(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】誘導発熱ローラ装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/14 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
H05B6/14
(21)【出願番号】P 2019043395
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】北野 嘉秀
(72)【発明者】
【氏名】北野 孝次
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-023765(JP,A)
【文献】特開昭61-239592(JP,A)
【文献】特表平10-502726(JP,A)
【文献】特開2000-036378(JP,A)
【文献】特開2000-036376(JP,A)
【文献】特開昭48-045613(JP,A)
【文献】米国特許第05072497(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持されたローラ本体と、前記ローラ本体の内部に設けられ、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導コイルを有する誘導発熱機構とを備える誘導発熱ローラ装置であって、
前記ローラ本体の側周壁に気液二相の熱媒体が封入されるジャケット室が形成されており、
前記ローラ本体の軸方向端部の鏡板部に前記ジャケット室を圧力開放するためのリリーフプラグが設けられており、
前記リリーフプラグは、前記鏡板部において、前記ジャケット室よりも径方向内側に設けられている、誘導発熱ローラ装置。
【請求項2】
前記リリーフプラグは、前記鏡板部において、前記ジャケット室の径方向内側端よりも径方向内側の領域に設けられている、請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項3】
前記リリーフプラグは、所定の温度で溶融する可溶性金属を用いて構成されており、前記可溶性金属が溶融することによって前記ジャケット室を圧力開放するものである、請求項1又は2記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項4】
前記リリーフプラグは、前記ローラ本体の側周壁の温度が前記可溶性金属の溶融温度よりも高い温度となっても前記可溶性金属が溶融しない位置に設けられている、請求項3記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項5】
前記熱媒体は、水であり、
前記リリーフプラグは、前記ローラ本体の側周壁が水の臨界温度又はその直前の温度となった場合に前記可溶性金属が溶融する位置に設けられている、請求項4記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項6】
前記リリーフプラグは、前記ジャケット室に前記熱媒体を封入するための封入口とは別に設けられている、請求項1乃至5の何れか一項に記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項7】
前記リリーフプラグの外側に前記リリーフプラグによる圧力開放時の熱媒体蒸気を遮る保護板が設けられている、請求項1乃至6の何れか一項に記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項8】
前記リリーフプラグが設けられた鏡板部に、前記リリーフプラグによる圧力開放時の熱媒体蒸気を前記ローラ本体の内部に導く流路が形成されている、請求項7記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項9】
前記ローラ本体の側周壁には、軸方向において異なる位置に複数の温度センサが設けられており、
前記複数の温度センサの検出温度に基づいて、前記リリーフプラグの動作の有無を判断する判断部を備える、請求項1乃至8の何れか一項に記載の誘導発熱ローラ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導発熱ローラ装置としては、特許文献1に示すように、誘導発熱されるローラ本体の側周壁に気液二相の熱媒体が封入されるジャケット室を設けたものがある。熱媒体が封入されたジャケット室はヒートパイプとして機能し、ローラ本体の側周壁の温度が均一化される。
【0003】
ところで、従来のジャケット室の軸方向一端部には、ローラ本体の側周壁の温度が異常に上昇することによりジャケット室内の蒸気圧が所定値以上となった場合に、その圧力によりローラ本体が損傷するのを防止するため、圧力を開放するリリーフプラグが設けられている。具体的にジャケット室は、ローラ本体の側周壁に形成された軸方向に延びるジャケット室により構成されており、当該ドリル孔の一端部を塞ぐようにリリーフプラグが設けられている。
【0004】
しかしながら、上記の構成では、ジャケット室とリリーフプラグとが同軸上に設けられており、ローラ本体の半径方向の位置がジャケット室とリリーフプラグとで同じとなるため、ジャケット室の均温作用によって、ローラ本体の側周壁の温度とリリーフプラグの取り付け温度とがほぼ等しくなってしまう。そのため、ローラ本体の側周壁の温度がリリーフプラグの動作を確実に行わせるための温度によって制約を受けてしまう。特にリリーフプラグが、所定の温度で溶融する可溶性金属を用いて構成され、当該可溶性金属が溶融することによって圧力開放するものの場合には、ローラ本体の側周壁の加熱温度が可溶性金属の溶融温度により制約を受けてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ローラ本体の側周壁の加熱温度がリリーフプラグによって制約を受け難くすることをその主たる課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る誘導発熱ローラ装置は、回転自在に支持されたローラ本体と、前記ローラ本体の内部に設けられ、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導コイルを有する誘導発熱機構とを備える誘導発熱ローラ装置であって、前記ローラ本体の側周壁に気液二相の熱媒体が封入されるジャケット室が形成されており、前記ローラ本体の軸方向端部の鏡板部に前記ジャケット室を圧力開放するためのリリーフプラグが設けられており、前記リリーフプラグは、前記鏡板部において、前記ジャケット室よりも径方向内側に設けられていることを特徴とする。
【0008】
このような誘導発熱ローラ装置によれば、ローラ本体の鏡板部において、リリーフプラグをジャケット室よりも径方向内側に設けているので、誘導発熱機構により誘導発熱されるローラ本体の側周壁の加熱温度よりもリリーフプラグの温度を低くすることができる。その結果、ローラ本体の側周壁の加熱温度がリリーフプラグによって制約を受け難くすることができ、ローラ本体の側周壁の加熱温度をリリーフプラグの動作温度よりも高い温度に設定することができる。
【0009】
具体的なリリーフプラグの取り付け位置としては、前記鏡板部において、前記ジャケット室の径方向内側端よりも径方向内側の領域に設けられていることが望ましい。
この構成であれば、軸方向から視てリリーフプラグとジャケット室とが重ならないように径方向内側に設けられることになり、ジャケット室に封入された熱媒体の均温効果により加熱される部分から離れてリリーフプラグが取り付けられることになる。その結果、ローラ本体の側周壁の加熱温度がリリーフプラグによって一層制約を受け難くすることができる。
【0010】
前記リリーフプラグは、所定の温度で溶融する可溶性金属を用いて構成されており、前記可溶性金属が溶融することによって前記ジャケット室を圧力開放するものであることが望ましい。
この構成であれば、リリーフプラグを小型化することができ、ロール本体の大型化を避けることができる。また、リリーフプラグの設置場所の自由度を増すことができ、ローラ本体の鏡板部においてリリーフプラグをジャケット室よりも径方向内側に設け易くできる。
【0011】
具体的には、前記リリーフプラグは、前記ローラ本体の側周壁の温度が前記可溶性金属の溶融温度よりも高い温度となっても前記可溶性金属が溶融しない位置に設けられていることが望ましい。
これにより、ローラ本体の側周壁の加熱温度を可溶性金属の溶融温度よりも高い温度に設定することができる。
【0012】
前記熱媒体として水を用いた場合には、ローラ本体の側周壁を水の臨界温度(約374℃)よりも低い温度で動作させる必要がある。
このため、前記リリーフプラグは、前記ローラ本体の側周壁が水の臨界温度又はその直前の温度となった場合に前記可溶性金属が溶融する位置に設けられていることが望ましい。
この構成であれば、ローラ本体の側周壁が水の臨界温度又はその直前の温度となった場合にリリーフプラグにより圧力開放される。
【0013】
ローラ本体のジャケット室への熱媒体の封入及び熱媒体の交換作業を容易にするためには、前記リリーフプラグは、前記ジャケット室に前記熱媒体を封入するための封入口とは別に設けられていることが望ましい。
この構成であれば、封入口に設けられる封止プラグにリリーフプラグとしての機能を持たせる必要がないので、封止プラグに安価なものを用いることもできる。
【0014】
リリーフプラグが圧力開放した際の周囲環境の安全を確保するためには、前記リリーフプラグの外側に前記リリーフプラグによる圧力開放時の熱媒体蒸気を遮る保護板が設けられていることが望ましい。
【0015】
リリーフプラグが圧力開放した際の周囲環境の安全をより一層確保するためには、前記リリーフプラグが設けられた鏡板部に、前記リリーフプラグによる圧力開放時の熱媒体蒸気を前記ローラ本体の内部に導く流路が形成されていることが望ましい。
【0016】
リリーフプラグが圧力開放したか否かを判断するためには、前記ローラ本体の側周壁には、軸方向において異なる位置に複数の温度センサが設けられており、前記複数の温度センサの検出温度に基づいて、前記リリーフプラグの動作の有無を判断する判断部を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
このように構成した本発明によれば、ローラ本体の鏡板部において、リリーフプラグをジャケット室よりも径方向内側に設けているので、ローラ本体の側周壁の加熱温度をリリーフプラグの動作温度よりも高い温度に設定することができる。また、ローラ本体の側周壁の温度が例えば水の臨界温度以上に昇温した場合はリリーフプラグが動作し、ジャケット室内の蒸気圧を開放することができるので、ロール本体の損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係る両持ち式の誘導発熱ローラ装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】同実施形態に係るロール本体の鏡板部を示す部分拡大断面図である。
【
図3】同実施形態に係るジャケット室とリリーフプラグとの軸方向から見た位置関係を示す模式図である。
【
図4】第2形実施形態に係る片持ち式の誘導発熱ローラ装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】同実施形態に係るロール本体の鏡板部及び開放端部を示す部分拡大断面図である。
【
図7】ロール本体の鏡板部に保護板を設けた例を示す模式図である。
【
図8】リリーフプラグの動作を検知するためのシステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下に本発明に係る誘導発熱ローラ装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100は、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等において用いられるものである。
【0021】
具体的に誘導発熱ローラ装置は、
図1に示すように、回転自在に支持されたローラ本体2と、ローラ本体2の内部に設けられ、ローラ本体2を誘導発熱させる誘導発熱機構3とを備え、ローラ本体2を軸方向の両側から支持する所謂両持ち式のものである。
【0022】
ローラ本体2は、円筒状をなすロールシェル部2aと、当該ロールシェル部2aの軸方向両端部に設けられて、ロールシェル部2aの両端開口を閉塞する鏡板部であるジャーナル部2bと、ジャーナル部2bからロールシェル部2a外においてロールシェル部2aの回転中心軸上に延び設けられた中空の駆動軸部2cとを有する。駆動軸部2cは、転がり軸受等の軸受4を介して機台5に回転自在に支持されている。そして、ローラ本体2は、例えばモータ等の回転駆動機構(不図示)により外部から与えられる駆動力によって回転されるように構成されている。なお、ローラ本体2には、ロールシェル部2aの温度を検出するための温度センサ(不図示)が設けられている。
【0023】
誘導発熱機構3は、例えば円筒状の鉄心31と、当該鉄心31の外側周面に巻装された誘導コイル32とから構成されている。鉄心31の両端部にはそれぞれ、支持軸6が取り付けられている。この支持軸6は、それぞれ駆動軸部2cの内部に挿通されており、転がり軸受等の軸受7を介して駆動軸部2cに対して回転自在に支持されている。これにより、誘導発熱機構3は、回転するローラ本体2の内部において、ローラ本体2に対して静止状態に保持される。誘導コイル32には、リード線L1が接続されており、このリード線L1には、交流電圧を印加するための交流電源Vが接続されている。
【0024】
このような誘導発熱機構3により、誘導コイル32に交流電圧が印加されると交番磁束が発生し、その交番磁束はローラ本体2の側周壁であるロールシェル部2aを通過する。この通過によりロールシェル部2aに誘導電流が発生し、その誘導電流でロールシェル部2aはジュール発熱する。このとき、ロールシェル部2aの温度は、温度センサにより検出された温度に基づいてフィードバック制御される。
【0025】
しかして本実施形態の誘導発熱ローラ装置100において、ローラ本体2のロールシェル部2aには、気液二相の熱媒体が封入されるジャケット室21が形成されており、ローラ本体2の軸方向端部の鏡板部であるジャーナル部2bにジャケット室21を圧力開放するためのリリーフプラグ8が設けられている。本実施形態の熱媒体は、例えば純水等の水であるが、これに限られない。
【0026】
ジャケット室21は、ローラ本体2のロールシェル部2aに軸方向に沿って複数形成されている。複数のジャケット室21は、ロールシェル部2aの周方向に例えば等間隔に設けられている。また、複数のジャケット室21は、少なくとも一方の軸方向端部において連通路22により互いに連通するように構成されている。これにより、1つのジャケット室21から別のジャケット室21に熱媒体が流入可能に構成されている。なお、複数のジャケット室21は、互いに連通する構成でなくてもよく、1つずつ独立したものであっても良い。
【0027】
また、ジャケット室21には、
図2に示すように、熱媒体を封入するための封入路23が接続されている。当該封入路23は、ローラ本体2のジャーナル部2bに形成されており、当該封入路23の開口部(封入口23H)には封止プラグ9が設けられている。この封止プラグ9は、ジャケット室21に熱媒体を封入する際は、封入口23Hから取り外されており、ジャケット室21に熱媒体を封入した後に封入口23Hに取り付けられる。
【0028】
リリーフプラグ8は、ジャケット室21が所定の圧力以上となった場合に、ジャケット室21を圧力開放するものである。本実施形態では、気体の状態方程式により圧力上昇と温度上昇とが対応することから、ローラ本体2のロールシェル部2a又はジャケット室21の温度が所定温度以上となった場合に、ジャケット室21を圧力開放するプラグを用いている。具体的にリリーフプラグ8は、所定の温度で溶融する例えばハンダ等の可溶性金属81を用いて構成されており、可溶性金属81が溶融することによってジャケット室21を圧力開放するものである。このリリーフプラグ8は、圧力開放のための内部流路が可溶性金属81により充填されており、リリーフプラグ8が可溶性金属81の溶融温度以上となった場合に、可溶性金属81が溶融して内部流路が開放される構成とされている。
【0029】
このリリーフプラグ8は、
図2に示すように、ジャケット室21に連通する圧力開放路10に設けられている。圧力開放路10は、ローラ本体2のジャーナル部2bに形成されており、リリーフプラグ8は、ローラ本体2のジャーナル部2bに設けられる。本実施形態の圧力開放路10は、ジャーナル部2bにおいて封入路23に接続されている。なお、封入路23は、ジャケット室21と同軸上に形成されており、圧力開放路10は、ジャーナル部2bにおいて封入路23と例えば直交するように接続されている。このように本実施形態のリリーフプラグ8は、ジャケット室21に熱媒体を封入するための封入口23Hとは別に(具体的には同じジャーナル部2bにおいて径方向において互いに異なる位置に)設けられた構成である。なお、封入口23Hを軸方向一方のジャーナル部2bに設け、リリーフプラグ8を軸方向他方のジャーナル部2bに設けた構成としても良い。
【0030】
そして、リリーフプラグ8は、
図3に示すように、ローラ本体2のジャーナル部2bにおいて、ジャケット室21よりも径方向内側に設けられている。つまり、リリーフプラグ8は、軸方向から視て、ジャケット室21よりも径方向内側に設けられている。具体的にリリーフプラグ8は、ジャーナル部2bにおいて、ジャケット室21の径方向内側端21xよりも径方向内側の領域R1(網目部分)に設けられている。
【0031】
リリーフプラグ8は、ローラ本体2のロールシェル部2aの温度が可溶性金属81の溶融温度よりも高い温度となっても可溶性金属81が溶融しない位置に設けられている。また、本実施形態では、熱媒体として水を用いていることから、リリーフプラグ8は、ローラ本体2のロールシェル部2aが水の臨界温度又はその直前の温度となった場合に可溶性金属81が溶融する位置に設けられている。この構成により、ロールシェル部2aを可溶性金属81の溶融温度以上、かつ、水の臨界温度未満の温度範囲で使用することができる。
【0032】
<第1実施形態の効果>
このように構成した両持ち式の誘導発熱ローラ装置100によれば、ローラ本体2の鏡板部であるジャーナル部2bにおいて、リリーフプラグ8をジャケット室21よりも径方向内側に設けているので、誘導発熱機構3により誘導発熱されるローラ本体2のロールシェル部2aの加熱温度よりもリリーフプラグ8の温度を低くすることができる。その結果、ローラ本体2のロールシェル部2aの加熱温度がリリーフプラグ8によって制約を受け難くすることができ、ロールシェル部2aの加熱温度をリリーフプラグ8の動作温度よりも高い温度に設定することができる。具体的には、ローラ本体2のロールシェル部2aの加熱温度を可溶性金属81の溶融温度よりも高い温度に設定することができる。
【0033】
また、リリーフプラグ8を封入口23Hとは別の位置に設けているので、ローラ本体2のジャケット室21への熱媒体の封入及び熱媒体の交換作業を容易にする事ができる。さらに、封入口23Hに設けられる封止プラグ9に圧力開放機能を持たせる必要がないので、封止プラグ9に安価なものを用いることもできる。
【0034】
<第2実施形態>
次に本発明に係る誘導発熱ローラ装置の第2実施形態について図面を参照して説明する。
【0035】
本実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100は、前記第1実施形態と同様に、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等において用いられるものである。
【0036】
具体的に誘導発熱ローラ装置100は、
図4に示すように、回転自在に支持されたローラ本体2と、ローラ本体2の内部に設けられ、ローラ本体2を誘導発熱させる誘導発熱機構3とを備え、ローラ本体2を軸方向の片側から支持する所謂片持ち式のものである。
【0037】
ローラ本体2は、円筒状をなすロールシェル部2aと、当該ロールシェル部2aの軸方向一端部に設けられて、ロールシェル部2aの一端開口を閉塞する鏡板部であるフランジ部2dと、当該フランジ部2dからロールシェル部2a内においてロールシェル部2aの回転中心軸上に延び設けられたボス部2eとを有する。
【0038】
ボス部2eには、軸嵌合部2fが設けられており、当該軸嵌合部2fには、ローラ本体2を回転可能に支持するための回転支持軸11がボルト及びナットにより嵌合締結されている。当該回転支持軸11は、軸受12を介して固定台13に回転可能に支持されており、当該回転支持軸11はモータ等の回転駆動機構(不図示)により回転される。本実施形態において固定台13は、モータ等の駆動機構により構成されたものであっても良いし、固定台13とは別に駆動機構が設けられても良い。この駆動機構によりローラ本体2および回転支持軸11を回転させることができる。なお、本実施形態において回転支持軸11は固定台13に対して回転自在に支持されているが、これに限られるものではない。
【0039】
誘導発熱機構3は、円筒状の鉄心31および鉄心31に巻装された誘導コイル32からなり、支持体14に支持されている。支持体14は、固定台13に静止状態で保持されている。誘導コイル32には、リード線L1が接続されており、このリード線L1には、交流電圧を印加するための交流電源Vが接続されている。
【0040】
このような誘導発熱機構3により、誘導コイル32に交流電圧が印加されると交番磁束が発生し、その交番磁束はローラ本体2のロールシェル部2aを通過する。この通過によりロールシェル部2aに誘導電流が発生し、この誘導電流によってロールシェル部2aはジュール発熱する。このとき、ロールシェル部2aの温度は、ロールシェル部2aの温度を検出する温度センサ(不図示)により検出された温度に基づいてフィードバック制御される。
【0041】
しかして本実施形態の誘導発熱ローラ装置100において、
図4に示すように、ローラ本体2のロールシェル部2aには、気液二相の熱媒体が封入されるジャケット室21が形成されており、ローラ本体2の軸方向一端部のフランジ部2dにジャケット室21を圧力開放するためのリリーフプラグ8が設けられている。本実施形態の熱媒体は、例えば純水等の水であるが、これに限られない。
【0042】
ジャケット室21は、ローラ本体2のロールシェル部2aに軸方向に沿って複数形成されている。複数のジャケット室21は、ロールシェル部2aの周方向に例えば等間隔に設けられている。また、複数のジャケット室21は、少なくとも一方の軸方向端部において連通路22により互いに連通するように構成されている。これにより、1つのジャケット室21から別のジャケット室21に熱媒体が流入可能に構成されている。なお、複数のジャケット室21は、互いに連通する構成でなくてもよく、1つずつ独立したものであっても良い。
【0043】
また、ジャケット室21には、
図5に示すように、熱媒体を封入するための封入路23が接続されている。当該封入路23は、ローラ本体2の軸方向一端部に形成されており、当該封入路23の開口部(封入口23H)には封止プラグ9が設けられている。この封止プラグ9は、ジャケット室21に熱媒体を封入する際は、封入口23Hから取り外されており、ジャケット室21に熱媒体を封入した後に封入口23Hに取り付けられる。
【0044】
リリーフプラグ8は、ジャケット室21が所定の圧力以上となった場合に、ジャケット室21を圧力開放するものである。本実施形態のリリーフプラグ8は、前記第1実施形態と同様に、ローラ本体2のロールシェル部2a又はジャケット室21の温度が所定温度以上となった場合に、ジャケット室21を圧力開放するプラグを用いている。具体的にリリーフプラグ8は、所定の温度で溶融する例えばハンダ等の可溶性金属81を用いて構成されており、可溶性金属81が溶融することによってジャケット室21を圧力開放するものである。このリリーフプラグ8は、圧力開放のための内部流路が可溶性金属81により充填されており、リリーフプラグ8が可溶性金属81の溶融温度以上となった場合に、可溶性金属81が溶融して内部流路が開放される構成とされている。
【0045】
このリリーフプラグ8は、
図5に示すように、ジャケット室21に連通する圧力開放路10に設けられている。圧力開放路10は、ローラ本体2のフランジ部2dに形成されており、リリーフプラグ8は、ローラ本体2のフランジ部2dに設けられる。本実施形態の圧力開放路10は、ジャケット室21に接続されている。なお、圧力開放路10は、フランジ部2dにおいてジャケット室21に対して例えば傾斜するように接続されている。このように本実施形態のリリーフプラグ8は、ジャケット室21に熱媒体を封入するための封入口23Hとは別に(具体的には封入口23Hに対して軸方向反対側に)設けられた構成である。なお、リリーフプラグ8と封入口23Hとをフランジ部2dに設けた場合には、フランジ部2dにおいてそれらを径方向において互いに異なる位置に設けた構成としても良い。
【0046】
そして、リリーフプラグ8は、ローラ本体2のフランジ部2dにおいて、ジャケット室21よりも径方向内側に設けられている(
図3参照)。つまり、リリーフプラグ8は、軸方向から視て、ジャケット室21よりも径方向内側に設けられている。具体的にリリーフプラグ8は、ローラ本体2のフランジ部2dにおいて、ジャケット室21の径方向内側端21xよりも径方向内側の領域R1に設けられている。
【0047】
リリーフプラグ8は、ローラ本体2のロールシェル部2aの温度が可溶性金属81の溶融温度よりも高い温度となっても可溶性金属81が溶融しない位置に設けられている。また、本実施形態では、熱媒体として水を用いていることから、リリーフプラグ8は、ローラ本体2のロールシェル部2aが水の臨界温度又はその直前の温度となった場合に可溶性金属81が溶融する位置に設けられている。この構成により、ロールシェル部2aを可溶性金属81の溶融温度以上、かつ、水の臨界温度未満の温度範囲で使用することができる。
【0048】
<第2実施形態の効果>
このように構成した片持ち式の誘導発熱ローラ装置100によれば、ローラ本体2の鏡板部であるフランジ部2dにおいて、リリーフプラグ8をジャケット室21よりも径方向内側に設けているので、誘導発熱機構3により誘導発熱されるローラ本体2のロールシェル部2aの加熱温度よりもリリーフプラグ8の温度を低くすることができる。その結果、ローラ本体2のロールシェル部2aの加熱温度がリリーフプラグ8によって制約を受け難くすることができ、ロールシェル部2aの加熱温度をリリーフプラグ8の動作温度よりも高い温度に設定することができる。
【0049】
また、リリーフプラグ8を封入口23Hとは別の位置に設けているので、ローラ本体2のジャケット室21への熱媒体の封入及び熱媒体の交換作業を容易にする事ができる。さらに、封入口23Hに設けられる封止プラグ9に圧力開放機能を持たせる必要がないので、封止プラグ9に安価なものを用いることもできる。
【0050】
<3.本発明の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0051】
例えば、前記各実施形態では、封止プラグ9とリリーフプラグ8とを別部材として別々に設ける構成としているが、封止プラグ9とリリーフプラグ8との機能を有する単一のプラグを用いても良い。この場合であっても、リリーフプラグ8は鏡板部(ジャーナル部2b又はフランジ部2d)においてジャケット室21よりも径方向内側に位置することになる。また、リリーフプラグ8が設けられる圧力開放路10は、熱媒体の封入時においては封入路として機能する。
【0052】
また、前記各実施形態では、リリーフプラグ8の圧力開放方向は、ローラ本体2の外側であったが、
図6に示すように、リリーフプラグ8の圧力開放方向をローラ本体2の内側としても良い。この場合、両持ち式のローラ本体2の場合には、ジャーナル部2bの内壁面にリリーフプラグ8が設けられる構成となり、片持ち式のローラ本体2の場合には、フランジ部2dの内壁面にリリーフプラグ8が設けられる構成となる。このように構成することで、リリーフプラグ8の圧力開放時に噴出する高温の熱媒体蒸気がローラ本体2の外部に漏れない構成とすることができ、周囲環境の安全を確保することができる。
【0053】
さらに、リリーフプラグ8を鏡板部(ジャーナル部2b又はフランジ部2d)の外壁面に設けた場合には、
図7に示すように、リリーフプラグ8の外側にリリーフプラグ8による圧力開放時の熱媒体蒸気を遮る保護板15を設ける構成としても良い。両持ち式のローラ本体2の場合には、ジャーナル部2bの外壁面を覆うように保護板15が設けられる構成となり、片持ち式のローラ本体2の場合には、フランジ部2dの外壁面を覆うように保護板15が設けられる構成となる。この構成により、リリーフプラグ8が圧力開放した際に噴出する高温の熱媒体蒸気は保護板15によって遮られて外部に広がらないので、周囲環境の安全を確保することができる。
【0054】
保護板15を設けた構成において、
図7に示すように、リリーフプラグ8が設けられた鏡板部(ジャーナル部2b又はフランジ部2d)に、リリーフプラグ8による圧力開放時の高温の熱媒体蒸気をローラ本体2の内部に導く流路24を形成しても良い。両持ち式のローラ本体2の場合には、ジャーナル部2bに流路24が形成される構成となり、片持ち式のローラ本体2の場合には、フランジ部2dに流路24が形成される構成となる。ここで、リリーフプラグ8から流路24に高温の熱媒体蒸気が流入しやすくするために、鏡板部(ジャーナル部2b又はフランジ部2d)の外壁面にそれらを繋ぐ連通溝25(
図7の右図参照)を形成しても良い。この構成により、リリーフプラグ8が圧力開放した際に噴出する高温の熱媒体蒸気はローラ本体2の内部に流入して外部に広がらないので、周囲環境の安全をより一層確保することができる。また、流路24を形成することでローラ本体2の軽量化にも寄与することになる。
【0055】
その上、リリーフプラグ8が圧力開放したか否かを判断するために、誘導発熱ローラ装置100は、
図8に示すように、ローラ本体2の軸方向において異なる位置に設けられた複数の温度センサT1、T2と、複数の温度センサT1、T2の検出温度に基づいて、リリーフプラグ8の動作の有無を判断する判断部Cとを備える構成としてもよい。リリーフプラグ8が動作していない状態では、ジャケット室21の均温作用によって、複数の温度センサT1、T2の検出温度の差が所定の範囲内に収まっている。一方で、リリーフプラグ8が動作して圧力開放した後では、ジャケット室21の均温作用が不十分になり、複数の温度センサT1、T2の検出温度の差が所定の範囲外になってしまう。判断部Cは、複数の温度センサT1、T2の検出温度から、それらの差が所定の範囲外となったと判断した場合に、リリーフプラグ8が動作したと判断して、例えばユーザに報知する、又は、誘導発熱ローラ装置100を停止する。
【0056】
加えて、前記実施形態では、リリーフプラグ8をジャケット室21よりも径方向内側に位置させる構成であったが、リリーフプラグ8をジャケット室21に対して軸方向に離す構成とすることも考えられる。この構成では、ロール本体が大型化してしまうので、上述した各実施形態の構成の方が好ましい。
【0057】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0058】
100・・・誘導発熱ローラ装置
2・・・ローラ本体
2a・・・ロールシェル部(側周壁)
2b・・・ジャーナル(鏡板部)
2d・・・フランジ部(鏡板部)
21・・・ジャケット室
23H・・・封入口
3・・・誘導発熱機構
32・・・誘導コイル
8・・・リリーフプラグ
81・・・可溶性金属
15・・・保護板
T1、T2・・・温度センサ
C・・・判断部