(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】波長分散型X線分光計
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20221216BHJP
G01N 23/2209 20180101ALI20221216BHJP
【FI】
G01N23/223
G01N23/2209
(21)【出願番号】P 2020567522
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 US2019034740
(87)【国際公開番号】W WO2019236384
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-01-27
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516065870
【氏名又は名称】シグレイ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ウェンビン
(72)【発明者】
【氏名】キールズ,ジャノス
(72)【発明者】
【氏名】ストライプ,ベンジャミン・ドナルド
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0336334(US,A1)
【文献】特開2013-113782(JP,A)
【文献】特表2006-501444(JP,A)
【文献】特開2013-096750(JP,A)
【文献】特開2011-095224(JP,A)
【文献】特開平01-180439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線分光計であって、
X線エネルギの関数として入射強度分布を有するX線を受光するように構成された少なくとも1つのX線光学部品を備え、前記少なくとも1つのX線光学部品は、
少なくとも1つの表面を含む少なくとも1つの基板を備え、前記少なくとも1つの表面は、少なくとも一部分において、長手方向軸の周りに管状に対称かつ前記長手方向軸に沿って延在する形状の内面を有し、前記内面は、前記長手方向軸の周りおよび前記長手方向軸に沿って延在し、前記長手方向軸に垂直な平面内に直径を有し、前記直径は、前記長手方向軸に沿った位置の関数として変化し、前記少なくとも1つの表面は
、180度~360度の角度で前記長手方向軸の周りに延在し、前記少なくとも1つのX線光学部品はさらに、
前記少なくとも1つの表面の少なくとも一部の上または上方の少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層を含み、前記複数の層は、第1の材料を含む第1の複数の第1の層と、第2の材料を含む第2の複数の第2の層とを含み、前記第1の層および前記第2の層は、前記少なくとも1つの表面に垂直な方向において互いに交互に位置しており、前記X線分光計はさらに、
前記少なくとも1つのX線光学部品からX線を受光し、前記少なくとも1つのX線光学部品からの前記X線の空間分布を記録するように構成された少なくとも1つのX線検出器を備える、X線分光計。
【請求項2】
前記少なくとも1つのX線光学部品の第1の部分は、受光された前記X線の第1の部分を前記少なくとも1つのX線検出器に向かって方向付けるように構成され、前記少なくとも1つのX線光学部品の第2の部分は、受光された前記X線の第2の部分を前記少なくとも1つのX線検出器に向かって方向付けるように構成され、前記少なくとも1つのX線光学部品の前記第2の部分は、前記長手方向軸と平行な方向に沿って前記少なくとも1つのX線光学部品の前記第1の部分から変位しており、受光された前記X線の方向付けられた前記第1の部分は、X線エネルギの関数として第1の強度分布を有し、受光された前記X線の方向付けられた前記第2の部分は、X線エネルギの関数として第2の強度分布を有し、前記第2の強度分布は前記第1の強度分布とは異なる、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項3】
受光された前記X線は、前記長手方向軸と平行な非ゼロ成分を有する少なくとも1方向に沿って伝播し、受光された前記X線の前記第1の部分は、第1のグレージング入射角で前記少なくとも1つのX線光学部品の前記第1の部分に衝突し、受光された前記X線の前記第2の部分は、前記第1のグレージング入射角とは異なる第2のグレージング入射角で前記少なくとも1つのX線光学部品の前記第2の部分に衝突する、請求項2に記載のX線分光計。
【請求項4】
受光された前記X線の方向付けられた前記第1の部分は、前記少なくとも1つのX線検出器の第1の部分に伝播し、受光された前記X線の方向付けられた前記第2の部分は、前記少なくとも1つのX線検出器の第2の部分に伝播し、前記少なくとも1つのX線検出器の前記第2の部分は、前記少なくとも1つのX線検出器の前記第1の部分から空間的に変位している、請求項2に記載のX線分光計。
【請求項5】
前記少なくとも1つのX線光学部品は、異なるX線エネルギ範囲内のX線を前記少なくとも1つのX線検出器の対応する異なる領域に方向付けることによって、前記異なる領域の空間位置が前記異なるX線エネルギ範囲内のX線に対応するように構成される、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項6】
前記少なくとも1つの表面は、
前記長手方向軸と平行な長さが3mm~150mmの範囲内にあり、
前記長さに垂直な幅が1mm~50mmの範囲内にあり、
前記長手方向軸に垂直な平面における内径が1mm~50mmの範囲内にあり、
表面粗さが0.1nm~1nmの範囲内にあり、および/または、
0.01ラジアン~0.4ラジアンの範囲内の、前記長手方向軸に対してある範囲内の角度を有する複数の接平面を有する、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項7】
前記少なくとも1つの表面の少なくとも一部は凹形であり、前記長手方向軸と平行な少なくとも1つの断面において湾曲しており、前記表面の少なくとも一部は前記断面において二次曲面形状を有する、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項8】
前記二次曲面形状は、少なくとも1つの楕円面、少なくとも1つの放物面、少なくとも1つの双曲面、またはそれらの2つ以上の組み合わせ、からなる群から選択される、請求項
7に記載のX線分光計。
【請求項9】
前記複数の層のうちの各層の厚みは0.3nm~9nmの範囲内にある、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項10】
前記第1の層および前記第2の層は、前記複数の層全体にわたって
深さが勾配を有する周期で互いに交互に位置する、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項11】
前記複数の層の前記第1の材料は、ケイ素、ホウ素、および炭素のうちの少なくとも1つを含み、前記複数の層の前記第2の材料は、クロム、モリブデン、および白金のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項12】
前記少なくとも1つのX線検出器は、画素アレイX線検出器を含む、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項13】
前記画素アレイX線検出器は、1つの次元に沿って延在する画素アレイを含む、請求項
12に記載のX線分光計。
【請求項14】
前記画素アレイX線検出器は、2つの直交する次元に沿って延在する画素アレイを含む、請求項13に記載のX線分光計。
【請求項15】
前記画素アレイX線検出器は、直接検出型の電荷結合素子(CCD)検出器、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)検出器、エネルギ分解X線検出器、X線シンチレータを含む間接変換検出器、光子計数検出器、のうちの少なくとも1つを含む、請求項13に記載のX線分光計。
【請求項16】
前記画素アレイX線検出器は、幅が1ミクロン~200ミクロンの範囲内の画素を含む、請求項13に記載のX線分光計。
【請求項17】
少なくとも1つのビームストップをさらに備え、前記ビームストップは、前記長手方向軸に沿って伝播しているが前記少なくとも1つのX線光学部品に照射されないX線が前記少なくとも1つのX線検出器に到達するのを阻止するように構成される、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項18】
前記少なくとも1つのモザイク結晶構造は、高配向性熱分解グラファイト、高アニール化熱分解グラファイト、それらの組み合わせ、からなる群から選択される1つ以上のモザイクグラファイト結晶構造を含む、請求項1に記載のX線分光計。
【請求項19】
X線分光計であって、
X線エネルギの関数として入射強度分布を有するX線を受光するように構成された多層スタックを備え、前記多層スタックは、第1の材料を含む第1の複数の第1の層と、第2の材料を含む第2の複数の第2の層とを含み、前記第1の層および前記第2の層は互いに交互に位置しており、前記多層スタックの第1の部分は、受光された前記X線の第1の部分を方向付けるように構成され、前記多層スタックの第2の部分は、受光された前記X線の第2の部分を方向付けるように構成され、前記多層スタックの前記第2の部分は前記多層スタックの前記第1の部分から横方向に変位しており、受光された前記X線の方向付けられた前記第1の部分は、X線エネルギの関数として第1の強度分布を有し、受光された前記X線の方向付けられた前記第2の部分は、X線エネルギの関数として第2の強度分布を有し、前記第2の強度分布は前記第1の強度分布とは異なり、
少なくとも1つの表面を含む少なくとも1つの基板を備え、前記少なくとも1つの表面は、少なくとも一部分において、長手方向軸の周りに管状に対称かつ前記長手方向軸に沿って延在する形状の内面を有し、前記内面は、前記長手方向軸の周りおよび前記長手方向軸に沿って延在し、前記長手方向軸に垂直な平面内に直径を有し、前記直径は、前記長手方向軸に沿った位置の関数として変化し、前記少なくとも1つの表面は
、180度~360度の角度で前記長手方向軸の周りに延在し、前記X線分光計はさらに、
前記少なくとも1つのX線光学部品から受光された前記X線の方向付けられた前記第1の部分および方向付けられた前記第2の部分を受光し、前記多層スタックから受光された前記X線の方向付けられた前記第1の部分および方向付けられた前記第2の部分の空間分布を記録するように構成された少なくとも1つのX線検出器を備える、X線分光計。
【請求項20】
X線分光計であって、
100eVよりも大きいスペクトル帯域幅を有するX線を受光するように構成された少なくとも1つのX線光学部品を備え、前記少なくとも1つのX線光学部品は、長手方向軸の周りに前記長手方向軸に沿って少なくとも部分的に延在する少なくとも1つの表面を含み、前記少なくとも1つのX線光学部品は、前記少なくとも1つの表面の少なくとも一部の上または上方の
少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層を含み、前記少なくとも1つのX線光学部品は、ブラッグ関係に従って、受光された前記X線の前記スペクトル帯域幅の少なくとも一部について、X線エネルギの関数として、受光された前記X線を回折させて前記X線の空間分離を生じさせるように構成され、
前記少なくとも1つの表面を含む少なくとも1つの基板を備え、前記少なくとも1つの表面は、少なくとも一部分において、前記長手方向軸の周りに管状に対称かつ前記長手方向軸に沿って延在する形状の内面を有し、前記内面は、前記長手方向軸の周りおよび前記長手方向軸に沿って延在し、前記長手方向軸に垂直な平面内に直径を有し、前記直径は、前記長手方向軸に沿った位置の関数として変化し、前記少なくとも1つの表面は
、180度~360度の角度で前記長手方向軸の周りに延在し、前記X線分光計はさらに、
前記少なくとも1つのX線光学部品によって回折した前記X線の少なくとも一部の空間分布を記録するように構成された少なくとも1つのX線検出器を備える、X線分光計。
【請求項21】
前記少なくとも1つの表面は、前記長手方向軸と平行な平面において湾曲している凹面を含む、請求項
20に記載のX線分光計。
【請求項22】
前記凹面は、前記長手方向軸に関して軸対称の少なくとも一部を有する、請求項
21に記載のX線分光計。
【請求項23】
前記凹面の曲率、前記複数の層の間の間隔
および/または前記少なくとも1つのモザイク結晶構造内の隣接する原子層間の間隔、前記少なくとも1つのX線光学部品と前記少なくとも1つのX線検出器との間の距離、および/または前記少なくとも1つのX線検出器の空間分解能は、50eV未満のエネルギ分解能を提供するように構成される、請求項
21に記載のX線分光計。
【請求項24】
前記少なくとも1つの表面の少なくとも一部は、前記長手方向軸と平行であり前記長手方向軸を含む平面において、実質的に直線の断面形状を有する、請求項
20に記載のX線分光計。
【請求項25】
前記複数の層は、第1の材料を含む第1の複数の第1の層と、第2の材料を含む第2の複数の第2の層とを含み、前記第1の層および前記第2の層は互いに交互に位置する、請求項
20に記載のX線分光計。
【請求項26】
前記第1の層および前記第2の層は、前記複数の層全体にわたって
深さが勾配を有する周期で互いに交互に位置する、請求
項25に記載のX線分光計。
【請求項27】
前記モザイク結晶構造は、高配向性熱分解グラファイト、高アニール化熱分解グラファイト、それらの組み合わせ、からなる群から選択される、請求項
20に記載のX線分光計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本願は、2018年6月4日に出願された米国仮出願第62/680,451号および2018年6月5日に出願された米国仮出願第62/680,795号に対する優先権の利益を主張し、これらの各出願の全体を本明細書に引用により援用する。
【0002】
背景
分野
本願は概してX線分光計に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
X線蛍光(XRF)は、弾性散乱もしくは非弾性散乱、またはX線、電子、もしくは他の粒子が打ち込まれたターゲット内のエネルギレベル間の遷移の結果であり得る。XRFスペクトルの詳細によって、ターゲット材料の化学組成情報、ならびに電子構造および/または化学状態についての洞察を得ることができる。XRFスペクトルは、理論計算との比較によって、またはモデル材料からの既知のX線放射スペクトルとの比較によって分析されることが多い。XRFスペクトルは典型的に広い角度範囲にわたって放射されるので、X線分光計は、速度データ収集に対してより大きな割合の放射X線を受光する広い角度受容を有し得る。
【0004】
X線分光計はこれまでさまざまな関連技術について開発されてきた。X線分光法は、放射されたX線のエネルギをエネルギ分散型固体検出器を用いて分析するエネルギ分散分光法(EDS)、および、放射されたX線を結晶または回折格子のいずれかを用いて分析して、放射されたX線を分散させ、少なくとも1つのX線検出器(たとえば、直線検出器または面積検出器)を用いてX線放射スペクトルを記録する波長分散分光法(WDS)の技術を含む。WDSは一般にEDSよりも高いエネルギ分解能を提供し、WDSにおけるスペクトルは1度に1波長(またはエネルギ)ずつ連続して収集されることが多いため、この技術の方が時間がかかる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
本明細書に開示される一局面では、X線分光計が提供され、上記X線分光計は、X線エネルギの関数として入射強度分布を有するX線を受光するように構成された少なくとも1つのX線光学部品と、上記少なくとも1つのX線光学部品からX線を受光し、上記少なくとも1つのX線光学部品からの上記X線の空間分布を記録するように構成された少なくとも1つのX線検出器とを含む。上記少なくとも1つのX線光学部品は、長手方向軸の周りに上記長手方向軸に沿って少なくとも部分的に延在する少なくとも1つの表面を含む少なくとも1つの基板を含む。上記長手方向軸と平行な少なくとも1つの断面における上記少なくとも1つの表面と上記長手方向軸との間の距離は、上記長手方向軸に沿った位置の関数として変化する。上記少なくとも1つのX線光学部品はさらに、上記少なくとも1つの表面の少なくとも一部の上または上方の少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層を含む。上記複数の層は、第1の材料を含む第1の複数の第1の層と、第2の材料を含む第2の複数の第2の層とを含む。上記第1の層および上記第2の層は、上記少なくとも1つの表面に垂直な方向において互いに交互に位置する。
【0006】
本明細書に開示される別の局面では、X線分光計が提供され、上記X線分光計は、X線エネルギの関数として入射強度分布を有するX線を受光するように構成された多層スタックを含む。上記多層スタックは、第1の材料を含む第1の複数の第1の層と、第2の材料を含む第2の複数の第2の層とを含む。上記第1の層および上記第2の層は互いに交互に位置する。上記多層スタックの第1の部分は、受光された上記X線の第1の部分を方向付けるように構成され、上記多層スタックの第2の部分は、受光された上記X線の第2の部分を方向付けるように構成され、上記多層スタックの上記第2の部分は上記多層スタックの上記第1の部分から横方向に変位している。受光された上記X線の方向付けられた上記第1の部分は、X線エネルギの関数として第1の強度分布を有し、受光された上記X線の方向付けられた上記第2の部分は、X線エネルギの関数として第2の強度分布を有し、上記第2の強度分布は上記第1の強度分布とは異なる。上記X線分光計はさらに、上記少なくとも1つのX線光学部品から受光された上記X線の方向付けられた上記第1の部分および方向付けられた上記第2の部分を受光し、上記多層スタックから受光された上記X線の方向付けられた上記第1の部分および方向付けられた上記第2の部分の空間分布を記録するように構成された少なくとも1つのX線検出器を含む。
【0007】
本明細書に開示される別の局面では、X線分光計が提供され、上記X線分光計は、100eVよりも大きいスペクトル帯域幅を有するX線を受光するように構成された少なくとも1つのX線光学部品を含む。上記少なくとも1つのX線光学部品は、長手方向軸の周りに上記長手方向軸に沿って少なくとも部分的に延在する少なくとも1つの表面と、上記少なくとも1つの表面の少なくとも一部の上または上方の複数の層とを含む。上記少なくとも1つのX線光学部品は、ブラッグ関係に従って、受光された上記X線の上記スペクトル帯域幅の少なくとも一部について、X線エネルギの関数として、受光された上記X線を回折させて上記X線の空間分離を生じさせるように構成される。上記X線分光計はさらに、上記少なくとも1つのX線光学部品によって回折した上記X線の少なくとも一部の空間分布を記録するように構成された少なくとも1つのX線検出器を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、例示的なX線分光計の構成の概略断面図である。
【
図1B】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、例示的なX線分光計の構成の概略断面図である。
【
図1C】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、例示的なX線分光計の構成の概略断面図である。
【
図1D】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、X線光学部品から受光されたX線の例示的なX線スペクトルと、X線光学部品からのX線の2つの例示的なX線スペクトルとを概略的に示す図である。
【
図2A】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図2B】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図3A】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図3B】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図3C】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図4A】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図4B】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図4C】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図4D】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図5A】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【
図5B】本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層パラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
詳細な説明
本明細書に記載される特定の実施形態は、異なる波長のX線を並列検出する波長分散型X線分光計を提供する。特定のそのような実施形態では、X線分光計は、X線分光計が受光したX線の、X線スペクトル全体、またはある範囲のX線エネルギを含むスペクトル部分を同時に記録するように構成される。
【0010】
図1A~
図1Cは、本明細書に記載される特定の実施形態に従う、例示的なX線分光計100のさまざまな構成の断面図を概略的に示す。
図1Aに概略的に示すように、X線分光計100は、X線エネルギの関数として入射強度分布(たとえば、入射X線エネルギスペクトル)を有するX線10を受光するように構成された少なくとも1つのX線光学部品110を含む。少なくとも1つのX線光学部品110は、長手方向軸120の周りに長手方向軸120に沿って少なくとも部分的に延在する少なくとも1つの表面114を含む少なくとも1つの基板112を含む。長手方向軸120と平行な少なくとも1つの断面における少なくとも1つの表面114と長手方向軸120との間の距離は、長手方向軸120に沿った位置の関数として変化する。少なくとも1つのX線光学部品110は、少なくとも1つの表面114の少なくとも一部の上または上方の少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層116をさらに含む。複数の層116は、第1の材料を含む第1の複数の第1の層116aと、第2の材料を含む第2の複数の第2の層116bとを含み、第1の層116aおよび第2の層116bは、少なくとも1つの表面114に垂直な方向において互いに交互に位置する。X線分光計100は、少なくとも1つのX線光学部品110からの(たとえば、当該X線光学部品110によって反射した;回折した)X線20を受光し、少なくとも1つのX線光学部品110からのX線20の空間分布を記録するように構成された少なくとも1つのX線検出器130をさらに含む。
図1A~
図1Cの断面図は、長手方向軸120と平行な断面にある(たとえば、当該断面は長手方向軸120を含む)。
【0011】
特定の実施形態では、少なくとも1つの基板112(たとえば、ガラスまたは酸化ケイ素を含む)は1つの一体要素を含む。たとえば、基板112は、長手方向軸120に沿って延在する中空の軸対称構造(たとえば、軸対称管)を含むことができ、少なくとも1つの表面114は、長手方向軸120の周りに完全に延在する(たとえば、長手方向軸120を取り囲む;長手方向軸120の周りに360度延在する)構造の内面を含む。特定の他の実施形態では、少なくとも1つの基板112は、内面が長手方向軸120の周りに部分的にのみ(たとえば、360度よりも小さく;45度~360度の範囲内で;45度~315度の範囲内で;180度~360度の範囲内で;90度~270度の範囲内で)延在する、長手方向軸120に沿って延在する中空の軸対称構造の少なくとも一部(たとえば、軸対称管の一部)を含む。特定の実施形態では、少なくとも1つの基板112は、互いに分離して(たとえば、基板部分の間に空間を有し)、長手方向軸120の周りに分布した、複数の基板部分(たとえば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、またはそれ以上)を含み、各基板部分の表面114は、長手方向軸120の周りに長手方向軸120に沿って少なくとも部分的に延在している。たとえば、複数の基板部分の表面114の各々は、15度~175度の範囲内、30度~115度の範囲内、および/または45度~85度の範囲内の角度で長手方向軸120の周りに延在することができる。
【0012】
特定の実施形態では、(たとえば、長手方向軸120と平行であり長手方向軸120を含む断面における)少なくとも1つの表面114と長手方向軸120との間の距離は、長手方向軸120に沿った位置の関数として変化する。たとえば、表面114は、長手方向軸120に沿った位置の関数として変化する内径を有する中空の軸対称構造(たとえば、管)の内面を含むことができる。
【0013】
たとえば、
図1Aに概略的に示すように、少なくとも1つの表面114の少なくとも一部は、長手方向軸120を含む平面において実質的に直線の断面形状を有することができ、少なくとも1つの表面114のこの一部は、長手方向軸120に沿った第1の位置に第1の内径を有し、長手方向軸120に沿った第2の位置に第2の内径を有し、第2の内径は第1の内径よりも小さい(たとえば、少なくとも1つのX線光学部品110はテーパ状または円錐状であり得る)。
【0014】
別の例として、少なくとも1つの表面114は、長手方向軸120と平行な少なくとも1つの断面において(たとえば、長手方向軸120を含む断面において)湾曲し得る。特定のそのような実施形態では、少なくとも1つの表面114は凹形であり、(たとえば、少なくとも1つの表面114に垂直な方向における)少なくとも1つの表面114の面法線118は、少なくとも1つの表面114に沿った異なる位置(たとえば、長手方向軸120と平行な断面において長手方向軸120に沿った方向で互いに離間した異なる位置)において異なる。たとえば、
図1Bおよび
図1Cに概略的に示すように、少なくとも1つの表面114の第1の部分は第1の面法線118aを有し、少なくとも1つの表面114の第2の部分は第2の面法線118bを有する。本明細書に記載されるように、少なくとも1つの表面114の第1、第2、および第3の部分の上の少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層116からのX線20(たとえば、X線20a、20b、20c)は、
図1Aに概略的に示すように、異なるスペクトル特性を有しており、異なる方向に伝播する。
【0015】
特定の実施形態では、少なくとも1つの表面114は、長手方向軸120と平行な第1の直線寸法(たとえば、長さ)が3mm~150mmの範囲内にあり、第1の直線寸法に垂直な第2の直線寸法(たとえば、幅)が1mm~50mmの範囲内にあり、長手方向軸120に垂直な平面における最大直線寸法(たとえば、内径;表面114上の2点を結ぶ直線分の最大長)が1mm~50mmの範囲内にあり、表面粗さが0.1nm~1nmの範囲内にあり、および/または、0.01ラジアン~0.5ラジアンの範囲内(たとえば、0.01ラジアン~0.4ラジアンの範囲内;0.01ラジアン~0.3ラジアンの範囲内)の、長手方向軸120に対してある範囲の角度を有する複数の表面接平面を有する。
【0016】
特定の実施形態では、少なくとも1つの表面114は凹形であり、表面114の少なくとも一部は、長手方向軸120を含む断面において二次曲面形状の一部を有する。特定の実施形態では、少なくとも1つの表面114は、対応する二次曲面形状を含む、(たとえば、長手方向軸120を含む断面において)断面形状を有する複数の部分を含む。本明細書に記載される特定の実施形態に適合する二次曲面形状の例として、少なくとも1つの楕円面、少なくとも1つの放物面、少なくとも1つの双曲面、またはそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
たとえば、
図1Bは、本明細書に記載される特定の実施形態に従う、表面114が長手方向軸120を含む断面において楕円形状の一部を有する例示的なX線分光計100の断面図を概略的に示す。
図1Bに概略的に示すように、X線源150(たとえば、蛍光X線を放射する試料)は楕円形状の第1の焦点160に位置決めされ、表面114からのX線20が含む収束X線ビームは、楕円形状の第2の焦点162に向かって方向付けられ、第2の焦点162から離れて位置決めされた少なくとも1つのX線検出器130によって受光される。特定のそのような実施形態では、X線分光計100は、少なくとも1つの表面114と少なくとも1つのX線検出器130との間に(たとえば、第2の焦点162に、または第2の焦点16の近くに)配置された開口(図示せず)をさらに含むことができる。開口は、開口の位置に、X線ビームのビームサイズの20%~300%の寸法を有することができる。別の例として、
図1Cは、本明細書に記載される特定の実施形態に従う、表面114が長手方向軸120を含む断面において放物面形状の一部を有する例示的なX線分光計100の断面図を概略的に示す。
図1Cに概略的に示すように、X線源150(たとえば、蛍光X線を放射する試料)は放物面形状の焦点170に位置決めされ、X線20は平行化されて少なくとも1つのX線検出器130によって受光される。
【0018】
特定の実施形態では、少なくとも1つの表面114の少なくとも一部の上または上方の複数の層116は、複数の合成多層(たとえば、多層スタック;表面114上に順次互いに堆積された層116a、116bのスタックであり、層116a、116bは選択された材料および選択された厚みを有する)を含む。特定の実施形態では、第1の層116aおよび/または第2の層116bは、原子層堆積(ALD)、化学気相堆積(CVD)、スパッタリング、またはそれらの2つ以上の組み合わせ、のうちの少なくとも1つによって形成される。
【0019】
特定の実施形態の複数の層116の各々は、厚みが0.3nm~9nmの範囲内(たとえば、0.3nm~6nmの範囲内)にあり、特定の実施形態の複数の層116の全厚は1000nm未満(たとえば、400nm未満)である。たとえば、複数の層116は、10よりも大きく100,000よりも小さい、10よりも大きく10,000よりも小さい、および/または10よりも大きく500よりも小さい、多数の層を含むことができる(たとえば、第1の層116aの数は、5よりも大きく50,000よりも小さい、5よりも大きく5,000よりも小さい、および/または5よりも大きく250よりも小さい;第2の層116bの数は、5よりも大きく50,000よりも小さい、5よりも大きく5,000よりも小さい、および/または5よりも大きく250よりも小さい)。
【0020】
特定の実施形態では、複数の層116は、互いに隣接して重なり合っている層の複数の組(たとえば、対)として配置され、多層スタックの周期(たとえば、隣接する2つの組の等価位置間の距離)は1nm~20nmの範囲内(たとえば、1nm~9nmの範囲内)にある。特定の実施形態では、一組の層内の層の厚みは互いに同一であるが、特定の他の実施形態では、一組の層内の層の厚みは互いに異なる。
【0021】
たとえば、互いに重なり合っている層116a、116bの対を含む周期的な複数の層116(たとえば、多層スタック)の場合、第1の層116aの各々は第1の厚み(d1)を有することができ、第2の層116bの各々は第2の厚み(d2)を有することができ、第1の層116aおよび第2の層116bは(たとえば、少なくとも1つの表面114の面法線118に沿った方向において)周期的に互いに交互に位置することができる。多層スタックの周期は、層116aの厚み(d1)と層116bの厚み(d2)との合計と等しくてもよい。層116a、116bの厚みは互いに同一(たとえば、d1=d2)であってもよいし、層116aの厚みは互いに異なって(たとえば、d1/d2が0.1~3の範囲内、0.1~0.9の範囲内、または0.2~0.9の範囲内)いてもよい。
【0022】
特定の実施形態では、周期性は複数の層116全体にわたって変化しないが、特定の他の実施形態では、周期性は少なくとも1方向に沿って変化する。たとえば、特定の実施形態の複数の層116は、少なくとも1つの表面114に垂直な方向(たとえば、少なくとも1つの表面114の面法線118に沿った方向)において、さまざまなd間隔(たとえば、多層スタック周期)で勾配を有している(たとえば、複数の層116は深さが勾配を有している)。特定の他の実施形態の複数の層116は、表面114と平行な方向(たとえば、概して長手方向軸に沿った方向;表面114の面法線118に垂直な方向)に沿って、さまざまなd間隔(たとえば、多層スタック周期)で勾配を有している(たとえば、複数の層116は横方向に勾配を有している)。
【0023】
特定の実施形態では、第1の層116aの第1の材料は、第1の原子番号を有する第1の元素(たとえば、原子番号が15以下である低Z元素)および第1の電子密度を含み、第2の層116bの第2の材料は、第2の原子番号を有する第2の元素(たとえば、原子番号が14以上である高Z元素)および第2の電子密度を含み、第2の原子番号は第1の原子番号よりも大きく、および/または第2の電子密度は第1の電子密度よりも高い。第1の元素の例として、ケイ素、ホウ素、および炭素が挙げられるが、これらに限定されない。第2の元素の例として、クロム、モリブデン、および白金が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、第1の材料と第2の材料との質量密度差は1g/cm3以上である。
【0024】
特定の実施形態では、少なくとも1つのモザイク結晶構造は1つ以上のモザイクグラファイト結晶構造を含み、モザイクグラファイト結晶構造は、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、高アニール化熱分解グラファイト(HAPG)、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。特定の実施形態では、少なくとも1つのモザイク結晶構造の厚みは5ミクロン~100ミクロン(たとえば、10ミクロン~100ミクロン)の範囲内にあり、モザイク度(たとえば、モザイク広がり)は0.05度~1度(たとえば、0.1度~1度)の範囲内にある。
【0025】
特定の実施形態では、少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層116は、少なくとも1つのX線光学部品110に入射して当該部品110によって方向付けられた、受光されたX線10のスペクトル変形を生じさせることによって、X線エネルギの関数として所定の強度分布を有するX線スペクトルを提供するように構成され、スペクトル変形は、受光されたX線10が少なくとも1つのX線光学部品110に入射する少なくとも1つのX線光学部品110に沿った位置に依存する。たとえば、
図1Aに概略的に示すように、受光されたX線10の少なくとも第1の部分10aは、第1の組の位置においてX線光学部品110の第1の部分に衝突し、X線20aは、対応する1つ以上の方向に伝播し、対応する1つ以上の位置132aにおいて少なくとも1つのX線検出器130に衝突する。さらに、受光されたX線10の少なくとも第2の部分10bは、第2の組の位置においてX線光学部品110の第2の部分に衝突し、X線20bは、対応する1つ以上の方向に伝播し、対応する1つ以上の位置132bにおいて少なくとも1つのX線検出器130に衝突する。
【0026】
図1Dは、本明細書に記載される特定の実施形態に従う、
図1A~
図1Cの例示的なX線分光計100の少なくとも1つのX線光学部品110に入射して受光されたX線10の例示的なX線スペクトル200(実線)を概略的に示す。
図1Dはまた、少なくとも1つのX線光学部品110に沿った第1の位置からのX線20の例示的な第1のX線スペクトル210a(破線)と、少なくとも1つのX線光学部品110に沿った第2の位置からのX線20の例示的な第2のX線スペクトル210b(点線)とを概略的に示す。第1および第2の位置は、長手方向軸120に沿った方向において互いに変位している。2つのX線スペクトル210a、210bは、
図1DではX線スペクトル200に対してまたは互いに対して一定の縮尺で示されていない。特定の実施形態では、2つのX線スペクトル210a、210bの2つのピークは互いに1keV以内にある。
図1Dは、少なくとも1つのX線光学部品110に沿った2つの異なる位置からのX線20の2つの例示的なX線スペクトル210a、210bを概略的に示しているが、X線20が方向付けられる開始位置が少なくとも1つのX線光学部品110に沿ってシフトするにつれて、X線スペクトル210のエネルギは連続的にシフトする。
【0027】
入射X線スペクトル200はX線エネルギの関数として入射強度分布を有し、第1および第2のX線スペクトル210a、210bの各々は、X線エネルギの関数として、対応する第1および第2の強度分布をそれぞれ有し、第1および第2の強度分布の各々は入射強度分布とは異なり、かつ互いに異なる。たとえば、
図1Dに概略的に示すように、入射して受光されたX線10の例示的な入射X線スペクトル200(たとえば、電子が打ち込まれたX線ターゲットから放射されたX線に対応する)は、広範囲のX線エネルギにわたる(たとえば、0.5keV~25keVの範囲内の)実質的な強度値と、特徴的なK
αおよびK
β輝線とを有するのに対して、X線20の例示的な第1および第2のX線スペクトル210a、210bの各々は、特定の対応するX線エネルギにおける実質的な強度値と他のX線エネルギにおけるはるかに低い強度値とを有するピークを有する。特定の実施形態では、X線20のエネルギ帯域幅は100eV~5keVの範囲内にある。
【0028】
たとえば、
図1Bに概略的に示す少なくとも1つのX線光学部品110は、楕円面の一部に対応する断面形状を有する少なくとも1つの表面114の一部を有する。特定の実施形態では、X線源150(たとえば、点光源;蛍光X線のエミッタ;発散X線源)から放射されたX線の少なくとも一部は、少なくとも1つのX線光学部品110に入射し(たとえば、受光されたX線10)、ある範囲のX線エネルギおよび等方性の空間分布を有する。
図1Bに示すように、受光されたX線10a、10bは、複数の層116の対応部分の下にある表面114の部分の面法線118a、118bに垂直な平面に対して角度θ
aおよびθ
bで少なくとも1つのX線光学部品110の対応部分にそれぞれ入射する。少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層116は、ブラッグ関係(2d sinθ=nλ)が満たされると高反射率が得られる(たとえば、回折条件が満たされる)ように構成され、式中、dは少なくとも1つのモザイク結晶構造または複数の層116の周期であり、θは角度であり、λはX線波長であり、nは整数(たとえば、1、2、…)である。
図1Bの例示的な実施形態では、X線20aの波長は、(たとえば、X線20aが方向付けられる開始位置の下流の位置からの)X線20bの波長よりも短く、それに対応して、X線20aのエネルギはX線20bのエネルギよりも高い。楕円形状の第2の焦点162の下流で、X線20aおよび20bは互いに空間的に別個である。十分な空間分解能を有する少なくとも1つのX線検出器130を焦点162の下流の位置に配置することにより、少なくとも1つのX線光学部品110から受光されたX線20の分光が可能になる。
【0029】
別の例として、
図1Cに概略的に示す少なくとも1つのX線光学部品110は、放物面の一部に対応する断面形状を有する少なくとも1つの表面114の一部の上に、少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層116を有する。この実施形態では、(たとえば、点光源または蛍光X線のエミッタ;発散X線源によって放射された)受光されたX線10は少なくとも1つのX線光学部品110によって方向付けられ、X線20は平行化されて長手方向軸120と平行になる。エネルギが高く偏向角度が小さい方向付けられたX線20aは長手方向軸120から離れるが、エネルギが低く偏向角度が大きい(たとえば、X線20aが方向付けられる開始位置の上流の位置からの)方向付けられたX線20bは長手方向軸120に近づく。X線20aおよび20bは互いに空間的に別個であり、十分な空間分解能を有するX線検出器130を少なくとも1つのX線光学部品110の下流に配置することにより、少なくとも1つのX線光学部品110からのX線の分光が可能になる。さらに別の例として、
図1Aに概略的に示す少なくとも1つのX線光学部品110は、長手方向軸120を含む平面において実質的に直線の断面形状を有する少なくとも1つの表面114の一部の上に、少なくとも1つのモザイク結晶構造および/または複数の層116を有する。この実施形態では、X線20aのエネルギはX線20bのエネルギよりも高く、X線20aは、X線20bが少なくとも1つのX線検出器130に衝突する位置132bよりも長手方向軸120から遠い位置132aにおいて少なくとも1つのX線検出器130に衝突する。
【0030】
特定の実施形態では、少なくとも1つのX線検出器130は、少なくとも1つのX線光学部品110から受光されたX線20の少なくとも一部の空間分布を記録するように構成された画素アレイX線検出器を含む。たとえば、画素アレイX線検出器は1次元(たとえば、1つの次元に沿って延在する;長手方向軸120に垂直な1方向に沿って延在する)であってもよいし、2次元(たとえば、2つの直交する次元に沿って延在する;互いに垂直な、かつ長手方向軸120に垂直な2方向に沿って延在する)であってもよく、画素サイズは1ミクロン~200ミクロンの範囲内(たとえば、2ミクロン~200ミクロンの範囲内;3ミクロン~200ミクロンの範囲内)にある。本明細書に記載される特定の実施形態に適合する例示的なX線検出器130として、直接検出型の電荷結合素子(CCD)検出器、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)検出器、エネルギ分解X線検出器、X線シンチレータを含む間接変換検出器、光子計数検出器が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
特定の実施形態では、X線分光計100のエネルギ分解能は、X線20が少なくとも1つのX線検出器130に衝突する位置132の空間変位に、および画素アレイX線検出器130の画素のサイズに少なくとも部分的に依存する。位置132のこれらの空間変位はブラッグ関係(2d sinθ=nλ=nhc/E)によってX線10のエネルギと関連しており、ブラッグ関係は、入射X線10の異なる角度θ(たとえば、少なくとも1つの表面114の曲率に起因する)、および少なくとも1つのモザイク結晶構造のd間隔(たとえば、モザイクグラファイト結晶構造内の隣接する原子層間の距離)、および/または複数の層116(たとえば、多層スタック周期)を、X線波長λおよびX線エネルギEと関連付ける。たとえば、
図1A~
図1Cに概略的に示すように、少なくとも1つのX線光学部品110を横切って入射する入射X線10のグレージング角の範囲により、位置132の範囲にわたって少なくとも1つのX線検出器130に衝突するX線20の軌道範囲がもたらされる。したがって、少なくとも1つのX線検出器130の空間分解能(たとえば、画素のサイズ)はX線分光計100のエネルギ分解能と等しい(たとえば、小さい画素の各々には、小さいエネルギ範囲内でX線20が衝突し、大きい画素の各々には、大きいエネルギ範囲内でX線20が衝突する)。特定の実施形態では、複数の層間の間隔(たとえば、d間隔)、少なくとも1つの表面114の曲率、少なくとも1つのX線光学部品110と少なくとも1つのX線検出器130との間の距離、および/またはX線検出器130の空間分解能(たとえば、画素サイズ)は、所定のエネルギ分解能(たとえば、50eV未満)を提供するように選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つのX線光学部品110は、異なるX線エネルギ範囲のX線20が少なくとも1つのX線検出器130の対応する異なる領域132に方向付けられることによって、異なる領域132の空間位置が異なるX線エネルギ範囲のX線に対応する(そして、たとえば当該X線同士を区別するために用いられ得る)ように構成される。たとえば、画素アレイX線検出器130の画素サイズ、およびX線光学部品110と画素アレイX線検出器130との間の距離は、ブラッグ関係に従って、X線光学部品110によって分散したX線スペクトルを十分なエネルギ分解能で記録するように選択される。
【0032】
特定の実施形態では、少なくとも1つのX線検出器130は、シリコンドリフト検出器、超導体を用いた測色計、リチウムドリフトSi検出器、リチウムドリフトGe検出器、およびp-i-nダイオードからなる群から選択されるエネルギ分解X線検出器を含む。上述のX線分光計100のエネルギ分解能の依存性に加えて、特定のそのような実施形態のエネルギ分解能は、エネルギ分解X線検出器の検出器要素(たとえば、画素)の各々のエネルギ分解能にも少なくとも部分的に依存し得る。
【0033】
特定の実施形態では、X線分光計100は少なくとも1つのビームストップ140をさらに含み、ビームストップ140は、X線ビーム経路に配置されて、長手方向軸120に沿って伝播しているが少なくとも1つのX線光学部品110の複数の層116に照射されないX線が少なくとも1つのX線検出器130に到達するのを阻止する(たとえば、遮る;防止する)ように構成される。特定の実施形態の少なくとも1つのビームストップ140は、長手方向軸120を中心とする円錐角(たとえば、3度未満;50mrad未満)を規定する。少なくとも1つのビームストップ140は、少なくとも1つのX線光学部品110の出口側に(たとえば、
図1A参照)、および/または少なくとも1つのX線光学部品110の入口側に位置決めされ得る。たとえば、少なくとも1つのビームストップ140は、支持構造に機械的に結合された薄い放射状ワイヤによって、または薄膜によって、所定の位置に保持され得る。
【0034】
特定の実施形態では、複数の層116は、少なくとも1つの表面114を含む基板112(たとえば、ガラスまたは酸化ケイ素を含む)上に形成(たとえば、堆積)される。特定の他の実施形態では、少なくとも1つのX線光学部品110は、金属材料(たとえば、ニッケル)を含む基板112上に多層スタック(たとえば、第1の層116aおよび第2の層116bが交互に位置する複数の層116)を含む。たとえば、複数の層116の層のうちの1つ以上は、(たとえば、ALD、化学気相成長(CVD)、スパッタリング等の技術を用いて)多層スタックを含むコーティングを堆積するためのマンドレルとなるように成形された外面を有する金属マンドレルの凸状外面の上に(たとえば、上方に)堆積され得る。たとえば、マンドレルの外部は所定の二次曲面形状(たとえば、放物面;楕円面;双曲面)の一部の所望の形状を有することができ、堆積された多層スタックは同一の二次曲面形状を有することになる。堆積された多層スタック上に十分な材料(たとえば、Ni)を追加して十分な剛性を提供した後、マンドレルを取り外す(たとえば、エッチング除去する;多層スタックからマンドレルを容易に分離できるように液体窒素で冷却する)ことにより、軸対称の多層をX線光学部品110の内面として露出させることができる。特定のそのような実施形態では、X線光学部品110は全体が多層材料で構成されてもよい。
【0035】
図2A~
図2B、
図3A~
図3C、
図4A~
図4D、および
図5A~
図5Bは、本明細書に記載される特定の実施形態に従う、選択された多層スタックパラメータによって指示される、計算された例示的なX線スペクトルを示す。
図2A~
図2Bは複数(N=40)のシリコン/モリブデン多層に対応し、多層スタックの周期は3nmである。
図3A~
図3Cは複数(N=40)のシリコン/モリブデン多層に対応し、多層スタックの周期は4.5nmである。
図4A~
図4Bは複数(N=40)の炭化ホウ素(B
4C)/白金多層に対応し、多層スタックの周期は4.5nmであり、
図4C~
図4Dは複数(N=40)の炭化ホウ素(B
4C)/白金多層に対応し、多層スタックの周期は6nmである。
図5A~
図5Bは複数(N=40)の炭化ホウ素(B
4C)/モリブデン多層に対応し、多層スタックの周期は6nmである。
【0036】
以下の表は、本明細書に記載される特定の実施形態に従う、さまざまな例示的なX線分光計100のスペクトル範囲の計算値を示す。これらの例示的なX線分光計100の表面114(たとえば、ミラー)は楕円形であり、これは、大きな光源-光学部品の距離(たとえば、試料距離)については、放物面形状に近い近似であり、当該計算はさまざまな入口開口および周期的な多層d間隔(たとえば、多層スタックの周期)について行った。これらの計算の各々について、楕円面半長軸は光源から試料までの距離の半分と等しい。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
特定の実施形態では、X線分光計100は0.5keV~4keVの範囲内で作動するように構成されるが、特定の他の実施形態では、当該範囲は0.2keVの低さにまで、および/または14keVの高さにまで及ぶ。このようなX線エネルギ範囲は、高効率および高エネルギ分解能の多層コーティングを用いて達成することができ、本明細書に記載される特定の実施形態に従う多層コーティングの材料、厚み、および他のパラメータは本明細書に提供されている情報を考慮すると明らかである。
【0042】
特定の実施形態では、X線分光計100は、試料(たとえば、分析中の物体)を照らす放射線および/または粒子の励起源(たとえば、X線を放射するように構成されたX線源;電子を放射するように構成された電子源;実験室用励起源)を含むX線分析システムの構成要素である。特定の実施形態では、励起源は、励起源と試料との間に配置されて放射線および/または粒子を試料に方向付けるおよび/または集中させる光学系(たとえば、追加のX線光学部品;電子光学部品)を含む。試料は励起に応答してX線(たとえば、蛍光X線)を放射するように構成され、放射されたX線はX線分光計100によって受光、検出、および分析される。特定の実施形態では、X線分光計100は、走査電子顕微鏡(SEM)と(たとえば、SEMの付属品として)動作可能に通信しており、SEMにおいて試料から放射されたX線(たとえば、SEMにおける試料の電子打ち込みによって生じたX線)を受光するように構成される。特定のそのような実施形態では、X線分光計100は、互いに接近し得るまたは重なり合い得る異なる要素のエネルギ弁別(たとえば、分解または分離による)ソフトエネルギX線蛍光特性線を提供するように構成される。
【0043】
特定の実施形態では、X線分析システムは、(たとえば、既知のX線スペクトルを有するX線源によって放射されたX線を受光することによって)画素アレイの画素ごとにX線エネルギを較正するようにさらに構成される。たとえば、X線分光計100は、X線源から放射されたX線10を受光し、受光したX線の少なくとも一部を少なくとも1つのX線検出器130に向かって方向付けるように構成され得る。
【0044】
本明細書に開示される実施形態は、互いに排他的ではなく、さまざまな構成において互いに組み合わせられてもよいことを認識すべきである。
【0045】
本明細書に開示される具体的な例示的実施形態は本発明のいくつかの局面の限定ではなく例示として意図されているため、本明細書に記載および請求される発明の範囲はこれらの実施形態よって限定されるものではない。同等の実施形態はすべて、本発明の範囲内にあることが意図されている。実際、本明細書に図示および記載されているものに加えて、本発明の形態および詳細におけるさまざまな変更が上記説明から当業者に明らかになるはずである。本発明の広さおよび範囲は、本明細書に開示されている例示的な実施形態のいずれによっても限定されるべきではない。