(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】細胞殺傷剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20221219BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221219BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P35/00
A61P15/00
A61P43/00 105
C07K7/08
(21)【出願番号】P 2019564657
(86)(22)【出願日】2018-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2018048523
(87)【国際公開番号】W WO2019138944
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018001063
(32)【優先日】2018-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】杉原 一廣
(72)【発明者】
【氏名】金山 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊章
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 雄一郎
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0145308(US,A1)
【文献】杉原 一廣 ほか,子宮内膜症に対するペプチド治療薬の探索,第32回日本DDS学会学術集会プログラム予稿集,2016年,p.170,2-C-20
【文献】柴田 俊章 ほか,糖鎖をmimicするペプチドを用いた抗腫瘍薬,日本産科婦人科学会雑誌 (Acta Obstetrica et Gynaecologica Japonica),2016年,第68巻第2号,p.858, P3-14-1,ISSN:0300-9165
【文献】SUGIHARA, K. et al.,Development of pro-apoptotic peptides as potential therapy for peritoneal endometriosis,NATURE COMMUNICATIONS,2014年,Vol.5:4478, DOI: 10.1038/ncomms5478,pp.1-9,ISSN:2041-1723
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/10
A61P 35/00
A61P 15/00
A61P 43/00
C07K 7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが、
全てD-アミノ酸からなるペプチド、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなるペプチド、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなるペプチド、又は
全てL-アミノ酸からなるペプチドである、請求項1に記載の細胞殺傷剤。
【請求項5】
細胞の異常増殖に起因する疾患を発症している動物
(ただし、ひとを除く)に対して、有効量の請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞殺傷剤を投与する工程を有する、細胞の異常増殖に起因する疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的の細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導し得るペプチド薬剤に関する。
本願は、2018年1月9日に、日本に出願された特願2018-001063号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の有効成分は、その大きさから、低分子薬(低分子化合物薬)と、抗体医薬と、低分子化合物よりも大きく抗体よりも小さい中分子薬と、に分類される。中分子薬には、例えば、ペプチド薬剤が含まれる。低分子薬、中分子薬、抗体医薬は、それぞれ利点や問題点がある。例えば低分子薬は、分子量が小さいため、細胞膜を通過して標的の細胞の内部に入り込むことができるが、タンパク質同士の結合を阻害することはできない。また、製造コストが比較的安価であるとの利点があるが、スクリーニングが長年行われてきており、新規分子の検索が困難な状況である。一方で、抗体医薬は、標的分子への特異性や結合力が高く、また、タンパク質同士の結合を阻害できるが、分子量が大きいために細胞膜を通過できず、標的細胞の内部に入ることができない。また、製造コストが高いことが大きなデメリットである。中分子薬は、低分子薬と抗体医薬の利点を併せ持つ。すなわち、標的分子への特異性や結合力が高いことに加えて、細胞膜を通過して細胞内の標的分子に作用することができる。また、一般的に化学合成が可能であるため、製造コストが抗体医薬よりも安く、かつ純度の高い薬剤を合成することができる。
【0003】
一方で、アポトーシスは、多細胞生物の細胞死のうち、増殖制御機構として管理・調節された細胞死である。多細胞生物においては、発生や再生過程で生じた不要な細胞や有害な細胞の排除を、これらの細胞にアポトーシスを誘導することによって行っている。また、アポトーシスを疾患の原因となる細胞に誘導させて排除することにより、病態の改善が期待できることから、アポトーシスを誘導する活性を持つ物質を医薬用途へ利用することも行われている。例えば、癌細胞に対してアポトーシスを誘導させることにより、癌を寛解又は治癒することが期待できる。
【0004】
疾患の原因となる細胞にアポトーシスを誘導するペプチド薬剤としては、例えば、子宮内膜症細胞(子宮内膜以外に存在する子宮内膜細胞)の細胞表面に特異的に発現しており、腹膜表面には発現していない分子であるCNGB3(cyclic nucleotide-gated channel beta 3)に特異的に結合するZ13ペプチドとエンドソームエスケープペプチドとの融合ペプチドと、Z13ペプチドとアポトーシス誘導ペプチドとの融合ペプチドとを含むペプチド組成物が報告されている(特許文献1参照。)。両ペプチドを、Z13ペプチド部分により子宮内膜症細胞に共に取り込ませることにより、子宮内膜症細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導させることができる。実際に、子宮内膜症を発症しているヒヒに、Z13ペプチドとエンドソームエスケープペプチドとの融合ペプチドと、Z13ペプチドとアポトーシス誘導ペプチドとの融合ペプチドとを含むペプチド組成物を、腹腔鏡を介して腹膜に投与したところ、子宮内膜症の病変の細胞のみ選択的にアポトーシスが誘導され、隣接するその他の細胞ではアポトーシスは誘導されなかった(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2016/145308号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sugihara,et al.,NATURE COMMUNICATIONS、2014年、第5巻、記事番号4478.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、標的の細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導し得るペプチド薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のペプチド配列からなるエンドソームエスケープペプチドと特定のペプチド配列からなるアポトーシス誘導ペプチドとの融合ペプチドが、高い選択性で効率よく、癌細胞に対してアポトーシスを誘導できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の細胞殺傷剤及び細胞の異常増殖に起因する疾患の治療方法を提供するものである。
[1] 配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを有する、細胞殺傷剤。
[2] 前記配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドが、
全てD-アミノ酸からなるペプチド、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなるペプチド、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがL-アミノ酸からなり、15~19番目のアミノ酸までがD-アミノ酸からなるペプチド、又は
全てL-アミノ酸からなるペプチドである、前記[1]の細胞殺傷剤。
[3] 細胞の異常増殖に起因する疾患の治療剤である、前記[1]又は[2]の細胞殺傷剤。
[4] 前記疾患が、癌である、前記[3]の細胞殺傷剤。
[5] 細胞の異常増殖に起因する疾患を発症している動物に対して、有効量の前記[1]~[4]のいずれかの細胞殺傷剤を投与する工程を有する、細胞の異常増殖に起因する疾患の治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る細胞殺傷剤は、非常に効率よく、標的の細胞に対してアポトーシスを誘導できる。このため、当該細胞殺傷剤は、特に、癌等の細胞の異常増殖に起因する疾患の治療剤として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1において、各ペプチドで処理したA431-CNGB3-myc細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
【
図2】実施例1において、各ペプチドで処理したOVCAR3-Luc細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
【
図3】実施例1において、各ペプチドで処理したOVCAR3-Luc細胞の相対ATP量(%)の測定結果を示した図である。
【
図4】実施例2において、K14D-H5Dペプチドを腹腔内に単回投与した子宮内膜症モデルマウスの腹膜の発光強度(RLU)の測定結果を示した図である。
【
図5】実施例3において、K14D-H5Dペプチドを投与したOVCAR3-Lucマウスのphoton数の増大率(%)を経時的に測定した結果を示した図である。
【
図6】実施例3において、K14D-H5Dペプチドを投与したOVCAR3-Lucマウスの腫瘍体積の増大率(%)を経時的に測定した結果を示した図である。
【
図7】実施例3において、K14D-H5Dペプチドを投与したOVCAR3-Lucマウスの、腫瘍増大率が10倍に達した場合を安楽死条件とした生存率の経時的変化を示した図である。
【
図8】実施例3において、K14D-H5Dペプチドを投与したOVCAR3-Lucマウスの、腫瘍増大率が20倍に達した場合を安楽死条件とした生存率の経時的変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<細胞殺傷剤>
本発明に係る細胞殺傷剤は、配列番号1で表されるアミノ酸配列(KLAKLAKKLAKLAKHLAHL)からなるペプチド(以下、「エフェクターペプチド」ということがある。)を有する。エフェクターペプチドは、アポトーシス誘導活性を有するペプチドとエンドソームエスケープ活性を有するペプチドがタンデムに連結されたペプチドである。本発明に係る細胞殺傷剤は、十分に小さいため、特段の取り込みシステムを介さなくても、標的細胞内へエンドサイトーシスにより取り込まれる。次いで、標的細胞内に取り込まれたエンドソームに内包された細胞殺傷剤は、エンドソームエスケープ活性を有するペプチド部位の作用によってエンドソーム膜が破壊される結果、標的細胞の細胞質へ放出される。細胞質へ放出された細胞殺傷剤は、アポトーシス誘導活性を有するペプチド部位の作用によって、ミトコンドリア膜を障害し、当該標的細胞のアポトーシスを誘導する。
【0013】
本発明に係る細胞殺傷剤は、一分子中に、アポトーシス誘導活性を有するペプチド部分と、エンドソームエスケープ活性を有するペプチド部分とを含む。このため、アポトーシス誘導活性を有するペプチドと、エンドソームエスケープ活性を有するペプチドとをそれぞれ独立に含むペプチド組成物と比較して、非常に効率よく、標的細胞にアポトーシスを誘導することができる。
【0014】
なお、本発明及び本願明細書において、「標的細胞」は、アポトーシスを誘導したい対象の細胞である。
【0015】
特許文献1に開示されているように、KLAKの4アミノ酸の繰り返しからなるアミノ酸配列(以下、「KLAK配列」ということがある。)からなるペプチド(以下、「KLAKペプチド」ということがある。)は、ミトコンドリア膜を障害してアポトーシスを誘導する作用(アポトーシス誘導活性)を有する。HLAHの4アミノ酸の繰り返しからなるアミノ酸配列(以下、「HLAH配列」ということがある。)からなるペプチド(以下、「HLAHペプチド」ということがある。)は、エンドソームの膜を破壊する作用(エンドソームエスケープ活性)を有する。KLAKペプチドとHLAHペプチドを連結したペプチドは、エンドソームエスケープ活性とアポトーシス誘導活性を有するが、その活性の強さは、それぞれのペプチドのアミノ酸の長さと、両ペプチドの連結の順番に影響を受ける。
【0016】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるエフェクターペプチドは、14アミノ酸からなるKLAK配列の下流に、5アミノ酸からなるHLAH配列が連結されたペプチドである。すなわち、配列番号1のアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸までがアポトーシス誘導活性を有する部位であり、15~19番目のアミノ酸までがエンドソームエスケープ活性を有する部位である。このエフェクターペプチドは、標的細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた場合に、最も高いアポトーシス誘導活性が得られるように、KLAK配列の長さ、HLAH配列の長さ、及びKLAK配列とHLAH配列の連結の順番が最適化されたペプチドである。このエフェクターペプチドを有しているため、本発明に係る細胞殺傷剤は、非常に高いアポトーシス誘導活性を持つ。
【0017】
本発明に係る細胞殺傷剤が有するエフェクターペプチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであれば特に限定されるものではなく、L-アミノ酸からなるペプチドであってもよく、D-アミノ酸からなるペプチドであってもよく、L-アミノ酸とD-アミノ酸からなるペプチドであってもよい。エンドソーム内における安定性が高く、より高いアポトーシス誘導活性が得られることから、エフェクターペプチドは、少なくとも一部にD-アミノ酸を含むペプチドであることが好ましく、KLAK配列(配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1~14番目のアミノ酸)とHLAH配列(配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、15~19番目のアミノ酸)の少なくとも一方がD-アミノ酸からなるペプチドであることがより好ましく、全てD-アミノ酸からなるペプチドであることが特に好ましい。
【0018】
本発明に係る細胞殺傷剤は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるエフェクターペプチドの効果を損なわない限りにおいて、当該エフェクターペプチドに、その他の生体分子が連結されていてもよい。その他の生体分子としては、ペプチドが挙げられる。ただし、細胞殺傷剤全体の大きさが、特段の取り込みシステムを介さなくても、エンドサイトーシスによって細胞内へ取り込まれ得る大きさであることが好ましい。具体的には、当該エフェクターペプチド以外の部分は、1~15個が好ましく、1~10個程度のペプチドがより好ましい。本発明に係る細胞殺傷剤が配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるエフェクターペプチド以外の部分を含む場合、当該エフェクターペプチド以外の部分は、当該エフェクターペプチドのN末端側にあってもよく、C末端側にあってもよい。
【0019】
本発明に係る細胞殺傷剤は、異常増殖に起因する疾患の治療剤として有効であり、特に癌や子宮内膜症の治療剤として好ましい。本発明に係る細胞殺傷剤の治療対象となる癌の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、子宮癌、子宮頸癌、骨盤腔癌、卵巣癌、乳癌、腹壁腫瘍、大網腫瘍、食道癌、胃癌、小腸癌、結腸癌、直腸癌、盲腸癌、胆嚢癌、膵臓癌、肝臓癌、脾臓癌、腎臓癌、舌癌、咽頭癌、鼻癌、耳下腺癌、甲状腺癌、悪性リンパ腫、骨腫瘍、皮膚癌、肺癌、縦隔癌、精巣癌、前立腺癌、膀胱癌、脳腫瘍等が挙げられる。また、原発癌であってもよく、転移性癌であってもよい。
【0020】
後記実施例に示すように、本発明に係る細胞殺傷剤は、異常増殖を起こしている細胞に対して優先的に、かつ非常に効率よくアポトーシスを誘導できる。この理由は明らかではないが、以下の通り推察される。異常増殖を起こしている細胞は、一般的に、細胞自体の活性が高く、エンドサイトーシスによる外部からの各種物質の取り込み活性も高い。このため、生体内に投与された本発明に係る細胞殺傷剤は、正常細胞よりも異常増殖を起こしている細胞に優先的に取り込まれ、アポトーシスを誘導すると考えられる。
【0021】
本発明に係る細胞殺傷剤を医薬として使用する場合、投与経路は特に限定されるものではなく、標的細胞及びそれを含む組織に応じて適宜決定される。例えば、本発明に係る細胞殺傷剤の投与経路としては、経口投与、経静脈投与、腹腔内投与、注腸投与等が挙げられる。
【0022】
異常増殖に起因する疾患の治療は、細胞の異常増殖に起因する疾患を発症している動物に対して、本発明に係る細胞殺傷剤を有効量投与することにより行うことができる。当該細胞殺傷剤の有効量は、投与された動物に対し、投与されていない場合に比べて動物体内の標的細胞(異常増殖を起こしている細胞)の量を低減させられる量であればよく、当該細胞殺傷剤により重篤な副作用が生じない量であることが好ましい。当該細胞殺傷剤の有効量は、標的細胞の種類、投与対象の動物の種類、投与方法等を考慮して実験的に求めることができる。例えば、癌等の細胞の異常増殖に起因する疾患を発症している動物に対して投与した場合に、当該動物の体内の異常増殖を起こしている細胞の量を、投与していない動物と比べて、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは75%以下、よりさらに好ましくは50%以下にできる量を、有効量と規定することもできる。
【0023】
本発明に係る細胞殺傷剤は、通常の方法によって、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤、チュアブル剤、徐放剤などの経口用固形剤、溶液剤、シロップ剤などの経口用液剤、注射剤、注腸剤、スプレー剤、貼付剤、軟膏剤などに製剤化することができる。
【0024】
本発明に係る細胞殺傷剤は、製剤上の必要に応じて、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等を配合して製剤化される。
【0025】
賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトールなどの糖類、デンプン、結晶セルロースなどのセルロース類、エリスリトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、カオリンなどが挙げられる。結合剤としては、α化デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、D-マンニトール、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤としては、クロスポビドン(架橋ポリビニルピロリドン)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。流動化剤としては、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム化合物、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。溶剤としては、精製水、生理的食塩水などが挙げられる。溶解補助剤としては、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体などが挙げられる。緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、炭酸水素ナトリウム、トロメタモール、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤あるいは乳化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、レシチン、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース類、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。等張化剤としては、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトールなどの糖類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、尿素などが挙げられる。安定化剤としては、ポリエチレングリコール、デキストラン硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、クロロクレゾール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。矯味矯臭剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される甘味料、香料などが挙げられる。着色剤としては、医薬及び食品分野において通常に使用される着色料が挙げられる。
【0026】
本発明に係る細胞殺傷剤は、そのまま使用してもよく、その他の成分も含む医薬用組成物として使用することもできる。当該医薬用組成物に含まれるその他の成分としては、例えば、前記の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、流動化剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等が挙げられる。また、当該医薬用組成物は、本発明に係る細胞殺傷剤以外の他の有効成分を含有していてもよい。
【0027】
本発明に係る細胞殺傷剤は、哺乳動物に投与されるものであることが好ましく、ヒトや、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物に投与されるものであることがより好ましく、ヒトに投与されるものであることがさらに好ましい。
【実施例】
【0028】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
以下の実験で用いた子宮内膜症モデル細胞及び子宮内膜症モデルマウスは、下記の通りにして作製した。
【0030】
<子宮内膜症モデル細胞(A431-CNGB3-myc細胞)>
A431細胞(ヒト上皮様細胞癌由来細胞株)に、C末端にmycタグを融合させたヒトCNGB3をコードする遺伝子を導入して強制発現させた形質転換細胞(A431-CNGB3-myc細胞)を、子宮内膜症モデル細胞として調製した。
【0031】
A431-CNGB3-myc細胞の培養は、DMEM High Glucose培地(GIBCO社製)に10%の非働化FBS(ウシ胎児血清、Corning社製)と1%のpenicillin-streptomycin(Invitrogen社製)を含有させた培地を培養培地として、37℃、5容量%二酸化炭素環境下で行った。継代は2~3日ごとに行った。
【0032】
<子宮内膜症モデルマウス>
免疫不全マウス(NOD/ShiJic-scid Jcl系統、日本クレア社より供給)の腹腔に、A431-CNGB3-myc細胞を移植して、子宮内膜症モデルマウスを作製した。
具体的には、凍結保存してあるA431-CNGB3-myc細胞を解凍した後、10cmディッシュ(Lot No. F3BAXQ103:Thermo Fisher Scientific社製)を用いて2回継代した。この細胞を1×106cells/0.5mL/bodyとなるように培養培地を加えて調製した細胞液を、投与液とした。この投与液を、調製後可及的速やかに、7週齢の雌の免疫不全マウスに腹腔内投与することにより、A431-CNGB3-myc細胞を移植した。
【0033】
なお、マウスは、ポリカーボネートケージ(W×D×H=270×440×187(mm))内で5~10匹/ケージを、19.8~27.1℃、湿度32~75%、12時間照明の環境下で飼育した。飼料(滅菌済CRF-1(固型)、オリエンタル酵母工業社製)と飲料水(滅菌済水道水)は自由摂取させた。
【0034】
モデル作製の確認は、腹膜腫瘤の観察及び採材によって行った。A431-CNGB3-myc細胞移植から1~3週間後に、各週2匹ずつに対して剖検を行い、腹膜に腫瘤(1mm程度の粒状)が認められるかを目視で確認し、写真撮影を行った。その後、腹膜を採材し、4カ所(腹部・背部の各左右)を切り出して、それぞれ10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して固定し、冷蔵保存した。ホルマリン固定後の腹膜に対して、抗c-myc抗体を用いて免疫組織化学染色し、播種の状態を調べた。
【0035】
A431-CNGB3-myc細胞移植後のマウスの目視確認の結果、1回目の実験では、移植から1週間後では、目視で腫瘤が確認されたものの、腹膜播種は見られなかったが、移植から2又は3週間後には、目視で腫瘤及び腹膜播種が確認された。2回目の実験では、移植から1週間後でも、目視で腹膜播種が確認された。また、移植後マウスの腹膜組織片のc-myc染色の結果、移植から1週間後には既に腹膜播種していることが確認された。
【0036】
<ルシフェラーゼ遺伝子導入卵巣癌担癌皮下腫瘍マウス(OVCAR3-Lucマウス)>
マウスに移植する腫瘍組織は、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した卵巣癌細胞株(OVCAR3-Luc細胞、他施設より移譲)を培養したものを用いた。OVCAR3-Luc 細胞の培養は、RPMI medium 1640(11875-093:Gibco社製)に10%の非働化FBS(Corning社製)を含有させた培地を培養培地として、37℃、5容量%二酸化炭素環境下で行った。継代は2~3日ごとに行った。
【0037】
OVCAR3-Luc細胞株をトリプシン処理にて剥離し、5×105cells/100μL/body となるように培養培地を加えて調製した細胞液を投与液とした。この投与液を、調製後可及的速やかに、8~10週齢の雌のSCIDマウスの背部に皮下投与することにより、OVCAR3-Luc細胞を皮下移植した皮下腫瘍モデルマウスを作製した。
【0038】
[実施例1]
細胞増殖能が亢進している2種類の癌細胞(A431-CNGB3-myc細胞とOVCAR3-Luc細胞)に対して、それぞれ、各ペプチドの細胞殺傷活性を調べた。使用したペプチドのアミノ酸配列を表1に示す。表1に記載のペプチドのうち、K14D-H5Dペプチドは、全てD-アミノ酸から構成された、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである。K14Dペプチドは、全てD-アミノ酸から構成されたKLAKペプチドであり、H5Dペプチドは、全てD-アミノ酸から構成されたHLAHペプチドである。K14D-H5D-Z13ペプチドは、K14D-H5DペプチドのC末端に、L-アミノ酸から構成されたZ13ペプチドを付加したものである。K7D-H18Dペプチドは、全てD-アミノ酸から構成された、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0039】
【0040】
<細胞殺傷活性の評価>
各ペプチドの細胞殺傷活性の評価は、CellTiter-Glo(登録商標)アッセイキット(プロメガ社製)を用いて、各ペプチドで処理した細胞のATP量を測定して行った。
【0041】
具体的には、まず、3~4回継代後のA431-CNGB3-myc細胞又はOVCAR3-Luc細胞を、96ウェルプレート(Corning/Costar社製、Lot No. 00515003)に、1×104cells/wellになるように細胞の濃度を調製して播種した。播種から2日間培養した後、各ウェルに、各ペプチドをそれぞれ、終濃度が0(ペプチド無添加)、2.34、4.69、9.38、18.8、37.5、75.0、150.0、又は300.0μMになるよう添加し、24時間培養した。なお、K14Dペプチドは、H5Dペプチドと組み合わせて、両ペプチドの混合物を各ウェルに添加した。その後、各ウェルから培養上清を除去し、残った細胞にCellTiter-Glo bufferを加えてホモジナイズした後、遠心により上清を回収し、これをライセートとした。このライセートに2倍量のPBS及びライセートと同量の2×CellTiterGlo Reagentを加えて撹拌したものを反応溶液として調製し、この反応溶液を10分間室温で静置した。室温静置後の各反応溶液の発光強度(Luminescence)(RLU:RELATIVE LIGHT UNITS)を、Synergy H1 ハイブリッドマルチモードマイクロプレートリーダー(BioTek社製)を用いて測定した。反応溶液の発光強度はATP量の指標である。反応溶液の発光強度が小さいほど、ATP量が少なく、投与されたペプチドの細胞殺傷活性が強いことを示す。全ての試行はtriplicateで測定し、その平均を各反応溶液の発光強度(RLU)とした。
【0042】
ペプチド無添加の反応溶液の発光強度(RLU)を100%とした場合の各反応溶液の相対発光強度(%)を相対ATP量(%)として算出した。各ペプチドで処理したA431-CNGB3-myc細胞の相対ATP量(%)を
図1に、各ペプチドで処理したOVCAR3-Luc細胞の相対ATP量(%)を
図2及び3に、それぞれ示す。図中、「K14D+H5D」は、K14DペプチドとH5Dペプチドの両方を添加した反応溶液の相対ATP量(%)を示す。
【0043】
図1及び2に示すように、いずれの癌細胞に対しても、K14DペプチドとH5Dペプチドの両方を添加した場合には、各ペプチドの添加量が300μMであっても、細胞殺傷活性は観察されなかった。これに対して、KLAKペプチドとHLAHペプチドの融合ペプチドであるK14D-H5Dペプチド及びK7D-H18Dペプチドは、添加量依存的に相対ATP量が低下しており、細胞殺傷活性があることが示された。いずれの癌細胞に対しても、K7D-H18DペプチドよりもK14D-H5Dペプチドのほうが明らかに細胞殺傷活性は強かった。また、
図3に示すように、細胞表面にCNGB3を有していないOVCAR3-Luc細胞に対する、K14D-H5DペプチドとK14D-H5D-Z13ペプチドの細胞殺傷活性が同程度であった。すなわち、K14D-H5Dペプチドにその他のペプチドを連結させたペプチドであっても、エンドサイトーシスによる取り込みが可能な程度の大きさであれば、細胞殺傷活性を有することが確認された。
【0044】
<TUNEL染色>
300μMのK14D-H5Dペプチドで処理したA431-CNGB3-myc細胞と、ペプチド未処理のA431-CNGB3-myc細胞について、TUNEL(TdT-mediated dUTP nick end labeling)染色を行った。この結果、K14D-H5Dペプチドで処理したA431-CNGB3-myc細胞は、ほぼ全ての細胞の核が褐色に染色されており(TUNEL陽性)、かつ、ペプチド未処理のA431-CNGB3-myc細胞に比べて明らかに細胞が少なかった。これに対して、ペプチド未処理のA431-CNGB3-myc細胞では、核が褐色に染色された細胞はみつからなかった。これらの結果から、K14D-H5Dペプチドは、アポトーシスを誘導し、細胞殺傷効果を示すことが確認された。
【0045】
[実施例2]
子宮内膜症モデルマウスに、実施例1で用いたK14D-H5Dペプチドを投与し、子宮内膜細胞に対する細胞殺傷活性を調べた。
【0046】
<ペプチドの腹腔内への単回投与>
A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから7日後の子宮内膜症モデルマウスに対して、イソフルラン麻酔下で、腹腔内に、37℃に温めた生理的食塩液0.5mLを入れてマッサージした直後に、K14D-H5Dペプチドを生理食塩水に溶解させた溶液を腹腔内投与した。K14D-H5Dペプチドは、マウスの体重当たりの投与量が0mg/10mL/kg(対照)(n=7)、5mg/10mL/kg(n=8)、又は10mg/10mL/kg(n=8)となるように投与した。
【0047】
<腹膜の採取(採材)>
K14D-H5Dペプチドを投与した子宮内膜症モデルマウスは、ペプチド投与から24時間後に、イソフルラン麻酔下で放血死させ、腹膜を採取した。ATP測定用腹膜は、液体窒素で凍結後、測定までディープフリーザで保管した。病理標本作製用腹膜は、10%中性緩衝ホルマリンに浸漬して固定した後、冷蔵で保管した。
【0048】
<体重の測定>
各マウスは、A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから7日後のK14D-H5Dペプチド投与前と放血死させる前に、体重を測定した。
【0049】
K14D-H5Dペプチドのマウスの体重当たりの投与量が0mg/10mL/kgであるマウス群をG1群、5mg/10mL/kgであるマウス群をG2群、10mg/10mL/kgであるマウス群をG3群とした。各群の測定結果(平均値±標準誤差)を表2に示す。表中、「体重」欄の「7日目」は、A431-CNGB3-myc細胞を腹腔内に移植してから7日後のK14D-H5Dペプチド投与前の体重であり、「8日目」は、K14D-H5Dペプチド投与後24時間後の体重である。
【0050】
【0051】
表2に示す通り、K14D-H5Dペプチドの投与量依存的に若干体重が低減する傾向が観察されたが、この低減量は小さかった。この結果から、K14D-H5Dペプチドの正常細胞への影響は小さく、当該ペプチドが比較的安全に動物に投与できることが示唆された。
【0052】
<ATP量測定>
ATP量測定は、CellTiter-Glo(登録商標)アッセイキット(プロメガ社製)を用いて行った。凍結した腹膜の重量を測定し、凍結組織の10倍量のCellTiter-Glo bufferを加えてホモジナイズした後、遠心により上清を回収し、これをライセートとした。このライセートに2倍量のPBS及びライセートと同量の2×CellTiterGlo Reagentを加えて撹拌したものを反応溶液とし、この反応溶液を10分間室温で静置した。室温静置後の反応溶液の発光強度(RLU)を、Synergy H1 ハイブリッドマルチモードマイクロプレートリーダー(BioTek社製)を用いて測定した。全ての試行はtriplicate(n=3)で測定し、その平均を各反応溶液の発光強度(RLU)の測定値とした。
【0053】
各群のATP量の測定結果(平均値±標準誤差)を
図4に示す。投与したK14D-H5Dペプチドの量依存的に腹膜の発光強度(RLU)が低下しており、腹膜のATP量が低下したことが確認された。腹膜のATP量の低下は、腹膜に移植されたA431-CNGB3-myc細胞の生存細胞数の減少を意味する。これらの結果から、K14D-H5Dペプチドにより、腹腔内のA431-CNGB3-myc細胞が殺傷されること、すなわち、K14D-H5Dペプチドは、生体内環境において細胞殺傷効果を発揮することが確認できた。
【0054】
[実施例3]
OVCAR3-Lucマウスに対して、実施例1で用いたK14D-H5Dペプチドを経静脈投与し、癌細胞に対する細胞殺傷活性作用を調べた。
【0055】
<ペプチドの経尾静脈投与>
OVCAR3-Luc細胞を皮下移植してから14日後のOVCAR3-Lucマウスに対して、1日1回、6日間連続して、K14D-H5Dペプチドを生理食塩水に溶解させた溶液50μLを尾静脈から投与した。K14D-H5Dペプチドは、マウスの体重当たりの投与量が0μmol/kg/day(対照)、又は1.17μmol/kg/dayとなるように投与した。
【0056】
<腫瘍組織の大きさの測定>
各マウスに対して発光イメージング検査を行い、背中の腫瘤のphoton数と腫瘍組織の大きさを経時的に測定した。
【0057】
(1)Photon数の測定
ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光機構を利用し、in vivo発光イメージング装置を用いて測定した。まず、OVCAR3-Lucマウスをイソフルラン吸入麻酔にて沈静化させた後、腹腔内に、100μLのD-ルシフェリンカリウム溶解液(D-ルシフェリンカリウム(126-05116:和光純薬工業社製)を終濃度30mg/mLとなるようにPBSに溶解させた溶液)を投与した。投与から15分後に、当該マウスをin vivo発光イメージング装置で測定し、Photon数を計測した。in vivo発光イメージング装置としては、超高感度冷却CCDカメラによる光定量化in vivoイメージング機器であるIVIS Imaging System(IVIS200:住商ファーマインターナショナル社製)を用いた。
【0058】
(2)腫瘍体積の測定
各OVCAR3-Lucマウスの背部の推定腫瘍体積(mm3)は、腫瘍の長径と短径から、下記式により求めた。なお、腫瘍の長径(mm)と短径(mm)は、ノギスを用いて測定した。
【0059】
[推定腫瘍体積(mm3)]=[長径(mm)]×[短径(mm)]×[短径(mm)]×1/2
【0060】
図5に、各マウスの背中の腫瘤のphoton数の増大率(%)の経時的変化を示し、
図6に、各マウスの背中の腫瘍体積(mm
3)の増大率(%)の経時的変化を示す。photon数の増大率及び腫瘍体積の増大率はいずれも、ペプチド溶液を投与開始日の前日の値を基準(100%)とした。図中、「treatment」は、ペプチド溶液を経静脈投与した処理期間を示す。また、両図中、エラーバーは、標準誤差(SEM)を上方片側で示している。
図5に示すように、K14D-H5Dペプチドを投与したマウスでは、photon数がほとんど増大せず、また、腫瘍体積も、ほとんど増大しなかった。これらの結果から、K14D-H5Dペプチドの投与により、生体内の腫瘍組織を殺傷することができ、当該ペプチドは抗癌剤として有用であるといえた。
【0061】
<生存率の測定>
ペプチド投与前日の測定値を比較対象とした場合のPhoton数測定による腫瘍増大が、10倍又は20倍に達した場合を安楽死条件として、各マウスの生存率の算出を行った。観察は20日間行い、生存曲線は、カプランマイヤー法により分析した。
【0062】
腫瘍増大率が10倍に達した場合を安楽死条件とした生存率の経時的変化を
図7に、腫瘍増大率が20倍に達した場合を安楽死条件とした生存率の経時的変化を
図8に、それぞれ示す。
図7及び
図8に示すように、K14D-H5Dペプチドの投与により、OVCAR3-Lucマウスの生存率が大幅に改善しており、K14D-H5Dペプチドに顕著な抗腫瘍効果が認められた。
【配列表】