(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】測定範囲を広げた偏向型屈折計
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
(21)【出願番号】P 2020573447
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018081676
(87)【国際公開番号】W WO2020078574
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-07-06
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】520068191
【氏名又は名称】ポリマー キャラクタライゼーション,エセ.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】オルティン セバスチャン,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】モンラバル バス,ベニヤミン
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-317523(JP,A)
【文献】特開2009-147303(JP,A)
【文献】登録実用新案第3175079(JP,U)
【文献】特開2006-105998(JP,A)
【文献】特表平03-501773(JP,A)
【文献】特開2008-175612(JP,A)
【文献】特開平09-054039(JP,A)
【文献】特開2006-343326(JP,A)
【文献】実開昭58-016549(JP,U)
【文献】特開平08-201368(JP,A)
【文献】特開昭50-115877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビーム(202)を生成する手段であって、光源(210)を有する前記手段と、
流動する試料液体
(440)を受け入れるための
入口(416)および出口(418)ポートを有する試料チャンバ(234、334)を有する測定セル(230、330)であって、前記光源(210)からの光ビーム(202)が前記試料チャンバ(234、334)に衝突し、前記試料チャンバ(234、334)の2つの非平行面(234a、234b、334a、334b)を横切った後に偏向しているように構成されている前記測定セル(230、330)と、
偏向された前記光ビーム(204)を検出するための可動プラットフォーム(240)にマウントされた光学センサ
であって、前記光学センサは、感知領域に関する偏向された前記光ビーム(204)の相対位置を示す信号を出力する位置検出器である、前記光学センサと、
前記
可動プラットフォーム(240)を移動させるように構成された駆動ユニット(254)と、
プラットフォーム位置を取得するために前記
可動プラットフォーム(240)の変位を
測定する距離測定ユニット(260)と、
前記光学センサにおける偏向された前記光ビーム(204)の前記相対位置と前記プラットフォーム位置との組合せから前記光ビームの偏向を
連続的に算出し、算出された前記偏向を使用して前記試料液体の
時間の経過に伴う屈折率
信号を取得する、データ処理ユニット(252)を有する制御ユニット(250)と、
を備える、
流動する試料液体の屈折率測定値を取得する偏向型屈折計。
【請求項2】
前記位置検出器は、2つの個々のフォトダイオード(242a、242b)によって形成される分割フォトダイオード(242)である、請求項
1に記載の屈折計。
【請求項3】
駆動ユニット(254)は、偏向された前記光ビーム(204)が前記分割フォトダイオード(242)の中心に位置するように前記
可動プラットフォーム(240)を移動させるように構成されている、請求項
2に記載の屈折計。
【請求項4】
前記制御ユニット(250)の前記
データ処理ユニット(252)は、前記
可動プラットフォーム(240)の変位を連続的に制御するPIDコントローラ(258)を備え、
エラー信号(e)は個々のフォトダイオード出力信号(A、B)の両方の差に比例し、適用される作用(u)は前記エラー信号(e)を打ち消すために必要な前記
可動プラットフォーム(240)の変位である、請求項
3に記載の屈折計。
【請求項5】
前記駆動ユニット(254)は、所定の移動パターンに従って前記
可動プラットフォーム(240)を移動させるように構成される、請求項1
または2に記載の屈折計。
【請求項6】
前記駆動ユニット(254)は、前記
可動プラットフォーム(240)を直線的に移動させるように構成される、請求項1から
5のいずれか1項に記載の屈折計。
【請求項7】
前記測定セル(230)は、単一チャンバ(234)を備える本体である、請求項1から
6のいずれか1項に記載の屈折計。
【請求項8】
前記測定セル(230)は、前記光ビーム(202)の入射角が前記試料チャンバ(234)の前面(234a)で90°となるように構成されている、請求項
7に記載の屈折計。
【請求項9】
前記測定セル(230)は、所与の屈折率の関心範囲内で生成される前記光ビーム(202)の偏向が前記
可動プラットフォーム(240)の利用可能な変位範囲と等しくなるように構成されている、請求項
7に記載の屈折計。
【請求項10】
前記試料液体の前記屈折率測定値は、前記試料液体の絶対屈折率の測定値である、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の屈折計。
【請求項11】
前記測定セル(330)は、参照液体を受け入れるための参照チャンバ(332)を備え、
前記測定セル(330)は、前記光ビーム(202)は前記参照チャンバ(332)の2つの非平行面(334a、334b)を横切った後に偏向されており、前記参照チャンバ(332)および前記試料チャンバ(334)の両方を順次横切るように構成され、
前記屈折率
信号は、前記試料液体と前記参照液体との屈折率の差(Δn)
を示す、請求項1から
6のいずれか1項に記載の屈折計。
【請求項12】
前記参照チャンバ(332)は、流動する参照液体(410)を受け入れるための入口(412)および出口(414)ポートを備える、請求項
11に記載の屈折計。
【請求項13】
前記測定セル(230)は、臨界角に近い屈折が生じるような前記光ビーム(202)
の入射角になるように構成されている、請求項1から
12のいずれか1項に記載の屈折計。
【請求項14】
光ビーム(202)を生成する手段は、少なくとも1つのスリット(220)をさらに含む、請求項1から
13のいずれか1項に記載の屈折計。
【請求項15】
前記距離測定ユニット(260)は、前記駆動ユニット(254)に一体化されている、請求項1から
14のいずれか1項に記載の屈折計。
【請求項16】
請求項
12に記載の屈折計(400)と、
2つ以上の溶媒(402、404)の混合物を有する移動相(408)を前記屈折計(400)の前記参照チャンバ(332)にポンプ輸送するためのポンプ(406)と、
クロマトグラフィーカラム(430)であって、当該クロマトグラフィーカラム(430)の出力は前記屈折計(400)の前記試料チャンバ(334)に接続されるクロマトグラフィーカラム(430)と、
前記クロマトグラフィーカラム(430)に溶質を投入するためのインジェクタ(420)と、を備える、勾配液体クロマトグラフィーシステム。
【請求項17】
光ビーム(202)を生成するステップと、
流動する試料液体(440)を受け入れるための入口(416)および出口(418)ポートを有する測定セル(230)の試料チャンバ(234、334)内に試料液体を受け入れるステップであって、前記光ビーム(202)が前記試料チャンバ(234、334)に衝突し、前記試料チャンバ(234、334)の2つの非平行面(234a、234b、334a、334b)を横切った後に偏向しているように、前記測定セル(230、330)が構成されているステップと、
可動プラットフォーム(240)にマウントされた光学センサを使用して偏向された前記光ビーム(204)を検出するように前記
可動プラットフォーム(240)を移動させるステップ
であって、前記光学センサは、感知領域に関する偏向された前記光ビーム(204)の相対位置を示す信号を出力する位置検出器である、ステップと、
プラットフォーム位置を取得するために前記
可動プラットフォーム(240)の変位を
測定するステップと、
前記光学センサにおける偏向された前記光ビーム(204)の前記相対位置と前記プラットフォーム位置との組合せから前記光ビームの偏向を
連続的に算出するステップと、
算出された前記偏向を使用して前記試料液体の
時間の経過に伴う屈折率
信号を取得するステップと、を含む、
流動する試料液体の屈折率測定値を取得する方法。
【請求項18】
前記
可動プラットフォーム(240)は、偏向された前記光ビーム(204)が前記光学センサの中心に位置するように移動される、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
PIDコントローラ(258)を使用して前記
可動プラットフォーム(240)の変位を連続的に制御するステップをさらに含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
2つ以上の溶媒(402、404)の混合物を有する移動相(408)を屈折計(400)の参照チャンバ(332)にポンプ輸送するステップと、
クロマトグラフィーカラム(430)に溶質を投入するステップであって、クロマトグラフィーカラム(430)の出力は前記屈折計(400)の前記試料チャンバ(334)に接続されるステップと、
請求項
17~
19のいずれか1項に記載の方法による、試料液体(440)の
時間の経過に伴う屈折率
信号を取得するステップと、を含む勾配液体クロマトグラフィ法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本開示は屈折計の分野、より詳細には屈折率の異なる伝搬媒質の界面における光ビームの偏向を測定することによって差分屈折率を得る偏向型屈折率検出器に含まれる。本発明は、液体クロマトグラフィに用いることができる。
【0002】
〔背景〕
液体クロマトグラフィに実用される屈折計は偏向型であり、偏向像の位置の変化を検出するために分割フォトダイオードを使用する。この構成は、液体クロマトグラフィの適用において、オンライン検出器として使用される測定セルを通って流れる液体の屈折率の連続的な記録だけでなく、十分な分解能および低ノイズを提供することが立証されている。(主に臨界角の検出に基づく)代替技術が、例えば飲料中の糖含有量と相関する、バルク液体の屈折率の検出のために、特に食品産業のために、市販製品に開発されてきた。しかしながら、それらの技術は偏向型検出器よりもはるかに低い分解能を提供し、時間の経過に伴い屈折率を連続的に記録することを可能としない。そのため、偏向は依然として、流動する液体の流れの屈折率をオンライン監視するために使用される検出器の唯一の実用的な代替手段である。
【0003】
偏向型検出器は、参照液体と試料液体とを比較する差分検出器として常に構成される。偏向型差分屈折率検出器は、互いに隣接する2つの三角プリズムチャンバから構成される四角プリズムフローセルを有する。2つの三角プリズムチャンバは、平行な面の薄い隔壁によって分離されている。ビームがセルで偏向を試み、入射角とは異なる角度でセルから出るように、光ビームは両方のチャンバを順次横切るように作られる。典型的には、入射角はセルの外面で90°であり、セル三角プリズムは隔壁面がビーム入射角と45°の角度を形成するように配置される。偏向角、すなわち入射ビームの方向と比較して偏向ビームの方向によって形成される角度は、試料液体と参照液体との屈折率の差に比例する。同じ液体が両方のセルチャンバを満たすと、偏向角はゼロになり、ビームは偏向されない。これは、いわゆる光学平衡または光学ゼロである。
【0004】
偏向角の変化は、分割フォトダイオードの手段によりフローセルから固定距離Lにおける光ビーム像の位置変化として検出される。1つまたは複数のレンズを備える光学システムは、典型的に、光ビームを生成し、センサ面上にビーム像(例えば、スリット像)を形成するために使用される。距離Lが長いほど、所与の試料液体と参照液体との屈折率の差(Δn)に対するビーム像の位置変化は大きくなる。
【0005】
分割フォトダイオードは、一般に形状サイズおよび感度が同一である2つの個々のフォトダイオードによって形成される。2つの個々のフォトダイオードの信号は、それらの表面で受け取られる光の量に比例する。同じ液体が参照および試料チャンバに満たされるとき2つの個々の信号がほぼ同一になるように、分割フォトダイオードは、セルおよび光ビームに対するそれぞれの位置に機械的に固定される。光学素子(通常、「ゼロガラス」と呼ばれるガラス板)は、典型的に、フローセルから分割フォトダイオードまでの光の経路内に挿入され(すなわち、位置感知検出器(position sensing detector)の前に挿入され)、光学平衡状況における2つの信号の均等性を強制するためにビームの小さな横方向の平行移動を可能にする。ゼロガラスを回転させる(従って、上記素子への入射角を変化させる)ための手段は、例えば、手動で操作されるか、または電動機を介して自動的に操作されるかのいずれかで提供される。そのゼロ化システム上の任意の機械的または電気的外乱は、検出器における光ビームの位置に伝達され、実際の信号と区別することができず、追加のノイズ、ドリフト、または他の望ましくない影響を引き起こす。
【0006】
そこから、フローセル内の任意の屈折率の差(Δn)は、光ビームの偏向を引き起こす。そして、分割ダイオード上の像は位置的変化を受け、2つのフォトダイオード信号に不均衡を引き起こす。当該不均衡は、そのような位置的変化に比例し、したがって、屈折率の差(Δn)にも比例する。
【0007】
この固定位置分割ダイオードシステムを用いる場合、測定可能な最大偏向は、光ビーム像の大きさと個々のフォトダイオードの大きさとによって制限される。ビーム像が一方のダイオードから完全に外れ、他方のダイオードの方向に移動するとき、それ以上の位置変化は検出できない。この位置範囲限界は、角度単位に変換され、したがって、距離Lにより示差屈折率(Δn)単位に変換される。それはまた、所与の検出器において固定される。従来の偏向型検出器における計測範囲は、典型的に、±1.0・10-3示差屈折率単位(DRIU)よりも低い。
【0008】
拡張範囲を有する偏向型検出器は、特許文献US7027138-B2に記載されており、当該検出器は、分割ダイオードの代わりにセンサのアレイを有する。このようなシステムでは、範囲の基本的な制限は依然としてあるが、セルに関連した固定位置にある検出素子の検出器物理的サイズのために、アレイの寸法が分割ダイオードの寸法よりも大きいので、位置範囲は増大する。
【0009】
また、示差屈折率範囲は距離Lを減少させることによって拡張され得る。そのため、所与の示差屈折率(Δn)による所与の偏向角は、より小さな位置変化に変換される。それは、分割ダイオード寸法内に含まれ得る。しかしながら、この距離Lの減少は感度も低下させ、それは望ましくない。一方、距離Lは、典型的には物理的に可能な限り大きく選択される。拡張範囲をもたらすが感度の減少ももたらす同様の位置変化の低減は、内部にある障壁が入射ビームに対してより大きな角(例えば、通常の45°の代わりに75°)を形成するような測定セルの手段によって達成され得る。感度は重要でなく、感度を最適化する必要がある分析スケール器具には適用できないような調製スケール用の検出器において、この戦略は実施されてきた。いずれの場合においても、ダイナミックレンジ、すなわち、最大測定可能量とより低い検出可能量との関係は増加しない。
【0010】
試料液体の屈折率(n2)と参照液体の屈折率(n1)との間の差異が機械的および光学的部品の物理的な寸法によって課される限度よりも大きいとき、参照セルを試料液体により近い屈折率の液体で満たすことによって光学的バランスは回復されるはずである。これは、2つの異なる溶媒がクロマトグラフィ操作に沿って試料チャンバを通って流れるとき、非常に非実用的であり、勾配適用のためのこのタイプの検出器を完全に見捨ててしまうことになる。したがって、記載の従来技術に係る偏向型屈折計の示差屈折率(Δn)における制限された範囲は、最も広く実用的なクロマトグラフィモードである勾配クロマトグラフィにおけるこのタイプの検出器の使用を妨げるので、重大な欠点である。これが、屈折計が汎用検出器であるにもかかわらず、ポリマーのサイズ排除クロマトグラフィのような特別なニッチ用途においてのみ広く使用されてきた主な理由である。
【0011】
固定位置検出器を有する同様の基本構造では、従来技術の偏向型屈折率検出器のために、参照液体を有するデュアルチャンバー(またはデュアルチャネル)フローセルを使用することが必須である。参照液体は、検出器が飽和する前の試料液体に対する屈折率の上限または下限だけでなく、光学平衡または光学ゼロが確立される屈折率を決定する。その結果、偏向型検出器は、他の液体との関係で屈折率データを伝達する示差屈折率検出器としてのみ使用することができる。一方、それらは、検出器の光学機械的構成の詳細のみに基づいて液体の絶対屈折率を直接提供するものではない。
【0012】
さらに、参照液体チャンバに対する要求は、延長された安定化時間をもたらし、また、ドリフト、不安定性の原因であり、上記参照液体を有する参照チャンバをパージするための手段が不可欠であるので、システムにかなりの煩雑さを加える。標準的に採用された構成では、参照チャンバが適切な参照液体(液体クロマトグラフィーにおける移動相)で満たされ、次いで、バルブの手段によって封止される。この構成では参照液体は停滞しており、これはセルの温度の変化または試料チャンバを通って流れる試料液体の流量の変化に応じて、熱安定化に必要な時間を延長する。場合によっては、参照液体はまた、温度の上昇による劣化を受ける。その結果、試料液体による偏向に干渉する偏向に変換される、その屈折率のドリフトを引き起こす。光学平衡を達成し維持するために、流動する液体の屈折率は、停滞液体と同じでなければならない。当該停滞液体は、たとえ両チャンバが密接して組み立てられ空気圧接触が圧力差を低減するように最適化されている場合であっても、避けられない圧力差および温度差のため、困難または不可能に近い。
【0013】
したがって、勾配液体クロマトグラフィ分析、その他の関連するクロマトグラフィまたは非クロマトグラフィ分析技術において行われるような流動する液体の屈折率の変化に、高い精度および分解能で追従し、さらに混合または反応プロセスの進行に追従することを可能にする、屈折率検出における広範な測定範囲を有する屈折計が必要とされている。
【0014】
〔発明の概要〕
本発明は、分析器における、例えば液体クロマトグラフィータイプの、オンライン検出器として使用することができる偏向タイプの非常に広い測定範囲屈折計を提供することによって、上述の問題を解決する。
【0015】
測定範囲を広げた偏向型屈折計は、光ビームを生成する手段であって、光源を少なくとも有する前記手段と、試料液体を受け入れるための試料チャンバを有する測定セルであって、前記光源からの光ビームが前記試料チャンバに衝突し、前記試料チャンバの2つの非平行面を横切った後に偏向しているように構成されている前記測定セルと、偏向された前記光ビームを検出するための可動プラットフォームにマウントされた光学センサと、前記プラットフォームを移動させるように構成された駆動ユニットと、前記プラットフォームの変位を監視する距離測定ユニットと、前記プラットフォームの変位と前記光学センサの出力信号とに基づいて前記光ビームの偏向を算出し、算出された前記偏向を使用して前記試料液体の屈折率測定値を取得する、データ処理ユニットを有する制御ユニットと、を備える。
【0016】
一実施形態では、測定セルは参照液体を受け入れるための参照チャンバを備える。測定セルは、光線が参照チャンバの2つの非平行面を横切った後に偏向され参照チャンバと試料チャンバとの両方を順次横切るように、構成されている。屈折率測定値は、試料液体と参照液体との間の屈折率の差である。参照チャンバは、流動する参照液体を受け入れるための入口および出口ポートを含み得る。
【0017】
本発明のさらなる態様によれば、勾配液体クロマトグラフィーシステムが提供される。当該勾配液体クロマトグラフィーシステムは、参照チャンバおよび試料チャンバを有する屈折計と、2つ以上の溶媒の混合物を有する移動相を前記屈折計の前記参照チャンバにポンプ輸送するためのポンプと、クロマトグラフィーカラムであって、当該クロマトグラフィーカラムの出力は前記屈折計の前記試料チャンバに接続されるクロマトグラフィーカラムと、前記クロマトグラフィーカラムに溶質を投入するためのインジェクタと、を備える。
【0018】
本発明の他のさらなる態様によれば、試料液体の屈折率測定値を取得する方法が提供される。当該方法は、光ビームを生成するステップと、測定セルの試料チャンバ内に試料液体を受け入れるステップであって、前記光ビームが前記試料チャンバに衝突し、前記試料チャンバの2つの非平行面を横切った後に偏向しているように、前記測定セルが偏向しているステップと、プラットフォームにマウントされた光学センサを使用して偏向された前記光ビームを検出するように前記プラットフォームを移動させるステップと、前記プラットフォームの変位を監視するステップと、前記プラットフォームの変位と前記光学センサの出力信号とに基づいて前記光ビームの偏向を算出するステップと、算出された前記偏向を使用して前記試料液体の屈折率測定値を取得するステップと、を含む。
【0019】
本発明の他の態様によれば、勾配液体クロマトグラフィ法が提供される。当該勾配液体クロマトグラフィ法は、2つ以上の溶媒の混合物を有する移動相を屈折計の参照チャンバにポンプ輸送するステップと、クロマトグラフィーカラムに溶質を投入するステップであって、クロマトグラフィーカラムの出力は前記屈折計の前記試料チャンバに接続されるステップと、先行して記載した方法による、試料液体の屈折率測定値を取得するステップと、を含む。
【0020】
本発明は、位置感知検出器を可動部材上に配置することにより、光学ゼロにおける固定配置の代わりに、非常に大きな検出範囲を達成する。従って、屈折率変化に対する感度は、測定範囲に沿って保存される。位置感知検出器は、直線移動プラットフォームの頂部に配置されてもよい。その運動は、リニアピエゾモータステージまたは他の代替駆動手段(例えば、電動モータ、ステップモータ)によって提供される。可動部材は、回転運動(回転部材)、並進運動、またはそれらの組合せを有し得る。
【0021】
このようにして、フォトダイオードのサイズによる、位置範囲および示差屈折率(Δn)範囲に対する制限は、プラットフォームを光ビーム像の変位方向(すなわち、光ビームの偏向)に移動させることによって克服される。
【0022】
屈折計装置は、光源と、溶媒および試料を時系列に沿って含有する測定セルと、セルでの偏向が大きいときにビーム像(または偏向された光ビーム)の位置に追従できるように移動プラットフォームにマウントされた、位置感知検出器(分割フォトダイオードまたは概してセグメント化フォトダイオード、横効果フォトダイオード、センサのアレイ、または代替の光位置感知デバイス)あるいは概して光学センサとを備える。セルおよびフォトダイオードの機械的寸法および相対位置が正確に分かっている場合、セル内の流体の絶対屈折率は、溶媒に対してセルを通って流れる試料の示差屈折率に加えて、計算することができる。
【0023】
従来技術で知られている屈折計(光学平衡を確立する目的で、ゼロガラスなどの光学素子が屈折測定プロセスの前のセットアップステップで移動あるいは回転される)とは異なり、本発明の好ましい実施形態では、屈折率の測定プロセス全体の間、偏向された光ビームを追跡するために、位置感知検出器が連続的に移動される。したがって、屈折計は、測定プロセスの間、屈折率(およびその変化)を連続的に追跡および推定している。
【0024】
移動プラットフォームの位置は、検出器電子システムによって精密かつ正確に制御される。その結果、ビーム像の正確な位置は、分割フォトダイオード信号とプラットフォームの位置との組み合わせによって、またはビームが分割フォトダイオードの中心に維持される場合にはプラットフォームの位置によって取得され得る。距離測定ユニットは、高分解能(サブミクロン、ナノメートル)および高精度でプラットフォームの変位を監視する。距離測定ユニットは、駆動装置(例えば、レーザ干渉法に基づく光学エンコーダまたは検出器)の一部として、またはプラットフォーム変位を監視する外部センサとして実装されてもよい。
【0025】
移動プラットフォームの高分解能および高精度は、クロマトグラフィーシステムの状況における、屈折率および屈折率の差を時間の経過に伴い測定するために必要な分解能およびノイズ(RIUまたはDRIUユニットで10-8以上)に到達することを可能にする。同時に、距離の範囲も、ほとんどの実用的な用途に対して絶対屈折率範囲における偏向角の変動をカバーするのに十分大きい(少なくとも15ミリメートルから50ミリメートルである)。
【0026】
偏向された光を検出し、その位置を連続的に追跡する可動部材を駆動するための代替手段も、位置感知検出器を使用することなく、光パワーセンサを使用することを着想することができる。ここでは、光学センサの一般的な種別の異なるタイプに名前を付けるため、位置感知検出器と光パワーセンサとの用語の両方を用いる。光学センサは、光放射の何らかの特性に応じて電気信号を発生する装置である。位置感知検出器の場合、電気信号は感知領域に対する光の位置に関連し、一方、光パワーセンサの場合、電気信号は、感知領域上で受け取られる放射の強度またはパワーに関連する(比例する)。
【0027】
適切なサイズおよび/または空間パワープロファイルを有するビームの位置は、光パワーセンサを使用することによって追跡することができる。光パワーセンサの出力は、受信される放射の強度またはパワーに比例する。この場合、プラットフォームの移動は、光ビームがセンサの中心に位置するときに達成される、信号を最大レベルに保つアルゴリズムによって制御されてもよい。また、十分高速である走査システムは、位置感知検出器を必要とせずに、同じ目的を果たすことができるが、何らかの他の種類の光学センサは必要である。位置感知検出器を含まないこれらのビーム追跡システムを用いると、プラットフォームの位置によってビーム像の位置を取得することができる。
【0028】
本発明の屈折計は、セルの試料チャンバが、液体の屈折率が測定時間中に流動せずに測定(すなわち、静止測定)されるように当該液体を満たし続けるバッチ検出器として、または、液体の連続的な流れが試料チャンバを通る外部手段(すなわち、ポンプ)によって維持され、一方、流動する液体の屈折率が時間の経過に伴い測定(すなわち、動的測定)されるオンライン分析器として使用することができる。バッチモードでは、最終的に試料チャンバを静的に満たしている液体の屈折率を表す単一読み取り値が、検出器から得られる。一方、オンライン分析器モードでは、時間の経過に伴う屈折率の一連の連続読み取り値が検出器によって生成される。オンライン分析器モードは、検出器が液体クロマトグラフィまたは関連技術に、アイソクラティック(移動相の組成物が時間の経過において一定である)または勾配(移動相の組成物が時間の経過に伴い変化する)方法のいずれかで連結されるときに使用される。
【0029】
バッチ検出器として使用されるとき、移動プラットフォームは、ビーム位置を探すために、移動寸法に沿ったスキャンを実行することを可能にする。一実施形態では、これは、個々のフォトダイオードからの2つの信号の合計が最大となる移動プラットフォームの位置を決定する、分割ダイオードから生成される信号を監視することによって達成することができる。移動プラットフォームは、その点で停止され、その位置が記録される。2つのフォトダイオードからの信号間の差は、分割フォトダイオードに対する光ビームの像の相対的位置の正確な測定値となる。この相対位置をプラットフォーム位置と組み合わせて、光ビームの(セルに対する)絶対位置を決定し、偏向角を計算し、試料チャンバ内の液体の屈折率を計算する。
【0030】
検出器が、時間の経過に伴い連続屈折率信号を生成するオンライン分析器として使用されるとき、様々な動作モードが実現可能である。それらのうちのいくつかは、複雑さが増すにつれて、次に説明されるが、代替のまたは組み合わせられたモードも可能であり得る。
【0031】
最も単純な動作モードでは、プラットフォームは最初に、それに取り付けられた分割ダイオードが平衡入力信号を生成するように、すなわち、ビームがその表面の中心に来るように、位置決めされるだけである。その点から、検出器は従来の偏向型検出器として使用され、ビーム位置偏向は、2つのフォトダイオードからの信号の差に比例して取得され、次いで、時間の経過に伴い屈折率変化と比例する。このモードでは、差の範囲は、従来の検出器とは反対に、光学ゼロを中心とする必要がないが、像およびセンサの物理的寸法によって依然として制限される。これにより、セル内の参照チャンバを使用中の溶媒を用いてパージする必要なく、異なる屈折率を有する異なる溶媒を用いて分析を行うことが可能になり、パージ手順の時間ならびにパージ後の再安定化時間を排除することによって効率を増大させる。それはまた、参照チャンバなしで、このアプローチが必然的に伴う利点を有して、1つのチャンバのみを有する測定セルを使用することを可能にする。
【0032】
別の動作モードでは、時間経過に伴う屈折率変動の明確に定義されたプロファイル(溶媒勾配分析における移動相/背景屈折率の線形変化)に適しており、プラットフォームを移動させるモータは、事前に設定された移動パターン、事前に設定された一定速度での2つの所与の位置の間の連続的な移動、または時間変化する速度での何らかの任意の移動に従うことができる。初期位置および最終位置、ならびに移動速度(一般に、任意の移動プロファイル)は、以前の学習ステップで事前に記録されるか、またはそうでなければ、時間変動に伴う予想屈折率から計算される必要がある。当該運動は、時間経過に伴って変化する角度で偏向されたときに、ビームの像がフォトダイオードの限界に到達しないことを保証する。ビームの位置は、個々のフォトダイオード信号から導出される、分割ダイオードに対するビームの相対位置を組み合わされた既知のプラットフォームの位置から連続的に計算することができる。
【0033】
さらに別の動作モードでは、ビーム像が分割フォトダイオードの物理的限界を超えて移動しないように、プラットフォームを移動させるためフォトダイオードAおよびBの個々の信号を監視する単純なコントローラが実装される。
【0034】
一般的な動作モードでは、時間経過に伴う屈折率の任意の変化を有しており、システムが本発明の好ましいモードであるヌル化装置として閉ループ動作で使用することができる。移動プラットフォームは分割ダイオード信号が常に平衡となるように、連続的に移動される。エラー信号が両方のフォトダイオード信号間の差であり、適用される作用が移動プラットフォームの増分変位(一方向への変位、または逆に、現在の位置からの変位)である、サーボ制御アルゴリズム(例えば、PID)を実装することによって、これは達成される。2つのフォトダイオード(A、B)からの信号は適切な電子で取得される。(A-B)/(A+B)として定義される正規化された差は、PIDアルゴリズムの「エラー」信号として使用され得る。PIDアルゴリズムの出力、すなわち作用(u)は、エラー信号を打ち消すために必要な増分移動である。この作用は、次のサイクルで設定される出力(u)を計算するために、1サイクルで得られる正規化された差信号を使用してPID方程式を実施するファームウェアまたはソフトウェアを実行するマイクロコントローラまたはコンピュータによって計算される。追跡の正確度を向上させるために、サイクルタイムをできるだけ短く(少なくとも1時間あたり10回、あるいは1時間あたり20回で)設定し、エラー信号を常に最小限に抑える。PIDコントローラのパラメータは、リンギング、望ましくない発振、または増加したトラッキングノイズを防止するように最適化され、一方、ビーム位置における最も急速な移動さえも追跡するのに十分高速の応答を保つ。この目的のために、システムの動的応答を抽出するためのいくつかの実験を実行することができる。このような可能な実験の1つは、モータの強制的なステップ移動を実行し(任意の作用を適用し)、エラー信号を時間経過に伴って読み取ることを含む。作用から誤差信号変化までの遅延、作用の大きさと比較した最終誤差信号、および誤差安定化の時定数は、他のパラメータの中でも、システムの動的応答を特徴付けるために使用することができる。この情報を用いて、コントローラのための最適化されたパラメータが計算される。
【0035】
広範囲のセルにおける偏向後の光ビーム像の位置を検出する能力は、光ビーム像を検出器面における設定位置にするための光学ゼロを実行する必要性を除去する。このように、従来の検出器に存在したあらゆる補助的な光学部品(例えば、ゼロガラス板)または(ゼロガラス板の自動または手動回転用の)光学機械機構が光学ゼロ化を実行する(すなわち、Δn=0の条件が設定されたときに、両方のセルチャンバを同じ液体で満たし、同じnにすることによって、ビーム像位置を分割フォトダイオード中心で正確に調整する)必要がない。したがって、これは、ハードウェア要件を単純化し、不安定性またはドリフトの原因ならびにハードウェアの複雑さを排除する。
【0036】
最も重要なことは、従来技術の検出器が、ビーム光像を分割ダイオード固定位置上において光学ゼロに保つために、デュアルチャンバセルを必要としたことである。一方、本装置は単一チャンバセルで作動することができ、従って、参照チャンバはもはや必要ではない。この差異は、デュアルチャンバセルの概念に基づく既存の技術に伴う安定性の問題の大部分を克服するのに役立つ。単一のチャンバおよびクロマトグラフィ入口および出口ポートを有する測定セルはまた、高圧操作に耐えることができ、粘度計のような他の検出器、またはUPLCシステムのような低口径管機構との連続的な結合において有用である。
【0037】
したがって、本発明は、少なくとも±1.0・10-1RIUに拡張された高測定範囲、高精度(10-8RIUよりも優れた精度)、および増大された動的範囲を有する、勾配液体クロマトグラフィの用途にとりわけ有効な屈折計を提供する。屈折計は、従来技術の通常の示差屈折計よりも数桁大きい屈折率の変化に追従することができる。屈折計は、参照液体で満たされた参照チャンバを使用する必要がないので、絶対屈折率を測定することができる。さらに、本明細書に記載の屈折計は、光学ゼロ調整素子(ゼロガラス)が不要であるため、この光学素子による困難性または故障を生じさせない。加えて、単一チャンバセルと共に使用される場合、参照チャンバに関連する全ての欠点が除去される。すなわち、ドリフト、増加する安定化時間、または参照チャンバ液体によって引き起こされる追加のノイズと同様に、パージ回路ハードウェア要件が除去される。
【0038】
〔図面の簡単な説明〕
本発明をより良く理解することに役立ち、その限定されない実施例として提示される、本発明の実施形態と明確に関連する一連の図面とを、以下で非常に簡単に説明する。
図1は、従来技術に係る偏向型屈折計を示す図である。
図2Aおよび
図2Bは、本発明に係る単一チャンバフローセルを有する偏向型屈折計の2つの実施形態を示す。
図2Cは、他の実施形態の簡略図を示す。
図3は、屈折計の他の実施形態を示し、この場合、二重チャンバフローセルを有する。
図4Aは、バッチモードでの二重チャンバセルの使用を示す。
図4Bは、連続フローを有する単一チャンバフローセルの使用を示す。
図4Cは、静的参照チャンバおよび試料チャンバを通る連続フローを有する二重チャンバフローセルの使用を示す。
図4Dは、インジェクタおよびカラムの前後に直列に接続された両方のチャンバを通る連続フローを有する二重チャンバフローセルの使用を示す。
図5は、屈折率の異なる2つの媒質の界面における光ビームの入射角の変化を示す。
図6A、
図6Bおよび
図6Cは、屈折計によって使用されるコントローラの3つの実施形態を示す。
図7Aおよび
図7Bは、1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)、1-デカノールおよびそれらの混合物を移動相として用いた本発明の屈折計からのデータを示す。
図8は、
図7Aおよび
図7Bの実験のための移動相におけるシフトの測定値と屈折率の測定値との関係を示すグラフである。
図9Aおよび
図9Bは、異なる割合の1-デカノールおよびTCBの混合物中の少量のキシレンの注入から、時間スケールに沿って連続的に記録された屈折率を示す。
図10は、勾配ジ-エチレン-グリコール-モノ-ブチルエーテル(DEGMBE)-TCBについてのシフト(光ビームの偏向)を示す。
図11Aは、連続勾配1-デカノール-TCBに沿ったキシレンの反復注入のシフトを示す。
図11Bおよび
図11Cは、それぞれ、勾配の最初の部分および最後の部分の間の同じデータの拡大図を示す。
図12Aおよび12Bは、それぞれ、水に対するアセトニトリルの連続的な線形勾配の間の記録されたシフトおよび計算された屈折率を示す。
【0039】
〔詳細な説明〕
本発明は、液体クロマトグラフィに用いることができる、高精度で測定範囲が非常に広い偏向型屈折率検出器に関する。
【0040】
図1は、光源110とスリット120とから光ビーム102が生成される、従来技術に係る偏向型屈折計100を示す。光ビーム102は、2つの三角プリズム、すなわち、参照チャンバ132および試料チャンバ134を備える二重チャンバフローセル130に衝突する。参照チャンバ132および試料チャンバ134は、入口ポートおよび出口ポート(図示せず)を有し、それぞれ、異なる屈折率n1およびn2を有する参照液体および流動する試料液体で満たされている。光ビームがフローセル130を通過するとき、それは、両方の液体の示差屈折率(Δn=n2-n1)に応じて、ある角度αで偏向される。
【0041】
偏向された光ビーム104は、フローセル130から固定距離Lに置かれた分割フォトダイオード140によって検出される。特に、ビームの変位dは、分割フォトダイオード140によって測定され、偏向角αが得られ(α=tan-1(d/L))、屈折率差(n2-n1)が最終的に計算される。当該差が、検出器面におけるビームの変位dが同一寸法における検出装置のサイズHよりも大きくなるような場合には、システムが範囲外である。典型的には、示差屈折率単位の最大レンジが約±0.6・10-3DRIU(示差屈折率単位)である。
【0042】
偏向型屈折率検出器では、光ビームは、監視すべき試料液体に接するガラスの表面に対してある角度、典型的には45°、をなして向けられる。スネルの法則によれば、試料液体を含むガラスを横切った後の光ビームの角度は入射角とは異なり、それは、その表面で接触する媒質、すなわち、監視される試料液体および容器のガラス材料の屈折率に関連する。
【0043】
従来技術によれば、液体クロマトグラフィに適用される屈折計は、試料液体(溶媒および溶質)で満たされた一方のチャンバと、参照液体(純粋な溶媒)で満たされた第2のチャンバとを有する2チャンバフローセルを使用する。したがって、屈折が起こる2つの表面が存在する。同じ液体(純粋な溶媒)が両方のチャンバに存在する場合、二重チャンバセルの後の光ビームの角度は変更されないが、一方のチャンバ内の液体の屈折率の小さな変化は、ある溶質の存在に起因して、フローセルの後の光ビームの角度の小さな変化を生じる。この角度の変化は、ある距離Lにおいて、位置感知検出器の平面内におけるビームの位置の変化(すなわち、変位d)として検出される。分割ダイオード140によって測定されるビームdの変位は、屈折率の差n2-n1にほぼ比例し、これは次いで試料液体の溶媒中の溶質の濃度に比例する。従来技術の屈折計は通常、ゼロガラス偏向器(
図1には示されていない)も含み、Δn=0の状態が設定されるときに、偏向された光ビームを分割フォトダイオードの中心で正確に調整する。
【0044】
このシステムは、わずかな角度変動を発生する屈折率の小さな差に対してのみ機能する。しかしながら、勾配(傾斜)液体クロマトグラフィでは、(異なる極性の)2つの異なる溶媒を組み合わせ、割合を時間変化させて移動相を形成するとき、移動相の屈折率の変化は溶媒中の溶質によって引き起こされる差よりも数桁大きい。そのため、勾配分析に沿った偏向角の変化は、(検出装置のサイズHによって制限される)可能な測定範囲よりもはるかに大きい。したがって、これらの屈折計は、勾配液体クロマトグラフィ分析に使用する場合には有用ではない。
【0045】
本発明の屈折計は、移動相組成が一方の溶媒から他方の溶媒に変化するときに屈折率の連続的な変化に追従することができる、屈折率単位(RIU)での大きな測定範囲を有するので、勾配液体クロマトグラフィに特に有用である。本発明では、位置感知検出器(分割ダイオード)が移動プラットフォーム上に配置される。その結果、それは、少なくとも屈折率変化のRIU単位の10倍に変換する、センチメートルのオーダーの非常に大きな変位値dを測定することができる。
【0046】
図2Aは、本発明の一実施形態に係る偏向型屈折計200を表す。屈折計200は、試料液体によって偏向され、位置感知検出器の平面に衝突するのであろう光ビーム202を生成し、その平面上に光ビーム像を生成する手段を備える。当該光ビーム像は、上記光ビームが受ける偏向に従って移動するであろう。
【0047】
光ビーム202は例えば、レーザダイオードのようなコリメートされた光源210を使用して、または、LEDあるいはランプのような非コリメートレンズ(図には示されていない)と制限的な光スリット220とを備えた非コリメートされた光源210を使用して生成されてもよい。補助的な光学素子(例えば、レンズ、スリット、光学的開口)は、光ビームまたはビーム像の生成のために使用されてもよい。
【0048】
測定セル230は、試料液体を収容する試料チャンバ234を備える。互いに平行でない試料チャンバ234の2つの表面(前面234aおよび後面234b)は、光ビームによって横断される。その結果、光ビーム202が試料チャンバ234を通過するときに、それは試料液体によってある角度で偏向される。これらの2つの表面は、可視光に対する、ガラス、石英ガラス、石英、サファイアのような、使用される光の波長に対して透明な材料で作られる必要がある。また、光ビームの乱反射または散乱を防止するために研磨される必要がある。セル壁の残りの部分は、関心のある光線と相互作用しないので、同じ材料または異なる材料から構成されてもよい。偏向された光ビーム204は、可動プラットフォーム240にマウントされた位置感知検出器によって検出される。位置感知検出器は、好ましくは2つの個々のフォトダイオード(242a、242b)によって形成される分割フォトダイオード242として、または代替的に、適切な感度の横効果フォトダイオードあるいはフォトダイオードアレイのような他の既知の位置感知装置として実施される。
【0049】
屈折計はまた、プラットフォームを移動させるように構成された駆動ユニット254と、プラットフォーム240の変位を測定するように構成された距離測定ユニット260と、位置感知検出器から出力信号244(例えば、個々のフォトダイオード242aおよび242bからそれぞれ来る信号)を受信する制御ユニット250と、を備える。距離測定ユニット260は、好ましくはサブミクロンまたはナノメートルのオーダーの高分解能で、プラットフォーム240の各最小変位を検出する(そのために任意の既知の検出器を使用することができる)。距離測定ユニット260は、
図2Aの例のように、駆動ユニット254(例えば、モータの光学エンコーダ)に一体化された部材、または
図2Bの実施形態に示すように、駆動ユニット254の外部の部材であってもよい。制御ユニット250は、例えばマイクロコントローラまたはコンピュータとして実装されるデータ処理ユニット252を含む。それは、プラットフォーム240の変位と位置感知検出器の出力信号244とに基づいて、光ビームの偏向(測定セル230によって引き起こされる偏向角α)を算出し、それによって、算出された偏向を使用して試料チャンバ234内部の試料液体の屈折率測定値を取得する。制御ユニット250は、例えば、駆動装置254から直接(例えば、そのエンコーダを使用して)、またはプラットフォーム240の位置決めを監視するように構成された外部センサ(図示せず)を使用して、プラットフォーム240の変位を取得することができる。いずれの場合も、屈折率単位で必要とされる分解能を提供するために、変位の分解能は、ナノメートルのオーダーであることが好ましい。
【0050】
図2Aに示す実施形態では、駆動装置254が光ビーム202に垂直な軸H(例ではビーム202は水平線であり、軸Hは垂直線)に沿ってプラットフォーム240を直線的に移動させる。直線移動の代わりに、駆動装置254は、プラットフォーム240の位置を各瞬間で決定され得るように、例えば角度移動のような、既知の軌道に従いプラットフォーム240を移動させ得る。
【0051】
駆動ユニット254は、
図2Aに描かれているように、制御ユニット250の外部の実体であってもよい。あるいは
図2Bの実施形態に示すように、駆動装置254は制御部250の一部であってもよい。
【0052】
一実施形態によると、駆動ユニット254は、所定の移動パターン、例えば、2つのあらかじめ定義された位置間の一定速度での連続移動、または、時間変化する速度での何らかの任意の移動に従って、プラットフォームを独立して移動させる。駆動ユニット254は、代わりに、制御ユニット250のデータ処理ユニット252によって送られる起動命令256によって制御されてもよい。
【0053】
図2Aおよび2Bの実施形態では、測定セル230が単一チャンバセル、特に単一チャンバ(試料チャンバ234)を有する三角プリズムである。ここで、三角プリズムは、光ビーム202の入射角が外面(プリズムの前面)で90°をなすように配置される。
図2C(制御ユニット250および駆動装置254を示していない)に描かれた他の実施形態では、単一チャンバ測定セル230は、光ビーム202の入射角が第1の表面(正面234a)に対して垂直でないような位置に配置される。したがって、測定セル230を横切るときにビームが偏向される2つの表面(正面234aおよび後面234b)が存在する。
【0054】
図3は、測定セル330が単一チャンバセルではなくデュアルチャンバセルである、さらに他の実施形態に係る屈折計300を示す。この場合、測定セル330は、試料液体を受け入れるための試料チャンバ334と、参照液体を受け入れるための参照チャンバ332とを含む。測定セルは、参照チャンバ332の2つの非平行面(正面332aおよび後面332b)、次いで試料チャンバ334の2つの非平行面(正面334aおよび後面334b)を横切った後に、光ビームが偏向されるように配置される。データ処理ユニット252により算出される屈折率は、試料液体(屈折率n2)と参照液体(屈折率n1)との屈折率差(Δn)である。
【0055】
図4Aは、バッチ検出器として屈折計における測定セルの動作を示している。セルの参照チャンバは、屈折率が既知である参照液体で満たされ、次いで、参照チャンバが封止される。試料チャンバは、屈折率が未知である試料液体で満たされる(あるいは、試料液体が試料チャンバを通って流れていてもよい)。その状況では、参照液体に対する試料液体の示差屈折率(屈折率差)が検出器によって測定される。本発明の屈折計(
図4Aには図示せず)では、参照チャンバを省略することもでき、その場合、試料液体の絶対屈折率が測定される。
【0056】
クロマトグラフ(または同様のシステム)におけるオンライン分析器としての本発明の屈折計の動作に係る実施可能な態様が、
図4B~4Dに示されている。
図4Bは連続フローを有する単一チャンバフローセル屈折計を使用するクロマトグラフを示し、
図4Cは静的参照チャンバおよび試料チャンバを通る連続フローを有する二重チャンバフローセルを示し、
図4Dは、直列に接続された両方のチャンバを通る連続フローを有する二重チャンバフローセルを示す。
【0057】
図4Cに示されるように、セルの参照面は、参照入口(471)および参照出口(472)を使用して参照流体で満たされ、次いで、参照閉塞部材(473)の手段によって封止され得る。このようにして、参照流体は検出器の使用に沿って静止状態に保たれ、一方、試料液体の連続的な流れは試料チャンバ334を通って保たれる。試料チャンバ内の流動する液体と参照チャンバ内の停滞液体との間の、時間の経過に伴う屈折率の差が算出され、記録されるべき検出器の出力として生成される。この屈折率の差は、参照チャンバ内の流体の屈折率が固定されているので、試料チャンバのみを通って流れる流体の屈折率が変化することにつれて連続的に増加する。これは、増加する偏向角、従って移動プラットフォームに要求される、増加する変位に変換される。
【0058】
あるいは、
図4Dの屈折計400に示されるように、セルの参照チャンバ332は、流動する液体を伴って直列に接続され得る。この目的のために、参照チャンバは、流動する参照液体410を受け入れるための入口ポート412および出口ポート414を備える。破線の矢印は流れの方向を示す。2つ以上の異なる溶媒(第1の溶媒402、第2の溶媒404)の混合によって連続的に生成される、時間変化する組成を有する移動相408がシステムを通して(ポンプ406の作用によって)ポンプ輸送されるとき、それは最初に参照チャンバ332に到達する(すなわち、参照チャンバ332の参照液体410は、液体クロマトグラフィで使用される移動相408である)。次いで、(存在する場合、1つまたはいくつかの)インジェクタ420、システム管およびカラム430内の体積に起因するいくらかの遅延時間の後、複数の溶媒(402、404)の移動相(408)混合物および最終的にインジェクタ420からの溶質を含有する試料液体440が測定セル330の試料チャンバ334に到達する。試料チャンバ334は、試料液体440が流れる入口416および出口418ポートを備える。
【0059】
参照チャンバと試料チャンバとの間の体積遅延のために、参照液体および試料液体の移動相組成は異なる。そのため、時間の経過に伴う移動相組成の変化に起因して、2つのチャンバの液体の間には屈折率の差がある。さらに、何らかの手段(図示せず)によってインジェクションループ(425)に入れられた溶質がインジェクタ(420)によって移動相の流れに注入され、存在する場合にはカラム(430)を横切り、屈折計のフローセル内の試料チャンバ(334)に入るとき、その溶質に起因して、2つのチャンバ内の液体間には屈折率の追加の差がある。この追加の差は時間の経過に伴い一定ではなく、溶質が試料チャンバを横切る間にのみ存在し、典型的には、移動相での組成が異なることに起因する差と比較して非常に小さい。この構成では、2つのセルチャンバ(332、334)の各々における流体の屈折率は固定されておらず、ポンプ輸送された移動相408の時間変化に従って時間変化する。屈折率の差は、停滞した参照セルの場合において連続的に増加することはないが、一定の間隔内に制限されたままである。その屈折率の間隔の幅は、混合物の複数の成分における屈折率の差に加え、両方のチャンバ間の体積遅延、システムを通る流量、および移動相における組成の変化率によって定義される。
【0060】
特に、線形溶媒勾配が適用される場合、セルの2つのチャンバ間の屈折率の差は、ほぼ一定のままである。
図4Dの構成を使用するとき、セル内の2つのチャンバ間の屈折率の差が制限され、したがって、移動プラットフォームに必要な角度偏向および変位も制限される。これは、検出器のサイズを最小限に抑えるために有利であり、検出器の感度または分解能を高めるために使用することができる。
【0061】
セルの2つの表面によって形成される角度、および第1のセル表面への光ビームの入射角は、光ビームが連続して横切る各界面に適用されるスネルの法則に従って、セル内の単一の流体または複数の流体(単一チャンバまたは二重チャンバセルの場合)の所与の屈折率に対する、セルの後の偏向角の大きさを決定する。特に、以下の関係が満たされる:sin∝
1・n
1=sin∝
2・n
2、ここで、∝
1および∝
2は界面における入射角、n
1およびn
2は媒質の屈折率である。垂直入射の場合、偏向角は任意の屈折率についてゼロであり、入射角が小さいほど(垂直入射から遠いほど)、セル内の流体の屈折率の変化による偏向が大きくなる。
図5では、2つの媒質の屈折率n
1およびn
2が与えられたとき、入射角α
1に対する偏向ビームの角度はα
2である。第2の媒質の屈折率がn
2+Δnに変化するとき、偏向角の角度はα
2+Δαに変化する。屈折率Δnの所与の変化に対する偏向角Δαの変化は、
図5に定義されるようにα
1が大きいほど、より大きくなる。
【0062】
より大きな屈折率の媒質からより低い屈折率の媒質へ行くとき、入射角は屈折光が透過しない臨界角より低くすることはできない。入射角および/または測定セルの2つの面によって形成される角度を変化させるとき、屈折率の変化に対する偏向角の変化は、増加され得る、または最大化され得る、したがって、屈折率変化に対する検出器の感度を増加させ得る。本発明の屈折計は、従来技術の屈折計よりも大きな範囲の偏向角を測定することができるので、分割ダイオードの物理的寸法によって課される限界を超えて偏向角を最大化することが可能であり、望ましい。したがって、感度を最大化するために、光ビームの入射角は、利用可能な測定範囲内の偏向を最大化するように最適化することができる。
【0063】
光が2つの媒質間の界面を横切るときであって、第1の媒質の屈折率が第2の媒質の屈折率よりも高いとき、スネルの法則に従って計算した偏向角が90°となる入射角が存在する。これは、臨界入射角または臨界角と呼ばれ、その臨界角を超えると、屈折光は存在せず、全反射のみが存在する。臨界角に近い入射角は、屈折率の所与の変化Δnに対して、偏向角の最大の変化Δαを与える。そのため、感度を増強することが屈折率単位の幅を広げることよりも優先されるとき、臨界角に近い入射角を有する構成が好ましい。その結果、屈折率変化に起因する偏向角の変化が最大化される。
【0064】
一実施形態によると、偏向されたビームが分割フォトダイオード242の物理的制限内に留まるように、プラットフォームは駆動ユニット254によって移動される。説明通りに動作することができるコントローラに係る一実施形態を
図6Aに示す。このコントローラはビーム像が分割フォトダイオードの物理的制限を超えて動かないようにプラットフォームを動かすために、フォトダイオードAおよびBの個々の信号を監視する速度コントローラ257である。ビームの全偏向は(当該ビームの全偏向から流体の屈折率が算出されるが)、移動プラットフォームの既知の位置および2つのフォトダイオードの信号間の差から得られる。1つの非限定的な実施において、コントローラはどのフォトダイオードがより大きな信号を生成するかに応じて、移動方向を決定するようにプログラムされている。すなわち、偏向された光ビームの像が一方のフォトダイオードの方向に移動するとき、それは一方のフォトダイオードの、より大きな領域を覆い、したがって、その特定のフォトダイオードの信号は増加する。もう一方のフォトダイオードについて、逆もまた真である。偏向されたビームの移動方向に追従するために、プラットフォームは、より大きな信号を有するフォトダイオードによって示される、同様の方向に移動される必要がある。当該移動は、信号がより低い方のフォトダイオードの信号が所定のレベルを下回るまで減少した場合にのみ開始する。当該移動は、初期速度で開始する。信号が所定のレベルを超えると、当該移動は再び停止する。信号がさらに減少し、あらかじめ定義された第2のレベルを下回ると、速度が増加する。当該移動が停止するたびに、速度はその初期値にリセットされる。アウトラインコントローラの目的は、ビームの移動を追跡して、分割フォトダイオードの外に移動しないようにすることだけである。そのため、分割フォトダイオードの位置に対するビームの相対的な位置を、時間の経過に伴って正確に測定することができる。プラットフォームの既知の位置と共にその相対位置が、ビームの全偏向および試料チャンバ内の流体の屈折率を算出するために使用される。
【0065】
好ましい実施形態では、偏向された光ビーム204が連続的に分割フォトダイオード242の中心に位置するように(すなわち、分割フォトダイオード242の中心が偏向された光ビーム204を連続的に追跡するように)、プラットフォームは駆動ユニット254によって移動される。したがって、制御ユニット250は、ビーム追跡デジタルサーボコントローラとして機能する。そのために、制御ユニット250の処理ユニット252は、偏向された光ビーム204が分割フォトダイオード242の中心に位置するように、プラットフォームの位置を連続的に制御するための(
図3の実施形態に示されているような)PIDコントローラ258を備え得る。
図6BはPIDコントローラ258の実施形態を示しており、PIDコントローラ258の入力エラー信号(e)は、両方の個々のフォトダイオード(242a、242b)の出力信号(A、B)間の差である。誤差信号(e)は上記差分(A-B)の比例信号であってもよく、例えば、(A-B)/(A+B)として定義される正規化された差分である。PIDコントローラ258の出力(u)は、エラー信号(e)を打ち消すのに必要なプラットフォーム240の変位である。出力(u)は、駆動ユニット254に送られた起動命令256に対応し、その現在位置から、上記起動命令256に応じた大きさで可動プラットフォームを上昇または下降させる。
【0066】
PIDコントローラ動作に必要なエラー信号は、横効果フォトダイオードまたはセンサアレイなどの代替の位置感知の出力から実施することもできる。このような代替デバイスの出力は、アナログまたはデジタルのいずれかであり得るが、依然として、検出器の中心に対するビーム位置の距離に比例し、不均衡の方向に依存した反対の符号を有する。
【0067】
図6Cに示された他の実施形態では、プラットフォーム240が駆動ユニット254によって移動され、その結果、偏向されたビーム位置は光パワーセンサ248の手段によって追跡される。光パワーセンサ248の出力信号244は、上記光パワーセンサ248がビームと完全に整列しているときに最大となる。信号最大化コントローラ259は、光パワーセンサ出力信号244の現在および過去の値と、プラットフォームの以前および現在の位置とに基づいて、このような完全な追跡に必要な運動の移動および感知(正または負)を算出するために使用される。この信号最大化コントローラ259の出力(u)は、駆動ユニット254に送られた起動命令256に対応し、次に、上記起動命令256に従ってその現在位置から可動プラットフォーム240を上下に移動させる。本実施形態では、光ビーム偏向がプラットフォーム240の位置によって取得される。
【0068】
本発明の屈折計は、好ましくは液体クロマトグラフィまたは関連技術において、アイソクラティックまたは勾配溶離のいずれかを使用して適用される。測定セルはフローセルであり、試料チャンバ234は、カラムクロマトグラフィから来る流動する試料液体を受け入れるための入口ポートおよび出口ポートを備える。
図3の実施形態では、測定セル330が液体クロマトグラフィで使用されるタイプのフローセルであってもよい。ここで、試料チャンバ334および参照チャンバ332の両方は、それぞれ流動する試料液体(溶媒に加えてカラムクロマトグラフィから来る溶質)および参照液体(純溶媒)を受け入れるための、入口および出口ポートを含む。
【0069】
一実施形態によると、可動プラットフォーム240は、ナノメートルスケール(例えば、ピエゾモータステージ)での移動を実行および監視することができる高解像度モータステージによって駆動される。この非常に高い分解能は、液体クロマトグラフィまたはこのような屈折率の大きな測定範囲を要求する任意の他の用途において溶質の濃度の正確な定量化のために必要とされる、屈折率の非常に小さな差の決定を可能にする。
【0070】
大きな移動範囲と高い分解能との組み合わせは、屈折率を測定するための新しいアプローチを提供し、従来の屈折計を使用することができない勾配液体クロマトグラフィのような用途において新しい検出器の使用を可能にする。液体クロマトグラフィに使用される好ましい実施形態によれば、サーボ制御(制御ユニット250)は、偏向された光ビームが常に分割ダイオードの中心に位置するようにモータ位置(駆動ユニット254)を調整し、ゼロ出力を生成する。一実施形態によると、システムがビームの位置を高精度で連続的に追跡することを可能にするため、比例微分積分(PID)アルゴリズムは、制御ユニット250のデータ処理ユニット252によって実施される。PIDコントローラ258は、分割ダイオード信号を入力として取り込む。分割ダイオード信号は、ビームがその中心に位置するときゼロであり、分割ダイオード中心に対するビーム位置に応じて正または負となる。
【0071】
PIDコントローラ258は、適切に制御された実験によってシステムの動的応答を測定することによって最適化される。そのような実験の1つは、モータのステップ移動および時間の関数として分割ダイオードの応答を監視することを含む。この実験から、最適化されたコントローラの計算のために、システムの動的特性を抽出することができる(すなわち、P、I、D係数の値)。もちろん、システムの動的挙動を最適化し得る代替のコントローラも使用することができる。コントローラが適切に最適化されていないと、システムが不安定になり、モータがビームの実際の位置の周りで振動したり、位置の急激な変化に正確に追従することができなくなったりする。溶質(液体クロマトグラフィ実験におけるピーク)の存在に起因する屈折率の実際の変化があるとき、最適化されたPIDコントローラ258は、オーバーシュート(overshooting)または平滑化(smoothing)なしに、ピークの正確な追跡を可能にする。
【0072】
図2Aおよび
図2Bで先行して説明したように、参照チャンバなしで、単一のチャンバを有するフローセル(すなわち、測定セル)を使用することも可能である。従来の屈折計におけるフローセルの参照チャンバの目的の1つは、2つのチャンバを同じ純粋な溶媒で満たすことによって、光ビームを固定されたゼロ位置に強制することである。これは、検出可能な変位の範囲が制限されているために必要である。本発明に係る屈折計では、当該範囲が十分に大きく、その結果、光学手段によって、または二重チャンバセルを使用することによって、ビームを同じ「ゼロ」位置に持っていくことが不要である。さらに、単セルが所与の溶媒で満たされたときのモータの絶対位置は、セル温度およびビームを生成するために使用される光の波長での、その溶媒の絶対屈折率を計算することを可能にする。このようにして、検出器は絶対屈折率検出器とみなすことができる。
【0073】
勾配液体クロマトグラフィの実際の適用をカバーするのに十分な大きさである本発明に係る範囲は従来技術と比較してはるかに広いことを実証するために、文献に記載されているシステムが試験システムとして選択される。「高温勾配吸着液体クロマトグラフィによる短鎖分岐ポリオレフィンの分離」、Macko et.al Anal Bioanal Chem.2011 Feb;399(4):1547-56によれば、1-デカノール/1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)システムは、化学組成に応じてポリオレフィンの分離のための勾配液体クロマトグラフィモードで使用することができる。
図7Aおよび7Bにおいて、本発明の屈折計からのデータは、TCB、1-デカノール、および全範囲をカバーする様々な割合のそれらの混合物が0.5mL/分の一定流量で移動相として測定セル230を通って流動するときに提示される。TCBおよび1-デカノールの屈折率は、1.572および1.436を取り得る。そのため、屈折率の全変化は0.136RIUであり、これまでの偏向型検出器が測定できるものより数桁大きい。図において、シフトの単位(ミクロン、μmでのプラットフォームの変位)における検出器からの信号は、移動相の組成がTCBから1-デカノールに段階的に、すなわち20%または10%ずつ変化するとき、移動相の組成の全範囲を、飽和することなく、どのように正確に従うかが明らかである。
【0074】
図7AのデータとTCBおよび1-デカノールの屈折率の情報とから、同様の混合物の屈折率が成分の体積分率に比例すると仮定すると、
図8に示すように、移動相の屈折率とシフトとの関係を測定した一連のデータ点をプロットすることができる。グラフから、測定されたシフトと屈折率とはほぼ線形であることが分かる。
【0075】
システムはまた、1.501の屈折率(1-デカノールとTCBとの屈折率の中間値)を有する少量(5μL)のキシレンを、検出器セルを通って流動する移動相の連続的な流れの中に注入することによって試験した。TCBリッチ混合物(
図9A)または1-デカノールリッチ混合物(
図9B)が移動相として使用されるときに注入は行われた。移動相組成は、ベースライン屈折率、すなわち、移動相がセルを通って流れるときの、検出器出力の一定レベルを決定する。
図9Aおよび9Bに示すように、異なる屈折率を有する試験試料がセルに入るとき、検出器の出力が変化して屈折率変化を追跡し、検出器の出力にピークが発生する。試験試料の屈折率がベースライン屈折率より低いとき(TCBリッチ移動相の1.544と比較してキシレンについては1.501)、負のピークが生成される(
図9A)。一方、試験試料の屈折率がベースラインレベルより高いとき(TCBリッチ移動相の1.463と比較してキシレンについては1.501)、
図9Bのように、得られるピークは正である。したがって、バックグラウンド屈折率は、注入された試料の屈折率を上回っていた、または下回っていたことにより、ベースラインを超えて負または正である試料ピークが生じた。
【0076】
図7Aおよび7Bに示される様々な移動相組成を使用するアイソクラティック実験に加えて、移動相組成変化の連続勾配における操作を
図10に示す(直線勾配ジ-エチレン-グリコール-モノ-ブチルエーテル(DEGMBE)-TCB)。
【0077】
図11A、11Bおよび11Cは、0.25mL/分の一定流量で検出器セルを通って流動する連続線形勾配1-デカノール-TCBに沿って、試験試料(5マイクロリットルのキシレン)が複数回注入されるときの検出器の作用を示す。キシレンの屈折率が1-デカノールとTCBとの間の中間値を有することを考慮すると、分析結果の最初の部分でのピークは負であり(
図11Bの拡大図)、一方、勾配の最後の部分で観察されたピークは正である(
図11C)。
【0078】
仮に
図8のデータがほぼ完全な直線性を示すとしても、2つの溶媒の混合物の屈折率は、必ずしも各成分の体積分率と直線傾向に従わない。この挙動の非常に明確な例は、同じ屈折計で試験された他のシステムである。0.3mL/分の流量で60分間、最後に10分間の待ち時間を伴って、水に対するアセトニトリルの勾配を実施した。観察されたシフト(セルを横切った後の光ビーム像の偏向)のデータを
図12Aに示し、算出された屈折率を
図12Bに示す。このシステムでは、屈折率は水の割合に比例して直線的に変化するだけでなく、変動方向を反転させ、その結果、2つの成分のいずれよりも低い屈折率を有する中間組成が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】
図1は、従来技術に係る偏向型屈折計を示す図である。
【
図2A】
図2Aおよび
図2Bは、本発明に係る単一チャンバフローセルを有する偏向型屈折計の2つの実施形態を示す。
【
図2B】
図2Aおよび
図2Bは、本発明に係る単一チャンバフローセルを有する偏向型屈折計の2つの実施形態を示す。
【
図3】
図3は、屈折計の他の実施形態を示し、この場合、二重チャンバフローセルを有する。
【
図4A】
図4Aは、バッチモードでの二重チャンバセルの使用を示す。
【
図4B】
図4Bは、連続フローを有する単一チャンバフローセルの使用を示す。
【
図4C】
図4Cは、静的参照チャンバおよび試料チャンバを通る連続フローを有する二重チャンバフローセルの使用を示す。
【
図4D】
図4Dは、インジェクタおよびカラムの前後に直列に接続された両方のチャンバを通る連続フローを有する二重チャンバフローセルの使用を示す。
【
図5】
図5は、屈折率の異なる2つの媒質の界面における光ビームの入射角の変化を示す。
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bは、1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)、1-デカノールおよびそれらの混合物を移動相として用いた本発明の屈折計からのデータを示す。
【
図7B】
図7Aおよび
図7Bは、1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)、1-デカノールおよびそれらの混合物を移動相として用いた本発明の屈折計からのデータを示す。
【
図8】
図8は、
図7Aおよび
図7Bの実験のための移動相におけるシフトの測定値と屈折率の測定値との関係を示すグラフである。
【
図9A】
図9Aおよび
図9Bは、異なる割合の1-デカノールおよびTCBの混合物中の少量のキシレンの注入から、時間スケールに沿って連続的に記録された屈折率を示す。
【
図9B】
図9Aおよび
図9Bは、異なる割合の1-デカノールおよびTCBの混合物中の少量のキシレンの注入から、時間スケールに沿って連続的に記録された屈折率を示す。
【
図10】
図10は、勾配ジ-エチレン-グリコール-モノ-ブチルエーテル(DEGMBE)-TCBについてのシフト(光ビームの偏向)を示す。
【
図11A】
図11Aは、連続勾配1-デカノール-TCBに沿ったキシレンの反復注入のシフトを示す。
【
図12A】
図12Aおよび12Bは、それぞれ、水に対するアセトニトリルの連続的な線形勾配の間の記録されたシフトおよび計算された屈折率を示す。
【
図12B】
図12Aおよび12Bは、それぞれ、水に対するアセトニトリルの連続的な線形勾配の間の記録されたシフトおよび計算された屈折率を示す。