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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】光半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20221216BHJP
   H01S 5/227 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H01L21/302 102
H01L21/302 101B
H01S5/227
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021528790
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2019025627
(87)【国際公開番号】W WO2020261493
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】惠良 淳史
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-053630(JP,A)
【文献】特開2003-282455(JP,A)
【文献】特開2013-222804(JP,A)
【文献】特開2002-057142(JP,A)
【文献】特開2005-150181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01S 5/227
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に半導体層を形成する工程と、
前記半導体層の一部をエッチングして、リッジ部を形成するエッチング工程と、
結晶成長の原料ガスとエッチングガスを供給しながら、前記エッチングした半導体層の表面への付着物を除去するクリーニング工程と、
前記クリーニング工程での温度よりも高い処理温度で、前記リッジ部の両側に、電流ブロック層を形成する結晶成長工程と、
を含むことを特徴とする光半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記クリーニング工程は、加熱温度の範囲が、400℃以上、600℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスは、第一の原料ガスと第二の原料ガスを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記クリーニング工程と前記結晶成長工程との間の昇温工程では、前記第一の原料ガスを供給することを特徴とする請求項3に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第一の原料ガスはV族のガスであり、前記第二の原料ガスはIII族のガスであることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記エッチングガスは、ハロゲン系のガスであることを特徴とする請求項5に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記クリーニング工程は、前記結晶の膜厚の変動速度が0より大きく、かつ、前記膜厚の増加量が、0以上、100nm未満の範囲となることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記クリーニング工程は、前記供給するガスに、前記基板と異なる導電型となるドーパントを有するガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記クリーニング工程は、前記供給するガスに、半絶縁性のドーパントを有するガスを含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の光半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、光半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーダイオードや光変調器に埋め込み型の構造を用いる光半導体装置の製造方法において、半導体をドライエッチングすると、エッチング残渣としてSi系の反応生成物が発生することが知られている。また、薬液にてこのSi残渣を除去したとしても、その後、ウエハを結晶成長のためのチャンバに移動する際、大気中のSiが付着してしまい、十分に正常な表面を得ることができない。レーザーダイオードの最大光出力を大きく低下させないためには、リッジ側面のSi濃度を1.0E17/cm以下とすることが重要である。
【0003】
これに対し、特許文献1では、インサイチュエッチング(in-situ etching)として、結晶成長装置のチャンバ内で、基板をアニールしながらハロゲン系の反応性ガスを供給する方法が開示されている。ハロゲン系ガスを単純に供給するだけではSiを完全に除去できないため、アニールを行う方法となっている。一方、特許文献2では、アニールを用いる方法ではなく、エッチングガスと結晶成長原料の両方を供給することにより、Siをより効率的に除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-222804号公報(段落0023)
【文献】特開2003-282455号公報(段落0079、表1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、高温で保持するというアニールを実施することにより、リッジの形状が崩れるため、素子の特性劣化および製造安定性の低下が生じるという問題があった。
【0006】
また、特許文献2の方法でも、平坦なウエハ表面ではなくリッジ形成後のウエハに適用した場合は、クリーニング時にリッジ側面が優先的にエッチングされてしまうため、クリーニング効果を上げるために長時間クリーニングを実施すればするほど、リッジ形状が崩れ、素子特性の大幅な劣化を招くという問題があった。さらに、成長レートからエッチングレートを引いた値である膜厚変動速度が0付近となるとき最もクリーニング効果が高いという原理において、リッジ底面の膜厚変動速度を0とした場合、リッジ側面の膜厚変動速度は0よりもかなり小さい値となるため、リッジ側面のクリーニング効果を十分に発揮できないという問題があった。
【0007】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、ウエハにリッジが形成されている場合であっても、リッジの形状を保った状態でのクリーニングを導入できる光半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される光半導体装置の製造方法は、基板の表面に半導体層を形成する工程と、前記半導体層の一部をエッチングして、リッジ部を形成するエッチング工程と、結晶成長の原料ガスとエッチングガスを供給しながら、前記エッチングした半導体層の表面への付着物を除去するクリーニング工程と前記クリーニング工程での温度よりも高い処理温度で、前記リッジ部の両側に、電流ブロック層を形成する結晶成長工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願によれば、結晶成長の原料ガスとエッチングガスを供給しながら、結晶成長工程での温度よりも低い処理温度で、エッチングした半導体層の表面への付着物を除去するクリーニング工程を含むことで、リッジ形状を保った状態でクリーニングできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る光半導体装置の製造方法により製造された光半導体装置の構成を示す断面図である。
図2】実施の形態1に係る光半導体装置の製造方法の製造工程を示すフローチャート図である。
図3】実施の形態1に係る光半導体装置の製造方法の製造過程を示す断面図である。
図4】実施の形態1に係る光半導体装置の製造方法の製造過程を示す断面図である。
図5】実施の形態1に係る光半導体装置の製造方法の製造過程を示す断面図である。
図6】実施の形態1に係る光半導体装置の製造方法の製造過程を示す断面図である。
図7】実施の形態1に係る光半導体装置の製造方法による製造工程での温度プロファイルと供給ガスの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、本願の実施の形態1に係る光半導体装置101の構成を示す断面図である。図1に示すように、光半導体装置101は、n型InP基板10の上に、中央に凸部12aが設けられたn型InPクラッド層12、n型InPクラッド層12の凸部12aの上に、AlGaInAs活性層14、p型InPクラッド層16、と順次積層したリッジ部としての活性層リッジ20が設けられた構造を有する。活性層リッジ20の両側面は、n型InP電流ブロック層42をp型InP電流ブロック層41とp型InP電流ブロック層44で覆う電流ブロック層としての埋め込み層40で埋め込まれ、埋め込み層40および活性層リッジ20の表面は、p型InPクラッド層46が積層され、p型InPクラッド層46の表面は、p型InGaAsコンタクト層48が積層されている。
【0012】
次に、本願の実施の形態1に係る光半導体装置101の製造方法について説明する。図2は、光半導体デバイスである半導体レーザ素子の基本構造としての光半導体装置101の製造工程を示すフローチャート図である。図3から図7は、図2に対応する光半導体装置101の各製造工程を示す断面図である。図3は、基板上への半導体層の形成工程を示す。図4は、半導体層上へのマスク形成工程を示す。図5は、半導体層のエッチング工程を示す。図6は、埋め込み層の形成工程を示す。図7は、コンタクト層の形成工程を示す。
【0013】
まず最初に、図2のステップS201では(図3参照)、基板上への半導体層の形成工程として、n型InP基板10の上に、MOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相成長法)によりn型InPクラッド層12を形成する。続いて、n型InPクラッド層12の上に、AlGaInAs活性層14を形成する。次いで、AlGaInAs活性層14の上に、p型InPクラッド層16を形成する。
【0014】
続いて、図2のステップS202では(図4参照)、半導体層上へのマスク形成工程として、図3に示す半導体素子の表面のp型InPクラッド層16の上に、SiO層を形成した後、レジストパターンを用いたフォトエッチングにより、SiO層を所定のパターンにパターニングし、SiOマスク18を形成する。
【0015】
次いで、図2のステップS203では(図5参照)、半導体層のエッチング工程として、ウエハをRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)装置のチャンバ内へ搬送し、SiOマスク18をマスクとして半導体層の一部をエッチングし、垂直メサ部となる活性層リッジ20を形成する。エッチングには、SiとClを分子構造に含むガスと、Arガスとを用いる。SiとClを分子構造に含むガスとしては、例えばSiClを用いることができる。
【0016】
従来はこのエッチングによりSiの残渣が生じてしまい、その後ウエハを結晶成長のためのチャンバに移動する際、大気中のSiが付着するという問題があった。そこで、本願では、エッチング工程の後で、埋め込み層の形成工程の前に、活性層リッジ20の形状を保った状態でのクリーニングを実施することを特徴とする。
【0017】
続いて、図2のステップS204では(図5参照)、クリーニング工程として、エッチング後のウエハをMOCVD装置のチャンバへ移動し、半導体表面のクリーニング、すなわち、活性層リッジ20の側面およびn型InPクラッド層12の表面(メサ溝の底面)に付着したSiを除去する。
【0018】
クリーニング工程は、例えば、ウエハ温度560℃で実施する。クリーニング工程の温度は、結晶成長する際に、メサ溝の底面の成長レートとリッジ側面の成長レートがおおよそ等しくなる温度を選択する。後述するが、次の埋め込み層の形成工程では、結晶成長に最適な温度として、例えば620℃が用いられる。クリーニング工程はこの温度よりも低い温度にする必要がある。結晶成長に最適な温度より低い温度でないとメサ溝の底面の成長レートとリッジ側面の成長レートが等しくならないためである。
【0019】
クリーニング工程の温度範囲は、400℃以上、600℃以下が望ましい。600℃より高いと、結晶成長する際のリッジ底面の成長レートがリッジ側面の成長レートよりも高くなってしまい、400℃よりも低いと、結晶成長不可の温度であり、エッチングのみが行われてしまい、クリーニング効果を得ることができない。
【0020】
クリーニング工程の温度を、埋め込み層の形成工程の温度と等しくした場合、リッジ上部から側面のエッチングが進み、リッジ形状が崩れてしまう。本願の発明者は、リッジ形状が崩れる原理は次のようであると突き止めた。
【0021】
結晶成長に最適な温度では、メサ溝の底面の成長レートの方が、リッジ側面の成長レートよりも早くなる。これは、リッジ側面に供給されたガスの原子がメサ溝の底面に拡散するためである。
【0022】
一方、エッチングガスによるエッチングレートは、メサ溝の底面とリッジ側面で同等である。原料ガスとエッチングガスを同時に供給する場合の膜厚変動速度は、成長レートからエッチングレートを差し引いたものとなるため、この場合、リッジ側面の膜厚変動速度がメサ溝の底面に比べて負の方向に大きくなる。
【0023】
本願の発明者は、上記の、自らが突き止めた課題の原因を考慮し、この解決策を見出した。すなわち、結晶成長に最適な温度(埋め込み層の形成工程の温度)よりも低い温度でクリーニング工程を実施することで、リッジ側面とメサ溝の底面の膜厚変動を同等にすることができることを見出した。この原理は次のように説明できる。
【0024】
結晶成長に最適な温度よりも低い温度で成長を行う場合には、原子が拡散する距離が短くなり、メサ溝の底面への拡散が抑制され、メサ溝の底面とリッジ側面の成長レートが同等となる。一方、エッチングガスのエッチングレートは、低温でもメサ溝の底面とリッジ側面とで同等である。その結果、リッジ側面とメサ溝の底面の膜厚変動が同等となる。膜厚変動速度0付近でクリーニングを実施すれば、リッジ形状を維持したまま半導体表面のSiを除去し、リッジ側面と埋め込み層の界面のSi濃度を1.0E17/cm以下とすることが可能である。
【0025】
図7は、クリーニング工程(ステップS204)から埋め込み層の形成工程(ステップS205)にかけての温度プロファイルと供給ガスの関係を示す図である。
【0026】
クリーニング工程から、後述する埋め込み層の形成工程にかけて常にV族原料ガス(たとえばホスフィン(PH))を供給する。これは、V族原子が表面から脱離しないようにするための一般的な措置で、MOCVD装置内でウエハを加熱している際には常に供給される。
【0027】
クリーニング工程では、結晶成長原料であるIII族原料ガス(例えば、トリメチルインジウム((CH3)3In:TMI))と、ハロゲン系のエッチングガス(例えば、t-塩化ブチル((CH3)3CCl:TBCl))を供給する。III族原料ガスとエッチングガスを同時に供給することにより、脱離したSiが半導体表面に再付着することを抑制し、クリーニング効果を高めることができる。ここで、リッジ側面およびメサ溝の底面の膜厚変動が0付近となるように、原料ガスの供給量とエッチングガスの供給量を調整する。なお、供給するガスは図に記したものに限らず、たとえばエッチングガスにHClを使用するなどしてもよい。
【0028】
次いで、図2のステップS205では(図6参照)、埋め込み層の形成工程として、MOCVD装置内で、クリーニング工程でのウエハ温度から、例えば、620℃まで昇温し(ステップS205-1)、活性層リッジ20の両側に結晶成長させて(ステップS205-2)、埋め込み層40を形成する。
【0029】
昇温工程(ステップS205-1)では、III族原料ガスとエッチングガスは供給せず、結晶成長もエッチングも実施しない。昇温させる温度は、次に結晶成長させる半導体材料に対して最適な温度とする。結晶成長に最適な温度は、たとえば、InPは600~650℃、GaAsは650~750℃である。その他の半導体材料についても適宜最適な温度を選択すればよい。
【0030】
結晶成長工程(ステップS205-2)では、MOCVD法により活性層リッジ20の両側に、p型InP電流ブロック層41、n型InP電流ブロック層42、p型InP電流ブロック層44を順次結晶成長させることで埋め込み層40を形成する。
【0031】
続いて、図2のステップS206では(図1参照)、コンタクト層の形成工程として、SiOマスク18を除去した後、MOCVD法により、埋め込み層40および活性層リッジ20の表面に、p型InPクラッド層46を形成する。最後に、MOCVD法により、p型InPクラッド層46の表面に、p型InGaAsコンタクト層48を形成し、図1に示す光半導体装置101が完成する。
【0032】
なお、基板10をn型InPとしたが、p型InPであっても本願の効果を得ることができる。その場合は、クラッド層、ブロック層の各層、コンタクト層の導電型が上述したものとは反対のものとなる。また、基板を半絶縁性InPとしてもよい。その場合は、基板上のクラッド層の導電型構造が決まり、各層の導電型は適宜適切なものを用いる。
【0033】
また、ブロック層には高抵抗の層を用いてもよい。たとえばFeドープしたInPである。また、基板はInPに限ったものでもなく、例えばGaAsまたはGaNといった基板を用いてもよい。この場合は適宜GaAs系またはGaN系のエピタキシャル層を用いる。また、エッチング工程はRIE以外の方法でもよく、ウェットエッチングでも構わない。
【0034】
また、エッチング工程とクリーニング工程の間に、薬液処理等による表面清浄化を行ってもよい。ただし、その場合でも大気中でSiが付着するため、本願のクリーニング工程が不可欠である。その他、本願の重要な構成要素以外は所望の特性に合わせて実施例とは異なる構成となってもよい。
【0035】
以上のように、本実施の形態1に係る光半導体装置101の製造方法によれば、n型InP基板10の表面に半導体層を形成する工程と、前記半導体層の一部をエッチングして、活性層リッジ20を形成するエッチング工程と、結晶成長の原料ガスとエッチングガスを供給しながら、エッチングした半導体層の表面に付着したSiを除去するクリーニング工程と、前記クリーニング工程での温度よりも高い処理温度で、活性層リッジ20の両側に、埋め込み層40を形成する結晶成長工程とを含むようにしたので、リッジ形状を保った状態でクリーニングできる。
【0036】
実施の形態2.
実施の形態1では、膜厚変動速度を0付近としたが、実施の形態2では、膜厚変動速度を0より大きくなるように調節した場合について説明する。
【0037】
本願の実施の形態2に係る光半導体装置では、クリーニング工程において、膜厚変動速度を0より大きくする。例えば、0.05nm/secに調整する。この場合、十分なクリーニング効果を発揮するためにクリーニング時間を20分実施した場合でも、膜厚は60nmしか増大しない。この値であれば結晶性の低下は生じない。実施の形態2による光半導体装置のその他の製造方法については、実施の形態1の光半導体装置の製造方法と同様であり、その説明を省略する。
【0038】
膜厚変動速度を0より小さくすることは好ましくない。そうするとリッジ側面とメサ溝の底面が減少し、特にリッジ側面の膜厚減少が素子特性劣化に繋がるためである。すなわち、膜厚変動速度を0とするか、あるいは、ばらつきを考慮し、0より少し大きくなるように調整することが望ましい。
【0039】
クリーニング工程における膜厚の増加量は、0nm以上、100nm未満であることが望ましい。クリーニング工程にて100nm以上膜厚が増大してしまうと、低温で成長したことによる結晶性の低下が生じてしまう。
【0040】
したがって、クリーニング工程における膜厚の増加量が、0nm以上、100nm未満の範囲となるように膜厚変動速度を、原料ガス供給量、エッチング性ガス供給量、およびクリーニング時間を選択することにより調整する。
【0041】
このように、膜厚変動速度が0より大きい、例えば、0.05nm/secであれば、クリーニング効果を十分に得ることができるだけでなく、リッジ側面の膜厚減少を確実に抑制することができる。
【0042】
以上のように、本実施の形態2に係る光半導体装置の製造方法によれば、クリーニング工程が、結晶の膜厚変動速度が0より大きく、かつ、膜厚の増加量が、0以上、100nm未満の範囲となるようにしたので、リッジ側面と埋め込み層の界面のSi濃度を1.0E17/cm以下としながら、リッジ側面の膜厚減少を確実に抑制できるため、より安定に生産することが可能となる。
【0043】
なお、実施の形態1および実施の形態2において、クリーニング工程と昇温工程の間に低温で結晶成長を実施する工程を設けてもよい。低温で成長することによりリッジ側面に確実に結晶を付着させることができるため、ブロック層を安定して形成することできる。また、この目的を果たすために、昇温工程中に結晶成長を実施してもよい。ただし、これらは低温での成長となり、厚く成長すると結晶性が低下するため、低温での結晶成長、および昇温工程での結晶成長の膜厚は100nm以下とすることが望ましい。
【0044】
実施の形態3.
実施の形態3では、基板とは異なる導電型となるドーパントを供給しながらクリーニング工程を実施する場合について説明する。
【0045】
本願の実施の形態3に係る光半導体装置では、クリーニング工程において、基板とは異なる導電型となるドーパントを有するガスを、供給ガスに加える。実施の形態1および実施の形態2でのクリーニング工程に適用した場合、クリーニング時にp型InP電流ブロック層41と同じドーパントを供給することで、リッジ側面およびメサ溝の底面がp型InP電流ブロック層41と同じ導電型となり、埋め込み層40が形成された場合に、所望のブロック層効果を得ることができる。基板とは異なる導電型となるドーパントを有するガスとしては、p型基板を用いる場合には硫化水素(HS)、n型基板を用いる場合にはジエチル亜鉛((CZn:DEZn)が挙げられる。ただし、これに限るものではなく、その他のガスでも構わない。実施の形態3による光半導体装置のその他の製造方法については、実施の形態1および実施の形態2の光半導体装置の製造方法と同様であり、その説明を省略する。
【0046】
クリーニング工程にてアンドープの層が形成されてしまうと、ブロック効果が弱まり、特性が劣化する。これに対し、実施の形態3では、クリーニング工程でアンドープの層が形成されない。特に、実施の形態2のクリーニング工程に適用した場合、つまり、膜厚変動速度をプラスとした場合には、p型InP電流ブロック層41およびp型InP電流ブロック層44の一部をクリーニング工程で形成することになる。
【0047】
以上のように、本実施の形態3に係る光半導体装置の製造方法によれば、クリーニング工程が、供給するガスに、基板と異なる導電型となるドーパントを有するガスを含むようにしたので、クリーニング工程でアンドープの層が形成されず、所望のブロック層効果を得ることができる。
【0048】
実施の形態4.
実施の形態4では、高抵抗となるドーパントを供給しながらクリーニング工程を実施する場合について説明する。
【0049】
本願の実施の形態4に係る光半導体装置では、クリーニング工程において、高抵抗となる半絶縁性のドーパントを有するガスを、供給ガスに加える。クリーニング時に高抵抗となる半絶縁性のドーパントを供給することで、リッジ側面およびメサ溝の底面が高抵抗となり、埋め込み層が形成された場合に、所望のブロック層効果を得ることができる。高抵抗となる半絶縁性のドーパントを有するガスとしては、フェロセン(Fe(C:CpFe)が挙げられる。これを用いた場合、Feがドープされて高抵抗となる。実施の形態4による光半導体装置のその他の製造方法については、実施の形態1および実施の形態2の光半導体装置の製造方法と同様であり、その説明を省略する。
【0050】
実施の形態4では、埋め込み層に高抵抗の層を用いることで、本願を最も有効に適用することができる。なお、この場合はブロック層も高抵抗の層とするなど、所望の特性となるように適宜設計がなされる。
【0051】
以上のように、本実施の形態4に係る光半導体装置の製造方法によれば、クリーニング工程が、供給するガスに、半絶縁性のドーパントを有するガスを含むようにしたので、クリーニング工程で形成される層が高抵抗となり、所望のブロック層効果を得ることができる。
【0052】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0053】
10 n型InP基板、12 n型InPクラッド層、12a 凸部、14 AlGaInAs活性層、16 p型InPクラッド層、20 活性層リッジ、40 埋め込み層、41 p型InP電流ブロック層、42 n型InP電流ブロック層、44 p型InP電流ブロック層、101 光半導体装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7