(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/737 20060101AFI20221219BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221219BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20221219BHJP
A61K 31/201 20060101ALI20221219BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20221219BHJP
A61K 31/525 20060101ALI20221219BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20221219BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221219BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20221219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K31/737
A61K9/08
A61K31/198
A61K31/201
A61K31/4172
A61K31/525
A61K31/706
A61P25/28
A61P37/02
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2022050641
(22)【出願日】2022-03-25
【審査請求日】2022-03-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520229552
【氏名又は名称】エリジオンサイエンス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】522408773
【氏名又は名称】坂井 万里
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】河原 清章
(72)【発明者】
【氏名】河原 和哉
(72)【発明者】
【氏名】坂井 万里
【審査官】薄井 慎矢
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109350653(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110338412(CN,A)
【文献】国際公開第2021/187396(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054795(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/054485(WO,A1)
【文献】特開2018-131418(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147385(WO,A1)
【文献】特開2018-002604(JP,A)
【文献】特開2007-197363(JP,A)
【文献】特開2018-203639(JP,A)
【文献】特開2018-121583(JP,A)
【文献】特表2021-532800(JP,A)
【文献】特開2011-084516(JP,A)
【文献】特開2021-113169(JP,A)
【文献】特開2017-002015(JP,A)
【文献】Nutrition & Metabolism,2018年,Vol.15,33 (page 1-12)
【文献】Nutrients,2021年,Vol.13,284 (page 1-10)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K A61P A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0~6.0質量%のコンドロイチン硫酸、
0.5~5.0質量%のオレイン酸、
0.5~4.0質量%のフラビンモノヌクレオチド、及び
0.5~4.0質量%のニコチンアミドモノヌクレオチドを含有する
、点滴用医薬組成物。
【請求項2】
アミノ酸を更に含有する、請求項
1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸は、バリン、ロイシン及びイソロイシンからなる群から選択される少なくとも1の分岐鎖アミノ酸である、請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
L-カルノシンを更に含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記コンドロイチン硫酸は、コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記コンドロイチン硫酸Cは、海洋生物の軟骨由来である、請求項
5に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物、特に、免疫の異常を正常化することができ、かつ/又は脳機能等を改善することができる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロファージは、白血球の一種であって、脳や肝臓等の種々の臓器で発現して遊走する貪食能を有する細胞である。このマクロファージは、T細胞から分泌される低分子のタンパク質であるサイトカインによって食作用が活性化され、体内に侵入した異物や体内で生成された変成物質を攻撃する。
【0003】
その一方で、タンパク質が過剰に発現すること等に起因して、マクロファージが過度に活性化されて過剰な炎症反応を生じる場合があり、関節炎やアレルギー等の種々の疾患を引き起こす場合があることも指摘されているところである。
【0004】
このような場合の対策として、特許文献1には、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)を含有することで、炎症性疾患の発生を抑制することを目的とした抗炎症剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者らは、マクロファージの活性化による作用に着目し、マクロファージの活性化作用を利用して、あるいはミトコンドリアの活性化作用を利用して、不妊症の改善等を目的とした調査研究を行っていたところ、例えば末期がん、アトピー、アレルギーあるいはウィルス感染の後遺症等といった免疫の異常に起因する疾患及び脳機能等に効能を有する成分の配合を見出した。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、免疫の異常に起因する疾患等に効能を有する医薬組成物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る医薬組成物は、コンドロイチン硫酸、不飽和脂肪酸、ビタミンB群、及びニコチンアミドモノヌクレオチドを含有し、免疫の異常を正常化するように調整するものである。
【0009】
すなわち、医薬組成物に含有される各成分が相互に作用することによって、特定の細胞の過度な活性化を抑制しつつ、細胞形質を制御することができる。特に、本発明の医薬組成物は、コンドロイチン硫酸及び不飽和脂肪酸という基本成分に対して、ビタミンBとニコチンアミドモノヌクレオチドとが組み合わされた結果として、免疫の異常を正常化し、また脳機能等の改善も可能とすることが分かった。
【0010】
さらに、抗動脈硬化作用、抗酸化作用あるいは抗炎症作用を伴いつつ、ヘモグロビンの合成やタンパク質及び核酸の生合成を促進する等といった生理的作用を奏する。
【0011】
しかも、細胞の増殖の制御、細胞の分化の制御、細胞死の誘導制御を行うとともに、生体防御や炎症等に関する細胞のように免疫の異常を引き起こす可能性のある細胞を制御することができる。
【0012】
したがって、免疫の異常を正常化するように細胞の形質を制御することによって、免疫を調整することができることから、例えばがん、アトピー、アレルギー、ウィルス感染の後遺症免疫の異常に起因する疾患等に効能を有する。
【0013】
特に、この組成物は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を含有することから、サーチュイン遺伝子の活性化によって、免疫の異常に起因する疾患にも有意な効果を奏することが期待できる。
【0014】
この組成物に含まれるビタミンBは、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12であってもよいし、ビタミンB2は、特にフラビンモノヌクレオチド(FMN)であることが好ましい。
【0015】
この組成物は、アミノ酸を更に含有するものであり、このアミノ酸は、バリン、ロイシン及びイソロイシンからなる群から選択される少なくとも1の分岐鎖アミノ酸であることが好ましい。
【0016】
組成物は、L-カルノシンを更に含有するものであってもよい。
【0017】
この組成物に含まれるコンドロイチン硫酸は、コンドロイチン硫酸A及びコンドロイチン硫酸Cであってもよいし、さらに、コンドロイチン硫酸Cは、海洋生物の軟骨由来であることが好ましい。
【0018】
一方、組成物に含まれる不飽和脂肪酸は、オレイン酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、免疫の異常に起因する疾患等に効能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態に係る組成物について説明する。
【0021】
組成物は、錠剤あるいはカプセル剤等の剤型を採って経口摂取されるものであってもよいし、対象となる部位に塗布されて使用されるものであってもよいし、注射用液あるいは輸液として体内に導入されるものであってもよいが、本実施の形態では、輸液として体内に導入されて使用されるものであることが特に好ましい。
【0022】
この組成物は、本実施の形態では、コンドロイチン硫酸、不飽和脂肪酸、ビタミンB、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を含有し、免疫の異常を正常化及び脳機能等の改善をするように調整するものである。本発明の組成物には、さらにビタミンD、分岐鎖アミノ酸、及び/又はカルノシンを含有してもよい。
【0023】
本発明において、免疫の異常とは、正常な免疫反応を逸脱して生じている反応のことを言う。したがって免疫の異常とは、過度に生じている免疫反応全般を指す。一例として、ウィルス感染時には、炎症反応が惹起される結果、発熱、疼痛、倦怠感などの症状が生じる。これらは、正常な免疫反応ではあるものの、長期間にわたって継続すると、患者の体力を消耗してしまう。特に倦怠感や疼痛は患者のQОLを損なうものであり、ウィルスに対する防御反応に寄与しないことから、免疫の異常と捉えることができる。本発明の免疫の異常を正常化するように調整する組成物は、倦怠感の減少又は活力亢進のために用いることができる
【0024】
この組成物が適用される免疫の異常に起因する疾患としては、本実施の形態では、例えば、末期がん、アトピー、アレルギーあるいはウィルス感染の後遺症等が挙げられ、特に、これまでは顕著な治療方法や治療薬が存在しなかったアトピーやアレルギーといった症状にも効能を有する。
【0025】
さらに、マクロファージが過度に活性化されることによって生じる疾患にも適用され、このような疾患としては、例えば、慢性リウマチ様関節炎、遅延型アレルギー、動脈硬化、子宮内膜症、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、急性心筋梗塞、糖尿病、感染症による敗血症等が挙げられる。
【0026】
この組成物に含有されるコンドロイチン硫酸は、硫酸化グリコサミノグリカンの一群として分類されるムコ多糖であって、動物(生物)の体内の結合組織や粘液等のあらゆる組織に広く分布する。コンドロイチン硫酸は、本発明の組成物に1.0~10.0%質量の量で配合されうる。コンドロイチン硫酸は、本発明の組成物に1.0質量%以上で配合されることが好ましく、2.2質量%以上で配合されることがより好ましい。また、コンドロイチン硫酸は、本発明の組成物に8.0質量%以下で配合されることが好ましく、6.0質量%以下又は5.0質量%以下で配合されることがより好ましい。
【0027】
このコンドロイチン硫酸は、タンパク質と共有結合したプロテオグリカンとして存在し、N-アセチルガラクトサミンの4位に硫酸が結合したコンドロイチン硫酸A、イズロン酸と4位に硫酸基が結合したN-アセチルガラクトサミンからなるコンドロイチン硫酸B、及びN-アセチルガラクトサミンの6位に硫酸が結合したコンドロイチン硫酸Cが存在する。
【0028】
コンドロイチン硫酸は、更にその他、2つの硫酸基が結合したコンドロイチン硫酸D及びコンドロイチン硫酸E等が存在する。
【0029】
本実施の形態では、コンドロイチン硫酸A及び海洋生物の軟骨に由来することが多いコンドロイチン硫酸Cが好適に用いられる。
【0030】
海洋生物の種類は、限定されるものではなく、魚類でも哺乳類でも軟体動物であってもよく、例えばクジラ、エイ、サメ、チョウザメ、サケあるいはイカ等であってもよいが、特に、サメの軟骨からその多くが抽出されるコンドロイチン硫酸Cは、定量的に測定可能な方法が確立されていることから、実用面で優れている。
【0031】
なお、海洋生物に限られるものではなく、陸上生物の軟骨が用いられるものであってもよい。陸上生物としては、例えば、哺乳類のウシ、ブタ等が挙げられる。
【0032】
このコンドロイチン硫酸は、細胞の接合、細胞の移動や分化あるいは増殖等といった細胞形質を制御する特性を有することから、例えば、サイトカインの産生によるマクロファージの過度な活性化を誘発することなく、がん細胞を死滅させる一酸化窒素を産生させることができる。
【0033】
不飽和脂肪酸は、1以上の不飽和の炭素結合を有する脂肪酸であって、天然由来の不飽和脂肪酸は、1以上の二重結合を有し、脂肪中の飽和脂肪酸と置換することによって、脂肪の特性に変化を付与するものである。不飽和脂肪酸は、本発明の組成物に0.5~5.0質量%の量で配合されうる。不飽和脂肪酸は、本発明の組成物に1.0質量%以上で配合されることが好ましく、1.5質量%以上で配合されることがより好ましい。また、不飽和脂肪酸は、本発明の組成物に質量5.0%以下で配合されることが好ましく、4.0質量%以下又は質量3.0%以下で配合されることがより好ましい。
【0034】
不飽和脂肪酸には、人体に必要な必須脂肪酸が含まれており、必須脂肪酸としては、リノール酸、リノレン酸及びアラキドン酸が挙げられ、これらは体内で合成できないことから、食物から摂取されることが必要である。
【0035】
さらに、不飽和脂肪酸としては、パルミトレイン酸及びオレイン酸等が挙げられる。
【0036】
リノール酸は、多くの植物油、特に半乾性油に含まれており、炭素数が18のジ不飽和脂肪酸であり、リノレン酸は、亜麻仁油等の乾性油に含まれており、炭素数が18のトリ不飽和脂肪酸であり、アラキドン酸は、動物の内臓脂肪(脳、肝、腎、肺及び脾)に含まれており、炭素数が20のテトラ不飽和脂肪酸である。
【0037】
一方、パルミトレイン酸は、タラ肝油、イワシ油あるいはニシン油等に含まれており、炭素数が16のモノ不飽和脂肪酸であり、オレイン酸は、炭素数が18のモノ不飽和脂肪酸である。
【0038】
本実施の形態の不飽和脂肪酸としては、オレイン酸が用いられることが最も好ましい。
【0039】
オレイン酸は、オリーブ、アボガド、ナッツ類等の種実、オリーブ油や紅花油やヒマワリ油等といった植物油に多く含まれている。本実施の形態では、植物油の中でもオリーブ油を由来とするものが用いられることが好ましく、特に、香りや成分等について任意の基準を満たしたオリーブ油(「エクストラ・バージン・オリーブオイル」などと称されるものを指す。)を由来とするものが用いられることが好ましい。
【0040】
このオレイン酸は、抗動脈硬化作用、抗酸化作用あるいは抗炎症作用を有することから、特に心疾患やがんの発症あるいは進行を抑制することが期待される。
【0041】
ビタミンBは、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸及びビオチンからなる群であって、本実施の形態では、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12が好適に選択される。ビタミンBは、本発明の組成物に0.1質量%~8.0質量%の量で配合されうる。0.5質量%以上で配合されることが好ましく、4.0質量%以上で配合されることがより好ましい。また、ビタミンBは、本発明の組成物に6.0質量%以下で配合されることが好ましく、4.0質量%以下又は2.0質量%以下で配合されることがより好ましい。
【0042】
ビタミンB2は、水溶性のビタミンであって、主に皮膚や粘膜の機能を保持するものであり、体内に摂取されるとフラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)に変換されるが、体内では主にフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)として存在する。
【0043】
フラビンモノヌクレオチド(FMN)は、NADHデヒドロゲナーゼを含む酸化還元酵素の補欠分子族であって、リボフラビンキナーゼによってビタミンB2(リボフラビン)から合成される化合物である。本実施の形態では、フラビンモノヌクレオチド(FMN)が好適に選択される。
【0044】
フラビンモノヌクレオチド(FMN)は、脳の活性化を促進するとともに、神経系の疾患に有効に作用すると考えられていることから、体内に摂取されるビタミンB2が主にフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)に変換されて存在する点を考慮すれば、フラビンモノヌクレオチド(FMN)として外部から補われることが好ましい。
【0045】
ビタミンB6の活性を有する化合物としては、ピリドキサール、ピリドキシン及びピリドキサミンが挙げられる。このようなビタミンB6は、多数のアミノ酸を補助する補酵素として機能し、免疫の機能の正常化、皮膚の抵抗力の増進、赤血球のヘモグロビンの合成、あるいは神経伝達物質の合成等の生理的作用を奏する。
【0046】
一方、ビタミンB12の活性を有する化合物としては、アデノシルコバラミン、メチルコバラミン、ヒドロキシコバラミン及びシアノコバラミンが挙げられる。このようなビタミンB12は、タンパク質や核酸の生合成、あるいはアミノ酸や脂肪酸の代謝を補助する補酵素として機能し、赤血球を生成あるいは成熟化させる。
【0047】
ビタミンDは、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)及びビタミンD3(コレカルシフェロール)の総称であって、脂溶性ビタミンに分類される必須栄養素の一種である。ビタミンDは、本発明の組成物に0.1質量%~5.0質量%の量で配合されうる。ビタミンDは、本発明の組成物に0.5質量%以上で配合されることが好ましく、1.0質量%以上で配合されることがより好ましい。また、ビタミンDは、本発明の組成物に4.0質量%以下で配合されることが好ましく、2.0質量%以下で配合されることがより好ましい。
【0048】
このビタミンDは、紫外線によって体内で生成される一方、ビタミンD2は植物、特にビタミンD2の前駆体であるプロビタミンD2はシイタケに多く含有され、ビタミンD3は、魚類の肝臓に多く含有されることから、これらを摂取することによっても体内に取り込まれる。
【0049】
ビタミンDは、骨の形成や血液のカルシウム濃度の調整を行うといった生理的作用を奏するとともに、体内のほぼ全ての組織でビタミンDの発現が観察されていることから、細胞の増殖の制御、細胞の分化の制御あるいは細胞死の誘導制御といった生理的作用を奏する。
【0050】
さらに、ビタミンDは、生体防御や炎症等に関する細胞、例えば単球、マクロファージ、抗原提示細胞、活性化T細胞等での発現も観察されていることから、免疫の異常を引き起こす可能性のある細胞を制御するという生理的作用を奏する。
【0051】
ところで、抗老化の研究において、抗老化・長寿遺伝子としてサーチュイン遺伝子が注目されているところ、本発明者らは、ニコチンアミドモノヌクレオチドは、免疫の異常に起因する疾患にも効能を有するサーチュイン遺伝子であることを見出した。
【0052】
ニコチンアミドモノヌクレオチドは、生体内に自然に存在し老化を抑制するサーチュイン遺伝子を活性化する働きをするニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の前駆体であり、加齢に伴い減少するとともに直接外部から補うことが困難とされるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を実質的に補うことができる抗老化物質として、近年、高い注目を集めている。
【0053】
このニコチンアミドモノヌクレオチドは、枝豆、ブロッコリー、アボカドなどの野菜やフルーツ等の食品から摂取できるが、もともと食品中の含有量がさほど多くはなく、加齢とともに体内でニコチンアミドモノヌクレオチドを合成する能力が衰えることから、外部から補うことが有効であると考えられている。
【0054】
このニコチンアミドモノヌクレオチドが本実施の形態の組成物に含有される含有量は、特に制限されることなく、適宜設定される。一例として、ニコチンアミドモノヌクレオチドは、本発明の組成物に0.1質量%~5.0質量%の量で配合されうる。ニコチンアミドモノヌクレオチドは、本発明の組成物に0.5質量%以上で配合されることが好ましく、1.0質量%以上で配合されることがより好ましい。また、ニコチンアミドモノヌクレオチドは、本発明の組成物に4.0質量%以下で配合されることが好ましく、2.0質量%以下で配合されることがより好ましい。
【0055】
ニコチンアミドモノヌクレオチドを、本実施の形態の組成物の有効成分とした場合、サーチュイン遺伝子が活性化されることにより、加齢に伴って損傷したDNAを修復する、各種の器官におけるミトコンドリアの機能を改善してエネルギー代謝を調整する、細胞分裂を調整する等の機能が発揮されることから、免疫の異常に起因する疾患にも有意な効果を奏することが期待できる。
【0056】
アミノ酸は、アミノ酸の側鎖に分岐構造を有する遊離のアミノ酸であって、バリン、ロイシン及びイソロイシンからなる群から選択される少なくとも1の分岐鎖アミノ酸である。本実施の形態では、バリン、ロイシン及びイソロイシンの全てを含むことが好ましい。本実施の形態の組成物に分岐鎖アミノ酸が含有されることによって、筋肉の分解が抑制されて筋肉量の増加が促進される。特に、ロイシンは、体内でのタンパク質の合成を促進する作用を有することから、好適なアミノ酸の分解が促される。
【0057】
この分岐鎖アミノ酸は、ヒトについての必須アミノ酸とされているが、体内で合成することができないことから、外部から補うことが有効であると考えられている。
【0058】
この分岐鎖アミノ酸が本実施の形態の組成物に含有される含有量は、特に制限されることなく適宜設定されるし、バリン、ロイシン及びイソロイシンの全てが含まれる場合のそれぞれの含有比も特に制限されることはないが、本実施の形態では、バリン:ロイシン:イソロイシンで1:2:1の含有比とされることが好ましい。
【0059】
カルノシンは、β-アラニンとヒスチジンとからなるジペプチドであり、ヒスチジンの立体構造によってL体とD体とが存在するところ、天然由来のカルノシンはL-カルノシンであり、本実施の形態では、L-カルノシン(以下、単に「カルノシン」という。)が好適に用いられる。
【0060】
本発明の組成物において、コンドロイチン硫酸と不飽和脂肪酸は、4.0:1.0~1.5:1.0の質量比で配合することができる。コンドロイチン硫酸とビタミンBは8.0:1.0~3.0:1.0の質量比で配合することができる。コンドロイチン硫酸とビタミンDは8.0:1.0~3.0:1.0の質量比で配合することができる。コンドロイチン硫酸とニコチンアミドモノヌクレオチドは8.0:1.0~3.0:1.0の質量比で配合することができる。不飽和脂肪酸とビタミンBは5.0:1.0~2.0:1.0の質量比で配合することができる。不飽和脂肪酸とビタミンDは5.0:1.0~2.0:1.0の質量比で配合することができる。不飽和脂肪酸とニコチンアミドモノヌクレオチドは5.0:1.0~2.0:1.0の質量比で配合することができる。ビタミンBとビタミンDは2.0:1.0~0.5:1.0の質量比で配合することができる。ビタミンBとニコチンアミドモノヌクレオチドは2.0:1.0~0.5:1.0の質量比で配合することができる。ビタミンDとニコチンアミドモノヌクレオチドは2.0:1.0~0.5:1.0の質量比で配合することができる。
【0061】
本実施の形態の組成物にカルノシンが含有されることによって、皮膚代謝の促進、自律神経の調整作用、ストレスの緩和、学習機能の向上及び抗不安等の作用をさらに奏することが期待される。
【0062】
このように、組成物は、コンドロイチン硫酸、不飽和脂肪酸、ビタミンB(フラビンモノヌクレオチド、ビタミンB6及びビタミンB12)、随意のビタミンD、ニコチンアミドモノヌクレオチド、随意の分岐鎖アミノ酸及び随意のカルノシンを含有することから、これらの成分が相互に作用することによって、マクロファージのような任意の細胞の過度な活性化を抑制しつつ、細胞形質を制御することができる。
【0063】
さらに、抗動脈硬化作用、抗酸化作用あるいは抗炎症作用を伴いつつ、ヘモグロビンの合成やタンパク質及び核酸の生合成を促進する等といった生理的作用を奏する。
【0064】
しかも、細胞の増殖の制御、細胞の分化の制御、細胞死の誘導制御を行うとともに、生体防御や炎症等に関する細胞のように免疫の異常を引き起こす可能性のある細胞を制御することができる。
【0065】
したがって、免疫の異常を正常化するように細胞の形質を制御することによって、免疫を調整することができることから、免疫の異常に起因する疾患、例えばがん、アトピー、アレルギー、ウィルス感染の後遺症、慢性リウマチ様関節炎、遅延型アレルギー、動脈硬化、子宮内膜症、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、急性心筋梗塞、糖尿病、感染症による敗血症等に効能を有する。
【0066】
具体的には、例えば末期がんであれば、がんの進行を遅延させて延命を図ることができ、アトピーやアレルギーを予防する一方でアトピーやアレルギーの治癒を促進し、ウィルス感染の後遺症の緩和等を図ることができる。
【0067】
特に、本実施の形態の組成物は、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含有することから、サーチュイン遺伝子の活性化によって、免疫の異常に起因する疾患にも有意な効果を奏することが期待できる。
【0068】
本発明の組成物は、点滴用組成物であってもよく、その場合、周知の輸液をさらに含むことができる。また、本発明の組成物は、注射用組成物であってもよく、錠剤、カプセル剤等の剤型を採って経口摂取されるものであってもよく、投与形態に応じて周知の液体又は固体の媒体をさらに含むことができる。
【実施例】
【0069】
次に、実施例によって本発明を説明する。
【0070】
5質量%のコンドロイチン硫酸、3質量%のオレイン酸、1質量%のフラビンモノヌクレオチド、1質量%のビタミンD、1質量%のニコチンアミドモノヌクレオチド及び残部として点滴用輸液を含有する実施例1の組成物を、30代から40代を中心とした13人の被験者(男性6人、女性7人)に使用し、使用後の被験者の身体に及ぼされた作用を評価する試験を実施した。
【0071】
本実施例の試験では、組成物は輸液の剤型が用いられ、被験者に輸液として生理食塩水を含む組成物を点滴により投与する手法が採用された。
【0072】
被験者はいずれも、軽度あるいは中程度の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に感染した者であり、本実施例の試験は、上記の組成物が感染症に対して及ぼす作用について評価をすることを目的として実施した。
【0073】
被験者は、味覚の喪失、嗅覚の喪失、発熱及び倦怠感等といった新型コロナウィルス感染症の典型的な症状を発現しており、組成物の投与の前後でこれらの症状の変化を評価したところ、組成物の投与をした直後から、全ての被験者において、倦怠感が減退するとともに活力が向上するといった傾向が認められた。
【0074】
その一方で、一部の被験者には発熱の症状が認められたものの、この発熱は、ニコチンアミドモノヌクレオチドの作用による一時的な症状であると考えられる。
【0075】
組成物の投与による倦怠感の減退及び活力の向上といった傾向は、3日間に亘って持続したものの、その後、再度、倦怠感が生じるといった症状が認められた。すなわち、現時点では、組成物の投与による作用の持続性は3日間程度であると考えられるが、組成物の3日後の再投与を繰り返すことによって、漸次、作用の持続性が向上(長期化)するものと考えられる。
【0076】
なお、本実施例の試験では、輸液としての組成物を点滴によって投与する手法が採用されたものであるが、注射用液として投与するものであってもよいし、錠剤あるいはカプセル剤等の剤型を採って経口摂取されるものであってもよく、これらの手法によっても本実施例の手法と同様の評価がなされることが想定される。
【0077】
また、参考例1として、ビタミンBを含有しないこと以外は実施例1の組成物と同一の組成物を調整した。そして、実施例1及び参考例1の組成物を用いて様々な症例を有する患者に投与したところ、以下のような結果が得られた。
【0078】
脳脊髄液減少症の難病の60代男性に対して、実施例1の組成物を点滴にて月1回投与した結果、2回目以降からは靴を履くとき自力で立ち上がれなかったのが、自力で立ち上がれるようになった。また、精神的にも気難しい性質が穏やかになり、脳の機能改善が示唆された。この効果は、参考例1の組成物の長期投与ではでは得られなかったが、実施例1の組成物に切り替えた後に得られた。
【0079】
男性機能が老化で衰えて、尿漏れ及び残尿感の症状があった60代男性に対して、実施例1の組成物について月2回の点滴を行ったところ、2回目以降、症状が劇的に改善し、男性機能も正常に元気になった。また、慢性的な肩こり、慢性疲労症候群が改善された。同様の症状を有する10名の患者に対して、同様の処置を行ったところ同様の効果が得られた。また、精子が濃くなった、性欲が向上したという患者もいた。また、62歳の女性に対して同様の処置を行ったところ、膣の乾燥状態から分泌液が増えて膣が潤って体調が良くなった、との報告が得られ、さらに目尻の深いシワが4回目から消えた。
【0080】
不妊治療中の30代女性3人に対して、実施例1の組成物の月1回の点滴を継続して行ったところ、2名が2か月目に妊娠をし、1名が5か月後に妊娠をした。
【0081】
新型コロナウィルス感染症の後遺症による手足のしびれ、めまい、動悸、及び全身倦怠感を有する40代女性に対して、上記の組成物の点滴を行ったところ、1回の投与で翌日に症状が改善された。
【0082】
重症の歯周病患者である30代、40代、及び50代の女性各2名ずつに対して、実施例1の組成物の月1回の点滴を継続して行ったところ、2回目で、歯肉の腫れ、出血が3+から2+へ改善された。
【0083】
ニキビが顔全体に多数ある30歳女性に対して、実施例1の組成物の点滴を1回行ったところ、1か月後にニキビが4分の1程度に減少し、ニキビの炎症及び色素沈着も改善され、肌が白く保湿された。
【0084】
実施例1の組成物の月1回の点滴を継続して行っていた20代男女、30代女性、40代女性、及び60代男女は、新型コロナウィルス感染症の濃厚接触者になっても、本人は陰性で新型コロナウィルス感染症にはならず、免疫力の強化が示唆された。
【0085】
実施例1の組成物の月1回の点滴を半年間継続して行った50代女性は、鬱症状が5+から3+に改善され、外出する気分になったとの報告が得られた。これにより、自律神経の改善及び脳の機能改善が示唆された。
【0086】
実施例1の組成物の月2回の点滴を半年間継続して行った60代男性は、白髪が4分の1程度に減少、髪の毛が張りが出て黒くなった。また、40代女性に同様の処置を1年間行ったところ、白髪が半分程度に減少し、肌の張り、シワが3+から1+へ改善された。
【0087】
実施例1の組成物の月2回の点滴を8か月間継続して行った60代男性は、食物アレルギーが改善され、山芋アレルギーがなくなった。
【0088】
このように、本実施例によれば、上記実施の形態で特定された組成物を使用することによって、被験者の免疫の異常を正常化するように調整することができた。その結果、組成物を投与した直後には、全ての被験者において、倦怠感が減退するとともに活力が向上するという、顕著な効果が認められた。
【要約】
【課題】 免疫の異常に起因する疾患等に効能を有する医薬組成物を提供する。
【解決手段】 本発明の医薬組成物は、コンドロイチン硫酸、不飽和脂肪酸、ビタミンB、及びニコチンアミドモノヌクレオチドを含有し、免疫の異常を正常化するように調整することができる。好ましくは、前記前記ビタミンBは、ビタミンB2、ビタミンB6及びビタミンB12であり、さらに好ましくは、前記ビタミンB2は、フラビンモノヌクレオチドである。また、本発明の組成物は、アミノ酸を更に含有することが好ましい。さらに好ましくは、前記アミノ酸は、バリン、ロイシン及びイソロイシンからなる群から選択される少なくとも1の分岐鎖アミノ酸である。
【選択図】 なし