640培地で培養した。例3の方法に従って、NK92細胞株にFM4(VH→VL)-BBz CARウイルスを感染させ、10日間継続して培養した。FM4(VH→VL)-BBz-NK92細胞を、死滅実験及びサイトカイン放出アッセイに使用した。結果を図12及び図13に示す。
【0093】
例8:抗体-細胞結合アッセイ
抗体FM2、FM4、FM5、及びFM6を、1%BSAを含有するPBS緩衝液で希釈し、SW620-CEA又はクリプト細胞(最終的な濃度:50μg/ml、5μg/ml、0.5μg/ml、0.05μg/ml、0.005μg/ml、0.0005μg/ml)を室温で1時間インキュベートした。細胞を、1%BSAを含有するPBS緩衝液で2回洗浄し、次いでヤギ抗マウスIgG-APCと共に1時間インキュベートした。細胞を、1%BSAを含有するPBS緩衝液で2回洗浄し、PBS緩衝液中に再懸濁した。細胞のAPC蛍光値はBD Accuri C6 FACSを用いて読み取った。
【0094】
縦の座標として蛍光強度の中央値(MFI)を、横の座標として抗体の濃度(μg/ml)を用いて、抗体結合EC50を計算するために、ロジスティック方程式を用いてS曲線を適合させた。結果を以下の表に示す。
表6:
【表7】
【0095】
結論:
SW620-CEAは、SW620細胞株(CEACAM5)において過剰発現されるCEAであり、そのCEAの表面は非グリコシル化状態にある。クリプトはグリコシル化CEAを発現する腫瘍細胞株である。
【0096】
抗体-細胞結合アッセイに従って計算された抗体のEC50値から、抗体FM4はグリコシル化CEAに特異的に結合し、高い特異性(選択性>100倍)を有すると結論付けることができる。
【配列表フリーテキスト】
【0097】
配列表1~180 <223>合成
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