(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】生物検体スライサー
(51)【国際特許分類】
G01N 1/06 20060101AFI20221216BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
G01N1/06 A
G01N1/28 G
G01N1/28 J
(21)【出願番号】P 2020561183
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041379
(87)【国際公開番号】W WO2020129393
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018235550
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 三郎
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103921303(CN,A)
【文献】特開2009-183461(JP,A)
【文献】国際公開第2014/027048(WO,A1)
【文献】特表2002-533670(JP,A)
【文献】特開2013-000160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一辺に第1刃先が形成された板状刃からなる複数の第1刃体と、これら第1刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第1刃先が配列された第1刃先面を形成するように、前記複数の第1刃体を少なくとも2点で保持する第1保持部とを含み、前記第1刃先面は保持された2点の間に位置する第1刃体アレイと、
少なくとも一辺に第2刃先が形成された板状刃からなる複数の第2刃体と、これら第2刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第2刃先が配列された第2刃先面を形成するように、前記複数の第2刃体を少なくとも2点で保持する第2保持部とを含み、前記第2刃先面は保持された2点の間に位置する第2刃体アレイと、
前記第1刃体が前記第2刃体間に入り込み、前記第1刃先面又は前記第2刃先面に載置された生物検体をスライスするように、前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとを係合させる係合機構と、
を具備する生物検体スライサー
において、
前記第1保持部の前記少なくとも2点のうち1点と、前記第2保持部の前記少なくとも2点のうち1点とは、一本の保持軸を用いた共通の保持部で構成され、
前記係合機構は、前記保持軸回りに前記第1刃体アレイ又は前記第2刃体アレイを回動させる機構であり、
前記第1刃体及び前記第2刃体は、各々グリップ部が付設され、これらグリップ部は、前記共通の保持部から第1刃先面及び第2刃先面が延びる方向とは反対方向に延出している、生物検体スライサー。
【請求項2】
請求項1に記載の生物検体スライサーにおいて、
前記第1刃体は、前記第1刃先の背側に当該第1刃体の一部を切欠いた第1窓部を有すると共に、前記第2刃体は、前記第2刃先の背側に当該第2刃体の一部を切欠いた第2窓部を有する、生物検体スライサー。
【請求項3】
請求項2に記載の生物検体スライサーにおいて、
前記係合機構は、前記第1窓部と前記第2窓部とが側面視で重なるように、前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとを係合させることが可能である、生物検体スライサー。
【請求項4】
請求項1に記載の生物検体スライサーにおいて、
前記第1刃体及び第2刃体は、それぞれ前記第1刃先及び第2刃先の前記少なくとも2点のうち他の1点の近傍に、スライスされた生物検体片をスライス面と直交する方向においてさらに切断するための先端刃を備える、生物検体スライサー。
【請求項5】
少なくとも一辺に第1刃先が形成された板状刃からなる複数の第1刃体と、これら第1刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第1刃先が配列された第1刃先面を形成するように、前記複数の第1刃体を少なくとも2点で保持する第1保持部とを含み、前記第1刃先面は保持された2点の間に位置する第1刃体アレイと、
少なくとも一辺に第2刃先が形成された板状刃からなる複数の第2刃体と、これら第2刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第2刃先が配列された第2刃先面を形成するように、前記複数の第2刃体を少なくとも2点で保持する第2保持部とを含み、前記第2刃先面は保持された2点の間に位置する第2刃体アレイと、
前記第1刃体が前記第2刃体間に入り込み、前記第1刃先面又は前記第2刃先面に載置された生物検体をスライスするように、前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとを係合させる係合機構と、を具備する生物検体スライサーにおいて、
前記第1刃体間、前記第2刃体間、又は前記第1刃体間及び前記第2刃体間の双方を通過可能な部材からなり、
前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとによる前記生物検体の切断動作の後に前記刃体間に滞留するスライスされた生物検体片を取り出すための取り出し部材をさらに備える、生物検体スライサー。
【請求項6】
少なくとも一辺に第1刃先が形成された板状刃からなる複数の第1刃体と、これら第1刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第1刃先が配列された第1刃先面を形成するように、前記複数の第1刃体を少なくとも2点で保持する第1保持部とを含み、前記第1刃先面は保持された2点の間に位置する第1刃体アレイと、
少なくとも一辺に第2刃先が形成された板状刃からなる複数の第2刃体と、これら第2刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第2刃先が配列された第2刃先面を形成するように、前記複数の第2刃体を少なくとも2点で保持する第2保持部とを含み、前記第2刃先面は保持された2点の間に位置する第2刃体アレイと、
前記第1刃体が前記第2刃体間に入り込み、前記第1刃先面又は前記第2刃先面に載置された生物検体をスライスするように、前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとを係合させる係合機構と、を具備する生物検体スライサーにおいて、
前記第1保持部及び前記第2保持部は、
前記第1刃体間及び前記第2刃体間に各々挟み込まれるスペーサ部材と、
前記スペーサ部材が挟み込まれた状態で前記第1刃体及び前記第2刃体を固定する固定部材と、
を備える生物検体スライサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば生物の癌細胞のような生物検体を複数のスライス片に切断するための生物検体スライサーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、癌細胞等の病理検体を患者から採取し、どの種類の抗癌剤をどの程度の濃度で投与した場合に、当該癌細胞に効果を発揮するかを検査する場合がある。この場合、患者から採取できる検体量は多くないので、多種多様な薬効条件を確認するためには、採取された検体をなるべく細分化することが望ましい。このため、前記検査に際しては、先ずは検体を数百ミクロンオーダーにスライスし、このスライス片をさらに細分化してダイス片を作成する作業、或いはスライス化を省いて検体からダイス片を切り出す作業が求められる。
【0003】
前記作業は、病理学用ナイフ等を用いて手作業にて行い得るが、所望の薄いスライス片を病理検体から切り出すには熟練を要し、多くの時間を費やす。このため、前記スライス片を得るための各種の器具が存在する。例えば特許文献1には、ナイフを差し入れることができるスリットが多数配列された切断ガイドカバーを備える治具が開示されている。ユーザーは、前記切断ガイドカバーの下方に配置された基台上に検体を載置し、前記スリットからナイフを差し入れて前記検体をスライスする。
【0004】
しかし、特許文献1のような治具を用いたとしても、均等なスライス片を検体から切り出すことは困難な作業となる。また、前記スリットの各々にナイフを差し入れる作業が必要となり、どうしてもスライス作業に時間を要してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、短時間で、正確に所望の厚さを有する生物検体のスライス片を得ることができる生物検体スライサーを提供することにある。
【0007】
本発明の一局面に係る生物検体スライサーは、少なくとも一辺に第1刃先が形成された板状刃からなる複数の第1刃体と、これら第1刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第1刃先が配列された第1刃先面を形成するように、前記複数の第1刃体を少なくとも2点で保持する第1保持部とを含み、前記第1刃先面は保持された2点の間に位置する第1刃体アレイと、少なくとも一辺に第2刃先が形成された板状刃からなる複数の第2刃体と、これら第2刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第2刃先が配列された第2刃先面を形成するように、前記複数の第2刃体を少なくとも2点で保持する第2保持部とを含み、前記第2刃先面は保持された2点の間に位置する第2刃体アレイと、前記第1刃体が前記第2刃体間に入り込み、前記第1刃先面又は前記第2刃先面に載置された生物検体をスライスするように、前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとを係合させる係合機構と、を具備する生物検体スライサーにおいて、前記第1保持部の前記少なくとも2点のうち1点と、前記第2保持部の前記少なくとも2点のうち1点とは、一本の保持軸を用いた共通の保持部で構成され、前記係合機構は、前記保持軸回りに前記第1刃体アレイ又は前記第2刃体アレイを回動させる機構であり、前記第1刃体及び前記第2刃体は、各々グリップ部が付設され、これらグリップ部は、前記共通の保持部から第1刃先面及び第2刃先面が延びる方向とは反対方向に延出している。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1B】
図1Bは、本発明に係る生物検体スライサーによるスライスを概略的に示す模式図である。
【
図1C】
図1Cは、生物検体のスライス片からダイス片を得る手法を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る生物検体スライサーの斜視図である。
【
図3】
図3は、前記生物検体スライサーを展開した平面図である。
【
図4】
図4は、前記生物検体スライサーの一部の分解斜視図である。
【
図5】
図5(A)及び(B)は、第1実施形態に係る生物検体スライサーの使用状態を説明するための斜視図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態の生物検体スライサーに、スライス片の取り出しのためのワイヤーユニットを付加した第1変形例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の生物検体スライサーに、スライス片の取り出しのためのプレートユニットを付加した第2変形例を示す斜視図である。
【
図8】
図8(A)及び(B)は、上記第2変形例の生物検体スライサーの使用状態を説明するための斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2実施形態に係る生物検体スライサーの斜視図である。
【
図10】
図10(A)~(C)は、第2実施形態に係る生物検体スライサーの使用状態を説明するための側面図である。
【
図11】
図11は、本発明の第3実施形態に係る生物検体スライサーの斜視図である。
【
図12】
図12は、第3実施形態に係る生物検体スライサーの使用状態を説明するための側面図である。
【
図13】
図13は、第3実施形態の生物検体スライサーの第1変形例を示す斜視図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態の生物検体スライサーの第2変形例を示す斜視図である。
【
図15】
図15は、本発明の第4実施形態に係る生物検体スライサーの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る生物検体スライサーは、人体や各種動物の組織塊、細胞凝集塊、小サイズの生物等の生物検体をスライスするために用いられる。好適には、前記生物検体スライサーは、人体や各種動物の臓器から採取された、癌細胞等の病理検体を含む生体組織をスライス化乃至はダイス片に細分化して、多量の断片化された生体サンプルを取得するために用いられる。
【0010】
図1A乃至
図1Cは、生物検体からダイス片を作るプロセスを示す模式図である。
図1Aは、生物検体Cの模式図である。生物検体Cは、三次元形状を備えた生体組織(例えば、癌組織部分、正常組織部分、変質部分、壊死部分等)であり、その形状は検体によってまちまちである。
図1Bは、生物検体Cのスライス片CSを示している。スライス片CSは、生物検体Cを任意の方向aにスライスして取得される。このスライス片CSの肉厚は、例えば0.05mm~2mm程度である。
【0011】
図1Cには、上記のスライス片CSからダイス片CDを得る手法が模式的に示されている。まず、スライス片CSに対して一方向(X方向)に沿った切断動作を所定ピッチで多数回行い、所定幅の短冊片CBを多数本作成する。さらに、これら短冊片CBに対して、前記一方向と直交する方向(Y方向)に沿った切断動作を所定ピッチで多数回行い、所定サイズのダイス片CDを多数個作成する。このダイス片は、一辺が0.05mm~2mm程度の略直方体の形状となる。
【0012】
得られたダイス片CDは、培地Mを貯留する容器等に投入される。培地Mには、試験対象の特定の薬剤が特定の濃度で注入されている。前記特定の薬剤は、ダイス片CDが容器に投入された後に分注される場合もある。このような培地環境が、薬種や濃度等を異ならせて多種多様に設定され、各々の培地環境にダイス片CDが投入され、各々の薬効を確認する試験が行われるものである。以下の実施形態に示す生物検体スライサーは、三次元形状を有する生物検体Cから複数のスライス片CSを切り出すために使用される。一部の実施形態(第3実施形態)では、スライス片CSから複数のダイス片CDの切り出しにも用いることができる生物検体スライサーを示す。
【0013】
[第1実施形態]
図2は、本発明の第1実施形態に係る生物検体スライサー1Aの斜視図、
図3は、生物検体スライサーを展開した平面図である。生物検体スライサー1Aは、第1刃体アレイ2Aと、第2刃体アレイ3Aと、これら刃体アレイ2A、3Aを回動且つ噛み合わせ可能に係合する後述の第3固定ユニット43とを備える。本実施形態では、第3固定ユニット43が係合機構に相当する。生物検体スライサー1Aは、1回の切断動作で、1個の生物検体Cから複数のスライス片CSを切り出すことができる切断装置である。
【0014】
第1刃体アレイ2Aは、側面視で長方形の板状刃からなる複数枚の第1刃体21を含む。これら第1刃体21は、互いに所定間隔を置いて並列に整列された状態で保持されている。各第1刃体21は、互いに対向する第1短辺201及び第2短辺202と、これら一対の短辺201、202と直交する方向に延びる第1長辺203(一辺)及び第2長辺204と、を備えている。本実施形態では、第1長辺203に、先端が先鋭化された第1刃先22が形成されている。第1刃先22は、概ね第1長辺203の全長に亘って形成されている。なお、第1刃先22は、第1長辺203の一部領域、例えば中央領域だけに形成する態様としても良い。また、第1長辺203に加え、第1刃体21の他の辺、例えば第1短辺201及び/又は第2長辺204にも、追加的に刃先を形成するようにしても良い。
【0015】
同様に、第2刃体アレイ3Aは、側面視で長方形の板状刃からなる複数枚の第2刃体31を含む。これら第2刃体31は、互いに所定間隔を置いて並列に整列された状態で保持されている。各第2刃体31は、互いに対向する第1短辺301及び第2短辺302と、これら一対の短辺301、302と直交する方向に延びる第1長辺303(一辺)及び第2長辺304と、を備えている。一対の長辺303、304のうち、第2刃体アレイ3Aの回動時において上述の第1刃体21の第1長辺203と交差する第1長辺303に、先端が先鋭化された第2刃先32が形成されている。
【0016】
第1刃体21及び第2刃体31としては、例えばステンレス鋼やカーボン鋼等の鋼材からなる薄肉の刃体を好適に用いることができる。第1刃先22、第2刃先32の形状は、第1刃体21、第2刃体31の両面に刃面を付けた両面刃、或いは片面だけに刃面を付けた片面刃のいずれであっても良い。これらのうち、より正確な切断のためには、片面刃を用いることが望ましい。
【0017】
複数枚の第1刃体21及び第2刃体31は、第1保持部としての第1固定ユニット41、第2保持部としての第2固定ユニット42及び第3固定ユニット43によって保持されている。第3固定ユニット43は、本実施形態では、第1保持部並びに第2保持部の一部、並び係合機構の役目を果たす。第1刃体21の刃群は、第1短辺201付近において第1固定ユニット41にて保持され、第2短辺202付近において第3固定ユニット43にて保持されている。すなわち、複数の第1刃体21は、互いに離間した2点で保持されている。また、第2刃体31の刃群は、第1短辺301付近において第2固定ユニット42にて保持され、第2短辺302付近において第3固定ユニット43にて保持されている。複数の第2刃体31もまた、互いに離間した2点で保持されている。第3固定ユニット43は、第1刃体21の刃群の第2短辺202付近と、第2刃体31の刃群の第2短辺302付近との双方を保持する共通の固定ユニットである。第2短辺202付近は、第1保持部で保持される少なくとも2点のうちの1点の例示であり、また第2短辺302は、第2保持部で保持される少なくとも2点のうちの1点の例示である。当該第3固定ユニット43を1本の保持軸にして第1刃体アレイ2Aと第2刃体アレイ3Aとが互いに回動可能に連結されている。
【0018】
図4は、生物検体スライサー1Aの一部である第1刃体アレイ2Aの分解斜視図である。第1刃体21の各々は、第1短辺201付近に第1ボルト孔205を、第2短辺202付近に第2ボルト孔206を備えている。第1固定ユニット41は、第1ボルト411、第1ナット412及び第1ワッシャー413を含む。第1ボルト411、第1ナット412は固定部材の例示である。第1ワッシャーはスペーサ部材の例示である。この第1固定ユニット41及び
図4では図略の第1保持部としての第3固定ユニット43が、第1刃体アレイ2Aにおける第1刃体21間の各々に刃間ギャップG1(所定間隔)を形成し、且つ、第1刃先22が所定の配列状態で並ぶ第1刃先面23(
図2、
図3)を形成するように、複数の第1刃体21を2点で保持している。前記2点は、第1刃先22の長手方向の一端(第2短辺202)付近と、他端(第1短辺201)付近との2点である。本実施形態における所定の配列状態は、第1刃先22の各々が一の平面内に並ぶ状態である。
【0019】
複数枚の第1刃体21は、第1刃先22が同一高さで平行に並ぶように、横並びに配列される。第1固定ユニット41の第1ワッシャー413は、隣接する第1刃体21同士の間にそれぞれ挟み込まれる。第1ワッシャー413の厚みが、刃間ギャップG1を決定する。換言すると、第1ワッシャー413の厚みを選択することで、刃間ギャップG1を自在に設定することができる。第1ボルト411は、第1刃体21の刃群の各第1ボルト孔205と、各第1刃体21間に介在された第1ワッシャー413の開口とに挿通される。第1ナット412は、第1ボルト411の先端側から螺合され、第1ワッシャー413が各々挟み込まれた状態で、第1刃体21の刃群を第1短辺201付近において締結固定する。
【0020】
第2刃体アレイ3Aの固定用の第2固定ユニット42も、第1固定ユニット41と同様である。第2固定ユニット42は、第2ボルト421、第2ナット422及び第2ワッシャー423を含む。第2ボルト421、第2ナット422は固定部材の例示である。第2ワッシャーはスペーサ部材の例示である。第2ワッシャー423は、隣接する第2刃体31同士の間にそれぞれ挟み込まれている。第2ボルト421及び第2ナット422は、第2ワッシャー423が挟み込まれた状態で、第2刃体31の刃群を第1短辺301側において締結固定している。この第2固定ユニット42及び第2保持部としての第3固定ユニット43が、第2刃体アレイ3Aにおける第2刃体31間の各々に刃間ギャップG2(所定間隔)を形成し、且つ、第2刃先32の各々が一の平面内に並ぶ配列状態からなる第2刃先面33(
図2、
図3)を形成するように、複数の第2刃体31を2点で保持している。前記2点は、第2刃先32の長手方向の一端(第2短辺302)付近と、他端(第1短辺301)付近との2点である。
【0021】
第3固定ユニット43も同様に、第3ボルト431、第3ナット432及び第3ワッシャー433を含む。第3ボルト431は固定部材/保持軸の例示、第3ナット432は固定部材の例示、第3ワッシャー433はスペーサ部材の例示である。第3固定ユニット43は、既述の通り第1刃体アレイ2Aと第2刃体アレイ3Aとで共通の保持部である。
図3に示されているように、一つの第1刃体21の第2短辺202と一つの第2刃体31の第2短辺302とが重ね合わされ、このような重ね合わせ部が第1刃体21、第2刃体31の配列方向に刃体数だけ並んでいる。第3ワッシャー433は、隣接する前記重ね合わせ部の各々の間に介在されている。第3ボルト431は、第1刃体21の刃群の各第2ボルト孔206(
図4)と、第2刃体31の刃群が第2短辺302に備えるボルト孔と、第3ワッシャー433の開口とに挿通される。第3ナット432は、第3ボルト431の先端から螺合され、第3ワッシャー433が前記重ね合わせ部間に各々挟み込まれた状態で、第1刃体21及び第2刃体31の刃群を締結固定する。
【0022】
第1刃体21間の刃間ギャップG1と、第2刃体31間の刃間ギャップG2とは同じ間隔に設定されている。刃間ギャップG1、G2は、所望のスライス片CSの肉厚に応じて設定され、例えば0.05mm~2mm程度の範囲に設定される。なお、第3ワッシャー433の肉厚は、第2刃体31の厚み分だけ、第1ワッシャー413よりも薄肉である。
図3では、全て刃間ギャップG1、G2が均一である例、つまり第1刃先22、第2刃先32が同一ピッチで配列されている例を示している。これに代えて、第1ワッシャー413、第2ワッシャー423、第3ワッシャー433の厚みを適宜変更することで、不均一な刃間ギャップG1、G2、段階的に広くなる刃間ギャップG1、G2、或いは段階的に狭くなる刃間ギャップG1、G2等を形成するようにしても良い。例えば、生物検体のある範囲は0.4mmサイズにスライスし、他の範囲は0.8mmサイズにスライスする例を挙げることができる。また、第1刃体21、第2刃体31の枚数は任意であり、所要の刃数(形成する刃間ギャップG1、G2の数)に応じて、第1ボルト411、第2ボルト421、第3ボルト431の長さ、若しくは第1ナット412、第2ナット422、第3ナット423の締結位置が設定される。
【0023】
第3固定ユニット43は、第1刃体アレイ2Aと第2刃体アレイ3Aとを、両者によって切断動作が実行可能なように係合させる係合機構としての役目も果たす。第3ボルト431及び第3ナット432は、第1刃体21及び第2刃体31を強固に固定するのではなく、第1刃体21及び第2刃体31が第3ボルト431の軸回りに相対回動可能な程度の締結度をもって両者を固定している。つまり、第3ボルト431は、第1刃体アレイ2A及び第2刃体アレイ3Aを回動自在に保持する一本の保持軸として機能する。
【0024】
図3に示すように第1刃体アレイ2Aと第2刃体アレイ3Aとが直線状に延伸した状態から、
図2に示すように、第3ボルト431の軸回りにいずれか一方を回動させたとする。この場合、第1刃体21の第1刃先22が第2刃体31の第2刃先32間に入り込む。これにより、互いに摺接する一対の第1刃体21と第2刃体31とが、鋏の如き切断動作を実行可能となる。すなわち、第1刃体アレイ2A又は第2刃体アレイ3Aのいずれか一方を他方に対して畳み込む(係合する)ように第3ボルト431の軸回りに回動させることで、第1刃先面23又は第2刃先面33に載置された生物検体Cをスライスする切断動作を実行させることができる。
【0025】
図5(A)及び(B)は、第1実施形態に係る生物検体スライサー1Aの使用状態を示す斜視図である。ここでは、第1刃体アレイ2Aを固定し、第2刃体アレイ3Aを第1刃体アレイ2Aに対して可動させてスライス動作が行われる例を示す。ユーザーは、
図5(A)に示すように、切断対象となる生物検体Cを、ピンセット等を用いて第1刃先面23の上に載置する。この際、第2刃体アレイ3Aは、第1刃体アレイ2Aとなす角が90度程度となるように、予め第3固定ユニット43の軸回りに回動させておくことが望ましい。
【0026】
続いてユーザーは、
図5(B)に示すように、第2刃先面33が生物検体Cの載置された第1刃先面23に接近する方向(
図5では時計方向)に、第2刃体アレイ3Aを回動させる。これにより、生物検体Cは、互いに摺接する一対の第1刃体21、第2刃体31の第1刃先22、第2刃先32の各々によって、複数箇所で同時にスライスされることになる。
【0027】
上記のような切断動作が行われることで、
図1Bに示したような複数のスライス片CSを、生物検体スライサー1Aによる一回の切断動作で得ることができる。また、第1固定ユニット41、第2固定ユニット42及び第3固定ユニット43による第1刃先22、第2刃先32の両端の保持効果によって、第1刃先22と第2刃先32との間の間隔が刃先全長に亘って所定の刃間ギャップG1、G2に維持される。従って、所望の厚さのスライス片CSを正確に得ることができる。
【0028】
[第1実施形態の変形例]
次に、第1実施形態の生物検体スライサー1Aに、切断動作の後に、スライスされた生物検体片(スライス片CS)を第1刃体21間及び/又は第2刃体31間から取り出す機構を付加した実施形態を示す。生物検体Cは一般的に粘着性を有するものが多い。このため、生物検体スライサー1Aで得られたスライス片CSは、第1刃体21間、第2刃体31間に滞留することがある。このような離型性の悪いスライス片CSを第1刃体21間、第2刃体31間若しくは第1刃体21及び第2刃体31の双方間から掻き出す機構をスライサーに具備させ、スライス作業の作業効率を向上させることが好ましい。
【0029】
図6は、第1実施形態の第1変形例に係る生物検体スライサー1Bを示す斜視図である。生物検体スライサー1Bは、上記の生物検体スライサー1Aの構成に加えて、スライスで得られたスライス片CSを第1刃体21及び第2刃体31間から取り出すためのワイヤーユニット5を備えている。ワイヤーユニット5は、ワイヤー51(取り出し部材)と、ワイヤー51の両端に取り付けられた把持部52と、ワイヤー51の外れを防止するための止め具53とを含む。
【0030】
ワイヤー51は、第1刃体21間の刃間ギャップG1及び第2刃体31間の刃間ギャップG2よりも小さい外径を有し、第1刃体21間、第2刃体31間を通過可能である。ワイヤー51は、第1刃先22、第2刃先32よりも奥側に位置するように、第1刃体21間、第2刃体31間にそれぞれ嵌め込まれている。止め具53は、このようなワイヤー51の第1刃先22間、第2刃先32間からの抜け出しを防止するために、ワイヤー51の一端と他端とを係止している。なお、第1刃先22、第2刃先32とは反対側からのワイヤー51の抜け出しは、第3固定ユニット43の第3ボルト431にて防止される。
【0031】
図6では、図示簡略化のため、一本のワイヤー51だけを図示しているが、実際には各々の刃間ギャップG1、G2に対してワイヤー51が配置される。すなわち、刃間ギャップG1、G2の数に応じた本数のワイヤー51がハーネス化され、一対の把持部52は前記ハーネスの両端を各々保持する態様となる。
【0032】
図6の例では、
図5(A)及び(B)に示した生物検体Cのスライス動作が行われ、第1刃体21間にスライス片CSが残存している場合を想定している。この場合、ユーザーは、止め具53を取り外すと共に、一対の把持部52を把持する。次にユーザーは、ワイヤー51を第1刃体21と第2刃体31との間から引き出すように、図中に矢印で示す方向に把持部52を引っ張る。この動作により、第1刃体21間に滞留するスライス片CSは、ワイヤー51によって掻き出される。従って、スライス片CSの離型性が悪い場合でも、当該スライス片CSを容易に刃体間から取り出すことができる。
【0033】
なお、ユーザーは、止め具53を取り外すことなく、把持部52を引っ張る動作を行うだけでも、第1刃体21間に滞留するスライス片CSを概ね引き出すことができる。また、スライス片CSを生物検体スライサー1Bの切断対象とした場合は、把持部52の引っ張りにより短冊片CBを得ることができ、短冊片CBを切断対象とした場合にはダイス片CDを得ることができる。止め具53の配置位置は、第1刃体21及び第2刃体31の先端に位置する短辺の位置としても良い。
【0034】
図7は、第1実施形態の第2変形例に係る生物検体スライサー1Cを示す斜視図である。生物検体スライサー1Cは、上記の生物検体スライサー1Aの構成に加えて、スライスで得られたスライス片CSを第1刃体21間から取り出すためのプレートユニット6を備えている。プレートユニット6は、薄板からなるプレート61(取り出し部材)と、プレート61の基端に対して直角方向に連なる薄板からなる操作部62と、プレート61及び操作部62との角部に穿孔された長穴63とを備えている。
【0035】
プレート61は、第1刃体21間の刃間ギャップG1よりも小さい肉厚を有するプレートであり、第1刃体21間を通過可能である。操作部62は、プレートユニット6の操作時にユーザーが把持する部分である。長穴63は、第1固定ユニット41の第1ボルト411若しくは第1ワッシャー413を挿通可能なサイズを有する。この変形例では、プレートユニット6を、第1刃体21間の刃間ギャップG1を維持するスペーサ部材の役目を兼用させるように用いることもできる。すなわちプレート61は、長穴63に少なくとも第1ボルト411が挿通されることによって、第1刃体アレイ2Aと係合している。そしてプレート61は、第1ボルト411の軸回りに回動可能であって、長穴63の長手方向の長さ分だけスラスト移動が可能とされている。
【0036】
図7では、図示簡略化のため、一つのプレートユニット6だけを図示しているが、実際には各々の刃間ギャップG1に対してプレートユニット6が配置される。すなわち、刃間ギャップG1の数に応じた本数のプレートユニット6が、第1ボルト411に対して組み付けられる。これら複数のプレートユニット6の操作部62をボルト等で固定化し、複数のプレートユニット6を同時に操作できるようにすることが望ましい。
【0037】
図8(A)及び(B)は、第2変形例の生物検体スライサー1Cの使用状態を説明するための斜視図である。ここでは、図示簡略化のため、スライス片CS及びプレートユニット6を実線で描いている。この例でも、
図5(A)及び(B)に示した生物検体Cのスライス動作が行われ、第1刃体21間にスライス片CSが残存している場合を想定している。この場合、ユーザーは操作部62を把持して、
図7に示す退避姿勢から
図8(A)に示す掻き出しスタンバイ姿勢に至るように、プレートユニット6を第1ボルト411の軸回りに時計方向に回動させる。
【0038】
図8(A)の掻き出しスタンバイ姿勢では、プレートユニット6のプレート61が、第1刃体21間に滞留するスライス片CSの下方に位置している。続いてユーザーは、
図8(B)に示すように、把持した操作部62を上方に持ち上げる。この動作により、第1刃体21間に滞留するスライス片CSは、プレート61によって押し出され、当該スライス片CSを容易に刃体間から取り出すことができる。なお、
図8(B)に点線で示しているように、第1刃体21の配列方向において最も奥側に、上方に長いプレート64を配置することで、取り出されたスライス片CSを受け止めることができるようにすることが望ましい。
【0039】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態に係る生物検体スライサーを例示する。ここでは、上掲のワイヤーユニット5又はプレートユニット6といった取り出し部材を要することなく、切断動作後にスライス片CSを容易に取り出すことが可能な実施形態を示す。
図9は、第2実施形態に係る生物検体スライサー1Dの斜視図である。生物検体スライサー1Dは、第1刃体アレイ2Bと、第2刃体アレイ3Bと、両刃体アレイを回動且つ噛み合わせ可能に係合する係合機構(本実施形態では後述の第3固定ユニット46)とを備えている。
【0040】
第1刃体アレイ2B、第2刃体アレイ3Bの構成は、実質的には第1実施形態の第1刃体アレイ2A、第2刃体アレイ3Aの構成と同様である。第1刃体アレイ2B、第2刃体アレイ3Bは、側面視で長方形の板状刃からなる複数枚の第1刃体24、複数枚の第2刃体34を含む。第1刃体24は各々第1刃先25を備え、これら第1刃先25が一の平面内に並ぶ第1刃先面26を第1刃体アレイ2Bは備えている。同様に、第2刃体34は、各々第2刃先35を備え、これら第2刃先35が一の平面内に並ぶ第2刃先面36を第2刃体アレイ3Bは備えている。
【0041】
第1実施形態と相違する点は、第1刃体24が第1窓部27を、第2刃体34が第2窓部37を、それぞれ備えている点である。第1窓部27は、第1刃体24における第1刃先25の背側を所定領域(第1刃体の一部)だけ切り欠いてなる部分である。ここでの背側とは、第1刃体24において第1刃先25が形成されている長辺と反対側の長辺を含む領域を意味する。本実施形態では、前記反対側の長辺を含む領域において幅広のU字状に第1刃体24が切り欠かれてなる第1窓部27を例示している。第2窓部37も同様であり、第2刃先35が形成されている長辺と反対側の長辺を含む領域において幅広のU字状に第2刃体34が切り欠かれてなる第2窓部37を例示している。なお、第1窓部27、第2窓部37は、U字状に開口されている必要はなく、閉じた窓部の形態であっても良い。
【0042】
第1刃体アレイ2Bの先端付近は、第1保持部としての第1固定ユニット44で固定されている。第1固定ユニット44は、第1ボルト441、先端側ナット442、基端側ナット443及び図には表れないワッシャーを含む。このワッシャーは、上述の第1ワッシャー413と同様の部材であり、第1刃体24間に介在され所定の刃間ギャップを作る。第1刃体24の積層体の片面側に先端側ナット442が、他面側に基端側ナット443が配置され、第1ボルト441のこれらナット442、443への締結によって第1刃体24の積層体が固定されている。
【0043】
第2刃体アレイ3Bの先端付近は、第2保持部としての第2固定ユニット45で固定されている。第1刃体アレイ2B及び第2刃体アレイ3Bの基端付近は、両者に共通の第3固定ユニット46にて固定されている。第3固定ユニット46は、本実施形態では、第1保持部並びに第2保持部の一部、並び係合機構の役目を果たす。第2固定ユニット45及び第3固定ユニット46の構成は第1固定ユニット44と同じである。これら第1固定ユニット44、第2固定ユニット45、第3固定ユニット46によって、第1刃体24の積層体及び第2刃体34の積層体は、各刃間に所定のギャップが固定的に維持された状態で保持されている。なお、
図9に実施形態では、第1ボルト441が第1刃体24群の積層厚さよりも相当長い例を示している。これは、第1刃体24を追加的に組み入れ、第1刃先面26の面積を拡張できることを意味している。
【0044】
共通の保持部である第3固定ユニット46は、第1窓部27と第2窓部37とが側面視で重なるよう、第1刃体アレイ2Bと第2刃体アレイ3Bとを折り畳む(係合する)ことができるように、第1刃体アレイ2B及び第2刃体アレイ3Bを回動自在に連結している。このような第1刃体アレイ2B、第2刃体アレイ3Bの折り畳み係合によって、第1窓部27と第2窓部37とが側面視で重なる状態となると、スライスされた生物検体C(スライス片CS)を第1窓部27及び第2窓部37を通して外部に露呈させることができる。従って、切断動作後のスライス片CSの取り出しを容易にすることができる。
【0045】
この点を
図10(A)~(C)に基づいて説明する。
図10(A)~(C)は、第2実施形態に係る生物検体スライサー1Dの使用状態を説明するための側面図である。ここでは、第1刃体アレイ2Bを固定側、第2刃体アレイ3Bを可動側としてスライス動作が行われる例を示す。ユーザーは、
図10(A)に示すように、切断対象となる生物検体Cを、ピンセット等を用いて第1刃先面26の上に載置する。この点は第1実施形態と同じである。
【0046】
続いてユーザーは、
図10(B)に示すように、第2刃先面36が生物検体Cの載置された第1刃先面26に接近する方向に第2刃体アレイ3Bを回動させる。これにより、生物検体Cは、互いに摺接する一対の第1刃体24、第2刃体34の第1刃先25、第2刃先35の各々によって、複数箇所で同時にスライスされることになる。このとき、当該生物検体Cのスライス片CSは、第1刃体24或いは第2刃体34の刃間に滞留した状態となり得る。また、第2刃体アレイ3Bの回動が進むに連れ、第1窓部27、第2窓部37のキャビティ同士が側面視で重なり合い始める。
【0047】
図10(C)に示すように、第1刃体アレイと第2刃体アレイ3Bとの折り畳みが完了すると、具体的には第2刃体34の先端側が第1固定ユニット44に当接するまで第2刃体アレイ3Bを回動させると、スライス動作は終了する。このとき、第1窓部27と第2窓部37とは側面視で重なり合い、略三角形の開口が第1刃体アレイ2Bと第2刃体アレイ3Bとの折り畳み体に形成される。従って、ユーザーは、スライス片CSを第1窓部27と第2窓部37とにより作られる前記開口を通して容易に取り出すことができる。なお、第1窓部27及び第2窓部37は、側面視で互いに重なり合わない態様とすることもできる。この態様でも、第1窓部27及び第2窓部37が形成された分だけ第1刃体24同士、第2刃体34同士が互いに重なり合う部分が減少するため、スライス後のスライス片CS等の取り出しを容易化することができる。
【0048】
[第3実施形態]
第3実施形態では、上掲の第2実施形態の生物検体スライサー1Dに対して、ハンドリング性を向上させるためのグリップ部と、スライスされた生物検体片をさらに細分切断することが可能な先端刃とを備えた生物検体スライサーを例示する。
図11は、第3実施形態に係る生物検体スライサー1Eの斜視図である。生物検体スライサー1Eは、第1刃体アレイ2Cと、第2刃体アレイ3Cと、両刃体アレイを回動且つ噛み合わせ可能に係合する後述の第3固定ユニット46Aとを備えている。本実施形態では、第3固定ユニット46Aが係合機構の例である。
【0049】
第1刃体アレイ2C、第2刃体アレイ3Cの構成は、実質的には第2実施形態の第1刃体アレイ2B、第2刃体アレイ3Bの構成と同様である。第1刃体アレイ2C、第2刃体アレイ3Cは、側面視で長方形の板状刃からなる複数枚の第1刃体24A、第2刃体34Aを含む。第1刃体24Aは各々第1刃先25Aを備え、これら第1刃先25Aが一の平面内に並ぶ第1刃先面26Aを第1刃体アレイ2Cは備えている。同様に、第2刃体34Aは、各々第2刃先35Aを備え、これら第2刃先35Aが一の平面内に並ぶ第2刃先面36Aを第2刃体アレイ3Cは備えている。また、第1刃体24A、第2刃体34Aは、第1刃先25A、第2刃先35Aの背側を各々切り欠いてなる第1窓部27A、第2窓部37Aを、それぞれ備えている。
【0050】
第1刃体アレイ2Cの先端付近は、第1保持部としての第1固定ユニット44Aで固定され、第2刃体アレイ3Cの先端付近は、第2保持部としての第2固定ユニット45Aで固定されている。第1刃体アレイ2C及び第2刃体アレイ3Cの基端付近は、両者に共通の第3固定ユニット46Aにて固定されている。第3固定ユニット46Aは、本実施形態では、第1保持部並びに第2保持部の一部、並び係合機構の役目を果たす。この点も第2実施形態と同様である。
【0051】
第2実施形態と相違する点は、第1刃体24A、第2刃体34Aの先端側に各々第1先端刃28、第2先端刃38が備えられていることと、第1刃体24A、第2刃体34Aの基端側に各々第1グリップ部29、第2グリップ部39が備えられている点である。第1先端刃28、第2先端刃38は、スライス片CSから
図1Cに示したようなダイス片CDを切り出すための刃部である。第1グリップ部29、第2グリップ部39は、ユーザーが生物検体スライサー1Eを操作する際に把持する部分である。
【0052】
第1先端刃28は、第1刃体24Aの第1短辺201Aに、鋭利な形状で突設された刃部である。同様に、第2先端刃38は、第2刃体34Aの第1短辺301Aに、鋭利な形状で突設された刃部である。第1刃体アレイ2Cと第2刃体アレイ3Cとが第3固定ユニット46A回りに回動されて折り畳まれたとき、これら第1先端刃28、第2先端刃38は互いに摺接しつつすれ違い、切断動作を行うことができる。
【0053】
第1グリップ部29は、第1刃体24Aの第2短辺202Aから第1短辺201Aとは反対側に延出する、長方形の平板部分である。同様に、第2グリップ部39は、第2刃体34Aの第2短辺302Aから第1短辺301Aとは反対側に延出する、長方形の平板部分である。つまり、第1グリップ部29、第2グリップ部39は、共通の保持部である第3固定ユニット46Aから、第1刃先面26A、第2刃先面36Aが延びる方向とは反対側に各々延出している。一般的なハサミのように、第1グリップ部29及び第2グリップ部39の遠端同士が接近するように両者を閉じることで、第1刃先25Aと第2刃先35A、若しくは第1先端刃28と第2先端刃38とに切断動作を行わせることができる。なお、第1グリップ部29と第2グリップ部39との間に、両者を互いに離間する方向に常時付勢するバネ部材47(
図12)を介在させることが望ましい。また、第1グリップ部29及び第2グリップ部39に、手指を差し入れることが可能なリング状部分を付設することが望ましい。
【0054】
第3実施形態の生物検体スライサー1Eによる生物検体Cのスライス動作は、上掲の
図10(A)~(C)と実質的に同じである。但し、生物検体スライサー1Eでは、ユーザーは第1グリップ部29と第2グリップ部39とを把持し、これらを閉じる操作を行うことで、第1刃体アレイ2C及び第2刃体アレイ3Cに切断動作を実行させることができる。従って、スライス動作の際の操作性を向上させることができる。これに加え、生物検体スライサー1Eによれば、第1先端刃28及び第2先端刃38を用いて、スライス片CSをさらに細分化する切断動作を行わせることができる。
【0055】
図12は、生物検体スライサー1Eによりスライス片CSを切断する様子を示す図である。第1先端刃28及び第2先端刃38は、スライス片CSのスライス面と直交する方向において、さらにスライス片CSを切断することができる。ユーザーは、スライス片CSを所定の切断平面上に載置し、その切断平面に対して鉛直方向からスライス片CSに、開放状態の第1先端刃28と第2先端刃38とを近づける。そして、ユーザーが第1グリップ部29及び第2グリップ部39を閉じるように操作することで、第1先端刃28及び第2先端刃38に切断動作を実行させる。この切断動作を、切断ピッチ分だけずらして繰り返すことで、
図1Cに示したような、生物検体Cの短冊片CBを得ることができる。さらに、切断方向を90度変更して第1先端刃28及び第2先端刃38にて短冊片CBを切断することで、ダイス片CDを得ることができる。
【0056】
図13は、第3実施形態の第1変形例に係る生物検体スライサー1Fを示す斜視図である。生物検体スライサー1Fは、上述の生物検体スライサー1Eに、2つのリンク機構71A、71Bが追加された構成を備えている。リンク機構71A、71Bは、第1刃体アレイ2C及び第2刃体アレイ3Cに各々テンションを加えて刃体アレイの撓みを防止する。リンク機構71A、71Bは、両端にネジが切られたリンク棒711と、リンク棒711の両端にそれぞれ螺合される一対の端末具712とを備える。リンク棒711を一の方向に回転させると一対の端末具712間の距離が長くなり、他の方向に回転させると一対の端末具712間の距離が短くなる。
【0057】
一方のリンク機構71Aの端末具712は、第3ボルト431と第1ボルト411とに取り付けられている。他方のリンク機構71Bの端末具712は、第3ボルト431と第2ボルト421とに取り付けられている。リンク棒711を適宜回転させ、適正な延伸テンションを第1刃体アレイ2C及び第2刃体アレイ3Cに与えることにより、これら刃体アレイの剛性を高めることができる。なお、リンク機構71A、71Bは、第1刃体アレイ2C及び第2刃体アレイ3Cのいずれか一側部だけに設けても、両側部に設けても良い。
【0058】
図14は、第3実施形態の第2変形例に係る生物検体スライサー1Fを示す斜視図である。生物検体スライサー1Gは、上述の生物検体スライサー1Eに、複数枚のスペーサ72が追加された構成を備えている。スペーサ72は、第1グリップ部29を構成する複数の長方形の平板部分の間、並びに第2グリップ部39を構成する複数の長方形の平板部分の間に、各々介在されている。このようなスペーサ72の介在により、第1グリップ部29及び第2グリップ部39の剛性を高めることができ、操作性を向上させることができる。
【0059】
上記の第1変形例、第2変形例以外にも、第3実施形態の生物検体スライサー1Eは、種々の変形例を採用することができる。例えば、スペーサ72に代えて、第1グリップ部29及び第2グリップ部39の先端付近にボルト、ナット、ワッシャーからなる固定部分を設けるようにしてもよい。また、第1刃先25A及び第2刃先35Aを、ワイヤー状の刃部にて構成するようにしても良い。
【0060】
[第4実施形態]
第1~第3実施形態の生物検体スライサー1A~1Eでは、第1刃体アレイと第2刃体アレイとがハサミ方式で係合する例を示した。第1刃体アレイと第2刃体アレイとは、いわゆるギロチン方式で係合するものであっても良い。
図15は、本発明の第4実施形態に係る生物検体スライサー1Hの斜視図である。生物検体スライサー1Hは、第1刃体アレイ2Dと、第2刃体アレイ3Dと、両刃体アレイを回動且つ噛み合わせ可能に係合する第1、第2受け溝145、146とを備えている。本実施形態では、第1、第2受け溝145、146が係合機構の例である。
【0061】
第1刃体アレイ2D、第2刃体アレイ3Dは、側面視で長方形の板状刃からなる複数枚の第1刃体121、複数枚の第2刃体131を含む。第1刃体121は各々第1刃先122を備え、これら第1刃先122が一の平面内に並ぶ第1刃先面123を第1刃体アレイ2Dは備えている。同様に、第2刃体131は、各々第2刃先132を備え、これら第2刃先132が一の平面内に並ぶ第2刃先面133を第2刃体アレイ3Dは備えている。第1刃体121は、第1刃先122の背側を切り欠いてなる窓部124を備えている。第2刃体131は、第1刃体アレイ2Dと第2刃体アレイ3Dとを係合させる係合機構として機能する第1受け溝145及び第2受け溝146を備えている。
【0062】
第1刃体アレイ2Dの一端側は一端保持部141で、他端側は他端保持部142で、各々固定されている。一端保持部141及び他端保持部142は、第1保持部の例である。第2刃体アレイ3Dの一端側は一端保持部143、他端側は他端保持部144で、各々固定されている。一端保持部143及び他端保持部144は、第2保持部の例である。第1受け溝145、第2受け溝146は、第2刃先132の延在方向と直交する方向に凹む溝であり、それぞれ一端保持部141、他端保持部142と係合可能な位置において、第2刃体131に設けられている。
【0063】
生物検体スライサー1Hにて生物検体Cをスライスさせる場合、ユーザーは生物検体Cを第1刃先面123の上に載置する。そして、第1受け溝145に一端保持部141が、また、第2受け溝146に他端保持部142が各々嵌り込むように、第1刃体アレイ2Dと第2刃体アレイ3Dとを係合させる。なお、この係合がスムースに行われるよう、第2刃体アレイ3Dのガイド機構を付設することが望ましい。前記係合により、第1刃先面123の生物検体Cはスライスされる。しかる後、第1刃体アレイ2Dを取り外せば、窓部124を通して得られたスライス片CSを取り出すことができる。
【0064】
以上説明した本実施形態に係る生物検体スライサー1A~1Hによれば、第1刃体アレイ2A~2Dは、第1刃先22、25、25A、122の一端側及び他端側の双方において、第1保持部、例えば第1実施形態ならば第1、第3固定ユニット41、43によって少なくとも2点で保持されている。つまり、複数本の第1刃体21、24、24A、121が、当該第1刃先の両端側において保持され、刃体アレイを構成する第1刃体21、24、24A、121間の間隔が維持される。第2刃体アレイ3A~3Dも同様である。このような第1刃体アレイ2A~2D、第2刃体アレイ3A~3Dが、第1刃体21、24、24A、121が第2刃体31、34、34A、131間に入り込む態様で係合するので、例えば第1刃先面23、26、26A、123に載置された生物検体Cを一回の操作で複数枚にスライスすることができる。また、第1保持部及び第2保持部による刃先両端の保持効果によって、第1刃先22、25、25A、122と第2刃先32、35、35A、132間の間隔が刃先全長に亘って所定間隔に維持されるので、所望の厚さのスライス片CSを正確に得ることができる。
【0065】
[上記実施形態に包含される発明]
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0066】
本発明の一局面に係る生物検体スライサーは、少なくとも一辺に第1刃先が形成された板状刃からなる複数の第1刃体と、これら第1刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第1刃先が配列された第1刃先面を形成するように、前記複数の第1刃体を少なくとも2点で保持する第1保持部とを含み、前記第1刃先面は保持された2点の間に位置する第1刃体アレイと、少なくとも一辺に第2刃先が形成された板状刃からなる複数の第2刃体と、これら第2刃体間の各々に所定間隔を維持し且つ前記第2刃先が配列された第2刃先面を形成するように、前記複数の第2刃体を少なくとも2点で保持する第2保持部とを含み、前記第2刃先面は保持された2点の間に位置する第2刃体アレイと、前記第1刃体が前記第2刃体間に入り込み、前記第1刃先面又は前記第2刃先面に載置された生物検体をスライスするように、前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとを係合させる係合機構と、を具備する。
【0067】
この生物検体スライサーによれば、第1刃体アレイの複数本の第1刃体は、第1保持部によって所定間隔を維持した状態で少なくとも2点で保持され、この2点の保持位置の間に前記第1刃先面が配置される。つまり、複数本の第1刃体が、第1刃先面を挟むように2点で保持され、前記第1刃体間の間隔が維持される。第2刃体アレイも同様である。このような第1刃体アレイと第2刃体アレイとが、前記第1刃体が前記第2刃体間に入り込む態様で係合するので、第1刃先面又は第2刃先面に載置された生物検体を一回の操作で複数枚にスライスすることができる。また、前記第1保持部及び前記第2保持部による刃先両端の保持効果によって第1刃先間及び第2刃先間の間隔が刃先全長に亘って所定間隔に維持されるので、所望の厚さのスライス片を正確に得ることができる。
【0068】
上記の生物検体スライサーにおいて、前記第1刃体は、前記第1刃先の背側に当該第1刃体の一部を切欠いた第1窓部を有すると共に、前記第2刃体は、前記第2刃先の背側に当該第2刃体の一部を切欠いた第2窓部を有することが望ましい。
【0069】
この生物検体スライサーによれば、第1窓部又は第2窓部を通して、スライス後の生物検体の取り出しを容易にすることができる。
【0070】
上記の生物検体スライサーの場合、前記係合機構は、前記第1窓部と前記第2窓部とが側面視で重なるように、前記第1刃体アレイと前記第2刃体アレイとを係合させることが可能であることがより望ましい。
【0071】
この生物検体スライサーによれば、係合機構による第1刃体アレイと第2刃体アレイとの係合によって、第1窓部と第2窓部とが側面視で重なる。このため、第1刃体アレイと第2刃体アレイとの係合時には、スライスした生物検体を第1窓部及び第2窓部から外部に露呈させることができる。従って、切断動作後のスライス片の取り出しを容易にすることができる。
【0072】
上記の生物検体スライサーにおいて、前記第1保持部の前記少なくとも2点のうち1点と、前記第2保持部の前記少なくとも2点のうち1点とは、一本の保持軸を用いた共通の保持部で構成され、前記係合機構は、前記保持軸回りの前記第1刃体アレイ又は前記第2刃体アレイを回動させる機構であることが望ましい。
【0073】
この生物検体スライサーによれば、第1刃体アレイ又は第2刃体アレイの保持軸回りの回動によって、生物検体がスライスされる。従って、前記第1刃体アレイ又は第2刃体アレイを上下方向にスライドさせる場合等に比較して、切れ味良く生物検体をスライスさせることができる。
【0074】
上記の生物検体スライサーにおいて、前記第1刃体及び前記第2刃体は、各々グリップ部が付設され、これらグリップ部は、前記共通の保持部から第1刃先面及び第2刃先面が延びる方向とは反対方向に延出していることが望ましい。
【0075】
この生物検体スライサーによれば、ユーザーはグリップ部を把持して当該スライサーを操作することができるので、操作性を向上させることができる。
【0076】
上記の生物検体スライサーにおいて、前記第1刃体及び第2刃体は、それぞれ前記第1刃先及び第2刃先の前記少なくとも2点のうち他の1点の近傍に、スライスされた生物検体片をスライス面と直交する方向においてさらに切断するための先端刃を備えることが望ましい。
【0077】
この生物検体スライサーによれば、前記保持軸回りに回動する第1刃体及び第2刃体の先端付近に先端刃を備える。従って、ユーザーは、グリップ部を閉じる操作を行うことで、スライスされた生物検体片を短冊状に切断したり、さらに当該短冊片を細分化してダイス状に切断したりすることが可能となる。
【0078】
上記の生物検体スライサーにおいて、前記第1刃体間、前記第2刃体間、又は前記第1刃体間及び前記第2刃体間の双方を通過可能な部材からなり、前記切断動作の後に前記刃体間に滞留するスライスされた生物検体片を取り出すための取り出し部材をさらに備えることが望ましい。
【0079】
この生物検体スライサーによれば、切断動作後に、第1刃体間、第2刃体間或いはこれらの双方に挟まった状態にある生物検体片を、取り出し部材の操作によって取り出すことができる。従って、離型性が悪い検体等についてのスライス作業性を向上させることができる。
【0080】
上記の生物検体スライサーにおいて、前記第1保持部及び前記第2保持部は、前記第1刃体間及び前記第2刃体間に各々挟み込まれるスペーサ部材と、前記スペーサ部材が挟み込まれた状態で前記第1刃体及び前記第2刃体を固定する固定部材と、を備えることが望ましい。
【0081】
この生物検体スライサーによれば、スペーサ部材の厚みを適宜選択することで、所望のスライス厚さを有する生物検体のスライス片を得ることができる。また、厚みの異なるスペーサ部材を刃体間に挟み込むことで、異なる厚さのスライス片を、一回の切断動作で取得することができる。すなわち、生物検体の所定箇所をターゲットとする厚さでスライスすることが可能となる。
【0082】
本発明によれば、短時間で、正確に所望の厚さを有する生物検体のスライス片を得ることができる生物検体スライサーを提供することができる。