IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図1
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図2
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図3
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図4
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図5
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図6
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図7
  • 特許-被覆工具及びこれを備えた切削工具 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】被覆工具及びこれを備えた切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20221216BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021509512
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013363
(87)【国際公開番号】W WO2020196631
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-24
(31)【優先権主張番号】P 2019060829
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 剛
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/007958(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/016488(WO,A1)
【文献】特開2009-203485(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146711(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
C23C 14/06
B23C 5/16
B23P 15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の上に位置する被覆層とを備え、
該被覆層は、周期表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素と、C、NおよびOの中から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる立方晶結晶を含有し、
前記立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布(111)は、
最大ピークが50°以上の領域に存在し、
前記最大ピークにおける強度をImaxとしたとき、前記最大ピークの0.8Imaxにおけるピーク幅が、20°以上であり、
90°における強度が、0.78Imax以上であって、
前記X線強度分布(111)は、90°における強度が、0.9Imax以上である、被覆工具。
【請求項2】
前記被覆層は、前記立方晶結晶の(200)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布(200)が、
第1ピークと、
該第1ピークよりも高角度に位置する第2ピークと、
さらに、前記第1ピークおよび前記第2ピークの間に、前記第1ピークおよび前記第2ピークよりも強度が低い谷部とを有する、請求項に記載の被覆工具。
【請求項3】
前記被覆層は、前記第1ピークが15°~30°の間に位置し、前記第2ピークが60°~75°の間に位置する、請求項に記載の被覆工具。
【請求項4】
基体と、該基体の上に位置する被覆層とを備え、
該被覆層は、周期表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素と、C、NおよびOの中から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる立方晶結晶を含有し、
前記立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布(111)は、
最大ピークが50°以上の領域に存在し、
前記最大ピークにおける強度をImaxとしたとき、前記最大ピークの0.8Imaxにおけるピーク幅が、20°以上であり、
90°における強度が、0.78Imax以上であって、
前記被覆層は、前記立方晶結晶の(200)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布(200)が、
第1ピークと、
該第1ピークよりも高角度に位置する第2ピークと、
さらに、前記第1ピークおよび前記第2ピークの間に、前記第1ピークおよび前記第2ピークよりも強度が低い谷部とを有する、被覆工具。
【請求項5】
前記被覆層は、前記第1ピークが15°~30°の間に位置し、前記第2ピークが60°~75°の間に位置する、請求項に記載の被覆工具。
【請求項6】
前記被覆層は、前記立方晶結晶としてAlTiN結晶を含有するAlTiN層を有する、請求項1~のいずれかに記載の被覆工具。
【請求項7】
基体と、該基体の上に位置する被覆層とを備え、
該被覆層は、周期表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素と、C、NおよびOの中から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる立方晶結晶を含有し、
前記立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布(111)は、
最大ピークが50°以上の領域に存在し、
前記最大ピークにおける強度をImaxとしたとき、前記最大ピークの0.8Imaxにおけるピーク幅が、20°以上であり、
90°における強度が、0.78Imax以上であって、
前記被覆層は、前記立方晶結晶としてAlTiN結晶を含有するAlTiN層を有する、被覆工具。
【請求項8】
前記被覆層は、前記立方晶結晶としてAlCrN結晶を含有するAlCrN層を有する、請求項6又は7に記載の被覆工具。
【請求項9】
前記被覆層は、複数の前記AlTiN層および複数の前記AlCrN層を有し、前記AlTiN層と前記AlCrN層とが交互に位置する、請求項8に記載の被覆工具。
【請求項10】
基体と、該基体の上に位置する被覆層とを備え、
該被覆層は、周期表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素と、C、NおよびOの中から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる立方晶結晶を含有し、
前記立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布(111)は、
最大ピークが50°以上の領域に存在し、
前記最大ピークにおける強度をImaxとしたとき、前記最大ピークの0.8Imaxにおけるピーク幅が、20°以上であり、
90°における強度が、0.78Imax以上であって、
前記被覆層は、前記立方晶結晶としてAlCrN結晶を含有するAlCrN層を有する、被覆工具。
【請求項11】
前記X線強度分布(111)は、前記最大ピークの0.9Imaxにおけるピーク幅が、15°以上である、請求項1~10のいずれかに記載の被覆工具。
【請求項12】
前記X線強度分布(111)は、15°以下における強度が0.6Imax未満である、請求項1~11のいずれかに記載の被覆工具。
【請求項13】
前記基体は、炭化タングステン及びコバルトを含有する請求項1~12のいずれかに記載の被覆工具。
【請求項14】
第1端から第2端に向かって延び、前記第1端側にポケットを有するホルダと、
前記ポケットに位置する請求項1~1のいずれかに記載の被覆工具と、
を備えた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削加工において用いられる被覆工具及びこれを備えた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
旋削加工及び転削加工のような切削加工に用いられる被覆工具としては、例えば特許文献1に記載されているような基材の表面に被膜を被覆した切削工具用被覆部材が知られている。特許文献1に記載の被覆工具においては、工具基体を被覆する硬質膜が立方晶の金属化合物からなっている。そして、この金属化合物の(111)面および(200)面を、基体の表面に対して、それぞれ所定の角度で傾けることで、被覆工具の耐摩耗性が高くなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2011/016488
【発明の概要】
【0004】
本開示の一例の被覆工具は、基体と、該基体の上に位置する被覆層とを備える。該被覆層は、周期表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素と、C、NおよびOの中から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる立方晶結晶を含有する。前記立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布(111)は、最大ピークが50°以上の領域に存在する。前記最大ピークにおける強度をImaxとしたとき、前記最大ピークの0.8Imaxにおけるピーク幅が、20°以上であり、90°における強度が、0.78Imax以上である。前記X線強度分布(111)は、90°における強度が、0.9Imax以上である。本開示の切削工具は、第1端から第2端に向かって延び、前記第1端側にポケットを有するホルダと、前記ポケットに位置する上述の記載の被覆工具と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本開示の被覆工具の一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す被覆工具におけるA-A断面の断面図である。
図3図3(a)は、図2に示す領域B1における拡大図である。図3(b)は、図2に示す領域B1における他の形態の拡大図である。
図4図4は、本開示の被覆工具の被覆層における立方晶の結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布の一例である。
図5図5は、比較例の被覆工具の被覆層における立方晶の結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布の一例である。
図6図6は、比較例の被覆工具の被覆層における立方晶の結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布の一例である。
図7図7は、本開示の被覆工具の被覆層における立方晶結晶の(200)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布の一例である。
図8図8は、本開示の切削工具の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
<被覆工具>
以下、本開示の被覆工具について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、本開示の被覆工具は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率などを忠実に表したものではない。これらの点は、後述する切削工具においても同様である。
【0007】
本開示の被覆工具1は、四角板形状であって、四角形の第1面3(図1における上面)と、第2面5(図1における側面)と、第1面3及び第2面5が交わる稜線の少なくとも一部に位置する切刃7とを有している。また、本実施形態の被覆工具1は、四角形の第3面8(図1における下面)をさらに有している。
【0008】
本開示の被覆工具1においては、第1面3の外周の全体が切刃7となっていてもよいが、被覆工具1はこのような構成に限定されるものではない。例えば、四角形の第1面3における一辺のみ、若しくは、部分的に切刃7を有するものであってもよい。
【0009】
第1面3は、少なくとも一部にすくい面領域3aを有しており、第1面3における切刃7に沿った領域がすくい面領域3aとなっていてもよい。第2面5は、少なくとも一部に逃げ面領域5aを有しており、第2面5における切刃7に沿った領域が逃げ面領域5aとなっていてもよい。このような構成によれば、すくい面領域3a及び逃げ面領域5aが交わる部分に切刃7が位置していると言い換えてもよい。
【0010】
図1では、第1面3におけるすくい面領域3aと、それ以外の領域との境界を一点鎖線で示している。また、第2面5における逃げ面領域5aと、それ以外の領域との境界を一点鎖線で示している。図1においては、第1面3及び第2面5が交わる稜線の全てが切刃7である例を示しているため、第1面3において上記境界を示す一点鎖線は環状となっている。
【0011】
被覆工具1の大きさは特に限定されるものではないが、例えば、第1面3の一辺の長さは、3~20mmとしてもよい。また、第1面3から第1面3の反対側に位置する第3面8までの高さは、5~20mm程度としてもよい。
【0012】
本開示の被覆工具1は、図1及び図2に示すように、四角板形状の基体9と、この基体9の表面を被覆する被覆層11とを備えている。被覆層11は、基体9の表面の全体を覆っていてもよく、また、一部のみを覆っていてもよい。被覆層11が基体9の一部のみを被覆しているときには、被覆層11は、基体9の上の少なくとも一部に位置しているとも言うことができる。
【0013】
被覆層11の厚みは、例えば、0.1~10μm程度としてもよい。なお、被覆層11の厚みは一定であっても、場所によって異なっていてもよい。
【0014】
本開示の被覆工具1は、図3(a)に示すように、基体9の表面に、被覆層11を備える。被覆層11は、周期表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素と、C、NおよびOの中から選ばれた少なくとも1種の元素とからなる立方晶結晶を含有する。立方晶結晶は、例えば、AlTiNやAlCrN、TiNなどである。TiAlN結晶は、TiN結晶にAlが固溶した結晶である。
【0015】
これらの立方晶結晶は、高い硬度と優れた耐摩耗性を有することから、被覆工具1の被覆層11に好適に用いられるものである。
【0016】
本開示の被覆工具1は、被覆層11における立方晶結晶の配向を制御することで、被覆工具1の耐久性を向上させたものである。被覆層11に含まれる立方晶結晶は、(111)面を有している。基体9の表面に対する被覆層11の立方晶結晶における(111)面の傾き角度を、X線回折装置を用いて測定することで、立方晶結晶の配向性を評価することができる。
【0017】
立方晶結晶における(111)面の配向性は、図4に示すように正極点図のX線強度分布(111)で評価することができる。
【0018】
例えば、立方晶結晶の(111)面の正極点図のα軸の0~90°の範囲におけるX線強度分布において50°の位置にピークがあるとき、基体9の表面に対して、(111)面が50°傾いている立方晶結晶の数が多いことになる。
【0019】
本開示の被覆工具1における被覆層11は、図4に示すように、立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸の0°~90°の範囲におけるX線強度分布(111)は、最大ピークが50°以上の領域に存在する。この最大ピークにおける強度をImaxとしたとき、最大ピークの0.8Imaxにおけるピーク幅が、20°以上である。
【0020】
言い換えると、X線強度分布(111)における最大ピークは、高角度側に存在し、かつ、0.8Imax以上の強度が20°以上の広い範囲に存在している。
【0021】
また、本開示の被覆工具1は、90°における強度が、0.78Imax以上である。本開示の被覆工具1は、90°においても、高い強度を有している。
【0022】
このような構成を有することから、本開示の被覆工具1は、耐久性に優れる。
【0023】
被覆膜11は、0.8Imax(111)以上のピークが25°以上の範囲に存在していてもよい。このような構成を有すると、被覆工具は耐久性に優れる。
【0024】
また、本開示の被覆工具1において、X線強度分布(111)は、最大ピークの0.9Imaxにおけるピーク幅が、15°以上である。このような構成を有すると、高いX線強度を有する領域が高角度側に広く存在するため、被覆工具1は耐久性に優れる。
【0025】
また、本開示の被覆工具1において、X線強度分布(111)は、90°におけるピーク強度が、0.9Imax以上であってもよい。このような構成を有すると、90°という高角度においても、立方晶結晶の(111)面の配向性が高いため、被覆工具1は耐久性に優れる。
【0026】
また、本開示の被覆工具1において、X線強度分布(111)は、15°以下の領域におけるピーク強度が0.6Imax未満であってもよい。このような構成を有すると、低角度側における(111)面の配向性が低くなり、相対的に高角度側における(111)面の配向強度が高いため、被覆工具1は耐久性に優れる。
【0027】
また、図7に示すように、被覆層11は、立方晶結晶の(200)面に関する正極点図のα軸の0~90°の範囲におけるX線強度分布が、第1ピークと、この第1ピークよりも高角度に位置する第2ピークとを有し、さらに、第1ピークおよび第2ピークの間に第1ピークおよび第2ピークのX線強度よりもX線強度が低い谷部を有していてもよい。
【0028】
このように、立方晶結晶の(200)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布が、0°~90°の間に第1ピークおよび第2ピークを有すると、耐久性に優れた被覆工具1となる。
【0029】
また、図7に示すように、被覆層11は、立方晶結晶の(200)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布は、15°~30°の間に第1ピークを有し、60°~75°の間に第2ピークを有していてもよい。このような構成を有する場合、被覆層11の硬度、剥離荷重が大きくなる。
【0030】
被覆工具1の特性は、例えば、硬度や、スクラッチ試験により測定する剥離荷重で評価することができる。被覆工具1の耐久性は、硬度と剥離荷重の影響を受ける。いずれか一方だけが高くとも被覆工具1は、高い耐久性を有するものとならない。本開示の被覆工具1は、硬度と剥離荷重のバランスがよく、耐久性に優れている。
【0031】
被覆層11は、立方晶結晶としてAlTiN結晶を含有するAlTiN層13を備えていてもよい。AlTiN層13は、アルミニウムの含有比率がチタンの含有比率よりも高くてもよい。また、AlTiN層13は、チタンの含有比率がアルミニウムの含有比率よりも高くてもよい。また、AlTiN層13は、アルミニウム及びチタンに加えて、クロムをさらに含有していてもよい。但し、クロム成分と比較してアルミニウム及びチタンのそれぞれの含有比率の合計が高い。AlTiN層13におけるクロムの含有比率は、例えば、0.1~20%としてもよい。なお、上記における「含有比率」とは、原子比での含有比率を示している。
【0032】
また、被覆層11は、立方晶結晶として、AlCrN結晶を含有するAlCrN層を有していてもよい。
【0033】
また、図3(b)に示すように、本開示の被覆工具1は、AlTiN層13に加えて、AlCrN結晶を含有するAlCrN層15を有していてもよい。また、AlTiN層13およびAlCrN層15はそれぞれ複数積層されていてもよい。積層の順は、逆でもよく、相互に複数のAlTiN層13とAlCrN層15とを積層されていてもよい。
【0034】
AlCrN層15は、アルミニウム及びクロムのみによって構成されていてもよいが、アルミニウム及びクロムに加えて、Si、Nb、Hf、V、Ta、Mo、Zr、Ti及びWなどの金属成分を含有していてもよい。但し、AlCrN層15では、上記の金属成分と比較してアルミニウム及びクロムのそれぞれの含有比率の合計が高い。アルミニウムの含有比率は、例えば、20~60%としてもよい。また、クロムの含有比率は、例えば、40~80%にしてもよい。
【0035】
被覆工具1が、複数のAlCrN層15を有する場合、それぞれのAlCrN層15において、アルミニウムの含有比率がクロムの含有比率よりも高くてもよく、また、複数のAlCrN層15のそれぞれにおいて、クロムの含有比率がアルミニウムの含有比率よりも高くてもよい。
【0036】
また、AlCrN層15は、アルミニウム及びクロムを含む金属成分のみによって構成されていてもよいが、アルミニウム及びクロムは、単独またはいずれも含む、窒化物、炭化物又は炭窒化物であってもよい。
【0037】
AlTiN層13及びAlCrN層15の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分光分析法(EDS)又はX線光電子分光分析法(XPS)などによって測定することが可能である。
【0038】
AlTiN層13及びAlCrN層15の積層数は、特定の値に限定されるものではない。AlTiN層13及びAlCrN層15の数は、例えば、2~500としてもよい。
【0039】
被覆層11は、AlTiN層13を有すると耐欠損性が高くなる。また、被覆層11は、AlCrN層15を有すると耐摩耗性が高くなる。被覆層11は、複数のAlTiN層13及び複数のAlCrN層15が交互に位置する構成とすると、被覆層11の全体としての強度が高くなる。
【0040】
なお、複数のAlTiN層13及び複数のAlCrN層15のそれぞれの厚みが厚く、且つ、複数のAlTiN層13及び複数のAlCrN層15の数が少ない場合よりも、複数のAlTiN層13及び複数のAlCrN層15のそれぞれの厚みが薄く、且つ、複数のAlTiN層13及び複数のAlCrN層15の数が多い場合の方が、被覆層11の全体としての強度が高い。
【0041】
AlTiN層13及びAlCrN層15の厚みは、特定の値に限定されるものではないが、例えば、それぞれ5nm~100nmに設定できる。なお、複数のAlTiN層13及び複数のAlCrN層15の厚みは、一定であっても、互いに異なっていてもよい。
【0042】
なお、本開示の被覆工具1は、図1に示すように四角板形状であるが、被覆工具1の形状としてはこのような形状に限定されるものではない。例えば、第1面3及び第3面8が四角形ではなく、三角形、六角形又は円形などであっても何ら問題ない。
【0043】
本開示の被覆工具1は、図1に示すように、例えば、貫通孔17を有していてもよい。貫通孔17は、第1面3から第1面3の反対側に位置する第3面8にかけて形成されており、これらの面において開口している。貫通孔17は、被覆工具1をホルダに保持する際に、ネジ又はクランプ部材などを取り付けるために用いることが可能である。なお、貫通孔17は、第2面5における互いに反対側に位置する領域において開口する構成であっても何ら問題ない。
【0044】
基体9の材質としては、例えば、超硬合金、サーメット及びセラミックスなどの無機材料が挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、WC(炭化タングステン)-Co、WC-TiC(炭化チタン)-Co及びWC-TiC-TaC(炭化タンタル)-Coなどが挙げられる。ここで、WC、TiC及びTaCは硬質粒子であり、Coは結合相である。また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料である。具体的には、サーメットとして、TiC又はTiN(窒化チタン)を主成分とした化合物などが挙げられる。なお、基体9の材質としては、これらに限定されるものではない。
【0045】
被覆層11は、例えば、物理蒸着(PVD)法などを用いることによって、基体9の上に位置させることが可能である。例えば、貫通孔17の内周面で基体9を保持した状態で上記の蒸着法を利用して被覆層11を形成する場合には、貫通孔17の内周面を除く基体9の表面の全体を覆うように被覆層11を位置させることができる。
【0046】
物理蒸着法としては、例えば、イオンプレーティング法及びスパッタリング法などが挙げられる。一例として、イオンプレーティング法で作製する場合には、下記の方法によって被覆層11を作製することができる。
【0047】
第1の手順として、周期律表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素を含有する金属ターゲット、複合化した合金ターゲット又は焼結体ターゲットを準備する。金属源である上記のターゲットをアーク放電又はグロー放電などによって蒸発させてイオン化する。イオン化したターゲットを、窒素源の窒素(N)ガス、炭素源のメタン(CH)ガス又はアセチレン(C)ガスなどと反応させるとともに、基体9の表面に蒸着させる。以上の手順によって、例えば、AlTiN層やAlCrN層などの立方晶の被覆層11を形成することが可能である。被覆層11は、単層であっても、積層膜であってもよい。
【0048】
交互積層にする場合には、第2の手順として、周期表4、5、6族元素、Al、Si、B、YおよびMnの中から選ばれた少なくとも1種の元素を含有する金属ターゲット、複合化した合金ターゲット又は焼結体ターゲットを準備する。金属源である上記のターゲットをアーク放電又はグロー放電などによって蒸発させてイオン化する。イオン化したターゲットを、窒素源の窒素(N)ガス、炭素源のメタン(CH)ガス又はアセチレン(C)ガスなどと反応させるとともに、基体9の表面に蒸着させる。以上の手順によって例えば、AlTiN層13と、AlCrN層15を積層した被覆層11を形成することが可能である。
【0049】
上記の第1の手順及び第2の手順を交互に繰り返すことによって、複数のAlTiN層13及び複数のAlCrN層15が交互に積層された構成の被覆層11を形成することが可能である。なお、まず第2の手順を行った後に第1の手順を行ってもよい。また、単層のみを設けてもよい。
【0050】
本開示の被覆工具1を得るには、上記の第1および第2の手順において、基体の温度を300~600℃とし、圧力を2.0~6.0Paとし、基体に直流バイアス電圧を-55V~-95Vを印可して、アーク放電電流を120~180Aとするとよい。
【0051】
成膜条件のうち、直流バイアス電圧を変化させると、0.8Imaxにおけるピーク幅、0.9Imaxにおけるピーク幅、90°における強度を変化させることができる。
【0052】
直流バイアス電圧は、60V以上、90V以下としてもよい。また、直流バイアス電圧は、65V以上、85V以下としてもよい。このような成膜条件とすると、0.8Imaxにおけるピーク幅、0.9Imaxにおけるピーク幅が広い、また、90°における強度が高い。
【0053】
<切削工具>
次に、本開示の切削工具について図面を用いて説明する。
【0054】
本開示の切削工具101は、図8に示すように、例えば、第1端(図8における上端)から第2端(図8における下端)に向かって延びる棒状体である。切削工具101は、図8に示すように、第1端側(先端側)にポケット103を有するホルダ105と、ポケット103に位置する上記の被覆工具1とを備えている。切削工具101は、被覆工具1を備えているため、長期に渡り安定した切削加工を行うことができる。
【0055】
ポケット103は、被覆工具1が装着される部分であり、ホルダ105の下面に対して平行な着座面と、着座面に対して傾斜する拘束側面とを有している。また、ポケット103は、ホルダ105の第1端側において開口している。
【0056】
ポケット103には被覆工具1が位置している。このとき、被覆工具1の下面がポケット103に直接に接していてもよく、また、被覆工具1とポケット103との間にシート(不図示)が挟まれていてもよい。
【0057】
被覆工具1は、第1面3及び第2面5が交わる稜線における切刃7として用いられる部分の少なくとも一部がホルダ105から外方に突出するようにホルダ105に装着される。本実施形態においては、被覆工具1は、固定ネジ107によって、ホルダ105に装着されている。すなわち、被覆工具1の貫通孔17に固定ネジ107を挿入し、この固定ネジ107の先端をポケット103に形成されたネジ孔(不図示)に挿入してネジ部同士を螺合させることによって、被覆工具1がホルダ105に装着されている。
【0058】
ホルダ105の材質としては、鋼、鋳鉄などを用いることができる。これらの部材の中で靱性の高い鋼を用いてもよい。
【0059】
本実施形態においては、いわゆる旋削加工に用いられる切削工具を例示している。旋削加工としては、例えば、内径加工、外径加工及び溝入れ加工などが挙げられる。なお、切削工具としては旋削加工に用いられるものに限定されない。例えば、転削加工に用いられる切削工具に上記の実施形態の被覆工具1を用いてもよい。
【実施例
【0060】
WC-Co系の超硬合金の表面に、厚みが約15nmのAlTiN層と、厚みが約15nmのAlCrN層とを交互に積層して、約5μmの厚みの被覆膜を形成した。被覆膜の形成にあたり、基体の温度は、550℃とし、圧力は、4.0Paとした。基体に直流バイアス電圧-35V、-55V、-115Vを印可して、アーク放電電流は、AlTiN層の成膜時は160Aとし、AlCrN層の成膜時には140Aとした。なお、直流バイアス電流-35V、-115Vの例は、比較例である。
【0061】
図4に、直流バイアス電圧を-55Vとして得られた試料No.1の被覆膜の立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布を示す。図5に、直流バイアス電圧を-35Vとして得られた試料No.2の被覆膜の立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布を示す。図6に、直流バイアス電圧を-115Vとして得られた試料No.3の被覆膜の立方晶結晶の(111)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布を示す。また、図7に直流バイアス電圧を-55Vとして得られた試料No.1の被覆膜の立方晶結晶の(200)面に関する正極点図のα軸のX線強度分布を示す。
【0062】
X線強度分布の測定条件は以下の通りとした。なお、試料面法線が入射線と回折線で決まる平面上にあるとき、α角を90°とする。α角が90°のとき、正極点図上では中心の点となる。
【0063】
・ 平板コリメータ
・ 走査方法:同心円
・ β走査範囲:0~360°/2.5°ピッチ
・ θ固定角度:AlTiN結晶の(111)面の回折角度は36.0°から38.0°までの間で回折強度が最も高くなる角度とする。AlTiN結晶の(200)面の回折角度は42.0°から44.0°までの間で回折強度が最も高くなる角度とする。
【0064】
・ α走査範囲:0~90°/2.5°ステップ
・ ターゲット:CuKα、電圧:45kV、電流:40mA
また、剥離荷重は、スクラッチ試験機にて荷重範囲0~100Nとして、剥離が生じた荷重を測定した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に試料No.1~3の被覆膜の立方晶結晶の(111)面の最大ピークの角度、0.8Imaxにおけるピーク幅、0.9Imaxにおけるピーク幅、90°における強度を示す。
【0067】
本開示の被覆工具である試料No.1は、剥離荷重が大きく、硬度も優れていた。
【符号の説明】
【0068】
1・・・被覆工具
3・・・第1面、すくい面
5・・・第2面、逃げ面
7・・・切刃
9・・・基体
11・・・被覆層
13・・・AlTiN層
15・・・AlCrN層
17・・・貫通孔
101・・・切削工具
103・・・ポケット
105・・・ホルダ
107・・・固定ネジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8