(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】電析銅箔および銅クラッドラミネート
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20221216BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20221216BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20221216BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20221216BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20221216BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D1/00 311
C25D7/06 A
C25D5/12
C25D5/16
H05K1/09 A
(21)【出願番号】P 2022017729
(22)【出願日】2022-02-08
【審査請求日】2022-06-08
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼ 耀生
(72)【発明者】
【氏名】周 瑞昌
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-070872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク銅箔
と、当該バルク銅箔の少なくとも1つの表面に配置される表面処理層とを有する
銅箔であって、
当該
銅箔に対して実施される、加熱速度5℃/min、空気流量95mL/minでの熱重量分析(TGA)の間、当該
銅箔の重量は、105.0wt%まで上昇し、
T
105.0wt%として定められる前記TGAの加熱温度は、550℃から750℃の範囲にある、
銅箔。
【請求項2】
T
105.0wt%は、600℃から750℃の範囲にある、請求項1に記載の
銅箔。
【請求項3】
前記TGAの間、当該
銅箔の重量は、100.1重量%まで増加し、T
100.1wt%として定められる前記TGAの加熱温度は、300℃から400℃の範囲である、請求項1に記載の
銅箔。
【請求項4】
T
100.1wt%は、330℃から400℃の範囲である、請求項3に記載の
銅箔。
【請求項5】
当該
銅箔は、前記TGAの間、開始温度(T
onset)を有し、前記T
onsetは、T
100.1wt%よりも大きく、前記T
onsetは、T
105.0wt%よりも小さい、請求項3に記載の
銅箔。
【請求項6】
T
onsetは、400℃から600℃の範囲である、請求項5に記載の
銅箔。
【請求項7】
当該
銅箔は、前記TGAの間、変曲温度(T
IF)を有し、
前記T
IFは、750℃から1000℃の範囲である、請求項1に記載の
銅箔。
【請求項8】
前記表面処理層は、ニッケルを含む第1の表面処理層を有し、
前記第1の表面処理層の外側表面の比表面積(μm
2/μm
2)と前記第1の表面処理層のニッケル含有量(μg/dm
2)との積は、10μg/dm
2から100μg/dm
2の範囲である、請求項1に記載の
銅箔。
【請求項9】
前記第1の表面処理層の外側表面の比表面積(μm
2/μm
2)と前記第1の表面処理層のニッケル含有量(μg/dm
2)との積は、10μg/dm
2から60μg/dm
2の範囲である、請求項8に記載の
銅箔。
【請求項10】
前記表面処理層は、第1の表面処理層および第2の表面処理層を有し、
前記第1の表面処理層は、当該
銅箔の第1の側に配置され、前記第2の表面処理層は、当該
銅箔の前記第1の側とは反対の当該
銅箔の第2の側に配置され、
前記第1の表面処理層および前記第2の表面処理層の各々は、それぞれ、少なくとも1つのサブ層を有し、
前記少なくとも1つのサブ層は、バリア層および防錆層からなる群から選択される、請求項1に記載の
銅箔。
【請求項11】
前記バリア層は、少なくとも1つの金属を有し、
前記金属は、ニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉄、スズ、バナジウム、タングステン、およびチタンからなる群から選択される、請求項10に記載の
銅箔。
【請求項12】
前記第1の表面処理層は、さらに、少なくとも1つの別のサブ層を有し、
前記少なくとも1つの別のサブ層は、粗面化層およびカップリング層からなる群から選択される、請求項10に記載の
銅箔。
【請求項13】
銅クラッドラミネートであって、
基板と、
請求項1乃至12のいずれか一つに記載の
銅箔と、
を有し、
前記
銅箔は、前記基板上に配置される、銅クラッドラミネート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、銅箔の分野、特に、電析銅箔およびその銅クラッドラミネートに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号を伝送できる小型で薄型の電子機器に対する需要の高まりとともに、微細な配線/空間(L/S)を有する導電線を有し、導電線と基板の間に平坦な接触表面を有する印刷回路基板(PCB)に対する需要も増加している。一般に、印刷回路基板は、交互に積層された基板、導電線、および接着材料を有するラミネート構造であり、これは、銅箔および銅クラッドラミネートを処理することにより製造され得る。具体的には、導電線は、銅導電線であり、接着材料は、ポリマー接着材料であり得る。銅導電線は、基板の表面に配置されてもよく、ポリマー接着材料は、隣接する基板の間に配置され、基板が互いに接着されてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】台湾特許出願公開第202117085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
隣接する基板間の接着強度、および銅導電線の熱安定性を高めるため、基板の表面に配置される銅導電線は、隣接する基板が互いに接着される前に、黒色化される。これにより、銅導電線の表面にファジー(fuzzy)層が形成される。後続のラミネートプロセスでは、ポリマー接着材料がファジー層のポア内に埋設され、これにより隣接する基板間の接着強度が改善される。
【0005】
実際、前述の黒色化処理は、隣接する基板間の接着強度を向上させるものの、銅導電線の異なる形状および特性のため、銅導電線の表面は、不完全に黒色化される。これにより、印刷回路基板の信頼性が低下する。
【0006】
従って、従来技術の問題を解決するため、電析銅箔および銅クラッドラミネートを提供することに対して依然ニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題に鑑み、本開示では、従来技術に存在する問題を解決する、改善された電析銅箔および銅クラッドラミネートが提供される。
【0008】
本開示の一実施形態では、電析銅箔が提供される。当該電析銅箔は、バルク銅箔を有し、当該電析銅箔に対して実施される、加熱速度5℃/min、空気流量95mL/minでの熱重量分析(TGA)の間、当該電析銅箔の重量は、105.0wt%まで上昇し、T105.0wt%として定められる前記TGAの加熱温度は、550℃から750℃の範囲にある。
【0009】
必要な場合、本開示の別の実施形態では、ニッケルを含有する第1の表面処理層を有し、前記第1の表面処理層の外側表面の比表面積(μm2/μm2)と前記第1の表面処理層のニッケル含有量(μg/dm2)との積は、10μg/dm2から100μg/dm2の範囲である、電析銅箔が提供される。
【0010】
必要な場合、本開示の別の実施形態では、第1の表面処理層および第2の表面処理層を有する、電析銅箔が提供される。第1の表面処理層は、電析銅箔の第1の側に配置され、第2の表面処理層は、電析銅箔の第1の側とは反対の第2の側に配置される。特に、第1の表面処理層および第2の表面処理層の各々は、それぞれ、少なくとも1つのサブ層を有し、該少なくとも1つのサブ層は、バリア層および防錆層からなる群から選択される。
【0011】
本開示のさらに別の実施形態では、基板と、前述の電析銅箔のいずれかとを有し、前記電析銅箔が基板上に配置される、銅クラッドラミネートが提供される。
【0012】
本開示の実施形態では、電析銅箔の特徴的な温度(T105.0wt%など)を特定の範囲に制御することにより、銅導電線の表面の黒色化度を効果的に改善することができる。
【0013】
本発明のこれらおよび他の目的は、各種図面に示された以下の好適実施形態の詳細な説明を読んだ後、当業者には明らかとなる。
【0014】
本開示は、添付図面を参照した、以下の例示的な実施形態の説明からより良く理解される。本開示の特定の実施形態およびその作動原理は、本開示の特定の実施形態および対応する図面を参照することにより、詳細に説明される。また、明確化のため図面内の特徴物には、スケールは示されていない。従って、図面におけるある特徴物のサイズは、意図的に拡大または縮小されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の一実施形態による電析銅箔の概略的な熱重量分析図である。
【
図2】本開示の一実施形態による電析銅箔の概略的な断面図である。
【
図3】本開示の一実施形態によるストリップラインの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
当業者に対して本開示のより良い理解を提供するため、以下、達成されるべき内容および効果が示された符号付き要素を用いた添付図面を参照して、電析銅箔および銅クラッドラミネートに関する本開示のいくつかの例示的実施形態について、詳しく説明する。添付図面は、実施形態のさらなる理解を提供するために含有され、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施することができるように十分に詳細に記載されている。他の実施形態が利用されてもよく、本開示の思想および範囲から逸脱することなく、構造的、論理的および電気的変更が行われてもよい。
【0017】
本開示における「上」、「上部」および「上方」の意味は、「上」が、何かが「直上」にあることを意味するのみならず、中間特徴物を介した何かまたは間の層の「上」の意味を有し、「上部」または「上方」が、何かの「上部」または「上方」の意味を表すのみならず、中間特徴物または間の層を介さず何かの「上部」または「上方」にある意味(すなわち、何かの直上)を含むなど、最も広範に解釈される必要があることは、容易に理解されるべきである。
【0018】
本開示は、第1、第2、第3等の用語を使用して、各種要素、部材、領域、層、および/またはブロックを説明するが、これらの要素、部材、領域、層、および/またはブロックは、これらの用語に限定される必要はないことが理解される。これらの用語は、1つの要素、部分、領域、層、および/またはブロックを別のものから区別するためのみに使用され、これらは、前述の任意の要素の順番、またはある要素と別の要素の配置順、または製造方法の順番を暗示したり、表現したりするものではない。従って、以下に記載の第1の要素、部材、領域、層、またはブロックは、本開示の実施形態の範囲から逸脱することなく、第2の要素、部材、領域、層、またはブロックと称されてもよい。
【0019】
少なくとも各数値パラメータは、少なくとも、記載された有効桁数に照らして、また通常の丸め法を適用することにより、解釈される必要がある。範囲は、1つの終点から別の終点まで、または2つの終点の間で表されてもよい。本願に開示の全ての範囲は、特に記載のない限り、終点を含む。
【0020】
以下に記載の異なる実施形態における技術的特徴は、本開示の思想および範囲から逸脱することなく、相互に置換され、再結合され、または組み合わされ、別の実施形態が構成されてもよいことに留意する必要がある。
【0021】
本開示に記載の電析銅箔は、バルク銅箔を有する。電析銅箔の銅含有量は、99%以上であり、通常、電析銅箔の厚さは、6μm以上であり、例えば、7~250μmの範囲、9~210μmの範囲であり、または12μm、18μm、35μm、70μm、105μm、140μm、175μm、210μmのような、それらの間の範囲である。電析銅箔のバルク銅箔は、電析(または電解、電解成膜、電気メッキ)により形成されてもよく、バルク銅箔は、ドラム側と、該ドラム側とは反対側の成膜側とを有してもよい。
【0022】
必要な場合、表面処理層は、バルク銅箔のドラム側および成膜側の少なくとも1つに配置されてもよい。表面処理層は、単層構造であっても、多層積層構造であってもよい。例えば、表面処理層は、複数のサブ層を含む多層積層構造であってもよく、これに限られるものではないが、表面処理層の各々は、それぞれ、バルク銅箔のドラム側および成膜側に配置されてもよい。表面処理層の各々のサブ層は、これに限られるものではないが、粗面化層、バリア層、防錆層、およびカップリング層からなる群から選択されてもよい。
【0023】
本開示の電析銅箔は、熱重量分析(TGA)の優れた特性温度を有し、例えば、一次温度(T105.0wt%)は、550℃から750℃の範囲である。実験を通して、一次温度(T105.0wt%)は、特定の範囲に制御され、導電線の表面の黒色化の度合いは、効果的に改善される。また、二次温度(T100.1wt%)は、300℃以上に達し、電析銅箔の表面は、より良好な耐酸化特性を有する。
【0024】
図1は、本開示の一実施形態による電析銅箔の概略的な熱重量分析図である。前述の熱重量分析は、前述の電析銅箔に対して、5℃/minの加熱速度、95mL/minの空気流量(空気は、例えば、21vol%酸素および79vol%窒素)で実施される。曲線100で示されるように、空気雰囲気において、電析銅箔の温度が徐々に上昇すると、電析銅箔の重量は、徐々に増加する。重量が約101重量%またはそれ以上に達すると、電析銅箔の重量変化の度合いは比較的高くなるが、重量が101重量%未満の場合、電析銅箔の重量変化の程度は、比較的弱い。いかなる理論に拘束されるものでもないが、前述の現象は、電析銅箔が空気中で加熱されると、電析銅箔の最も外側から、酸化のような物理的および/または化学的反応が生じ、これにより、電析銅箔の表面が最初に反応するという事実によるものである可能性がある。しかしながら、表面処理層を有する電析銅箔では、表面処理層が電析銅箔の総重量の1%未満を占める(換言すれば、表面処理層の総重量は、バルク銅箔の総重量をはるかに下回る)ため、表面処理層の完全な反応が生じても、電析銅箔の総重量は、101重量%を超えない。一方、電析銅箔の総重量が101wt%を超えて増加した場合、これは、電析銅箔の外側の表面処理層の大部分が酸化され、バルク銅箔の深い部分で、酸化反応が徐々に進行することを意味する。その結果、電析銅箔の重量変化の程度は、次第に明確になる。
【0025】
以上の理由に基づき、電析銅箔の全重量が105.0wt%まで増加した場合、対応する重量は、既に、電析銅箔の重量変化の程度が比較的高い曲線の区画にあり、従って、対応する温度T105.0wt%は、一次温度として定められる。同じ理由から、電析銅箔の総重量が100.1wt%に増加した場合、これは、電析銅箔の表面(例えば、表面処理層)で酸化が始まったものの、バルク銅箔は、酸化し始めていないことを意味し、従って、電析銅箔の重量変化の程度が比較的低い曲線の区画に、対応する重量があり、対応する温度T100.1wt%は、二次温度として定められる。
【0026】
熱重量分析の間、本開示の電析銅箔の重量が105.0wt%に達した場合、
図1に示すように、一次温度(T
105.0wt%)は、550℃から750℃の範囲あるいは600℃から750℃の範囲にあり、または682.36℃に等しい。温度が一次温度の範囲(T
105.0wt%)にある場合、バルク銅箔の表面は、黒色化し易い傾向にあり、不完全な黒色化の現象は、生じ難い。表面処理層は、電析銅箔を処理して回路にするプロセスにおいて除去され、これによりバルク銅箔が空気に暴露され、従って局部的に酸化されると推測される。その結果、以降のプロセスで、不完全な黒色化の現象が生じる。
【0027】
いかなる理論に拘束されるものでもないが、バルク銅箔の結晶サイズがより小さく、より均一な場合、およびグレインがより近接して配置される場合、バルク銅箔の耐熱性および耐酸化性は、より良好となることが推測される。例えば、電析装置のカソードドラムの粒度番号を制御すること、電析処理中の電解質中の添加剤の種類または濃度を調整すること、または他の方法のような、バルク銅箔の結晶化を制御する多くの方法がある。特に、カソードドラムの粒度番号が大きい場合、これは、カソードドラムの単位面積当たり、より多くのグレインが存在することを意味する。従って、バルク銅箔を形成するためのより多くの核形成サイトが存在し、作製されたバルク銅箔は、比較的小さな結晶グレインを有し得る。しかしながら、粒度数が極端に大きくなると、作製されるバルク銅箔の結晶化が乱れ、その代わりに耐熱性が低下する可能性がある。添加剤は、銅イオンの析出に影響を及ぼし、その後のバルク銅箔の対応する結晶化を変化させる。また、バルク銅箔を形成する電析プロセスの間、電解質中の添加剤は、バルク銅箔にも組み込まれ、バルク銅箔のグレインの間に存在し得る(例えば、粒界に存在する)ことが推測される。従って、これにより、加熱処理中に、小さなグレインが隣接するグレインと合体して、より大きなグレインが形成される可能性を回避しまたは抑制することができ、従って、バルク銅箔の熱耐性の向上が容易となる。添加剤は、これに限られるものではないが、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪アルカノールアミド、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、またはそれらの混合物から選択されてもよい。
【0028】
二次温度(T100.1wt%)は、電析銅箔の表面の金属が酸化し始める温度とみなすことができる。必要な場合、電析銅箔の重量が100.1重量%に達した際、二次温度(T100.1wt%)は、300℃から400℃の範囲、または330℃から400℃の範囲であってもよい。いかなる理論にも拘束されるものではないが、前述の現象は、電析銅箔が空気中で加熱されると、電析銅箔の最も外側から、物理的/化学的反応が生じるという事実に起因する可能性がある。表面処理層を有する電析銅箔の場合、電析銅箔の重量が増加し始めると、前述の二次温度は、表面処理層(例えば、表面処理層の外側の金属)における金属の酸化の開始の影響を受ける。
【0029】
ある実施形態では、電析銅箔の二次温度(T100.1wt%)は、電析中に添加剤として、これに限られるものではないが、微量金属(例えば、ジルコニウム、ニオブ、チタンおよびタンタル)を添加することにより、制御されてもよい。特定の理論に拘束されるものではないが、微量金属は、表面処理層のミクロ組織を変化させ、これにより、その熱特性が変化してもよい。
【0030】
一次温度(T105.0wt%)および二次温度(T100.1wt%)に加えて、TA汎用分析のような、熱重量分析器に内蔵されたソフトウェアを用いて、前述の熱重量分析プロセスの間、電析銅箔の重量の変化の度合いが大きい曲線の区画に対して、開始温度(Tonset)および変曲温度(TIF)のような、他の特性温度を解析してもよい。電析銅箔の重量の変化が大きい曲線の区画は、バルク銅箔の特徴を表す特徴部とみなされ、解析により得られた開始温度(Tonset)および変曲温度(TIF)もまた、バルク銅箔の耐熱性を特徴づけてもよい。
【0031】
開始温度(T
onset)は、電析銅箔の重量がより高速で増加し始める温度に対応し、開始温度(T
onset)は、分析の開始点として、一次温度(T
105.0wt%)を選択することにより得られた値である。いかなる理論に拘束されるものでもないが、開始温度(T
onset)が高くなるほど、バルク銅箔の耐酸化性または耐熱性は、良好になると予想される。その結果、バルク銅箔の銅は、酸化銅(I)または酸化銅(II)に酸化され難くなる。本開示の各実施形態の電析銅箔では、開始温度(T
onset)は、二次温度(T
100.1wt%)よりも高く、一次温度(T
105.0wt%)よりも低く、例えば、
図1に示すように、400℃から600℃の範囲、または520.51℃である。
【0032】
変曲温度(TIF)は、電析銅箔の重量変化の度合いが高い曲線の区画において、重量増加速度が低下し始める変曲点の温度に対応する。換言すれば、電析銅箔の重量が105.0wt%を超えると、熱重量分析の曲線は、変曲点を示してもよい。このとき、熱重量分析中に到達する変曲点での特定の加熱温度(または電析銅箔が到達する温度)を、変曲温度(TIF)と定めてもよい。TIFの温度が高い場合、電析銅箔の対応するバルク銅箔の耐酸化性または耐熱性は、良好である。特に、TIFは、750℃から1000℃の範囲であってもよく、電析銅箔の元の重量に対する、この段階における電析銅箔の総重量の比は、約107.5重量%から110.0重量%の範囲である。いかなる理論に拘束されるものでもないが、この段階での重量増加率の変化は、TIFに達した際、電析銅箔の銅のほとんどの部分が、酸化銅(I)に酸化されるという事実によるものであると推測される。従って、加熱温度がTIFを超えた後に、電析銅箔の重量が増加するのは、主に、酸化銅(I)が酸化銅(II)に酸化されるためであると推測される。あるいは、この段階での重量増加率の変化は、TIFに達した後に、電析銅箔の表面上の酸化銅(I)または酸化銅(II)により、電析銅箔が保護され、これによりバルク銅箔の内部酸化速度が低下したという事実によるものであってもよい。
【0033】
前述の電析銅箔に関し、その構造を一例として
図2に示す。
図2は、本開示のある実施形態による、電析銅箔の概略的な断面図である。
図2を参照すると、電析銅箔300は、バルク銅箔310と、第1の表面処理層312aと、第2の表面処理層312bとを有する。バルク銅箔310は、第1の表面310Aと、該第1の表面310Aとは反対側の第2の表面310Bとを有する。本開示の一実施形態では、バルク銅箔310の第1の表面310Aおよび第2の表面310Bの一方は、成膜側であり、第1の表面310Aおよび第2の表面310Bの他方は、ドラム側であってもよい。
【0034】
第1の表面処理層312aは、第1の表面310A上に配置され、第2の表面処理層312bは、第2の表面310B上に配置される。第1の表面処理層312aの外側は、電析銅箔300の処理表面300Aと称され、処理表面300Aは、基板にラミネートされるために使用される。第1の表面処理層312aおよび第2の表面処理層312bは、任意で提供されてもよく、従って、構造は、実施形態に記載されたものに限定されないことが言及される。
【0035】
第1の表面処理層312aは、複数の積層されたサブ層を有し、各サブ層は、粗面化層314、第1のバリア層316a、第1の防錆層318a、およびカップリング層320からなる群から選択されてもよい。第2の表面処理層312bは、複数の積層されたサブ層を有し、各サブ層は、第2のバリア層316bおよび第2の防錆層318bからなる群から選択されてもよい。第1のバリア層316aおよび第2のバリア層316bの組成は、同じであっても、互いに異なっていてもよく、第1の防錆層318aおよび第2の防錆層318bの組成は、同じであっても、互いに異なっていてもよい。
【0036】
本開示の一実施形態では、第1の表面処理層312aの第1のバリア層316a、第1の防錆層318a、およびカップリング層320の全体厚さは、粗面層314の厚さよりもはるかに小さいため、比表面積(μm2/μm2)のような、電析銅箔300の処理表面300Aの表面形態は、主として、粗面層314により影響される。特に、比表面積は、表面の投影面積に対する表面の実際の面積の比を表す。本開示の一実施形態では、第1の表面処理層312aは、ニッケルを含み、第1の表面処理層312aの比表面積(μm2/μm2)と第1の表面処理層312aのニッケル含有量(μg/dm2)との積は、10μg/dm2から100μg/dm2の範囲、例えば10μg/dm2から60μg/dm2の範囲である。
【0037】
前述の粗面化層314は、ノジュール(nodules)を有する。ノジュールを用いて、バルク銅箔の表面粗さが改善されてもよく、ノジュールは、銅ノジュールまたは銅合金ノジュールであってもよい。バルク銅箔からノジュールが脱離することを抑制するため、さらに、粗面化層上に被覆層を配置して、ノジュールを被覆してもよい。電析銅箔300の比表面積(μm2/μm2)は、粗面化層中のノジュールの数およびサイズを調整することにより、調整されてもよい。例えば、電析により形成されるノジュールおよび被覆層の場合、粗面化の形態は、これに限られるものではないが、電解質溶液中の添加剤の種類および濃度、ならびに/または電流密度を調整することにより、調整されてもよい。添加剤は、これに限られるものではないが、硫酸ジルコニウム、ニオブ酸ナトリウム、硫酸チタンおよびタンタル酸ナトリウムのような、金属塩添加剤であってもよい。
【0038】
バリア層は、金属層または金属合金層のような、同一のまたは異なる組成物で構成されてもよい。金属層は、これに限られるものではないが、ニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉄、スズ、バナジウム、タングステンおよびチタンから選択されてもよい。また、金属層および金属合金層は、単層構造または多層構造を有し,例えば、相互に積層された亜鉛含有層およびニッケル含有層を含む二重層構造であってもよい。本開示の一実施形態では、第1のバリア層316aは、互いに積層された亜鉛含有層およびニッケル含有層を有する二重層構造を有し、第2のバリア層316bは、亜鉛含有層を含む単層構造を有する。
【0039】
防錆層は、金属に設置されたコーティング層であり、腐食等による劣化から金属を保護するために使用される。防錆層は、金属または有機化合物を含む。防錆層が金属を含む場合、金属は、クロムまたはクロム合金であってもよく、またクロム合金は、ニッケル、亜鉛、コバルト、モリブデン、バナジウム、およびそれらの組み合わせから選択された1つの元素を有してもよい。防錆層が有機化合物を含む場合、有機防錆層を形成するために使用され得る有機分子の非限定的な例には、ポルフィリン基、ベンゾトリアゾール、トリアジントリチオール、およびそれらの組み合わせが含まれる。ポルフィリン基には、ポルフィリン、ポルフィリン大環状化合物、膨張ポルフィリン、収縮ポルフィリン、線状ポルフィリンポリマー、ポルフィリンサンドイッチ配位複合体、ポルフィリンアレイ、5,10,15,20-テトラキス(4-アミノフェニル)-ポルフィリン-Zn(II)、およびそれらの組み合わせが含まれる。本開示の一実施形態では、第1の防錆層318aおよび第2の防錆層318bは、いずれもクロムを含む。
【0040】
カップリング層は、シランで構成され、電析銅箔と他の材料(例えば、プリプレグ)との間の密着性が改善されてもよい。カップリング層は、これに限られるものではないが、テトラオルガノシラン、アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、1-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、(3-エポキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-クロロプロピル)トリメトキシシラン、およびジメチル-ジ-シロキサンN-オクチルトリエトキシシラン、トリス(2-メトキシエトキシ)ビニルシラン、トリメチルクロロシラン、メチルトリクロロシラン、四塩化ケイ素、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、エチレン-トリメトキシシラン、1から20個の炭素原子を有するアルコキシシラン、1から20個の炭素原子を有するビニルアルコキシ、(メタ)アクリルシラン、およびそれらの組み合わせから選択されてもよい。
【0041】
前述の電析銅箔は、さらに処理され、銅クラッドラミネート(CCL)となってもよい。銅クラッドラミネートは、少なくとも1つの基板と、電析銅箔とを有し、電析銅箔は、基板の少なくとも1つの表面に配置される。特に、電析銅箔の処理表面は、基板と面するように、基板と直接接触してもよい。
【0042】
また、基板は、これに限られるものではないが、ベークライト基板、ポリマー基板、またはファイバーガラス基板で構成されてもよい。ポリマー基板のポリマーは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリエーテルスルホン、セルロース熱可塑性樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリウレタン、およびポリイミド樹脂であってもよい。前述のガラス繊維基板は、ガラスファイバー不織布を前述のポリマー(例えば、エポキシ樹脂)に浸漬することにより形成された、プリプレグであってもよい。
【0043】
前述の銅クラッドラミネートは、さらに、印刷回路基板に加工されてもよく、この方法ステップは、電析銅箔をパターン化して導電線を得るステップと、導電線を黒色化するステップと、を有してもよい。特に、黒色化プロセスは、化学浴を使用する処理プロセスであり、少なくとも1つの前処理(例えば、導電線の表面のマイクロエッチング処理、または清浄化処理など)を含んでもよい。
【0044】
さらに、一例として、電析銅箔および銅クラッドラミネートを製造する方法について説明する。製造方法における各ステップは、以下のように記載される:
(1)ステップA
ステップAは、電析プロセスによりバルク銅箔を形成するために実施される。例えば、電析装置を使用して、電析プロセスにより、バルク銅箔(または裸銅箔と称される)を形成してもよい。具体的には、電析装置は、少なくともカソードとしてのドラムと、不溶性金属アノード板の組と、電解質溶液用の入口マニホルドとを備える。特に、ドラムは、回転可能な金属ドラムであり、その表面は、鏡面研磨表面である。金属アノード板は、金属カソードドラムの下半分に固定設置され、金属カソードドラムの下側半分から分離され、金属カソードドラムの下側半分が取り囲まれてもよい。供給マニホルドは、金属カソードドラムの下側、および2つの金属アノードプレートの間に、固定設置されてもよい。
【0045】
電析プロセスの間、供給マニホルドは、ドラムと金属アノード板の間に、電解質溶液を連続的に供給する。ドラムと金属アノード板との間に電流または電圧を印加することにより、ドラム上に銅が電析され、バルク銅箔が形成されてもよい。また、ドラムを連続的に回転させ、電析銅箔をドラムの片側から剥離することにより、連続バルク銅箔が製造されてもよい。ドラムと対面するバルク銅箔の表面は、ドラム側と称され、ドラムから遠いバルク銅箔の表面は、成膜側と称される。
【0046】
バルク銅箔に関する製造パラメータは、以下の通りである:
<1.1 電解質溶液の組成、および電解条件>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):320g/L
硫酸:95g/L
塩化物イオン(RCl Labsmay社製の塩酸から):30mg/L(ppm)
低分子量ゲル(DV、Nippi社製):5.5ppm
添加剤(ポリオキシエチレン(20)モノオレイン酸ソルビタン、Tween 80、Acros社製):10ppm
液温:50℃
電流密度:70A/dm2
バルク銅箔の厚さ:約35μm
<1.2 カソードドラム>
材料:チタン
粒度番号:6から10。
【0047】
(2)ステップB
ステップBでは、バルク銅箔の表面が汚染物質(油汚れおよび酸化物など)を含まないことを確実にするため、バルク銅箔の表面清浄化処理が実施される。製造パラメータは、以下のように記載される:
<2.1 洗浄溶液の組成および洗浄条件>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):200g/L
硫酸:100g/L
液温:25℃
浸漬時間:5秒。
【0048】
(3)ステップC
ステップCでは、前述のバルク銅箔の成膜側およびドラム側の一方に、ノジュールが形成される。例えば、ノジュールは、電析プロセスにより、バルク銅箔の成膜側およびドラム側の一方に形成されてもよい。また、ノジュールの脱落を防止するため、さらに、ノジュール上に被覆層が形成されてもよい。ノジュールおよび被覆層の作製パラメータは、以下のように記載される:
<3.1 ノジュール形成のパラメータ>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):150g/L
硫酸:100g/L
硫酸ジルコニウム(Zr(SO4)2):2から5mg/L(ppm)
液温:25℃
電流密度:40A/dm2
処理時間:10秒
<3.2 被覆層を作製するためのパラメータ>
硫酸銅(CuSO4・5H2O):220g/L
硫酸:100g/L
硫酸チタン(Ti(SO4)2):2から5mg/L(ppm)
液温:40℃
電流密度:15A/dm2
処理時間:10秒。
【0049】
(4)ステップD
ステップDでは、バルク銅箔の各側にバリア層が形成される。例えば、電析プロセスを実施することにより、二重層積層構造(例えば、これに限られるものではないが、ニッケル含有層/亜鉛含有層)を有するバリア層が、ノジュールおよび被覆層を有するバルク銅箔の側に形成される一方、単層構造(例えば、これに限られるものではないが、亜鉛含有層)を有するバリア層が、ノジュールおよび被覆層を含まないバルク銅箔の側に形成される。その製造パラメータは、以下のように記載される:
<4.1 ニッケル含有層を形成するための電解質組成および電析条件>
硫酸ニッケル(NiSO4・7H2O):180g/L
ホウ酸(H3BO3):30g/L
液温:20℃
電流密度:0.2A/dm2
処理時間:10秒
<4.2 亜鉛含有層を形成するための電解質組成および電析条件>
硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O):9g/L
液温:20℃
電流密度:0.2A/dm2
処理時間:10秒。
【0050】
(5)ステップE
ステップEでは、クロム含有層のような防錆層が、前述のバルク銅箔の各側のバリア層上に形成される。作製パラメータは、以下のように記載される:
<5.1 クロム含有層を形成するための電解質組成および電析条件>
三酸化クロム(CrO3):5g/L
液温:30℃
電流密度:5A/dm2
処理時間:10秒。
(6)ステップF
ステップFでは、ノジュール、被覆層、バリア層および防錆層を有するバルク銅箔の側に、カップリング層が形成される。例えば、前述の電析プロセスの完了後、バルク銅箔は、水で洗浄され、バルク銅箔の表面は、乾燥処理に晒されない。その後、シランカップリング剤を含む水溶液が、ノジュールを有するバルク銅箔の側の防錆層上に噴霧され、これにより防錆層の表面にシランカップリング剤が吸着される。その後、バルク銅箔は、オーブン中で乾燥処理されてもよい。製造パラメータは、以下のように記載される:
<6.1 シランカップリング剤を製造するパラメータ>
シランカップリング剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)
シランカップリング剤の水溶液中濃度:0.25wt%
噴霧時間:10秒。
【0051】
当業者が本開示を実施することを可能にするため、以下、電析銅箔および銅クラッドラミネートに関する具体例についてさらに説明する。しかしながら、以下の例は、単なる例示を目的としたものであり、本開示を限定するものと解されてはならないことが留意される。すなわち、それぞれの実施例における材料、材料の量および比率、ならびに処理フローは、添付の特許請求の範囲により定められる本開示の思想および範囲内にある限り、適宜修正されてもよい。
【実施例】
【0052】
(実施例1~13)
実施例1から13は、電析銅箔であり、製造プロセスは、前述の製造方法におけるステップAからFを含む。前述の製造プロセスとは異なる製造パラメータを表1に示す。具体的には、実施例1~4、6~13の電析銅箔の構造を
図2に示す。粗面化層上に順次、ニッケル含有層、亜鉛含有層、クロム含有層、およびカップリング層が形成される。亜鉛含有層およびクロム含有層が、粗面化層を含まないバルク銅箔の側に、順次形成される。実施例5では、電析銅箔に粗面化層が設けられず、バルク銅箔の成膜側に、ニッケル含有層、亜鉛含有層、クロム含有層、およびカップリング層が順次形成される。また、実施例5では、亜鉛含有層およびクロム含有層は、バルク銅箔のドラム側に順次形成される。実施例1~13において、電析銅箔の厚さは、35μmである。
【0053】
(比較例1~3)
比較例1~3の作製プロセスは、前述の製造プロセスにおけるステップAからFに対応する。前述の製造プロセスとは異なる製造パラメータを表1に示す。具体的に、比較例1~3の電析銅箔の構造を
図2に示す。粗面化層上に、ニッケル含有層、亜鉛含有層、クロム含有層およびカップリング層が順次、形成される。亜鉛含有層およびクロム含有層は、粗面化層を有しないバルク銅箔の側に、順次形成される。
【0054】
【表1】
以下、前述の実施例1~13および比較例1~3における<熱重量分析>、<黒色化度>、<表面のニッケル含有量>、<比表面積>、<信頼性>および<信号伝送ロス>のような、評価結果について、さらに説明する。表2および表3には、結果を示す。
【0055】
<熱重量分析>
約15から30mgの電析銅箔の試料を熱重量分析計(SDT 2960、TA Instruments社)の試料ホルダーに装填し、一定の加熱速度で室温から1000℃まで加熱し、元のデータを重量(%)対温度(℃)としてプロットした。自動解析ソフトウェアを用いて、熱重量チャートを解析した。ユーザが機能「Yにおける曲線値」を選択し、特定の重量(例えば、105.0重量%および100.1重量%)を入力すると、解析ソフトウェアにより、曲線上の対応する温度(例えば、T105.0wt%およびT100.1wt%)が提供される。一次温度(T105.0wt%)および二次温度(T100.1wt%)の実際の値が得られた後、機能「開始点」を選択し、計算間隔を定め、下限重量を100.1%、対応する温度をT100.1wt%、上限重量を105.0%、対応する温度をT105.0wt%に設定することにより、開始温度が求められる。表2および表3には、一次温度(T105.0wt%)、二次温度(T100.1wt%)、および開始温度(Tonset)のような、熱重量分析曲線の特徴的な温度を示す。具体的な測定条件は、以下の通りである:
ガス:空気(21vol%酸素、79vol%窒素)
ガス流量:95mL/min
加熱速度:5℃/分
解析ソフトウェア:TA汎用解析。
【0056】
<黒色化度>
各々が0.076mmの厚さを有する6枚の市販の樹脂シート(S7439G、SyTech社製)を相互に積層して樹脂シート積層層を形成し、粗面化層を有する表面処理銅箔の処理表面が樹脂シート積層と対向するように配置した。次に、表面処理銅箔と樹脂シート積層層をラミネートし、銅クラッドラミネートを形成した。ラミネート条件は、温度233℃、圧力580psi、プレス時間100分であった。その後、銅クラッドラミネートを75mm×150mmの寸法に切断し、電析銅箔の露出表面をアセトンで洗浄した。露出表面は、樹脂シート積層層で被覆しなかった。
【0057】
次に、暗室での熱ラミネートにより、電析銅箔の露出表面に、乾式膜フォトレジスト層(FF-9030A、Chang Chunプラスチックス社製)をラミネートした。乾式膜フォトレジスト層をラミネートする条件は、温度65℃、圧力3.0kg/cm2、プレス時間3秒である。乾式膜フォトレジスト層を電析銅箔にラミネートした後、銅クラッドラミネートを室温で15分間冷却した。次に、特定のパターンを有する75mm×150mmのフォトマスクで、電析銅箔の表面を被覆した。露光機(EXM-1201F、ORC)を用いて、フォトマスクの遮蔽の下、600~700mmHgの真空圧力下、80から100MJ/cm2のエネルギー強度の下で、電析銅箔上の乾式膜フォトレジスト層を露光し、これにより乾式膜フォトレジスト層の一部を硬化させた。露光処理を実施した後、湿式現像処理を実施した。その間、乾式膜フォトレジスト層に現像剤を噴霧し、未硬化乾式膜フォトレジスト層を除去し、特定のパターンを有するパターン化されたフォトレジスト層を形成した。現像条件は、温度29℃、溶液1.0wt%のNa2CO3、噴霧圧力1.2kg/cm2とした。
【0058】
次に、体積比が1:1:1の36wt%の塩酸水溶液+40wt%の塩化第2鉄水溶液+超純水を用いて調製されたエッチング溶液により、前述の試料をエッチングし、パターン化フォトレジスト層により定められたパターンを電析銅箔に転写し、パターン化された電析銅箔を得た。その後、5wt%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、硬化したパターン化フォトレジスト層を除去した。次に、パターン化された銅クラッドラミネートをさらに洗浄し、乾燥させた。
【0059】
前述のパターン化銅クラッドラミネートを得た後、回路パターンに対してミクロエッチングを実施し、回路パターンの露出表面上の表面処理層を除去した。ミクロエッチング条件は、以下の通りである。溶液:10vol%のH2SO4および90vol%のH2O2、温度:45℃、処理時間:90秒。その後、銅クラッドラミネートを水で30秒間洗浄した。その後、前処理のため、回路パターンを有する銅クラッドラミネートを、所定の試験溶液中に浸漬した。前処理条件は、以下の通りであった:
試験溶液:60ppmのオムニボンド9249
温度:25℃
処理時間:50秒。
【0060】
その後、回路パターンを有する銅クラッドラミネートを所定の処理溶液に浸漬し、黒色化処理を行った。黒色化処理の条件は、以下の通りであった:
処理溶液:133ppmの試薬(Omnibond 9249)、285ppmの試薬(Omnibond 9251)
処理溶液の液温:70℃
処理時間:330秒。
【0061】
その後、銅クラッドラミネートを室温の水(30秒)、および高温(70℃の純水、30秒間)で順次洗浄し、銅クラッドラミネートを空気乾燥することにより、黒色化回路パターンを有する銅クラッドラミネートを得た。
【0062】
回路パターンの黒色化度を判定した。判定結果を表3に示す。判定基準は、以下の通りである:
A(最も強い黒色化度を表す):均一な色で、回路パターンの表面から銅が露出していない
B(通常の黒色化度を表す):わずかな色変化があるものの、回路パターンの表面から銅が露出していない
C(最も低い黒色化度を表す):回路パターンの表面から銅が露出している。
【0063】
<表面のニッケル量>
電析銅箔を100×100mmのサイズ(すなわち1dm2の面積)に切断し、ニッケル含有層が提供されていない電析銅箔の側を保護層で被覆した。保護層の組成は、ナイロンである。その後、試料をペトリ皿に入れ、室温(25℃)で10分間、20mlの18%HCl溶液および2mlの30%のH2O2溶液からなる溶液に浸漬し、その後、得られた溶液を50mlのメスフラスコに注いだ。次に、ペトリ皿を水で洗浄し、その後、これを定量瓶に収集した。これにより、定量瓶の溶液は、設定量の50mlに達する。ニッケル含有量は、誘導結合プラズマ原子発光分光装置(ICP‐AES、iCAP7000、Thermo Companyから購入)により測定した。キャリアガスはアルゴンであり、アトマイザを通るガス流速は、0.5L/分であった。表3には、試験結果を示す。
【0064】
<比表面積>
レーザ顕微鏡(LEXT OLS5000‐SAF、オリンパス社製)により実施した表面テクスチャ分析を用いて、粗面化層を有する電析銅箔の側の比表面積(μm2/μm2)を測定した。表3には、試験結果を示す。具体的な測定条件は、以下の通りである:
光源の波長:405nm
対物レンズ倍率:100倍対物レンズ(MPLAPON-100x LEXT、オリンパス社製)
光学ズーム:1.0倍
画像面積:129μm×129μm
解像度:1024画素×1024画素
モード:自動傾斜除去
フィルター:フィルターなし
周囲温度:25℃
相対湿度:60%。
【0065】
<信頼性>
各々が0.076mmの厚さの6枚の市販の樹脂シート(S7439G、SyTech社製)を相互に積層して樹脂シート積層層を形成した。前述の例のいずれかの電析銅箔を樹脂シート積層層上に配置した。次に、電析銅箔を樹脂シート積層層にラミネートし、ラミネート基板を形成した。ラミネート条件は、温度200℃、圧力400psi、加圧時間120分とした。ラミネート基板は、10cm×10cmに切断した。
【0066】
その後、圧力クッカー試験(PCT)を実施した。オーブンの条件は、温度121℃、圧力2気圧、湿度100%RHに設定した。オーブン内にラミネート基板を30分間配置した後、取り出し、室温に冷却した。次に、はんだ浴試験を実施した。その間、圧力クッカー試験で処理されたラミネート基板を、288℃の温度で10秒間、溶融はんだ浴に浸漬した。
【0067】
はんだ浴試験は、同じサンプルで繰り返し実施され、各はんだ浴試験の後、ラミネート基板に、ブリスター、クラック、剥離、およびその他の異常現象があるかどうかが観測される。前述の異常現象のいずれかが発生した場合、ラミネート基板は、対応するはんだ浴試験に不合格と判定される。表2には、結果を示す。判定基準は、以下の通りである:
O:11回以上のはんだ浴試験後も、ラミネート基板に異常現象は認められない
X:10回未満のはんだ浴試験後に、ラミネート基板に異常現象が認められる。
【0068】
<信号伝送ロス>
前述の実施形態の任意の表面処理銅箔は、
図3に示すようなストリップ線路に形成され、対応する信号伝送損失が測定された。具体的には、ストリップライン400において、前述の実施形態の任意の表面処理銅箔が、厚さ152.4μmの樹脂(S7439G、Shengyi Technology社製)に取り付けられ、その後、表面処理銅箔が導電線402に形成され、その後、2枚の別の樹脂(S7439G、Shengyi Technology社製)を用いて、2つの側の表面のそれぞれが被覆される。導電線402は、誘電体本体(S7439G、Shengyi Technology社製)404に配置される。ストリップ線路400は、さらに、誘電体本体404の対向する両側のそれぞれに配置された、2つの接地電極406-1、406-2を有してもよい。接地電極406-1および接地電極406-2は、導電性ビアホールを介して互いに電気的に接続されているため、接地電極406-1と接地電極406-2は、等しい電位を有する。ストリップ線路400における各部材の仕様は、以下の通りである:
導電線402の長さ:100mm
幅w:120μm
厚さt:35μm
誘電体本体404の誘電特性:Dk=3.74およびDf=0.006(IPC-TM No.2.5.5に従い10GHzの信号で測定)
特性インピーダンス:50Ω
状態:カバー膜なし。
【0069】
標準的なCisco S3法により測定される信号伝送ロスの測定では、信号アナライザを用いて、接地電極406-1および406-2の両方が接地電位にある際に、導電線402の一端から電気信号を入力し、導電線402の他端での出力値を測定し、ストリップ線400により生じた信号伝送ロスが求められる。具体的な測定条件は、以下の通りである:
信号アナライザ:PNA N5227B((Keysight Technologies社)
電気信号の周波数:10MHzから20GHz
掃引点:2000点
校正モード:E-Cal(cal kit:N4692D)。
【0070】
電気信号の周波数が16GHzに設定されている条件下で、対応するストリップ線路の信号伝送ロスの程度を判定する。特に、信号伝送ロスの絶対値が小さい場合、これは、信号ロスの程度が小さいことを意味する。判定基準は、以下の通りである:
A(信号伝送特性が最良):信号伝送ロスの絶対値が1.15dB/in未満
B(信号伝送特性が良好):信号伝送ロスの絶対値が1.15から1.25dB/inの範囲
C(信号伝送特性が最も悪い):信号伝送ロスの絶対値が1.25dB/inよりも大きい。
【0071】
【表2】
表2に示された例では、熱重量分析の実施により得られた電析銅箔の一次温度(T
105.0wt%)が550℃から750℃の範囲である場合、実施例1から13の電析銅箔の対応する導電線の黒色化度は、熱重量分析の実施により得られた一次温度(T
105.0wt%)が他の範囲内にある比較例1から3と比べて、全てがクラスAまたはクラスBを達成し、クラスCは含まれない。すなわち、実施例1から13の電析銅箔の対応する導電線の黒色度は、比較的均一である。
【0072】
また、熱重量分析の実施により得られた電析銅箔の一次温度(T105.0wt%)が、600から750℃の範囲にある場合、実施例3、7~10に対応するもののように、対応する導電線の黒色度は、全てクラスAを達成し、これは、対応する導線の黒色度が、より均一であることを意味する。
【0073】
熱重量分析の実施により得られた電析銅箔の開始温度(Tonset)が400℃から600℃の範囲にある場合、実施例1から13の電析銅箔の対応する導電線の黒色化度は、熱重量分析の実施により得られた開始温度(Tonset)が他の範囲内にある比較例1から3の場合と比べて、全てクラスAまたはクラスBを達成し、クラスCは含まれない。すなわち、実施例1~13の電析銅箔の対応する導電線の黒色度は、比較的均一である。
【0074】
【表3】
表3では、電析銅箔の表面におけるニッケル含有量と、電析銅箔の比表面積との積が、100μg/dm
2未満、例えば、10μg/dm
2から100μg/dm
2の範囲である場合、対応する実施例(すなわち、実施例1~4、6~8、12~13)のストリップ線路の信号伝送ロスは全て、クラスAまたはクラスBを達成し、クラスCは含まれず、これは、信号伝送ロスがより少ないことを意味する。
【0075】
電析銅箔の表面におけるニッケル含有量と電析銅箔の比表面積との積が10μg/dm2から60μg/dm2の範囲の場合、対応する実施例(すなわち、実施例1~2、7、12~13)のストリップ線路の信号伝送ロスは全て、クラスAに達し、クラスBまたはクラスCは認められず、これは、信号伝送ロスがより小さいことを意味する。
【0076】
また、熱重量分析の実施により得られた電析銅箔の二次温度(T101.0wt%)が300から400℃の範囲の場合、当該実施例(実施例1~11)のラミネート基板は、熱重量分析の実施により得られた二次温度(T101.0wt%)が他の範囲内にある実施例12、実施例13、および比較例1~3と比較して、さらに、ブリスター、クラック、剥離、または他の異常現象を示さず、信頼性試験に合格する。
【0077】
本発明の示唆を維持したまま、装置および方法の多くの修正および変更を行い得ることは、当業者には容易に理解される。従って、前述の開示は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものと解される必要がある。
【符号の説明】
【0078】
300 電析銅箔
300A 処理表面
310A 第1の表面
310B 第2の表面
312a 第1の表面処理層
312b 第2の表面処理層
【要約】
【課題】従来技術に存在する問題を解決する、改善された電析銅箔および銅クラッドラミネートを提供する。
【解決手段】電析銅箔は、バルク銅箔を有する。加熱速度5℃/min、空気流量95mL/minで電析銅箔に対して実施される熱重量分析(TGA)の間、電析銅箔の重量が105.0wt%まで増加する場合、T
105.0wt%として定められる前記TGAの加熱温度は、550℃から750℃の範囲にある。
【選択図】
図1