(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】抗ウイルス作用を有する発泡性組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 25/16 20060101AFI20221219BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20221219BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20221219BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20221219BHJP
A01N 31/02 20060101ALI20221219BHJP
A61L 101/34 20060101ALN20221219BHJP
【FI】
A01N25/16
A01P1/00
A01N25/30
A61L2/18
A01N31/02
A61L101:34
(21)【出願番号】P 2021041272
(22)【出願日】2021-03-15
(62)【分割の表示】P 2017114648の分割
【原出願日】2017-06-09
【審査請求日】2021-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2016131957
(32)【優先日】2016-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中村 絵美
(72)【発明者】
【氏名】隈下 祐一
(72)【発明者】
【氏名】山本 将司
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-530139(JP,A)
【文献】特開2013-253091(JP,A)
【文献】特開2008-255101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを0.1~10質量%になるように、アルコール及び水を含有するpH2~5の組成物に配合して、50~90容量%のアルコール含有発泡性組成物を調製することにより、
前記pH2~5の組成物に対して発泡性維持機能を付与する方法。
【請求項2】
さらにビス-PEG-[8-20]ジメチコンを配合する、請求項1に記載する方法。
【請求項3】
前記pH2~5の組成物が、酸及びその塩からなる群より選択されるpH調整剤により、pHが調整されてなるものである、請求項1または2に記載する方法。
【請求項4】
前記pH2~5の組成物が、抗ウイルス作用を有する消毒用組成物である請求項1~3のいずれかに記載する方法。
【請求項5】
前記
アルコール含有発泡性組成物は、泡を分配する装置を有する吐出容器に収容することで実製品として調
製され、
上記分配装置が、上記吐出容器から上記組成物が分配される際に、空気と当該組成物とを混合して泡を形成するように構成された発泡部材を有するものである、請求項1~4のいずれかに記載する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス作用を有し、空気と混合することで発泡する特性を有する発泡性組成物に関する。より詳細には、本発明はアルコール含有量が高い酸性の抗ウイルス性組成物であるとともに、保存に伴う発泡性(起泡性)の低下(消失)が抑制されることで、泡立ちを安定して発現(発泡)することができる発泡性組成物に関する。当該発泡性組成物によれば、アルコール性の泡を安定して得ることができ、洗浄または消毒のために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
アルコール系手指消毒剤による手指衛生は、手指を介した医療関連感染を防止するための重要な手段であるが、ノロウイルスのようにエンベロープを持たないウイルス(ノンエンベロープウイルス)に対する効果は必ずしも十分ではない(非特許文献1-3)。
【0003】
近年、アルコール溶液のpHを酸性あるいはアルカリ性領域に調整するとノンエンベロープウイルスに対する不活化効果が高まることが報告されており(非特許文献4-6)、この知見を応用し、ノンエンベロープウイルスに対しても有効なアルコール系手指消毒薬が国内でも実用化されている。
【0004】
こうしたアルコール系手指消毒剤は、通常、アルコール水溶液(噴霧液を含む)の形態を有しており、手のひらや甲に滴下または噴霧し、両手を擦りあわせてアルコール成分を蒸発乾燥させて使用される。しかし、アルコール水溶液の場合、必要量の消毒薬を皮膚または手のひら上に取ることができなかったり、また取れた場合であっても容易に手から溢れてしまうという問題がある。このため、増粘剤を配合して増粘化(粘稠化またはゲル化)したり、発泡性を持たせてフォーム形状とする方法が提案されている。
【0005】
しかし、後者の発泡性のアルコール系消毒薬を調製する場合、消毒効果を発揮するために比較的高濃度のアルコールを配合すると発泡性が低下若しくは損なわれて、発泡しないか、若しくは発泡してもその持続性が低く、速やかに気泡が消失してしまうという問題がある(特許文献1及び2等参照)。しかもアルコール系消毒薬のpHが低いと保存期間中にその発泡性が損なわれる可能性もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】山崎謙治. アルコール系殺菌消毒剤によるウイルス不活化対策. 検査と技術, 31 (5), 430-431. (2003)
【文献】Doultree JC, Druce JD, Birch CJ, Bowden DS, Marshall JA. Inactivation of feline calicivirus, a Norwalk virus surrogate. J Hosp Infect, 41(1):51-57. (1999)
【文献】Lages, S. L. S., Ramakrishnan, M. A., and Goyal, S. M. In-vivo efficacy of hand sanitizers against feline calicivirus: a surrogate for norovirus. J. Hosp. Infect., 68, 159-163. (2008)
【文献】Kramer, A.S. et al. Virucidal activity of a new hand disinfectant with reduced ethanol content: comparison with other alcohol-based formulation. J. Hosp. Infect., 62, 98-106. (2006)
【文献】Macinga D. R., Sattar S. A., Jaykus L. A., Arbogast J. W. Improved inactivation of nonenveloped enteric viruses and their surrogates by a novel alcohol-based hand sanitizer. Appl. Environ. Microbiol., 74, 5047-5052. (2008)
【文献】隈下祐一, 原田裕, 高本一夫, 村田雄司, 古田太郎, 西尾治. ウイルス感染価測定法およびリアルタイムPCRによる遺伝子定量法を用いたネコカリシウイルスの不活化効果. 防菌防黴, 37, 871-877. (2009)
【文献】Tree JA, Adams MR, Lees DN. Disinfection of feline calicivirus (a surrogate for Norovirus) in wastewaters. J Appl Microbiol, 98(1), 155-162. (2005)
【文献】Davies JG, Babb JR, Bradley CR, Ayliffe GAJ. Preliminary study of test methods to assess the virucidal activity of skin disinfectants using poliovirus and bacteriophages. J Hosp Infect, 25, 125-131. (1993)
【文献】Wobus CE, Thackray LB, Virgin IV HW. Murine Norovirus: a Model System To Study Norovirus Biology and Pathogenesis. J Virol, 80(11), 5104-5112. (2006)
【文献】松村玲子, 中村絵美, 野口悦, 隈下祐一, 山本将司, 古田太郎. 殺ウイルス性アルコール系手指消毒剤の有効性評価. 防菌防黴, 14, 421-425. (2013)
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-524295号公報
【文献】特開2013-253091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決すべく開発されたものである。具体的には、本発明は、洗浄または消毒のために使用されるアルコール含有発泡性組成物であって、比較的長期に保存してもアルコール性の泡を安定して生成(起泡)することができることを特徴とする保存安定性に優れた発泡性組成物を提供することを目的とする。つまり、本発明は、抗ウイルス作用を有し、発泡性(起泡性)を安定に有する発泡性組成物、特にアルコールを高濃度で含む発泡性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねていたところ、アルコール濃度を50容量%、好ましくは60容量%以上とし、且つ最終組成物のpHを5以下とすることで良好な抗ウイルス作用を発揮すること、また界面活性剤として、ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを含有するシリコーンベースの界面活性剤を用いることで、比較的長期間保存してもアルコール性の泡を安定して生成することができること、つまり良好な抗ウイルス作用及び発泡性(起泡性)を有する発泡性組成物が得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0010】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0011】
(I)抗ウイルス作用を有する発泡性組成物
(I-1)(A)全組成物あたり50~90容量%の量で存在するアルコール、
(B)全組成物あたり0.1~10質量%の量でビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを含む、シリコーンベースの界面活性剤、及び
(C)全組成物を100質量%とする量で存在する水
を含み、pHが5以下、好ましくはpH2~5の範囲にある発泡性組成物。
(I-2)上記(A)成分が、炭素数1-4の低級アルコール、好ましくはエタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールからなる群より選択される少なくとも1種の低級アルコールである(I-1)に記載する発泡性組成物。
(I-3)上記(A)成分が、全組成物あたり60~90容量%、好ましくは60~85容量%、より好ましくは60~80容量%の量で存在する(I-1)または(I-2)に記載する発泡性組成物。
(I-4)上記(B)成分に含まれるビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンが、ビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコン、ビス-PEG/PPG-14/14-ジメチコン、ビス-PEG/PPG-15/5-ジメチコン、及びビス-PEG/PPG-18/6-ジメチコンからなる群より選択される少なくとも1種である(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-5)全組成物あたり0.1~5質量%、好ましくは0.1~2質量%、より好ましくは0.5~2質量%の量でビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを含む、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-6)上記(B)成分がさらにビス-PEG-[8-20]-ジメチコンを含む、(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-7)pHを調整するために、さらに酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を有する、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-8)上記酸が塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、プロピオン酸、スルファミン酸、ギ酸、グルコン酸、アスコルビン酸、フェルラ酸、コハク酸、フィチン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、マレイン酸、マロン酸、カプリル酸、アジピン酸、及びフマル酸からなる群より選択される少なくとも1種である、(I-7)に記載する発泡性組成物。
(I-9)さらに約0.01~12質量%以下の量で存在する泡安定剤を含む、(I-1)乃至(I-8)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-10)上記泡安定剤が、グリコールエーテル、グリセリン、ブチレングリコール、ベヘントリモニウムクロリド、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒプロメロース、セトリモニウムクロリド、エチルセルロース及びメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、(I-1)乃至(I-9)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-11)さらに約0.05~5質量%以下の総量で存在する、保湿剤及び/又はエモリエント剤として、アラントイン、アジピン酸ジイソブチル、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、ラノリン、ビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、グリセリルオレエート及びソルビトール、ココグルコシド、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、セチルアルコール、アミノ酸、及びアミノ酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、(I-1)乃至(I-10)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-12)上記組成物が空気と混合されるときに発泡性であり、該組成物が空気と混合されるときに該組成物及び空気の混合物が泡を形成する、(I-1)乃至(I-11)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-13)抗ウイルス作用を有する、(I-1)乃至(I-12)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-14)上記ウイルスがMS2ファージ、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス(ノロウイルス代替)、ポリオウイルス、アデノウイルス、SV40、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス(C型肝炎ウイルス代替)及びこれらのウイルスによって代替されるウイルスからなる群より選択される少なくとも1種である、(I-1)乃至(I-13)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-15)発泡性アルコール消毒用組成物である、(I-1)乃至(I-14)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-16)皮膚消毒用組成物である、(I-1)乃至(I-15)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-17)環境消毒用組成物である、(I-1)乃至(I-15)のいずれかに記載する発泡性組成物。
(I-18)泡を分配する装置を有する吐出容器に収容されている、(I-1)乃至(I-17)のいずれかに記載の発泡性組成物であって、
上記分配装置が、上記吐出容器から上記発泡性組成物が分配される際に、空気と当該発泡性組成物とを混合して泡を形成するように構成された発泡部材を有するものである、上記発泡性組成物。
(I-19)上記吐出容器がガス型吐出容器またはノンガス型吐出容器である、(I-18)に記載の発泡性組成物。
【0012】
(II)吐出容器入り発泡性組成物の製造方法
(II-1)(I-1)乃至(I-17)のいずれかの発泡性組成物を、泡を分配する装置を有する吐出容器に収容する工程を有する、吐出容器入り発泡性組成物の製造方法であって、
上記分配装置が、上記吐出容器から上記発泡性組成物が分配される際に、空気と当該発泡性組成物とを混合して泡を形成するように構成された発泡部材を有するものである、上記製造方法。
(II-2)上記吐出容器がガス型吐出容器またはノンガス型吐出容器である(II-1)に記載する製造方法。
【0013】
(III)抗ウイルス作用を有する発泡性組成物の用途
(III-1)消毒剤としての(I-1)乃至(I-18)のいずれかに記載する発泡性組成物の使用。
(III-2)皮膚を消毒するための(I-1)乃至(I-18)のいずれかに記載する発泡性組成物の使用。
(III-3)環境を消毒するための(I-1)乃至(I-18)のいずれかに記載する発泡性組成物の使用。
【0014】
(IV)発泡性組成物に対する発泡性維持機能の付与方法
(IV-1)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを0.1~10質量%になるように、アルコール及び水を含有するpH2~5の組成物に配合して、50~90容量%のアルコール含有発泡性組成物を調製することにより、当該発泡性組成物に対して発泡性維持機能を付与する方法。
(IV-2)さらにビス-PEG-[8-20]ジメチコンを配合する、(IV-1)に記載する方法。
(IV-3)前記pH2~5の組成物が、酸及びその塩からなる群より選択されるpH調整剤により、pHが調整されてなるものである、(IV-1)または(IV-2)に記載する方法。
(IV-4)前記アルコール含有発泡性組成物が、抗ウイルス作用を有する消毒用組成物である(IV-1)~(IV-3)のいずれかに記載する方法。
(IV-5)前記アルコール含有発泡性組成物は、泡を分配する装置を有する吐出容器に収容された状態で調製され、
上記分配装置が、上記吐出容器から上記発泡性組成物が分配される際に、空気と当該発泡性組成物とを混合して泡を形成するように構成された発泡部材を有するものである、(IV-1)~(IV-4)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抗ウイルス作用を有し、噴射剤などのガスを用いた加圧分配システム(エアゾール容器等のガス加圧吐出容器を含む)のみならず、ガスを用いない分配システム(非エアゾール容器などのノンガス型吐出容器を含む)を用いて、泡として分配できるアルコール含有量の高い発泡性組成物を提供することができる。特に本発明の発泡性組成物は、ノンガス型吐出容器から分配されるときでも安定した泡を生じることができ、必ずしも噴射剤を用いたガス型吐出容器の使用を必要としないが、これらを使用しても同様に発泡することができる。
【0016】
本発明の発泡性組成物は、比較的長期間に亘って保存しても発泡性(起泡性)を維持しており、空気と混合することで安定して発泡することができ、抗菌性アルコール泡として、洗浄または消毒(抗菌を含む)を目的に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(I)抗ウイルス作用を有する発泡性組成物
本発明の発泡性組成物は、下記の(A)~(C)を含有し、pHが5以下の範囲にあることを特徴とする:
(A)全組成物あたり50~90容量%の量で存在するアルコール、
(B)全組成物あたり0.1~10質量%の量でビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを含む、シリコーンベースの界面活性剤、及び
(C)全組成物を100質量%とする量で存在する水。
【0018】
以下、これらの各成分について説明する。
【0019】
(A)アルコール
本発明に用いられるアルコールは低級炭化水素鎖アルコールである。具体的には、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、及び第三ブチルアルコール等の炭素数1~6、好ましくは炭素数1~4の低級アルコールである。好ましいアルコールはエタノール、1-プロパノール及び2-プロパノールであり、より好ましくはエタノールである。これらのアルコールは1種単独で使用しても、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0020】
本発明の発泡性組成物(100容量%)において、当該アルコールは50~90容量%の範囲で存在することができる。その下限値として、抗ウイルス性という観点から好ましくは50容量%以上、より好ましくは60容量%以上を挙げることができる。また上限値は90容量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは85容量%であり、より好ましくは80容量%である。具体的な範囲として、例えば50~90容量%、60~90容量%、60~85容量%、及び60~80容量%の範囲を挙げることができる。
【0021】
(B)シリコーンベースの界面活性剤
本発明において「シリコーンベースの界面活性剤」とは、親油性鎖にシリコーン鎖 -(R2Si-O)n-(式中、Rは1価の有機基である)を含有する界面活性剤または当該界面活性剤の混合物であり、当該界面活性剤に起因して、それを含有する組成物が発泡性を有するものを指す。
【0022】
親油性鎖にシリコーン鎖を含有する界面活性剤として、ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンである。
【0023】
ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンは、シリコーン主鎖の両側に[PEG]に相当するポリエチレンオキシドの繰り返し単位を14~20個有し、さらにその両側に[PPG]に相当するポリプロピレンオキシドの繰り返し単位を5~20個有するシリコーン界面活性剤である。
【0024】
[PEG]の繰り返し数としては、上記の通り14~20の範囲であれば制限されないものの、好ましくは16~20、より好ましくは18~20、特に好ましくは20である。
【0025】
[PPG]の繰り返し数としては、上記の通り5~20の範囲であれば制限されないものの、好ましくは10~20、より好ましくは14~20、特に好ましくは20である。
【0026】
ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンとして、好ましくはビス-PEG/PPG-14/14-ジメチコン、ビス-PEG/PPG-15/5-ジメチコン、ビス-PEG/PPG-18/6-ジメチコン、及びビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコンを挙げることができる。より好ましくはビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコンである。
【0027】
これらのビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]ジメチコンは1種単独で使用されてもよいし、また任意のビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0028】
本発明の発泡性組成物(100質量%)において、当該ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンは0.1~10質量%の範囲で存在することができる。その下限値として、発泡安定性という観点から好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上を挙げることができる。またビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンの上限値は上記の通り、10質量%を限度として特に制限されないものの、好ましくは5質量%、より好ましくは2質量%である。本発明の発泡性組成物100質量%あたりのビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンの配合量は、好ましくは当該発泡性組成物に含まれるアルコールの配合割合に応じて適宜調整することができる。具体的には発泡性組成物中のアルコールの配合割合が発泡性組成物100容量%中50~60容量%である場合は、ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンは発泡性組成物100質量%中、0.1~10質量%の範囲、好ましくは1~2質量%の範囲で配合することができる。また発泡性組成物中のアルコールの配合割合が発泡性組成物100容量%中60容量%より多く90容量%以下である場合は、ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンは発泡性組成物100質量%中、0.5~10質量%の範囲、好ましくは1~2質量%の範囲で配合することができる。
【0029】
特に高い抗ウイルス作用を発揮させるためには、発泡性組成物中のアルコールの配合割合は80容量%程度(80±5容量%)であることが好ましく、この場合に当該抗ウイルス作用を損なわずに発泡安定性を発揮するためのビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンの配合量としては、発泡性組成物100質量%中、0.5~10質量%、好ましくは1~2質量%を挙げることができる。
【0030】
シリコーンベースの界面活性剤には、本発明の効果を妨げない範囲で、ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン以外のシリコーンベース界面活性剤を配合することができる。
【0031】
本発明において、ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンと組み合わせて使用することができるシリコーンベース界面活性剤として、好ましくはシリコーンポリエーテルを挙げることができる。当該シリコーンポリエーテルにはマルチペンダントのシリコーン界面活性剤及び線形二官能性のシリコーン界面活性剤が含まれるが、好ましくは線形二官能性のシリコーン界面活性剤である。かかる線形二官能性のシリコーン界面活性剤として、具体的には、ビス-PEG-[8-20]ジメチコンを例示することができる。
【0032】
ビス-PEG-[8-20]ジメチコンは、シリコーン主鎖の両側に[PEG]に相当するポリエチレンオキシドの繰り返し単位を8~20個を有するシリコーン界面活性剤である。
【0033】
[PEG]の繰り返し数としては、上記の通り8~20の範囲であれば制限されないものの、好ましくは8~12の範囲であり、より好ましくは10~12の範囲である。ビス-PEG-[8-20]ジメチコンとして、好ましくはビス-PEG-10ジメチコン、ビス-PEG-12ジメチコン、ビス-PEG-14ジメチコン、ビス-PEG-17ジメチコン、及びビス-PEG-20ジメチコン等のビス-PEG-[10-20]ジメチコンを挙げることができる。より好ましくはビス-PEG-10ジメチコン、ビス-PEG-12ジメチコン、及びビス-PEG-14-ジメチコンであり、特に好ましくはビス-PEG-12ジメチコンである。
【0034】
これらのビス-PEG-[8-20]ジメチコンは1種単独で使用されてもよいし、またビス-PEG-[8-20]ジメチコンの中から任意の2種以上を組み合わせて使用することもできる。さらに、本発明の効果を損なわないことを限度として、ビス-PEG-[8-20]ジメチコンに加えて、ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン以外の他のシリコーン界面活性剤を併用することもできる。
【0035】
ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]ジメチコンとビス-PEG-[8-20]ジメチコンとを併用する場合、ビス-PEG-[8-20]ジメチコンは本発明の発泡性組成物100質量%あたり、0.01~10質量%の範囲で存在することができる。その下限値として、好ましくは0.5質量%以上を挙げることができる。またその上限値として、好ましくは5質量%である。
【0036】
(C)水
本発明の発泡性組成物は、水を溶媒として含有する水性組成物である。
【0037】
前述する通り、本発明の発泡性組成物は、加圧容器または噴射剤を使用しない場合でも泡を生成することができるとともに、抗ウイルス作用を有し、洗浄、消毒または抗菌処理に使用される。従って、その溶媒として使用される水は、これらの効果(発泡性、抗ウイルス性)を損なうものでないことが求められる。
【0038】
具体的には、本発明で使用される水は、本発明の発泡性組成物の発泡性が損なわれないように、硬度が120 mg/L未満の水(軟水、中軟水)であることが望ましい。ここで硬度は、水中に含まれるカルシウム塩とマグネシウム塩の濃度(総硬度)を炭酸カルシウムの濃度に換算した値(mg/L)で示すことができる(アメリカ式硬度)。例えば、水中に含まれるカルシウム塩(Ca=40)及びマグネシウム塩(Mg=24.3)の量を、炭酸カルシウム(CaCO3=100)の量に換算する方法として下式を利用することができる。
【0039】
[数1]
硬度(mg/L)≒ カルシウム濃度×(100/40)+マグネシウム濃度×(100/24.3)
【0040】
水の硬度として、好ましくは100 mg/L以下を挙げることができる。
【0041】
また本発明で使用される水は浄水である。ここで浄水とは、原水(原料となる河川水や地下水)に必要な水処理操作を加えて清浄化した水をいい、好ましくは水道水として水道法および水質基準に関する省令に定められた水質基準以上の条件を満たすものを挙げることができる。具体的には、水道水、イオン交換水、精製水、アルカリイオン水、水素水、海洋深層水等を挙げることができる。好ましくは精製水またはイオン交換水である。
【0042】
水は、本発明の発泡性組成物を総量100質量%とする量で配合することができる。
【0043】
(D)発泡性組成物のpH
本発明の発泡性組成物は酸性に調整されていることを特徴とする。
【0044】
具体的には、本発明の発泡性組成物はpH5以下、好ましくはpH4以下であることが望ましい。pHの下限は制限されないものの、通常pH1以上、好ましくはpH2以上、より好ましくはpH3以上である。pHの好適な範囲としてはpH1~5、より好ましくはpH2~5、より好ましくはpH4~5の範囲を挙げることができる。
【0045】
本発明の発泡性組成物を上記pHに調整する方法としては、通常、pH調整剤の添加を挙げることができる。ここでpH調整剤として、酸及び/またはその塩を挙げることができる。具体的には、酸として、塩酸、硫酸、または硝酸等の無機酸;酢酸、プロピオン酸、スルファミン酸、ギ酸、グルコン酸、アスコルビン酸、フェルラ酸、コハク酸、フィチン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、マレイン酸、マロン酸、カプリル酸、アジピン酸、またはフマル酸等の有機酸を挙げることができ、これらは1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくは乳酸、グルコン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸であり、より好ましくは乳酸、クエン酸、リンゴ酸、及びリン酸等の有機酸である。
【0046】
酸塩としては、上記酸と塩を形成するものであればよく、例えばナトリウムやカリウム等のアルカリ金属塩、及びマグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類塩を挙げることができる。好ましくはナトリウム等のアルカリ金属である。
【0047】
(E)他の成分
本発明の発泡性組成物は、本発明の効果を損なわないことを限度として、他の成分を含有することができる。かかる他の成分としては、前述する界面活性剤以外の第三の界面活性剤、泡安定剤、抗菌剤、増粘剤、美容成分(例えば保湿剤、エモリエント剤など)、防腐剤、香料、顔料(着色料)、溶解助剤、錯形成剤、金属イオン封鎖剤などを制限なく例示することができる。
【0048】
第三の界面活性剤としては、フッ素化界面活性剤、アルキルグルコシド、ポリ(エトキシル化及び/又はプロポキシル化)アルコール、ポリ(エトキシル化及び/又はプロポキシル化)エステル、ポリ(エトキシル化及び/又はプロポキシル化)アルコールの誘導体、ポリ(エトキシル化及び/又はプロポキシル化)エステルの誘導体、アルキルアルコール、アルケニルアルコール、多価アルコールのエステル、多価アルコールのエーテル、多価アルコールのポリアルコキシル化誘導体のエステル、多価アルコールのポリアルコキシル化誘導体のエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルのポリアルコキシル化誘導体、ベタイン、スルホベタイン、イミダゾリン誘導体、アミノ酸誘導体、レシチン、ホスファチド、幾つかのアミンオキシド及びスルホキシド、並びにその混合物を挙げることができる。
【0049】
好ましいフッ素化界面活性剤は DEA C[8-18]パーフルオロアルキルエチルホスフェートである。別の好ましいフッ素化界面活性剤はアンモニウムC[6-16] パーフルオロアルキルエチルホスフェートである。好ましいポリエトキシル化脂肪アルコールはポリエトキシル化ステアリルアルコール(エチレンオキシド21モル)及びポリエトキシル化ステアリルアルコール(エチレンオキシド2モル)、並びにこれら二つの混合物である。
【0050】
好ましいベタインはコカミドプロピルベタインである。
【0051】
好ましいアルキルグルコシドはココグルコシドである。
【0052】
含まれ得るフルオロ界面活性剤としては、下記(a)~(c)またはそれらの混合物を挙げることができる:
(a)下式で示される両性ポリテトラフルオロエチレンアセトキシプロピルベタイン: CF3CF2(CF2CF2)nCH2CH2(OAc)CH2N+(CH3)2CH2COO- (式中、n=2~4である);
(b)下式で示されるエトキシル化非イオン性フルオロ界面活性剤:
RfCH2CH2O(CH2CH2O)xH
(式中、Rf=F(CF2CF2)y であり、x=0~約15、y=1~約7である);
(c)下式で示される陰イオン性ホスフェートフルオロ界面活性剤:
(RfCH2CH2O)xP(O)(ONH4)y
(式中、Rf=F(CF2CF2)z であり、x=1又は2、y=2又は1、x+y=3、z=1~約7である)。
【0053】
本発明において泡安定剤とは、本発明の発泡性組成物により生成される気泡の量を増加するか、又は/及び、本発明の発泡性組成物により生成された気泡の持続性を増加させるか、または経時的な減少[消失]を抑制する作用を有する添加剤を指す。泡安定剤としては、制限はされないものの、具体的には、キサンタンガム、グアーガム、寒天、アルギン酸またはその塩等の増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルキルセルロース(例えばメチルセルロース、エチルセルロース)、セルロース混合エーテル、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、メトキシヒドロキシアルキルセルロース、及びメチルヒドロキシアルキルセルロース(例えばメチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシブチルセルロース)等のセルロースエーテルを始めとするセルロース誘導体;セチルベタイン、グリコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール)、グリコールエーテル(メチルグリコール)、グリセリン、ベヘントリモニウムクロリド、セトリモニウムクロリド、グリセリルモノステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ナトリウムステアロイルラクチレート等を例示することができる。好ましくは、グリコールエーテル、グリセリン、ブチレングリコール、ベヘントリモニウムクロリド、セトリモニウムクロリド、ヒプロメロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルキルセルロース(例えばメチルセルロース、エチルセルロース)を挙げることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0054】
これら泡安定剤は任意成分である。かかる泡安定剤を配合する場合、その含有量は本発明の発泡性組成物100質量%あたり0.01~20質量%、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~3質量%の範囲を挙げることができる。
【0055】
本発明の発泡性組成物は、前述するように中に含まれる高濃度のアルコール成分が消毒作用物質(抗ウイルス作用物質、抗菌物質)として作用するため、抗菌剤は必須ではない。しかし、本発明の効果を損なわないことを限度として、抗菌剤を配合することを制限するものではない。抗菌剤として、具体的には、クロルヘキシジン塩、ヨウ素、ヨウ素の複合形態、パラクロロメタキシレノール、トリクロサン、ヘキサクロロフェン、フェノール、ベヘニルアルコール、長鎖疎水性基及び第四級基を有する界面活性剤、過酸化水素、銀、銀塩、銀酸化物、他の第四級アンモニウム塩並びにその混合物を挙げることができる。好ましくはクロルヘキシジングルコネート、ジデシルジメチルジアンモニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、及びベヘニルアルコールである。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。上記する通り、これらの抗菌剤は任意成分である。かかる抗菌剤を配合する場合、その含有量は本発明の発泡性組成物100質量%あたり0.01~5質量%、好ましくは0.05~3質量%の範囲を挙げることができる。
【0056】
本発明の発泡性組成物に使用できる保湿剤及び/又はエモリエント剤としては、アラントイン、アジピン酸ジイソブチル、ミリスチン酸イソプロピル、ラノリン、ビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリオール(例えばグリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリルオレエート、またはソルビトール)、ポリエチレングリコール、ココグルコシド、脂肪アルコール(セチルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、アルコキシル化セチルアルコール、またはパルミチルアルコール)、及びセテアレス20、デスクパンテノール、ヒアルロン酸ナトリウム、尿素、カミツレエキス等を例示することができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。なお、本発明において「エモリエント剤」という用語は、手指などの皮膚に反復使用したときに、皮膚の水分レベル、コンプライアンス、又は外観を維持又は改善できる材料を広く指す。この意味で保湿剤を包含するものでもある。これらの成分は任意成分である。かかる保湿剤及び/又はエモリエント剤を配合する場合、その含有量は本発明の発泡性組成物100質量%あたり0.01~5質量%、好ましくは0.05~3質量%の範囲を挙げることができる。
【0057】
(F)発泡性組成物
本発明の発泡性組成物の好ましい態様として、下記の発泡性組成物を例示することができる:
(a)(A)エタノール50~90容量%、(B)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン0.1~10質量%、及び(C)残部の水を含有するpH2.5~6程度、好ましくはpH2.9~4の発泡性組成物。
【0058】
上記(a)の発泡性組成物は、室温(25±5℃)条件で少なくとも4週間もの長期に亘って保管/保存した場合であっても安定して発泡性を発揮することができる。
【0059】
(b)(A)エタノール50~90容量%、(B)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン0.1~10質量%、及び(C)残部の水を含有するpH4~4.5の発泡性組成物。
【0060】
(c)(A)エタノール60~80容量%、(B)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン0.1~10質量%、及び(C)残部の水を含有するpH4~5の発泡性組成物。
【0061】
上記(b)及び(c)の発泡性組成物は、50℃の温度条件で少なくとも4週間もの長期に亘って保管/保存した場合であっても安定して発泡性を発揮することができる。これは、これらの発泡性組成物は室温(25±5℃)で保管/保存した場合に少なくとも36ヶ月間は安定して発泡性を発揮することを意味する。また(A)成分として上記エタノールに代えて1-プロパノールや2-プロパノール等の炭素数1~4の低級アルコールを使用した場合、並びに(B)成分としてビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンとビス-PEG-[8-20]ジメチコンとを併用した場合でも同様の特性を備えている。
【0062】
(d)(A)エタノール50~80容量%、(B)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン0.1~1.5質量%、及び(C)残部の水を含有するpH3~5の発泡性組成物。
上記(d)の発泡性組成物は、ファージ、特にMS2ファージに対して優れた不活化作用(抗ウイルス作用)を発揮することができる。
【0063】
(e)(A)エタノール80容量%程度、(B)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン1質量%程度、及び(C)残部の水を含有するpH4~4.5の発泡性組成物。
【0064】
上記(e)の発泡性組成物は、ポリオウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、ウシウイルス性下痢ウイルス(C型肝炎ウイルス代替)、食中毒の原因ウイルスであるノロウイルスを代表としたカリシウイルス科のウイルス(ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス)を含む種々のウイルスに対して優れた不活化作用(抗ウイルス作用)を発揮することができる。なお、ウシウイルス性下痢ウイルスはC型肝炎ウイルスの代替ウイルスとして、またネコカリシウイルスおよびマウスノロウイルスはノロウイルスの代替ウイルスとして使用されるウイルスである。従って、本発明の発泡性組成物はC型肝炎ウイルスやノロウイルスに対しても優れた不活化作用(抗ウイルス作用)を発揮することができる。
【0065】
上記のことから、(A)エタノール60~80容量%、(B)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコン0.1~10質量%、及び(C)残部の水を含有するpH4~5の発泡性組成物、好ましくは(A)エタノール80容量%、(B)ビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]ジメチコン1.5質量%、及び(C)残部の水を含有するpH4~4.5の発泡性組成物は、優れた抗ウイルス作用を有するとともに、長期保存しても発泡性(起泡性)を維持しており、空気と混合すると安定して発泡することができる。
【0066】
本発明の発泡性組成物は、上記の成分を含む水性の液体組成物(含水アルコール組成物)であり、空気と混合されることで可変長の時間持続する気泡(液体のフィルムで取り囲まれた気体のセル)の集合体を形成する特性(発泡性、起泡性)を有するものである。
【0067】
本発明の発泡性組成物において、当該発泡(起泡)は、噴射剤(例えば、炭化水素、フッ化炭素、圧縮ガス等のガス)を用いた加圧条件に限らず、噴射剤を用いない無加圧または低加圧の条件で生じさせることができる。具体的には、例えば噴射剤を含まないノンガス吐出容器に収容した発泡性組成物を当該容器から吐出させると、容器内で大気圧またはそれに類する低加圧条件で空気と混合されて気泡を生じ(発泡、起泡)、その集合体を得ることができる。但し、本発明の発泡性組成物は、泡状化液体が吐出できる限りにおいて、噴射剤を用いた加圧容器(ガス型吐出容器)の使用による吐出を制限するものではない。なお、ガス型吐出容器の代表的な容器としてエアゾール容器を挙げることができる。当該エアゾール容器は、目的の液状組成物と液化ガスあるいは圧縮ガスを、弁を持つ容器に封入し、ガスの力で加圧することによって内部の液状組成物を放出させる構造にした容器であり、本発明では内部の液状組成物が発泡性組成物であるため、泡状になって容器から吐出される。
【0068】
一方、ノンガス型吐出容器とは、噴射剤を使用せずに、容器内の液状組成物を吐出することができる容器である。上記エアゾール容器に対して非エアゾール容器とも称される。本発明では好ましくは容器内の液状組成物を泡の状態で吐出することができる泡形成及び泡出し容器(ノンガス型の泡吐出容器)が使用される。制限されないものの、具体的にはノズル部を押し下げることによって泡を吐出できるポンプフォーマー容器、及びボトル胴部を手で圧搾することによって泡を吐出できるスクイズフォーマー容器を例示することができる。これらの容器はいずれも容器本体内に収容された液状の発泡性組成物を、容器本体内部に配設した気液混合室で空気と合流させると共に、これを所定孔径(メッシュ)を有するネット(発泡部材)を通過させて均質な泡状化液体を形成し、この泡状化液体を吐出口から吐出するようにしたものである。なお、ネット(発泡部材)は、液状の発泡性組成物を容器から注出直前で泡状にするために、例えば吐出キャップの内部などに設けることができるが、その他、ボトル胴部と吐出口との間に例えば筒状のネットホルダーを設け、その内部に1箇所(シングル)または上下両端部の2箇所(ダブル)にネット(発泡部材)を配置することもできる。
【0069】
ネットのメッシュ(孔径)は、大気圧またはそれに類する低加圧条件(ノンガス条件)で本発明の発泡性組成物について、可変長の時間持続する気泡の集合物を形成することができるものであればよく、制限されないものの、通常80~200メッシュの範囲を挙げることができる。好ましくは80~100メッシュである。またネットはシングルであってもダブルであってもよいが、ポンプ詰まりの懸念という観点から好ましくはシングルである。
【0070】
また本発明の発泡性組成物を収容するノンガス型吐出容器は、1プッシュまたは1スクイズあたり、1~1.5mLの泡状化液体(液体量に換算した容量)を吐出することができるものであることが好ましい。
【0071】
本発明の発泡性組成物は、発泡性組成物の全体量(100容量%)に対してアルコール含量を、90容量%を限度として50容量%以上、好ましくは60容量%以上有する。このため、発泡性組成物から生成されるフォーム(気泡)(液体のフィルムで取り囲まれた気体のセル)に含まれるアルコール含量も同様に90容量%を限度として50容量%以上、好ましくは60容量%以上である。これによって、他の付加的な抗菌作用を有する添加剤(抗菌剤)等なしに、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、及びC型やB型肝炎ウイルス等のエンベロープで被覆されたウイルス(エンベロープウイルス)に対して抗ウイルス活性を発揮するとともに、ノロウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、及びロタウイルス等のエンベロープで被覆されていないノンエンベロープウイルスに対しても抗ウイルス活性を発揮する(実験例4参照)。
【0072】
よって本発明の発泡性組成物から生成されるアルコール性フォームは、洗浄、特に消毒(抗菌処理、抗ウイルス処理)、殊に手指を含む皮膚や生活環境の消毒のために好適に使用することができる。
【0073】
なお、本発明の発泡性組成物の抗ウイルス活性は、欧州規格(EN:European Norm)、ドイツのDVV(German Association for the Control of Virus Diseases)&RKI (Robert Koch Institute)ガイドライン、及び米国試験・材料協会(ASTM:American Society for Testing and Materials)が規定する標準試験法を用いて評価することができる。このうち、EN 14476及びDVV & RKIガイドラインは、ノンエンベロープウイルスを対象とした定量的懸濁法であり、指定された指標ウイルスの感染価(TCID50)から能力を評価する試験法である。また、in vivo標準試験法ASTM E 1838およびASTM E 2011はそれぞれ指先、手全体に付着させたウイルスに対する不活化効果を評価する試験法であり、ASTM E 1053は環境表面でのウイルス不活化効果を評価する標準試験法である。
【0074】
本発明が対象とする発泡性組成物は、上記のいずれかの試験方法においてウイルスを減少させる作用を有するものであればよい。具体的には、例えばin vivo標準試験法ASTMの場合、対数減少値が2程度以上あればよく、好ましくは対数減少値が3程度以上、より好ましくは4程度以上である。
【0075】
また本発明の発泡性組成物は、高いアルコール含量にも拘わらず、極めて良好な発泡性(泡立ち性、起泡性)及び発泡安定性を示す。このため、当該発泡性組成物は、ノンガス型吐出容器等を用いてアルコール性フォーム(気泡の集合体)の状態に調製して使用することができ、こうすることで溶液のように滴り落ちることなく、フォームを手指等の被洗浄対象物(被消毒対象物)全体に行き渡らすことができる。つまり、本発明によれば、手指などの皮膚等の洗浄または消毒のために安定した発泡性(泡立ち性、起泡性)を有する発泡性組成物を調製し提供することができる。
【0076】
製造方法
本発明の発泡性組成物は、前述する(A)、(B)及び(C)、並びに必要に応じてその他の成分を混合して、(D)を用いてpHを5以下の所望のpHに調整することで製造することができる。また本発明の発泡性組成物は、出荷し得る(市場に流通し得る)幾つかの成分だけを含む濃縮物として最初に製造し、次いで、例えば使用時に残りの成分を用いて発泡性組成物として最終調製することができる。例えば、濃縮物は、(B)全組成物あたり0.1~10質量%の量で存在する発泡のためのビス-PEG/PPG-[14-20]/[5-20]-ジメチコンを含む、シリコーンベースの界面活性剤、及び(C)水を含むことができる。次いでこの濃縮組成物に、(A)全組成物(100容量%)あたり50~90容量%の量で存在するアルコール;及び(C)全組成物を100重量%とする量で存在する水を添加することにより、本発明の発泡性組成物として構成することができる。
【0077】
斯くして調製される本発明の発泡性組成物は、泡を分配する装置を有する吐出容器に収容することで、実際に使用される実製品として調整することができる。当該製品の製造方法としては、上記の方法で調製される本発明の発泡性組成物を泡を分配する装置を有する吐出容器に収容(充填)する方法を挙げることができる。ここで分配装置としては、吐出容器から上記発泡性組成物が分配(吐出)される際に、空気と当該発泡性組成物とを混合して泡を形成するように構成された発泡部材(所定のメッシュを有するネット等)を有するものである。容器内での発泡性組成物と空気との混合は、噴射剤(ガス)を用いて加圧された条件で行われてもよいし、また噴射剤が非存在の下で大気圧または低加圧条件下で行なわれてもよい。
【0078】
(II)本発明の発泡性組成物の用途
本発明の発泡性組成物は、前述するその発泡性及び抗ウイルス作用に基づいて、洗浄剤、特に消毒剤として使用することができる。ここで「消毒」とは、有害な微生物の生育を阻止して死滅させ、または微生物の数を減少させることを意味する。この意味で「消毒」は、「抗菌(抗ウイルス)」や「殺菌(ウイルス不活化)」を包含する意味で用いられる。特に本発明で対象とする有害な微生物には、前述するように、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス、及びC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルス等のエンベロープウイルス;並びにノロウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、及びロタウイルス等のノンエンベロープウイルスが含まれる。
【0079】
具体的には、本発明の発泡性組成物は、例えばヒトを含む動物身体の傷口、手指、身体の表面(皮膚、並びに頭部などの毛髪表面を含む)を洗浄し消毒するための洗浄剤及び/または消毒剤;血液、小便、大便、吐瀉物、唾液または痰等の付着面を洗浄し消毒するための洗浄・消毒剤;器具や食器などを洗浄し消毒するための洗浄剤及び/または消毒剤;洗濯物を消毒するための消毒剤;テーブル(机、食卓)、椅子及びソファー等の家具やドアなどの屋内設備等の環境表面を消毒するための消毒剤(生活環境用の消毒剤)として使用することができる。好ましくは皮膚消毒剤、特に手指の消毒剤として使用することができ、斯くしてノロウイルスやインフルエンザウイルス等のウイルスによる感染症の予防に効果的に使用することができる。
【0080】
なお本発明の発泡性組成物は、上記の用途に限られず、あらゆる用途に使用することができる。例えば、薬用フォーム、日焼け止めフォーム、ハンドクリームフォーム、ブラシ不要のシェービングフォーム、シャワー又は浴用フォーム、乾式髪シャンプーフォーム、メイキャップリムーバーフォーム、鎮痛性フォームマッサージ剤、整髪用フォーム及び、制汗性洗髪用フォーム、制汗性フォーム、ヘアコンディショナーフォームなどを例示することができる。
【実施例】
【0081】
以下、実験例及び実施例をもとに本発明の構成及び効果を説明する。但し、これらの実験例及び実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実験例等に何ら制限されるものではない。
【0082】
実験例1 発泡性組成物の発泡性の評価(その1)
アルコール、シリコーンベースの界面活性剤、pH調整剤及び水を含有する各種の発泡性組成物(pH 2.9~7.6)を調製し、発泡性を評価した。
【0083】
(1)被験試料の調製
表1に記載する処方に従って各成分(アルコール、シリコーンベースの界面活性剤、pH調整剤及び水)を混合して、被験試料(pH 2.9~7.6)を調製した(実施例1~25、比較例1~21、参考例1~3)。これらはいずれも調製直後、発泡性(起泡性)を有していた。次いでこれらの被験試料を保管し(室温、50℃条件)、調製直後の発泡性(起泡性)がどの程度の期間維持されているかを確認し、発泡性の安定性を評価した。
【0084】
(2)試験方法
上記で調製した被験試料を、100 mL容量のボトル(ポリプロピレン製、株式会社サンプラテック)に入れ、室温(25±5℃)及び50℃の2条件下にて保管した。各温度で保管期間中、1週間ごとにポンプフォーマー(吐出口メッシュ(シングル):90メッシュ)を用いて、表面が黒色の実験台(ヤマト科学)上に内容物(発泡性組成物)を約1秒の速度で1回吐出した。吐出した泡の状態を目視にて観察し、下記の基準に従って、起泡の有無(発泡性のあり/なし)を評価した。
【0085】
発泡性あり:泡の状態で吐出され、その泡が5秒以上保持される
発泡性なし:大部分が液体の状態で吐出される。
【0086】
上記基準に基づいて、保管期間中1週間毎の発泡性組成物の起泡の有無(発泡性)を確認し、被験試料の発泡特性(起泡特性)の安定性を下記の基準に従って評価した。
[判定]
◎:保管4週間経過後も発泡性を有していた。
○:保管3~4週間で発泡性が失われた。
△:保管2~3週間で発泡性が失われた。
▲:保管1~2週間で発泡性が失われた。
×:保管1週間未満で発泡性が失われた。
【0087】
(3)試験結果
結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1に示すように、80容量%エタノール水溶液中に、1質量%になるように、ビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコン、ビス-PEG-12ジメチコン、またはビス-PEG-10ジメチコンを配合し、pHを中性域(pH6.1-7.6)に調整した発泡性組成物(参考例1~3)は、室温で4週間静置しても、その発泡性を失うことはない。
【0090】
しかしながら、80容量%エタノール水溶液中に1質量%のビス-PEG-10ジメチコン、またはビス-PEG-12ジメチコンを配合し、pHを酸性(pH3.0~3.7)に調整した発泡性組成物(比較例1~8)を室温静置したところ、比較例1~3および8(pH3.0~3.2)は1週間以内に発泡性が失われ、比較例4~7(pH3.5~3.7)は3週間以内に発泡性が失われた。一方、80容量%エタノール水溶液中に1質量%のビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコンを配合し、酸性(pH2.9~3.7)に調整した発泡性組成物(実施例1~6)は室温静置後4週間経過しても発泡性が失われることはなかった。また、50~90容量%エタノール水溶液中に0.1~10質量%のビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコンを配合し、pHを4~5付近になるように調整した発泡性組成物(実施例7~25)については、室温だけでなく50℃の苛酷条件で保管した場合でも、4週間経過後もなお発泡性を維持していることを確認した。
【0091】
一方、50~80容量%エタノール水溶液中に0.1~1質量%のビス-PEG-12ジメチコンを配合し、pHを4~5付近になるように調整した比較例9~21の発泡性組成物については、4週間経過した時点で発砲性は低下若しくは消失していた。特に、pHを4付近に調整した比較例9~12については、50℃保管から1週間以内に発泡性が失われた。
【0092】
以上のことから、酸性の高濃度アルコール水溶液に配合するシリコーンベースの界面活性剤としてビス-PEG-12ジメチコンやビス-PEG-10ジメチコンを用いると、経時的に発泡性が低下し消失するのに対して、これらに代えてビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコンを用いると、経時的な発泡性の低下や消失が抑制され、酸性条件(pH5以下)での保存でも長期にわたって発泡性(起泡性)が維持されることが判明した。
【0093】
実験例2 発泡性組成物の発泡性の評価(その2)
シリコーンベースの界面活性剤としてビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコンとビス-PEG-12ジメチコンを含む界面活性剤を用いて調製した発泡性組成物(pH4程度)(実施例26-29);並びにアルコールとして1-プロパノールまたは2-プロパノールを用いて調製した発泡性組成物(pH4程度)(実施例30-33)について、実験例1と同様にして発泡安定性を評価した。
【0094】
(1)被験試料の調製、及び試験方法
表2に記載する処方に従って各成分(アルコール、シリコーンベースの界面活性剤、pH調整剤及び水)を混合して、被験試料(pH4程度)を調製した(実施例26~33)。これらはいずれも調製直後、発泡性(起泡性)を有していた。次いで、これらの被験試料を保管し(室温、50℃条件)、上記発泡性(起泡性)がどの程度の期間維持されるかを確認し、発泡性の安定性を評価した。
【0095】
試験方法は、実験例1に記載する方法に従って行い、また実験例1に記載する基準に従って評価した。
【0096】
(2)試験結果
結果を表2に示す。
【0097】
【0098】
表2に示すように、60~80容量%エタノール水溶液中に、0.5質量%または1質量%濃度のビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコン、並びに1質量%濃度のビス-PEG-12ジメチコンを配合し、pHを酸性(pH4)に調整した発泡性組成物(実施例26~29)は、室温及び50℃で4週間保管しても、その発泡性を失うことはなかった。
【0099】
また、アルコールとしてエタノールに代えて、1-プロパノールまたは2-プロパノールを用いてpHを酸性(pH4)に調整した発泡性組成物(実施例30~33)も、室温及び50℃で4週間保管しても、その発泡性を失うことはなかった。
【0100】
以上のことから、酸性の高濃度アルコール水溶液に配合するシリコーンベースの界面活性剤として、ビス-PEG/PPG-20/20-ジメチコンを用いると、ビス-PEG-12ジメチコン等のビス-PEG-[10-20]ジメチコンと併用した場合でも、経時的な発泡性の低下や消失が抑制され、酸性条件(pH4以下)での保存でも長期にわたって発泡性(起泡性)が維持されることが判明した。また本発明の発泡性組成物の発泡性およびその発泡安定性は、アルコールとしてエタノールだけでなく、例えば1-プロパノールや2-プロパノール等の低級アルコールを用いても同様に得られることが確認された。
【0101】
実験例3 発泡性組成物の抗ウイルス作用の評価(その1)
実験例1で調製した発泡性組成物(実施例1、2、4、6-21、23、参考例1-2)を被験試料として、そのファージ不活化効果(抗ウイルス作用)をMS2ファージを用いて評価した。
【0102】
(1)使用ファージ及びその調製
MS2ファージは、薬剤に対する抵抗性が強く、試験が比較的簡易に行えることから、各種ウイルスに対する有効性評価の代替ウイルスとしてよく用いられる(非特許文献7及び8参照)。このため、本実験ではMS2ファージを用いて、被験試料のファージ不活化効果(抗ウイルス作用)を評価した。
【0103】
[使用ファージ及び宿主菌]
Escherichia coliNBRC13965(宿主菌)、およびこれを宿主菌とするEscherichia coli phage MS2 NBRC20015(MS2ファージ)を試験に使用した。
【0104】
[宿主菌液の調製]
宿主菌をトリプトソーヤブイヨン培地(TSB培地)に植菌し、37℃で一晩振とう培養した。
【0105】
[ファージ液の調製]
宿主菌を3~4時間培養後、これにMS2ファージを加え一晩培養して宿主菌にファージを感染させた。遠心分離して得られた上清をファージ液として試験に用いた。
【0106】
(2)実験方法
被験試料0.9mLに、上記で調製したファージ液を0.1mL加え、25℃で5分間作用させた。作用後、その0.1mLを中和剤溶液(0.1mMリン酸緩衝液)0.9mLに添加して作用を停止させ、滅菌生理食塩水で段階希釈した。この希釈液0.1mLと上記で調製した宿主菌液0.1mLを、それぞれあらかじめ調製しておいた4mLの10mM硫酸マグネシウム配合トリプトソーヤブイヨン軟寒天培地(TSB培地に0.75%の寒天末を加えたもの)に加え、泡立てないように攪拌後、あらかじめ作製していたトリプトソーヤブイヨン寒天培地に重層し、固化させて37℃で一晩培養した。培養後、プラーク数(pfu /mL)を測定した(処理後のファージのプラーク数)。
【0107】
またコントロールとして、プラーク数が約108pfu/mLになるように調製したファージ液を使用した(未処理のファージのプラーク数)。
【0108】
(3)実験結果
結果を表3に示す。表3中、「対数減少値」は「(未処理のファージのプラーク数の対数値)-(処理後のファージのプラーク数の対数値)」にて算出した。
【0109】
表3に示すように、実施例1、4、15及び16は、MS2ファージを3Log以上減少(99.9%以上減少)、実施例2、6~14、17~21及び23はMS2ファージを2Log以上減少(99%以上減少)させることが確認された。エタノール濃度を40容量%にすると、酸性であってもMS2ファージの減少率(ファージ不活化効果)が低下する傾向が認められた(対数減少値0.91、減少率87.7%)。
【0110】
一方、参考例1及び2のように中性の発泡性組成物の場合は、MS2ファージは1Log以下(90%以下)しか減少せず、酸性の発泡性組成物(実施例1、2、4、6~21、23)と比較して明らかにファージ不活化効果が低かった。
【0111】
【0112】
以上のことから、MS2ファージを2Log以上減少(99%以上減少)させる高いファージ不活化効果を発揮するためには、発泡性組成物のエタノール濃度を50容量%以上、特に50~80容量%とするだけでなく、そのpHを酸性(pH5以下、好ましくはpH4以下)とする必要があることが判明した。
【0113】
実験例4 発泡性組成物の抗ウイルス作用の評価(その2)
実験例1で調製した発泡性組成物(実施例7、11、及び19)を被験試料として、それらの各種ウイルスに対する不活化作用(抗ウイルス作用)を評価した。
【0114】
(1)対象ウイルス、及びウイルス液の調製
[対象ウイルス]
ネコカリシウイルスF9株(以下、「FCV」と称する)
マウスノロウイルスS7株(以下、「MNV」と称する)
ポリオウイルス1型(以下、「ポリオ」と称する)
アデノウイルス5型(以下、「アデノ」と称する)
インフルエンザウイルスA(H1N1)型(以下、「インフルエンザ」と称する)
ウシウイルス性下痢ウイルス(以下、「BVDV」と称する)
ヘルペスウイルス1型(以下、「ヘルペス」と称する)
なお、上記ネコカリシウイルスF9株(FCV)及びマウスノロウイルスS7株(MNV)は、いずれもノロウイルスの代替ウイルスである(非特許文献2、9及び10)。またウシウイルス性下痢ウイルスはC型肝炎ウイルスの代替ウイルスである。
【0115】
[使用細胞]
FCV:CRFK細胞
MNV:RAW264細胞
ポリオ:Vero細胞
アデノ:Hela細胞
インフルエンザ:MDCK細胞
BVDV:MDBK細胞
ヘルペス:Vero細胞。
【0116】
[培養に用いる培地]
FCV、アデノおよびインフルエンザにはDulbecco’s modified Eagle’s 培地(DMEM)を用い、MNV、ポリオ、BVDVおよびヘルペスにはEagle’s minimum essential 培地(MEM)を用いた。培地に添加する血清には、FCVおよびインフルエンザには新生仔ウシ血清(NCS);MNV、ポリオ、アデノおよびヘルペスにはウシ胎児血清(FBS);並びにBVDVにはウマ血清(HS)を用いた。
【0117】
[ウイルス液の調製方法]
あらかじめ用意しておいた各細胞に、上記各種のウイルスを加え、一定期間培養後、培養液を凍結融解処理し、遠心分離にて得られた上清をウイルス液とした。
【0118】
(2)実験方法
被験試料0.9 mLにウイルス液を0.1 mL加え、20℃で1分間作用させた。作用後、10%血清配合培地で10倍希釈して反応を停止後、段階希釈した。この希釈液0.1 mLをあらかじめ細胞を培養しておいたプレートに入れ、FCV、MNV、ポリオ、アデノおよびBVDVは37℃、5%CO2の条件下で1時間、インフルエンザおよびヘルペスは34℃、5% CO2の条件下で1時間培養し、新しい培地に交換後、FCV、MNV、ポリオおよびアデノは37℃、5% CO2条件下で3~4日間、BVDVは同条件で5日間培養した。またインフルエンザ及びヘルペスは34℃、5%CO2条件下で5日間培養した。培養後、顕微鏡観察にて細胞変性効果を確認し、Behrens-Kaerber法でウイルス感染価(TCID50:培養細胞にウイルスを感染させ、その50%が感染するウイルス量を1 TCID50という)を求め、対数減少値(Log10 reduction)を算出した。
【0119】
(3)実験結果
結果を表4に示す。
【0120】
【0121】
実施例7、11及び19について、FCV(ネコカリシウイルス)、MNV(マウスノロウイルス)、ポリオウイルス、アデノウイルス、インフルエンザ、BVDV、およびヘルペスに対する有効性を評価したところ、いずれも検出限界以下でウイルスの感染が認められず、高い有効性(ウイルス不活性化)を示した。
【0122】
以上のことから、エタノール濃度60容量%以上、且つpHが酸性(pH5以下、好ましくはpH4以下)の発泡性組成物は、エンベロープウイルス、及びノンエンベロープウイルスを含む、さまざまなウイルスに対して不活化作用(抗ウイルス作用)を発揮することが確認された。