(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20221216BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20221216BHJP
H03K 17/0812 20060101ALI20221216BHJP
H03K 17/687 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M1/00 H
H03K17/0812
H03K17/687 A
(21)【出願番号】P 2021122106
(22)【出願日】2021-07-27
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英希
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-084173(JP,A)
【文献】特開2020-150791(JP,A)
【文献】特開2004-222367(JP,A)
【文献】特開2001-197724(JP,A)
【文献】実開昭61-184332(JP,U)
【文献】特開2015-195700(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0204087(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-1/44
H03K 17/00-17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位側主電極端子、低電位側主電極端子、及び制御電極端子を備え、前記制御電極端子に印加された電圧に応じて前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間の導通をオンオフする半導体スイッチング素子と、
入力された駆動指令信号に応じて駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記制御電極端子に印加する駆動回路と、
前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に接続され、前記低電位側主電極端子に対する前記高電位側主電極端子の電位差である主電圧の時間変化率に応じた検出信号を出力し、前記主電圧が
時間の経過とともに低下している
ときに、前記検出信号が
、前記主電圧が時間の経過とともに変化していないときの前記検出信号よりも減少する時間変化検出回路と、
前記検出信号が第1の閾値を下回った場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号を生成し、前記検出信号が前記第1の閾値を下回らなかった場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の前記過電流発生信号を生成する過電流判定回路と、を備え、
前記駆動回路は、前記駆動指令信号がオン状態であっても、前記過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の前記駆動電圧を生成
し、
前記過電流判定回路は、前記検出信号が、前記第1の閾値よりも高い値の第2の閾値を下回った後、前記検出信号が、前記第1の閾値を下回らずに、前記第2の閾値を上回ったときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の前記過電流発生信号を生成し、
前記検出信号が、前記第2の閾値を下回っている状態で、前記検出信号が、前記第1の閾値を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の前記過電流発生信号を生成する電力変換装置。
【請求項2】
高電位側主電極端子、低電位側主電極端子、及び制御電極端子を備え、前記制御電極端子に印加された電圧に応じて前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間の導通をオンオフする半導体スイッチング素子と、
入力された駆動指令信号に応じて駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記制御電極端子に印加する駆動回路と、
前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に接続され、前記低電位側主電極端子に対する前記高電位側主電極端子の電位差である主電圧の時間変化率に応じた検出信号を出力し、前記主電圧が時間の経過とともに低下しているときに、前記検出信号が、前記主電圧が時間の経過とともに変化していないときの前記検出信号よりも減少する時間変化検出回路と、
前記検出信号が第1の閾値を下回った場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号を生成し、前記検出信号が前記第1の閾値を下回らなかった場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の前記過電流発生信号を生成する過電流判定回路と、を備え、
前記駆動回路は、前記駆動指令信号がオン状態であっても、前記過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の前記駆動電圧を生成し、
前記過電流判定回路は、前記駆動電圧がオン状態にされ始めた後、予め設定された判定期間が経過するまでに、前記検出信号が、前記第1の閾値を下回らなかったときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の前記過電流発生信号を生成し、
前記駆動電圧がオン状態にされ始めた後、前記判定期間が経過するまでに、前記検出信号が、前記第1の閾値を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の前記過電流発生信号を生成す
る電力変換装置。
【請求項3】
高電位側主電極端子、低電位側主電極端子、及び制御電極端子を備え、前記制御電極端子に印加された電圧に応じて前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間の導通をオンオフする半導体スイッチング素子と、
入力された駆動指令信号に応じて駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記制御電極端子に印加する駆動回路と、
前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に接続され、前記低電位側主電極端子に対する前記高電位側主電極端子の電位差である主電圧の時間変化率に応じた検出信号を出力し、前記主電圧が時間の経過とともに低下しているときに、前記検出信号が、前記主電圧が時間の経過とともに変化していないときの前記検出信号よりも減少する時間変化検出回路と、
前記検出信号が第1の閾値を下回った場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号を生成し、前記検出信号が前記第1の閾値を下回らなかった場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の前記過電流発生信号を生成する過電流判定回路と、を備え、
前記駆動回路は、前記駆動指令信号がオン状態であっても、前記過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の前記駆動電圧を生成し、
前記過電流判定回路は、前記駆動電圧がオン状態にされ始めた後、前記検出信号が前記第1の閾値を下回らずに、前記駆動電圧が判定電圧を超えたときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の前記過電流発生信号を生成し、
前記駆動電圧がオン状態にされ始めた後、前記駆動電圧が前記判定電圧を下回っている状態で、前記検出信号が前記第1の閾値を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の前記過電流発生信号を生成す
る電力変換装置。
【請求項4】
高電位側主電極端子、低電位側主電極端子、及び制御電極端子を備え、前記制御電極端子に印加された電圧に応じて前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間の導通をオンオフする半導体スイッチング素子と、
入力された駆動指令信号に応じて駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記制御電極端子に印加する駆動回路と、
前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に接続され、前記低電位側主電極端子に対する前記高電位側主電極端子の電位差である主電圧の時間変化率に応じた検出信号を出力し、前記主電圧が時間の経過とともに低下しているときに、前記検出信号が、前記主電圧が時間の経過とともに変化していないときの前記検出信号よりも減少する時間変化検出回路と、
前記検出信号が第1の閾値を下回った場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号を生成し、前記検出信号が前記第1の閾値を下回らなかった場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の前記過電流発生信号を生成する過電流判定回路と、
定電流源と、を備え、
前記駆動回路は、前記駆動指令信号がオン状態であっても、前記過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の前記駆動電圧を生成し、
前記時間変化検出回路は、前記主電圧を時間微分した前記検出信号を出力する微分回路を有し、
前記微分回路は、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に、直列に接続された静電容量素子と抵抗素子とにより構成され、
前記定電流源は、前記静電容量素子と前記抵抗素子との接続部分に接続され、前記駆動電圧がオン状態にされているときに、前記接続部分に一定の電流を供給す
る電力変換装置。
【請求項5】
高電位側主電極端子、低電位側主電極端子、及び制御電極端子を備え、前記制御電極端子に印加された電圧に応じて前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間の導通をオンオフする半導体スイッチング素子と、
入力された駆動指令信号に応じて駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記制御電極端子に印加する駆動回路と、
前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に接続され、前記低電位側主電極端子に対する前記高電位側主電極端子の電位差である主電圧の時間変化率に応じた検出信号を出力し、前記主電圧が時間の経過とともに低下しているときに、前記検出信号が、前記主電圧が時間の経過とともに変化していないときの前記検出信号よりも減少する時間変化検出回路と、
前記検出信号が第1の閾値を下回った場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号を生成し、前記検出信号が前記第1の閾値を下回らなかった場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の前記過電流発生信号を生成する過電流判定回路と、を備え、
前記駆動回路は、前記駆動指令信号がオン状態であっても、前記過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の前記駆動電圧を生成し、
前記時間変化検出回路は、前記主電圧を時間微分した前記検出信号を出力する微分回路を有し、
前記微分回路は、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に、直列に接続された静電容量素子と抵抗素子とにより構成され、
前記静電容量素子として、ダイオードの接合容量が用いられてい
る電力変換装置。
【請求項6】
前記時間変化検出回路は、前記主電圧を時間微分した前記検出信号を出力する微分回路を有している請求項1
から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記微分回路は、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に、直列に接続された静電容量素子と抵抗素子とにより構成されている請求項
6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記駆動回路は、前記過電流発生信号が過電流状態になった場合に前記駆動電圧をオン状態からオフ状態に変化させる変化速度を、前記過電流発生信号が正常電流状態である場合の変化速度よりも遅くする請求項1から
7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記半導体スイッチング素子は、ワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子である請求項1から
8のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、および、燃料電池車といった電動パワートレインを搭載した自動車(以下、電動化車両と称す)が普及している。これらの電動化車両には、従来のガソリンエンジン車の構成に加えて、車輪を駆動するためのモータと当該モータを駆動するための電力変換装置、および、高圧バッテリ又は補機バッテリを充填するための電力変換装置が搭載されている。
【0003】
一般に、インバータ、DC-DCコンバータ等の電力変換装置では、半導体スイッチング素子に流れる過電流を検出して半導体スイッチング素子のオン駆動を停止させる過電流保護回路が設けられている。この過電流保護回路は、半導体スイッチング素子を過電流から保護する役割を担う。例えば、半導体スイッチング素子として、高耐圧のIGBT、MOSFETが用いられる。
【0004】
過電流保護回路として、例えば、半導体スイッチング素子に一体に組み込まれた電流検出素子(センス端子)から出力される、半導体スイッチング素子の主電流に比例したセンス電流を用いて、過電流検出を行う電流センス方式がある。しかし、この方法では半導体スイッチング素子に電流検出素子を作り込まなければならず、その費用がかかり、電流検出素子を組み込むことで半導体スイッチング素子の有効面積が減少する。そのため、その分を加味して、半導体スイッチング素子のサイズを大きくする必要があり、半導体スイッチング素子のコストが高くなる。
【0005】
さらに、過電流保護回路として、半導体スイッチング素子の主電極端子間の主電圧が分圧等により入力され、過電流の検出を行うDESAT方式がある。この方法では、主電圧が閾値電圧以下になるか否かを判定するが、主電圧は0V付近では遷移時間が長くなり、誤検出しないように、スイッチング素子のターンオン後、過電流の検出を行わない期間であるブランキング時間が設けられている。そのため、電流検出素子を用いる方式と比べ、ターンオン後、過電流を検出するまでの時間が長くなる。過電流検出までの時間が長くなると、過電流により故障に至らないためのスイッチング素子の耐量も大きくなり、スイッチング素子のコストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、特許文献1では、主電圧を検出する方式において、過電流検出までの時間を短縮し、半導体スイッチング素子を低コスト化するために、ゲート抵抗値をオン遷移中に低減することにより、特許文献1の
図2に示されているように、主電極端子間の主電圧が定常状態になるまでの時間(過渡現象区間)が短縮されている。しかし、ブランキング時間(マスク時間)自体は設ける必要があり、抜本的な過電流検出までの時間の短縮とはならない。
【0008】
そこで、本願は、半導体スイッチング素子のターンオン後、過電流の検出を行わないブランキング時間を設けることなく、過電流の発生を早期に検出して、電力変換装置を保護することができる電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に係る電力変換装置は、
高電位側主電極端子、低電位側主電極端子、及び制御電極端子を備え、前記制御電極端子に印加された電圧に応じて前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間の導通をオンオフする半導体スイッチング素子と、
入力された駆動指令信号に応じて駆動電圧を生成し、前記駆動電圧を前記制御電極端子に印加する駆動回路と、
前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間に接続され、前記低電位側主電極端子に対する前記高電位側主電極端子の電位差である主電圧の時間変化率に応じた検出信号を出力し、前記主電圧が時間の経過とともに低下しているときに、前記検出信号が、前記主電圧が時間の経過とともに変化していないときの前記検出信号よりも減少する時間変化検出回路と、
前記検出信号が第1の閾値を下回った場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号を生成し、前記検出信号が前記第1の閾値を下回らなかった場合に、前記高電位側主電極端子と前記低電位側主電極端子との間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の前記過電流発生信号を生成する過電流判定回路と、を備え、
前記駆動回路は、前記駆動指令信号がオン状態であっても、前記過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の前記駆動電圧を生成し、
前記過電流判定回路は、前記検出信号が、前記第1の閾値よりも高い値の第2の閾値を下回った後、前記検出信号が、前記第1の閾値を下回らずに、前記第2の閾値を上回ったときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の前記過電流発生信号を生成し、
前記検出信号が、前記第2の閾値を下回っている状態で、前記検出信号が、前記第1の閾値を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の前記過電流発生信号を生成するものである。
【発明の効果】
【0010】
正常電流が流れる場合は、駆動電圧をオン状態にした後、主電圧の低下量が大きくなり、主電圧の時間変化率の低下量が大きくなる。一方、過電流が流れる場合は、駆動電圧をオン状態にした後、主電圧の低下量が比較的に小さくなり、主電圧の時間変化率の低下量が比較的に小さくなる。本願に係る電力変換装置によれば、主電圧の時間変化率に応じた検出信号が、第1の閾値を下回った場合に、正常電流が流れていると判定し、検出信号が第1の閾値を下回らなかった場合に、過電流が流れていると判定するので、過電流の発生の有無を精度よく判定することができる。
【0011】
そして、駆動回路は、駆動指令信号がオン状態であっても、過電流判定回路から出力された過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の駆動電圧を生成するので、過電流の発生が継続しないようにでき、電力変換装置を保護することができる。
【0012】
また、主電圧の時間変化率の情報を用いているので、駆動電圧がオン状態になった後、主電圧が低下しているときに、判定を行うことができる。よって、従来のように、ブランキング時間を設け、主電圧が0V付近に安定するまで判定を待つ必要がなく、駆動電圧がオン状態になった後、早期に判定を行うことができる。そのため、過電流の発生期間を短縮することができ、過電流により故障しないようにするための半導体スイッチング素子の耐量を低減することができ、半導体スイッチング素子の低コスト化、小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の概略構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る半導体スイッチング素子の主電圧と主電流との関係特性を示す図である。
【
図3】実施の形態1に係る正常電流時と過電流時のオンオフ挙動を説明するタイムチャートである。
【
図4】実施の形態1に係る正常電流時と過電流時の判定挙動を説明するタイムチャートである。
【
図5】実施の形態1に係る過電流判定回路の回路構成図である。
【
図6】実施の形態1に係る過電流時の判定挙動を説明するタイムチャートである。
【
図7】実施の形態1に係る正常電流時と過電流時の判定挙動を説明するタイムチャートである。
【
図8】実施の形態1に係る正常電流時と過電流時の転用例の判定挙動を説明するタイムチャートである。
【
図9】実施の形態1に係る正常電流時と過電流時の転用例の判定挙動を説明するタイムチャートである。
【
図10】実施の形態2に係る電力変換装置の概略構成図である。
【
図11】実施の形態2に係る正常電流時と過電流時の判定挙動を説明するタイムチャートである。
【
図12】転用例に係る電力変換装置の概略構成図である。
【
図13】転用例に係る時間変化検出回路の回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る電力変換装置について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態に係る電力変換装置の概略構成図である。
【0015】
電力変換装置は、半導体スイッチング素子1、駆動回路2、時間変化検出回路4、及び過電流判定回路7を備えている。
図1の例では、半導体スイッチング素子1及び各回路2、4、7が1組設けられているが、半導体スイッチング素子1及び各回路が複数組設けられてもよい。例えば、半導体スイッチング素子1及び各回路が複数組設けられた、インバータ、コンバータ等の各種の電力変換装置とされてもよい。各組の半導体スイッチング素子1及び各回路は、以下で説明する1組の半導体スイッチング素子1及び各回路と同様に構成される。
【0016】
<半導体スイッチング素子1>
半導体スイッチング素子1は、高電位側主電極端子1A、低電位側主電極端子1B、及び制御電極端子1Cを備え、制御電極端子1Cに印加された電圧に応じて高電位側主電極端子1Aと低電位側主電極端子1Bとの間の導通をオンオフする。高電位側主電極端子1Aには、直流電源の高電位側電圧等の高電位電圧が印加され、低電位側主電極端子1Bには、直流電源の低電位側電圧等の低電位電圧が印加される。低電位側主電極端子1Bは、駆動回路2の基準電位、及び過電流判定回路7の基準電位とも接続される。
【0017】
本実施の形態では、半導体スイッチング素子1として、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が用いられている。なお、半導体スイッチング素子1として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の各種の半導体スイッチング素子が用いられてもよい。高電位側主電極端子1Aが、ドレイン端子1Aであり、低電位側主電極端子1Bが、ソース端子1Bであり、制御電極端子1Cが、ゲート端子1Cである。
【0018】
<駆動回路2>
駆動回路2は、入力された駆動指令信号Vcに応じて駆動電圧Vgsを生成し、駆動電圧Vgsをゲート端子1Cに印加する。駆動指令信号Vcは、不図示の制御装置などから駆動回路2に入力される。駆動回路2は、ゲート駆動回路であり、例えば、絶縁型のものが用いられる。駆動回路2には、IC(Integrated Circuit)が用いられる。
【0019】
駆動回路2は、基本的に、駆動指令信号Vcがオン状態(High電圧)である場合に、オン状態(High電圧)の駆動電圧Vgsを生成し、駆動指令信号Vcがオフ状態(Low電圧)である場合に、オフ状態(Low電圧)の駆動電圧Vgsを生成する。
【0020】
本実施の形態では、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオン状態であっても、過電流判定回路7から出力された過電流発生信号Vexiが過電流状態である場合に、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成する。すなわち、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオン状態であり、過電流発生信号Vexiが正常電流状態である場合に、オン状態の駆動電圧Vgsを生成し、駆動指令信号Vcがオン状態であり、過電流発生信号Vexiが過電流状態である場合に、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成する。また、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオフ状態である場合は、過電流発生信号Vexiが正常電流状態又は過電流状態であるかにかかわらず、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成する。
【0021】
<半導体スイッチング素子のオンオフ挙動>
半導体スイッチング素子1のオンオフ挙動について、
図2及び
図3を用いて説明する。
図2は、半導体スイッチング素子1のオン時における、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間を流れる主電流Idと、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間の電位差である主電圧Vdsとの関係特性を示す。主電流Idが増加するに従って、主電極端子間の電圧降下が増加し、主電圧Vdsが増加する。主電流Idが低い領域は、線形領域であり、主電流Idの増加に、概ね比例して、主電圧Vdsが増加する。一方、主電流Idが高い領域は、飽和領域であり、主電流Idの増加量に対して、主電圧Vds(電圧降下量)の増加量が増加する。
【0022】
図2には、正常電流の動作点の例と、過電流の動作点の例を示している。例えば、電気負荷が、ドレイン端子1Aと直流電源の高電位側端子との間に接続されている場合は、何らかの要因でドレイン端子1Aと直流電源の高電位側端子とが短絡した状態で、半導体スイッチング素子1がオン状態になったときに、過電流が流れる。一方、電気負荷が、ソース端子1Bと直流電源の低電位側端子との間に接続されている場合は、何らかの要因でソース端子1Bと直流電源の低電位側端子とが短絡した状態で、半導体スイッチング素子1がオン状態になったときに、過電流が流れる。
【0023】
なお、半導体スイッチング素子1のオフ時には、主電流Idは0Aであり、主電圧Vdsは、ドレイン端子1Aに印加されている電圧と、ソース端子1Bに印加されている電圧との電位差になる。そして、駆動電圧Vgsのオンオフにより、オン状態とオフ状態との間を遷移する。
【0024】
図3の左側に、正常電流が流れる場合の半導体スイッチング素子1のオンオフ挙動を示している。時刻t01で、駆動指令信号Vcがオフ状態からオン状態になり、駆動回路2は、オン状態の駆動電圧Vgsの生成を開始する。その後、駆動電圧Vgsが次第に増加していき、時刻t02で、駆動電圧Vgsがオン電圧Vonに到達すると、主電極端子間の導通が開始し、主電流Idが増加し始め、主電圧Vdsが低下し始める。
【0025】
時刻t03で、ドレイン端子1Aとゲート端子1Cとの間のミラー容量の充電が開始する。ドレイン端子側のミラー容量の充電が開始すると、駆動電圧Vgsの上昇速度が低下する。ドレイン端子側のミラー容量が充電されている間に、主電圧Vdsが急速に低下していき、ドレイン端子側のミラー容量の充電が終了すると、主電圧Vdsの低下速度が遅くなる(時刻t04)。ドレイン端子側のミラー容量の充電が終了した後、駆動電圧Vgsは所定の電源電圧まで増加する。時刻t03において、ドレイン端子側のミラー容量の充電が開始するときの駆動電圧Vgsを、ミラー電圧Vmrと称す。
【0026】
このように、駆動電圧Vgsがミラー電圧Vmrに到達した後、主電圧Vdsが大きく低下し始める。正常電流の場合は、
図2に示すように、線形領域で動作し、主電圧Vdsは、0V付近まで低下するため、主電圧Vdsの低下量が大きいため、主電圧Vdsの低下速度が大きくなり、主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtの低下量が大きくなっている。このように、正常電流の場合は、半導体スイッチング素子1のオン時の主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtの低下量が大きくなる特徴がある。
【0027】
一方、時刻t05で、駆動指令信号Vcがオン状態からオフ状態になり、駆動回路2は、オフ状態の駆動電圧Vgsの生成を開始する。詳細な説明は省略するが、その後、駆動電圧Vgsが減少していき、時刻t06で、駆動電圧Vgsがオン電圧Vonを下回ると、主電極端子間が非導通になり、主電流Idがゼロまで低下する。
【0028】
次に、
図3の右側に、過電流が流れる場合の半導体スイッチング素子1のオンオフ挙動を示している。オンオフの原理は、正常電流の場合と同様であるが、主電流Idが過大になるので、波形が変形している。時刻t11で、駆動指令信号Vcがオフ状態からオン状態になり、駆動回路2は、オン状態の駆動電圧Vgsの生成を開始する。その後、駆動電圧Vgsが次第に増加していき、時刻t12で、駆動電圧Vgsがオン電圧Vonに到達すると、主電極端子間の導通が開始し、主電流Idが増加し始め、主電圧Vdsが低下し始める。
【0029】
時刻t13で、ドレイン端子側のミラー容量の充電が開始する。ドレイン端子側のミラー容量の充電が終了した後、駆動電圧Vgsは所定の電源電圧まで増加する(時刻t14以降)。
【0030】
過電流の場合も、駆動電圧Vgsがミラー電圧Vmrに到達した後、主電圧Vdsが大きく低下し始める。過電流の場合は、
図2に示すように、飽和領域で動作し、主電圧Vdsは0V付近まで低下せず、主電圧Vdsの低下量が小さいため、主電圧Vdsの低下速度が比較的に小さくなり、主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtの低下量が比較的に小さくなっている。このように、過電流の場合は、半導体スイッチング素子1のオン時の主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtの低下量が比較的に小さくなる特徴がある。
【0031】
一方、時刻t15で、駆動指令信号Vcがオン状態からオフ状態になり、駆動回路2は、オフ状態の駆動電圧Vgsの生成を開始する。その後、駆動電圧Vgsが減少していき、時刻t16で、駆動電圧Vgsがオン電圧Vonを下回ると、主電極端子間が非導通になり、主電流Idがゼロまで低下する。
【0032】
<時間変化検出回路4>
以上で説明したように、正常電流の場合は、半導体スイッチング素子1のオン時の主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtの低下量が大きくなり、過電流の場合は、半導体スイッチング素子1のオン時の主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtの低下量が小さくなる特徴がある。よって、主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtの挙動をモニタすることにより、正常電流又は過電流が発生していることを検出できる。
【0033】
そこで、電力変換装置は、時間変化検出回路4を備えている。時間変化検出回路4は、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間に接続され、ソース端子1Bに対するドレイン端子1Aの電位差である主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtに応じた検出信号Vdetを出力する。
【0034】
時間変化検出回路4は、主電圧Vdsを時間微分した検出信号Vdetを出力する微分回路を有している。微分回路は、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間に、直列に接続された静電容量素子5と抵抗素子6とにより構成されている。本実施の形態では、静電容量素子5としてコンデンサが用いられる。静電容量素子5の一端が、ドレイン端子1Aに接続され、静電容量素子5の他端が、抵抗素子6の一端に接続され、抵抗素子6の他端が、ソース端子1Bに接続されている。静電容量素子5と抵抗素子6との接続点が、過電流判定回路7に接続されており、接続点の電位が、検出信号Vdetとして過電流判定回路7に出力される。
【0035】
ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間の主電圧Vdsの変化に応じて、静電容量素子5及び抵抗素子6に電流Idet(検出電流Idetと称す)が流れる。
図1の検出電流Idetの向きは、主電圧Vdsが増加するときの電流の向きを示す。検出電流Idetは、主電圧Vdsの時間変化率dVds/dt、及び静電容量素子5の静電容量Cにより、次式のようになる。
Idet=C×dVds/dt ・・・(1)
【0036】
そして、静電容量素子5と抵抗素子6との接続点の電位とされた検出信号Vdetは、抵抗素子6の抵抗R、及び検出電流Idetにより、次式のようになる。
Vdet=R×Idet ・・・(2)
【0037】
なお、時間変化検出回路4として、他の種類の回路が用いられてもよい。例えば、
図13に示すように、微分回路は、静電容量素子5、抵抗素子6、及びオペアンプ10から構成されてもよく、或いは、微分機能を有するIC、デジタル回路等から構成されてもよい。
【0038】
<過電流判定回路7>
過電流判定回路7は、検出信号Vdetが第1の閾値Vth1を下回った場合に、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号Vexiを生成し、検出信号Vdetが第1の閾値Vth1を下回らなかった場合に、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の過電流発生信号Vexiを生成する。過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされているときに判定を行う。
【0039】
図3を用いて説明したように、正常電流が流れる場合は、駆動電圧Vgsをオン状態にした後、主電圧Vdsの低下量が大きくなり、主電圧の時間変化率dVds/dtの低下量が大きくなる。一方、過電流が流れる場合は、駆動電圧Vgsをオン状態にした後、主電圧Vdsの低下量が比較的に小さくなり、主電圧の時間変化率dVds/dtの低下量が比較的に小さくなる。上記の構成によれば、主電圧の時間変化率dVds/dtに応じた検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回った場合に、正常電流が流れていると判定し、検出信号Vdetが第1の閾値Vth1を下回らなかった場合に、過電流が流れていると判定するので、過電流の発生の有無を精度よく判定することができる。
【0040】
そして、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオン状態であっても、過電流判定回路7から出力された過電流発生信号Vexiが過電流状態である場合に、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成するので、過電流の発生が継続しないようにでき、電力変換装置を保護することができる。
【0041】
また、主電圧の時間変化率dVds/dtの情報を用いているので、駆動電圧Vgsがオン状態になった後、主電圧Vdsが低下しているときに、判定を行うことができる。よって、従来のように、ブランキング時間を設け、主電圧Vdsが0V付近に安定するまで判定を待つ必要がなく、駆動電圧Vgsがオン状態になった後、早期に判定を行うことができる。そのため、過電流の発生期間を短縮することができ、過電流により故障しないようにするための半導体スイッチング素子の耐量を低減することができ、半導体スイッチング素子の低コスト化、小型化を図ることができる。
【0042】
本実施の形態では、過電流の発生を表す過電流状態の過電流発生信号Vexiは、Low電圧(例えば、0V)であり、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号Vexiは、High電圧(例えば、5V)である。なお、過電流状態の過電流発生信号Vexiが、High電圧であってもよく、正常電流状態の過電流発生信号Vexiが、Low電圧であってもよい。また、過電流発生信号Vexiは、過電流の発生を表す過電流状態及び正常電流の発生を表す正常電流状態を表す任意の信号とされてもよく、例えば、デジタル信号とされもよい。
【0043】
本実施の形態では、過電流判定回路7は、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1よりも高い値の第2の閾値Vth2を下回った後、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回らずに、第2の閾値Vth2を上回ったときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の過電流発生信号Vexiを生成する。一方、過電流判定回路7は、検出信号Vdetが、第2の閾値Vth2を下回っている状態で、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の過電流発生信号Vexiを生成する。本実施の形態では、次式に示すように、第2の閾値Vth2は、0よりも小さく、第1の閾値Vth1は、第2の閾値Vth2よりも小さい。第1の閾値Vth1、及び第2の閾値Vth2は、過電流又は正常電流が適切に判定できるように、予め設定されている。
Vth1<Vth2<0 ・・・(3)
【0044】
この構成によれば、
図4の左側に、
図3の左側に対応する正常電流時の判定挙動を示し、
図4の右側に、
図3の右側に対応する過電流時の判定挙動を示すように、正常電流時及び過電流時の双方において、駆動電圧Vgsがオン状態になり、主電極端子間の導通が開始し、主電圧Vdsが低下すると、主電圧Vdsの時間変化率に応じた検出信号Vdetが、負方向に変化し、第2の閾値Vth2を下回る。その後、主電圧Vdsの低下量が安定すると、検出信号Vdetの負方向への変化量が減少し、検出信号Vdetが第2の閾値Vth2を上回る。すなわち、検出信号Vdetが、第2の閾値Vth2を下回っている場合は、駆動電圧Vgsがオン状態になった直後に主電圧Vdsが低下している状態である。
【0045】
図4の右側に示すように、過電流が流れると、主電極端子間の電圧降下が大きくなり、主電圧Vdsの低下量が比較的に小さくなり、検出信号Vdetの負方向への変化量が比較的に小さくなる。一方、正常電流が流れると、主電極端子間の電圧降下が小さくなり、主電圧Vdsの低下量が比較的に大きくなり、検出信号Vdetの負方向への変化量が比較的に大きくなる。よって、検出信号Vdetが、第2の閾値Vth2を下回った後(時刻t31)、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回らずに、第2の閾値Vth2を上回ったとき(時刻t32)に、過電流が流れていると精度よく判定することができる。
【0046】
一方、
図4の左側に示すように、検出信号Vdetが、第2の閾値Vth2を下回っている状態で、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回ったとき(時刻t22)に、正常な電流が流れていると精度よく判定することができる。
【0047】
また、正常電流及び異常電流の判定は、駆動電圧Vgsがオン状態になった直後に主電圧Vdsが変動している状態で行われるので、駆動電圧Vgsがオン状態になった直後に、早期に、過電流の発生を判定し、過電流状態の過電流発生信号Vexiを駆動回路に出力し、駆動電圧Vgsをオフ状態にさせ、過電流の発生が継続することを抑制できる。よって、過電流の発生時に早期に電力変換装置を保護することができる。
【0048】
図4は、判定挙動を説明するための図であり、過電流発生信号Vexiが過電流状態になった後、直ちに、駆動電圧Vgsをオン状態からオフ状態に変化させていない。しかし、後述するように、実際には、駆動回路2は、過電流発生信号Vexiが過電流状態になった後、直ちに、駆動電圧Vgsをオン状態からオフ状態に変化させる。
【0049】
次の半導体スイッチングのオンオフ制御に備えるため、過電流判定回路7は、駆動指令信号Vcがオン状態からオフ状態になったとき、又は駆動指令信号Vcがオフ状態からオン状態になったときに、過電流発生信号Vexiを正常電流状態にリセットしてもよい。負荷の短絡異常が生じている場合は、駆動指令信号Vcがオン状態になるたびに、過電流が生じるが、短時間に抑制できるため、電力変換装置を保護することができる。その間に、駆動指令信号Vcを生成する制御装置が、公知の方法により、負荷の短絡異常を判定し、半導体スイッチングのオンオフ制御を停止し、駆動指令信号Vcをオン状態に変化させないようにすればよい。
【0050】
<回路構成>
図5に、過電流判定回路7の回路構成の例を示す。過電流判定回路7は、第1比較器8、第2比較器9、及び論理回路12を備えている。第1比較器8及び第2比較器9には、コンパレータが用いられている。第1比較器8の非反転入力端子(+)には、第1の閾値Vth1に対応する第1電位Vth1が入力され、第1比較器8の反転入力端子(-)には、検出信号Vdetが入力される。第1電位Vth1は、分圧抵抗等により生成される。第1比較器8の出力信号Vout1は、検出信号Vdetが第1電位Vth1を下回るとオン状態(High電圧)になり、第1比較器8の出力信号Vout1は、検出信号Vdetが第1電位Vth1を上回るとオフ状態(Low電圧)になる。第1比較器8の出力信号Vout1は、論理回路12に入力される。
【0051】
第2比較器9の非反転入力端子(+)には、検出信号Vdetが入力され、第2比較器9の反転入力端子(-)には、第2の閾値Vth2に対応する第2電位Vth2が入力される。第2電位Vth2は、分圧抵抗等により生成される。第2比較器9の出力信号Vout2は、検出信号Vdetが第2電位Vth2を下回るとオフ状態(Low電圧)になり、第2比較器9の出力信号Vout2は、検出信号Vdetが第2電位Vth2を上回るとオン状態(High電圧)になる。第2比較器9の出力信号Vout2は、論理回路12に入力される。
【0052】
論理回路12は、第2比較器9の出力信号Vout2がオフ状態(Low電圧)である場合に、第1比較器8の出力信号Vout1がオフ状態(Low電圧)からオン状態(High電圧)に変化したときに、論理回路12の出力信号である過電流発生信号Vexiを、正常電流の発生を表す正常電流状態(High電圧)に設定する。一方、論理回路12は、第2比較器9の出力信号Vout2がオフ状態(Low電圧)になった後、第1比較器8の出力信号Vout1がオフ状態(Low電圧)であるまま、第2比較器9の出力信号Vout2がオン状態(High電圧)になったときに、論理回路12の出力信号Vexiを、過電流の発生を表す過電流状態(Low電圧)に設定する。
【0053】
なお、過電流判定回路7として、他の種類の回路が用いられてもよい。例えば、IC、デジタル回路等から構成されてもよい。
【0054】
<過電流判定時の駆動回路2>
上述したように、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオン状態であっても、過電流判定回路7から出力された過電流発生信号Vexiが過電流状態(Low電圧)である場合に、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成する。一方、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオン状態であり、過電流発生信号Vexiが正常電流状態(High電圧)である場合に、オン状態の駆動電圧Vgsを生成する。また、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオフ状態である場合は、過電流発生信号Vexiが正常電流状態又は過電流状態であるかにかかわらず、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成する。
【0055】
本実施の形態では、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオン状態であり、過電流発生信号Vexiが正常電流状態であるときは、オン状態の駆動電圧Vgsを生成し、駆動指令信号Vcがオン状態であり、過電流発生信号Vexiが過電流状態であるときは、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成する。
図6に過電流時の挙動を示すように、時刻t41で、駆動回路2は、駆動指令信号Vcがオン状態になったとき、過電流発生信号Vexiが正常電流状態であるので、オン状態の駆動電圧Vgsの生成を開始する。その直後、時刻t42で、過電流判定回路7が、過電流が発生したと判定し、過電流発生信号Vexiを、正常電流状態から過電流状態に変化させている。そして、時刻t42で、駆動回路2は、過電流発生信号Vexiが過電流状態になったので、駆動電圧Vgsをオン状態からオフ状態に変化させている。このように、駆動電圧Vgsがオン状態になった直後に、早期に、過電流の発生が判定され、過電流が判定された時点で、駆動電圧Vgsをオン状態からオフ状態に変化させているので、過電流の発生が継続することを抑制できる。よって、過電流の発生時に早期に電力変換装置を保護することができる。
【0056】
なお、駆動回路2は、次回以降の半導体スイッチング素子1のオンオフ制御時に、過電流の判定結果を反映させてもよい。
【0057】
図7に示すように、駆動回路2は、過電流発生信号Vexiが過電流状態になった場合に駆動電圧Vgsをオン状態からオフ状態に変化させる変化速度を、過電流発生信号Vexiが正常電流状態である場合の変化速度よりも遅くしてもよい。例えば、駆動回路2は、駆動電圧Vgsのオン状態とオフ状態を切り替えるスイッチング素子を有しており。スイッチング素子のPWM制御のデューティを100%から0%(又は、0%から100%)に変化させる変化速度を、過電流発生信号Vexiが正常電流状態である場合よりも、過電流発生信号Vexiが過電流状態である場合を遅くする。例えば、過電流発生信号が正常電流状態である場合は、スイッチング素子のデューティを100%から0%にステップ的に変化させ、過電流発生信号が過電流状態である場合は、スイッチング素子のデューティを100%から0%に次第に変化させればよい。
【0058】
過電流発生時に駆動電圧Vgsをオン状態からオフ状態に変化させる変化速度を遅くすることにより、過電流をオフする際に発生する主電圧Vdsのサージ電圧を抑制することができ、電力変換装置を保護することができる。
【0059】
<過電流判定回路7の第1の転用例>
図8の右側に示すように、過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めた後、予め設定された判定期間ΔTdtが経過するまでに、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回らなかったときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の過電流発生信号Vexiを生成してもよい。また、
図8の左側に示すように、過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めた後、判定期間ΔTdtが経過するまでに、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の過電流発生信号Vexiを生成してもよい。
【0060】
上述したように、駆動電圧Vgsがオン状態になった直後に低下する主電圧Vdsの時間変化率dVds/dtにより、過電流の発生を判定できる。よって、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めた後、判定期間ΔTdtが経過するまでに、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回らなかったときに、過電流が流れていると精度よく判定することができる。また、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めた後、判定期間ΔTdtが経過するまでに、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回ったときに、正常な電流が流れていると精度よく判定することができる。よって、判定期間ΔTdtが経過したときに、早期に、過電流の発生の有無を判定することができる。
【0061】
主電圧Vdsが低下している期間は、過電流時及び正常電流時のそれぞれにおいて予めわかるので、判定期間ΔTdtは、過電流時の主電圧Vdsの低下期間、及び正常電流時の主電圧Vdsの低下期間に合わせて予め設定されればよい。判定期間ΔTdtは、過電流時の低下期間及び正常電流時の低下期間の双方よりも長すぎない、早期判定が行える適度な長さに設定されればよい。
【0062】
<過電流判定回路7の第2の転用例>
或いは、
図9の右側に示すように、過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めた後、検出信号Vdetが第1の閾値Vth1を下回らずに、駆動電圧Vgsが判定電圧Vgsdtを超えたときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の過電流発生信号Vexiを生成してもよい。一方、
図9の左側に示すように、過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めた後、駆動電圧Vgsが判定電圧Vgsdtを下回っている状態で、検出信号Vdetが第1の閾値Vth1を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の過電流発生信号Vexiを生成してもよい。
【0063】
図3を用いて説明したように、ドレイン端子側のミラー容量が充電されている間に、主電圧Vdsが急速に低下していき、ドレイン端子側のミラー容量の充電が終了すると、主電圧Vdsの低下速度が遅くなり、駆動電圧Vgsは所定の電源電圧まで増加する。よって、駆動電圧Vgsが、ドレイン端子側のミラー容量の充電が開始するときの駆動電圧Vgsであるミラー電圧Vmrよりもある程度高くなると、ドレイン端子側のミラー容量の充電が終了し、過電流の発生を判定するための主電圧Vdsの低下が終了したと判定できる。よって、主電圧Vdsの急速な低下が終了する駆動電圧Vgsに対応するように、判定電圧Vgsdtを、ミラー電圧Vmrよりも高く、電源電圧よりも低い電圧に、予め設定されるとよい。
【0064】
この構成によれば、駆動電圧Vgsの挙動により、主電圧Vdsが低下している期間を判定し、判定した期間において、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回らなかったときに、過電流が流れていると精度よく判定することができる。また、判定した期間において、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回ったときに、正常な電流が流れていると精度よく判定することができる。よって、主電圧Vdsが低下している期間が終了したときに、早期に、過電流の発生の有無を判定することができる。
【0065】
2.実施の形態2
実施の形態2に係る電力変換装置について図面を参照して説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る電力変換装置の基本的な構成は実施の形態1と同様であるが、定電流源13が備えられている点が実施の形態1と異なる。
図10に、本実施の形態に係る電力変換装置の概略構成図を示す。
【0066】
定電流源13が、静電容量素子5と抵抗素子6との接続部分に接続され、駆動電圧Vgsがオン状態にされているときに、接続部分に一定の定電流Ioを供給する。
図11の左側に、正常電流時の挙動を示し、
図11の右側に、過電流時の挙動を示す。時刻t51、又は図t61で、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めると、定電流源13は、定電流Ioを発生し始める。定電流Ioが抵抗素子6に流れると、検出信号Vdetは、次式に示すように、静電容量素子5から流れる主電圧の時間変化率dVds/dtに応じた検出電流Idetと、定電流Ioとの合計電流に、抵抗素子6の抵抗Rを乗算した値になる。ここで、検出電流Idetは、主電圧Vdsが低下している間は、負値になり、定電流Ioは、正値になる。
Vdet=R×(Idet+Io) ・・・(4)
【0067】
定電流Ioの大きさは、正常電流時の判定期間の検出信号Vdetの最小値が、0よりも小さくなり、過電流時の判定期間の検出信号Vdetの最小値が、0よりも大きくなるように、予め設定されている。
【0068】
そして、実施の形態1と同様に、過電流判定回路7は、検出信号Vdetが第1の閾値Vth1を下回った場合に、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間を正常な電流が流れていると判定して、正常電流の発生を表す正常電流状態の過電流発生信号Vexiを生成し、検出信号Vdetが第1の閾値Vth1を下回らなかった場合に、ドレイン端子1Aとソース端子1Bとの間を過電流が流れていると判定して、過電流の発生を表す過電流状態の過電流発生信号Vexiを生成する。過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされているときに判定を行う。
【0069】
また、実施の形態1と同様に、過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始め、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1よりも高い値の第2の閾値Vth2を下回った後、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回らずに、第2の閾値Vth2を上回ったときに、過電流が流れていると判定して、過電流状態の過電流発生信号Vexiを生成する。一方、過電流判定回路7は、駆動電圧Vgsがオン状態にされ始めた後、検出信号Vdetが、第2の閾値Vth2を下回っている状態で、検出信号Vdetが、第1の閾値Vth1を下回ったときに、正常な電流が流れていると判定して、正常電流状態の過電流発生信号Vexiを生成する。本実施の形態では、次式に示すように、第2の閾値Vth2は、0よりも大きく、第1の閾値Vth1は、0よりも小さい。第1の閾値Vth1、及び第2の閾値Vth2は、過電流又は正常電流が適切に判定できるように、定電流Ioの設定と合わせて、予め設定されている。
Vth1<0<Vth2 ・・・(5)
【0070】
実施の形態1では、過電流時において、主電圧Vdsの緩やかな減少が継続する場合に、検出信号Vdetが第2の閾値Vth2を上回るまでの期間が比較的長くなる。一方、本実施の形態では、定電流Ioの流入により、過電流時において、主電圧Vdsの緩やかな減少が継続する場合でも、検出信号Vdetを増加させることができ、検出信号Vdetが第2の閾値Vth2を上回るまでの期間を短縮することができる。また、実施の形態1では、過電流時において、主電圧Vdsの緩やかな減少が継続する場合に、検出信号Vdetの低下量が小さくなり、第2の閾値Vth2との比較が難しくなる。本実施の形態では、定電流Ioの流入による検出信号Vdetの変化を加えることができ、第2の閾値Vth2との比較が容易になる。よって、過電流の発生時に、主電圧Vdsの緩やかな減少が継続する場合でも、早期に、確実に、過電流の発生を判定することができる。
【0071】
本実施の形態でも、過電流判定回路7は、実施の形態1の第1の転用例及び第2の転用例と同様に構成されてもよい。
【0072】
<ダイオードの接合容量>
各実施の形態において、静電容量素子5として、ダイオードの接合容量が用いられてもよい。ダイオードの接合容量は、P型半導体とN型半導体との接合境界の空乏層による静電容量である。
図12に示すように、静電容量素子5としてのダイオード5のカソードが、ドレイン端子1Aに接続され、ダイオード5のアノードが、抵抗素子6の一端に接続される。例えば、1kVクラスの耐圧の表面実装タイプの積層セラミックコンデンサは入手困難であるが、ダイオードは、1kVクラスの耐圧の表面実装タイプは入手可能である。高電圧の電力変換装置にも適用可能である。
【0073】
<ワイドバンドギャップ半導体>
各実施の形態において、半導体スイッチング素子1として、ワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子が用いられてもよい。ワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子は、高耐圧で、放熱性も良く、高速スイッチングが可能である。具体的には、SiC(シリコンカーバイド、炭化珪素)系材料、GaN(窒化ガリウム)系材料、ダイヤモンド系材料が使用されたMOSFET等の半導体スイッチング素子である。SiC-MOSFETは、従来のSi(シリコン)半導体からなるスイッチング素子と比べ、高速スイッチングが可能であるが、過電流に対する耐量が低いため、過電流の発生を早期に判定できることが望まれる。よって、ワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子が用いられる場合は、本願の電力変換装置が好適である。
【0074】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0075】
1 半導体スイッチング素子、1A 高電位側主電極端子(ドレイン端子)、1B 低電位側主電極端子(ソース端子)、1C 制御電極端子(ゲート端子)、2 駆動回路、4 時間変化検出回路、5 静電容量素子、6 抵抗素子、7 過電流判定回路、13 定電流源、Vc 駆動指令信号、Vdet 検出信号、Vds 主電圧、Vexi 過電流発生信号、Vgs 駆動電圧、Vgsdt 判定電圧、Vth1 第1の閾値、Vth2 第2の閾値、dVds/dt 主電圧の時間変化率、ΔTdt 判定期間
【要約】
【課題】半導体スイッチング素子のターンオン後、過電流の検出を行わないブランキング時間を設けることなく、過電流の発生を早期に検出して、電力変換装置を保護することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】主電極端子間の電位差である主電圧Vdsの時間変化率に応じた検出信号Vdetを出力する時間変化検出回路4と、検出信号Vdetが第1の閾値を下回った場合に、正常電流状態の過電流発生信号を生成し、検出信号Vdetが第1の閾値を下回らなかった場合に、過電流状態の過電流発生信号を生成する過電流判定回路7と、駆動指令信号Vcがオン状態であっても、過電流発生信号が過電流状態である場合に、オフ状態の駆動電圧Vgsを生成する駆動回路2と、を備えた電力変換装置。
【選択図】
図1