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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】車両のモデル予測制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/00 20060101AFI20221216BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20221216BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20221216BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B60W40/00
B60W30/10
B60W60/00
G08G1/16 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021073825
(22)【出願日】2021-04-26
(65)【公開番号】P2022168407
(43)【公開日】2022-11-08
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋場 敏彦
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206151(JP,A)
【文献】特開2020-008889(JP,A)
【文献】特開2019-077375(JP,A)
【文献】特開2019-043195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記車両の周辺情報に基づき、予め定められた長さの期間における目標走行経路を生成する目標走行経路生成部と、
前記目標走行経路に基づき、前記車両のモデル予測制御の制御量を定めるモデル予測制御部と、
を有する車両のモデル予測制御装置であって、
前記モデル予測制御部は、
前記車両の走行情報と前記車両の動特性モデルとに基づき、前記予め定められた長さの期間における基準走行経路を生成する基準走行経路生成部と、
前記目標走行経路と前記基準走行経路との経路差を演算する経路差演算部と、
前記モデル予測制御における予測期間を設定する予測期間設定部と、
前記モデル予測制御におけるモデル予測演算を行うモデル予測演算部と、
を備え、
前記経路差が予め定められた値以上である場合に、前記予測期間を、前記予め定められた長さの期間よりも短く設定するように構成されている、
ことを特徴とする車両のモデル予測制御装置。
【請求項2】
前記予測期間設定部は、前記経路差の値に応じて、前記予測期間を設定するように構成されている、
ことを特徴とする、請求項1に記載の車両のモデル予測制御装置。
【請求項3】
車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記車両の周辺情報に基づき、予め定められた長さの期間における目標走行経路を生成する目標走行経路生成部と、
前記目標走行経路に基づき、前記車両のモデル予測制御の制御量を定めるモデル予測制御部と、
を有する車両のモデル予測制御装置であって、
前記モデル予測制御部は、
前記車両の走行情報と前記車両の動特性モデルとに基づき、前記予め定められた長さの期間における基準走行経路を生成する基準走行経路生成部と、
前記目標走行経路と前記基準走行経路との経路差を演算する経路差演算部と、
前記経路差に基づいて前記目標走行経路を補正する目標走行経路補正部と、
を有し、
前記予め定められた長さの期間において、前記目標走行経路と前記基準走行経路との差が予め定められた値以上となる区間では、前記基準走行経路に基づいて生成した補正目標走行経路を目標走行経路として用いるように構成されている、
ことを特徴とする車両のモデル予測制御装置。
【請求項4】
前記モデル予測制御部は、前記目標走行経路の時間変化量を演算する時間変化量演算部を有し、
前記基準走行経路は、前記時間変化量演算部により演算した前記時間変化量が、予め定められた値以上となる時点を始点として設定されるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から3のうちの何れか一項に記載の車両のモデル予測制御装置。
【請求項5】
前記基準走行経路生成部は、
前記車両の走行速度の情報と、前記車両の操舵量に関する情報と、を用いて前記予め定められた長さの期間における基準走行経路を生成するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から4のうちの何れか一項に記載の車両のモデル予測制御装置。
【請求項6】
前記モデル予測制御部は、前記基準走行経路を補正する補正部を有し、
前記補正部は、前記車両の車両情報と前記車両の周辺情報とのうちの少なくとの一方に基づき、前記基準走行経路を補正するように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から5のうちの何れか一項に記載の車両のモデル予測制御装置。
【請求項7】
前記モデル予測制御部は、前記基準走行経路と、前記車両の周辺情報から得られる障害物に関する情報と、に基づいて、前記車両と前記障害物との衝突の可能性の有無を判定する衝突判定部を有し、
前記衝突判定部により前記衝突の可能性があると判定された場合は、モデル予測制御を実行することなく緊急時用の制御システムの実行に移行させるように構成されている、
ことを特徴とする請求項1から6のうちの何れか一項に記載の車両のモデル予測制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、車両のモデル予測制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
システムの応答を最適化する制御手法の一つとして、モデル予測制御がある。モデル予測制御は高い制御性能を得ることが可能であるが、演算量が多く、演算時間が長いことが知られている。そのため制御周期の短いシステムに対しては、モデル予測制御の演算時間が、制御周期中にモデル予測制御の演算に費やすことができる時間としての限界処理時間を超える場合に、最適な制御量を演算することができなくなり、制御安定性が大きく悪化する傾向がある。
【0003】
車両の運転制御にモデル予測制御を適用した場合、モデル予測制御の演算時間は、各演算タイミングで一定ではなく、車両の目標走行経路の変化が大きい場合には演算の収束性が悪化し、演算時間が急激に増加する傾向が見られる。例えば、限界処理時間が或る値をとる場合、システムの複雑化などに起因して、演算タイミングによっては演算時間が限界処理時間を超えることとなり、前述のように制御安定性が大きく低下する。
【0004】
このような課題を解決するための技術として、例えば特許文献1に記載されているように、周囲および自車の変化量と変化方向を検出する検出手段を設け、この検出手段による検出結果に基づいて、予測制御手段における解探索演算の初期値と予測期間を設定する手段を有する従来の技術が知られている。この従来の技術によれば、目標走行経路の時間変化の大きさに応じてモデル予測制御の予測期間が短く設定されるため、演算時間が増加するタイミングでの演算量が抑制されて、前述のような制御安定性が大きく低下することを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-8889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モデル予測制御では、一般的に、予測期間を短くすると制御安定性が低下する傾向がある。そこで、最適な制御量を得ることができないような場合を除き、予測期間は短く設定しない方が望ましい。
【0007】
しかしながら特許文献1に開示された従来の技術によれば、演算時間が限界処理時間に対して余裕があり、最適な制御量を得ることができるような場合でも、予測期間が短く設定されてしまう可能性がある。そこで、例えば、目標走行経路の時間変化の大きさに対して閾値を設定し、この閾値を超える場合にのみ、予測期間が短くなるように設定することが考えられるが、その閾値は、車両の走行速度などの車両状態によって様々に変化することが予想され、一意に決めることは困難である。
【0008】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、安定した制御を可能とするモデル予測制御を実現する車両のモデル予測制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に開示される車両のモデル予測制御装置は、
車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記車両の周辺情報に基づき、予め定められた長さの期間における目標走行経路を生成する目標走行経路生成部と、
前記目標走行経路に基づき、前記車両のモデル予測制御の制御量を定めるモデル予測制御部と、
を有する車両のモデル予測制御装置であって、
前記モデル予測制御部は、
前記車両の走行情報と前記車両の動特性モデルとに基づき、前記予め定められた長さの期間における基準走行経路を生成する基準走行経路生成部と、
前記目標走行経路と前記基準走行経路との経路差を演算する経路差演算部と、
前記モデル予測制御における予測期間を設定する予測期間設定部と、
前記モデル予測制御におけるモデル予測演算を行うモデル予測演算部と、
を備え、
前記経路差が予め定められた値以上である場合に、前記予測期間を、前記予め定められた長さの期間よりも短く設定するように構成されている、
ことを特徴とする。
【0010】
また、本願に開示される車両のモデル予測制御装置は、
車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部と、
前記車両の周辺情報に基づき、予め定められた長さの期間における目標走行経路を生成する目標走行経路生成部と、
前記目標走行経路に基づき、前記車両のモデル予測制御の制御量を定めるモデル予測制御部と、
を有する車両のモデル予測制御装置であって、
前記モデル予測制御部は、
前記車両の走行情報と前記車両の動特性モデルとに基づき、前記予め定められた長さの期間における基準走行経路を生成する基準走行経路生成部と、
前記目標走行経路と前記基準走行経路との経路差を演算する経路差演算部と、
前記経路差に基づいて前記目標走行経路を補正する目標走行経路補正部と、
を有し、
前記予め定められた長さの期間において、前記目標走行経路と前記基準走行経路との差が予め定められた値以上となる区間では、前記基準走行経路に基づいて生成した補正目標走行経路を目標走行経路として用いるように構成されている、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示される車両のモデル予測制御装置によれば、安定した制御を可能とするモデル予測制御を実現する車両のモデル予測制御装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1による車両のモデル予測制御装置を示す概略構成図である。
図2】実施の形態1による車両のモデル予測制御装置の動作を示すフローチャートである。
図3】実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、目標走行経路の生成例を示す説明図である。
図4】実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、予測時刻に関する説明図である。
図5】実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、基準走行経路の生成例を示す説明図である。
図6】実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、衝突判定の例を示す説明図である。
図7】実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、経路差総和値と予測期間との関係を示すマップの説明図である。
図8】実施の形態2による車両のモデル予測制御装置を示す概略構成図である。
図9】実施の形態2による車両のモデル予測制御装置の動作を示すフローチャートである。
図10】実施の形態2による車両のモデル予測制御装置における、目標走行経路の補正例を示す説明図である。
図11】車両の運転制御にモデル予測制御を適用した際の、演算タイミングと演算時間を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
車両の運転制御にモデル予測制御を適用した場合、演算時間は、演算タイミングによって変化する。例えば、図11に示すように、直線である目標走行経路L1と、曲率の比較的小さいカーブである目標走行経路L2と、曲率が比較的大きいカーブである目標走行経路L3と、が存在する目標走行経路Lのように、車両の目標走行経路の変化が大きい場合には、モデル予測制御の演算時間Tは一定ではなく、演算の収束性が悪化し、演算時間Tが急激に増加する傾向がある。
【0014】
ここで、例えば、システムの複雑化などにより、モデル予測制御の演算に費やすことができる限界処理時間TLを有する場合を考えると、曲率の比較的小さいカーブである目標走行経路L2の演算タイミングBでは、演算時間Tが限界処理時間TLを超えることはないが、曲率が比較的大きいカーブである目標走行経路L3の演算タイミングAでは、演算時間Tが限界処理時間TLを超えることとなり、制御の安定性が低下する。
【0015】
本願による車両のモデル予測制御装置は、例えば、前述の演算タイミングA、Bの何れであっても、安定した制御を得るようにしたものである。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置を示す概略構成図である。図1において、モデル予測制御装置20は、車両の周辺情報を取得する周辺情報取得部31と、車両の周辺情報に基づき予め定められた長さの期間における目標走行経路を生成する目標走行経路生成部32と、目標走行経路生成部32により生成された目標走行経路に基づいて車両の最適な制御量を定めるモデル予測制御部33と、により構成されており、モデル予測制御装置20で求められた制御量は、制御対象50へと送信される。
【0017】
モデル予測制御部33は、目標走行経路の時間変化量を演算する時間変化量演算部41と、車両の走行情報と車両の動特性モデルとに基づき、予め定められた期間における基準走行経路を生成する基準走行経路生成部42と、基準走行経路生成部42により生成された基準走行経路を補正する補正部43と、衝突判定部44と、目標走行経路と基準走行経路との経路差を演算する経路差演算部45と、モデル予測制御における予測期間を設定する予測期間設定部46と、予測期間設定部46により設定された予測期間におけるモデル予測演算を行うモデル予測演算部47と、を備えている。衝突判定部44は、補正部43により補正された基準走行経路と車両の周辺情報により得られる物標情報とに基づき、車両と障害物との衝突の可能性の有無を判定し、衝突の可能性があると判定したときは、外部の緊急時用の制御システム(図示せず)へ緊急停止信号を与え、モデル予測制御を行なうことなく、外部の緊急時用の制御システムの実行に移行させるように構成されている。
【0018】
モデル予測制御装置20は、車両に搭載された電子制御ユニット(図示せず)に実装されている。電子制御ユニットは、演算処理をするCPU(Central Processing Unit)(図示せず)と、プログラムデータ、固定値データなどを記録するメモリを有するマイクロコンピュータ(図示せず)と、各種信号の入出力を行うI/Oインターフェース(図示せず)とで構成されている。
【0019】
次に、以上のように構成された実施の形態1による車両のモデル予測制御装置の動作を説明する。図2は、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置の動作を示すフローチャートである。図2のフローチャートに示す処理は、車両における制御システムの各制御周期において、予め定められたタイミングで開始される。
【0020】
図2において、車両のモデル予測制御装置20が処理を実行する予め定められたタイミングとなり、モデル予測制御装置20が処理を開始すると、まず、ステップS101が実行され、周辺情報取得部31において、車両に取り付けられたセンサからの出力データが取り込まれ、取り込んだデータから、走行路、障害物の位置、などの車両の周辺情報が認識され、その周辺情報が目標走行経路生成部32へ出力される。
【0021】
ステップS102では、目標走行経路生成部32において、走行路、障害物の位置関係、などの情報に基づき、現時点から予め定められた長さの予測期間PTまで未来の目標走行経路が、予測期間ΔPTで生成され、その情報がモデル予測制御部33へ出力される。
【0022】
図3は、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、目標走行経路の生成例を示す説明図である。目標走行経路としては、例えば図3に示すように、予め定められた長さの予測期間PTにおいて、走行路80の中央部を通り、障害物81が存在する場合は、障害物81を空間的に回避するように通る目標走行経路82が、予測期間ΔPT毎に連続するように生成される。障害物81が移動している場合は、その移動量を考慮した目標走行経路82が生成される。
【0023】
図2に戻り、ステップS103では、時間変化量演算部41により、目標走行経路82が大きく変化し始める予測時刻が求められ、その予測時刻の情報が基準走行経路生成部42へ出力される。
【0024】
図4は、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、予測時刻に関する説明図であって、縦軸は目標走行経路変位量x、横軸は予測時刻ptを示す。図4に示すように、予測期間ΔPTの夫々に対応する予測時刻毎に逐次、目標走行経路変位量Δx1、Δx2、Δx3、Δx4と、予測期間ΔPTとから、目標走行経路変位率K1、K2、K3、K4を、[K1=Δx1/ΔPT]、[K2=Δx2/ΔPT]、[K3=Δx3/ΔPT]、[K4=Δx4/ΔPT]として求め、この目標走行経路変位率K1、K2、K3、K4の値が、予め定められた値よりも大きい値となったときの時刻を、予測時刻pt1、pt2、pt3、pt4、pt5として定める。
【0025】
図2に戻り、ステップS104では、基準走行経路生成部42により、車両の走行情報と車両の動特性モデルとに基づき、予め定められた長さの予測期間PTにおける基準走行経路が生成され、その基準走行経路の情報が補正部43へ出力される。
【0026】
図5は、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、基準走行経路の生成例を示す説明図であって、縦軸は目標走行経路変位量x、横軸は予測時刻ptを示す。図5に示すように、予測時刻pt1を始点として、夫々の予測時刻pt2、pt3、pt4、pt5に対して逐次、車両の動特性モデルに車両の走行速度と予め定められた操舵量を代入して基準走行経路83を生成する。
【0027】
車両の走行速度は、夫々の予測時刻pt1、pt2、pt3、pt4、pt5に対して、現在の車両の走行速度を一定値として与えても良いし、前回の制御周期でのモデル予測演算で求められた予め定められた期間の走行速度プロフィールを参照して、異なる値を与えても良い。また予め定められた操舵量には、例えば車両の最大操舵角が用いられる。一方、予測時刻pt0からpt1の区間の基準走行経路83では、目標走行経路変位量xは、[x=0]と定められる。
【0028】
図2に戻り、ステップS105では、補正部43により、車両情報、および周辺情報に基づき、基準走行経路83が補正される。基準走行経路83を、車両情報、および周辺情報に基づき補正することで、演算時間が大きく増加するタイミングをより適正に判断することができる。ここで、車両情報は、他の車両制御装置(図示せず)による操舵量の制限情報などを含み、周辺情報は、天候、路面状態などを含む。
【0029】
次に、ステップS106では、衝突判定部44により、基準走行経路83と障害物81との位置情報に基づき、車両と障害物81との衝突の有無が判定される。
【0030】
図6は、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、衝突判定の例を示す説明図であって、縦軸は目標走行経路変位量x、横軸は予測時刻ptを示す。図6に示すように、障害物81の全ての座標が、基準走行経路83の各座標を結ぶ線分から離れた位置にある場合は、車両は障害物81に衝突する可能性がないと判定される。例えば、図6に示す障害物81の座標81c1、81c2、81c3、81c4は、基準走行経路83の座標83c1と座標83c2とを結ぶ線分83d1から離れた位置にあり、車両は障害物81に衝突する可能性がないと判定される。
【0031】
一方、例えば、障害物81の座標81c1、81c2、81c3、81c4に囲まれた領域内に、基準走行経路83の座標83c1と座標83c2を結ぶ線分83d1が交差する場合は、車両は障害物81に衝突する可能性があると判定される。
【0032】
なお、障害物81が移動している場合は、その移動量を考慮した座標に基づいて判定される。
【0033】
車両が障害物81に衝突する可能性があると判定された場合は、図1に示すように、別途設定された緊急時用の制御システムの実行へ移行し、例えば急ブレーキの動作が行われる。これにより、緊急時には演算時間が長いモデル予測演算を省略することができるため、緊急時の初動動作を素早く行うことができる。一方、衝突する可能性がないと判定された場合は、次のステップS107へ進む。
【0034】
ステップS107では、経路差演算部45により、夫々の予測時刻における目標走行経路82の座標と基準走行経路83の座標との差である経路差ΔLiが、下記の式(1)により求められ、その情報が予測期間設定部46へ出力される。
ΔLi=MAX(目標走行経路座標-基準走行経路座標、0)・・・式(1)
【0035】
次に、ステップS108では、予測期間設定部46により、予測期間PTにおける経路差ΔLiの経路差総和値ΔLが求められ、この経路差総和値ΔLが予め定められた値(例えば「0」)以上であるか否かを判定し、経路差総和値ΔLが予め定められた値以上である場合は、経路差総和値ΔLに応じて予測期間PTを短く設定する。ここで、予測期間PTは、例えば、経路差総和値ΔLと予測期間PTとの関係に基づいて予め設定したマップに基づいて設定される。図7は、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置における、経路差総和値ΔLと予測期間PTとの関係を示すマップの説明図である。なお、図7のマップに示す関係を簡略化した関係式を用いて予測期間を設定しても良い。
【0036】
一方、ステップS108での判定の結果、経路差総和値ΔLが予め定められた値以上でない場合は、予測期間PTを短く設定することなく、次のステップS109へ進む。
【0037】
ステップS109では、モデル予測演算部47により、ステップS108で設定された予測期間PTに対する目標走行経路82に基づき、車両の最適な制御量が演算される。具体的には、まず何らかの制御量候補を用いて現在から予測期間PTまでの車両の走行経路が予測され、その予測結果と目標走行経路82との偏差を考慮した評価式に基づいて制御量の最適性を評価し、制御量が最適でないと判断された場合には、制御量候補を更新して、最適と判断されるまで前述の評価を繰り返すことで、最適な制御量が求められる。そして、この最適な制御量の情報が制御対象50へ出力される。
【0038】
上記述べたように、実施の形態1による車両のモデル予測制御装置によれば、車両の目標走行経路と基準走行経路との経路差に基づいて、演算時間が大きく増加する場合を判断し、演算時間が大きく増加する場合に、予測期間を短く設定し、演算時間が大きく増加しない場合は予測期間を短く設定しないため、従来の車両のモデル予測制御装置よりも車両の制御安定性を向上させることができる。
【0039】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2による車両のモデル予測制御装置を示す概略構成図である。実施の形態2による車両のモデル予測制御装置が、前述の図2に示す実施の形態1による車両のモデル予測制御装置と異なる点は、実施の形態1における予測期間設定部46に代えて目標走行経路補正部60を設けていることである。
【0040】
図9は、実施の形態2による車両のモデル予測制御装置の動作を示すフローチャートであって、前述の図3に示した実施の形態1による車輛のモデル予測制御装置におけるフローチャートと異なる点は、図3におけるステップS108に代えてステップS201が設けられていることである。以下、ステップS201を主体に説明する。
【0041】
図9において、ステップS107においては、前述したように、経路差演算部45により、夫々の予測時刻における目標走行経路82の座標と基準走行経路83の座標との差である経路差ΔLiを、前述の式(1)により求め、その情報が予測期間設定部46へ出力される。
【0042】
次に、ステップS201では、経路差ΔLiが予め定められた値(例えば「0」)以上となる区間では、基準走行経路83の座標を用いて生成した補正目標走行経路84を目標走行経路として使用する。
【0043】
即ち、図10は、実施の形態2による車両のモデル予測制御装置における、目標走行経路の補正例を示す説明図である。図10に示すように、予測時刻pt2と予測時刻pt3との間の区間、予測時刻pt3と予測時刻pt4との間の区間、及び予測時刻pt4と予測時刻pt5との間の区間では、目標走行経路82の座標と基準走行経路83の座標との差である経路差ΔLiが、予め定められた値(例えば「0」)以上となる区間となる。そこで、これらの区間では、基準走行経路83の座標83c0、83c1、83c2、83c4を用いて生成した補正目標走行経路84を目標走行経路として使用する。
【0044】
モデル予測演算の演算時間Tは、目標走行経路82が基準走行経路83から逸脱する場合に、演算時間Tが大きく増加する傾向が見られる。そこで、目標走行経路82が基準走行経路83から逸脱する区間では、目標走行経路82を補正目標走行経路84とするように補正することで、モデル予測演算の演算時間を抑制する。
【0045】
上記述べたように、実施の形態2による車両のモデル予測制御装置によれば、車両の目標走行経路と基準走行経路との経路差に基づいて、演算時間が大きく増加する場合を判断し、その場合は基準走行経路83の座標を用いて生成した補正目標走行経路84を目標走行経路として使用することで、演算時間が大きく増加することを抑制できるため、従来の車両のモデル予測制御装置よりも車両の制御安定性を向上させることができる。
【0046】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、これらの実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0047】
20 モデル予測制御装置、31 周辺情報取得部、32 目標走行経路生成部、33 モデル予測制御部、41 時間変化量演算部、42 基準走行経路生成部、43 補正部、44 衝突判定部 、45 経路差演算部、46 予測期間設定部、47 モデル予測演算部、50 制御対象、60 目標走行経路補正部、80 走行路、81 障害物、82 目標走行経路、83 基準走行経路、84 補正目標走行経路、T 演算時間、PT、ΔPT 予測期間、pt、pt0、pt1、pt2、pt3、pt4、pt5 予測時刻、x 目標走行経路変位量、Δx1、Δx2、Δx3、Δx4 目標走行経路変位量、K1、K2、K3、K4 目標走行経路変位率、ΔLi 経路差、ΔL 経路差総和値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11