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特許7195602回路診断テスト装置、及び回路診断テスト方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】回路診断テスト装置、及び回路診断テスト方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/28 20060101AFI20221219BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20221219BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
G01R31/28 G
G01R31/28 Q
H01L27/04 T
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019027786
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020134303
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100119987
【氏名又は名称】伊坪 公一
(72)【発明者】
【氏名】大竹 哲史
(72)【発明者】
【氏名】平本 悠翔郎
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/046602(WO,A1)
【文献】特開2008-111772(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0022909(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0268163(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/28
H01L 21/822
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テストパターンが設定された診断対象回路の複数のスキャンFFに出力されるクロック信号の周期を設定するクロック周期設定部と、
前記クロック周期設定部により所定の第1周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された応答シグネチャと、前記クロック周期設定部により前記第1周期よりも長い第2周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された期待シグネチャと、を比較する診断テスト部と、
を備えることを特徴とする回路診断テスト装置。
【請求項2】
テストパターン設定回路が前記テストパターンを展開するためのシードを記憶する記憶部を更に備え、
前記診断テスト部は、前記シードを前記テストパターン設定回路に設定し、前記シードから展開される前記テストパターンに対応する応答パターンに基づいて生成された前記応答シグネチャと前記期待シグネチャとを比較する、
請求項1に記載の回路診断テスト装置。
【請求項3】
前記診断テスト部は、前記診断対象回路の同一の故障を活性化させる前記テストパターンを展開する二以上の前記シードを前記テストパターン設定回路に設定し、前記二以上の前記シードから展開される一連の前記テストパターンに対応する一連の応答パターンに基づいて生成された前記応答シグネチャと前記期待シグネチャとを比較する、
請求項2に記載の回路診断テスト装置。
【請求項4】
前記診断テスト部による比較結果が異なる場合に、前記診断対象回路に遅延故障が存在すると判定する診断部を更に備え、
前記記憶部は、前記テストパターン設定回路により同一の前記シードから展開される一連の前記テストパターンのうち、第1テストパターンによって遅延故障が活性化される前記診断対象回路の第1診断領域、及び第2テストパターンによって遅延故障が活性化される前記診断対象回路の第2診断領域、を前記シードと対応付けてそれぞれ記憶し、
前記診断テスト部は、前記シードを前記テストパターン設定回路に設定し、
前記診断部は、前記第1テストパターンに対応する応答パターンに基づいて生成された前記応答シグネチャと前記期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、前記第1診断領域に遅延故障が存在すると判定し、前記第2テストパターンに対応する応答パターンに基づいて生成された前記応答シグネチャと前記期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、前記第2診断領域に遅延故障が存在すると判定する、
請求項2に記載の回路診断テスト装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記シードから展開される前記テストパターンに対応する応答パターンに基づいて生成されることが期待される前診断テスト用期待シグネチャを予め記憶し、
前記シードを前記テストパターン設定回路に設定し、前記シードから展開される前記テストパターンに対応する応答パターンに基づいて生成されたシグネチャと、前記記憶部に記憶された前記前診断テスト用期待シグネチャとの比較結果に基づいて、前記診断対象回路に故障が存在するか否かを判定する前診断テスト部を更に有し、
前記診断テスト部は、前記前診断テスト部による前記診断対象回路の前診断テストの結果に応じて、前記診断対象回路の診断テストを行うか否かを判定する、
請求項2から4のいずれか一項に記載の回路診断テスト装置。
【請求項6】
前記前診断テスト部は、前記クロック周期設定部により前記第1周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成されたシグネチャと、前記前診断テスト用期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、前記診断対象回路に遅延故障を含む故障が存在すると判定し、
前記診断テスト部は、前記診断対象回路に遅延故障を含む故障が存在すると前記前診断テスト部によって判定された場合に、前記診断対象回路の診断テストを実施する、
請求項5に記載の回路診断テスト装置。
【請求項7】
前記前診断テスト部は、前記クロック周期設定部により前記第2周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成されたシグネチャと、前記前診断テスト用期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、前記診断対象回路に遅延故障以外の故障が存在すると判定し、
前記診断テスト部は、前記診断対象回路に遅延故障以外の故障が存在すると前記前診断テスト部によって判定された場合には、前記診断対象回路の診断テストを実施しない、
請求項5又は6に記載の回路診断テスト装置。
【請求項8】
前記診断テスト部による比較結果が異なる場合に、トランジスタの電源端子に供給される電圧を診断テスト前の電源電圧よりも大きくする、又は前記クロック信号の周期を診断テスト前の前記クロック信号の周期よりも長くする故障修復部を更に有する、
請求項2から7のいずれか一項に記載の回路診断テスト装置。
【請求項9】
前記クロック周期設定部により前記第1周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された第1シグネチャと、前記クロック周期設定部により前記第1周期よりも短い第3周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された第2シグネチャと、の比較結果が異なる場合に前記診断対象回路に故障が発生する可能性があると判定する故障予測部を更に有する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の回路診断テスト装置。
【請求項10】
前記診断対象回路と同一のチップ内に実装された、
請求項1から9のいずれか一項に記載の回路診断テスト装置。
【請求項11】
テストパターンが設定された診断対象回路の複数のスキャンFFに出力されるクロック信号の周期を設定するクロック周期設定ステップと、
前記クロック周期設定ステップにおいて所定の第1周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された応答シグネチャと、前記クロック周期設定ステップにおいて前記第1周期よりも長い第2周期に設定された前記クロック信号が出力されたときに前記複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された期待シグネチャと、を比較する診断テストステップと、
を有することを特徴とする回路診断テスト方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路診断テスト装置、及び回路診断テスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両運転支援システムの機能安全規格に対応するためには、車両運転支援システムに用いられる装置に組み込まれる集積回路等の自己診断技術の研究及び開発が重要となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、チップに内蔵されたBIST(Built In Self Test)回路を備えるメモリテストシステムについて記載されている。このメモリテストシステムは、チップ上のメモリをテストするために、メモリからの出力データを、テストコントローラからの期待値データと比較することでテスト結果信号を出力するコンパレータ回路を有する。そして、このメモリテストシステムは、コンパレータ回路のフリップフロップを、メモリからの出力データをラッチするシステムロジック回路のフリップフロップと共用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-199445号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】FPGAの自己テストのための可変タイミングクロック生成、佐藤康夫、松浦宗寛、荒川等、三宅庸資、梶原誠司(九工大)、信学技報、 vol. 113、 no. 353、 DC2013-69、 pp. 7-12、 2013年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたメモリテストシステムは、テストパターンを印加した診断対象回路から出力される応答シグネチャを、診断対象回路に故障がない場合に診断対象回路から出力されることが期待される期待シグネチャと比較して診断対象回路を診断する。この場合、診断対象回路の故障個所を特定する精度を向上させるためには、診断対象回路の特定の診断領域の故障が活性化されるようにテストパターンを変更しながら、診断対象回路から出力される応答シグネチャを期待シグネチャと繰り返して比較する必要がある。この診断のためのテストを診断テストと呼ぶ。また、故障を活性化させるとは、故障が存在するときと存在しないときで、診断対象回路から出力される応答パターンが異なるようにテストパターンを診断対象回路に印加することをいう。
【0007】
しかし、期待シグネチャはデータ量が大きく、診断対象回路の故障個所を特定できるだけの数の診断テストの期待シグネチャを記憶するためには大容量の不揮発性メモリを必要とする。このため、診断対象回路の故障個所を特定する精度が、不揮発性メモリの容量によって制限されてしまうという課題がある。
【0008】
そこで、本発明は、メモリ容量に制限されることなく高精度の診断テストを実施することが可能な回路診断テスト装置、及び回路診断テスト方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの実施形態に係る回路診断テスト装置は、テストパターンが設定された診断対象回路の複数のスキャンFFに出力されるクロック信号の周期を設定するクロック周期設定部と、クロック周期設定部により所定の第1周期に設定されたクロック信号が出力されたときに複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された応答シグネチャと、クロック周期設定部により第1周期よりも長い第2周期に設定されたクロック信号が出力されたときに複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された期待シグネチャと、を比較する診断テスト部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一つの実施形態に係る回路診断テスト方法は、テストパターンが設定された診断対象回路の複数のスキャンFFに出力されるクロック信号の周期を設定するクロック周期設定ステップと、クロック周期設定ステップにおいて所定の第1周期に設定されたクロック信号が出力されたときに複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された応答シグネチャと、クロック周期設定ステップにおいて第1周期よりも長い第2周期に設定されたクロック信号が出力されたときに複数のスキャンFFから出力される応答パターンに基づいて生成された期待シグネチャと、を比較する診断テストステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の回路診断テスト装置は、メモリ容量に制限されることなく高精度の診断テストを実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一つの実施形態に係る回路診断テスト装置の構成の一例を、診断対象回路とともに示した図である。
図2】診断対象回路のスキャンFFのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3図2に示したスキャンFFの動作の一例を示すタイミングチャートである。
図4】診断対象回路のスキャンFFのハードウェア構成の他の一例を示す図である。
図5図4に示したスキャンFFの動作の一例を示すタイミングチャートである。
図6】回路診断テスト装置の記憶部のメモリマップを示す図である。
図7】回路診断テスト装置の制御部の機能ブロックを示す図である。
図8】回路診断テスト装置において実行される回路診断テスト処理の一例を示すフローチャートである。
図9A】回路診断テスト装置において実行されるシグネチャ生成処理の一例を示すフローチャートである。
図9B】回路診断テスト装置において実行されるシグネチャ生成処理の他の一例を示すフローチャートである。
図9C】回路診断テスト装置において実行されるシグネチャ生成処理の更に他の一例を示すフローチャートである。
図10A】回路診断テスト装置において実行される前診断テスト処理の一例を示すフローチャートである。
図10B】回路診断テスト装置において実行される前診断テスト処理の他の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の回路診断テスト装置は、通常動作と同じ第1周期のクロック信号で診断対象回路を動作させたときの応答に基づく応答シグネチャと、第1周期よりも長い第2周期のクロック信号で診断対象回路を動作させたときの応答に基づく期待シグネチャとを比較する。そして、回路診断テスト装置は、応答シグネチャと期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、診断対象回路に遅延故障が存在すると判定することを可能とする。
【0014】
本発明の回路診断テスト装置は、このように期待シグネチャを自動生成するため、期待シグネチャを予め不揮発性メモリ等に記憶しておく必要がない。したがって、本発明の回路診断テスト装置は、メモリ容量に制限されることなく高精度の診断テストを実施することができる。
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、各図において同一、又は相当する機能を有するものは、同一符号を付し、その説明を省略又は簡潔にすることもある。
【0016】
図1は、一つの実施形態に係る回路診断テスト装置1の構成の一例を、診断対象回路2とともに示した図である。まず、回路診断テスト装置1による診断の対象となる診断対象回路2について説明する。
【0017】
診断対象回路2のFF(フリップフロップ)は、スキャンテストを実施可能なスキャンFF3に置き換えられている。これらのスキャンFF3は、互いに直列に接続され、スキャンチェインと呼ばれるシフトレジスタを構成する。
【0018】
スキャンチェインは、複数に分割されたマルチスキャンチェインであってもよい。例えば、図1に示す診断対象回路2は、入力端子又は出力端子に接続されたバウンダリスキャン用のスキャンFF3から構成されるスキャンチェインと、診断対象回路2内のスキャンFF3から構成される複数のスキャンチェインを有している。これにより、スキャンチェインごとのFF段数が減って、テスト時間が低減される。
【0019】
このような構成において、スキャンチェインのスキャンFF3は、診断対象回路2内の組み合わせ回路20の入力端子及び出力端子として機能する。したがって、組み合わせ回路20にスキャンFF3を介してテストパターンを印加し、同様に、組み合わせ回路20からの応答パターンを、スキャンFF3を介して読み出すことで、組み合わせ回路20をテストすることができる。
【0020】
図2は、診断対象回路2のスキャンFF3のハードウェア構成の一例を示す図である。図2に示すスキャンFF3は、FF31と、FF31の前段に配置されたマルチプレクサ32を有する。
【0021】
マルチプレクサ32は、回路診断テスト装置1から出力される制御信号SEに従って、スキャンFF3の動作モードを、スキャンモードと非スキャンモードの間で切り替える。より具体的には、マルチプレクサ32は、制御信号SEがHighの場合、スキャンFF3の動作モードをスキャンモードに切り替え、スキャンチェインの前段のスキャンFF3(又は回路診断テスト装置1)から出力される信号SI又はSOを、FF31に出力する。一方、制御信号SEがLowの場合、マルチプレクサ32は、スキャンFF3の動作モードを非スキャンモードに切り替え、診断対象回路2の前段の組み合わせ回路20(又は入力端子)から出力される信号Dを、FF31に出力する。
【0022】
FF31は、回路診断テスト装置1から出力されるクロック信号CKに同期して動作する。FF31は、スキャンモードにおいて、マルチプレクサ32から出力される信号SI又はSOを保持するとともに、保持した信号SI又はSOを、スキャンチェインの後段のスキャンFF3(又は回路診断テスト装置1)に出力する。一方、非スキャンモードにおいて、FF31は、マルチプレクサ32から出力される信号Dを保持するとともに、保持した信号を、信号Qとして診断対象回路2の後段の組み合わせ回路20(又は出力端子)に出力する。
【0023】
図3(a)及び図3(b)は、図2に示したスキャンFF3の動作の一例を示すタイミングチャートである。スキャンテストは、スキャンイン → キャプチャ → スキャンアウトという一連の動作によって実施される。図3(a)及び図3(b)は、特に、Loc(Launch-off-Capture)方式のスキャンFF3の動作の例を示している。
【0024】
まず、回路診断テスト装置1は、制御信号SEをHighとして、スキャンFF3をスキャンモードに切り替える。そして、回路診断テスト装置1は、スキャンチェインにクロック信号CKを連続して出力してスキャンチェインをシフト動作させ、複数のスキャンFF3にテストパターンの値SIをそれぞれ設定するスキャンイン動作を行う。この結果、複数のスキャンFF3に設定されたテストパターンが、診断対象回路2の後段の組み合わせ回路20に初期化パターンとして出力される。
【0025】
このスキャンイン動作のためのクロック信号CKの周期T0は、特には限定されず、スキャンチェインがシフト動作を行うことができる周期であればよい。スキャンイン動作のためのクロック信号CKの周期T0は、例えば、続いて行われるキャプチャ動作のためのクロック信号CKの周期と同じ周期、或いは、診断対象回路2の通常動作のクロック周期である第1周期T1と同じ周期とされてもよい。回路診断テスト装置1から出力されるクロック信号CKは、回路診断テスト装置1の外部から回路診断テスト装置1に入力されるシステムクロックSCKに基づいて、回路診断テスト装置1によって生成される。
【0026】
次に、回路診断テスト装置1は、制御信号SEをLowとして、スキャンFF3を非スキャンモードに切り替える。そして、回路診断テスト装置1は、二つの連続するクロック信号CKのパルスp1及びp2をスキャンFF3に出力するキャプチャ動作を行う。この結果、後段の組み合わせ回路20にローンチパターンが出力され、前段の組み合わせ回路20からの応答パターンがスキャンFF3に保持される。
【0027】
このように、信号変化に起因する遅延故障をテストするためには、組み合わせ回路20を所望の値に初期化する初期化パターンと、組み合わせ回路20を遷移させるローンチパターンを印加する必要がある。これを2パターンテストという。
【0028】
なお、遅延故障とは、組み合わせ回路20を構成する素子又は配線の遅延が大きくなって組み合わせ回路20に誤動作が生じる故障である。このような遅延故障が生じる原因としては、例えば、組み合わせ回路20を構成するトランジスタの動作が経年劣化によって低速化するNBTI(Negative Bias Temperature Instability)が挙げられる。NBTIを起因とする遅延故障は、診断対象回路2の高集積化及び微細化が進むほど問題となることが知られている。
【0029】
このキャプチャ動作のためのクロック信号CKの周期は、図3(a)に示すように通常動作のクロック周期である第1周期T1、又は、図3(b)に示すように第1周期よりも長い第2周期T2とされる。第2周期T2は、例えば、第1周期より5%~50%長い周期とされる。
【0030】
次に、回路診断テスト装置1は、制御信号SEをHighとして、スキャンFF3をスキャンモードに切り替える。そして、回路診断テスト装置1は、スキャンチェインにクロック信号CKを連続して出力してスキャンチェインをシフト動作させ、複数のスキャンFF3に保持された前段の組み合わせ回路20からの応答パターンの信号SOをそれぞれ読み出すスキャンアウト動作を行う。このスキャンアウト動作のためのクロック信号CKの周期T0は、スキャンイン動作のためのクロック信号CKの周期T0と同様に、特には限定されない。
【0031】
このように、通常動作のクロック周期である第1周期T1と、第1周期よりも長い第2周期T2の二通りでキャプチャ動作を行い、診断対象回路2からそれぞれ出力される応答パターンを比較することで、診断対象回路2の遅延故障をテストすることができる。例えば、回路診断テスト装置1は、診断対象回路2が第1周期T1では正常に動作しないが、第2周期では正常に動作する場合に、診断対象回路2に遅延故障が存在すると判定することができる。
【0032】
図4は、診断対象回路2のスキャンFF3のハードウェア構成の他の一例を示す図である。図4に示す拡張スキャンFF3bは、FF31と、FF31の前段に配置されたマルチプレクサ32の他に、FF31の後段に配置されたラッチ回路33を更に有する。その他については、図2に示したスキャンFF3と同じであるため、以下では、図2と異なる点について説明する。
【0033】
ラッチ回路33は、回路診断テスト装置1から出力される制御信号Updateに同期して動作し、FF31から出力される信号Qを保持するとともに、保持した信号を診断対象回路2の後段の組み合わせ回路20(又は出力端子)に出力する。
【0034】
図5(a)及び図5(b)は、図4に示した拡張スキャンFF3bの動作の一例を示すタイミングチャートである。図5(a)及び図5(b)は、拡張スキャン方式の拡張スキャンFF3bの動作の例を示している。
【0035】
図5(a)及び図5(b)に示すタイミングチャートは、キャプチャ動作が、制御信号Updateのパルスp1とクロック信号CKのパルスp2によって行われる点が、図3(a)及び図3(b)と異なる。その他については、図3(a)及び図3(b)と同じである。この場合でも同様に、後段の組み合わせ回路20にローンチパターンが出力され、前段の組み合わせ回路20からの応答パターンが拡張スキャンFF3bに保持される。
【0036】
このように、スキャンFF3の種類及び動作方式に依らず、回路診断テスト装置1は、キャプチャ動作におけるローンチパターンのパルスp1から次のパルスp2までの期間を制御して、スキャンFF3に出力されるクロック信号CKの周期を可変させることができる。
【0037】
再び、図1を参照して、回路診断テスト装置1の各構成要素について順に説明する。回路診断テスト装置1は、テストパターン設定回路11、シグネチャ生成回路12、マルチプレクサ13、期待シグネチャ保持部14、シグネチャ比較回路15、記憶部16、及び制御部17を備える。なお、テストパターン設定回路11及びシグネチャ生成回路12は、回路診断テスト装置1の代わりに、診断対象回路2に含まれてもよい。
【0038】
回路診断テスト装置1は、例えば、BIST(Built In Self Test)回路として、診断対象回路2と同一のチップ内に実装される。これにより、LSIチップ自身が自己テストを実施することができるため、LSIテスタが不要となり、フィールドテストが容易化される。或いは、回路診断テスト装置1は、LSIテスタとして構成されてもよい。この場合、回路診断テスト装置1は、CPU等のプロセッサによって実行される回路診断テスト用コンピュータプログラムとして実現されてもよい。
【0039】
テストパターン設定回路11は、制御部17によって設定されたシードから擬似乱数パターンを展開し、診断対象回路2の複数のスキャンFF3にテストパターンとして設定する。テストパターン設定回路11は、例えば、LFSR(Linear Feedback Shift Register)とされる。
【0040】
シグネチャ生成回路12は、複数のスキャンFF3から出力される一連の応答パターンを圧縮処理してシグネチャを生成する。シグネチャ生成回路12は、例えば、MISR(multiple input signature register)とされる。シグネチャ生成回路12は、制御部17から出力される初期化信号に従って初期化される。すなわち、シグネチャ生成回路12がシグネチャを生成するために圧縮処理される一連の応答パターンは、制御部17から出力される初期化信号に従って選択される。
【0041】
マルチプレクサ13は、制御部17から出力される制御信号ESSがHighの場合、制御部17から出力される後述の前診断テスト用の期待シグネチャSig0を選択して期待シグネチャ保持部14に出力する。一方、制御部17から出力される制御信号ESSがLowの場合、マルチプレクサ13は、シグネチャ生成回路12から出力される期待シグネチャSig1を選択して期待シグネチャ保持部14に出力する。この期待シグネチャSig1は、クロック信号CKが遅い第2周期で出力されたときに複数のスキャンFF3から出力される応答パターンに基づいてシグネチャ生成回路12によって生成されるシグネチャである。
【0042】
期待シグネチャ保持部14は、マルチプレクサ13によって選択された期待シグネチャSig0又はSig1を保持する。期待シグネチャ保持部14は、例えば、レジスタ等の記憶素子とされる。或いは、期待シグネチャ保持部14は、RAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性半導体メモリとされてもよい。
【0043】
シグネチャ比較回路15は、期待シグネチャ保持部14に保持された期待シグネチャSig0又はSig1と、シグネチャ生成回路12から出力される応答シグネチャSig2とを比較して、比較結果を制御部17に出力する。この応答シグネチャSig2は、クロック信号CKが第1周期で出力されたときに複数のスキャンFF3から出力される応答パターンに基づいてシグネチャ生成回路12によって生成されたシグネチャである。
【0044】
記憶部16は、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、又はフラッシュEEPROMのような不揮発性半導体メモリを有する。記憶部16は、SRAM、DRAM等の揮発性半導体メモリを更に有してもよい。
【0045】
図6は、回路診断テスト装置1の記憶部16のメモリマップを示す図である。記憶部16は、診断テスト設定情報161、前診断テスト用の期待シグネチャ162、シード163、診断テスト結果164等を記憶する。
【0046】
診断テスト設定情報161は、診断テストに用いるシードの数(シード数)、一つのシードから展開するテストパターンの数(展開数)、一つのシグネチャを生成するために展開するテストパターンの数(診断粒度)、生成するシグネチャの数(診断テスト回数)等の情報を含む。ここで、診断粒度は、展開数の約数又は倍数とされる。また、これらの情報の値は、下式(1)を満たされるように設定される。
診断テスト回数 = シード数 × 展開数 / 診断粒度 (1)
【0047】
前診断テスト用の期待シグネチャ162は、シードから展開されるテストパターンに対応する応答パターンに基づいて、シグネチャ生成回路12によって生成されることが期待されるシグネチャである。この前診断テスト用の期待シグネチャ162は、回路診断テスト装置1が後述の前診断テストを実施する際に参照される。したがって、回路診断テスト装置1が前診断テストを行わない場合、前診断テスト用の期待シグネチャ162は必ずしも記憶されなくてもよい。記憶部16は、複数の前診断テスト用の期待シグネチャ162を記憶してもよく、例えば、図10A及び図10Bで説明する前診断テスト用の期待シグネチャ162を、検出テスト用と診断テスト用でそれぞれ別に記憶してもよい。
【0048】
シード163は、制御部17がテストパターン設定回路11にテストパターンを展開させるために、制御部17によって読み出されてテストパターン設定回路11に設定される。記憶部16は、複数のシード163を記憶してもよく、例えば、診断テスト用のシード163と、図10Aで説明する前診断テストの検出テスト用のシード163と、図10Bで説明する前診断テストの診断テスト用のシード163とを、それぞれ別に記憶してもよい。また、記憶部16には、シード163から展開されるテストパターンによって遅延故障が活性化される診断対象回路2の故障の種類又は領域が、シード163と対応付けて記憶されてもよい。
【0049】
診断テスト結果164は、回路診断テスト装置1によって実施された診断対象回路2の診断テスト結果を含む。診断テスト結果164は、シグネチャ生成回路12によって生成された応答シグネチャ、及びシグネチャ比較回路15から出力された比較結果の情報等を更に含んでもよい。制御部17の後述の診断部175は、この診断テスト結果164に基づいて、例えば、被疑故障の絞り込み及び故障箇所の特定を行う。また、制御部17の後述の故障修復部は、この診断テスト結果164に基づいて、診断対象回路2の故障個所の修復処理を実行する。診断テスト結果164は、不揮発性領域に記憶されてもよい。
【0050】
制御部17は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等により構成される集積回路とされる。或いは、制御部17は、回路診断処理用コンピュータプログラムを実行する一以上のプロセッサ及びその周辺回路とされてもよい。
【0051】
図7は、回路診断テスト装置1の制御部17の機能ブロックを示す図である。制御部17は、前診断テスト部171、診断テスト部172、クロック周期設定部173、出力部174、及び診断部175を有する。また、制御部17は、図1に示したシグネチャ比較回路15の機能を更に有してもよい。制御部17のこれらの各部は、FPGA又はASICに形成される回路として実現されてもよいし、プロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムとして実現されてもよい。
【0052】
図8は、回路診断テスト装置1において実行される回路診断テスト処理の一例を示すフローチャートである。図7に示した制御部17の各部は、図8に示すフローチャートに従って、診断対象回路2の回路診断テスト処理を実行する。この回路診断テスト処理は、例えば、診断対象回路2を有する装置がパワーオンされたとき、又は、待機状態とされたときに実行される。
【0053】
診断テスト部172が診断対象回路2の診断テストを実施する前に、前診断テスト部171は、診断対象回路2の前診断テストを実施する(ステップS801)。なお、この前診断テスト部171による前診断テストは省略されてもよい。その場合でも、診断テスト部172による診断対象回路2の診断テストが実施されることで、少なくとも診断対象回路2に遅延故障が存在するか否かについての判定が可能となる。
【0054】
前診断テスト部171は、例えば、診断対象回路2に遅延故障を含む故障が存在するか否かを判定するための診断テストを行う。これにより、前診断テストによって診断対象回路2に遅延故障含む故障が存在しないと判定されると、診断テスト部172は、診断対象回路2の故障個所を特定するための診断テストを実施する必要がなくなる。したがって、診断テスト部172は、前診断テストによって診断対象回路2に遅延故障を含む故障が存在すると判定されたときに限り、診断対象回路2の遅延故障の個所を特定するための診断テストを実施するようにしてもよい。このような前診断テストの例については、後で図10Aのフローチャートを参照して説明する。
【0055】
或いは、前診断テスト部171は、例えば、診断対象回路2に遅延故障以外の、例えば、縮退故障等が存在するか否かを判定するための診断テストを行う。これにより、前診断テストによって診断対象回路2に遅延故障以外の故障が存在すると判定されると、遅延故障以外の故障はそもそも修復することが困難であるため、遅延故障の故障個所を特定して後述の故障修復部によって遅延故障を修復する必要性が低下する。したがって、診断テスト部172は、前診断テストによって診断対象回路2に遅延故障以外の故障が存在すると判定されたときには、診断対象回路2の遅延故障の個所を特定するための診断テストを実施しないようにしてもよい。このような前診断テストの例については、後で図10Bのフローチャートを参照して説明する。
【0056】
診断テスト部172は、前診断テスト部171による診断対象回路2の前診断テストの実施結果に応じて、診断対象回路2の診断テストを実施するか否かを判定する(ステップS802)。診断テスト部172は、診断対象回路2の診断テストを実施しないと判定した場合(ステップS802:No)、回路診断テスト処理を終了する。一方、診断テスト部172は、診断対象回路2の診断テストを実施すると判定した場合(ステップS802:Yes)、以降の回路診断テスト処理を実行する。
【0057】
診断テスト部172は、まず、通常動作のクロック周期である第1周期よりも長い(遅い)第2周期で診断対象回路2を動作させたときの診断対象回路2の応答に基づく期待シグネチャを、シグネチャ生成回路12に生成させる(ステップS803)。
【0058】
例えば、図9Aは、回路診断テスト装置1において実行されるシグネチャ生成処理の一例を示すフローチャートである。図7に示した制御部17の各部は、図9Aに示すフローチャートに従って処理を実行して、シグネチャ生成回路12にシグネチャを生成させる。
【0059】
具体的には、診断テスト部172は、まず、シグネチャ生成回路12に初期化信号を出力してシグネチャ生成回路12を初期化する(ステップS901)。これにより、シグネチャ生成回路12は、初期化後にスキャンFF3から出力される一連の応答パターン(応答パターン集合)を圧縮処理してシグネチャの生成を開始する。
【0060】
次に、クロック周期設定部173は、スキャンテストのキャプチャ動作においてクロック信号CKが、通常動作のクロック周期である第1周期よりも長い第2周期でスキャンFF3に出力されるように、クロック信号CKの周期を設定する(ステップS902)。
【0061】
より具体的には、クロック周期設定部173は、例えば、非特許文献1に記載のPLLの位相シフトを用いたテストタイミング制御技術によって、クロック信号CKの周期を可変することができる。或いは、クロック周期設定部173は、例えば、クロック信号CKを偶数のNOTゲート等の論理素子を経由させて遅延させることによって、クロック信号CKの周期を可変することもできる。また、その他の周知の技術が、クロック信号CKの周期を可変させるために用いられてもよい。
【0062】
次に、診断テスト部172は、記憶部16に記憶されたシードを、テストパターン設定回路11に設定する(ステップS903)。このシードは、シードから展開される一連のテストパターン(テストパターン集合)が診断対象回路2の特定の種類又は領域の故障を活性化するように予め選択される。この結果、テストパターン設定回路11によりシードから一連のテストパターンが展開されて複数のスキャンFF3に設定される。
【0063】
次に、診断テスト部172は、クロック周期設定部173により第2周期に設定されたクロック信号CKを複数のスキャンFF3に出力して、スキャンテストを実施する(ステップS904)。この結果、複数のスキャンFF3から出力される応答パターンが、シグネチャ生成回路12によって圧縮処理される。
【0064】
次に、診断テスト部172は、テストパターン設定回路11にシードが設定されてから所定の展開数のテストパターンが展開されたか否かを判定する(ステップS905)。所定の展開数のテストパターンが展開されていない場合(ステップS905:No)、診断テスト部172は、所定の展開数のテストパターンが展開されるまで、スキャンテストを繰り返す。
【0065】
所定の展開数のテストパターンが展開されると(ステップS905:Yes)、診断テスト部172は、制御信号ESSをLowにして、シグネチャ生成回路12から出力される期待シグネチャSig1を期待シグネチャ保持部14に保持する。
【0066】
図8に戻って、診断テスト部172は、次に、通常動作のクロック周期である第1周期で診断対象回路2を動作させたときの診断対象回路2の応答に基づく応答シグネチャを、シグネチャ生成回路12に生成させる(ステップS804)。
【0067】
この場合も、図7に示した制御部17の各部は、図9Aに示したフローチャートに従って処理を実行し、同様にして、シグネチャ生成回路12にシグネチャを生成させる。但し、この場合、クロック周期設定部173は、ステップS902においてクロック信号CKが、通常動作のクロック周期である第1周期でスキャンFF3に出力されるように、クロック信号CKの周期を設定する。また、診断テスト部172は、ステップS903において、期待シグネチャを生成したときと同じシードがテストパターン設定回路11に設定されるようにする。この結果、シグネチャ生成回路12によって生成された応答シグネチャSig2が、シグネチャ比較回路15に出力される。
【0068】
次に、出力部174は、シグネチャ比較回路15による期待シグネチャSig1と応答シグネチャSig2の比較結果を、記憶部16に記憶する(ステップS805)。或いは、出力部174は、シグネチャ比較回路15による期待シグネチャSig1と応答シグネチャSig2の比較結果を、回路診断テスト装置1の外部に出力してもよい。
【0069】
次に、診断テスト部172は、全ての診断テストを実施したか否かを判定する(ステップS806)。全ての診断テストを実施していない場合(ステップS806:No)、診断テスト部172は、全ての診断テストを実施するまで、診断対象回路2の診断テストを繰り返す。
【0070】
診断テスト部172によって全ての診断テストが実施されると(ステップS806:Yes)、出力部174は、診断テスト部172による診断テスト結果を、記憶部16に記憶する(ステップS807)。或いは、出力部174は、診断テスト部172による診断テスト結果を、回路診断テスト装置1の外部に出力してもよい。その後、診断部175は、診断テスト部172による診断テスト結果に基づいて、診断対象回路2の遅延故障を診断してもよい。
【0071】
図9Bは、回路診断テスト装置1において実行されるシグネチャ生成処理の他の一例を示すフローチャートである。図9Bに示すシグネチャ生成処理は、二以上のシードから展開される一連のテストパターン(テストパターン集合)から、一組の期待シグネチャ及び応答シグネチャを生成する点が、図9Aに示したシグネチャ生成処理と異なる。
【0072】
図9Bに示すステップS901~S905は、図9Aに示したステップS901~S905と同じであるため説明を省略する。
【0073】
次に、診断テスト部172は、シグネチャ生成回路12が初期化されてから展開されたテストパターンの総展開数が、一つのシグネチャを生成するために展開するテストパターンの数である所定の診断粒度以上であるか否かを判定する(ステップS916)。この診断粒度は、本シグネチャ生成処理では、一つのシードから展開されるテストパターンの展開数の倍数とされる。
【0074】
テストパターンの総展開数が所定の診断粒度未満である場合(ステップS916:No)、診断テスト部172は、ステップS903に処理を戻し、記憶部16から新しいシードを読み出して、テストパターン設定回路11に設定する。この新しいシードも、展開される一連のテストパターンが、前のシードと同一の種類又は領域の故障を活性化するように選択される。この際、診断テスト部172は、期待シグネチャを生成するときと応答シグネチャを生成するときとで同じシードがテストパターン設定回路11に設定されるようにする。
【0075】
そして、診断テスト部172は、シグネチャ生成回路12が初期化されてから展開されたテストパターンの総展開数が所定の診断粒度以上となるまで(ステップS916:Yes)、シードを変えながらスキャンテストを繰り返す。この結果、二以上のシードから展開される一連のテストパターンに対応する一連の応答パターンに基づいて、シグネチャ生成回路12によってシグネチャが生成されて出力される。
【0076】
このように、一連のテストパターンを展開するために用いるシード数を増やすことで、診断対象回路2の故障をより活性化しやすい一連のテストパターンを展開することができる。
【0077】
図9Cは、回路診断テスト装置1において実行されるシグネチャ生成処理の更に他の一例を示すフローチャートである。図9Cに示すシグネチャ生成処理は、同一のシードから展開される一連のテストパターン(テストパターン集合)から、複数組の期待シグネチャ及び応答シグネチャを生成する点が、図9Aに示したシグネチャ生成処理と異なる。
【0078】
図9Cに示すステップS901~S902は、図9Aに示したステップS901~S902と同じであるため説明を省略する。
【0079】
次に、診断テスト部172は、テストパターン設定回路11にシードが設定されてから所定の展開数のテストパターンが展開されたか否かを判定する(ステップS925)。所定の展開数のテストパターンが展開された場合(ステップS925:Yes)、診断テスト部172は、記憶部16から新しいシードを読み出して、テストパターン設定回路11に設定する(ステップS903)。この際、診断テスト部172は、期待シグネチャを生成するときと応答シグネチャを生成するときとで同じシードがテストパターン設定回路11に設定されるようにする。
【0080】
一方、所定の展開数のテストパターンが展開されていない場合(ステップS925:No)、診断テスト部172は、所定の展開数のテストパターンが展開されるまで、同じシードから展開される一連のテストパターンを用いてスキャンテストを実施する。
【0081】
なお、本シグネチャ生成処理の以降の一連のスキャンテストでは、期待シグネチャを生成するときと応答シグネチャを生成するときとで同じ一連のテストパターンが複数のスキャンFF3に設定されるようにする必要がある。そのために、回路診断テスト装置1は、例えば、テストパターン設定回路11のシードの状態を保存するためのSBR(Seed Buffer Register)を備えてもよい。そして、診断テスト部172は、期待シグネチャを生成するために以降の一連のスキャンテストを行う前に、テストパターン設定回路11のシード状態をSBRに保存しておく。その後、診断テスト部172は、応答シグネチャを生成するために以降の一連のスキャンテストを行う前に、SBRに保存されたシード状態をテストパターン設定回路11に設定する。
【0082】
次に、診断テスト部172は、クロック周期設定部173により設定されたクロック信号CKを複数のスキャンFF3に出力して、スキャンテストを実施する(ステップS904)。この結果、複数のスキャンFF3から出力される応答パターンが、シグネチャ生成回路12によって圧縮処理される。
【0083】
次に、診断テスト部172は、シグネチャ生成回路12が初期化されてから展開されたテストパターンの総展開数が、一つのシグネチャを生成するために展開するテストパターンの数である所定の診断粒度以上であるか否かを判定する(ステップS926)。この診断粒度は、本シグネチャ生成処理では、一つのシードから展開されるテストパターンの展開数の約数とされる。
【0084】
テストパターンの総展開数が所定の診断粒度未満である場合(ステップS926:No)、診断テスト部172は、テストパターンの総展開数が所定の診断粒度以上となるまで(ステップS926:Yes)、スキャンテストを繰り返す。この結果、同一のシードから展開される一連のテストパターンから、複数組の期待シグネチャ及び応答シグネチャが生成され、それぞれの組の期待シグネチャと応答シグネチャとが比較されて、診断対象回路2の故障個所が特定される。
【0085】
例えば、同一のシードから展開される一連のテストパターンのうち、第1テストパターンによって遅延故障が活性化される第1診断領域、及び第2テストパターンによって遅延故障が活性化される第2診断領域が、記憶部16に予め記憶される。そして、診断部175は、第1テストパターンに対応する応答パターンに基づいて生成された応答シグネチャと期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、第1診断領域に遅延故障が存在すると判定する。また、診断部175は、第2テストパターンに対応する応答パターンに基づいて生成された応答シグネチャと期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、第2診断領域に遅延故障が存在すると判定する。
【0086】
このように、期待シグネチャと応答シグネチャを比較して診断対象回路2を診断テストする回数を増やすことで、診断対象回路2の故障個所を特定する精度が向上する。特に、本発明の回路診断テスト装置1は、期待シグネチャを自動生成するため、期待シグネチャを予め不揮発性メモリ等に記憶しておく必要がない。したがって、本発明の回路診断テスト装置1は、メモリ容量に制限されることなく、診断対象回路2の診断テスト回数を増やして高精度の診断を実施するための診断テスト結果を得ることができる。
【0087】
図10Aは、回路診断テスト装置1において実行される前診断テスト処理の一例を示すフローチャートである。前診断テスト部171は、以下のフローチャートに従って、診断対象回路2の前診断テスト処理を実行する。
【0088】
図10Aに示すステップS901~S905は、図9Aに示したステップS901~S905と同じである。但し、クロック周期設定部173は、ステップS902においてクロック信号CKが、通常動作のクロック周期である第1周期でスキャンFF3に出力されるように、クロック信号CKの周期を設定する。これにより、第1周期で診断対象回路2を動作させたときの診断対象回路2の応答が、シグネチャ生成回路12によって圧縮処理される。また、ステップS903では、検出テスト用のシードが用いられる。
【0089】
その後、前診断テスト部171は、全ての故障検出用のシードについて検出テストを実施したか否かを判定する(ステップS1006)。全てのシードについて診断テストを実施していない場合(ステップS1006:No)、前診断テスト部171は、全てのシードについて診断テストを実施するまで、シードを変えながらスキャンテストを繰り返す。
【0090】
故障検出用の全てのシードについて診断テストを実施すると(ステップS1006:Yes)、シグネチャ生成回路12によって生成されたシグネチャが、シグネチャ比較回路15に出力される。前診断テスト部171は、制御信号ESSをHighにして、マルチプレクサ13に前診断テスト用の期待シグネチャSig0を出力して、前診断テスト用の期待シグネチャSig0を期待シグネチャ保持部14に保持する。
【0091】
次に、前診断テスト部171は、シグネチャ生成回路12から出力されたシグネチャと、前診断テスト用の期待シグネチャSig0とのシグネチャ比較回路15による比較結果を、記憶部16に記憶する(ステップS1007)。
【0092】
前診断テスト部171による前診断テスト処理が実施された後、診断テスト部172は、前診断テスト部171によって記憶部16に記憶された比較結果が一致するか否かを判定する。
【0093】
診断テスト部172は、比較結果が一致しない場合、診断対象回路2に遅延故障を含む故障が存在すると判定し、診断対象回路2の遅延故障の個所を特定するための診断テストを実施する。一方、比較結果が一致する場合、診断テスト部172は、診断対象回路2に遅延故障を含む故障が存在しないと判定し、診断対象回路2の遅延故障の個所を特定するための診断テストを実施しない。
【0094】
図10Bは、回路診断テスト装置1において実行される前診断テスト処理の他の一例を示すフローチャートである。前診断テスト部171は、以下のフローチャートに従って、診断対象回路2の前診断テスト処理を実行する。
【0095】
図10Bに示すステップS901~S905及びS1006~S1007は、図10Aに示したステップS901~S905及びS1006~S1007と同じである。但し、クロック周期設定部173は、ステップS902においてクロック信号CKが、通常動作のクロック周期である第1周期よりも長い(遅い)第2周期でスキャンFF3に出力されるように、クロック信号CKの周期を設定する。これにより、第2周期で診断対象回路2を動作させたときの診断対象回路2の応答が、シグネチャ生成回路12によって圧縮処理される。また、ステップS903では、診断テスト用のシードが用いられる。
【0096】
前診断テスト部171による前診断テスト処理が実施された後、診断テスト部172は、図10Aに示した前診断テスト処理と同様に、前診断テスト部171によって記憶部16に記憶された比較結果が一致するか否かを判定する。
【0097】
診断テスト部172は、比較結果が一致する場合、診断対象回路2に遅延故障以外の故障が存在しないと判定し、診断対象回路2の遅延故障の個所を特定するための診断テストを実施する。一方、比較結果が一致しない場合、診断テスト部172は、診断対象回路2に遅延故障以外の故障が存在すると判定し、診断対象回路2の遅延故障の個所を特定するための診断テストを実施しない。
【0098】
以上のように、回路診断テスト装置は、通常動作と同じ第1周期のクロック信号で診断対象回路を動作させたときの応答に基づく応答シグネチャと、第1周期よりも長い第2周期のクロック信号で診断対象回路を動作させたときの応答に基づく期待シグネチャとを比較する。そして、回路診断テスト装置は、応答シグネチャと期待シグネチャとの比較結果が異なる場合に、診断対象回路に遅延故障が存在すると判定する。
【0099】
回路診断テスト装置は、このように期待シグネチャを自動生成するため、期待シグネチャを予め不揮発性メモリ等に記憶しておく必要がない。したがって、本発明の回路診断テスト装置は、メモリ容量に制限されることなく高精度の診断を行うための診断テストを実施することができる。
【0100】
上述の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0101】
他の実施例として、図7に示した制御部17は、診断テスト部172による比較結果が異なる場合に、診断対象回路2の故障を修復する故障修復部(図示せず)を更に有してもよい。
【0102】
この故障修復部は、例えば、診断テスト部172による比較結果が異なる場合に、トランジスタの電源端子に供給される電源電圧を診断テスト前の電源電圧よりも大きくする。或いは、故障修復部は、診断テスト部172による比較結果が異なる場合に、クロック信号CKの周期を診断前のクロック信号CKの周期よりも長くする。その後、故障修復部は、遅延故障が修復されたことを確認するために、診断テスト部172に診断対象回路2を再び診断テストさせてもよい。
【0103】
これにより、回路診断テスト装置1は、診断対象回路2の故障個所を修復することができる。
【0104】
更に他の実施例として、図7に示した制御部17は、近い将来、診断対象回路2に故障が発生する可能性があるか否かを判定する故障予測部(図示せず)を更に有してもよい。
【0105】
この故障予測部は、例えば、まず、第1周期に設定されたクロック信号CKが出力されたときに複数のスキャンFF3から出力される応答パターンに基づいて、シグネチャ生成回路12に第1シグネチャを生成させる。次に、故障予測部は、第1周期よりも短い(速い)第3周期に設定されたクロック信号CKが出力されたときに複数のスキャンFF3から出力される応答パターンに基づいて、シグネチャ生成回路12に第2シグネチャを生成させる。そして、故障予測部は、第1シグネチャと第2シグネチャとの比較結果が異なる場合に、近い将来、診断対象回路2に故障が発生する可能性があると判定する。
【0106】
これにより、回路診断テスト装置1は、診断対象回路2に故障が発生する可能性があると判定された診断対象回路2を、上述の故障修復部と同様の手法によって予防することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 回路診断テスト装置
2 診断対象回路
3 スキャンFF
3b 拡張スキャンFF
11 テストパターン設定回路
12 シグネチャ生成回路
13 マルチプレクサ
14 期待シグネチャ保持部
15 シグネチャ比較回路
16 記憶部
17 制御部
20 組み合わせ回路
32 マルチプレクサ
33 ラッチ回路
161 診断テスト設定情報
162 期待シグネチャ
163 シード
164 診断テスト結果
171 前診断テスト部
172 診断テスト部
173 クロック周期設定部
174 出力部
175 診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B