(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
H04R 7/04 20060101AFI20221219BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20221219BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20221219BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20221219BHJP
H04R 7/02 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H04R7/04
B32B15/088
B32B15/20
B32B5/18
H04R7/02 B
H04R7/02 E
(21)【出願番号】P 2018195116
(22)【出願日】2018-10-16
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2017200441
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108360(JP,A)
【文献】特開2012-010268(JP,A)
【文献】特開2013-090110(JP,A)
【文献】特開2017-075214(JP,A)
【文献】特開2006-319464(JP,A)
【文献】特開2002-374593(JP,A)
【文献】特開平08-276525(JP,A)
【文献】特開2011-114409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00- 7/26
31/00
B32B 1/00-43/00
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が50kg/m
3以上、250kg/m
3以下、平均孔径が0.1μm以上、15μm以下
、音速が900m/sec以上の多孔質ポリイミド(PI)フィルム層が、アルミニウム(Al)箔上に接着層を介することなく形成された
積層体からなるスピーカ振動板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリイミド(PI)フィルム層がアルミニウム(Al)箔上に接着層を介することなく形成された積層体およびこの積層体からなるスピーカ振動板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の移動通信端末の高機能化に伴い、これに用いられるスピーカについても、小型化、軽量化、薄型化が求められる。このような移動通信端末に用いられるスピーカとして、厚みが100μm~1000μm程度の高分子発泡体フィルムを、Al箔上に、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系等の樹脂からなる接着層を介して積層した積層体とし、これを平板型のスピーカ振動板として用いたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルからなる発泡体を高分子発泡体フィルムとして用いる方法が提案されている。特許文献2には、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとのポリマアロイからなる発泡体を高分子発泡体フィルムとして用いる方法が提案されている。特許文献3には、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂からなる発泡体を高分子発泡体フィルムとして用いる方法が提案されている。このようなスピーカ振動板については、音質改良、特に、高温環境下での音質改良に対するニーズが高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-10268号公報
【文献】特開2013-90110号公報
【文献】特開2017-75214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した発泡体フィルムに用いられた高分子はガラス転移温度が低いため、これらの高分子からなる発泡体は、高温下では、その剛性(弾性率)を充分に維持できず、良好な音質特性が得られないという問題があった。すなわち、振動板としての充分な音速(音波の伝搬速度)を確保することが難しかった。ここで、音速(音速=(E/ρ)1/2、E:フィルムの弾性率、ρ:フィルムの密度)とは、スピーカの音質に直接影響するパラメータであり、これが大きいほど、電気信号に対する振動板の振動追随性が向上し、これにより、音のひずみが低減されることが知られている。
また、高温環境下では、Al箔との積層体製造の際に用いられる接着層が劣化し、接着性が低下してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、前記課題を解決するものであって、耐熱性および音質特性に優れた軽量のスピーカ振動板として用いることができる積層体の提供を目的とする。
【0007】
本発明者らは、特定の密度と平均孔径とを有する耐熱性の多孔質PIフィルム層が、Al箔上に接着層を介することなく形成された積層体がスピーカ振動板として好適に使用できることを見出した。
【0008】
本発明は下記を趣旨とするものである。
<1> 密度が50kg/m3以上、250kg/m3以下、平均孔径が0.1μm以上、15μm以下の多孔質PIフィルム層が、Al箔上に接着層を介することなく形成されたことを特徴とする積層体。
<2> 前記積層体からなるスピーカ振動板。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層体により、耐熱性、軽量性に加え、音質特性に優れたスピーカ振動板とすることができる。このスピーカ振動板は、小型化、薄型化が必要な移動通信端末に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層体は、Al箔上に多孔質PIフィルム層が接着層を介することなく形成されたものである。PIは、主鎖にイミド結合を有する耐熱性高分子であり、溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸(PI前駆体のことであり、以下「PAA」と略記することがある)溶液を用いてPIとすることができる。すなわち、PAAを溶液中で熱的または化学的にイミド化することにより得られる可溶性PI(SPI)溶液をAl箔上に塗布、乾燥することによりPIとすることができる。また、PI前駆体であるPAA溶液を、Al箔上に塗布、乾燥、熱イミド化することによりPIとすることができる。本発明においては、PAA溶液をAl箔上に塗布、乾燥、熱イミド化して得られるPIが好ましく用いられる。
これらのPIには、PI変性体であるポリアミドイミド(PAI)、ポリエステルイミド(PEI)等も含まれる。
これらPIは、熱可塑性であっても非熱可塑性であってもよい。
これらPIは、DSCに基づくガラス転移温度(Tg)が200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
【0011】
本発明の積層体を構成する多孔質PIフィルムは、その密度を50kg/m3以上、250kg/m3以下とすることが必要であり、100kg/m3以上、250kg/m3以下とすることが好ましい。また、多孔質PIフィルムの平均孔径は、0.1μm以上、15μm以下とすることが必要であり、1μm超、10μm未満が好ましい。このようにすることにより、例えば、スピーカ振動板として用いた際に、良好な音速(音質)と、耐熱性とを確保することができる。ここで、密度はJIS Z8807の規定に基づき、25℃で測定することにより求めることができる。平均孔径は、多孔質PIフィルム断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を倍率5000~10000倍で取得し、画像処理ソフトで解析することにより確認することができる。
振動板の音速としては、900m/sec以上とすることが好ましく、1000m/sec以上とすることがより好ましい。ここで、音速は、JIS K7161に基づき引張モードで弾性率を測定した後、この弾性率を密度で割って比弾性率を算出し、この平方根を求めることにより得られる値である。音速をこのようにすることにより、電気信号に対する振動板の振動追随性が向上し、これにより、音のひずみが低減される。
なお、本発明の積層体を構成する多孔質PIフィルムの厚みは、30μm以上、300μm以下とすることが好ましく、100μm以上、300μm以下とすることがより好ましい。
【0012】
本発明の積層体は、例えば、Al箔上に、PAAと溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、前記塗膜中の溶媒を除去することにより、塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PAA層を形成せしめるに際し、溶質としてPAAを含み、PAAの貧溶媒であるテトラグライムが全溶媒質量に対し、70質量%以上、好ましくは80質量%含有されている溶液を用い、これをAl箔上に塗布して塗膜を形成し、これを100~200℃で乾燥後、200~400℃で熱硬化(熱イミド化)を行うことにより得ることができる。
ここで、塗膜乾燥の際に、相分離が誘起され、低密度の多孔質PI多孔質構造が形成される。なお、乾燥に際しては、特開2015-136633号公報に記載されているように、塗膜表面から揮発する溶媒を乾燥炉内の空間に籠らせて、加熱することが好ましい。
【0013】
PAA溶液には、PIを溶解して光学的に均一な溶液とするために、PAAを溶解させるための溶媒、すなわち、PAAに対する良溶媒を含ませることが好ましい。
このような溶媒としては、含窒素極性溶媒である、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DMAcおよびNMPが好ましい。
このように、本発明で用いられるPAA溶液は、その溶媒が、テトラグライムを全溶媒質量に対し70質量%以上含有されている混合溶媒(以下、「混合溶媒」と略記することがある)からなり、かつ光学的に均一な溶液であることが好ましい。
【0014】
PAA溶液は、テトラカルボン酸二無水物の合計と、ジアミンの合計とが略等モルになるように配合し、これを前記混合溶媒中、10~70℃で重合反応させて得られる溶液を用いることができる。
【0015】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸二無水物、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PMDA、BPDA、BTDAが好ましい。
【0016】
前記芳香族テトラカルボン酸二無水物の0.1~10モル%は、以下に示すようなオキシアルキレンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物および/またはシロキサンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物に置き換えて用いることが好ましい。
【0017】
オキシアルキレンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ジエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、トリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、テトラエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、ポリエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
シロキサンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラメチルシロキサン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラエチルシロキサン二無水物、両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマ等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマとしては、信越化学社製、「X22-168AS」(数平均分子量1000)、同「X22-168A」(数平均分子量2000)、同「X22-168B」(数平均分子量3200)、同「X22-168-P5-8」(数平均分子量4200)、ゲレスト社製、「DMS-Z21」(数平均分子量600~800)等の市販品を用いることができる。これらシロキサンユニットを有するテトラカルボン酸二無水物の中で、両末端に酸無水物基を有するシロキサンオリゴマが好ましく、その数平均分子量は、500~3000であることが好ましい。
【0019】
ジアミンの具体例としては、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、ODAが好ましい。
【0020】
前記芳香族ジアミンの0.1~10モル%は、以下に示すようなオキシアルキレンユニットを有するジアミンおよび/またはシロキサンユニットを有するジアミンに置き換えて用いることが好ましい。
【0021】
オキシアルキレンユニットを有するジアミンの具体例としては、エチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、ポリエチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、プロピレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、ジプロピレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、トリプロピレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、テトラプロピレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、ポリエチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテルが好ましい。これらの化合物は市販品を用いることができ、その数平均分子量としては500~3000であることが好ましい。
【0022】
シロキサンユニットを有するジアミンの具体例としては、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アミノブチル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、ビス(4-アミノフェノキシ)ジメチルシラン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、両末端にジアミン基を有するシロキサンオリゴマ等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。両末端にジアミン基を有するシロキサンオリゴマとしては、信越化学社製、KF-8010(数平均分子量860)、同X22-161A(数平均分子量1600)、同X22-161B(数平均分子量3000)、同KF-8012(数平均分子量4400)、東レダウコーニング製、BY16-835U(数平均分子量900)、チッソ社製、サイラプレーンFM3311(数平均分子量1000)等の市販品を用いることができる。これらシロキサンユニットを有するジアミンの中で、両末端にジアミン基を有するシロキサンオリゴマが好ましく、その数平均分子量は、500~3000であることが好ましい。
【0023】
PAA溶液中におけるPAAの固形分濃度は、1~15質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。固形分濃度をこのようにすることにより、密度が、50kg/m3以上、250kg/m3以下の多孔質PIフィルムが得られやすくなる。また、PAA溶液の30℃における粘度は、0.5~50Pa・sが好ましく、1~10Pa・sがより好ましい。
【0024】
PAA溶液には、Al箔との接着性を向上させるために、アルコキシシラン化合物を配合することが好ましい。このアルコキシシラン化合物は、その化合物の分子量を100以上、300以下とすることが好ましい。分子量が100以上、300以下であるアルコキシシラン化合物の具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等、およびそれらの混合物を挙げることができる。これらの中で、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APMS)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APES)、およびそれらの混合物が好ましい。これらアルコシキシラン化合物の配合量に制限はないが、PI質量に対し、5ppm以上、1000ppm未満とすることが好ましく、20ppm以上、500ppm未満とすることがより好ましい。
【0025】
PI溶液には、必要に応じて、中空状のフィラ、発泡剤等公知の添加物を添加してもよい。また、必要に応じて、PI以外の他のポリマーを、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0026】
前記乾燥工程において、塗膜に含まれる溶媒を揮発させることにより相分離が誘起され多孔質PAA被膜が形成される。乾燥温度としては、100~200℃とすることが好ましい。また、PAAを熱硬化してPIとするための温度としては、250~400℃とすることが好ましい。
また、乾燥、熱硬化に際しては、窒素ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0027】
以上、PI前駆体であるPAA溶液を用いたPIの例について説明したが、SPIまたはPAI、PEI等の変性PI等のPIについても、前記した方法と同様の方法により、本発明の多孔質PIフィルムとすることができる。すなわち、Al箔上に、PIと溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成し、しかる後、前記塗膜中の溶媒を除去することにより、塗膜内で相分離を起こさせて多孔質PIフィルム層を形成せしめるに際し、溶質としてPIを含み、PIの貧溶媒であるテトラグライムが全溶媒質量に対し、70質量%以上、好ましくは80質量%含有されている均一溶液を用い、これをAl箔上に塗布して塗膜を形成し、これを100~200℃で乾燥することにより、本発明の多孔質PIフィルムを得ることができる。可溶性PIまたは変性PIとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、サビック社製、ウルテム(SPI)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製、トーロン(PAI)等を挙げることができる。
【0028】
前記のような溶液組成としたPAA溶液またはPI溶液をAl箔上に、塗布、乾燥、必要に応じ熱硬化することにより、本発明の積層体を得ることができる。本発明の積層体はAl箔上に多孔質PIフィルム層が接着層を介することなく形成されたものであるので、スピーカ振動板とした際の良好な耐熱性を確保することができる。
【0029】
Al箔の厚みとしては、厚みを5μm~150μmとすることが好ましく、10μm~100μmとすることがより好ましい。Al箔は、化成処理、エッチング処理等公知の表面処理が施されていてもよい。
【0030】
Al箔へのPI溶液の塗布は、任意の塗工機を用いて行うことができるが、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、バーコーター、ドクターブレードコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、バーリバースロールコーターなどが挙げられる。また、特性の向上などを目的として多層塗布することも可能であり、その際、各層のPI溶液は同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
なお、多孔質PIフィルム層表面どうしを耐熱性の接着剤を介して積層することにより、多孔質PIフィルム層の両面にAl箔が積層された積層体とすることもできる。このような積層体もスピーカ振動体として好適に用いることができる。
【0032】
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお本発明は実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分として、ODA:0.6モル、テトラカルボン酸成分としてPMDA:0.6モル、溶媒としてDMAcおよびテトラグライムからなる混合溶媒(DMAc/テトラグライムの混合比率は質量比で20/80)を仕込み、攪拌下、30℃で10時間反応させることにより、固形分濃度が9.5質量%のPAA溶液を得た。このPAA溶液に、アルコキシシラン化合物であるAPMSをPAA質量に対し150ppm加え、塗布用の均一なPAA溶液を得た。次に、厚み15μmのエッチング処理されたAl箔上に、硬化後のPI層の厚みが200μmになるようにPAA溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥、徐々に昇温後、300℃で60分処理して、熱硬化することによりPAAをPIに転換し、Al箔上に多孔質PIフィルム(A-1)層が形成された積層体を得た。乾燥に際しては、揮発する溶媒を、乾燥炉内の空間に籠らせて、加熱するようにした。A-1層は手で引っ張っても、Al箔とは剥離することはなく、Al箔とA-1層とは強固に接着されていることが確認された。この積層体を空気中、180℃で5時間処理した後も、接着性に変化は認められず、充分な耐熱性が確認された。
次に、得られた積層体のAl箔部分をエッチングして除去することにより、多孔質PIフィルム(A-1)を得た。A-1のDSCに基づくガラス転移温度は400℃以上であった。A-1の特性を表1に示した。
【0034】
<実施例2>
ジアミン成分として、ODA:0.58モルおよび信越化学社製KF-8010(数平均分子量860):0.02モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に多孔質PIフィルム(A-2)層が形成された積層体を得た。Al箔とA-2層とは強固に接着されていることが確認された。A-2の特性を表1に示した。
【0035】
<実施例3>
ジアミン成分として、ODA:0.59モルおよびハンツマン社製「ジェファーミン」D2000(オキシアルキレンユニットを有するジアミンで、数平均分子量2000)0.01モルを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に多孔質PIフィルム(A-3)層が形成された積層体を得た。Al箔とA-3層とは強固に接着されていることが確認された。A-3の特性を表1に示した。
【0036】
<実施例4>
混合溶媒として、DMAc/テトラグライムの混合比率を質量比で15/85としたものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に多孔質PIフィルム(A-4)層が形成された積層体を得た。Al箔とA-4層とは強固に接着されていることが確認された。A-4の特性を表1に示した。
【0037】
<実施例5>
テトラカルボン酸成分としてBPDAを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に多孔質PIフィルム(A-5)層が形成された積層体を得た。Al箔とA-5層とは強固に接着されていることが確認された。A-5の特性を表1に示した。なお、A-5のガラス転移温度は、285℃であった。
【0038】
<実施例6>
PIとして、ガラス転移温度が280℃のPAI粉体(ソルベイアドバンストポリマーズ社製トーロン4000T-HV)を準備した。これを、NMPおよびテトラグライムからなる混合溶媒(NMP/テトラグライムの混合比率は質量比で15/85)に均一に溶解させることにより、固形分濃度が9.5質量%のPAI溶液を得た。このPAA溶液に、アルコキシシラン化合物であるAPMSをPAI質量に対し150ppm加え、塗布用の均一なPAI溶液を得た。次に、厚み15μmのエッチング処理されたAl箔上にPI層の厚みが200μmになるようにPAI溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、140℃で30分乾燥することにより、Al箔上に多孔質PIフィルム(A-6)層が形成された積層体を得た。乾燥に際しては、揮発する溶媒を、乾燥炉内の空間に籠らせて、加熱するようにした。Al箔とA-6層とは強固に接着されていることが確認された。この積層体を空気中、180℃で5時間処理した後も、接着性に変化は認められず、充分な耐熱性が確認された。A-6の特性を表1に示した。
【0039】
<比較例1>
溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で50/50)を用い、APMSを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を、実施例1と同様にして、Al箔上に厚みが400μmの多孔質PIフィルム(B-1)層が形成された積層体を得た。この積層体のB-1層を手で引っ張った所、Al箔から剥離することがあり、接着性としては、充分ではなかった。B-1の特性を表1に示した。
【0040】
<比較例2>
溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で50/50)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に厚みが250μmの多孔質PIフィルム(B-2)層が形成された積層体を得た。Al箔とB-2層とは強固に接着されていることが確認された。B-2の特性を表1に示した。
【0041】
<比較例3>
酸成分として、BPDAを用い、溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で50/50)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に厚みが250μmの多孔質PIフィルム(B-3)層が形成された積層体を得た。Al箔とB-3層とは強固に接着されていることが確認された。B-3の特性を表1に示した。
【0042】
<比較例4>
溶媒として、DMAcおよびトリグライムからなる混合溶媒(DMAc/トリグライムの混合比率は質量比で30/70)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に厚みが250μmの多孔質PIフィルム(B-4)層が形成された積層体を得た。この積層体の多孔質PIフィルム層は、Al箔と充分な接着性を有していた。B-4の特性を表1に示した。
【0043】
<比較例5>
固形分濃度を18質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAA溶液を得た。このPAA溶液を用い、実施例1と同様にして、Al箔上に厚みが250μmの多孔質PIフィルム(B-5)層が形成された積層体を得た。Al箔とB-5層とは強固に接着されていることが確認された。B-5の特性を表1に示した。
【0044】
表1に示したように、実施例で得られた積層体を形成する多孔質PIフィルムは、Al箔と充分に接着し、密度が充分に低下しているにも拘わらず、充分な音速を確保することができることが判る。これにより、本発明の積層体は、軽量かつ音質に優れたスピーカ振動板として好適に用いられることが判る。
【0045】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の積層体を構成する多孔質PIフィルム層は、耐熱性、軽量性、剛性、音質特性に優れる。従い、本発明の積層体からなるスピーカ振動板を用いたスピーカは、小型化、薄型化、軽量化が必要な携帯電話等の移動通信端末に好適に用いることができる。