(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】打音の低減された熱可塑性樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 279/02 20060101AFI20221216BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20221216BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20221216BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C08F279/02
C08L51/04
C08L23/16
C08L25/12
(21)【出願番号】P 2019539457
(86)(22)【出願日】2018-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2018031381
(87)【国際公開番号】W WO2019044709
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2017164766
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】野村 博幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 成季
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-158841(JP,A)
【文献】特開平05-331246(JP,A)
【文献】特開2002-37974(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146743(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 279/02
C08L 51/04
C08L 23/16
C08L 25/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質部分(a1)と樹脂部分(a2)とを有するゴム強化樹脂(A)から少なくとも構成される熱可塑性樹脂組成物であって、
前記ゴム強化樹脂(A)は、前記樹脂部分(a2)の少なくとも一部が前記ゴム質部分(a1)にグラフト重合しており、
前記ゴム強化樹脂(A)は、下記ゴム質部分(a1-1)と芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)と、下記ゴム質部分(a1-2)と芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A2)とを含み、
前記ゴム強化樹脂(A)中の前記ゴム質部分(a1)の含有量は、前記ゴム強化樹脂(A)全体100質量%に対して3~80質量%であり、
前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)及び前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A2)のグラフト率は10~150%であり、 前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)の使用量は、前記熱可塑性樹脂組成物全体100質量%に対して0.1~40質量%であり、
下記の条件で測定した場合に、20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値が3.0Pa/N以下である熱可塑性樹脂組成物。
ゴム質部分(a1-1): 芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を備え、数平均分子量が2500~40000であるブロック(I)と、イソプレンまたはイソプレン及びブタジエンに由来する構造単位を備え、0℃以上にtanδの主分散のピークを有し、3,4結合及び1,2結合の含有量が40%以上であり、数平均分子量が10000~200000であるブロック(II)とを含む、数平均分子量が30000~300000のブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分。
ゴム質部分(a1-2):エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体に由来するゴム質部分。
測定条件:
縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央をステンレス製のハンマーで20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置した音圧マイクロホンで集音して求めた音圧の周波数スペクトルに基づいて測定。
【請求項2】
前記音圧の最大値を与える周波数が20~9,000Hzまたは14,000~19,000Hzの範囲に存在する請求項1に記載の熱可塑性組成物。
【請求項3】
ジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ測定装置SSP-02を使用して測定される異音リスク値が、以下の測定条件において3以下である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
測定条件:
縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片を用意し、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒、振幅20mmで3回、前者の試験片の面と後者の試験片の面とを擦り合わせて測定。
【請求項4】
前記ゴム質部分(a1)が、さらに、ジエン系ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1-3)を含む、請求項
1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ゴム強化樹脂(A)は、
前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)と、
前記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A2)と、ジエン系ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1-3)と芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A3)とからなる、請求項
4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ゴム含量が5~60質量%である、請求項1乃至
5の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6の何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い剛性を備えるだけでなく、打音の発生が抑制された成形品を提供し得る熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂などのゴム強化樹脂は、その優れた機械的性質、耐熱性、成形性により自動車内装部品等の車両部品の成形材料として広範囲に使用されている。
【0003】
樹脂で車両部品を成形する場合、一定以上の機械的強度を充足するだけでなく、車両室内での居住性の関係から、部品から発生する騒音を低下させ、車両の静粛性を向上させることが一層求められている。
【0004】
従来、ゴム成分としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体を用いたゴム強化樹脂で自動車内装部品を成形することで、機械的強度を一定水準に維持しつつ、部品同士が接触することにより発生する軋み音を防止することは既に行われている(特許文献1)が、「ラトル(rattle)」と呼ばれる打音のような騒音を抑制することについては未解決であった。
【0005】
一方、従来、難燃性ゴム強化樹脂にエラストマー性ブロック重合体を配合することにより制振性を付与することが行われている(特許文献2~4)が、片持ち梁共振法によって、25℃での2次共振周波数における損失係数を評価しているに過ぎず、打音のような騒音を抑制することについては何ら検討していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-112812号公報
【文献】特開2001-158841号公報
【文献】特開平3-45646号公報
【文献】特開平8-3249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、車両部品等に求められる機械的強度を充足するために一定以上の剛性を発現するように樹脂を改良した場合、樹脂成形品から発生する打音が目立つようになることを見出した。
そこで、本発明の目的は、打音の発生が抑制された成形品であって、好ましくは高い剛性を備えたものを提供し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の打音低減材を熱可塑性樹脂組成物に配合して、樹脂成形品の打音の周波数スペクトルの最大音圧を低下させることで、樹脂成形品から発生する打音を抑制でき、所望により樹脂成形品の剛性を一定水準に維持することもできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明の一局面によれば、ゴム質部分(a1)と樹脂部分(a2)とを有するゴム強化樹脂(A)から少なくとも構成される熱可塑性樹脂組成物であって、
前記ゴム質部分(a1)は、芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を備えたブロック(I)と、イソプレンまたはイソプレン及びブタジエンに由来する構造単位を備え、0℃以上にtanδの主分散のピークを有するブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)を含み、
前記樹脂部分(a2)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含み、
下記の条件で測定した場合に、20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値が3.0Pa/N以下である熱可塑性樹脂組成物が提供される。
測定条件:
縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央をステンレス製のハンマーで20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置した音圧マイクロホンで集音して求めた音圧の周波数スペクトルに基づいて測定。
【0010】
また、本発明の他の局面によれば、芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を備えたブロック(I)と、イソプレンまたはイソプレン及びブタジエンに由来する構造単位を備え、0℃以上にtanδの主分散のピークを有するブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)と、芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)からなる、熱可塑性樹脂組成物用の打音低減材が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂組成物の剛性やきしみ音の発生と打音の発生は必ずしも連動したものではないことが明らかとなった。かくして、この知見に基づき、熱可塑性樹脂組成物に特定の打音低減材を配合して、樹脂成形品の打音の20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値を3.0Pa/N以下に維持した場合、打音の耳障りな成分を目立たなくすることができ、好ましくは、樹脂成形品の剛性を一定水準以上に維持することが可能となった。本発明の打音低減材を添加していない熱可塑性樹脂組成物の場合、上記測定条件下で得られた音圧の周波数スペクトルは9,000Hz及び19,000Hzのそれぞれをやや超えた周波数で2つの顕著なピークを示し、何れか一方のピークが音圧の最大値を与える。ここで、上記周波数19,000Hz付近のピークは上記周波数9,000Hz付近のピークの倍音として現れるものと考えられる。これに対し、本発明の打音低減材を添加した熱可塑性樹脂組成物の場合、上記測定条件下で得られた音圧の周波数スペクトルの2つの顕著なピークが低周波側にシフトし、これが打音の耳障りな成分を目立たなくする一因となっていると考えられる。したがって、本発明において、前記音圧の最大値を与える周波数は20~9,000Hzまたは14,000~19,000Hzの範囲に存在することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明において打音の測定に使用した試験片を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、JIS K 7121-1987に準じて測定した融点(本明細書において、「Tm」と表記することもある)は、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値である。
【0014】
1.本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)
本発明の熱可塑性樹脂組成物(本明細書では「成分(X)」ともいう)は、ゴム質部分(a1)として、上記ブロック(I)とブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)を備えているゴム強化樹脂(A)を含んでいればよく、ゴム強化樹脂(A)のみから構成されてもよく、または、ゴム強化樹脂(A)と他の熱可塑性樹脂(B)との混合物から構成されてもよい。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、例えば、熱可塑性樹脂(B)に上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)を打音低減材として配合することによって得られる。この場合、熱可塑性樹脂組成物(X)のゴム質部分(a1)を構成する前記ゴム質部分(a1-1)は、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)に由来するものであるため、打音の低減等の本発明の効果を達成することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)において、ゴム強化樹脂(A)は、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)以外に、他のゴム強化樹脂を含んでもよい。他のゴム強化樹脂としては、例えば、ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂、非ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)に配合できる他の熱可塑性樹脂(B)の例としては、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。
【0016】
前記ゴム強化樹脂(A)としては、とりわけ、ジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ測定装置SSP-02を使用して測定される異音リスク値が、以下の測定条件において3以下を示すものが好ましい。
測定条件:
縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片を用意し、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒、振幅20mmで3回、前者の試験片の面と後者の試験片の面とを擦り合わせて測定。
異音リスク値は、ドイツ自動車工業会(VDA)規格準拠の仕様にて、同一の材質で接触部材を作製した時のスティックスリップ異音発生リスクを10段階の指数で示したものであり、上記異音レベルが3以下なら合格とされている。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)に含まれる前記ゴム強化樹脂(A)だけでなく、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)自体が、上記異音リスク値3以下を示すものである場合、打音の発生だけでなく、きしみ音の発生も抑制できるので、音響的に高品質の成形品を提供することができる。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、耐衝撃性等の機械的特性、及び、打音やきしみ音等の音響特性の観点から、熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%とした場合に、ゴム含量が5~60質量%であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物(X)が結晶性を有すると、又は、結晶性を有する成分を含有すると、きしみ音の発生を抑制する効果がさらに優れて好ましい。具体的には、熱可塑性樹脂組成物(X)は、JIS K 7121-1987に準じて測定した融点が0~120℃の範囲にあることが好ましく、10~90℃の範囲がより好ましく、20~80℃の範囲がさらにより好ましい。尚、上記のように、融点(Tm)は、JIS K 7121-1987に準じて得られるが、0~120℃の範囲における吸熱パターンのピークの数は、一つに限定されず、二つ以上でもよい。また、0~120℃の範囲に見られるTm(融点)は、ゴム強化樹脂(A)、特にゴム質部分に由来するものであってよく、または、ゴム強化樹脂(A)に関連して下記する添加剤、例えば、数平均分子量が10,000以下といった低分子量のポリオレフィンワックス等の摺動性付与剤に由来するものであってもよい。なお、該摺動性付与剤は、ゴム強化樹脂(A)に添加されたものであっても、熱可塑性樹脂組成物(X)に直接添加されたものであってもよい。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、高い機械的強度を保持していることが好ましい。したがって、熱可塑性樹脂組成物(X)は、荷重たわみ温度(1.8MPa)が70℃以上であることが好ましく、ロックウェル硬さが98以上であることが好ましく、引張強度が35MPa以上であることが好ましく、曲げ強度が45MPa以上であることが好ましい。
【0020】
1-1.ゴム強化樹脂(A)
ゴム強化樹脂(A)は、打音低減材として機能する上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)のみから構成されてもよいが、通常、上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)と、ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂、非ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂等の他のゴム強化樹脂との混合物から構成される。
ゴム強化樹脂(A)は、上記熱可塑性樹脂組成物(X)が有するきしみ音等の異音の発生を抑制する機能をさらに優れたものとするため、結晶性を有することが好ましい。具体的には、JIS K 7121-1987に準じて測定した上記熱可塑性樹脂組成物(X)の融点が0~120℃の範囲にあることが好ましく、10~90℃の範囲がより好ましく、20~80℃の範囲がさらにより好ましい。
【0021】
ゴム強化樹脂(A)は、ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1)とビニル系単量体に由来する構成単位を含む樹脂部分(a2)とを有する。ゴム質部分(a1)は樹脂部分(a2)がグラフト重合などにより結合したグラフト共重合体を形成していることが好ましい。換言すれば、ゴム強化樹脂(A)において、樹脂部分(a2)の少なくとも一部がゴム質部分(a1)にグラフト重合などにより結合していることが好ましい。したがって、ゴム強化樹脂は、上記グラフト共重合体と、ゴム質部分(a1)にグラフト重合していない樹脂部分(a2)を構成する(共)重合体とから少なくとも構成されることが好ましく、さらに、樹脂部分(a2)がグラフトしていないゴム質部分(a1)、又は、添加剤等のその他の成分を含んでもよい。
【0022】
1-2.ゴム強化樹脂(A)のゴム質部分(a1)
上記ゴム質部分(a1)は、25℃でゴム質(ゴム弾性を有する)であれば、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。また、上記ゴム質部分(a1)は、上記ブロック(I)と上記ブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)から少なくとも構成されている必要があるが、これに加えて、上記ブロック共重合体またはその水素添加物以外のゴム質重合体に由来する他のゴム質部分を備えていてもよい。他のゴム質部分としては、例えば、非ジエン系重合体(以下、「非ジエン系ゴム」という)に由来するゴム質部分(a1-2)、ジエン系重合体(以下、「ジエン系ゴム」という)に由来するゴム質部分(a1-3)が挙げられる。また、これらの重合体は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。このうち、本発明においては、耐衝撃性、剛性等の機械的強度向上の点から、上記ゴム質部分(a1)の少なくとも一部がジエン系ゴムに由来するゴム質部分(a1-3)から構成されることが好ましい。また、打音やきしみ音等の異音の抑制効果の点から、上記ゴム質部分(a1)の少なくとも一部が非ジエン系ゴムに由来するゴム質部分(a1-2)から構成されることが好ましく、上記ゴム質部分(a1)が、上記ブロック(I)と上記ブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)と非ジエン系ゴムに由来するゴム質部分(a1-2)とから構成されることが特に好ましい。
【0023】
ゴム質部分(a1-1)を構成するゴム質重合体としては、芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を備えたブロック(I)と、イソプレンまたはイソプレン及びブタジエンに由来する構造単位を備え、0℃以上にtanδの主分散のピークを有するブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物が使用される。
【0024】
上記ブロック(I)を構成する芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましい。
【0025】
上記ブロック(II)のtanδの主分散のピークは、0℃以上であることが必要であるが、好ましくは5℃以上であり、より好ましくは10℃以上である。tanδの主分散のピークは、粘弾性測定装置〔東洋ボールドウイン(株)製、DDV III EP〕を用い、周波数11Hz、測定温度-110℃~+100℃、昇温速度2℃/minで測定して求めることができる。上記ブロック(II)の3,4結合及び1,2結合含有量は、好ましくは40%以上であり、より好ましく50%以上であり、さらにより好ましくは60~98%である。
【0026】
上記ブロック(I)の数平均分子量は好ましくは2500~40000であり、より好ましくは3500~35000であり、さらにより好ましくは4000~30000である。上記ブロック(II)の数平均分子量は好ましくは10000~200000であり、より好ましくは20000~180000であり、さらにより好ましくは25000~150000である。前記ブロック共重合体の全体の数平均分子量は好ましくは30000~300000であり、より好ましくは40000~270000であり、さらにより好ましくは50000~250000である。
【0027】
ゴム質部分(a1-2)を構成する非ジエン系ゴムとしては、エチレン・α-オレフィン系ゴム;ウレタン系ゴム;アクリル系ゴム;シリコーンゴム;シリコーン・アクリル系IPNゴム;共役ジエン系化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体を水素添加してなる水素添加重合体(但し、水素添加率は50%以上で、上記ブロック共重体は除く)等が挙げられる。この水素添加重合体は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0028】
本発明においては、打音やきしみ音等の異音の抑制効果の点から、上記非ジエン系ゴムとして、エチレン・α-オレフィン系ゴムを使用することが好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴムは、エチレンに由来する構造単位と、α-オレフィンに由来する構造単位とを含む共重合体ゴムである。α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。α-オレフィンの炭素原子数は、耐衝撃性の観点から、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、更に好ましくは3~8である。エチレン・α-オレフィン系ゴムにおけるエチレン:α-オレフィンの質量比は、通常5~95:95~5、好ましくは50~95:50~5、より好ましくは60~95:40~5である。エチレン:α-オレフィンの質量比が上記範囲にあると、得られる成形品の耐衝撃性がさらに優れて、好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴムは、必要に応じて、非共役ジエンに由来する構造単位を含んでもよい。非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類が挙げられ、好ましくは5-エチリデン-2-ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。非共役ジエンに由来する構造単位の、非ジエン系ゴム全体に対する割合は、通常0~10質量%、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~3質量%である。
【0029】
本発明においては、エチレン・α-オレフィン系ゴムとして、融点(Tm)が0~120℃のものを使用することが好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴムのTm(融点)は、より好ましくは10~90℃、さらにより好ましくは20~80℃である。エチレン・α-オレフィン系ゴムが融点(Tm)を有するということは、該ゴムが結晶性を有することを意味する。したがって、かかる融点(Tm)を備えるエチレン・α-オレフィン系ゴムを使用することで、上記熱可塑性樹脂組成物(X)に0~120℃の範囲で融点を発現させ、打音やきしみ音等の異音抑制効果をさらに優れたものとすることができる。ゴム強化樹脂(A)がかかる結晶性を有すると、スティックスリップ現象の発生が抑制されるため、その成形品と他の物品とが動的に接触した場合、きしみ音等の異音の発生が抑制されると考えられる。尚、スティックスリップ現象は、特開2011-174029公報等に開示されている。
【0030】
エチレン・α-オレフィン系ゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃;JIS K 6300-1に準拠)は、通常5~80、好ましくは10~65、より好ましくは10~45である。ムーニー粘度が上記範囲にあると、成形性が優れる他、成形品の衝撃強度及び外観がさらに優れて、好ましい。
【0031】
エチレン・α-オレフィン系ゴムは、打音、軋み音等の異音発生の低減の観点から、非共役ジエン成分を含有しないエチレン・α-オレフィン共重合体が好ましく、これらのうち、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体がさらに好ましく、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0032】
ゴム質部分(a1-3)を構成するジエン系ゴムとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。該ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
【0033】
ゴム強化樹脂(A)のゴム質部分(a1)は、剛性等の機械的強度の観点から、上記非ジエン系ゴムに由来するゴム質部分(a1-2)に加えて、ジエン系ゴムに由来するゴム質部分(a1-3)から構成されることが好ましい。この場合、熱可塑性樹脂組成物(X)の成形性及び耐衝撃性、並びに、得られる成形品の外観がさらに十分なものとなる。
【0034】
本発明において、ゴム強化樹脂(A)中のゴム質部分(a1)の含有量即ちゴム含量は、ゴム強化樹脂(A)全体100質量%に対して、好ましくは3~80質量%、より好ましくは3~75質量%、さらに好ましくは4~70質量%、さらに好ましくは5~70質量%、特に好ましくは7~65質量%である。ゴム含量が前記範囲にあると、熱可塑性樹脂組成物(X)の耐衝撃性、打音やきしみ音等の異音の低減効果、寸法安定性、及び成形性等がさらに優れて好ましい。
【0035】
1-3.ゴム強化樹脂(A)の樹脂部分(a2)
ゴム強化樹脂(A)の樹脂部分(a2)は、ビニル系単量体に由来する構造単位からなり、芳香族ビニル化合物を必須成分として含み、芳香族ビニル化合物と該芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物とから構成されてもよい。上記芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましい。
【0036】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としては、好ましくは、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種が使用でき、さらに必要に応じて、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体も使用することができる。かかる他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられ、これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0038】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0039】
上記マレイミド系化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
上記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
ゴム強化樹脂(A)中の上記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の下限値は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物に由来する構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
【0044】
ゴム強化樹脂(A)の樹脂部分(a2)が構造単位として、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、通常40~90質量%であり、好ましくは55~85質量%であり、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、10~60質量%であり、好ましくは15~45質量%である。
【0045】
1-4.ゴム強化樹脂(A)の製造方法
ゴム強化樹脂(A)は、例えば、上記ゴム質部分を構成する各種ゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル系化合物を含むビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造することができる。この製造方法における重合方法は、上記グラフト共重合体が得られる限り特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法とすることができる。これらの重合方法では、公知の重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を適宜使用することができる。
【0046】
上記製造方法では、通常、ビニル系単量体同士の(共)重合体がゴム質重合体にグラフト重合したグラフト共重合体と、ゴム質重合体にグラフト重合していないビニル系単量体同士の(共)重合体との混合生成物が得られる。場合により、上記混合生成物は、該(共)重合体がグラフト重合していないゴム質重合体を含むこともある。ゴム強化樹脂(A)は、ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1)とビニル系単量体に由来する構成単位を有する樹脂部分(a2)とからなり、ゴム質部分(a1)は樹脂部分(a2)がグラフト重合したグラフト共重合体を形成していることが好ましいので、上記のようにして製造されたグラフト共重合体と(共)重合体との混合生成物を、ゴム強化樹脂(A)としてそのまま使用することができる。
【0047】
ゴム強化樹脂(A)は、ゴム質重合体(a)の不存在下に、ビニル系単量体を重合することにより製造した(共)重合体(A’)を添加されたものであってもよい。この(共)重合体(A’)は、ゴム強化樹脂(A)に添加されると、ゴム質部分(a1)にグラフト重合していない樹脂部分(a2)を構成することになる。
【0048】
上記のとおり、本発明で用いるゴム強化樹脂(A)は、ゴム質部分(a1)が上記ブロック(I)と上記ブロック(II)とを含むブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)と、非ジエン系ゴムに由来するゴム質部分(a1-2)及び/又はジエン系ゴムに由来するゴム質部分(a1-3)とから構成されてもよい。このような複数のゴムを含有するゴム強化樹脂(A)の製造方法としては、例えば、上記ブロック共重合体またはその水素添加物に加えて非ジエン系ゴム及び/又はジエン系ゴムを含有するゴム質重合体(a)の存在下にビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造する方法が挙げられる。その他の製造方法としては、前記ブロック共重合体またはその水素添加物に由来するゴム質部分(a1-1)と芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)と、非ジエン系ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1-2)と芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A2)及び/又はジエン系ゴム質重合体に由来するゴム質部分(a1-3)と芳香族ビニル系化合物に由来する構造単位を含む樹脂部分(a2)とを有するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A3)とを溶融混練等の方法で混合する方法が挙げられる。
【0049】
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)は、前記ブロック共重合体またはその水素添加物の存在下に、芳香族ビニル系化合物を含むビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造することができる。上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A2)は、非ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル系化合物を含むビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造することができる。上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A3)は、ジエン系ゴムの存在下に、芳香族ビニル系化合物を含むビニル系単量体(b)をグラフト重合して製造することができる。
【0050】
ゴム強化樹脂(A)のグラフト率は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)~(A3)の何れの場合も、通常10~150%、好ましくは15~120%、より好ましくは20~100%、特に好ましくは20~80%である。ゴム強化樹脂(A)のグラフト率が前記範囲にあると、本発明の成形品の耐衝撃性がさらに良好となる。
【0051】
グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S-T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sはゴム強化樹脂(A)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tはゴム強化樹脂(A)1グラムに含まれるゴム質部分(a1)の質量(g)である。このゴム質部分(a1)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法の他、赤外分光分析、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等により求めることができる。
【0052】
グラフト率は、例えばゴム強化樹脂(A)を製造する際のグラフト重合で用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるゴム強化樹脂(A)のアセトンに可溶な成分(以下、「アセトン可溶分」ともいう)の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.05~0.9dl/g、好ましくは0.07~0.8dl/g、より好ましくは0.1~0.7dl/gである。極限粘度が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより良好となる。
【0054】
極限粘度[η]の測定は下記方法で行うことができる。まず、ゴム強化樹脂(A)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
【0055】
極限粘度[η]は、例えば、ゴム強化樹脂(A)をグラフト重合する際に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、ゴム強化樹脂(A)に、このアセトン可溶分の極限粘度[η]と異なる極限粘度[η]を備える(共)重合体(A’)を混合して調整することができる。
【0056】
ゴム強化樹脂(A)は、摺動性付与剤及びその他の添加剤を含んでもよい。摺動性付与剤は、熱可塑性樹脂組成物(X)に摺動性を付与して本発明の成形品からなる物品の組み立てを容易にするだけでなく、使用時に本発明の成形品からなる物品から軋み音等の異音が発生するのを抑制する効果を付与することができる。摺動性付与剤の代表例としては、特開2011-137066号公報に記載されるような低分子量酸化ポリエチレン(c1)、超高分子量ポリエチレン(c2)、ポリテトラフルオロエチレン(c3)や、低分子量(例えば、数平均分子量10,000以下)ポリオレフィンワックス、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0057】
ポリオレフィンワックスとしては、融点が0~120℃に存在するポリエチレンワックス等が好ましい。また、このような融点を有するポリオレフィンワックスや、融点が0~120℃に存在するその他の添加剤をゴム強化樹脂(A)に添加した場合、ゴム強化樹脂(A)のゴム質部分が融点(Tm)を備えていなくても、軋み音等の異音の発生抑制効果を得ることができる。これらの摺動性付与剤は、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの摺動性付与剤の配合量は、ゴム強化樹脂(A)100質量部に対して、通常0.1~10質量部である。
【0058】
また、他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、老化防止剤、充填剤、帯電防止剤、難燃性付与剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、防かび剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、顔料(たとえば、赤外線吸収、反射能力を有する、機能性を付与した顔料も含む。)等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの添加剤の配合量は、ゴム強化樹脂(A)100質量部に対して、通常0.1~30質量部である。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)において打音低減材として機能するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)の使用量は、熱可塑性樹脂組成物(X)全体を100質量%として、好ましくは0.1~40質量%であり、より好ましくは1~35質量%である。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)の使用量が上記範囲にあると、成形品の打音の低減効果と機械的強度とのバランスが良好になる。
【0060】
2.本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)の製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。更に、各々の成分を混練するに際しては、それらの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練したあと、押出機によりペレット化することもできる。溶融混練温度は、通常180~240℃、好ましくは190~230℃である。
【0061】
3.本発明の成形品の製造方法
本発明の成形品は、熱可塑性樹脂組成物(X)を射出成形、プレス成形、シート押出成形、真空成形、異形押出成形、発泡成形、材料押出堆積法、粉末焼結積層造形等の公知の成形法により成形することで製造することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、上記のような優れた性質を有するので、メータバイザー、コンソールボックス、グローブボックス、カップホルダー等の車両内装品、フロントグリル、ホイールキャップ、バンパー、フェンダー、スポイラー、ガーニッシュ、ドアミラー、ラジエターグリル、ノブ等の車両外装品、直管型LEDランプ、電球型LEDランプ、電球型蛍光灯などの照明器具、携帯電話、タブレット端末、炊飯器、冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、掃除機、食器洗浄機、空気清浄機、エアコン、ヒーター、TV、レコーダーなどの家電器具、プリンター、FAX、コピー機、パソコン、プロジェクター等のOA機器、オーディオ器具、オルガン、電子ピアノ等の音響機器、化粧容器のキャップ、電池セル筐体等として使用することができ、特に車両内装品として好ましく使用することができる。
【0062】
また、本発明の成形品は、互いに接触する2つの部品を少なくとも備え、両部品が互いに接触して打音を発生する危険性がある物品の部品として用いることができる。本発明によれば、例えば、互いに接触する2つの部品を少なくとも備え、前記2つの部品の少なくとも一方の部品と接触する他方の部品の部分の少なくとも一部を上記熱可塑性樹脂組成物(X)で形成した物品を提供することができる。換言すれば、本発明によれば、互いに接触する第一の部品と第二の部品とを少なくとも備え、前記第一の部品は、前記第二の部品と接触する部分(特に、前記第一の部品の端面)の少なくとも一部が、上記熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されている物品を提供することができる。この場合、前記第一の部品は、その全体又は前記第二の部品と接触する部分(特に、前記第一の部品の端面)の一部若しくは全部が、前記熱可塑性樹脂組成物(X)で形成されていることが好ましい。上記物品は、前記第一及び第二の部品が上記のように互いに接触するものであればよいが、特に、両部品がスナップフィット、螺合等により凹凸部を介して接触する物品、または、両部品が隙間をおいて隣接しているが振動等により間欠的に接触する物品に好適に使用することができる。なお、前記第一の部品が接触する第二の部品は、前記熱可塑性樹脂組成物(X)で成形された部品であってもよく、また、前記熱可塑性樹脂組成物(X)以外の樹脂で成形された部品や金属のような他の材料でできた部品であってもよい。前記熱可塑性樹脂組成物(X)以外の樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ABS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート/ABSアロイ、ナイロン樹脂、ナイロン/ABSアロイ, PET樹脂,PET/ABSアロイ,PBT/ABSアロイ,熱可塑性エラストマー,熱硬化性エラストマー等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
【0064】
1.原料〔P〕
打音低減材として使用するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)として、下記の合成例1-1で得られた原料P1を用いた。
【0065】
1-1.合成例1-1(原料P1(打音低減材)の合成)
エラストマーとして、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)ブロック共重合体「ハイブラー5127」(商品名、クラレ社製、スチレン含量20%、ガラス転移温度(Tg)8℃、tanδの主分散のピーク温度25℃、3,4結合及び1,2結合含有量95%)を用意した。
リボン型攪拌機翼を備えた内容積10リットルのステンレス製オートクレーブに予め均一溶液にした上記エラストマー30部、スチレン51部、アクリロニトリル19部、トルエン120部およびtert-ドデシルメルカプタン0.1部を仕込み、攪拌しながら昇温し50℃にて、ベンゾイルパーオキサイド0.5部、ジクミルパーオキサイド0.1部を添加し、更に昇温し、80℃に達した後は80℃に一定に制御しながら攪拌回転数を200rpmにて重合反応を行わせた。反応終了後2,2-メチレン-ビス-4-メチル-6-t-ブチルフェノール0.2部を添加したのち、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し細かく粉砕した後、40mmベント付き押出機(220℃、700mmHg真空)にて実質的に揮発分を留去するとともにゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)をペレット化した。本ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A1)のグラフト率は55%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.45dl/gであった。
【0066】
2.原料〔Q〕
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A2)及び(A3)として、下記の合成例2-1及び2-2の原料Q1及びQ2を用いた。
【0067】
2-1.合成例2-1(原料Q1(エチレン・プロピレン(EP)ゴム強化芳香族ビニル系樹脂)の合成)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体として、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4 ,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は-50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF-96-100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。得られたエチレン・α-オレフィン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A2)のグラフト率は47%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
【0068】
2-2.合成例2-2(原料Q2(ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂)の合成)
攪拌機付き重合容器に、水280部およびジエン系ゴム質重合体として、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌を続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。その後、得られたラテックスに、2,2′-メチレン-ビス(4-エチレン-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し、塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の樹脂組成物を得た。得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A3)のグラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.38dl/gであった。
【0069】
3.原料〔R〕
ゴム質重合体に由来する部分を含まない熱可塑性樹脂として、下記の原料R1及びR2を用いた。
【0070】
3-1.原料R1(AS樹脂)
アクリロニトリル単位及びスチレン単位の割合が、それぞれ、27%及び73%であり、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)が、0.47dl/gであるアクリロニトリル・スチレン共重合体。ガラス転移温度(Tg)は、103℃であった。
【0071】
3-2.合成例3(原料R2(耐熱性AS樹脂)の合成)
撹拌機付き重合容器に、水250部およびパルミチン酸ナトリウム1.0部を投入し、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら70℃まで加熱した。さらにナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み後、α-メチルスチレン70部、アクリロニトリル25部、スチレン5部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、クメンハイドロパーオキサイド0.2部から成る単量体混合物を、重合温度70℃で連続的に7時間かけて滴下した。滴下終了後、重合温度を75℃にし、1時間撹拌を続けて重合を終了させ、共重合体のラテックスを得た。重合転化率は99%であった。その後、得られたラテックスを塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過および乾燥工程を経てパウダー状の共重合体を得た。得られた共重合体のアセトン可溶分の極限粘度[η]は0.40dl/gであった。
【0072】
4.原料〔S〕
4-1.原料S1(PC樹脂)
三菱エンジニアリングプラスチック社製ポリカーボネート樹脂「NOVAREX 7022J(商品名)」を使用した。
【0073】
実施例1~6及び比較例1~4
1.熱可塑性樹脂組成物の作製
表1に示す原料〔P〕、〔Q〕、〔R〕及び〔S〕を同表に示す配合割合で混合した。その後、二軸押出機(型式名「TEX44、日本製鋼所」)を用いて、250℃で溶融混練してペレット化した。得られた樹脂組成物を用い、下記の測定及び評価に供した。結果を下記表1に示す。なお、実施例1~3及び比較例1~2では、配合助剤として、アデカスタブAO-20(ADEKA社製、1,3,5-tris(3,5-di-tert-butyl-4-hydroxybenzyl)-1,3,5-triazine-2,4,6(1H,3H,5H)-trione)0.1部及びアデカスタブPEP-24G(ADEKA社製、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト)0.2部を配合し、実施例4~6及び比較例3~4では、配合助剤として、アデカスタブ2112(ADEKA社製、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト)0.2部を配合した。
【0074】
2.融点(Tm)
JIS K7121-1987に従い、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度から求めた。
【0075】
3.曲げモジュラス(剛性)
ISO178に従って測定
【0076】
4.荷重たわみ温度
ISO75に従って、1.8MPa荷重条件で測定
【0077】
5.ロックウェル硬さ
ISO2039に従って測定
【0078】
6.引張強度
ISO527に従って測定
【0079】
7.曲げ強度
ISO178に従って測定
【0080】
8.打音の音圧測定
各熱可塑性樹脂組成物を用い、
図1に示すような縦120mm、横60mm、厚さ3mmの矩形本体の上端に上底20mm、下底40mm、高さ8mm、厚さ1.5mmの台形状の突起を備えた形状の一体成形品である試験片を、東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形した。そして、この試験片の前記突起に2本の糸をテープで貼り付けて吊り下げた状態で、前記試験片の一方の面の中央を、打撃力を測定できるPCBピエゾトロニクス社製のステンレス製のハンマー(商品名:086C03)を用いて20±5Nの力で叩いた時の響きを、前記面に対して垂直方向に12cm離して設置したPCBピエゾトロニクス社製の音圧マイクロホン(商品名:378B02)で集音して、オロス社製のフーリエ変換アナライザー(商品名:マルチJOB FFTアナライザ OR34J-4)にて音圧の周波数スペクトルに変換した。得られた周波数スペクトル中の音圧(Pa/N)の最大値とその周波数(Hz)を測定値として用いた。なお、測定は室温23℃の部屋で行った。なお、測定値として得られた音圧(Pa/N)は、測定された打撃力1Nあたりの音圧を意味する。
【0081】
9.打音の減衰
前記打音の音圧測定と同様の操作を行い、オロス社製のフーリエ変換アナライザー(商品名:マルチJOB FFTアナライザ OR34J-4)にて音圧の時間変化を測定した。音の発生から、音圧が最大音圧の1/4の音圧に静まるまでに要する時間を打音の減衰時間として用いた。打音の減衰は、0.01秒よりも短いことが好ましく、0.008秒よりも短いことがより好ましい。
【0082】
10.軋み音評価(異音リスク値)
各熱可塑性樹脂組成物を東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形し、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの射出成形プレートを得た。このプレートから、縦60mm、横100mm、厚さ4mm及び縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片をディスクソーで切り出し、番手#100のサンドペーパーで端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚のプレートを試験片として用いた。
2枚の試験片を80℃±5℃に調整したオーブンで300時間エージングし、25℃で24時間冷却後、大きな試験片と小さな試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP-02に固定し、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒、振幅20mmで3回擦り合わせたときの異音リスク値が最も大きい条件の数値を抽出して測定値とした。異音リスク値が大きいほど軋み音の発生リスクは高くなり、異音リスク値が3以下であれば良好である。
【0083】
【0084】
表1から以下のことがわかる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物〔X〕を用いた実施例1~6は、剛性が高く、かつ、20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値が3.0Pa/N以下であり、また、該音圧の最大値を与える周波数も20~9,000Hzまたは14,000~19,000Hzの範囲であり、さらには、異音リスク値が低く、剛性だけでなく打音及びきしみ音等の音響特性にも優れることが判った。
これに対し、打音低減材を含まない比較例1~4では、剛性が高く、かつ、異音リスク値が低かったが、20~20,000Hzの周波数域の音圧の最大値が3.0Pa/Nを超えており、また、該音圧の最大値を与える周波数も9000Hz超または14,000~19,000Hzの範囲を外れ、打音の減衰も0.008秒以上であり、打音の発生が顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、打音の発生が抑制され、好ましくは高い剛性を備えた成形品を提供する成形材料として好適に応用でき、例えば、自動車内装部品等の車両部品の成形材料として好適に用いることができる。