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特許7195482ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体、及び、ジルコニア焼結体の製造方法
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  • 特許-ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体、及び、ジルコニア焼結体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体、及び、ジルコニア焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20221216BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C01G25/02
C04B35/486
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022523223
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036910
(87)【国際公開番号】W WO2022075345
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2020170991
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高井 優行
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170565(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/145787(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/196650(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-25/02
C04B 35/486
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤を含み、
比表面積が20m/g以上60m/g以下であり、
粒子径D50が0.1μm以上0.7μm以下であり、
水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が40nm以上105nm以下であることを特徴とするジルコニア粉末。
【請求項2】
前記安定化剤が、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項3】
前記安定化剤が、Y、CeO、Sc、CaO、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
前記安定化剤が、Y、Sc、CaO、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
前記安定化剤がYであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア粉末。
【請求項6】
前記安定化剤がCeOであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記CeOの含有量が、10mol%以上20mol%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア粉末。
【請求項7】
前記安定化剤がCeOであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記CeOの含有量が、10mol%以上14mol%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア粉末。
【請求項8】
前記安定化剤がScであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Scの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア粉末。
【請求項9】
前記安定化剤がErであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア粉末。
【請求項10】
前記安定化剤がCaOであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上17mol%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア粉末。
【請求項11】
前記安定化剤がYbであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア粉末。
【請求項12】
前記比表面積が22m/g以上57m/g以下であることを特徴とする請求項1~11のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項13】
前記粒子径D50が0.1μm以上0.3μm未満であることを特徴とする請求項1~12のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項14】
アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を、0.005質量%以上2質量%以下含むことを特徴とする請求項1~13のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項15】
アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であることを特徴とする請求項1~13のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項16】
Fe、V、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むことを特徴とする請求項1~13のいずれか1に記載のジルコニア粉末。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1に記載のジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1100℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yとを有することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア粉末、ジルコニア焼結体、及び、ジルコニア焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアは、機械的強度、透光性、屈折率などを利用し、様々な用途で使用されている。近年では、ジルコニアのさらなる高機能化のため、水熱劣化耐性が求められており、低温焼結性向上の検討がなされている。
【0003】
特許文献1には、安定化剤としてイットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの1種以上を含むジルコニア微粉末であって、該ジルコニア微粉末の平均粒径が0.5μm未満であり、かつ、粒径分布の累積カーブにおいて1μmでの粒子の占める割合が100%であるジルコニア微粉末が開示されている(請求項1参照)。特許文献1には、当該ジルコニア微粉末は、成形性及び低温焼結性がよく、さらに焼結体にしたときの品質の信頼性にも優れている、との記載がある(段落[0036]参照)。また、特許文献1には、当該ジルコニア微粉末の製造方法として、ジルコニウム塩水溶液の加水分解で得られる水和ジルコニアゾルを、乾燥、仮焼、粉砕してジルコニア粉末を得る方法において、該加水分解の反応率が98%以上の条件下で得られる水和ジルコニアゾルに、安定化剤の原料としてイットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの化合物の1種以上を添加して乾燥し、900~1200℃の範囲で仮焼してジルコニア粉末を得、次いで該ジルコニア粉末の平均粒径が0.5μm以下になるまで、直径3mm以下のジルコニアボールを用いて湿式粉砕するジルコニア微粉末の製造方法が開示されている(請求項9参照)。
【0004】
特許文献2には、アルミナを0.05~3重量%含むイットリア濃度2~4モル%のジルコニア焼結体であり、該ジルコニア焼結体の相対密度が99.7%以上、結晶粒子の平均粒径が0.1~0.3μm、曲げ強度が1600MPa以上、かつ、140℃の熱水中に75時間浸漬させた後の単斜晶相率が5%以下であるジルコニア焼結体が開示されている(請求項1参照)。特許文献2には、当該ジルコニア焼結体は、強度及び靭性に優れており、これに加えて耐水熱劣化性に優れている、との記載がある(段落[0042]参照)。また、特許文献2には、当該ジルコニア焼結体の製造方法として、2次粒子の平均粒径が0.1~0.4μmであり、[該2次粒子の平均粒径]/[電子顕微鏡で測定される1次粒子の平均粒径]の比が1~8、かつ、アルミニウム化合物をアルミナ換算として0.05~3重量%含有するイットリア濃度2~4モル%のジルコニア粉末を成形して1100~1200℃で予備焼結させ、得られた予備焼結体を圧力50~500MPa、温度1150~1250℃で熱間静水圧プレス処理するジルコニア焼結体の製造方法が開示されている(請求項3参照)。
【0005】
特許文献3には、2~6mol%のイットリアを含み、細孔径200nm以下の細孔容量が0.14~0.28mL/gであり、成型圧1t/cmで成型した場合の下記式(1)で表される相対成型密度が44~55%であるジルコニア粉末が開示されている(請求項1参照)。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
特許文献3には、当該ジルコニア粉末は、成型されると高い成型密度を有し、かつ、理論焼結密度に対して99.5%以上の焼結密度を有する焼結体を得ることができる、との記載がある(段落[0015]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-240928号公報
【文献】特開2015-221727号公報
【文献】国際公開第2017/170565号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び特許文献2では、ジルコニア粉末の二次粒子に着目して粒径等を調整し、低温焼結性を得ようとするものである。
【0008】
一方、本発明者は、ジルコニア粉末の低温焼結性向上について鋭意検討を行った結果、焼結性は二次粒子のみで決定されることはなく、二次粒子を構成する一次粒子の凝集性も考慮に入れなければならないのではないかと考えるに至った。すわなち、同様の二次粒子径であっても、二次粒子を構成する一次粒子の凝集の不均一さや、粗に詰まっているか密に詰まっているかの凝集度によって焼結性が異なることを見出した。以下、この点について詳述する。
【0009】
ジルコニア粉末の成形体を焼結させる焼結工程は、成型体中の気孔を除去する工程と捉えることもできる。成型体中の気孔を少なくするため、従来技術(例えば、特許文献1、特許文献2)では、成型体中の二次粒子間隙(成型体を構成するジルコニア粉末の二次粒子間隙)を小さく、つまり、二次粒子径を小さく、かつ、二次粒子径の分布がなるべく小さくなるようにしている。なお、成型体中の二次粒子間隙は、成型体の成型条件(成型圧、バインダー及び工法等)によっても、小さくすることもできる。
【0010】
このように、従来、低温焼結性のために、ジルコニア粉末の二次粒子径の制御については検討されてきたものの、二次粒子を構成する一次粒子の凝集を制御し、ジルコニア粉末の焼結性向上を検討した例はない。
【0011】
一方、特許文献3では、ジルコニア粉末の一次粒子間隙に関して、細孔径200nm以下の細孔容量を特定の範囲内に制御することにより、高焼結密度が得られる旨の開示がある(段落[0013]参照)。しかしながら、特許文献3では、低温焼結性について検討していない。つまり、特許文献3では、ジルコニア粉末の一次粒子間隙を制御することにより、1450℃における焼結密度が99.5%以上となる技術を開示している(段落[0044]、段落[0146]、段落[0149]の表1)のみであり、低温(例えば、1200℃~1350℃程度)での焼結性については検討していない。
また、特許文献3では、ジルコニア粉末の一次粒子間隙に関して、細孔径200nm以下の細孔容量についてしか検討しておらず、各間隙の大きさや分布については検討していない。
なお、特許文献3のジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下の範囲内に存在しない。また、特許文献3のジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔分布幅が40nm以上105nm以下の範囲内に存在しない。なお、このことを明らかとするために、本明細書における実施例の欄において、特許文献3の実施例1のジルコニア粉末を、本明細書に比較例2として示している。
【0012】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温焼結が可能であり、且つ、高焼結密度の焼結体を得ることが可能なジルコニア粉末を提供することにある。また、当該ジルコニア粉末を用いて得られるジルコニア焼結体を提供することにある。また、当該ジルコニア焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ジルコニア粉末について鋭意研究を行った。その結果、下記の構成を採用することにより、低温焼結が可能であり、且つ、高焼結密度の焼結体を得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係るジルコニア粉末は、
安定化剤を含み、
比表面積が20m/g以上60m/g以下であり、
粒子径D50が0.1μm以上0.7μm以下であり、
水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が40nm以上105nm以下であることを特徴とする。
【0015】
「水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲」は、ジルコニア粉末の一次粒子間隙としての細孔が存在し得る範囲である。
前記構成によれば、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下であり、細孔分布幅が40nm以上105nm以下であるため、各細孔(各一次粒子間隙)の大きさが小さく、且つ、揃っている(分布がシャープである)。
従って、二次粒子を構成する各一次粒子が、均一に、且つ、密に凝集しており、大きな気孔が存在しない。
ここで、ジルコニアの粒子(一次粒子、二次粒子を含む)は、細孔容積が大きいと焼結しにくくなるという特徴を持つ。つまり、低温で焼結するには、二次粒子内の一次粒子間隙由来の細孔の大きさを小さく、且つ、分布をシャープにするだけではなく、一次粒子間隙由来の細孔容積も同時に小さくしなければならない。
そこで、本発明では、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲の細孔容積を0.2ml/g以上0.5ml/g未満とした。以上により、一次粒子間隙由来の細孔容積が少なく、且つ、大きな気孔が存在しない構成となり、高焼結密度の焼結体を得ることが可能となる。
このように、本発明に係るジルコニア粉末によれば、一次粒子間隙の細孔径、細孔分布、及び、細孔容積を制御することにより、低温焼結が可能であり、且つ、高焼結密度の焼結体を得ることが可能となる。
【0016】
また、前記構成によれば、粒子径D50が0.7μm以下であり、二次粒子の粒径が比較的小さいため、二次粒子間隙を小さくすることができる。その結果、低温焼結性に優れる。また、二次粒子間隙が小さいため、高焼結密度の焼結体を得ることができる。
【0017】
また、前記構成によれば、比表面積が20m/g以上60m/g以下であるため、低温焼結性に優れる。この点につき、以下に説明する。
従来よりも低温である1100℃~1350℃程度でジルコニア粉末を焼結させるためには、比表面積に関しては、大きくすることが有効である。しかしながら、従来は、ジルコニア粉末製造時の粒成長速度の制御が難しく、気孔がジルコニア粉末内になるべく残存しないようにするには、比表面積を20m/g未満とすることが好ましいとされてきた。
一方、本発明によれば、一次粒子間隙を制御するため、比表面積を20m/g以上としても気孔がジルコニア粉末内に多く残存することがない。従って、比表面積が20m/g以上とすることにより、低温焼結性を向上させることができる。
【0018】
また、前記構成によれば、安定化剤を含むため、ジルコニア粉末を好適に低温焼結させることができる。なお、仮に、安定化剤を含まない場合、一次粒子間隙を均一、且つ、密に凝集させたとしても、焼結は起こりにくくなり、低温焼結させることはできない。
【0019】
前記構成において、前記安定化剤が、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物であることが好ましい。
【0020】
前記構成において、前記安定化剤が、Y、CeO、Sc、CaO、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることも好ましい。
前記構成において、前記安定化剤が、Y、Sc、CaO、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることも好ましい。
【0021】
前記構成において、前記安定化剤がYであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。
【0022】
の含有量が1.4mol%以上7.5mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0023】
前記構成において、前記安定化剤がCeOであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記CeOの含有量が、10mol%以上20mol%以下であることが好ましい。
【0024】
CeOの含有量が10mol%以上20mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0025】
前記構成において、前記安定化剤がCeOであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記CeOの含有量が、10mol%以上14mol%以下であることが好ましい。
【0026】
CeOの含有量が10mol%以上14mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0027】
前記構成において、前記安定化剤がScであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Scの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。
【0028】
Scの含有量が1.4mol%以上7.5mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0029】
前記構成において、前記安定化剤がErであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Erの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。
【0030】
Erの含有量が1.4mol%以上7.5mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0031】
前記構成において、前記安定化剤がCaOであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量が、3.5mol%以上17mol%以下であることが好ましい。
【0032】
CaOの含有量が3.5mol%以上17mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0033】
前記構成において、前記安定化剤がYbであり、
ジルコニア粉末全体に対する前記Ybの含有量が、1.4mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。
【0034】
Ybの含有量が1.4mol%以上7.5mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0035】
前記構成において、前記比表面積が22m/g以上57m/g以下であることが好ましい。
【0036】
前記構成において、前記粒子径D50が0.1μm以上0.3μm未満であることが好ましい。
【0037】
前記構成において、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を、0.005質量%以上2質量%以下含んでも構わない。
【0038】
アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を上記数値範囲内で含むと、焼結助剤として機能するため、より低温焼結性に優れる。
なお、アルミナは、一次粒子及び二次粒子の粒界に存在することにより、ジルコニアの粒成長を阻害させることによって気孔を除去することにより、焼結助剤として機能する。
また、タンマン温度が1200℃以下(絶対温度:1473.15K以下)の金属酸化物は、低温焼結時の温度(1200℃~1350℃)においてある程度の流動性を有するため、一次粒子及び二次粒子の接合を促進して焼結速度を早めることにより、焼結助剤として機能する。
ここで、絶対温度で表したタンマン温度をTd、絶対温度で表した固体の融点をTmとすると、金属では、Td=0.33Tm、酸化物などでは、Td=0.757Tm、共有結合化合物では、Td=0.90Tmの関係がある(これらをタンマンの法則という)。
従って、本明細書において、「タンマン温度」とは、このタンマンの法則に従った値をいう。
【0039】
前記構成においては、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であることも好ましい。
【0040】
アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であるとは、焼結助剤を含まないことを意味する。
前記ジルコニア粉末は、一次粒子間隙の細孔径、細孔分布、及び、細孔容積が前記数値範囲内であるため、焼結助剤を添加しない場合であっても、低温焼結が可能であり、且つ、高焼結密度の焼結体を得ることが可能となる。
【0041】
前記構成において、Fe、V、Er、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでも構わない。
【0042】
Fe、V、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含むと、好適に着色することができる。
【0043】
また、本発明に係るジルコニア焼結体は、前記ジルコニア粉末を用いて、常圧焼結して得られることを特徴とする。
【0044】
前記ジルコニア焼結体は、前記ジルコニア粉末を用いて、常圧焼結して得られるため、低温焼結されており、且つ、高焼結密度を有する。
【0045】
また、本発明に係るジルコニア焼結体の製造方法は、前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1100℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yとを有することを特徴とする。
【0046】
前記構成によれば、前記ジルコニア粉末を用いるため、1100℃以上1350℃以下という低温での焼結条件にて、高焼結密度の焼結体を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、低温焼結が可能であり、且つ、高焼結密度の焼結体を得ることが可能なジルコニア粉末を提供することができる。また、当該ジルコニア粉末を用いて得られるジルコニア焼結体を提供することができる。また、当該ジルコニア焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法を説明するための模式図である。
図2】実施例1のジルコニア粉末の細孔分布である。
図3】比較例2のジルコニア粉末の細孔分布である。
図4】比較例4のジルコニア粉末の細孔分布である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニア(酸化ジルコニウム)とは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物を含むものである。また、本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0050】
[ジルコニア粉末]
本実施形態に係るジルコニア粉末は、
安定化剤を含み、
比表面積が20m/g以上60m/g以下であり、
粒子径D50が0.1μm以上0.7μm以下であり、
水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が40nm以上105nm以下である。
【0051】
前記ジルコニア粉末は、ジルコニアを主成分とする一次粒子を含む。前記一次粒子の全部又は一部は、凝集して二次粒子を形成している。すなわち、前記ジルコニア粉末は、凝集していない一次粒子、及び、一次粒子が凝集した二次粒子を含む。
ただし、前記ジルコニア粉末において、二次粒子とはならず、凝集しない一次粒子の状態で存在する一次粒子の量はごく微量であり、例えば、一次粒子全体(凝集していない一次粒子と、凝集して二次粒子となった一次粒子との合計)のうちの1質量%未満である。つまり、前記ジルコニア粉末は、凝集していない一次粒子をごく微量含み得るが、大部分が二次粒子で構成されている。
なお、「ジルコニアを主成分とする」とは、一次粒子を100質量%としたときに、当該一次粒子にジルコニアを70質量%以上含むことをいう。すなわち、本明細書において、ジルコニアを主成分とする一次粒子とは、ジルコニアを70質量%以上含む一次粒子をいう。一次粒子に含まれるジルコニアの含有量は、74質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。
【0052】
<細孔分布>
1.一次粒子間隙のピークトップ径
前記ジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下である。前記ピークトップ径は、好ましくは25nm以上、より好ましくは30nm、さらに好ましくは32nm、特に好ましくは35nm以上である。前記ピークトップ径は、好ましくは65nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは57nm以下、特に好ましくは54nm以下である。
なお、細孔分布の10nm以上200nm以下の範囲に複数のピークが存在する場合、本明細書でいう「細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下である」とは、細孔分布の10nm以上200nm以下の範囲におけるすべてのピークトップ径が20nm以上85nm以下の範囲内にあることをいう。
【0053】
2.一次粒子間隙の細孔分布幅
前記ジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔分布幅が40nm以上105nm以下である。前記細孔分布幅は、好ましくは43nm以上、より好ましくは46nm以上、さらに好ましくは50nm以上、特に好ましくは55nm以上である。前記細孔分布幅は、好ましくは100nm以下、より好ましくは95nm以下、さらに好ましくは90nm以下、特に好ましくは85nm以下、特別に好ましくは80nm以下である。
ここで、細孔分布幅は、log微分細孔容積(例えば、図2参照)が0.1ml/g以上となるピークの幅をいう。
なお、細孔分布の10nm以上200nm以下の範囲に複数のピークが存在する場合、本明細書でいう「細孔分布幅が40nm以上105nm以下である」とは、横軸を細孔径、縦軸をlog微分細孔容積とした細孔分布を示すグラフ(例えば、図2参照)において、細孔径が小さい方から見て初めてlog微分細孔容積0.1mL/gと交差した点(上昇しながら交差した点)を最小径とし、log微分細孔容積0.1mL/gと再び交差した点(下降しながら交差した点)を最大径とし、その最大径と最小径の差が40nm以上105nm以下であることをいう。
【0054】
3.一次粒子間隙の細孔容積
前記ジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満である。前記全細孔容量は、好ましくは0.22ml/g以上、より好ましくは0.25ml/g以上、さらに好ましくは0.3ml/g以上、特に好ましくは0.35ml/g以上、特別に好ましくは0.4ml/g以上である。前記全細孔容量は、好ましくは0.48ml/g以下、より好ましくは0.46ml/g以下、特に好ましくは0.44ml/g以下である。
【0055】
「水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲」は、ジルコニア粉末の一次粒子間隙としての細孔が存在し得る範囲である。
本実施形態に係るジルコニア粉末によれば、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下であり、細孔分布幅が40nm以上105nm以下であるため、各細孔(各一次粒子間隙)の大きさが小さく、且つ、揃っている(分布がシャープである)。
従って、二次粒子を構成する各一次粒子が、均一に、且つ、密に凝集しており、大きな気孔が存在しない。
ここで、ジルコニアの粒子(一次粒子、二次粒子を含む)は、細孔容積が大きいと焼結しにくくなるという特徴を持つ。つまり、低温で焼結するには、二次粒子内の一次粒子間隙由来の細孔の大きさを小さく、且つ、分布をシャープにするだけではなく、一次粒子間隙由来の細孔容積も同時に小さくしなければならない。
そこで、本実施形態に係るジルコニア粉末では、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲の細孔容積を0.2ml/g以上0.5ml/g未満とした。以上により、一次粒子間隙由来の細孔容積が少なく、且つ、大きな気孔が存在しない構成となり、高焼結密度の焼結体を得ることが可能となる。
このように、本実施形態に係るジルコニア粉末によれば、一次粒子間隙の細孔径、細孔分布、及び、細孔容積を制御することにより、低温焼結が可能であり、且つ、高焼結密度の焼結体を得ることが可能となる。
前記ピークトップ径、前記細孔分布幅、前記細孔容積は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
【0056】
<粒子径D50
前記ジルコニア粉末の粒子径D50は、0.1μm以上0.7μm以下である。前記粒子径D50は、好ましくは0.12μm以上、より好ましくは0.14μm以上、さらに好ましくは0.16μm以上、特に好ましくは0.2μm以上である。前記粒子径D50は、好ましくは0.62μm以下、より好ましくは0.55μm以下、さらに好ましくは0.48μm以下、特に好ましくは0.4μm以下、特別に好ましくは0.3μm以下、格別に好ましくは0.3μm未満である。前記粒子径D50は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
なお、前記粒子径D50は、測定する際に、二次粒子のみならず、凝集していない一次粒子も含まれ得るが、前記ジルコニア粉末に含まれ得る凝集していない一次粒子の量はごく微量である。従って、前記粒子径D50は、二次粒子の粒子径D50、すなわち、二次粒子の平均粒子径を表しているとみなしてよい。
前記ジルコニア粉末の粒子径D50が0.7μm以下であり、二次粒子の粒径が比較的小さいため、二次粒子間隙を小さくすることができる。その結果、低温焼結性に優れる。また、二次粒子間隙が小さいため、高焼結密度の焼結体を得ることができる。
【0057】
<比表面積>
前記ジルコニア粉末の比表面積は、20m/g以上60m/g以下である。前記比表面積は、好ましくは22m/g以上、より好ましくは24m/g以上、さらに好ましくは30m/g以上、特に好ましくは35m/g以上である。前記比表面積は、好ましくは57m/g以下、より好ましくは54m/g、さらに好ましくは52m/g、特に好ましくは49m/gである。
従来よりも低温である1100℃~1350℃程度でジルコニア粉末を焼結させるためには、比表面積に関しては、大きくすることが有効である。しかしながら、従来は、ジルコニア粉末製造時の粒成長速度の制御が難しく、気孔がジルコニア粉末内になるべく残存しないようにするには、比表面積を20m/g未満とすることが好ましいとされてきた。
一方、本実施形態に係るジルコニア粉末によれば、一次粒子間隙を制御するため、比表面積を20m/g以上としても気孔がジルコニア粉末内に多く残存することがない。従って、比表面積が20m/g以上とすることにより、低温焼結性を向上させることができる。
前記比表面積は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
【0058】
<組成>
本実施形態に係るジルコニア粉末は、ジルコニアを主成分として含有する。具体的に、前記ジルコニア粉末は、上述した通り、一次粒子が凝集した二次粒子と、ごく微量の凝集していない一次粒子とを含む。
【0059】
前記ジルコニア粉末は、安定化剤を含む。前記安定化剤は、固溶する等の形態にて前記一次粒子に含まれる。安定化剤を含むため、ジルコニア粉末を好適に低温焼結させることができる。
【0060】
前記安定化剤は、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物であることが好ましい。前記アルカリ土類金属とは、Ca、Sr、Ba、Raをいう。前記希土類元素とは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Tm、Yb、Luをいう。前記希土類元素のなかでも、好ましくは、Y、Ce、Ybである。ただし、前記ジルコニア粉末は、Ra及びPmを含まないことが好ましい。つまり、前記ジルコニア粉末は、Ra以外のアルカリ土類金属及びPm以外の希土類元素から選ばれる1種以上の酸化物を含むことがより好ましい。
【0061】
前記安定化剤は、Y、CeO、Sc、CaO、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることも好ましい。
前記安定化剤は、Y、Sc、CaO、Er、及び、Ybからなる群より選ばれる1種以上であることも好ましい。
【0062】
前記安定化剤は、用途によって異なるが、コストや着色等の観点から、Y、CeO、CaO、Ybがより好ましく、Y、CeO、CaOがさらに好ましく、Y、CaOが特に好ましく、Yが格別に好ましい。
【0063】
前記安定化剤としてYを用いる場合、ジルコニア粉末全体に対する前記Yの含有量は、1.4mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。前記Yの含有量は、より好ましくは1.5mol%以上、さらに好ましくは1.6mol%以上、特に好ましくは2mol%以上、特別に好ましくは2.5mol%以上、格別に好ましくは3mol%以上である。前記Yの含有量は、より好ましくは6.5mol%以下、さらに好ましくは6mol%特に好ましくは5.6mol%以下、特別に好ましくは5mol%以下、格別に好ましくは4.5mol%以下である。前記Yの含有量が1.4mol%以上7.5mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0064】
前記安定化剤としてCeOを用いる場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CeOの含有量は、10mol%以上20mol%以下であることが好ましい。前記CeOの含有量は、より好ましくは11mol%以上、さらに好ましくは11.5mol%以上である。前記CeOの含有量は、より好ましくは18mol%以下、さらに好ましくは17mol%以下、特に好ましくは16mol%以下、特別に好ましくは14mol%以下、格別に好ましくは12mol%以下である。前記CeOの含有量が10mol%以上20mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。なかでも、前記CeOの含有量は、10mol%以上14mol%以下であることが好ましい。
【0065】
前記安定化剤としてSc、Er、Ybのいずれかを用いる場合、ジルコニア粉末全体に対する含有量は、1.4mol%以上7.5mol%以下であることが好ましい。前記Sc、Er、Ybのいずれかを用いる場合の含有量は、より好ましくは1.5mol%以上、さらに好ましくは1.6mol%以上、特に好ましくは2mol%以上、特別に好ましくは2.5mol%以上、格別に好ましくは3mol%以上である。前記Sc、Er、Ybのいずれかを用いる場合の含有量は、より好ましくは6.5mol%以下、さらに好ましくは6mol%特に好ましくは5.6mol%以下、特別に好ましくは5mol%以下、格別に好ましくは4.5mol%以下である。前記Sc、Er、Ybのいずれかを用いる場合の含有量が1.4mol%以上7.5mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0066】
前記安定化剤としてCaOを用いる場合、ジルコニア粉末全体に対する前記CaOの含有量は、3.5mol%以上17mol%以下であることが好ましい。前記CaOの含有量は、より好ましくは3.8mol%以上、さらに好ましくは4.0mol%以上である。前記CaOの含有量は、より好ましくは15.0mol%以下、さらに好ましくは9.0mol%以下である。前記CaOの含有量が3.5mol%以上17mol%以下であると、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体は、機械的強度により優れる。
【0067】
前記ジルコニア粉末は、添加剤を含有していてもよい。本明細書において、添加剤とは、ジルコニア粒子に対して、混合物として添加されるものをいう。前記添加剤としては、焼結助剤、着色剤等が挙げられる。前記添加剤としては、焼結助剤としてのみ機能するもの、着色剤としてのみ機能するもの、焼結助剤として機能し、且つ、着色剤として機能するものがある。以下、焼結助剤、着色剤について説明する。
【0068】
前記ジルコニア粉末は、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を、0.005質量%以上2質量%以下含んでも構わない。タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物としては、例えば、鉄、ゲルマニウム、コバルト、クロム、亜鉛の酸化物等が挙げられる。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量は、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上、特別に好ましくは0.07質量%以上である。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量は、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、特別に好ましくは0.25質量%以下である。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上を上記数値範囲内で含むと、焼結助剤として機能するため、より低温焼結性に優れる。
また、前記ジルコニア粉末がアルミナを含有することで、ジルコニア焼結体の破壊靭性の低下を抑制しやすい。さらに、アルミナの含有量を調節すれば、ジルコニア焼結体の透光性を向上させることができる。
アルミナの形態は特に限定されないが、ジルコニア粉末の調製時の(ジルコニア粒子に混合、分散させる際の)ハンドリング性や不純物残存を低減するという観点から、アルミナ粉末が好ましい。
アルミナの形態が粉末である場合、アルミナの一次粒子の平均粒子径に特に制限はないが、例えば、0.02~0.4μm、好ましくは0.05~0.3μm、より好ましくは0.07~0.2μmである。
前記ジルコニア粉末は、焼結助剤を含んでも構わないが、焼結助剤を含まない構成としてもよい。具体的に、前記ジルコニア粉末は、アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であっても構わない。アルミナ、及び、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の含有量が0.005質量%未満であるとは、焼結助剤を含まないことを意味する。
前記ジルコニア粉末は、水銀圧入法に基づく細孔分布における10nm以上200nm以下の範囲において、細孔容積分布のピークトップ径が20nm以上85nm以下であり、細孔容積が0.2ml/g以上0.5ml/g未満であり、細孔分布幅が40nm以上105nm以下であるため、低温焼結が可能である。そのため、焼結助剤を含まない構成としたとしても低温焼結が可能である。
【0069】
前記ジルコニア粉末は、アルミナ、タンマン温度が1200℃以下の金属酸化物以外にも、強度等の特性の向上を目的として、焼結可能なセラミックスや熱硬化性樹脂等を含んでも構わない。
【0070】
前記ジルコニア粉末は、Fe、V、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を含んでいてもよい。Fe、V、Mn、Co、Cr、Tb、Zn、Cu及び、Tiからなる群より選ばれる1種以上を着色元素として含むと、当該ジルコニア粉末を焼結させることにより得られるジルコニア焼結体を好適に着色することができる。
【0071】
前記着色元素の形態は特に限定されず、酸化物、塩化物などの形態で添加することができる。前記着色元素を含む着色剤としては、具体的には、例えば、Fe、V、MnO、CoO、Cr、Tb、ZnO、CuO、TiO等が挙げられる。前記着色剤は、前記ジルコニア粉末に混合物として添加されていることが好ましい。
【0072】
前記着色剤としてFeを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0073】
前記着色剤としてVを含む場合、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.05質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0074】
前記着色剤としてMnOを含む場合、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.03質量%以上1.1質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0075】
前記着色剤としてCrを含む場合、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0076】
前記着色剤としてCoOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0077】
前記着色剤としてTbを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上3質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0078】
前記着色剤としてZnOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0079】
前記着色剤としてCuOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.6質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上0.3質量%以下がさらに好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0080】
前記着色剤としてTiOを含む場合、前記着色剤の含有量は、ジルコニア粉末全体を100質量%としたときに、0.005質量%以上2質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1質量%以下がより好ましい。前記着色剤の含有量が0.005質量%以上であると、意図した着色が得やすい。すなわち、色調の調整が容易となる。
【0081】
<相対成型密度>
前記ジルコニア粉末は、成型圧2t/cmで成型した場合の相対成型密度が45~50%であることが好ましい。ここで、相対成型密度は下記式(4)によって算出される値である。
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(4)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記「ジルコニア焼結体の相対焼結密度の測定方法」の項で説明する式(2-1)によって算出される値である。前記相対成型密度の上限値は45.5%以上が好ましく、46%以上がより好ましい。その下限値は49.5%以下が好ましく、49%以下がより好ましく、48.5%以下がさらに好ましく、48%以下が特に好ましい。
【0082】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0083】
[ジルコニア粉末の製造方法]
以下、ジルコニア粉末の製造方法の一例について説明する。ただし、ジルコニア粉末の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0084】
本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法は、
ジルコニウム塩溶液及び硫酸塩化剤溶液をそれぞれ別々に95℃以上100℃以下に加熱する工程1、
前記加熱後のジルコニウム塩溶液と前記加熱後の硫酸塩化剤溶液とを、接触開始から終了までの間に混合液の濃度が変化しないように接触させることにより、混合液として塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る工程2、
工程2で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を、95℃以上で3時間以上熟成する工程3、
工程3で得られた熟成後の塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に安定化剤を添加する工程4、
工程4で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液にアルカリを添加することにより、ジルコニウム含有水酸化物を得る工程5、
工程5で得られたジルコニウム含有水酸化物を熱処理することにより,ジルコニア粉末を得る工程6
を含み、
前記工程2では、当該接触開始から終了まで、混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.3~0.8の範囲に維持するとともに、混合液の温度を95℃以上に維持する。
以下、工程ごとに詳細に説明する。
【0085】
<工程1>
工程1では、出発原料であるジルコニウム塩溶液及び硫酸塩化剤溶液をそれぞれ別々に95℃以上100℃以下に加熱する。
前記ジルコニウム塩溶液を作製するために用いるジルコニウム塩としては、ジルコニウムイオンを供給するものであればよく、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等を使用できる。これらは1種又は2種以上で使用できる。この中でも、工業的規模での生産性が高い点でオキシ塩化ジルコニウムが好ましい。
【0086】
前記ジルコニウム塩溶液を作製するために用いる溶媒としては、ジルコニウム塩の種類等に応じて選択すればよい。通常は水(純水、イオン交換水、以下同様)が好ましい。
【0087】
前記ジルコニウム塩溶液の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000gに対して酸化ジルコニウム(ZrO)換算で5~250g含有されることが好ましく、20~150g含有されることがより好ましい。
【0088】
硫酸塩化剤としては、ジルコニウムイオンと反応して硫酸塩を生成させるもの(すなわち、硫酸塩化させる試薬)であればよく、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素カリウム、硫酸水素ナトリウム、二硫酸カリウム、二硫酸ナトリウム、三酸化硫黄等が例示される。硫酸塩化剤は、粉末状、溶液状等のいずれの形態でもよいが、溶液(特に水溶液)が好ましい。溶媒については、前記ジルコニウム塩溶液を作製するために用いる溶媒と同様のものを使用することができる。
【0089】
前記ジルコニウム塩溶液の酸濃度は0.1~2.0Nとすることが好ましい。酸濃度を上記範囲に設定することによって、ジルコニア粉末を構成する粒子の凝集状態を好適な状態に制御することができる。酸濃度の調整は、例えば、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウム等を用いることにより実施することができる。
【0090】
前記硫酸塩化剤(前記硫酸塩化剤溶液)の濃度は、特に制限されないが、一般的には溶媒1000gに対して硫酸塩化剤を5~250g、特に20~150gとすることが好ましい。
【0091】
前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液を調製する容器は、前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液をそれぞれ十分攪拌できる容量を備えていれば、材質は特に限定されない。ただし、各溶液の温度が95℃を下回らないように適宜加熱できる設備を有していることが好ましい。
前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液の加熱温度は、95℃以上100℃以下であればよく、好ましくは97℃以上である。前記ジルコニウム塩溶液及び前記硫酸塩化剤溶液の温度が95℃未満のまま工程2を実施すると、ジルコニウム塩溶液と硫酸塩化剤とが充分に反応せず、収率が低下する。
【0092】
<工程2>
工程2では、前記加熱後のジルコニウム塩溶液と前記加熱後の硫酸塩化剤溶液とを、接触開始から終了までの間に混合液の濃度が変化しないように接触させることにより、混合液として塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を得る。ここで、当該接触開始から終了まで、混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.3~0.8の範囲に維持するとともに、混合液の温度を95℃以上に維持する。
以下、工程2について、図面を参照しつつ、説明する。
【0093】
図1は、本実施形態に係るジルコニア粉末の製造方法を説明するための模式図である。図1に示すように、容器10は、バルブ12を介してT字管20の上方の一端(図1では左側)に接続されている。容器30は、バルブ32を介してT字管20の上方の他端(図1では右側)に接続されている。容器10には、95℃以上100℃以下に加熱されたジルコニウム溶液が貯蓄されている。容器30には、95℃以上100℃以下に加熱された硫酸塩化剤溶液が貯蓄されている。
工程2では、バルブ12を開くとともにバルブ32を開くことにより、ジルコニウム溶液と硫酸塩化剤溶液とを接触させる。接触することにより得られた混合液(塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液)は、T字管20の下方から直ちに熟成用容器40に流入する。工程2では、このような手法により、ジルコニウム溶液と硫酸塩化剤溶液との接触を開始してから終了するまでの間に反応液の濃度(T字管20内における反応液の濃度)が変化しないようにしている。工程2では、接触開始時から終了時までのSO 2-/ZrOの濃度変化を抑制しているため、均一な反応物が得られる。このような工程(工程2)を採用することにより、一次粒子のピークトップ径、細孔容積、細孔分布幅を制御することができる。すなわち、二次粒子内の一次粒子間隙由来の細孔の大きさを小さく、且つ、分布をシャープにでき、さらに、一次粒子間隙由来の細孔容積も小さくすることができる。
工程2における混合液中のSO 2-/ZrO重量比率は、0.3~0.8の範囲内が好ましく、より好ましくは0.4~0.7、さらに好ましくは0.45~0.65である。混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.3以上とすることにより、反応生成物である塩基性硫酸ジルコニウムの収率を高めることができる。また、混合液中のSO 2-/ZrO重量比率を0.8以下とすることにより、硫酸ジルコニウムの可溶性塩が生成することを抑制し、塩基性硫酸ジルコニウムの収率が低下することを抑制することができる。
工程2では、混合液の温度を95℃以上に維持するために、各溶液を供給する配管(例えば、T字管20)等にヒーターを設置することが好ましい。
【0094】
以下、工程2の一例につき具体的に説明する。
T字管20として、上方の一端(図1では左側)の管径L1が10mm、上方の多端(図1では右側)の管径L2が10mm、下方の管径L3が15mmのT字管を用い、25質量%硫酸ナトリウム水溶液213gと、ZrO換算で16質量%オキシ塩化ジルコニウム水溶液450gとを接触させる場合、接触開始から接触終了まで(容器10内の塩化ジルコニウム水溶液及び容器30内の硫酸塩化剤溶液がなくなるまで)の時間(接触時間)としては、好ましくは30秒~300秒、より好ましくは60秒~200秒、さらに好ましくは90秒~150秒である。
【0095】
<工程3>
工程3では、工程2で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を、95℃以上で3時間以上熟成する。工程3では、例えば、熟成用容器40に流入した塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を攪拌機42で攪拌しつつ、95℃以上で3時間以上熟成する。熟成時間の上限は特に制限されないが、例えば、7時間以下である。工程3における混合液(塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液)の温度(熟成温度)は、好ましくは95℃以上、より好ましくは97℃以上100℃以下である。熟成温度を95℃以上且つ熟成時間を3時間以上とすることにより、塩基性硫酸ジルコニウムが充分に生成し、収率を高めることができる。
なお、上記混合液は、塩基性硫酸ジルコニウムを主成分として含んでおり、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーである。
【0096】
<工程4>
工程4では、工程3で得られた熟成後の塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液に安定化剤を添加する。
【0097】
<工程5>
工程5では、工程4で得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液にアルカリを添加し、中和反応を行う。中和により、ジルコニウム含有水酸化物が生成する。
アルカリとしては限定されず、例えば、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アンモニア、ヒドラジン炭酸水素アンモニウム等が挙げられる。アルカリの濃度は特に限定されないが、水で希釈し、通常5~30%のものが用いられる。
アルカリの添加方法としては、(1)塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液にアルカリ溶液を添加する、(2)アルカリ溶液に塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を添加する、の2つの方法があるが、特に限定されず、どちらの方法を用いてもよい。
中和後、スラリーを濾過することにより、ジルコニウム含有水酸化物が得られる。このジルコニウム含有水酸化物は、必要に応じて、純水等で水洗することにより、不純物を除去することが好ましい。水洗後は、必要に応じて乾燥等を行うことができる。
【0098】
<工程6>
工程6では、工程5で得られたジルコニウム含有水酸化物を熱処理(焼成)することにより、ジルコニウム含有水酸化物を酸化し、ジルコニア粉末を得る。
ジルコニウム含有水酸化物の熱処理温度(焼成温度)、及び、熱処理時間(焼成時間)は、特に限定されないが、通常は600~1050℃程度で1時間~10時間行う。前記焼成温度は、650℃以上1000℃以下であることがより好ましく、700℃以上980℃以下であることがさらに好ましい。前記焼成温度は、2時間~6時間がより好ましく、2時間~4時間がさらに好ましい。熱処理温度を600℃以上1000℃以下とすることにより、得られるジルコニア粉末の比表面積を好適な範囲(20m/g以上60m/g以下)とすることができる。また、熱処理温度を600℃以上1050℃以下とすることにより、得られるジルコニア粉末の細孔分布を好適な範囲とすることができる。熱処理雰囲気は、特に限定されないが、通常は大気中又は酸化性雰囲気中とすればよい。
【0099】
<工程7>
工程6の後、必要に応じて、得られたジルコニア粉末を粉砕してスラリー化してもよい。その際、成型性を向上させるためにバインダーを添加してもよい。スラリー化しない場合(粉砕しない場合)は、バインダーとジルコニア粉末とを混練機で均一に混合してもよい。
前記バインダーとしては、有機系バインダーが好ましい。有機系バインダーは、酸化雰囲気の加熱炉にて成型体から除去しやすく、脱脂体を得ることができるので、最終的に焼結体中に不純物が残存しにくくなる。
前記有機バインダーとしては、アルコールに対して溶解するもの、又は、アルコール、水、脂肪族ケトン及び芳香族炭化水素からなる群より選ばれる2種以上の混合液に対して溶解するものが挙げられる。前記有機バインダーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、グリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル及びプロピオン酸ビニルからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。前記有機バインダーは、さらに、アルコールもしくは上記混合液に対して不溶である1種以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
前記有機バインダー添加した後は、公知の方法を適用して乾燥、粉砕等の処理をすることにより、目的とするジルコニア粉末を得ることができる。
工程7の粉砕により、ジルコニア粉末の粒子径D50をコントロールすることができる。例えば、工程5で得られたジルコニア粉末の状態に応じて粉砕を行い、ジルコニア粉末の粒子径D50を0.1μm以上0.7μm以下の範囲内にコントロールすることができる。
【0100】
焼結助剤や、着色剤等を添加する場合、前記工程6の後に添加、混合することにより、焼結助剤、着色剤等を含むジルコニア粉末を得ることができる。混合のより詳細な方法としては、純水等に分散させてスラリー化して湿式混合することが好ましい。
また、前記工程7を行う場合には、工程7を行う際に、焼結助剤や、着色剤等を添加してもよい。
【0101】
以上、本実施形態に係るジルコニア粉末について説明した。
【0102】
[ジルコニア焼結体の製造方法]
以下、ジルコニア焼結体の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニア焼結体の製造方法は、以下の例示に限定されない。
【0103】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法は、
前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る工程Xと、
前記工程Xの後、前記成型体を1100℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する工程Yとを有する。
【0104】
本実施形態に係るジルコニア焼結体の製造方法においては、まず、ジルコニア粉末を準備する。前記ジルコニア粉末としては、[ジルコニア粉末]の項で説明したものを用いることができる。
【0105】
次に、前記ジルコニア粉末を成型し、成型体を得る(工程X)。成型は、市販の金型成型機や冷間等方圧加圧法(CIP)を採用できる。また、一旦、ジルコニア粉末を金型成型機で仮成型した後、プレス成型で本成型してもよい。プレス成型は通常、0.1t~3t/cmの範囲でよい。好ましくは、0.5t~2.5t/cm、より好ましくは0.8t~2.2t/cm、さらに好ましくは1t~2t/cmである。
【0106】
次に、前記成型体を1100℃以上1350℃以下、1時間以上5時間以下の条件で焼結する(工程Y)。
本実施形態では、前記ジルコニア粉末を用いるため、焼結温度を1100~1350℃と低温に設定することができる。焼結温度は、より好ましくは、1100℃以上1300℃以下であり、1100℃以上1250℃以下である。焼結時の保持時間も特に限定されないが、例えば、好ましくは1~5時間程度、より好ましくは1時間~3時間である。焼結雰囲気は、大気中又は酸化性雰囲気中とすることができる。焼結は、常圧下でよく、加圧は特に必要ない。
【0107】
以上、本実施形態に係る安定化ジルコニア焼結体の製造方法について説明した。
【0108】
[ジルコニア焼結体]
以下、本実施形態に係るジルコニア焼結体の一例について説明する。ただし、本発明のジルコニア焼結体は、以下の例示に限定されない。
【0109】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、前記のジルコニア粉末を用いて、常圧焼結して得られる。本実施形態に係るジルコニア焼結体は、前記ジルコニア粉末を用いて、常圧焼結して得られるため、低温焼結されており、且つ、高焼結密度を有する。具体的には、前記ジルコニア焼結体の製造方法により得られる。
【0110】
<相対焼結密度>
前記ジルコニア焼結体の相対焼結密度は、98.5%以上であることが好ましく、99.0%以上であることがより好ましく、99.1%以上であることがさらに好ましく、99.2%以上であることが特に好ましく、99.3%以上が特別に好ましく、99.4%以上であることが格別に好ましく、99.5%以上であることがより格別に好ましい。前記相対焼結密度が98.5%以上であると、ジルコニア焼結体がより高強度となる。
【0111】
<ジルコニア焼結体の相対焼結密度の測定方法>
前記相対焼結密度は、下記式(1)で表される相対焼結密度のことをいう。
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ0=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+[安定化剤の分子量]×X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、前記安定化剤の分子量は、前記安定化剤がYの場合225.81、Erの場合382.52、Ybの場合394.11を用いる。
また、X及びYはそれぞれ、安定化剤濃度(モル%)及びアルミナ濃度(重量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は,粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が2mol%であれば6.117g/cm、3mol%であれば6.098g/cm、5.5mol%であれば6.051g/cmである(Al=0重量%の場合)。
安定化剤がScの場合、ρzは下記式(3)によって算出される値である。
ρz=-0.0402(Scのモル濃度)+6.1294・・・(3)
安定化剤がCaOの場合、ρzは下記式(3-1)によって算出される値である。
ρz=-0.0400(CaOのモル濃度)+6.1700・・・(3-1)
また、着色剤を含む場合の理論焼結密度(ρ1とする)は、
ρ1=100/[(Z/V)+(100-Z)/ρ0]・・・(2-5)
また、Zは着色剤濃度(重量%)Vは着色剤理論密度(g/cm)である。
着色剤理論密度は、Feが5.24g/cm、ZnOが5.61g/cm、MnOが5.03g/cm、CoOが6.10g/cm、Crが5.22g/cm、TiOが4.23g/cm、Tbが7.80g/cm、CuOが6.31g/cm、Vが3.36g/cmとする。
また、焼結密度は、アルキメデス法にて計測する。
【0112】
本実施形態のジルコニア粉末、及び、ジルコニア焼結体の製造方法によれば、1100℃~1350℃という低温での焼結であっても、高い焼結密度を有する焼結体が得られるため、プレス成型、射出成型、鋳込み成型、シート成型等の公知の各種成型方法を広く利用できる。しかも、本実施形態のジルコニア粉末は、量産も容易であるので、コスト競争力にも優れ、各種用途に好適に用いることができる。
【0113】
本実施形態に係るジルコニア焼結体は、産業部品、審美性部品、歯科材料として使用することができる。より具体的には、宝飾品、時計用部品、時計の文字盤、人工歯、成型加工用部材、耐摩耗部材、耐薬品部材等に使用することができる。
【実施例
【0114】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例におけるジルコニア粉末、及び、ジルコニア焼結体には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(X)にて算出)している。
<式(X)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
【0115】
[ジルコニア粉末の作製]
(実施例1)
25質量%硫酸ナトリウム水溶液213g及びZrO換算で16質量%となるオキシ塩化ジルコニウム水溶液450g(酸濃度:1N)をそれぞれ別々に95℃に加熱した(工程1)。その後、混合液のSO 2-/ZrO質量比率が0.50となるように、2分間かけて、加熱された水溶液同士を接触させた(工程2)。
次に、得られた塩基性硫酸ジルコニウム含有反応液を、95℃で4時間保持して熟成し、塩基性硫酸ジルコニウムを得た(工程3)。
次に、熟成された溶液を室温まで冷却した後、Y換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液を、Yが3mol%となるように添加し、均一に混合した(工程4)。
次に、得られた混合溶液に25質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHが13以上になるまで中和し、水酸化物沈澱を生成させた(工程5)。
得られた水酸化物沈澱をろ過し、充分に水洗し、得られた水酸化物を105℃,24時間乾燥させた。乾燥させた水酸化物を大気中960℃(焼成温度)で2時間熱処理し、未粉砕のジルコニア系粉末(イットリア安定化ジルコニア系粉末)を得た(工程6)。
得られた未粉砕のイットリア安定化ジルコニア系粉末に一次粒子の平均粒子径0.1μmのアルミナ粉末を、イットリア安定化ジルコニア系粉末に対して0.25質量%加え、水を分散媒とした湿式ボールミルにて40時間粉砕混合した。粉砕にはジルコニアビーズφ5mmを用いた。粉砕後に得られたジルコニアスラリーを110℃にて乾燥させ、実施例1に係るジルコニア粉末を得た。
上記操作は、具体的には、図1を用いて説明したような装置にて行った。
【0116】
(実施例2)
焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2に係るジルコニア粉末を得た。
【0117】
(実施例3)
実施例2と同様にして実施例3に係るジルコニア粉末を得た。なお、実施例3に係るジルコニア焼結体は、実施例2に係るジルコニア焼結体と比較して、成型体作製時の成型条件、及び、焼結体作製時の焼結条件が異なる。
【0118】
(実施例4)
アルミナ粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4に係るジルコニア粉末を得た。
【0119】
(実施例5)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが5.6mol%となるように添加したこと、及び、焼成温度を880℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例5に係るジルコニア粉末を得た。
【0120】
(実施例6)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが7mol%となるように添加したこと、及び、焼成温度を900℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例6に係るジルコニア粉末を得た。
【0121】
(実施例7)
焼成温度を830℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例7に係るジルコニア粉末を得た。
【0122】
(実施例8)
アルミナ粉末の添加量を0.24質量%に変更したこと、及び、焼成温度を760℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例8に係るジルコニア粉末を得た。
【0123】
(実施例9)
アルミナ粉末の添加量を0.24質量%に変更したこと、及び、焼成温度を700℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例9に係るジルコニア粉末を得た。
【0124】
(実施例10)
アルミナ粉末を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして実施例10に係るジルコニア粉末を得た。
【0125】
(実施例11)
アルミナ粉末を添加しなかったこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例11に係るジルコニア粉末を得た。
【0126】
(実施例12)
アルミナ粉末を添加しなかったこと、及び、焼成温度を760℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例12に係るジルコニア粉末を得た。
【0127】
(実施例13)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが1.6mol%となるように添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例13に係るジルコニア粉末を得た。
【0128】
(実施例14)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2mol%となるように添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例14に係るジルコニア粉末を得た。
【0129】
(実施例15)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに炭酸カルシウム(CaCO)をCaO換算で4mol%となるように添加したこと、焼成温度を1000℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例15に係るジルコニア粉末を得た。
【0130】
(実施例16)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに炭酸カルシウム(CaCO)をCaO換算で17mol%となるように添加したこと、焼成温度を1000℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例16に係るジルコニア粉末を得た。
【0131】
(実施例17)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、Er換算で10質量%の塩化エルビウム水溶液をErが1.6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0.26質量%に変更したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例17に係るジルコニア粉末を得た。
【0132】
(実施例18)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが1mol%となるように添加し、かつ、Er換算で10質量%の塩化エルビウム水溶液をErが1mol%となるように添加したこと、ZnOを0.25質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例18に係るジルコニア粉末を得た。
【0133】
(実施例19)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、CeO換算で10質量%の塩化セリウム水溶液をCeOが10mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0.29質量%に変更したこと、及び、焼成温度を980℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例19に係るジルコニア粉末を得た。
【0134】
(実施例20)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、CeO換算で12質量%の塩化セリウム水溶液をCeOが12mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0.28質量%に変更したこと、及び、焼成温度を980℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例20に係るジルコニア粉末を得た。
【0135】
(実施例21)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末を添加する代わりにFe粉末を0.6質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例21に係るジルコニア粉末を得た。
【0136】
(実施例22)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末0.25質量%添加するのに加えてFe粉末を0.6質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例22に係るジルコニア粉末を得た。
【0137】
(実施例23)
アルミナ粉末0.25質量%添加するのに加えてFe粉末を0.18質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例23に係るジルコニア粉末を得た。
【0138】
(実施例24)
アルミナ粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと、アルミナ粉末の添加に加えてMnO粉末を0.04質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例24に係るジルコニア粉末を得た。
【0139】
(実施例25)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2.6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加に加えてZnO粉末を0.25質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例25に係るジルコニア粉末を得た。
【0140】
(実施例26)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2.6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加に加えてFe粉末を0.7質量%、CoO粉末を1.2質量%、Cr粉末を1.3質量%、及び、TiO粉末を0.7質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例26に係るジルコニア粉末を得た。
【0141】
(実施例27)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2.6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0.7質量%に変更したこと、アルミナ粉末の添加に加えてMnO粉末を1.1質量%、CoO粉末を1.2質量%、及び、Cr粉末を1.3質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例27に係るジルコニア粉末を得た。
【0142】
(実施例28)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2.6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0.6質量%に変更したこと、アルミナ粉末の添加に加えてCoO粉末を1.9質量%、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例28に係るジルコニア粉末を得た。
【0143】
(実施例29)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが2.6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0.25質量%に変更したこと、Tb粉末を0.2質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例29に係るジルコニア粉末を得た。
【0144】
(実施例30)
混合液のSO 2-/ZrO質量比率が0.60となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例30に係るジルコニア粉末を得た。
【0145】
(実施例31)
25質量%硫酸ナトリウム水溶液213g及びZrO換算で16質量%となるオキシ塩化ジルコニウム水溶液450g(酸濃度:1N)をそれぞれ別々に99℃に加熱したこと以外は、実施例1と同様にして実施例31に係るジルコニア粉末を得た。
【0146】
(実施例32)
4分間かけて、加熱された水溶液同士を接触させたこと以外は、実施例1と同様にして実施例32に係るジルコニア粉末を得た。
【0147】
(実施例33)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、Sc換算で10質量%の塩化スカンジウム水溶液をScが3mol%となるように添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例33に係るジルコニア粉末を得た。
【0148】
(実施例34)
アルミナ粉末0.25質量%添加するのに加えてCuO粉末を0.3質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例34に係るジルコニア粉末を得た。
【0149】
(実施例35)
アルミナ粉末0.25質量%添加するのに加えてV粉末を0.03質量%添加したこと、及び、焼成温度を860℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例35に係るジルコニア粉末を得た。
【0150】
(実施例36)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、Yb換算で10質量%の塩化イッテルビウム水溶液をYbが3mol%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして実施例36に係るジルコニア粉末を得た。
【0151】
(実施例37)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに炭酸カルシウム(CaCO)をCaO換算で6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0質量%に変更したこと、焼成温度を1000℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例37に係るジルコニア粉末を得た。
【0152】
(実施例38)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに炭酸カルシウム(CaCO)をCaO換算で10.6mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0質量%に変更したこと、焼成温度を950℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例38に係るジルコニア粉末を得た。
【0153】
(実施例39)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに炭酸カルシウム(CaCO)をCaO換算で8.8mol%となるように添加したこと、アルミナ粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと、焼成温度を950℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例39に係るジルコニア粉末を得た。
【0154】
(実施例40)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが3.2mol%となるように添加したこと、及び、アルミナ粉末の添加量を0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例40に係るジルコニア粉末を得た。
【0155】
(実施例41)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが3.2mol%となるように添加したこと、及び、アルミナ粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例41に係るジルコニア粉末を得た。
【0156】
(実施例42)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが3.2mol%となるように添加したこと、及び、アルミナ粉末の添加量を0.25質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例42に係るジルコニア粉末を得た。
【0157】
(実施例43)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが3.2mol%となるように添加したこと、焼成温度を860℃としたこと、及び、アルミナ粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例43に係るジルコニア粉末を得た。
【0158】
(実施例44)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが4.0mol%となるように添加したこと、及び、アルミナ粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例44に係るジルコニア粉末を得た。
【0159】
(実施例45)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが5.6mol%となるように添加したこと、及び、アルミナ粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例45に係るジルコニア粉末を得た。
【0160】
(実施例46)
換算で10質量%の塩化イットリウム水溶液をYが3mol%となるよう添加する代わりに、塩化イットリウム水溶液をYが1.7mol%となるように添加したこと、焼成温度を860℃としたこと、及び、アルミナ粉末の代わりにMnO粉末の添加量を1.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例46に係るジルコニア粉末を得た。
【0161】
(実施例47)
アルミナ粉末の添加量を0.5質量%、Fe粉末の添加量を0.1質量%、MnO粉末の添加量を0.3質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例47に係るジルコニア粉末を得た。
【0162】
(実施例48)
アルミナ粉末の添加量を0.5質量%、MnO粉末の添加量を0.3質量%、CoO粉末の添加量を0.1質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例48に係るジルコニア粉末を得た。
【0163】
(実施例49)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、CeO換算で10質量%の塩化セリウム水溶液をCeOが11mol%となるように添加したこと、焼成温度を780℃としたこと、アルミナ粉末の添加量を0.5質量%、MnO粉末の添加量を0.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例49に係るジルコニア粉末を得た。
【0164】
(実施例50)
塩化イットリウム水溶液を添加する代わりに、Tb換算で10質量%の塩化テルビウム水溶液をTbが2.0mol%となるように添加したこと、焼成温度を780℃としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例51に係るジルコニア粉末を得た。
【0165】
(比較例1)
オキシ塩化ジルコニウム・8水和物187g(ZrO換算:72g)をイオン交換水に溶解し、次に35%塩酸及びイオン交換水により酸濃度が0.67N、ZrO濃度が4w/v%となるように調整した。
得られた溶液を60℃まで昇温させて同温度で5%硫酸ナトリウム(硫酸塩化剤)1065gを添加した。次に95℃まで昇温させて同温度で15分保持後、室温になるまで放冷し、塩基性硫酸ジルコニウム含有スラリーを得たこと以外は、実施例1と同様にして比較例1に係るジルコニア粉末を得た。つまり、工程3以降は実施例1と同様にして比較例1に係るジルコニア粉末を得た。
【0166】
(比較例2)
硫酸ナトリウム粉末イオン交換水に溶解させて、硫酸ナトリウムの5質量%溶液を得た。得られた硫酸ナトリウム溶液を加温して、85℃で保持した。
一方、ジルコニウムをジルコニア換算で1質量%含有するようにオキシ塩化ジルコニウム塩溶液を調整し、このジルコニウム塩溶液を加温して、85℃で保持した。ジルコニアの総量は100gとした。
次に、85℃で恒温保持したジルコニウム塩溶液に、85℃で恒温保持した硫酸ナトリウム溶液1000g全量を攪拌しながら10秒間で添加して混合することで、塩基性硫酸ジルコニウムスラリーを得た。そこへ、塩化イットリウム溶液をイットリア量がジルコニアに対して3.0mol%となるように添加した後に、水酸化ナトリウムを用いて中和を行って水酸化物を得た。
水酸化物を濾別、水洗した後に、電気炉にて焼成温度を1000℃として水酸化物を焼成して酸化物を得た後、平均粒子径0.1μmのアルミナ粉末を酸化物に対して0.25質量%加え、水を分散媒とした湿式ボールミル30時間粉砕混合した。得られたスラリーを120℃にて恒温乾燥し、目的のジルコニア粉末を得た。このようにして比較例2に係るジルコニア粉末を得た。
【0167】
(比較例3)
混合液のSO 2-/ZrO質量比率が0.50となるように、3時間かけて、加熱された水溶液同士を接触させたこと以外は実施例1と同様にして比較例3に係るジルコニア粉末を得た。
【0168】
(比較例4)
硫酸ナトリウム溶液及びジルコニウム塩溶液の保持温度をそれぞれ60℃に変更し、硫酸ナトリウム溶液とジルコニウム塩溶液とを60℃で混合することに変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例4に係るジルコニア粉末を得た。
【0169】
[比表面積測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ」マウンテック製)を用いてBET法にて測定した。結果を表3、表4に示す。
【0170】
[細孔容積の測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末について、細孔分布測定装置(「オートポアIV9500」マイクロメリティクス製)を用い、水銀圧入法にて細孔分布を得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:細孔分布測定装置(マイクロメリティクス製オートポアIV9500)
測定範囲:0.0036~10.3μm
測定点数:120点
水銀接触角:140degrees
水銀表面張力:480dyne/cm
【0171】
得られた細孔分布を用い、10nm以上200nm以下の範囲におけるピークトップ径、細孔容積、及び、細孔分布幅を求めた。結果を表3、表4に示す。
ここで、細孔分布幅は、log微分細孔容積が0.1ml/g以上となるピークの幅をいう。
なお、参考までに、図2に実施例1のジルコニア粉末の細孔分布を、図3に比較例2のジルコニア粉末の細孔分布を、図4に比較例4のジルコニア粉末の細孔分布を示す。
【0172】
[組成測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末の組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。結果を表1、表2に示す。
【0173】
[粒子径D50の測定]
実施例、比較例のジルコニア粉末0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、超音波ホモジナイザー「ソニファイアーS-450D」(日本エマソン株式会社)で5分間分散した後、装置(レーザー回折式粒子径分布測定装置(「SALD-2300」島津製作所社製))に投入し測定した。結果を表3、表4に示す。
【0174】
[ジルコニア焼結体の作製]
まず、実施例、比較例のジルコニア粉末を冷間等方圧加圧法(CIP)にて、成型体を得た。成型圧は、実施例3のみ1t/cmとし、実施例3以外は、2t/cmとした。
この際、成型体の相対成型密度を下記により求めた。結果を表3、表4に示す。
次に、前記成型体を、1100℃にて2時間の条件で焼結(実施例49)させ、ジルコニア焼結体を得た。
また、前記成型体を、1150℃にて2時間の条件で焼結(実施例14、実施例20~実施例22、実施例46~実施例48)させ、ジルコニア焼結体を得た。
また、前記成型体を、1200℃にて2時間の条件で焼結(実施例1~9、13~32、50、比較例1、3、4)させ、ジルコニア焼結体を得た。
また、前記成型体を、1250℃にて2時間の条件で焼結(実施例40~45)させ、ジルコニア焼結体を得た。
また、前記成型体を、1300℃にて2時間の条件で焼結(実施例10~12、39)させ、ジルコニア焼結体を得た。
また、前記成型体を、1325℃にて2時間の条件で焼結(実施例37、38)させ、ジルコニア焼結体を得た。
なお、比較例2は、1300℃以下では焼結しなかったため、焼結密度を測定していない。
得られたジルコニア焼結体の相対焼結密度を下記により求めた。結果を表3、表4に示す。なお、表3、表4中「-」は、測定していないことを示す。
【0175】
<相対焼結密度>
相対焼結密度(%)=(焼結密度/理論焼結密度)×100・・・(1)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、下記式(2-1)によって算出される値である。
ρ0=100/[(Y/3.987)+(100-Y)/ρz]・・・(2-1)
ただし、ρzは、下記式(2-2)によって算出される値である。
ρz=[124.25(100-X)+[安定化剤の分子量]×X]/[150.5(100+X)AC]・・・(2-2)
ここで、前記安定化剤の分子量は、前記安定化剤がYの場合225.81、Erの場合382.52、Ybの場合394.11を用いる。
また、X及びYはそれぞれ、安定化剤濃度(モル%)及びアルミナ濃度(重量%)である。また、A及びCはそれぞれ、下記式(2-3)及び(2-4)によって算出される値である。
A=0.5080+0.06980X/(100+X)・・・(2-3)
C=0.5195-0.06180X/(100+X)・・・(2-4)
式(1)において、理論焼結密度は,粉末の組成によって変動する。例えば、イットリア含有ジルコニアの理論焼結密度は、イットリア含有量が2mol%であれば6.117g/cm、3mol%であれば6.098g/cm、5.5mol%であれば6.051g/cmである(Al=0重量%の場合)。
安定化剤がScの場合、ρzは下記式(3)によって算出される値である。
ρz=-0.0402(Scのモル濃度)+6.1294・・・(3)
安定化剤がCaOの場合、ρzは下記式(3-1)によって算出される値である。
ρz=-0.0400(CaOのモル濃度)+6.1700・・・(3-1)
また、着色剤を含む場合の理論焼結密度(ρ1とする)は、
ρ1=100/[(Z/V)+(100-Z)/ρ0]・・・(2-5)
また、Zは着色剤濃度(重量%)Vは着色剤理論密度(g/cm)である。
着色剤理論密度は、Feが5.24g/cm、ZnOが5.61g/cm、MnOが5.03g/cm、CoOが6.10g/cm、Crが5.22g/cm、TiOが4.23g/cm、Tbが7.80g/cm、CuOが6.31g/cm、Vが3.36g/cmとした。
また、焼結密度は、アルキメデス法にて計測した。
【0176】
<相対成型密度>
相対成型密度(%)=(成型密度/理論焼結密度)×100・・・(4)
ここで、理論焼結密度(ρとする)は、上記式(2-1)によって算出される値である。
【0177】
<全光線透過率>
上記にて得られた実施例37~45のジルコニア焼結体の全光線透過率を、分光ヘーズメーター(装置名:SH―7000、日本電色工業社製)を用い、D65光源を使用して、JISK7361に準拠した方法によって測定した。測定試料は両面研磨して厚みを1mmに調整した。結果を表4に示す。
【0178】
【表1】
【0179】
【表2】
【0180】
【表3】
【0181】
【表4】
図1
図2
図3
図4