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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/871 20180101AFI20221216BHJP
   F24F 1/12 20110101ALI20221216BHJP
   F24F 1/24 20110101ALI20221216BHJP
   F24F 1/40 20110101ALI20221216BHJP
【FI】
F24F11/871
F24F1/12
F24F1/24
F24F1/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021575159
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2020004371
(87)【国際公開番号】W WO2021156975
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 瑞朗
(72)【発明者】
【氏名】下川 耕一
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-303892(JP,A)
【文献】特開平10-185284(JP,A)
【文献】特開2011-237093(JP,A)
【文献】特開平3-36448(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163296(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/12
F24F 1/40
F24F 1/24
F24F 11/00 ~ 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転周波数を調整し、冷媒回路に流れる冷媒を圧縮する圧縮機と、
回転数を調整し、前記冷媒の熱交換を行う室外熱交換器を冷却する室外ファンと、
前記圧縮機の前記運転周波数および前記室外ファンの前記回転数を制御し、必要な空調能力を確保しつつ、前記室外ファンの前記回転数を優先的に下げて低騒音運転を実施する制御部と、
を備え
前記制御部は、室内設定温度と室内機の室内吸い込み温度との差分から、必要な空調能力を確保するために前記運転周波数および前記回転数が規定された必要能力ラインの設定の有無を判定し、必要と判定した場合、空気調和装置の運転モードおよび外気温度に基づいて必要能力ラインを設定し、前記必要能力ラインで規定された運転周波数以上になるように前記圧縮機を制御し、前記必要能力ラインで規定された回転数以上になるように前記室外ファンを制御する、
空気調和装置。
【請求項2】
前記制御部は、実測値に基づいて決定される外気温度の条件毎の係数、前記外気温度に基づく前記圧縮機の運転周波数、および前記室外ファンの最大ファン回転数を用いて、前記室外ファンの各回転数に対する前記圧縮機の運転周波数を算出し、前記必要能力ラインを設定する、
請求項に記載の空気調和装置。
【請求項3】
前記制御部は、室外機の動作を制御する制御基板の熱を放出する放熱板の温度である室外放熱板温度と、前記空気調和装置の運転モードによって規定された室内機または前記室外機に設置された温度センサで検知された凝縮温度とに基づいて、前記室外ファンの上限回転数を変化させ、前記室外ファンの回転数を制御する、
請求項1または2に記載の空気調和装置。
【請求項4】
運転周波数を調整し、冷媒回路に流れる冷媒を圧縮する圧縮機と、
回転数を調整し、前記冷媒の熱交換を行う室外熱交換器を冷却する室外ファンと、
前記圧縮機の前記運転周波数および前記室外ファンの前記回転数を制御し、必要な空調能力を確保しつつ、前記室外ファンの前記回転数を優先的に下げて低騒音運転を実施する制御部と、
を備え、
前記制御部は、室外機の動作を制御する制御基板の熱を放出する放熱板の温度である室外放熱板温度と、空気調和装置の運転モードによって規定された室内機または前記室外機に設置された温度センサで検知された凝縮温度とに基づいて、前記室外ファンの上限回転数を変化させ、前記室外ファンの回転数を制御する、
空気調和装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記室外ファンの上限回転数を減少させた場合、前記圧縮機の前記運転周波数を減少させる、
請求項4に記載の空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、室外ファンの回転数を制御する空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和装置において、室外ファンで発生する騒音を低減することが行われている。特許文献1には、室外機が備える圧縮機の運転周波数が下限域付近、例えば、30Hz~40Hzの場合に、室外ファンの回転数を減少させる、または室外ファンが複数あるときは稼働台数を減少させることによって、騒音を低減させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭64-25658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術によれば、圧縮機の運転周波数が下限域付近になるまでに室外ファンの回転数を減少させることは記載されていない。そのため、圧縮機の運転周波数が下限域付近になるまでは、室外ファンの回転数が高い状態が維持され、室外ファンによる騒音の大きい状態が継続する、という問題があった。
【0005】
特許文献1と異なり、圧縮機の運転周波数を変化させることなく、室外ファンの回転数を減少させることで、室外ファンの騒音を迅速に低減する方法が考えられる。しかしながら、室外ファンの回転数を減少させていくと、ある段階で、圧縮機の保護のため、圧縮機の運転周波数の上限値が制限されてしまう。この場合、空気調和装置において、必要な空調能力が不足してしまう可能性がある、という問題があった。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、必要な空調能力を確保しつつ、室外ファンで発生する騒音を低減可能な空気調和装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る空気調和装置は、運転周波数を調整し、冷媒回路に流れる冷媒を圧縮する圧縮機と、回転数を調整し、冷媒の熱交換を行う室外熱交換器を冷却する室外ファンと、圧縮機の運転周波数および室外ファンの回転数を制御し、必要な空調能力を確保しつつ、室外ファンの回転数を優先的に下げて低騒音運転を実施する制御部と、を備える。制御部は、室内設定温度と室内機の室内吸い込み温度との差分から、必要な空調能力を確保するために運転周波数および回転数が規定された必要能力ラインの設定の有無を判定し、必要と判定した場合、空気調和装置の運転モードおよび外気温度に基づいて必要能力ラインを設定し、必要能力ラインで規定された運転周波数以上になるように圧縮機を制御し、必要能力ラインで規定された回転数以上になるように室外ファンを制御する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る空気調和装置は、必要な空調能力を確保しつつ、室外ファンで発生する騒音を低減できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係る空気調和装置の構成例を示す図
図2】本実施の形態に係る空気調和装置が備える防音材の例を示す第1の図
図3】本実施の形態に係る空気調和装置が備える防音材の例を示す第2の図
図4】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部が設定する必要能力ラインを示す図
図5】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部が空気調和装置の運転モードおよび外気温度によって必要能力ラインを決定する動作を示すフローチャート
図6】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部による圧縮機の運転周波数および室外ファンの回転数の遷移を示す図
図7】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部による放熱板温度を用いた室外ファンの回転数の制御を示すフローチャート
図8】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部による凝縮温度を用いた室外ファンの回転数の制御をフローチャート
図9】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部による放熱板温度および凝縮温度に基づく室外ファンの回転数の制御を示す図
図10】本実施の形態に係る空気調和装置での室外ファンによる騒音値の変化を示す図
図11】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部が室外ファンの騒音を低減させた後に行う制御を示す図
図12】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部による必要能力ラインの必要有無の判定を示すフローチャート
図13】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部において空調能力が必要無いと判定したときの圧縮機の運転周波数および室外ファンの回転数の遷移を示す図
図14】本実施の形態に係る空気調和装置の制御部において空調能力が必要無いと判定した後に空調能力が必要と判定したときの圧縮機の運転周波数の遷移を示す図
図15】本実施の形態に係る空気調和装置が備える制御部を実現するハードウェア構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態に係る空気調和装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの開示が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
図1は、本実施の形態に係る空気調和装置30の構成例を示す図である。空気調和装置30は、室外機31と、室内機32と、を備える。図1は、具体的には、空気調和装置30において、室外機31および室内機32に跨る冷凍サイクルの構成を示している。室外機31は、圧縮機1と、四方弁2と、室外ファン3と、室外熱交換器4と、膨張弁5と、配管7と、放熱板8と、放熱板温度センサ9と、室外二相管温度センサ10と、室外液管温度センサ11と、外気温度センサ16と、制御部17と、を備える。室内機32は、室内熱交換器6と、配管7と、室内二相管温度センサ12と、室内液管温度センサ13と、室内設定温度記憶部14と、室内吸い込み温度センサ15と、を備える。空気調和装置30では、圧縮機1、四方弁2、室外熱交換器4、膨張弁5、放熱板8、および室内熱交換器6が、配管7によって接続され、冷媒回路18を構成している。
【0012】
圧縮機1は、制御部17によるインバータ制御によって運転周波数が調整され、冷媒回路18に流れる冷媒を圧縮する。四方弁2は、空気調和装置30の運転モード、すなわち冷房および暖房の切り替え時に冷媒の流れる方向を変化させる。室外ファン3は、制御部17の制御によって回転数が調整され、室外熱交換器4を冷却する。室外熱交換器4は、凝縮器および蒸発器として冷媒の熱交換を行う。膨張弁5は、冷媒の圧力を減少させる。放熱板8は、室外機31の動作を制御する制御基板の熱を放出する役割を持つ。放熱板温度センサ9は、放熱板8の温度である放熱板温度を検知する。室外二相管温度センサ10は、室外熱交換器4の温度を検知する。室外液管温度センサ11は、液冷媒の温度を検知する。外気温度センサ16は、室外機31の周辺の外気温度を検知する。制御部17は、圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数を制御し、空気調和装置30の必要な空調能力を確保しつつ、室外ファン3の回転数を優先的に下げて低騒音運転を実施する。制御部17は、前述の制御基板に搭載されていてもよい。
【0013】
室内熱交換器6は、凝縮器および蒸発器として冷媒の熱交換を行う。室内二相管温度センサ12は、室内熱交換器6の温度を検知する。室内液管温度センサ13は、液冷媒の温度を検知する。室内設定温度記憶部14は、図示しないリモートコントローラなどによってユーザから設定された空気調和装置30に対する所望の設定温度を記憶する。室内吸い込み温度センサ15は、室内機32の吸い込み口付近の室内吸い込み温度を検知する。
【0014】
空気調和装置30は、圧縮機1の騒音対策として、図2に示すように圧縮機1に直接巻くタイプの防音材19を備えていてもよいし、図3に示すように圧縮機1のある機械室内に沿って装着するタイプの防音材20を備えていてもよい。図2は、本実施の形態に係る空気調和装置30が備える防音材19の例を示す図である。図3は、本実施の形態に係る空気調和装置30が備える防音材20の例を示す図である。図3(a)は、比較例として室外機31が防音材20を装着していない状態を示し、図3(b)は、室外機31が防音材20を装着した状態を示している。
【0015】
図4は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17が設定する必要能力ラインを示す図である。図4において、横軸は圧縮機1の運転周波数を示し、縦軸は室外ファン3の回転数を示す。必要能力ラインとは、空気調和装置30において必要な空調能力を確保するために圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数が規定されたものである。必要能力ラインは、空気調和装置30の運転モードおよび外気温度の各条件によって内容が異なる。図4の例では、K1は冷房定格条件における必要能力ラインである冷房定格能力ラインを示し、K2は暖房定格条件における必要能力ラインである暖房定格能力ラインを示している。また、K3は冷房高外気条件における必要能力ラインである冷房高外気能力ラインを示し、K4は暖房低外気条件における必要能力ラインである暖房低外気能力ラインを示している。また、K5は冷房低外気条件における必要能力ラインである冷房低外気能力ラインを示し、K6は暖房高外気条件における必要能力ラインである暖房高外気能力ラインを示している。
【0016】
制御部17は、各条件の必要能力ラインについて、予め記憶領域に設定した外気温度の条件毎の係数、外気温度に基づく圧縮機1の運転周波数、および室外ファン最大回転数を用いて、室外ファン3の各回転数に対する圧縮機1の運転周波数を次の式(1)によって算出して設定する。外気温度の条件毎の係数、および外気温度に基づく圧縮機1の運転周波数については、例えば、ユーザまたは空気調和装置30の製造者などが、各外気温度の条件下での実機試験によって得られた実測値に基づいて決定する。
【0017】
圧縮機1の運転周波数=外気温度の条件毎の係数×(室外ファン回転数-室外ファン最大回転数)+外気温度の条件毎の圧縮機1の運転周波数 …(1)
【0018】
制御部17が、空気調和装置30の運転モードおよび外気温度センサ16で検知された外気温度によって必要能力ラインを決定する方法について説明する。空気調和装置30の運転モードについては、一例として、冷房および暖房の2つとする。図5は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17が空気調和装置30の運転モードおよび外気温度によって必要能力ラインを決定する動作を示すフローチャートである。なお、図5に示すフローチャートにおいて、低外気冷房閾値、高外気冷房閾値、低外気暖房閾値、および高外気暖房閾値については、ユーザまたは空気調和装置30の製造者などが、予め実施した試験結果から各閾値を決定し、制御部17に設定されているものとする。
【0019】
制御部17は、空気調和装置30の運転モードが冷房または暖房かを判定する(ステップS101)。冷房の場合(ステップS101:Yes)、制御部17は、外気温度と低外気冷房閾値とを比較する(ステップS102)。外気温度≦低外気冷房閾値の場合(ステップS102:Yes)、制御部17は、必要能力ラインとして冷房低外気能力ラインK5を設定する(ステップS103)。低外気冷房閾値<外気温度の場合(ステップS102:No)、制御部17は、外気温度と高外気冷房閾値とを比較する(ステップS104)。低外気冷房閾値<外気温度≦高外気冷房閾値の場合(ステップS104:Yes)、制御部17は、必要能力ラインとして冷房定格能力ラインK1を設定する(ステップS105)。高外気冷房閾値<外気温度の場合(ステップS104:No)、制御部17は、必要能力ラインとして冷房高外気能力ラインK3を設定する(ステップS106)。
【0020】
暖房の場合(ステップS101:No)、制御部17は、外気温度と低外気暖房閾値とを比較する(ステップS107)。外気温度≦低外気暖房閾値の場合(ステップS107:Yes)、制御部17は、必要能力ラインとして暖房低外気能力ラインK4を設定する(ステップS108)。低外気暖房閾値<外気温度の場合(ステップS107:No)、制御部17は、外気温度と高外気暖房閾値とを比較する(ステップS109)。低外気暖房閾値<外気温度≦高外気暖房閾値の場合(ステップS109:Yes)、制御部17は、必要能力ラインとして暖房定格能力ラインK2を設定する(ステップS110)。高外気暖房閾値<外気温度の場合(ステップS109:No)、制御部17は、必要能力ラインとして暖房高外気能力ラインK6を設定する(ステップS111)。
【0021】
図6は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17による圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数の遷移を示す図である。ここでは、一例として、空気調和装置30の運転モードが冷房、かつ外気温度は定格条件で運転したときのグラフを示しているため、図6に示すL1の必要能力ラインは冷房定格能力ラインK1となる。
【0022】
また、図6は、圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数と、騒音値の大きさとの関係を示している。領域F1は、圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数がともに高いため、騒音値が大きい領域となる。領域F2は、圧縮機1の運転周波数は小さいが、室外ファン3の回転数が高いため、騒音値が中程度の領域となる。領域F3は、圧縮機1の運転周波数は大きいが、防音材19,20などにより騒音が低減されており、室外ファン3の回転数が少し低い状態にあるため、騒音値が中程度の領域となる。領域F4は、圧縮機1の運転周波数が低く、室外ファン3の回転数も少し低い状態にあるため、騒音値が小さい領域となる。領域F5は、室外ファン3の回転数は低いが、圧縮機1の運転周波数が大きいため、騒音値が中程度の領域となる。領域F6は、圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数がともに低いため、騒音値は小さい領域となる。
【0023】
図6において、L2は、空気調和装置30が定常運転に入ったタイミングのポイント、すなわち圧縮機1の運転周波数、および室外ファン3の回転数を示す。なお、本実施の形態では、制御部17は、空気調和装置30の起動後の一定時間は騒音低減のための制御は行わず、定常運転に入ったタイミングで騒音低減のための制御を開始する。空気調和装置30では、圧縮機1の起動初期は安全運転範囲から外れないよう決められた制御を行うためである。制御部17は、空気調和装置30が定常運転に入ったL2を開始ポイントとしたとき、L3に示すように室外ファン3の回転数を変化させる、すなわち減少させる制御を行う。
【0024】
制御部17は、L3に示す室外ファン3の回転数の変化について、放熱板温度センサ9で検知された放熱板温度、および凝縮温度を用いて判定する。ここで、凝縮温度は、空気調和装置30の運転モードが冷房の場合、室外二相管温度センサ10および室外液管温度センサ11で検知された温度のうち高い方の温度とする。また、凝縮温度は、空気調和装置30の運転モードが暖房の場合、室内二相管温度センサ12および室内液管温度センサ13で検知された温度のうち高い方の温度とする。すなわち、凝縮温度は、空気調和装置30の運転モードによって規定された、室内機32または室外機31に設置された温度センサで検知された温度である。
【0025】
まず、制御部17は、放熱板温度センサ9で検知された放熱板温度を用いて、室外ファン3の回転数のダウン、維持、またはアップを判定する。図7は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17による放熱板温度を用いた室外ファン3の回転数の制御を示すフローチャートである。なお、図7に示すフローチャートにおいて、第1のファン回転数ダウン閾値、および第1のファン回転数アップ閾値は、ユーザまたは空気調和装置30の製造者などが、予め実施した試験結果から閾値を決定し、制御部17に設定されているものとする。制御部17は、放熱板温度と第1のファン回転数ダウン閾値とを比較する(ステップS201)。放熱板温度<第1のファン回転数ダウン閾値の場合(ステップS201:Yes)、制御部17は、第1のファン回転数ダウン状態と判定する(ステップS202)。第1のファン回転数ダウン閾値≦放熱板温度の場合(ステップS201:No)、制御部17は、放熱板温度と第1のファン回転数アップ閾値とを比較する(ステップS203)。第1のファン回転数ダウン閾値≦放熱板温度<第1のファン回転数アップ閾値の場合(ステップS203:Yes)、制御部17は、第1のファン回転数維持状態と判定する(ステップS204)。第1のファン回転数アップ閾値≦放熱板温度の場合(ステップS203:No)、制御部17は、第1のファン回転数アップ状態と判定する(ステップS205)。なお、制御部17は、この時点では、室外ファン3の回転数は変化させない。
【0026】
つぎに、制御部17は、凝縮温度を用いて、室外ファン3の回転数のダウン、維持、またはアップを判定する。図8は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17による凝縮温度を用いた室外ファン3の回転数の制御を示すフローチャートである。なお、図8に示すフローチャートにおいて、第2のファン回転数ダウン閾値、および第2のファン回転数アップ閾値は、ユーザまたは空気調和装置30の製造者などが、予め実施した試験結果から閾値を決定し、制御部17に設定されているものとする。制御部17は、凝縮温度と第2のファン回転数ダウン閾値とを比較する(ステップS301)。凝縮温度<第2のファン回転数ダウン閾値の場合(ステップS301:Yes)、制御部17は、第2のファン回転数ダウン状態と判定する(ステップS302)。第2のファン回転数ダウン閾値≦凝縮温度の場合(ステップS301:No)、制御部17は、凝縮温度と第2のファン回転数アップ閾値とを比較する(ステップS303)。第2のファン回転数ダウン閾値≦凝縮温度<第2のファン回転数アップ閾値の場合(ステップS303:Yes)、制御部17は、第2のファン回転数維持状態と判定する(ステップS304)。第2のファン回転数アップ閾値≦凝縮温度の場合(ステップS303:No)、制御部17は、第2のファン回転数アップ状態と判定する(ステップS305)。
【0027】
制御部17は、放熱板温度を用いて得られた、第1のファン回転数ダウン状態、または第1のファン回転数維持状態、または第1のファン回転数アップ状態の判定結果を図9に当てはめ、凝縮温度を用いて得られた、第2のファン回転数ダウン状態、または第2のファン回転数維持状態、または第2のファン回転数アップ状態の判定結果を図9に当てはめる。図9は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17による放熱板温度および凝縮温度に基づく室外ファン3の回転数の制御を示す図である。制御部17は、各判定結果を図9に当てはめた結果から、ファン回転数ダウン、またはファン回転数維持、ファン回転数アップを決定する。図9の例では、第1のファン回転数ダウン状態かつ第2のファン回転数ダウン状態の場合、ファン回転数ダウンとする。また、第1のファン回転数アップ状態または第2のファン回転数アップ状態の場合、および第1のファン回転数アップ状態かつ第2のファン回転数アップ状態の場合、ファン回転数アップとする。その他の場合、ファン回転数維持とする。制御部17は、ファン回転数ダウンの場合、室外ファン3の回転数の上限値を規定数減少させる。制御部17は、ファン回転数維持の場合、室外ファン3の回転数の現在の上限値を維持する。制御部17は、ファン回転数アップの場合、室外ファン3の回転数の上限値を規定数増加させる。
【0028】
制御部17は、図7から図9に示す動作によって、図6のL3に示す室外ファン3の回転数の変化を実現する。制御部17は、図7から図9に示す動作を規定された時間間隔で繰り返し実施する。制御部17は、図6のL3の動作によって室外ファン3の回転数の上限値を減少させていくと、図6に示すL4のように凝縮温度過昇防止制限が働き、圧縮機1の運転周波数を減少させる。制御部17がL3およびL4の動作を繰り返し実施することによって、空気調和装置30では、L1の必要能力ラインに達したポイントL5において、圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数が安定する。
【0029】
このように、本実施の形態において、制御部17は、図6に示すように圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数を制御することによって、特許文献1の制御と比較して、騒音値が大きい領域F1に滞在する時間を短くすることができる。図10は、本実施の形態に係る空気調和装置30での室外ファン3による騒音値の変化を示す図である。図10において、横軸は時間を示し、縦軸は騒音値を示す。図10において、P1の破線は比較例として特許文献1の制御による騒音値の遷移を示し、P2は本実施の形態の制御部17の制御による空気調和装置30の騒音値の遷移を示している。図10において、P3の領域が騒音値の差分を示している。P2、すなわち本実施の形態では、室外ファン3の回転数を迅速に減少させて、騒音値が高い時間を短く抑えられていることが分かる。
【0030】
制御部17は、図6示すようにL5まで遷移させた後は、図11に示すように同じ領域内での遷移を繰り返し実施する。図11は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17が室外ファン3の騒音を低減させた後に行う制御を示す図である。まず、制御部17は、L5のポイントにおいて、空調能力が必要と判定した場合、Q1に示すように圧縮機1の運転周波数を増加させる。その後、制御部17は、前述のように室外ファン3の回転数の変化を判定し、Q2に示すように室外ファン3の回転数を遷移させる。つぎに、制御部17は、凝縮温度過昇防止制限によってQ3に示すように圧縮機1の運転周波数を減少させる。制御部17は、圧縮機1の運転周波数の減少に伴い、室外ファン3の回転数変化を判定し、Q4に示すように室外ファン3の回転数を変化させる。制御部17は、図11に示すように、必要能力ライン付近で圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数を遷移させることによって、必要最低限の室外ファン3の回転数にて空気調和装置30の運転を継続させることができる。このように、制御部17は、室外放熱板温度と凝縮温度とに基づいて、室外ファン3の上限回転数を変化させ、室外ファン3の回転数を制御する。制御部17は、室外ファン3の上限回転数を減少させた場合、圧縮機1の運転周波数を減少させる。
【0031】
つぎに、制御部17が、必要能力ラインを設定または解除する方法について説明する。制御部17は、必要能力ラインについて、空調能力の必要有無によって設定または解除する。図12は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17による必要能力ラインの必要有無の判定を示すフローチャートである。まず、制御部17は、室内設定温度記憶部14に記憶されている室内設定温度と、室内吸い込み温度センサ15で検知された室内吸い込み温度との差分の絶対値ΔTjを算出する(ステップS401)。制御部17は、算出した差分の絶対値ΔTjを記憶する。制御部17は、1分前の差分の絶対値ΔTjと現在の差分の絶対値ΔTjとの差分ΔFjを算出する(ステップS402)。制御部17は、ΔFj>0の場合(ステップS403:Yes)、空調能力必要有りと判定し、必要能力ラインを設定する(ステップS404)。必要能力ラインを設定する方法は、前述の通りである。制御部17は、ΔFj≦0の場合(ステップS403:No)、空調能力必要無しと判定し、必要能力ラインを設定しない(ステップS405)。
【0032】
このように、制御部17は、室内設定温度と室内機32の室内吸い込み温度との差分から、必要能力ラインの設定の有無を判定する。制御部17は、必要能力ラインの設定が必要と判定した場合、空気調和装置30の運転モードおよび外気温度に基づいて必要能力ラインを設定する。制御部17は、必要能力ラインで規定された運転周波数以上になるように圧縮機1を制御し、必要能力ラインで規定された回転数以上になるように室外ファン3を制御する。
【0033】
空調能力が必要無い場合の制御部17による圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数の遷移について説明する。図13は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17において空調能力が必要無いと判定したときの圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数の遷移を示す図である。制御部17は、図13に示すように、L1の必要能力ラインによる下限値を設けないため、R2に示すようにL5を初期ポイントとして室外ファン3の回転数を減少させ、さらに、R3に示すように圧縮機1の運転周波数を減少させることができる。
【0034】
図14は、本実施の形態に係る空気調和装置30の制御部17において空調能力が必要無いと判定した後に空調能力が必要と判定したときの圧縮機1の運転周波数の遷移を示す図である。制御部17は、R4を初期ポイントとしたとき、L1の必要能力ラインが設定されると、必要能力ラインL1で圧縮機1の運転周波数の下限値を設定し、R5に示すように、必要能力ラインL1で示される下限値を超えるように、圧縮機1の運転周波数を遷移、すなわち増加させる。その後、制御部17は、図11に示すような圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数の遷移を実施する。
【0035】
このように、制御部17は、必要能力ラインの設定および解除を行うことで、空調能力が必要無い場合に過剰な空調能力による運転をすることがなく、必要最低限の空調能力での空気調和装置30の運転が可能となる。
【0036】
つづいて、空気調和装置30が備える制御部17のハードウェア構成について説明する。図15は、本実施の形態に係る空気調和装置30が備える制御部17を実現するハードウェア構成の一例を示す図である。制御部17は、プロセッサ201およびメモリ202により実現される。
【0037】
プロセッサ201は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)ともいう)、またはシステムLSI(Large Scale Integration)である。メモリ202は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリー、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)といった不揮発性または揮発性の半導体メモリを例示できる。またメモリ202は、これらに限定されず、磁気ディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)でもよい。
【0038】
以上説明したように、本実施の形態によれば、空気調和装置30において制御部17は、室外ファン3の回転数を優先的に減少させ、図6に示す領域F1のように騒音値が大きい領域に滞在しないよう制御することで、室外ファン3の騒音を低減することができる。このとき、制御部17は、必要に応じで必要能力ラインを設定する。制御部17は、圧縮機1の運転周波数および室外ファン3の回転数が必要能力ラインを下回らないよう空気調和装置30を運転することで、低騒音を優先したことによって空調能力が不足する事態を回避することができる。
【0039】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 圧縮機、2 四方弁、3 室外ファン、4 室外熱交換器、5 膨張弁、6 室内熱交換器、7 配管、8 放熱板、9 放熱板温度センサ、10 室外二相管温度センサ、11 室外液管温度センサ、12 室内二相管温度センサ、13 室内液管温度センサ、14 室内設定温度記憶部、15 室内吸い込み温度センサ、16 外気温度センサ、17 制御部、18 冷媒回路、19,20 防音材、30 空気調和装置、31 室外機、32 室内機。
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