(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】使用済みLIBから有価金属を回収する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20221219BHJP
C22B 9/16 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B7/00 F
C22B9/16
(21)【出願番号】P 2021039636
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】川崎 始
(72)【発明者】
【氏名】鍋井 淳宏
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-135321(JP,A)
【文献】特開昭54-123561(JP,A)
【文献】特開平09-087755(JP,A)
【文献】特許第6615762(JP,B2)
【文献】特許第6589966(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
C22B 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無害化した使用済み
リチウムイオン二次電池から取り出した電極集合体に、該電極集合体
の正極活物質量に対して10倍~20倍質量の金属亜鉛を加える工程、電極集合体と金属亜鉛の混合物を加熱して熔体を形成する工程、該熔体を取り出して合金メタルとスラグに分離する工程、該合金メタルを加熱して該合金メタル中の亜鉛を揮発させる工程を経て、有価金属の合金メタルを回収することを特徴とする使用済み
リチウムイオン二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項2】
大気下で600℃
以上~900℃
以下に加熱して、亜鉛と有価金属の合金メタルを含む熔体を形成する請求項1に記載する使用済み
リチウムイオン二次電池から有価金属を回収する方法。
【請求項3】
スラグと分離した上記合金メタルを910℃以上に加熱して該合金メタル中の亜鉛を揮発させ、銅とニッケルとコバルトの合金メタルを回収する
請求項1または請求項2の何れかに記載する使用済み
リチウムイオン二次電池から有価金属を回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みリチウムイオン二次電池(使用済みLIBと云う)からコバルトやニッケル、銅などの有価金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の電極材には、リチウムと共にコバルトやニッケル、銅、アルミニウムなどの有価金属が含まれており、資源の有効利用を図るうえから、使用済みLIBに含まれるこれらの有価金属を効率よく回収することが求められている。
【0003】
特許文献1には銅製錬炉を利用した回収方法が記載されている。具体的には、使用済みLIBなどの上記有価金属を含む原料を銅製錬炉に入れ、還元溶融して上記有価金属と銅との合金を生成させ、該合金から銅やニッケルなどを分離回収する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、銅製錬の転炉に銅マットがない状態で使用済みLIBを投入し、余熱を利用して燃焼させた後に銅マットを装入し、酸素を吹き込んで溶融し、上記有価金属と銅との合金を生成させ、該合金から銅やニッケルなどを分離回収する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、使用済みLIBを600℃以上で酸化焙焼し、その焙焼物を、炭素などの還元剤とフラックスを加えて還元溶融して、有価金属を含む合金を生成させ、スラグと分離した該合金から有価金属を回収する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6615762号公報
【文献】特許第6589966号公報
【文献】特開2019-135321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の回収方法は、銅をコレクターメタルとして有価金属と銅の合金を形成し、該合金から有機金属を回収するが、この条件下では有価金属のうちコバルトは酸化されスラグに移行しやすいために回収し難いと云う問題がある。また、特許文献3の回収方法は、炭素などの還元剤存在下で溶融する際にコバルト・銅を合金化するため、還元剤の添加量をコントロールする等の酸素分圧制御が必要であり、これらの操作が複雑である。
【0008】
本発明は従来の上記問題を解消した有価金属の回収方法を提供する。具体的には、銅よりも酸化しやすい亜鉛をコレクターメタルとして用いることによって、還元剤を添加しなくても、熔体形成時の亜鉛の酸化反応時の酸素ポテンシャルを利用して、メタル側にコバルトを濃縮させて容易に回収できるようにした有価金属の回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成からなる手段によって上記問題を解決した、有価金属の回収方法である。
〔1〕無害化した使用済みLIBから取り出した電極集合体に、該電極集合体の正極活物質量に対して10倍~20倍質量の金属亜鉛を加える工程、電極集合体と金属亜鉛の混合物を加熱して熔体を形成する工程、該熔体を取り出して合金メタルとスラグに分離する工程、該合金メタルを加熱して該合金メタル中の亜鉛を揮発させる工程を経て、有価金属の合金メタルを回収することを特徴とする使用済みLIBから有価金属を回収する方法。
〔2〕大気下で600℃以上~900℃以下に加熱して、亜鉛と有価金属の合金メタルを含む熔体を形成する上記[1]に記載する使用済みLIBから有価金属を回収する方法。
〔3〕スラグと分離した上記合金メタルを910℃以上に加熱して該合金メタル中の亜鉛を揮発させ、銅とニッケルとコバルトの合金メタルを回収する上記[1]または上記[2]の何れかに記載する使用済みLIBから有価金属を回収する方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明は、無害化した使用済みLIBから取り出した電極集合体に、該電極集合体の正極活物質量に対して10倍~20倍質量の金属亜鉛を加える工程、電極集合体と金属亜鉛の混合物を加熱して熔体を形成する工程、該熔体を取り出して合金メタルとスラグに分離する工程、該合金メタルを加熱して該合金メタル中の亜鉛を揮発させる工程を経て、有価金属の合金メタルを回収することを特徴とする使用済みLIBから有価金属を回収する方法である。
以下、各工程に従って説明する。
【0011】
〔金属亜鉛添加工程〕
本発明の回収方法は、電極集合体質量に対して過剰量の金属亜鉛を加える金属亜鉛添加工程を有する。LIBのセルは電解液およびセパレータを介在して正極と負極が対に形成されており、これらが外装材に収納されている。放電し無害化処理した使用済みLIBから外装材や電解液を取り除いた電極集合体(使用済みLIBから取り出した電極集合体)を金属亜鉛と混合して加熱炉に装入する。なお、該電極集合体には、破砕・ふるい分け等の物理選別後の正極集電体、正極活物質、セパレータ、負極集電体、負極活物質などの成分が含まれる。
電極集合体に含まれる各金属成分の代表例を表1に示す。
【0012】
金属亜鉛の添加量は電極集合体の質量に対して過剰量を加える。具体的には、例えば、電極集合体に含まれる正極活物質量に対して10倍~20倍質量の金属亜鉛量が好ましい。金属亜鉛の添加量が10倍質量より少ないと、電極集合体中のコバルト等の有用成分が十分に還元されず亜鉛と有価金属の合金メタルの形成が不十分になり、また、ZnOの割合が増加(Zn/ZnO比が減少)することによってスラグ量が増え、合金メタルとスラグとの分離が不十分となり、有価物金属の分離回収が難しくなる。一方、金属亜鉛量が20倍質量より多いと、有価金属を合金化した後の亜鉛揮発工程での亜鉛揮発量が増加するので経済的ではない。
【0013】
〔熔体形成工程〕
炉内の電極集合体と金属亜鉛の混合物を大気下で、金属亜鉛の融点以上~沸点未満に加熱して亜鉛と有価金属の合金メタルを含む熔体を形成する。ただし、熔体形成温度が上記融点付近の低温であるとスラグとメタルの分離に時間がかかるため、熔体形成温度は600℃以上が望ましい。また、熔体形成温度が金属亜鉛の沸点近くになると蒸気圧が上がり、金属亜鉛の揮発量が増加するため900℃以下が望ましい。
【0014】
加熱時間は600℃以上~900℃以下の温度を2.5時間~5時間保持するのが好ましい。この保持時間が2時間よりも短いとスラグとメタルの分離が難しくなる。一方、この保持時間が5時間よりも長くても効果はあまり変わらない。
【0015】
電極集合体と金属亜鉛を混合して加熱溶融することによって、亜鉛の酸化反応(2Zn+O2→2ZnO)の酸素ポテンシャルに影響され、該セルに含まれる銅やニッケル、コバルトは、亜鉛と共に金属相に取り込まれ、コバルトおよびニッケルおよび銅を含む亜鉛基合金が形成される。一方、セルに含まれるマンガンやアルミニウムは酸化物として一部酸化した亜鉛と共にスラグ相に移行する。
【0016】
金属酸化物の生成自由エネルギーと酸素分圧との関係をグラフにしたエリンガム図に示されるように、コバルトやニッケルおよび銅の酸化還元反応における自由エネルギーは何れも亜鉛の酸化還元反応の自由エネルギーよりも上側に位置しているため、コバルトやニッケルおよび銅は亜鉛よりも還元されやすく、メタル相として亜鉛に取り込まれ、コバルトとニッケルと銅を含む亜鉛基合金(合金メタル)を形成する。一方、マンガンやアルミニウムの酸化還元反応の自由エネルギーは亜鉛の酸化還元反応の自由エネルギーよりも下側に位置するため、亜鉛よりも酸化されやすく、これらは酸化物を形成してスラグ相に移行する。
【0017】
なお、従来の銅製錬プロセスを利用した方法では、銅をコレクターメタルとして用いるが、エリンガム図に示されるように。銅の酸化還元反応の自由エネルギーはコバルトやニッケルの酸化反応の自由エネルギーより上側に位置し、コバルトやニッケルなどは銅より還元され難い状態であるため、LIB材料として使用されている酸化物形態のまま大部分がスラグ相に移行するため、銅基合金として回収される割合が低い。
【0018】
〔メタルとスラグの分離工程〕
上記合金メタルとスラグの熔体を炉内から取り出して水冷する。冷却された熔体は衝撃を加えるとメタル部分とスラグ部分に容易に分離する。
【0019】
〔亜鉛揮発工程〕
スラグと分離した上記合金メタルを回収し、亜鉛の沸点以上の温度、例えば910℃以上に加熱して該合金メタル中の亜鉛を揮発させると、銅-コバルト-ニッケルの有価金属合金が得られる。揮発した亜鉛を回収するために加熱する際は、酸素嫌気、真空下で行うことが望ましい。該有価金属合金は亜鉛部分が揮発しているのでスポンジ状であり、酸への溶解性が高く、その後の湿式処理が容易である。揮発蒸留させた金属亜鉛は回収して繰り返し利用できるので、処理コストを抑えることができる。
【0020】
本発明の処理工程の一例を
図1に示す。
図示するように、リチウムイオン電池を放電無害化処理した後に外装材を取り除き、電極集合体と分別する。電極集合体に金属亜鉛を加え(金属亜鉛添加工程)、加熱炉に装入して、加熱溶融し、スラグとメタルを含む熔体を形成する(熔体形成工程)。該熔体を冷却して亜鉛基合金メタルとスラグに分離し(メタルスラグ分離工程)、該亜鉛基合金メタルを亜鉛の沸点以上に加熱して亜鉛を揮発させ(亜鉛揮発工程)、Cu-Ni-Coを含む有価金属合金メタルを回収する。揮発した亜鉛蒸気(金属亜鉛)は回収して金属亜鉛添加工程に戻し、金属亜鉛源として再利用する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の回収方法によれば、セルに含まれるニッケルやコバルトの大部分を合金化して回収することができ、ニッケルやコバルトのスラグ化によるロスが少ない。
本発明の熔体形成工程では、Zn/ZnOの酸化還元反応により酸素ポテンシャルが決定するため、カーボンによる還元反応を無視しても良く、従ってセルに含まれる正極と負極の活物質を分離しなくてもよい。負極の活物質は主にグラファイトであり、本発明の回収方法によれば、正極と負極を分離せずに処理できるので、使用済みLIBの分別処理が格段に容易である。
【0022】
本発明の方法によって回収される有価金属合金はスポンジ状であるため酸への溶解性が高く、その後の湿式処理が容易である。また、揮発蒸留させた金属亜鉛は回収して繰り返し利用できるので、処理コストを抑えることができる。また、本発明の回収方法は、予めLIBの外装材を取り外し、電極集合体にして処理するので、外装材はセルとは別に処理することができ、外装材がアルミニウム材であれば容易にアルミニウムを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を示す。表中の分析値は蛍光X線分析およびSEM-EDXによって測定した。
【0025】
〔実施例〕
使用済みLIBを放電無害化処理した後に外装材を除去して電極集合体を回収した。電極集合体の金属成分を表1に示す。この電極集合体の正極活物質5gに対して金属亜鉛100gを混合し、これを電気炉に装入し、大気下、880℃まで昇温した後に4時間保持して熔体を形成した。その後、炉内から熔体を取り出して水冷し、メタル74.7gとスラグ53.9gを分離し回収した。このメタルとスラグに含まれる金属成分を測定した。分離したメタルとスラグの金属成分を表2に示す(試験No.1A)。
分離したメタルを酸素嫌気下で電気炉に入れて910℃に加熱して亜鉛を蒸発させてスポンジ状の合金メタルを得た。該スポンジ状合金メタルに含まれる金属成分を表2に示す(試験No.1B)。
【0026】
正極活物質5gに対する金属亜鉛の添加量を50gにした他は試験No.1Aと同様にして熔体を形成し、メタル44.8gとスラグ35.4gを得た。このメタルとスラグに含まれる金属成分を測定した。この結果を表2に示す(試験No.2)。
電気炉の加熱温度を800℃にした他は試験No.1Aと同様にして熔体を形成し、メタル81.1gとスラグ47.5gを得た。このメタルとスラグに含まれる金属成分を測定した。この結果を表2に示す(試験No.3)。
【0027】
使用済みLIBを放電無害化処理した後に外装材を除去して電極集合体を回収した。この電極集合体の正極活物質5gに対して金属亜鉛40gを混合し、これを電気炉に装入し、大気下、900℃まで昇温した後に2時間保持して熔体を形成した。その後、炉内から熔体を取り出して水冷し、回収した(試験No.4)。回収後のサンプルはメタルとスラグの分離性が低く、メタルとスラグを分離して回収するのが難しかった。
【0028】
表2に示すように、試験No.1A、2、3のメタルには亜鉛、銅、ニッケルおよびコバルトが含まれており、有価金属のニッケルおよびコバルトを合金の一部として回収することができる。また、試験No.1Bに示すように、試験No.1Aの合金を910℃で加熱して亜鉛を揮発させることによって、ニッケルとコバルトおよび銅の合金を回収することができる。
一方、電極集合体に加える金属亜鉛量が10倍質量以下であって熔融時間が2時間程度ではメタルとスラグを分離し難くなるので、金属亜鉛量が10倍質量以上および熔融時間は2.5時間以上が好ましいことが確認された。
【0029】
【0030】