(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】末梢神経ブロックを実行する方法および装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/08 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
A61N1/08
(21)【出願番号】P 2019560167
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(86)【国際出願番号】 US2018031096
(87)【国際公開番号】W WO2018204789
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-04-25
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521499701
【氏名又は名称】マイルストーン サイエンティフィック インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】ホックマン,マーク,エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】ショケ,オリビエ
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/066732(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/128985(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0053851(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/172
A61N 1/08
A61B 5/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尖った先端を有する針と、
前記針に流体の流れを提供する流体ポンプと、
前記流体ポンプを制御して前記針への前記流体の流れを制御するコントローラと、
前記針内の流体圧を検出するセンサと、
前記針の前記先端で電気神経刺激を提供する導電要素とを備える、末梢神経ブロックを患者に提供するシステムであって、
前記コントローラは、前記センサが第1の閾値を超える流体圧を検出するのに応じて電気
神経刺激の変更を提供するように構成されて
おり、
前記コントローラは、前記センサが第2の閾値を超える流体圧を検出し、かつ前記電気神経刺激により誘発性筋肉応答が示されるのに応じて前記針への前記流体の流れを止めるように構成されている、システム。
【請求項2】
前記コントローラは、提供される前記電気
神経刺激の様々な特性に関するデータを含む複数の印加プロファイルを収納するように構成されており、前記印加プロファイルは最大印加電流および最小印加電流を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記印加プロファイルは前記最大と前記最小との間の複数の印加値を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記検出された流体圧が前記第1の閾値未満である場合にベースライン電流で一定の
電気神経刺激を提供するように構成されており、前記印加プロファイルは前記ベースライン電流および前記第1
の閾値を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2の閾値は前記第1の閾値と異なる、請求項
1に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2の閾値が前記第1の閾値と同じである、請求項
1に記載のシステム。
【請求項7】
前記流体ポンプまたは前記電気神経刺激の動作を制御する信号を提供する遠隔配置作動装置を備える請求項1~
6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記針の前記先端が神経内にあるとの判断に応じてヒトが知覚可能な信号を提供するように構成されている出力要素を備える請求項1~
7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記電気神経刺激に応答した誘発性
筋肉応答が観察されたか否かを施術者が示すことを可能にするように構成されている入力要素を備える請求項1~
8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記電気神経刺激に応答した誘発
性筋肉応答を検出するセンサを備える請求項1~
9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
誘発性
筋肉応答を検出する前記センサは加速度計または筋電センサを備える、請求項
10に記載のシステム。
【請求項12】
前記コントローラは、圧力が閾値を超えることを前記センサからの信号が示し、かつ閾値強度を超える電気神経刺激に
応答した誘発性筋肉応答を示す信号がないことに応じて、所定の用量の流体を提供するように前記流体ポンプを制御するように構成されている、請求項1~
11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
尖った先端を有する針と、
前記針に流体の流れを提供する流体ポンプと、
前記流体ポンプを制御して前記針への前記流体の流れを制御するコントローラと、
前記針内の流体圧を検出するセンサと、
前記針の先端で電気神経刺激を提供する導電要素とを備える、患者に流体を注入するシステムであって、
前記コントローラは、圧力が
第1の閾値を超えることを前記センサからの信号が示し、かつ前記電気神経刺激が閾値強度を超えるときに電気神経刺激に
応答した誘発性筋肉応答を示す信号がないことに応じて、所定の用量の流体を提供するように前記流体ポンプを制御するように構成されている、システム。
【請求項14】
前記コントローラは、提供される前記電気
神経刺激の様々な特性に関するデータを含む複数の印加プロファイルを収納するように構成されており、前記印加プロファイルは最大印加電流および最小印加電流を含む、請求項
13に記載のシステム。
【請求項15】
前記印加プロファイルは前記最大と前記最小との間の複数の印加値を含む、請求項
14に記載のシステム。
【請求項16】
前記コントローラは、前記検出された流体圧が前記第1の閾値未満である場合にベースライン電流で一定の
電気神経刺激を提供するように構成されており、前記印加プロファイルは前記ベースライン電流および前記第1
の閾値を含む、請求項
15に記載のシステム。
【請求項17】
前記コントローラは、前記センサが第2の閾値を超える流体圧を検出し、かつ前記電気神経刺激により誘発
性筋
肉応答が示されるのに応じて前記針への前記流体の流れを止めるように構成されている、請求項
13~16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
前記第2の閾値は前記第1の閾値と異なる、請求項
17に記載のシステム。
【請求項19】
前記第2の閾値が前記第1の閾値と同じである、請求項
17に記載のシステム。
【請求項20】
前記流体ポンプまたは前記電気神経刺激の動作を制御する信号を提供する遠隔配置作動装置を備える請求項
13~19のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項21】
前記電気神経刺激に応答した誘発性
筋肉応答が観察されたか否かを施術者が示すことを可能にするように構成されている入力要素を備える請求項
13~20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項22】
前記電気神経刺激に応答した誘発
性筋肉応答を検出するセンサを備える請求項
13~20のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
誘発性
筋肉応答を検出する前記センサは加速度計または筋電センサを備える、請求項
22に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して薬剤の供給の改良、特に皮下注入/吸引のためのシステムに関する。特に、本発明では、末梢神経ブロックを実行する、または神経、神経叢もしくは神経根の近傍で任意の医療用具を進める際に異なる針先位置を区別するための方法および装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
優先権主張
本出願は、2017年5月4日に出願された米国特許出願第15/587,119号の優先権を主張する。本出願は、2017年5月4日に出願された米国仮出願第62/501,546号の優先権も主張する。前述の出願の各々の開示全体は関連により本明細書に援用される。
【0003】
末梢神経ブロック(PNB)は、麻酔、術後鎮痛ならびに慢性疼痛症候群の診断および治療に用いられる。末梢神経ブロックはまた、補助技術としてのみ用いられる場合であっても急性疼痛管理および患者の気分を改善し得る。PNB局所麻酔技術の目的は、神経の構造損傷などの副作用を起こしたりあるいは患者に対する過度の痛みを生じさせたりすることなく、標的神経を特定し、そして標的神経に対して定められた近接度内で中空針を配置することである。ブロック針、標的神経および局所麻酔拡散の視覚化を支援するのに超音波検査が多く用いられているにもかかわらず、USG PNBの間の神経内注入の発生率は、以前に予測されたものよりも高いと報告されており、熟練者でさえ、注入前に神経内に針先を配置することについて6回中1回は検出することに失敗していると報告されている。超音波検査を用いても、ランドマーク神経刺激(NS)誘導と比較した場合に、術後神経症状(PONS)の発生率は低下していなかった。PNB処置の翌日、異常感覚や残留ブロックなどの神経的な症状が最大19%の患者に存在し、約3%の患者で最初の数ヶ月間継続することが報告されている。長期(6~12ヶ月)PONSの発生率もまた10,000 PNBあたり2~4残っている。
【0004】
図1を参照すると、末梢神経系の微細解剖学的構造の概略図が示される。中枢および末梢神経系の双方に基本的な構成単位は、一般に軸索と呼ばれる単一細胞ユニットである。脳および中枢神経系は数百万の軸索で構成されている。脳幹および脊髄の中枢神経系は分岐して、軸索を介して感覚および運動神経路のネットワークを形成する高度に組織化された軸索の集合となる。脊柱管が出現すると、この経路のネットワークは末梢神経系と総称される。
【0005】
末梢神経系では、各軸索は、神経内膜と呼ばれる支持結合組織によって取り囲まれる。神経内膜には、当該軸索に栄養を供給する微小血管(毛細血管および細静脈)が含まれている。軸索は、高度に組織化された密な束を集まって形成する。この束は、取り囲みそして神経周膜と呼ばれる膜構造を形成する、薄いが緻密な多層の結合組織鞘によって取り囲まれている。神経周膜は、物理的および化学的バリアである緻密な保護層を与え、軸索および神経内膜を一定程度保護する。このバリアは血液脳関門に似ている。
【0006】
神経内膜および神経周膜のこの独立したユニットは末梢神経束と呼ばれる。当該神経束がまとまると、内側神経上膜または束間神経上膜と称することもある結合組織である神経上膜に埋め込まれる神経束構造を形成する。複数の神経束群は、緻密な結合組織の周縁とともに疎らに配置された結合組織(線維脂肪組織)および中サイズの血管の不均一なマトリックスに埋め込まれている。このさらなる緻密で、より高度に組織化された繊維組織層によって、集められて取り囲まれた結束神経束構造は、末梢神経内容物を収容し、そして外側神経上膜として知られている。
【0007】
外側神経上膜は、外側の層を隣接する構造に接続する。神経と、外側神経上膜に関する周囲組織との間の空間が疎らな結合組織によって満たされている。従って、外側神経上膜よりも外のさらなる多層境界部がある。この多層境界部は、神経の軌道全体に沿って延び、パラニューリウム(paraneurium)と呼ばれている神経外の結合組織(神経間膜すなわち滑走組織)で構成される。パラニューリウムは、筋骨格の運動中に神経が他の解剖学的構造に対して滑動することを可能にする独立した多層機能構造である。
【0008】
神経分枝の位置を特定するために、電気的刺激が利用され得る。身体に電流刺激を投入すると、神経の感覚成分と運動成分との両方の間接的な興奮を誘発することができる。これにより、電気的刺激を運動軸索および感覚軸索にそれぞれ印加すると、目に見える筋収縮および電気的異常感覚が生じることが分かった。電流印加(強度および持続時間)および周波数を変調すると、神経分枝によって刺激される筋肉群が収縮および弛緩する。ただし、特定の神経に対して神経応答を起こすのに間接的な電気的印加をこのように用いることは、以下のことを含むいくつかの欠陥のために広く採用されるには至っていない:
- 加えられる電気的印加を神経分枝の表面に対して所定の距離で正確に調整することができないため、神経刺激を神経分枝の局在化の主な手段として用いる場合には、神経刺激が特定の神経分枝の識別に限定される。神経分枝に近接しようとする場合、特定の距離での様々な印加強度が推奨されている。しかしながら、針先から神経までの距離と、目に見える筋単収縮応答によって示される電流強度とは必ずしも相関しない。処置中、より弱い電気印加で神経刺激(NS)が行なわれることは、針がより表面に近かったり、神経外の位置にあったり、あるいは神経内に位置することを必ずしも意味しない。同様に、より強い電流印加まで神経刺激が行なわれることは、針が目的の神経分枝により大きく離れていることを必ずしも意味しない。電気神経局在化の基本原理「電流強度は針と神経との距離に比例し、0.1~0.4mAの間の刺激電流は2mm未満の距離と関連する」は過度の一般化であることが分かっている。電流伝導、伝播、および運動応答の開始は、筋肉の配置、結合組織、および針の近傍の抵抗バリアなどの解剖学的構造によって影響される。電気神経刺激は間接的な局在化方法であり、針配置を高精度で誘導するものではない。とはいえ、小電流印加での運動応答は、針先の位置が軸索の束構造の近傍にあるのに特有な運動応答である。
- 神経束の外表面から決められた距離で、すなわち、神経束外で、神経刺激に適切な電流印加を設定することができない。このことは、大電流印加が神経束の近傍や神経束内で用いられる場合に患者による強い応答を引き起こすことがあるので、より懸念される。最終的に、神経束およびまたは神経からの特定の距離に対して加えられるべき適切な印加を決定することができない。針と神経とが接触したり神経内に針が配置されたりすると、小電流印加(0.3~1mA)で運動応答を促すことができないことが多く、動物およびヒトの研究では感度の欠如が確認されている。しかし、0.2mA以下の電流強度に対する誘発運動応答(EMR)は、なんらかの注入前に神経内に針が位置することに特有な予兆であることが分かっている。さらに、0.1mA未満の電流強度に対する誘発運動応答(EMR)は、なんらかの注入前に神経束内に針が位置することに特有な予兆であることが分かっている。
- 交絡変数は、神経刺激の使用を、非特異的な技術とすることができる。交絡変数は、所定の患者に内在する解剖学的変化と、異なる患者間の解剖学的変化とに関係する。身体は、水およびコラーゲン、脂肪組織(脂肪)、筋肉、体液(血液、リンパ液、間質液)、骨、軟骨などで構成される様々な組織タイプで構成されている。これらの各組織タイプは、目的の対象に対して所定の距離で電流を印加する場合に、印加に対して様々な抵抗および/または静電容量を示す。この結果、神経または神経束を刺激するのに必要な電流印加が、距離に応じて非線形に変化し、流体の注入時に変化し、組織密度に応じて変化しおよび/または筋膜上の針先の機械的圧力によって変化する。
【0009】
電流印加(強度)と電気刺激に対する組織インピーダンスとの変数により、針から神経までの距離の精度を高くし、特定の神経束、神経および/または神経叢の層に対する関係を的確にすることを可能にする技術を規格化することが難しくなっていた。そうではあるが、極小電流でのEMRが、針先が神経内の位置にあることのきわめて特有なEMRであることが分かっている。
【0010】
注入圧力モニタリング(IPM)の感度はきわめて高く、針先が緻密な結合組織に当たると直ちにピーク圧力を検出する。しかしながら、IPMは緻密な結合組織の性質に特有なものではない。低圧範囲は、脂肪、間質、筋肉などの低密度組織的で疎らな結合組織に特有な圧力範囲である。高圧範囲は、緻密な結合組織(筋膜、腱、神経など)に特有なものであるが、圧力のパターンは組織タイプにあまり特有なものではない。例えば、腱および神経は超音波画像上で同様の態様を持つ。腱および神経の表層をへこませると、類似する高いピーク圧力が発生する場合がある。同様に、IPMは神経傍間質(paraneural interstitium)と神経外間質とを区別することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
超音波検査は、標的神経、針、局所麻酔溶液および周囲の解剖学的構造を同時に視覚化することができる。それにもかかわらず、モニタリングの唯一の方法としての超音波検査は、神経損傷を確実に防止し得ない場合がある。神経刺激は神経層に対する相対針先位置を識別するには低感度であるが、神経組織の近さにきわめて特有なものである。注入圧力モニタリングは、針の神経接触や神経束内注入などのような、緻密な組織での高い注入圧力を検出することに関して高感度である。本発明は、PNBを行なう際における神経学的合併症のリスクの低減するために、集学的アプローチにおいてこれらのモニタリングの選択肢の組合せを組み合わせて提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様によれば、本発明では、IPM感度とNS特異性を組み合わせて、末梢神経ブロックで異なる針先位置を区別することで、神経穿刺を検出し、そして神経内注入を回避することを手助けする。神経への針誘導の処置中にIPをモニタし続けることが可能である結果、圧力が閾値を超えるときに電気刺激が増加される。EMRがないことまたは発生することは、針先に神経がないことまたは存在することをそれぞれ示す。EMR時に圧力ピークおよび低い強度が生じることは、神経に近いことを示す。関連するEMRをともなう圧力ピークと極低い強度の刺激とは、神経穿刺、すなわち神経内に針先位置があることを示す。
【0013】
本発明のさらなる態様では、神経検出を支援し、神経内注入の発生率を下げ、神経束の近くでまたは特に神経束内で、緻密な結合組織に注入するのを回避する機構を提供する。これに加えて、本発明の別の態様を用いれば、圧力感知を用いて、神経(神経束)などの緻密な(低柔軟性)組織と結合組織(筋膜)とを区別することができる。
【0014】
本発明の別の態様は、インライン圧力センサによって静水圧(hydraulic pressure)を高精度測定することができるように、固定流速での流体媒体の連続注入を行なうシステムである。流体媒体のイオン特性は、組織を通る電流印加の伝達に影響する。注入される溶液はイオン化される(生理食塩水または局所麻酔薬)または非イオン化(デキストロース水溶液)されることができる。溶液は、神経刺激を伝導する目的で、使い捨てシリンジおよびチューブを通じて一様に針の先端に投与される。電流印加を組織にわたってより効果的に分散させることができるように、イオン溶液はインピーダンスを低減し;、刺激電流がより痛みのないものとなりかつ電場が減少するように、同じ電流強度で電圧が低くなる(オームの法則)。
【0015】
本発明のさらなる態様は、適切な針先位置で流体流速を増すことにより注入部位で超音波の視覚化を向上させる能力を提供するシステムである。増加した流体流れは、末梢神経ブロックを行なう際に組織中を針が進む間の針の先端をより容易に特定することを可能とするので、針先の配置の防止、特に神経内への配置の防止に有用である。
【0016】
本発明の別の態様は、針内の流体圧に関して受ける信号に基づいて電気的刺激を制御することである。
【0017】
本発明の好ましい実施形態の前述の概要および以下の詳細な説明は、添付の図面とあせて解釈すれば最もよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【0019】
【0020】
【
図3】
図2に示されている薬剤供給システムのハンドピースの拡大側面図である。
【0021】
【
図4】
図2に示されている薬剤供給システムの注入デバイスの概略図である。
【0022】
【
図5】流体を注入する方法のフローチャートである。
【0023】
【
図6】薬剤供給システムの代替実施形態の概略図である。
【0024】
【0025】
【
図8】流体を注入する代替方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
さて、概して図面を参照し、特に
図1~
図3を参照すると、薬剤注入システムの全体が一般に10で示されている。システム10は、注入アセンブリ20と、駆動ユニットと称するコンピュータ制御薬剤供給器50とを含む。注入アセンブリ20は、哺乳動物対象に挿入するように構成されている挿入針140を含む。注入アセンブリ20は、使用中に注入アセンブリへの流体の流れを制御する駆動ユニット50と接続されている。システム10は、処置中に医療従事者にデータを提供して針を対象内に適切に配置するのを支援する1つ以上の出力機構も含む。
【0027】
システム10は、神経束内針位置に対する配置を決定するように動作可能である。システムは、治療薬を神経束外針位置に供給するようにも動作可能である。薬剤には、コルチコステロイドなどの局所麻酔溶液、ヒドロキシアパタイト、関節補充薬、硬化剤、および典型的には流体で満たされた組織空間に治療目的で注入されるその他の薬剤が含まれるが、これらに限定されない。このシステムは、筋肉や間質内などの組織コンパートメント内の静水圧を測定するようにも動作可能である。
【0028】
神経束内針位置は、針先が神経束内に位置するように、針の先端が神経周膜を貫通する位置である。神経束外針位置は、針が個々の神経束の神経周膜外のいずれかの位置にある位置であり、神経上膜またはパラニューリウムの内側を含むことで、完全な神経外の位置ないしは神経の周囲構造中の位置と定義される。
【0029】
針先が神経束に埋没し、かつ続いて静水圧下の流体が神経束内の神経組織および血管組織に変化を生じさせると、神経に復元不能の損傷が生じ得る。これは、神経束の外層が、比較的非柔軟で、剛直な保護構造の保護層であるために生じる。これにより、神経束内に密に詰め込まれている神経の基本構成要素、すなわち軸索が保護される。言い換えれば、神経束は、厚い保護外殻を有する密に詰め込まれた配置を示す。神経束は広げるか縮めるかしても容易に変形しない。従って、流体の流入に対する組織の柔軟性は非常に低くおよび/または存在しない。針が神経束内まで貫通しても、軸索ユニットに致命的な損傷が必ずしも生じることはないといえるが、針の貫通と、神経束内への流体の注入による神経束内の圧力の上昇との組み合わせ効果により、毛細血管床に損傷が生じる場合がある。さらに、軸索の微小循環の流体圧により引き起こされる絞扼(strangulation)により、このような物理的障害後に短期間の栄養補給が妨げられ、初期の壊死が起こる。壊死から段階的に広がって、圧力により引き起こされる初期の障害を起点として創傷治癒を開始するための炎症応答に至り、さらに、回復不能の損傷に向かって進行したり、段階的に広がる可能性があったりする。
【0030】
しかし、意図的に神経束内に針が配置されることが望ましくかつ必要な場合がある。このような例には、体肢が切り離された後の未解決の幻肢痛が含まれる。これに加えて、特定の体肢の神経刺激を過度に強くすることで、鎮痛可能になる場合があり、これは、意図的な神経束内針位置と薬剤の供給とが必要な別の場合である。従って、システム10およびその使用は、針の神経束外位置と神経束内位置とを識別する二者択一的な方法および装置を提供することができる。
【0031】
注入された流体は様々な速度で組織にわたって分散する。その結果、流体圧が変化する。従って、この流体圧(すなわち、組織の抵抗圧力に関連する内圧)は数種類の組織密度を示し、これらの組織密度を特定するのに用いることができる。
【0032】
神経組織からは構成されていない組織として特定されることになる筋肉の筋膜、腱または他の身体組織などの緻密な組織に施施術者が薬剤を注入することを望む場合もある。
【0033】
システム10を用いることで、施施術者は、薬剤の対象外の組織への浸入を制限しつつ、流体で満たされた組織空間を正確に特定することができる。これは診断処置でも治療処置でも実行される。システム10では、配置の正確度を特定して注入または吸引中の配置をモニタするために、組織内に針/カテーテルを配置した後に針またはカテーテルから流れる流体の圧力を利用する。システム10は、0.01mL/sec~0.20mL/secの一定の流速と定義される低流速と見なされる流量で流体の連続流を利用し得る。流体の連続的な流れは、検出されるべき組織内での圧力変化に対する実質的に瞬間的な応答時間を可能とする流体の一定カラムを維持する。
【0034】
特に、システム10は、挿入針内の検出流体圧の聴覚および/または視覚フィードバックを提供する1つ以上の出力機構を含む。施術者は、挿入針の配置の際の指針として当該フィードバックを用いる。
図2に示されているように、第1の出力機構は、施術者を支援するデータを表示するためのLCDディスプレイなどの映像ディスプレイスクリーンであり得る。これに加えて、第2の出力機構も設けてもよい。例えば、第2の出力機構は、出力信号を提供するスピーカであり得る。
注入アセンブリ
【0035】
図2を参照すると、システム10は、薬剤注入処置中に駆動ユニット50と協働する注入アセンブリ20を含む。注入アセンブリは、シリンジ30と、ハンドピース100と、シリンジをハンドピースに接続する流体ライン45と、ハンドピースと駆動ユニット50との電気的接続を与えるケーブル48とを含む。アセンブリは、ハンドピース100に着脱可能に接続される針140をさらに含む。
【0036】
シリンジ30、流体ライン45、ハンドピース100および/または針140などの注入アセンブリの様々な要素は使い捨て可能なものであってもよい。あるいはまたあるいは、要素は再使用可能であってもよい。従って、注入アセンブリの様々な要素は着脱可能に接続可能である。例えば、流体ライン45は両端に流体コネクタを含み得る。流体に緻密なコネクタは様々なコネクタのいずれであってもよい。典型的なコネクタの1つは局所麻酔用のルアーコネクタまたはNRFitである。第1の端で流体コネクタがシリンジに密閉に接続され、第2の端で流体ラインがハンドピース100に密閉に接続される。あるいはまたあるいは、流体ライン45をハンドピース100の後端に固定接続してもよい。いずれの実施形態でも、ハンドピース100とシリンジとが流体連通して、シリンジからハンドピースへの流体の流れを実現する。あるいはまたあるいはまた、流体ライン上に別のコネクタを付加し、このコネクタを用いてチューブおよび1方向バルブに接続された別のシリンジから流体を供給してもよく、局所麻酔薬などの流体を注入するように手動で操作してもよい。特に、治療薬を充填した2次シリンジにより、対象位置を特定した後や処置全体中で投与可能である。
【0037】
シリンジ30は様々な皮下注入器のいずれであってもよく、用途に応じて長さおよびゲージを変更してもよい。シリンジ30は、所定量の薬剤を入れるためのバレル32と、バレル内で滑動可能でありバレルに流体を出し入れするためのプランジャ34とを含む。シリンジ30は、バレルから外方に突出するフランジ36も含むことが好ましい。フランジは、プランジャをバレル内に変位させるのを容易にするフィンガフランジとして機能する。
【0038】
注入アセンブリ20は、注入アセンブリ内の流体圧を検出する圧力センサ40も含む。圧力センサを数箇所のうちの1つに配置して、針140の先端の流体圧と相関する圧力を測定してもよい。あるいはまた、圧力センサは、インライン圧力センサではなく、またはインライン圧力センサに加えて、シリンジプランジャ58を駆動する親指プレート内に配置されたり親指プレートに接続されたりする力センサ、または駆動ユニット50に内蔵され、シリンジプランジャにかかる力を測定する力センサであってもよい。このような力センサは、流体を注入するのに必要であり、針内の流体圧に関係する力を検出する。このようなセンサを用いれば、検出された力がプロセッサによる計算によって圧力値に変換される。本例では、圧力センサ40は、シリンジとチューブ45との間でシリンジ30に取り付けられたインライン流体圧センサである。このようにして、圧力センサ40は、流体がシリンジを出て、挿入針140が接続されているチューブ45に入る際の流体圧を感知する。同様に、インライン圧力センサをチューブと針との間に挿入することができる。
【0039】
注入システム10は、針140が取り付けられる再使用可能なハンドピース100も含み得る。
図2に示されているように、挿入針140がハンドピースの前端に接続され、チューブ45がハンドピースの後端に接続される。ハンドピース100は、以下でさらに説明されているように電気的刺激を提供するように構成し得る。
【0040】
注入アセンブリ20は、流体を注入するために手動で操作され得る。しかしながら、本例では、以下でさらに説明されているようにコンピュータ制御薬剤供給システム50が注入アセンブリからの流体の流れを制御する。電気ケーブル48によって圧力センサ40が薬剤供給システム50に接続されることで、薬剤供給システムはシリンジからの流体の流れをモニタし、必要に応じて圧力センサ40からのデータに応じてこの流体の流れを変更することができる。シリンジ30のシリンダの前端とチューブ45の第1の端との間のライン上に圧力変換器40を接続してもよい。圧力変換器40をシリンジの先端に接続する典型的な接続の1つはルアー接続である。接続は、局所麻酔用のルアーロックやNRFitなどのネジ接続および/または非可逆的ネジ接続によって固定してもよい。あるいはまたあるいはまた、圧力変換器40をプラスチック溶接または接着剤などの化学的結合によってシリンジに永久固定してもよい。このようにして、薬剤供給ライン45内の瞬間的な、実際の流体圧が感知され、そしてこの流体圧が当該器具によって用いられることで、針140の先すなわち先端での実際の瞬間的な流体圧にきわめて近い近似値が得られ、従って、針先が位置する患者の体内の位置での実際のその瞬間の流体圧にきわめて近い近似値が得られる。電子圧力変換器40は、圧力測定値を収集する中央ユニット50に直接接続された電子データケーブルを介して圧力データを提供する。
【0041】
電子圧力変換器40は様々な圧力センサのいずれでも可能である。典型的なセンサのタイプの1つは、メリトランス(Meritrans)(登録商標)プレッシャートランスデューサ アイテム MER212などのメリット メディカル システムス(Merit Medical Systems)社から入手可能なセンサなどの圧電圧力センサである。
自動流体供給システム
【0042】
上記のように、システム10は、注入アセンブリ20へと制御された薬剤流を供給する流体供給システム50を含んでいてもよい。好ましくは、流体供給システムは自動システムであり、本例では、駆動ユニット50と称するコンピュータ制御流体供給システムである。
【0043】
図2および
図4を参照すると、駆動ユニット50は、シリンジ30などの注入要素と協働するように設計されている。駆動ユニット50は、シリンジ30を受け入れるように構成されているクレードルと、シリンジをクレードルで保持するクランプとを含み得る。駆動ユニット50は、シリンジ内のプランジャを駆動してシリンジから流体を吐出するように動作可能な駆動要素58を含む。駆動ユニット50は駆動要素58の変位を制御することで、シリンジからの流体の放出を制御する。本例では、駆動要素は、プランジャ34と着脱可能に係合する複数のフィンガ付きのクランプを有するアーム58を駆動するモータ70を含み得る。モータを第1の方向に駆動することで、アーム58を前方に駆動してプランジャ34を前進させ、これにより、流体を吐出する。駆動ユニットのCPU 82によってモータの動作を制御する信号がモータに提供される。
【0044】
駆動ユニット50は、一定または可変の流体流れを実現するように動作可能である。本例では、駆動ユニットは、挿入/注入処置中に流体の圧力を絶えず感知し続ける電子圧力変換器40から受信する信号に応じて流体を連続的に流してもよい。既定の圧力に基づいて、駆動ユニット50は、検出圧力が既定の閾値を超えるときに流体の流れを停止させてもよい。施施術者が既定の閾値を設定して、駆動ユニット50の電子回路のマイクロプロセッサまたはコンピュータ82のメモリ80に記憶してもよい。同様に、既定の圧力に基づいて、流体圧が既定の圧力未満に降下するときに流体流れが再び起こり、圧力が閾値未満を維持している間流れ続ける。同じ既定の圧力を用いて、流体流れの停止および再開を制御してもよい。このような場合、流体が最初に組織に入ると、圧力が既定のレベルまで立ち上がり、圧力が再びこの既定のレベル未満に降下するまで停止する。流体圧が既定のレベル未満に降下すると、流体流れが再び起こり、継続的に維持される。このようにして、処置中に流体の流れが開始および停止することで、特定の既定圧力が検出された後に流体流れを遮断してもよい。
【0045】
システムは、処置中にシリンジ30からの薬剤の流れを制御するのに用いられる既定の圧力閾値を含み得る。これにより、臨床医は、診断および治療処置のために特定の部位および目的の組織に薬剤を選択的に注入することができる。予め選択した最大許容圧力限界および/または流速をメモリ80に記憶し、患者が通常耐えられる最大推奨圧力または他の基準を決める。圧力がこの限界に近づくと、臨床医に対して視覚および/または聴覚アラームが生成される。すなわち、マイクロプロセッサ82からのデータによって起動されるスクリーン62上およびスピーカ84を介して生成される。これに加えて、注入プロセス全体を表わすデータが将来の解析のためにメモリ80に記憶される。
【0046】
システム10は注入アセンブリ20内の流体圧を直接測定してもよいし、または、システムは注入アセンブリ内の流体圧を示す特性を測定してもよい。例えば、注入中に測定される圧力抵抗を検出することによって圧力を測定してもよい。測定された圧力抵抗は、挿入処置中に連続的に視覚信号に変換される。処置中の薬剤の流速は、処置中にリアルタイムで検出される流体圧に基づいてもよい。従って、薬剤の流速は可変であってもよく、システム内の圧力に依存してもよい。このように、流体圧はシステムの主要な制御変数であり得る。
【0047】
本システムの特徴の1つは、針が患者の組織内に配置されている間に、針先での圧力の僅かな変化を検出することができることである。かすかな圧力変化を検出するこの能力は、制御された条件下での組織内への流体の一定の移動に基づいているので、組織内の圧力に基づいて望ましくない位置を特定およびまたは回避することができる。流体の連続流が用いられる場合、システムは圧力のこの僅かな変化をリアルタイムで動的に検出する。この連続流は、システムによって用いられる既定の最大圧力に合わせて調整され、既定の圧力限界で流体の流れが停止し、当該組織の損傷が避けられる。一定の流体の流れを用いることで、ヘッド圧は組織の密度および柔軟性の僅かな変化が実質的に瞬時に検出されることが可能となる、組織内で必要とされる抵抗を与える。
【0048】
従って、流速は、所望の流量を維持するために既定の範囲内で調整される第2の変数になる。特定の実施形態の1つでは、圧力が既定の閾値(最大圧力)を超えるときに流体流れが停止する。流体注入が低圧条件下で速くなりすぎないように、第2の変数としての流速を制限してもよい。圧力と流体流速との関係は2段階的(binary)または連続的のいずれかであってもよいと考えられる。注入デバイスが、予め設定された最大値未満のいかなる圧力に対しも単一の予め定められた流速で流体搬送するように構成される場合、2段階的関係が存在する。従って、圧力が閾値を超えるか否かに基づいて流体流れがオンまたはオフになる。あるいはまたあるいはまた、圧力の関数として流速が調整され得る。この場合、最大圧力に近づくと流速が減少し、圧力が降下すると流速が増大する。任意選択により、流速を第1の予め設定された最大圧力に制限してもよく、第2の別の既定の圧力で流速が復帰する。
【0049】
上記のように、システム10は、例えば、瞬間流速、圧力および注入量を含む関連する注入データを駆動ユニット50のスクリーン62上に表示する機構を含み得る。視覚フィードバックに加えて、システムは、施術者に聴覚フィードバックを提供する要素を含み得る。例えば、システムは、圧力が変化すると聴覚信号が変化するような聴覚フィードバックを提供する変換器を含み得る。さらにまた、システムは、圧力が所定の既定レベルを超える場合に聴覚警報または表示信号を提供する要素を含み得る。システムは、処置の実行後の以降の解析のために、関連する注入データを記録する機構も含み得る。例えば、システムは、ハードディスクドライブ、フラッシュドライブ、光学ドライブなどの不揮発電子記憶媒体や、電子データを記憶する他の媒体を含んでもよく、病院コンピュータシステムやオフィスコンピュータシステムに接続して、患者の記録時にリアルタイムで記憶する能力を提供するネットワーク接続も含み得る。このようにして、システムにより、PNB注入により生成されたデータを自動的かつ効率的に転送することが可能になる。
【0050】
すべての測定値および情報を「リアルタイム」で臨床医に提示することができることで、臨床医は注入物が目的の位置および/または正しい組織に送られているか否かを判断し、注入技術を適宜修正することができる。これに加えて、後で行なわれる臨床的事象についての評価や文書化のために測定値を記録してもよい。
【0051】
個別のシリンジプランジャによって駆動される複数のシリンジを用いて、複数の薬剤を注入することができるようにすること、並びに既定の圧力に達することが望まれない第2のシリンジ駆動部を前記のどの目的に対しても用いてもよいことも考えられる。第2の駆動部を特定の流速に基づいてプログラムして、局所麻酔薬およびその他治療薬などの薬剤を様々な組織に注入可能にすることができる。
【0052】
さらに別の実施形態では、デバイスは独立した2つのシリンジ駆動部を含んでもよく、この場合、双方ともここで前述したように流体圧に基づいて調整可能である。
電気的刺激
【0053】
システムは、患者の標的組織に電気的神経刺激を与える電気的刺激要素も含み得る。電気的刺激要素は、ハンドピース100に接続された導電要素や、末梢神経ブロックに用いられる絶縁針である。電気的刺激要素は、低強度(すなわち、約0.10mAから約6.0mA以下)の電気的印加と、短持続時間(すなわち、約0.05~1msのパルス)と、周波数1.2~4ヘルツと、最大電圧(100ボルト)とを実現するように動作可能である。電子刺激要素は、一定の電流、段階的に増加する電流、または段階的に減少する電流を印加するときに短時間(約1~10秒)刺激を与える。
【0054】
電気刺激器は外部要素であっても内部要素であってもよい。例えば、
図2~
図4は外部電気刺激物を組み込んだ実施形態を示している。導電ケーブル48などの導電要素によってハンドピース100が刺激発生器85に相互接続されることで、電気的刺激が刺激発生器からハンドピースに伝達される。次に、ハンドピースが、組織に電気的印加を与えるように構成されている要素に接続される。例えば、針140を導電材料で形成してもよく、ハンドピースは、導電要素48から針までの電気経路を設ける針との接続部を含み得る。あるいはまた、針金などの導電要素が針の長さに沿って延びてもよく、針は針から絶縁されてもよい。例えば、針の被覆を絶縁材料で形成してもよい。外部電気刺激要素の例としては、商標名「Stimuplex(登録商標)」で販売されている絶縁針や、ペンシルベニア州ベスレヘムのビー. ブラウン メディカル(B.Braun Medical)社が商標名「Contiplex(登録商標)C」で販売している套管針がある。
【0055】
システムは、上記の外部電気刺激ではなく、内部電気刺激を利用してもよい。例えば、シリンジから注入される流体は、電気刺激を伝導することができるイオン溶液であってもよい。導電要素は絶縁された針内で流体と相互接続してもよい。針は様々な非導電材料で構成され得る。例えば、導電要素は、シリンジ30と針140との間の数箇所で流体経路内まで突出してもよい。例えば、導電要素は、ハンドピース100の後端で流体に電気刺激を与えてもよい。電気刺激が流体を介して組織に与えられる場合、針140を絶縁して、針の側壁を通って電気印加が流れ出るまたは支出されるのを最小限にしてもよい。
【0056】
図2および
図4に示されているように、電気的刺激要素は、当該刺激要素に電気的印加またはパルスを与えるように動作可能な電源である電気刺激発生器85に接続される。
図4に示されているように刺激発生器を駆動ユニット50に組み込み得る。このような構成では、刺激発生器85は、刺激発生器の動作を制御する電気信号をCPUが提供するように駆動ユニットのCPUに接続されている。あるいはまた、刺激発生器は、別個の動力源および別個の制御を有する別個の要素であってもよい。
【0057】
施術者は誘発電気運動応答(EMR)を視覚的に評価したり、加速度測定や筋電図によって検出したり、神経刺激および/または筋収縮のその他一切のモニタリングによって検出したりすることができ、検出により、神経刺激および/または流速および/または警告信号を制御することができる。
針の出口での流体圧の計算
【0058】
上記で説明したように、流体圧はシステム10の動作を制御するために用いられ得る。例えば、システムは、流体圧が閾値を超えたときに施術者に信号を提供することで、針が神経束内に配置されていることや、神経の外側神経上膜をへこませていることを示してもよい。針の出口の流体圧を計算するいくつかの方法がある。
【0059】
圧力センサは注入アセンブリ20内の流体圧を検出し得る。例えば、上記したように、圧力センサは、メリット メディカル 部品番号0001で入手可能な圧力センサなどのインライン圧力センサであってもよい。あるいはまた、駆動ユニット50内の圧力センサが、シリンジ30とチューブ45との間の流体圧を検出してもよい。同様に、シリンジチューブ45と針140との間に圧力センサを配置することができる。さらにまた、インラインセンサをハンドル100に埋め込んだり、チューブ45とハンドル100との間に埋め込んだりすることができる。別の代替例は、親指パッドの力センサを用いてプランジャ34を駆動する力を検出してシリンジ30内の圧力を計算するものである。圧力センサからのコマンド信号によって圧力のデータが、出口圧力を決定する計算のためにCPUに送られる。出口圧力値は、シリンジ30からの流体の流れを制御するモータ70を制御するのに用いられる。
ハンドピース
【0060】
図3を参照すると、ハンドピース100は、中空ハウジング110と、ハウジングから前方に突出する細長い中空針140とを含む。コネクタ132がハンドピースを注入アセンブリ10の流体ライン45に接続するために設けられている。特に、コネクタ132は、ハウジングの後端でハンドピース100を接続する流体に緻密な封止部を提供し、ハンドピースをシリンジ内の流体に接続することを容易とする。流体はハンドピースに流れて針140から流出する。上記のように、流体圧を表わす特性を検出するインライン圧力センサまたは同様の要素をハンドピース100内に埋め込んでもよい。
【0061】
ハンドピース100は、施術者に対して指示待ち状態であることを示すように構成されている表示ランプ215をさらに含み得る。表示ランプ115は、用途に応じて警告ランプまたは表示ランプを提供するLEDまたはその他ランプ要素であってもよい。ハンドピースは、ブザー、トーンまたはチャイムを含む(ただし、これらに限定されない)聴覚信号を提供する圧電音インジケータなどの聴覚インジケータ120をさらに含み得る。
【0062】
これに加えて、ハンドピースに制御ボタン125を設けてもよい。制御ボタン125をオン/オフボタンとして操作してもよい。しかしながら、制御ボタンは様々な制御コマンドを入力するようにも動作可能とすることもできる。例えば、制御ボタン125は、以下でさらに説明されるように、駆動ユニット50の1つ以上の動作を無効にするように動作可能とし得る。最後に、ハンドピース100は、検出された流体圧などの様々な情報を表示する表示スクリーン130などの出力機構も含み得る。
【0063】
上記のように、ハンドピース100は、視覚および聴覚インジケータ115,120の両方を含み得る。ハンドピースは聴覚および視覚インジケータの両方を必ずしも含む必要はないことが理解されるべきであり、単一のインジケータのみを含むことができる。さらにまた、視覚および聴覚インジケータが説明されているが、代わりに、規則的に振動するインジケータ信号を提供する振動要素などの様々な代替インジケータを用いることができる。さらに、ハンドピース100はこのようなインジケータを含む必要はない。さらにまた、聴覚または視覚インジケータを駆動ユニット50上ではなく、ハンドピース上に配置してもよい。
【0064】
上記のように、ハンドピース100は制御ボタンを含み得る。針が前進していないときに制御ボタンを利用し得る。このような場合、ボタンの押下は、出口圧力の計算値から反ヘッド圧(counter-head pressure)値が減算されないように、駆動ユニット50に制御信号を提供するように動作する(針が前進していないと、反ヘッド圧はゼロか、実質的にゼロであるからである)。ハンドピース100上のボタンすなわち制御部を、ヘッド圧の計算値から反ヘッド圧が減算される前方移動に対応するようにも作動させてもよく、従って、針が前進しているときと、組織内で静止を維持しているときとを識別する手段が提供されることが分かる。このようにして、極小からゼロの針挿入の期間中にボタン125を作動させることで、処置中の組織内の出口圧力値の正確度が向上する。上記のスイッチまたは制御ボタンに加えて、ハンドピースは、第2のボタンまたは第2の制御要素を含み得る。この場合、後方移動すると、増分ヘッド圧値を付加して、後方移動を補償する。これにより、組織を貫いて針を後方に移動させるときに出口圧力値が減少する。
【0065】
前述の説明では、別の特徴を有することができるハンドピースに針が取り付けられている。しかし、針を担持するのに様々な要素を用いてもよいと解するべきである。例えば、針がチューブセットに接続される実施形態に係るシステムを利用してもよい。このような実施形態では、施術者は、制御ユニット50上のコントローラなど、ハンドピースとは独立して動作可能なコントローラによって電気的印加の強度を制御することができる。
システム制御
【0066】
このシステムは、ユーザが操作可能な入力機構を含んでおり、施術者はこの入力機構を用いてシステムを制御するための入力信号を入力することができる。入力機構は、施術者が開始と、停止と、単一の流速から別の第2または第3の予め設定した流速への流速の変更とを行なうための手段を提供するハンドピース100や足で操作する制御部などの様々なデバイスのいずれかであってもよい。あるいはまた、入力要素は、ボタン、タッチスクリーン、マウス、キーボードや、入力コマンドを音声で提供するためのマイクであってもよい。さらに、システムは、施術者が処置の様々な段階の様々な入力を入力することを可能にする複数の入力機構を含み得る。例えば、システムは、装置を通る流体の流れを制御するフットペダルや遠隔配置作動装置などの第1の入力機構を含み得る。遠隔配置作動装置を超音波変換器に取り付けることで、施術者が片手を用いて器具を制御することが可能になることが期待される。ハンドリモートスイッチやフットペダルスイッチを作動させる(すなわち、スイッチを押す)と、信号が駆動ユニットのCPUに送られ、信号がモータに送られてモータが駆動され、この結果、器具を作動させている間、シリンジから針140に流体が流れる。あるいはまた、ハンドリモートスイッチやフットペダルを初めて作動させると、開始信号が機能して流体流れが発生し、施術者がフットペダルを再び作動させるまで流体が流れ続けてもよい。このようにして、2回目の作動は、流体流れを止める停止信号として機能する。これに加えて、システムはタッチスクリーンなどの第2の入力機構を含んでもよく、これにより、電子シミュレーションが患者に適用された後に、施術者は筋単収縮が検出されたか否かや、患者が所定の感覚を感じたか否かを示すものを入力することができる。フットペダルスイッチを作動させる(すなわち、スイッチを押す)ことで、信号を駆動ユニットのCPUに送ってもよい。その後、電子刺激器のコントローラに信号が送られ、特定のベースライン電流で自動段階的増加電気インパルス(AIEI)を利用して刺激の強度、持続時間、周波数、電流印加量増分または減分が修正される。これらの施術者制御信号は互いに独立して機能することができる。すなわち、流体流れまたは電気刺激のいずれか一方をもたらす。さらにまた、1次または2次入力機構は、ハンドピース上のボタン125などの制御ボタンであってもよい。制御ボタン125を作動させることで、CPUに信号を送って処置中に応答入力を提供し得る。
【0067】
上記のように、システムは処置中に流体の流れを制御するように動作可能である。作動装置を用いてオン/オフを制御することに加えて、システムは2つの以上の流速設定を提供し得る。特に、制御ユニット50は、可変流速を実現する多段変速ポンプを組み込み得る。同様に、ポンプは2つ以上の予め設定された流速を含み得る。本例では、制御ユニット50は、制御ユニットがシリンジ30内のプランジャ34を変位させる速度を制御する電気モータ70を含む。制御ユニット50は、モータが複数の予め設定された速度の1つで駆動され、複数の予め設定された流速が実現されるようにモータ70の速度を制御してもよい。様々な流速は、処置の様々な部分での間の様々な圧力設定および様々な電気刺激設定と関連づけて用いることができる。例えば、システムは下の表中に示されているように3つの設定値を有するように構成し得る。設定値は、高および低圧閾値、高および低刺激強度、流速および最大圧力または遮断圧力などの様々な特性を含み得る。測定流体圧が「低圧」閾値を超える場合、「低圧刺激」として特定されるレベルで電気刺激が与えられる。測定流体圧が「高圧閾値
」を超えると、「高圧刺激」として特定されるレベルで電気刺激が与えられる。「流速」は、流体貯留体(例えばシリンジ30)から供給される流体の流速である。「遮断圧力」は、システムが流体流れを遮断する流体圧である。特に、測定流体圧が遮断圧力を超える場合、制御アセンブリ50は、ポンプを停止して針への流体の流れを停止させる。
【0068】
上記のように、処置の様々な部分で様々な設定値を用いてもよい。例えば、ここで説明している第1の設定値は、施術者が標的神経の近傍に針の先端を配置しようとする処置の部分などの処置の第1の部分で用いてもよい。ここで説明している処置の「標的に位置させる」部分では、一定の低「流速」を用いて圧力変化に対する感度を高めることができる。針が目的の対象の近傍に配置された後、システムは第2の設定値に切り替わってもよい。第2の設定値の間、流速を増やして針配置を確認する。特に、システムを超音波に関連づけて用いる場合、針の向きなどのいくつかの変数に依存して、針の位置を検出することが困難な場合がある。ただし、設定値2で定義されているような流体の急速注入が行なわれる場合、流体は超音波ディスプレイ上でエコーの無い暗い流体のポケットとして表示される。このようにして、超音波画像上の流体のポケットの位置は針の位置を示す。これに加えて、超音波画像上の流体の特定の形状は、針が神経内ではなく神経外にあることの確認を与え得る。例えば、ドーナツ状の流体空間は、針が神経に近接しかつ神経外にあることを確認することができる。従って、このような形状を確かめれば、適切な針配置を確認し得る。ただし、様々な形状が、針が神経外にあることの確認として用いることができることが理解されるべきである。
【0069】
第2の設定値ないし「確認」設定値を用いて針位置を確認した後、「注入」設定値と称する第3の設定値(設定値3)が用いられる。この第3の設定値の流速は大きいので、最大の効率を得るために神経の近傍の対象位置に薬剤を迅速にボーラス注入することができる。
【0070】
設定値の切り替えは、手動または自動であることが可能である。例えば、施術者は、上記のように、キーボード、タッチパッド、ハンドピース上のボタンなどの入力デバイスを操作してもよい。あるいはまた、システムは、流体圧、電気的インピーダンスや電気的インピーダンスの変化などの検出された基準に基づいて第2の設定値に自動的に切り替えてもよい。上記の設定値などの異なる設定値特性を持つように制御ユニット50を予め構成し得る。例えば、処置の前に施術者が設定値特性を設定することができるし、設定値をシステム内に予めプログラムしておいてもよい。これに加えて、システムにより、ユーザが使用中に設定値特性を修正することを可能にしてもよい。さらにまた、任意の数の設定値を用いてもよいことが理解されるべきである。3つの設定値が上記で説明されているが、より少数の設定値をシステムで用いてもよい。例えば、システムは任意の設定値を含まなくてもよく、ユーザは処置中に様々な値を簡単に変更することができる。あるいはまた、「対象位置」設定値および「注入」設定値などの2つの設定値のみを含むようにシステムをプログラムしてもよい。さらにまた、システムは、異なる用途に対する異なる動作特性を含む4つ以上の設定値を含み得る。段階的増加モード、すなわち、オンデマンド行なわれる処置の際に開始されたり、決められた圧力閾値に対して自動的に行なわれたりするモードであって、電流が短時間に既定のステップ(例えば0.2mA)で増加して運動応答を検出したりしなかったりするモードがターゲットモード1であり、圧力が上昇する場合、電流印加が2mAまで比較的急激に段階的に増加し、施術者は運動応答の場合に電流を止めることができる。
操作方法
【0071】
以下、上記のシステムを用いて神経ブロック注入薬を投与する典型的な方法を説明する。本システムは末梢神経ブロック処置に使用するのに限定されるものでないことが理解されるべきである。従って、以下で説明する原理および方法は、様々な用途および処置において組織および解剖学的領域への注入に容易に適応することができることが理解されるべきである。
【0072】
システムは、針が配置されてへこませているのか、神経束内にある(すなわち、神経束内に配置されている)のかを検出するのに使用され得る。システムは、いくつかの変数の組み合わせに基づいて判断する。まず、針が神経周膜に穿刺されている場合、軸索が神経内膜内にきつく詰まっており、神経周膜が剛性が高く柔軟性の低い構成要素の境界を形成するので、流体圧はきわめて高くなる。さらに、針が神経内膜に穿刺されている場合、針先またはその近傍で患者に加えられる低電流印加の電気的刺激に対する顕著な電気運動応答(EMR)が施術者によって観察される可能性が高い。さらにまた、針が神経に接近するにつれて、神経が低強度の電気的印加(2mA未満)に応答する場合がある。そのため、様々な特徴をモニタして、針が神経束内に位置するので再配置する必要があるか否かを判断してもよい。従って、システムは以下のように操作され得る。
【0073】
図5を参照すると、ステップ500で、施術者が、上限閾値および/または流体流速および/または電気的刺激が始まる流体圧、または処置を開始するべきベースライン電流印加などの処置パラメータを選択する。例えば、施術者は300mm/Hgなどの上限閾値圧力を設定してもよく、また、施術者は電気的刺激を開始する閾値、または50mm/Hgでベースライン電流を超えて段階的に増加する電流印加を開始する閾値を設定してもよい。あるいはまた、システムが用いられる処置の種類を施術者が選択する場合に、システムで上限閾値が予め設定され得る。同様に、施術者が針を通る流体流速を選択してもよく、あるいは施術者が処置のタイプを選択するときに流速を自動的に設定してもよい。これに加えて、周波数、高強度、低強度、ベースライン電流印加、段階的に増加する電流印加の強度のステップ、持続時間
、周波数、間隔などの印加される電気的神経刺激の特性を施術者が選択してもよい。処置パラメータ群が選択された後、施術者は処置を開始する指示を与える。例えば、施術者は、駆動ユニット上のスタートボタンを押してもよい。
【0074】
ステップ510で、施術者は針を患者の体内に進める。針は1~3mm/secなどの任意の様々な挿入速度で進められ得る。好ましくは、針はほぼ一定の速度で挿入される。これに加えて、処置中、制御システムは針先にイオン流体の連続流を流す。流速は、前述したように、様々なパラメータに応じて変更され得る。例えば、針内の流体圧が最大閾値を超えない限り、流体流れを約0.02mL/secで注入してもよい。
【0075】
ステップ520で電気刺激(ES)が印加される。例えば、絶縁針の針先を介して電気的刺激が印加される。針を通じて注入されるイオン流体がインピーダンスを低下させ、電気刺激から患者が感じる痛みや不快感を低減させることができる。セットアップステップ500で確立されたパラメータに応じて電気刺激の強度および周波数は変化し得る。
図4は、針が患者に挿入され次第開始されるような電気刺激を示すが、電気刺激は処置の後半となるまで開始されなくてもよいことが理解されるべきである。例えば、測定流体圧が閾値を超えるまで電気刺激が開始されなくてもよい。このような方法では、電気刺激は以降で説明されるステップ540まで開始されない。
【0076】
ステップ530で、施術者が針を進めるとき、システムは針先での流体圧を絶えず測定し続け、測定された圧力に関して視覚的または聴覚的なフィードバックを行なう。例えば、上記したように、システムは、針とインラインにて流体圧を測定するように動作可能な圧力センサ40を含み得る。センサは、電気刺激を制御するのに用いることができる信号を制御ユニット50に提供し得る。
【0077】
ステップ535で、システムは、検出された流体圧を既定の閾値と比較する。本例では、薬剤の注入中にステップ535を行なう。検出された流体圧が閾値を超えない場合、方法はステップ510に戻り、施術者が針を進めることを続行して、標的神経の局在化を試みる。流体圧が閾値を超えていることをシステムが検出した場合、方法はステップ540に進む。
【0078】
ステップ540で、圧力が閾値を超えるので、電気的神経刺激の特性が変更される。例えば、前述のように、流体圧が第1の閾値を超えるまで電気的刺激が開始されなくてもよい。流体圧が第1の閾値を超える場合、システムはステップ540で電気的刺激を開始する。同様に、流体圧が第2の閾値を超える場合、システムはステップ540で電気的刺激の強度を変更して、電気的刺激を印加し続ける。例えば、電気的刺激が開始されるときに電気的刺激が1.0mAで印加されるようにシステムを構成し得る。流体圧が第2の閾値を超える場合、電気的刺激を0.4mAに下げるなどして、電気的刺激の強度を減少させてもよい。
【0079】
ステップ540では、流体圧が上限閾値を超えるのに応じて、電気神経刺激を手動で変更したり、システムによって自動で変更したりしてもよい。例えば、流体圧が第2の閾値を超えると、システムは電気的刺激を開始したり強度を変更したりするなどして自動的に電気的刺激を変更してもよい。あるいはまた、システムがユーザに信号(聴覚または視覚信号など)を提供し、施術者がボタンやタッチスクリーンなどの制御要素を操作して電気刺激を変更してもよい。施術者の操作実施に応じて、電気神経刺激が変更され、患者に印加される。
【0080】
ステップ545で、患者をモニタして、筋単収縮などのような臨床的に観察可能な応答を検出する。以下で説明されているように、このモニタリングは、施術者が筋単収縮を視覚的に観察して、押しボタンなどの入力機構を作動させるなど、手動で行なってもよい。あるいはまた、モニタリングは自動であってもよい。特に、システムは単収縮を検出するセンサを含み得る。センサが筋単収縮を示す特性を検出した場合、センサは単収縮が検出されたことを示す信号をシステムに提供する。電気刺激に応じて単収縮が検出されない場合、方法はステップ510に戻り、施術者は針を進めることを続行する。単収縮が検出される場合、針が標的神経の近傍にある可能性がある。ただし、流体圧が第2の閾値を超えると、針は、神経束内にある可能性があり、針が神経内にある状態で麻酔薬を注入すれば、損傷や併発症につながる場合がある。従って、ステップ545で単収縮が検出される場合に方法はステップ550に進んでもよい。
【0081】
ステップ550で、施術者が針を再配置して、針先を神経の近傍に配置することを試みるが、針先が神経内にあったり神経の神経周膜の表面と直接接触したりするのではない。例えば、施術者が針を僅かに引き抜いた後、神経の近傍に針先を配置することを試みてもよい。再配置するステップは、針が神経から引き抜かれた後、神経の近傍に再配置されたことを施術者が視覚的に確認することができるように超音波によって誘導してもよい。針が神経内に配置された場合、上記のように流体圧が第2の閾値を超えることになる。設定値1の例の場合として、圧力が圧力閾値300mm/Hgを超え、施術者が電気的刺激強度における低減から筋単収縮を検出した場合、施術者は入力信号を送り、システムは警告を行なったりアラームを提供したりして施術者が流体をさらに注入するのを妨げる。その際に針を引き抜くと、流体圧が閾値未満に降下することで、流体流れが再開する。従って、針を再配置した後、方法はステップ555に進む。
【0082】
ステップ555で、流体圧を評価し、流体圧が第2の閾値を超えるか否かを判断する。流体圧が第2の閾値(本例を用いることで300mm/Hg(設定値1))を超える場合、針先は依然として神経内にある可能性がある。従って、針が再配置されるように方法はステップ550に戻る。あるいはまた、針を引き抜いて、プロセスがステップ510で再開してもよい。針を再配置するステップが、針先を神経内にある状態(すなわち神経束内)から引き抜いた場合、針を引き抜くことで、流体圧が第2の閾値未満に降下する。従って、流体圧が第2の閾値未満に降下する場合、方法はステップ565に進む。
【0083】
ステップ565で電気的刺激を印加し、電気的刺激に応じて単収縮が観察されるか否かを施術者が観察する。施術者が単収縮を観察する場合、施術者は、観察可能な応答が検出されたか否かを示す入力をシステムに提供し得る。例えば、施術者が単収縮を認めた場合、施術者は第1のボタンを押してもよく、施術者が収縮に認めなかった場合、施術者は第2のボタンを押してもよい。印加される電気的刺激は、ステップ540で変更された電気的刺激であることに留意するべきである。例えば、流体圧が第2の閾値を超え、電気的刺激の強度を下げた場合、ステップ565にわたって電気的刺激を印加し続ける。従って、ステップ565で施術者が単収縮を観察する場合、変更された(すなわち強度の増減)電気的刺激に神経が応答し、流体圧が神経外の状態と合致することを施術者は確認済みである。従って、施術者が電気的刺激に応じた単収縮を観察する場合、方法はステップ570に進む。施術者が単収縮を観察しない場合、処置はステップ510に戻り、標的神経の探索を再開する。
【0084】
ステップ570でシステムは、針が注入するのに適切に配置されている(すなわち、針先が神経束外に配置されている)ことを示す信号を施術者に提供する。例えば、制御ユニット50が、「進む」という語を発するなど、聴覚信号を提供したり、または駆動ユニットまたはハンドピースのディスプレイスクリーンに「進む」という語などの視覚信号を提供したりしてもよい。
【0085】
ステップ570で、流体の流速が第1の流速よりも高い第2の流速まで増加する。施術者は、針が適切に配置されていることを施術者が検出することができるように、観察可能な暫定量を注入してもよい。配置が確認されると、施術者は、流体をボーラス注入して患者を麻酔してもよい。あるいはまた、施術者は、最初に針の配置を確認する量を注入せずに、流体をボーラス注入してもよい。いずれにしても、ステップ570で、前の低流速よりも高い流速で所定の量の流体を注入する。例えば、駆動ユニットがモータの速度を上げるなどして流速を自動的に増加させる。
【0086】
上記で説明したように、システムは測定された様々な特性を組み合わせて、針が標的神経の近傍に配置されているかどうかと、針が神経束内にあるのか、または神経束外にあるのかを評価する。
図5に示されている典型的な方法において、当該方法は、針先での流体圧、並びに印加された電気的刺激の強度とに関する特徴を包含するものである。
【0087】
流体流れを停止させるための最大設定値圧力としての300mm/Hgの閾値などのような、上述された値は一例であり、臨床医の裁量で、より低い設定値圧力またはより高い設定値圧力を選択してもよいことが理解されるべきである。同様に、下限および上限電気的強度に関する0.4mAおよび1.0mAの値は一例であり、より大きい値またはより小さい値を設定してもよい。しかし、本例では、2.0mAを超えない上限電流量を選択することが望ましい場合がある。ここで説明されている技術は、ヒト組織および動物組織に同じように適用可能である。
可変段階的増加量電流印加
【0088】
前述の説明では、システムは、閾値を超える検出中の流体圧などの所定の特性に応じて変化することができる電気的インパルスまたは印加を提供するものとして説明されている。しかし、特性の検出前には、電気的インパルスは概して固定されたものであった。しかしながら、以下でさらに説明されているように、連続して可変である電気的インパルスを与えることが望ましい場合がある。
【0089】
ここで
図6~
図8を参照すると、システムの代替的な実施形態が示されている。システム610は、別体の作動装置をシステムが含み、かつ電気インパルスが絶えず変化し続ける電気的刺激を与えるようにプログラムされたコントローラをシステムが含むことを除いて、上述のシステム10と同様に構成されている。
【0090】
システム610は、上記のシステム10および薬剤供給システム50と同様に構成されている薬剤供給システム650を含む。同様に、システム610は、注入アセンブリ620と、ハンドピースまたは針アセンブリ700とを含む。以下で別様に説明される場合を除き、要素620,650および700は上記の対応する要素20,50および100と同様に構成されている。
【0091】
システム610は、遠隔配置作動装置750をさらに含む。遠隔配置作動装置750は別体の要素であってもよいし、ハンドピース700に組み込まれてもよい。あるいはまた、ハンドピース700は単純なハンドルであってもよく、遠隔配置作動装置750は別体であってもよい。さらにまた、遠隔配置作動装置750を薬剤供給システム650に実質的に組み込み得る。遠隔配置作動装置が別体の要素であるのか、システムの別の要素に組み込まれるのかにかかわらず、以下の説明では、作動装置を遠隔配置作動装置と称する。
【0092】
本例では、遠隔配置作動装置750は、薬剤供給システム650に接続された手動で作動可能な別体の要素である。遠隔配置作動装置は、ボタンなどの1つ以上の入力機構を有する手持ち式のデバイスなどの様々な作動装置のいずれであってもよい。あるいはまた、遠隔配置作動装置には、作動装置を操作する仕方によってシステムの動作を制御する単一の作動装置を組み込み得る。例えば、施術者の手の一方を用いることなく施術者が作動装置を操作することができるように、遠隔配置作動装置はフットペダルであってもよい。施術者は、フットペダルを操作する仕方を変更することによってシステムに異なるコマンドを送ってもよい。例えば、フットペダルのシングルクリック(踏んで放す)によって第1のコマンド信号を駆動ユニット650に送り、素早いダブルクリックによって第2の信号を駆動ユニットに送ってもよい。さらにまた、遠隔配置作動装置は、施術者が音声による作動によって駆動ユニットに制御信号を提供することができるように音声作動要素を備えてもよい。
【0093】
上記のように、遠隔配置作動装置750から受けた信号に応じて様々な動作制御を制御するように制御ユニット650を構成し得る。例えば、遠隔配置作動装置は、以下のパラメータの1つ以上を制御するように動作可能であってもよい。
流速:駆動ユニット650からの流体流れは、遠隔配置作動装置を作動させることによって手動で変更してもよい(例えばボタンを押す)。作動装置を作動させるたびに、制御ユニットは既定の増分で流速を増加させてもよい(例えば0.02ml/sec)。あるいはまた、作動装置を放すまで作動装置を押したままにして流速を増加させることにより、流速を変更してもよい(同様に、流速を段階的に減少させてもよい)。
高速流:遠隔配置作動装置を作動させることで、流体を噴出(burst)させて(例えば0.1ml/sec)、局所麻酔薬注入の開始時に針先の適切な位置を確認してもよい。
ターボ流:針が適切に配置されたときに遠隔配置作動装置を動作させて麻酔薬をボーラス注入してもよい(例えば0.2ml/sec)。
吸引サイクル:遠隔配置作動装置を作動させることによって駆動ユニット650のシリンジプランジャを引き戻す。プランジャの引き戻しは、シリンジを吸引して、針先が血管に入ったか否かを判断し、吸引中に針ハブやチューブ内に血液が入ったことを特定するように動作することができる。
「停止」:遠隔配置作動装置を動作することで、駆動ユニット650からの流体の流れが停止する。
AIEI作動:遠隔配置作動装置を作動させるとAIEIが開始または停止するように、遠隔配置作動装置によって電気刺激を制御することができる。
神経刺激器:刺激発生器によって提供される電気インパルスの特性を遠隔配置作動装置によって制御してもよい。例えば、電気インパルスの強度を変更したり中断させたりしてもよい。同様に、遠隔配置作動装置を作動させることによって後述されている印加プロファイルを変更することができる。
【0094】
有線接続を用いたり無線接続を用いたりして遠隔配置作動装置は制御ユニット650に接続され得る。例えば、遠隔配置作動装置は、ブルートゥース(Bluetooth(登録商標))または同様の無線規約による制御ユニット650に無線接続される複数の制御ボタンで、手持ち式で遠隔操作するものであってもよい。遠隔配置作動装置の構造にかかわらず、遠隔配置作動装置は、処置中に施術者によって作動させられ、システムによって提供される流体流れや電気的刺激を制御するための1つ以上の制御信号を駆動ユニットに送るように構成される。
【0095】
以下でさらに説明されているように、連続的に可変である電気的インパルスを提供するようにシステム610を構成し得る。この可変電気インパルスをここでは自動段階的増加電気インパルス(AIEI)電流刺激と称する。この用語AIEIは、神経刺激用の既定の予め設定された印加値のセットからなる印加プロファイルとして定義されると解することができる。一定の刺激の代わりにAIEIを用いたり、一定の刺激と組み合わせてAIEIを用いたりしてもよい。例えば、以下でさらに説明されているように、システムは処置の一部で一定の電気インパルスを用いてもよく、処置の別の部分でシステムはAIEI刺激を提供し得る。従って、動作の異なるいくつかのモードを含むようにシステム610を構成してもよく、これにより、施術者は施術者の好みや処置の特性に応じて異なるいくつかのモードから選択することができる。例えば、以下の手動モード、自動モード、半自動モードを含むようにシステム610をプログラムしてもよい。
手動モード:遠隔配置作動装置750を介して施術者が神経刺激器を制御することができる。施術者は、独立した手動制御パラメータとして、駆動ユニット650からの流体の流速と神経刺激とを制御することができる。
自動モード:圧力がAIEIの開始を制御する。これに加えて、最小強度の印加が、EMR(電気的運動応答)が特定される決められた最大圧力閾値と組み合わさるとき、システムは針への流体流れを止める。これらの条件はまた、施術者に対する警報または警告と組み合わせられてもよく、このような条件は、患者への流体注入を進行しない「警報」条件および「レッドフラッグ」条件として合致しかつ機能するというものである。
半自動モード:単一パルス電気的印加と関連づけて圧力感知を動作させることができ、このモードでは、圧力閾値および最低強度の印加の条件がEMRを誘発して、システムに対する電気運動応答の応答観察入力に基づいてシステムが自動的に警報を発して流体の流れを止める。
【0096】
上記のように、制御ユニット650は、神経刺激用の電気的インパルスを提供する刺激発生器を含む。刺激発生器は、以下のようなものを含むが、これらに限定されるものではなく、電気インパルスの様々な異なるプロファイルを提供するようにプログラムしてもよい。
無神経刺激モード:電流が流れない。
シングルパルスモード:システムは、シングルパルスやシングルトゥイッチ(single twitch)と呼ばれる特定の強度および持続時間を持つシングルパルス(電流印加)を放つ。例えば、0.1msで0.1~6mAまたは~1msで0.5~6mA、1~4Hzのパルスを放つ。
AIEIモード:一連の変化する電気的インパルスが提供される。インパルスは第1の電気インパルスから始まり、最大値まで段階的に徐々に増加した後、最小値に再設定され得る。このようにして、刺激発生器は、AIEIが機能している間、段階的に絶えず変化し続ける一連のインパルスを提供する。
【0097】
神経刺激の目的は、上記のような顕著な筋単収縮またはEMRを起こすことである。施術者はEMRを検出するために患者をモニタし得る。EMRに応じて、施術者は、EMRが神経刺激に応じて観察されていることを示すデータをシステムに入力してもよい。例えば、施術者がEMRを観察した場合、施術者は遠隔配置作動装置750などの作動装置を操作してもよい。あるいはまた、EMRを示す特性を検出するセンサ775をシステムが含み得る。センサは別体の要素であってもよいし、針が取り付けられたハンドピースに含まれてもよい。例えば、センサ775は、神経刺激に応じた筋単収縮を示す振動を検出する電極加速度計または筋電センサまたは同様の要素を含み得る。単収縮を示す特性の検出に応じて、センサ775は、単収縮が発生したことを示す信号を駆動ユニットに与える。以下でさらに説明されているように、システムは、単収縮が発生したことを示す信号に応じて流体および神経刺激に関するさらなる動作を制御してもよい。
【0098】
前述の説明では、システムには薬剤供給システム650が組み込まれ、当該薬剤供給システム650には、針が神経に対して適切な位置にあるか否かを判断するための神経刺激を与えるために一連の電気インパルスを提供するための刺激発生器が組み込まれる。施術者にある視覚的な誘導を与える超音波プローブを組み込むことも望ましい場合がある。特に、システムは、音波を発しかつ受け、当該音波に関する信号を超音波プロセッサに伝えて超音波画像を生成するための超音波変換器を含むプローブ810を含む超音波システム800を含み得る。システム610は、超音波画像を表示して標的神経に対する針の画像を表示するディスプレイも含み得る。これに加えて、遠隔配置作動装置750を超音波要素に組み込むことが望ましい場合がある。例えば、遠隔配置作動装置750を超音波プローブ810に組み込んでもよく、これにより、流体流れおよび/または神経刺激を超音波プローブ上にある作動装置によって遠隔制御することができる。
【0099】
上記に鑑みて、システムは、一連の電気的インパルスを提供して神経刺激を与えるために用いられ得、また、電気的インパルスの特性は処置の異なる部分で変化してもよい。これに加えて、電気的インパルスの特性は、システムによって提供される補助情報が、標的位置に針先が近接していることを示すか否かに基づいてを変更され得る。例えば、超音波が用いられ、画像が標的神経に対する針の鮮明な画像を提供する場合、超音波は神経の近傍に針を誘導する情報を提供する。このような場合、施術者は神経刺激を針挿入の最後の部分で針を誘導するために使用するだけで済む。すなわち、この局在化モードでは、針がすでに標的神経に比較的近接した後に、神経刺激が針を誘導するために用いられる。この局在化探索をターゲットモードと称する。対照的に、施術者に針の位置に関する補助情報が与えられていない場合、神経刺激は、より長距離から標的神経に針を誘導するのに用いられる。例えば、超音波による画像は、神経に針が近接していることを鮮明に示さない場合があるし、処置中に超音波がまったく提供されない場合がある。このような場合、ターゲットモードよりも遠くから針を誘導するのに神経刺激が用いられる。この広域探索を探索モードと称する。システムは、探索モードおよびターゲットモードのいずれでの間でも誘導を提供できるように構成され得る。これに加えて、システムは、処置中に探索モードからターゲットモードに切り替わり得る。探索モードでは、針が標的神経から離れているので、電気的インパルスの強度は概して大きい。ターゲットモードでは、針が標的神経に近いので、電気的インパルスの強度は概して小さい。
【0100】
神経に対する近さに加えて、患者の特性が適切な電気的インパルスに影響する場合がある。例えば、小児に用いる場合、一般的に電気的インパルスは患者が成人である場合よりも弱い。従って、電気的インパルスの特性を患者の身体的特性に基づいて変更してもよい。
【0101】
システムは、様々な変数に基づいて一連の既定の刺激プロファイルを含み得る。例えば、プロファイルは、システムがターゲットモードで動作しているのか探索モードで動作しているのかに基づいてもよい。同様に、プロファイルの詳細は、患者が小児であるのか成人であるのかに基づいてもよい。従って、印加プロファイルと称する一連の既定のプロファイルを含むようにシステムをプログラムする。各印加プロファイルは、プロファイルの使用中に提供される電気的インパルスに関する情報を含む。例えば、プロファイルは、電流印加の開始強度または最小強度を含み得る。プロファイルがAIEIなどの電気的刺激が変化する処置のためのプロファイルである場合、プロファイルは印加の最高い強度などの情報も含み得る。これに加えて、プロファイルは、最小値と最大値との間の中間値と、段階的に増加する際の各増加間の時間とを含み得る。印加プロファイルは各電気的インパルスの持続時間も含み得る。さらにまた、印加プロファイルの1つ以上は、処置の一部での定常刺激ないしは一定の刺激と、処置の一部での可変刺激との両方を含み得る。印加プロファイルには、処置の双方の部分で提供される電気的インパルスに関するデータを記憶してもよい。印加プロファイルは、一定の刺激が提供されるのか可変刺激が提供されるのかを示す特性に関するデータも含み得る。例えば、神経刺激を一定のレベルで開始してもよい。この場合、刺激発生器が一定の強度の電気的パルス列を提供する。システムが閾値を越える流体圧を針先で検出する場合、システムは、刺激発生器が変化する強度の電気的パルス列を提供する、可変刺激を提供するように自動的に切り替えてもよい。
【0102】
さて
図7を参照すると、図は、Nで示されている標的神経に対する一連の針先位置を示している。針位置は1~7で示されている。位置1では、針が標的神
経から離れた筋肉に配置されている。位置1では、筋肉の密度が小さいので、針内の流体圧は比較的低く、また、針が標的神経から離れているので、高い強度の電気刺激に応答したとしてもEMRはない。位置2で、針は比較的高密度の構造の筋膜内または筋膜上にある。従って、流体圧が比較的高くなるが、針が標的神経から離れているので、EMRがない可能性が高い。針の位置3では、針が低密度の間質材料内にあるので、検出される流体圧は低くなり、電気的刺激が高い強度でない限り、EMRの発生は考えられない。位置4では、針先がパラニューリウムにあるので、針先は標的神経の外側にあるが、神経の近傍にある。この時点で、検出される流体圧は当然比較的低く、低い強度の電気的刺激でも高い強度の電気的刺激でもEMRが当然観察される。位置5,6および7では、針は神経内または神経の神経上膜内または神経周膜内のいずれかにある。従って、これらの位置の各々では、流体の注入によって神経に損傷を与える可能性がある。位置5~7の各々では、高い強度の神経刺激にも低い強度の神経刺激にも応答してEMRが当然観察される。位置5および7では流体圧は比較的高い一方で、位置6での流体圧は比較的低いものであり得る。
【0103】
このシステムの目的は、針を針位置4に誘導することである。特に、このシステムは、出口圧力および神経刺激からの電気的運動応答を、情報としての筋肉興奮応答の観察もしくは検出または欠損と組み合わせて用いた場合に、1組の情報を理解することで決定することができる、解剖学的構造に対する針先の位置において、システムに直接的もしくは間接的に入力するか、または、筋肉の応答から特定の動作を実行するかのいずれかによって、PNB注入を実行することができる。従って、システムからの圧力および電気的変化を、観察または記録された電気的運動応答と組み合わせて用いることができるので、針が神経から離れて位置するのか(例えば針位置1~4)、神経の近くに位置するのか(例えば針位置4)、神経上または神経内または神経束内に位置するのか(例えば針位置5~7)を判断することができる。ピーク圧力は、針が筋膜などの緻密な結合組織内に位置し、神経をへこますか、神経内にある、言い換えれば、神経それ自体内まで入る、すなわち神経束内にあることを示す。
【0104】
図8を参照して、システム650を用いる典型的な方法の詳細を説明する。
【0105】
ステップ810:システムは、処置中に用いることができる印加プロファイルに関する複数の記憶データセットを含む。施術者は、開始流速、標的流体圧閾値、用いられる印加プロファイルなど、処置中にシステムの動作を制御する情報を入力する。システムにプログラムされる印加プロファイルは、ベースライン印加強度および自動段階的増加電気インパルス(AIEI)電流刺激を制御するためのデータを含み得る。システムは様々な印加プロファイルを含み得るが、本例は4つのプロファイルを含む。
【表A】
【0106】
ターゲットモード1および探索モード1は成人患者などの第1のタイプの患者の印加プロファイルである。探索モード1は、超音波画像が低画質である場合など、広域モードで用いられる高い強度プロファイルないしは「探索」プロファイルである。ターゲットモード1は、針が神経の位置にある可能性が高い場合の最小強度プロファイルないしは「ターゲット」プロファイルである。ターゲットモード2および探索モード2は、小児患者などの第2のタイプの患者用である。特に、
ターゲットモード1:良好な状況(高画質イメージング、エコー輝度が良好)での超音波誘導を行なう状況では、針先が超音波画像で予測されるよりも深く(オーバーシュート)、不注意な神経接触または神経穿刺を引き起こすことを検出するために電流ベースラインを最低(0.2mA~0.1ms)に設定し得る。
ターゲットモード2:例えば、問題がある状況(低画質イメージング、エコー輝度が劣悪)の場合にベースライン電流をより高い電流に設定し得る。より高いベースライン電流を利用することで、画像が明確に定まらない場合に実際の目的の標的よりも長い距離で針先から神経までの近さを施術者に知らせることができる。
探索モード1:例えば、超音波誘導を行なう状況で腱と神経とを区別するモード。構造に近づくと、神経の前で運動応答が観察され、腱の近くでは運動応答が観察されない。このモードでは、強い電流印加を用いて施術者が目的の最終対象を特定するのを支援し、初期のEMRを用いて目的の最終標的に向かう誘導を支援する。
探索モード2:例えば、超音波を用いずに針先から離れた神経構造を検出するモード。このモードは、施術者が意図している標的からの距離が長い場合に用いられる。目的の標的から長い距離で運動応答を誘発することができる強い電気的印加(0.5mA~1ミリ秒から開始)を放つことによって施術者を誘導する。
【0107】
上記のように、超音波ディスプレイはプロセス中に視覚的に誘導することができるが、印加プロファイルの選択は別にして、以下の方法は超音波からの入力なしで説明されている。
【0108】
このステップでは、駆動ユニット650または遠隔配置作動装置750上の入力機構を介してシステムを起動することによってシステムを始動する。システムは、22ゲージ(19G~25G、長さ25mm~15cm)の神経刺激針を有するシリンジ(例えば20mL)を用いてセットアップされる。チューブは、CompuFlo(登録商標)の器具で現在用いられているデュロメータ硬さが大きい小径のチューブとして提供される。これにより、駆動ユニット650が、流速を流し始める動作可能な状態になる。本例では、最初の流速は0.01mL/secであり、ベースライン電流と称する最初の神経刺激は一定値である。ステップ820:印加プロファイルが選択された後、システムが流体の最小の連続流を提供し、かつ刺激器がベースライン電流印加を提供する状態で、施術者が針を進める。
【0109】
ステップ825:筋単収縮が観察される場合、針が神経の領域内にある可能性がある。従って、施術者は針を進めながら患者を観察してベースライン刺激が単収縮を引き起こすか否かを特定する。単収縮が観察される場合、方法は後述されているステップ860に進む。施術者が単収縮を観察する場合、施術者は作動装置を作動させて(遠隔配置作動装置650を介するなどして作動)、単収縮が観察されたことを示す信号をシステムに提供し得る。あるいはまた、単収縮が発生したか否かを自動的に検出する検出器をシステムが含み得る。例えば、システムは、単収縮を示す振動を検出するセンサを含む。単収縮の検出に応じて、センサはシステムに信号を送ってもよく、これにより、システムはステップ860に進む。
【0110】
ステップ830:施術者が針を進める際、駆動ユニット650は針内の流体の流体圧を常に測定する。流体圧が閾値未満を維持する間、施術者が針を進め、刺激器がベースライン印加を提供する。流体圧が閾値を超える場合、針が神経上または神経内にある可能性がある。従って、流体圧が閾値を超える場合、システムはベースライン刺激を中断し、使用中の印加プロファイルに従ってAIEI刺激に切り替える(これは、ステップ810で選択された印加プロファイルであってもよいし、ステップ865で後述されている異なる印加プロファイルであってもよい)。
【0111】
流体圧閾値は、絶対値であってもよいし(例えば、200mm/Hgよりも大きい)、閾値を超える圧力の相対変化であってもよい(例えば、80mm/Hgの圧力における変化)。解剖学的位置に応じて、この圧力閾値は異なることが可能であることが理解されるべきである。しかし、典型的には、圧力変化は50mm/Hg~150mm/Hgの範囲内である。
【0112】
ステップ840:流体圧が閾値を超える場合、システムはAIEIを開始する。AIEI中、システムは下限強度から上限強度まで印加強度を連続的に変更する。上限印加強度および下限印加強度は印加プロファイルによって設定される。これに加えて、中間値と中間値の数とを印加プロファイルによって設定してもよい。例えば、表Aのターゲットモード1では、印加プロファイルはAIEIの最小印加強度または開始印加強度と、最小強度と最大強度との間の6つのステップとを示す。システムが最大強度の印加を提供した後は、次の印加は最小値である。このようにして、システムは、最小から最大まで段階的に変化する一連の印加を提供する。特に、圧力センサが設定値閾値(例えば80mm/Hg)を超える流体圧を検出すると、圧力の上昇により、ベースライン電流から、0.3mA→0.4mA→0.5mA→0.7mA→1.0mA→1.5mA→2.0mA→2.5mAで終了する段階的に増加する印加を行なうAIEIへの切り替えが自動的に開始される。
【0113】
ステップ850:ステップ825と同様に、AIEI刺激が運動応答または筋単収縮を引き起こすか否かを判断する。これは、単収縮を観察する施術者が手動で判断することができ、あるいはまた、単収縮を検出するセンサをシステムが含む場合には自動的に判断することができる。
【0114】
ステップ855:単収縮が検出されない場合、システムがAIEI刺激を提供しかつ施術者および/またはシステムが単収縮をモニタし続けている状態で施術者が針を進めることを続行する。圧力が高い状態を維持するまでAIEI刺激は自動的に再開してもよく、圧力が圧力閾値未満に降下した場合にAIEI刺激は停止してステップ820に戻ってもよい。
【0115】
ステップ860:単収縮が観察される場合、システムは、印加または印加プロファイルが最小印加プロファイルに設定されているか否かを判断する。例えば、システムは、印加プロファイルが探索1などの「探索」プロファイルに設定されているか否かや、印加プロファイルがターゲット1などの「ターゲット」プロファイルに設定されているか否かを検出してもよい。
【0116】
ステップ865:印加プロファイルが最小に設定されていない場合、印加プロファイルを次の最低印加プロファイルに下げる。上記の例では、印加プロファイルを探索1からターゲット1に下げることになる。この変更は、検出されている筋単収縮に関する入力に応じて自動的に行なってもよいし、筋単収縮が観察され、印加プロファイルが最小印加プロファイルに設定されていないことを施術者が確認してから、施術者が手動で変更を行なってもよい。
【0117】
ステップ870:印加プロファイルが最小に設定されており、単収縮が観察される場合、針が神経内または神経の近くにある。針が神経内にある場合、流体をボーラス注入するべきではない。針が神経内にある場合には流体圧が高くなる。従って、流体のボーラス注入を許可する前に、システムは流体圧が閾値を超えるか否かを判断する。
【0118】
ステップ875:流体圧が閾値を超える場合、針は神経内にある可能性がある。従って、針を引き抜くべきである。針が神経内にある場合、僅かに針を引き抜けば当然適切な位置に針が配置される。従って、針が引き抜かれた後、方法はステップ850に戻り、AIEIが行なわれ、システム/施術者が筋単収縮をモニタする。しかし、場合によっては、安全の点から、針をさらに引き抜くべきであることが示され、これにより、方法はステップ820に戻る。
【0119】
ステップ880:流体圧が閾値未満であり、小印加強度で筋単収縮が観察される場合、このことは、針が神経の近くにあることを示し、低流体圧は針が神経の外側にあることを示す。従って、薬をボーラス注入することができる。
【0120】
上記のように、この方法は針を標的神経に誘導するように動作可能である。特に、この方法により、針が神経内にある状態で注入しないようにするための安全機構を提供することができる。例えば、流体圧が閾値を超えることを示す信号と、EMRが最小強度の電気的刺激に応答したことを示す信号とをシステムが検出する場合、システムは神経内に針があることを示す警報、警告またはアラームを発して、さらに注入することを妨げる。前述したように、EMRに関する信号を施術者が手動で提供してもよいし、EMRに応じて信号を自動的に提供する検出器をシステムが含み得る。これに加えて、流体圧が高くかつEMRが最小の神経刺激によって発生したことを示す信号に応じて針への流体流れを止めるように、流体の流れを制御するようにシステムを構成し得る。
【0121】
前述の説明では、システム610を用いて針が神経内にあるか否かを特定し、針が神経内にある場合に施術者に指示を提供する。これに加えて、システムは、針が神経内にあるとの判断に応じて流体流れを制御することができる。特に、針先が神経内にあると判断される場合、システムは流体の流れを妨げることができる。システムは複数の基準に応じて針の位置を判断する。特に、流体圧が閾値を超えることと、検出可能な筋単収縮が最小の電気刺激に応答することに応じて判断する。針先が神経内であるか否かを検出することに加えて、以降でさらに説明されているように、神経ではない緻密な組織内に針先が配置されているか否かを検出するようにシステムをプログラムすることができる。
【0122】
上記のように、システム610は複数の設定値および/またはプログラムを含み得る。このような処置に対応する記憶プロファイルを選択することによって神経ではない緻密な組織を特定する処置を、施術者が開始してもよい。上記の方法のステップ820と同様に、施術者はベースライン刺激を用いて針を進めることになる。筋単収縮が検出される場合、針が神経の近傍にある可能性がある。従って、筋単収縮の検出に応じて、針を再配置する。流体圧が閾値を超える場合、針が緻密な組織内にある可能性が高い。ステップ840と同様に、流体圧が閾値を超える場合、AIEIを開始する。再び筋単収縮が観察される場合、針を再配置する。対照的に、流体圧が流体圧閾値を超えた状態を維持し、電気刺激の上昇に応じて筋単収縮が検出されない場合、システムは、神経ではない緻密な組織がある状態で針が配置されていることを示す信号を提供することができる。これに加えて、ステップ840でAIEIを行なう。ただし、神経ではない緻密な組織の位置を施術者が特定しようとするこのモードでは、針が神経の近傍にないようにするように設計されている連続最大値まで印加プロファイルを上げてもよい。
【0123】
このようにして、システムは、流体圧と、電気的刺激のレベルと、電気的刺激が行なわれてEMRがあったか否かとに関する基準を受ける。これらの基準に基づいて、神経ではない緻密な組織内または組織上に針先が配置されているか否かを判断するようにシステムを構成する。これに加えて、3つの基準、すなわち、流体圧が閾値を超えること、電気的刺激が閾値を超えること、および筋単収縮が検出されないことが満たされる場合にのみ注入が行なわれるように、流体の流れを制御するようにシステムを構成し得る。
【0124】
本発明の広範な発明概念から逸脱することなく、上記の実施形態に変更または修正を加えてもよいことは当業者であれば認識するであろう。例えば、上記の説明では、システムは、流体注入を実行することに関して説明されている。しかし、流体で満たされた組織を吸引するための針の配置にこのシステムを用いてもよいことは理解されるべきである。従って、本発明は本明細書で説明されている特定の実施形態に限定されず、請求項に示されている発明の範疇および精神の内にあるすべての変更および修正を含むことを意図するものであることが理解されるべきである。