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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】電磁接触器
(51)【国際特許分類】
   H01H 50/16 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
H01H50/16 W
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022558570
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2022019813
【審査請求日】2022-09-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤志
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-158179(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122151(WO,A1)
【文献】特開2000-268683(JP,A)
【文献】中国実用新案第212783255(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 50/16 - 50/42
H01H 33/38
H01F 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のコイルと、
前記コイルが巻き付けられた固定鉄心と、
前記固定鉄心と対向して変位可能に配置された可動鉄心と、
前記可動鉄心に連動して変位する可動接触子と、
前記可動接触子と対向して配置された固定接触子とを備え、
前記可動接触子が前記固定接触子に接触する閉極状態及び前記可動接触子と前記固定接触子とが非接触となる開極状態のいずれかの状態をとる電磁接触器であって、
前記可動鉄心から前記固定鉄心へ流れる磁束が経由する磁性体のバイパス部品を備え、
前記コイルに無通電の状態では、前記可動鉄心の変位方向における前記バイパス部品の前記可動鉄心側の端面と前記固定鉄心の吸着面との距離は、前記可動鉄心の吸着面と前記固定鉄心の吸着面との距離以下であることを特徴とする電磁接触器。
【請求項2】
前記可動鉄心の変位方向における前記バイパス部品の前記固定鉄心側の端面と前記可動鉄心の吸着面との距離は、前記可動鉄心の吸着面と前記固定鉄心の吸着面との距離以下であることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器。
【請求項3】
前記バイパス部品は、板状であり、前記可動鉄心の変位方向と垂直な方向に面を向けて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器。
【請求項4】
前記バイパス部品は、板状であり、前記可動鉄心の変位方向と垂直な方向に面を向けて配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電磁接触器。
【請求項5】
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記中央脚の間、かつ、前記コイルの外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器。
【請求項6】
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記中央脚の間、かつ、前記コイルの外側に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電磁接触器。
【請求項7】
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記中央脚の間、かつ、前記コイルの外側に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の電磁接触器。
【請求項8】
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記中央脚の間、かつ、前記コイルの外側に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電磁接触器。
【請求項9】
前記可動鉄心、前記コイル及び前記固定鉄心を収容するボトムケースを備え、
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記ボトムケースとの間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁接触器。
【請求項10】
前記可動鉄心、前記コイル及び前記固定鉄心を収容するボトムケースを備え、
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記ボトムケースとの間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電磁接触器。
【請求項11】
前記可動鉄心、前記コイル及び前記固定鉄心を収容するボトムケースを備え、
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記ボトムケースとの間に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の電磁接触器。
【請求項12】
前記可動鉄心、前記コイル及び前記固定鉄心を収容するボトムケースを備え、
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記ボトムケースとの間に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の電磁接触器。
【請求項13】
前記可動鉄心、前記コイル及び前記固定鉄心を収容するボトムケースを備え、
前記固定鉄心及び前記可動鉄心の各々は、一対の端脚及び中央脚を備えたE型形状であり、
前記コイルは、前記中央脚に巻き付けられており、
前記バイパス部品は、前記端脚の各々と前記中央脚の間、かつ、前記コイルの外側、及び前記端脚の各々と前記ボトムケースとの間に配置されていることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の電磁接触器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁力によって接点を開閉する電磁接触器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁接触器は、可動鉄心と、固定鉄心と、コイルと、引き外しばねと、接圧ばねとを有する電磁石部を備えている。電磁石部は、コイルに電圧を印加することで、可動鉄心と固定鉄心との間に磁路を形成する。引き外しばねは、可動鉄心に固定鉄心から引き離す方向の力を加える。開極状態では可動鉄心と固定鉄心との間には空隙があり、空隙を介して可動鉄心に働く吸引力が引き外しばねの力を上回ることで、可動鉄心は固定鉄心側に変位する。吸引力は変位量の増加に伴い空隙が縮まることで増加し、可動鉄心が固定鉄心に吸着した閉極状態で最大となる。可動鉄心と固定鉄心との吸着時の吸引力は、吸着力と称される。
【0003】
可動鉄心が固定鉄心と吸着した閉極状態では、可動鉄心の変位によって圧縮された引き外しばねの力及び接圧ばねの力も最大となる。そのため、電磁接触器の電磁石部の設計においては、閉極動作初期の吸引力が初期の引き外しばねの力を上回ること、及び可動鉄心と固定鉄心との吸着力が圧縮後の引き外しばねの力と接圧ばねの力との合力以上であることが求められる。しかし、可動鉄心と固定鉄心との吸引力は、可動鉄心と固定鉄心との空隙の二乗に反比例するため、製品コスト及び電源容量の制約の観点から閉極動作初期の吸引力確保が課題になることが多い。
【0004】
特許文献1には、E型の可動鉄心の中央脚とE型の固定鉄心の中央脚との各々の側面に沿うように、磁性体部品を設けた電磁接触器が開示されている。特許文献1に開示される電磁接触器は、磁性体部品とともに配置された形状変位部品により、温度変化に対してばらつきを小さくする。特許文献1に開示される電磁接触器は、磁性体部品を配置することで、空隙に生じる磁束が磁性体部品を経由するようにし、閉極動作初期の吸引力を高めることが可能な構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭63-091137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される電磁接触器は、磁性体部品が可動鉄心と固定鉄心との空隙に対して長く、体積が大きいため、可動鉄心と固定鉄心との吸着時にも磁束が流れやすくなっている。つまり、特許文献1に開示される電磁接触器は、鉄心吸着時に磁束が漏れやすくなり吸着力の低下を招いている。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、閉極動作初期の吸引力を増加するとともに、吸着時の吸引力低下を抑制することができる電磁石部を備えた電磁接触器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る電磁接触器は、筒状のコイルと、コイルが巻き付けられた固定鉄心と、固定鉄心と対向して変位可能に配置された可動鉄心と、可動鉄心に連動して変位する可動接触子と、可動接触子と対向して配置された固定接触子とを備え、可動接触子が固定接触子に接触する閉極状態及び可動接触子と固定接触子とが非接触となる開極状態のいずれかの状態をとる。電磁接触器は、可動鉄心から固定鉄心へ流れる磁束が経由する磁性体のバイパス部品を備える。コイルに無通電の状態では、可動鉄心の変位方向におけるバイパス部品の可動鉄心側の端面と固定鉄心の吸着面との距離は、可動鉄心の吸着面と固定鉄心の吸着面との距離以下である。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る電磁接触器は、閉極動作初期の吸引力を増加するとともに、吸着時の吸引力低下を抑制することができる電磁石部を備えるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1に係る電磁接触器の開極状態での縦方向断面図
図2】実施の形態1に係る電磁接触器の閉極状態での縦方向断面図
図3】実施の形態1に係る電磁接触器のバイパス部品の外観斜視図
図4】実施の形態1に係る電磁接触器の開極状態での電磁石部の縦方向断面図
図5】実施の形態1に係る電磁接触器の閉極状態での電磁石部の縦方向断面図
図6】実施の形態1に係る電磁接触器の閉極動作初期の電磁力を示す図
図7】実施の形態1に係る電磁接触器の閉極状態での電磁力を示す図
図8】実施の形態2に係る電磁接触器の開極状態での電磁石部及びボトムケースの縦方向断面図
図9】実施の形態3に係る電磁接触器の開極状態での電磁石部及びボトムケースの縦方向断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、実施の形態に係る電磁接触器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電磁接触器の開極状態での縦方向断面図である。図2は、実施の形態1に係る電磁接触器の閉極状態での縦方向断面図である。実施の形態1に係る電磁接触器1は、トップケース2及びボトムケース3によって構成される筐体100を備える。トップケース2は、可動接触子4、固定接触子5A,5B及び接圧ばね6を収容する。ボトムケース3は、可動鉄心7、固定鉄心8、コイル9、コイルボビン10、引き外しばね11及びバイパス部品20A,20Bを収容する。クロスバー12は、トップケース2とボトムケース3とに跨がって配置されている。トップケース2とボトムケース3とは、ねじ又は両ケースに形成された係合用の凹凸によって固定される。電磁接触器1は、可動接触子4が固定接触子5A,5Bに接触する閉極状態及び可動接触子4と固定接触子5A,5Bとが非接触となる開極状態のいずれかの状態をとる。電磁接触器1が閉極状態から開極状態に移行することを開極動作といい、開極状態から閉極状態に移行することを閉極動作という。
【0013】
可動鉄心7は、固定ピン15によってクロスバー12と連結されている。可動鉄心7及びクロスバー12は、開極動作時及び閉極動作時に変位する可動部50を構成している。
【0014】
可動鉄心7は、E型形状の積層鋼板を複数重ね、リベット16A,16Bで締結して構成されている。可動鉄心7は、一対の端脚7B,7Cと中央脚7Aとを備えている。固定鉄心8は、E型形状の積層鋼板を複数重ね、リベット16C,16D,16Eで締結して構成されている。固定鉄心8は、一対の端脚8B,8Cと中央脚8Aとを備えている。
【0015】
以降の説明において、可動鉄心7を含む可動部50の変位方向をZ方向と定義する。また、Z方向に垂直かつ可動鉄心7の長手方向に沿う方向をY方向と定義する。また、Z方向及びY方向の両方に垂直な方向をX方向と定義する。
【0016】
電磁接触器1は、可動鉄心7と、固定鉄心8と、コイル9、と引き外しばね11とを有する電磁石部60を備えている。
【0017】
固定接触子5A,5Bは、トップケース2に組み付けられて、可動接触子4に対向して配置されている。可動接触子4は、接圧ばね6によってクロスバー12と連結されている。固定接触子5Aには、固定接点13Aがロウ付けされている。固定接触子5Bには、固定接点13Bがロウ付けされている。可動接触子4には、可動接点14A,14Bがロウ付けされている。
【0018】
固定鉄心8には、可動鉄心7との吸着時の微振動によるうなり音を防止するクマトリコイル17A,17Bが組み込まれている。
【0019】
コイル9は、コイルボビン10に巻回され、組み合わされた状態で固定鉄心8の中央脚8Aに設置される。また、引き外しばね11は、コイルボビン10と可動鉄心7との間に配置され、可動鉄心7に固定鉄心8から引き離す方向である-Z方向に押す力を作用させる。
【0020】
図3は、実施の形態1に係る電磁接触器のバイパス部品の外観斜視図である。バイパス部品20A,20Bは、磁性材料で形成されている。バイパス部品20A,20Bは、端脚7B,7Cの各々と中央脚7Aの間、かつ、コイル9の外側に配置されている。バイパス部品20A,20Bは、コイルボビン10に取り付けられている。コイル9に無通電の状態では、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの可動鉄心7側の端面21A,21Bと固定鉄心8の吸着面81との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であり、かつ、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの固定鉄心8側の端面22A,22Bと可動鉄心7の吸着面71との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下である。バイパス部品20A,20Bは、板状であり、可動鉄心7の変位方向と垂直な方向である+Y方向及び-Y方向に面23A,23Bを向けて配置されている。なお、ここではバイパス部品20A,20Bの面23A,23Bが+Y方向及び-Y方向に向けられた構成を例に挙げたが、バイパス部品20A,20Bの面23A,23Bが+X方向及び-X方向に向けられた構成であってもよい。
【0021】
図4は、実施の形態1に係る電磁接触器の開極状態での電磁石部の縦方向断面図である。図5は、実施の形態1に係る電磁接触器の閉極状態での電磁石部の縦方向断面図である。なお、図4及び図5においては、引き外しばね11の図示を省略している。コイル9に電圧を印加すると、コイル9の内部に磁束30Aが発生する。交流電磁石の場合、磁束30Aの方向は電圧の正負によって周期的に反転するが、ここでは固定鉄心8の中央脚8Aから上向きに流れている状態で説明する。
【0022】
固定鉄心8の中央脚8Aから-Z方向に流れた磁束30Aは、可動鉄心7の端脚7Bから固定鉄心8の端脚8Bに戻る。磁束30Aは、可動鉄心7から固定鉄心8に流れる際に、可動鉄心7から固定鉄心8に直接流れる磁束30Eと、可動鉄心7からバイパス部品20Bを経由して固定鉄心8に流れる磁束30Bとに分流する。バイパス部品20Bに流れる磁束30Cは、バイパス部品20Bを通過後、磁束30Dとなって固定鉄心8に流れ、磁束30Eと合流する。
【0023】
可動鉄心7、固定鉄心8及びバイパス部品20Bは、鉄製であるため、比透磁率は空気の概ね5000倍である。磁気抵抗は比透磁率に反比例することから、空気よりも磁気抵抗が小さいバイパス部品20Bを配置した経路に磁束30Cが流れやすくなる。このように、バイパス部品20Bは、可動鉄心7を流れる磁束30Aが固定鉄心8に流れる際に、バイパス部品20Bに迂回して磁束30Bが流れるようにし、可動鉄心7から固定鉄心8へ流れる磁束を経由させる。
【0024】
また、可動鉄心7とバイパス部品20Bとの空隙は、可動鉄心7と固定鉄心8との空隙よりも小さく、磁気抵抗も小さいことからも、バイパス部品20Bを配置した経路に磁束30Cが流れやすくなる。
【0025】
ここではバイパス部品20Bについて説明したが、バイパス部品20Aについても同様であり、磁束30Aが可動鉄心7から固定鉄心8に戻る際にバイパス部品20Aを経由しやすくなる。
【0026】
図6は、実施の形態1に係る電磁接触器の閉極動作初期の電磁力を示す図である。図6には、バイパス部品を備えない比較例1に係る電磁接触器の閉極動作初期の電磁力を併せて図示している。バイパス部品20A,20Bを配置することで、可動鉄心7と固定鉄心8との空隙による磁気抵抗を低減し、図6に示すように閉極動作初期の電磁力を増加することが可能となる。
【0027】
バイパス部品20A,20Bを配置して閉極動作初期の吸着力を増大させることで、コスト低減及び電源容量の低減を実現できる。例えば、コスト低減を目的とする場合は、吸着力が増加する分だけ電磁石部60の材料を低減できるため、材料コストを削減できる。吸着力が断面積の一乗に比例する関係にあることから、可動鉄心7及び固定鉄心8の断面積を小さくし質量を低減することができる。また、吸着力∝コイル巻数の二乗の関係から、コイル9の質量を低減することができる。
【0028】
一方、電源容量低減を目的とする場合は、吸着力が増加する分の電流値を低減することができる。吸着力がコイル電流の二乗に比例する関係にあることから、吸着力の増加分だけ電流を小さくすることができる。
【0029】
続いて、閉極動作について説明する。可動鉄心7を含む可動部50に連結された引き外しばね11は、可動部50に-Z方向に押す力を加えている。これに対し、鉄心同士の吸引力は、可動部50を+Z方向に引きつける。したがって、鉄心同士の吸引力が引き外しばね11が可動部50に加える力を上回ることで可動鉄心7が固定鉄心8に向かって変位を開始する。
【0030】
可動鉄心7に連動して変位する可動接触子4に組み付けられた可動接点14A,14Bは、可動鉄心7が固定鉄心8と接触する前に固定接点13A,13Bと接触する。可動接点14A,14Bの変位は、固定接点13A,13Bと接触することで停止するが、可動鉄心7が+Z方向に変位し続けることで接圧ばね6が圧縮される。このため、可動接点14A,14Bと固定接点13A,13Bとが接触した状態において-Z方向に働く力は、引き外しばね11の力と接圧ばね6の力との合力となる。
【0031】
可動鉄心7と固定鉄心8との吸引力が引き外しばね11の力と接圧ばね6の力との合力を上回り続けることで、可動鉄心7が固定鉄心8と吸着し、閉極動作が完了する。
【0032】
可動鉄心7と固定鉄心8との吸着後も磁束30Aは磁束30Bと磁束30Eとに分流するが、大部分は可動鉄心7から固定鉄心8に流れる磁束30Eとなる。これは、可動鉄心7と固定鉄心8との空隙が無いか空隙があっても極めて小さいために、磁気抵抗が小さくなるためである。
【0033】
一方、バイパス部品20A,20Bを経由する磁束30B,30C,30Dも流れる。バイパス部品20A,20Bが磁気飽和していなければ、バイパス部品20A,20Bに流れる磁束30Cの量は、可動部50の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの長さに依存し、長尺であるほど流れやすい。
【0034】
つまり、バイパス部品20A,20Bが可動部50の変位方向に長いほど閉極状態における吸引力は低下し、可動鉄心7と固定鉄心8との吸着を阻害することになる。
【0035】
このため、コイル9に無通電の状態である閉極動作の初期に、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの可動鉄心7側の端面21A,21Bと固定鉄心8の吸着面81との距離が、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離よりも大きかったり、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの固定鉄心8側の端面22A,22Bと可動鉄心7の吸着面71との距離が、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離よりも大きかったりすると、閉極動作初期に吸引力が増加する反面、閉極状態においてはバイパス部品20A,20Bに流れる磁束30Bが多くなり、可動鉄心7と固定鉄心8との吸着力が低下しやすい構造になってしまう。
【0036】
実施の形態1に係る電磁接触器1は、コイル9に無通電の状態である閉極動作の初期には、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの可動鉄心7側の端面22A,22Bと固定鉄心8の吸着面81との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であり、かつ、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの固定鉄心8側の端面22A,22Bと可動鉄心7の吸着面71との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であることで、閉極動作初期の吸引力を増加させている。
【0037】
図7は、実施の形態1に係る電磁接触器の閉極状態での電磁力を示す図である。図7には、可動部50の変位方向の長さが、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離よりも大きいバイパス部品を備えた比較例2に係る電磁接触器の閉極状態での電磁力を併せて図示している。比較例2に係る電磁接触器では、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品の可動鉄心側の端面と固定鉄心の吸着面との距離が、可動鉄心の吸着面と固定鉄心の吸着面との距離よりも大きく、かつ可動鉄心の変位方向におけるバイパス部品の固定鉄心側の端面と可動鉄心の吸着面との距離が、可動鉄心の吸着面と固定鉄心の吸着面との距離よりも大きくなっている。このため、比較例2に係る電磁接触器のバイパス部品は、実施の形態1に係る電磁接触器のバイパス部品20A,20Bよりも大きい。実施の形態1に係る電磁接触器1は、比較例2に係る電磁接触器と比較するとバイパス部品20A,20Bの体積が小さいため、閉極状態においてバイパス部品20A,20Bに流れる磁束量は、比較例2に係る電磁接触器と比較して少なくなっており、吸着力の低下が抑制されている。その結果、図7に示すように、バイパス部品が長尺である比較例2に係る電磁接触器と比較すると、閉極状態における吸着力が大きい。
【0038】
実施の形態1に係る電磁接触器1は、コイル9に無通電の状態では、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの可動鉄心7側の端面21A,21Bと固定鉄心8の吸着面81との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であり、かつ、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの固定鉄心8側の端面22A,22Bと可動鉄心7の吸着面71との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であるため、閉極動作初期の電磁石部60の吸引力を増加するとともに、吸着時の吸引力低下を抑制することができる。
【0039】
なお、上記の説明においては、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの固定鉄心8側の端面22A,22Bと可動鉄心7の吸着面71との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であった。しかし、コイル9に無通電の状態で、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの可動鉄心7側の端面21A,21Bと固定鉄心8の吸着面81との距離が、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であれば、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの固定鉄心8側の端面22A,22Bと可動鉄心7の吸着面71との距離が可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離よりも大きかったとしても、吸着後に可動鉄心7の端脚7B、7Cと中央脚7Aとの間の連結部分からバイパス部品20A,20Bに漏れる磁束が減少する。このため、コイル9に無通電の状態で、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20Bの可動鉄心7側の端面21A,21Bと固定鉄心8の吸着面81との距離が、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であれば、閉極動作初期の電磁石部60の吸引力を増加するとともに、吸着時の吸引力低下を抑制することができる。
【0040】
実施の形態2.
図8は、実施の形態2に係る電磁接触器の開極状態での電磁石部及びボトムケースの縦方向断面図である。図8では図1に示した実施の形態1に係る電磁接触器1と共通の一部の構成要素については、符号を省略している。また、図8では、引き外しばね11の図示は省略している。
【0041】
実施の形態2に係る電磁接触器1は、ボトムケース3にバイパス部品20C,20Dが取り付けられている。バイパス部品20C,20Dは、端脚8B,8Cの各々とボトムケース3との間に配置されている。バイパス部品20C,20Dと可動鉄心7の吸着面71との位置関係及びバイパス部品20C,20Dと固定鉄心8の吸着面81との位置関係は、実施の形態1に係る電磁接触器1と同様である。すなわち、コイル9に無通電の状態では、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20C,20Dの可動鉄心7側の端面21C,21Dと固定鉄心8の吸着面81との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であり、かつ、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20C,20Dの固定鉄心8側の端面22C,22Dと可動鉄心7の吸着面71との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下である。
【0042】
なお、バイパス部品20C,20Dをボトムケース3に取り付ける方法は限定しない。ボトムケース3に溝形状を設け、そこにバイパス部品20C,20Dを挿入しても良い。またバイパス部品20C,20Dをねじでボトムケース3に取り付けても良いし、接着材を用いて取り付けても良い。
【0043】
実施の形態2に係る電磁接触器1は、コイル9と固定鉄心8との間の寸法上の制約によりコイルボビン10にバイパス部品20C,20Dを設置できなくても、閉極動作初期の吸引力を増加するとともに、吸着時の吸引力低下を抑制することができる。
【0044】
実施の形態3.
図9は、実施の形態3に係る電磁接触器の開極状態での電磁石部及びボトムケースの縦方向断面図である。図9では図1に示した実施の形態1に係る電磁接触器1と共通の一部の構成要素については、符号を省略している。また、図9では、引き外しばね11の図示は省略している。
【0045】
実施の形態3に係る電磁接触器1は、コイルボビン10にバイパス部品20A,20Bが取り付けられており、ボトムケース3にバイパス部品20C,20Dが取り付けられている。バイパス部品20A,20B,20C,20Dと可動鉄心7の吸着面71との位置関係及びバイパス部品20A,20B,20C,20Dと固定鉄心8の吸着面81との位置関係は、実施の形態1に係る電磁接触器1及び実施の形態2に係る電磁接触器1と同様である。すなわち、コイル9に無通電の状態では、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20B,20C,20Dの可動鉄心7側の端面21A,21B,21C,21Dと固定鉄心8の吸着面81との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下であり、かつ、可動鉄心7の変位方向におけるバイパス部品20A,20B,20C,20Dの固定鉄心8側の端面22A,22B,22C,22Dと可動鉄心7の吸着面71との距離は、可動鉄心7の吸着面71と固定鉄心8の吸着面81との距離以下である。
【0046】
実施の形態2に係る電磁接触器1と同様に、バイパス部品20C,20Dをボトムケース3に取り付ける方法は限定しない。ボトムケース3に溝形状を設け、そこにバイパス部品20C,20Dを挿入しても良い。またバイパス部品20C,20Dをねじでボトムケース3に取り付けても良いし、接着材を用いて取り付けても良い。
【0047】
実施の形態3に係る電磁接触器1は、固定鉄心8の端脚8B,8Cを挟むようにバイパス部品20A,20B,20C,20Dが配置されているため、実施の形態1に係る電磁接触器1及び実施の形態2に係る電磁接触器1と比較すると、閉極動作初期の吸引力をより増加させることができる。
【0048】
以上の実施の形態に示した構成は、内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 電磁接触器、2 トップケース、3 ボトムケース、4 可動接触子、5A,5B 固定接触子、6 接圧ばね、7 可動鉄心、7A,8A 中央脚、7B,7C,8B,8C 端脚、8 固定鉄心、9 コイル、10 コイルボビン、11 引き外しばね、12 クロスバー、13A,13B 固定接点、14A,14B 可動接点、15 固定ピン、16A,16B,16C,16D,16E リベット、17A,17B クマトリコイル、20A,20B,20C,20D バイパス部品、21A,21B,21C,21D,22A,22B,22C,22D 端面、23A,23B 面、30A,30B,30C,30D,30E 磁束、50 可動部、60 電磁石部、71,81 吸着面、100 筐体。
【要約】
筒状のコイル(9)と、コイル(9)が巻き付けられた固定鉄心(8)と、固定鉄心(8)と対向して変位可能に配置された可動鉄心(7)と、可動鉄心(7)に連動して変位する可動接触子(4)と、可動接触子(4)と対向して配置された固定接触子(5A,5B)とを備え、可動接触子(4)が固定接触子(5A,5B)に接触する閉極状態及び可動接触子(4)と固定接触子(5A,5B)とが非接触となる開極状態のいずれかの状態をとる電磁接触器(1)であって、可動鉄心(7)から固定鉄心(8)へ流れる磁束が経由する磁性体のバイパス部品(20A,20B)と、を備え、コイル(9)に無通電の状態では、可動鉄心(7)の変位方向におけるバイパス部品(20A,20B)の可動鉄心(7)側の端面(21A,21B)と固定鉄心(8)の吸着面(81)との距離は、可動鉄心(7)の吸着面(71)と固定鉄心(8)の吸着面(81)との距離以下である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9