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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】光造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/135 20170101AFI20221216BHJP
   B29C 64/255 20170101ALI20221216BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20221216BHJP
【FI】
B29C64/135
B29C64/255
B33Y30/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021530494
(86)(22)【出願日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 JP2020015899
(87)【国際公開番号】W WO2021005858
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019127324
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】木森 将仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 啓介
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-200881(JP,A)
【文献】特開平04-135827(JP,A)
【文献】特開2017-047603(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130734(WO,A1)
【文献】中国実用新案第206690537(CN,U)
【文献】国際公開第2018/146568(WO,A1)
【文献】特開2000-006249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも底面部(32)が透光性を有し、粉末材料(36)が混入された液状の光硬化性樹脂(12)が供給される樹脂槽(18)と、前記底面部を介して前記光硬化性樹脂に光(38、72)を照射することにより該光硬化性樹脂を硬化させて造形物(14)を形成する光照射機構(24)と、前記造形物を保持しつつ、前記光硬化性樹脂に対して接離可能に相対的に移動可能な保持部(26)とを備える光造形装置(10)において、
前記樹脂槽の一端部(40)に設けられ、前記光硬化性樹脂を前記樹脂槽に供給する樹脂供給部(20)と、
前記樹脂槽の他端部(42)に設けられ、前記樹脂槽に供給された前記光硬化性樹脂を排出する樹脂排出部(22)と、
をさらに備え、
前記樹脂槽は、少なくとも前記造形物の形成中、前記一端部から前記他端部に向かって傾斜して前記光硬化性樹脂を流動させており、
前記樹脂供給部には、少なくとも一層分の前記造形物を形成するために必要な深さの前記光硬化性樹脂を、前記一端部から前記他端部に向けて供給するための供給調整部(48)が設けられ、
前記光硬化性樹脂の流動方向に直交し、且つ、前記底面部に沿う方向において、前記供給調整部の幅は、前記保持部の幅よりも広く、
前記樹脂供給部から前記供給調整部までの部分には、前記光硬化性樹脂が貯留され、
前記供給調整部と前記底面部との間に形成された隙間により、所定の厚みの前記光硬化性樹脂が流動される、光造形装置。
【請求項2】
請求項1記載の光造形装置において、
前記光硬化性樹脂を貯留するタンク(28)と、
前記タンクから前記樹脂供給部に前記光硬化性樹脂を供給するための樹脂供給路(58)と、
前記樹脂排出部から前記タンクに前記光硬化性樹脂を回収するための樹脂回収路(62)と、
前記樹脂供給路及び前記樹脂回収路のうち、少なくとも一方に設けられ、前記光硬化性樹脂を圧送するポンプ(60、64)と、
前記光硬化性樹脂を所定温度に維持するヒータ(52)と、
をさらに備える、光造形装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光造形装置において、
前記樹脂槽が前記一端部から前記他端部に向けて水平方向に対して任意の角度(θ)で傾斜している場合に、前記光硬化性樹脂に対して前記保持部を上下方向に相対的に移動させる移動手段(56)をさらに備える、光造形装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の光造形装置において、
前記樹脂槽の前記一端部から前記他端部に向かう傾斜角度を任意の角度に調整可能な調整機構(44)をさらに備える、光造形装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光造形装置において、
前記樹脂槽内の前記光硬化性樹脂に振動を付与する振動付与部(54)をさらに備える、光造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の光硬化性樹脂に光を照射して該光硬化性樹脂を硬化させることにより造形物を形成する光造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、光造形技術を利用して、所望の製品を製造することが行われている。
【0003】
特許第3537161号公報には、金属粉末(粉末材料)が混入した液状の光硬化性樹脂をタンク(樹脂槽)内に貯留させ、外部から光硬化性樹脂に光を照射して該光硬化性樹脂を硬化させることにより三次元の造形物を形成した後、脱脂工程により造形物から樹脂を除去し、最後に、樹脂が除去された造形物を焼結させることにより所望の金属製品を得ることが開示されている。
【0004】
また、特許第4246220号公報には、光硬化性樹脂を貯留する造形容器(樹脂槽)とポンプとをパイプで接続し、該ポンプを駆動させて造形容器内の光硬化性樹脂を攪拌することにより、微粒子材料(粉末材料)と液状の光硬化性樹脂との分離を防止することが開示されている。
【発明の概要】
【0005】
ところで、光硬化性樹脂に混入する粉末材料の含有量を多くすると、液状の光硬化性樹脂の粘度が高くなり、流動性が低下する。これにより、光硬化性樹脂を貯留した状態で光造形を行う場合、粉末材料を均一に光硬化性樹脂に混合するための攪拌装置等が必要な上、高粘度の光硬化性樹脂を攪拌するために、該攪拌装置を高出力化しなければならない。この結果、攪拌装置を含めて光造形装置が大型化する。
【0006】
また、外部から樹脂槽に粉末材料を混合した光硬化性樹脂(以下、粉末材料を混合した混合物である光硬化性樹脂を、単に、「光硬化性樹脂」と呼称する場合がある。)を供給し、光の照射箇所(造形部)にまで該光硬化性樹脂を流し込む場合、該光硬化性樹脂は流動性が低いため、造形部に到達するまで時間がかかる。これにより、造形物の形成時間が長くなる。
【0007】
さらに、液状の光硬化性樹脂内の粉末材料を造形前に十分に混合攪拌しても、造形前に所定時間以上貯留させてしまうと、光硬化性樹脂の造形物内に存在する粉末材料が不均一となる。この結果、該造形物を焼結して得られる最終製品の形状精度が低下すると共に、該最終製品の機械特性が低下する。
【0008】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、液状の光硬化性樹脂を攪拌する攪拌機構を光造形装置に設けなくても、該光硬化性樹脂内の粉末材料を均一に混合した状態に維持し、且つ、粉末材料を多量に混合しても、流動性の低下を防止することで、造形速度の向上を図り、さらに、形状精度が高く且つ機械特性の高い最終製品が得られることを可能にする光造形装置を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の態様は、少なくとも底面部が透光性を有し、粉末材料が混入された液状の光硬化性樹脂が供給される樹脂槽と、前記底面部を介して前記光硬化性樹脂に光を照射することにより該光硬化性樹脂を硬化させて造形物を形成する光照射機構と、前記造形物を保持しつつ、前記光硬化性樹脂に対して接離可能に相対的に移動可能な保持部とを備える光造形装置に関する。
【0010】
前記光造形装置は、前記樹脂槽の一端部に設けられ、前記光硬化性樹脂を前記樹脂槽に供給する樹脂供給部と、前記樹脂槽の他端部に設けられ、前記樹脂槽に供給された前記光硬化性樹脂を排出する樹脂排出部とをさらに備える。前記樹脂槽は、少なくとも前記造形物の形成中、前記一端部から前記他端部に向かって前記光硬化性樹脂を流動させる。
【0011】
本発明によれば、樹脂槽内で液状の光硬化性樹脂を貯留させることなく、樹脂槽内で該光硬化性樹脂を一方向に流動させながら造形物を形成する。これにより、樹脂槽内での光硬化性樹脂の攪拌が不要となる。しかも、少なくとも造形物の形成中は、粉末材料が混入された光硬化性樹脂が常時流動する。そのため、液状の光硬化性樹脂に粉末材料が高濃度に含有している場合でも、該光硬化性樹脂と粉末材料との分離を防止しつつ、液状の光硬化性樹脂の流動性の低下を回避することができる。また、液状の光硬化性樹脂内に粉末材料を均一に分散させた状態で樹脂槽に供給することができる。
【0012】
このように、樹脂槽内では、液状の光硬化性樹脂の滞留及び対流が発生しない。そのため、粉末材料が均一に分布した状態で液状の光硬化性樹脂に光を照射して、造形物を形成することができる。これにより、造形速度の向上を図りつつ、造形物内に粉末材料を均一に分布させることができる。この結果、造形物から形状精度が高く、且つ、機械特性が高い最終製品を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る光造形装置の概略構成図である。
図2図1の樹脂槽の断面図である。
図3図1の樹脂槽の平面図である。
図4図1の樹脂槽の具体的構成の一例を図示した側面図である。
図5図1の光照射機構の変形例を図示した一部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る光造形装置について好適な実施形態を例示し、添付の図面を参照しながら説明する。
【0015】
[1.本実施形態の構成]
本実施形態に係る光造形装置10は、図1に示すように、液状の光硬化性樹脂12に光を照射して該光硬化性樹脂12を硬化させることにより、三次元の造形物14を形成する装置である。すなわち、光造形装置10は、いわゆる3Dプリンタである。
【0016】
光造形装置10は、図1図3に示すように、樹脂槽18、樹脂供給部20、樹脂排出部22、光照射機構24、保持部26、タンク28及び制御部30を備える。
【0017】
樹脂槽18は、比較的浅い深さ(例えば、5mm程度の深さ)を有し、上方が開放された略矩形状の容器である。樹脂槽18の底面部32の中央部分には、ガラス等の透光性部材34が設けられている。透光性部材34の上面(光硬化性樹脂12に接する面)には、硬化した光硬化性樹脂12の剥離を容易にするため、不図示の難粘着性の被膜、例えば、フッ素被膜が塗布されている。
【0018】
樹脂槽18には、粉末材料36が混入された液状の光硬化性樹脂12が供給される。なお、粉末材料36は、後述する所望の最終製品を構成する金属材料の粉末である。また、液状の光硬化性樹脂12は、粉末材料36が混入することによりペースト状に形成され、光照射機構24から透光性部材34を介して照射される光(レーザ光38)によって硬化する。また、以下の説明では、便宜上、粉末材料36が混入した液状の光硬化性樹脂12を「光硬化性樹脂12」と呼称して説明する場合がある。
【0019】
樹脂槽18の一端部40(図1図3の左端部)には、樹脂槽18に光硬化性樹脂12を供給する樹脂供給部20が設けられている。一方、樹脂槽18の他端部42(図1図3の右端部)には、樹脂槽18内の光硬化性樹脂12を排出(回収)するための樹脂排出部22が設けられている。なお、本実施形態では、後述する調整機構44(図4参照)によって、樹脂槽18を一端部40から他端部42に向かって、傾斜角度θ(例えば、0°~15°の範囲内の任意の角度)で全体的に斜め下方に傾斜させることにより、樹脂槽18内において、樹脂供給部20(一端部40)から底面部32を介して樹脂排出部22(他端部42)に向かう光硬化性樹脂12の流動を発生させる。
【0020】
樹脂供給部20は、樹脂槽18の上面の一端部40側に配置されたプレート20aと、該プレート20aに対して上下方向に延び、プレート20aを貫通して樹脂槽18に連通するノズル20bとを有する。図1図3に示すように、ノズル20bは、プレート20aにおける樹脂槽18の一端側に設けられている。樹脂槽18の一端部40側には、図1の側面視及び図2の断面視で、ノズル20bの箇所から底面部32及び透光性部材34に向かって斜め下方に傾斜し、且つ、図3の平面視で、ノズル20bの箇所から底面部32及び透光性部材34に向かって拡開する傾斜部46が形成されている。
【0021】
樹脂供給部20におけるプレート20aの先端部には、樹脂槽18の一端部40から他端部42に向けて光硬化性樹脂12を供給する際、該光硬化性樹脂12の供給量を調整するための供給調整部48が設けられている。供給調整部48は、図1の側面視及び図2の断面視で略L字状の部材である。この場合、供給調整部48の先端部と樹脂槽18の底面部32との間には、所定幅の隙間dが形成されている。隙間dは、樹脂槽18の一端部40から他端部42に向かって液状の光硬化性樹脂12を流動させる際、少なくとも一層分(例えば、0.01mm~0.5mmの厚み)の造形物14を形成するために必要な量に応じた位置に設定されている。
【0022】
従って、傾斜部46、すなわち、ノズル20bから供給調整部48までの部分は、樹脂槽18における光硬化性樹脂12の流動方向の上流側で、該光硬化性樹脂12を貯留するチャンバとして機能する。この場合、図3に示すように、傾斜部46の供給調整部48側は、保持部26よりも幅広に設定されている。また、供給調整部48は、チャンバからの光硬化性樹脂12の流れを規制する隙間d(開口部)を備えた規制板として機能する。
【0023】
一方、樹脂排出部22は、樹脂槽18の上面の他端部42側に配置されたプレート22aと、該プレート22aに対して上下方向に延び、プレート22aを貫通して樹脂槽18に連通するノズル22bとを有する。図1図3に示すように、ノズル22bは、プレート22aにおける樹脂槽18の他端側に設けられている。樹脂槽18の他端部42側には、図1の側面視及び図2の断面視で、透光性部材34及び底面部32からノズル22bの箇所に向かって斜め上方に傾斜し、且つ、図3の平面視で、略矩形状の傾斜部50が形成されている。
【0024】
樹脂槽18の底面部32の下方には、樹脂槽18全体を加熱することにより、該樹脂槽18内の光硬化性樹脂12を所定温度(例えば、60℃~80℃)に加熱及び保温(維持)するためのヒータ52が設けられている。また、樹脂槽18の底面部32の下方には、樹脂槽18内の光硬化性樹脂12に振動を付与するための超音波振動子等の振動付与部54が設けられている。
【0025】
光照射機構24は、樹脂槽18の下方に配置され、レーザ光源24aとスキャナ24bとを有する。レーザ光源24aは、液状の光硬化性樹脂12が硬化するような所定の波長のレーザ光38(例えば、紫外線の波長の光)を出力する。スキャナ24bは、レーザ光源24aからのレーザ光38を、透光性部材34を介して液状の光硬化性樹脂12にスキャン(照射)する。
【0026】
保持部26は、樹脂槽18における透光性部材34の上方に設けられている。保持部26は、図1の側面視及び図2の断面視で、傾斜角度θに対応して底面部分が斜め下方に傾斜する略台形状に形成されている。保持部26の上端部には、ピストン等の昇降手段である移動手段56が連結されている。移動手段56によって保持部26が上下動することにより、保持部26は、透光性部材34の上面を流動する液状の光硬化性樹脂12に対して、接離可能に相対的に移動可能となる。
【0027】
なお、保持部26は、光硬化性樹脂12の流れに対し、底面部分が沈み込むように、該光硬化性樹脂12に接触している。また、保持部26は、全体が光硬化性樹脂12に沈み込まないように、比較的肉厚に形成されている。
【0028】
前述のように、スキャナ24bから透光性部材34を介してレーザ光38がスキャンされることで、液状の光硬化性樹脂12が硬化する。保持部26は、硬化した光硬化性樹脂12を保持する。移動手段56によって保持部26を光硬化性樹脂12に対して上下動させることで、所定形状の造形物14を形成することができる。
【0029】
タンク28には、粉末材料36が混入された液状の光硬化性樹脂12が貯留されている。タンク28の下端部と樹脂供給部20との間には、樹脂供給路58が接続されている。樹脂供給路58の途中には、供給ポンプ60が配設されている。一方、タンク28の上端部と樹脂排出部22との間には、樹脂回収路62が接続されている。樹脂回収路62の途中には、排出ポンプ64が配設されている。タンク28の上端部には、空気を圧送するエアポンプ66と、粉末材料36等の投入や、タンク28内の状況を観察するための覗き穴68が設けられている。
【0030】
なお、上述の構成は一例であり、供給ポンプ60、排出ポンプ64及びエアポンプ66に代えて、排出ポンプ64の位置に1つの真空ポンプを配設してもよい。この場合、該真空ポンプの負圧により、樹脂排出部22の光硬化性樹脂12を吸引してタンク28内に戻し、該タンク28内を減圧することで、光硬化性樹脂12内の気泡を除去して、光造形の精度を向上させることができる。
【0031】
制御部30は、光造形装置10を全体的に制御するコンピュータであって、不図示の記憶部に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、光照射機構24(レーザ光源24a、スキャナ24b)、ヒータ52、振動付与部54、移動手段56、供給ポンプ60、排出ポンプ64及びエアポンプ66の駆動を制御する。
【0032】
図1図3では、光造形装置10の構成を概念的に図示している。図4は、光造形装置10のうち、樹脂槽18周辺の具体的構成の一例を図示した側面図である。
【0033】
図4において、略矩形状の載置台70には、光照射機構24が配設されている。光照射機構24は、レーザ光源24aと、レーザ光源24aから水平方向に出力されるレーザ光38を上方に屈曲させる屈曲部24dと、屈曲したレーザ光38を光束72として上方に投影するプロジェクタ24eとを有する。すなわち、図4の例では、図1のスキャナ24bを屈曲部24d及びプロジェクタ24eに置き換えている。
【0034】
載置台70の上面には、傾斜角度θを任意の角度に調整可能な調整機構44が配設されている。調整機構44は、載置台70から上方に延びる支柱74に支持され、水平方向に延びるベース44aと、ベース44aに対して任意の角度に傾斜可能な傾斜プレート44bとを有する。傾斜プレート44bから上方に延びる複数の支柱76によって支持プレート44cが支持され、該支持プレート44cに樹脂槽18が配設されている。
【0035】
この場合、ベース44aは、一端部側と他端部側とが上方に突出しており、一端部側、他端部側及び中央部には、略円弧状の角度調整溝78が複数形成されている。傾斜プレート44bには、不図示の孔を挿通するボルト80が複数設けられている。複数のボルト80は、角度調整溝78にも挿通している。この場合、複数のボルト80を緩めた状態で、複数の角度調整溝78に沿い、ベース44aに対して傾斜プレート44bを回動させた後、複数のボルト80を締め付けると、ベース44aに対して傾斜プレート44bを所望の傾斜角度θに固定することができる。前述のように、樹脂槽18は、支持プレート44c及び複数の支柱76を介して傾斜プレート44bに支持されている。そのため、ベース44aに対して傾斜プレート44bを傾斜角度θに調整すれば、樹脂槽18を水平方向に対して傾斜角度θに傾斜させることができる。
【0036】
なお、図4は、調整機構44の一構成例である。本実施形態では、水平方向に対して樹脂槽18を所望の傾斜角度θに傾斜可能であれば、調整機構44は、どのような構成であってもよい。
【0037】
また、光照射機構24についても、上記の各構成に限定されるものではなく、図5に示す構成であってもよい。図5の構成は、一般的な3Dプリンタのように、光照射機構24が、レーザ光源24aと、該レーザ光源24aから出力されるレーザ光38を樹脂槽18に向けて偏光させる1つ以上のガルバノミラー24fと、レーザ光38の形状を調整するFθレンズ24gとから構成してもよい。
【0038】
[2.本実施形態の動作]
以上のように構成される光造形装置10の動作について、図1図5を参照しながら説明する。
【0039】
先ず、調整機構44によって樹脂槽18を所望の傾斜角度θだけ傾斜させる。これにより、樹脂槽18は、一端部40から他端部42に向かって斜め下方に傾斜する。
【0040】
次に、粉末材料36が混入された液状の光硬化性樹脂12がタンク28に貯留されている場合に、制御部30の制御によって、供給ポンプ60、排出ポンプ64及びエアポンプ66を駆動させる。これにより、タンク28内の光硬化性樹脂12は、エアポンプ66から圧送される空気によって下方に押圧され、下端部から樹脂供給路58に押し出される。また、樹脂供給路58に押し出された光硬化性樹脂12は、供給ポンプ60によって樹脂供給部20に供給される。
【0041】
樹脂供給部20に供給された光硬化性樹脂12は、ノズル20bを介して樹脂槽18の一端部40に供給される。前述のように、樹脂槽18が傾斜角度θで傾斜しているので、供給された光硬化性樹脂12は、傾斜部46を介して樹脂槽18の他端部42側に流れる。
【0042】
光硬化性樹脂12の流動方向の前方には、供給調整部48が設けられている。この場合、供給調整部48の先端部と底面部32との隙間dは、少なくとも一層分の造形物14の形成に必要な深さに設定されている。そのため、供給調整部48から樹脂槽18の中央部には、隙間dに相当する厚みの液状の光硬化性樹脂12が流動する。
【0043】
そして、光硬化性樹脂12は、透光性部材34の上面を通過して、樹脂槽18の他端部42に到達する。樹脂槽18の他端部42には、傾斜部50が形成されている。この傾斜部50は、樹脂槽18の一端部40に形成された傾斜部46よりも幅広である。従って、樹脂槽18の他端部42にまで流動した光硬化性樹脂12は、傾斜部50に貯留される。
【0044】
この場合、排出ポンプ64が駆動しているので、傾斜部50に貯留している光硬化性樹脂12は、傾斜部50から樹脂排出部22のノズル22bを介して樹脂回収路62に排出される。排出された光硬化性樹脂12は、排出ポンプ64によって樹脂回収路62を流れ、タンク28に回収される。
【0045】
従って、樹脂槽18が傾斜角度θで傾斜し、且つ、供給ポンプ60、排出ポンプ64及びエアポンプ66が駆動することにより、粉末材料36が混入された液状の光硬化性樹脂12は、樹脂槽18の中央部で貯留、滞留及び対流することなく、タンク28→樹脂供給路58→樹脂槽18→樹脂回収路62→タンク28の順で流動(循環)する。
【0046】
なお、本実施形態では、樹脂槽18を傾斜角度θで傾斜させることにより、該樹脂槽18内では、一端部40から他端部42に向かって、液状の光硬化性樹脂12の流動を発生させることができる。そのため、光造形装置10では、供給ポンプ60、排出ポンプ64及びエアポンプ66のうち、少なくとも1つのポンプが配設されていればよい。
【0047】
また、制御部30は、ヒータ52を駆動させることで、樹脂槽18内を流動する光硬化性樹脂12を所定温度に加熱及び保温(維持)してもよい。また、制御部30は、振動付与部54を駆動させることで、樹脂槽18内を流動する光硬化性樹脂12に振動を付与してもよい。このような加熱又は振動の付与によって、液状の光硬化性樹脂12の滞留や粉末材料36の沈殿の発生が抑制され、光硬化性樹脂12の流動を的確にコントロールすることができる。
【0048】
なお、液状の光硬化性樹脂12の流動をコントロール可能であればよいため、上述したタンク28→樹脂供給路58→樹脂槽18→樹脂回収路62→タンク28の循環経路の途中にヒータ52及び振動付与部54が設けられてもよい。あるいは、該循環経路全体をヒータ52で保温し、光造形中は、光硬化性樹脂12を適切な温度に常時維持してもよい。
【0049】
このように液状の光硬化性樹脂12の流動が確保されている状態で、制御部30は、移動手段56を駆動させ、透光性部材34の上面を流動する光硬化性樹脂12に対して接離可能に保持部26を上下動させる。この場合、移動手段56は、保持部26の底面と透光性部材34の上面との間隔が造形物14の一層分、例えば、0.01mm~0.5mm程度となるように、保持部26を移動させる。また、制御部30は、光照射機構24を駆動させることで、透光性部材34を介して光硬化性樹脂12に、図1のスキャナ24bでスキャンされたレーザ光38、図4のプロジェクタ24eからのレーザ光38の光束72、又は、図5のFθレンズ24gからのレーザ光38を照射させる。これにより、レーザ光38が照射された液状の光硬化性樹脂12は硬化する。
【0050】
硬化した光硬化性樹脂12は、保持部26によって保持される。前述のように、少なくとも一層分の造形物14(隙間dに相当する厚みの造形物14)の形成に必要な光硬化性樹脂12が透光性部材34の上面を流動すると共に、保持部26が上下動している。そのため、保持部26が液状の光硬化性樹脂12に接触している状態で、該光硬化性樹脂12が硬化すると、一層分の造形物14が形成されて保持部26に保持される。
【0051】
一層分の造形物14が形成されると、保持部26は、移動手段56によって上方へ引き上げられる。これにより、保持部26と透光性部材34との間に形成された造形物14は、保持部26に保持された状態で上方に引き上げられ、透光性部材34と離間する。
【0052】
次に、移動手段56は、再度、流動する液状の光硬化性樹脂12中に向けて、一層分の造形物14が保持された保持部26を下方に移動させる。そして、透光性部材34と一層分の造形物14との間が、造形物14の一層分、例えば、0.01mm~0.5mm程度になるように、間隙をあけて保持部26を位置させる。このとき、保持部26に保持された一層分の造形物14と透光性部材34との間には、光硬化性樹脂12が絶え間なく流動しているので、光造形に必要な光硬化性樹脂12が速やかに供給される。
【0053】
この状態で透光性部材34を介してレーザ光38を液状の光硬化性樹脂12に照射する。これにより、液状の光硬化性樹脂12が硬化し、一層目に連なる二層目が形成された造形物14が得られる。
【0054】
従って、移動手段56による光硬化性樹脂12に対する保持部26の移動動作と、光硬化性樹脂12へのレーザ光38の照射とを繰り返し行うことで、複数の層からなる三次元の造形物14が形成される。そして、所望の形状の造形物14が形成された後、制御部30は、光照射機構24、供給ポンプ60、排出ポンプ64及びエアポンプ66の駆動を停止する。次に、制御部30は、移動手段56によって保持部26を上方に引き上げることで、保持部26に保持された造形物14を樹脂槽18から剥離させる。
【0055】
この場合、透光性部材34が斜め下方に傾斜している状態で、保持部26を上方に引き上げる。これにより、透光性部材34が水平方向に配置されている状態で保持部26を上方に引き上げる場合と比較して、より小さな荷重で透光性部材34から造形物14を剥離することができる。しかも、透光性部材34の上面には、フッ素被膜等の難粘着性の被膜が塗布されているので、透光性部材34から造形物14を容易に剥離することが可能となる。その後、引き上げた保持部26から造形物14を剥離する。
【0056】
次に、得られた造形物14について、脱脂工程により該造形物14から樹脂を除去する。最後に、樹脂が除去された造形物14を焼結させることで、粉末材料36としての金属材料からなる所望の形状の金属製品が得られる。
【0057】
[3.本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態に係る光造形装置10は、少なくとも底面部32が透光性を有し、粉末材料36が混入された液状の光硬化性樹脂12が供給される樹脂槽18と、底面部32(透光性部材34)を介して光硬化性樹脂12に光(レーザ光38、光束72)を照射することにより該光硬化性樹脂12を硬化させて造形物14を形成する光照射機構24と、造形物14を保持しつつ、光硬化性樹脂12に対して接離可能に相対的に移動可能な保持部26とを備える。
【0058】
この場合、光造形装置10は、樹脂槽18の一端部40に設けられ、光硬化性樹脂12を樹脂槽18に供給する樹脂供給部20と、樹脂槽18の他端部42に設けられ、樹脂槽18に供給された光硬化性樹脂12を排出する樹脂排出部22とをさらに備える。樹脂槽18は、少なくとも造形物14の形成中、一端部40から他端部42に向かって光硬化性樹脂12を流動させる。
【0059】
この構成によれば、樹脂槽18内で光硬化性樹脂12を貯留させることなく、該樹脂槽18内で光硬化性樹脂12を一方向に流動させながら造形物14を形成する。これにより、樹脂槽18内での光硬化性樹脂12の攪拌が不要となる。しかも、少なくとも造形物14の形成中は、粉末材料36が混入された光硬化性樹脂12が常時流動する。そのため、液状の光硬化性樹脂12に粉末材料36が高濃度に含有している場合でも、光硬化性樹脂12と粉末材料36との分離を防止しつつ、液状の光硬化性樹脂12の流動性の低下を回避することができる。また、液状の光硬化性樹脂12内に粉末材料36を均一に分散させた状態で樹脂槽18に供給することができる。
【0060】
このように、樹脂槽18内では、光硬化性樹脂12の滞留及び対流が発生しない。そのため、粉末材料36が均一に分布した状態で光硬化性樹脂12にレーザ光38又は光束72を照射して、造形物14を形成することができる。これにより、造形速度の向上を図りつつ、造形物14内に粉末材料36を均一に分布させることができる。この結果、造形物14から形状精度が高く、且つ、機械特性が高い最終製品を得ることが可能となる。
【0061】
ここで、光造形装置10は、光硬化性樹脂12を貯留するタンク28と、タンク28から樹脂供給部20に光硬化性樹脂12を供給するための樹脂供給路58と、樹脂排出部22からタンク28に光硬化性樹脂12を回収するための樹脂回収路62と、樹脂供給路58及び樹脂回収路62のうち、少なくとも一方に設けられ、光硬化性樹脂12を圧送するポンプ60、64と、光硬化性樹脂12を所定温度に維持するヒータ52とをさらに備える。これにより、光硬化性樹脂12の循環経路及び保持部26が光硬化性樹脂12の流動性を高める温度に加熱及び保温される。この結果、光造形装置10内での光硬化性樹脂12の滞留、及び、粉末材料36の沈殿の発生を抑制しつつ、造形物14の形成作業を円滑に行うことができる。
【0062】
具体的に、樹脂槽18は、一端部40から他端部42に向けて傾斜していればよい。これにより、樹脂槽18内の光硬化性樹脂12を滞留させることなく、三次元の造形物14の複数の層の形成作業(造形動作)を完了させることができる。また、1つの層が形成された際、速やかに造形物14と樹脂槽18との間に液状の光硬化性樹脂12を流動させて補充することができる。この結果、次の層の造形動作までのサイクルタイムを短縮することができる。
【0063】
また、樹脂槽18を傾斜させることで、造形物14の形成後に保持部26を上昇させる際、樹脂槽18に対して造形物14が強固に付着している場合でも、該造形物14の一端側において、樹脂槽18から造形物14を容易に剥離させることができる。これにより、樹脂槽18から造形物14を無理に引き剥がすことによる造形物14の破損等の発生を回避することができる。すなわち、大きな荷重をかけることなく、樹脂槽18から造形物14を剥離させることが可能となるので、樹脂槽18及び造形物14の破損を回避することができる。
【0064】
ここで、光造形装置10は、樹脂槽18が一端部40から他端部42に向けて水平方向に対して任意の角度(傾斜角度θ)で傾斜している場合に、光硬化性樹脂12に対して保持部26を上下方向に相対的に移動させる移動手段56をさらに備える。これにより、上記の効果が容易に得られる。
【0065】
また、光造形装置10は、樹脂槽18の一端部40から他端部42に向かう傾斜角度θを任意の角度に調整可能な調整機構44をさらに備える。これにより、光造形に用いられる光硬化性樹脂12の粘度が変わっても、傾斜角度θを任意に変更することで、樹脂槽18に光硬化性樹脂12を安定して供給することができる。この結果、造形精度が向上すると共に、迅速に光造形を行うことができる。
【0066】
また、光造形装置10は、樹脂槽18内の光硬化性樹脂12に振動を付与する振動付与部54をさらに備える。これにより、光硬化性樹脂12の流動を容易にコントロールして造形精度を高めることができる。
【0067】
また、光造形装置10は、樹脂供給部20から樹脂槽18に供給された光硬化性樹脂12を、一端部40から他端部42に向かって流動させる際、少なくとも一層分の造形物14を形成するために必要な深さの光硬化性樹脂12を、一端部40から他端部42に向けて供給するための供給調整部48をさらに備える。これにより、樹脂槽18内に必要最小限の光硬化性樹脂12を流動させて供給することができる。この結果、粉末材料36と光硬化性樹脂12との分離を防止することができる。従って、常に好適な分量の粉末材料36が混入された液状の光硬化性樹脂12にレーザ光38又は光束72を照射することができる。その結果、最終製品(金属製品)の形状精度が高く、且つ、高密度及び高剛性の造形物14が容易に得られる。
【0068】
なお、本発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5