(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】空気極/セパレータ接合体及び金属空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20221216BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M12/08 K
(21)【出願番号】P 2021524713
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017831
(87)【国際公開番号】W WO2020246178
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2019105742
(32)【優先日】2019-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019174428
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直美
(72)【発明者】
【氏名】加納 大空
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 直美
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163353(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/084557(WO,A1)
【文献】特開2017-016901(JP,A)
【文献】特開2019-021518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 12/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化物イオン伝導緻密セパレータと、該水酸化物イオン伝導緻密セパレータの一面側に設けられる空気極層とを備えた、空気極/セパレータ接合体であって、
前記空気極層が、
前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータに近い側に設けられ、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含む混合物(ただし、水酸化物イオン伝導材料は空気極触媒と同一材料でありうる、また、導電性材料は空気極触媒と同一材料でありうる)で充填されている、内部触媒層と、
前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータから遠い側に設けられ、多孔性集電体及びその表面を覆う層状複水酸化物(LDH)で構成される、60%以上の気孔率を有する最外触媒層と、
からなる2層構成を備えた、空気極/セパレータ接合体。
【請求項2】
前記最外触媒層においてLDHが複数のLDH板状粒子の形態を有し、該複数のLDH板状粒子が前記多孔性集電体の表面に対して垂直又は斜めに結合している、請求項1に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項3】
前記最外触媒層において前記複数のLDH板状粒子が互いに連結している、請求項2に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項4】
前記多孔性集電体が、カーボン、ニッケル、ステンレス、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項5】
前記多孔性集電体が、0.1~1mmの厚さを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項6】
前記内部触媒層が、30~50%の気孔率及び5μm以下の平均気孔径を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項7】
前記内部触媒層に含まれる前記水酸化物イオン伝導材料が、LDH及び/又はLDH様化合物であり、
前記内部触媒層に含まれる前記導電性材料が、導電性セラミックス及び炭素材料からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記内部触媒層に含まれる前記空気極触媒が、LDH及びその他の金属水酸化物、金属酸化物、金属ナノ粒子、並びに炭素材料からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項8】
前記空気極/セパレータ接合体が、前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータと前記空気極層との間に、水酸化物イオン伝導材料及び導電性材料を含む界面層をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項9】
前記界面層に含まれる前記水酸化物イオン伝導材料が複数の板状粒子の形態を有し、前記複数の板状粒子が前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータの主面に垂直又は斜めに結合している、請求項8に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項10】
前記界面層に含まれる前記水酸化物イオン伝導材料が、前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータに含まれる水酸化物イオン伝導材料と同種の材料である、請求項8又は9に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項11】
前記界面層に含まれる前記水酸化物イオン伝導材料、及び前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータに含まれる水酸化物イオン伝導材料がいずれもLDH及び/又はLDH様化合物である、請求項10に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項12】
前記界面層に含まれる前記導電性材料が、炭素材料を含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項13】
前記炭素材料が、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、及び還元酸化グラフェンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項12に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項14】
前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータが、層状複水酸化物(LDH)セパレータである、請求項1~13のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項15】
前記LDHセパレータが多孔質基材と複合化されている、請求項14に記載の空気極/セパレータ接合体。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の空気極/セパレータ接合体と、金属負極と、電解液とを備え、前記電解液が前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータを介して前記空気極層と隔離されている、金属空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気極/セパレータ接合体及び金属空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
革新電池候補の一つとして金属空気二次電池が挙げられる。金属空気二次電池は、正極活物質である酸素が空気中から供給されるため、電池容器内のスペースを負極活物質の充填に最大限利用することができ、それにより原理的に高いエネルギー密度を実現することができる。例えば、亜鉛を負極活物質として用いる亜鉛空気二次電池においては、電解液として水酸化カリウム等のアルカリ水溶液が用いられ、正負極間の短絡を防止するためにセパレータ(隔壁)が用いられる。放電時には、以下の反応式に示されるように、空気極(正極)側でO2が還元されてOH-が生成する一方、負極で亜鉛が酸化されてZnOが生成する。
正極: O2+2H2O+4e-→4OH-
負極: 2Zn+4OH-→2ZnO+2H2O+4e-
【0003】
ところで、亜鉛空気二次電池、ニッケル亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。また、亜鉛空気二次電池においては、空気中の二酸化炭素が空気極を通り抜けて電解液に溶解し、アルカリ炭酸塩を析出して電池性能を低下させるという問題もある。上記同様の問題はリチウム空気二次電池でも起こりうる。
【0004】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/073292号)には、亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止すべく、亜鉛空気二次電池においてLDHセパレータを空気極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料(LDHセパレータ)を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。
【0005】
また、亜鉛空気二次電池等の金属空気二次電池の分野において、LDHセパレータ上に空気極層を設けた空気極/セパレータ接合体が提案されている。特許文献4(国際公開第2015/146671号)には、LDHセパレータ上に、空気極触媒、電子伝導性材料、及び水酸化物イオン伝導性材料を含む空気極層を備えた空気極/セパレータ接合体が開示されている。また、特許文献5(国際公開第2018/163353号)には、LDHセパレータ上に、LDH及びカーボンナノチューブ(CNT)を含む空気極層を直接接合して空気極/セパレータ接合体を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/073292号
【文献】国際公開第2016/076047号
【文献】国際公開第2016/067884号
【文献】国際公開第2015/146671号
【文献】国際公開第2018/163353号
【発明の概要】
【0007】
前述したとおり、LDHセパレータを用いた金属空気二次電池には、金属デンドライトによる正負極間の短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止できるとの優れた利点がある。また、LDHセパレータの緻密性により、電解液に含まれる水分の蒸発を抑制できるとの利点もある。しかしながら、LDHセパレータは空気極への電解液の浸透を阻止するため、空気極層には電解液が存在しないこととなり、それ故、空気極への電解液の浸透を許容する一般的なセパレータ(例えば多孔高分子セパレータ)を用いた亜鉛空気二次電池と比較して、水酸化物イオン伝導性が低くなりがちであり、充放電性能の低下につながる。そこで、LDHセパレータを用いた利点を備えながらも、優れた充放電性能を呈する空気極/セパレータ接合体が望まれる。
【0008】
本発明者らは、今般、LDHセパレータ等の水酸化物イオン伝導緻密セパレータ上に設ける空気極層を、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含む混合物で充填されている内部触媒層と、多孔性集電体及びその表面を覆うLDHで構成される気孔率60%以上の最外触媒層との2層構成にすることにより、金属空気二次電池とした場合に、優れた充放電性能を呈することを知見した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、LDHセパレータ等の水酸化物イオン伝導緻密セパレータを備えながらも、金属空気二次電池とした場合に優れた充放電性能を呈する、空気極/セパレータ接合体を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、
水酸化物イオン伝導緻密セパレータと、該水酸化物イオン伝導緻密セパレータの一面側に設けられる空気極層とを備えた、空気極/セパレータ接合体であって、
前記空気極層が、
前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータに近い側に設けられ、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含む混合物(ただし、水酸化物イオン伝導材料は空気極触媒と同一材料でありうる、また、導電性材料は空気極触媒と同一材料でありうる)で充填されている、内部触媒層と、
前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータから遠い側に設けられ、多孔性集電体及びその表面を覆う層状複水酸化物(LDH)で構成される、60%以上の気孔率を有する最外触媒層と、
を備えた、空気極/セパレータ接合体が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記空気極/セパレータ接合体と、金属負極と、電解液とを備え、前記電解液が前記水酸化物イオン伝導緻密セパレータを介して前記空気極層と隔離されている、金属空気二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一態様による空気極/セパレータ接合体を概念的に示す模式断面図である。
【
図2】本発明に用いるLDHセパレータの表面に垂直又は斜めに結合された板状粒子の一態様を概念的に示す模式断面図である。
【
図3】本発明に用いるLDHセパレータを概念的に示す模式断面図である。
【
図4A】例A1で使用されたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
【
図4B】
図4Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
【
図5】例A1で作製されたLDHセパレータの表面を観察したSEM像である。
【
図6A】例B1で作製された最外触媒層における、カーボンペーパーを構成するカーボン繊維表面を観察したSEM像である。
【
図6B】
図6Aに示されるカーボン繊維表面を拡大観察したSEM像である。
【
図6C】
図6Aに示されるカーボン繊維の表面付近の断面を観察したSEM像である。
【
図7】例B1で作製された評価セルについて測定された充放電曲線である。
【
図8】例B2で作製された内部触媒層の断面微構造を観察したSEM像である。
【
図9】例B2で作製された評価セルについて測定された充放電曲線である。
【
図10】例B3(比較)で作製された評価セルについて測定された充放電曲線である。
【
図11】例B4で作製された評価セルについて測定された充放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
空気極/セパレータ接合体
図1に、水酸化物イオン伝導緻密セパレータとして層状複水酸化物(LDH)セパレータを用いた空気極/セパレータ接合体の一態様を示す。なお、以下の説明においてLDHセパレータに関して言及される内容は、技術的な整合性を損なわないかぎりにおいて、LDHセパレータ以外の水酸化物イオン伝導緻密セパレータにも同様に当てはまるものとする。すなわち、以下の記載において、技術的な整合性を損なわないかぎりにおいて、LDHセパレータは水酸化物イオン伝導緻密セパレータと読み替え可能である。
【0014】
図1に示される空気極/セパレータ接合体10は、層状複水酸化物(LDH)セパレータ12と、LDHセパレータ12の一面側に設けられる空気極層16とを備える。空気極層16は、LDHセパレータ12に近い側に設けられる内部触媒層18と、LDHセパレータ12から遠い側に設けられ最外触媒層20を含む。内部触媒層18は、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含む混合物18a(ただし、水酸化物イオン伝導材料は空気極触媒と同一材料でありうる、また、導電性材料は空気極触媒と同一材料でありうる)で充填されている。最外触媒層20は、多孔性集電体20aとその表面を覆うLDH20bで構成され、60%以上の気孔率を有する。このように、LDHセパレータ12上に設ける空気極層16を、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含む混合物18aで充填されている内部触媒層18と、多孔性集電体20a及びその表面を覆うLDH20bで構成される気孔率60%以上の最外触媒層20との2層構成にすることにより、金属空気二次電池とした場合に、優れた充放電性能を呈することができる。
【0015】
すなわち、前述のとおり、LDHセパレータを用いた金属空気二次電池には、金属デンドライトによる正負極間の短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止できるとの優れた利点がある。また、LDHセパレータの緻密性により、電解液に含まれる水分の蒸発を抑制できるとの利点もある。しかしながら、LDHセパレータは空気極への電解液の浸透を阻止するため、空気極層には電解液が存在しないこととなり、それ故、空気極への電解液の浸透を許容する一般的なセパレータ(例えば多孔高分子セパレータ)を用いた亜鉛空気二次電池と比較して、水酸化物イオン伝導性が低くなりがちであり、充放電性能の低下につながる。この点、空気極/セパレータ接合体10によればかかる問題が好都合に解消される。
【0016】
そのメカニズムの詳細は必ずしも定かではないが、以下のようなものと考えられる。すなわち、最外触媒層20は多孔性集電体20aを含むため、ガス拡散電極として集電及びガス拡散を担う層として機能しうるが、多孔性集電体20aの表面をLDH20bで覆うことで、上記機能に加え、触媒性能と水酸化物イオン伝導性を併せ持つことができ、その結果、より多くの反応可能領域を確保することができる。これは、LDH20b、すなわち層状複水酸化物は水酸化物イオン伝導材料であるとともに、空気極触媒としての機能をも併せ持つことができるからである。そして、最外触媒層20を気孔率60%以上もの空隙に富んだ構成とすることで、ガス拡散電極としての集電及びガス拡散機能、触媒性能、並びに水酸化物イオン伝導性の全てを互いに相殺することなく、極めて効果的に実現できると考えられる。こうして、イオン伝導相(LDH20b)と、電子伝導相(多孔性集電体20a)と、気相(空気)とからなる三相界面が最外触媒層20の全域にわたって存在するため、LDHセパレータ12と空気極層16の界面のみならず空気極層16中にも三相界面が存在することになり、電池反応に寄与する水酸化物イオンの授受がより広い表面積で効果的に行われる(すなわち反応抵抗が低くなる)ものと考えられる。その上、内部触媒層18が、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含む混合物18aで充填されていることで、触媒性能を発揮しつつ、空気極層16とLDHセパレータ12の間での水酸化物イオンの授受がスムーズに行われる(すなわち反応抵抗が低くなる)と考えられる。このように、内部触媒層18と最外触媒層20の諸機能が好都合に組み合わされることで、LDHセパレータ12を用いた利点を備えながらも、優れた充放電性能を実現できたものと考えられる。
【0017】
LDHセパレータ12は、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物(以下、水酸化物イオン伝導層状化合物と総称する)を含むセパレータであって、専ら水酸化物イオン伝導層状化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないがLDHに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。このようなLDHセパレータは、特許文献1~5に開示されるように公知のものであることができ、多孔質基材と複合化されたLDHセパレータが好ましい。特に好ましいLDHセパレータ12は、
図3に概念的に示されるように、高分子材料製の多孔質基材12aと、多孔質基材の孔Pを塞ぐ水酸化物イオン伝導層状化合物12bとを含むものであり、この態様のLDHセパレータ12については後述するものとする。高分子材料製の多孔質基材を含むことで、加圧されても撓むことができ割れにくいため、電池容器内に収容して他の電池要素(負極等)とともに各電池要素を互いに密着させる方向に加圧することができる。このような加圧は、複数枚の空気極/セパレータ接合体10を複数枚の金属負極とともに交互に電池容器内に組み込んで積層電池を構成する場合に特に有利となる。同様に、複数個の積層電池を1つのモジュール容器に収容して電池モジュールを構成する場合にも有利となる。例えば亜鉛空気二次電池を加圧することで、負極とLDHセパレータ12との間における亜鉛デンドライトの成長を許容する隙間を最小化し(望ましくは隙間を無くし)、それにより亜鉛デンドライト伸展のより効果的な防止が期待できる。
【0018】
もっとも、本発明においては、LDHセパレータ12に限らず、様々な水酸化物イオン伝導緻密セパレータを用いることができる。水酸化物イオン伝導緻密セパレータは、水酸化物イオン伝導材料を含むセパレータであって、専ら水酸化物イオン伝導材料の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。したがって、水酸化物イオン伝導緻密セパレータは、ガス不透過性及び/又は水不透過性、特にガス不透過性を有する。すなわち、水酸化物イオン伝導材料はガス不透過性及び/又は水不透過性を呈する程の高度な緻密性で水酸化物イオン伝導緻密セパレータの全部又は一部を構成している。ガス不透過性及び/又は水不透過性の定義はLDHセパレータ12に関して後述するものとする。水酸化物イオン伝導緻密セパレータは多孔質基材と複合化されていてもよい。
【0019】
空気極層16に含まれる最外触媒層20は、多孔性集電体20a及びその表面を覆うLDH20bで構成される。多孔性集電体20aが、ガス拡散性を有する導電性材料で構成されるものであれば特に限定されないが、カーボン、ニッケル、ステンレス、及びチタンからなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましくはカーボンである。多孔性集電体20aの具体例としては、カーボンペーパー、ニッケルフォーム、ステンレス製不織布、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、好ましくはカーボンペーパーである。集電体として市販されている多孔質材料を使用することができる。多孔性集電体20aの厚さは、反応領域、すなわちイオン伝導相(LDH20b)と、電子伝導相(多孔性集電体20a)と、気相(空気)とからなる三相界面広く確保する観点から、0.1~1mmが好ましく、より好ましくは0.1~0.5mm、さらに好ましくは0.1~0.3mmである。また、最外触媒層20の気孔率は、60%以上であるのが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは70~95%である。特にカーボンペーパーの場合、より好ましくは60~90%、さらに好ましくは70~90%、特に好ましくは75~85%である。上記気孔率であると、優れたガス拡散性を確保し、かつ、反応領域を広く確保することができる。また、気孔の空間が多いため、生成した水で目詰まりが生じにくくなる。気孔率の測定は、水銀圧入法により行うことができる。
【0020】
最外触媒層20に含まれるLDH20bは、触媒性能及び水酸化物イオン伝導性の少なくともいずれかの性質を有することが知られている。したがって、LDH20bの組成は特に限定されないが、一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M3+は3価の少なくとも1種以上の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは任意の実数である)の基本組成を有するものが好ましい。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはNi2+、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Cu2+、Zn2+が挙げられる。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはFe3+、V3+、Al3+、Co3+、Cr3+、In3+が挙げられる。特に、LDH20bが触媒性能と水酸化物イオン伝導性を併せ持つためには、M2+及びM3+がそれぞれ遷移金属イオンであることが望ましい。かかる観点から、より好ましいM2+はNi2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Cu2+等の2価の遷移金属イオンであり、特に好ましくはNi2+である一方、より好ましいM3+はFe3+、V3+、Co3+、Cr3+等の3価の遷移金属イオンであり、特に好ましくはFe3+、V3+、及び/又はCo3+である。この場合、M2+の一部がMg2+、Ca2+、Zn2+等の遷移金属以外の金属イオンで置換されていてもよく、また、M3+の一部がAl3+、In3+等の遷移金属以外の金属イオンで置換されていてもよい。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはNO3-、CO3
2-、SO4
2-、OH-、Cl-、I-、Br-、F-が挙げられ、より好ましくはNO3-及び/又はCO3
2-である。したがって、上記一般式は、M2+がNi2+を含み、M3+がFe3+を含み、An-がNO3-及び/又はCO3
2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1~3である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。mは任意の実数である。より具体的には、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0021】
LDH20bは複数のLDH板状粒子の形態を有し、これら複数のLDH板状粒子が多孔性集電体の表面に対して垂直又は斜めに結合しているのが好ましい。また、最外触媒層20において複数のLDH板状粒子が互いに連結しているのが好ましい。このような構成により、反応抵抗を低減することができる。また、このような構成は、公知の手法に基づき、多孔性集電体20aをLDH原料溶液に浸漬して、LDH粒子を水熱合成することにより実現することができる。
【0022】
LDH20bは異なる組成の2種以上のLDHの混合物であってもよく、この場合、2種以上のLDH粒子の粒径分布が互いに異なるのが、基材に対する担持強度を確保する観点から好ましい。平均粒径が大きい方のLDH板状粒子が多孔性集電体20aの表面に対して垂直又は斜めであることが、多孔性集電体20aへの酸素の拡散を促進できる点、及びLDHの担持量を多く確保できる点で好ましい。
【0023】
最外触媒層20において、LDH20bは、空気極触媒及び/又は水酸化物イオン伝導材料として機能するが、最外触媒層20は、LDH20b以外に、空気極触媒及び/水酸化物イオン伝導材料をさらに含んでいてもよい。LDH以外の触媒の例としては、金属酸化物、金属ナノ粒子、炭素材料、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。また、最外触媒層20には水分量を調整可能な材料が存在することが好ましい。この点、LDH20b自体が水分量を調整可能な材料として機能するが、他の例としては、ゼオライト、水酸化カルシウム、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0024】
最外触媒層20の製造は、公知の手法に基づいて、多孔性集電体20aの表面にLDH20bを水熱合成で析出させることにより行えばよく、特に限定されない。例えば、(1)多孔性集電体20aを用意し、(2)多孔性集電体20aに酸化鉄溶液を塗布して乾燥させることで酸化鉄層を形成させ、(3)ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、LDH20b(この場合はNi-Fe-LDH)を多孔性集電体20aの表面に形成させることにより、最外触媒層20を製造することができる。
【0025】
空気極層16に含まれる内部触媒層18は、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含む混合物18aで充填されている。水酸化物イオン伝導材料は空気極触媒と同一材料であってもよく、そのような材料の例としては遷移金属を含むLDH(例えばNi-Fe-LDH、Co-Fe-LDH、及びNi-Fe-V-LDH)が挙げられる。一方、空気極触媒を兼ねない水酸化物イオン伝導材料の例としてはMg-Al-LDHが挙げられる。また、導電性材料は空気極触媒と同一材料であってもよく、そのような材料の例としては炭素材料、金属ナノ粒子、TiN等の窒化物、LaSr3Fe3O10等が挙げられる。
【0026】
内部触媒層18に含まれる水酸化物イオン伝導材料は、水酸化物イオン伝導性を有する材料であれば特に限定されないが、LDH及び/又はLDH様化合物であるのが好ましい。LDHの組成は特に限定されないが、一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M3+は3価の少なくとも1種以上の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは任意の実数である)の基本組成を有するものが好ましい。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはNi2+、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Cu2+、Zn2+が挙げられる。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはFe3+、V3+、Al3+、Co3+、Cr3+、In3+が挙げられる。特に、LDHが触媒性能と水酸化物イオン伝導性を併せ持つためには、M2+及びM3+がそれぞれ遷移金属イオンであることが望ましい。かかる観点から、より好ましいM2+はNi2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Cu2+等の2価の遷移金属イオンであり、特に好ましくはNi2+である一方、より好ましいM3+はFe3+、V3+、Co3+、Cr3+等の3価の遷移金属イオンであり、特に好ましくはFe3+、V3+、及び/又はCo3+である。この場合、M2+の一部がMg2+、Ca2+、Zn2+等の遷移金属以外の金属イオンで置換されていてもよく、また、M3+の一部がAl3+、In3+等の遷移金属以外の金属イオンで置換されていてもよい。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはNO3-、CO3
2-、SO4
2-、OH-、Cl-、I-、Br-、F-が挙げられ、より好ましくはNO3-及び/又はCO3
2-である。したがって、上記一般式は、M2+がNi2+を含み、M3+がFe3+を含み、An-がNO3-及び/又はCO3
2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1~3である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。mは任意の実数である。より具体的には、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0027】
内部触媒層18に含まれる導電性材料は、導電性セラミックス及び炭素材料からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。特に、導電性セラミックスの例としては、LaNiO3、LaSr3Fe3O10等が挙げられる。炭素材料の例としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、還元酸化グラフェン、及びそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されず、その他の様々な炭素材料も用いることができる。
【0028】
内部触媒層18に含まれる空気極触媒は、LDH及びその他の金属水酸化物、金属酸化物、金属ナノ粒子、並びに炭素材料からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくは、LDH、金属酸化物、金属ナノ粒子、及び炭素材料からなる群から選択される少なくとも1種である。LDHについては水酸化物イオン伝導材料について上述したとおりであり、空気極触媒と水酸化物イオン伝導材料の両方の機能を兼ねることができる点で特に好ましい。金属水酸化物の例としては、Ni-Fe-OH、Ni-Co-OH及びそれらの任意の組合せが挙げられ、これらは第3の金属元素をさらに含んでいてもよい。金属酸化物の例としては、Co3O4、LaNiO3、LaSr3Fe3O10、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。金属ナノ粒子(典型的には粒径2~30nmの金属粒子)の例としては、Pt、Ni-Fe合金等が挙げられる。炭素材料の例としては、上述したとおり、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、還元酸化グラフェン、及びそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されず、その他の様々な炭素材料も用いることができる。炭素材料は、金属元素、及び/又は窒素、ホウ素、リン、硫黄等の他の元素をさらに含んでいるのが、炭素材料の触媒性能を向上する観点から好ましい。
【0029】
内部触媒層18に含まれる有機高分子としては、公知のバインダー樹脂を用いることができる。有機高分子の例としては、ブチラール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、セルロース類、ビニルアセタール系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられ、好ましくはブチラール系樹脂及びフッ素系樹脂である。
【0030】
内部触媒層18は、LDHセパレータ12との水酸化物イオンの授受を効率良く行うため、最外触媒層20よりも気孔率が低いことが望まれる。具体的には、内部触媒層18の気孔率は30~60%の気孔率であるのが好ましく、より好ましくは35~60%、さらに好ましくは40~55%である。同様の理由から、内部触媒層の平均気孔径は5μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.5~4μm、さらに好ましくは1~3μmである。内部触媒層18の気孔率及び平均気孔径の測定は、a)クロスセクションポリッシャ(CP)によりLDHセパレータを断面研磨し、b)SEM(走査電子顕微鏡)により、10,000倍の倍率で内部触媒層の断面イメージを2視野取得し、c)取得した断面イメージの画像データをもとに画像解析ソフト(例えばImage-J)を用いて、イメージ像を2値化し、d)2視野それぞれにつき各気孔の面積を求め、気孔率及び各気孔の気孔径を算出し、それらの平均値を内部触媒層の気孔率及び平均気孔径とすることにより行うことができる。なお、気孔径は、画像の1ピクセルあたりの長さを実寸から換算した後、各気孔が真円であると仮定し、画像解析から求めた各気孔の面積を円周率で除し、その平方根に2を乗じることにより算出することができ、気孔率は気孔に該当するピクセル数を全面積のピクセル数で割り、100を乗じることにより算出することができる。
【0031】
内部触媒層18の製造は、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、有機高分子、及び空気極触媒を含むペーストを作製し、それをLDHセパレータ12の表面に塗布することにより作製することができる。ペーストの作製は、水酸化物イオン伝導材料、導電性材料、及び空気極触媒の混合物に、有機高分子(バインダー樹脂)及び有機溶媒を適宜加えて、3本ロールミル等の公知の混練機を用いて行えばよい。有機溶媒の好ましい例としては、ブチルカルビトール、テルピネオール等のアルコール、及び酢酸ブチル等の酢酸エステル系溶媒、N―メチル―2-ピロリドンが挙げられる。また、ペーストのLDHセパレータ12への塗布は印刷により行うことができる。この印刷は公知の各種印刷法により行うことができるが、スクリーン印刷法により行うのが好ましい。
【0032】
空気極/セパレータ接合体10は、LDHセパレータ12と空気極層16との間に、水酸化物イオン伝導材料及び導電性材料を含む界面層14をさらに含んでいるのが好ましい。界面層14が、水酸化物イオン伝導材料及び導電性材料を含むことで、空気極層16とLDHセパレータ12の間での水酸化物イオンの授受がよりスムーズに行われ(すなわち反応抵抗が低くなり)、それ故充放電性能の更なる向上を図ることできる。界面層14に含まれる水酸化物イオン伝導材料は、水酸化物イオン伝導性を有するものであれば特に限定されず、LDH、LDH様化合物、及びアニオン伝導性高分子が例示されるが、好ましくはLDH及び/又はLDH様化合物である。界面層14に含まれる水酸化物イオン伝導材料(例えばLDH及び/又はLDH様化合物)は複数の板状粒子13の形態を有するのが好ましく、より好ましくは、
図2に概念的に示されるように、複数の板状粒子13がLDHセパレータ12の主面に垂直又は斜めに結合している。特に、LDH及び/又はLDH様化合物のような水酸化物イオン伝導材料の板状粒子13は板面方向(LDHの場合(003)面方向)に水酸化物イオンが伝導する特性を有するため、板状粒子13がLDHセパレータ12の主面に垂直又は斜めに結合していることで、空気極層16とLDHセパレータ12との間での界面抵抗が小さくなるものと考えられる。特に、公知の手法に従って作製したLDHセパレータ12の表面の微構造を観察すると、
図2に示されるように、LDH板状粒子13がLDHセパレータ12の主面に垂直又は斜めに結合しているのが典型的であり、本発明においてはそのような配向状態の板状粒子(水酸化物イオン伝導材料)と導電性材料がLDHセパレータ12と空気極層16の間に存在することで界面抵抗を有意に下げることができる。したがって、界面層14に含まれる水酸化物イオン伝導材料として、LDHセパレータ12に含まれるLDH及び/又はLDH様化合物と同種の材料を採用することで、LDHセパレータ12の作製時に界面層14を構成するためのLDH板状粒子13を同時に準備できる。一方、界面層14に含まれる導電性材料は、炭素材料を含むのが好ましい。炭素材料の好ましい例としては、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、還元酸化グラフェン、及びそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されず、その他の様々な炭素材料も用いることができる。界面層14は、LDHセパレータ12の板状粒子13が垂直又は斜めに結合した表面に、炭素材料を含むスラリーや溶液(例えばグラフェンインク等のカーボンインク)を塗布することにより作製してもよい。あるいは、内部触媒層18を設ける場合には、内部触媒層18とLDHセパレータ12を密着させて、LDHセパレータ12表面の板状粒子13を内部触媒層18内に食い込ませることにより界面層14を作製してもよく、この場合には、板状粒子13が内部触媒層18内に食い込んだ部分が界面層14を構成することになる。
【0033】
前述のとおり、空気極/セパレータ接合体10は金属空気二次電池に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、空気極/セパレータ接合体10と、金属負極と、電解液とを備え、電解液がLDHセパレータ12を介して空気極層16と隔離されている、金属空気二次電池が提供される。金属負極として亜鉛極を用いた亜鉛空気二次電池が特に好ましい。また、金属負極としてリチウム極を用いたリチウム空気二次電池としてもよい。
【0034】
LDHセパレータ
本発明の好ましい態様によるLDHセパレータ12について以下に説明する。なお、以下の説明は亜鉛空気二次電池を想定した記載となっているが、本態様によるLDHセパレータ12はリチウム空気二次電池等の他の金属空気二次電池にも適用可能である。前述したとおり、本態様のLDHセパレータ12は、
図3に概念的に示されるように、多孔質基材12aと、LDH及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物12bとを含む。なお、
図3においてLDHセパレータ12の上面と下面の間で水酸化物イオン伝導層状化合物12bの領域が繋がっていないように描かれているが、これは断面として二次元的に描かれているためであり、奥行きを考慮した三次元的にはLDHセパレータ12の上面と下面の間で水酸化物イオン伝導層状化合物12bの領域が繋がっており、それによりLDHセパレータ12の水酸化物イオン伝導性が確保されている。多孔質基材12aは高分子材料製であり、多孔質基材12aの孔を水酸化物イオン伝導層状化合物12bが塞いでいる。もっとも、多孔質基材12aの孔は完全に塞がれている必要はなく、残留気孔Pが僅かに存在しうる。このように高分子多孔質基材12aの孔を水酸化物イオン伝導層状化合物12bで塞いで高度に緻密化することで、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能なLDHセパレータ12を提供することができる。
【0035】
また、本態様のLDHセパレータ12は、水酸化物イオン伝導層状化合物12bの有する水酸化物イオン伝導性に基づき、セパレータとして要求される所望のイオン伝導性を備えることは勿論のこと、可撓性及び強度にも優れている。これは、LDHセパレータ12に含まれる高分子多孔質基材12a自体の可撓性及び強度に起因するものである。すなわち、高分子多孔質基材12aの孔が水酸化物イオン伝導層状化合物12bで十分に塞がれた形でLDHセパレータ12が緻密化されているため、高分子多孔質基材12aと水酸化物イオン伝導層状化合物12bとが高度に複合化された材料として渾然一体化しており、それ故、セラミックス材料である水酸化物イオン伝導層状化合物12bに起因する剛性や脆さが高分子多孔質基材12aの可撓性や強度によって相殺又は軽減されるといえる。
【0036】
本態様のLDHセパレータ12は残留気孔P(水酸化物イオン伝導層状化合物12bで塞がれていない気孔)が極めて少ないものであることが望まれる。残留気孔Pに起因して、LDHセパレータ12は、例えば0.03%以上1.0%未満の平均気孔率を有しており、好ましくは0.05%以上0.95%以下、より好ましくは0.05%以上0.9%以下、さらに好ましくは0.05~0.8%、最も好ましくは0.05~0.5%である。上記範囲内の平均気孔率であると、多孔質基材12aの孔が水酸化物イオン伝導層状化合物12bで十分に塞がれて極めて高度な緻密性をもたらし、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。また、有意に高いイオン伝導率を実現することができ、LDHセパレータ12が水酸化物イオン伝導緻密セパレータとしての十分な機能を呈することができる。平均気孔率の測定は、a)クロスセクションポリッシャ(CP)によりLDHセパレータを断面研磨し、b)FE-SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)により50,000倍の倍率で機能層の断面イメージを2視野取得し、c)取得した断面イメージの画像データをもとに画像検査ソフト(例えばHDevelop、MVTecSoftware製)を用いて2視野それぞれの気孔率を算出し、d)得られた気孔率の平均値を求めることにより行うことができる。
【0037】
LDHセパレータ12は水酸化物イオン伝導層状化合物12bを含むセパレータであり、亜鉛二次電池に組み込まれた場合に、正極板と負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するものである。すなわち、LDHセパレータ12は水酸化物イオン伝導緻密セパレータとしての機能を呈する。したがって、LDHセパレータ12はガス不透過性及び/又は水不透過性を有する。よって、LDHセパレータ12はガス不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、LDHセパレータ12がガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDHセパレータ12が気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性又はガス透過性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDHセパレータ12は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。LDHセパレータ12は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板及び負極板における充放電反応を実現することができる。
【0038】
LDHセパレータ12は、単位面積あたりのHe透過度が3.0cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは2.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。He透過度が3.0cm/min・atm以下であるセパレータは、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。このように本態様のセパレータは、Zn透過が顕著に抑制されることで、亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導緻密セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH2分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもH2ガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価4に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0039】
LDHセパレータ12においては、LDH及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物12bが多孔質基材12aの孔を塞いでいる。一般的に知られているように、LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。LDHの中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH-及び/又はCO3
2-を含む。また、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。
【0040】
一般的に、LDHは、M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)の基本組成式で代表されるものとして知られている。上記基本組成式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH-及びCO3
2-が挙げられる。したがって、上記基本組成式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An-がOH-及び/又はCO3
2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である。もっとも、上記基本組成式は、一般にLDHに関して代表的に例示される「基本組成」の式にすぎず、構成イオンを適宜置き換え可能なものである。例えば、上記基本組成式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn-の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0041】
例えば、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含むものであってもよい。中間層は、上述のとおり、陰イオン及びH2Oで構成される。水酸化物基本層と中間層の交互積層構造自体は一般的に知られるLDHの交互積層構造と基本的に同じであるが、本態様のLDHは、LDHの水酸化物基本層をNi、Al、Ti及びOH基を含む所定の元素ないしイオンで構成することで、優れた耐アルカリ性を呈することができる。その理由は必ずしも定かではないが、本態様のLDHは、従来はアルカリ溶液に溶出しやすいと考えられていたAlが、Ni及びTiとの何らかの相互作用によりアルカリ溶液に溶出しにくくなるためと考えられる。そうでありながらも、本態様のLDHは、アルカリ二次電池用セパレータとしての使用に適した高いイオン伝導性も呈することができる。LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。不可避不純物は製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合には、対応するLDHは、一般式:Ni2+
1-x-yAl3+
xTi4+
y(OH)2An-
(x+2y)/n・mH2O(式中、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0042】
LDH様化合物は、LDHとは呼べないかもしれないがそれに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、好ましくは、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む。このように、従来のLDHの代わりに、水酸化物イオン伝導物質として、少なくともMg及びTiを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるLDH様化合物を用いることにより、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な水酸化物イオン伝導セパレータを提供することができる。したがって、好ましいLDH様化合物は、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、所望によりY及び所望によりAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物であり、特に好ましくはMg、Ti、Y及びAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0043】
LDH様化合物はX線回折により同定することができる。具体的には、LDHセパレータは、その表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びH2Oが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883~1.3nmである。
【0044】
エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、LDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0045】
前述したとおり、LDHセパレータ12は水酸化物イオン伝導層状化合物12bと多孔質基材12aとを含み(典型的には多孔質基材12a及び水酸化物イオン伝導層状化合物12bからなり)、LDHセパレータ12は水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)水酸化物イオン伝導層状化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。水酸化物イオン伝導層状化合物12bは高分子多孔質基材12aの厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。LDHセパレータの厚さは、好ましくは3~80μmであり、より好ましくは3~60μm、さらに好ましくは3~40μmである。
【0046】
多孔質基材12aは高分子材料製である。高分子多孔質基材12aには、1)可撓性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)の可撓性に由来する利点を活かして、5)高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータを簡単に折り曲げる又は封止接合することができるとの利点もある。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。より好ましくは、加熱プレスに適した熱可塑性樹脂という観点から、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せ等が挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。多孔質基材が高分子材料で構成される場合、水酸化物イオン伝導層状化合物が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔が水酸化物イオン伝導層状化合物で埋まっている)のが特に好ましい。このような高分子多孔質基材として、市販の高分子微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0047】
本態様のLDHセパレータは、(i)高分子多孔質基材を用いて公知の方法(例えば特許文献1~3を参照)に従い水酸化物イオン伝導層状化合物含有複合材料を作製し、(ii)この水酸化物イオン伝導層状化合物含有複合材料をプレスすることにより製造することができる。プレス手法は、例えばロールプレス、一軸加圧プレス、CIP(冷間等方圧加圧)等であってよく、特に限定されないが、好ましくはロールプレスである。このプレスは加熱しながら行うのが高分子多孔質基材を軟化させることで、多孔質基材の孔を水酸化物イオン伝導層状化合物で十分に塞ぐことができる点で好ましい。十分に軟化する温度として、例えば、ポリプロピレンやポリエチレンの場合は60~200℃で加熱するのが好ましい。このような温度域でロールプレス等のプレスを行うことで、LDHセパレータの残留気孔に由来する平均気孔率を大幅に低減することができる。その結果、LDHセパレータを極めて高度に緻密化することができ、それ故、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。ロールプレスを行う際、ロールギャップ及びロール温度を適宜調整することで残留気孔の形態を制御することができ、それにより所望の緻密性ないし平均気孔率のLDHセパレータを得ることができる。
【0048】
プレスされる前の水酸化物イオン伝導層状化合物含有複合材料(すなわち粗LDHセパレータ)の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDH含有機能層及び複合材料(すなわちLDHセパレータ)の製造方法(例えば特許文献1~3を参照)の諸条件を適宜変更することにより作製することができる。例えば、(1)多孔質基材を用意し、(2)多孔質基材に酸化チタンゾル或いはアルミナ及びチタニアの混合ゾルを塗布して熱処理することで酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を形成させ、(3)ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させ、(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、水酸化物イオン伝導層状化合物含有機能層を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させることにより、水酸化物イオン伝導層状化合物含有機能層及び複合材料(すなわちLDHセパレータ)を製造することができる。特に、上記工程(2)において酸化チタン層或いはアルミナ・チタニア層を多孔質基材に形成することで、水酸化物イオン伝導層状化合物の原料を与えるのみならず、水酸化物イオン伝導層状化合物結晶成長の起点として機能させて多孔質基材の中に高度に緻密化された水酸化物イオン伝導層状化合物含有機能層をムラなく均一に形成することができる。また、上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することにより水酸化物イオン伝導層状化合物を得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型の水酸化物イオン伝導層状化合物を得ることができる。
【0049】
特に、多孔質基材が高分子材料で構成され、機能層が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている複合材料(すなわちLDHセパレータ)を作製する場合、上記(2)におけるアルミナ及びチタニアの混合ゾルの基材への塗布を、混合ゾルを基材内部の全体又は大部分に浸透させるような手法で行うのが好ましい。こうすることで最終的に多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔を水酸化物イオン伝導層状化合物で埋めることができる。好ましい塗布手法の例としては、ディップコート、ろ過コート等が挙げられ、特に好ましくはディップコートである。ディップコート等の塗布回数を調整することで、混合ゾルの付着量を調整することができる。ディップコート等により混合ゾルが塗布された基材は、乾燥させた後、上記(3)及び(4)の工程を実施すればよい。
【実施例】
【0050】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0051】
例A1
LDHセパレータを以下の手順で作製し、その評価を行った。
【0052】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、2.0cm×2.0cmの大きさになるように切り出した。
【0053】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M6、多木化学株式会社製)をTi/Al(モル比)=2となるように混合して混合ゾルを作製した。混合ゾルを、上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップコートは、混合ゾル100mlに基材を浸漬させてから垂直に引き上げ、90℃の乾燥機中で5分間乾燥させることにより行った。
【0054】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O、関東化学株式会社製、及び尿素((NH2)2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。0.015mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO3
-(モル比)=16の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0055】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で24時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、多孔質基材の孔内にLDHを形成させた。こうして、LDHを含む複合材料を得た。
【0056】
(5)ロールプレスによる緻密化
上記LDHを含む複合材料を、1対のPETフィルム(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)、厚さ40μm)で挟み、ロール回転速度3mm/s、ロール温度120℃、ロールギャップ60μmにてロールプレスを行い、LDHセパレータを得た。
【0057】
(6)評価結果
得られたLDHセパレータに対して以下の評価を行った。
【0058】
評価1:LDHセパレータの同定
X線回折装置(リガク社製、RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10~70°の測定条件で、LDHセパレータの結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。本例のLDHセパレータは、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
【0059】
評価2:厚さの測定
マイクロメータを用いてLDHセパレータの厚さを測定した。3箇所で厚さを測定し、それらの平均値をLDHセパレータの厚さとして採用した。その結果、本例のLDHセパレータの厚さは13μmであった。
【0060】
評価3:平均気孔率測定
クロスセクションポリッシャ(CP)により、LDHセパレータを断面研磨し、FE-SEM(ULTRA55、カールツァイス製)により、50,000倍の倍率でLDHセパレータの断面イメージを2視野取得した。この画像データをもとに、画像検査ソフト(HDevelop、MVTecSoftware製)を用いて、2視野それぞれの気孔率を算出し、それらの平均値をLDHセパレータの平均気孔率とした。その結果、本例のLDHセパレータの平均気孔率は0.8%であった。
【0061】
評価4:He透過測定
He透過性の観点からLDHセパレータの緻密性を評価すべく、He透過試験を以下のとおり行った。まず、
図4A及び
図4Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持されたLDHセパレータ318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0062】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、LDHセパレータ318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、LDHセパレータ318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0063】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持されたLDHセパレータ318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1~30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm3/min)、Heガス透過時にLDHセパレータに加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm2)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm3/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05~0.90atmの範囲内となるように供給された。その結果、LDHセパレータの単位面積あたりのHe透過度は0.0cm/min・atmであった。
【0064】
評価5:セパレータ表面の微構造観察
LDHセパレータの表面をSEMで観察したところ、
図5に示されるように、無数のLDH板状粒子がLDHセパレータの主面に垂直又は斜めに結合している様子が観察された。
【0065】
例B1(参考)
例A1で作製したLDHセパレータ上に界面層及び最外触媒層の2層を備えた、空気極/セパレータ接合体を以下の手順で作製し、その評価を行った。
【0066】
(1)最外触媒層の作製
(1a)導電性多孔質基材への酸化鉄ゾルコート
イオン交換水で希釈して濃度5重量%に調整した酸化鉄ゾル(多木化学株式会社製、Fe-C10、酸化鉄濃度10重量%)10mlをビーカーに入れ、その中にカーボンペーパー(東レ製、TGP-H-060、厚さ200μm)を浸漬させた。このビーカーに対して真空引きを行い、カーボンペーパー内へ酸化鉄ゾルを十分に浸透させた。ビーカーからピンセットを用いてカーボンペーパーを引き上げ、80℃で30分間乾燥させて、酸化鉄粒子が付着したカーボンペーパーを基材として得た。
【0067】
(1b)原料水溶液の作製
原料として、硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O、関東化学株式会社製、及び尿素((NH2)2CO、三井化学株式会社製)を用意した。0.03mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素を0.96mol/lとなるよう尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0068】
(1c)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(1b)で作製した原料水溶液と上記(1a)で作製した基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度120℃で20時間水熱処理を施すことにより基材内部繊維表面にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、80℃で30分乾燥させて、最外触媒層を空気極層として得た。得られた最外触媒層の微細構造をSEMで観察したところ、
図6A~6Cに示される画像が得られた。
図6Bは、
図6Aに示されるカーボンペーパーを構成するカーボン繊維表面の拡大画像であり、
図6Cは
図6Aに示されるカーボン繊維の表面付近の断面拡大画像である。これらの図から、カーボンペーパーを構成するカーボン繊維の表面に無数のLDH板状粒子が垂直又は斜めに結合し、かつ、それらのLDH板状粒子が互いに連結している様子が観察された。
【0069】
得られた最外触媒層の気孔率を水銀圧入法により測定したところ、76%であった。
【0070】
(2)最外触媒層とLDHセパレータとの接合
エタノール(関東化学株式会社製、純度99.5%)にカーボン粉末(デンカ株式会社製、デンカブラック)を5重量%添加し、超音波で分散させて、カーボンスラリーを作製した。例A1で得られたLDHセパレータ上に、得られたスラリーをスピンコートで塗布した後に、最外触媒層(空気極層)を載せた。最外触媒層の上に重しを乗せて大気中80℃で2時間乾燥させた。こうして、LDHセパレータ上に最外触媒層(厚さ200μm)で構成される空気極層を形成した。このとき、LDHセパレータと空気極層との間には(LDHセパレータに由来する)LDH板状粒子と(カーボンスラリー由来の)カーボンを含む界面層(厚さ0.2μm)が同時に形成された。すなわち、空気極/セパレータ接合体を得た。
【0071】
(3)評価セルの組み立て及び評価
空気極/セパレータ接合体のLDHセパレータ側に金属亜鉛板を負極として積層した。得られた積層物を、LDHセパレータの外周部に封止部材を密着可能に咬ませた状態で押さえ冶具で挟み込み、ねじで堅く固定した。この押さえ冶具は、酸素導入口を空気極側に、電解液を導入可能な注液口を金属亜鉛板側に有するものである。こうして得られた組立品の負極側の部分に、酸化亜鉛を飽和させた5.4MのKOH水溶液を加えて、評価セルとした。
【0072】
電気化学測定装置(北斗電工株式会社製、HZ-Pro S12)を用いて評価セルの充放電特性を以下の条件:
・空気極ガス:水蒸気飽和(25℃)酸素(流量200cc/min)
・充放電電流密度:2mA/cm
2
・充放電時間:10分充電/10分放電
測定した。結果は、
図7に示されるとおりであった。
図7から、本例で作製した評価セル(亜鉛空気二次電池)は、空気極層に電解液が存在しない(それ故本来的には抵抗が高くなりやすい)構成であるにもかかわらず、充電電圧と放電電圧の差が約1.0Vと小さく(すなわち抵抗が低く)、高い充放電効率を実現できることが分かる。
【0073】
例B2
例A1で作製したLDHセパレータ上に界面層、内部触媒層及び最外触媒層の3層を備えた、空気極/セパレータ接合体を以下の手順で作製し、その評価を行った。
【0074】
(1)最外触媒層の作製
例B1の(1)と同様にして最外触媒層を作製した。
【0075】
(2)内部触媒層の作製
LDH粉末(ゾルゲル法により作製されたNi-Fe-LDH粉末)19重量部及びカーボンナノチューブ(昭和電工株式会社製、VGCF(R)-H)20重量部に、ブチラール樹脂11重量部及びブチルカルビトール50重量部を加え、3本ロールミルで混練してペーストとした。このペーストを、例A1で作製されたLDHセパレータの表面にスクリーン印刷により塗布して、内部触媒層を形成した。
【0076】
(3)空気極層の作製
上記(2)で形成した内部触媒層上に、ペースト(内部触媒層)が乾かないうちに、上記(1)で作製した最外触媒層を載せ、その上に重しを乗せて大気中80℃で30分間乾燥させた。こうして、LDHセパレータ上に内部触媒層(厚さ10μm)及び最外触媒層(厚さ200μm)で構成される空気極層を形成した。このとき、LDHセパレータと空気極層との間には(LDHセパレータ由来の)LDH板状粒子と(内部触媒層由来の)LDH粉末及びカーボンナノチューブを含む界面層(厚さ0.2μm)が同時に形成された。すなわち、空気極/セパレータ接合体を得た。得られた内部触媒層の断面微構造をSEMで観察したところ、
図8に示される画像が得られた。
【0077】
得られた空気極/セパレータ接合体における内部触媒層の気孔率及び平均気孔径を以下のとおり測定したところ、気孔率が48%であり、平均気孔径が1.34μmであった。
【0078】
(気孔率及び平均気孔径の測定)
クロスセクションポリッシャ(CP)により、空気極/セパレータ接合体を断面研磨し、SEM(日本電子株式会社製、JSM-6610LV))により、10,000倍の倍率で内部触媒層の断面イメージを2視野取得した。この画像データをもとに、画像解析ソフト(Image-J)を用いて、イメージ像を2値化し、2視野それぞれにつき気孔率及び各気孔の気孔径を算出し、それらの平均値を内部触媒層の気孔率及び平均気孔径とした。
【0079】
(4)評価セルの組み立て及び評価
例B1の(3)と同様にして、評価セルの組み立て及び充放電特性の評価を行った。結果は、
図9に示されるとおりであった。
図9から、本例で作製した評価セル(亜鉛空気二次電池)は、空気極層に電解液が存在しない(それ故本来的には抵抗が高くなりやすい)構成であるにもかかわらず、充電電圧と放電電圧の差が約0.8Vと小さく(すなわち抵抗が低く)、高い充放電効率を実現できることが分かる。特に、この充電電圧と放電電圧の差である約0.8Vは、内部触媒層を有しない例B1の評価セルにおける充電電圧と放電電圧の差(約1.0V)よりも小さいことから、内部触媒層を界面層と最外触媒層との間に介在させることで、より高い充放電効率を実現できることが分かる。
【0080】
例B3(比較)
最外触媒層を形成しなかったこと以外は例B2と同様にして、LDHセパレータ上に界面層及び内部触媒層の2層を備えた、空気極/セパレータ接合体を作製し、その評価を行った。結果は、
図10に示されるとおりであった。
図10から、本例で作製した外部触媒層を有しない構成の評価セル(亜鉛空気二次電池)は、充電電圧と放電電圧の差が約1.4Vと大きく(すなわち抵抗が高く)、外部触媒層を有する構成の例B1及びB2の評価セルよりも充放電効率に劣ることが分かる。
【0081】
例B4
最外触媒層の作製(上記(1))を以下のように行ったこと以外は例B2と同様にして、LDHセパレータ上に界面層、内部触媒層及び最外触媒層の3層を備えた、空気極/セパレータ接合体を作製し、その評価を行った。
【0082】
(最外触媒層の作製)
原料として、塩化ニッケル六水和物(NiCl2・6H2O、株式会社高純度化学研究所製)、塩化鉄六水和物(FeCl3・6H2O、関東化学株式会社製)、塩化バナジウム(VCl3、キシダ化学株式会社製)、超純水(H2O、メルクミリポアMilli-Q Advantage装置で製造)、エタノール(C2H5OH、関東化学株式会社製)、アセチルアセトン(CH3COCH2COCH3、関東化学株式会社製)、及びプロピレンオキシド(C3H6O、関東化学株式会社製)を用意した。超純水5mlとエタノール7.5mlを密閉容器に入れて混合し、塩化ニッケル六水和物12.5mmol、塩化鉄六水和物1.25mmol、及び塩化バナジウム5mmolを秤量してビーカーに入れて攪拌して、金属塩が溶解した溶液を得た。得られた溶液にアセチルアセトンを650μl加えて30分間攪拌した後、プロピレンオキシド6.55mlを加えて1分間攪拌し、カーボンペーパーを浸漬させて容器を密閉した。そのまま室温で24時間静置し、触媒(Ni-Fe-V-LDH)を担持した基材を最外触媒層として得た。得られた最外触媒層の気孔率を水銀圧入法により測定したところ、62%であった。
【0083】
(評価結果)
結果は、
図11に示されるとおりであった。
図11から、本例で作製した評価セル(亜鉛空気二次電池)は、空気極層に電解液が存在しない(それ故本来的には抵抗が高くなりやすい)構成であるにもかかわらず、充電電圧と放電電圧の差が約0.8Vと小さく(すなわち抵抗が低く)、高い充放電効率を実現できることが分かる。特に、この充電電圧と放電電圧の差である約0.8Vは、内部触媒層を有しない例B1の評価セルにおける充電電圧と放電電圧の差(約1.0V)よりも小さいことから、内部触媒層を界面層と最外触媒層との間に介在させることで、より高い充放電効率を実現できることが分かる。