(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】レンズ鏡筒
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20221219BHJP
G03B 9/02 20210101ALI20221219BHJP
【FI】
G02B7/02 E
G02B7/02 H
G03B9/02 Z
(21)【出願番号】P 2019021190
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000131326
【氏名又は名称】株式会社シグマ
(72)【発明者】
【氏名】田内 久真
(72)【発明者】
【氏名】白井 純一
【審査官】▲うし▼田 真悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-134425(JP,A)
【文献】特開平10-221584(JP,A)
【文献】実開昭57-000707(JP,U)
【文献】国際公開第2016/039294(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02-7/16
G03B 9/02
G03B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切り替えスイッチと、前記切り替えスイッチと固定されたスイッチベースと、回転可能な円筒状のリング部材と、固定筒に固定された抑えバネと、を有し、
前記リング部材は内周部の周方向に沿って凹凸部と、前記凹凸部と隣接する平坦部とを有し、前記スイッチベースは貫通穴を有し、前記貫通穴には一端が球状部材と接し、他方の一端が前記抑えバネと接する付勢部材が挿入され
、前記球状部材の一端が前記凹凸部または前記平坦部のいずれかと接していることを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
前記リング部材と一体的に回転する操作部材を有し、前記切り替えスイッチを移動させることで、前記操作部材の回転操作においてクリック感を有する第1の付勢状態と、クリック感を有さない第2の付勢状態と、を切り替え可能であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
前記第1の付勢状態においては前記球状部材が前記
凹凸部に圧接され、前記第2の付勢状態においては前記球状部材が前記
平坦部に圧接されることを特徴とする請求項2に記載のレンズ鏡筒。
【請求項4】
記リング部材は、内周部において前記凹凸部と前記平坦部との周方向の延長上に単独凹部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
前記操作部材はレンズ絞り値を調整可能な絞りリングであることを特徴とする請求項
2乃至請求項4のいずれかに記載のレンズ鏡筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクリック感の有無を切り替え可能な絞りリングを有するレンズ鏡筒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、絞りリングを回転操作することで絞り値を調整可能なレンズ鏡筒が公知であり、更には絞りリングの回転操作に係るクリック感の有無を切り替え可能なレンズ鏡筒が公知である。
【0003】
特許文献1には、固定部に対して摺動可能な操作部と、操作部に対して異なる操作感を発生させる複数の操作感発生部材と、複数の操作感発生部材を独立して切り替え、操作部に作用する操作感発生部材を切り替える切替部と、を備える操作機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明においては、リングと当接しているボールを退避させることでクリック感を切り替えている。しかし、このような複雑な機構を搭載するためにはレンズ鏡筒の径方向に大きなスペースが必要であり、製品の大型化を招いてしまう。また、クリック感を生み出すバネに付勢されているホルダーは、切替部と連動している。ここで、クリック感を改善するべくバネ力量を強くすると、一方で切替部の操作における感触が悪化してしまう恐れがある。つまり、クリック感とスイッチの操作感がトレードオフの関係となってしまうため、そのどちらも良好と出来る構成が求められていた。
【0006】
上記課題から本発明は、簡易な構成ながら径方向に省スペースであり、切り替え時の感触に悪影響がなく、外観の品位に優れた絞りクリック感の切り替え機構を有するレンズ鏡筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明のレンズ鏡筒は、切り替えスイッチと、前記切り替えスイッチと固定されたスイッチベースと、回転可能な円筒状のリング部材と、固定筒に固定された抑えバネと、を有し、前記リング部材は内周部の周方向に沿って凹凸部と、前記凹凸部と隣接する平坦部とを有し、前記スイッチベースは貫通穴を有し、前記貫通穴には一端が球状部材と接し、他方の一端が前記抑えバネと接する付勢部材が挿入され、前記球状部材の一端が前記凹凸部または前記平坦部のいずれかと接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によれば、簡易な構成ながら径方向に省スペースであり、切り替え時の感触に悪影響がなく、外観の品位に優れた絞りクリック感の切り替え機構を有するレンズ鏡筒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の主要な構成部材を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における切り替え機構の主要な構成部材を示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における第2絞りリングを示した斜視図である。
【
図4】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第1の状態を示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第2の状態を示す断面図である。
【
図6】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第1の状態における主要部材を示す斜視図である。
【
図7】本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第2の状態における主要部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面に従って、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
図1は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の主要な構成部材を示す斜視図である。以下、
図1を使用してレンズ鏡筒の切り替え機構に係る主な部材について説明する。ここで、本実施例においてはレンズ鏡筒における被写体側を前方、像側を後方と呼称する。
【0012】
レンズ鏡筒は撮像装置に取り付け可能な交換レンズであり、その中心に光軸を持つ。カバーリング10は円筒形状の固定筒であり、その内部には不図示の固定筒やレンズ鏡室等の諸部材を備える。また、カバーリング10は外周上に窓枠11を有し、窓枠11には切り替えスイッチ40が挿通され、内周部にはスイッチクリックバネ43と係合する不図示の突起部を備えている。
【0013】
第1絞りリング20は使用者がカバーリング10の外周上に備えられる円筒形状の部材であり、使用者が光軸を中心軸として周方向に回転操作可能である。
【0014】
図2は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における第2絞りリング30を示した斜視図である。第2絞りリング30は第1絞りリング20の内周側に接着され、第1絞りリング20と一体として回転する円筒形状の部材である。第2絞りリング30は内周部の周方向に平坦部31と、光軸と平行な方向を向いて配される凹形状の溝が連なった凹凸部32とを備える。平坦部31と凹凸部32は光軸と平行な方向に隣接して配置され、平坦部31が前方に、凹凸部32が後方に配置される。また、平坦部31及び凹凸部32の両端を第1端35及び第2端36と呼称する。
【0015】
第2端36の周方向の延長上には中間部33、単独凹部34が備えられている。単独凹部34は凹凸部32における凹部の1つが平坦部31まで延長された形状をしている。また、カバーリング10には不図示の検知部材が備えられており、第2絞りリング30の回転量及び回転方向が検出される。なお、図における矢印Aが正方向、矢印Bが逆方向の回転を示している。
【0016】
第1絞りリング20の回転は、第2絞りリング30を介して検知され、不図示の公知の絞り機構に伝達される。これにより、使用者は第1絞りリング20を回転操作することで、レンズ鏡筒における絞り値の大きさを任意に調整することができる。
【0017】
図3は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒における切り替え機構の主要な構成部材を示す斜視図である。本実施例におけるレンズ鏡筒は、切り替え機構によってクリック感の有無を切り替え可能である。切り替え機構は切り替えスイッチ40、スイッチベース41、スイッチクリックバネ43、付勢バネ44、抑えバネ45、ボール46によって構成される。まず切り替え機構の構成について説明する。
【0018】
切り替えスイッチ40は、使用者が絞りリングの回転操作におけるクリック感の有無を切り替えるためのスイッチである。切り替えスイッチ40はカバーリング10の窓枠11に挿通され、レンズ鏡筒の外観に露出している。
【0019】
スイッチベース41は締結部材47によって切り替えスイッチ40と締結されており、切り替えスイッチ40と一体的に動く部材である。また、スイッチベース41は貫通穴42を有し、貫通穴42には付勢バネ44が挿通されている。
【0020】
スイッチクリックバネ43は締結部材47によってスイッチベース41に締結される部材である。スイッチクリックバネ43はカバーリング10の内周部に備わる突起部と係合しており、移動の際に撓むことで、切り替えスイッチ40の操作におけるクリック感を生み出している。
【0021】
付勢バネ44はスイッチベース41の貫通穴42に挿通されるバネ状の部材である。付勢バネ44は一方の側がボール46を付勢し、残りの一方の側が抑えバネ45と接触する。
【0022】
ボール46はスイッチベース41における貫通穴42によって前後の移動が規制され、付勢バネ44によって第2絞りリング30に対して当接するよう付勢される球状の部材である。ボール46は貫通穴42に規制されていることから、スイッチベース41と一体的に移動する。
【0023】
抑えバネ45は付勢バネ44の一方の側と接触し、付勢するバネ部材である。抑えバネ45は締結部材47によってカバーリング10に締結される。
【0024】
次に切り替え機構の効果について説明する。
図4は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第1の状態を示す断面図である。
図5は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第2の状態を示す断面図である。ここで、本実施例においてはクリック感が発生しない状態を第1の状態、クリック感が発生する状態を第2の状態と呼称する。
【0025】
図6は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第1の状態における主要部材を示す斜視図である。第1の状態において、切り替えスイッチ40は前方がカバーリング10と当接し、移動が規制される。切り替え機構におけるボール46は付勢バネ44によって付勢され、第2絞りリング30の平坦部31に圧接される。第1の状態において第1絞りリング20を回転させると、第2絞りリング30はボール46と平坦部31が摺動しながら回転する。その際には第2絞りリング30とボール46との摺動面が常に平坦部31であることから、第1絞りリング20の回転操作においてクリック感が発生しない構成となっている。
【0026】
図7は本発明の一実施例を示したレンズ鏡筒の第2の状態における主要部材を示す斜視図である。第2の状態において、切り替えスイッチ40は後方がカバーリング10と当接し、移動が規制される。切り替え機構におけるボール46は付勢バネ44によって付勢され、第2絞りリング30の凹凸部32に圧接される。第2の状態において第1絞りリング20を回転させると、第2絞りリング30は凹凸部32の凹部にボール46が順次嵌り込みながら回転する。ボール46が凹部から隣接する凹部に移動する際には一定の力量が必要であるので、ボール46が凹凸部32の凹部に順次嵌ることで、第1絞りリング20の回転操作においてクリック感が発生する構成となっている。
【0027】
第2絞りリング30の回転は、第1端35において正方向の回転が規制される。また、第2端36においては一度ボール46が突き当たった後、更に力量を加えて回転操作を行うことでボール46が中間部33に乗り上げ、最終的にはボール46が単独凹部34に嵌まり込み、逆方向の回転が規制される。本実施例においてはボール46が単独凹部34に位置する際には、絞り値をオートモードにする等、絞り値の連続的変化以外の特殊な機能を割り当てることが可能である。
【0028】
第1の状態から第2の状態、もしくは第2の状態から第1の状態へと切り替えは、平坦部31と凹凸部32とが隣接して配置されていることから、スイッチベース41及びボール46と一体的に移動する切り替えスイッチ40を光軸と平行な方向に移動させることで行われる。この際、スイッチクリックバネ43及び突起部により、切り替えスイッチ40の操作におけるクリック感が発生する。また、切り替え機構の状態によらず、付勢バネ44と抑えバネ45とは常に接触している。
【0029】
以上から、レンズ鏡筒の径の増大を抑えながら、切り替えスイッチ40を操作することで絞りリングの回転操作に係るクリック感を切り替えることが可能な構成となっている。また、省スペースながら、機能性に優れた構成となっている。
【0030】
また、本実施例においては、ボール46を付勢する付勢バネ44が挿通されているスイッチベース41の穴は貫通穴42である。ここで、スイッチベース41の貫通穴42が、貫通していない底のある穴部であった場合、切り替えスイッチ40のスムーズな摺動を行うことは困難となる。
【0031】
詳しく説明すれば、底のある穴部であった場合、スイッチベース41が付勢バネ44の反発力を直接受けてしまうことから、スイッチベース41に可動方向とは異なる方向に力が加わる。従って、スイッチベース41に倒れが発生してしまう。すると、スイッチベース41と連動する切り替えスイッチ40にも倒れが発生することから、切り替えスイッチ40の移動にかかる抵抗が増大してしまう。また、スイッチベース41が反発力によって変形することで摺動面の平面性が保てず、切り替えスイッチ40の移動にかかる抵抗が増大してしまう。
【0032】
以上より、底のある穴部であった場合、切り替えスイッチ40のスムーズな摺動を行うことが困難となり、使用者の操作にかかる感触に悪影響が発生してしまう。また、切り替えスイッチ40に倒れが起こることでレンズ鏡筒外観の品位が悪化してしまう。
【0033】
しかし本実施例においてはスイッチベース41に貫通穴42を設けることで上記の問題を解決した。つまり、本実施例では付勢バネ44の反発力を直接スイッチベース41で受けず、貫通穴42を通して抑えバネ45によって受けている。抑えバネ45は固定部材であるカバーリング10に後部で締結されているのみであるので、中空に浮いた付勢バネ44との接触箇所において撓み、付勢バネ44による反発力を切り替えスイッチ40に影響することなく受けることが可能である。従って、切り替えスイッチ40の倒れ、スイッチベース41の変形が発生せず、切り替えスイッチ40の操作感に影響を与えることがなく、外観の品位にも優れた構成となっている。
【0034】
なお、本実施例においてはクリック感の有無という2種類の状態を切り替える機構としたが、本発明は上記の構成に限られるものではない。例えば、平坦部、第1凹凸部、第1凹凸部から半分の凹部を間引いた第2凹凸部、を第2絞りリングにおいて光軸と平行な方向に隣接して並べることで、3種類の状態を切り替え可能な構成とすることも可能である。
【0035】
また、本実施例においては絞りリングにおけるクリック感の有無の切り替え機構としたが、本発明は上記の構成に限られるものではない。例えば、三脚座、ズームリング、マニュアルリング、コントロールリング等の種々の部材における切り替え機構としても同様に適用可能である。
【0036】
また、本発明にかかるレンズ鏡筒は、本発明が適用される撮像装置に応じて適宜変形、及び拡大縮小される。また、必要に応じて、装置の外寸法の変更による外観の変化、部材間の結合位置など、種々の変形や変更が可能であるが、いずれも本発明の均等の範囲内である。
【符号の説明】
【0037】
10 カバーリング
11 窓枠
20 第1絞りリング
30 第2絞りリング
31 平坦部
32 凹凸部
33 中間部
34 単独凹部
35 第1端
36 第2端
40 切り替えスイッチ
41 スイッチベース
42 貫通穴
43 スイッチクリックバネ
44 付勢バネ
45 抑えバネ
46 ボール
47 締結部材