(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】コンクリートの強度発現制御方法およびこれを用いたコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/04 20060101AFI20221216BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20221216BHJP
G01N 25/20 20060101ALI20221216BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B28C7/04
G01N3/00 M
G01N25/20 Z
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2020152902
(22)【出願日】2020-09-11
【審査請求日】2022-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】水野 剣一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 修
(72)【発明者】
【氏名】正木 徹
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-098707(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0123249(KR,A)
【文献】特開2020-116743(JP,A)
【文献】特開2000-301531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 7/04
G01N 25/20
G01N 33/38
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設するコンクリートの圧縮強度の発現を制御する方法であって、
打設されるコンクリートの圧縮強度と積算温度との第1の関係を予め求め、
前記積算温度と時間との複数の第2の関係を複数の異なる気温毎に予め求め、
前記打設されるコンクリートについて硬化促進剤の添加量と促進時間との複数の第3の関係および硬化遅延剤の添加量と遅延時間との複数の第4の関係をそれぞれ複数の異なる気温毎に予め求め、
前記打設されるコンクリートについて目標時間TDおよび目標強度STを設定するステップと、
コンクリート打設の環境の気温予報値を取得するステップと、
前記第1の関係に基づいて前記打設されるコンクリートについて前記目標強度STに達する目標積算温度Maを求めるステップと、
前記気温予報値から求めたコンクリート打設の環境の気温に基づいて前記複数の第2の関係から選択された前記第2の関係に基づいて前記打設されるコンクリートについて前記目標強度STに達する時間Tを前記目標積算温度Maから算定するステップと、
前記算定された前記目標強度STに達する時間Tと前記目標時間TDとを比較し、T>TDのとき前記硬化促進剤の添加を選定し、T<TDのとき前記硬化遅延剤の添加を選定するステップと、
前記目標強度STに達する時間Tと前記目標時間TDとの時間差に対応する促進時間または遅延時間に対し、前記環境の気温に基づいて前記複数の第3の関係または前記複数の第4の関係から選択された前記第3の関係または前記第4の関係に基づいて前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加量を算定するステップと、
前記算定された添加量の前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤を計量して前記打設されるコンクリートと混合するステップと、を含む、コンクリートの強度発現制御方法。
【請求項2】
打設された前記コンクリートから得た供試体についてプロクター貫入試験を所定時間毎に行い、
前記打設されたコンクリートの圧縮強度を前記プロクター貫入試験の貫入抵抗値から算定し、前記算定された圧縮強度が前記目標強度STに達していることを判定する請求項1に記載のコンクリートの強度発現制御方法。
【請求項3】
前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加の選定およびその添加量によって前記打設されるコンクリートの若材齢圧縮強度の発現を制御する請求項1または2に記載のコンクリートの強度発現制御方法。
【請求項4】
前記環境の温度が前記複数の異なる気温の中間温度の場合、
前記複数の第2の関係の内挿による補間により、その中間温度において前記目標強度STに達する時間Tを算定し、
前記複数の第3の関係または前記複数の第4の関係の内挿による補間により、その中間温度において前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加量を算定する請求項1乃至3のいずれかに記載のコンクリートの強度発現制御方法。
【請求項5】
前記目標時間TDまでの積算温度Mbを前記気温予報値から求め、
前記目標積算温度Maと前記積算温度Mbとの差(Ma-Mb)をMd(℃)、前記目標時間TD内における前記気温予報値の平均温度をTm(℃)としたときのMd/Tmの絶対値が1未満の場合、前記硬化促進剤の添加も前記硬化遅延剤の添加も選定せず、Md/Tmが1以上の場合、前記硬化遅延剤の添加を選定し、Md/Tmが-1以下の場合、前記硬化促進剤の添加を選定する請求項1乃至4のいずれかに記載のコンクリートの強度発現制御方法。
【請求項6】
請求項1乃至5
のいずれかに記載のコンクリートの強度発現制御方法
を用いてコンクリートを製造するコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの強度発現制御方法およびこれを用いたコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製造のためのスリップフォーム工法として、成型機に取り付けられた型枠内にコンクリートを投入し所定の同一断面形状に締固めて成型しながら成形機をスライド移動させることで、同一断面形状を有するコンクリート構造物を連続的に構築し製造する工法が公知である。非特許文献1は、積算温度方式による若材齢強度の推定法を開示する。
【0003】
特許文献1は、型枠を用いて打設した覆工コンクリートの脱型時期を判定するために、覆工コンクリートの型枠内の任意の箇所のコンクリート温度を任意の時間毎に測定し、該測定温度から積算温度を算出し、該積算温度が任意の数値に達することで所望の圧縮強度に到達したと推定して脱型時期であると判定する覆工コンクリート脱型時期判定方法を開示する。
【0004】
特許文献2は、貫入棒を打設されたコンクリートに貫入させて貫入抵抗を測定し、この貫入抵抗は、コンクリートが硬化するにつれて増加し、コンクリートが自重分を支えるのに十分な強度に達した硬度状態になったときに、ほぼ一定値に近づき、コンクリートの貫入抵抗の測定によりコンクリートの強度状態を知るようにしたコンクリートの強度状態測定装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-26734号公報
【文献】特開昭60-159631号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】蓮尾孝一・西本好克・松田拓・河上浩司「積算温度方式による若材齢強度の推定法-主に普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートの検討-」三井住友建設技術研究所報告 第2号 145~150頁(2004年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリートの型枠をスライドするスリップフォーム工法では、コンクリートを打設後数時間で脱型しなければならないが、打設されたコンクリートは脱型時に自重を保持できる程度の圧縮強度(高さによるが0.1N/mm2程度)になっていることが必要である。また、型枠はスライド移動し、油圧ジャッキで定速移動を絶えず行う場合があるため、若材齢コンクリートの圧縮強度発現時間をある程度一定にしなければならない。しかし、コンクリートの若材齢圧縮強度発現は、気温等に大きく影響され、強度発現時間を一定にするには気温を制御する必要があるが、気温の制御は一般に困難である。このため、他の方法・手段によりコンクリートの強度発現時間をほぼ一定に制御することが求められている。
【0008】
また、若材齢圧縮強度を確認する場合、コンクリートの1軸圧縮試験を実施しなければならないが、試験装置が大きいために現地で簡易に確認ができない。また、試験時間ごとに供試体が必要となる。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、打設されるコンクリートの圧縮強度発現を簡易に制御可能なコンクリートの強度発現制御方法およびこれを用いたコンクリートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためのコンクリートの強度発現制御方法は、打設するコンクリートの圧縮強度の発現を制御する方法であって、
打設されるコンクリートの圧縮強度と積算温度との第1の関係を予め求め、
前記積算温度と時間との複数の第2の関係を複数の異なる気温毎に予め求め、
前記打設されるコンクリートについて硬化促進剤の添加量と促進時間との複数の第3の関係および硬化遅延剤の添加量と遅延時間との複数の第4の関係をそれぞれ複数の異なる気温毎に予め求め、
前記打設されるコンクリートについて目標時間TDおよび目標強度STを設定するステップと、
コンクリート打設の環境の気温予報値を取得するステップと、
前記第1の関係に基づいて前記打設されるコンクリートについて前記目標強度STに達する目標積算温度Maを求めるステップと、
前記気温予報値から求めたコンクリート打設の環境の気温に基づいて前記複数の第2の関係から選択された前記第2の関係に基づいて前記打設されるコンクリートについて前記目標強度STに達する時間Tを前記目標積算温度Maから算定するステップと、
前記算定された前記目標強度STに達する時間Tと前記目標時間TDとを比較し、T>TDのとき前記硬化促進剤の添加を選定し、T<TDのとき前記硬化遅延剤の添加を選定するステップと、
前記目標強度STに達する時間Tと前記目標時間TDとの時間差に対応する促進時間または遅延時間に対し、前記環境の気温に基づいて前記複数の第3の関係または前記複数の第4の関係から選択された前記第3の関係または前記第4の関係に基づいて前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加量を算定するステップと、
前記算定された添加量の前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤を計量して前記打設されるコンクリートと混合するステップと、を含む。
【0011】
このコンクリートの強度発現制御方法によれば、目標強度STに達する時間Tを目標積算温度Maから算定し、この目標強度STに達する時間Tと目標時間TDとの比較から混和剤(硬化促進剤または硬化遅延剤)の添加を選定し、目標強度STに達する時間Tと目標時間TDとの時間差に基づいて混和剤の添加量を算定し、その添加量だけ混和剤を添加することで、打設されるコンクリートが目標強度に達する時間Tを簡易に制御することができる。
【0012】
上記コンクリートの強度発現制御方法において打設された前記コンクリートから得た供試体についてプロクター貫入試験を所定時間毎に行い、前記打設されたコンクリートの圧縮強度を前記プロクター貫入試験の貫入抵抗値から算定し、前記算定された圧縮強度が前記目標強度に達していることを判定することが好ましい。簡易なプロクター貫入抵抗試験により圧縮強度を判定し確認できるので、1軸圧縮試験が不要で、コンクリート打設の現地で簡易に確認できる。
【0013】
また、前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加の選定およびその添加量によって前記打設されるコンクリートの若材齢圧縮強度の発現を制御することができる。
【0014】
また、前記環境の温度が前記複数の異なる気温の中間温度の場合、前記複数の第2の関係の内挿による補間により、その中間温度において前記目標強度STに達する時間Tを算定し、前記複数の第3の関係または前記複数の第4の関係の内挿による補間により、その中間温度において前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加量を算定することが好ましい。
また、前記目標時間TDまでの積算温度Mbを前記気温予報値から求め、前記目標積算温度Maと前記積算温度Mbとの差(Ma-Mb)をMd(℃)、前記目標時間TD内における前記気温予報値の平均温度をTm(℃)としたときのMd/Tmの絶対値が1未満の場合、前記硬化促進剤の添加も前記硬化遅延剤の添加も選定せず、Md/Tmが1以上の場合、前記硬化遅延剤の添加を選定し、Md/Tmが-1以下の場合、前記硬化促進剤の添加を選定することが好ましい。
【0015】
上記目的を達成するためのコンクリートの強度発現制御システムは、打設するコンクリートの圧縮強度の発現を制御するシステムであって、
打設されるコンクリートの圧縮強度と積算温度との第1の関係を記憶する手段と、前記積算温度と時間との複数の第2の関係を複数の異なる気温毎に記憶する手段と、前記打設されるコンクリートについて硬化促進剤の添加量と促進時間との複数の第3の関係および硬化遅延剤の添加量と遅延時間との複数の第4の関係をそれぞれ複数の異なる気温毎に記憶する手段と、コンクリート打設の環境の気温予報値を取得する手段と、前記第1の関係に基づいて前記打設されるコンクリートについての目標強度STに達する目標積算温度Maを求める手段と、前記気温予報値から求められた前記環境の気温に基づいて前記複数の第2の関係から選択された前記第2の関係に基づいて前記打設されるコンクリートについて前記目標強度STに達する時間を前記目標積算温度Maから算定する手段と、前記算定された前記目標強度STに達する時間Tと前記打設されるコンクリートについての目標時間TDとを比較し、T>TDのとき前記硬化促進剤の添加を選定し、T<TDのとき前記硬化遅延剤の添加を選定する手段と、前記目標強度STに達する時間と前記目標時間TDとの時間差に対応する促進時間または遅延時間に対し、前記環境の気温に基づいて前記複数の第3の関係または前記複数の第4の関係から選択された前記第3の関係または前記第4の関係に基づいて前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加量を算定する手段と、前記算定された添加量の前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤を計量する手段と、を備え、
前記計量された前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤を前記打設されるコンクリートと混合するようにしたものである。
【0016】
このコンクリートの強度発現制御システムによれば、目標強度に達する時間Tを目標積算温度Maから算定し、この目標強度に達する時間Tと目標時間TDとの比較から混和剤(硬化促進剤または硬化遅延剤)の添加を選定し、目標強度に達する時間Tと目標時間TDとの時間差に基づいて混和剤の添加量を算定するという演算を自動的に行い、この算定された添加量の混和剤を自動的に計量し生コン車に投入することができるので、打設されるコンクリートが目標強度に達する時間Tを簡易かつ自動的に制御することができる。
【0017】
上記コンクリートの強度発現制御システムにおいて打設された前記コンクリートから得た供試体についてプロクター貫入試験が所定時間毎に行われ、前記打設されたコンクリートの圧縮強度を前記プロクター貫入試験の貫入抵抗値から算定する手段と、前記算定された圧縮強度が前記目標強度に達していることを判定する手段と、を備えることが好ましい。
【0018】
また、前記環境の温度が前記複数の異なる気温の中間温度の場合、前記複数の第2の関係の内挿による補間により、その中間温度において前記目標強度STに達する時間Tを算定する手段と、前記複数の第3の関係または前記複数の第4の関係の内挿による補間により、その中間温度において前記硬化促進剤または前記硬化遅延剤の添加量を算定する手段と、を備えることが好ましい。
また、前記目標時間TDまでの積算温度Mbを前記気温予報値から求める手段を備え、前記選定する手段は、前記目標積算温度Maと前記積算温度Mbとの差(Ma-Mb)をMd(℃)、前記目標時間TD内における前記気温予報値の平均温度をTm(℃)としたときのMd/Tmの絶対値が1未満の場合、前記硬化促進剤の添加も前記硬化遅延剤の添加も選定せず、Md/Tmが1以上の場合、前記硬化遅延剤の添加を選定し、Md/Tmが-1以下の場合、前記硬化促進剤の添加を選定することが好ましい。
【0019】
上記目的を達成するためのコンクリートの製造方法は、上述のコンクリートの強度発現制御方法、または、上述のコンクリートの強度発現制御システムを用いてコンクリートを製造するものである。
【0020】
このコンクリートの製造方法によれば、打設されるコンクリートが目標強度に到達する時間を制御しながら効率よくコンクリートを製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のコンクリートの強度発現制御方法およびこれを用いたコンクリートの製造方法によれば、打設されるコンクリートの圧縮強度発現を簡易に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態によるコンクリートの強度発現制御方法の各ステップを説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図1のコンクリートの強度発現制御方法を実行可能なコンクリートの強度発現制御システムを示す概略図である。
【
図3】本実施形態における積算温度と圧縮強度との関係例を示すグラフ(a)および時間と積算温度との関係例を示すグラフ(b)である。
【
図4】本実施形態における硬化促進剤の添加量と促進時間との関係例を示すグラフ(a)および遅延剤の添加量と遅延時間との関係例を示すグラフ(b)である。
【
図5】圧縮強度とプロクター貫入抵抗値との関係例を示すグラフである。
【
図6】
図1のステップS03,S04における混和剤の添加の選定と混和剤の添加量の算定の各ステップを説明するためのフローチャートである。
【
図7】20℃環境での実験結果を示すグラフ(a)~(d)である。
【
図8】30℃環境での実験結果を示すグラフ(a)~(d)である。
【
図9】10℃環境での実験結果を示すグラフ(a)~(d)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態によるコンクリートの強度発現制御方法の各ステップを説明するためのフローチャートである。
図2は、
図1のコンクリートの強度発現制御方法を実行可能なコンクリートの強度発現制御システムを示す概略図である。
図3は、積算温度と圧縮強度との関係例を示すグラフ(a)および時間と積算温度との関係例を示すグラフ(b)である。
図4は、硬化促進剤の添加量と促進時間との関係例を示すグラフ(a)および遅延剤の添加量と遅延時間との関係例を示すグラフ(b)である。
【0024】
図2のように、本実施形態によるコンクリートの強度発現制御システム10は、インターネット接続が可能なパーソナルコンピュータ(PC)11と、水の貯留部21と、硬化促進剤の貯留部22と、遅延剤の貯留部23と、各貯留部21~23から制御バルブ21a,22a,23aを通して供給される水・硬化促進剤・遅延剤を自動的に計量する計量器25と、を備え、計量された水・硬化促進剤・遅延剤が生コン車(アジテータ車)のホッパー30に投入されるように構成されている。なお、計量器25は流量計から構成されてもよい。
【0025】
PC11は、インターネットを介して気象予報アプリ等からコンクリートを打設する地域の気温予報値情報を含む気温データを取得する気温データ取得部12と、
図3(a)の積算温度と圧縮強度との関係、
図3(b)の気温毎の時間と積算温度との関係、
図4(a)の硬化促進剤の添加量と促進時間との関係、および、
図4(b)の遅延剤の添加量と遅延時間との関係を記憶するハードディスクやSSD等からなる記憶部13と、取得した気温予報値や目標強度や目標時間等に基づいて記憶部13に記憶された
図3(a)(b)、
図4(a)(b)の各関係から積算温度や積算温度に達する時間や硬化促進剤・遅延剤の添加量を演算する演算部14と、演算結果に基づいて水、硬化促進剤または遅延剤を供給するように制御バルブ21a~23aを制御するCPU(中央演算装置)からなる制御部15と、を有する。また、制御バルブ21a~23aによって供給された水、硬化促進剤または遅延剤が演算された添加量となっているか計量器25において順次確認される。なお、
図3(a)(b)、
図4(a)(b)の各関係は予め実験等により求めておくことが好ましく、たとえば、実験結果から得た近似式として記憶部13に記憶させておく。また、気温データ取得部12が取得する気温予報値情報は各日の平均気温でもよいが、1時間ごとの気温情報がより望ましい。
【0026】
図1~
図4を参照して、本実施形態によるコンクリートの強度発現制御方法の各ステップS01~S07を説明する。まず、
図1のように、生コン車がコンクリート打設場所に到着した時に
図2のPC11の気温データ取得部12がインターネットを介して気温予報値情報を取得する(S01)。
【0027】
次に、打設
されるコンクリートについて目標時間までの積算温度をたとえば1時間毎の気温予報値から求める一方、目標強度になる時間
すなわち目標強度に達する時間を目標積算温度から算定する(S02)。たとえば、
図3(a)の積算温度と圧縮強度との関係から、目標強度STに達する目標積算温度Maを求め、
図3(b)の積算温度と時間との関係から目標積算温度Maに達する時間(たとえば、TA,TBまたはTC)を算定する。
図3(b)に示す積算温度と時間との関係は、コンクリート打設の環境の気温によって相違し、積算温度と時間との関係aは、たとえば、コンクリート打設の環境の気温が高い場合(たとえば、30℃)、同じく関係bは、環境の気温が中程度の場合(たとえば、20℃)、同じく関係cは、環境の気温が低い場合(たとえば、10℃)を示す。ステップS01で求めた気温予報値から環境の気温がたとえば、20℃である場合、関係bから目標積算温度Maに達する時間はTBとなり、この時間TBが目標強度ST(たとえば、0.1N/mm
2)に達する時間である。なお、環境の気温が10,20,30℃の中間温度の場合は、関係a~cの内挿による補間により、その環境の気温において目標積算温度Maに達する時間を算定する。
【0028】
次に、ステップS02で算定された時間TBと目標時間TDとの時間差から混和剤(硬化促進剤と遅延剤)の添加を選定する(S03)。すなわち、
図3(b)の例では、目標積算温度Maに達する時間TBと、目標時間TDを比較すると、TB>TDであり、目標時間TDで目標積算温度Maに達しないので、打設コンクリートの硬化を促進する必要があり、硬化促進剤の添加を選定する。逆に、TB<TDの場合は、目標時間TDで目標積算温度Maを超えてしまうので、硬化を遅延させる必要があり、遅延剤の添加を選定する。
【0029】
次に、その時間差および気温からその混和剤の添加量を算定する(S04)。硬化促進のために混和剤として硬化促進剤を用いる場合、
図4(a)の硬化促進剤の添加量と促進時間との関係から添加量を算定し、また、遅延のために混和剤として遅延剤を用いる場合、
図4(b)の遅延剤の添加量と遅延時間との関係から添加量を算定する。なお、ステップS02,S04における演算は
図2の演算部14で行われる。
【0030】
次に、
図2の制御部15により制御された制御バルブ21a,22a,23aを通して供給された水、硬化促進剤または遅延剤を計量器25によって自動的に計量する(S05)。
【0031】
次に、計量された水、硬化促進剤または遅延剤を生コン車のホッパー30に投入し、ホッパー30内で生コンとともに攪拌し、このフレッシュコンクリートを型枠内に打設する(S06)。なお、ステップS03における混和剤(硬化促進剤と遅延剤)の添加の選定には、混和剤を添加しないことも含み、添加しない場合は、ステップS04,S05を省略し、生コン車でコンクリートを攪拌し打設する。また、たとえば、生コン車にバッチングプラントでセメント、骨材、水を投入し混合した後に、水、硬化促進剤または遅延剤の計量・投入を行うようにしてもよく、その際には目標の単位水量から後添加分の水量を抜いた量を投入し、後添加の際に抜いた分の水と混和剤を投入する。また、バッチングプラントやコンクリート打設場所での硬化促進剤または遅延剤の投入時に短縮もしくは遅延させる時間が長く、添加する混和剤量が多い場合には水と混合しないことや粉体の混和剤(遅延剤や硬化促進剤)を用いるときには、最初に投入された水量を変更しない。以上のように水の投入が全く省略されることがあり、これらの場合は、ステップS05における水の計量およびステップS06における水の投入が省略される。
【0032】
次に、打設したコンクリートから得た供試体についてプロクター貫入抵抗試験を行い、その貫入抵抗値から圧縮強度を判定し確認する(S07)。なお、圧縮強度とプロクター貫入抵抗値との間には、次の式(1)が成立し、予め実験で係数を決定し、式(1)を
図2の記憶部13に記憶し、演算部14で演算することで、プロクター貫入抵抗値から圧縮強度を得て、この圧縮強度が目標圧縮強度に達しているか制御部15で判定することができる。圧縮強度とプロクター貫入抵抗値との関係例を
図5に示す。
圧縮強度=プロクター貫入抵抗値×係数 (1)
なお、プロクター貫入抵抗試験は、1つの供試体で時間毎(例えば30分単位や1時間単位)に複数回可能で、離れた場所での試験が可能であるため、供試体数が少なくなる。これに対し、1軸圧縮試験は、1つの供試体で1回の試験となって、手間がかかる。
【0033】
以上のように、
図1のコンクリートの強度発現制御方法によれば、目標強度に達する目標積算温度を求め、この目標積算温度に達する時間を算定し、この算定された時間と目標時間との時間差から混和剤(硬化促進剤と遅延剤)の添加を選定し、その時間差や気温に基づいて混和剤の添加量を算定し、その添加量だけ硬化促進剤または遅延剤を添加することで、打設されたコンクリートが目標強度に到達する時間を簡易に制御することができる。このため、たとえば、スリップフォーム工法でコンクリートを製造する場合、打設されたコンクリートが目標時間における脱型時に自重を保持可能程度の圧縮強度(たとえば、0.1N/mm
2)を有するように制御できる。また、コンクリートの若材齢圧縮強度の発現時間をほぼ一定に制御できるので、型枠の定速移動が必要なスリップフォーム工法に適する。
【0034】
また、打設したコンクリートから得た供試体について簡易なプロクター貫入抵抗試験を行い、その貫入抵抗値から圧縮強度を確認できるので、手間のかかる1軸圧縮試験が不要で、コンクリート打設の現地で簡易に判定・確認が可能である。
【0035】
また、
図2のコンクリートの強度発現制御システムによれば、目標強度に達する目標積算温度を求め、この目標積算温度に達する時間を算定し、この算定された時間と目標時間との時間差から混和剤(硬化促進剤と遅延剤)の添加を選定し、その時間差や気温等に基づいて混和剤の添加量を算定するという
図1の各ステップS01~S04の演算を自動的に行い、この混和剤を自動的に計量し生コン車に投入することができるので、打設されたコンクリートが目標強度に到達する時間の自動制御が可能となる。
【0036】
次に、
図1のステップS03,S04における混和剤(硬化促進剤と遅延剤)の添加の選定、および、混和剤の添加量の算定の具体例について
図6を参照して説明する。
図6は、
図1のステップS03,S04における混和剤の添加の選定と混和剤の添加量の算定の各ステップを説明するためのフローチャートである。
【0037】
まず、気温予報値から目標時間TDに対応する積算温度Mb(℃)を算定する(S11)。たとえば、
図3(b)において気温予報値が20℃の場合の目標時間TDと積算温度Mbを示す。
【0038】
次に、
図3(a)において目標強度ST(たとえば、0.1N/mm
2)となる目標積算温度Ma(℃)を得てから、積算温度MaとMbの差Md(℃)を算定する(S12)。
Md=Ma-Mb
【0039】
次に、設定された目標時間内における気温予報値の平均温度をTm(℃)とし、Md/Tmの絶対値が1以上であるか否かを判断し(S13)、1未満の場合(No)は、混和剤が不要で混和剤の添加無しとし(S14)、また、1以上の場合(Yes)、Md/Tm≧1であると、遅延剤の添加を選定し、Md/Tm≦-1であると、硬化促進剤の添加を選定する(S15)。
【0040】
次に、平均温度Tmの前後で実験した温度T1,T2における混和剤(遅延剤または硬化促進剤)の添加率m1,m2を算出する(S16)。
【0041】
次に、平均温度Tmにおける混和剤の添加率mを次式(2)から算定する(S17)。
添加率m=(T2-Tm)/(T2-T1)×m1 + (Tm-T1)/(T2-T1)×m2 (2)
【0042】
たとえば、平均温度Tmが14℃の場合、気温10℃、20℃、30℃での添加率(単位セメント量×%)を実験の値から算出し、補間する。すなわち、10℃(T1)の添加量m1、20℃(T2)の添加量m2を算出し、上記式(2)において、Tm=14℃とし、添加率m(単位セメント量×m%)を算定する。なお、各段階の温度T1,T2は最高気温や最低気温によって設定することが好ましい。
【0043】
〈実験例〉
次に、本発明による実験例について説明する。本実験例は、打設したコンクリートについて、10℃、20℃、30℃環境下で目標強度として圧縮強度0.1N/mm2となる時間を確認し、また、遅延剤および硬化促進剤の添加の効果を確認するものである。コンクリートの配合は、以下の表1の通りである。試験項目は表2の通りである。なお、10℃、20℃、30℃環境とは、コンクリート打設の施工現場における気温に相当する。
【0044】
【0045】
【0046】
用いた添加剤は、次の通りである。
・遅延剤(変性リグニンスルホン酸化合物とオキシカルボン酸化合物の複合体) 製品名:マスターポゾリス No.89(ポゾリス ソリューションズ株式会社から販売)
・硬化促進剤(カルシウムシリケート水和物(C-S-H)のナノ粒子を主成分) 製品名:マスターエックスシード 120 JP(ポゾリス ソリューションズ株式会社から販売)
【0047】
試験ケースは、次の通りである。なお、遅延剤、硬化促進剤の添加率は、各添加剤のメーカ添加上限値を上限とし、遅延剤では0.2%ピッチで、硬化促進剤では2、3%ピッチで設定した。
(1)20℃環境
・添加剤なし
・遅延剤1:単位セメント量×0.3%
・遅延剤2:単位セメント量×0.5%
・硬化促進剤1:単位セメント量×1.0%
・硬化促進剤2:単位セメント量×4.0%
(2)30℃環境
・添加剤なし
・遅延剤1:単位セメント量×0.3%
・遅延剤2:単位セメント量×0.5%
・硬化促進剤1:単位セメント量×2.0%
・硬化促進剤2:単位セメント量×4.0%
(3)10℃環境
・添加剤なし
・遅延剤1:単位セメント量×0.3%
・遅延剤2:単位セメント量×0.5%
・硬化促進剤1:単位セメント量×4.0%
・硬化促進剤2:単位セメント量×6.0%
【0048】
図7(a)~(d)に20℃環境での実験結果を示す。
図7(a)(b)は、遅延剤を添加した場合を示す。
図7(a)のように、目標強度0.1N/mm
2となる経過時間は、遅延剤の添加無し、遅延剤0.3%添加、遅延剤0.5%添加の順に長くなる。
図7(b)のように、遅延剤の添加率が増えるに従い、目標強度0.1N/mm
2に到達する時間が長くなり遅延し、遅延時間Taと添加率αとの関係は、図示のような近似式で近似できる。
図7(c)(d)は、硬化促進剤を添加した場合を示す。
図7(c)のように、目標強度0.1N/mm
2となる経過時間は、硬化促進剤の添加無し、硬化促進剤1.0%添加、硬化促進剤4.0%添加の順に短くなる。
図7(d)のように、硬化促進剤の添加率が増えるに従い、目標強度0.1N/mm
2に到達する時間が短くなり、到達促進時間が大きくなる。
【0049】
図8(a)~(d)に30℃環境での実験結果を示す。
図8(a)(b)は、遅延剤を添加した場合を示す。
図8(a)のように、目標強度0.1N/mm
2となる経過時間は、遅延剤の添加無し、遅延剤0.3%添加、遅延剤0.5%添加の順に長くなる。
図8(b)のように、遅延剤の添加率が増えるに従い、目標強度0.1N/mm
2に到達する時間が長くなり遅延する。
図8(c)(d)は、硬化促進剤を添加した場合を示す。
図8(c)のように、目標強度0.1N/mm
2となる経過時間は、硬化促進剤の添加無し、硬化促進剤2.0%添加、硬化促進剤4.0%添加の順に短くなる。
図8(d)のように、硬化促進剤の添加率が増えるに従い、目標強度0.1N/mm
2に到達する時間が短くなり、到達促進時間が大きくなる。
【0050】
図9(a)~(d)に10℃環境での実験結果を示す。
図9(a)(b)は、遅延剤を添加した場合を示す。
図9(a)のように、目標強度0.1N/mm
2となる経過時間は、遅延剤の添加無し、遅延剤0.3%添加、遅延剤0.5%添加の順に長くなる。
図9(b)のように、遅延剤の添加率が増えるに従い、目標強度0.1N/mm
2に到達する時間が長くなり遅延する。
図9(c)(d)は、硬化促進剤を添加した場合を示す。
図9(c)のように、目標強度0.1N/mm
2となる経過時間は、硬化促進剤の添加無し、硬化促進剤4.0%添加、硬化促進剤6.0%添加の順に短くなる。
図9(d)のように、硬化促進剤の添加率が増えるに従い、目標強度0.1N/mm
2に到達する時間が短くなり、到達促進時間が大きくなる。
【0051】
各環境温度20,30,10℃における
図7(b)、
図8(b)、
図9(b)の遅延時間Taと添加率αとの関係は、それぞれ図示のような近似式で近似できるので、各近似式を
図2の記憶部13に記憶させることで、必要な遅延時間を得ることができる遅延剤の添加率を算定することができる。また、同様に
図7(d)、
図8(d)、
図9(d)の促進時間Tbと添加率βとの関係は、それぞれ図示のような近似式で近似できるので、各近似式を
図2の記憶部13に記憶させることで、必要な促進時間を得ることができる硬化促進剤の添加率を算定することができる。
【0052】
また、強度発現時間と硬化促進剤の添加率との関係について、30℃環境下での無添加の強度発現が3時間半であり、硬化促進剤の添加により最大でも2時間半程度しか短くできず、促進時間は硬化促進剤2%で1.2時間程度、4%で2時間であるので、硬化促進剤の添加率4%がほぼ最大と考えられる。一方、10℃環境下での無添加の強度発現が10時間半であり、硬化促進剤による短縮可能な時間が大きく、添加率6%で促進時間が4時間であり、添加率を大きくすることで大きな硬化促進効果を得ることができる。
【0053】
なお、本発明者等の検討によれば、硬化促進剤を多量に添加しても圧縮強度0.1N/mm2の到達時間が1時間以下になることはないと考えられる。このため、最短の到達時間は1時間以上となる範囲を適用する。
【0054】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本発明は、スリップフォーム工法において打設されたコンクリートの脱型時間や若材齢圧縮強度発現の制御に適用して好ましいが、これに限定されず、たとえば、コンクリートの打設からせき板や型枠や支保工等の取り外しまでの時間や部材の取り付け時間などの制御に適用してもよい。
【0055】
また、
図1では、混和剤、水の投入・攪拌(S06)を生コン車がコンクリート打設現地に到着してから行うようにしたが、これに限定されず、たとえば、コンクリートの強度発現制御システムをバッチングプラントに設置するようにし生コン車がバッチングプラントを出る際に混和剤の投入を行うようにしてもよい。なお、その時にはプロクター貫入抵抗試験による貫入抵抗値から圧縮強度の確認は別途現地で行うこととなる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、打設されたコンクリートの圧縮強度発現を簡易に制御可能であるので、コンクリートの効率的な製造が可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 強度発現制御システム
11 パーソナルコンピュータ(PC)
12 気温データ取得部
13 記憶部
14 演算部
15 制御部
21 水貯留部
22 硬化促進剤貯留部
23 遅延剤貯留部
21a,22a,23a 制御バルブ
25 計量器
30 生コン車のホッパー