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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】潜在捲縮性を有する複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20221219BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20221219BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20221219BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D04H1/435
D04H1/4382
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018218412
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2019108651
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017240885
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石原 慶
(72)【発明者】
【氏名】田中 知樹
(72)【発明者】
【氏名】濱 健
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216999(JP,A)
【文献】特開2004-143654(JP,A)
【文献】特開2007-291541(JP,A)
【文献】特開2003-20526(JP,A)
【文献】特開2001-303391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度の異なる2種のポリエステルがサイドバイサイド型あるいは偏心芯鞘型に接合して複合され、単繊維繊度が2.6デシテックス以下である潜在捲縮性を有する複合繊維であり、
粘度の異なる2種のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート同士の組合せであるか、ポリエチレンテレフタレートとエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステルとの組合せであるか、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステル同士の組合せのいずれかであり、
粘度の異なる2種のポリエステルは、いずれにも白色顔料を含有し、
かつ粘度の異なる2種のポリエステルのいずれか一方あるいは両方に有色顔料を含有し、
有色顔料が、無機系顔料と有機系顔料のいずれも含み、無機系顔料が赤色以外の顔料を含み、有機系顔料が少なくとも赤色顔料を含むことを特徴とする潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項2】
低粘度のポリエステルは、有色顔料である赤色以外の無機系顔料と少なくとも赤色顔料を含む有機系顔料とを含有し、高粘度のポリエステルは有色顔料を含有しないことを特徴とする請求項1記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項3】
低粘度ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステルであり、高粘度ポリエステルが、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸とビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(BAEO)を共重合してなる共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項1または2記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項4】
高粘度のポリエステル中の白色顔料の比率が、低粘度のポリエステル中の白色顔料の比率よりも多く、高粘度ポリエステル中に白色顔料を0.3~6質量%含むことを特徴とする請求項3記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項5】
白色顔料が、酸化チタンであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項6】
請求項1~5に記載の潜在捲縮性を有する複合繊維を含むことを特徴とする不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた潜在捲縮性を有し、かつ顔料を含有する原着複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステル繊維は、衣料用、産業資材用等種々の用途に使用されているが、中でも立体捲縮を有するポリエステル繊維は、その伸縮性を生かし、貼付剤やサポーター等の医療衛生材の基布に適した不織布の構成繊維として広く用いられている。このような伸縮性に富んだ立体捲縮を有するポリエステル繊維として、熱収縮特性の異なるポリマーをサイドバイサイドまたは偏心芯鞘構造に複合した潜在捲縮性能を有する複合繊維が数多く提案されている。
例えば、特許文献1、2には、5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルとポリエチレンテレフタレートとの複合繊維が開示されている。また、特許文献3にはイソフタル酸とビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(BAEO)とを共重合したポリエステルとポリエチレンテレフタレートとの複合繊維が開示されている。
【0003】
特許文献1~3に開示される潜在捲縮性複合繊維はいずれも白色繊維であり、着色された複合繊維が要求される場合、得られた繊維に色付けのための染色加工が必要になる。染色工程を要する場合、コストアップや工程が長くなることによる納期の長期化、また、染色工程にて発生する排水による環境汚染などの問題を有している。
これらの問題を解決する手段として有色顔料を含有させる原着繊維が広く用いられている。例えば、特許文献4、5には、特定の共重合ポリエステルとポリエチレンテレフタレートからなるサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維であって、ポリエステルに有色顔料を含有させた原着繊維およびこの繊維を用いた不織布が開示されている。有色顔料としては、コストが安く扱いやすいことから無機系顔料が用いられることが多いが、繊維製造における延伸工程および不織布加工工程において、繊維表面が摩擦抵抗を受けた際に、一部の無機系顔料が脱落するという問題があり、特に2.6デシテックス以下の細い繊度の繊維の場合は、その問題がより顕著に発生しやすい。工程中に、顔料が脱落すると、機械設備の汚染が生じることや、機械設備に脱落した顔料が堆積し、その顔料の堆積物が原料繊維表面に付着してしまい、そのような堆積物が付着した原料繊維が製品に混入すれば、得られる繊維製品における品質面における問題が生じる恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平4-5769号公報
【文献】特公平3-10737号公報
【文献】特開平7-54216号公報
【文献】特許第2815410号公報
【文献】特開2003-89928号公報(請求項2、実施例11~16)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点を解決し、染色加工を必要としないで使用することができる原着複合繊維であって、細い繊度の原着複合繊維であっても、優れた品質と伸縮性を有する繊維製品を得ることができる潜在捲縮能を有する原着複合繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、有色顔料を含む原着複合繊維であっても、無機系顔料と有機系顔料の両者を含み、かつ無機系顔料と有機系顔料との色調を特定したものをポリエステルに含有させることにより、紡糸操業性を悪化させることなく、機械設備や不織布の汚染の少ない優れた品質と伸縮性を有する不織布を得ることが可能な原着複合繊維を得ることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、粘度の異なる2種のポリエステルがサイドバイサイドに接合して複合され、単繊維繊度が2.6デシテックス以下である潜在捲縮性を有する複合繊維であり、
粘度の異なる2種のポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート同士の組合せであるか、ポリエチレンテレフタレートとエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステルとの組合せであるか、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする共重合ポリエステル同士の組合せのいずれかであり、
粘度の異なる2種のポリエステルは、いずれにも白色顔料を含有し、
かつ粘度の異なる2種のポリエステルのいずれか一方あるいは両方に有色顔料を含有し、有色顔料が、無機系顔料と有機系顔料のいずれも含み、無機系顔料が赤色以外の顔料を含み、有機系顔料が少なくとも赤色顔料を含むことを特徴とする潜在捲縮性を有する複合繊維を要旨とするものである。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の潜在捲縮性を有する複合繊維は、有色顔料を含み着色されてなる原着繊維であり、粘度の異なる2種のポリエステルがサイドバイサイド型あるいは偏心芯鞘型に接合して複合されている。その断面形状は、円形断面であっても、偏平や六葉、三角等の異形であっても、あるいは中空部を有するものであってもよい。
【0010】
本発明の複合繊維は、単繊維繊度が2.6dtex以下である。2.6dtex以下とすることにより、この複合繊維からなる繊維製品は、柔軟性に優れたものとなる。なお、単繊維繊度の下限は、0.4dtex程度とする。0.4dtexを下回ると紡糸操業性が悪化し、均質な繊維を得にくくなるためである。
【0011】
本発明の複合繊維を構成する2種のポリエステルは、粘度が異なるものであるが、その極限粘度差は、0.03以上が好ましい。粘度差が小さい場合は、良好に捲縮が顕在化しにくいためである。紡糸安定性を考慮すると、高粘度のポリエステルの極限粘度は0.60~0.80、低粘度ポリエステルの極限粘度は0.52~0.72の範囲とし、その範囲において少なくとも粘度差0.03以上のものを選択するとよい。なお、極限粘度差の上限は0.20以下であることが好ましい。極限粘度差が0.20を超えると、紡糸口金直下の糸条の曲がりが大きくなり、紡糸が不安定になりやすいためである。
【0012】
2種のポリエステルの組合せとしては、高粘度ポリエチレンテレフタレート/低粘度ポリエチレンテレフタレート等のホモボリエステル同士の組合せであっても、高粘度共重合ポリエステル/低粘度共重合ポリエステル等の共重合ポリエステル同士の組合せであっても、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル等のホモポリエステルと共重合ポリエステルの組合せであってもよい。ポリエチレンテレフタレートと共重合ポリエステルとの組合せの場合は、共重合ポリエステルを高粘度とする。
【0013】
具体的な組合せとしては、低粘度ポリエステル(A)として、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステル、高粘度ポリエステル(B)として、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸とビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(BAEO)を共重合してなる共重合ポリエステルが挙げられる。
【0014】
上記した組合せの低粘度ポリエステル(A)は、ホモポリマーであるポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく用いられるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸成分、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール成分を共重合したものでもよい。また、安定剤、蛍光剤、強化剤、難燃剤、酸化防止剤、分散剤等の改質剤が添加されたものを用いてもよい。
【0015】
高粘度ポリエステル(B)は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸を0~9mol%、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(BAEO)を5~11mol%共重合し、さらにイソフタル酸とBAEOの合計量が10~18mol%とした共重合ポリエステルであることが好ましい。イソフタル酸の共重合割合が9mol%を超えるとポリマーの融点が低下し、得られる繊維の強度が低下する傾向となり、また、BAEOの共重合割合が5mol%未満であると、得られる複合繊維は十分な潜在捲縮性能を有しにくく、このような複合繊維を不織布とした場合、伸長率や伸長回復率が小さく、伸縮性能が劣るものとなる。一方、BAEOの共重合割合が11mol%を超えるとポリマーの融点が低下し、得られる繊維の強度が低下する傾向となる。BAEOはビスフェノールA1molに対して、エチレンオキシドを2~10mol付加したものが好ましく、さらには2~5mol付加したものが好ましい。また、イソフタル酸とBAEOの合計量が10mol%未満であると、繊度が小さく細い複合繊維は潜在捲縮性能が不十分となりやすく、18mol%を超えるとポリマーの融点が低下し、得られる繊維の強度が低下する傾向となる。
【0016】
本発明において、2種のポリエステルは、いずれも白色顔料を含む。白色顔料を含むことにより、繊維の透明感がなくなり、隠蔽性が向上し、また有色顔料のマット調に発色する傾向となる。また、繊維の重量感が増し、さらに、繊維表面に白色顔料である微粒子が部分的に露出することにもなり、表面摩擦抵抗を下げる効果も発揮し、これらの相乗効果により、この複合繊維を用いて不織布としたときに良好なドレープ感や高級感を発現することも可能となる。
【0017】
本発明の複合繊維を構成する2種のポリエステルとして、上記した低粘度ポリエステル(A)として、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステル、高粘度ポリエステル(B)として、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸とビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(BAEO)を共重合してなる共重合ポリエステルの組合せを採用する場合、それぞれのポリエステルが含む白色顔料は、高粘度ポリエステル(B)が含む白色顔料の比率が、低粘度ポリエステル(A)が含む白色顔料の比率よりも多く含むものとする。高粘度ポリエステルに、より多くの白色顔料を含有させることによって、複合繊維の製造工程において、紡糸時の冷却固化を遅らせ、得られる未延伸糸における伸度を高くすることができ、これによって、延伸工程にて高倍率で延伸することが可能となり、より細い繊維径の繊維を安定的に生産することができる。
白色顔料の顔料は、高粘度ポリエステルである共重合ポリエステルの総質量に対する白色顔料の含有量が0.3~6質量%であることが好ましく、より好ましくは0.4~5質量%である。含有量が0.3質量%未満であると、白色顔料を含有させる効果を奏しにくく、含有量が6質量%を超えると、紡糸、延伸時に糸切れや毛羽等が発生しやすくなる。また、低粘度ポリエステルの総質量に対する白色顔料の含有量は、高粘度ポリエステルよりも少なく設定するが、多くとも0.4質量%がよい。
【0018】
本発明で使用する白色顔料は、成形、焼成等の工程を経て得られる無機材料を微粒化したものを用いるとよく、酸化チタン、酸化珪素、酸化亜鉛等の無機酸化物微粒子が代表的であり、ポリエステルとの界面における表面張力が小さく、溶融時に凝集し難いものが操業上及び品位上から好ましい。なかでも酸化チタンを用いることが好ましい。
【0019】
白色顔料は、平均粒径が0.2~2μmの範囲にあるものを用いるとよい。なお、平均粒径とは、セラミック微粒子をエチレングリコール溶液に微分散させた後、島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD―2000Jを用い、体積分布基準換算、屈折率1.70―0.20iの条件で測定するものである。平均粒径がこの範囲にある白色顔料が繊維表面に部分的に露出することにより、繊維表面の滑りがよくなる。平均粒径がこの範囲より小さいと繊維表面を改質する効果が乏しい。一方、この範囲より大きいと粒子が局部的に大きく露出してしまうため摩擦抵抗が大きくなり、さらには、粒子が局在するために、紡糸時に応力の偏りによる糸切れが発生したり、延伸時に毛羽が発生する等、操業的な問題が発生する場合がある。
【0020】
白色顔料の密度は3.5g/cm以上のものを用いるとよい。密度が3.5g/cmより小さいと、繊維の密度を増す効果が乏しく、不織布としたときに良好なドレープ性や高級感を発現しにくい傾向となり、一方、密度を増すために多量に含有させ過ぎた場合は紡糸時に糸切れが発生したり、延伸、加工時に毛羽が発生する等、操業性に問題があり、好ましくない。白色顔料の密度の上限は特に限定されるものではないが、凝集によるトラブルや操業性を考慮すると、5g/cm程度がよい。
【0021】
白色顔料は、ポリエステルの重合時あるいは紡糸時の溶融段階で添加することが可能であるが、凝集を防ぎ、より均一に分散させることを考慮すると、重合時に添加することが好ましい。
【0022】
本発明の複合繊維は、所望の色を付与するために有色顔料を含有する。本発明において有色顔料とは、白色顔料以外の色を呈する顔料をいう。有色顔料は、粘度の異なるポリエステルのいずれか一方、あるいは両方に含有する場合のいずれでもよいが、低粘度ポリエステルのみに有色顔料を添加することが好ましい。これは有色顔料を低粘度ポリエステルに添加することにより見かけの溶融粘度が高くなり、低粘度ポリエステルと高粘度ポリエステルとの見かけの溶融粘度差が小さくなることにより、紡糸性が向上するためである。
潜在捲縮性を有する複合繊維の性質上、一方が有色顔料を含有するだけでも着色の効果が十分に得られるため、両方に有色顔料を含有させずともよい。
【0023】
本発明においては、有色顔料として、無機系顔料と有機系顔料のいずれも含まれている必要があり、無機系顔料としては赤色以外の色を呈する顔料を含み、有機系顔料としては少なくとも赤色を呈する顔料を含む。有機系顔料は一般的に、無機系顔料よりも含有させるポリマーであるポリエステルとの馴染みがよいため、有色顔料の粒子がポリエステルから脱落し難くなる。そのため、機械設備の汚染や、機械設備に脱落し堆積した有色顔料が、原料繊維や、これを用いた不織布などの製品に混入してしまうなどの、品質面での問題を解決することができる。また、有機系顔料は、調色能力が高く、発色が良好であるため、ポリエステルへの含有量を少なくすることができ、さらには、ポリエステルとのなじみが良く、柔軟性に優れるため、繊維製造時に、良好に延伸が可能となり、延伸時に脱落が生じにくい。脱落や、脱落した顔料が混入した場合に、顔料の色が赤色の場合、特に目立つため、品質面での問題が生じやすいため、少なくとも赤色顔料は、無機系顔料ではなく、有機系顔料として含有させる。なお、赤色以外の顔料としても、当然ながら有機系顔料を用いることは好ましい。
【0024】
有機系顔料の種類としては、フタロシアニン系、ペリレン系、イソインドリノン系、アゾ系、アンスラキノン系等が挙げられる。
【0025】
有機系顔料は繊維全体に対して0.0015~0.30質量%含まれていることが好ましく、さらには0.0020~0.25質量%含まれていることが好ましい。含有量が0.0015質量%未満であると、所望する十分な発色が得られにくくなる。一方、含有量が0.30質量%を超えるとコスト的に不利になるため好ましくない。
【0026】
また有色顔料として、赤以外の色を呈する顔料は、本発明の効果を損なわない範囲で無機系顔料を含有させる。有機系顔料は耐熱性に劣るため色調が安定しにくいため、特に色合いの調整に用いられるカーボンブラックは、取扱い性が良好であるため、無機系顔料として好ましく用いる。無機系の有色顔料としては、カーボンブラック以外として、酸化鉄、酸化鉄亜鉛、群青等が挙げられる。目的とする発色を得るためには、色調の安定性という観点からも、これらの無機系顔料である有色顔料を適宜選定し、ブレンドして使用する。なお、無機系顔料は、上記したようにポリエステルとの馴染が有機系顔料と比較して劣るため、凝集しやすい傾向にあるが、有機系顔料と無機系顔料とを併用して用いることにより顔料同士の凝集を抑制することもできる。
【0027】
有色顔料の添加方法については、ポリエステルの重合段階あるいは複合繊維の製糸段階のいずれかの過程で添加すればよく、特に限定はしないが、設備の汚染、制御等取扱性から製糸段階に添加するのが好ましい。添加方法としては、マスターバッチ方式、リキッドカラー方式等が挙げられるが、溶融紡糸時の安定性、有色顔料の取扱性等より、マスターバッチ方式が好ましい。なお、マスターバッチ方式を採用する場合、原料ペレットの段階で計量混合して溶融紡糸する方法、別々に溶融させたポリマーを計量混合して紡糸する方法等が挙げられるが、いずれの方法で行ってもよい。
【0028】
次に、本発明の複合繊維の製造方法について説明する。まず、所定の白色顔料あるいは有色顔料を含んでなる高粘度ポリエステルおよび低粘度ポリエステルを準備し、通常の複合紡糸装置により複合紡糸し、得られた未延伸糸に延伸、熱処理を施す。本発明においては、未延伸糸の繊度は特に限定されるものではなく、長繊維を得る場合には、30~200dtexの糸条とし、紡績糸用や不織布用の短繊維を得る場合には、50~100万デニールの糸束に集束してから延伸を行うことが好ましい。このとき、熱処理時の条件としては、潜在捲縮を後工程の熱処理で顕在化させるため、高温で熱処理を行うことは好ましくなく、100~160℃で熱処理することが好ましい。また、長繊維を得る場合は、延伸、熱処理後巻き取り機で巻き取る。紡績糸用や不織布用の短繊維を得る場合には、延伸、熱処理後、8~18個/25mm程度の機械捲縮を付与し、仕上げ油剤を付与した後、糸条束を切断して短繊維とする。
【0029】
本発明の複合繊維は、熱処理によって潜在捲縮性能を顕在化してスパイラル状の立体捲縮を発現する。潜在捲縮性能を良好に顕在化させるためには、弛緩状態で熱処理することが好ましい。熱処理条件としては、例えば、160~190℃に設定した熱風乾燥機中にて30秒~2分間程度処理することにより良好に立体捲縮を発現させることができる。
【0030】
本発明の不織布は、上記した本発明の複合繊維により構成されるものであり、本発明の複合繊維が有する特徴が活かされ、伸縮性、嵩高性により優れた不織布である。本発明の不織布は、本発明の複合繊維のみからなるものとすることが好ましいが、他の繊維を含有してもよく、この場合は、本発明の複合繊維の割合を70質量%以上とすることが好ましい。
【0031】
本発明の不織布は、構成繊維同士が三次元的に交絡することにより不織布としての形状を保持しているものが好ましい。この構成繊維同士が三次元的に交絡してなる不織布は、多数の繊維が堆積してなる不織ウエブに高圧液体流を噴射することによって構成繊維同士を三次元的に交絡させることにより得られる。この構成繊維同士の三次元的な交絡により、形態保持性と実用上十分な強力そして柔軟性が不織布に具備される。不織布の目付は、用途に応じて適宜選択すればよいが、20~200g/m程度がよい。
【0032】
次に、本発明の不織布の製造方法の一例を挙げる。不織布の構成繊維となる繊維(本発明の複合繊維)を、カード機等を用いてカーディングしてカードウエブを作製し、得られたカードウエブに高圧液体流処理を施して構成繊維同士を三次元的に交絡させて一体化し、不織布を得る。本発明の複合繊維の潜在捲縮性能を発現させるには、高圧液体流処理により不織布に含まれる液体を除去するための乾燥工程において、乾燥熱処理を施し、液体除去と同時に潜在捲縮性能を発現させてスパイラル状の立体捲縮を顕在化させるとよい。
【0033】
本発明の複合繊維は、優れた潜在捲縮能を有しており、製糸性よく得ることができ、品質、伸縮性に優れた不織布を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、繊維製造における延伸工程および不織布加工工程において、白色顔料以外の有色顔料に由来した機台汚れが生じにくく、優れた潜在捲縮性を発揮し、品位の高い伸縮性に優れた繊維製品を得ることができる。
【実施例
【0035】
(1)極限粘度〔η〕
フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒とし、20℃で測定した。
(2)製糸性
孔数1038孔の丸断面複合紡糸ノズルを用い、8錘で7日間紡糸し、1日当たりの糸切れ回数が5回以下を合格(○)とし、糸切れ回数が5回を越えるものを不合格(×)とした。
(3)不織布の品位
目付80g/m、幅2m、長さ3000mの不織布を製造し、1mm以上の、脱落した有色顔料に由来する濃色異物欠点と、繊維膠着による欠点を目視で確認した。欠点数が5ケ/100m以下を合格(○)、5ケ/100mを超えるものを不合格(×)とした。
(4)不織布の伸縮性(伸長回復率)
25mm(機械方向と直交する方向)×150mm(機械方向)の試料片を5枚作製し、定速伸長形引張試験機を用い、つかみ間隔100mmとして、機械方向に100mm/分の速度でつかみ間隔が150mmとなるまで伸ばし、この状態で1分間保持した後、100mm/分の速度で元に戻し、3分間放置後、再び100mm/分の速度で伸ばし、荷重がかかるまでの伸びAを測定し、下記式により、それぞれの伸長回復率を算出し、その平均値を求めた。
伸長回復率%=〔(50-A)/50〕×100
なお、伸長回復率が60%以上のものを合格とした。
【0036】
実施例1
低粘度ポリエステルとして、白色顔料である密度3.9g/cm、平均粒径0.7μmの二酸化チタン微粒子を重合時に添加し、二酸化チタン微粒子の含有量が0.3質量%である〔η〕0.69のポリエチレンテレフタレートを用い、そして、〔η〕0.74のポリエチレンテレフタレートをベースポリマーとし、有色顔料として、有機系顔料(赤色、黄色)、無機系顔料(カーボンブラック)を練り込んだマスターバッチをポリエステル(A)中の有色顔料濃度が0.1質量%となるように混合した。
【0037】
高粘度ポリエステルとして、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸4mol%、BAEO7mol%共重合した共重合ポリエステルであって、白色顔料である密度3.9g/cm、平均粒径0.7μmの二酸化チタン微粒子を2.0質量%含有する〔η〕0.78の共重合ポリエステルを用いた。
【0038】
低粘度ポリエステルと高粘度ポリエステルとを、複合質量比を1:1として複合溶融紡糸装置を用いて、孔数1038孔の丸断面口金孔から、紡糸温度300℃、引取速度900m/分、吐出量386g/分でサイドバイサイド型複合繊維を紡糸した。得られた未延伸糸を、延伸温度73℃、延伸倍率3.60倍に延伸し、次いで140℃で緊張熱処理を行い、スタッフィングボックスで機械捲縮(捲縮数12個/25mm)を付与した後、仕上げ油剤を付与し、繊維長44mmに切断し、単糸繊度1.3dtexの複合繊維を得た。複合繊維中の有色顔料の含有量は0.05質量%であり、複合繊維中の有機系顔料の含有量は0.048質量%であった。得られた複合繊維のみを用い、カード機にて開繊し、不織ウェブを作製した。この不織ウェブをネットコンベアー上に供給し、孔径0.12mm、孔間隔1.0mmの噴射孔を複数個有する噴射ノズルを3段階に設け、前段20kg/cm、中段40kg/cm、後段100kg/cmの水圧で不織ウェブに高圧液体流処理を施しウェブの交絡化を行った。次いで180℃×1分の乾熱処理を行って潜在捲縮性能を顕在化させ、スパイラル状の立体捲縮を発現させ、目付80g/mの不織布を得た。
【0039】
実施例2~5
有色顔料濃度が表1に示す値となるようにマスターバッチを添加した以外は、実施例1と同様に行った。
【0040】
実施例6~7
高粘度ポリエステルである共重合ポリエステルの共重合量が表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0041】
実施例8~9、比較例1
複合繊維の単糸繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0042】
比較例2~3
低粘度ポリエステルに添加する有色顔料の種類を無機系(赤色、黄色、カーボンブラック)に変更し、有色顔料濃度を表1に示す値となるようにマスターバッチを添加した以外は、実施例1と同様に行った。
【0043】
上記の実施例1~9、比較例1~3で得られた複合繊維の製糸性と、該複合繊維を不織布としたときの品位、伸縮性の評価結果を表1に示す。
表1から明らかなように、実施例1~9では製糸性よく複合繊維を得ることができ、得られた複合繊維から作製した不織布は、品位、伸縮性のいずれにおいても優れるものであった。
【0044】
比較例1は、単糸繊度が太すぎたため、風合いに劣るものとなった。
【0045】
比較例2~3は、ポリエステル(A)中の有色顔料を無機系のみに変更したため、不織布に多くの濃色異物欠点が発生し、品位に劣るものとなった。
【0046】
【表1】