(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20221216BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20221216BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
E02F9/20 M
E02F9/24 B
E02F9/26 A
(21)【出願番号】P 2020052802
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 勝道
(72)【発明者】
【氏名】塩飽 晃司
【審査官】大塚 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-178362(JP,A)
【文献】国際公開第2011/148946(WO,A1)
【文献】特開平11-293706(JP,A)
【文献】特開2007-186953(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062363(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/42-3/43
E02F 3/84-3/85
E02F 9/00-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、
前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、
前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、
前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部と
を備え
、
前記パラメータ演算部は、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、前記アーム長の最大値が演算されたときに前記回動角検出装置により検出された回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とする
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、
前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、
前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、
前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部と
を備え
、
前記パラメータ演算部は、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長と前記回動角検出装置により検出された回動角との複数の測定点に基づき、アーム長と回動角との関係を表す余弦波を推定し、余弦波から求めたアーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、余弦波から求めた前記アーム長の最大値と対応する回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とする
ことを特徴とす
る作業機械。
【請求項3】
前記重心位置推定動作を前記作業機械のオペレータにガイダンスするガイダンス実行部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記パラメータ演算部は、さらに前記アクチュエータを駆動制御して前記重心位置推定動作を実行する
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の作業機械。
【請求項5】
前記パラメータ演算部により推定された重心位置に基づき前記作業機械のZMPを演算し、前記ZMPと前記作業機械の地表に対する接地点から求めた多角形との比較に基づき、前記作業機械の姿勢の安定度を判定する車体安定性演算部をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の作業機械。
【請求項6】
複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、
前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、
前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、
前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部と
を備え、
前記パラメータ演算部は、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、前記アーム長の最大値が演算されたときに前記回動角検出装置により検出された回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とし、
前記パラメータ演算部により推定された重心位置に基づき前記作業機械のZMPを演算し、前記ZMPと前記作業機械の地表に対する接地点から求めた多角形との比較に基づき、前記作業機械の姿勢の安定度を判定する車体安定性演算部と、
前記パラメータ演算部により推定された重心位置を記憶するパラメータ記憶部とをさらに備え、
前記車体安定性演算部は、前記作業機械の作業が開始されたときに、前記作業機械の前回の作業時に前記パラメータ記憶部に記憶された重心位置を読み出して前記作業機械のZMPの推定処理を実行する
ことを特徴とす
る作業機械。
【請求項7】
複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、
前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、
前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、
前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部と
を備え、
前記パラメータ演算部は、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、前記アーム長の最大値が演算されたときに前記回動角検出装置により検出された回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とし、
前記パラメータ演算部により推定された重心位置に基づき前記作業機械のZMPを演算し、前記ZMPと前記作業機械の地表に対する接地点から求めた多角形との比較に基づき、前記作業機械の姿勢の安定度を判定する車体安定性演算部をさらに備え、
前記車体安定性演算部は、さらに前記作業機械の姿勢が不安定になっていると判定されたときに、前記作業機械のアクチュエータを安定方向に駆動制御する
ことを特徴とす
る作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業装置を備えた作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業機械、例えば油圧ショベルは、クローラにより走行可能な下部走行体上に旋回可能に上部旋回体を設け、上部旋回体の前部に多関節型の作業装置を設けてなる。作業装置は上部旋回体から片持ち梁的に前方に張り出した状態で作業内容に応じて姿勢変化するため、それに伴って車両の重心も絶えず変化する。無理な操作を行うと作業機械のバランスが崩れて転倒する可能性があることから、作業中のオペレータは常に車体の安定性に気を配り、転倒の可能性が生じた場合には即座に安定方向への操作を行う必要がある。
【0003】
このような作業中のオペレータの負担を軽減するために、例えば特許文献1に記載の油圧ショベルは、ZMP(Zero Moment Point)を用いた車体の安定性評価に基づきオペレータへの報知を行っている。ZMPは車体の動力学的な重心位置であり、油圧ショベルの接地点から求めた支持多角形の周縁の警告領域内にZMPが含まれるときに、転倒の可能性ありとして転倒警告を発している。
【0004】
一方、特許文献2には、メインブームの先端に俯仰動可能にジブを連結し、ジブの先端に俯仰動可能にアームを連結し、アームの先端に作業内容に応じて複数種類の作業具を任意に連結可能とした解体作業機が開示されている。作業具の重量や重心位置に応じて車体の安定性、ひいては許容できるジブの俯仰角度が相違することを鑑みて、作業具のパラメータとして重量及び重心位置を入力装置に入力して俯仰角度の上限角度を求め、作業中に俯仰角度が上限角度を超えたときには、ジブの俯仰動を制限することで車体の安定性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/148946号
【文献】特開2016-169473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術では、ZMPを演算するための情報の一つとして油圧ショベルの各部の重量や重心位置等のパラメータを要し、作業装置を構成する被駆動部材であるブーム、アーム、作業具等が作業内容に応じて交換された場合には、交換後の被駆動部材のパラメータに更新する必要が生じる。その対策として、例えば特許文献2の技術のように各パラメータを入力装置により入力することが考えられるが、入力すべきパラメータの情報を得るには、単体の被駆動部材の重量や重心位置を実際に測定する必要があり、被駆動部材が重量物であることと相俟って測定作業に手間と時間を要する。このため、それらの測定作業を含めた全体としての被駆動部材の交換作業についても非常に煩雑になるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、作業装置を構成する被駆動部材を交換する際に、その被駆動部材に関するパラメータの情報を簡単な手順により取得でき、全体としての被駆動部材の交換作業を容易かつ迅速に実施することができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の作業機械は、複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部とを備え、前記パラメータ演算部が、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、前記アーム長の最大値が演算されたときに前記回動角検出装置により検出された回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とすることを特徴とする。
また、本発明の作業機械は、複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部とを備え、前記パラメータ演算部が、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長と前記回動角検出装置により検出された回動角との複数の測定点に基づき、アーム長と回動角との関係を表す余弦波を推定し、余弦波から求めたアーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、余弦波から求めた前記アーム長の最大値と対応する回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とすることを特徴とする。
また、本発明の作業機械は、複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部とを備え、前記パラメータ演算部が、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、前記アーム長の最大値が演算されたときに前記回動角検出装置により検出された回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とし、前記パラメータ演算部により推定された重心位置に基づき前記作業機械のZMPを演算し、前記ZMPと前記作業機械の地表に対する接地点から求めた多角形との比較に基づき、前記作業機械の姿勢の安定度を判定する車体安定性演算部と、前記パラメータ演算部により推定された重心位置を記憶するパラメータ記憶部とをさらに備え、前記車体安定性演算部が、前記作業機械の作業が開始されたときに、前記作業機械の前回の作業時に前記パラメータ記憶部に記憶された重心位置を読み出して前記作業機械のZMPの推定処理を実行することを特徴とする。
また、本発明の作業機械は、複数の被駆動部材を互いに回動軸を介して連結し、前記各被駆動部材をアクチュエータの駆動により回動可能として多関節型の作業装置を構成し、前記作業装置を車体に設けてなる作業機械において、前記各被駆動部材の内の何れか一つを重心位置の推定対象として定め、前記推定対象の被駆動部材を駆動するアクチュエータの負荷を検出する負荷検出装置と、前記推定対象の被駆動部材の前記回動軸を中心とした回動角を検出する回動角検出装置と、前記回動軸を中心として前記推定対象の被駆動部材を回動させる重心位置推定動作の実行中において、前記負荷検出装置により検出された負荷に基づき、前記アクチュエータの推力により前記回動軸を中心として発生するモーメントを演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記モーメント、及び予め判明している前記推定対象の被駆動部材の重量に基づき、前記回動軸から前記推定対象の重心位置までの水平方向の距離をアーム長として演算し、前記重心位置推定動作の実行中において、前記回動角検出装置により検出される回動角、及び前記アーム長に基づき、前記回動軸を中心とした角度及び前記回動軸からの距離として、前記推定対象の被駆動部材の重心位置を推定するパラメータ演算部とを備え、前記パラメータ演算部は、前記重心位置推定動作の実行中において、前記アーム長の最大値を、前記重心位置を表す前記回動軸からの距離とし、前記アーム長の最大値が演算されたときに前記回動角検出装置により検出された回動角を、前記重心位置を表す前記回動軸を中心とした角度とし、前記パラメータ演算部により推定された重心位置に基づき前記作業機械のZMPを演算し、前記ZMPと前記作業機械の地表に対する接地点から求めた多角形との比較に基づき、前記作業機械の姿勢の安定度を判定する車体安定性演算部をさらに備え、前記車体安定性演算部が、さらに前記作業機械の姿勢が不安定になっていると判定されたときに、前記作業機械のアクチュエータを安定方向に駆動制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の作業機械によれば、作業装置を構成する被駆動部材を交換する際に、その被駆動部材に関するパラメータの情報を簡単な手順により取得でき、全体としての被駆動部材の交換作業を容易かつ迅速に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る油圧ショベルの構成図である。
【
図2】角度センサによる油圧ショベルの各部の角度検出状態を示す説明図である。
【
図3】油圧ショベルの油圧回路の構成を制御コントローラと共に示す油圧回路図である。
【
図5】油圧ショベルの制御コントローラを中心としたシステム構成を示す制御ブロック図である。
【
図6】第1実施形態の制御コントローラの機能ブロック図である。
【
図7】第1実施形態のパラメータ演算部で実施される制御フローを示すフローチャートである。
【
図9】重心位置推定動作を実行するときの油圧ショベルの姿勢を示す説明図である。
【
図10】バケット周りのモーメントの釣り合いを示す説明図である。
【
図11】モーメントTcの演算手順を示す説明図である。
【
図12】バケットの重心位置の演算手順を示す説明図である。
【
図13】バケットの回動角度γ及びモーメントの腕の長さLwの測定結果をまとめた特性図である。
【
図14】第2実施形態の制御コントローラの機能ブロック図である。
【
図15】第2実施形態のパラメータ演算部で実施される制御フローを示すフローチャートである。
【
図16】アームの姿勢が
図9より傾いた場合のバケットの重心位置の演算手順を示す説明図である。
【
図17】アームが
図9の姿勢のときのバケットの回動に応じた重心位置の移動範囲例を示す説明図である。
【
図18】アームが
図9の姿勢から約90°車体方向に回動したときのバケットの回動に応じた重心位置の移動範囲例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をフロント作業装置を備えた油圧ショベルに具体化した一実施形態を説明する。なお、以下の説明では、フロント作業装置の先端に作業具としてバケットを備えた油圧ショベルを例示するが、複数の被駆動部材(ブーム、アーム、作業具等)を連結して構成される多関節型の作業装置を有するものであれば、油圧ショベル以外の作業機械への適用も可能である。
【0012】
まず、実施形態の説明に先立ち、本発明が如何なる知見に基づき想到されたかについて述べる。[発明が解決しようとする課題]に記載のように、ZMPを演算するためには油圧ショベルの各部のパラメータを要し、作業装置を構成する被駆動部材であるブーム、アーム或いは作業具等が交換された場合には、交換後の被駆動部材のパラメータに更新する必要がある。ところが特許文献1,2の技術では、そのために単体の被駆動部材のパラメータを実際に測定する必要がある。
【0013】
このような問題点を鑑みて本発明者は、被駆動部材のパラメータ中において重量や外形寸法等に比較して重心位置の測定が特に煩雑なため、その測定作業を省略できれば全体としての被駆動部材の交換作業を簡略化できる点に着目した。そして、作業装置への被駆動部材の組付状態において被駆動部材を回動させる際には、被駆動部材の重量により発生した回動軸を中心とするモーメントに抗して油圧シリンダにより被駆動部材が駆動される。この回動中には被駆動部材側のモーメントと油圧シリンダ側のモーメントとが釣り合った状態に保たれ、油圧シリンダ側のモーメント及び被駆動部材の重量については特定できるため、これらの情報に基づき回動軸を基準とした被駆動部材の重心位置を推定できる。
以上の知見に基づき本実施形態では、被駆動部材としてフロント作業装置のバケットの重心位置を推定対象としており、以下に第1及び第2実施形態として説明する。
【0014】
<第1実施形態>
<基本構成>
図1は実施形態に係る油圧ショベルの構成図、
図2は角度センサによる油圧ショベルの各部の角度検出状態を示す説明図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、車体2と多関節型のフロント作業装置3とにより構成されている。車体2は、走行左油圧モータ4l及び走行右油圧モータ4rにより走行する下部走行体5と、下部走行体5の上に取り付けられ、旋回油圧モータ6により旋回する上部旋回体7とからなる。
【0015】
フロント作業装置3は、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材としてブーム8、アーム9及びバケット10を連結して構成されている。ブーム8の基端は、上部旋回体7の前部においてブームピン8aを介して回動可能に支持されている。ブーム8の先端には、アームピン9aを介してアーム9が回動可能に連結されており、アーム9の先端には、バケットリンク10bのバケットピン10a(本発明の回動軸に相当)を介してバケット10が回動可能に連結されている。ブーム8はブームシリンダ11によって駆動され、アーム9はアームシリンダ12によって駆動され、バケット10はバケットシリンダ13によって駆動される。
【0016】
図1,2に示すように、ブーム8、アーム9、バケット10の回動角度α,β,γを測定可能なように、ブームピン8aにブーム角度センサ14、アームピン9aにアーム角度センサ15、バケットピン10aにバケット角度センサ16が取付けられている。上部旋回体7には、基準面F(例えば水平面)に対する上部旋回体7の傾斜角θを検出する車体傾斜角センサ17が取付けられている。なお、角度センサ14~16はそれぞれ基準面Fに対する角度センサに代替可能である。上部旋回体7と下部走行体5との相対角度を測定可能なように、旋回中心軸には旋回角度センサ18が取付けられている。これらのセンサ14~18はフロント作業装置3の姿勢を検出することから、以下の説明では、姿勢検出装置19と総称する場合もある。
【0017】
<油圧回路>
図3は油圧ショベル1の油圧回路の構成を制御コントローラと共に示す油圧回路図である。
図1~3に示すように、上部旋回体7に設けられた運転室21内には、油圧ショベル1の制御を司る制御コントローラ20が設置されている。制御コントローラ20には、走行左油圧モータ4l(下部走行体5)を操作するための走行左レバー22aを有する左モータ操作装置22と、走行右油圧モータ4r(下部走行体5)を操作するための走行右レバー23aを有する右モータ操作装置23と、アームシリンダ12(アーム9)及び旋回油圧モータ6(上部旋回体7)を操作するための操作左レバー24aを有するアーム・旋回操作装置24と、ブームシリンダ11(ブーム8)及びバケットシリンダ13(バケット10)を操作するための操作右レバー25aを有するブーム・バケット操作装置25とが接続されている。
【0018】
各レバー22a~25aに対するレバー操作に応じて、それぞれ対応する操作装置22~25から制御コントローラ20に操作信号が入力される。これらの操作装置22~25はフロント作業装置3の操作状態を検出することから、以下の説明では、操作装置26と総称する場合もある。
【0019】
上部旋回体7に搭載された原動機であるエンジン27は、油圧ポンプ28,29とパイロットポンプ30とを駆動する。油圧ポンプ28,29はレギュレータ28a,29aによって容量が制御される可変容量型ポンプであり、パイロットポンプ30は固定容量型ポンプである。油圧ポンプ28,29及びパイロットポンプ30はタンク31より圧油を吸引する。レギュレータ28a,29aの詳細構成は省略するが、制御コントローラ20から入力される制御信号に応じてレギュレータ28a,29aが駆動され、油圧ポンプ28,29の吐出流量が制御される。
【0020】
油圧ポンプ28,29から吐出された圧油は流量制御弁32~37に供給され、後述する電磁弁ユニット43の各電磁比例弁44a,44b~46a,46bから入力されるパイロット圧により各流量制御弁32~37がそれぞれ切り換えられる。この切換に応じて、油圧ポンプ28,29からの圧油が走行左油圧モータ4l及び走行右油圧モータ4rに供給されると、各油圧モータ4l,4rの回転に伴って下部走行体5が走行する。また、圧油がブームシリンダ11、アームシリンダ12及びバケットシリンダ13に供給されると、各シリンダ11~13の伸縮に伴ってブーム8、アーム9、バケット10がそれぞれ回動してバケット10の位置及び姿勢が変化する。また、圧油が旋回油圧モータ6に供給されると、旋回油圧モータ6の回転に伴って下部走行体5に対して上部旋回体7が旋回する。
【0021】
ブームシリンダ11、アームシリンダ12、バケットシリンダ13には、それぞれボトム室及びロッド室の圧力を検出する圧力センサ38a,38b~40a,40bが備えられ、各圧力センサ38a,38b~40a,40bからの検出信号が制御コントローラ20に入力される。これらの圧力センサ38a,38b~40a,40bはフロント作業装置3の負荷状態を検出することから、以下の説明では、負荷検出装置41と総称する場合もある。
【0022】
図4は
図3中の電磁弁ユニット43の詳細図である。同図では、ブームシリンダ11、アームシリンダ12及びバケットシリンダ13の流量制御弁32~34に対応する電磁比例弁44a,44b~46a,46bを抜粋して示しており、説明及び図示は省略するが、走行油圧モータ4l,4r及び旋回油圧モータ6に対応する電磁比例弁についても同一構成である。
【0023】
各流量制御弁32~34の油圧駆動部32a,32b~34a,34bには、それぞれパイロットライン47a,47b~49a,49bを介して電磁比例弁44a,44b~46a,46bが接続され、各電磁比例弁44a,44b~46a,46bにはポンプライン50を経てパイロットポンプ30からの圧油が供給されている。
【0024】
電磁比例弁44a,44b~46a,46bには制御コントローラ20が電気的に接続され、操作装置22~25からの操作信号に対応する制御信号が制御コントローラ20から入力されて、各電磁比例弁44a,44b~46a,46bがそれぞれ切り換えられる。そして、各電磁比例弁44a,44b~46a,46bの切換に応じて、パイロットポンプ30からの圧油が減圧されてパイロット圧として対応する流量制御弁32~37に入力され、上記のように各油圧アクチュエータ4l,4r,6,11~13の駆動により油圧ショベル1が稼働する。
【0025】
このように制御コントローラ20からの制御信号に応じて電磁比例弁44a,44b~46a,46bが開度制御されるため、操作装置26に対するレバー操作が行われない場合であっても、制御コントローラ20が電磁比例弁44a,44b~46a,46bの駆動、ひいては各油圧アクチュエータ4l,4r,6,11~13の駆動を強制的に実行可能となっている。
【0026】
図2に示すように、ポンプライン50には電磁切換弁として構成されたロック弁51が介装され、運転室21内に配置された図示しないゲートロックレバーの位置検出器が電気的に接続されている。ゲートロックレバーはロック位置とアンロック位置との間で切り換えられ、それに応じたポジション信号がロック弁51に入力され、ゲートロックレバーのロック位置ではロック弁51が閉弁してポンプライン50を遮断し、アンロック位置ではロック弁51が開弁してポンプライン50を開通させる。これによりオペレーションは、ゲートロックレバーをロック位置に切り換えることにより、操作装置26に対する意図しないレバー操作を無効化して走行、旋回、掘削等の動作を禁止することができる。
【0027】
<システム構成>
図5は油圧ショベル1の制御コントローラ20を中心としたシステム構成を示す制御ブロック図である。
制御コントローラ20は、入力部53と、プロセッサである中央処理装置(CPU)54と、記憶装置であるリードオンリーメモリ(ROM)55及びランダムアクセスメモリ(RAM)56と、出力部57とを有している。入力部53は、姿勢検出装置19を構成する各センサ14~18からの検出信号、操作装置26を構成する各操作装置22~25からの操作信号、及び負荷検出装置41を構成する各センサ38a,38b~40a,40bからの検出信号をそれぞれ入力し、CPU54が演算可能なように変換する。
【0028】
ROM55は、後述するフローチャートに係る処理を含めた制御内容を実行するための制御プログラム、及びフローチャートの実行に必要な各種情報等が記憶された記録媒体であり、CPU54は、ROM55に記憶された制御プログラムに従って入力部53及びメモリ55,56から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。出力部57は、CPU54での演算結果に応じた制御信号を作成し、その信号を電磁比例弁44a,44b~46a,46bや表示装置58(例えば液晶ディスプレイ)に出力する。これにより各油圧アクチュエータ4l,4r,6,11~13を駆動制御したり、後述する被駆動部材のパラメータ(バケット10の重心位置)を演算するために必要なフロント作業装置3の動作(以下、重心位置推定動作と称する)を表示装置58の画面上に表示させたりする。
【0029】
図6は制御コントローラ20の機能ブロック図である。
制御コントローラ20は、電磁比例弁制御部60と、表示制御部61と、パラメータ設定部62、車体安定性演算部63とを備えている。パラメータ設定部62はパラメータ演算部62aとパラメータ記憶部62bとを備えている。
電磁比例弁制御部60は、操作装置26がレバー操作されたときに、操作量及び操作方向に応じた制御信号を電磁比例弁44a,44b~46a,46bに出力する。
【0030】
表示制御部61は、パラメータ演算部62aから出力される作業装置姿勢及び作業動作内容に基づき表示装置58を制御する部分である。表示制御部61には、フロント作業装置3の画像及びアイコンを含む表示関連データが多数格納されている表示ROMが備えられており、表示制御部61が、入力情報に含まれるフラグに基づいて所定のプログラムを読み出すとともに、表示装置58における表示制御をする。
【0031】
パラメータ演算部62aは、後述する制御フローにて、姿勢検出装置19で検出された作業装置姿勢と負荷検出装置41で検出された負荷を基にバケット10の重心位置を演算する。パラメータ演算部62aは演算した結果をパラメータ記憶部62bに出力し、バケット10のパラメータを記憶させる。
パラメータ記憶部62bは、さらに、入力装置64で入力されたパラメータについても記憶するように備えられている。
【0032】
車体安定性演算部63は、姿勢検出装置19を構成する各センサ14~18からのフロント作業装置3の姿勢情報とパラメータ記憶部62bに記憶されているパラメータを基に、例えば車体2のZMPを演算する。ZMPについては周知であるため詳細は説明しないが、ZMPと油圧ショベル1の地表に対する接地点から求めた多角形との比較に基づき車体2の姿勢の安定度を判定するものであり、車体安定性演算部63は判定結果をオペレータに伝達できるように表示制御部61に出力する。
【0033】
<パラメータ演算の制御フロー>
図7はパラメータ演算部62aで実施される制御フローを示すフローチャート、
図8は入力装置の入力画面を示す図である。
図7の制御フローは、
図8で示す入力装置64の入力画面で、バケット10の重心位置を演算するために必要なパラメータである重量、寸法A、角度Bを入力した後、パラメータ演算モードへ移行する移行ボタン64aをタップすることで実施される。
【0034】
S400では、重心位置を演算するためのフロント作業装置3の姿勢及び重心位置推定動作の内容を、表示制御部61を介して表示装置58に表示させる(本発明のガイダンス実行部に相当)。
図9に示すように、このときのフロント作業装置3の姿勢は、ブーム8及びアーム9を連結するアームピン9aと、アーム9及びバケット10を連結するバケットピン10aとを結ぶ直線Lが重力方向と垂直となるような姿勢である。このときバケットシリンダ13は最縮長となっており、重心位置推定動作の内容は、このバケットシリンダ13を伸長方向に動作させてバケットピン10aを中心としてバケット10を下方に回動させるものである。重心位置推定動作の速度は、後述するS420で重心位置を演算する際の慣性負荷の影響を軽減するために、緩慢な動作で実施するようにガイダンスする。なお、バケット10の回動方向は下方に限るものではなく、逆にバケットピン10aを中心として上方に回動させてもよい。
【0035】
S400でオペレータの操作がなされ、重心位置推定動作が実施されている間、姿勢検出装置19と負荷検出装置41で検出値を測定し続ける。
S410では、重心位置推定動作が完了したかどうかを判定する。判定基準は、オペレータの操作が終了していること、及び次のS420で演算するための測定データの測定が完了したことである。S410の判定がNO(否定)のときにはS400へ戻り、再度測定を実施する。S410の判定がYES(肯定)になるとS420へ進む。
【0036】
S420では、S400で測定した結果から重心位置を演算する。具体的な演算内容は
図10~13を用いて後述する。
S430では、演算結果であるバケット10の重心位置をパラメータ記憶部62bへ記憶し、パラメータ演算モードを終了する。
【0037】
<重心位置の演算手順>
次いで、
図7のS420で実行されるバケット10の重心位置の演算手順について説明する。
図10はバケット10周りのモーメントの釣り合いを示す説明図である。ブーム8及びアーム9を連結するアームピン9aと、アーム9及びバケット10を連結するバケットピン10aとを結ぶ直線LをX軸とし、X軸に垂直な鉛直方向をZ軸とし、バケットピン10aの軸線を原点Oとして定める。
【0038】
バケットシリンダ13の推力Fbによって発生する原点O周りのモーメントをTc、バケット10の重心位置に作用するバケット10の自重による力をFw(本発明の推定対象の被駆動部材の重量に相当)、原点O周りのFwによって発生するモーメントの腕の長さをLw(本発明のアーム長に相当)とすると、次式(1)のような関係式が成り立つ。
【0039】
Tc=Fw×Lw……(1)
ここで、Tcは、
図11に基づき後述する手順で取得でき、Fwは、
図8で入力される項目の重量値から演算できる。すなわち、これらの結果からLwを演算することができる。
図11にTcの演算方法について示す。Tcは、バケットシリンダ13の推力Fbによって生じる点CまわりのモーメントTbと、姿勢検出装置19から取得されるバケット10の回動角度γを変数とするリンクの変換比R(γ)を乗算して求められる。
【0040】
Tc=Tb×R(θγ)……(2)
Tbは、FbのBCに垂直な成分とBCの長さを乗算することで求められる。
【数1】
【0041】
ここで、Fbは、バケットシリンダ13に取り付けられた圧力センサ40a及び圧力センサ40b(本発明の負荷検出装置に相当)によって検出されたボトム室の圧力及びロッド室の圧力からシリンダの受圧面積を乗じることで取得できる。
【0042】
以上の手順でLwを演算した後、
図12に示す方法にてバケット10の重心位置を演算できる。
原点Oからバケット重心位置までの距離をLcog(本発明の回動軸からの距離に相当)、原点Oとバケット爪先とを結ぶ線分と、原点Oとバケット重心位置とを結ぶ線分のなす角をθcog(本発明の回動軸を中心とした角度に相当)とすると、次式(10)のような関係式が成り立つ。
【0043】
L
W=L
cog・cos(θ
cog+γ)……(4)
式(4)より、バケット10の姿勢を変えながらγ及びLwを測定すると、
図13に記載のような余弦波の関係が得られる。この回動角度γを検出するバケット角度センサ16が本発明の回動角検出装置に相当する。この余弦波の特性から、特徴点としてLwが最大となるγ’を探すことで重心位置を決めるパラメータであるLcogとθcogを演算できる。
【0044】
このように本実施形態の油圧ショベル1によれば、フロント作業装置3のバケット10を交換した際に、重心位置に比較して測定が容易なバケット10の重量や外形寸法のパラメータを入力装置64に入力した上で、表示装置58によるガイダンスに従って重心位置推定動作を実行するだけで、自動的にバケット10の重心位置を演算できる。このため、バケット10を取り替える際の測定作業を含めた全体としてのバケット10の交換作業を容易かつ迅速に実施することができる。
【0045】
結果として車体安定性演算部63では、装着されたバケット10に則したパラメータに基づき、例えば車体2のZMP等の安定性に関する演算処理を実行して、その情報を表示装置58によりオペレータに提示することができる。
また、パラメータ演算部62aで演算されたバケット10の重心位置をパラメータ記憶部62bに記憶するため、次回以降の作業時にはパラメータ記憶部62bに記憶されたバケット10の重心位置を読み出してZMP等の演算処理に利用することができる。よって、重心位置の演算処理のために必要なパラメータ入力や重心位置推定動作等を実行することなく、作業を開始することができる。
【0046】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について
図14,15を用いて説明する。なお、
図1~5に基づき説明した構成については第1実施形態と同様であるため、同一の部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に述べる。
【0047】
図14は制御コントローラ20の機能ブロック図である。
第1実施形態と異なり、パラメータ演算部62aは電磁比例弁44a,44b~46a,46bを制御できるように構成されており、パラメータ演算部62aの出力が電磁比例弁制御部60に入力される。さらに車体安定性演算部63は油圧アクチュエータ4l,4r,6,11~13の動作を制限可能なように、その出力が電磁比例弁制御部60に入力されるようになっている。車体2の姿勢が不安定になっていると推測されたときには、パラメータ演算部62aにより油圧アクチュエータ4l,4r,6,11~13の動作が制限されて、車体2の安定化が図られる。
【0048】
図15はパラメータ演算部62aで実施される制御フローを示すフローチャートである。
S500では、重心位置を演算するための重心位置推定動作の開始指示入力待ち状態となる。動作開始指示の入力手段としては、
図8の入力画面にタップできるボタンを追加する(不図示)。これは一例であり、動作開始指示の入力手段は、特定のレバー操作を入力する等でもよい。
【0049】
S510では、動作開始指示が入力されたかどうかを判定する。S510でNOの場合、S500に戻り、YESの場合S520に進む。
S520では、重心位置推定動作を開始して、バケットシリンダ13を伸長駆動するため電磁比例弁46aを駆動させる。
S520で動作が完了すると、S530に進み、重心位置を演算する。
S540では、演算結果をパラメータ記憶部62bへ記憶する。
【0050】
以下、第1実施形態で用いた
図12を参照しつつ、バケット10の重心位置の演算手順を説明する。
第1実施形態と同様に、上式(4)が成り立つ。
この式(4)を加法定理を用いて分解し、行列表記すると
【数2】
となる。最小二乗法を用い、式(5)中の
【数3】
Lwに相当する測定結果の行列をB、
【数4】
AX=B ……(6)
【数5】
X=(A
TA)
-1A
TB ……(8)
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
となる。
【0051】
結果として、Lw及びγからなる複数の測定点に基づき、
図13に示すようなLwとγとの関係を表す余弦波が推定され、余弦波からLwの最大値と、このLwの最大値に対応するγ’とを特徴点として求め、これらのLwの最大値とγ’とに基づき、重心位置を決めるパラメータであるLcogとθcogを求めることができる。
そして、重心位置推定動作では
図13に示されたLw及びγからなる特性線の全てを測定する必要はなく、仮に測定点の中にLwが最大となるγ’が含まれなくても、推定した余弦波からLwの最大値及びγ’を求めることができる。
【0052】
このように本実施形態の油圧ショベル1によれば、第1実施形態と同じく、フロント作業装置3のバケット10を交換した際に、自動的にバケット10の重心位置を演算できるため、全体としてのバケット10の交換作業を容易かつ迅速に実施できる。また、装着されたバケット10に則したパラメータに基づき車体2のZMP等の安定性に関する演算処理を実行できると共に、演算したパラメータを記憶して次回以降の作業時に利用することができる。
【0053】
しかも本実施形態では、重心位置を演算するために必要な重心位置推定動作を自動的に実行するため、オペレータの負担をより軽減することができる。
さらに、車体安定性演算の結果から油圧アクチュエータ4l,4r,6,11~13の動作を制限する構成としているため、車体2の姿勢が不安定なときには油圧アクチュエータ4l,4r,6,11~13の動作が制限され、より安定した作業を行うことができる。
【0054】
ところで、上記の第1及び第2実施形態では、
図9のようにアーム9を特定の姿勢として重心位置を演算するための重心位置推定動作を実行したが、このアーム9の姿勢に限らない。その場合、アーム9と重力方向の角度に応じて重心位置の演算に補正を加える必要があり、以下、この補正処理について説明する。
【0055】
図16はアーム9の姿勢が
図9より傾いた場合のバケット10の重心位置の演算手順を示す説明図である。地球に対して鉛直上向きをZ軸とし、Z軸に垂直でバケット10とアーム9との接続点Aを通り、且つバケットピン10a及びアームピン9aに対して垂直をなす方向をX軸とおく。X-Z平面と同じ平面上において、アームピン9aとバケットピン10aとを結ぶ直線をX軸に重ねるように、X軸とZ軸とを点A周りに回転させたアーム基準の座標系として、Xa軸、Za軸を定義する。バケット10の回動角度γはXaとAEの成す角である。
ここで、Lwを演算するためには、次式(11)で示すように、γではなく、X軸とAEがなす角φを用いなければならない。
【0056】
Lw=L
cog cos(θ+φ)……(12)
φはX軸に対するバケット10の回動角度なので、
図2に示すように、車体2(上部旋回体7)のピッチ方向の傾き角θ、ブーム角α、アーム角β、バケット角γを用いて、次式(12)のように求められる。このφを用いることでLwを求めることができる。
【0057】
φ=θ+α+β+γ……(13)
【0058】
また、第1実施形態においては上記のバケット10の回動角度γの補正に加え、次の点に注意する必要があり、以下に説明する。
図17はアーム9が
図9の姿勢のときのバケット10の回動に応じた重心位置の移動範囲例を示す説明図であり、
図18はアーム9が
図9の姿勢から約90°車体方向に回動したときのバケット10の回動に応じた重心位置の移動範囲例を示す説明図である。
第1実施形態では、Lwの最大値を求めることで重心位置を演算している。Lwの最大値は、バケット10の回動に伴って重心位置がX軸の正側で交わる点であり、
図17の例では、Lwが最大となる点(バケット10の重心位置がX軸の正側で交わる点)がバケット重心位置の移動範囲に含まれるため、演算可能である。
【0059】
一方で、
図18の場合、Lwが最大となる点がバケット重心位置の移動範囲に含まれていないため、Lwの最大値を求めてバケット10の重心位置を演算することができない。そこで、この場合にはLwが最大となる点の代わりに、Lwが最小となる点(バケット10の重心位置がX軸の負側で交わる点)、或いはLw=0となる点を特徴点として抽出することで、バケット10の重心位置を演算することができる。このように、
図9以外のアーム9の姿勢であっても、それを考慮した演算方法を実施することで、第1及第2実施形態と同様にバケット重心位置を演算することができる。
【0060】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではなく、種々に変更可能である。例えば上記各実施形態では、バケット10の重心位置を演算したが、同様の考え方でブーム8、アーム9の重心位置も演算できる。すなわち、フロント作業装置3のうち、アーム9を標準よりも長いアームに置き換えた際に本発明を適用してもよい。
【0061】
また、上記各実施形態では、ブーム8、アーム9、バケット10の角度を検出する角度センサ14~16を用いたが、角度センサではなくシリンダストロークセンサにより油圧ショベル1の姿勢情報を演算するとしてもよい。また、電気レバー式の油圧ショベル1を例として説明したが、油圧パイロット式の油圧ショベルであれば、油圧パイロットから生成される指令パイロット圧を制御するような構成としてもよい。
【0062】
また、上記の制御コントローラ20に係る各構成や当該各構成の機能及び実行処理等は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計する等)で実現してもよい。また、上記の制御コントローラ20に係る構成は、演算処理装置(例えばCPU)によって読み出し・実行されることで当該制御コントローラ20の構成に係る各機能が実現されるプログラム(ソフトウェア)としてもよい。当該プログラムに係る情報は、例えば、半導体メモリ(フラッシュメモリ、SSD等)、磁気記憶装置(ハードディスクドライブ等)及び記録媒体(磁気ディスク、光ディスク等)等に記憶することができる。
また上記各実施形態では、バケット10の重心位置を演算する際に、測定回数について記述しなかったが、測定誤差の影響を小さくするために複数回測定し、その結果を用いて重心位置を演算してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 油圧ショベル(作業機械)
2 車体
3 フロント作業装置
10 被駆動部材(バケット)
10a バケットピン(回動軸)
13 バケットシリンダ(アクチュエータ)
40a,40b 圧力センサ(負荷検出装置)
16 バケット角度センサ(回動角検出装置)
62a パラメータ演算部
61 表示制御部(ガイダンス実行部)
58 表示装置(ガイダンス実行部)
60 電磁比例弁制御部
63 車体安定性演算部
63 パラメータ記憶部