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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】冷却器、半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/473 20060101AFI20221219BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01L23/46 Z
H05K7/20 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019072913
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020170820
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 遼一
(72)【発明者】
【氏名】池田 良成
(72)【発明者】
【氏名】郷原 広道
(72)【発明者】
【氏名】宮下 朋之
(72)【発明者】
【氏名】大竹 慎吾
【審査官】多賀 和宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-329442(JP,A)
【文献】特開2012-074624(JP,A)
【文献】特開2009-141136(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板、底板及び側板からなるケースと、該ケース内に配置された冷却フィンと、該冷却フィンに接触して、前記ケース内を流通する冷却用流体の流路とを備え、前記天板又は前記底板に接触する冷却対象物を冷却する冷却器において、
前記冷却フィンは、軸部と、前記軸部から外側に突出して軸方向に螺旋状をなして延びる羽根部とを有すると共に、全体が四角柱状をなし、少なくとも前記天板及び前記底板に接触して配置されており、
前記流路は、前記羽根部、前記天板及び前記底板によって形成された螺旋形状を有することを特徴とする冷却器。
【請求項2】
前記羽根部は4から10個あり、前記軸部の周囲に均等な間隔で配設されていることを特徴とする請求項1に記載の冷却器。
【請求項3】
前記羽根部の軸方向のピッチは、前記四角柱の高さの1.5から6.25倍の長さであることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却器。
【請求項4】
前記軸部の断面積は、前記四角柱の軸方向に垂直な断面の断面積の10から60%であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項5】
前記羽根部の厚みは、前記羽根部の軸方向のピッチを羽根数で割った長さの10から60%であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項6】
前記ケース内に、前記冷却フィンが複数個並列して配置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の冷却器。
【請求項7】
並列して配置された前記冷却フィン同士の間に、ストレートフィンが前記冷却フィンと接触して配置されていることを特徴とする請求項6に記載の冷却器。
【請求項8】
並列して配置された前記冷却フィンの隣接するもの同士は、前記羽根部が互いに接しており、かつ、前記羽根部の螺旋方向が反対向きであることを特徴とする請求項6に記載の冷却器。
【請求項9】
半導体素子と、
前記半導体素子を搭載し、絶縁基板の上面及び下面を導電性板で挟んだ構造の積層基板と、
前記積層基板の前記半導体素子を搭載していない側と接合し、前記半導体素子を冷却する冷却用流体が流れる冷却器と、を備え、
前記冷却器が、請求項1から8のいずれか1項に記載の冷却器であることを特徴とする半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等を冷却用流体により冷却する冷却器、及び冷却器を備える半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換用途のスイッチングデバイスとして用いられるパワー半導体モジュール等では、回路から発生する熱による悪影響を抑制するため、放熱部材としてヒートシンクが用いられている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1のヒートシンクは、その表面にSIT、FET、IGBT等の半導体スイッチング素子の接合面が接合状態で取り付けられる素子接合板と、この素子接合板と略同一形状に形成された下面板と、素子接合板と下面板の外周部を接合連結する平面視方形状の側板とで構成されている。そして、ヒートシンクの素子接合板の裏面と下面板の内面には、複数のフィンが一体的に固着されている。
【0004】
ヒートシンクは、フィンを流路の冷却水の流通方向に沿って傾斜して設けている。フィンの傾斜方向は、流通方向に向かって傾斜させたり、反流通方向に向かって傾斜させることができる。これにより、流路内を流通する冷却水の各フィンに対する接触面積を大きくして、冷却水によりヒートシンクを効率的に冷却することができる(段落0009、0017、図5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-141164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のヒートシンクは、フィンと冷却水の接触時間を長くすることでフィンが効率的に冷却されることを目的とした構造であり、1本の流路に多数のフィンを設けるため、入り組んだ複雑な流路となっている。このため、冷却水の圧力損失が高くなる可能性があった。従って、冷却水の圧力損失が低く、放熱性能も高いフィン構造が理想であり、さらに改良を進める必要があった。
【0007】
このような問題に鑑み、本発明の目的は、冷却用流体の圧力損失が低く、冷却効率が高い構造の冷却器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1発明の冷却器は、天板、底板及び側板からなるケースと、該ケース内に配置された冷却フィンと、該冷却フィンに接触して、前記ケース内を流通する冷却用流体の流路とを備え、前記天板又は前記底板に接触する冷却対象物を冷却する冷却器において、前記冷却フィンは、軸部と、前記軸部から外側に突出して軸方向に螺旋状をなして延びる羽根部とを有すると共に、全体が四角柱状をなし、少なくとも前記天板及び前記底板に接触して配置されており、前記流路は、前記羽根部、前記天板及び前記底板によって形成された螺旋形状を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の冷却器は、天板と底板との間の冷却フィンを流れる冷却用流体(例えば、水)により天板又は底板に接触する半導体素子等の冷却対象物を冷却することができる。冷却フィンは、全体として四角柱状をなしているためケースに収め易く、その上面側、下面側に配置された天板、底板と接触させ易くなっている。
【0010】
また、冷却フィンは、軸部と、軸部から外側に突出して軸方向に螺旋状をなして延びる羽根部とを有するので、羽根部、天板及び底板によって、螺旋形状の流路が形成される。このため、冷却フィンに流入した冷却用流体は、旋回して上下方向に移動しながら比較的速い流速で流路を進行する。冷却対象物に接触して温度上昇した冷却用流体は、循環により素早く入れ替わるので、圧力損失が低く、冷却効率が高い冷却器を実現することができる。
【0011】
第1発明の冷却器において、前記羽根部は4から10個あり、前記軸部の周囲に均等な間隔で配設されていることが好ましい。
【0012】
これにより、冷却フィンに流入した冷却用流体を軸部の周囲の流路に均等に流すことができるので、冷却フィンのどの方向に接触させた冷却対象物でも冷却することができる。冷却フィンの羽根部は6から8個であり、軸部の周囲に均等な間隔で配置することがさらに好ましい。
【0013】
また、第1発明の冷却器において、前記羽根部の軸方向のピッチは、前記四角柱の高さの1.5から6.25倍の長さであることが好ましい。
【0014】
冷却フィンの羽根部の軸方向のピッチ(フィンピッチ)を、四角柱の高さの1.5から6.25倍の長さとすることにより、流路を流れる冷却用流体の圧力損失を低下させることができる。冷却フィンの羽根部の軸方向のピッチ(フィンピッチ)は、四角柱の高さの2から5倍の長さとすることが更に好ましい。
【0015】
また、第1発明の冷却器において、前記軸部の断面積は、前記四角柱の軸方向に垂直な断面の断面積の10から60%であることが好ましい。
【0016】
冷却フィンの軸部の断面積を、四角柱の軸方向に垂直な断面の断面積の10から60%とすることにより、冷却フィンに適量の冷却用流体が流入するようになる。これにより、圧力損失が低く、かつ冷却に必要な量の冷却用流体を流すよう調整することができる。冷却フィンの軸部の断面積は、四角柱の軸方向に垂直な断面の断面積の30から50%とすることがさらに好ましい。
【0017】
また、第1発明の冷却器において、前記羽根部の厚みは、前記羽根部の軸方向のピッチを羽根数で割った長さの10から60%であることが好ましい。
【0018】
冷却フィンの羽根部の厚みを、羽根部の軸方向のピッチ(フィンピッチ)を羽根数で割った長さの10から60%とすることにより、流路を流れる冷却用流体の圧力損失を低下させることができる。
【0019】
また、第1発明の冷却器において、前記ケース内に、前記冷却フィンが複数個並列して配置されていることが好ましい。
【0020】
ケース内に冷却フィンを複数個並列させることにより、冷却器内に、冷却用流体が流れる多数の流路が形成される。このため、冷却効率をさらに高めることができる。
【0021】
また、第1発明の冷却器において、並列して配置された前記冷却フィン同士の間に、ストレートフィンが前記冷却フィンと接触して配置されていることが好ましい。
【0022】
ケース内に冷却フィンを並列して配置するとき、冷却フィン同士の間にストレートフィンを配置する。これにより、一方の冷却フィンの流路を流れる冷却用流体が、隣接する冷却フィンの流路に流入しなくなるので、乱流が生じず、圧力損失を抑えることができる。
【0023】
また、第1発明の冷却器において、並列して配置された前記冷却フィンの隣接するもの同士は、前記羽根部が互いに接しており、かつ、前記羽根部の螺旋方向が反対向きとしてもよい。
【0024】
ケース内に冷却フィンを並列して配置するとき、隣接する冷却フィンの羽根部が互いに接して、かつ、螺旋方向が反対向きとなるように配置する。これにより、一方の冷却フィンの流路を流れる冷却用流体が、隣接する冷却フィンの流路に流入しても逆流が生じないため、圧力損失を抑えることができる。
【0025】
上記目的を達成するため、第2発明の半導体モジュールは、半導体素子と、前記半導体素子を搭載し、絶縁基板の上面及び下面を導電性板で挟んだ構造の積層基板と、前記積層基板の前記半導体素子を搭載していない側と接合し、前記半導体素子を冷却する冷却用流体が流れる冷却器と、を備え、前記冷却器が、請求項1から8のいずれか1項に記載の冷却器であることを特徴とする。
【0026】
本発明の半導体モジュールは、半導体素子が積層基板に搭載され、積層基板の半導体素子を搭載していない側と冷却器とが接合している。この冷却器には半導体素子を冷却する冷却用流体が流れており、積層基板を熱伝導性が高い材料で構成することで、半導体素子を冷却することができる。
【0027】
また、冷却器(請求項1)では、羽根部、天板、及び底板によって、螺旋形状の流路が形成される。このため、冷却フィンに流入した冷却用流体は、旋回して上下方向に移動しながら比較的速い流速で流路を進行する。半導体素子に接触して温度が上昇した冷却用流体が循環により素早く入れ替わるので、半導体素子の冷却効率を高めた半導体モジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る半導体モジュールの断面図。
図2】冷却器の斜視図(天板無し)。
図3】(a)冷却フィン(3個)の上面図。(b)冷却フィンの領域R1の拡大図。(c)冷却フィン(1個)の斜視図。
図4】冷却フィンの配列の他の例を示す平面図。
図5】羽根部の軸面積を変化させた場合の温度、圧力損失のシミュレーション結果を示す図。
図6】羽根部の個数を変化させた場合の温度、圧力損失のシミュレーション結果を示す図。
図7】(a)冷却フィンの側面図。(b)冷却フィンの領域R2の拡大図。
図8】(a)冷却フィンの各部分のサイズ(X-Z平面)。(b)冷却フィンの各部分のサイズ(Y-Z平面)。
図9】フィン高さに対する軸方向のフィンピッチの比を変化させた場合の温度、圧力損失のシミュレーション結果を示す図。
図10】冷却フィンの斜視図(変更例)。
図11】本発明の冷却フィンと従来構造のフィンの冷却性能の比較結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しながら本発明の冷却器、及び半導体モジュールの実施形態を説明する。
【0030】
[半導体モジュール]
図1は、本発明の実施形態に係る半導体モジュール100の断面図を示している。半導体モジュール100としては、主に2つの半導体素子1a,1b、配線基板3、積層基板5、冷却器6、ケース9等で構成されているものを例示する。図示するように、半導体素子1a,1b、配線基板3及び積層基板5はケース9内に収められ、樹脂10でモールドされている。また、ケース9の下面に半導体素子1a,1bを冷却する、冷却器ケース7及び冷却フィン8からなる冷却器6が配設されている。
【0031】
半導体素子1a,1bは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。また、これらのトランジスタを1つの半導体素子の中で縦方向に形成したRB-IGBT(Reverse Blocking-IGBT)やRC-IGBT(Reverse Conducting-IGBT)であってもよい。
【0032】
配線基板3は、半導体素子1a,1bの上面側に配設されている。配線基板3は、絶縁基板の両面を金属箔で覆った構造であり、下面側の金属箔は半導体素子1a,1bに対向するように形成されている。絶縁基板は誘電率が低く、熱伝導率の高い材料が好ましく、例えば、エポキシ樹脂等の樹脂を含む樹脂絶縁材やSi34、AlN、Al23等のセラミックを使用することができる。また、金属箔は電気抵抗が低く、熱伝導率の高い材料が好ましく、例えば、Cuを使用することができる。
【0033】
ピン4は、その一端が金属接合部材2aによって半導体素子1a,1bの上面側の電極に接合され、他端は配線基板3との接続に用いられる。ピン4は電気抵抗が低く、熱伝導率の高い金属、例えば、Cuを使用することができる。なお、金属接合部材2aは、はんだや銀等の金属微粒子を有する部材であってもよい。
【0034】
図示するように、ピン4は、それぞれの半導体素子1a,1bに対して複数配置されていることが好ましい。このような構造にすることにより、電気抵抗を低減するとともに、熱伝導性能を向上させることができる。
【0035】
積層基板5は、絶縁基板52と、その上面側に形成される第1導電性板51と、その下面側に形成される第2導電性板53とで構成される。絶縁基板52は、電気絶縁性、熱伝導性に優れた材料を用いることができる。絶縁基板52の材料としては、例えば、Al23、AlN、Si34が挙げられる。特に、高耐圧用途では、電気絶縁性と熱伝導性をともに備えた材料が好ましく、AlN、Si34を用いることができるが、これらに限定されない。
【0036】
第1導電性板51、第2導電性板53は、導電性及び加工性が優れているCu、Al等の金属材料(金属箔)を用いることができる。防錆等の目的で、Niめっき等の処理を行ったCu、Alであってもよい。絶縁基板52の面上に導電性板51,53を配設する方法としては、直接接合法(Direct Copper Bonding法)、若しくは、ろう材接合法(Active Metal Brazing法)等が挙げられる。
【0037】
また、積層基板5は、半導体素子1a,1bの下面側に配設されている。積層基板5は、絶縁基板52の両面をCu等の金属箔で覆った構造であり、絶縁基板52の絶縁性により、金属箔とは電気的に分離されている。具体的には、第1導電性板51と第2導電性板53とが電気的に絶縁されている。絶縁基板52の周縁は、導電性板51,53の周縁よりも外側に突出していることが好ましい。なお、上述の例は、絶縁基板52が裏面銅箔のような第2導電性板53を有する場合であったが、絶縁基板と冷却器とが熱伝導性の優れた接合部材で熱的に(熱が効率よく伝導する態様で)接合されていてもよい。
【0038】
半導体素子1a,1bは、積層基板5に実装される。具体的には、半導体素子1a,1bの下面側と積層基板5の上面側の第1導電性板51とは、金属接合部材2bによって電気的及び熱的に接合されている。積層基板5の上面側、下面側の金属箔は電気的に分離されているが、この間の熱伝導は良好である。
【0039】
また、積層基板5の下面側の第2導電性板53と冷却器6の外壁(天板7a)とは、金属接合部材2cによって接合されている。すなわち、冷却器6の天板7aの上部に半導体素子1a,1bが配置されている。金属接合部材2b,2cは、熱伝導性及び導電性に優れたはんだや銀等の金属微粒子を有する部材であってもよい。
【0040】
なお、積層基板5と冷却器6とは、熱伝導性の優れた接合部材で熱的に接合される。従って、接合部材は、導電性の金属接合部材でもよいし、主として基油とセラミック充填剤から構成されるサーマルコンパウンドでもよい。そして、上述の接合部材の熱伝導率は1W/m・K以上が好ましく、10W/m・K以上であることがさらに好ましい。
【0041】
冷却器6は、天板7a、底板7b及び側板7cからなる冷却器ケース7と、冷却フィン8とで構成され、冷却フィン8は、冷却器ケース7の内部に収められている。詳細は後述するが、冷却フィン8は、軸部8aと、軸部8aから外側に突出して長軸方向(Y軸方向)に螺旋状をなして延びる羽根部8bとで構成される。流路を構成する天板7a、底板7b及び冷却フィン8の材料には、Al、Cu等の熱伝導率の高い金属が用いられている。
【0042】
[冷却器]
次に、図2を参照して、半導体モジュール100に含まれる冷却器6の詳細を説明する。
【0043】
図2は、冷却器6の斜視図(天板7a無し)である。冷却器ケース7の側板7cの形状は八角形に限られないが、冷却器ケース7は、水等の冷却用流体の流入口7dと流出口7eとを有している。
【0044】
冷却フィン8は、軸部8aと羽根部8bとで構成され(図1参照)、全体として四角柱をなしている。このため、冷却フィン8は冷却器ケース7に収め易く、その上面側、下面側に配置された天板、底板と接触させ易くなっている。図示するように、冷却フィン8は、冷却器ケース7の内部に6個並列して、冷却用流体の流れに対して平行となるように配置されている。また、羽根部8bは長軸方向(Y軸方向)に延びるフィンを形成し、天板7a及び底板7bとで囲まれた空間が、それぞれ独立した流路となる。
【0045】
流入口7dから入流し、天板7a、底板7b、冷却フィン8等で構成された各流路に進入した冷却用流体は、上下左右に旋回しながら比較的速い流速で長軸方向に進み、流出口7eから排出される。ここで、冷却対象物である半導体素子1a,1bは、冷却器ケース7の天板7a側に配置されている(図1参照)。
【0046】
半導体素子1aで発生した熱は、積層基板5を通って冷却器6の天板7a側に伝搬し、さらに冷却フィン8等の金属部材に伝搬する。このため、半導体素子1a,1b側の天板7aに接触して温度が上昇した冷却用流体が循環により素早く入れ替わり、また、冷却フィン8を冷却するので、冷却効率を高めることができる。
【0047】
冷却対象物は、冷却器ケース7の底板7b側に配置されていてもよいし、面積は小さくなるものの側板7c(Y軸方向)に配置されていてもよい。また、冷却器ケース7に収める冷却フィン8の個数も6個に限られるものではない。
【0048】
[冷却フィン]
次に、図3図9を参照して、冷却フィン8の詳細を説明する。なお、冷却フィン8の形状パラメータは、熱流体解析ソフトにより流路部の形状パラメータ等を変化させて温度及び圧力損失を評価し、さらに、流路部を含む冷却フィン及び冷却器を試作して検証することにより求めた。
【0049】
まず、図3(a)は、冷却フィン8を上方(+Z軸方向)から見た様子(天板7a無し)を示している。冷却用流体は-Y軸方向から流入し、各冷却フィン8によって形成される流路を流通する。実際は、図2の冷却器6に示すように、6個の冷却フィン8が並列して配置されているが、ここでは、そのうち3個(冷却フィン8A,8B,8C)を示す。冷却フィン8を複数個並列して配置することで、冷却器6内に複数の流路が形成されるので、冷却効率を高めることができる。
【0050】
[ストレートフィンのある場合]
図3(b)は、図3(a)の領域R1の拡大図である。図示するように、この実施形態では、隣接する冷却フィン8A,8Bの間に、板状のストレートフィン8Sが挿入されている。ストレートフィン8Sは、冷却フィン8A,8Bの両方の屈曲フィン8fに接触している。このような配置とすることにより、冷却フィン8Aの流路を流れる冷却用流体が、冷却フィン8Bの流路に流入しなくなるので、乱流が生じず、圧力損失を抑えることができる。
【0051】
この場合の冷却フィン8A,8Bの羽根部8bの螺旋方向は同じでも、反対向きでもよい。なお、羽根部8bは、図3(c)に示すように、X-Z平面では矩形状であるが、Y軸方向に延出し、屈曲したフィンとなっている(屈曲フィン)。
【0052】
冷却用流体の流入方向から見て、冷却フィン8の螺旋方向が右回転(時計回り)ものと、左回転(反時計回り)ものとが隣接する場合は、実験により、左側より右回転、左回転の順番の配列が好ましいことが分かった。
【0053】
図3(a)においては、冷却フィン8Cは右回転、冷却フィン8Aは左回転であることが好ましい。左側より冷却フィン8C(右回転)、冷却フィン8A(左回転)の順番に配列すると、両流路を流れる冷却用流体の合流点において、上側から下側に冷却用流体が流れて合流する。このため、合流してから天板7aに当たることにより、上側の天板7aの熱を下側に伝え易いと推定される。
【0054】
また、冷却フィンを複数配列する場合、冷却用流体が四角柱状の冷却フィンから流出する際に、図3(a)に示すように、冷却器の中央部より左側の冷却フィンは右回転であると、中央部側に流れができ易い。また、右側の冷却フィンが左回転であると、やはり中央部側に流れができ易く、乱流ができ難いので冷却効率がよく、損失も少ないと推定される。
【0055】
従って、回転方向が逆方向の冷却フィンを含む配列とする場合は、冷却用流体の流入方向から見て、冷却器の中央部より左側の冷却フィンは右回転、右側の冷却フィンは左回転とする配列が好ましい。例えば、6列の冷却フィンを配列する場合、左側より右回転、右回転、右回転、左回転、左回転、左回転のように配列するとよい。また、この結果は、後述するストレートフィンのない場合でも同じである。
【0056】
[ストレートフィンのない場合]
また、図4は、冷却フィン8A,8B,8Cの配列を変えた他の例(冷却フィン8’)を示している。この例では、隣接する冷却フィン8A,8B,8Cの羽根部8b(羽根部8bから延び出る屈曲フィン8f)が互いに接触しており、かつ、螺旋方向は互いに反対向きとなっている。このような配置とすることにより、例えば、冷却フィン8Aの流路を流れる流体が、冷却フィン8Bの流路に流入したとしても逆流が生じづらく、乱流が発生しづらい。そのため、ストレートフィン8Sで仕切らなくても、圧力損失を抑えることができる。
【0057】
また、ストレートフィンのある場合と同様に、冷却フィンを複数配列する場合は、最も左側には、冷却用流体の流入方向から見て、螺旋方向が右回転(時計回り)の冷却フィンを配置し、最も右側には左回転(反時計回り)の冷却フィンを配置することが好ましい。例えば、4列の冷却フィンを配列する場合は、左側より右回転、右回転、左回転、左回転とすることが好ましい。
【0058】
図3(c)は、冷却フィン8Aの斜視図である。冷却フィン8Aは、正面方向(-Y軸方向)から見たとき、中心の軸部8aと、軸部8aから外側に突出した8個の羽根部8b(羽根幅d1=1.0mm)とで構成される。なお、フィン幅x1(横幅)、フィン高さz1は、共に8.0mmである(図8参照)。
【0059】
ここで、軸部8aの断面積(X-Z平面)は、四角柱の冷却フィンの長軸方向(Y軸方向)に垂直な断面(X-Z平面)の断面積の10から60%であることが好ましく、30から50%とするとさらに好ましい。これは、冷却フィンの四角柱の全断面積に対する軸部8aの断面積の割合であり、羽根部8bの割合にも関係し、冷却効率を左右する形状パラメータである。
【0060】
軸部8aの断面積が小さく(羽根部8bの割合が大きい)、冷却フィン8Aに大量の流体が流入する場合、流速が遅くなるため、冷却効率が低下する。また、軸部8aの断面積が大きく(羽根部8bの割合が小さい)、冷却フィン8Aに流入する流体が少ない場合、冷却媒体が少なくなるため、やはり冷却効率が低下する。
【0061】
次に、実際に熱流体解析ソフトにより本発明の冷却フィン8の形状パラメータを変化させて、冷却器6の天板7aの温度T及び圧力損失PLを測定したシミュレーション結果について説明する。実際に試作した試作物の結果は、シミュレーション結果と同じであった。
【0062】
図5は、流路数を10、フィンピッチを30mmとし、羽根部8bの軸面積の割合を変化させて得られた天板7aの温度T及び圧力損失PLのシミュレーション結果である。図示するように、軸面積の割合が小さい場合、つまり、軸部8aの断面積が小さい(羽根部の割合が大きい)場合は、冷却フィン8Aに大量の流体が流入して流速が遅くなるため、圧力損失PLは低くなるが、温度Tは上昇する。
【0063】
一方、軸面積の割合が大きい場合、つまり、軸部8aの断面積が大きい(羽根部の割合が小さい)場合は、冷却フィン8Aに流入する流体が少なくなる。このため、流速が速くなるため、圧力損失PLは高くなるが、温度Tは低下する。従って、温度Tと圧力損失PLとを両立させる範囲としては、上記範囲が好ましい。なお、圧力損失PLは、装置としての長期信頼性が損なわれないように、15kPa未満の値となっていることが好ましい。
【0064】
温度Tは、ヒータを含む断熱装置(図示省略)を用いて、冷却器6の天板7aの中心付近の温度を測定した。特に、ヒータの出力を1,110(W)とし、冷却用流体として純水を用い、流入口7dからの流入量を4.0(L/min)とした。また、圧力損失PLは、同じ流入量の条件において、冷却器6の流入口7dの圧力と、流出口7eの圧力との差として評価した。
【0065】
冷却フィン8Aの軸部8aの断面積が上記範囲に収まるように設定して、冷却フィン8Aに適量の流体が流入するようにする。これにより、圧力損失PLを低く保つことができ、さらに、冷却効率を高めることができる。
【0066】
[羽根部の間隔・分割数、羽根数]
また、羽根部8bを軸部8aの周囲に均等な間隔(今回、羽根間隔d2=0.9mm)で配置することも効果的である。これにより、冷却フィン8Aに流入した流体を軸部8aの周りに均等に流すことができるため、冷却フィン8Aのどの方向に接触させた冷却対象物であっても、冷却することが可能となる。羽根部8bの個数は冷却効率を左右する重要な形状パラメータであり、4から10個程度であることが好ましく、6から8個であるとさらに好ましい。
【0067】
図6は、羽根部8bの個数(流路数)を変化させて得られた天板7aの温度T及び圧力損失PLのシミュレーション結果である。なお、フィンピッチは15mmから45mmの間で変化させた。
【0068】
図示するように、流路数を8個以上としても、冷却特性はほとんど変化しないことが分かった。また、流路数が2個の場合は冷却効率が悪いが、4個になると冷却効率は良好となった。なお、冷却特性とは、温度Tと圧力損失PLの関係であり、温度Tは低く、圧力損失PLは少ない領域が好ましい冷却特性である。羽根部8bの個数は流路数に対応しており、羽根部8bが8個ならば、8本の流路が形成される。
【0069】
また、上述の図4のように、ストレートフィンがなく、冷却フィンが複数連なる場合は、冷却用流体の乱流を防止するために、羽根間隔は隣接する冷却フィンの羽根間隔と同じにすることが好ましい。
【0070】
[羽根部の形状:螺旋状流路]
図3(c)に戻り、屈曲フィン8f1は、羽根部8bの「1」(以下、羽根部8b1のように記す)から長軸方向(Y軸方向)に螺旋状に延びていく。また、羽根部8b2からは、屈曲フィン8f1の後方の屈曲フィン8f2が、同じく長軸方向に螺旋状に延びていく。
【0071】
そして、羽根部8b8からは、屈曲フィン8f8が長軸方向に螺旋状に延びていき、その後方は、羽根部8b1から延びる屈曲フィン8f1に戻る。すなわち、羽根部8b1(屈曲フィン8f1)と羽根部8b2(屈曲フィン8f2)の間の流路は、螺旋状に旋回して再び現れ、これを繰り返す。他の流路も同様であり、それぞれ独立した螺旋形状の流路を形成する。
【0072】
次に、図7(a)は、冷却フィン8Aの側面図(Y-Z平面)を示している。冷却フィン8Aの長軸方向(Y軸方向)の長さ(全体長さy1)は60.0mmである。羽根部8b1(屈曲フィン8f1)と羽根部8b2(屈曲フィン8f2)の間の流路は、破線(一部、着色)で示す通りで螺旋状に延びている。
【0073】
図7(b)は、図7(a)の領域R2の拡大図である。ここで、フィン幅y2が0.5mm、フィン間隔y3が1.55mmであるため、1本の流路としての幅は2.05mmである。そして、8本の流路で1周期となるため、フィンピッチy4は16.4mmである(図8参照)。
【0074】
[螺旋の形状パラメータ:螺旋のピッチ]
冷却フィン8Aの全体長さy1をフィンピッチy4で除算することで、回転数が得られ、全体長さy1が60.0mm、フィンピッチy4が16.4mmであれば、3.66(回)である。これは、冷却フィン8Aの全体長さy1において、螺旋数が3.66回であることを意味する。フィンピッチは、正確には螺旋状に回転する周期を示す。
【0075】
羽根部8bの軸方向のピッチ(フィンピッチy4)は、フィン高さz1の1.5から6.25倍の長さであることが好ましく、2から5倍の長さとするとさらに好ましい。これは、フィン高さz1に対する軸方向のフィンピッチy4の比であり、冷却効率に影響を与える形状パラメータであるが、この範囲に設定することで、流路を流れる冷却用流体の圧力損失を低下させることができ、温度も低くすることができる。
【0076】
次に、図9を参照して、冷却フィン8の形状パラメータであるフィン高さに対する軸方向のフィンピッチの比を変化させて、天板7aの温度T及び圧力損失PLを測定したシミュレーション結果について説明する。なお、流路数を10とし、フィンピッチは15mmから45mmの間で変化させた。
【0077】
この比が大きいときフィンピッチは大きくなり、前記回転数は小さくなり、圧力損失PLは低くなるが、温度Tは上昇してしまう。一方、この比が小さいときフィンピッチは小さくなり、前記回転数は大きくなり、温度Tは低くなるが、圧力損失PLは高くなってしまう。従って、温度Tと圧力損失PLとを両立させる範囲としては、上記範囲が好ましい。
【0078】
[フィンの厚み]
さらに、羽根部8bの厚み(フィン幅y2)は、羽根部8bの軸方向のピッチ(フィンピッチy4)を羽根数で割った長さの10から60%であることが好ましく、20から40%とするとさらに好ましい。なお、これはy2/(y2+y3)の割合であり(図7(b)参照)、Y-Z平面から見たフィン間隔とフィン幅の和に対するフィン幅の割合である。また、冷却用流体中のパーティクルが詰まらないようにするため、フィン間隔は0.9mm以上とすることが好ましい。これによっても、流路を流れる流体の圧力損失を低下させることができる。
【0079】
[フィン角度]
図3(c)に示した冷却フィン8Aのように、羽根部8bの幅が同じ形状の場合、流路の幅は、軸部8aの外周にいくほど広がってしまう。流路の幅が広がると、流体が外側に流れやすくなり、軸部8aの冷却が悪化してしまい、冷却器としても冷却効率がよくならない。
【0080】
そこで、図10に示す冷却フィン8Xのように、羽根部に角度をつけて(羽根部8b’)、軸部8a’の外周にいっても流路の幅が同じとなるようにすることが好ましい。断面(X-Z平面)における一枚の羽根部8b’の角度θは、30から45度が好ましく、36度がさらに好ましい。
【0081】
最後に、図11を参照して、本発明の冷却フィンと従来構造のフィンの冷却性能の比較結果を説明する。
【0082】
発明者らは、測定に際して3Dプリンタにより金属製の冷却フィン(螺旋形状の流路)を試作し、この冷却フィンを6本並べて1つの冷却器とした。このとき、冷却フィンの各種パラメータは、図8に示した数値とした。なお、従来品であるストレートフィンの冷却器も、冷却フィン全体の長さは、本発明の冷却フィンと同じ60mmとした。また、ストレートフィンのピッチは、0.5mmとした。
【0083】
まず、試作した冷却フィンと大きさが同等のストレートフィン(従来品)は、温度の伝え難さを表す熱抵抗が0.24(K/W)であり、フィン上の温度は、73(℃)以上あった。
【0084】
一方、本発明の螺旋形状の流路を有する冷却フィンは、熱抵抗が0.20(K/W)となり、フィン上の温度は、約64(℃)であった。すなわち、本発明の冷却フィンは、従来のストレートフィンと比較して、熱抵抗を16.7%低減させることに成功した。
【0085】
以上、本発明の実施形態に係る冷却器6、半導体モジュール100について説明したが、本発明は、これまで説明した実施形態に限られない。特に、冷却フィンの大きさや羽根部の個数、軸部の断面積の比率は、目的に応じて変更することができる。今回、羽根数が8個の例を示したが、10個の場合でも冷却効率を高める、又は圧力損失を低下させるための数値範囲や比率(請求項3~5の内容)は同じである。
【0086】
また、本発明の冷却フィンの間にストレートフィンを配置した場合を説明したが(図3参照)、この場合、流体が隣接する冷却フィンの流路に流入しなくなるため、羽根部(屈曲フィン)の螺旋方向は同じでも、向きが異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1a,1b 半導体素子
2a~2c 金属接合部材
3 配線基板
4 ピン
5 積層基板
6 冷却器
7 冷却器ケース
7a 天板
7b 底板
7c 側板
7d 流入口
7e 流出口
8,8’,8A~8C,8X 冷却フィン
8S ストレートフィン
8a,8a’ 軸部
8b,8b’,8b1~8b8 羽根部
8f,8f1~8f8 屈曲フィン
9 ケース
10 樹脂
51 第1導電性板
52 絶縁基板
53 第2導電性板
100 半導体モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11