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7195481ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体、及び、ジルコニア焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体、及び、ジルコニア焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20221216BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C01G25/02
C04B35/486
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022523220
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036911
(87)【国際公開番号】W WO2022075346
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020170949
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 優行
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097094(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196650(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/145787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-25/02
C04B 35/486
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤を含み、
前記安定化剤が、CaO、Y、Er、又は、Ybであり、
前記安定化剤がYである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上2.0mol%未満であり、
前記安定化剤がErである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がYbである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がCaOである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上4.5mol%以下であり、
水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上120nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が30nm以上170nm以下であることを特徴とするジルコニア粉末。
【請求項2】
比表面積が10m/g以上50m/g以下であり、
粒子径D50が0.1μm以上0.7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項3】
前記ピークトップ径が20nm以上70nm以下であり、
前記細孔分布幅が40nm以上105nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
前記安定化剤がYである場合、前記Yの含有量が、1.4mol%以上1.9mol%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
前記安定化剤がYである場合、前記Yの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項6】
前記比表面積が20m/g以上40m/g以下であることを特徴とする請求項2~5のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項7】
前記粒子径D50が0.1μm以上0.3μm未満であることを特徴とする請求項2~6のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項8】
アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を、0.005質量%以上2質量%以下含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項9】
Fe、V、Er、Mn、Co、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項10】
安定化剤を含み、
前記安定化剤が、CaO、Y 、Er 、及び、Yb からなる群より選ばれる1種以上であり、
結晶相に含まれる単斜晶相率が0.2%以上5%以下であり、
IF法による靭性測定において加重を50kgfとしたときに焼結体に発生する亀裂長さが1μm以上90μm以下であり、
3点曲げ強度が80kg/mm以上150kg/mm以下であることを特徴とするジルコニア焼結体。
【請求項11】
相対焼結密度が99%以上であることを特徴とする請求項10に記載のジルコニア焼結体。
【請求項12】
IF法による靭性測定において加重を50kgfとしたときの靭性値が10MPa・m0.5以上40MPa・m0.5以下であることを特徴とする請求項10又は11に記載のジルコニア焼結体。
【請求項13】
前記安定化剤がYのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上2.0mol%未満であり、
前記安定化剤がErのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がYbのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がCaOのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上4.5mol%以下であることを特徴とする請求項12に記載のジルコニア焼結体。
【請求項14】
Fe、V、Mn、Co、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項10~13のいずれか1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項15】
134℃で75時間水熱条件下に曝露した後の、表面の単斜晶相率が32%以下であることを特徴とする請求項10~14のいずれか1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか1に記載のジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1200℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yと
を有することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体、及び、ジルコニア焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアは、機械的強度、透光性、屈折率などを利用し、様々な用途で使用されている。近年では、電子機器、生体材料、摺動部品のさらなる高機能化のため、高強度、水熱劣化耐性は当然ながら、さらなる高靭性が求められている。
【0003】
特許文献1には、安定化剤としてYを2~4モル%含む粒径0.1~2.0μmのZrO粉末に、安定化剤としてYを2~4モル%含む粒径0.05μm以下のZrO微粉末を2~10重量%混合して混合粉末を得、次にこの混合粉末を造粒し、さらに得られた造粒粉末を成形し、次いで得られた成形体を常圧で相対密度96~98%まで予備焼結し、その後1480℃以下の温度にて熱間静水圧加圧処理するジルコニア焼結体の製造方法が開示されている(請求項1参照)。特許文献1では、マイクロクラック強化機構を利用することにより、高靱性なジルコニア焼結体を得ようとしている。具体的には、比較的大きなクラックを閉気孔の形で焼結体中に導入し、その閉気孔を熱間静水圧加圧(HIP)処理することによって本来もっている破壊源の大きさより小さくし、マイクロクラック強化機構を発現させる欠陥を形成することにより、高靱性なジルコニア焼結体を得ようとしている(段落[0007]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平05-070224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法では、2種の粉末の粒子径を制御することは煩雑で制御が困難であるといった問題がある。また、HIP焼結は汎用性が低いといった問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高靱性なジルコニア焼結体を簡便に得ることが可能なジルコニア粉末を提供することにある。また、高靱性なジルコニア焼結体を提供することにある。また、当該ジルコニア焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的に、安定化剤の量を少なくするほど、ジルコニア焼結体中の単斜晶相率が多くなることは知られている。ここで、単斜晶相率が多くなることは、正方晶相から単斜晶相への変態が多いことを意味する。そして、正方晶相から単斜晶相への変態に伴い体積変化が生じると、ジルコニア焼結体にクラックが発生することになる。そのため、従来、安定化剤の量としては、例えば、Yを使用する場合には、含有量を3.0mol%程度として使用されていた。このように、従来、マイクロクラック強化機構を利用することについて検討されていない場合には、安定化剤をある程度多く含ませる(3.0mol%程度含ませる)ことが通常であった。
一方、本発明者は、ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とすることにより、驚くべきことに、得られるジルコニア焼結体へのクラック発生は著しく起こり難い一方で、マイクロクラックを容易に形成することができ、マイクロクラック強化機構による靱性向上効果が得られることを見出した。そして、単斜晶相率を0.2%以上5%以下の範囲内とするためには、安定化剤の含有量を従来より少ない特定範囲内で含ませることが好適であることを見出した。
なお、マイクロクラック強化機構については、従来公知の機構であるので、ここでの詳細な説明は省略することとする。
【0008】
さらに、本発明者は、安定化剤の量のみでは、ジルコニア焼結体中の単斜晶相率を好適に制御することは困難であることを見出した。
本発明者は鋭意検討した結果、驚くべきことに、ジルコニア粉末に含まれる安定化剤の量を特定の範囲内とすることに加えて、細孔分布を特定の範囲内とすることにより、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易くなることを見出した。
【0009】
以上のことから、本発明者は、下記の構成を採用することにより、高靱性なジルコニア焼結体を簡便に得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るジルコニア粉末は、
安定化剤を含み、
前記安定化剤が、CaO、Y、Er、又は、Ybであり、
前記安定化剤がYである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上2.0mol%未満であり、
前記安定化剤がErである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がYbである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がCaOである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上4.5mol%以下であり、
水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上120nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が30nm以上170nm以下であることを特徴とする。
【0011】
前記構成に係るジルコニア粉末によれば、安定化剤がYである場合、前記Yを1.4mol%以上2.0mol%未満の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
同様に、安定化剤がErである場合、前記Erを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
同様に、安定化剤がYbである場合、前記Ybを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
同様に、安定化剤がCaOである場合、前記CaOを3.5mol%以上4.5mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0012】
また、前記構成に係るジルコニア粉末によれば、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上120nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が30nm以上170nm以下であるため、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
前記ピークトップ径、前記細孔容積、及び、前記細孔分布幅を前記数値範囲内に制御すると、ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い理由については不明であるが、本発明者は、粉末物性(細孔容積・細孔分布幅)を制御することで、低温焼結が可能となると推察している。つまり、1350℃を超えるような高温での焼結条件では、高靭性を得るために安定化剤を少なくした場合、焼結のための降温時の正方晶相から単斜晶相への相転移の量が多くなりすぎ、体積変化により焼結体に大きな亀裂が発生することとなる。そこで、粉末物性(細孔容積・細孔分布幅)を制御することで、低温で焼結を可能とし、所定の単斜晶相比率(0.2%以上5%以下)を達成することができる。
なお、前記ピークトップ径、前記細孔容積、及び、前記細孔分布幅を前記数値範囲内に制御すると、ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易いことについては、実施例、比較例の対比からも明らかである。
【0013】
また、前記構成に係るジルコニア粉末によれば、2種の粉末を混合する必要はなく、HIPによる焼結を必須ともしないため、高靱性なジルコニア焼結体を簡便に得ることが可能となる。
【0014】
前記構成においては、比表面積が10m/g以上50m/g以下であり、
粒子径D50が0.1μm以上0.7μm以下であることが好ましい。
【0015】
前記比表面積が10m/g以上50m/g以下であると、焼結性に優れる。また、前記粒子径D50が0.1μm以上0.7μm以下であると、焼結性に優れる。
【0016】
前記構成においては、前記ピークトップ径が20nm以上70nm以下であり、
前記細孔分布幅が40nm以上105nm以下であることが好ましい。
【0017】
前記ピークトップ径が20nm以上70nm以下であり、前記細孔分布幅が40nm以上105nm以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率をより0.2%以上5%以下とし易い。
【0018】
前記構成においては、前記安定化剤がYである場合、前記Yの含有量が、1.4mol%以上1.9mol%以下であることが好ましい。
【0019】
前記Yの含有量が、1.4mol%以上1.9mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率をより0.2%以上5%以下とし易い。
【0020】
前記構成においては、前記安定化剤がYである場合、前記Yの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%未満であることが好ましい。
【0021】
前記Yの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%未満であると、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率をさらに0.2%以上5%以下とし易い。
【0022】
前記構成においては、前記比表面積が20m/g以上40m/g以下であることが好ましい。
【0023】
前記比表面積が20m/g以上40m/g以下であると、より焼結性に優れる。
【0024】
前記構成においては、前記粒子径D50が0.1μm以上0.3μm未満であることが好ましい。
【0025】
前記粒子径D50が0.1μm以上0.3μm未満であると、より焼結性に優れる。
【0026】
前記構成においては、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を、0.005質量%以上2質量%以下含んでも構わない。
【0027】
アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を上記数値範囲内で含むと、焼結助剤として機能するため、低温焼結性に優れる。
なお、アルミナは、一次粒子及び二次粒子の粒界に存在することにより、ジルコニアの粒成長を阻害させることによって気孔を除去することにより、焼結助剤として機能する。
また、タンマン温度が1200℃以下(絶対温度:1473.15K以下)の金属酸化物は、低温焼結時の温度(1200℃~1350℃)においてある程度の流動性を有するため、一次粒子及び二次粒子の接合を促進して焼結速度を早めることにより、焼結助剤として機能する。
ここで、絶対温度で表したタンマン温度をTd、絶対温度で表した固体の融点をTmとすると、金属では、Td=0.33Tm、酸化物などでは、Td=0.757Tm、共有結合化合物では、Td=0.90Tmの関係がある(これらをタンマンの法則という)。
従って、本明細書において、「タンマン温度」とは、このタンマンの法則に従った値をいう。
【0028】
前記構成において、Fe、V、Er、Mn、Co、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでも構わない。
【0029】
Fe、V、Er、Mn、Co、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むと、好適に着色することができる。
【0030】
また、本発明に係るジルコニア焼結体は、
結晶相に含まれる単斜晶相率が0.2%以上5%以下であり、
IF法による靭性測定において加重を50kgfとしたときに焼結体に発生する亀裂長さが1μm以上90μm以下であり、
3点曲げ強度が80kg/mm以上150kg/mm以下であることを特徴とする。
【0031】
前記構成に係るジルコニア焼結体によれば、結晶相に含まれる単斜晶相率が0.2%以上5%以下であるため、マイクロクラック強化機構を発現させることが可能である。本発明は、マイクロクラック強化機構の発現を、単斜晶相率により制御している点が特徴の1つである。
また、前記亀裂長さが1μm以上90μm以下であるため、靱性に優れる。また、前記3点曲げ強度が80kg/mm以上150kg/mm以下であるため、強度に優れる。
【0032】
前記構成においては、相対焼結密度が98.5%以上であることが好ましい。
【0033】
前記相対焼結密度が98.5%以上であると、当該ジルコニア焼結体はより高強度となる。
【0034】
前記構成においては、IF法による靭性測定において加重を50kgfとしたときの靭性値が10MPa・m0.5以上40MPa・m0.5以下であることが好ましい。
【0035】
前記靭性値が10MPa・m0.5以上40MPa・m0.5以下であると、充分に高い靭性を有するといえる。
【0036】
前記構成においては、安定化剤を含み、
前記安定化剤が、CaO、Y、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0037】
前記安定化剤が、CaO、Y、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であると、ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0038】
前記構成において、前記安定化剤がYのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上2.0mol%未満であり、
前記安定化剤がErのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がYbのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がCaOのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上4.5mol%以下であることが好ましい。
【0039】
前記安定化剤がYのみである場合、前記Yを1.4mol%以上2.0mol%未満の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
同様に、安定化剤がErのみである場合、前記Erを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
同様に、安定化剤がYbのみである場合、前記Ybを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
同様に、安定化剤がCaOのみである場合、前記CaOを3.5mol%以上4.5mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0040】
前記構成において、Fe、V、Mn、Co、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでも構わない。
【0041】
Fe、V、Mn、Co、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むと、好適に着色することができる。
【0042】
前記構成においては、134℃で75時間水熱条件下に曝露した後の、表面の単斜晶相率が31%以下であることが好ましい。
【0043】
134℃で75時間水熱条件下に曝露した後の、表面の単斜晶相率が31%以下であると、水熱劣化耐性に優れるといえる。
【0044】
また、本発明に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1200℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yと
を有することを特徴とする。
【0045】
前記ジルコニア粉末は、安定化剤としてCaO、Y、Er、又は、Ybを特定量含むものである。
前記構成に係るジルコニア焼結体の製造方法によれば、前記ジルコニア粉末を、1200℃以上1350℃以下の範囲内で焼結させることにより、得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下の範囲内に制御にすることができる。このことは、実施例からも明らかである。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、高強度、且つ、高靱性なジルコニア焼結体を簡便に得ることが可能なジルコニア粉末を提供することができる。また、高強度、且つ、高靱性なジルコニア焼結体を提供することができる。また、当該ジルコニア焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法を説明するための模式図である。
図2】実施例2のジルコニア粉末の細孔分布である。
図3】実施例7のジルコニア粉末の細孔分布である。
図4】比較例7のジルコニア粉末の細孔分布である。
図5】亀裂長さを説明するための模式図である。
図6】圧痕長さとクラック長さとを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニア(酸化ジルコニウム)とは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。また、本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0049】
[ジルコニア粉末]
本実施形態に係るジルコニア粉末は、
安定化剤を含み、
前記安定化剤が、CaO、Y、Er、又は、Ybであり、
前記安定化剤がYである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上2.0mol%未満であり、
前記安定化剤がErである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がYbである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であり、
前記安定化剤がCaOである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上4.5mol%以下であり、
水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上120nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が30nm以上170nm以下である。
【0050】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニアを主成分とする一次粒子を含む。前記一次粒子の全部又は一部は、凝集して二次粒子を形成している。すなわち、前記ジルコニア粉末は、凝集していない一次粒子、及び、一次粒子が凝集した二次粒子を含む。
ただし、前記ジルコニア粉末において、二次粒子とはならず、凝集しない一次粒子の状態で存在する一次粒子の量はごく微量であり、例えば、一次粒子全体(凝集していない一次粒子と、凝集して二次粒子となった一次粒子との合計)のうちの1質量%未満である。つまり、前記ジルコニア粉末は、凝集していない一次粒子をごく微量含み得るが、大部分が二次粒子で構成されている。
なお、「ジルコニアを主成分とする」とは、一次粒子を100質量%としたときに、当該一次粒子にジルコニアを70質量%以上含むことをいう。すなわち、本明細書において、ジルコニアを主成分とする一次粒子とは、ジルコニアを70質量%以上含む一次粒子をいう。一次粒子に含まれるジルコニアの含有量は、74質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。
【0051】
本実施形態に係るジルコニア粉末は、ジルコニアを主成分として含有する。具体的に、前記ジルコニア粉末は、上述した通り、一次粒子が凝集した二次粒子と、ごく微量の凝集していない一次粒子とを含む。
【0052】
前記ジルコニア粉末は、安定化剤を含む。前記安定化剤は、固溶する等の形態にて前記一次粒子に含まれる。
【0053】
前記安定化剤は、CaO、Y、Er、又は、Ybである。前記安定化剤は、用途によって異なるが、コストや着色等の観点から、CaO、Y、Ybがより好ましい。また、前記安定化剤は、水熱劣化耐性の観点からは、CaOが好ましい。
【0054】
前記安定化剤がYである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量は、1.4mol%以上2.0mol%未満である。前記Yの含有量は、好ましくは1.45mol%以上、より好ましくは1.5mol%以上、さらに好ましくは1.55mol%以上、特に好ましくは1.57mol%以上、特別に好ましくは1.6mol%以上である。前記Yの含有量は、好ましくは1.9mol%以下、より好ましくは1.8mol%未満、さらに好ましくは1.75mol%以下、特に好ましくは1.7mol%以下、特別に好ましくは1.65mol%以下である。
前記Yを1.4mol%以上2.0mol%未満の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0055】
前記安定化剤がErである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下である。前記Erの含有量は、好ましくは1.45mol%以上、より好ましくは1.5mol%以上、さらに好ましくは1.55mol%以上、特に好ましくは1.57mol%以上、特別に好ましくは1.6mol%以上である。前記Erの含有量は、好ましくは1.9mol%以下、より好ましくは1.8mol%未満、さらに好ましくは1.75mol%以下、特に好ましくは1.7mol%以下、特別に好ましくは1.65mol%以下である。
前記Erを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0056】
前記安定化剤がYbである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下である。前記Ybの含有量は、好ましくは1.45mol%以上、より好ましくは1.5mol%以上、さらに好ましくはmol%以上、特に好ましくは1.53mol%以上、特別に好ましくは1.57mol%以上である。前記Ybの含有量は、好ましくは1.75mol%以下、より好ましくは1.7mol%以下、さらに好ましくは1.65mol%以下、特に好ましくは1.63mol%以下である。
前記Ybを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0057】
前記安定化剤がCaOである場合、前記安定化剤がCaOである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上4.5mol%以下である。前記CaOの含有量は、好ましくは3.6mol%以上、より好ましくは3.7mol%以上、さらに好ましくは3.8mol%以上、特に好ましくは3.9mol%以上、特別に好ましくは3.95mol%以上である。前記CaOの含有量は、好ましくは4.4mol%以下、より好ましくは4.3mol%以下、さらに好ましくは4.2mol%以下、特に好ましくは4.1mol%以下、特別に好ましくは4.05mol%以下である。
前記CaOを3.5mol%以上4.5mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア粉末を焼結して得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0058】
<細孔分布>
1.一次粒子間隙のピークトップ径
前記ジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上120nm以下である。前記ピークトップ径は、好ましくは25nm以上、より好ましくは30nm、さらに好ましくは32nm、特に好ましくは35nm以上である。前記ピークトップ径は、好ましくは70nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは57nm以下、特に好ましくは54nm以下である。
なお、細孔分布の10nm以上200nm以下の範囲に複数のピークが存在する場合、本明細書でいう「細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上120nm以下である」とは、細孔分布の10nm以上200nm以下の範囲におけるすべてのピークトップ径が20nm以上120nm以下の範囲内にあることをいう。
【0059】
2.一次粒子間隙の細孔分布幅
前記ジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔分布幅が30nm以上170nm以下である。前記細孔分布幅は、好ましくは40nm以上、より好ましくは46nm以上、さらに好ましくは50nm以上、特に好ましくは55nm以上である。前記細孔分布幅は、好ましくは105nm以下、より好ましくは95nm以下、さらに好ましくは90nm以下、特に好ましくは85nm以下、特別に好ましくは80nm以下である。
ここで、細孔分布幅は、log微分細孔容積(例えば、図2参照)が0.1ml/g以上となるピークの幅をいう。
なお、細孔分布の10nm以上200nm以下の範囲に複数のピークが存在する場合、本明細書でいう「細孔分布幅が30nm以上170nm以下である」とは、横軸を細孔径、縦軸をlog微分細孔容積とした細孔分布を示すグラフ(例えば、図2参照)において、細孔径が小さい方から見て初めてlog微分細孔容積0.1mL/gと交差した点(上昇しながら交差した点)を最小径とし、log微分細孔容積0.1mL/gと再び交差した点(下降しながら交差した点)を最大径とし、その最大径と最小径の差が30nm以上170nm以下であることをいう。
【0060】
3.一次粒子間隙の細孔容積
前記ジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満である。前記全細孔容量は、好ましくは0.22ml/g以上、より好ましくは0.25ml/g以上、さらに好ましくは0.3ml/g以上、特に好ましくは0.35ml/g以上、特別に好ましくは0.4ml/g以上である。前記全細孔容量は、好ましくは0.48ml/g以下、より好ましくは0.46ml/g以下、特に好ましくは0.44ml/g以下である。
【0061】
前記ピークトップ径、前記細孔容積、及び、前記細孔分布幅を前記数値範囲内に制御すると、ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い理由については不明であるが、本発明者は、粉末物性(細孔容積・細孔分布幅)を制御することで、低温焼結が可能となると推察している。つまり、1350℃を超えるような高温での焼結条件では、高靭性を得るために安定化剤を少なくした場合、焼結のための降温時の正方晶相から単斜晶相への相転移の量が多くなりすぎ、体積変化により焼結体に大きな亀裂が発生することとなる。そこで、粉末物性(細孔容積・細孔分布幅)を制御することで、低温で焼結を可能とし、所定の単斜晶相比率(0.2%以上5%以下)を達成することができる。
なお、前記ピークトップ径、前記細孔容積、及び、前記細孔分布幅を前記数値範囲内に制御すると、ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易いことについては、実施例、比較例の対比からも明らかである。
前記ピークトップ径、前記細孔分布幅、前記細孔容積は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
【0062】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易いため、得られるジルコニア焼結体へのクラック発生は著しく起こり難い一方で、マイクロクラックを容易に形成することができ、マイクロクラック強化機構による靱性向上効果が得られる。
なお、前記ジルコニア粉末は、2種の粉末を混合する必要はなく、HIPによる焼結を必須ともしない。
以上より、前記ジルコニア粉末によれば、高靱性なジルコニア焼結体を簡便に得ることが可能となる。
【0063】
<粒子径D50
前記ジルコニア粉末の粒子径D50は、0.1μm以上0.7μm以下であることが好ましい。前記粒子径D50は、好ましくは0.12μm以上、より好ましくは0.14μm以上、さらに好ましくは0.16μm以上、特に好ましくは0.2μm以上である。前記粒子径D50は、好ましくは0.62μm以下、より好ましくは0.55μm以下、さらに好ましくは0.48μm以下、特に好ましくは0.4μm以下、特別に好ましくは0.3μm以下、格別に好ましくは0.3μm未満である。前記粒子径D50は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
なお、前記粒子径D50は、測定する際に、二次粒子のみならず、凝集していない一次粒子も含まれ得るが、前記ジルコニア粉末に含まれ得る凝集していない一次粒子の量はごく微量である。従って、前記粒子径D50は、二次粒子の粒子径D50、すなわち、二次粒子の平均粒子径を表しているとみなしてよい。
前記粒子径D50が0.1μm以上0.7μm以下であると、焼結性に優れる。
【0064】
<比表面積>
前記ジルコニア粉末の比表面積は、10m/g以上50m/g以下であることが好ましい。前記比表面積は、好ましくは20m/g以上、より好ましくは22m/g以上、さらに好ましくは24m/g以上、特に好ましくは26m/g以上、特別に好ましくは28m/g以上であるである。前記比表面積は、好ましくは40m/g以下、より好ましくは38m/g以下、さらに好ましくは36m/g以下、特に好ましくは34m/g以下、特に好ましくは32m/g以下である。前記比表面積は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
前記比表面積が10m/g以上50m/g以下であると、焼結性に優れる。
【0065】
前記ジルコニア粉末は、添加剤を含有していてもよい。本明細書において、添加剤とは、ジルコニア粒子に対して、混合物として添加されるものをいう。前記添加剤としては、焼結助剤、着色剤等が挙げられる。前記添加剤としては、焼結助剤としてのみ機能するもの、着色剤としてのみ機能するもの、焼結助剤として機能し、且つ、着色剤として機能するものがある。以下、焼結助剤、着色剤について説明する。
【0066】
前記ジルコニア粉末は、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を、0.005質量%以上2質量%以下含んでも構わない。タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物としては、例えば、鉄、ゲルマニウム、コバルト、クロム、亜鉛の酸化物等が挙げられる。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量は、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上、特別に好ましくは0.07質量%以上である。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量は、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、特別に好ましくは0.25質量%以下である。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を上記数値範囲内で含むと、焼結助剤として機能するため、低温焼結性に優れる。
また、前記ジルコニア粉末がアルミナを含有することで、ジルコニア焼結体の靭性の低下を抑制しやすい。さらに、アルミナの含有量を調節すれば、ジルコニア焼結体の透光性を向上させることができる。
アルミナの形態は特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時の(ジルコニア粒子に混合、分散させる際の)ハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、アルミナ粉末が好ましい。
アルミナの形態が粉末である場合、アルミナの一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、例えば、0.02~0.4μm、好ましくは0.05~0.3μm、より好ましくは0.07~0.2μmである。
前記ジルコニア粉末は、焼結助剤を含んでも構わないが、焼結助剤を含まない構成としてもよい。具体的に、前記ジルコニア粉末は、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であっても構わない。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であるとは、焼結助剤を含まないことを意味する。
【0067】
前記ジルコニア粉末は、アルミナ、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物以外にも、強度等の特性の向上を目的として、焼結可能なセラミックスや熱硬化性樹脂等を含んでも構わない。
【0068】
前記ジルコニア粉末は、Fe、V、Er、Mn、Co、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでいてもよい。Fe、V、Er、Mn、Co、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を着色元素として含むと、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体を好適に着色することができる。
【0069】
前記着色元素の形態は特に限定されず、酸化物、塩化物などの形態で添加することができる。前記着色元素を含む着色剤としては、具体的には、例えば、Fe、V、Er、MnO、CoO、Tb、ZnO、CuO、TiO等が挙げられる。前記着色剤は、前記ジルコニア粉末に混合物として添加されていることが好ましい。
【0070】
前記着色剤としてFeを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0071】
前記着色剤としてVを含む場合、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0072】
前記着色剤としてErを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0073】
前記着色剤としてMnOを含む場合、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.1質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0074】
前記着色剤としてCoOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0075】
前記着色剤としてTbを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0076】
前記着色剤としてZnOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0077】
前記着色剤としてCuOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.6質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0078】
前記着色剤としてTiOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下がさらに好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0079】
<相対成型密度>
前記ジルコニア粉末は、成型圧2t/cmで成型した場合の相対成型密度が45~50%であることが好ましい。ここで、相対成型密度は下記式によって算出される値である。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(4)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記「ジルコニア焼結体の相対焼結密度の測定方法」の項で説明する式(2-1)によって算出される値である。前記相対成型密度の上限値は45.5%以上が好ましく、46%以上がより好ましい。その下限値は49.5%以下が好ましく、49%以下がより好ましく、48.5%以下がさらに好ましく、48%以下が特に好ましい。
【0080】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0081】
[ジルコニア粉末の製造方法]
以下、ジルコニア粉末の製造方法の一例について説明する。ただし、ジルコニア粉末の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0082】
本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法は、
ジルコニウム塩溶液及び硫酸塩化剤溶液をそれぞれ別々に95℃以上100℃以下に加熱する工程1、
前記加熱後のジルコニウム塩溶液と前記加熱後の硫酸塩化剤溶液とを、接触開始から終了までの間に混合液の濃度が変化しないように接触させることにより、混合液として塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る工程2、
工程2で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を、95℃以上で3時間以上熟成する工程3、
工程3で得られた熟成後の塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に安定化剤を添加する工程4、
工程4で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液にアルカリを添加することにより、ジルコニウム含有水酸化物を得る工程5、
工程5で得られたジルコニウム含有水酸化物を熱処理することにより,ジルコニア粉末を得る工程6
を含み、
前記工程2では、当該接触開始から終了まで、混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.3~0.8の範囲に維持するとともに、混合液の温度を95℃以上に維持する。
以下、工程ごとに詳細に説明する。
【0083】
<工程1>
工程1では、出発原料であるジルコニウム塩溶液及び硫酸塩化剤溶液をそれぞれ別々に95℃以上100℃以下に加熱する。
前記ジルコニウム塩溶液を作製するために用いるジルコニウム塩としては、ジルコニウムイオンを供給するものであればよく、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等を使用できる。これらは1種又は2種以上で使用できる。この中でも、工業的規模での生産性が高い点でオキシ塩化ジルコニウムが好ましい。
【0084】
前記ジルコニウム塩溶液を作製するために用いる溶媒としては、ジルコニウム塩の種類等に応じて選択すればよい。通常は水(純水、イオン交換水、以下同様)が好ましい。
【0085】
前記ジルコニウム塩溶液の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000gに対して酸化ジルコニウム(ZrO)換算で5~250g含有されることが好ましく、20~150g含有されることがより好ましい。
【0086】
硫酸塩化剤としては、ジルコニウムイオンと反応して硫酸塩を生成させるもの(すなわち、硫酸塩化させる試薬)であればよく、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム、二硫酸カリウム、二硫酸ナトリウム、三酸化硫黄等が例示される。硫酸塩化剤は、粉末状、溶液状等のいずれの形態でもよいが、溶液(特に水溶液)が好ましい。溶媒については、前記ジルコニウム塩溶液を作製するために用いる溶媒と同様のものを使用することができる。
【0087】
前記ジルコニウム塩溶液の酸濃度は0.1~2.0Nとすることが好ましい。酸濃度を上記範囲に設定することによって、ジルコニア粉末を構成する粒子の凝集状態を好適な状態に制御することができる。酸濃度の調整は、例えば、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウム等を用いることにより実施することができる。
【0088】
前記硫酸塩化剤(前記硫酸塩化剤溶液)の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000gに対して硫酸塩化剤を5~250g、特に20~150gとすることが好ましい。
【0089】
前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液を調製する容器は、前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液をそれぞれ十分攪拌できる容量を備えていれば、材質は特に限定されない。ただし、各溶液の温度が95℃を下回らないように適宜加熱できる設備を有していることが好ましい。
前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液の加熱温度は、95℃以上100℃以下であればよく、好ましくは97℃以上である。前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液の温度が95℃未満のまま工程2を実施すると、ジルコニウム塩溶液と硫酸塩化剤とが充分に反応せず、収率が低下する。
【0090】
<工程2>
工程2では、前記加熱後のジルコニウム塩溶液と前記加熱後の硫酸塩化剤溶液とを、接触開始から終了までの間に混合液の濃度が変化しないように接触させることにより、混合液として塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る。ここで、当該接触開始から終了まで、混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.3~0.8の範囲に維持するとともに、混合液の温度を95℃以上に維持する。
以下、工程2について、図面を参照しつつ、説明する。
【0091】
図1は、本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法を説明するための模式図である。図1に示すように、容器10は、バルブ12を介してT字管20の上方の一端(図1では左側)に接続されている。容器30は、バルブ32を介してT字管20の上方の他端(図1では右側)に接続されている。容器10には、95℃以上100℃以下に加熱されたジルコニウム溶液が貯蓄されている。容器30には、95℃以上100℃以下に加熱された硫酸塩化剤溶液が貯蓄されている。
工程2では、バルブ12を開くとともにバルブ32を開くことにより、ジルコニウム溶液と硫酸塩化剤溶液とを接触させる。接触することにより得られた混合液(塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液)は、T字管20の下方から直ちに熟成用容器40に流入する。工程2では、このような手法により、ジルコニウム溶液と硫酸塩化剤溶液との接触を開始してから終了するまでの間に反応液の濃度(T字管20内における反応液の濃度)が変化しないようにしている。工程2では、接触開始時から終了時までのSO 2-/ZrOの濃度変化を抑制しているため、均一な反応物が得られる。このような工程(工程2)を採用することにより、一次粒子のピークトップ径、細孔容積、細孔分布幅を制御することができる。すなわち、二次粒子内の一次粒子間隙由来の細孔の大きさを小さく、且つ、分布をシャープにでき、さらに、一次粒子間隙由来の細孔容積も小さくすることができる。
工程2における混合液中のSO 2-/ZrO重量比率は、0.3~0.8の範囲内が好ましく、より好ましくは0.4~0.7、さらに好ましくは0.45~0.65である。混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.3以上とすることにより、反応生成物である塩基性硫酸ジルコニウムの収率を高めることができる。また、混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.8以下とすることにより、硫酸ジルコニウムの可溶性塩が生成することを抑制し、塩基性硫酸ジルコニウムの収率が低下することを抑制することができる。
工程2では、混合液の温度を95℃以上に維持するために、各溶液を供給する配管(例えば、T字管20)等にヒーターを設置することが好ましい。
【0092】
以下、工程2の一例につき具体的に説明する。
T字管20として、上方の一端(図1では左側)の管径L1が10mm、上方の多端(図1では右側)の管径L2が10mm、下方の管径L3が15mmのT字管を用い、25質量%硫酸ナトリウム水溶液213gと、ZrO換算で16質量%オキシ塩化ジルコニウム水溶液450gとを接触させる場合、接触開始から接触終了まで(容器10内の塩化ジルコニウム水溶液及び容器30内の硫酸塩化剤溶液がなくなるまで)の時間(接触時間)としては、好ましくは30秒~300秒、より好ましくは60秒~200秒、さらに好ましくは90秒~150秒である。
【0093】
<工程3>
工程3では、工程2で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を、95℃以上で3時間以上熟成する。工程3では、例えば、熟成用容器40に流入した塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を攪拌機42で攪拌しつつ、95℃以上で3時間以上熟成する。熟成時間の上限は特に制限されないが、例えば、7時間以下である。工程3における混合液(塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液)の温度(熟成温度)は、好ましくは95℃以上、より好ましくは97℃以上100℃以下である。熟成温度を95℃以上且つ熟成時間を3時間以上とすることにより、塩基性硫酸ジルコニウムが充分に生成し、収率を高めることができる。
なお、上記混合液は、塩基性硫酸ジルコニウムを主成分として含んでおり、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーである。
【0094】
<工程4>
工程4では、工程3で得られた熟成後の塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に安定化剤を添加する。
【0095】
<工程5>
工程5では、工程4で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液にアルカリを添加し、中和反応を行う。中和により、ジルコニウム含有水酸化物が生成する。
アルカリとしては限定されず、例えば、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アンモニア、ヒドラジン炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。アルカリの濃度は特に限定されないが、水で希釈し、通常5~30%のものが用いられる。
アルカリの添加方法としては、(1)塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液にアルカリ溶液を添加する、(2)アルカリ溶液に塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を添加する、の2つの方法があるが、特に限定されず、どちらの方法を用いてもよい。
中和後、スラリーを濾過することにより、ジルコニウム含有水酸化物が得られる。このジルコニウム含有水酸化物は、必要に応じて、純水等で水洗することにより、不純物を除去することが好ましい。水洗後は、必要に応じて乾燥等を行うことができる。
【0096】
<工程6>
工程6では、工程5で得られたジルコニウム含有水酸化物を熱処理(焼成)することにより、ジルコニウム含有水酸化物を酸化し、ジルコニア粉末を得る。
ジルコニウム含有水酸化物の熱処理温度(焼成温度)、及び、熱処理時間(焼成時間)は、特に限定されないが、通常は600~1050℃程度で1時間~10時間行う。前記焼成温度は、650℃以上1000℃以下であることがより好ましく、700℃以上950℃以下であることがさらに好ましい。前記焼成温度は、2時間~6時間がより好ましく、2時間~4時間がさらに好ましい。熱処理温度を600℃以上1000℃以下とすることにより、得られるジルコニア粉末の比表面積を好適な範囲とすることができる。また、熱処理温度を600℃以上1050℃以下とすることにより、得られるジルコニア粉末の細孔分布を好適な範囲とすることができる。熱処理雰囲気は、特に限定されないが、通常は大気中又は酸化性雰囲気中とすればよい。
【0097】
<工程7>
工程6の後、必要に応じて、得られたジルコニア粉末を粉砕してスラリー化してもよい。その際、成型性を向上させるためにバインダーを添加してもよい。スラリー化しない場合(粉砕しない場合)は、バインダーとジルコニア粉末とを混練機で均一に混合してもよい。
前記バインダーとしては、有機系バインダーが好ましい。有機系バインダーは、酸化雰囲気の加熱炉にて成型体から除去しやすく、脱脂体を得ることができるので、最終的に焼結体中に不純物が残存しにくくなる。
前記有機バインダーとしては、アルコールに対して溶解するもの、又は、アルコール、水、脂肪族ケトン及び芳香族炭化水素からなる群より選ばれる2種以上の混合液に対して溶解するものが挙げられる。前記有機バインダーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、グリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル及びプロピオン酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。前記有機バインダーは、さらに、アルコールもしくは上記混合液に対して不溶である1種以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
前記有機バインダー添加した後は、公知の方法を適用して乾燥、粉砕等の処理をすることにより、目的とするジルコニア粉末を得ることができる。
工程7の粉砕により、ジルコニア粉末の粒子径D50をコントロールすることができる。例えば、工程5で得られたジルコニア粉末の状態に応じて粉砕を行い、ジルコニア粉末の粒子径D50を0.1μm以上0.7μm以下の範囲内にコントロールすることができる。
【0098】
焼結助剤や、着色剤等を添加する場合、前記工程6の後に添加、混合することにより、焼結助剤、着色剤等を含むジルコニア粉末を得ることができる。混合のより詳細な方法としては、純水等に分散させてスラリー化して湿式混合することが好ましい。
また、前記工程7を行う場合には、工程7を行う際に、焼結助剤や、着色剤等を添加してもよい。
【0099】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0100】
[ジルコニア焼結体の製造方法]
以下、ジルコニア焼結体の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニア焼結体の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0101】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1200℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yとを有する。
【0102】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法においては、まず、ジルコニア粉末を準備する。前記ジルコニア粉末としては、[ジルコニア粉末]の項で説明したものを用いることができる。
【0103】
次に、前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る(工程X)。成型は、市販の金型成型機や冷間等方圧加圧法(CIP)を採用できる。また、一旦、ジルコニア粉末を金型成型機で仮成型した後、プレス成型で本成型してもよい。プレス成型は通常、0.1t~3t/cmの範囲でよい。好ましくは、0.5t~2.5t/cm、より好ましくは0.8t~2.2t/cm、さらに好ましくは1t~2t/cmである。
【0104】
次に、前記成型体を1200℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する(工程Y)。本実施形態では、安定化剤を比較的少なく含有させるとともに、焼結温度を1200~1350℃と低温に設定することにより、得られるジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下の範囲内に制御にすることができる。1350℃を超える高温で焼結させると、単斜晶相率が多くなる(5%超となる)場合がある。これにより、得られる焼結体を高強度、且つ、高靱性な焼結体とすることができる。焼結温度は、より好ましくは、1200℃以上1300℃以下であり、1200℃以上1250℃以下である。焼結時の保持時間も特に限定されないが、例えば、好ましくは1~5時間程度、より好ましくは1時間~3時間である。焼結雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中とすることができる。焼結は、常圧下でよく、加圧は特に必要ない。
【0105】
以上、本実施形態に係る安定化ジルコニア焼結体の製造方法について説明した。
【0106】
本実施形態のジルコニア粉末、及び、ジルコニア焼結体の製造方法によれば、1200℃~1350℃という低温での焼結であっても、高強度、且つ、高靱性を有する焼結体が得られるため、プレス成型、射出成型、鋳込み成型、シート成型等の公知の各種成型方法を広く利用できる。しかも、本実施形態のジルコニア粉末は、量産も容易であるので、コスト競争力にも優れ、各種用途に好適に用いることができる。
【0107】
[ジルコニア焼結体]
以下、本実施形態に係るジルコニア焼結体の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニア焼結体は、以下の例示に限定されない。
【0108】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、
結晶相に含まれる単斜晶相率が0.2%以上5%以下であり、
IF法による靭性測定において加重を50kgfとしたときに焼結体に発生する亀裂長さが1μm以上90μm以下であり、
3点曲げ強度が80kg/mm以上150kg/mm以上である。
【0109】
前記ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率は、0.2%以上5%以下である。前記単斜晶相率は、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.4%以上、さらに好ましくは0.5%以上、特に好ましくは0.6%以上、特別に好ましくは0.7%以上である。前記単斜晶相率は、好ましくは4%以下、より好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは3%以下、特に好ましくは2.5%以下、特別に好ましくは2%以下である。
前記単斜晶相率が0.2%以上5%以下であるため、マイクロクラック強化機構を発現させることが可能である。前記単斜晶相率は、例えば、安定化剤の含有量や、焼結温度により制御することができる。
前記単斜晶相率の求め方は、実施例に記載の方法による。
【0110】
前記ジルコニア焼結体は、IF法による靭性測定において加重を50kgfとしたときに焼結体に発生する亀裂長さが1μm以上90μm以下である。前記亀裂長さは、好ましくは3μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは12μm以上、特に好ましくは15μm以上、特別に好ましくは20μm以上である。前記亀裂長さは、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは55μm以下、特に好ましくは50μm以下、特別に好ましくは40μm以下である。前記亀裂長さは、前記単斜晶相率により制御することができる。前記亀裂長さが1μm以上90μm以下であるため、靱性に優れる。
前記亀裂長さの求め方は、実施例に記載の方法による。
【0111】
前記ジルコニア焼結体は、IF法による靭性測定において加重を50kgfとしたときの靭性値が10MPa・m0.5以上40MPa・m0.5以下であることが好ましい。前記靭性値は、好ましくは13MPa・m0.5以上、より好ましくは15MPa・m0.5以上、さらに好ましくは17MPa・m0.5以上、特に好ましくは20MPa・m0.5以上、特別に好ましくは25MPa・m0.5以上である。前記靭性値は、好ましくはMPa・m0.5以下、より好ましくは36MPa・m0.5以下、さらに好ましくは33MPa・m0.5以下、特に好ましくは30MPa・m0.5以下、特別に好ましくは28MPa・m0.5以下である。前記靭性値が10MPa・m0.5以上40MPa・m0.5以下であると、充分に高い靭性を有するといえる。前記靭性値は、前記単斜晶相率により制御することができる。
前記靭性値の求め方は、実施例に記載の方法による。
【0112】
前記ジルコニア焼結体は、3点曲げ強度が80kg/mm以上150kg/mm以下である。前記3点曲げ強度は、好ましくは90kg/mm以上、より好ましくは95kg/mm以上、さらに好ましくは100kg/mm以上、特に好ましくは110kg/mm以上である。前記3点曲げ強度は、好ましくは140kg/mm以下、より好ましくは135kg/mm以下、さらに好ましくは130kg/mm以下、特に好ましくは125kg/mm以下、特別に好ましくは120kg/mm以下である。
前記3点曲げ強度が80kg/mm以上150kg/mm以下であるため、強度に優れる。前記3点曲げ強度は、例えば、前記単斜晶相率により制御することができる。また、前記3点曲げ強度は、例えば、相対焼結密度により制御することができる。具体的には、相対焼結密度を高くすることにより、高強度(80kg/mm以上)とすることができる。前記3点曲げ強度の求め方は、実施例に記載の方法による。
【0113】
<相対焼結密度>
前記ジルコニア焼結体の相対焼結密度は、98.5%以上であることが好ましく、99.0%以上であることがより好ましく、99.1%以上であることがさらに好ましく、99.2%以上であることが特に好ましく、99.3%以上が特別に好ましく、99.4%以上であることが格別に好ましく、99.5%以上であることがより格別に好ましい。前記相対焼結密度が98.5%以上であると、ジルコニア焼結体がより高強度となる。
【0114】
<ジルコニア焼結体の相対焼結密度の測定方法>
前記相対焼結密度は、下記式(1)で表される相対焼結密度のことをいう。
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ0=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+[安定化剤の分子量]×X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、前記安定化剤の分子量は、前記安定化剤がYの場合225.81、Erの場合382.52、Ybの場合394.11を用いる。
また、X及びYはそれぞれ、安定化剤濃度(モル%)及びアルミナ濃度(重量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は,粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が2mol%であれば6.117g/cm、3mol%であれば6.098g/cm、5.5mol%であれば6.051g/cmである(Al=0重量%の場合)。
安定化剤がCaOの場合、ρzは下記式(3)によって算出される値である。
ρz=-0.0400(CaOのモル濃度)+6.1700・・・(3)
また、着色剤を含む場合の理論焼結密度(ρ1とする)は、
ρ1=100/[(Z/V)+(100-Z)/ρ0]・・・(2-5)
また、Zは着色剤濃度(重量%)Vは着色剤理論密度(g/cm)である。
着色剤理論密度は、Feが5.24g/cm、ZnOが5.61g/cm、MnOが5.03g/cm、CoOが6.10g/cm、TiOが4.23g/cm、Tbが7.80g/cm、CuOが6.31g/cmとする。
また、焼結密度は、アルキメデス法にて計測する。
【0115】
前記ジルコニア焼結体は、134℃で75時間水熱条件下に曝露した後の、表面の単斜晶相率が32%以下であることが好ましい。前記単斜晶相率は、好ましくは31.5%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは23%以下、特別に好ましくは20%以下である。134℃で75時間水熱条件下に曝露した後の、表面の単斜晶相率は、例えば、特定の安定化剤(例えば、CaO)を用いることにより達成することができる。前記単斜晶相率が32%以下であると、水熱劣化耐性に優れるといえる。
前記単斜晶相率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0116】
前記ジルコニア焼結体は、安定化剤を含み、前記安定化剤が、CaO、Y、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。前記安定化剤は、用途によって異なるが、コストや着色等の観点から、CaO、Y、Ybがより好ましい。また、前記安定化剤は、水熱劣化耐性の観点からは、CaOが好ましい。
【0117】
前記安定化剤がYのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上2.0mol%未満であることが好ましい。前記Yの含有量は、好ましくは1.45mol%以上、より好ましくは1.5mol%以上、さらに好ましくは1.55mol%以上、特に好ましくは1.57mol%以上、特別に好ましくは1.6mol%以上である。前記Yの含有量は、好ましくは1.9mol%以下、より好ましくは1.8mol%未満、さらに好ましくは1.75mol%以下、特に好ましくは1.7mol%以下、特別に好ましくは1.65mol%以下である。
前記Yを1.4mol%以上2.0mol%未満の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0118】
前記安定化剤がErのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であることが好ましい。前記Erの含有量は、好ましくは1.45mol%以上、より好ましくは1.5mol%以上、さらに好ましくは1.55mol%以上、特に好ましくは1.57mol%以上、特別に好ましくは1.6mol%以上である。前記Erの含有量は、好ましくは1.9mol%以下、より好ましくは1.8mol%未満、さらに好ましくは1.75mol%以下、特に好ましくは1.7mol%以下、特別に好ましくは1.65mol%以下である。
前記Erを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0119】
前記安定化剤がYbのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上1.8mol%以下であることが好ましい。前記Ybの含有量は、好ましくは1.75mol%以下、より好ましくは1.7mol%以下、さらに好ましくは1.65mol%以下、特に好ましくは1.63mol%以下である。
前記Ybを1.4mol%以上1.8mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0120】
前記安定化剤がCaOのみである場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上4.5mol%以下であることが好ましい。前記CaOの含有量は、好ましくは3.6mol%以上、より好ましくは3.7mol%以上、さらに好ましくは3.8mol%以上、特に好ましくは3.9mol%以上、特別に好ましくは3.95mol%以上である。前記CaOの含有量は、好ましくは4.4mol%以下、より好ましくは4.3mol%以下、さらに好ましくは4.2mol%以下、特に好ましくは4.1mol%以下、特別に好ましくは4.05mol%以下である。前記CaOを3.5mol%以上4.5mol%以下の範囲内で含むと、当該ジルコニア焼結体の結晶相に含まれる単斜晶相率を0.2%以上5%以下とし易い。
【0121】
前記ジルコニア焼結体は、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を、0.005質量%以上2質量%以下含んでも構わない。タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物としては、例えば、鉄、ゲルマニウム、コバルト、クロム、亜鉛の酸化物等が挙げられる。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量は、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上、特別に好ましくは0.07質量%以上である。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量は、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、特別に好ましくは0.25質量%以下である。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を上記数値範囲内で含むと、焼結助剤として機能するため、低温焼結性に優れる。
また、前記ジルコニア焼結体がアルミナを含有することで、ジルコニア焼結体の靭性の低下を抑制しやすい。さらに、アルミナの含有量を調節すれば、ジルコニア焼結体の透光性を向上させることができる。
前記ジルコニア焼結体は、アルミナや、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物を含んでも構わないが、含まない構成としてもよい。具体的に、前記ジルコニア焼結体は、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であっても構わない。
【0122】
前記ジルコニア焼結体は、アルミナ、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物以外にも、強度等の特性の向上を目的として、焼結可能なセラミックスや熱硬化性樹脂等を含んでも構わない。
【0123】
前記ジルコニア焼結体は、Fe、V、Mn、Co、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでいてもよい。Fe、V、Mn、Co、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むと、好適に着色することができる。
【0124】
前記元素の形態は特に限定されず、酸化物、塩化物などの形態で添加することができる。前記元素を含む酸化物としては、具体的には、例えば、Fe、V、MnO、CoO、ZnO、CuO、TiO等が挙げられる。
【0125】
前記Feを含む場合、前記Feの含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。前記Feの含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0126】
前記Vを含む場合、前記Vの含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。前記Vの含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0127】
前記MnOを含む場合、前記MnOの含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.1質量%以下がより好ましい。前記MnOの含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0128】
前記CoOを含む場合、前記CoOの含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。前記CoOの含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0129】
前記ZnOを含む場合、前記ZnOの含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。前記ZnOの含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0130】
前記着色剤としてCuOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.6質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下がさらに好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0131】
前記TiOを含む場合、前記TiOの含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1質量%以下がより好ましい。前記TiOの含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0132】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、前記のジルコニア粉末を用いて、常圧焼結して得ることができる。具体的には、例えば、前記ジルコニア焼結体の製造方法により得ることができる。
【0133】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、産業部品、審美性部品、歯科材料として使用することができる。より具体的には、宝飾品、時計用部品、時計の文字盤、人工歯、成型加工用部材、耐摩耗部材、耐薬品部材等に使用することができる。
【実施例
【0134】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるジルコニア粉末、及び、ジルコニア焼結体には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0135】
[ジルコニア粉末の作製]
(実施例1)
25質量%硫酸ナトリウム水溶液213g及びZrO換算で16質量%となるオキシ塩化ジルコニウム水溶液450g(酸濃度:1N)をそれぞれ別々に95℃に加熱した(工程1)。その後、混合液のSO 2-/ZrO質量比率が0.50となるように、2分間かけて、加熱された水溶液同士を接触させた(工程2)。
次に、得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を、95℃で4時間保持して熟成し、塩基性硫酸ジルコニウムを得た(工程3)。
次に、熟成された溶液を室温まで冷却した後、Y換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液を、Yが1.5mol%となるように添加し、均一に混合した(工程4)。
次に、得られた混合溶液に25質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHが13以上になるまで中和し、水酸化物沈澱を生成させた(工程5)。
得られた水酸化物沈澱をろ過し、充分に水洗し、得られた水酸化物を105℃,24時間乾燥させた。乾燥させた水酸化物を大気中860℃(焼成温度)で2時間熱処理し、未粉砕のジルコニア系粉末(イットリア安定化ジルコニア系粉末)を得た(工程6)。
得られた未粉砕のイットリア安定化ジルコニア系粉末に一次粒子の平均粒子径0.1μmのアルミナ粉末を、イットリア安定化ジルコニア系粉末に対して0.25質量%加え、水を分散媒とした湿式ボールミルにて40時間粉砕混合した。粉砕にはジルコニアビーズφ5mmを用いた。粉砕後に得られたジルコニアスラリーを110℃にて乾燥させ、実施例1に係るジルコニア粉末を得た。
上記操作は、具体的には、図1を用いて説明したような装置にて行った。
【0136】
(実施例2~実施例19、比較例1~比較例7)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、アルミナ粉末の添加量を表1に記載された量に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~実施例19、比較例1~比較例7に係るジルコニア粉末を得た。
【0137】
(実施例20~実施例21)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、Er換算で10質量%の塩化エルビウム水溶液をErが1.6mol%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例20~実施例21に係るジルコニア粉末を得た。
【0138】
(実施例22)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに炭酸カルシウム(CaCO)をCaO換算で3.8mol%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例22に係るジルコニア粉末を得た。
【0139】
(実施例23~実施例25)
CaOの添加量が表1に記載された量となるよう炭酸カルシウムの添加量を変更したこと以外は、実施例22と同様の方法で実施例23~実施例25に係るジルコニア粉末を得た。
【0140】
(実施例26)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、Yb換算で10質量%の塩化イッテルビウム水溶液をYbが1.6mol%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例26に係るジルコニア粉末を得た。
【0141】
(実施例27)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、Feを0.25質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例27に係るジルコニア粉末を得た。
【0142】
(実施例28)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、ZnOを0.05質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例28に係るジルコニア粉末を得た。
【0143】
(実施例29)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、MnOを0.05質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例29に係るジルコニア粉末を得た。
【0144】
(実施例30)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、CoOを0.05質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例30に係るジルコニア粉末を得た。
【0145】
(実施例31)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、TiOを0.1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例31に係るジルコニア粉末を得た。
【0146】
(実施例32)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、Tbを0.1質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例32に係るジルコニア粉末を得た。
【0147】
(実施例33)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、CuOを0.3質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例33に係るジルコニア粉末を得た。
【0148】
(実施例34)
の添加量が表1に記載された量となるように塩化イットリウム水溶液の添加量を変更したこと、及び、アルミナ粉末の代わりにMnO粉末の添加量を1.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例34に係るジルコニア粉末を得た。
【0149】
[比表面積測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ」マウンテック製)を用いてBET法にて測定した。結果を表2に示す。
【0150】
[細孔容積の測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末について、細孔分布測定装置(「オートポアIV9500」マイクロメリティクス製)を用い、水銀圧入法にて細孔分布を得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:細孔分布測定装置(マイクロメリティクス製オートポアIV9500)
測定範囲:0.0036~10.3μm
測定点数:120点
水銀接触角:140degrees
水銀表面張力:480dyne/cm
【0151】
得られた細孔分布を用い、10nm以上200nm以下の範囲におけるピークトップ径、細孔容積、及び、細孔分布幅を求めた。結果を表2に示す。
ここで、細孔分布幅は、log微分細孔容積が0.1ml/g以上となるピークの幅をいう。
なお、参考までに、図2図3に実施例2と実施例7のジルコニア粉末の細孔分布を、図3に比較例7のジルコニア粉末の細孔分布を示す。
【0152】
[組成測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末の組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。結果を表1に示す。
【0153】
[粒子径D50の測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、超音波ホモジナイザー「ソニファイアーS-450D」(日本エマソン株式会社)で2分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2300」島津製作所社製))に投入し測定した。結果を表2に示す。
【0154】
[ジルコニア焼結体の作製]
まず、実施例、比較例のジルコニア粉末を冷間等方圧加圧法(CIP)にて、成型体を得た。成型圧は、2t/cmとした。
次に、前記成型体を、表3に記載の温度(焼結温度)にて2時間の条件で焼結をさせ、ジルコニア焼結体を得た。
【0155】
[結晶相の同定]
実施例、比較例のジルコニア焼結体について、X線回折装置(「RINT2500」リガク製)を用い、X線回折スペクトルを得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:X線回折装置(リガク製、RINT2500)
線源:CuKα線源
管電圧:50kV
管電流:300mA
走査速度:2θ=26~36°:4°/分
2θ=72~76°:1°/分
【0156】
その後、X線回折スペクトルから、結晶相の同定を行った。ジルコニア系多孔質体に含まれる結晶相の各相率は、以下の計算式で求めた。
単斜晶相率(%)=(Im(111)+Im(11-1))/(Im(111)+Im(11-1)+It(101)+Ic(111))×100
ここで、Im(111)は単斜晶相の(111)の回折強度、Im(11-1)は単斜晶相の(11-1)の回折強度である。
It(101)は正方晶相の(101)の回折強度である。
Ic(111)は立方晶相の(111)の回折強度である。
ジルコニアの単斜晶相の判別はXRDスペクトルの2θ=26~36°付近で行った。正方晶相と立方晶相との判別はXRDスペクトルの2θ=72~76°付近で行った。立方晶相は安定化剤の添加量や製法によって歪むことがあり、ピーク位置がシフトする場合があるが、本実施例では正方晶相の(004)と(220)の間のピークを立方晶相のピークと捉え算出した。結果を表3に示す。
【0157】
[亀裂長さ]
上記で得られた実施例、比較例のジルコニア焼結体の亀裂長さを測定した。具体的には、IF法による靭性測定において加重を50kgf(490.4N)とし、ジルコニア焼結体に発生する亀裂長さを測定した。より具体的には、JIS R1607(ファインセラミックスの室温破壊じん(靱)性試験方法)に準拠した方法で行った。ビッカース硬度計を用いて圧痕を押し込み、圧痕から延びる4本の亀裂の長さ(図5の亀裂長さ1~4)の平均値を亀裂長さとした。また、圧痕を打ちこむ場所によっては、正常な形状の圧痕が形成されない場合があるため、(1)圧痕の形が四角形である、(2)亀裂が圧痕の四角から圧痕の対角線延長上に発生している、(3)直行する2方向のき裂長さの差が、平均亀裂長さの10%以下である、という3つの条件を満たす圧痕を5点選定し、それらの亀裂長さの平均値を採用した。また、圧痕のヒビの終点が正確に観測できるように、傷、凹凸を観察しやすい光学顕微鏡(キーエンス社製VHX-5000)の同軸片射モードを用いて観測した。
【0158】
[靭性値]
上記で得られた実施例、比較例のジルコニア焼結体の靭性値を求めた。靭性値は、下記式にて算出した。
Kc=0.018×Hv×a0.5×[(c-a)/a]-0.5×(Hv/E)-0.4
Kc、Hv、a、c、Eは以下を意味する。a、cを求める際のX,Y軸の圧痕長さ、X,Y軸のクラック長さは、図6参照の通りである。
Kc:靭性値[MPa・m0.5
Hv:ビッカース硬度[GPa]
a:X,Y軸の圧痕長さの平均値の半分[μm]
c:X,Y軸のクラック長さの平均値の半分[μm]
E:ヤング率[GPa]
ビッカース硬度は、JIS R 1610 (ファインセラミックスの硬さ試験方法)に準拠して求めた。ビッカース硬度は、下記式にて算出した。
Hv=0.001854×[F/dSv]
F、dは以下を意味する。dを求める際のX軸圧痕長さとY軸圧痕長さは、図6参照の通りである。
Hv:ビッカース硬度[GPa]
F:試験力[N]
d:X軸圧痕長さとY軸圧痕長さとの平均値[mm]
ヤング率は、一般的なイットリア安定化ジルコニアの値として知られている210GPaを使用した。
なお、実施例5、比較例5については、加重を10kgf、30kgfとした場合の靭性値も求めた。これらの結果から分かるように、加重が低くなるほど得られる靭性値が高くなる傾向にある。荷重が低いと、圧痕からヒビがほとんど伸びず、正しい靭性値が測定できないため、出来る限り高い荷重で靭性値を測定することが望ましい。
例えば比較例5では、測定荷重が10kgfの場合、靭性値が15MPa・m0.5となるが、測定荷重が20kgfの場合、靭性値が7MPa・m0.5となる。本明細書では、靱性値を精度よく測定するため、測定荷重50kgfにて測定しており、測定荷重が異なれば、得られる靱性値が異なることは、上記の結果からも明らかである。
【0159】
[3点曲げ強度]
上記で得られた実施例、比較例のジルコニア焼結体の3点曲げ強度を、JIS R 1601の3点曲げ強さに準拠して測定した。結果を表3に示す。
【0160】
[相対焼結密度]
得られたジルコニア焼結体の相対焼結密度を下記により求めた。結果を表3に示す。なお、表3中「-」は、測定していないことを示す。
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ0=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+[安定化剤の分子量]×X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、前記安定化剤の分子量は、前記安定化剤がYの場合225.81、Erの場合382.52、Ybの場合394.11を用いる。
また、X及びYはそれぞれ、安定化剤濃度(モル%)及びアルミナ濃度(重量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は,粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が2mol%であれば6.117g/cm、3mol%であれば6.098g/cm、5.5mol%であれば6.051g/cmである(Al=0重量%の場合)。
安定化剤がCaOの場合、ρzは下記式(3)によって算出される値である。
ρz=-0.0400(CaOのモル濃度)+6.1700・・・(3)
また、着色剤を含む場合の理論焼結密度(ρ1とする)は、
ρ1=100/[(Z/V)+(100-Z)/ρ0]・・・(2-5)
また、Zは着色剤濃度(重量%)Vは着色剤理論密度(g/cm)である。
着色剤理論密度は、Feが5.24g/cm、ZnOが5.61g/cm、MnOが5.03g/cm、CoOが6.10g/cm、TiOが4.23g/cm、Tbが7.80g/cm、CuOが6.31g/cmとした。
焼結密度は、アルキメデス法にて計測した。
【0161】
<相対成型密度>
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(4)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、上記式(2-1)によって算出される値である。
【0162】
[水熱劣化耐性評価]
実施例、比較例のジルコニア焼結体について、134℃で75時間水熱条件下に曝露した。その後、表面の単斜晶相率を測定した。単斜晶相率の測定方法は、上記「結晶相の同定」の項で説明したのと同様である。結果を表3に示す。
【0163】
【表1】
【0164】
【表2】
【0165】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6