(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】スラグを利用した硬化体及び硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/08 20060101AFI20221219BHJP
C04B 7/17 20060101ALI20221219BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20221219BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B7/17
C04B18/14 F
C04B22/06 Z
(21)【出願番号】P 2022549245
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2022020890
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021090038
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】永田 風彦
(72)【発明者】
【氏名】田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/065215(WO,A1)
【文献】特開2020-196636(JP,A)
【文献】特開2013-6743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B5/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離MgOを含有するスラグを利用した硬化体であって、
前記硬化体において、遊離MgOを含有するスラグの単位量が2720kg/m
3以下、単位高炉スラグ微粉末量が250kg/m
3以上800kg/m
3以下、単位消石灰量が12kg/m
3以上160kg/m
3以下、単位ホウ素含有物質量がB
2O
3換算で0.5kg/m
3以上4.0kg/m
3以下であることを特徴とする、スラグを利用した硬化体。
【請求項2】
遊離MgOを含有するスラグを材料として利用した硬化体の製造方法であって、
遊離MgOを含有するスラグの単位量を2720kg/m
3以下、単位高炉スラグ微粉末量を250kg/m
3以上800kg/m
3以下、単位消石灰量を12kg/m
3以上160kg/m
3以下、単位ホウ素含有物質量をB
2O
3換算で0.5kg/m
3以上4.0kg/m
3以下として混合物を形成し、
形成した混合物に水を加えて混練し、その後、混練した混合物を固化させることを特徴とする、スラグを利用した硬化体の製造方法。
【請求項3】
遊離MgOを含有するスラグを材料として利用した硬化体の製造方法であって、
遊離MgOを含有するスラグをホウ素含有物質が溶解した溶液に浸漬させる、または、遊離MgOを含有するスラグにホウ素含有物質が溶解した溶液を吹き付けて、遊離MgOを含有するスラグの表面にB
2O
3換算で0.10質量%以上のホウ素含有物質を予め付着させ、
予めホウ素含有物質を付着させた、前記遊離MgOを含有するスラグの単位量を2720kg/m
3以下、且つ、当該スラグの表面に付着したホウ素含有物質の単位量をB
2O
3換算で0.5kg/m
3以上4.0kg/m
3以下、単位高炉スラグ微粉末量を250kg/m
3以上800kg/m
3以下、単位消石灰量を12kg/m
3以上160kg/m
3以下として混合物を形成し、
形成した混合物に水を加えて混練し、その後、混練した混合物を固化させることを特徴とする、スラグを利用した硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグなどの遊離MgOを含有するスラグを材料として利用して製造される硬化体及びこの硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工程では、耐火物に含まれるMgOが精錬中にスラグに溶解して、耐火物が溶損することを防ぐために、スラグに飽和溶解度以上のMgOを添加する操業が行われることがある。このような精錬で発生するスラグ中には、精錬中に未反応のまま残留したMgO、及び、スラグが冷却される過程で晶出したMgOが存在する。このような未反応のMgO及び晶出したMgOを遊離MgOという。
【0003】
製鋼スラグを活用する試みとして、例えば、特許文献1に開示されているような、製鋼スラグを利用した水和硬化体がある。特許文献1に記載の水和硬化体は、水和反応を生ずる未反応のCaOを含有した製鋼スラグを含有する骨材と、潜在水硬性を有するシリカ含有物質を50重量%以上含有した、水和反応によって硬化する結合材と、を有しており、水を加えて混練した後に硬化されている。
【0004】
しかし、遊離MgOを含む製鋼スラグは、長期にわたって遊離MgOの水和反応が進行し、膨張する性質があるため、硬化体の膨張ひび割れの懸念があり、水和硬化体の材料としての活用は困難である。ここで、遊離MgOの水和反応とは、製鋼スラグ中の遊離MgOが雨水や海水などの水分と接触してMg(OH)2を生成する反応(MgO+H2O→Mg(OH)2)であり、この反応によって体積が膨張する。
【0005】
耐火物の分野では、例えば、特許文献2に開示されているような、耐火物表面にホウ酸などの結晶被膜を形成するMgOの水和抑制技術が周知である。特許文献2には、塩基性耐火煉瓦の表面に硫酸塩、ホウ酸、ホウ酸塩の中の1種または2種以上の結晶被膜を形成する塩基性耐火煉瓦の消化防止方法において、塩基性耐火煉瓦を、水の重量をa(g)、飽和溶解度をb(g)、溶質の重量をc(g)とした場合、100c/(a×b)によって示される式の値が0.2以上1.0以下の値を有する水溶液に含浸するか、もしくは、塩基性耐火煉瓦に上記水溶液を塗布したのち、この水溶液を乾燥させてなる、塩基性耐火煉瓦の消化防止方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3582263号公報
【文献】特開平8-169783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来技術に基づき、遊離MgOを含む製鋼スラグを骨材とし、高炉スラグ微粉末、及び、アルカリ刺激材として普通ポルトランドセメントを用い、遊離MgOの水和膨張を抑えるためにB2O3を含有させた硬化体を試作したところ、B2O3の凝結遅延効果によって翌日に脱枠できず、また、3日圧縮強度は3N/mm2未満であり、硬化体としての使用に耐えられるものではなかった。更に、遊離MgOの水和膨張は抑制されず、硬化体にひび割れが生じた。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、製鋼スラグなどの遊離MgOを含有するスラグを利用した硬化体であって、遊離MgOによる水和反応による体積膨張を抑えた上で、早期に強度が増大する、スラグを利用した硬化体を提供することであり、また、この硬化体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1]遊離MgOを含有するスラグを利用した硬化体であって、前記硬化体において、遊離MgOを含有するスラグの単位量が2720kg/m3以下、単位高炉スラグ微粉末量が250kg/m3以上800kg/m3以下、単位消石灰量が12kg/m3以上160kg/m3以下、単位ホウ素含有物質量がB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下であることを特徴とする、スラグを利用した硬化体。
【0011】
[2]遊離MgOを含有するスラグを材料として利用した硬化体の製造方法であって、遊離MgOを含有するスラグの単位量を2720kg/m3以下、単位高炉スラグ微粉末量を250kg/m3以上800kg/m3以下、単位消石灰量を12kg/m3以上160kg/m3以下、単位ホウ素含有物質量をB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下として混合物を形成し、形成した混合物に水を加えて混練し、その後、混練した混合物を固化させることを特徴とする、スラグを利用した硬化体の製造方法。
【0012】
[3]遊離MgOを含有するスラグを材料として利用した硬化体の製造方法であって、遊離MgOを含有するスラグをホウ素含有物質が溶解した溶液に浸漬させる、または、遊離MgOを含有するスラグにホウ素含有物質が溶解した溶液を吹き付けて、遊離MgOを含有するスラグの表面にB2O3換算で0.10質量%以上のホウ素含有物質を予め付着させ、予めホウ素含有物質を付着させた、前記遊離MgOを含有するスラグの単位量を2720kg/m3以下、且つ、当該スラグの表面に付着したホウ素含有物質の単位量をB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下、単位高炉スラグ微粉末量を250kg/m3以上800kg/m3以下、単位消石灰量を12kg/m3以上160kg/m3以下として混合物を形成し、形成した混合物に水を加えて混練し、その後、混練した混合物を固化させることを特徴とする、スラグを利用した硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スラグを利用して硬化体を製造する際に、製鋼スラグなどの遊離MgOを含有するスラグを材料として使用した場合であっても、遊離MgOによる水和膨張に起因する膨張ひび割れが発生せず、且つ、人工石としての利用に十分な強度を早期に発現可能な硬化体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態の一例を説明する。
【0015】
本実施形態に係る、スラグを利用した硬化体(以下、「スラグ硬化体」とも記す)は、遊離MgOを含有するスラグを材料として含む混合物に水が加えられて混練され、その後、混練された混合物が固化することで製造される硬化体である。当該硬化体において、遊離MgOを含有するスラグの単位量が2720kg/m3以下、単位高炉スラグ微粉末量が250kg/m3以上800kg/m3以下、単位消石灰量が12kg/m3以上160kg/m3以下、単位ホウ素含有物質量がB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下である。この場合に、必要に応じて遊離MgOを含有しないスラグや天然骨材を材料として用いることができる。遊離MgOを含有しないスラグとは、X線回折でペリクレースのピークが確認されないスラグである。天然骨材とは、例えば、「砂利や砂」である。
【0016】
本実施形態に係るスラグ硬化体の特徴は、硬化体1m3あたりB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下のホウ素含有物質を含有することである。ホウ素含有物質を、遊離MgOを含有するスラグに添加することで、スラグ中の遊離MgOの表面に硼酸または硼酸塩の結晶被膜が形成される。この結晶被膜により、遊離MgOの表面と、空気中などの雰囲気中の水分との接触が遮断される。つまり、硼酸または硼酸塩の結晶被膜が水分吸着防止材として機能し、遊離MgOの水和が抑制され、遊離MgOによる水和膨張に起因する、スラグ硬化体の膨張ひび割れが防止される。
【0017】
本実施形態に係るスラグ硬化体では、遊離MgOの水和膨張を抑制するための単位ホウ素含有物質量を、B2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下とする。これは、単位ホウ素含有物質量が、B2O3換算で0.5kg/m3未満では水和膨張抑制効果が小さく、一方、B2O3換算で4.0kg/m3より大きいと、硬化体が固化しないことを、本発明者らが見出したからである。
【0018】
ホウ素含有物質としては、ホウ素が水に溶解するものであればよく、特に限定しないが、例えば、酸性酸化物である三酸化二ホウ素(B2O3)やホウ酸(H3BO3)、ホウ砂(Na2B4O5(OH)4・8H2O)などの酸化ホウ素及びホウ素化合物を使用することができる。
【0019】
本実施形態に係るスラグ硬化体の特徴の他の一つは、アルカリ刺激材として消石灰(Ca(OH)2)を用いることである。消石灰を用いる理由は、(1)ホウ素含有物質によって形成される遊離MgOの表面の硼酸または硼酸塩の結晶被膜を破壊せず、スラグ硬化体中の遊離MgOの膨張を抑制できること、(2)高炉スラグ微粉末の潜在水硬性の発現に必要なアルカリを供給できること、(3)普通ポルトランドセメントと比較して早期に強度が発現することによる。
【0020】
ホウ素含有物質を添加したスラグ硬化体においては、遊離MgOの表面にホウ酸マグネシウムによる結晶被膜が形成されると考えられる。
【0021】
一般的にスラグ硬化体に用いられる結合材である高炉スラグ微粉末と普通ポルトランドセメントとの組み合わせでは、普通ポルトランドセメントのpH(水素イオン濃度指数)が約12.7と高いことから、ホウ酸マグネシウムの結晶被膜が溶解し、遊離MgOの膨張抑制効果が小さくなる。一方で、高炉スラグ微粉末の潜在水硬性の発現にはアルカリの供給が必要である。つまり、アルカリ刺激材には、ホウ酸マグネシウムによる結晶被膜を破壊せず、且つ高炉スラグ微粉末の潜在水硬性発現に必要なアルカリを供給できることが要求される。
【0022】
このため、本実施形態に係るスラグ硬化体では、飽和水溶液のpHが12.4とポルトランドセメントのpHよりも低く、一方で、高炉スラグ微粉末にアルカリ刺激を供給できる消石灰をアルカリ刺激材として使用する。また、アルカリ刺激材として消石灰を用いた場合、普通ポルトランドセメントを用いた場合よりも早期に強度が発現する。この点からも、アルカリ刺激材として消石灰を使用することが適しているといえる。
【0023】
本実施形態に係るスラグ硬化体では、スラグ硬化体中の消石灰を、スラグ硬化体1m3あたり12kg/m3以上160kg/m3以下とする。これは、単位消石灰量が12kg/m3未満では、硬化体中の水、高炉スラグ微粉末、消石灰の体積割合であるペースト率が不足するために硬化体が固化しなくなるからである。一方、消石灰を160kg/m3より多く配合しても、硬化体中のペースト率が高くなりすぎ、強度は向上しない。したがって、単位消石灰量は160kg/m3以下とする。
【0024】
本実施形態に係るスラグ硬化体では、高炉スラグ微粉末をスラグ硬化体1m3あたり250kg/m3以上800kg/m3以下配合する。これは、単位高炉スラグ微粉末量を、この範囲に限定することによって、消石灰から供給されるアルカリイオンの量と、潜在水硬性を有する高炉スラグ微粉末中の反応性SiO2の量との量的バランスが適正となり、十分な強度を持つ硬化体が得られるためである。
【0025】
本実施形態に係るスラグ硬化体を製造する際に使用する高炉スラグ微粉末は、高炉水砕スラグを粉砕したものである。高炉スラグ微粉末は、その粒径が約0.1mm以下で、ブレーン法による比表面積が約3000cm2/g以上のものが好ましい。また、ブレーン法による比表面積が4000cm2/g以上の高炉スラグ微粉末を用いると、活性がより高くなり、より一層好ましい。
【0026】
本実施形態に係るスラグ硬化体を製造する際に使用する、遊離MgOを含有するスラグとは、X線回折でペリクレースのピークが確認されるスラグのことである。このようなスラグとしては、特に、高クロム溶融鉄合金を溶製する際に発生するスラグを用いることが好ましい。ここで、高クロム溶融鉄合金とは、クロム含有溶銑や、ステンレス鋼に代表される高クロム溶鋼(通常、クロム含有量5質量%以上)、及び、この高クロム溶鋼を製造するためのクロム含有母溶湯(例えば、電気炉などで溶製される、クロム濃度が5質量%以上、炭素濃度が1質量%以上2質量%以下の溶融鉄合金)などが挙げられる。
【0027】
クロム含有溶銑は、通常、電気炉や鉄浴式溶融還元炉、シャフト炉式の溶融還元炉などにおいて、クロム鉱石の溶融還元によって溶製される。高クロム溶鋼は、電気炉、転炉、AOD炉などの一次精錬炉と、VOD炉、RH真空脱ガス装置、取鍋精錬炉などの二次精錬炉とを経て溶製される。また、高クロム溶鋼を製造するためのクロム含有母溶湯は、主として電気炉や転炉で溶製される。
【0028】
これらの製錬炉及精錬炉のうち、クロム鉱石を溶融還元する溶融還元炉では、炉体耐火物の保護のために、スラグの飽和溶解度以上にMgOをスラグに添加する操業が行われているので、発生するスラグ(クロム製錬スラグ)には遊離MgOが含まれている。このようなスラグは本実施形態に係るスラグ硬化体を製造する際に好適である。
【0029】
転炉にて上吹きランスなどから炉内の溶銑に純酸素を供給し、通常溶銑の脱炭精錬を行う際に発生するスラグ(「転炉脱炭スラグ」という)も、遊離MgOの含有量はクロム製錬スラグに比較して低いものの、本実施形態に係るスラグ硬化体を製造する際に、遊離MgOを含有するスラグとして使用することができる。
【0030】
ところで、スラグ硬化体は、高炉スラグ微粉末、消石灰、水からなるペースト分が、スラグなどの骨材の間隙を埋め、接着することで強度が発現する。本実施形態に係るスラグ硬化体では、遊離MgOを含有するスラグの単位量を2720kg/m3以下に規定する。これは、遊離MgOを含有するスラグの単位量が2720kg/m3を超えると、硬化体中の単位高炉スラグ微粉末量、単位消石灰量、単位水量が少なくなるため、骨材の接着力が低下し、硬化体の強度が低くなるからである。
【0031】
一方、本実施形態に係るスラグ硬化体では、遊離MgOを含有するスラグの単位量の下限値を規定していない。これは、遊離MgOを含有するスラグは、スラグ硬化体において骨材として機能しているが、必要に応じて、遊離MgOを含有しないスラグや天然骨材も材料として用いることができるので、技術的に遊離MgOを含有するスラグの単位量の下限値を規定する必要がないからである。しかしながら、あまりにも少ないスラグの単位量では、スラグの有効活用が促進されないことから、遊離MgOを含有するスラグの単位量はスラグ硬化体1m3あたり300kg/m3以上とすることが好ましい。これにより、遊離MgOを含有するスラグを有効活用できる。
【0032】
また、本実施形態に係るスラグ硬化体では、高性能減水剤を使用することが好ましい。スラグ硬化体を製造する際に、混練時の水分添加量を少なくすることで、スラグ硬化体の強度を上昇させることができる。しかし、混練時の水分添加量を少なくすると、材料を分散できなくなる。高性能減水剤は、水分添加量を少なくしつつ材料を分散させるために用いるものである。高性能減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系の高性能減水剤を利用することができる。一般的に、高性能減水剤の使用量は、単位高炉スラグ微粉末量と単位消石灰量との合計の0.3質量%以上1.5質量%以下が好ましい。
【0033】
次いで、本実施形態に係るスラグ硬化体の製造方法について説明する。本実施形態に係るスラグ硬化体の製造方法には、2つの製造方法がある。
【0034】
スラグ硬化体の製造方法の1つは、遊離MgOを含有するスラグの単位量を2720kg/m3以下、単位高炉スラグ微粉末量を250kg/m3以上800kg/m3以下、単位消石灰量を12kg/m3以上160kg/m3以下、単位ホウ素含有物質量をB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下として混合物を形成し、形成した混合物に水を加えて混練し、その後、混練した混合物を固化させる方法である。
【0035】
この場合に、必要に応じて遊離MgOを含有しないスラグや天然骨材を材料として用いることができる。また、適宜の量の高性能減水剤を使用することができる。
【0036】
スラグ硬化体の製造方法の他の1つは、遊離MgOを含有するスラグをホウ素含有物質が溶解した溶液に浸漬させる。または、遊離MgOを含有するスラグにホウ素含有物質が溶解した霧状の溶液を吹き付けて、遊離MgOを含有するスラグの表面にB2O3換算で0.10質量%以上のホウ素含有物質を予め付着させる。次いで、予めホウ素含有物質を付着させた、遊離MgOを含有するスラグの単位量を2720kg/m3以下、且つ、当該スラグの表面に付着したホウ素含有物質の単位量をB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下、単位高炉スラグ微粉末量を250kg/m3以上800kg/m3以下、単位消石灰量を12kg/m3以上160kg/m3以下として混合物を形成する。こうして形成した混合物に水を加えて混練し、その後、混練した混合物を固化させる方法である。遊離MgOを含有するスラグの表面にB2O3換算で0.10質量%以上のホウ素含有物質を予め付着させる理由は、ホウ素含有物質の含有量がB2O3換算で0.10質量%未満では、水和膨張抑制効果が不十分であるからである。
【0037】
この場合に、必要に応じて遊離MgOを含有しないスラグや天然骨材を材料として用いることができる。また、適宜の量の高性能減水剤を使用することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、スラグ硬化体を製造する際に、製鋼スラグなどの遊離MgOを含有するスラグを材料として使用した場合であっても、遊離MgOによる水和膨張に起因する膨張ひび割れが発生せず、且つ、人工石としての利用に十分な強度を早期に発現可能な硬化体が得られる。
【実施例1】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、表1に示す組成の3種類のスラグ(スラグA~C)を用いて、スラグ硬化体を作製した。尚、表1において、「CaO/SiO2」は、スラグ中のSiO2濃度(質量%)に対するCaO濃度(質量%)の比(「塩基度」という)を表し、「MgO」及び「遊離MgO」は、スラグ中のMgO濃度(質量%)及び遊離MgO濃度(質量%)をそれぞれ表す。
【0040】
【表1】
表1に示すスラグに、高炉スラグ微粉末、消石灰、天然骨材(粗骨材)、ホウ素含有物質、高性能減水剤及び水を、それぞれ本発明の範囲内の単位量で配合し、硬化体を製造した(本発明例)。本発明例では、B
2O
3換算の単位ホウ素含有物質量を0.5kg/m
3、1.0kg/m
3、2.0kg/m
3、3.5kg/m
3、4.0kg/m
3とし、それぞれに対して単位消石灰量を12kg/m
3、15kg/m
3、44kg/m
3、59kg/m
3、100kg/m
3、144kg/m
3、160kg/m
3とした。
【0041】
また、比較のために、消石灰を配合しないで普通ポルトランドセメントを配合した硬化体、単位消石灰量を本発明の範囲外とした硬化体、ホウ素含有物質を配合しない硬化体、及び、B2O3換算の単位ホウ素含有物質量を4.5kg/m3とする硬化体も製造(比較例)した。
【0042】
本実施例では、ホウ素含有物質として試薬の三酸化二ホウ素(B2O3)を使用し、硬化体の製造に使用する水に溶解させた。
【0043】
硬化体は強度測定用と膨張判定用との二種類を製造した。強度測定用の硬化体は、硬化後に脱枠し、材齢3日まで20℃で水中養生した時点で、JIS A 1108に準じて圧縮強度を測定した。ここで、材齢とは、スラグ硬化体を打設してからの経過日数である。膨張判定用の硬化体は、硬化後に脱枠し、材齢14日まで20℃で水中養生した。養生後、80℃の水に浸漬させた。浸漬してから45日後に硬化体を観察し、大きな割れの有無を確認した。圧縮強度は3.0N/mm2以上を合格とした。また、3日後までに固化せず、圧縮強度を測定できなかったものを「測定不可」と表示した。膨張判定は、割れが確認されなかったものを「合格」、割れが確認されたものを「不合格」とした。膨張判定の欄が「測定不可」とは、固化しない、または、水和膨張して硬化体が形成されないことを示す。
【0044】
スラグAを用いて製造した供試体の配合表並びに圧縮強度及び膨張判定の結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
消石灰を配合せずに普通ポルトランドセメントを配合した比較例1~3では、3日強度が3.0N/mm
2未満であった。また、膨張測定においても45日経過後に割れが確認され、遊離MgOが膨張していることが確認された。
【0046】
また、単位消石灰量を6kg/m3とした比較例4~6では、供試体が固化せず、圧縮強度及び膨張判定は測定不能であった。ホウ素を添加していない比較例7~13では、45日経過後に割れが確認され、遊離MgOが膨張していることが確認された。B2O3換算の単位ホウ素含有物質量を4.5kg/m3とした比較例14~20では、供試体が固化せず、圧縮強度及び膨張判定は測定不能であった。
【0047】
これに対し、単位消石灰量を12kg/m3以上160kg/m3以下とし、B2O3換算の単位ホウ素含有物質量を0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下とした本発明例1~35では、3日圧縮強度が3.0N/mm2以上であり、且つ、膨張判定においても割れはなく、健全な状態であることが確認された。
【0048】
スラグBを用いて製造した供試体の配合表並びに圧縮強度及び膨張判定の結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
消石灰を配合せずに普通ポルトランドセメントを配合した比較例21~23では、3日強度が3.0N/mm
2未満のものが存在し、また、膨張測定においても45日経過後に割れが確認され、遊離MgOが膨張していることが確認された。
【0050】
また、単位消石灰量を6kg/m3とした比較例24~26では、硬化体が固化せず、圧縮強度及び膨張判定は測定不能であった。ホウ素を添加していない比較例27~33では、45日経過後に割れが確認され、遊離MgOが膨張していることが確認された。B2O3換算の単位ホウ素含有物質量を4.5kg/m3とした比較例34~40では、硬化体が固化せず、圧縮強度及び膨張判定は測定不能であった。
【0051】
これに対し、単位消石灰量を12kg/m3以上160kg/m3以下とし、B2O3換算の単位ホウ素含有物質量を0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下とした本発明例36~70では、3日圧縮強度が3.0N/mm2以上であり、且つ、膨張判定においても割れはなく、健全な状態であることが確認された。
【0052】
スラグCを用いて製造した供試体の配合表並びに圧縮強度及び膨張判定の結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
単位消石灰量を6kg/m
3とし、スラグCの単位量を3060kg/m
3とした比較例41~43では、硬化体が固化せず、圧縮強度及び膨張判定は測定不能であった。ホウ素を添加していない比較例44~50では、45日経過後に割れが確認され、遊離MgOが膨張していることが確認された。また、B
2O
3換算の単位ホウ素含有物質量を4.5kg/m
3とした比較例51~57では、硬化体が固化せず、圧縮強度及び膨張判定は測定不能であった。
【0054】
これに対して、スラグCの単位量を2720kg/m3以下とし、且つ、単位消石灰量を12kg/m3以上160kg/m3以下、単位ホウ素含有物質量をB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下の範囲とした本発明例71~105では、3日圧縮強度が3.0N/mm2以上であり、且つ、膨張判定においても割れはなく、健全な状態であることが確認された。
【実施例2】
【0055】
表1に示す3種類のスラグ(スラグA~C)とホウ素含有物質とを接触させ、スラグ表面にホウ素含有物質を予め付着させたスラグを用いて硬化体を製造する試験を行った。ホウ素含有物質としては、試薬の三酸化二ホウ素(B2O3)を使用し、この三酸化二ホウ素の試薬を50倍の質量の水に溶解させて水溶液(ホウ酸水溶液)とし、この水溶液を霧状にしてスラグに吹き付け、スラグ表面にホウ素含有物質(ホウ酸)を付着させた。その後、スラグを乾燥させて、硬化体の材料として使用した。
【0056】
予めB2O3換算で0.10質量%以上のホウ素含有物質を付着させたスラグに、高炉スラグ微粉末、消石灰、天然骨材(粗骨材)、高性能減水剤及び水を、それぞれ本発明の範囲内の単位量で配合し、硬化体を製造した(本発明例)。本発明例では、スラグでのホウ素含有物質のB2O3換算の付着量は、スラグ質量に対して0.1質量%、0.3質量%、0.5質量%、1.0質量%とした。また、比較のために、スラグ表面のホウ素含有物質の付着量が本発明の範囲外の硬化体も製造した(比較例)。
【0057】
また、硬化体は強度測定用と膨張判定用との二種類を製造し、製造した硬化体について、上述の実施例1と同一の条件で圧縮強度測定及び膨張判定を行った。
【0058】
スラグAを用いて製造した供試体の配合表並びに圧縮強度及び膨張判定の結果を表5に示す。
【0059】
【表5】
単位消石灰量を12kg/m
3以上160kg/m
3以下とし、スラグ表面に付着させるホウ素含有物質をB
2O
3換算でスラグの0.10質量%以上とし、且つ、単位スラグ量と付着したホウ素含有物質のB
2O
3換算の質量割合との積から計算される硬化体中のB
2O
3換算の単位ホウ素含有物質量(硬化体中のB
2O
3換算の単位ホウ素含有物質量(kg/m
3)=単位スラグ量(kg/m
3)×ホウ素含有物質付着量のB
2O
3換算の質量割合(質量%)/100)を、0.5kg/m
3以上4.0kg/m
3以下とした本発明例106~125では、3日圧縮強度が3.0N/mm
2以上であり、且つ、80℃の水に浸漬して45日後にも、硬化体は健全な状態を保ったままであることが確認された。
【0060】
一方、スラグ表面に付着させるホウ素含有物質をB2O3換算でスラグの0.05質量%とした比較例58~64では、単位スラグ量と付着したホウ素含有物質のB2O3換算の質量割合との積から計算される硬化体中のB2O3換算の単位ホウ素含有物質量が0.5kg/m3以上にならず、膨張判定において、45日経過後に割れが確認され、遊離MgOが膨張していることが確認された。
【0061】
スラグBを用いて製造した供試体の配合表並びに圧縮強度及び膨張判定の結果を表6に示す。
【0062】
【表6】
単位消石灰量を12kg/m
3以上160kg/m
3以下とし、スラグ表面に付着させるホウ素含有物質をB
2O
3換算でスラグの0.10質量%以上とし、且つ、単位スラグ量と付着したホウ素含有物質のB
2O
3換算の質量割合との積から計算される硬化体中のB
2O
3換算の単位ホウ素含有物質量を0.5kg/m
3以上4.0kg/m
3以下とした本発明例126~145では、3日圧縮強度が3.0N/mm
2以上であり、80℃の水に浸漬して45日後にも、硬化体は健全な状態を保ったままであることが確認された。
【0063】
一方、スラグ表面に付着させるホウ素含有物質をB2O3換算でスラグの0.05質量%とした比較例65~71では、単位スラグ量と付着したホウ素含有物質のB2O3換算の質量割合との積から計算される硬化体中のB2O3換算の単位ホウ素含有物質量が0.5kg/m3以上にならず、膨張判定において、45日経過後に割れが確認され、遊離MgOが膨張していることが確認された。
【0064】
スラグCを用いて製造した供試体の配合表並びに圧縮強度及び膨張判定の結果を表7に示す。
【0065】
【表7】
単位消石灰量を12kg/m
3以上160kg/m
3以下とし、スラグ表面に付着させるホウ素含有物質をB
2O
3換算でスラグの0.10質量%以上とし、且つ、単位スラグ量と付着したホウ素含有物質のB
2O
3換算の質量割合との積から計算される硬化体中のB
2O
3換算の単位ホウ素含有物質量を0.5kg/m
3以上4.0kg/m
3以下とした本発明例146~154では、3日圧縮強度が3.0N/mm
2以上であり、80℃の水に浸漬して45日後にも、硬化体は健全な状態を保ったままであることが確認された。
【0066】
一方、スラグ表面に付着させるホウ素含有物質がB2O3換算でスラグの0.10質量%以上であるものの、単位スラグ量と付着したホウ素含有物質のB2O3換算の質量割合との積から計算される硬化体中のB2O3換算の単位ホウ素含有物質量が4.0kg/m3を超える比較例72~78では、供試体は固化しなかった。
【要約】
製鋼スラグなどの遊離MgOを含有するスラグを材料として製造される硬化体であって、遊離MgOによる水和反応による体積膨張を抑えた上で、早期に強度が増大する硬化体を提供する。
本発明に係るスラグを利用した硬化体は、遊離MgOを含有するスラグを利用した前記混合物が固化することで製造される硬化体であって、前記硬化体において、遊離MgOを含有するスラグの単位量が2720kg/m3以下、単位高炉スラグ微粉末量が250kg/m3以上800kg/m3以下、単位消石灰量が12kg/m3以上160kg/m3以下、単位ホウ素含有物質量がB2O3換算で0.5kg/m3以上4.0kg/m3以下である。