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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】腐食環境診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
G01N17/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022560466
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2022021929
【審査請求日】2022-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 誉英
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 禎司
(72)【発明者】
【氏名】野田 清治
(72)【発明者】
【氏名】栗木 宏徳
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092264(WO,A1)
【文献】特開2012-251846(JP,A)
【文献】特開2020-51894(JP,A)
【文献】特開2020-148541(JP,A)
【文献】特開2001-215187(JP,A)
【文献】国際公開第2020/85327(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/166637(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/135361(WO,A1)
【文献】特開2020-143999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外に設置される機器の設置環境の腐食リスクを診断する腐食環境診断システムであって、
前記機器の設置環境に飛来する物質を検出する飛来物センサを含む複数のセンサを有し、前記複数のセンサによって前記機器が設置される地域の大気環境に関する環境測定データを取得する環境測定装置と、
前記環境測定装置によって取得された前記環境測定データに基づいて前記機器の設置環境の腐食リスクを診断する腐食環境診断装置と、
前記腐食環境診断装置の診断結果に基づいて前記機器が設置される前記地域の腐食区分を決定し、前記地域の前記腐食区分を示した腐食リスクマップを出力する診断結果出力装置と、
前記機器の設置状況を示す画像を撮像する設置状況取得部と、
前記設置状況取得部で撮像した画像を解析し機器周辺情報を取得する画像解析装置と、を備え
前記機器周辺情報は、前記機器の周囲の地面の種類、前記機器と前記地面との距離、及び風雨を遮蔽する遮蔽物の有無のいずれか1つ以上を含み、
前記腐食環境診断装置は、前記画像解析装置で取得された前記機器周辺情報を用いて診断を行うことを特徴とする腐食環境診断システム。
【請求項2】
前記機器が設置される前記地域の過去の環境測定データ、気象統計情報、及び地理的情報のいずれか1つ以上を含む気象地理情報が記録された外部データベースを備え、
前記腐食環境診断装置は、前記外部データベースから取得した前記気象地理情報を用いて診断を行うことを特徴とする請求項1に記載の腐食環境診断システム。
【請求項3】
前記腐食環境診断装置は、前記環境測定装置で取得された前記環境測定データに対し、前記機器の構成部材に含まれる金属種に応じた重み付けを行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の腐食環境診断システム。
【請求項4】
前記腐食環境診断装置は、前記機器の設置環境の腐食リスクとして、前記機器が設置される前記地域の腐食特性に関連する特徴抽出結果を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の腐食環境診断システム。
【請求項5】
前記腐食環境診断装置は、前記機器の設置環境の腐食リスクとして、前記機器が設置される前記地域のクラスタリング結果を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の腐食環境診断システム。
【請求項6】
前記腐食環境診断装置は、前記機器の設置環境の腐食リスクとして、前記機器の構成部材である金属の腐食進行度を出力することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の腐食環境診断システム。
【請求項7】
前記環境測定装置は、前記機器の構成部材を模した腐食模擬サンプルを備え、
前記腐食環境診断装置は、前記腐食模擬サンプルによって取得された腐食量のデータに基づいて前記金属の腐食進行度を算出することを特徴とする請求項記載の腐食環境診断システム。
【請求項8】
前記診断結果出力装置は、前記機器の設置環境と同ランクの腐食リスクを有する類似腐食地域を抽出し、前記機器が設置される前記地域と前記類似腐食地域との近似度を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の腐食環境診断システム。
【請求項9】
前記飛来物センサは、海塩粒子、融雪剤、及び金属粉のいずれか1つ以上を検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の腐食環境診断システム。
【請求項10】
前記機器は、空調機用室外機であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の腐食環境診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、腐食環境診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外に設置される機器(例えば空調機用室外機)は、設置環境によって腐食反応が大きく異なる。このため、屋外に設置される機器の防食設計を行う際には、当該機器が設置される地域の腐食特性を把握し、適切な防食仕様を設定することが重要である。
【0003】
先行技術として、特許文献1に開示された腐食環境診断システムは、診断対象である電子部品が設置された室内の温度及び相対湿度と、腐食センサで測定された腐食厚さと、ガスセンサで測定された腐食性ガスの濃度と、外気の過去の温度及び湿度を含む外気環境データとに基づいて、診断対象の金属(例えば銀)の将来の腐食厚さを推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2016/103445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1による腐食環境診断システムでは、屋内に設置される電子部品を診断対象としているため、風雨及び飛来物の影響を考慮しておらず、屋外の設置環境の腐食特性を把握することはできない。また、設置環境の潜在的な腐食リスク、当該地域と他の地域との腐食リスクの近似度等、屋外に設置される機器の防食設計に有用な情報は得られない。これらのことから、上記先行例では、屋外に設置される機器の設置環境の腐食リスクを高精度に診断することは困難である。
【0006】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、屋外に設置される機器の設置環境の腐食リスクを高精度に診断することが可能な腐食環境診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示される腐食環境診断システムは、屋外に設置される機器の設置環境の腐食リスクを診断する腐食環境診断システムであって、機器の設置環境に飛来する物質を検出する飛来物センサを含む複数のセンサを有し、複数のセンサによって機器が設置される地域の大気環境に関する環境測定データを取得する環境測定装置と、環境測定装置によって取得された環境測定データに基づいて機器の設置環境の腐食リスクを診断する腐食環境診断装置と、腐食環境診断装置の診断結果に基づいて機器が設置される地域の腐食区分を決定し、当該地域の腐食区分を示した腐食リスクマップを出力する診断結果出力装置と、機器の設置状況を示す画像を撮像する設置状況取得部と、設置状況取得部で撮像した画像を解析し機器周辺情報を取得する画像解析装置と、を備え、機器周辺情報は、機器の周囲の地面の種類、機器と地面との距離、及び風雨を遮蔽する遮蔽物の有無のいずれか1つ以上を含み、腐食環境診断装置は、画像解析装置で取得された機器周辺情報を用いて診断を行うものである。
【発明の効果】
【0008】
本願に開示される腐食環境診断システムによれば、飛来物センサを備えることにより機器が設置される地域の腐食特性を的確に把握することができ、屋外に設置される機器の設置環境の腐食リスクを高精度に診断することが可能である。また、機器が設置される地域の腐食区分を示した腐食リスクマップを出力するようにしたので、腐食区分に対応した機器のメンテナンスの設定及び防食設計を行うことが可能である。
本願の上記以外の目的、特徴、観点及び効果は、図面を参照する以下の詳細な説明から、さらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1に係る腐食環境診断システムの構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1に係る腐食環境診断システムによる処理の流れを示す図である。
図3】実施の形態1に係る腐食環境診断システムによって出力された腐食リスクマップを示す図である。
図4】実施の形態1に係る腐食環境診断システムによって出力された腐食リスクマップを示す図である。
図5】実施の形態1に係る腐食環境診断装置のハードウエア構成例を示す図である。
図6】実施の形態1に係る診断結果出力装置のハードウエア構成例を示す図である。
図7】実施の形態2に係る腐食環境診断システムの構成を示すブロック図である。
図8】実施の形態2に係る腐食環境診断システムによる処理の流れを示す図である。
図9】実施の形態3に係る腐食環境診断システムの構成を示すブロック図である。
図10】実施の形態3に係る腐食環境診断システムによる処理の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下に、実施の形態1に係る腐食環境診断システムについて、図面に基づいて説明する。図1は、実施の形態1に係る腐食環境診断システムの機能構成を示し、図2は、実施の形態1に係る腐食環境診断システムによる処理の流れを示している。また、図3及び図4は、実施の形態1に係る腐食環境診断システムによって出力された腐食リスクマップを示し、図5及び図6は、それぞれ腐食環境診断装置及び診断結果出力装置のハードウエア構成例を示している。なお、各図において、同一または相当部分には同一符号を付している。
【0011】
実施の形態1に係る腐食環境診断システム100は、屋外に設置される機器の設置環境の腐食リスクを診断するものである。屋外に設置される機器には、例えば空調機用室外機、スイッチギヤ、監視用カメラ、屋外用ディスプレイ等があるが、腐食環境診断システム100において設置環境が診断される機器は特に限定されるものではない。
【0012】
以下の説明では、屋外に設置される機器として、空調機用室外機を例に挙げて説明する。腐食環境診断システム100によって設置環境が診断される空調機用室外機(以下これを単に「室外機」という)は、家庭用空調機の室外機、あるいはビル、工場等に設置される業務用空調機の室外機のいずれであってもよい。
【0013】
また、以下の説明において、測定点とは、室外機または環境測定装置1が設置される箇所であり、測定地域とは室外機が設置される地域である。測定地域の範囲は特に限定されるものではなく、例えば測定点を中心として周囲数キロメートルから数十キロメートルの範囲を測定地域としてもよいし、測定点を含む気象予報の地域区分を測定地域としてもよい。
【0014】
図1に示すように、腐食環境診断システム100は、環境測定装置1、腐食環境診断装置2、及び診断結果出力装置3を備えている。
環境測定装置1は、室外機の設置環境に飛来する物質を検出する飛来物センサ14を含む複数のセンサを有し、複数のセンサによって測定地域の大気環境に関する環境測定データを取得する。環境測定装置1が有する複数のセンサは、温度センサ11、湿度センサ12、腐食ガスセンサ13、及び飛来物センサ14を含む。ただし、複数のセンサはこれらに限定されるものではなく、他のセンサを含んでいてもよい。
【0015】
温度センサ11及び湿度センサ12は、それぞれ室外機の設置環境の温度及び湿度を測定する。温度センサ11と湿度センサ12はそれぞれ別個のセンサであってもよく、両方の機能を備えた温湿度センサであってもよい。
【0016】
腐食ガスセンサ13は、測定地域の大気中に存在する化学物質のうち、金属の腐食促進に寄与する腐食ガスを検出し、その濃度を測定する。腐食ガスは、例えば硫化水素、塩素、亜硫酸、亜硝酸、アンモニア等である。硫化水素を検出する腐食ガスセンサ13としては、定電位電解式のセンサ、半導体ガスセンサ、または電気化学式のガスセンサ等を用いることができる。
【0017】
飛来物センサ14は、室外機の設置環境に飛来する、腐食促進性を有する物質を検出する。室外機においては、熱交換器等の金属製部材に海塩粒子、融雪剤、及び金属粉等の飛来物が付着することで腐食が顕著に促進される。海塩粒子は海水に由来する塩分からなる微粒子であり、融雪剤は塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウム等で構成される。また、金属粉としては、周辺の工場、鉄道等から発生する鉄粉が代表的である。
【0018】
このため、飛来物センサ14は、海塩粒子、融雪剤、及び金属粉のいずれか1つ以上を検出し、定量化することが望ましい。ただし、飛来物センサ14によって検出される物質はこれらに限定されるものではなく、腐食促進性を有するその他の物質を検出するようにしてもよい。
【0019】
また、飛来物センサ14の種類は特に限定されるものではないが、測定地域に特有の飛来物を検出可能な飛来物センサ14が用いられ、二種類以上の飛来物センサ14を用いてもよい。例えば測定地域が海岸沿いの工業地帯である場合、海塩粒子を検出可能な飛来物センサ14と金属粉を検出可能な飛来物センサ14とが用いられる。
【0020】
海塩粒子を検出する飛来物センサ14としては、例えばドライガーゼ法(JIS Z 2382規格)、ACM(Atmospheric Corrosion Monitor)型腐食センサ(通称ACMセンサ)等を用いることができる。ドライガーゼ法は、100mm×100mmのガーゼを通過する塩分を採取する手法であり、風速、湿度等の気象条件の影響を反映させた飛来塩分の回収を行うことができる。ACMセンサは、環境因子により電気化学的に発生する金属の腐食電流を直接計測することができ、その出力を解析することにより環境の腐食性を定量的に評価することができる。
【0021】
また、環境測定装置1は、室外機の構成部材を模した腐食模擬サンプル15を備えている。腐食模擬サンプル15は、室外機の設置環境における金属の腐食進行度を定量化するためのサンプルであり、具体的には室外機の金属製部材と同種類の金属板等が用いられる。腐食模擬サンプル15は、所定期間、設置環境で大気曝露された後、回収されて腐食量が評価される。これにより、設置環境における当該金属の腐食量のデータが取得され、このデータに基づいて室外機を実際に使用した際の構成部材の腐食進行度を再現及び予測することができる。
【0022】
環境測定装置1は、室外機に直接取り付けてもよいし、室外機の周辺に設置してもよい。例えば籠状の筐体内に複数のセンサ及び腐食模擬サンプル15を収容し、これを室外機に取り付けることにより、室外機の設置環境に近い状態で測定を行うことができる。環境測定装置1を室外機に直接取り付けることが困難な場合には、室外機のファンの風路上に設置することで、室外機の温度変化、飛来物質の飛来状況等を再現することができる。
【0023】
また、室外機が設置される前の設置予定地に環境測定装置1を設け、設置環境の環境測定データを事前に取得するようにしてもよい。特に腐食が懸念される地域に設置される室外機の場合、入念な防食設計が必須であるため、事前に環境測定データを取得して腐食環境診断装置2による診断を行い、診断結果を防食設計に反映させることが望ましい。なお、腐食が懸念される地域とは、例えば海岸沿いの地域、温泉地域、周囲に工場、プラント等がある地域、大気汚染が顕著な地域、過去に腐食不具合が発生している地域等である。
【0024】
環境測定装置1による環境測定データの測定期間及び頻度等は、特に限定されるものではないが、例えば測定期間は1ヵ月間とすることができる。腐食ガスセンサ13と飛来物センサ14については1ヵ月間の蓄積値を用い、温度センサ11及び湿度センサ12については例えば1時間毎の測定値を用いるようにしてもよい。また、測定地域に四季あるいは乾季と雨季がある場合は、季節毎に測定することが望ましい。
【0025】
腐食環境診断装置2及び診断結果出力装置3は、環境測定装置1とは別に、システム管理者のオフィス等の屋内に設置される。腐食環境診断装置2は、環境測定装置1によって取得された環境測定データに基づいて室外機の設置環境の腐食リスクを診断する。腐食環境診断装置2に入力される環境測定データは、温湿度、腐食ガスの種類と濃度、飛来物の種類と量、及び金属の腐食量等のデータである。
【0026】
腐食環境診断装置2は、図1に示すように、特徴抽出部21、地域クラスタリング部22、及び腐食進行度算出部23を含む。特徴抽出部21は、測定地域の腐食特性に関連する特徴抽出を実施し、室外機の設置環境の腐食リスクとして室外機が設置される地域の腐食特性に関連する特徴抽出結果を出力する。測定地域の特徴抽出を実施する方法としては、主成分分析、決定木分析等を用いることができる。
【0027】
地域クラスタリング部22は、特徴抽出部21による特徴抽出結果に基づいて測定地域のクラスタリングを実施し、室外機の設置環境の腐食リスクとして地域クラスタリング結果を出力する。クラスタリングは、データ間の類似度に基づいてデータをグループ分けする手法である。地域クラスタリングを実施する方法としては、教師なし学習に属するk-means法、混合ガウスモデル等を用いることができる。
【0028】
腐食進行度算出部23は、腐食模擬サンプル15によって取得された腐食量のデータに基づいて室外機の構成部材である金属の腐食進行度を算出し、室外機の設置環境の腐食リスクとして室外機の構成部材である金属の腐食進行度を出力する。
【0029】
また、腐食進行度算出部23は、腐食模擬サンプル15によって取得された腐食量のデータ以外の環境測定データに基づいて、当該金属の腐食進行度を算出してもよい。金属の腐食進行度の算出方法としては、海塩粒子と鉄腐食速度の関係式を用いて計算する方法、腐食模擬サンプルの腐食量を目的変数に、その他の因子を説明変数とした回帰分析によって作成した回帰式を用いる方法等を用いることができる。
【0030】
このように、腐食環境診断装置2の診断結果として出力される設置環境の腐食リスクには、測定地域の特徴抽出結果、地域クラスタリング結果、及び金属の腐食進行度等が含まれる。ただし、腐食環境診断装置2による腐食リスクの出力形態はこれらに限定されるものではなく、他の出力形態であってもよい。
【0031】
腐食リスクの出力形態として、各リスク項目を評点として腐食リスクを算出する方法を用いてもよい。リスクの構成要素として例えばA、B、C、及びDを設定し、Aは温湿度、Bは大気ガス、Cは飛来物、Dは金属の腐食量に由来する各要素の評点とする。それらの評点に基づいて、各構成要素のリスク評点であるAからDを単純に合算、あるいはAからDに重み付けをして合算することで腐食リスクを算出することができる。また、腐食リスクとして室外機の平均寿命、故障率等を出力する方法、独自の算出式を用いて環境の汚損度を点数化する方法等を用いてもよい。
【0032】
診断結果出力装置3は、腐食リスクマップ出力部31及び表示部32を含み、腐食環境診断装置2の診断結果に基づいて室外機が設置される地域の腐食区分を決定し、当該地域の腐食区分を示した腐食リスクマップ33(図3及び図4参照)を出力する。腐食リスクマップ出力部31は、設置環境と同ランクの腐食リスクを有する類似腐食地域を抽出し、室外機が設置される地域と類似腐食地域との近似度を算出する。
【0033】
測定地域と類似腐食地域との近似度は、測定地域と同ランクの腐食リスクを有する類似腐食地域とのデータ間の相似度で示される。近似度の計算方法としては、データ群の平均値とのユークリッド距離を算出する方法、代表的な測定点が定義できる場合には分散を考慮したマハラノビス距離を算出する方法等が用いられる。
【0034】
また、腐食リスクマップ出力部31は、測定地域と類似腐食地域との近似度に基づいて、測定地域の腐食区分を決定する。腐食区分とは、測定地域の腐食リスクを数段階のランクに分類したものである。さらに、腐食リスクマップ出力部31は、決定された測定地域の腐食区分を反映した腐食リスクマップ33を作成し、表示部32の画面に出力する。
【0035】
腐食環境診断システム100による処理の流れについて、図2のフローチャートを用いて説明する。まず、環境測定装置1により、室外機が設置される測定地域の大気環境に関する環境測定データを取得する(S101)。
【0036】
次に、腐食環境診断装置2の特徴抽出部21において、S101で取得された環境測定データに基づいて測定地域の腐食特性に関連する特徴抽出を実施する(S120)。続いて、地域クラスタリング部22において、S120で取得された測定地域の特徴抽出結果に基づいて地域クラスタリングを実施する(S121)。次に、腐食進行度算出部23において、室外機の構成部材である金属の腐食進行度を算出する(S122)。腐食環境診断装置2は、S120からS122の結果に基づいて設置環境の腐食リスクを診断する(S123)。
【0037】
次に、診断結果出力装置3の腐食リスクマップ出力部31において、S123で診断された腐食リスクに基づいて類似腐食地域との近似度を算出する(S124)。続いて、S124で算出された類似腐食地域との近似度に基づいて測定地域の腐食区分を決定し(S125)、測定地域の腐食区分がプロットされた腐食リスクマップ33を出力する(S126)。
【0038】
診断結果出力装置3の表示部32の画面に表示される腐食リスクマップ33の具体例を図3及び図4に示す。図3に示す腐食リスクマップ33は、測定地域の測定点を示す測定ピンM1が表示されている。測定ピンM1は、色、形、または模様が異なる複数の種類があり、測定ピンM1の種類によって測定地域の腐食区分(すなわち腐食リスクのランク)を示している。
【0039】
さらに、図4に示すように、腐食リスクマップ33の測定ピンM1をクリックすることで、データ表示パネルM2がポップアップされる。データ表示パネルM2には、測定点における詳細なデータ、例えば環境測定データ、特徴抽出によって得られた測定点の特徴量、及び類似腐食地域との近似度等が表示される。
【0040】
また、腐食リスクマップの測定点が増加し、各地の腐食リスクのデータが十分に蓄積されると、環境測定装置1による測定を行わずとも室外機の設置予定地の腐食リスクを予測することが可能となる。このような腐食リスク予測機能を備えることにより、腐食リスクマップで室外機の設置予定地をクリックすることで、その周辺の過去の測定点の診断結果に基づいて当該設置予定地の腐食リスクが算出され、腐食リスクマップに当該設置予定地の予想腐食区分が表示される。
【0041】
なお、上記の説明では、診断結果出力装置3において測定地域と類似腐食地域との近似度を算出し、測定地域の腐食区分を決定するようにしたが、これらの処理を腐食環境診断装置2で行うことも可能である。すなわち、腐食環境診断装置2が腐食リスクマップ出力部31の機能を有するようにしてもよい。
【0042】
腐食環境診断システム100のハードウエア構成例について、図5及び図6を用いて説明する。環境測定装置1は、検出器としての各種センサと、環境測定データを腐食環境診断装置2に送信するための送信装置とを備えている。環境測定装置1から腐食環境診断装置2へのデータの送信方法は、機器電波による通信及びインターネット回線による通信等から適宜選択することができ、無線通信、有線通信のどちらであってもよい。
【0043】
腐食環境診断装置2は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理端末であり、図5に示すように、環境測定装置1から環境測定データを受信する受信装置201、プロセッサ202、及び記憶装置203を備えている。腐食環境診断装置2の特徴抽出部21、地域クラスタリング部22、及び腐食進行度算出部23の機能は、ソフトウエアで実行してもよいし専用のハードウエアで実行してもよい。すなわち、図5に示すように、プロセッサ202と記憶装置203を含む構成であってもよいし、処理回路を含む構成であってもよい。
【0044】
記憶装置203は、ランダムアクセスメモリ等の揮発性記憶装置と、フラッシュメモリ等の不揮発性の補助記憶装置とを具備する。また、フラッシュメモリの代わりにハードディスクの補助記憶装置を具備してもよい。プロセッサ202は、記憶装置203から入力されたプログラムを実行する。この場合、補助記憶装置から揮発性記憶装置を介してプロセッサ202にプログラムが入力される。また、プロセッサ202は、演算結果等のデータを記憶装置203の揮発性記憶装置に出力してもよいし、揮発性記憶装置を介して補助記憶装置にデータを保存してもよい。
【0045】
診断結果出力装置3は、図6に示すように、腐食環境診断装置2から診断結果を受信する受信装置301、処理回路302、及びディスプレイ303を備えている。処理回路302は、腐食環境診断装置2による診断結果をディスプレイ303に出力する。また、腐食環境診断装置2と診断結果出力装置3を一体化し、両方の機能を有する情報処理端末とディスプレイとして実現してもよい。
【0046】
以上のように、実施の形態1に係る腐食環境診断システム100によれば、室外機の設置環境に飛来する物質を検出する飛来物センサ14を備えているため、測定地域の腐食特性を的確に把握することができる。また、測定地域の腐食特性に関連する特徴抽出を実施することにより、室外機の防食仕様を設定するために必要な設置環境の潜在的な腐食リスクの情報が得られる。さらに、地域クラスタリングを実施することにより、防食設計に有用な類似腐食地域との近似度の情報が得られる。これらのことから、屋外に設置される室外機の設置環境の腐食リスクを高精度に診断することが可能である。
【0047】
また、診断結果として測定地域の腐食区分を示す腐食リスクマップを出力するので、腐食区分に対応した室外機のメンテナンスの設定(内容、頻度、及び部品交換時期等)を行うことが可能である。その際、類似腐食地域において過去に実施されたメンテナンスの設定を参考にすることができるため、上記設定に要する時間が短縮され作業の効率化が図られる。
【0048】
さらに、室外機の設置予定地の環境測定データを取得して腐食リスクを診断することにより、設置予定地の腐食区分に対応した室外機の防食設計を行うことが可能である。その際、類似腐食地域において過去に実施された防食設計を参考にすることができるため、防食設計に要する時間が短縮され作業の効率化が図られる。
【0049】
実施の形態2.
図7は、実施の形態2に係る腐食環境診断システムの機能構成を示し、図8は、実施の形態2に係る腐食環境診断システムによる処理の流れを示している。
実施の形態2に係る腐食環境診断システム101は、図7に示すように、環境測定装置1、腐食環境診断装置2、及び診断結果出力装置3を備えている。これらの機能については上記実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0050】
室外機の設置環境への飛来物の多くは大気中の風によって移動するため、飛来物の量は室外機の設置状況に大きく影響を受ける。室外機が建物の二階等の地面から遠い位置に設置されている場合及び室外機の周囲に遮蔽物がない場合には、風の通りがよいため室外機に到達する飛来物は増加する。また、飛来物は、降雨が地面で跳ね返ることで室外機に到達する場合もあり、その場合の飛来物の量は、室外機の地面からの距離と地面の種類(土、砂利、コンクリート等)の影響を受ける。
【0051】
実施の形態2に係る腐食環境診断システム101は、室外機の設置状況を含めた診断を行うために、対象の機器(ここでは室外機)の設置状況を示す画像を撮像する設置状況取得部4と、設置状況取得部4で撮像した画像を解析し機器周辺情報(ここでは室外機周辺情報)を取得する画像解析装置5とを備えている。設置状況取得部4はカメラ等の撮像装置であり、室外機に隣接して設置される。画像解析装置5により取得される室外機周辺情報は、室外機の周囲の地面の種類、室外機と地面との距離、及び風雨を遮蔽する遮蔽物の有無のいずれか1つ以上を含む。
【0052】
上記実施の形態1に係る腐食環境診断装置2(図1参照)は、環境測定装置1によって取得された環境測定データに基づいて設置環境の腐食リスクを診断したが、実施の形態2に係る腐食環境診断装置2は、環境測定データに加え、画像解析装置5で取得された室外機周辺情報を用いて診断を行う。なお、実施の形態2に係る腐食環境診断システム101のその他の構成及び機能については、上記実施の形態1に係る腐食環境診断システム100と同様であるためここでは説明を省略する。
【0053】
腐食環境診断システム101による処理の流れについて、図8のフローチャートを用いて説明する。まず、環境測定装置1により、室外機が設置される測定地域の大気環境に関する環境測定データを取得する(S101)。次に、設置状況取得部4により、室外機の設置状況の画像を取得する(S110)。画像解析装置5はこの画像を解析して室外機周辺情報を取得する。腐食環境診断装置2は、画像解析装置5から室外機周辺情報の特徴量を取得する(S111)。
【0054】
次に、腐食環境診断装置2は、S101で取得された環境測定データに基づいて、測定地域の腐食特性に関連する特徴抽出を実施し(S120)、地域クラスタリングを実施し(S121)、室外機の構成部材である金属の腐食進行度を算出する(S122)。さらに、腐食環境診断装置2は、S111及びS120からS122の結果に基づいて、設置環境の腐食リスクを診断する(S123)。S124以降については上記実施の形態1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0055】
また、S111において、室外機周辺情報の特徴量を室外機周辺情報の評点として腐食環境診断装置2に入力してもよい。評点の算出方法としては、例えば室外機周辺情報の構成要素としてA、B、C、及びDを定義し、Aは室外機の周囲の地面の種類、Bは地面からの距離、Cは遮蔽物の有無、Dは降雨の跳ね返り度合いとする。これらの構成要素の特徴量の評点をそれぞれ決定し、各構成要素の評点を単純に合算、あるいはAからDに重み付けをして合算することで室外機周辺情報の評点を算出することができる。
【0056】
実施の形態2に係る腐食環境診断システム101によれば、上記実施の形態1に係る腐食環境診断システム100と同様の効果が得られ、さらに設置状況取得部4及び画像解析装置5を備えることにより、設置環境の局所的な特徴を腐食環境診断に導入することが可能となり、より高精度な診断を行うことができる。
【0057】
実施の形態3.
図9は、実施の形態3に係る腐食環境診断システムの機能構成を示し、図10は、実施の形態3に係る腐食環境診断システムによる処理の流れを示している。
実施の形態3に係る腐食環境診断システム102は、図9に示すように、環境測定装置1、腐食環境診断装置2、診断結果出力装置3、設置状況取得部4、及び画像解析装置5を備えている。これらの機能については上記実施の形態1及び2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0058】
環境測定装置1は、屋外に設置され風雨に曝されるため劣化及び破損しやすく、センサ異常等により環境測定データに欠損が生じたり異常値が発生したりすることがある。また、室外機の周辺に環境測定装置1を設置することができず、環境測定データの取得が困難な場合もある。
【0059】
このような事態に対処するため、実施の形態3に係る腐食環境診断システム102は、対象の機器(ここでは室外機)が設置される地域の過去の環境測定データ、気象統計情報、及び地理的情報のいずれか1つ以上を含む気象地理情報が記録された外部データベース6を備えている。腐食環境診断装置2は、外部データベース6から取得した気象地理情報を用いて診断を行う。
【0060】
例えば、環境測定装置1で取得した環境測定データにおいて、飛来物の塩化物イオン濃度に代表される海塩粒子に関わるデータが欠損している場合、外部データベース6から地理的情報に含まれる測定点の海からの距離の情報を取得し、代替データとして腐食環境診断装置2に入力することができる。気象統計情報及び地理的情報は、気象庁または各国で公開されている。
【0061】
腐食環境診断システム102による処理の流れについて、図10のフローチャートを用いて説明する。まず、環境測定装置1により、室外機が設置される測定地域の大気環境に関する環境測定データを取得する(S101)。次に、腐食環境診断装置2において、S101で取得した環境測定データに欠損があるか否かを判断する(S102)。
【0062】
S102において環境測定データに欠損がある場合(YES)、外部データベース6から欠損したデータの代替のデータを取得する(S103)。また、S102において環境測定データに欠損がない場合(NO)、腐食環境診断装置2において、S101で取得した環境測定データに異常値があるか否かを判断する(S104)。
【0063】
S104において環境測定データに異常値がある場合(YES)、外部データベース6から異常値のデータの代替のデータを取得する(S105)。S103及びS105において外部データベース6から取得される代替データは、例えば今回の測定点に最も近い他の測定点における過去の環境測定データ、環境測定データの代替となる気象統計情報及び地理的情報等である。S110以降については上記実施の形態2と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0064】
実施の形態3に係る腐食環境診断システム102によれば、上記実施の形態2に係る腐食環境診断システム101と同様の効果が得られ、さらに外部データベース6を備えることにより、環境測定装置1の劣化及び破損等により環境測定データに欠損及び異常が生じた場合でも、外部データベース6から取得した測定地域の気象地理情報を用いて診断を行うことが可能である。
【0065】
実施の形態4.
実施の形態4に係る腐食環境診断システムについて、図1を流用して説明する。実施の形態4に係る腐食環境診断システムは、腐食環境診断装置2において、環境測定装置1で取得された環境測定データに対し、対象の機器(ここでは室外機)の構成部材に含まれる金属種に応じた重み付けを行う。なお、実施の形態4に係る腐食環境診断システムのその他の構成及び機能については、上記実施の形態1-3に係る腐食環境診断システム100、101、102のいずれかと同様であるためここでは説明を省略する。
【0066】
実施の形態4に係る腐食環境診断システムは、室外機の構成部材に含まれる特定の金属種を診断対象とする。このような場合、当該金属の腐食因子の知見から、環境測定データに対して重み付けを行って腐食環境診断装置2に入力することができる。
【0067】
重み付け方法の例としては、例えば環境測定データとして、硫化水素(A)、塩素(B)、亜硫酸(C)、亜硝酸(D)、アンモニア(E)、海塩粒子(F)、融雪剤(G)、金属粉(H)のデータを取得した場合、それぞれの測定値に対する評点AからHを次の式1に代入する。
Score=aA+bB+cC+dD+eE+fF+gG+hH(式1)
【0068】
次に、金属種の特性によって予め決定された係数aからhを式1に代入する。当該金属の表面に保護膜が形成されている場合、もしくは当該金属の表面に上記物質が蓄積しにくい場合(例えば流水によって洗い流されやすい場合)等の腐食抑制効果がある場合には、係数aからhに表面係数φを掛ける。
【0069】
例えば室外機において、鉄鋼等の材料には全て有機塗膜による被覆が実施されており、腐食が懸念される金属材料がアルミニウム等の一部の材料だけである場合には、アルミニウムの腐食因子として既に知見のある塩化物イオン及び金属粉のデータに対して重み付けを行う。
【0070】
実施の形態4に係る腐食環境診断システムによれば、上記実施の形態1-3に係る腐食環境診断システム100、101、102と同様の効果が得られ、さらに室外機の構成部材に含まれる金属種に対応した重み付けを行うことで、より対象の室外機に特化した高精度な診断を行うことができる。
【0071】
本開示は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0072】
1 環境測定装置、2 腐食環境診断装置、3 診断結果出力装置、4 設置状況取得部、5 画像解析装置、6 外部データベース、11 温度センサ、12 湿度センサ、13 腐食ガスセンサ、14 飛来物センサ、15 腐食模擬サンプル、21 特徴抽出部、22 地域クラスタリング部、23 腐食進行度算出部、31 腐食リスクマップ出力部、32 表示部、33 腐食リスクマップ、100、101、102 腐食環境診断システム、201、301 受信装置、202 プロセッサ、203 記憶装置、302 処理回路、303 ディスプレイ
【要約】
腐食環境診断システム(100)は、屋外に設置される機器(例えば空調機用室外機)の設置環境に飛来する物質を検出する飛来物センサ(14)を備えることにより、機器が設置される地域の腐食特性を的確に把握することができ、屋外に設置される機器の設置環境の腐食リスクを高精度に診断することが可能である。また、機器が設置される地域の腐食区分を示した腐食リスクマップ(33)を出力するので、腐食区分に対応した機器のメンテナンスの設定及び防食設計を行うことが可能である。その際、類似腐食地域において過去に実施されたメンテナンスの設定または防食設計を参考にすることができるため、作業の効率化が図られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10