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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】歯周組織用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20221219BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20221219BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20221219BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20221219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/32
A61K35/36
A61K31/728
A61P1/02
A61P43/00 121
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022082090
(22)【出願日】2022-05-19
(62)【分割の表示】P 2021008491の分割
【原出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022103370
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020009021
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519320642
【氏名又は名称】医療法人社団サカイクリニック62
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(72)【発明者】
【氏名】坂井 万里
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118795(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/216438(WO,A1)
【文献】アイエスデンタルクリニックWebページ(wayback machine archive),2018年,https://web.archive.org/web/20180902070752/http://is-dental.jp/dental/periodontaldisease
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 31/728
A61P 1/00 - 43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結乾燥されて得られた培養上清の粉末及び架橋ヒアルロン酸ゲルを混合することを含む、歯周組織用注射製剤の製造方法であって、
前記培養上清が、脂肪組織由来間葉系間質細胞、表皮由来上皮系細胞、又は歯髄由来間葉系幹細胞の培養上清であり、
前記培養上清が、
第1培地を用いて細胞を培養する第1培養工程と、
第1培養工程の後に、第1培地と異なる第2培地を培地として、前記細胞を培養する第2培養工程と、
第2培養工程の後に、第2培地を含む培養上清を得る工程と
を含む方法によって得られ、
第1培地が、FBS含有DME培地であり、
第2培地が、HBSS-HEPESであり
第2培養工程は、CO培養を行わない、歯周組織用注射製剤の製造方法。
【請求項2】
第1培養工程において、コンフルエントとなるまで培養して得られる、請求項1に記載の歯周組織用注射製剤の製造方法。
【請求項3】
第2培地が、アミノ酸を実質的に含まない、請求項1又は2に記載の歯周組織用注射製剤の製造方法。
【請求項4】
第1培地が、FBS含有DME培地である、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯周組織用注射製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養上清を含む歯周組織用製剤及びその製剤を用いた手術方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周組織は、歯周病によって冒される。歯周病が進行すると、歯と歯肉との間に、いわゆる歯周ポケットが発生し、歯肉が退縮してくる。さらに歯周病が進行すると、歯槽骨が溶けて歯が動くようになり、最後は抜歯の必要性が生じる。また、歯周組織は、歯の矯正によっても冒される場合がある。
【0003】
歯周病等によって冒された歯周組織の再生については、従来から様々な方法が検討されてきた。例えば、骨移植術、GTR法、エナメル基質蛋白による歯周組織再生療法が、従来から行われてきた。
【0004】
近年、リグロス(商標)という歯周組織再生剤が販売されている。リグロスは、線維芽細胞増殖因子と呼ばれるたんぱくを主成分として含み、骨、筋肉、脂肪細胞等の増殖及び分化を促進することができるとされている。また、これは強力な血管新生作用があるため、歯周組織を再生させることができるとされている。しかしながら、その処置にあたっては、歯周外科手術が必要であり、また非常に高価である。
【0005】
歯肉の再生にあたっては、ヒアルロン酸の注入も行われている。ヒアルロン酸の注入は、適切な方法で行われれば歯肉の再生に効果的であるものの、患者の体調及び/又は体質によっては、効果が現れにくい場合もあり、また歯槽骨の再生には効果がなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡単な操作によって処置することができ、安全性及び歯周組織の再生性能が高い新規な歯周組織用製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
培養上清を含む、歯周組織用製剤。
《態様2》
前記培養上清が、
第1培地を用いて細胞を培養する第1培養工程と、
第1培養工程の後に、第1培地と異なる第2培地を培地として、前記細胞を培養する第2培養工程と、
第2培養工程の後に、第2培地を含む培養上清を得る工程と
を含む方法によって得られる、態様1に記載の歯周組織用製剤。
《態様3》
第1培養工程において、コンフルエントとなるまで培養して得られる、態様2に記載の歯周組織用製剤。
《態様4》
第2培地が、カルシウムイオン及び緩衝剤を含む、態様2又は3に記載の歯周組織用製剤。
《態様5》
前記緩衝剤が、グッド緩衝剤から選択される、態様4に記載の歯周組織用製剤。
《態様6》
前記グッド緩衝剤が、HEPESである、態様5に記載の歯周組織用製剤。
《態様7》
第2培地は、注射用の輸液又は点滴用の輸液である、態様2~7のいずれか一項に記載の歯周組織用製剤。
《態様8》
前記培養上清が、脂肪組織由来間葉系間質細胞、表皮由来上皮系細胞、又は歯髄由来間葉系幹細胞の培養上清である、態様1~7のいずれか一項に記載の歯周組織用製剤。
《態様9》
ヒアルロン酸をさらに含む、態様1~8のいずれか一項に記載の歯周組織用製剤。
《態様10》
前記ヒアルロン酸が、架橋ヒアルロン酸ゲルである、態様1~9のいずれか一項に記載の歯周組織用製剤。
《態様11》
培養上清を含む歯周組織用製剤の製造方法であって、
第1培地を用いて細胞を培養する第1培養工程と、
第1培養工程の後に、第1培地と異なる第2培地を培地として、前記細胞を培養する第2培養工程と、
第2培養工程の後に、第2培地を含む前記培養上清を得る工程と
を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1a図1aは、歯肉退縮が生じている患者の歯周組織の状態を示している。矢印で示す上顎前歯部の歯肉および下顎前歯部の歯肉が退縮し、ブラックトライアングルが生じている。
図1b図1bは、図1aの患者の歯肉に本発明の製剤を複数回注射した後の患者の歯肉の状態を示している。矢印で示す上顎歯肉部及び下顎歯肉部の歯肉が回復し、ブラックトライアングルが消失又は改善した。
図2a図2aは、歯槽骨欠損が生じている患者の歯周組織の状態を示している。
図2b図2bは、図2aの患者の歯槽骨に本発明の製剤を複数回注射した後の患者の歯槽骨の状態を示している。
図3a図3aは、重度歯周病によって歯槽骨欠損が生じている患者の歯周組織の状態を示している。図中の左の矢印は、欠損がみられる歯槽骨を示す。図中の右矢印は、犬歯の根尖部の骨を示す。
図3b図3bは、図3aの患者の歯槽骨に本発明の製剤を複数回注射した後の患者の歯槽骨の状態を示している。
図4a図4aは、重度歯周病によって歯周組織が破壊されている患者の歯周組織の状態を示している。図4a左図の矢印は、歯槽骨が欠損した結果生じた陥没を示す。図4a右図の矢印は、菲薄化した犬歯の根尖部の骨を示す。
図4b図4bは、図4aの患者の歯肉に本発明の製剤を複数回注射した後の患者の歯槽骨の状態を示している。図4b左図の矢印は、歯槽骨が再生し、陥没が軽減されたことを示す。図4b右図の矢印は、犬歯の根尖部の骨が再生されていることを示す。
図5a図5aは、歯肉退縮が生じている患者の歯周組織の状態を示している。矢印で示す上顎前歯部の歯肉および下顎前歯部の歯肉が退縮し、ブラックトライアングルが生じている。
図5b図5bは、図5aの患者の歯肉に、培養上清及びヒアルロン酸を含む本発明の製剤を複数回注射した後の患者の歯肉の状態を示している。矢印で示す上顎歯肉部及び下顎歯肉部の歯肉が回復し、ブラックトライアングルが消失又は改善した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の歯周組織用製剤は、培養上清を有効成分として含む。歯周組織用製剤とは、一例では歯周組織の再生用製剤を意味する。歯周組織は、歯冠部分および歯根部分を含む。本発明の歯周組織用製剤は、特に歯冠部分の歯肉および歯根部分の歯槽骨の再生用製剤に関する。一例では、歯周組織用製剤は、歯周病又は歯槽膿漏の治療用製剤であってもよい。本明細書において、培養上清とは、細胞を培養して得られる培養液であり、通常は細胞を実質的に含まない。また、本明細書において、ヒアルロン酸とは、種々の鎖長及び荷電状態の、並びに架橋を含む種々の化学的修飾を含む、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩又はヒアルロナンの全ての改変体、及びそれらの改変体の組み合わせを包含する。さらに、本明細書において、歯周組織とは、歯及びその周囲組織を含み、例えばエナメル質、象牙質、歯髄、歯肉等の歯冠部分、及びセメント質、歯槽骨、血管、神経等の歯根部分を含む。
【0010】
本発明者は、歯周病等によって冒された歯周組織が、培養上清を含む製剤によって、非常に効果的かつ容易に再生できることを見出した。すなわち、従来の再生方法では、歯周外科手術が必要であったり、処置者によって効果に差が出たり、処置者によって安全性が低くなったりするという課題があったのに対して、本発明の製剤によれば、再生をしたい歯周組織の周囲に注射をすればよいだけであり、またその再生の効果も非常に高いことが分かった。特に、歯槽骨に対しては、従来の再生方法では実質的に再生がされていなかったのに対して、本発明の製剤によれば、歯槽骨に対しても再生が可能になることが分かった。
【0011】
〈培養上清〉
上述のように、培養上清とは、細胞を培養して得られる培養液であり、通常は細胞を実質的に含まない。培養上清を得るために使用される細胞又は幹細胞は、ヒト又は非ヒト哺乳動物由来であってもよく、昆虫由来であってもよく、鳥類由来であってもよいし、植物由来であってもよい。免疫反応を生じさせない観点から、細胞は、ヒト由来の細胞が好ましく、特に間葉系又は上皮系の細胞又は幹細胞が用いられる。好ましくは、細胞は、脂肪組織由来間葉系間質細胞、表皮由来上皮系細胞、又は歯髄由来間葉系幹細胞であり、特に好ましくは、細胞は、脂肪組織由来間葉系間質細胞又は臍帯血幹細胞である。
【0012】
培養方法は、対象となる細胞に応じて適宜調整すればよい。例えば、哺乳動物由来の細胞を用いる場合、培養は、哺乳動物の細胞の培養に適する任意の条件で実施することができるが、一般的には37℃、5%COで数日間培養し、必要に応じて培地を交換すればよい。
【0013】
培地としては、特に限定されないが、例えば10~15%の自己血清又は牛胎児血清(FBS)及び抗生物質を補充したα-MEM、DMEM等を挙げることができる。ヒト又は動物由来の成分を含まない培地を用いてもよい。必要に応じて線維芽細胞増殖因子(bFGF)、アドレノメデユリン等の成長因子を培地に加えてもよい。また、培地として、第2培地として以下に挙げたものを使用することもできる。
【0014】
培養上清は、第1培地を用いて細胞を培養する第1培養工程と、第1培養工程の後に、第1培地と異なる第2培地を培地として、細胞を培養する第2培養工程と、第2培養工程の後に、第2培地を含む培養上清を得る工程とを含む方法によって得ることができる。
【0015】
第1培養工程は、公知の培養方法を適宜採用することができる。第1培養工程は、細胞を増殖させることを主な目的としており、サブコンフルエント又はコンフルエントとなるまで培養することができる。
【0016】
第1培地としては、使用する細胞を増殖させることができる培地であれば、任意の培地を使用することができる。一例として、10~15%の自己血清又は牛胎児血清(FBS)及び抗生物質を補充したα-MEM、DMEM等を挙げることができる。ヒト又は動物由来の成分を含まない培地を用いてもよい。必要に応じて線維芽細胞増殖因子(bFGF)、アドレノメデユリン等の成長因子を培地に加えてもよい。
【0017】
第1培養工程の後、細胞を回収して、適宜洗浄を行うことができる。その後、回収した細胞を、第1培地と異なる第2培地において培養する。
【0018】
第2培養工程は、CO培養器を用いず、CO培養を行わないものが好ましい。つまり、培養容器を用い、COインキュベートせずに、34~40℃の範囲で、好ましくは37℃前後で培養を行うことが好ましい。第2培養工程は、5時間以上5日以下(10時間以上2日以下、又は5時間以上3日以下)細胞を培養する工程であることが好ましい。培養は、培養される細胞に応じて接着培養でも浮遊培養でもよいし、細胞を取り除く場合は、細胞が取り除かれやすい方法で培養すればよい。
【0019】
第2培地は、第1培地として用いることができるとして挙げた培地及び他の周知の培地を用いることができ、さらにカルシウムイオン源及び/又は緩衝剤を添加して調製されていてもよい。免疫反応を生じさせない観点から、無血清培地を用いることが好ましい。第2培地は、カルシウムイオン及び緩衝剤を含み、さらにプロスタグランジンを随意に含む電解質溶液であることが好ましい。プロスタグランジンをさらに含む場合には、特に有利な効果が得られることが分かった。カルシウムイオン源としては、水溶性かつ生体許容性のカルシウム塩であれば特に限定されないが、例えば塩化カルシウムを挙げることができる。
【0020】
また、第2培地は、注射用の輸液又は点滴用の輸液を含んでいてもよい。第2培地が注射用の輸液又は点滴用の輸液を含む場合、注射用の輸液又は点滴用の輸液として製造販売されているものを適宜用いることができる。注射用の輸液の例は、糖液剤、細胞外液補充液(生理食塩液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、細胞外液補充液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液)、低張性電解質液、アミノ酸製剤(高濃度アミノ酸液、腎不全用アミノ酸液、肝不全用アミノ酸液、小児用アミノ酸液)、PPN(末梢静脈栄養輸液)、TPN(高カロリー輸液)、脂肪乳剤及び代用血漿増量剤である。これらの中では、細胞外液補充液(生理食塩液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、細胞外液補充液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液)、及び等張性電解質液が好ましい。具体的な輸液は、パレプラス(登録商標)である。これらの輸液に、上述のカルシウム源、緩衝剤、プロスタグランジン等を添加して用いてもよい。
【0021】
第2培地にカルシウムイオンが含まれる場合、カルシウムイオンは、0.045mM以上1.802mM以下が好ましく、0.074mM以上1.505mM以下でもよいし、0.045mM以上2mM以下でもよいし、0.180mM以上2mM以下でもよいし、1mM以上2mM以下でもよいし、1.3mM以上1.8mM以下でもよいし、1.2mM以上1.6mM以下でもよいし、1mM以上1.6mM以下でもよいし、0.045mM以上1.352mM以下でもよいし、0.180mM以上0.901mM以下でもよいし、20mg/l以上100mg/l以下でもよい。第2培地に含まれる塩類の例は、NaCl、KCl、及びCaClであり、1g/L以上30g/L以下含まれてもよいし、4g/L以上30g/L以下含まれてもよく、6g/L以上11g/L以下含まれてもよい。
【0022】
緩衝剤としては、MgSO・7HO、NaHPO、KHPO、NaHCO等の無機系緩衝剤を挙げることができ、またグッド緩衝剤(Good’s buffers)等の有機系緩衝剤を用いることもできる。グッド緩衝剤としては、MES、ビストリスメタン、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、コラミン塩酸、MOPS、BES、TES、HEPES、DIPSO、MOBS、アセトアミドグリシン、TAPSO、TEA、POPSO、HEPPSO、EPS、HEPPS、トリシン、Tris、グリシンアミド、グリシルグリシン、HEPBS、ビシン、TAPS、AMPB、CHES、AMP、AMPSO、CAPSO、CAPS、CABS等を挙げることができ、この中でも特にHEPES(ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸)を用いることが好ましい。これらは、他の塩(例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ピルビン酸、クエン酸、並びにその塩類など)と併せて用いられてもよい。これらの緩衝剤の含有量は、調節するpHの範囲等に応じて調整すればよく、例えば1mg/l以上5g/l以下であってもよく、2mg/l以上500mg/l以下であってもよく、10mg/l以上300mg/l以下であってもよい。
【0023】
第2培地の酸性度は、例えばpH5.5以上pH9以下であり、pH7.2以上pH7.8以下でもよい。
【0024】
第2培地は、糖質が少ないものが好ましく、糖質を実質的に含まないか又は全く含まないことが好ましく、糖質(例えばグルコース)の含有量が、1g/l以下であることが好ましく、0.8g/l以下でもよく、0.5g/l以下でもよいし、0.1g/L以上1.5g/Lでもよく、0.1g/L以上1.2g/L以下でもよいし、0.1g/L以上1g/L以下でもよいし、0.5g/L以上1.2g/L以下でもよいし、0.8g/L以上1.1g/L以下でもよい。
【0025】
第2培地は、アミノ酸が少ないか、アミノ酸を実質的に含まないか又は全く含まないことが好ましく、アミノ酸含有量が1mg/ml以下が好ましく、0.8mg/l以下が好ましく、0.5mg/l以下がさらに好ましい。
【0026】
第2培地は、ビタミン類が少ないか、ビタミン類を実質的に含まないか又は全く含まないことが好ましく、ビタミン類の含有量が1mg/ml以下が好ましく、0.8mg/l以下が好ましく、0.5mg/l以下がさらに好ましい。第2培地は、抗生物質(例えばペニシリン)、成長因子やサイトカインを含まないことが好ましい。
【0027】
第2培地は、鉄、銅、鉛といった重金属元素や、微量元素を少ししか含まないか、全く含まないことが好ましい。このような元素が少ないので、金属含有たんぱく質の合成を抑え、増殖因子の合成を促すことができる。第2培地は、ポリアミン(例えば、Putrescine 2HCl)といった発がん性物質を含まないことが好ましい。第2培地は、プリン塩基を含まないことが好ましい.第2培地がプリン塩基を含まない場合、核酸のサルベージ経路を活性化できる。
【0028】
第2培地は、ビタミンやアミノ酸を含まないか、わずかしか含まないため、オートファジーを促進して増殖因子の合成を増やすことができる。第2培地は、一般的な培養環境において、培養中の環境を一定に保つことができる(例えば、酸性度の変動を抑えることができ、培養中、緩衝能を持つので、CO培養などを行う必要がなくなる。)。
【0029】
第2培地は、通常の培地に比べ水分量が多いことが好ましい。例えば第2培地を100重量%とした場合、水分量は95重量%以上99.99重量%以下が好ましく、96重量%以上99.9重量%以下でもよく、97重量%以上99.9重量%以下でもよい。培地の水分量が多いことで浸透圧を下げることができる。すると、例えば、細胞を接着培養した場合、通常トリプシンといった動物由来の消化酵素を用いて培養容器から細胞をはがすものの、第2培地を用いると、消化酵素を用いる必要がなくなる。すると、第2培地を含む剤を患者に投与した際に、動物由来成分による感染等の副作用を軽減することができる。
【0030】
第2培地は、糖質(例えば、グルコース)、塩類(カルシウムイオン源を含み、例えばNaCl、KCl及びCaClのみからなるか主な塩類としてこれらを含むもの)、及び緩衝剤(例えばMgSO・HO、NaHPO・2HO、KHPO、NaHCO、及びグッド緩衝剤(特にHEPES)のみからなるか主な緩衝剤としてこれらを含むもの)と残部が溶媒(例えば水)のみからなるものであってもよい。このような組成であれば、後述する実施例でその有効性が確認された通り、特定の遺伝子やタンパク質を高発現するとともに、生体親和性に優れた培地かつ輸液として機能する。
【0031】
第2培地は、アミノ酸含有量が少ないことで、合成分泌された増殖因子との相互作用を(主に酸化・還元)及び重合反応が回避され、成分の変質を防げるとともに、混入するアミノ酸による吸湿と変質を防げることができる。また、第2培地は、アミノ酸含有量が少ないことで、化粧品原料とした時に細菌の繁殖リスクが軽減されるため、防腐剤・酸化防止剤を添加しなくても、製品の安定性が担保できる。第2培地が、アミノ酸を含まない場合、患部に使うための脱アミノ酸工程が不要となり、患部に常在する細菌などの増殖のための栄養とはならない。このことは、創傷面に利用した際に、悪臭の原因とならないことを意味する。また、製剤化した後に、第2培地を含む剤を注射等によって投与した際の味覚障害、体臭の原因にならないので、医薬として用いる際に利便性が高い。第2培地が、アミノ酸を含まない場合、脱塩が行いやすい。そのため、細胞を大量培養した際に簡便に凍結乾燥化による高濃度増殖因子乾燥物を得ることができる。通常の培地の場合、どのような場合でも48~72時間で培地を交換しなければならない。第2培地がアミノ酸含有培地ではない場合、培養細胞の代謝活性を抑えることで、4℃冷所に保管しておけば長期間(例えば7日間程度)生存環境を維持でき、その後に培地に交換することで細胞を再び増殖できる。第2培地は、カルシウムイオン及び緩衝剤を含む培地であることが好ましく、好ましくはシンプルな組成を有するものであるため、汎用性が高く全ての動物細胞(ES細胞、iPS細胞・幹細胞含む)及び植物細胞(特に植物のカルス培養や、植物幹細胞の維持)に適用できる。
【0032】
第2培地を含む培養上清を得る工程は、第2培養工程の後に行われる。この工程は、さらにトレハロースを添加する工程を含むことが好ましい。培養上清を含む製剤は、第2培養工程後の第2培地を50重量%以上100重量%以下含むことが好ましい。培養上清を含む製剤は、第2培養工程後の第2培地(培養上清を含む)を60重量%以上100重量%以下含んでもよいし、70重量%以上99重量%以下、70重量%以上90重量%以下、80重量%以上99重量%以下、90重量%以上100重量%以下、90重量%以上95重量%以下含むことが好ましい。通常、幹細胞などの培養上清は、通常、遠心分離により培養上清を固液分離して得られる上清成分を用いる。この明細書に記載される方法は、第2培地を積極的に製剤に含めることができるので、単に、第2培養工程後の培地をろ過したものを用いてもよい。
【0033】
製剤は、上記のようにして得られた培養上清を、凍結乾燥により水分を除去して得られる処理物、エバポレーター等を用いて培養上清を減圧濃縮して得られる処理物、限外ろ過膜等を用いて培養上清を濃縮して得られる処理物、又はフィルターを用いて培養上澄みを固液分離して得られる処理物、もしくは、上述のような処理をする前の培養上清の原液であってもよい。また、例えば、細胞を培養した上澄みを、遠心分離(例えば、1、000×g、10分)した後、硫安(例えば、65%飽和硫安)で分画し、沈殿物を適切な緩衝液で懸濁した後に透析処理を行い、シリンジフィルター(例えば、0.2μm)で濾過し、無菌的な培養上清を得てもよい。採取した培養上清を、そのまま用いても、また凍結保存しておき使用時に解凍して用いることもできる。また薬剤学的に許容される担体を加えて、取り扱いやすい液量、例えば0.2ml又は0.5ml等となるように滅菌容器に分注してもよい。さらに、感染性病原体リスクの対策として、培養上清をウイルスクリアランスフィルターやγ線照射により処理してもよい。
【0034】
上記の通り、第2培養工程及び培養上清を得る工程の後に、回収した培養上清を凍結する凍結工程を含んでもよい。培養上清を凍結するためには、例えば、培養上清を-200℃以上0℃以下にすればよく、-100℃以上-5℃以下にしてもよい。なお、培養上清を含む製剤は、第2培養工程後の細胞を破砕し、遠心分離後、フィルターを用いてろ過したものであっても、さらにろ過物を凍結・乾燥したものであってもよい。
【0035】
〈ヒアルロン酸〉
本発明者らは、培養上清に加えて、さらにヒアルロン酸を含む製剤が顕著な効果をもたらすことを見出した。培養上清のみの製剤では、歯槽骨に対しても効果はあるものの、その効果を実感できるようになるのに時間がかかっており、また培養上清による製剤は、高額となる傾向があるため、効果が現れる前に治療を止めてしまう患者もいたが、本発明の製剤においてヒアルロン酸を併用することによって、効果を早期に実感させることができた。効果が早期に実感できるという点は、治療を継続する上で非常に重要であり、ヒアルロン酸をさらに含む製剤は、患者にとって非常に満足度の高い製剤となった。
【0036】
理論に拘束されないが、ヒアルロン酸を用いると、ヒアルロン酸注入部分が膨潤することで、歯茎の菲薄化により生じるブラックトライアングルを解消することができる。ヒアルロン酸は、時間をかけて吸収されてしまうが、吸収後に元の位置に戻ってしまうことはない。これは、ヒアルロン酸の投与により、歯肉を膨潤させることで歯肉の細胞に伸展刺激を付与し、線維芽細胞の活性、例えばコラーゲン合成能や増殖能を高めて歯肉の再生を促すことができるからと考えられているが、かかる効果が発揮されるためには継続的な投与を必要とする。一方で、培養上清は、即効性はないものの、歯肉および歯槽骨に作用し、歯周組織の再生を促すことができ、ヒアルロン酸によって伸展された組織周辺において、培養上清の組織再生能力が効果的に発揮され、相乗的な効果が得られたと考えられる。
【0037】
用語「ヒアルロン酸」は、グルクロン酸とN‐アセチルグルコサミンから主に構成されるグリコサミノグリカンの一種である。上述のように、「ヒアルロン酸」は、種々の鎖長及び荷電状態の、並びに架橋を含む種々の化学的修飾を含む、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩又はヒアルロナンの全ての改変体、及びそれらの改変体の組み合わせを包含する。即ち、この用語はまた、種々の対イオンを有するヒアルロン酸の種々のヒアルロン酸塩、例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを包含する。また、ヒアルロン酸の種々の修飾は、酸化(例えば、-CHOHの-CHO及び/又は-COOHへの酸化);近接のヒドロキシル基の過ヨウ素酸塩酸化、場合により続く還元(例えば、-CHOの-CHOHへの還元)、又はアミンによってカップリングさせ、イミンを形成し、第2級アミンへの還元;硫酸化;脱アミド酸、場合により続く新しい酸を用いた脱アミノ化又はアミド形成;エステル化;架橋;種々の化合物による置換、例えば架橋剤又はカルボジイミド支援カップリングを用いる;ヒアルロン酸への、タンパク質、ペプチド及び活性薬剤成分などの異なる分子のカップリングを伴うもの等の用語によって包含される。修飾の他の例は、イソウレア、ヒドラジド、ブロモヤン、モノエポキシド及びモノスルホンカップリングである。
【0038】
ヒアルロン酸は、動物及び非動物源の種々の供給源から得ることができる。非動物源の供給源は酵母を含み、好ましくは細菌を含む。単一のヒアルロン酸分子の分子量は、典型的には、0.1~10MDaの範囲であるが、他の分子量も可能である。
【0039】
ある種の実施形態において、該ヒアルロン酸の濃度は、1~100mg/mlの範囲にある。いくつかの実施形態において、該ヒアルロン酸の濃度は、2~50mg/mlの範囲にある。特定の実施形態において、該ヒアルロン酸の濃度は、5~30mg/mlの範囲、又は10~30mg/mlの範囲にある。ある種の実施形態において、ヒアルロン酸は架橋される。架橋されたヒアルロン酸は、共有架橋、ヒアルロン酸鎖の物理的巻き込み、及び静電相互作用、水素結合及びファン・デル・ワールス力などの種々の相互作用によって、一緒に保持されるヒアルロン酸分子の連続的なネットワークを作製するヒアルロン酸鎖間の架橋を含む。
【0040】
ヒアルロン酸の架橋は、化学的架橋剤を用いた修飾によって達成されてもよい。化学的架橋剤は、例えば、ジビニルスルホン、マルチエポキシド及びジエポキシドからなる群から選択されてもよい。実施形態によれば、化学的架橋剤は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,2-エタンジオールジグリシジルエーテル(EDDE)及びジエポキシオクタンからなる群から選択される。好ましい実施形態によれば、化学的架橋剤は1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である。
【0041】
架橋されたヒアルロン酸製造物は、好ましくは生体適合性である。これは全くないか、またはごく軽度の免疫応答が処置された個体に生じることを暗に意味する。即ち、全くないか、ごく軽度の望ましくない局所又は全身の効果が処置された個体で発生する。
【0042】
本発明に係る架橋されたヒアルロン酸製造物は、ゲル又はヒドロゲルであってもよい。すなわち、それは、水不溶性とみなされ得るが、液体、典型的には水性液体に供された場合、ヒアルロン酸分子の架橋系を実質的に希釈することができる。
【0043】
ゲルは、重量でほとんど液体が含まれており、例えば90~99.9%の水を含むことができ、液体中の3次元の架橋ヒアルロン酸ネットワークに起因して、固体のように挙動する。その重要な液体含量により、ゲルは、構造的にフレキシブルであり、組織工学における足場として、組織増強のために非常に有用にする自然な組織と類似している。
【0044】
前述のように、架橋ヒアルロン酸ゲルを形成するヒアルロン酸の架橋は、化学架橋剤、例えばBDDE(1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルなど)による修飾によって達成することができる。ヒアルロン酸濃度及び架橋の程度は、機械的特性、例えば、ゲルの弾性係数G’及び安定性に影響を与える。
【0045】
架橋ヒアルロン酸ゲルは、しばしば、「修飾度」という点で特徴付けられる。ヒアルロン酸ゲルの修飾度は、一般的に0.1~15モル%の間の範囲である。ヒアルロン酸ゲルの修飾度は、有利には、より架橋されたヒアルロン酸ゲルと比較して2モル%以下の修飾度、例えば1.5モル%以下、例えば1.25モル%以下、例えば0.1~2モル%以下の範囲、例えば0.2~1.5モル%の範囲、例えば0.3モル~1.25モル%の範囲である。修飾度(モル%)は、HAの二糖単位を繰り返す総モル量に対して、HAに結合する架橋剤(単数又は複数)の量、即ち、結合した架橋剤(単数又は複数)のモル量を示す。修飾度は、HAがどの程度、化学架橋剤によって化学的に修飾されたかを反映している。修飾度を決定するための架橋技術及び適切な分析技術に関する反応条件はすべて、これら及び他の関連する因子を容易に調整することができる当業者に周知であり、それにより、適切な条件を与え、0.1~2%の範囲の修飾度を得て、修飾度に関する得られた製造物特徴を変更することができる。BDDE(1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル)架橋されたヒアルロン酸ゲルは、例えば、国際公開WO97/04012Aの実施例1及び2に記載された方法に従って調製されてもよい。
【0046】
好ましい実施形態では、ヒアルロン酸は、化学的架橋剤によって架橋された架橋ヒアルロン酸ゲルの形態で存在し、ここで、該ヒアルロン酸の濃度は10~30mg/mlの範囲にあり、該化学的架橋剤による修飾度は0.1~2モル%の範囲にある。
【0047】
ヒアルロン酸ゲルはまた、架橋していない、すなわち、三次元の架橋ヒアルロン酸ネットワークに結合していないヒアルロン酸の部分を含むことができる。しかしながら、好ましくは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは70重量%、最も好ましくは少なくとも80重量%のヒアルロン酸は、架橋されたヒアルロン酸ネットワークの一部を形成する。
【0048】
なお、用いるヒアルロン酸の種類は、本発明の製剤を用いる歯周組織の部位によって変えることができるが、例えば、歯肉に注射をする場合には、ヒアルロン酸ゲルの粒子が比較的小さくて柔らかいもの、例えばレスチレン・ヴィタール スキンブースターズ(登録商標)を用いることが好ましい。
【0049】
〈その他〉
本発明の歯周組織用製剤は、公知の方法を用いて製造することができ、歯周組織への注射、塗布等の公知の投与方法を用いて投与することができる。一例として、歯肉内投与又は歯槽骨内投与があげられ、この場合1か所又は複数個所に投与されうる。本発明の製剤を1投与単位として0.1mL以上3.0mL以下で投与することが好ましく、より好ましくは0.2mL以上2.0mL以下、0.3mL以上1.5mL以下、又は0.5mL以上1.2mL以下で投与される。
【0050】
製剤を液剤として用いる場合、液剤を製造する方法は、公知の方法で製造することができる。例えば、凍結乾燥した培養上清の粉末を、薬学的に許容された溶媒に混合し、滅菌された液剤用の容器に充填する。そして、その容器に随意にさらにヒアルロン酸を添加することで製造することができる。薬学的に許容された溶媒の例は、注射用水、蒸留水、生理食塩水、電解質溶液剤、若しくは培養液に準ずる組成の液剤であり、滅菌された溶媒を用いることが好ましい。滅菌された液剤用の容器の例は、アンプル、バイアル、シリンジ、及びバッグである。これら容器は、ガラス製やプラスチック製など公知の容器を用いることができる。具体的には、プラスチック製容器の例は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル・コポリマーなどの材質を用いたものである。これら容器や溶剤の滅菌法の例は、加熱法(火炎法、乾燥法、高温蒸気法、流通蒸気法、煮沸法など)、濾過法、照射法(放射線法、紫外線法、高周波法など)、ガス法、及び薬液法である。このような滅菌法は、容器の材質、溶剤の性質に応じて、当業者であれば適宜選択して用いることができる。
【0051】
一つの態様において、培養上清は培養細胞を含んでいてもよい。細胞を液剤として治療に用いる場合、移植法として静脈内注射が最も多用され得る。例として、静脈内注射の場合においては、1×10細胞/mL以上5×107細胞/mL以下で液剤として調整することが好ましく、1×10細胞/mL以上1×107細胞/mLがさらに好適である。また、ヒトにおいて静脈内注射1投与単位として調整される間葉系幹細胞剤としては、1×10細胞以上1×109細胞が好ましく、2×10細胞以上2×10細胞がさらに好適である。その他の投与ルートについては、組織へ移植可能な液量と、その液量に懸濁可能な最大の細胞数以下の範囲において、用いることができる。
【0052】
製剤を、薬学的に許容される担体又は媒体とともに調製してもよい。薬学的に許容される担体又は媒体は、例えば、安定化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、等張化剤、抗酸化剤、又は保存剤など薬学的に許容される物質があげられる。等張化剤の例は、塩化ナトリウム、及びグルコースである。緩衝剤の例は、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸、及びリン酸塩である。細胞を懸濁させるための水性媒質としては、例えば、浸透圧やpHを血液の値付近に調整し、塩類濃度等を調整した注射用の水溶液等を適宜用いればよく、例えば、酢酸リンゲル液、糖加酢酸リンゲル液等のリンゲル液その他の輸液、生理食塩水、またはブドウ糖液等を用いることができるが、これらに限定されない。例えば輸液用リンゲル液を用いる場合、これに許容量のジメチルスルホキシド(DMSO)またはヒト血清アルブミン(HSA)を添加してもよい。抗酸化剤の例は、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、及びピロ亜硫酸ナトリウムである。
【0053】
本発明の製剤は、20代~50代の女性及び男性に対して特に有効であり、特に20代~40代の女性に極めて有効であることがわかった。
【0054】
なお、本明細書は、上述のような培養上清を含む歯周組織用製剤を用いた、対象(ヒト又はヒト以外の哺乳動物)の歯周組織のための治療方法をも開示する。これを用いて治療を行う場合、注射等によって患部に投与することができる。
【0055】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例
【0056】
《製造例1~2》
〈第1培養工程〉
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞を、20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地、高グルコース)を用いノンコートの培養フラスコ(FALCON社製)で培養し、初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後、同培地でノンコート培養用12ウェルプレート(住友ベークライト社製)に播種し、コンフルエントになるまで培養した。
【0057】
コンフルエントになったことを確認した後、培地を除去し、細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
【0058】
〈第2培養工程〉
洗浄後の細胞を、製造例1ではFBS不含DME培地に置換し、製造例2では、HBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESに置換した。その後12ウェルを3ウェルずつ4つの群に分け、FBS不含DME培地を用いた製造例1では、5%CO培養器内で培養し、HBSS-HEPES培地を用いた製造例2では、5%COを使用せずに培養器内で培養した。
【0059】
〈培養上清の回収〉
製造例1及び2のそれぞれについて、置換した直後(0時間)、3時間後、6時間後、24時間後、48時間後に各ウェル内の培養上清を回収した。
【0060】
なお、FBS不含DME培地は、FBSを含まないダルベッコ改変イーグル培地である。DME培地は、グルコース、L-グルタミンといった各種成分を含む。
【0061】
HBSS(ハンクス平衡塩溶液)は、(1)等張液である炭酸水素ナトリウム溶液、(2)NaCl、KCl、MgSO・7HO、NaHPO、グルコース、及びKHPOを含む緩衝液及び(3)CaCl溶液を混合した溶液である。
【0062】
HEPESは、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸であり、緩衝剤又はpH調整剤である。
【0063】
FBS不含DME培地に含まれる糖質の量は、4.5g/L、アミノ酸(L-グルタミン酸他)の総量は1.6g/L、カルシウムイオンは1.8mMであった。
【0064】
一方、HBSS-HEPES培地(hanks-HEPES)に含まれる糖質の量は、1.0g/L、NaClは、8.0g/L、KClは、0.4g/L、CaClは、0.14g/L、MgSO・HOは、0.2g/L、NaHPO・2HOは、0.06g/L、KHPOは、0.06g/L、NaHCOは、0.35g/Lであり、また20mM HEPESpH7.4であり、アミノ酸(L-グルタミン酸他)の総量は0g/L、カルシウムイオンは1.5mMであった。
【0065】
〈遺伝子発現量の測定方法〉
上記に示したように培養上清を回収後、そのウェルにそれぞれ400マイクロリットルのRNA抽出液ISOGEN(ニッポン・ジーンNo.319-90211)を添加し、定法に従い細胞から全RNAを抽出し、エタチンメイト(ニッポン・ジーンNo.312-01791)を用いて得られた全RNAの沈殿物をヌクレアーゼフリー水に溶解させた。このうちの1.5マイクロリットルを用いてナノドロップ(サーモサイエンテフィック社)により全RNAの濃度を測定した。得られた全RNA 100ナノグラムからアイスクリプトcDNA合成キット(BIO RADNo.1708891)を用いて相補的DNAを合成し、リアルタイムPCR(QIAGEN社製ローター・ジーンQ)による各遺伝子発現量の定量に用いた。
【0066】
〈リアルタイムPCR法による遺伝子発現の定量化〉
合成したDNA、検出・定量化する遺伝子に特異的なプライマー(QuantiTect Primer Assay、QIAGEN)、及びリアルタイムPCR試薬(RotorGene SYBR Green、QIAGEN)を混合し、RotorGeneQシステム(QIAGEN社)にて、リアルタイムPCRを行い、検出・定量化する遺伝子の断片を増幅した。この際、ハウスキーピング遺伝子であるβ―Actin特異的なプライマーを同様に増幅し、その増幅曲線を指標として検出・定量化したい遺伝子の定量値を相対的に算出した。各遺伝子に特異的なプライマーとしてQIAGEN社の以下のプライマー混合液を用いた。
【0067】
ヒトβ―Actin
Hs_ACTB_1_SG カタログ番号QT00095431
ヒトFGF2
Hs_FGF2_1_SG カタログ番号QT00047579
ヒトVEGFA
Hs_VEGFA_1_SG カタログ番号QT01010184
【0068】
〈培養上清に含まれるタンパク質の定量化方法〉
回収した培養上清を0.22マイクロメートル径のフィルターに通し、タンパク質定量用のサンプルとした。サンプルのタンパク質定量にはR&D SYSTEMS社のQUANTIKINE ELISA(Human VEGF、FGF-2)キットを用い、そのプロトコールに従って、各タンパク質の定量値を得た。
【0069】
その結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
〈リアルタイムPCRの結果〉
細胞内のVEGF遺伝子の発現量は、製造例2(Hanks-HEPES培地)が多かった。また、細胞内のFGF-2遺伝子の発現量も、製造例2(Hanks-HEPES培地)が多かった。
【0072】
〈タンパク定量の結果〉
培養上清中のVEGFの量は、製造例2(Hanks-HEPES培地)が多かった。培養上清中のFGF-2の量は、製造例1(DME培地)が多かった。
【0073】
0、6、24、48時間、経時的に遺伝子の発現量、培養上清中のタンパク質の量、ともに増加傾向にあった。VEGF遺伝子の発現量、培養上清中のタンパク質の量は製造例2が多かった。FGF-2の遺伝子発現量は、製造例2が多かったが、培養上清中のタンパク質の量に関しては製造例1の方が多かった。
【0074】
《製造例3及び4》
〈第1培養工程〉
正常ヒト皮膚組織を酵素処理し抽出した表皮角化細胞を、サプリメントS7(ギブコ社製No.S0175)含有無血清細胞用培地(ギブコ社製No.MEPI500CA)を用いノンコートの培養フラスコ(FALCON社製)で培養し、初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後、同培地でノンコート培養用12ウェルプレート(住友ベークライト社製)に播種し、コンフルエントになるまで培養した。
【0075】
コンフルエントになったことを確認後、培地を除去し、細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
【0076】
〈第2培養工程〉
洗浄後の細胞を、製造例3では、サプリメント7不含無血清細胞用培地(EpiLife)に置換し、製造例4ではHBSS-HEPESpH7.4溶液に置換した。
【0077】
〈培養上清の回収〉
その後12ウェルを3ウェルずつ4つの群に分け、置換した直後(0時間)、3時間後、6時間後、24時間後に各ウェル内の培養上清を回収した。
【0078】
製造例3のサプリメント7不含無血清細胞用培地(EpiLife)に含まれる糖質の量は、1.0 g/L、アミノ酸(L-グルタミン酸他)の総量は1.5g/L、カルシウムイオンは8.4mg/Lであった。
【0079】
〈リアルタイムPCR法による遺伝子発現の定量化〉
製造例1~2に記載のように、リアルタイムPCR法による遺伝子発現の定量化及びタンパク質の定量化を行った。ただし、ヒトEGFに特異的なプライマーとしてQIAGEN社の以下のプライマー混合液を用いた。
【0080】
ヒトEGF
Hs_EGF_1_SG カタログ番号QT00051646
【0081】
結果を表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
細胞内のEGF遺伝子の発現量は、製造例3(EpiLife培地)よりも、製造例4(Hanks-HEPES培地)の方が多かった。細胞内のFGF-2遺伝子発現量も、製造例3よりも製造例4の方が多かった。細胞内のVEGF遺伝子発現量も、製造例3も製造例4の方が多かった。
【0084】
《製造例5~7》
製造例1の第1培養工程と同様に培養を行ってコンフルエントになった脂肪組織由来間質細胞の培養液を、3種類の溶液で置換し、5%COを使用しないで培養し48時間後の細胞内各mRNAの発現量を定量した。製造例5では、FBS不含DME培地に置換し、製造例6では、HBSS-HEPESpH7.4培地に置換し、製造例7では、プレプラス輸液に置換した。
【0085】
パレプラスは、パレプラス輸液を意味し、ブドウ糖、塩化ナトリウム、L-乳酸ナトリウム、塩化カルシウム水和物、硫酸マグネシウム水和物、硫酸亜鉛水和物、チアミン塩化物塩酸塩、ピリドキシン塩酸塩、シアノコバラミン、パンテノール、氷酢酸、アミノ酸、電解質、安定剤、及びpH調節剤含む。
【0086】
mRNAの発現量を定量した結果を、表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3から、製造例5のDME培地よりも、製造例6の電解質溶液培地(Hanks-HEPES及びパレプラス)の方が遺伝子の発現量は多いことが分かる。
【0089】
《製造例8~12》
製造例1の第1培養工程と同様に培養を行ってコンフルエントになった脂肪組織由来間質細胞の培養液を、以下の表4に記載の溶液で置換し、培養48時間後の細胞内各mRNAの発現量を定量した。なお、製造例8のみ、5%COを使用して培養を行った。
【0090】
KN2号は、KN2号輸液を示す。KN2号輸液は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、L-乳酸ナトリウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム水和物、リン酸二カリウム及びブドウ糖を含む。
【0091】
また、「+Ca」とは、カルシウムイオンが1.0mMとなるように塩化カルシウムが追加で添加されていることを意味している。
【0092】
【表4】
【0093】
製造例9と製造例10とを比較した場合、HEPES(pH7.4)が添加されていることによって、PHが酸性になる速度が緩やかになることで、遺伝子発現が促進されることがわかる。
【0094】
《凍結乾燥方法の例》
第二培養工程にて48時間経過後の培養上清を50mL遠沈管(住友ベークライト株式会社)に回収後、遠心分離(740G、5分間)し、その上清を、膜孔径0.2マイクロメートルの濾過フィルター(倉敷紡績株式会社)に通し、シリンジ(テルモ株式会社)に分注した。シリンジを滅菌バックに封入し、-80℃のフリーザー内で凍結させた後、凍結乾燥装置(ヤマト科学株式会社)内に移し、凍結乾燥を行った。凍結乾燥終了後、シリンジ用ルアーキャップ(テルモ株式会社)で密閉した。
【0095】
《製造例13》
製造例1と同様に脂肪組織由来間質細胞がコンフルエントになったことを確認した後、培地を除去し、細胞表面をPBSで洗浄した。
【0096】
洗浄後の細胞を、HBSS-HEPESpH7.4培地に置換した。その後12ウェルを2ウェルずつ6つの群に細胞を分けて、これらを培養器内で培養した(製造例13)。置換した直後(0時間)、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出し、リアルタイムPCRによりVEGF遺伝子の発現の相対定量を行った。
【0097】
その結果を表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
表5に示される通り、5日後まで遺伝子発現が維持されていることが明らかとなった。
【0100】
《製造例14》
製造例1と同様に脂肪組織由来間質細胞がコンフルエントになったことを確認した後、培地を除去し、細胞表面をPBSで洗浄した。
【0101】
洗浄後の細胞を、HBSS-HEPESpH6.5、HBSS-HEPESpH7.0、HBSS-HEPESpH7.4、HBSS-HEPESpH7.8、HBSS-HEPESpH9.0に置換した。置換した直後(0時間)、48時間後に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出し、リアルタイムPCRによりVEGF遺伝子の発現の相対定量を行った。
【0102】
その結果を表6に示す。
【0103】
【表6】
【0104】
表6に示されるように、HBSS-HEPESpH7.0からHBSS-HEPESpH7.8まで遺伝子発現が維持されていることが明らかとなった。
【0105】
《製造例15》
製造例1と同様に、12ウェルプレートに脂肪組織由来間質細胞を培養し、コンフルエントになったことを確認した後、培地を除去し、細胞表面をPBSで洗浄した。
洗浄後の細胞を3ウェルずつ4つの群に分け、それぞれ0ng/mL、4ng/mL、40ng/mL、400ng/mLの濃度のPGE1(プロスタンディン 丸石製薬株式会社製)を添加したHBSS-HEPESに置換し、培養器内で培養した。置換してから48時間後、各ウェルから培養上清を回収しQUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)でタンパク定量を行なった。また、培養上清回収後の各ウェルより、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出後アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを合成し、それをリアルタイムPCR(ローター・ジーンQ、QIAGEN社製)によるVEGF遺伝子発現量の相対定量に用いた。
【0106】
その結果を表7に示す。
【0107】
【表7】
【0108】
表7に示されるように、mRNAの発現量の相対定量値はPGE1の添加量に依らずほぼ同程度であった。タンパク量に関してはPGE1の添加量に応じ、増加傾向にあることが明らかとなった。このことから、培地をPGE1含有HBSS-HEPESに置換し48時間培養することで、より高濃度のVEGFを含む培養上清が得られることがわかった。
【0109】
《製造例16~18》
〈第1培養工程〉
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞(ASC)を、20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地、高グルコース)を用いて、培養フラスコT75(BD FALCON社製)で培養し、初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後、適宜希釈し、適量細胞数を同培地で培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社製)1枚に播種し、コンフルエントになるまで培養した。
【0110】
コンフルエントになった各ウェルの細胞を3ウェルずつ2つの群に分け、それぞれの培地を除去し、各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
【0111】
〈第2培養工程〉
洗浄後、製造例16にDME高グルコース培地を、製造例17に終濃度10mMHEPESpH7.4となるように調製したHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)を、製造例18には終濃度20mMHEPESpH7.4となるように調製したHBSSを添加した。
【0112】
培養器内で48時間培養した後、培養上清をそれぞれ5mL容量のチューブ(BD FALCON社製)に回収し、QUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)にてVEGFタンパク質の定量を行った。更に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出、濃縮し、アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを得た。そしてそれを用いてリアルタイムPCR(ロータージーンQ、QIAGEN社製)によりVEGF、FGF2basic、MMP1、EFNA3、BMP1、WNT5A遺伝子の各発現量の相対定量を行った。
【0113】
その結果を表8に示す。相対定量値は、ベータアクチンを内部標準としサンプル間の補正を行い、DME高グルコース培地での値を基準値として算出した。
【0114】
【表8】
【0115】
表8に示される通り、細胞内の各mRNAは、DME培地よりもHBSS-10mMHEPESpH7.4で培養した細胞内により多く発現する傾向が見られ、さらにHEPESの濃度は20mMである方がより多いことがわかった。
【0116】
《製造例19~20》
〈第1培養工程〉
製造例8~12と同様に、脂肪組織由来間質細胞(ASC)を培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社製)5枚に播種し、コンフルエントになるまで培養した(製造例19)。
【0117】
同様に、ヒト歯髄幹細胞(SHED)を6ウェルプレート5枚に播種し、コンフルエントになるまで培養した(製造例20)。
【0118】
コンフルエントになったASCとSHEDについて、各ウェルの細胞を2ウェルずつ3つの群に分け、それぞれの培地を除去し、各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
【0119】
〈第2培養工程〉
洗浄後、3つの群にHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESpH7.4をそれぞれ3mL、2mL、1mL添加し、培養器内で48時間培養した。
【0120】
その後、培養上清をそれぞれ5mL容量のチューブ(BD FALCON社製)に回収し、QUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)にてVEGFタンパク質の定量を行った。更に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出、濃縮し、アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを得た。そしてそれを用いてリアルタイムPCR(ロータージーンQ、QIAGEN社製)によりVEGF遺伝子発現量の相対定量を行った。
【0121】
その結果を表9に示す。相対定量値はベータアクチンを内部標準としサンプル間の補正を行い、通常の培地量2mLの値を基準値として算出した。
【0122】
【表9】
【0123】
細胞内のmRNAの発現量に関しては培養上清の量による変化は見られなかった。培養上清中に含まれるVEGFタンパク質の量は、培養上清の容積が多い方が少なく、培養上清の容積が少ない方がより多くなっていた。このことから、通常使用する培地の容積よりも少ない量の培地を用いることでより多くの成長因子を含む培養上清が得られることがわかった。
【0124】
《製造例21~22》
上記の凍結乾燥方法の例と同様にして、第二培養工程にて48時間経過後の培養上清を回収し、遠心分離(740G、5分間)して得られた培養上清を、無添加の群と(製造例21)、250mMトレハロース(林原社製)を加えた群(製造例22)と、の2つの群に分けた。その後、膜孔径0.2マイクロメートルの濾過フィルター(倉敷紡績株式会社)に通し、シリンジ(テルモ株式会社)に分注した。シリンジを滅菌バックに封入し、-80℃のフリーザー内で凍結させた後、凍結乾燥装置(ヤマト科学株式会社)内に移し、凍結乾燥を行った。凍結乾燥終了後、シリンジ用ルアーキャップ(テルモ株式会社)で密栓した。密栓した状態で、-80℃、4℃、25℃、の3つの温度条件でそれぞれを3週間、保管した。3週間経過後、凍結乾燥試料を注射用水(大塚製薬株式会社製)で再懸濁し、QUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)でタンパク定量を行なった。定量値は-80℃で3週間保管後の培養上清に含まれるVEGFタンパク質の定量値を基準とし、各保管温度におけるVEGFタンパク質の相対定量値を算出した。
【0125】
その結果を表10に示す。
【0126】
【表10】
【0127】
表10に示される通り、無添加の凍結乾燥培養上清では、25℃環境下での保管により、顕著なVEGFタンパク質の減少が確認できた。これは吸湿や光酸化に伴うタンパク質の分解を示唆している。一方で終濃度250mMのトレハロースを添加するとVEGFタンパク質の減少は抑制されることがわかった。
【0128】
《製造例23~24》
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞を、20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地、高グルコース)を用いて、培養フラスコ(FALCON社製)で培養し、初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後、同培地で培養フラスコT75(BD FALCON社製)5枚に播種し、コンフルエントになるまで培養した。
【0129】
コンフルエントになったことを確認した後、培地を除去し、細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
【0130】
洗浄後の細胞を、HBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESに置換し、培養器内で48時間培養した後、培養上清をそれぞれ20mL容量のシリンジ(テルモ社製)に15mLずつ回収した。回収した培養上清を凍結乾燥させた。
【0131】
20mLシリンジにて凍結乾燥させた培養上清2本をそれぞれ注射用水15mLに懸濁し、VIVASPIN20、VS2041(ザルトリウス社製)と遠心分離機KUBOTA2800(クボタ社製)を用いて0.6mLとなるまで濃縮操作を行った。
【0132】
濃縮操作後、1本について、Exosome Isolation Kit(富士フィルム和光社製)を用い、定法に従い培養上清中のExosomeを単離抽出した(製造例23)。抽出したExosome抽出液は0.1mLであった。残りの1本についてはそのまま1.5mLチューブ(エッペンドルフ社製)に保管した(製造例24)。
【0133】
濃縮操作を行い、Exosomenを単離抽出したサンプル1と、濃縮操作を行っただけの培養上清サンプル2に関し、ExosomeELISA Kit(富士フィルム和光社製)を用い、定法に従いそれらに含まれるExosomeを相対的に定量した。定量値は450nmの吸光度と650nmの吸光度の差を求め、ブランクの値で補正を行い、その吸光度の値をもとに培養上清15mLに含まれる吸光度の積算値として表した。
【0134】
Exosome定量値の結果は、製造例23及び24で、それぞれ116.94と150.06であった。
【0135】
この結果に示される通り、両者の吸光度の値の比較より、本製造方法による培養上清にはExosomeが含まれており、あえてそれを単離抽出せずとも相当量のExosomeを活用できることがわかった。
【0136】
《製造例25~26》
〈第1培養工程〉
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞(ASC)を、20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地、高グルコース)を用いて、培養フラスコT75(BD FALCON社製)で培養し、初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後、同培地で培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社製)2枚に播種し、コンフルエントになるまで培養した。
【0137】
コンフルエントになった各ウェルの細胞を3ウェルずつ2つの群に分け、それぞれの培地を除去し、各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
【0138】
〈第2培養工程〉
洗浄後、2つの群にHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESpH7.4を2mL添加し、培養器内で24時間または48時間培養した。24時間または48時間経過後、製造例25については通常通り培養上清を5mL容量のチューブ(BD FALCON社製)に回収した。製造例26に関してはセルスクレイパー(旭硝子社製)を用い、接着細胞を培養上清をと共に5mL容量のチューブに回収し、ヒスコトロン(日音医理科器械製作所社製)を用い細胞を破砕し、測定試料とした。それぞれの試料をQUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)を用い、VEGFタンパク質の定量を行った。1つ目の群(培養上清)から得られたVEGFタンパク質の定量値を基準として、細胞含有培養上清に含まれるVEGFタンパク質の相対定量値を算出した。
【0139】
その結果を表11に示す。
【0140】
【表11】
【0141】
表11において、「*(相対定量値)」は、24時間培養後の培養上清から得られたVEGFタンパク質の定量値を基準として、48時間培養後の各試料に含まれるVEGFタンパク質の相対定量値を算出したものである。表11に示される通り、 細胞含有培養上清を用いることで、より多くの増殖因子を活用できることが明らかとなった。
【0142】
《製造例27~29》
健常人皮膚組織由来表皮細胞から、常法により線維芽細胞を選択培養した。得られた初代培養を維持培養し、その4継代目を6ウェルプレート(住友ベークライト社製)5枚に播種、コンフルエントになるまで培養した。コンフルエントになった各ウェルの細胞を3ウェルずつ2つの群に分け、それぞれの培地を除去し、各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
【0143】
洗浄後、製造例27ではHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESpH7.4、各2mLで置換し、製造例28及び29には、同量のHBSS-HEPESpH7.4に製造例1及び2で示した脂肪組織幹細胞由来培養上清(ASCsup.)をそれぞれ終濃度10%、50%となるように添加した溶液で置換した。その後培養器内で3、6、24または48時間培養した。
【0144】
それぞれの時間経過後、各ウェルより、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出後アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを合成し、それをリアルタイムPCR(ローター・ジーンQ、QIAGEN社製)によるFGFbasic、VEGF遺伝子発現量の相対定量に用いた。相対定量値は、ベータアクチンを内部標準としサンプル間の補正を行い、コンフルエントになった時点での細胞の各遺伝子発現量の値を基準値として算出した。
【0145】
その結果を表12に示す。
【0146】
【表12】
【0147】
表12に示されるように、FGF-basic遺伝子に関して、ASC-sup.無添加群(製造例27)においては培地置換後24時間までは時間経過に伴い発現が増加傾向であったが、48時間後には停滞した。一方で添加群(製造例28~29)においては置換後48時間まで、時間経過とともに発現の増加が見られ、その添加量に依存し増加率は高くなった。
【0148】
VEGF遺伝子に関しては無添加群、添加群ともに置換後48時間まで、時間経過に伴い発現が増加傾向となり、ASC-sup.の添加量依存的にその増加率は顕著に高くなった。線維芽細胞に脂肪組織由来間質細胞培養上清を添加することでその細胞自体の増殖因子の発現を促進させ、組織再生に有効であることが示唆された。
【0149】
《製造例30~31》
健常人皮膚組織由来表皮細胞を常法により抽出し、6ウェルプレートに播種した。その際、EpiLife培地(製造例30)、及びEpiLife培地に製造例1で示した脂肪組織幹細胞由来培養上清を添加したもの(製造例31)の2群に分け、コンフルエントになるまで培養した。コンフルエントになったことを確認した後、常法に従い、L-DOPA染色を施し、表皮細胞に含まれる色素幹細胞の色調を定量した。定量値は画像ソフトウェアImageJを用い、L-DOPA染色を施した色素幹細胞の黒色部分の面積の割合から得た。
【0150】
結果は、オリジナルサプリメント含有EpiLife培地(製造例30)及びASC培養上清及びオリジナルサプリメント含有EpiLife培地(製造例31)で、それぞれ1884及び1174であった。
【0151】
脂肪組織幹細胞由来の培養上清を添加した培地の方が、表皮細胞中に存在する色素幹細胞のL-DOPA染色による色調の定量値が低いことから、脂肪組織幹細胞由来の培養上清には色素幹細胞の増殖、色素細胞への分化を抑える働きがあることが示唆された。
【0152】
《製造例32》
上記凍結乾燥方法の例の培養上清の凍結乾燥品を製造した。1ml分の培養上清から製造した凍結乾燥培養上清を2種類のヒアルロン酸製剤であるレスチレンリド(GALDETRAMA社製)及びベロテロ(MERZ社)1mlに融解させた。凍結乾燥培養上清は、ヒアルロン酸に融解することが明らかとなった。そのため、ヒアルロン酸を歯周組織に投与する際に、ヒアルロン酸とともに凍結乾燥培養上清を投与することができる。
【0153】
《歯周組織に対する培養上清の薬理効果》
製造例2の1ml分の培養上清から製造した凍結乾燥培養上清を、1mlの生理食塩水に溶解し、注射用の製剤とした。
【0154】
〈被験者1〉
歯科矯正後に歯肉退縮した26歳の女性に対して、3~4週間に1回の割合で3回、ヒアルロン酸の注入を通常の方法で注射によって行った。処置の際に強い痛みが生じていたものの、歯肉がある程度再生されて、被験者は満足していた。
【0155】
〈被験者2〉
図1aは、歯科矯正後に歯肉退縮した29歳の女性の歯周組織の写真である。下顎前歯部及び上顎前歯部に歯肉退縮が見られる。上顎前歯部に、歯間空隙があり、ブラックトライアングルが生じている。
【0156】
その患者の下顎前歯部及び上顎前歯部の歯肉に対して、上記の1mlの製剤を3~4週間に1回の割合で3回注射して投与した。
【0157】
図1bは、3回注射後の歯周組織の写真である。施術前と比較して、上顎前歯部の歯肉が増えて厚みが出ており、ブラックトライアングルが目立たなくなっていることが明確に分かる。下顎前歯部についても、歯肉が増えて乳頭部も厚みが出ていた。被験者は非常に満足していた。ただし、被験者は、1回目の注射後には結果を実感できず、2回目の注射後でも結果が分かりにくいと感じていた。
【0158】
〈被験者3〉
図2aは、歯周病及び歯科矯正後に歯肉退縮した28歳の女性の歯周組織の写真である。下顎前歯部及び上顎前歯部に歯肉退縮及び付着歯肉の減少が見られ、歯肉が薄くなっている。下顎前歯部では歯肉退縮による歯間乳頭部の減少、及びブラックトライアングルが生じている。
【0159】
その患者の下顎前歯部及び上顎前歯部の歯肉に対して、上記の1mlの製剤を3~4週間に1回の割合で9回注射して投与した。
【0160】
図2bは、9回注射後の歯周組織の写真である。施術前と比較して、上顎前歯部と下顎前歯部の歯肉が増えて厚みが出ていることがわかる。特に下顎前歯部は、付着歯肉が増えて乳頭部も厚みが出たことによって明らかに歯間空隙が減少し、ブラックトライアングルが目立たなくなっていることが明確に分かる。下顎前歯部についても、歯肉が増えて乳頭部も厚みが出たことで、ブラックトライアングルが小さくなった。被験者は非常に満足していた。ただし、被験者は、1回目の注射後には結果を実感できず、2回目の注射後でも結果が分かりにくいと感じていた。
【0161】
〈被験者4〉
図3aは、重度歯周病によって歯槽骨が欠損している35歳の男性の歯周組織のパノラマX線画像である。初診時には、重度の歯周病のため、歯の陥没部の凹凸も著しく見られ、また犬歯の根尖部の骨も薄くなっていた。
【0162】
その患者の歯槽骨に対して、上記の1mlの製剤を3~4週間に1回の割合で4回注射して投与した。
【0163】
図3bは、4回注射後の歯周組織のパノラマX線画像である。施術前と比較して、欠損していた陥没部に歯槽骨が増えて骨が再生していることが分かる。また、犬歯の歯の根尖部にも骨が再生されて、白く写った部分の面積が増えていることが分かる。被験者は非常に満足していた。ただし、被験者は、1回目の注射後には結果を実感できず、2回目の注射後でも結果が分かりにくいと感じていた。
【0164】
〈被験者5〉
図4aは、重度歯周病によって歯槽骨が欠損している男性の歯周組織の写真である。初診時には、重度の歯周病のため、歯の陥没部の歯肉及び犬歯の後方の歯肉が減少していた。その結果、犬歯を触るとグラグラと動く状態であった。
【0165】
その患者の歯槽骨に対して、上記の1mlの製剤を3~4週間に1回の割合で3回注射して投与した。
【0166】
図4bは、3回注射後の歯周組織の写真である。施術前と比較して、陥没部の歯肉が再生されており、また犬歯後方の歯肉の厚みが増えていた。その結果、犬歯のグラつきはかなりの程度で治まった。被験者は非常に満足していた。ただし、被験者は、1回目の注射後には結果を実感できず、2回目の注射後でも結果が分かりにくいと感じていた。
【0167】
〈被験者6〉
製造例2の1ml分の培養上清から製造した凍結乾燥培養上清を、1mlの生理食塩水に溶解し、さらにヒアルロン酸(レスチレン・ヴィタール スキンブースターズ(登録商標))を1ml混合して、注射用の製剤とした。
【0168】
図1aは、歯周病によって歯肉退縮した30歳の女性の歯周組織の写真である。下顎前歯部及び上顎前歯部に歯肉退縮が見られる。上顎前歯部に、歯間空隙があり、ブラックトライアングルが生じている。
【0169】
その患者の下顎前歯部及び上顎前歯部の歯肉に対して、上記の本発明の製剤2mlを1~2ヶ月に1回の割合で6回注射して投与した。
【0170】
図1bは、6回注射後の歯周組織の写真である。施術前と比較して、上顎前歯部の歯肉が増えて厚みが出ており、ブラックトライアングルが消失していることが明確に分かる。下顎前歯部についても、歯肉が増えて乳頭部も厚みが出ていた。被験者は非常に満足していた。6回の注射によって、このように非常に良好な結果が得れたが、被験者は、1回目及び2回目の注射後にすでに結果を実感できていた。
【0171】
〈まとめ〉
各患者の個人差もあるものの、従来技術のヒアルロン酸を用いた歯周組織の再生の効果、培養上清を含む製剤を用いた場合の歯周組織の再生効果、及び患者の満足度をまとめると、概ね以下の表13のようにまとめることができる。なお、再生性能の効果については歯科医師が判断を行った。ここで、「0」は効果なし、「1」は効果あり又はやや満足、「2」は効果高い又は満足、「3」は非常に効果が高い又は大満足を意味する。
【0172】
【表13】
【0173】
すなわち、培養上清を含む製剤を用いると、従来技術では不可能であった歯槽骨の再生が可能になり、歯肉の再生についても、従来技術よりも高い効果が得られた。また、培養上清及びヒアルロン酸を含む製剤を用いると、従来技術では不可能であった歯槽骨の再生が可能になり、歯肉の再生についても、高い効果が治療の初期のうちから得られた。このため、本発明の製剤によれば、高い再生効果が得られることに加えて、患者の満足度が非常に高く、治療を中断することなく継続的に行うことができた。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5a
図5b