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特許7195529生育中の作物に用いる農作業機、生育中の作物に用いる培土器及び生育中の作物に用いる農作業機による土寄せ方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】生育中の作物に用いる農作業機、生育中の作物に用いる培土器及び生育中の作物に用いる農作業機による土寄せ方法
(51)【国際特許分類】
   A01B 13/02 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
A01B13/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018210430
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2019088277
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2017218834
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.セミナー名:平成30年度農業試験場公開セミナー、開催日:平成30年8月21日、開催場所:鳥取県農業試験場(鳥取県鳥取市橋本260) 2.集会名:平成30年度農作業省力化・低コスト化システム開発検討部会、開催日:平成30年8月29日、開催場所:園芸試験場弓浜砂丘地分場(鳥取県境港市中海干拓27) 3.試験日:平成30年10月17日、試験場所:鳥取県西伯郡大山町末吉、鳥取県米子市彦名新田、鳥取県米子市水浜、の三つの圃場 4.セミナー名:弓浜砂丘地分場ふれあいセミナー、開催日:平成30年11月7日、開催場所:園芸試験場弓浜砂丘地分場(鳥取県境港市中海干拓地27)
(73)【特許権者】
【識別番号】592072791
【氏名又は名称】鳥取県
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】徳田 要介
(72)【発明者】
【氏名】小西 実
(72)【発明者】
【氏名】上田 純一
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-139205(JP,A)
【文献】特開平10-042601(JP,A)
【文献】実開平01-118601(JP,U)
【文献】実開昭57-189301(JP,U)
【文献】特開2001-178201(JP,A)
【文献】特開2008-161155(JP,A)
【文献】特開平11-289802(JP,A)
【文献】特開平06-217602(JP,A)
【文献】特開2007-143484(JP,A)
【文献】実開昭60-038503(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 3/00 - 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
畝と畝との間を走行する本体と、
前記本体に取り付けられ、前記本体の左側の畝と前記本体の右側の畝に植えられた生育中の作物に向けて土寄せを行う培土器と、
からなる農作業機であって、
前記培土器は、前記本体の左右に配置され、畝肩の上部の土を寄せる高さに配置された一対のローラ部を備え
前記ローラ部は、縦方向の回転軸で軸支されたローラからなることを特徴とする生育中の作物に用いる農作業機。
【請求項2】
前記培土器は、前記ローラ部の後方に培土板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の生育中の作物に用いる農作業器。
【請求項3】
前記ローラ部は、進行方向の前方から後方に向かって、徐々に前記作物に近付くように配置された複数の前記ローラからなることを特徴とする請求項1に記載の生育中の作物に用いる農作業機。
【請求項4】
畝と畝との間を走行する農作業機に取り付けられ、前記農作業機の左側の畝と前記農作業機の右側の畝に植えられた生育中の作物に向けて土寄せを行う培土器であって、
縦方向の回転軸で軸支されたローラからなり、土を寄せる左右一対のローラ部と、
畝肩の上部の土を寄せる高さに前記ローラ部を農作業機の両側にそれぞれ取り付ける一対のローラ取付部と、
からなることを特徴とする生育中の作物に用いる培土器。
【請求項5】
前記ローラ部の後方に更に培土板を備えたことを特徴とする請求項4に記載の生育中の作物に用いる培土器。
【請求項6】
前記ローラ取付部には、
前記ローラ部の高さを調整する高さ調整部、
前記ローラ部の傾きを調整する傾き調整部、
前記ローラ部の進行方向の前後の位置を調整する前後位置調整部、
前記ローラ部の進行方向の左右の位置を調整する左右位置調整部、
の少なくとも何れかを備えることを特徴とする請求項4に記載の生育中の作物に用いる培土器。
【請求項7】
前記一対のローラ取付部の前記ローラ部の間隔は、前記一対のローラ取付部の前端側をコイルバネを用いて連結し、前記コイルバネにより前記一対のローラ取付部の後端側を広げる方向に付勢することにより、調整可能となっていることを特徴とする請求項4に記載の生育中の作物に用いる培土器。
【請求項8】
畝と畝との間を走行する本体と、
前記本体に取り付けられ、前記本体の左側の畝と前記本体の右側の畝に植えられた生育中の作物に向けて土寄せを行う培土器と、
からなる農作業機による土寄せ方法であって、
前記本体は、ロータリーを備え、
前記培土器は、前記本体の左右に配置されると共に、畝肩の上部の土を寄せる高さに配置され、縦方向の回転軸で軸支されたローラからなる一対のローラ部を備え、ており、
前記ロータリーの後方に前記培土器を配置するとともに、前記ロータリー側を先頭にして進行することを特徴とする生育中の作物に用いる農作業機による土寄せ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土を寄せるローラ部を備えた、生育中の作物に用いる農作業機、生育中の作物に用いる培土器及び生育中の作物に用いる農作業機による土寄せ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作物の土寄せ作業では、市販の培土器(たとえば特許文献1のような形状)が用いられていることもある。市販の培土器は、畝の全法面(全ての高さ)を形成するものであり、生育中の白ネギの株元に向けて適度な土寄せを行うのには適していない。
【0003】
白ネギ栽培で行われる土寄せ作業は、非特許文献1に示されるように、生育中の白ネギの株元に向けてM字をキープしながら4、5回行われる。畝の全法面を形成する市販の培土器ではこのようなM字の土寄せに適していなかった。このため、生育中の作物の土寄せは、一般的には管理機で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-178201号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】http://www.takii.co.jp/tsk/saizensen_web/nebukanegi/flow.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、台風などの強風による倒伏防止のために行われる土寄せ作業や軟白のための土寄せ(緑化防止の最終土寄せ作業)は、白ネギの根元に土を押し込む。この場合は、白ネギ栽培で行う通常のM字ではなく、白ネギを支えるようにネギ根元部に幅10cm程度の土寄せを行う必要があり、管理機を用いるのではなく手作業で行われる。
【0007】
特に台風などの強風による倒伏防止のための緊急時の土寄せは、高齢化や人手不足の現状において、手作業ではなかなか間に合わず、強風の被害を受けることもある。また、本発明の発明者や白ネギ栽培を行っている農家が、実際に市販の培土器を用いて、土寄せ作業を行ってみたが、満足のいく仕上がりにならなかった。
【0008】
また、白ネギ栽培において「止め」と呼ばれるような緑化防止の最終土寄せは、土を寄せるとともに、白ネギの首元に土をしっかり締め付けておく必要がある。このため非常に繊細な作業であることから、従来ほぼ手作業で行われていた。このため、白ネギ農家にとって、収穫作業や搬送作業と共に、最終土寄せ作業は、苦痛な作業の一つであった。
【0009】
そこで、土寄せ作業が素早く行えるとともに、畝に植えられた生育中の作物に対して土をしっかりと寄せることができる農作業機、培土器及び農作業機による土寄せ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の生育中の作物に用いる農作業機は、本体と、前記本体に取り付けられ、畝に植えられた生育中の作物に向けて土寄せを行う培土器と、からなる農作業機であって、前記培土器は、畝肩の上部の土を寄せる高さに配置されたローラ部を備えたことを特徴とする。
【0011】
これにより、畝肩の上部のみの土を寄せることができるので、畝に生育中のネギの根元への土寄せが可能となる。これにより、従来手作業であった強風による倒伏防止の土寄せを農作業機で素早く行うことができる。また、全法面でなく上部のみの土を寄せるので土の移動量が少なく、ローラの回転によって土の抵抗が小さいので、小さな動力でよい。なお、畝肩の上部のみの土を寄せることができるので、ネギのみでなく、他の生育中の作物の倒伏防止にも適用でき、また、イモの緑化防止(有毒なソラニン防止)の土寄せにも適用することができる。
また、本発明の生育中の作物に用いる農作業機においては、前記培土器は、前記ローラ部の後方に培土板を備えることが好ましい。
【0012】
このように、ローラ部の後方に培土板を備えることで、まずローラ部によって白ネギの周りに土を寄せ、そして更に培土板によって、白ネギの首元に土を寄せるとともに、その土を押し固めることができる。このため、白ネギ栽培における最終土寄せを従来の手作業と同等に行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明の生育中の作物に用いる農作業機においては、前記ローラ部の土寄せ面は、前記畝の法面の傾斜以上の傾斜を有している、つまり畝の法面に比べ、鉛直面となす角度(以下、傾斜角)が大きいことが好ましい。
このように、法面の上部の土を寄せるローラの土寄せ面が傾斜しているので、既存の畝の土を崩落させにくい。
【0014】
また、本発明の生育中の作物に用いる農作業機においては、前記ローラ部は、進行方向の前方から後方に向かって、徐々に前記作物に近付くように配置された複数のローラからなることが好ましい。
【0015】
円弧面で土を移動させるとき、円の中心から右側の土は右へ移動し、左側の土は左に移動する。本発明は、大きなローラ1つではなくて、多段の小さな複数のローラで土を寄せるので、広範囲の土を寄せることができ、また、逆方向に移動する土が少なくなるので、土の落下を減少させることができる。
また、本発明の生育中の作物に用いる農作業機においては、複数の前記ローラは、前方ローラに比べ後方ローラの軸の傾斜が小さくなっていることが好ましい。
これにより、寄せる土の量が次第に増加する。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の生育中の作物に用いる培土器は、農作業機に取り付けられ、畝に植えられた生育中の作物に向けて土寄せを行う培土器であって、土を寄せるローラ部と、畝肩の上部の土を寄せる高さに前記ローラ部を農作業機の両側に取り付ける一対のローラ取付部と、からなることを特徴とする。
【0017】
これにより、ローラの回転によって土の抵抗が小さいので、小さな牽引力の農作業機でもよく、また、素早く生育中の作物の株元に向けて土寄せを行うことができる。そして、畝肩の上部の土を寄せるようにローラ部の位置を持ち上げて培土器を農作業機に搭載させるので、ネギなどの生育中の作物の倒伏防止作業を素早く行うことができる。また、M字の形状の畝で軟白のための土寄せ(緑化防止の最終土寄せ)や、イモの緑化防止の土寄せもできる。
【0018】
また、本発明の生育中の作物に用いる培土器においては、ローラ部の後方に更に培土板を備えることが好ましい。培土器を農作業機に搭載して用いることで、白ネギ栽培における最終土寄せに非常に適したものとなる。
【0019】
また、本発明の生育中の作物に用いる培土器においては、前記ローラ取付部には、前記ローラ部の高さを調整する高さ調整部、前記ローラ部の傾きを調整する傾き調整部、前記ローラ部の進行方向の前後の位置を調整する前後位置調整部、前記ローラ部の進行方向の左右の位置を調整する左右位置調整部、の少なくとも何れかを備えることが好ましい。
【0020】
これにより、高さや幅などが異なる種々の形状の畝に適用することができ、また、種々の作物や季節に応じて土送りを適切な形状に形成・調節することができる。
【0021】
また、本発明の生育中の作物に用いる培土器においては、前記一対のローラ取付部の前記ローラ部の間隔が調整可能となっていることが好ましい。これにより、条間が異なる畝に適用することができる。
【0022】
また、本発明の生育中の作物に用いる培土器においては、前記ローラ取付部には、前記培土板の高さを調整する高さ調整部、前記培土板の傾きを調整する傾き調整部、前記培土板の進行方向の前後の位置を調整する前後位置調整部、前記培土板の押圧を調整する押圧調整部、の少なくとも何れかを備えることが好ましい。これにより、前方に取り付けられたローラ部に合わせて、培土板を最適な位置に調整することが可能となり、また、培土板による土寄せの形状を調整することが可能となる。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明の生育中の作物に用いる農作業機による土寄せ方法は、本体と、前記本体に取り付けられ、畝に植えられた生育中の作物に向けて土寄せを行う培土器と、からなる農作業機による土寄せ方法であって、前記本体は、ロータリーを備え、前記培土器は、畝肩の上部の土を寄せる高さに配置されたローラ部を備え、ており、前記ロータリーの後方に前記培土器を配置するとともに、前記ロータリー側を先頭にして進行することを特徴とする。
【0024】
この培土器により畝肩の上部のみの土を寄せることができるので、畝に生育中のネギの根元への土寄せが可能となる。また、ロータリー側を先頭にして進行する際に、このロータリーを使用しながら進行することで、ロータリーの回転による土寄せとともに、培土器による土寄せを行うことが可能となる。従って、倒伏防止のための緊急時の土寄せや白ネギ栽培における最終土寄せにおいては、白ネギに対する事前の土寄せが不十分な場合に、ロータリーによる土寄せ作業と、培土器による土寄せ作業を一度の作業で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態の生育中の作物に用いる管理機の要部の構成を示す平面図である。
図2】第1実施形態に係る管理機の正面図である。
図3】第1実施形態に係る管理機の進行方向の左側を示す図である。
図4図4Aは畝の断面に対するローラ部の位置を示す図であり、図4Bは強風による倒伏防止のための土寄せ状態を示す実験結果の畝の断面図である。
図5】本発明の試作機による土寄せ試験を示す画像である。
図6】第2実施形態に係る管理機の平面から撮影した図である。
図7】第2実施形態に係る管理機の進行方向に対する正面から撮影した図である。
図8】第2実施形態に係る管理機の進行方向の左側から撮影した図である。
図9】第2実施形態に係る管理機の左側の培土板を示す平面から撮影した図である。
図10】Aは第2実施形態に係る左側の培土板を背面から撮影した図であり、Bは左側の培土板を右側から撮影した図である。
図11】AからBへの変化は培土板の作用効果を示す畝の撮像である。
図12】AとBの比較は培土板の作用効果を示すネギの撮像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0027】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態の生育中の作物に用いる農作業機(以降、管理機100と記す。)の構成を、図1図3を用いて説明する。本実施形態の管理機100はM字の形状をした畝で生育中のネギに、強風による倒伏防止として土寄せをする機械である。本実施形態の管理機100は、市販の管理機(あるいは小型耕うん機)である本体1に培土器2を搭載したものである。管理機100は、バックで土寄せを行う。従って、土寄せを行うときの管理機100の進行方向は、図1では下方向、図2では手前方向、図3では左方向となる。なお、ここでは「前」「後」「左」「右」を土寄せ時の培土器2の進行方向に対して用いる。従って、図1では下方向が「前」で、上方向が「後」で、右方向が「左」で、左方向が「右」となる。
【0028】
培土器2は、土を寄せる一対のローラ部20、30と、畝肩の上部の土を寄せる高さにローラ部20、30を管理機100の本体1の両側に取り付ける一対のローラ取付部40、50と、からなる。
【0029】
より具体的には、培土器2は、左右一対のローラ部20、30と、左右一対のローラ取付部40、50と、ローラ取付部40、50を管理機100の本体1に保持するシャーシ61と、ローラ取付部40、50の前端を連結するコイルバネ63と、ローラ取付部40、50の後端を本体1に保持する左右一対の同一形状のチェーン64と、管理機100の駆動輪である前輪11に取り付けられたスパイク91からなる。
【0030】
左右のローラ部20、30は、実際に土寄せを行うものである。ローラ部20、30は、夫々回転可能に縦方向の回転軸で軸支されるローラで構成されている。このローラ部20、30を構成するローラとして、具体的には、円筒部が、直径12cm高さ10cmの前ローラ20F、30Fと、直径9cm高さ10cmの中央ローラ20M、30Mと、直径12cm高さ15cmの後ローラ20B、30Bからなる。
【0031】
なお、前ローラ20F、30Fは(後述の)前ローラ調整部45F、55Fにより、中央ローラ20M、30Mは(後述の)中央ローラ調整部45M、55Mにより、後ローラ20B、30Bは(後述の)後ローラ調整部45B、55Bにより、ローラ取付部40、50を構成するフレーム42、52に取り付けられている。
【0032】
左右のローラ取付部40、50は、ローラ部20、30を本体1の両側に取り付けるためのものである。具体的には、ローラ取付部40、50は、それぞれ、シャフト41、51と、パイプ状のフレーム42、52と、コイルバネ係合部43、53と、チェーン係合部44、54と、前ローラ調整部45F、55Fと、中ローラ調整部45M、55Mと、後ローラ調整部45B、55Bと、で構成されている。なお、ローラ取付部40、50の詳細は、後述する。
【0033】
シャーシ61は、ローラ取付部40、50を管理機100の本体1に保持するためのものである。シャーシ61は、図1図3に示すように、ローラ取付部40、50を保持するため、左右同一形状の取付パイプ62を左右ずつ備えている。この左右の取付パイプ62は、溶接されている。また左右に複数の取付パイプ62を備えているので、異なる幅の条間に対応することができ、また、後述のコイルバネ63の張力の調整もできる。なお、シャーシ61は、必ずしも溶接で本体1に固着される必要はなく、着脱可能な固定方法で本体1に固定されてもよい。
【0034】
シャーシ61は、ローラ取付部40、50を管理機100の本体1に保持するためのものである。シャーシ61は、本体1のエンジンマウントにボルトで固定され、図1図3に示すように、ローラ取付部40、50を保持するため、左右同一形状の取付パイプ62を左右2つずつ備えている。この左右の取付パイプ62は、シャーシ61に垂直に溶接されている。また左右に複数の取付パイプ62を備えているので、異なる幅の条間に対応することができ、また、後述のコイルバネ63の張力の調整もできる。
【0035】
コイルバネ63は、ローラ取付部40、50の前端を連結するためのものである。また、コイルバネ63は、ローラ取付部40、50を構成するフレーム42、52の後端を広げる方向に付勢する。
チェーン64は、ローラ取付部40、50の後端を本体1に保持するためのものであり、一対の同一形状のものからなる。
ここで、ローラ取付部40、50の詳細についてあらためて説明を行う。
【0036】
左右のシャフト41、51は、本体1に対するローラ取付部40、50の高さを調整するためのものである。シャフト41、51には、高さ調整用の複数のピン孔41a(シャフト41側のみ図示)が、設けられている。所定のピン孔41aにスナップピンPが挿入されることで、シャフト41、51は、スナップピンPの位置の高さまでシャーシ61の取付パイプ62に嵌入される。これにより、シャフト41、51は、回動可能に軸支されるとともに、スナップピンPが挿入されるピン孔41a(シャフト41側には図示していないピン孔)の位置によって、高さを調整できる。従って、本体1に対するローラ取付部40、50の高さを変えることができる。
【0037】
左右のフレーム42、52は、後述する前ローラ調整部45F、55Fと、中ローラ調整部45M、55Mと、後ローラ調整部45B、55Bを嵌入により保持するものである。図1図3に示すように、フレーム42、52は、垂直に軸支されるシャフト41、51の上端に、パイプ状の前部42a、52aが溶接され、水平状態となっている。また、図1に示すように、フレーム42、52の後部42b、52bは、途中2回の曲げ加工とともに、前部42a、52aと平行に延在している。
【0038】
左右のコイルバネ係合部43、53は、コイルバネ63を係合するものである。コイルバネ係合部43、53は、左右のフレーム42、52の前端にそれぞれ設けられている。
【0039】
右のコイルバネ係合部53は、コイルバネ63の右端をボルトB1で固着する。左のコイルバネ係合部43は、一端に係合孔431、他端にハンドル432が設けられた雄ネジ433を備えている。そして、コイルバネ係合部43は、コイルバネ63の左端を係合孔431に係合し、ハンドル432を回転することで、係合孔431を左右に移動できる構成となっている。従って、コイルバネ係合部43は、コイルバネ63の張力を調整することができるようになっている。なお、ハンドル432が回転されても係合孔431は回転しないように、係合孔431は、雄ネジ433に対して回転自在に軸支されている。
【0040】
左右のチェーン係合部44、54は、チェーン64の一端を保持するものである。チェーン64の他端は、本体1の側面のロータリーカバー取り付けボルトで固定されている。このチェーン係合部44は、図3に示すように、チェーンパイプ441と、チェーンパイプ441の軸の中心に向かって螺入するボルトB2と、S字形状のフックSからなる。チェーンパイプ441は、フレーム42の後端側に挿入され、ボルトB2によって圧着される。なお、チェーン係合部54も、同一形状となっている。
【0041】
フレーム42、52は、前端に連結されたコイルバネ63によって、その後端が広がる方向に付勢されることになる。一方、コイルバネ63の付勢力に抗して、フレーム42、52の後端を本体1側に寄せ、チェーン64をチェーン係合部44、54のフックSに係合しておくことで、フレーム42、52の後端位置が保持されることになる。また、フックSと係合するチェーン64の鎖の孔を変えることにより、フレーム42、52の広がりを調整することができる。
【0042】
スパイク91は、管理機100の滑り止めであり、管理機100の駆動輪である前輪11にボルトB3で螺着される。なお、本発明者は、砂地の畑においてスパイク91装着の有り無しの管理機100を用い、実際に土寄せ作業を行った。その結果、スパイク91を装着する管理機100の場合、砂に前輪11がくい込むことで駆動力が増し、作業速度が非常に速くなった。従って、砂地の畑での作業においては、管理機100の駆動輪が本実施形態のようなスパイク状のものが適している。また、作業時以外での管理機100の移動を考慮すると、スパイク状の駆動輪は、本実施形態のように取り外し可能なスパイク100を駆動輪に取り付けて構成することが好ましい。
前ローラ調整部45F、55Fは、前ローラ20F、30Fをフレーム42、52に取り付けるためのものである。
【0043】
ここで、前ローラ調整部45Fは、前ローラパイプ45F1と、前ローラパイプ45F1の軸の中心に向かって螺入する前ボルトBFからなる。前ローラパイプ45F1には前ローラ20Fを軸支する軸21Fが溶接され、フレーム42の後部42bから嵌入される。
【0044】
これにより、前ローラ調整部45Fは、前ローラ20Fを前後に移動することができる。また、前ローラ調整部45Fは、前方から見て前ローラ20Fの傾斜角度を自由に変えることができる。そして、前ボルトBFによって前ローラ20Fを所望される前後位置と傾斜に保持する。
なお、前ローラ調整部55Fも同様の構成となっており説明を省略する。
【0045】
このように、前ローラ調整部45F、55Fは、前ローラ20F、30Fの、進行方向の前後の位置を調整する前後位置調整部と、傾きを調整する傾き調整部と、を備えた構成となっている。
中央ローラ調整部45M、55Mは、中央ローラ20M、30Mをフレーム42、52に取り付けるためのものである。
【0046】
ここで、中央ローラ調整部45Mも前ローラ調整部45Fと同様に、中央ローラパイプ45M1と、中央ローラパイプ45M1の軸の中心に向かって螺入する中央ボルトBMからなる。
中央ローラパイプ45M1には中央ローラ20Mを軸支する軸21Mが溶接され、フレーム42の後部42bの前ローラ調整部45Fの後方に嵌入される。
【0047】
これにより、中央ローラ調整部45Mは、中央ローラ20Mを前後に移動することができる。また、中央ローラ調整部45Mは、前方から見て中央ローラ20Mの傾斜角度を自由に変えることができる。そして、中央ボルトBMによって中央ローラ20Mを所望される前後位置と傾斜に保持する。
なお、中央ローラ調整部55Mも同様の構成となっており説明を省略する。
【0048】
このように、中央ローラ調整部45M、55Mは、中央ローラ20M、30Mの、進行方向の前後の位置を調整する前後位置調整部と、傾きを調整する傾き調整部と、を備えた構成となっている。
後ローラ調整部45B、55Bは、後ローラ20B、30Bをフレーム42、52に取り付けるためのものである。
【0049】
後ローラ調整部45Bは、第1パイプ45B1と、第1パイプ45B1の軸の中心に向かって螺入する第1ボルトBB1と、第2パイプ45B2と、第2パイプ45B2の軸の中心に向かって螺入する第2ボルトBB2と、第1シャフトSH1と第2シャフトSH2を溶接によりL字の形状に接合してなるL字シャフト45B3と、第3パイプ45B4と、第3パイプ45B4の軸の中心に向かって螺入する第3ボルトBB3からなる。
【0050】
第1パイプ45B1は、フレーム42に嵌入された中央ローラ調整部45Mの後方に嵌入されており、前後に移動可能となっている。また、第1パイプ45B1は、回転自由となっている。従って、第1パイプ45B1は、第1ボルトBB1によって、前後位置と回転角度を調整可能となっている。
【0051】
第2パイプ45B2は、第1パイプ45B1に直角に溶接されている。そして、L字シャフト45B3の第1シャフトSH1が、第2パイプ45B2に嵌入される。従って、L字シャフト45B3は、第2ボルトBB2によって、第2シャフトSH2側の高さと軸の向きを調整可能となっている。
【0052】
第3パイプ45B4には後ローラ20Bを軸支する軸21Bが溶接されている。また、第3パイプ45B4は、第2シャフトSH2に嵌入される。従って、第3パイプ45B4は、第3ボルトBB3によって、第2シャフトSH2の軸方向の位置と回転角度を調整可能となっている。
【0053】
このような後ローラ調整部45Bの構成により、後ローラ20Bは、第1ボルトBB1によって、前後位置と、前から見た傾斜と、を調整することができる。また、後ローラ20Bは、第2ボルトBB2によって、高さと、平面視での第1シャフトSH1の軸を中心とする円弧状の位置と、を調整することができる。また、後ローラ20Bは、第3ボルトBB3によって、第2シャフトSH2の軸方向の位置と、その回転角度と、を調整することができる。
なお、後ローラ調整部55Bも同様の構成となっており説明を省略する。
【0054】
このように、後ローラ調整部45B、55Bは、後ローラ20B、30Bの、進行方向の前後の位置を調整する前後位置調整部と、傾きを調整する傾き調整部と、高さを調整する高さ調整部と、進行方向の左右の位置を調整する左右位置調整部と、を備えた構成となっている。
【0055】
上述の構成により、左右のローラ部20、30(片側3つのローラの集合体)は、スナップピンPによって高さを調整することができる。また、ローラ部20、30は、フックSと係合するチェーン64の孔の選択によって離間距離を調整することができる。
また、前ローラ20F、30Fは、前ローラ調整部45F、55Fの前ボルトBFによって、単独で前後の位置と傾斜を調整することができる。
中央ローラ20M、30Mは、中央ローラ調整部45M、55Mの中央ボルトBMによって前後の位置と傾斜を調整することができる。
【0056】
後ローラ20B、30Bは、後ローラ調整部45B、55Bの第1ボルトBB1、第2ボルトBB2、第3ボルトBB3によって、単独で前後の位置、左右の位置、高さ、傾斜の調整ができる。
【0057】
なお、上述の実施形態では、培土器2は、後ローラ20B、30Bのみ単独で左右の位置、高さを調整できるようにしたが、前ローラ20F、20Fと中央ローラ20M、230Mも単独で左右の位置、高さを調整できるようにしてもよい。
【0058】
次に、図4図5を用いて、ローラ部20、30の位置と傾斜の調整について説明する。本発明の動機は生育中の白ネギの倒伏防止策であり、これについて説明する。但し、本発明の適用は倒伏防止に限定するものでもなく、ネギに限定するものでもない。図4Aは白ネギの強風による倒伏防止の土寄せ時の畝の断面に対するローラ部の位置を示す図である。図中、破線は土寄せ前を示し、実線は土寄せ後を示す。図4Bは実験結果の図である。なお、図5は本発明の試作機による土寄せ試験を示す参考画像である。
【0059】
白ネギは遮光のために4,5回程株元に土寄せが行われる。白ネギの葉鞘部を遮光すれば白くて長くしまった葉鞘部となり、これを軟白という。この土寄せは白ネギの栽培では品質と収穫量に掛かる重要な管理である。このように、白ネギでは何度も土寄せが行われるために、土寄せをし易いように畝の形状は、株元近傍に土が盛られたM字形が理想とされている。
【0060】
畝を形成する一般的な管理機は、耕された土を盛り上げるものであり、管理機の車輪の略底部から土を上げて畝を形成する。白ネギの土寄せの量は少なすぎると軟白が減少し、多すぎると根の呼吸作用が阻害されたり、土圧が高くなりすぎたり、軟白が長くなりすぎて細くなったりする。
【0061】
しかしながら、台風などの強風では、倒伏防止のために短期間に株元周辺に土寄せをする必要がある。この倒伏防止の土寄せは、難しい作業であり、具体的には、図4に示すように、土寄せ前の上部の土を白ネギの株元近くに寄せ、株元から10cm程度離れた位置に、盛土の壁を作るように行わなければならない。このような土寄せを行うことで、強風による影響を抑えることができる。一方、単に白ネギの株元に土を寄せ、直接土で覆ってしまうと、腐れなどの病が生じるおそれがある。従って、倒伏防止の土寄せは難しい繊細な作業であることから、手作業ではなかなか間に合わなかった。とくに大規模農家では、作業が間に合わず、被害リスクが高い。また、従来の管理機は畝の法面全部の土を上げるものであり、また、寄せる土の量を適切な値に調節できるものではなかったので、M字の畝の上部の土のみを株元へ寄せることはできなかった。
【0062】
そこで、本実施形態の管理機100は、全てのローラ20F、30F、20M、30M、20B、30Bを管理機100の前輪11、後輪12の接地面よりもH(例えば、15cm~20cm)だけ高い位置に調整できるようになっている。これにより、図4Aに示すように、全てのローラがM字の畝の上部の土のみ白ネギの株元へ寄せることができる。このように、管理機100は、畝肩の下方の土は上げないので小さな動力で素早く土寄せができる。また、回転するローラを使用するので、土の抵抗が少なく、より小さな動力となる。
【0063】
また、管理機100は、土を寄せるのに前ローラ20F、30F、中央ローラ20M、30M、後ローラ20B、30Bが順次土を寄せる方向に向けてずれる多段階のローラになっている。したがって、1つの大きなローラのみと比較して、多段階の小さな複数のローラで土を寄せるので、広範囲の土を寄せることができ、また、逆方向に移動する土が少なくなるので、土の落下を減少させることができる。
【0064】
また、最初に土を寄せる前ローラ20F、30Fは、法面の傾斜角(θ)よりも大きい傾斜角(θ1)となっている(θ1>θ)。本実施形態の土寄せは法面の上方を土寄せするので、土が下方にこぼれ落ち易い。このために、θ1>θとして、土を白ネギ側に押すようにして、土の落下を低減している。
【0065】
また、中央ローラ20M、30Mの傾斜角(θ2)は前ローラ20F、30Fの傾斜角(θ1)よりも小さくなっており、後ローラ20B、30Bの傾斜角(θ3)は中央ローラ20M、30Mの傾斜角(θ2)よりも小さくなっている。傾斜角が大きいと土がこぼれ落ちにくくなるが、その反面寄せる土の量が少なくなる。そのために、白ネギに近づくにしたがって傾斜角を小さくし、寄せる土の量を増加させている。
【0066】
また、白ネギの条間は一般的に1mである。管理機100は、例えば1m以外の畝にも適用できるように、左右のフレーム42、52を軸支させ、フレーム42、52の前端をコイルバネ63で連結し、フレーム42、52の後端のフックSを掛けるチェーン64の孔の位置を変更することで、ローラ部20、30の間隔を調整できるようになっている。
【0067】
また、管理機100は、コイルバネ63によって、左右のローラ部20、30に閾値以上の力が掛かったときは本体側に移動する構成となっている。例えば、条間の一部が急に狭くなっているような場所でも、条間の歪に対応して土寄せを行うことができる。この閾値はコイルバネ63用のハンドル432で調整することができる。
【0068】
また、管理機100は、スナップピンPの挿入位置変更によって片側の3つのローラの高さを一度に変更することができるので、高さの異なる畝に対しても簡単に対応することができる。
【0069】
また、前ローラ20F、30Fと中央ローラ20M、30Mは、前後位置と傾斜の調整ができ、最終の土寄せローラとなる後ローラ20B、30Bは、前後位置と傾斜のみならず高さと左右方向の位置の調整ができる。従って、培土器2は、細かい土寄せ量の調整が可能となる。
【0070】
また、培土器2の左右ローラ取付部40、50は、シャフト41、51とフックSの着脱により容易に本体から着脱することができる。また、培土器2は、前ボルトBF、中央ボルトBM、第1ボルトによって、全てのローラをフレーム42、52から容易に着脱することができる。
なお、ローラ20F、30F、20M等の高さや前後位置や左右位置や傾斜角の調整方法は上述の実施形態の方法に限定するものではない。
【0071】
このような、本実施形態の培土器1による土寄せ作業は、従来の手作業では10アールに8時間程度の時間がかかっていたが、旋回時間を含め10アール1時間程度で完了することができた。
【0072】
本実施形態の管理機100は、畝肩の上方の土のみを寄せることができ、また、ローラ部20、30の高さや前後位置等の調整ができるので、白ネギの倒伏防止のみならず、白ネギの軟白のための土寄せ(「止め」と呼ばれたりする緑化防止の最終土寄せ)にも適用することができる。また、白ネギのみならず、イモの緑化防止(有毒なソラニン防止)や他の作物の倒伏防止のための土寄せにも適用することができる。
【0073】
[第2実施形態]
ここで、上記した「止め」と呼ばれるような緑化防止の最終土寄せは、土を寄せるとともに、白ネギの首元に土をしっかり締め付けておく必要がある。このため非常に繊細な作業であることから、従来ほぼ手作業で行われていたため、白ネギ農家にとっては、収穫作業や搬送作業と共に、この作業は苦痛な作業の一つであった。
【0074】
従って、本発明者は、管理機100を実際に使用して最終土寄せを行ってみたところ、土を寄せる作業としては十分であったが、最終土寄せの作業の中でもう一つ重要となる、首元に土をしっかり締め付ける作業が十分ではなかった。具体的には、後述する図11(A)に示すように、寄せた土に縦方向のひび割れができてしまった。このようなひび割れがあると、そこから雨水が入り、寄せた土が崩れたりすることがある。
【0075】
そこで、本発明者は、最終土寄せにおいても十分に使用できる管理機についても検討を行った。次に、最終土寄せにも十分使用できる第2実施形態の管理機100Aについて図面を用いて詳細に説明する。なお、第1実施形態と構成が同一の部分については同一の参照符号を付与してその詳細な説明は省略し、構成が異なる同一名の部分については参照符号に添え字「A」を付す。
【0076】
図6図7図8は、それぞれ管理機100Aの進行方向に対する平面、正面、左側の撮像である。第1実施形態の管理機100は、本体1に培土器2を搭載したものであったが、第2実施形態の管理機100Aは、本体1に培土器2Aを搭載したものである。そして、第1実施形態の培土器2が、左右のローラ部20、30で構成されていたが、第2実施形態の培土器2Aは、左右のローラ部20A、30Aの後方にそれぞれ、左右の培土板70、80を配置して構成されている。この培土板70、80は、ローラ部20A、30Aによって白ネギの周りに寄せた土を、更に白ネギの首元に土を寄せるとともに、その土を押し固めるためのものである。
【0077】
この培土板70、80は、ポリ塩化ビニル製の板状であり、図示のように後端側が内側(本体1側)に湾曲している。この湾曲により、滑らかな仕上げ面を生成する。また、作業者が培土板70、80の後端側に接触しても怪我等し難い。また、培土板70、80は、培土板調整部71、81により、ローラ取付部40A、50Aを構成するフレーム42A、52Aに取り付けられている。このローラ取付部40A、50Aは、ローラ部20A、20Bとともに、培土板70、80を本体1の両側に取り付けるためのものである。
【0078】
具体的には、左側のローラ取付部40Aは、シャフト41Aと、角型の上フレーム42A1と、後ローラ調整部45BAとチェーン係合部44Aを兼ねる逆T字形の下フレーム42A2と、前ローラ調整部45FAと、中ローラ調整部45MAと、培土板調整部71と、で構成されている。
【0079】
なお、シャフト41A、上フレーム42A1、チェーン係合部44A、前ローラ調整部45FA、中ローラ調整部45MA、後ローラ調整部45BAは、実施形態1のものと同様の目的と効果を奏するものである。また、本実施形態では、フレーム42A、52Aが、それぞれ、上フレーム42A1と下フレーム42A2で構成されているが、実施形態1のようにそれぞれ一つのフレームで構成しても構わない。
【0080】
そして、下フレーム42A2は、培土板調整部71を嵌入により保持するものである。また、培土板調整部71は、培土板70を下フレーム42A2に取り付けるためのものである。
【0081】
この培土板調整部71は、培土板70の、進行方向の前後の位置を調整する前後位置調整部と、傾きを調整する傾き調整部と、高さを調整する高さ調整部と、土への押圧を調整する押圧調整部と、を備えた構成となっている。
【0082】
具体的には、前後位置調整部として、角型の第1パイプ72が下フレーム42A2に摺動可能に嵌められており、第1ボルトBP1によって第1パイプ72の前後の位置が調整可能になっている(図9参照)。
【0083】
また、傾き調整部として、第1パイプ72には外側に延在するアーム721が溶接され、このアーム721には上下に延在する角型の第2パイプ73が第2ボルトBP2によって軸支されている。そして、第2ボルトBP2を中心に回動可能な第1リンク731と、第3ボルトBP3を中心に回動可能な第2リンク74と、第1リンク731と第2リンク74の角度を調整する第4ボルトBP4が設けられている(図10A参照)。これにより、第1シャフト75の角度が第4ボルトBP4によっても調整可能になっている。
【0084】
このような構成は、単に第2ボルトBPによって第2パイプの角度が調整可能となっている構成に比べて、傾きの保持力が強くなっている。また、このような構成により、次に説明する第1シャフト75を上下調整するために第2ボルトBP2を緩めた場合でも、第1シャフト75の傾斜を維持しておくことができる。
【0085】
また、高さ調整部として、第2パイプ73には第1シャフト75が摺動可能に嵌められており、第2ボルトBP2によって第1シャフト75の上下の位置が調整可能になっている。
【0086】
また、押圧調整部として、第1シャフト75に、培土板70が取り付けられている。この時、培土板70は、後方側が外側に向かって付勢されている。具体的には、第1シャフト75に対して回動可能に軸支された取付具76が配設されており、この取付具76に培土板70が複数の螺子Nにより固定されている。この時、複数の引っ張りコイルバネ78が第1シャフト75と取付具76に掛けられており、この引っ張りコイルバネ78により、培土板70の前方側が内側(本体1側)に引っ張られ、後方側が外側に向かって付勢される。この時、この付勢力に抗して、チェーン79が第1シャフト75と培土板70の後端側に掛けられる。そして、このチェーン79の長さを変えることにより、培土板70の後端側の出代や培土板70が土を押す押圧を調整することができるようになっている。
【0087】
このように、培土板70は、培土板調整部71により、任意の前後位置や傾き、高さ、押圧力を調整することができる。とくに本発明者が検証したところ、畑の条件や状態にもよるが、培土板70の角度は、ローラ部20Aの後ローラ20BAの傾斜角よりも大きくしておくことで、最終土寄せとして最適な土寄せができることがわかった。また、培土板70の高さは、培土板70の底辺をローラ部20Aのローラの底辺と略同じような位置にしておくことで、最終土寄せとして最適な土寄せができることがわかった。
なお、右側の培土板80を取り付ける右側の培土板調整部81、右側のローラ取付部50Aも同様の構成となっているので説明を省略する。
【0088】
また、実施形態1の管理機100では、左右一対の取付パイプ62に挿入される左右一対のシャフト41、51の高さ調整(すなわち左のローラ取付部40と右のローラ取り付け部50の高さ調整)は、スナップピンPが差し込まれるピン孔41aの位置を変えることで行っていた。一方、本実施形態の管理機100Aでは、スナップピンPの差し込みだけでなく、この高さ調整を容易に行うために、ローラ取付部40A、50Aとの高さを一体で調整できるようになっている。
【0089】
具体的には、管理機100Aは、取付パイプ62Aとシャフト41A、51Aを中継する可動シャーシ65と、可動シャーシを上下させるハンドル66を設けている。
【0090】
この可動シャーシ65は、左右一対のシャフト651と、シャフト41A、51Aが挿入される左右一対の取付パイプ652を備えている。そして、可動シャーシ65の一対のシャフト651が、シャーシ61Aの一対の取付パイプ62Aに挿入されることで、可動シャーシ65が、取付パイプ62Aとシャフト41A、51Aを中継する。
【0091】
ハンドル66は、把手661とシャフト662からなる。このシャフト662は、シャーシ61Aに回転自在に軸支されており、また雄ネジ663が形成されている。そして、シャフト662は、可動シャーシ65の中央に形成された雌ネジ653と係合している。従って、ハンドル66が回転されると可動シャーシ65が上下に移動する。
【0092】
このような構成により、第2実施形態の管理機100Aは、ハンドル66を回すことで、左右のローラ取付部40A、50Aを一体として上下位置を容易に調整することができる。そして、このような構成は、白ネギ作業の現場においては、作業性がよく非常に便利である。
【0093】
また、実施形態1の管理機100では、ローラ部20、30の上方に何も配置していないが、管理機100を使用したところ、傾斜している白ネギの一部がローラの間に引き込まれてしまい、白ネギが倒れてしまうようなことが生じていた。従って、本実施形態の管理機100Aには、白ネギの引っ掛かりによる倒れを防止するため、ガードバー92をローラ取付部40A、50Aに沿って、ローラ部20A、30A及び培土板70、80の上方に設けている。
【0094】
また、実施形態1の管理機100では、ローラ部20、30のローラは何も表面の加工を行っていなかったが、ローラの材質によってはローラ表面に土が付いてしまうことがある。とくに砂地の畑ではあまり生じないが、土の畑ではローラ表面への土の付着が生じてしまうことがある。そこで、本実施形態の管理機100Aでは、ローラ部20A、30Aのローラ表面に土が付き難くなるようにした。具体的には、ローラ表面を発泡ニトリルゴムの被覆材Cで覆うことにより、非常に土が付き難くなった。なお、ローラ表面を被覆材Cで覆う以外に、ローラ表面への表面処理によって土を付き難くしても構わない。
【0095】
以上のように、管理機100Aは、培土器2Aにおいてローラ部20A、30Aの後方に培土板70、80を備えた構成となっている。従って、管理機100Aは、培土器2Aにより、まず実施形態1の培土器2と同様にローラ部20A、30Aによって白ネギの周りに土を寄せ、そして更に培土板70、80によって、白ネギの首元に土を寄せるとともに、その土を押し固めることができる。このため、白ネギ栽培における最終土寄せを行うことが可能となる。
【0096】
この点について、本発明者が実際に管理機100Aを用いて最終土寄せを行った結果について説明する。図11Aは培土板70、80を備えていない第1実施形態の管理機100による最終土寄せの写真であり、図11Bは培土板70、80を備えている本実施形態の管理機100Aによる写真である。
【0097】
図11からも明らかなように、図11Aでは、土への押圧が弱く、縦方向にひび割れができてしまった。従って、このひび割れから雨が入り込むことにより、寄せた土が崩れたりするおそれがある。一方、図11Bでは、ローラ部20A、30Aで寄せた土を培土板70、80で更に首元に寄せるとともに、その土を押し固めることができるため、ひび割れがほとんど見られない。
【0098】
また、図12Aは、従来のように手作業で最終土寄せを行った白ネギであり、図12Bは管理機100Aを用いて最終土寄せを行った白ネギである。培土板70、80のある管理機100Aによる白ネギは、手作業による従来の白ネジと同等の軟白の長さとなっていた。具体的には、図12Aに示すように軟白長25cm以上の割合が、手作業と同様に100%(標本数64)であった。なお、実施形態1の管理機100を用いて最終土寄せを行った場合、軟白長25cm以上の割合が、45%程度であった。
また、実際の作業時間を計測したところ、管理機100Aよる最終土寄せ作業は、手作業の約8倍の作業効率となっていた。
【0099】
なお、本実施形態においては、培土板70、80は、ローラ取付部40A、50Aにローラ部20A、30Aとともに取り付けられているが、ローラ部20A、30Aとは別々に培土板取付部を備えて本体1に取り付ける構成でも構わない。このような構成であれば、培土板70、80がとくには不要となる緊急時の土寄せの際に、培土板70、80を簡単に本体1から取り外して作業を行うことができる。
【0100】
また、実施形態1、実施形態2においては、農作業機として管理機を用いて説明したが、本発明は、管理機100以外にも適用できる。特に、株元への培土作業は管理機のロータリー14(実施形態1の図3を参照)を使用する必要はないので、土寄せ専用の農作業機で本発明を実現することができる。
【0101】
また、実施形態1、実施形態2の本体1のハンドル13は、進行方向の前側に位置していることから、作業者は後ろに歩きながら土寄せを行う構成となっている。しかしながら、本体1は、ハンドル13を回動させ進行方向の後ろ側にハンドル13を位置し、作業者が前に向かって歩きながら作業を行う構成を採用することもできる。
【0102】
また、実施形態1、実施形態2では、進行方向に対して作業者が後ろ向きに歩きながら土寄せを行う構成について説明を行った。その際に、管理機100、100Aのロータリー14は使用されていない。この時、作業者が後ろ向きに歩きながら作業を行うことから、作業者が転倒するおそれがある。とくに高齢者による作業ではこの危険性が高い。
【0103】
そこで、管理機100、100Aのロータリー14側を先頭側とし、培土器2、2Aの前ローラ(20F、20FA、30F、30FA)と後ローラ(20B、20BA、30B、30BA)の位置が逆になるように配置(前ローラがロータリー14側に位置)し、ロータリー14側から進行(進行方向が実施形態1、2とは反対)することで、作業者が前向きに歩きながら作業を行うこともできる。
【0104】
そして、この時、実施形態1、2では使用していなかったロータリー14を使用することで、ロータリー14による土寄せと培土器2、2Aによる土寄せが可能となる。また、実施形態2では、更に培土板70、80よる白ネギの首元に土を寄せるとともに、その土を押し固めることも可能となる。
【0105】
とくに、実施形態1や実施形態2で説明した倒伏防止のための緊急時の土寄せや白ネギ栽培における最終土寄せにおいては、白ネギに対する事前の土寄せが不十分な場合(例えば、白ネギの成長が進んでいるような場合)には、まず通常の土寄せ作業のようにロータリー14による土寄せを行う必要がある。つまり、ロータリー14による土寄せ作業と、培土器2、2Aによる土寄せ作業という二度の作業が必要になる。
【0106】
しかしながら、上記のようにロータリー14を備える管理機100、100Aを用い、ロータリー14の後方に培土器2、2Aを配置するとともに、ロータリー14側を先頭にしてロータリー14を使用しながら進行することで、作業者が前向きに歩きながら作業できるだけでなく、ロータリー14の回転による土寄せとともに、培土器2、2Aによる土寄せを行うことが可能となる。従って、倒伏防止のための緊急時の土寄せや白ネギ栽培における最終土寄せにおいては、白ネギに対する事前の土寄せが不十分な場合に、ロータリー14だけによる通常の土寄せ作業を兼ねて作業を行うことができる。つまり、ロータリー14の後方に培土器2、2Aを配置するとともに、ロータリー14側を先頭にしてロータリー14を使用しながら進行する土寄せ方法は、ロータリー14による土寄せ作業と、培土器2、2Aによる土寄せ作業を一度の作業で行うことができる。
また、本発明の培土器は、管理機以外の農作業機に取り付けて使用することもできる。
【符号の説明】
【0107】
100、100A:管理機
1:本体
14:ロータリー
2、2A:培土器
20、20A:(左の)ローラ部
30、30A:(右の)ローラ部
20F、20FA、30F、30FA:前ローラ
20M、20MA、30M、30MA:中央ローラ
20B、20BA、30B、30BA:後ローラ
40、40A:(左の)ローラ取付部
50、40A:(右の)ローラ取付部
45F、55F:前ローラ調整部
45M、55M:中央ローラ調整部
45B、55B:後ローラ調整部
55F:前ローラ調整部
66:ハンドル
70、80:培土板
71、81:培土板調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12