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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】固定構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/023 20120101AFI20221216BHJP
   F16D 51/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
F16H57/023
F16D51/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021025201
(22)【出願日】2021-02-19
(65)【公開番号】P2022127196
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】村山 一昭
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝彦
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実開平6-17364(JP,U)
【文献】実開昭53-104880(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/023
F16D 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のギヤの支軸が固定された支持板と、ギヤ収納部を有するケース部材との固定構造であって、
前記ケース部材には、前記支持板と接触する3箇所の接触部と、少なくとも1つ以上のカシメ用突起部とがそれぞれ設けられ、
前記支持板には、前記カシメ用突起部に対応する位置にカシメ用孔部が設けられていることを特徴とする固定構造。
【請求項2】
請求項1記載の固定構造において、
前記接触部は、前記カシメ用突起部の根本に設けられていることを特徴とする固定構造。
【請求項3】
請求項1記載の固定構造において、
前記接触部は、前記ギヤの支軸の軸受部に設けられていることを特徴とする固定構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の固定構造において、
前記ケース部材及び前記支持板は、車両に取り付けられる電動パーキングブレーキのモータギヤユニットを構成するものであり、
前記3箇所の接触部は、前記モータギヤユニットが車両に取り付けられた際、前記支持板に取り付けられている車両前後方向最端の前記ギヤの支軸の位置と同じ位置、及び、それよりも外側の位置に配置される2箇所と、前記支持板に取り付けられている車両前後方向最端の前記ギヤの支軸の間に配置される1箇所からなることを特徴とする固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のギヤの支軸が固定された支持板と、ケース部材との固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、内部に複数のギヤを収納したアクチュエータが開示されている。この特許文献1では、複数のギヤの支軸が支持板によって保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-127983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ギヤの性能を向上させるためには、各ギヤの軸間位置がずれないように、ケース部材に対して支持板に歪がないように固定することが必要である。その際、固定に必要な保持荷重を満足させる手法の一つとして、カシメ部を多く設定する手法が採用されている。
【0005】
しかしながら、複数点でカシメ(caulking)を行うことにより、支持板に浮きが発生して支持板が変形した状態でケース部材に固定されるため、ギヤ性能に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、支持板に歪みが発生することがなく、該支持板をケース部材に固定することが可能な固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、複数のギヤの支軸が固定された支持板と、ギヤ収納部を有するケース部材との固定構造であって、前記ケース部材には、前記支持板と接触する3箇所の接触部と、少なくとも1つ以上のカシメ用突起部とがそれぞれ設けられ、前記支持板には、前記カシメ用突起部に対応する位置にカシメ用孔部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、支持板に歪みが発生することがなく、該支持板をケース部材に固定することが可能な固定構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る固定構造が適用された電動パーキングブレーキの正面図である。
図2図1に示す電動パーキングブレーキの分解斜視図である。
図3図2に示すモータギヤユニットの分解斜視図である。
図4図2に示すモータギヤユニットの一部破断斜視図である。
図5図4に示すA部の拡大端面図である。
図6】モータギヤユニットを構成するケース部材の拡大斜視図である。
図7図6のVII-VII線に沿った拡大端面図である。
図8図7に示すケース部材に対してギヤ蓋部が装着された状態を示す一部仮想断面図である。
図9】モータギヤユニットの一部省略拡大斜視図である。
図10図9のX-X線に沿った拡大端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る固定構造が適用された電動パーキングブレーキの正面図、図2は、図1に示す電動パーキングブレーキの分解斜視図、図3は、図2に示すモータギヤユニットの分解斜視図である。
【0011】
図1及び図2に示されるように、電動パーキングブレーキ10は、ドラム式ブレーキからなり、バックプレート12と、バックプレート12の外側(車輪の外側)に配置されるブレーキシュー機構14と、バックプレート12の内側(車輪の内側)に配置されるモータギヤユニット16(図2及び後記する図8参照)とを備えて構成されている。
【0012】
図2に示されるように、バックプレート12は、正面視して円板状からなり、図示しない車両の車輪に固定される。ブレーキシュー機構14は、バックプレート12の外側(車輪の外側)に対向配置される左右一対のブレーキシュー18、18を含む。各ブレーキシュー18の外周部には、各ブレーキシュー18を囲繞して車輪と共に回転する図示しないブレーキドラムの内周面に摺接可能なライニング20がそれぞれ設けられている(図2参照)。
【0013】
各ブレーキシュー18の一端側には、左右のブレーキシュー18、18の一端側同士を繋ぐばね部材22が張設されている。このばね部材22のばね力によって相互に近接する方向に付設された左右のブレーキシュー18、18の一端側は、バックプレート12に固定されたアンカブロック24に支承されている。
【0014】
また、左右一対のブレーキシュー18、18の他端同士の間には、ホイルシリンダ26が配置されている。左右一対のブレーキシュー18、18の他端は、このホイルシリンダ26の両端から突出する図示しない作動ピストンに当接している。ホイルシリンダ26の下方には、左右一対のブレーキシュー18、18の他端側同士を繋ぐ戻しばね28が張設されている。
【0015】
図2に示されるように、バックプレート12には、中心部に設けられた円形状取付孔30と、この円形状取付孔30の外径側に位置する略矩形状取付孔32とがそれぞれ設けられている。モータギヤユニット16は、バックプレート12の略矩形状取付孔32を介してアンカブロック24に固定されている。
【0016】
このモータギヤユニット16は、ケース部材34と、蓋部材36とを有する。ケース部材34は、ケース本体35の一側面に設けられ、側面視して略L字状を呈するギヤ部開口38と、ケース本体35の上端に設けられたモータ部開口40とを有する。ギヤ部開口38には、互いに噛合する複数のギヤ42が収納されたギヤ収納部44に設けられている。モータ部開口40は、ケース部材34の上部に設けられた円形状の開口部からなり、モータ46が収納されるモータ部48に設けられている。蓋部材36は、ギヤ部開口38に装着されて、このギヤ部開口38を閉塞するギヤ蓋部50と、モータ部開口40に装着されて、このモータ部開口40を閉塞するモータ蓋部52とから構成されている。
【0017】
図3に示されるように、ケース部材34のギヤ部開口38とギヤ蓋部50との間には、このギヤ部開口38をシールする第1シール部材(例えば、ゴムパッキン)54が介装されている。この第1シール部材54は、ケース部材34のギヤ部開口38に沿って設けられた溝部56に沿って装着されている。
【0018】
ケース部材34のモータ部開口40とモータ蓋部52との間には、このモータ部開口40をシールする第2シール部材(例えば、Oリング)66が介装されている。この第2シール部材66は、ケース部材34のモータ部開口40に沿って設けられた溝部68に沿って装着されている。
【0019】
図4は、ケース部材のギヤ収納部と、ギヤ収納部に配置される支持板との配置関係を示す拡大分解斜視図、図5は、第1接触部の拡大正面図、図6は、第1接触部の軸受部の拡大斜視図、図7は、第2接触部及び第3接触部の拡大断面図、図8は、モータギヤユニットとバックプレートとの位置関係を示す説明図、図9は、ケース部材のギヤ収納部において、第1~第3接触部の配置関係を示す説明図、図10は、支持板と接触する凸部が設けられていないカシメ用突起部を熱カシメした状態を示す断面図である。
【0020】
図4に示されるように、ケース部材34のギヤ収納部44には、複数のギヤ42(図3参照)の後記する支軸を有する支持板100が固定されている。また、ギヤ収納部44には、支持板100の下面と接触する3箇所の接触部が設けられている。
【0021】
この3箇所の接触部は、モータギヤユニット16が車両に取り付けられた際、支持板100に取り付けられている車両前後方向最後端のギヤ42の支軸(後記する第1支軸120a)の位置と同じ位置に配置された第1接触部102a、及び、支持板100に取り付けられている車両前後方向最前端のギヤ42の支軸(後記する第5支軸120e)の位置よりも車両前後方向外側の位置に配置される第2接触部102bからなる2箇所と、支持板100に取り付けられている車両前後方向最端のギヤの支軸(第1支軸120a、第5支軸120e)の間に配置される第3接触部102cからなる1箇所とから構成されている。
【0022】
以下、第1~第3接触部102a~102cについて詳細に説明する。
図9に示されるように、第1接触部102aは、モータギヤユニット16が車両に取り付けられた際、支持板100に取り付けられている車両前後方向の最も車両後端のギヤ42の第1支軸120aの位置と同じ位置からなり、最も車両後端に位置するギヤ42の第1支軸120aの軸受部106に設けられている。
【0023】
図6に示されるように、この軸受部106には、第1支軸120aが嵌挿される有底の軸受孔108が設けられている。第1接触部102aは、この軸受孔108の周囲に設けられ、周方向に沿って約120度の角度で離間する3つの凸部110によって構成されている。各凸部110は、それぞれ同じ形状からなり、隣接する凸部110との間には、凹部112が設けられている(図5及び図6参照)。各凸部110は、平面視して、略正方形状を呈している。
【0024】
図9に示されるように、第2接触部102bは、モータギヤユニット16が車両に取り付けられた際、支持板100に取り付けられている車両前後方向の最も車両前端に位置するギヤ42の第5支軸120eの位置よりも車両前後方向外側の位置に配置されている。
【0025】
図9に示されるように、第3接触部102cは、モータギヤユニット16が車両に取り付けられた際、支持板100に取り付けられている車両前後方向の最も車両後端に位置するギヤ42の第1支軸120aと、車両前後方向の最も車両前端に位置するギヤ42の第5支軸120eとの間に配置されている。
【0026】
第2接触部102b及び第3接触部102cは、それぞれ同じ形状からなり(図4参照)、後記するカシメ用突起部118の根本部114(図7参照)に設けられ、ギヤ収納部44の平面部62から上方に向かって膨出する単一の凸部116によってそれぞれ構成されている。この凸部116は、平面視して、略矩形状を呈している。
【0027】
図4に示されるように、また、ギヤ収納部44には、平面部62から上方に向かって突出する4つのカシメ用突起部118が設けられている。各カシメ用突起部118は、それぞれ同じ形状からなり、上端に向かって縮径する縮径部118aが設けられている。また、各カシメ用突起部118の下端は、ギヤ収納部44の平面部62にそれぞれ固定されている。なお、第1接触部102aに近接する車両前後方向後端側の2つのカシメ用突起部118の近傍部位には、支持板100と接触する凸部110が設けられていない(図4及び図10参照)。
【0028】
図4に示されるように、この支持板100の上面には、上方に向かって突出する複数のギヤ42の支軸が複数固定されている。複数の支軸は、車両前後方向に沿って、車両後端側から車両前端側に向かって順に、第1支軸120a、第2支軸120b、第3支軸120c、第4支軸120d、及び、第5支軸120eからなる5本の支軸によって構成されている。第1支軸~第4支軸120a~120dは、それぞれ同じ形状からなり、第5支軸120eは、第1支軸~第4支軸120a~120dと比較して拡径して構成されている。
【0029】
また、支持板100の周縁部には、4つのカシメ用突起部114の位置に対応する位置に配置され、カシメ用突起部114の先端部が挿入される4つのカシメ用孔部122が設けられている。このカシメ用孔部122は、支持板100の上面と下面とを貫通する貫通孔で構成されている。
【0030】
本実施形態に係る固定構造が適用された電動パーキングブレーキ10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0031】
本実施形態において、ケース部材34には、支持板100と接触する3箇所の接触部(第1~第3接触部102a~102c)と、4つカシメ用突起部118とがそれぞれ設けられている。また、この支持板100には、カシメ用突起部118に対応する位置にカシメ用孔部122が設けられている。なお、本実施形態では、4つのカシメ用突起部118を設けているが、これに限定されるものではなく、少なくとも1つ以上あればよい。
【0032】
本実施形態では、ケース部材34のギヤ収納部44に対して支持板100を配置すると、3箇所の接触部(第1~第3接触部102a~102c)が3点で支持板100を支持するため、上下方向で支持板100が位置決めされる。その際、支持板100は、第1~第3接触部102a~102cからなる3点で支持されているだけであるため、支持板100に歪が発生しない。支持板100に歪がない状態でギヤ収納部44内に位置決めされた状態で、4つのカシメ用突起部118の先端部を熱カシメ(thermal caulking)することにより、支持板100を歪が無い状態でケース部材34に固定することができる。この結果、本実施形態では、支持板100に歪みが発生することがなく、該支持板100をケース部材34に固定することが可能な固定構造を得ることができる。
【0033】
なお、熱カシメとは、カシメ用突起部118の先端部を加熱と同時に加圧(プレス)することで、先端部を熱変形させることをいう。これにより、カシメ用突起部118の先端部が溶融して拡径することで、支持板100の軸方向の抜けを抑制するストッパ部124が設けられる(図5図10参照)。
【0034】
また、本実施形態において、第1接触部102aを除いた第2接触部102b及び第3接触部102cは、カシメ用突起部118の根本部114に設けられている。これにより、本実施形態では、支持板100を、カシメ用突起部118の根本部114に設けられた第2接触部102b及び第3接触部102cの単一の凸部116によって位置決めされた状態で熱カシメを遂行することができる。この結果、本実施形態では、支持板100が位置決めされた位置からずれることがなく熱カシメによって支持板100をケース部材34のギヤ収納部44に対して接合することができる。
【0035】
さらに、本実施形態において、第2接触部102b及び第3接触部102cを除いた第1接触部102aは、ギヤ42の第1支軸120aの軸受部106に設けられている。第1接触部102aは、軸受孔108の周囲に設けられ、周方向に沿って約120度の角度で離間する3つの凸部110によって構成されている。第1接触部102aでは、軸受孔108回りの3点で支持板100が支持されている。
【0036】
本実施形態では、ギヤ42の軸受部106に第1接触部102aを設けることで、支持板100が軸受部106の3つの凸部110と接触することとなり、安定して支持板100を支持することができると共に、ギヤ42の第1支軸120aでは、位置ずれが生じないためギヤ機能への影響を回避することができる。
【0037】
さらにまた、本実施形態において、支持板100と接触する3箇所の接触部は、モータギヤユニット16が車両に取り付けられた際、支持板100に取り付けられている車両前後方向最後端のギヤ42の支軸(後記する第1支軸120a)の位置と同じ位置に配置された第1接触部102a、及び、支持板100に取り付けられている車両前後方向最前端のギヤ42の支軸(後記する第5支軸120e)の位置よりも車幅方向外側の位置に配置される第2接触部102bからなる2箇所と、支持板100に取り付けられている車両前後方向最端のギヤの支軸(第1支軸120a、第5支軸120e)の間に配置される第3接触部102cからなる1箇所とから構成されている。
【0038】
電動パーキングブレーキ10のモータギヤユニット16は、図示しないサスペンション部品とバックプレート12(図2参照)との間に配置されるため扁平形状となり、車両前後方向に沿って比較的長い形状となる。本実施形態では、3箇所の接触部を、車両前後方向最端に配置されるギヤ42の第1支軸120aと同じ、及び、車両前後方向最端に配置されるギヤ42の第5支軸120eよりも車幅方向外側に配置設定と、車両前後方向最端のギヤの支軸(第1支軸120a、第5支軸120e)の間に配置することで、複数の全てのギヤ42に対して歪みがないように支持板100を配置することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 電動パーキングブレーキ
16 モータギヤユニット
34 ケース部材
42 ギヤ
44 ギヤ収納部
100 支持板
102a 第1接触部
102b 第2接触部
102c 第3接触部
106 軸受部
108 軸受孔
114 根本部
118 カシメ用突起部
120a~120e 支軸
122 カシメ用孔部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10