(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】乗り物用制御装置一体型回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 11/30 20160101AFI20221216BHJP
H02K 5/06 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H02K11/30
H02K5/06
(21)【出願番号】P 2020560696
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2018046773
(87)【国際公開番号】W WO2020129177
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石崎 光範
(72)【発明者】
【氏名】中尾 貴行
(72)【発明者】
【氏名】山本 孝
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊宏
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-174356(JP,A)
【文献】登録実用新案第3210616(JP,U)
【文献】特開2001-169500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 11/30
H02K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機本体と、前記回転電機本体のリア側に配設され回転電機を制御する制御装置とが一体化された乗り物用制御装置一体型回転電機であって、
前記回転電機本体は、回転子軸と、前記回転子軸に固定された回転子と、電磁積層鋼板を積層して形成され前記回転子を囲むように配置された固定子と、前記固定子を囲うように配置され前記固定子を保持するフレームと、前記固定子と前記フレームとの間に位置する第一の円環形状部材と、前記固定子と前記第一の円環形状部材との間に位置する第二の円環形状部材とを備え、
前記第一の円環形状部材および前記第二の円環形状部材が、前記フレームより硬度が高い材料で形成されており、
前記第一の円環形状部材の板厚よりも前記第二の円環形状部材の板厚が大きく、
前記フレームは、前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材とを鋳込んで前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材と一体形成されており、
前記第一の円環形状部材および前記第二の円環形状部材は前記フレームに金属接合されており、
前記固定子が、
前記一体形成された前記フレームと前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材
における前記第二の円環形状部材に圧入されている
ことを特徴とする乗り物用制御装置一体型回転電機。
【請求項2】
前記第二の円環形状部材の、前記リア側の端面の内周側に、前記固定子の前記第二の円環形状部材への圧入による前記第二の円環形状部材の前記端面の損傷を防止するテーパーが形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の乗り物用制御装置一体型回転電機。
【請求項3】
前記第一の円環形状部材の側面の少なくとも1箇所に貫通穴が形成され、前記貫通穴を通して前記第二の円環形状部材はその外周面で前記フレームに前記金属接合されている
ことを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の乗り物用制御装置一体型回転電機。
【請求項4】
前記第一の円環形状部材の端面の少なくとも1箇所に切欠きが形成され、前記切欠きを通して前記第二の円環形状部材はその外周面で前記フレームに前記金属接合されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の乗り物用制御装置一体型回転電機。
【請求項5】
前記第二の円環形状部材の径を縮小する方向に荷重をかけながら前記第一の円環形状部材に圧入することができるように前記第二の円環形状部材の軸方向の一端から他端まで貫通する切欠きが形成されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の乗り物用制御装置一体型回転電機。
【請求項6】
前記第一の円環形状部材の
軸方向の長さが、前記第二の円環形状部材の軸方向の長さより短く、前記第二の円環形状部材の、前記第一の円環形状部材から軸方向に突出した箇所の外周面と前記フレームとが前記金属接合されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の乗り物用制御装置一体型回転電機。
【請求項7】
前記第一の円環形状部材は、前記フレームより融点が高い材料で形成されている
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の乗り物用制御装置一体型回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転電機本体と、回転電機を制御するための制御装置とを一体化した乗り物用制御装置一体型回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転電機を制御するための制御装置と回転電機とが一体化され、車両に搭載される車両用制御装置一体型回転電機は知られており、例えば特許文献1に開示されている。回転電機のフレームの内周面に回転電機の固定子が保持され、固定子の内側に回転子が設置されている。
【文献】国際公開WO 2014/188803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
車両に搭載される制御装置一体型回転電機には燃費向上のため軽量化の要求がある。
また、制御装置一体型回転電機は車両のエンジンルーム内に設置されて使用されることも多く、温度変化、振動、等に対する耐久性が要求されている。
さらに、エンジンルーム内では設置できる空間に限りがあるため、回転電機の径方向の寸法の小型化も要求されている。
回転電機の固定子は回転電機のフレームの内周面に固定されるので、固定子をフレームに保持する保持力が所定の保持力となるように、フレームの内径よりも固定子の外径を大きくすることにより、固定子をフレームで締付ける必要がある。
フレームをアルミニウム系材料等で構成すれば安価に軽量化を図れる。しかし、固定子は比較的に硬度が高い電磁鋼板等を積層して形成されるため、固定子の、フレームとの接触面には、前記積層に起因して、積層された各電磁鋼板の相互間に多数の段差が形成されている。従って、固定子をフレームに固定する際に、固定子をフレームに直接圧入すると、硬度の低いアルミニウム系材料のフレームが、前記多数の段差の部分に生じたエッジによって削られてフレームが損傷する問題があった。
焼嵌めによる結合方法を用いることにより、固定子をフレームに固定することも可能であるが、焼嵌めによる結合方法を採用するためには、焼嵌めを行うための設備が別途必要であり、設備費等により製造コストが増加する問題があった。また、硬度の低いアルミニウム系材料で前述の保持力を高めようとするとフレームを肉厚にする必要があり回転電機の径方向の寸法が増大する問題があった。
【0004】
本願は、前述のような実情に鑑みてなされた技術を開示するものであり、固定子組み込み時におけるフレームの損傷を防止でき、固定子を保持する保持力が向上し、更に回転電機本体の径方向の小型化を図ることを可能にすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願に開示される乗り物用制御装置一体型回転電機は、回転電機本体と、前記回転電機本体のリア側に配設され回転電機を制御する制御装置とが一体化された乗り物用制御装置一体型回転電機であって、
前記回転電機本体は、回転子軸と、前記回転子軸に固定された回転子と、電磁積層鋼板を積層して形成され前記回転子を囲むように配置された固定子と、前記固定子を囲うように配置され前記固定子を保持するフレームと、前記固定子と前記フレームとの間に位置する第一の円環形状部材と、前記固定子と前記第一の円環形状部材との間に位置する第二の円環形状部材とを備え、
前記第一の円環形状部材および前記第二の円環形状部材が、前記フレームより硬度が高い材料で形成されており、
前記第一の円環形状部材の板厚よりも前記第二の円環形状部材の板厚が大きく、
前記フレームは、前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材とを鋳込んで前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材と一体形成されており、
前記第一の円環形状部材および前記第二の円環形状部材は前記フレームに金属接合されており、
前記固定子が、前記一体形成された前記フレームと前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材における前記第二の円環形状部材に圧入されているものである。
【発明の効果】
【0006】
本願に開示される乗り物用制御装置一体型回転電機は、回転電機本体と、前記回転電機本体のリア側に配設され回転電機を制御する制御装置とが一体化された乗り物用制御装置一体型回転電機であって、前記回転電機本体は、回転子軸と、前記回転子軸に固定された回転子と、電磁積層鋼板を積層して形成され前記回転子を囲むように配置された固定子と、前記固定子を囲うように配置され前記固定子を保持するフレームと、前記固定子と前記フレームとの間に位置する第一の円環形状部材と、前記固定子と前記第一の円環形状部材との間に位置する第二の円環形状部材とを備え、前記第一の円環形状部材および前記第二の円環形状部材が、前記フレームより硬度が高い材料で形成されており、前記第一の円環形状部材の板厚よりも前記第二の円環形状部材の板厚が大きく、前記フレームは、前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材とを鋳込んで前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材と一体形成されており、前記第一の円環形状部材および前記第二の円環形状部材は前記フレームに金属接合されており、前記固定子が、前記一体形成された前記フレームと前記第一の円環形状部材と前記第二の円環形状部材における前記第二の円環形状部材に圧入されているので、固定子組み込み時におけるフレームの損傷を防止でき、固定子を保持する保持力が向上し、更にフレームの薄肉化が可能であることから回転電機本体の径方向の小型化を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本願の実施の形態1を示す図で、乗り物用制御装置一体型回転電機の一例を示す断面図である。
【
図2】本願の実施の形態1を示す図で、
図1に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機の第一の円環形状部材と第二の円環形状部材とを示す斜視図である。
【
図3】本願の実施の形態1を示す図で、
図1に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機のフレームの製造方法を示す断面図である。
【
図4】本願の実施の形態1を示す図で、
図1に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機の組立工程の一部を示す断面図である。
【
図5】本願の実施の形態2を示す図で、
図1に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機に適用する他の円環形状部材を示す斜視図である。
【
図6】本願の実施の形態3を示す図で、
図1に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機に適用する更に他の円環形状部材を示す斜視図である。
【
図7】本願の実施の形態4を示す図で、回転電機の他の例を示す断面図である。
【
図8】本願の実施の形態4を示す図で、
図7に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機のフレームの製造方法を示す断面図である。
【
図9】本願の実施の形態5を示す図で、
図7に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機に適用する他の円環形状部材を示す斜視図である。
【
図10】本願の実施の形態5を示す図で、
図7に例示の乗り物用制御装置一体型回転電機のフレームの他の製造方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本願に係る乗り物用制御装置一体型回転電機の実施の形態を図面に基づいて説明する。
なお、本願は以下の記述に限定されるものではなく、本願の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合があり、また、本願の特徴に関係しない構成の図示は省略する。
本願の実施の形態1から実施の形態5は、乗り物用制御装置一体型回転電機を車両に搭載する電動パワーステアリングに適用した例を示しており、車両のステアリングの操舵力をアシスタントする回転電機本体と回転電機を制御するための制御装置から構成される。
以下本願の実施の形態1から実施の形態5を
図1から
図10を用いて順に説明する。
【0009】
実施の形態1.
以下、実施の形態1を
図1から
図4を用いて説明する。
図1は乗り物用制御装置一体型回転電機の回転電機本体の構成の一例を説明するための断面図である。
図1において、回転電機本体1の円筒状のフレーム2の内周面に、第一の円環形状部材3が設置されている。第一の円環形状部材3の内周面に第二の円環形状部材4が設置されている。第二の円環形状部材4の内周面に固定子5が設置されている。
フレーム2は安価で軽量なアルミニウム合金で形成されている。
第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4はいずれも炭素鋼で形成されている。 固定子5は電磁鋼板を積層して形成され、回転子11を囲むように配置されている。
第一の円環形状部材3は、フレーム2と金属接合されている。
第二の円環形状部材4は、第一の円環形状部材3に圧入されている。
固定子5は、第二の円環形状部材4の内周面に圧入されることによって、第二の円環形状部材4および第一の円環形状部材を介してフレーム2に圧入される。
軸受13を保持する軸受ホルダ15は、固定子5および回転子11と、ヒートシンク16との間の空間に配設されている。
ヒートシンク16は、フレーム2の内周面に圧入されることによって、フレーム2の負荷側(以下、フロント側と呼称する)のボス17と反対側(以下、リア側と呼称する)に取り付けられる。
【0010】
回転電機を制御するための制御装置1cは、回転電機本体1のリア側に配設されている。具体的には、制御装置1cは、ヒートシンク16にそのリア側に取り付けられ、ヒートシンク16に熱的に接続され且つ電気的に絶縁されている。制御装置1cは、周知のように、固定子巻線と外部の直流電力との間の電力変換を行う電力変換回路(図示省略)と電力変換回路を制御するための制御回路(図示省略)とを有している。
固定子5には、周知のように、絶縁体であるインシュレータ6を介して固定子巻線7が巻装されている。
制御装置1cからの電流を固定子巻線7に供給するためのターミナル8を固定するためのホルダ9が、固定子5とヒートシンク16との間の空間に配設されている。
【0011】
回転子軸10には、回転子11が固定されている。回転子11には、その外周に、固定子5の内周面に対向する磁石12が設置されている。
回転子軸10は、リア側の軸受13およびフロント側の軸受14によって回転可能に支持されている。
回転子軸10のリア方向の端部には、回転子11の回転状態を検出する周知の回転角度検出センサ(図示省略)が設置されている。回転角度検出センサとして、周知のようにレゾルバ、ホールICおよびMRセンサ、等が用いられる。
回転電機本体1のフロント側の端部には、車両側と組付けるためのボス17が設けられている。
【0012】
図2は、
図1に例示の回転電機の第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を例示した斜視図である。第一の円環形状部材3は、一例として、厚さ0.5mmの炭素鋼で形成され、第二の円環形状部材4は、一例として、厚さ1.5mmの炭素鋼で形成されている。
【0013】
図3は、本実施の形態における回転電機本体1のフレーム2の製造方法を示す断面図である。
射出成型用の中型18は、フレーム2の内側の形状に合わせて形成されている。この中型18に、第一の円環形状部材3およびこの第一の円環形状部材3に圧入された第二の円環形状部材4が、
図3に例示のように設置される。
射出成型用の外型19は、フレーム2の外側の形状に合わせて形成されている。
【0014】
JIS(Japanese Industrial Standard(日本工業規格))に規定されたアルミニウム合金であるADC12の溶湯を加圧して、加圧された溶湯を中型18と外型19との間に射出する。射出されたADC12の溶湯は、
図3に例示のように、中型18と、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4と、外型19とを、相対的に対向した状態に組み込んだ場合に形成されている空間に充填される。この充填された溶湯が冷却凝固してフレーム2が形成される。
図3に例示のように、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4が設置された中型18と外型19との間にフレーム2が位置している。
図3に例示のように、フレーム2の内側には円環状の溝2gが形成されている。この円環状の溝2g内に第一の円環形状部材3と第二の円環形状部材4とが配置されている。
フレーム2の円環状の溝の軸方向両端の壁面2gwsには、第一の円環形状部材3の軸方向両端の端面3esと第二の円環形状部材4の軸方向両端の端面4esとが軸方向に対向している。その後に、中型18と外型19とを分離する。この中型18と外型19との分離により、第一の円環形状部材3と第二の円環形状部材4とを鋳込んだフレーム2が形成される。
このような製法で、フレーム2と、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4とを一体形成することにより、回転電機本体1を組み立てる際に、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4をフレーム2に圧入する工程を不要にできる。また、フレーム2と、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4とが圧入された状態で、フレーム2を加工できるため寸法精度が向上する。
【0015】
ところで、フレーム2の製造工程において、溶湯と接触する第一の円環形状部材3の外周の面とフレーム2の内周面との間に金属接合が生じる。従って、溶湯が冷却されて凝固する過程で、アルミニウム合金で形成されたフレーム2の線膨張係数と、炭素鋼で形成された第一の円環形状部材3の線膨張係数との違いよって、フレーム2および第一の円環形状部材3の両者に応力が発生する。それ故に、炭素鋼よりもアルミニウム合金の強度が低く変形、割れが生じやすい。従って、フレーム2は、第一の円環形状部材3の板厚に対して十分な剛性を確保するための板厚が必要となり、薄肉化を妨げる問題が生じる。また、フレーム2を薄肉化するために第一の円環形状部材3の板厚を小さくすると、固定子5を保持する保持力が低下する問題が生じる。
前述の各問題に鑑みて、本実施の形態の例では、フレーム2と自身の外周が接合する第一の円環形状部材3の板厚を小さくすることで、フレーム2の薄肉化を可能とし、更に、第一の円環形状部材3の内周に板厚の大きい第二の円環形状部材4を設置することで、固定子5を保持するに十分な大きさの保持力も得ることができる。
図3に例示のように、第二の円環形状部材4も軸方向の上下の端面4esがフレーム2と金属接合されるが、局所的でありフレーム2の変形、割れが問題とならない。
なお、第一の円環形状部材3を、炭素鋼以外のADC12よりも融点の高い材料、例えばJIS規格のアルミニウム合金であるA3003、A5005、等の他のアルミニウム合金で形成してもよい。
【0016】
図4は本実施の形態の一例である回転電機本体1において、フレーム2に固定子5を圧入する工程を例示した断面図である。
図4に例示のように、フレーム2に固定子5を圧入する工程において、本願の構成によれば、電磁鋼板を積層して形成された固定子5の前述の積層による段差部は、硬度の高い炭素鋼で形成した第二の円環形状部材4の内周面と接触する。従って、固定子5を、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を介してアルミニウム合金のフレーム2に圧入することにより、フレーム2に固定子5を圧入する工程において、固定子5の圧入に起因するフレーム2の損傷を防止でき、しかも、焼嵌めによる製法を採用しなくて済むので、焼嵌め設備を不要にでき、設備費も廉価となる。
【0017】
実施の形態2.
図5は本実施の例の第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4の別の例を示した斜視図である。なお、本実施の形態2では、実施の形態1と同一または相当部分については符号を一部省略し、説明も省略し、要部のみを図示し説明する。
図5において、第一の円環形状部材3の側面の一部に貫通穴20および切欠き21が形成されている。
第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4をフレーム2に鋳込む際に、貫通穴20および切欠き21の箇所では、第二の円環形状部材4の外周面がフレーム2と金属接合されて固定されるため、固定子5をフレーム2に、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を介して、圧入した構造において、軸方向(
図1の上下の方向)および軸方向を中心とした回転方向の前述の保持力を向上することができる。第二の円環形状部材4とフレーム2との金属接合部が局所に限定されており、フレーム2の変形、割れも防止することができる。なお、貫通穴20および切欠き21のどちらか一方のみを形成しても、また、それぞれを複数個所に形成しても、同等の効果を奏する。
【0018】
実施の形態3.
図6は本実施の形態3を例示する図で、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4の他の例を示した斜視図である。なお、本実施の形態3では、実施の形態1および実施の形態2と同一または相当部分については符号を一部省略し、説明も省略し、要部のみを図示し説明する。
図6において、第二の円環形状部材4の、第一の円環形状部材3の貫通穴20および切欠き21と接触しない箇所に、軸方向の一端から他端まで貫通する切欠き22が形成されている。切欠き22が形成されていることにより、第二の円環形状部材4を第一の円環形状部材3に圧入する際、第二の円環形状部材4の径を縮小する方向に荷重をかけながら圧入することができ、第二の円環形状部材4を第一の円環形状部材3に圧入する際の圧入力を下げることが可能となり組立が容易となる。
【0019】
実施の形態4.
図7および
図8を用いて本願の実施の形態4による乗り物用制御装置一体型回転電機を説明する。本実施の形態4も実施の形態1と同様、車両に搭載する電動パワーステアリングに適用した例を示しており、回転電機本体と制御装置とを備えている。なお、本実施の形態4では、実施の形態1から実施の形態3と同一または相当部分については符号を一部省略し、説明も省略し、要部のみを図示し説明する。
【0020】
図7は乗り物用制御装置一体型回転電機の回転電機本体の他の構成を説明するための断面図である。
図1と同様に、回転電機本体1のフレーム2の内周面に第一の円環形状部材3が設置され、第一の円環形状部材3の内周面に第二の円環形状部材4が設置され、第二の円環形状部材4の内周面に固定子5が設置されている。
フレーム2は安価で軽量なアルミニウム合金で形成されており、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4は炭素鋼で形成されており、固定子5は電磁鋼板を積層して形成されている。
第一の円環形状部材3の外周面は、フレーム2と金属接合されており、固定子5は、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を介してフレーム2に圧入されることで設置されている。
本実施の形態の例では、第二の円環形状部材4の端面4esに、円環の内周の方向に向けてテーパー23が形成されており、第二の円環形状部材4の内周面は、端面4esよりフレーム2の内側の方向(
図8における左方向)に突出している。
【0021】
第一の円環形状部材3は厚さ0.5mmの炭素鋼で形成され、第二の円環形状部材4は厚さ1.5mmの炭素鋼で形成されている。
第二の円環形状部材4の制御装置1c側の端面4esには、0.7mmの平坦部を残して、円環の内周の方向に向けてテーパー23が設けられている。第二の円環形状部材4は、第一の円環形状部材3に圧入されることにより、第一の円環形状部材3と第二の円環形状部材4とは一体化される。
【0022】
図8は本実施の例の回転電機のフレームの製造方法を示す断面図である。
中型18は、フレーム2の内側の形状に合わせて形成され、中型18に第一の円環形状部材3と第二の円環形状部材4とが設置される。
外型19は、フレーム2の外側の形状に合わせて形成されている。
【0023】
JISに規定されたアルミニウム合金であるADC12の溶湯を加圧して、加圧された溶湯を中型18と外型19との間に射出する。射出されたADC12の溶湯は、
図8に例示のように、中型18と、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4と、外型19とを、相対的に対向した状態に組み込んだ場合に形成されている空間に充填される。この充填された溶湯が冷却凝固してフレーム2が形成される。
図8に例示のように、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4が設置された中型18と外型19との間にフレーム2が位置している。その後に、中型18と外型19とを分離する。この中型18と外型19との分離により、第一の円環形状部材3と第二の円環形状部材4とを鋳込んだフレーム2が形成される。
【0024】
本実施の形態の事例では、第一の円環形状部材3と第二の円環形状部材4とを一体で鋳込んで形成されたフレーム2において、外周がフレームと接合される第一の円環形状部材3の板厚を小さくすることで、フレーム2の薄肉化を可能とし、且つ第一の円環形状部材3の内周に、板厚が第一の円環形状部材3より大きい第二の円環形状部材4を設置することで、固定子5を保持するに十分な大きさの保持力も得ることができる。
本願の構成によれば、電磁鋼板を積層して形成された固定子5の前述の積層による段差部は、硬度の高い炭素鋼で形成した第二の円環形状部材4の内周面と接触する。従って、固定子5を、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を介してアルミニウム合金のフレーム2に圧入することにより、フレーム2に固定子5を圧入する工程において、固定子5の圧入に起因するフレーム2の損傷を防止できる。
【0025】
固定子5と第二の円環形状部材4とは圧入の関係となっており、固定子5の外径が第二の円環形状部材4内周の径よりも大きい。従って、固定子5を第二の円環形状部材4に圧入する際、固定子5の外周端部の底面、角部等がフレーム2の内周面または第二の円環形状部材4の端面に接触する時に、フレーム2の内周面または第二の円環形状部材4の端面を変形等損傷させる可能性がある。本実施の例のように、第二の円環形状部材4の内周面をフレーム2の内側の方向に突出させるとともに、第二の円環形状部材4の端面にテーパー23を形成しておくことで、固定子5を第二の円環形状部材4に圧入する際のフレーム2の内周面または第二の円環形状部材4の端面の損傷を防止できる。
【0026】
実施の形態5.
図9は本実施の形態5を例示する図で、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4の更に他の例を示した斜視図であり、
図10は本実施の形態5における第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を鋳込んだフレーム2の製造方法を例示する図である。なお、本実施の形態5では、実施の形態1から実施の形態4と同一または相当部分については符号を一部省略し、説明も省略し、要部のみを図示し説明する。
【0027】
第一の円環形状部材3は厚さ0.5mmの炭素鋼で形成され、第二の円環形状部材4は厚さ1.5mmの炭素鋼で形成されている。
第二の円環形状部材4の制御装置(
図7の1c)側の端面4esには、0.7mmの平坦部を残して円環の内周の方向に向けてテーパー23を設けられている。
第一の円環形状部材3の軸方向の長さは、第二の円環形状部材4の軸方向の長さよりも短く、第二の円環形状部材4と第一の円環形状部材3とは相対的に圧入される関係であり、第二の円環形状部材4の制御装置(
図7の1c)側、すなわちリア側、の端部は、第一の円環形状部材3の制御装置(
図7の1c)側の端部より、リア側に突出している。
【0028】
中型18は、フレーム2の内側の形状に合わせて形成され、中型18に第一の円環形状部材3と第二の円環形状部材4を設置している。
外型19はフレーム2の外側の形状に合わせて形成されている。
JISに規定されたアルミニウム合金であるADC12の溶湯を加圧して、加圧された溶湯を中型18と外型19との間に射出する。射出されたADC12の溶湯は、
図8に例示のように、中型18と、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4と、外型19とを、相対的に対向した状態に組み込んだ場合に形成されている空間に充填される。この充填された溶湯が冷却されて凝固した後に、中型18と外型19とを分離する。
【0029】
第二の円環形状部材4の、第一の円環形状部材3から軸方向にリア側に突出した箇所の外周面が、フレーム2と金属接合されてフレーム2に固定されるため、固定子5を、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を介してフレーム2に圧入した構造において、軸方向(
図7の上下の方向)および軸方向を中心とした回転方向の保持力を向上することができる。第二の円環形状部材4の一部しかフレーム2と金属接合されていないため、フレーム2の変形、割れを防止することができる。
なお、第一の円環形状部材3を、炭素鋼以外のADC12よりも融点の高い材料、例えばJIS規格のアルミニウム合金であるA3003、A5005、等の他のアルミニウム合金で形成してもよい。
【0030】
このように、本実施の形態の回転電機本体1では、第一の円環形状部材3と第一の円環形状部材3の内周側に設置した第二の円環形状部材4とをアルミニウム系材料に鋳込んで一体形成されたフレーム2に、第一の円環形状部材3および第二の円環形状部材4を介して、固定子5が圧入されている。これにより、前記圧入の際に固定子5の積層による段差部は硬度の高い炭素鋼で形成した第二の円環形状部材4の内周面と接触するため、フレーム2の、固定子5との直接接触による損傷を防止でき、焼嵌めの設備費用を削減できる。さらに、外周面がフレーム2と金属接合される第一の円環形状部材の板厚を小さくし、第二の円環形状部材4の板厚を第一の円環形状部材の板厚より大きくすることで、フレーム2を薄肉化しても、フレーム2の変形、割れを防止しながら固定子の保持力を向上することができる。これにより、回転電機本体1の径方向寸法の小型化が可能となる。
【0031】
なお、前述の実施の形態1から5はいずれも、自動車、自動二輪車、原動機付自転車、モータボート、スノーモビル、飛行機、等の、いわゆる乗り物に適用できるものである。
【0032】
なお、各図中、同一符合は同一または相当部分を示す。
なお、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0033】
1 回転電機本体、1c 制御装置、2 フレーム、2g 溝、2gws 壁面、3 第一の円環形状部材、3es 端面、4 第二の円環形状部材、4es 端面、5 固定子、6 インシュレータ、7 固定子巻線、8 ターミナル、9 ホルダ、10 回転子軸、11 回転子、12 磁石、13 軸受、14 軸受、15 軸受ホルダ、16 ヒートシンク、17 ボス、18 中型、19 外型、20 貫通穴、21 切欠き、 22 切欠き、23 テーパー。