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特許7195693低熱膨張係数を有するガラス組成物及びそのガラス繊維
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  • 特許-低熱膨張係数を有するガラス組成物及びそのガラス繊維 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】低熱膨張係数を有するガラス組成物及びそのガラス繊維
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/093 20060101AFI20221219BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
C03C3/093
C03C3/087
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021064176
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022088298
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2021-04-05
(31)【優先権主張番号】109142478
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520167298
【氏名又は名称】台湾玻璃工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TAIWAN GLASS INDUSTRY CORP.
【住所又は居所原語表記】11F,No.261,Sec.3,Nanjing E. Rd.,Taipei,Taiwan.
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 嘉佑
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0101338(US,A1)
【文献】特開平09-048632(JP,A)
【文献】特開平08-295530(JP,A)
【文献】特開2007-256764(JP,A)
【文献】特開2000-247683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0203583(US,A1)
【文献】特表2004-508265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱膨張係数を有するガラス組成物であって、
前記ガラス組成物の総重量において55~66wt%を占める二酸化ケイ素(SiO2)を含む、基材と、
前記ガラス組成物の総重量において10~20wt%を占める酸化アルミニウム(Al23)を含み、前記ガラス組成物の構造性強度を高めるための補強材と、
前記ガラス組成物の耐水性を高めるための、前記ガラス組成物の総重量に対して、0.1~0.5wt%の酸化カルシウム(CaO)と、
前記ガラス組成物の総重量において、3~12wt%を占める酸化マグネシウム(MgO)と、0.01~7wt%を占める酸化亜鉛(ZnO)と、0.01~6wt%を占める酸化チタン(TiO2)とを含み、前記ガラス組成物の粘度温度を低減できる、フラクシング材と、
前記ガラス組成物の総重量に対して、0より大きく15wt%以下の酸化ホウ素(B 2 3 )と、を含み、
前記酸化亜鉛(ZnO)及び前記酸化チタン(TiO2)は、前記ガラス組成物の熱膨張係数を低減することができ、
前記ガラス組成物の熱膨張係数は、2.5ppm/℃未満である、ガラス組成物。
【請求項2】
前記ガラス組成物の誘電損失を低減するために、前記ガラス組成物の総重量に対して、0より大きく2wt%以下の少なくとも一種のアルカリ金属酸化物をさらに含む、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
前記アルカリ金属酸化物は、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)および/または酸化リチウム(Li2O)を含む、請求項に記載のガラス組成物。
【請求項4】
酸化鉄(Fe23)を含む不純物材料をさらに含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記酸化鉄(Fe23)の含有量は、前記ガラス組成物の総重量に対して、0.05~0.2wt%となる、請求項に記載のガラス組成物。
【請求項6】
前記酸化マグネシウムの含有量は、前記ガラス組成物の総重量に対して、4~9wt%となる、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項7】
低熱膨張係数を有するガラス組成物であって、
前記ガラス組成物の総重量において55~66wt%を占める二酸化ケイ素(SiO2)を含む、基材と、
前記ガラス組成物の総重量において10~20wt%を占める酸化アルミニウム(Al23)を含み、前記ガラス組成物の構造性強度を高めるための補強材と、
前記ガラス組成物の耐水性を高めるための、前記ガラス組成物の総重量に対して、0.1~0.5wt%の酸化カルシウム(CaO)と、
前記ガラス組成物の総重量において、wt%を占める酸化マグネシウム(MgO)と、0.01~7wt%を占める酸化亜鉛(ZnO)と、0.01~6wt%を占める酸化チタン(TiO2)とを含み、前記ガラス組成物の粘度温度を低減できる、フラクシング材と、を含み、
前記酸化亜鉛(ZnO)及び前記酸化チタン(TiO2)は、前記ガラス組成物の熱膨張係数を低減することができ、
前記ガラス組成物の熱膨張係数は、2.5ppm/℃未満である、ガラス組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のガラス組成物で製作される、ガラス繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、特に酸化亜鉛及び酸化チタンを添加し、低熱膨張係数及び粘度温度を低減できるガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有線及び無線ネットワーク技術の進歩に伴い、多機能及び高速化高周波の電子機器(例えば、スマートフォン、タブレット、電子ゲーム機、スマートウォッチ、サーバ、真のワイヤレスヘッドセット(TWS)など)の需要が高まる中、機能の異なる様々な電子機器が開発されている。なかでも、電子機器の動作速度や周波数を向上させるためには、電気的特性の仕様を満たすために、低誘電率(LowDk)、低損失係数(LowDf)の材料を用いて回路基板(PCB)を製造する必要がある
【0003】
また、キャリアボードはチップ(IC)と回路基板とのインターフェースであるため、従来のワイヤーフレームパッケージング方式と比較して、伝送速度、性能、サイズの面で明らかに有利である。そのため、中央処理装置(CPU)、グラフィック処理装置(GPU)、携帯電話アンテナ(Antenna-in-Package、AiP)、ネットワークICなどの高速演算チップの多くは、キャリアボードをベースインタフェースとして使用する。そのため、ハイエンドプリント基板製品のICキャリアボードやボールグリッドアレイ(BallGridArray,BGA)の需要が急速に高まっており、製品の需要に対応するために、使用される材料には低熱膨張係数及び高い繊維強度が求められる上に、低誘電率(LowDk)や低損失係数(LowDf)などの電気的特性も要求されている。
【0004】
ガラス繊維は、その優れた物理的性質により、現代の産業に欠かせない素材となっており、中でも、電子グレードのガラス繊維からなる「ガラス繊維糸」は、前記製品の製造に必要な基材の一つである。一般に、ガラス材料からガラス繊維を作るには、ガラス材料を加熱炉に入れて所望の「粘度温度」に加熱し、ガラス材料を溶融させて均質なガラスペーストにした後、ブッシングボックス(Bushing)を用いてガラスペーストをガラス繊維として分離する。上記「粘度温度」とは、ガラス材料が溶融した後の粘度が10poise(ポイズ)に達する温度をいう。粘度はほとんどが対数(Log)で表されるため、理想的な溶融状態のガラスペーストの粘度温度はLog3温度とも呼ばれる。しかしながら、ガラス材料を溶融状態からガラス化する際には、気泡が発生し、ガラスの粘度が高くなるほど気泡がガラス中に多く残存し、最終的に中空繊維構造を多数有するガラス繊維となり、ガラス繊維の電気的特性に影響を与えるだけでなく、前記ガラス繊維で作製した回路基板やキャリア基板を使用不能にすることもあり得る。
【0005】
現在の従来のE-Glassの処方では、熱膨張係数が5.4ppm/℃と高く、ハイエンドのキャリアボードのニーズに対応することは難しいとされている。D-Glassは3.0ppm/℃までの良好な熱膨張係数を有しているが、D-Glassは溶融温度と粘度が非常に高く、製造が困難であり、D-Glassの配合では7μm以下のガラス繊維を製造することは不可能となるのみならず、プリント配線板へのD-Glassの適用も制限されている。また、粘度が高いために気泡の除去が難しく、ガラス生地の中に中空繊維が多く含まれているため、プリント基板用途ではD-Glassの信頼性が低いという問題がある。
【0006】
現在のプリント回路基板産業のための解決策は、二酸化ケイ素(SiO2)及び酸化アルミニウム(Al23)の高含有量を有するガラス繊維配合物、例えばT-Glassを使用することである。T-Glassは、S-Glassのガラス繊維の一種であり、これからはS-Glassと呼ぶ。このS-Glass処方では、熱膨張係数を2.8ppm/℃まで下げることができ、E-Glassよりも熱膨張係数の低い極細繊維を製造することができるが、この処方では粘度が高いという問題が残っている。このため、量産性に乏しく、大量に製造することができず、コスト高になるという問題があり、E-Glassのように広く使われることができない。また、プリント基板業界では、S-Glassをベースにさらに熱膨張係数を低減したいと希望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上を踏まえて、既存のガラス繊維にはまだ欠点があり、今後のハイエンド電子製品の厳しい要求に対応するために、より低い熱膨張係数を有し、かつ量産性に優れたガラス繊維を開発することで、上述の問題点を効果的に解決することが重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ガラス繊維の製造に用いられるガラス組成物の熱膨張係数が高いという既知の問題点に鑑み、長年の実務経験と多くの検討、試行、実験を経て本発明に係る低熱膨張係数を有するガラス組成物及びそのガラス繊維を考案した。本発明で製造されたガラス組成物は従来のS-Glass及びD-Glassガラス繊維に比べて、より優れた熱膨張係数及びより低い粘度温度を有するために、上記課題を効果的に解決することが期待されている。
【0009】
本発明の目的の1つとしては、基材、補強材、及びフラクシング材を含む、低熱膨張係数を有するガラス組成物を提供することにある。なかでも、前記基材は、ガラス組成物の総重量に対して55~66wt%の二酸化ケイ素(SiO2)を含み、前記補強材は、ガラス組成物の総重量に対して10~20wt%の酸化アルミニウム(Al23)を含み、前記補強材は、前記ガラス組成物の構造性強度を高めることができる。前記フラクシング材は、ガラス組成物の総重量に対して、酸化マグネシウム(MgO)3~12wt%と、酸化亜鉛(ZnO)0.01~7wt%と、酸化チタン(TiO)0.01~6wt%とを含む。前記フラクシング材は、前記ガラス組成物の粘度温度を低減することができるため、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化チタン(TiO2)を添加することにより、ガラス組成物の熱膨張係数を効果的に低減することができる。
【0010】
本発明による他の目的は、ガラス組成物で製造されるガラス繊維を提供することにある。
【0011】
以下、本発明の目的、技術的特徴及び効能について、よく理解できるように、図を用いて実施例を挙げて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来技術による比較例と、実施形態の実施例との試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、低熱膨張係数を有するガラス組成物及びそのガラス繊維に関する。かつ、前記ガラス組成物は、ガラス繊維の他、別のガラス製品も製造できる。特定の実施形態において、前記ガラス組成物は、少なくとも基材、フラクシング材、及び補強材で構成される。なかでも、前記基材は、二酸化ケイ素(SiO2)を含む。二酸化ケイ素は、ガラスを形成するために使用される骨格酸化物の一つであり、二酸化ケイ素の含有量が多いほど熱膨張係数(CTE)は低くなるが、それに伴い、原料をガラスに溶融させるのに必要な粘度温度が高くなる。熱膨張係数を低くするために、前記実施形態において、ガラス組成物の総重量に対して前記二酸化ケイ素は55~66wt%が含まれる。その含有量が従来のS-グラス(S-Glass)に使用される二酸化ケイ素の含有量(65wt%)よりも低いかまたは近接したものとなるが、本発明で製造されたガラス組成物は、従来のS-グラス(S-Glass)よりも優れた熱膨張係数及びより低い粘度温度を有する。
【0014】
上記を踏まえて、二酸化ケイ素の含有量が高い時、その粘度温度が高まるため、前記フラクシング材は、前記ガラス組成物が溶融する時の粘性を低減できる。前記実施形態において、前記フラクシング材は少なくとも酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化チタン(TiO2)を含む。なかでも、酸化マグネシウムは、ガラス組成物の溶融温度を下げるように機能し、その後の工程において、ガラス繊維の溶融及び成型に役立ち、失透の発生の抑制及び熱膨張係数の低減が期待できると共に、弾性率を高めることもできる。かつ、酸化マグネシウムは、アルカリ土類金属酸化物の成分の一つであり、イオン交換性能に与える影響が大きい。しかし、酸化マグネシウムの含有量が多すぎると、ガラス組成物の誘電率や損失係数が低下するだけでなく、ガラス組成物の相分離が大きくなるという弊害がある。そのため、ガラス組成物の総重量に対して、前記酸化マグネシウムの含有量は3~12wt%であってもよいが、4~9wt%が好ましい。また、少量の酸化チタン(TiO2)を添加することにより、ガラスに溶融した原料の粘度温度を低下させ、ガラス組成物の熱膨張係数を低下させ、機械的特性を向上させることができる。しかし、酸化チタンの含有量が多すぎると、ガラスの色に与える影響が大きくなるため、ガラス組成物の総重量に対して、前記酸化チタン之重量パーセントの含有量は0.01~6wt%が好ましい。さらに、少量の酸化亜鉛(ZnO)を添加するには、熱膨張係数及び溶融温度を低減し得、化学的耐久性を高めるが、含有量が高すぎると弾性率を低下させ、ガラスの特性に悪影響を及ぼすことになる。そのため、ガラス組成物の総重量に対して、前記酸化亜鉛の含有量が0.01~7wt%であることが好ましい。
【0015】
前記実施形態において、前記補強材は、前記ガラス組成物の構造性強度を高めるように機能する。前記補強材は、少なくとも酸化アルミニウム(Al23)が含まれる。また、酸化アルミニウムはガラスを形成する骨格酸化物の一つとなり、ガラス中に適量の酸化アルミニウムが存在することで、二酸化ケイ素の失透(Devitrification)の発生を抑制し、ホウケイ酸ガラスの相分離を防止し、ガラスの化学的耐久性、弾性率、硬度を向上させることができる。酸化アルミニウムは、イオン交換特性を向上させるための成分としても使用されている。しかし、酸化アルミニウム(Al23)の含有量が少ないと、ガラス組成物の耐水性や誘電率が低下するだけでなく、熱膨張係数が高くなり、耐熱衝撃性が低下し、イオン交換性能が十分に発揮されないおそれがある。一方、酸化アルミニウム(Al23)が18wt%を超えると、失透の結晶がガラス中に析出しやすくなり、伸線温度が高くなり、その後のガラス繊維製造の成形が困難になる。そのため、前記実施形態において、ガラス組成物の総重量に対して、前記酸化アルミニウム(Al23)の含有量は10~20wt%であってもよいが、13~17wt%が好ましい。
【0016】
上記を踏まえて、含有量の高い二酸化ケイ素を使用するのみで、ガラス組成物の熱膨張係数を低くすることができるが、粘度温度が高まってしまうため、生産性が悪くなり、気泡の除去が困難になる。従って、本発明では、酸化亜鉛及び酸化チタンを添加することによって、粘度温度を低減させる他、さらに低熱膨張係数を低減させることで、ガラス自体の特性を維持しながら、ガラスの性能を高めることで、ガラス繊維のその後の生産歩留まりを向上させることができる。また、本発明に係るガラス組成物は上記の材料や成分に限らず、前記ガラス組成物はさらに他の成分を含むことができる。かつ、発明者は特に、ガラス組成物における他の成分について、異なる電子製品の生産要件を満たすために誘電率と損失係数の必要な値を考慮に入れながら、ガラスの熱膨張係数を低減するために調整、研究及び実験を行った。その詳細は、以下で説明する。
【0017】
前記実施形態において、前記ガラス組成物はさらに酸化カルシウム(CaO)を含む。酸化カルシウムは、ガラス網目構造を調整するための成分であり、耐失透性を低下させることなく、その後のガラス繊維製造のための溶融温度を低下させ、他の成分よりも弾性率を高める効果がある。しかし、酸化カルシウムの含有量が多くなると(例えば、6wt%以上)、ガラス組成物の誘電率が高くなり、ガラス組成物の熱膨張係数が高くなり、イオン交換特性が低下しやすくなるため、前記実施形態において、ガラス組成物の耐水性を向上させるために、ガラス組成物の総重量に対して、前記酸化カルシウム(CaO)の含有量が5%以下であることが好ましく、0.1~0.5wt%であることがより好ましい。また、前記ガラス組成物はさらに酸化ホウ素(B23)を含む。酸化ホウ素は、熱膨張係数を小さくして原料をガラスに溶融させる温度を下げ、ガラスを安定化させて結晶化が析出しにくいようにする作用がある。しかし、酸化ホウ素の含有量が多すぎると、弾性率や耐水性が低下する。そのため、前記実施形態において、ガラスの粘度温度を下げている間、ガラスの元の特性を維持するために、ガラス組成物の総重量に対して、前記酸化ホウ素(B23)の含有量が15%以下となることが好ましい。
【0018】
また、ガラス組成物には、フラックス(Flux)としてアルカリ金属酸化物を添加してもよい。アルカリ金属酸化物を用いることで、ガラス組成物やガラス繊維の介電耗損を低減することができる。アルカリ金属酸化物としては、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)および/または酸化リチウム(Li2O)を含むことができる。なかでも、酸化ナトリウムは主なイオン交換成分であり、粘度温度を下げて、その後の工程においてガラス繊維の溶融成形を容易にし、耐失透性を向上させることができる。しかし、酸化ナトリウムの含有量が多すぎると、熱膨張係数の上昇につながる。また、酸化カリウムも、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の一つであり、圧縮応力層の応力深さを大きくする効果に優れているとともに、粘度温度を低くして、その後の工程においてガラス繊維の溶融成形を容易にする効果がある。しかし、酸化カリウムの含有量が多すぎると、熱膨張係数の上昇にもつながる。リチウム酸化物は、前述したアルカリ金属酸化物の成分と同様の効果を有し、弾性率の向上やガラス融着精製の促進にも好ましい効果を有する。なお、アルカリ金属酸化物の含有量が多いと、誘電正接が高くなり、耐水性が悪くなる。特に、酸化ナトリウムと酸化カリウムが混在すると、混合アルカリ効果(MixedAlkaliEffect)が発生し、ガラスの電気抵抗率が大幅に上昇し、熱膨張係数に影響を与えるようになる。そのため、アルカリ金属酸化物の含有量は、ガラス組成物の総重量に対して2wt%を超えないのが好ましい。また、ガラス組成物は、さらに、酸化鉄(Fe23)などの不純物材料を含有している。不純物が多すぎるとガラス組成物の誘電率や損失係数を低減することは困難であるが、不純物が少なすぎると原料コストが高くなる。そのため、製品品質に対する製造コストを考慮して、酸化鉄(Fe23)または他に不純物材料と属される成分は、ガラス組成物の総重量に対して、含有量が0.05~0.2wt%を占めることが好ましい。
【0019】
発明者は、本発明の技術全体が公知技術よりも優れていることを強調するために、以下の試験を行った。公知技術のS-GlassA1、S-GlassA2及びA3、A4バッチ(Batch)と、本発明における割合が異なるA5~A8のバッチとを、それぞれセラミックるつぼに流し込み、所定温度(1500℃~1550℃)で一定時間置いて完全に溶融させた後、ゆっくりと室温まで下げた。その後、形成されたガラスブロックをダイヤモンド切断機で長さ20mm、幅2~3mmのガラス板試料に切断し、RFインピーダンスアナライザ(RFimpedanceanalyzer)を用いて前記ガラス板試料の誘電率及び損失係数を測定し、そして、前記ガラス板試料の熱膨張係数を、ASTME831に基づく熱機械分析装置(ThermalMechanicalAnalyzer)を用いて測定し、図1に示す試験結果を得た。公知技術のS-GlassA1、S-GlassA2、A3、A4を比較例としているが、いずれの比較例も酸化亜鉛(ZnO)を含まず、一部の比較例に酸化チタン(TiO2)を含まないものを用いた。A5~A8は本発明の実施形態として、いずれも酸化亜鉛(ZnO)及び酸化チタン(TiO2)を含んでいた。図1により、本発明によるガラス組成物の熱膨張係数はいずれも、2.5ppm/℃未満であり、比較例の個々のガラス板試料よりもはるかに低く、現在ハイエンドPCB業界で使用されているS-Glassの処方よりもはるかに低い。他の値(例えば、粘度温度、誘電率、損失係数)が良好な基準に保たれているので、ガラス繊維の生産歩留まりや電気的特性をさらに向上させることができる。
【0020】
なお、前記は本発明の好ましい実施形態に過ぎなく、本発明で主張される権利の範囲はここに限定されるものではなく、本発明で開示された技術的内容に基づいて当業者が容易に想到し得る同等の変形は、本発明の保護の範囲内にあるものとする。
図1