(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】ショウガ乳酸菌発酵物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20221219BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20221219BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20221219BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20221219BHJP
C12N 9/04 20060101ALN20221219BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
C12P1/04 Z
A23L33/135
A23L33/17
C12N9/04 Z
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2018145819
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】511040931
【氏名又は名称】JAPAN GINGER株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513031452
【氏名又は名称】株式会社LIKE TODO JAPAN製薬
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】西村 政晃
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】小野池 智香
(72)【発明者】
【氏名】桐生 高明
(72)【発明者】
【氏名】木曽 太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-057377(JP,A)
【文献】特開2006-296245(JP,A)
【文献】特開2014-128216(JP,A)
【文献】特開2015-154766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00-19/20
A23L 31/00-33/29
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材と、
ラッカーゼ活性を有する酵素と、乳酸菌
(但し、ラクトバチルス・プランタラム及びラクトバチルス・ブレビスの組み合わせを除く)と、を含む混合物を調製する工程1と、前記混合物を乳酸菌発酵条件に供する工程2と、を含む、ショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項2】
前記工程1が、前記発酵基材に前記酵素を添加して処理を行い、酵素処理された発酵基材を得る工程と、前記酵素処理された発酵基材に前記乳酸菌を添加して前記混合物を得る工程と、を含む請求項1に記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項3】
前記工程1において、前記発酵基材に、前記酵素と前記乳酸菌とを同時に添加することで前記混合物を得る、請求項1に記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項4】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス属(Lactobacillus属)、ラクトコッカス属(Lactococcus属)、エンテロコッカス属(Enterococcus属)、ロイコノストック属(Leuconostoc属)、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属)に属する乳酸菌からなる群より選択される、請求項1~
3のいずれかに記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項5】
前記乳酸菌が、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)及びラクトバチルス ラクティス(Lactobacillus lactis)からなる群より選択される、請求項1~
4のいずれかに記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
【請求項6】
ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材の、
ラッカーゼ活性を有する酵素による酵素処理物の乳酸菌
(但し、ラクトバチルス・プランタラム及びラクトバチルス・ブレビスの組み合わせを除く)発酵物である、ショウガ乳酸菌発酵物。
【請求項7】
請求項
6に記載のショウガ乳酸菌発酵物を含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウガの乳酸菌発酵効率を向上させた、ショウガ乳酸菌発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌には、整腸作用、免疫力強化作用、感染症の予防作用、コレステロール値低減作用などの機能性が報告されており、多くの人が、健康増進を目的として、ヨーグルトや乳酸菌製剤等を通じて乳酸菌を積極的に摂取している。
【0003】
一方で、野菜、果物、キノコ等の作物は、従来より、食物繊維を多く含むことで整腸作用が期待されることが知られている。また、これらの作物がもつ様々な機能性も解明されつつあり、当該作物を原料とする機能性食品も開発されるようになってきている。
【0004】
最近では、乳酸菌由来の機能性と野菜等の作物由来の機能性の両方を伏せ持つことが期待できる食品として、野菜等の搾汁や粉末を乳酸菌発酵した食品が製造されている。例えば、特許文献1には、加熱殺菌処理された野菜の破砕物を、ビフィドバクテリウム属、ラクトバチルス属、ペディオコッカス属及びエンテロコッカス属からなる群から選ばれる一種以上の乳酸菌により所定温度で発酵を開始し酸度上昇の終点まで発酵させた野菜破砕物の乳酸菌発酵物が記載されている。また、許文献2には、所定圧で高圧処理したトマトの破砕物を乳酸菌で発酵させた、アセチルコリン含有トマト乳酸菌発酵食品が記載されている。さらに、特許文献3には、クコの実をラクトバチルス属の乳酸菌で発酵して得られる発酵物を含有するDNAの修復促進剤が記載されている。
【0005】
さらに一方で、ショウガは、食品香料として利用されるだけでなく、その成分であるショウガオール類が、解熱作用、鎮痛作用、抗炎症作用、抗酸化作用、血行促進作用、体温上昇作用などの、人体にとって様々な有効作用をもたらすことが知られている。また、特許文献4には、ショウガに含まれるショウガオール類またはジンゲロール類が、発酵食品中の乳酸菌の働きを促進・調整し、乳酸菌数を安定させることが記載されており、具体的に、ヨーグルトの製造にショウガエキスを添加した場合において、ショウガエキスを添加しない場合に比べて菌数が格段に増加し、風味の良いヨーグルトが得られたことが示されている。さらに、非特許文献1には、バイオエタノール産生菌であるアルコール発酵性細菌ザイモモナス菌解酵系にショウガを添加することにより、ザイモモナス菌による解酵を促進することが記載されている。
【0006】
このように、ショウガには、人体に対する有効作用、及び有用菌の生育に対する有効作用があることが知られている。このような有効作用をより効率的に取得するため、ショウガオール類を富化する技術も知られている。具体的には、特許文献5に、ショウガ科植物由来の原料を発酵液と混合した後、所定温度及び湿度条件下で所定時間加熱することによって、ショウガ科植物由来の原料中のジンゲロール類をショウガオール類に変換するショウガオール類の富化方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-245573号公報
【文献】特開2018-019629号公報
【文献】特開2016-067248号公報
【文献】特開2005-013180号公報
【文献】特開2011-032248号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本農芸化学会、2006年 中四国支部講演会要旨集p.47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、乳酸菌発酵系を利用してショウガの発酵物を得ることに着目した。しかしながら、ショウガを含む基材に乳酸菌を植菌したところ、乳酸菌発酵が著しく阻害され、ショウガ乳酸菌発酵物の製造に深刻な支障を来す課題に直面した。
【0010】
そこで本発明は、ショウガの乳酸菌発酵の効率を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意検討の結果、ショウガを含む基材に対し、ポリフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシゲナーゼ、及びポリフェノールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される酵素を用いて酵素処理しておくことで、本発明の目的が達成されることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材と、ポリフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシゲナーゼ、及びポリフェノールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される酵素と、乳酸菌と、を含む混合物を調製する工程1と、 前記混合物を乳酸菌発酵条件に供する工程2と、を含むショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項2. 前記工程1が、前記発酵基材に前記酵素を添加して処理を行い、酵素処理された発酵基材を得る工程と、前記酵素処理された発酵基材に前記乳酸菌を添加して前記混合物を得る工程と、を含む項1に記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項3. 前記工程1において、前記発酵基材に、前記酵素と前記乳酸菌とを同時に添加することで前記混合物を得る、項1に記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項4. 前記ポリフェノールオキシダーゼが、ラッカーゼ活性を有する酵素である、項1~3のいずれかに記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項5. 前記ポリフェノールオキシゲナーゼが、チロシナーゼ活性を有する酵素である、項1~3のいずれかに記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項6. 前記ポリフェノールデヒドロゲナーゼが、パーオキシダーゼ活性を有する酵素である、項1~3のいずれかに記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項7. 前記乳酸菌が、ラクトバチルス属(Lactobacillus属)、ラクトコッカス属(Lactococcus属)、エンテロコッカス属(Enterococcus属)、ロイコノストック属(Leuconostoc属)、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium属)に属する乳酸菌からなる群より選択される、項1~6のいずれかに記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項8. 前記乳酸菌が、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)及びラクトバチルス ラクティス(Lactobacillus lactis)からなる群より選択される、項1~7のいずれかに記載のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法。
項9. ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材の、ポリフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシゲナーゼ、及びポリフェノールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される酵素による酵素処理物の乳酸菌発酵物である、ショウガ乳酸菌発酵物。
項10. 項9に記載のショウガ乳酸菌発酵物を含む食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ショウガの乳酸菌発酵の効率を向上させる技術が提供されるため、ショウガ乳酸菌発酵物の製造効率を劇的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例2において得られた、ショウガ使用量による乳酸菌の生育への影響の検証結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.ショウガ乳酸菌発酵物の製造方法
本発明のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法は、ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材と、ポリフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシゲナーゼ、及びポリフェノールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される酵素と、乳酸菌と、を含む混合物を調製する工程1と;前記混合物を乳酸菌発酵条件に供する工程2と、を含むことを特徴とする。以下、本発明のショウガ乳酸菌発酵物の製造方法について詳述する。
【0016】
工程1
工程1では、ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材と、ポリフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシゲナーゼ、及びポリフェノールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される酵素と、乳酸菌と、を含む混合物を調製する。本発明においては、あらかじめ当該発酵基材を特定の酵素で処理しておくことで、後述の工程2において乳酸菌を効率よく増殖させ、乳酸菌の生菌数を良好に保つことが可能となる。
【0017】
工程1の態様の一例(以下において、態様1aとも記載する)においては、前記発酵基材に前記酵素を添加して処理を行い、酵素処理された発酵基材を得る工程と;前記酵素処理された発酵基材に前記乳酸菌を添加して前記混合物を得る工程と、を含む。つまり、当該態様においては、発酵基材に対する酵素処理を先に行い、その後、処理された発酵基材に際して乳酸菌を添加する。当該態様では、酵素に酵素処理と乳酸菌による乳酸菌発酵(工程2)とが工程上区別されており、乳酸菌の添加時に、乳酸菌を生育阻害又は死滅させる物質の機能がすでに失活しているため、ショウガの乳酸菌発酵の効率をより一層向上させる点で好ましい。
【0018】
工程1の態様の他の例(以下において、態様1bとも記載する)においては、前記発酵基材に、前記酵素と前記乳酸菌とを同時に添加することで前記混合物を得る。当該態様では、酵素による酵素処理と乳酸菌による乳酸菌発酵(工程2)とが並行して進行することが許容されるため、その限りにおいて、同時に添加するとは、酵素と乳酸菌とを厳密に同時のタイミングで添加することのみならず、それらの添加のタイミングが前後していても構わない。本発明では、発酵基材中に存在する乳酸菌を生育阻害又は死滅させる物質の機能を酵素によって失活させるため、酵素と乳酸菌とを同時に添加した場合であっても、効果的にショウガの乳酸菌発酵の効率を向上させることができる。
【0019】
なお、本発明においては、ショウガの乳酸菌発酵効率を一層向上させる観点から、前記の混合物が、培地を含んだ状態で調製されることがより好ましい。この場合、態様1aにおいては、発酵基材に酵素を添加して処理を行い、酵素処理された発酵基材を得る工程の後に培地を加えることができ、態様1bにおいては、酵素と乳酸菌と共に培地も同時に添加することができる。
【0020】
ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材
本発明においては、ショウガ及び/又はショウガ由来成分を原料とする。ショウガは、ショウガ科の多年草であるショウガ(Zingiber officinale)であり、本発明においてはショウガの根茎が使用される。また、ショウガとしては、大品種、中品種、及び少品種を問わない。具体的なショウガの品種としては、三州生姜、黄生姜、金時生姜、谷中生姜、サン近江、サン白芽、サン武州、酒井紅、野添1号、オガワウマレ、備後誉、柳黄金、土佐太一、とさのひかり、黄金虚空蔵、黄金虚空蔵II等が挙げられ、好ましくは土佐太一が挙げられる。本発明においては、ショウガとして、単独の品種を用いてもよいし、複数の品種を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ショウガ及び/又はショウガ由来成分において、ショウガとしては、ショウガの根茎そのものが用いられ、生の状態であってもよいし、乾燥状態であってもよい。さらに、ショウガの形態としては、破砕物、細切物、磨砕物等が挙げられる。このようにショウガそのものを用いる場合は、ショウガの破砕物、細切物、磨砕物等を水又は水溶液に懸濁し、セルラーゼ処理を行うことが好ましい。
【0022】
ショウガ及び/又はショウガ由来成分において、ショウガ由来成分は、ショウガの構成成分の一部であって、且つ、ショウガに含まれるポリフェノールも共存する成分をいう。ショウガ由来成分の具体例としては、ショウガの圧搾汁、ショウガ抽出液、並びに、それらの希釈物、濃縮物、及び乾燥末(好ましくは凍結乾燥末)が挙げられる。
【0023】
ショウガ抽出液、及びその希釈物、濃縮物、及び乾燥末(以下、ショウガ抽出物と記載する)を得る方法としては、ショウガ成分(ポリフェノール以外)とともにポリフェノールも抽出される方法が特に限定されることなく用いられる。具体的には、抽出法としては、加熱抽出法、非加熱抽出法、超臨界抽法等が挙げられる。
【0024】
抽出溶媒としては、極性溶剤、非極性溶剤、及びそれらの混合溶剤のいずれをも使用することができる。抽出溶媒の具体例としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトニトリル;ピリジン類;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、好ましくは水、エタノール、メタノール、アセトニトリルが挙げられ、より好ましくは水又はエタノールが挙げられ、さらに好ましくは水が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
抽出条件としては、使用する溶媒に応じて当業者が適宜決定すればよいが、例えば加熱抽出法又は非加熱抽出法により、水またはエタノールを抽出溶媒として用いる場合、例えば、ショウガ1重量部に対して5~8重量部の抽出溶媒を用い、40~80℃で1~4時間かけて抽出を行うことができる。また、超臨界抽法による場合、例えば、ショウガ1重量部に対して0.5~20重量部の二酸化炭素を用い、18~43MPa、20~40℃で0.5~2時間かけて抽出を行うことができる。
【0026】
本発明において用いられる発酵基材は、好ましくは、上述のショウガ及び/又はショウガ由来成分の水希釈物として調製される。発酵基材中に含まれるショウガ及び/又はショウガ由来成分の含有量としては特に限定されないが、乾燥原料換算量として、発酵基材全体の1重量%以上、好ましくは2重量%以上、より好ましくは4重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上が挙げられる。なお、乾燥原料換算量とは、その成分量を得るために必要なショウガ乾燥物の重量をいう。したがって、生のショウガを用いる場合はそれを乾燥させた場合の重量が乾燥原料換算量であり、ショウガ乾燥物を用いる場合はそのものの重量が乾燥原料換算量であり、ショウガ抽出物を用いる場合は当該抽出物を得るために必要なショウガを乾燥させた場合の重量が乾燥原料換算量となる。
【0027】
また、発酵基材中にはショウガ及び/又はショウガ由来成分が含まれることで不可避的にポリフェノールも含まれる。ポリフェノールの種類及び含有量は特に限定されないが、たとえば、ジンゲロール(6-ジンゲロール)が8~15重量%、ショウガオール(6-ショウガオール)が0.5~0.8重量%が挙げられる。本発明においては、ショウガに含まれるポリフェノールを酵素処理にて機能失活させることで乳酸菌の増殖効率を向上させるため、ポリフェノール含有量の多いショウガ及び/又はショウガ由来成分を用いる場合であっても、効果的に乳酸菌の増殖効率を向上させることができる。このような観点から、発酵基材中に不可避的に含まれるジンゲロール(6-ジンゲロール)の含有量としては12~15重量%、ショウガオール(6-ショウガオール)の含有量としては0.7~0.8重量%より好ましく挙げられる。
【0028】
このような含有量でショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材は、本来的には乳酸菌の培養に適しておらず、仮に乳酸菌発酵系を構築したとしても、乳酸菌の生菌数が全く検出されないか、又は著しく減少する。本発明では、発酵基材中に存在する乳酸菌を生育阻害又は死滅させる物質の機能を酵素によって失活させるため、ショウガ及び/又はショウガ由来成分が本来的に乳酸菌の生育阻害又は死滅が起こるような濃度で含まれていても、効果的にショウガの乳酸菌発酵の効率を向上させることができる。
【0029】
なお、本発明において、発酵基材と酵素と乳酸菌とを含む混合物が培地を含む状態で調製される場合は、上述のショウガ及び/又はショウガ由来成分又はポリフェノールが、発酵基材に更に培地を含む状態における終濃度が上記含有量となるように含有させられる。培地に含まれる成分としては、培養や発酵に必要な炭素源、窒素源、無機塩類などの培地成分、及びグルコース、乳糖等の発酵基質が挙げられる。
【0030】
酵素
酵素は、ポリフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシゲナーゼ、及びポリフェノールデヒドロゲナーゼ(以下、これらを総称してポリフェノール酸化酵素とも記載する。)からなる群より選択される。これらの酵素は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。このようなポリフェノールに対する酸化活性を有する酵素で発酵基材を処理しない場合、乳酸菌発酵系を構築しても、まったく乳酸菌が生育しない、乳酸菌の生育不良により生育菌数が減少する、乳酸菌は増殖するもののすぐに死滅する、といった、乳酸菌の生育阻害又は死滅を招来する。この原因は、ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材に含まれる、ショウガオールやジンゲロールなどのポリフェノールが有する抗菌活性に起因すると考えられる。本発明においては、ポリフェノールに対する酸化活性を有する酵素を用いることで、乳酸菌の生育阻害又は死滅の要因となるショウガオールやジンゲロールなどのポリフェノールを酸化重合させ、その機能(抗菌機能)を失活させる。これによって、後述の工程2において乳酸菌を効率よく増殖させ、乳酸菌の生菌数を良好に保つことが可能となる。
【0031】
ポリフェノール酸化酵素の起源としては特に限定されず、微生物、植物、動物が挙げられる。また、ポリフェノール酸化酵素は、ポリフェノール酸化酵素をコードする遺伝子を遺伝子組換えにより微生物、植物、動物などの細胞に組込み発現させたものであってもよい。
【0032】
ポリフェノール酸化酵素として用いることができるものとしては、市販の酵素製剤;当該活性(具体的には、ポリフェノールオキシダーゼ活性、ポリフェノールオキシゲナーゼ活性、及び/又はポリフェノールデヒドロゲナーゼ活性)を有する植物・動物・担子菌類、その一部、又はそれらの処理物;当該活性を有する微生物の培養物(具体的には、培養上清、菌体、菌体破砕物等)又はその処理物が挙げられる。
【0033】
また、当該活性を有する植物・動物・担子菌類、その一部、又はそれらの処理物において、ポリフェノールオキシダーゼ活性を有する植物としては、リンゴ(果実)、ナシ(果実)、アボカド(果実)、バナナ(果実)、もやし(胚軸)、ジャガイモ(塊茎)、茶(葉)等が挙げられ;ポリフェノールオキシゲナーゼ活性を有する植物としてはジャガイモ(塊茎)等、担子菌類としてはマッシュルーム(子実体)等が挙げられ;ポリフェノールデヒドロゲナーゼ活性を有する植物としては西洋わさび(ホースラディッシュ)(根茎)等が挙げられる。
【0034】
上記の植物・動物・担子菌類の処理物、及び微生物の培養物の処理物は、当該植物・動物・担子菌類、又は微生物に対して、ポリフェノール酸化酵素を作用しやすくする任意の処理を行うことによって得られる。そのような処理としては、有機溶剤(アセトン等)、界面活性剤(第四アンモニウム化合物等のカチオン性界面活性剤、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、Tween等の非イオン性界面活性剤等)等を用いた化学的処理;細胞膜や細胞壁を特異的に分解する酵素による酵素的処理;せん断、凍結、磨砕(擦りおろし)、搾汁、水等による抽出処理、乾燥等の物理的処理が挙げられる。
【0035】
さらに、上記の処理物は、当該処理物そのものを用いてもよいし、担体に固定化した状態で用いることもできる。担体としては、セルロース、セラミック、ガラスビーズ等が挙げられ、これらの担体を用いる場合、処理物を担体に吸着させることで固定化することができる。また、担体としては、上述の他にも、寒天、アルギン酸塩(アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウム等)、カラギーナン等の、格子状構造を有するゲル状物質が挙げられ、これらの担体を用いる場合は、処理物を担体に包摂させることによって固定化することができる。
【0036】
上記の当該活性を有する植物・動物・担子菌類、その一部、又はそれらの処理物のより具体的な例においては、ポリフェノールオキシダーゼ活性を有する植物の処理物として、リンゴ果肉の破砕又は磨砕物、リンゴ果肉果汁、ナシ果肉の破砕又は磨砕物、ナシ果肉果汁、アボカド果肉の破砕又は磨砕物、バナナ果肉の破砕又は磨砕物、もやし胚軸の破砕又は磨砕物、ジャガイモ塊茎の破砕又は磨砕物、茶葉の水抽出液等が挙げられ;ポリフェノールオキシゲナーゼ活性を有する植物の処理物として、ジャガイモ塊茎の破砕又は磨砕物、ジャガイモ塊茎の水抽出物等、担子菌類の処理物として、マッシュルーム子実体の破砕物、マッシュルーム子実体の水抽出物等が挙げられ;ポリフェノールデヒドロゲナーゼ活性を有する植物の処理物として、西洋わさび根茎の破砕又は磨砕物、西洋わさび根茎の水抽出物等が挙げられる。
【0037】
ポリフェノールオキシダーゼの例としてはラッカーゼ活性を有する酵素が挙げられ、ポリフェノールオキシゲナーゼの例としてはチロシナーゼ活性を有する酵素が挙げられ、ポリフェノールデヒドロゲナーゼの例としてはパーオキシダーゼ活性を有する酵素が挙げられる。ラッカーゼ、チロシナーゼ、パーオキシダーゼ活性を有する具体的な酵素としては、それぞれ、ラッカーゼ、チロシナーゼ、パーオキシダーゼ活性を有していることを限度として特に限定されない。ラッカーゼ活性を有する酵素としては、ラッカーゼ及びラッカーゼ以外の酵素が挙げられ、好ましくはラッカーゼが挙げられる。ラッカーゼとしては、好ましくは、キノコなどの担子菌類由来のラッカーゼが挙げられ、特に好ましくは、カワラタケ等のトラメテス属(Trametes属)の菌類由来のラッカーゼが挙げられる。チロシナーゼ活性を有する酵素としては、チロシナーゼ及びチロシナーゼ以外の酵素が挙げられ、好ましくはチロシナーゼが挙げられる。チロシナーゼとしては、好ましくは、キノコなどの担子菌類由来のチロシナーゼが挙げられ、特に好ましくは、マッシュルーム由来のチロシナーゼが挙げられる。パーオキシダーゼ活性を有する酵素としては、パーオキシダーゼ及びパーオキシダーゼ以外の酵素が挙げられ、好ましくはパーオキシダーゼが挙げられる。パーオキシダーゼとしては、アブラナ科の植物由来のパーオキシダーゼが挙げられ、特に好ましくは西洋わさび(ホースラディッシュ)由来のパーオキシダーゼが挙げられる。
【0038】
上記のこれらのポリフェノール酸化酵素の中でも、好ましくはポリフェノールオキシダーゼが挙げられ、その中でも、特に好ましくは、ラッカーゼ活性を有する酵素が挙げられる。
【0039】
ラッカーゼ、チロシナーゼ、パーオキシダーゼ活性を有する酵素としては、市販の酵素製剤;ラッカーゼ、チロシナーゼ、パーオキシダーゼ活性を有する植物・動物・担子菌類の一部又はその処理物;ラッカーゼ活性、チロシナーゼ活性、及び/又はパーオキシダーゼ活性を有する微生物の培養物(具体的には、培養上清、菌体、菌体破砕物等)又はその処理物が挙げられる。当該処理物を得る方法、及び当該処理物の担体への固定化された態様については、すでに記載の通りである。
【0040】
工程1において、ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材に対するポリフェノール酸化酵素の使用量としては特に限定されず、乳酸菌発酵効率を向上させる程度に応じて適宜決定することができる。例えば、ショウガ及び/又はショウガ由来成分の乾燥原料換算値1mgに対し、ポリフェノール酸化酵素の使用量が2~1000U、好ましくは5~700U、より好ましくは10~300U、さらに好ましくは20~100U、一層好ましくは20~50Uが挙げられる。ここで、ポリフェノール酸化酵素の量を示す単位Uは、ポリフェノール酸化反応に必要なポリフェノール酸化酵素の量から算出することができる。すなわち、例えば至適条件下(至適温度、至適pH)で、1分間に1μmolの基質(ポリフェノール)を酸化することができるポリフェノール酸化酵素の量を1Uとする。例えばポリフェノールオキシダーゼの場合、ポリフェノールオキシダーゼの量の単位UはPOUと表され、具体的には、4-アミノアンチピリンとフェノールにpH4.5、30℃で作用するとき、ポリフェノールオキシダーゼが触媒する酸化縮合反応により生成するキノンイミン色素の505nmにおける吸光度を反応初期1分間に0.1増加させるのに必要な酵素量を1POUとする。また、ポリフェノールオキシゲナーゼの場合、ポリフェノールオキシゲナーゼの一例であるチロシナーゼの場合を挙げると、pH6.5、25℃で同酵素をL-チロシンに作用させた際1分間に1μmolのチロシンをL-DOPAに変換する酵素量、具体的には、反応液が3mLである時、280nmにおける吸光度を1分間に0.001減少させる酵素量を1Uとする。さらに、ポリフェノールデヒドロゲナーゼの場合、ポリフェノールデヒドロゲナーゼの一例であるパーオキシダーゼの場合を挙げると、40mMピロガロールおよび7.4mM過酸化水素にパーオキシダーゼを作用させて生成するプルプロガリンの赤色を420nmにおける吸光度の増加で観察し、20秒間に1mgのプルプロガリンを生成する酵素量を1Uとする。
【0041】
工程1において、ポリフェノール酸化酵素を、上記のショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材に接触させる時の温度及びpHは、使用するポリフェノール酸化酵素の至適温度及び至適pHに基づいて決定される。例えば、ポリフェノール酸化酵素としてラッカーゼを用いた場合の処理条件としては、20~60℃、pH3~9が挙げられる。このようなpH条件を得るため、ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材、又はさらに培地を含む発酵基材は、塩酸などの酸、及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウムなどの塩基を用いて適宜pH調整される。
【0042】
態様1aの場合は、工程1のうち、発酵基材にポリフェノール酸化酵素を添加して処理を行い、酵素処理された発酵基材を得る工程において、上記処理条件による処理を例えば2~24時間、好ましくは4~12時間行い、その後、処理された発酵基材に乳酸菌を添加して混合物を得ることができる。処理された発酵基材にはそのまま乳酸菌を添加してもよいが、処理された発酵基材を、溶媒抽出、溶媒沈殿、各種クロマトグラフィーにより分離精製してもよい。態様1bの場合は、発酵基材にポリフェノール酸化酵素と乳酸菌とを添加し上記処理条件を例えば2~24時間、好ましくは4~12時間行うことで混合物を得ることができる。
【0043】
乳酸菌
本発明において使用される乳酸菌は特に限定されず、通性嫌気性菌及び嫌気性菌が特に限定されることなく挙げられる。ショウガの乳酸菌発酵の効率をより一層向上させる点で、好ましくは、ラクトバチルス属(Lactobacillus属)、ラクトコッカス属(Lactococcus属)、エンテロコッカス属(Enterococcus属)、ロイコノストック属(Leuconostoc属)、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属)に属する乳酸菌が挙げられ、より好ましくは、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)及びラクトバチルス ラクティス(Lactobacillus lactis)が挙げられる。これらの乳酸菌は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
乳酸菌の菌株は、例えば独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)等の微生物菌株分譲機関からの分譲菌株であってもよいし、また、乳酸菌を含有する発酵食品(例えば、ヨーグルトなどの発酵乳、漬物、味噌など)や土壌などから分離された乳酸菌であってもよい。さらに、本発明においては、単一に分離精製された乳酸菌を用いてもよいし、乳酸菌源である発酵食品そのものを用いてもよい。
【0045】
混合物に含ませる乳酸菌は、少量であってもよいし(この場合、工程2において乳酸菌を増殖させる)、あらかじめ大量に培養させた乳酸菌を添加してもよい。また、乳酸菌をあらかじめ培養した後回収した乳酸菌休止菌体(Resting cells)を添加してもよい。
【0046】
工程2
工程2においては、工程1で得られた、発酵基材とポリフェノール酸化酵素と乳酸菌とを含む混合物を乳酸菌発酵条件に供する。具体的には、発酵基材を含む当該混合物を、乳酸菌発酵に適した条件に供することで乳酸菌発酵系を構築する。工程1で得られた混合物中において、発酵基材中のショウガ及び/又はショウガ由来成分に含まれる、乳酸菌を生育阻害又は死滅させる物質の機能が失活しているため、乳酸菌発酵系を構築することによって、乳酸菌の発育不良や生菌数減少を起こすことなく、効率よくショウガ乳酸菌発酵物を得ることができる。
【0047】
工程2においては、乳酸菌発酵により、発酵基材を含む混合物中で乳酸菌が培養され増殖する。本発明における乳酸菌発酵とは、ヨーグルトのように、食品等に乳酸菌を接種し、発酵食品を製造する反応のみならず、発酵基材を含む混合物で乳酸菌を増殖させながら乳酸菌が生産する酵素による触媒反応、及び、大量に調製した乳酸菌休止菌体(Resting cells)による菌体反応(休止菌体反応)も含まれる。
【0048】
工程2における乳酸菌発酵条件としては、乳酸発酵系を構築できる条件が、乳酸菌の種類等に応じ適宜設定することができる。乳酸菌が通性嫌気性菌であれば、発酵雰囲気は空気又は酸素であってよいが、乳酸菌が嫌気性菌であれば、発酵雰囲気はヘリウムガス、アルゴンガス等の希ガス、窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスが挙げられる。発酵温度としては、例えば20~40℃、好ましくは30~38℃が挙げられる。また、発酵時間として、例えば24時間~148時間であり、好ましくは24時間~48時間が挙げられるが、発酵の終点は、発酵物のpH及び/又は生菌数に応じて決定してもよい。具体的には、発酵物のpHが例えば4.5以下、生菌数が例えば1×108~1×1010となった時点とすることができる。
【0049】
他の工程
工程2の終了後は、工程2の終了時点の発酵液をそのままショウガ乳酸菌発酵物として得てもよいし、さらに他の工程を経た後にショウガ乳酸菌発酵物として得てもよい。他の工程としては、濃縮工程又は粉末化工程が挙げられる。濃縮工程において用いられる手法としては、発酵液を加熱蒸発させる手法が一般的であるが、乳酸菌の生菌数をより多く維持する観点からは、好ましくは、乳酸菌の死滅温度以下の温度で濃縮又は減圧濃縮を行う手法、及び限外濾過膜又は中空糸膜による膜ろ過濃縮を行う手法が挙げられる。粉末化工程において用いられる手法としては、ラクトース、デキストリン等の賦形剤を加えた後、凍結乾燥やスプレードライ等で粉末化する手法が挙げられる。
【0050】
2.ショウガ乳酸菌発酵物
本発明のショウガ乳酸菌発酵物は、ショウガ及び/又はショウガ由来成分を含む発酵基材の、ポリフェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシゲナーゼ、及びポリフェノールデヒドロゲナーゼからなる群より選択される酵素による酵素処理物の乳酸菌発酵物である。本発明のショウガ乳酸菌発酵物を製造する方法については、上記「1.ショウガ乳酸菌発酵物の製造方法」で述べた通りである。
【0051】
本発明のショウガ乳酸菌発酵物の性状としては、液状、半固形状(クリーム状、ピューレ状、粉末状)、固形状が挙げられる。
【0052】
本発明のショウガ乳酸菌発酵物は、乳酸菌由来の機能性とショウガ由来の機能性の両方を伏せ持つことが期待される。したがって、本発明のショウガ乳酸菌発酵物は、食品として好適に用いられる。本発明のショウガ乳酸菌発酵物を含む食品としては、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、特定保健用食品等の飲食品が挙げられる。本発明のショウガ乳酸菌発酵物を含む食品は、食品衛生学的に許容されうる添加物が配合されていてよい。このような添加剤としては、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、油脂等の希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。本発明のショウガ乳酸菌発酵物を含む食品の具体的な形態としては、錠剤、ハードカプセル及びソフトカプセルなどのサプリメント、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)並びに当該飲料の濃縮原液及び調整用粉末、油脂及び油脂加工食品、調味料等が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、特に言及しない限り、%は重量体積%(w/v%)を意味する。
【0054】
[培地]
MRS液体培地(前培養培地)としては、ベクトン・ディッキンソン株式会社製のMRS液体培地を脱イオン水に溶解し、121℃、15間分オートクレーブ滅菌したものを用いた。また、MRS寒天培地は、MRS液体培地に2%となるよう寒天(和光純薬製)を加え、オートクレーブ滅菌したものを用いた。本培養培地としては、5%D-グルコース、1%大豆ペプチド処理粉末、各種無機塩を脱イオン水に溶解し121℃、15分間オートクレーブ滅菌したものを用いた。また、本培養培地を10倍の濃さ(50%D-グルコース,10%大豆ペプチド処理粉末、各種無機塩類)で調製したものを10倍濃度の本培養培地(×10本培養培地)とした。
【0055】
[乳酸菌の生育の評価]
平板混釈法による生菌数測定及び培養液濁度測定による菌数評価によって、乳酸菌の生育の評価を行った。
【0056】
〔平板混釈法による生菌数測定〕
培養液又は発酵液0.05mLを4.95mLの滅菌生理食塩水を用いて10倍ずつ4段階希釈を行い、菌懸濁液を得た。これら菌懸濁液1mL中の生菌数を測定した。なお、生菌数の測定は「衛生試験法・注解(2005)」1.2.1.1細菌一般試験法3)菌数測定(1)混釈平板培養法(p.59)に準じて行った。ただし、培養にはMRS寒天培地を用い、培養条件は37℃、48時間とした。
【0057】
〔培養液濁度測定による菌数評価〕
島津製作所社製の分光光度計UV-1800を用い、生理食塩水で希釈した培養液又は発酵液の660nmにおける吸光度を測定することで、生育菌数を評価した。
【0058】
[試験例1:ラッカーゼ処理による乳酸菌の生育阻害改善効果の検証]
滅菌した3mLのMRS液体培地に、グリセロールストックで冷凍保存しておいたラクトコッカスラクティスLT57株乳酸菌を植菌し、37℃で1日間、静置培養した。得られた培養液100μLを3mLの本培養培地に植菌し、30℃で1日間、静置培養し、乳酸菌の種菌を得た。
【0059】
発酵基材としてショウガ粉末(西村青果社製、土佐太一種の磨砕物)250mgを水に懸濁して5mLとしたショウガ粉末液(5%)を二本(比較例用及び実施例用)と、5mLの水(ブランク:参考例用)とを用意した。発酵基材(比較例用及び実施例用)及び水(ブランク:参考例用)に、それぞれ、250mgのセルラーゼ剤と250mg炭酸カルシウムとを添加し、ショウガ粉末液のうち実施例用には、さらに添加したショウガ粉末1mgあたり24.8POUとなるよう50mgの大和化成株式会社製ラッカーゼダイワY120末(124,000POU/g)を加えた。ここで、酵素活性を表す単位POUに関し、ラッカーゼを4-アミノアンチピリンとフェノールにpH4.5、30℃で作用させた場合に、酸化縮合反応により生成するキノンイミン色素の505nmにおける吸光度を反応初期1分間に0.1増加させるのに必要な当該ラッカーゼの量を1POUとする。それぞれを47℃で4時間、振幅120/分で撹拌保温した後、0.5mLの×10本培養培地を加え、オートクレーブ滅菌した。培地、室温まで冷やしてから、別途調製しておいた乳酸菌の種菌を150μL加え、30℃、振幅120/分で振とう培養した。培養24時間後のラクトコッカス ラクティスLT57株生菌数を平板混釈法による生菌数測定で評価した。
【0060】
結果を表1に示す。表1から明らかなように、ショウガ粉末を含まないブランク(参考例1)では、乳酸菌の増殖が確認されたが、ショウガ粉末を含む発酵基材で乳酸菌を培養した場合(比較例1)には生菌数が検出限界以下となり、乳酸菌の生育が著しく阻害された。これに対し、ショウガ粉末を含む発酵基材をラッカーゼ処理した場合(実施例1)には、ショウガ粉末を含まない場合(参考例1)と同等に乳酸菌の増殖が確認された。つまり、ショウガ粉末を含まない培地を発酵基材として乳酸菌培養を行った場合、通常は発酵基材1mL当たり1×105~1×109cfuの生菌数が確認されることから、ショウガ粉末を含む発酵基材で乳酸菌を培養すると、生菌数は1/5~1/104減少するものといえ、ショウガ粉末を含む発酵基材をラッカーゼ処理して乳酸菌を培養すると、ショウガ粉末を含まない場合と同等の5~104倍の乳酸菌の生菌が可能であるといえる。
【0061】
【0062】
[試験例2:ショウガ含有量による乳酸菌の生育への影響の検証]
MRS液体培地中の終濃度が1%、2.5%、5%となるようにショウガ粉末をMRS液体培地に懸濁し、121℃、15分間オートクレーブで滅菌した。4℃で18時間静置したのち5,000×gで10分間遠心分離し、その上清を回収した。回収した上清(つまり、終濃度1%、2.5%、5%でショウガ粉末を懸濁したMRS液体培地からの抽出液(水抽出液))3mLを2つずつ用意し、一方は試験例1と同様にショウガ粉末1mgあたり24.8POUとなるようラッカーゼダイワY120末を添加してラッカーゼ処理を行い、他方はラッカーゼ処理を行わなかった。さらに、ラッカーゼ処理有/ラッカーゼ処理無の試料に、試験例1と同様に調製したラクトコッカスラクティスLT57株乳酸菌の種菌を5μL加え、37℃で48時間静置培養した。生育した乳酸菌の濁度を、660nmの吸収(A660)を分光光度計で測定した。
【0063】
結果を
図1に示す。
図1に示されるように、ショウガ粉末1%懸濁液からの水抽出液の場合、ラッカーゼ処理を行わなかった場合(比較例)に比べ、ラッカーゼ処理を行った場合(実施例)において乳酸菌の生育数が顕著に増加した。このような効果は、ショウガ粉末2.5%懸濁液からの水抽出液の場合により顕著となった。さらに、ショウガ粉末の含有量5%懸濁液からの水抽出液の場合には、水抽出液中の、ショウガ粉末に由来する栄養源の増加も相まって、乳酸菌の生育数に極めて顕著な増加が認められた。
【0064】
[試験例3:様々な乳酸菌を用いたショウガ乳酸菌発酵物の製造]
MRS液体培地中、終濃度が5%または10%になるようショウガ粉末を加え、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。4℃で18時間静置したのち、3,000×gで10分遠心分離した後、上清を回収した。上清をさらに同じ条件で遠心分離し、再び上清を回収した。回収した上清(つまり、終濃度5%、10%でショウガ粉末を懸濁したMRS液体培地からの抽出液(水抽出液))を25mLずつ分注し、ショウガ粉末1mgあたりラッカーゼの酵素力価が24.8POUとなるよう、5%ショウガ懸濁液からの水抽出液には250mg、10%ショウガ懸濁液からの水抽出液には500mgのラッカーゼダイワY120(124,000POU/g)を添加した(ラッカーゼ処理有)。さらに対照としてラッカーゼを添加しない試料も調製した(ラッカーゼ処理無)。
【0065】
表2に示す乳酸菌をMRS培地に植菌し、37℃で48時間静置して前培養した。前培養液5μLを、上記の5%または10%ショウガ懸濁液からの水抽出液のラッカーゼ処理有/ラッカーゼ処理無液に植菌し、37℃で48時間静置培養した。培養後の乳酸菌の生育を、以下の基準に基づいて目視で評価した。
【0066】
-:生育は確認できない
+:生育が確認できる
++:旺盛な生育が確認できる
【0067】
結果を表2に示す。表2から明らかなように、いずれの乳酸菌を用いた場合も、ラッカーゼ処理を行わなかった場合(比較例)に比べ、ラッカーゼ処理を行った場合(実施例)において乳酸菌の生育状況が顕著に良好となったことが確認できた。
【0068】
【0069】
[試験例4:ラッカーゼ処理と乳酸菌培養とを並列して行う場合の乳酸菌の生育阻害改善効果の検証]
3mLのMRS培地でラクトコッカスラクティスLT57株を、37℃で24時間静置して前培養した。さらに、試験例3に記載の10%ショウガ懸濁液からの水抽出液0.4mLに、酵素力価が、ショウガ粉末1mgあたり31POUとなるよう、0.22μmのフィルターで濾過滅菌した10%ラッカーゼ大和Y120液(ラッカーゼ処理有)を100μLまたは滅菌水(ラッカーゼ処理無)を100μL加えた後、上記のラクトコッカスラクティスLT57株の前培養液10μLを植菌し、30℃で48時間、振盪速度120/分で撹拌し発酵させた。発酵後、乳酸菌の生育の評価状況を、試験例3と同じ基準で評価した。
【0070】
結果を表3に示す。表3から明らかなように、ショウガ由来成分を含む基材にラッカーゼと乳酸菌とを同時に添加した場合であっても、ラッカーゼ処理を行わなかった場合(比較例2)に比べてラッカーゼ処理を行った場合(実施例2)において、乳酸菌の生育状況が顕著に良好となったことが確認できた。
【0071】