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特許7195513グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法と、該グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆う方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法と、該グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆う方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/02 20060101AFI20221219BHJP
   C30B 1/00 20060101ALI20221219BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20221219BHJP
   C01B 32/19 20170101ALI20221219BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221219BHJP
【FI】
C30B29/02
C30B1/00
C01B32/194
C01B32/19
B82Y40/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019107537
(22)【出願日】2019-06-09
(65)【公開番号】P2020200210
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-08-17
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6166860(JP,B2)
【文献】特表2019-512441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/02
C30B 1/00
C01B 32/194
C01B 32/19
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法は、
2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該平行平板電極を容器に充填されたメタノール中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記2枚の平行平板電極を離間させ、該離間させた2枚の平行平板電極を前記メタノール中に浸漬させる、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙に直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、前記黒鉛粒子を形成する基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられ、これによって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記基底面に相当するグラフェンの集まりが製造される、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該2枚の平行平板電極を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、前記容器内のメタノール中でホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記容器から前記ホモジナイザー装置を取り出す、
さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの扁平面同士がメタノールを介して重なり合った該グラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成する、
この後、前記容器を前記メタノールの沸点に昇温して該メタノールを気化させ、前記グラフェンの扁平面同士が重なり合った該グラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成する、
この後、前記グラフェンの集まりの上方の平面を均等に圧縮し、前記グラフェンの扁平面同士が重なり合った部位に摩擦熱を発生させ、該摩擦熱によって前記グラフェンの扁平面同士が接合し、該グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートが、前記容器の底面に該底面の形状として形成される、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、
銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属が熱分解で析出する金属化合物をメタノールに分散してメタノール分散液を作成し、該メタノール分散液を、請求項1に記載したグラフェンシートが容器の底面に形成されている該容器に充填し、さらに、該容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンシートの表面を前記メタノール分散液と接触させる、
この後、前記容器を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に前記メタノールが気化し、前記グラフェンシートの表面に前記金属化合物の微細な結晶の集まりが一斉に析出し、この後、前記金属化合物の微細な結晶が熱分解し、前記グラフェンシートの表面に、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる粒状の金属微粒子の集まりが一斉に析出し、該粒状の金属微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、前記グラフェンシートの表面が、前記金属結合した銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりによって覆われる、請求項1に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法。
【請求項3】
請求項2に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、
無機物のイオンないしは無機物の分子からなる配位子が、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる金属錯体を、請求項2に記載した銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属が熱分解で析出する金属化合物として用い、請求項2に記載した方法に従って、グラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法。
【請求項4】
請求項2に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、
カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物を、請求項2に記載した銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属が熱分解で析出する金属化合物として用い、請求項2に記載した方法に従って、グラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法。
【請求項5】
請求項1に記載したグラフェンシートの表面を、絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法は、
絶縁性の金属酸化物が熱分解で析出する金属化合物をメタノールに分散してメタノール分散液を作成し、該メタノール分散液を、請求項1に記載したグラフェンシートが容器の底面に形成されている該容器に充填し、さらに、該容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンシートの表面を前記メタノール分散液と接触させる、
この後、前記容器を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に前記メタノールが気化し、前記グラフェンシートの表面に前記金属化合物の微細な結晶の集まりが一斉に析出し、この後、前記金属化合物の微細な結晶が熱分解し、前記グラフェンシートの表面に、前記絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりが一斉に析出し、該絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで表面が覆われた前記グラフェンシートが、前記容器の底面に該底面の形状として形成される、請求項1に記載したグラフェンシートの表面を、絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法。
【請求項6】
請求項5に記載したグラフェンシートの表面を絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法は、
カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物を、請求項5に記載した熱分解で絶縁性の金属酸化物が析出する金属化合物として用い、請求項5に記載した方法に従って、グラフェンシートの表面を絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法。
【請求項7】
請求項5に記載したグラフェンシートを容器から取り出す方法は、
請求項5に記載した方法に従って、絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで表面が覆われたグラフェンシートを容器の底面に該底面の形状として形成し、さらに、該グラフェンシートの上方の平面を均等に圧縮する、これによって、該グラフェンシートの双方の平面の表層に形成された金属酸化物の微粒子の集まりにおいて、該金属酸化物の微粒子同士が互いに接触する部位に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属酸化物の微粒子同士が接合する、
この後、前記容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加え、該容器から前記グラフェンシートを取り出す、請求項5に記載したグラフェンシートを容器から取り出す方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールが充填された容器内で、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合を破壊し、黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンの集まりを製造する。次に、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを、容器の底面に該底面の形状として製造する。さらに、グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆う方法に関する。なお、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する炭素原子の集まりからなる単結晶材料である。また、本発明では、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合って接合した、厚みが薄いシート状のグラフェンの集まりを、グラフェンシートと呼ぶ。なお、黒鉛粒子は、黒鉛の単結晶のみからなり、黒鉛の結晶化が100%進んだ最も安価な炭素材料であり、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の層間結合を破壊すると、黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンの集まりが得られる。
【背景技術】
【0002】
2004年に英国マンチェスター大学の物理学者が、セロファンテープを使用して、グラファイトから1枚の結晶子、すなわち、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する基底面を引きはがし、炭素原子の大きさが厚みとなる平面状の物質を取り出すことに初めて成功した。この新たな物質をグラフェンと呼んだ。この研究成果に対して、2010年のノーベル物理学書が授与されている。
【0003】
グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する極めて薄い物質で、かつ、質量をほとんど持たない全く新しい炭素材料である。このため、従来の物質とは大きくかけ離れた物性を持ち、幅広い用途に応用できる材料として注目されている。
例えば、厚みが0.332nmからなる最も薄い材料である。また、単位質量当たりの表面積が3000m/gである最も広い表面積を持つ。さらに、ヤング率が1020GPaと大きな値を持ち、最も伸長ができ、折り曲げができる材料である。また、せん断弾性率が440GPaという大きな数値を持つ最も強靭な物質である。さらに、熱伝導率は19.5W/Cmで、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍の熱伝導率を持つ。また、電流密度は銅の1000倍を超える。さらに、銅の比抵抗の23倍に過ぎない電気導電性を持つ。また、電子移動度が15000cm/ボルト・秒であり、シリコーンの移動度の1400cm/ボルト・秒より一桁高い値を持つ。さらに、融点が3000℃を超える単結晶材料で、耐熱性が極めて高い材料である。
【0004】
いっぽう、グラフェンは様々な方法で製造される。例えば、前記したマンチェンスター大学の教授は、人の手でグラファイトからグラフェンを物理的に引きはがした。この方法は、大量のグラフェンを短時間に引き剥がすことは困難で、また、剥がされたものが黒鉛結晶の単一層、つまり、グラフェンになるとは限らない。
また、特許文献1に、炭化ケイ素の単結晶を熱分解することでグラフェンを製造する方法が記載されている。つまり、炭化ケイ素を不活性雰囲気で加熱し、表面を熱分解させる。この際、昇華温度が相対的に低いケイ素が優先的に昇華し、残存した炭素によってグラフェンが生成される。しかし、炭化ケイ素の単結晶が非常に高価な材料である。さらに、1600℃を超える高温で、かつ、真空度が高い雰囲気でケイ素を昇華させるが、ケイ素が僅かでも残存した場合は、熱分解後の残渣物としてグラフェンが生成されない。このため、炭化ケイの単結晶の生成と、単結晶の熱分解処理に係わる費用は非常に高価になる。また、大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
さらに、特許文献2に、シート状の単結晶のグラファイト化金属触媒に、炭素系物質を接触させ、還元性雰囲気で熱処理することで、グラフェンを製造する方法が記載されている。しかしながら、この製造方法も、安価な製造方法とは言えず、かつ、量産性に優れた製造方法ではない。第一に、単結晶のグラファイト化金属触媒を製造する製造コストは、炭化ケイ素の単結晶よりさらに高い。第二に、単結晶のグラファイト化金属触媒を炭素系物質に接触させる方法は量産性に劣る。第三に、水素ガスを含む窒素ガスがリッチな雰囲気で、1000℃を超える高温度で、グラファイト化金属触媒を還元処理する方法は、熱処理費用が高価になる。従って、大量のグラフェンを製造するには、さらに高価な費用が掛かる。
【0005】
現在までのグラフェンの製造方法はいずれも、第一に、安価な製造方法で大量のグラフェンを同時に製造する方法ではない。第二に、製造したグラフェンが必ずしもグラフェンでない。つまり、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する炭素原子の集まりからなる単結晶材料であり、不純物が全くない雰囲気で、炭素原子の結晶成長ができなければ、グラフェンが生成されない。さらに、生成したグラフェンの厚みが極薄く、極軽量であるため、グラフェンであることを確認する方法が困難である。
このため、本発明者は、製造したグラフェンが全て完全なグラフェンで、かつ、極めて簡単な方法で大量のグラフェンを瞬時に製造する方法を見出した(特許文献3)。すなわち、黒鉛の単結晶のみからなり、黒鉛の結晶化が100%進み、さらに、最も安価な炭素材料である、天然の黒鉛結晶の塊を破砕し、該破砕した黒鉛結晶から鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の集まりを選別した黒鉛粒子の集まりを、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰め、該2枚の平行平板電極に電界を印加し、該電界の印加によって黒鉛粒子を形成する全ての黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊し、黒鉛結晶の基底面からなるグラフェンを大量に製造する方法である。この製造方法に依れば、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子の僅か1gから、1.62×1013個に及ぶグラフェンの集まりが瞬時に得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-110485号公報
【文献】特開2009-143799号公報
【文献】特許第6166860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
3段落で説明したように、グラフェンが従来の素材とは全くかけ離れた驚異的な物性を持つため、グラフェンを用いた様々な部品やデバイの研究開発が行われている。従って、安価な製造方法で製造したグラフェンの集まりから、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法が見いだせれば、グラフェンシートを用いた安価な部品やデバイスの実用化が進む。さらに、グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆うことができれば、表面が導電性ないしは絶縁性のグラフェンシートを、基材や部品に圧着することができ、基材や部品にグラフェンシートの性質が付与できる。
いっぽう、特許文献3による製造方法で大量のグラフェンを瞬時に製造できるが、このグラフェンの集まりから、グラフェンシートを製造する方法は見出されていない。また、グラフェンは、炭素原子が六角形からなる網目構造を二次元的に形成する、単一の結晶子からなる極めて厚みが薄い物質であり、極めて軽量で、殆ど質量を持たない。このため、特許文献3における電界の印加によって、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンは、製造時と製造後において、極めて容易に飛散する。さらに、グラフェンは厚みが極めて薄いため、厚みに対する結晶面の大きさの比率であるアスペクト比が極めて大きい扁平面を持つ。また、黒鉛粒子が一定の形状を持ち、黒鉛粒子の形状は同一でないため、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を破壊して製造したグラフェンのアスペクト比は、個々のグラフェンで異なる。従って、特許文献3における製造方法では、グラフェンの製造時に容易にグラフェンンの扁平面同士が重なり合う。さらに、重なり合ったグラフェンの枚数は一定でない。また、扁平面同士で重なり合ったか否かを識別することは極めて困難で、電子顕微鏡の観察で識別するしかない。さらに、扁平面同士が重なり合ったグラフェンは、扁平面同士の接合力が微弱であるため、こうしたグラフェンの集まりを用いてグラフェンシートを製造すると、扁平面同士が重なり合った部位で、グラフェンシートが分離する。
従って、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合したグラフェンシートを製造するに当たり、解決すべき課題として次の5つの課題がある。
第一に、粘度が低く、沸点が低い液体が充填された容器内で、グラフェンの集まりを製造する。これによって、グラフェンの製造時と製造後において、液体中に析出したグラフェンは飛散しない。しかし、グラフェンは製造時に扁平面同士で重なり合う。
第二に、グラフェンの集まりを、前記した容器内で、1枚1枚のグラフェンに分離させる。これによって、全てのグラフェンが前記液体と接触し、その後の処理では、グラフェンの扁平面同士が直接重なり合わない。
第三に、前記容器の底面に、グラフェンの扁平面同士を、前記液体を介して重なり合わせる。さらに、前記容器を前記液体の沸点に昇温し、該液体を気化させ、扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりを、前記容器の底面に形成する。これによって、扁平面同士が重なり合って接合したグラフェンシートを製造することが可能になる。
第四に、グラフェンの集まりの上方の平面を均等に圧縮し、該グラフェンの扁平面同士が重なり合った部位に摩擦熱を発生させ、該摩擦熱によって前記グラフェンの扁平面同士が接合され、該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートが、前記容器の底面に該底面の形状として形成される。
第五に、上記した4つの工程における処理が何れも極めて簡単な処理で、また、用いる材料が汎用的な安価な材料である。これによって、安価な黒鉛粒子の集まりを用いて、安価な製造方法でグラフェンの集まりを製造し、安価な方法でグラフェンシートを製造する。この結果、安価なグラフェンシートが製造できる。
グラフェンシートを製造する上で、解決する課題は上記の5つの課題である。
さらに、前記したグラフェンシートの表面を、金属ないしは絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆うに当たり、解決すべき課題として次の3つの課題がある。
第一に、前記した容器の底面に、該底面の形状として形成されたグラフェンシートの表面を、金属ないしは絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う。このため、金属ないしは絶縁性の金属酸化物が液相化される必要がある。
第二に、表面が金属ないしは絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆われたグラフェンシートを、容器から取り出すことができる。
第三に、グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う処理が、極めて簡単な処理で、用いる材料が汎用的な安価な材料である。
これによって、安価な方法で、グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆い、安価な費用で、グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆うことができる。
グラフェンシートの表面を金属ないしは絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う上で、解決する課題は上記の3つの課題である。
本発明が解決しようとする課題は、上記8つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法は、
2枚の平行平板電極のうちの一方の平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該平行平板電極を容器に充填されたメタノール中に浸漬させ、さらに、他方の平行平板電極を前記一方の平行平板電極の上に重ね合わせ、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記2枚の平行平板電極を離間させ、該離間させた2枚の平行平板電極を前記メタノール中に浸漬させる、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙に直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、前記黒鉛粒子を形成する基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられ、これによって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記2枚の平行平板電極の間隙に、前記基底面に相当するグラフェンの集まりが製造される、
この後、前記2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、該2枚の平行平板電極を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記2枚の平行平板電極の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記容器から前記2枚の平行平板電極を取り出す、
さらに、前記容器内のメタノール中でホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記容器から前記ホモジナイザー装置を取り出す、
さらに、前記容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンの扁平面同士がメタノールを介して重なり合った該グラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成する、
この後、前記容器を前記メタノールの沸点に昇温して該メタノールを気化させ、前記グラフェンの扁平面同士が重なり合った該グラフェンの集まりを、前記容器の底面に該底面の形状として形成する、
この後、前記グラフェンの集まりの上方の平面を均等に圧縮し、前記グラフェンの扁平面同士が重なり合った部位に摩擦熱を発生させ、該摩擦熱によって前記グラフェンの扁平面同士が接合し、該グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートが、前記容器の底面に該底面の形状として形成される、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法。
【0009】
本発明における、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを製造する方法は、次の4つの工程からなる。
第一に、メタノール中で、黒鉛粒子の集まりからグラフェンの集まりを製造する。すなわち、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰められた鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを、絶縁体であるメタノール中に浸漬させ、2枚の平行平板電極間に直流の電位差を印加させる。これによって、電位差を2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界は、前記した黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。この結果、2枚の平行平板電極の間隙に、基底面の集まり、すなわちグラフェンの集まりが瞬時に製造される。製造されたグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。なお、2枚の平行平板電極がメタノール中に浸漬しているため、2枚の平行平板電極の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。これによって、7段落に記載したグラフェンシートを製造する上での5つの課題のうち、第1の課題が解決された。
なお、絶縁体であるメタノール中に浸漬した2枚の平行平板電極間に、電位差を印加させると、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する。すなわち、メタノールは比抵抗が3メガΩ・cm以上で、誘電率が33の絶縁体である。また、エタノールも誘電率が24からなる絶縁体である。なお、エタノールの電気導電率は7.5×10-6S/mで、鱗片状黒鉛粒子の電気伝導度が43.9S/mである。従って、エタノールは、導電体である鱗片状黒鉛粒子に比べ、電気導電度が1.7×10倍低い絶縁体である。
第二に、グラフェンの集まりを、メタノール中で1枚1枚のグラフェンンに分離する。つまり、2枚の平行平板電極の狭い間隙に析出したグラフェンは、析出した際に扁平面同士が重なり合うため、メタノール中で、1個1個のグラフェンに分離する。このため、最初に、2枚の平行平板電極の間隙を、メタノール中で拡大させ、さらに、メタノール中で傾斜させ、この後、メタノールが充填された容器に3方向の振動加速度を加える。これによって、グラフェンの集まりが、2枚の平行平板電極の間隙からメタノール中に移動する。この後、2枚の平行平板電極を容器から取り出す。次に、ホモジナイザー装置をメタノール中で稼働させ、メタノールを介してグラフェンの集まりに衝撃を繰り返し加える。いっぽう、グラフェンの扁平面同士の接合は、単純に扁平面が重なり合っているだけで、扁平面同士の接合力は極めて小さい。さらに、メタノールが低粘度で低分子量であるため、メタノールに加えられた衝撃は、メタノールの分子振動に僅かに消費されるだけで、衝撃エネルギーの多くが吸収されずに、グラフェンの集まりに加わる。この衝撃が、扁平面同士が重なり合った部位に加わると、重なり合った扁平面が容易に分離し、分離したグラフェンの間隙にメタノールが入り込む。従って、グラフェンの集まりに衝撃を繰り返し加えると、メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離され、分離されたグラフェンの扁平面はメタノールと接触する。なお、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、グラフェンの扁平面よりさらに1桁以上小さい極微細で莫大な数からなる気泡の発生と該気泡の消滅とが、超音波の振動周波数の振動周期に応じて、メタノール中で連続的に繰り返され(この現象をキャビテーションという)、莫大な数からなる気泡がはじける際の衝撃波が、メタノールを介してグラフェンの集まりの全体に連続的に繰り返し加わる。扁平面同士が重なり合った部位に衝撃波が加わると、重なり合った扁平面が分離し、分離したグラフェンの間隙にメタノールが入り込み、短時間で1枚1枚のグラフェンに分離される。なお、黒鉛粒子の基底面の層間結合を破壊して製造したグラフェンは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。この後、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンも、メタノール中での処理を継続したため、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。
これによって、7段落に記載したグラフェンシートを製造する上での5つの課題のうち、第2の課題が解決された。なお、ホモジナイザー装置の稼働によって、1枚1枚のグラフェンに分離できたか否かは、メタノール中から複数の試料を取り出し、電子顕微鏡で複数の試料を観察し、1枚1枚のグラフェンに分離できたか否かを判断する。この結果から、ホモジナイザー装置の稼働条件と稼働時間とを予め求める。
第三に、容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、グラフェンの扁平面同士がメタノールを介して重なり合った該グラフェンの集まりを、容器の底面に該底面の形状として形成する。つまり、グラフェンのアスペクト比が極めて大きく、また、1枚1枚に分離されたグラフェンの扁平面がメタノールと接しているため、容器に3方向の振動加速度を加えると、扁平面を上にしてグラフェンがメタノール中を移動し、容器の底面全体にグラフェンが拡散するとともに、扁平面同士がメタノールを介して重なり合う。容器への加振を停止すると、扁平面同士がメタノールを介して重なり合ったグラフェンの集まりが、容器の底面に該底面の形状として形成される。この後、容器をメタノールの沸点に昇温し、メタノールを気化させると、扁平面同士が重なり合ったグラフェンの集まりが、容器の底面に該底面の形状として形成される。これによって、7段落に記載したグラフェンシートを製造する上での5つの課題のうち、第3の課題が解決された。なお、気化したメタノールは回収機で回収し、再利用する。
第四に、容器の底面に形成されたグラフェンの集まりの上方の平面を均等に圧縮し、グラフェンの扁平面同士が重なり合った部位に摩擦熱を発生させ、該摩擦熱によってグラフェンの扁平面同士を接合し、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを、容器の底面に該底面の形状として形成する。つまり、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍以上の強度を持つ。このため、容器の底面に形成されたグラフェンの集まりの上方の平面に大きな荷重を印加しても、グラフェンの扁平面は変形も破壊もしない。従って、容器の底面に形成されたグラフェンの集まりの上方の平面を均等に圧縮すると、加えられた圧縮応力が低減することなく、グラフェンの扁平面同士が重なり合った部位に圧縮応力が加わり、これによって、摩擦熱が発生し、該摩擦熱によってグラフェンの扁平面同士が接合し、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートが、容器の底面に該底面の形状として形成される。なお、グラフェンは、前記したように、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質である。このグラフェンの扁平面を摩擦熱で接合したため、グラフェンの扁平面は強固に接合される。これによって、7段落に記載したグラフェンシートを製造する上での5つの課題のうち、第4の課題が解決された。
グラフェンシートは、グラフェンの扁平面同士が摩擦熱で接合されたため、グラフェンは一定の結合力で接合される。このため、グラフェンシートが容器の底面に形成されている該容器に、左右、前後、上下の3方向の振動加速度を短時間加えると、該容器からグラフェンシートが取り出せる。また、取り出したグラフェンシートは、ハンドリングが可能になる。なお、容器に加える振動加速度は、グラフェンシートが極めて軽量であるため、0.2G程度の振動加速度である。
ところで、グラフェンシートを製造する際に用いるメタノールは、汎用的な安価な工業用薬品である。また、黒鉛粒子も安価な工業用素材である。また、前記した4つの工程は極めて簡単な処理からなる。従って、本方法に依れば、安価な黒鉛粒子とメタノールとを用い、極めて簡単な4つの工程を連続して実施すると、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合したグラフェンシートが、容器の底面に該低迷の形状として形成される。これによって、7段落に記載したグラフェンシートを製造する上での5つの課題のうち第5の課題が解決され、すべての課題が解決された。
以上に説明した製造方法で製造したグラフェンシートは、次の作用効果をもたらす。
第一に、グラフェンは、厚みが炭素原子の大きさに相当する0.332nmで、極めて軽量で、ほとんど質量を持たない。また、厚みが極めて薄いため、グラフェンの存在は、目視では確認できない。このため、1枚1枚のグラフェンを取り扱うことは困難である。これに対し、扁平面を介してグラフェン同士を接合したグラフェンシートは、一定の面積と一定の厚みを持つため、1枚1枚のグラフェンシートを取り扱うことができる。このグラフェンシートは、グラフェンのみから構成されるため、グラフェンの性質を持つ。さらに、グラフェンシートは、安価な材料を用い、安価な方法で製造できる安価な工業用素材である。このため、グラフェンシートを用いた様々な工業製品への応用が開拓される。
第二に、容器の底面に該底面の形状からなるグラフェンシートが製造される。従って、厚みがサブミクロンのグラフェンシートが製造でき、また、容器の底面の形状に応じて、グラフェンシートの形状と面積とが自在に変えられる。このため、熱伝導性と電気導電性との双方に優れたグラフェンシートは、面積が小さい電極や接点、細長い配線パターン、面積が広い熱伝導シートに至るまで、任意の大きさと形状と厚みを持つ、グラフェンの性質からなるグラフェンシートとして、自在に製造することができる。
第三に、グラフェンシートは熱伝導性と電気導電性との双方に優れる。すなわち、グラフェンは、前記したように、銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導性と、銅の比抵抗の23倍に過ぎない電気導電性とを兼備する。従って、グラフェンの扁平面同士が接合されたグラフェンシートは、銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導性と、銅の比抵抗の23倍に過ぎない電気導電性とを兼備する。この結果、グラフェンシートは、銀より優れた熱伝導性をもち、金属に近い導電性を持つ。
第四に、グラフェンシートは、不純物がなく、黒鉛結晶のみからなる真性な物質であるグラフェン同士を、扁平面を介して摩擦熱で接合したため、グラフェン同士が強固に接合される。また、グラフェン同士が接合される間隙は、グラフェンの厚みに相当する0.332nmよりさらに狭い。このため、グラフェン同士の間隙に物質が侵入できない。さらに、グラフェンシートは、融点が3000℃を超えるグラフェンのみで構成され、グラフェンシートはグラフェンの耐熱性を持つ。従って、グラフェンシートは、どのような環境で使用されても経時変化しない。このため、グラフェンの性質からなるグラフェンシートは、様々な分野の工業用素材として用いられる。
ここで、第一の処理において、2枚の平行平板電極の間隙に印加した電界によって、2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰められた黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合が、同時に破壊される現象を説明する。
黒鉛粒子における黒鉛結晶を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうちの3つの価電子は、基底面、すなわち、グラフェンを形成するσ電子である。このσ電子は、基底面上で隣り合う3つの炭素原子が持つσ電子と互いに120度の角度をなして共有結合し、六角形の強固な網目構造を2次元的に形成する。残り一つの価電子はπ電子であり、基底面に垂直な方向に伸びるπ軌道上に存在する。このπ電子は、基底面に垂直な上下方向で隣り合う炭素原子が持つπ電子と弱い結合力で結合し、この弱い結合力に基づいて基底面が層状に積層される。つまり基底面、すなわちグラフェンは、弱い結合力であるπ軌道の相互作用によって互いに層状に結合されている。このため、黒鉛粒子は、黒鉛結晶からなる基底面で剥がれ易い性質、すなわち、機械的な異方性を持つ。この機械的な異方性は、黒鉛粒子の潤滑性として良く知られている。
こうした黒鉛粒子に電界を印加させると、全てのπ電子に電界によるクーロン力が作用する。π電子に作用するクーロン力が、π電子に作用しているπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道上の拘束から解放される。この結果、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。これによって、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子がπ軌道上にいなくなるため、基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。すなわち、π電子がクーロン力Fによって基底面の層間距離bの距離を動く際に、π電子は仕事W(W=b・F)を行う。この仕事Wが、π電子に作用する1原子当たりのπ軌道の相互作用の大きさである35ミリエレクトロンボルト (エレクトロンボルトは電子が持つエネルギーの大きさを表す単位で、1エレクトロンボルトは1.62×10-19ジュールに相当する)を超えると、π電子はπ軌道の相互作用の拘束から解放されて自由電子になる。例えば、2枚の平行平板電極の間隙を100μmで離間させ、この電極の間隙に10.6キロボルト以上の直流の電位差を印加させると、基底面の層間結合が瞬時に破壊される。このように、安価な黒鉛粒子の集まりに電界を印加するという極めて簡単な手段によって、大量のグラフェンが安価に製造できる。また、基底面の層間結合の全てが同時に破壊するため、得られる微細な物質は、確実に黒鉛結晶からなる基底面であるグラフェンである。
なお、ここで言う黒鉛粒子の集まりとは、1gから100g程度の比較的少量の黒鉛粒子の集まりを言う。つまり、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子は、嵩密度が0.2-0.5g/cmで、粒子の大きさが1-300ミクロンの分布を持つ微細な粒子である。従って、黒鉛粒子の集まりを2枚の平行平板電極の間隙に敷き詰めることは容易で、2枚の平行平板電極に電位差を印加することも容易である。2枚の平行平板電極の間隙に電位差を印加すると、黒鉛粒子が引きつめられた全ての領域に電界が発生する。この電界が、π軌道の相互作用より大きなクーロン力としてπ電子に作用し、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、自由電子になる。この結果、黒鉛粒子における基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、2枚の平行平板電極の間隙に、グラフェンの集まりが製造される。
ここで、懸濁体中に分散されるグラフェンの数を算術で求める。ここでは、全ての黒鉛粒子が、直径が25ミクロンの球から構成されると仮定し、黒鉛の真密度が2.25×10kg/mであるから、黒鉛粒子の1個の重さは僅かに1.84×10-8gになる。また、黒鉛粒子の厚みの平均値が10ミクロンと仮定すると、層間距離が3.354オングストロームであるので、10ミクロンの厚みを持つ鱗片状黒鉛粒子には297,265個のグラフェンが積層されている。従って、基底面の層間結合を全て破壊することで、僅か1個の球状の黒鉛粒子から297,265個のグラフェンの集まりが得られる。このため、球状の黒鉛粒子の僅か1gの集まりについて、基底面の層間結合の全てを破壊した際に、1.62×1013個からなるグラフェンの集まりが得られる。従って、本製造方法によって、僅かな量の黒鉛粒子の集まりから、莫大な数からなるグラフェンの集まりが得られる。
【0010】
8段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、
銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属が熱分解で析出する金属化合物をメタノールに分散してメタノール分散液を作成し、該メタノール分散液を、8段落に記載したグラフェンシートが容器の底面に形成されている該容器に充填し、さらに、該容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンシートの表面を前記メタノール分散液と接触させる、
この後、前記容器を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に前記メタノールが気化し、前記グラフェンシートの表面に前記金属化合物の微細な結晶の集まりが一斉に析出し、この後、前記金属化合物の微細な結晶が熱分解し、前記グラフェンシートの表面に、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる粒状の金属微粒子の集まりが一斉に析出し、該粒状の金属微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合し、前記グラフェンシートの表面が、前記金属結合した銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりによって覆われる、8段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法。
【0011】
つまり、グラフェンシートと金属化合物のメタノール分散液とが充填された容器を、金属化合物が熱分解する温度に昇温すると、最初にメタノールが気化し、グラフェンシートの表面に、金属化合物の微細な結晶の集まりが一斉に析出し、微細な結晶の集まりがグラフェンシートを覆う。すなわち、金属化合物のメタノール分散液は、金属化合物がメタノールに分子状態で分散されているため、メタノール分散液からメタノールを気化させると、金属化合物の微細な結晶の集まりが、グラフェンシートの表面に一斉に析出し、グラフェンシートの表面を覆う。なお、微細な結晶の大きさは、析出する微粒子の大きさに近い。次に、金属化合物が熱分解を始める温度に達すると、金属化合物が無機物ないしは有機物と金属とに分解する。無機物ないしは有機物の密度が金属の密度より小さいため、無機物ないしは有機物が上層に、金属が下層に析出し、上層の無機物ないしは有機物が気化熱を奪って気化し、気化が完了した直後に、40-60nmの大きさの銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる粒状の金属微粒子の集まりが、グラフェンシートの表面に、グラフェンシートの表面を覆って一斉に析出する。この金属微粒子は、不純物を持たず活性状態にあるため、互いに接触する部位で金属結合する。このため、グラフェンシートの表面に析出した金属微粒子の集まりが、互いに接触する部位で金属結合し、該金属結合した金属微粒子の集まりがグラフェンシートの表面を覆う。なお、メタノールに分散した金属化合物の量が増えると、析出する金属微粒子が増え、これによって、グラフェンシートの表面に析出する金属微粒子が増え、金属結合した金属微粒子の集まりが積層し、積層した金属微粒子の集まりで、グラフェンシートの表面が覆われる。この結果、7段落に記載したグラフェンシートの表面を、金属の微粒子の集まりで覆う際の3つの課題のうち、第1の課題が解決された。なお、金属における熱伝導性と電気導電性とは、銀、銅、金、アルミニウムの順で優れる。また、これらの金属は、いずれも硬度が低い軟質金属である。
いっぽう、グラフェンシートの表面全体が、金属結合した金属微粒子の集まりで覆われるため、金属結合した金属微粒子の集まりは一定の結合力で、グラフェンシートを覆う。また、グラフェンの扁平面を介してグラフェン同士が摩擦熱で接合されているため、グラフェンシートも一定の結合力を持つ。このため、容器からグラフェンシートを取り出す際に、容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を短時間加えると、グラフェンシートが容器から解離し、グラフェンシートを容器から取り出せる。また、取り出したグラフェンシートは、ハンドリングが可能になる。なお、容器に加える振動加速度は、グラフェンシートが極めて軽量であるため、0.4G程度の振動加速度である。
この結果、7段落に記載したグラフェンシートの表面を、金属の微粒子の集まりで覆う際の3つの課題のうち、第2の課題が解決された。
以上に説明した製造方法で製造したグラフェンシートは、次の作用効果をもたらす。
第一に、容器の底面に該底面の形状からなるグラフェンシートが製造される。従って、厚みがサブミクロンのグラフェンシートが製造でき、また、容器の底面の形状に応じて、グラフェンシートの形状と面積とが自在に変えられる。このため、熱伝導性と電気導電性との双方に優れたグラフェンシートは、面積が小さい電極や接点、細長い配線パターン、面積が広い熱伝導シートに至るまで、任意の大きさと形状と厚みを持つグラフェンシートとして、自在に製造することができる。
第二に、グラフェンシートは熱伝導性と電気導電性との双方に優れる。すなわち、グラフェンは、前記したように、銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導性と、銅の比抵抗の23倍に過ぎない電気導電性とを兼備する。従って、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆われたグラフェンシートは、相対的に熱伝導率が高い、つまり、熱が伝わりやすいグラフェンの扁平面に優先して熱が伝達し、相対的に電気導電率が高い、つまり、電流が流れやすい金属微粒子の集まりに優先して電流が流れる。この結果、グラフェンシートは、銀より優れた熱伝導性をもち、金属に近い導電性を持つ。なお、アルミニウムの比抵抗は、銅の比抵抗の1.6倍であり、アルミニウムのほうがグラフェンより導電率が高い。
第三に、グラフェンシートの表面全体が、40-60nmの軟質金属からなる金属微粒子の集まりで覆われ、表面は鏡面研磨より1桁小さい表面粗さを持ち、表面は撥水性、防汚性、潤滑性の性質を持つ。
第四に、グラフェンシートの2つの平面が金属微粒子の集まりで覆われるため、グラフェンシートを部品や基材に圧着できる。つまり、熱伝導性と電気導電性との双方に優れた銀、銅、金、アルミニウムからなる金属は、硬度が低い軟質金属であり、グラフェンシートの一方の平面に圧縮応力を加えると、この平面に形成された金属微粒子の集まりが、部品や基材の表面に塑性変形ないしは弾性変形して食い込み、あるいは圧接し、グラフェンシートが部品や基材に圧着する。このため、圧着によって、部品や基材にグラフェンシートが一体化でき、部品や基材に熱伝導性と電気導電性との双方の性質が付与できる。
第五に、熱分解で銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属を析出する金属化合物は汎用的な工業用の薬品であり、極めて簡単な処理で、グラフェンシートの表面が、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆われる。従って、安価な材料を用い、安価な費用で、任意の大きさと形状と厚みを持つグラフェンの扁平面同士が、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆われたグラフェンシートが、容器の底面に任意に製造できる。
これによって、7段落に記載したグラフェンシートの表面を、金属の微粒子の集まりで覆う際の3つの課題のうち、第3の課題が解決され、全ての課題が解決された。
【0012】
10段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、
無機物のイオンないしは無機物の分子からなる配位子が、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる金属錯体を、10段落に記載した銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属が熱分解で析出する金属化合物として用い、10段落に記載した方法に従って、グラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法。
【0013】
つまり、無機物のイオンないしは無機物の分子からなる配位子が、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機金属化合物からなる金属錯体を、還元雰囲気で熱処理すると、180-220℃で金属が析出する。すなわち、無機金属化合物からなる金属錯体は、還元雰囲気で熱処理すると、無機物と金属とに分解され、無機物が気化熱を奪って気化し、180-220℃で無機物の気化が完了し、金属が析出して熱分解反応を終える。
つまり、金属錯体を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。この金属錯体を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出する。こうした無機金属化合物からなる金属錯体は、分子量が小さいため、無機物の気化が180-220℃で完了し、金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属が析出する温度の中で最も低い。
また、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNHが配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水HOが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OHが配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンClが、ないしは塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。こうした配位子は、いずれも分子量が小さい。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる金属錯体は、無機塩の分子量が小さい。このため、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。この金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。
従って、10段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、熱分解で銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属を析出する金属化合物として、無機物のイオンないしは無機物の分子からなる配位子が、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属イオンに配位結合した無機金属化合物からなる金属錯体を用い、10段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法に従って、グラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法である。
【0014】
10段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、
カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物を、10段落に記載した銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属が熱分解で析出する金属化合物として用い、10段落に記載した方法に従って、グラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法。
【0015】
つまり、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物は、金属イオンが最も大きいイオンであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、カルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、カルボン酸と金属とに分離する。カルボン酸が飽和脂肪酸から構成される場合は、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、カルボン酸を構成する炭化水素の構造と、カルボン酸の分子量と数とに応じて、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。
こうしたカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、オクチル酸は、炭化水素が分岐構造であるため鎖の長さが短く、沸点が228℃と低い。また、炭化水素が直鎖構造であるカルボン酸は、カルボン酸の分子量が小さいほど、すなわち、直鎖の鎖が短いほど沸点が低く、ラウリン酸の沸点は296℃であり、ステアリン酸の沸点は361℃である。従って、これらのカルボン酸金属化合物は、前記した沸点に応じて、大気雰囲気の290-430℃の温度で熱分解が完了する。
なお、不飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物は、飽和脂肪酸からなるカルボン酸金属化合物に比べて、炭素原子が水素原子に対して過剰になるため、熱分解によって金属酸化物、例えば、オレイン酸銅の場合は、酸化第一銅CuOと酸化第二銅CuOとが同時に析出し、酸化第一銅CuOと酸化第二銅CuOとを銅に還元する処理を要する。特に、酸化第一銅CuOは、大気雰囲気より酸素がリッチな雰囲気で一度酸化第二銅CuOに酸化させ、さらに、還元雰囲気で銅に還元させるため、処理費用がかさむ。
さらに、カルボン酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるカルボン酸を、強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成され、カルボン酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるカルボン酸金属化合物が合成される。従って、有機金属化合物の中で最も安価な有機金属化合物である。このため、15段落で説明した無機金属化合物からなる金属錯体より熱処理温度が高いが、金属錯体より安価な金属化合物である。
従って、10段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法は、熱分解で銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属を析出する金属化合物として、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属イオンに共有結合する第一の特徴と、前記カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物を用い、10段落に記載したグラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法に従って、グラフェンシートの表面を、銀、銅、金、ないしはアルミニウムのいずれかの金属からなる金属微粒子の集まりで覆う方法である。
【0016】
8段落に記載したグラフェンシートの表面を、絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法は、
絶縁性の金属酸化物が熱分解で析出する金属化合物をメタノールに分散してメタノール分散液を作成し、該メタノール分散液を、8段落に記載した方法で製造したグラフェンシートが容器の底面に形成されている該容器に充填し、さらに、該容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記グラフェンシートの表面を前記メタノール分散液と接触させる、
この後、前記容器を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温する、これによって、最初に前記メタノールが気化し、前記グラフェンシートの表面に前記金属化合物の微細な結晶の集まりが一斉に析出し、この後、前記金属化合物の微細な結晶が熱分解し、前記グラフェンシートの表面に、前記絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりが一斉に析出し、該絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで表面が覆われた前記グラフェンシートが、前記容器の底面に該底面の形状として形成される、8段落に記載したグラフェンシートの表面を、絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法。
【0017】
つまり、最初に、8段落に記載した製造方法で、容器の底面にグラフェンシートを、該底面の形状として形成する。次に、熱分解で絶縁性の金属酸化物が析出する金属化合物をメタノールに分散し、該メタノール分散液を、グラフェンシートが容器の底面に形成された該容器に充填する。なお、金属化合物は、メタノールに分散して液相化される。この後、容器に3方向の振動加速度を繰り返し加えると、容器の底面にあるグラフェンシートの表面がメタノール分散液と接触する。なお、11段落で説明したように、容器内にグラフェンシートが存在するため、0.4G程度の振動加速度を加える。さらに、容器を金属化合物が熱分解する温度に昇温する。最初にメタノールが気化し、グラフェンシートのメタノール分散液と接触した部位に、金属化合物の微細な結晶の集まりが一斉に析出する。つまり、金属化合物のメタノール分散液には、金属化合物がメタノールに分子状態で分散されているため、メタノール分散液からメタノールを気化させると、金属化合物の微細な結晶が一斉に析出する。この後、金属化合物の微細な結晶が熱分解し、グラフェンシートのメタノール分散液と接触した部位、すなわち、グラフェンシートの表面全体に、絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりが一斉に析出し、グラフェンシートの表面全体を金属酸化物の微粒子が覆う。これによって、グラフェンシートの表面は絶縁性の金属酸化物の性質を持つ。なお、メタノールに分散した金属化合物の量が増えると、析出する金属酸化物の微粒子が増え、これによって、グラフェンシートの表面に析出する金属酸化物の微粒子が増え、金属酸化物の微粒子同士が積層し、積層した金属酸化物の微粒子の集まりで、グラフェンシートの表面全体が覆われる。
なお、金属酸化物の中で、導電性の金属酸化物としてマグネタイトFe(酸化鉄の一種で四酸化三鉄ともいう)が存在し、不純物を持つことによって、あるいは化学量論組成からずれる成分を含むことで、絶縁性が低下する金属酸化物として、酸化クロムCrO、酸化ニッケルNiO、酸化亜鉛ZnO、酸化スズSnO、酸化銅CuOなどの金属酸化物がある。これらの金属酸化物を除く絶縁性の金属酸化物は、いずれも高度が高い。例えば、モース硬度では、酸化アルミニウムAlで9、酸化クロムCrで8-8.5、酸化チタンTiO(ルチル型)で7-7.5である。これに対し、熱伝導性と電気導電性に優れる軟質金属のモース硬度は、銀で2.5、銅で2.5-3、金で2.5-3、アルミニウムで2であり、前記した絶縁性の金属酸化物より高度が低い。また、体積抵抗率は、酸化アルミニウムAlで1014-15Ω・cm、酸化チタンTiOで10Ω・cm、酸化クロムCrで1012Ω・cmで、いずれも絶縁性が高い。なお、金属酸化物は、不純物を含む、あるいは、化学量論組成からずれる成分を含むことで、絶縁性が低下する。上記3種類の絶縁性が高い金属酸化物は、化学量論組成からずれた物質を含まず、また、不純物を含まない、絶縁性が高い金属酸化物である。
【0018】
16段落に記載したグラフェンシートの表面を絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法は、
カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物を、16段落に記載した熱分解で絶縁性の金属酸化物が析出する金属化合物として用い、16段落に記載した方法に従って、グラフェンシートの表面を絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法。
【0019】
つまり、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物は、熱分解によって金属酸化物を析出する。このため、16段落に記載したグラフェンシートの表面を、絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆う方法は、絶縁性の金属酸化物を熱分解で析出する金属化合物として、前記したカルボン酸金属化合物を用い、16段落に記載した方法に従ってグラフェンシートの表面を、絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆うと、グラフェンシートの表面は電気絶縁性になる。なお、カルボン酸金属化合物の熱分解温度は、ナフテン酸金属化合物が330℃で熱分解する温度が最も高い。また、カルボン酸金属化合物の大気雰囲気での熱分解は、窒素雰囲気での熱分解より30-50℃低いため、大気雰囲気での熱分解は、熱処理費用が安価で済む。また、カルボン酸金属化合物は、メタノールに10重量%近くまで分散する。
すなわち、カルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに近づいて配位結合するカルボン酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンに酸素イオンが近づいて配位結合するため、両者の距離は短くなる。このため、金属イオンに配位結合する酸素イオンが、金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造上の特徴を持つカルボン酸金属化合物は、カルボン酸金属化合物を構成するカルボン酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカルボン酸とに分解する。さらに昇温すると、カルボン酸が気化熱を奪って気化し、カルボン酸の気化が完了した直後に金属酸化物が析出する。こうしたカルボン酸金属化合物として、酢酸金属化合物、カプリル酸金属酸化物、安息香酸金属酸化物、ナフテン酸金属酸化物などがある。
なお、酢酸金属酸化物の一部は、熱分解でアモルファス化した金属酸化物や不安定な金属酸化物を析出するため、熱分解で金属酸化物を析出するカルボン酸金属酸化物化合物は、カプリル酸金属酸化物、安息香酸金属酸化物、ナフテン酸金属酸化物からなるカルボン酸金属酸化物が望ましい。
また、カルボン酸金属化合物は、いずれも容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、汎用的なカルボン酸を強アルカリと反応させるとカルボン酸アルカリ金属化合物が生成される。この後、カルボン酸アルカリ金属化合物を、無機金属化合物と反応させると、カルボン酸金属化合物が合成される。また、原料となるカルボン酸は、有機酸の沸点の中で相対的に低い沸点を有する有機酸であり、大気雰囲気においては330℃程度の低い熱処理温度で、金属酸化物が析出する。
以上に説明したように、16段落に記載したグラフェンシートの表面を絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆う方法は、16段落に記載した絶縁性の金属酸化物が熱分解で析出する金属化合物として、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが配位子になって、金属イオンに配位結合したカルボン酸金属化合物を用い、16段落に記載した方法に従って、グラフェンシートの表面を絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで覆う方法である。
【0020】
16段落に記載したグラフェンシートを容器から取り出す方法は、
16段落に記載した方法に従って、絶縁性の金属酸化物からなる微粒子の集まりで表面が覆われたグラフェンシートを容器の底面に該底面の形状として形成し、さらに、該グラフェンシートの上方の平面を均等に圧縮する、これによって、該グラフェンシートの双方の平面の表層に形成された金属酸化物の微粒子の集まりにおいて、該金属酸化物の微粒子同士が互いに接触する部位に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって前記金属酸化物の微粒子同士が接合する、
この後、前記容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加え、該容器から前記グラフェンシートを取り出す、16段落に記載したグラフェンシートを容器から取り出す方法。
【0021】
つまり、16段落に記載した方法で製造したグラフェンシートの表面を、絶縁性の金属酸化物の微粒子の集まりで覆う際に、不純物を持たず活性状態にある金属酸化物の微粒子の集まりが、グラフェンシートの表面に析出する。金属酸化物の微粒子は、微粒子同士が互いに接触して析出するが、金属酸化物の微粒子同士は、金属結合しないため、金属酸化物の微粒子同士の結合力は小さい。このため、16段落に記載した方法で製造したグラフェンシートを容器から取り出す際に、金属酸化物の微粒子がグラフェンシートから容易に解離する。
いっぽう、絶縁性の金属酸化物は、17段落に記載したように硬度が高い。また、圧縮強度も高い。例えば、アルミナの圧縮強度は3200MPaで、銅の引張り強度の16倍である。このため、容器の底面に形成されたグラフェンシートの上方の平面を均等に圧縮すると、グラフェンシートの双方の平面の表層に形成された金属酸化物の微粒子は、変形も破壊もしないため、加えられた圧縮応力が低減することなく、微粒子同士が互いに接触する部位に摩擦熱を発生させる。この摩擦熱によって金属酸化物の微粒子同士が接合する。これによって、グラフェンシートの双方の平面は、摩擦熱で接合した金属酸化物の微粒子の集まりで覆われる。この後、容器に前後、左右、上下の3方向に、0.2G程度の振動加速度を加え、容器からグラフェンシートを取り出す。
なお、グラフェンシートの側面に形成された金属酸化物の微粒子は容器と接しているため、グラフェンシートの上方の平面を均等に圧縮した際に、金属酸化物の微粒子がグラフェンシートの側面から解離することが拘束され、側面に形成された金属微粒子についても、金属酸化物の微粒子同士が互いに接触する部位に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって金属酸化物の微粒子同士が接合する。しかし、金属酸化物の微粒子に作用する圧縮応力は、グラフェンシートの双方の平面に形成された金属酸化物の微粒子に作用する圧縮応力ほど大きくないため、金属酸化物の微粒子同士の接合力は、グラフェンシートの双方の平面に形成された金属酸化物の微粒子同士の接合力に比べれば小さい。
このグラフェンシートは、表層の金属酸化物の微粒子同士が摩擦熱で接合され、金属酸化物の微粒子の集まりは、一定の結合力を持つ。これによって、容器から取り出したグラフェンシートは、ハンドリングが可能になる。
このグラフェンシートの双方の平面は、摩擦熱で接合された金属酸化物の微粒子の集まりが形成されているため、グラフェンシートを基材や部品に圧着させることができる。つまり、グラフェンシートを部品や基材の表面に配置し、グラフェンシートの平面を均等に圧縮すると、グラフェンシートの一方の平面の金属酸化物の微粒子が、部品や基材の表面に食い込む。これによって、グラフェンシートが部品や基材に圧着され、圧着されたグラフェンシートのもう一方の平面は絶縁性を持つ。この結果、部品や基材に、熱伝導性と電気導電性に優れ、表面が絶縁性であるグラフェンシートが圧着される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】グラフェンの扁平面同士が重なり合ったグラフェンシートの側面の一部を拡大し、模式的に表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施例1
本実施例は、8段落に記載した製造方法に従って、グラフェンの扁平面同士が重なり合って接合した該グラフェンの集まりからなるグラフェンシートを、容器の底面に形成する実施例である。
最初に、2リットルのメタノールを、1.2m×1.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
次に、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積が、1m×1mである平行平板電極を用意し、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で重ね合わせ、この間隙に黒鉛粒子を満遍なく敷き詰める。なお、黒鉛粒子を粒径が25μmの球と仮定し、黒鉛粒子の厚みの平均値が10μmと仮定した場合、2枚の平行平板電極で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子を満遍なく敷き詰めた場合、6.4×10個の黒鉛粒子が存在する。この黒鉛粒子の集まりに、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すると、全ての黒鉛粒子の基底面の層間結合が同時に破壊される。この際、1.9×1013個のグラフェンの集まりが得られ、用いる黒鉛粒子の集まりは、僅かに1.18gである。
このため、電界が発生する電極の有効面積が1m×1mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のXD100)の10gを重ねて敷き詰めた。この平行平板電極を、メタノールが充填された容器に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極をメタノール中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。さらに、容器内のメタノールに、超音波ホモジナイザー装置(ヤマト科学株式会社の製品LUH300)によって20kHzの超音波振動を2分間加えた。この後、再度、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加えた。
次に、容器を65℃に昇温し、メタノールを気化した。さらに、容器の底面に形成された試料の上方の平面に、1.2m×1.2mのアルミニウム板を載せ、さらに、アルミニウム板の上に20kgの重りを載せ、試料の上方の平面を均等に圧縮した。重りとアルミニウム板とを取り除いた後に、容器に0.2Gからなる3方向の振動加速度を加え、容器から試料を取り出した。取り出した試料の上に再度アルミニウム板を載せ、さらに、10kgの重りを載せたが、試料の状態は変わらなかった。
次に、試料の2つの平面と側面とを、電子顕微鏡を用いて観察と分析を行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。最初に、試料の平面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。試料の平面に、極めて厚みが薄い段差が確認できた。次に、試料の側面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。厚みが極めて薄い物質が、10層重なり合っていた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、炭素原子のみ存在し、試料は、グラフェンの扁平面同士が重なり合ったグラフェンシートであることが確認できた。
図1に、グラフェンの扁平面同士が重なり合ったグラフェンシートの側面の一部を拡大し、模式的に表した。1はグラフェンである。
なお、容器からグラフェンシートを取り出し、グラフェンシートに10kgの重りを載せても、グラフェンシートは破壊されなかったので、一定の接合力でグラフェンの扁平面同士が接合されている。
【0024】
実施例2
本実施例は、実施例1において、容器の底面に形成したグラフェンシートの表面を、銀微粒子の集まりで覆う実施例である。
最初に、熱分解で銀を析出する金属化合物をメタノールに分散し、メタノール分散液を作成する。銀化合物として、最も合成が容易である銀錯イオンの一つである2個のアンミンが、銀イオンAgに配位結合したジアンミン銀イオン[Ag(NH+1の塩化物であるジアンミン銀塩化物[Ag(NH]Cl(例えば、田中貴金属販売株式会社の製品)を用い、ジアンミン銀塩化物の0.1モルを100ccのメタノールに分散した。このメタノール分散液を、実施例1において、グラフェンシートが容器の底面に該底面の形状として形成されている該容器に充填した。次に、0.4Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加えた。さらに、容器を、水素ガスの雰囲気で180℃まで昇温し、180℃に5分間放置した。この後、再度、容器に0.4Gからなる3方向の振動加速度を短時間加え、容器の底から試料を取り出した。
次に、試料の2つの平面と側面とを、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察と分析とを行なった。最初に、反射電子線の900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。平面と側面との双方に、40-60nmの大きさからなる粒状粒子が、満遍なく形成されていた。次に、反射電子線の900-1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡によって材質の違いを観察した。濃淡が認められなかったので、同一の物質から形成されていた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素を分析した。銀原子のみが存在し、粒状微粒子が銀微粒子であることが分かった。
次に、試料の側面に形成された銀微粒子の集まりを剥ぎ落し、試料の側面からの反射電子線の900-1000Vの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。実施例1の側面と同様に、グラフェンの扁平面同士が重なり合ったグラフェンシートが観察できた。この結果から、グラフェンシートの表面が、銀微粒子の集まりで覆われていることが分かった。
以上に説明したように、実施例1において、グラフェンの扁平面同士が接合されたグラフェンシートを容器の底面に形成し、実施例2において、銀微粒子の集まりをグラフェンシートの表面に析出させ、グラフェンシートの表面を銀微粒子で覆った。この後、容器に0.4Gからなる3方向の振動加速度を短時間加え、容器の底から試料を取り出した。この際、グラフェンシートから銀微粒子が剥離されなかったため、銀微粒子の集まりは、一定の強度でグラフェンシートを覆っていることが分かった。従って、グラフェンシートはハンドリングが可能になり、グラフェンシートを基材や部品に載せ、グラフェンシートを圧縮すると、グラフェンシートが銀微粒子を介して、基材や部品に圧着し、圧着されたグラフェンシートは、グラフェンの熱伝導性と銀の導電性を示す。
【0025】
実施例3
本実施例は、実施例1において、容器の底面に形成されたグラフェンシートの表面を、酸化アルミニウムAlの微粒子の集まりで覆う実施例である。なお、酸化アルミニウムは、1014-15Ω・cmの体積抵抗率をもち、10-15kV/mmの絶縁耐力を持つ絶縁体である。
最初に、安息香酸アルミニウムAl(CCOO)(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)の0.1モルを、100ccのメタノールに分散し、メタノール分散液を作成した。このメタノール分散液を、実施例1において、グラフェンシートが容器の底面に該底面の形状として形成されている該容器に充填した。
次に、0.4Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加えた。さらに、容器を、大気雰囲気で310℃まで昇温し、310℃に1分間放置した。この後、実施例1と同様に、アルミニウムの板を容器内の試料の上方の平面に載せ、さらに、10kgの重りを載せ、この後、重りとアルミニウムの板を取り出した。さらに、容器に0.2Gからなる3方向の振動加速度を短時間加え、容器から試料を取り出した。取り出した試料に再度5kgの重りを載せたが、試料の表面から微粒子は剥離されなかった。
この後、実施例2と同様に、電子顕微鏡によって、試料の2つの平面と側面の観察と分析とを行った。平面と側面との双方に、40-60nmの大きさからなる粒状の微粒子が、満遍なく積み重なって形成され、粒状微粒子は酸化アルミニウムで構成されていた。
この後、側面の粒状の微粒子の集まりを全て剥ぎ落し、側面を再度電子顕微鏡で観察した。この結果、実施例1の側面と同様に、グラフェンの扁平面同士が重なり合ったグラフェンシートが観察できた。
この結果から、グラフェンシートの表面が、酸化アルミニウムの微粒子の集まりで覆われていることが分かった。また、容器からグラフェンシートを取り出し、グラフェンシートに5kgの重りを載せても、酸化アルミニウムの微粒子はグラフェンシートから解離されなかったため、グラフェンシートに10kgの重りを載せた際に、酸化アルミニウムの微粒子同士が摩擦熱で接合し、酸化アルミニウムの微粒子の集まりが、一定の強度でグラフェンシートの表面を覆っていることが分かった。
以上の結果から、実施例1において、グラフェンの扁平面同士が接合されたグラフェンシートを容器の底面に形成し、実施例3において、グラフェンシートの表面に酸化アルミニウムの微粒子の集まりを析出させ、グラフェンシートの表面を、酸化アルミニウムの微粒子の集まりで覆った。この後、グラフェンシートの平面の全体に圧縮応力を均等に加えると、酸化アルミニウムの微粒子同士が、互いに接触する部位で摩擦熱によって接合した。このため、グラフェンシートはハンドリングが可能になり、グラフェンシートを基材や部品に載せ、グラフェンシートを圧縮すると、グラフェンシートが酸化アルミニウムの微粒子を介して、基材や部品に圧着し、圧着されたグラフェンシートは、グラフェンの熱伝導性をもち、表面は絶縁性を示す。
【符号の説明】
【0026】
1 グラフェン
図1