IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-トランスアクスル 図1
  • 特許-トランスアクスル 図2
  • 特許-トランスアクスル 図3
  • 特許-トランスアクスル 図4
  • 特許-トランスアクスル 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】トランスアクスル
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20221219BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 N
F16H57/04 B
F16H57/04 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019014385
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020122519
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】西岡 斉
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-194242(JP,U)
【文献】特開2006-275164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デファレンシャルギヤをトランスミッションとともにオイルが封入されたユニットケース内に収容した構成を有するトランスアクスルであって、
前記デファレンシャルギヤは、
前記ユニットケースに回転可能に支持され、その回転軸線に沿ってドライブシャフトが挿通されるデフケースと、
前記デフケースに支持されて、前記デフケースの回転方向の全周にわたって前記デフケースに対して前記デフケースの回転径方向の外側に張り出し、前記ユニットケース内に溜まったオイルに一部が浸漬するリングギヤとを含み、
前記リングギヤは、その外周面に、前記リングギヤの回転時に回転軸線方向の一方側の端がその他方側の端よりも遅れて移動するように前記回転軸線方向に対して傾斜した斜歯を有しており、
前記ユニットケース内には、前記リングギヤに対して前記他方側に、前記ユニットケースの内面から突出して、前記リングギヤの最上部分に向けて前記回転軸線方向に延びるオイル捕捉部が設けられ、
前記オイル捕捉部は、その先端に、前記リングギヤの前記外周面および前記他方側の端面に沿うように形成された面を有ている、トランスアクスル。
【請求項2】
前記デフケースには、前記一方側および前記他方側の前記ドライブシャフトがそれぞれ挿通されるシャフト挿通部が形成され、
前記ユニットケース内には、前記オイル捕捉部よりも下方の位置に、前記他方側の前記ドライブシャフトが挿通される前記シャフト挿通部の最上部分から前記他方側に離れるほど上方に位置するように傾斜したオイル受部が設けられている、請求項1に記載のトランスアクスル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスミッション(変速機)とデファレンシャルギヤ(差動装置)とを一体的に備えるトランスアクスルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、駆動源からの動力がトランスミッション(変速機)を介してデファレンシャルギヤ(差動装置)に伝達され、その動力がデファレンシャルギヤで左右のドライブシャフトの回転に変換されて、各ドライブシャフトの回転が駆動輪に伝達される。
【0003】
図5は、従来のトランスアクスルの一部を示す斜視図である。
【0004】
デファレンシャルギヤ91は、ピニオンギヤおよびサイドギヤが収容されるデフケース92と、デフケース92に支持されて、デフケース92の外側に張り出すリングギヤ93とを備えている。デファレンシャルギヤ91は、トランスミッション94とともに、ユニットケース95内に収容されている。デフケース92は、ベアリング(図示せず)を介してユニットケース95に回転可能に支持されている。リングギヤ93は、外周面に斜歯を有しており、リングギヤ93には、トランスミッション94の出力ギヤ96が噛合している。
【0005】
ユニットケース95内には、オイルが封入されており、リングギヤ93の一部は、ユニットケース95内に溜まったオイルに浸漬している。リングギヤ93に動力が伝達されると、デフケース92がリングギヤ93と一体に回転し、ユニットケース95内に溜まったオイルがリングギヤ93のギヤ歯によって掻き上げられて飛沫となり、オイルの飛沫がデフケース92に挿通されるドライブシャフトなどに供給される。また、ドライブシャフトに供給されたオイルがドライブシャフトを伝ってデフケース92内に供給され、デフケース92内のサイドギヤなどがオイルにより潤滑される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-119084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、リングギヤ93のギヤ歯が斜歯であるため、ギヤ歯によって掻き上げられて飛沫となるオイルは、そのほとんどがリングギヤ93から回転軸線方向の一方側に飛散し、反対側にはほぼ飛散しない。そのため、オイルがほぼ飛散しない側では、ドライブシャフトなどにオイルが十分に供給されず、ドライブシャフトなどの潤滑不足による焼き付きが発生するおそれがある。
【0008】
また、たとえリングギヤ93から回転軸線方向の両側にオイルが飛散する構成であっても、そのオイルの飛散方向がリングギヤ93の回転数(周速)によって変化するため、ドライブシャフトなどの潤滑状態が安定しにくい。したがって、ドライブシャフトなどの潤滑不足による焼き付きの発生の懸念を払拭することはできない。
【0009】
本発明の目的は、リングギヤの斜歯によりオイルが飛散する側と反対側にもオイルを良好に供給することができる、トランスアクスルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明に係るトランスアクスルは、デファレンシャルギヤをトランスミッションとともにオイルが封入されたユニットケース内に収容した構成を有するトランスアクスルであって、前記デファレンシャルギヤは、前記ユニットケースに回転可能に支持され、その回転軸線に沿ってドライブシャフトが挿通されるデフケースと、前記デフケースに支持されて、前記デフケースの回転方向の全周にわたって前記デフケースに対して前記デフケースの回転径方向の外側に張り出し、前記ユニットケース内に溜まったオイルに一部が浸漬するリングギヤとを含み、前記リングギヤは、その外周面に、前記リングギヤの回転時に回転軸線方向の一方側の端がその他方側の端よりも遅れて移動するように前記回転軸線方向に対して傾斜した斜歯を有しており、前記ユニットケース内には、前記リングギヤの前記外周面および前記他方側の端面に沿うように形成された面を有するオイル捕捉部が設けられている。
【0011】
この構成によれば、ユニットケース内に封入されたオイルは、ユニットケースの底部に溜まり、リングギヤの一部は、その溜まったオイルに浸漬している。トランスミッションのアウトプット軸の回転が出力ギヤを介してデファレンシャルギヤのリングギヤに伝達されて、リングギヤが回転すると、リングギヤの斜歯によりオイルが掻き上げられる。
【0012】
リングギヤの斜歯は、その回転時に回転軸線方向の一方側の端が他方側の端よりも遅れて移動するように回転軸線方向に対して傾斜している。そのため、リングギヤの回転時に、リングギヤの斜歯の歯間に保持されるオイルは、歯間に入り込む斜歯により歯間から回転軸線方向の一方側に押し出されて飛散する。これにより、回転軸線方向の一方側のドライブシャフトにオイルを供給することができる。その結果、そのドライブシャフトに供給されるオイルがドライブシャフトを伝ってデフケース内に導かれるので、デフケース内にオイルを供給することができる。
【0013】
リングギヤの回転時には、リングギヤの回転軸線方向の一方側および他方側の各端面に付着するオイルに遠心力が作用し、リングギヤの外周部にオイルが集まる。ユニットケース内には、オイル捕捉部が設けられている。オイル捕捉部は、リングギヤの外周面および回転軸線方向の他方側の端面に沿うように形成された面を有している。そのため、リングギヤの回転時に、リングギヤの外周部に集まったオイルがオイル捕捉部と接触し、オイル捕捉部にオイルが捕捉されて、その捕捉されたオイルがオイル捕捉部から滴下する。これにより、回転軸線方向の他方側にもオイルを良好に供給することができる。その結果、回転軸線方向の他方側のドライブシャフトにオイルを良好に供給することができ、そのドライブシャフトからもデフケース内にオイルを供給することができる。
【0014】
よって、回転軸線方向の両側のドライブシャフトおよびデフケース内に収容されるサイドギヤなどの潤滑不足による焼き付きの発生を抑制することができる。
【0015】
リングギヤの端面を伝って外周部に集まるオイルの量は、リングギヤの回転数(周速)の影響を受けにくいので、リングギヤの外周部に集まるオイルをオイル捕捉部で捕捉する構成では、リングギヤの回転数、つまりトランスアクスルが搭載される車両の車速が変化しても、オイル捕捉部に捕捉されるオイルの量の変化が少ない。よって、回転軸線方向の他方側にオイルを安定して供給することができ、他方側のドライブシャフトなどの潤滑状態を安定させることができる。
【0016】
トランスミッションは、リングギヤの回転軸線と平行に延びるアウトプット軸と、アウトプット軸に相対回転不能に支持され、リングギヤと噛合する出力ギヤと、アウトプット軸に相対回転不能に支持されるパーキングギヤとを含み、パーキングギヤは、出力ギヤに対して回転軸線方向の一方側に配置されて、リングギヤと出力ギヤとの噛合部分に回転軸線方向に対向していることが好ましい。
【0017】
この構成では、リングギヤ斜歯の歯間から押し出されるオイルをパーキングギヤによって掻き落とすことができる。これにより、回転軸線方向の一方側のドライブシャフトにオイルを良好に供給することができる。その結果、デフケース内にオイルをより良好に供給することができ、デフケース内に収容されるサイドギヤなどの潤滑不足による焼き付きの発生を一層抑制することができる。
【0018】
しかも、パーキングギヤは、以前からトランスミッションに備えられている部品であるから、新たな部品を追加することなく、回転軸線方向の一方側のドライブシャフトおよびデフケース内へのオイルの良好な供給を達成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リングギヤの斜歯によりオイルが飛散する側と反対側にもオイルを良好に供給することができ、その反対側に配置されるドライブシャフトなどの潤滑不足による焼き付きの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るトランスアクスルの一部の断面図である。
図2】トランスアクスルの内部構成(ユニットケース内の構成)の一部を示す側面図である。
図3】トランスアクスルの内部構成の一部を示す斜視図である。
図4】トランスアクスルの内部構成の一部を示す斜視図であり、リングギヤなどの図示を省略している。
図5】従来のトランスアクスルの一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
<トランスアクスルの構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るトランスアクスル1の一部の断面図である。図2は、トランスアクスル1の内部構成(ユニットケース2内の構成)の一部を示す側面図である。図3は、トランスアクスル1の内部構成の一部を示す斜視図である。
【0023】
トランスアクスル1は、車両に搭載されて、エンジン(図示せず)が発生するトルクを変速して駆動輪(図示せず)に伝達する変速ユニットである。トランスアクスル1の外殻をなすユニットケース2内には、図2および図3に示されるように、トランスミッション(変速機)3およびデファレンシャルギヤ4などが収容されている。
【0024】
トランスミッション3は、エンジンのクランクシャフトの回転軸線と平行に延びるアウトプット軸11を備えている。アウトプット軸11には、出力ギヤ12が一体に形成されている。出力ギヤ12は、図3に図解的に示されるように、周方向に並んだ多数の出力ギヤ斜歯13を有している。また、アウトプット軸11には、出力ギヤ12に対してアウトプット軸11の回転軸線が延びる方向(以下、「回転軸線方向」という。)の一方側、つまり図3における右側(以下、単に「右側」という。)に、パーキングギヤ14が相対回転不能に支持されている。パーキングギヤ14の外周面には、図2および図3に示されるように、多数の歯15が一定間隔を空けて形成され、これにより、歯15と歯溝16とが交互に並んでいる。
【0025】
デファレンシャルギヤ4は、図1および図2に示されるように、デフケース21を備えている。デフケース21は、図1に示されるように、その内部にギヤ収容空間22を提供している。デフケース21には、図示されていないが、ギヤ収容空間22を貫通するピニオンシャフトが保持されている。ピニオンシャフトには、2個のピニオンギヤが互いに間隔を開けて回転可能に保持されている。また、ギヤ収容空間22内には、2個のサイドギヤ23,24がピニオンシャフトの両側に分かれて配置されている。サイドギヤ23,24およびピニオンギヤは、いずれもかさ歯車からなり、各サイドギヤ23,24は、2個のピニオンギヤの両方と噛合している。
【0026】
また、デフケース21には、2個のサイドギヤ23,24の対向方向に互いに対向する位置に、円筒状のシャフト挿通部25,26が形成されている。シャフト挿通部25,26には、それぞれドライブシャフト27,28が挿通される。ドライブシャフト27,28の先端部は、ギヤ収容空間22内において、それぞれサイドギヤ23,24に相対回転不能に結合される。
【0027】
シャフト挿通部25,26には、それぞれベアリング31,32のインナレース(内輪)が外嵌されている。ベアリング31,32のアウタレース(外輪)は、ユニットケース2に回転不能に保持されている。これにより、デフケース21は、ベアリング31,32を介してユニットケース2に、ドライブシャフト27,28と同一の回転軸線まわりに回転可能に支持されている。
【0028】
デフケース21にはさらに、その外周面から径方向に張り出すフランジ部33が形成されている。フランジ部33には、リングギヤ34が固定されている。リングギヤ34は、デフケース21を取り囲む略円環板状のウェブ35と、ウェブ35の外周を取り囲む略円筒状のリム36とを一体的に有している。リム36は、ウェブ35からデフケース21の回転軸線方向の両側に突出している。リム36の外周面37には、図3に示されるように、多数のリングギヤ斜歯38が形成されており、このリングギヤ斜歯38は、トランスミッション3の出力ギヤ12の出力ギヤ斜歯13と噛合している。
【0029】
トランスミッション3のアウトプット軸11の回転は、出力ギヤ12を介して、デファレンシャルギヤ4のリングギヤ34に伝達される。これにより、デフケース21がリングギヤ34と一体に回転する。デフケース21の回転は、ピニオンギヤを介して、各サイドギヤ23,24の回転に変換される。これにより、各サイドギヤ23,24と一体にドライブシャフト27,28が回転し、ドライブシャフト27,28の回転が車両の駆動輪に伝達される。
【0030】
また、ユニットケース2内には、図1に示されるように、リングギヤ34に対して回転軸線方向の両側に、それぞれ隔壁となるオイルセパレータ41,42が設けられている。オイルセパレータ41,42は、ユニットケース2に固定されている。オイルセパレータ41,42により、ユニットケース2内のギヤ収容空間22は、リングギヤ34が配置される第1空間43と、その第1空間43に対して回転軸線方向の両側の第2空間44,45とに区画されている。ユニットケース2内には、オイルが封入されており、オイルセパレータ41,42は、ユニットケース2内の少なくともオイルが溜まる底部において第1空間43と第2空間44,45との間でのオイルの流通を阻止する。リングギヤ34の一部は、第1空間43に溜まったオイルに浸漬している。
【0031】
出力ギヤ12の出力ギヤ斜歯13およびリングギヤ34のリングギヤ斜歯38は、図3に示されるように、それらの回転時に回転軸線方向の一方側、つまり右側の端がその反対側の端よりも遅れて移動するように回転軸線方向に対して傾斜している。また、出力ギヤ12の出力ギヤ斜歯13とリングギヤ34のリングギヤ斜歯38との噛合部分に対して、パーキングギヤ14は、右側から回転軸線方向に対向している。
【0032】
図4は、トランスアクスル1の内部構成の一部を示す斜視図である。図4では、リングギヤ34の左側(図2における奥側)の構成が表れるように、リングギヤ34などの図示が省略されている。
【0033】
また、ユニットケース2内には、図1図2および図4に示されるように、リングギヤ34に対して回転軸線方向の他方側、つまり左側には、オイル捕捉部51およびオイル受部52が設けられている。オイル捕捉部51およびオイル受部52は、ユニットケース2と一体に形成されている。
【0034】
オイル捕捉部51は、ユニットケース2の内面からリングギヤ34のリム36の最上部分に向けて回転軸線方向に延びている。オイル捕捉部51は、その先端に、リム36の外周面37および左側の端面53に沿うように形成された略L字状のL字状面54を有している。言い換えれば、オイル捕捉部51の先端には、L字状面54が形成され、このL字状面54は、リム36の外周面37と間隔を空けて対向する第1対向面55と、リム36の左側の端面53と間隔を空けて対向する第2対向面56とを含み、リム36の外周面37および左側の端面53に沿った略L字状をなしている。第2対向面56は、回転軸線方向において、オイルセパレータ41とリム36の外周面37との間の略中間の位置に位置している。
【0035】
オイル受部52は、板状をなし、オイル捕捉部51よりも下方の位置において、ユニットケース2の内面とオイルセパレータ41との間に、それらに跨がるように形成されている。オイル受部52は、デフケース21の回転軸線方向の他方側、つまり左側のシャフト挿通部25の最上部分から左側に離れるほど上方に位置するように傾斜している。また、オイル受部52は、左側のシャフト挿通部25の最上部分から回転軸線方向および上下方向の両方と直交する方向の一方側、つまり図2および図4における左側に離れるほど上方に位置するように傾斜している。そして、オイル受部52には、シャフト挿通部25の最上部分の直上において、回転軸線方向に延びる溝57が形成されている。
【0036】
<作用効果>
ユニットケース2内に封入されたオイルは、ユニットケース2の底部に溜まり、リングギヤ34の一部は、その溜まったオイルに浸漬している。トランスミッション3のアウトプット軸11の回転が出力ギヤ12を介してデファレンシャルギヤ4のリングギヤ34に伝達されて、リングギヤ34が回転すると、リングギヤ34によりオイルが掻き上げられる。
【0037】
出力ギヤ12に形成された出力ギヤ斜歯13およびリングギヤ34に形成されたリングギヤ斜歯38は、出力ギヤ12およびリングギヤ34の回転時に回転軸線方向の一方側である右側の端がその反対側の左側の端よりも遅れて移動するように回転軸線方向に対して傾斜している。そのため、リングギヤ34の回転時に、リングギヤ斜歯38の歯間に保持されるオイルは、リングギヤ斜歯38と出力ギヤ斜歯13との噛合部分において、その歯間に入り込む出力ギヤ斜歯13により、歯間から右側に押し出される。
【0038】
出力ギヤ12に対して回転軸線方向の右側には、パーキングギヤ14が設けられ、パーキングギヤ14は、リングギヤ34と出力ギヤ12との噛合部分に回転軸線方向に対向している。そのため、リングギヤ斜歯38の歯間から押し出されるオイルは、パーキングギヤ14によって掻き落とされ、ユニットケース2の内面とベアリング32との間の隙間を通して、回転軸線方向の一方側、つまり右側のシャフト挿通部26とこれに挿通されるドライブシャフト28との間に供給される。これにより、ドライブシャフト28にオイルを良好に供給することができる。
【0039】
さらに、ドライブシャフト28に供給されたオイルは、シャフト挿通部26の内周面に形成されている溝61(図1参照)を通して、デフケース21内に供給される。その結果、デフケース21内にオイルを良好に供給することができ、デフケース21内に収容されるサイドギヤ23,24などの潤滑不足による焼き付きの発生を抑制することができる。
【0040】
しかも、パーキングギヤ14は、以前からトランスミッション3に備えられている部品であるから、新たな部品を追加することなく、デフケース21内へのオイルの良好な供給を達成することができる。
【0041】
一方、リングギヤ34に対して回転軸線方向の他方側、つまり左側には、オイル捕捉部51およびオイル受部52が設けられている。リングギヤ34の回転時には、リングギヤ34の回転軸線方向の一方側および他方側の各端面に付着するオイルに遠心力が作用し、リングギヤ34の外周部にオイルが集まる。オイル捕捉部51は、リングギヤ34のリム36の外周面37および回転軸線方向の他方側である左側の端面53に沿うように形成されたL字状面54を有している。そのため、リングギヤ34の回転時に、リングギヤ34の外周部に集まったオイルがオイル捕捉部51と接触し、オイル捕捉部51にオイルが捕捉されて、その捕捉されたオイルがオイル捕捉部51から滴下する。オイル受部52は、オイル捕捉部51の下方に配置されており、オイル捕捉部51から滴下するオイルは、オイル受部52に受け取られる。そして、オイル受部52に受け取られたオイルは、オイル受部52上をオイル受部52に形成された溝57に向けて流れ、その溝57から回転軸線方向の他方側のシャフト挿通部25に向けて、オイル受部52とオイルセパレータ41との間を通して流下する。これにより、シャフト挿通部25に挿通されるドライブシャフト27にオイルを良好に供給することができる。
【0042】
さらに、ドライブシャフト27に供給されたオイルは、シャフト挿通部25の内周面に形成されている溝62(図1参照)を通して、デフケース21内に供給される。その結果、デフケース21内にオイルを良好に供給することができ、デフケース21内に収容されるサイドギヤ23,24などの潤滑不足による焼き付きの発生を抑制することができる。
【0043】
リングギヤ34の端面を伝って外周部に集まるオイルの量は、リングギヤ34の回転数(周速)の影響を受けにくいので、リングギヤ34の外周部に集まるオイルをオイル捕捉部51で捕捉する構成では、リングギヤ34の回転数、つまりトランスアクスル1が搭載される車両の車速が変化しても、オイル捕捉部51に捕捉されるオイルの量の変化が少ない。よって、リングギヤ34に対する回転軸線方向の他方側、つまり左側にオイルを安定して供給することができ、他方側のドライブシャフト27などの潤滑状態を安定させることができる。
【0044】
もちろん、シャフト挿通部25,26にそれぞれ外嵌されるベアリング31,32もオイルが供給されるので、ベアリング31,32の潤滑を確保することができる。そのため、ベアリング31,32にシールドベアリングを採用しなくても、ベアリング31,32の潤滑不足による焼き付きの発生を抑制できる。その結果、コストを低減させることができる。
【0045】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0046】
たとえば、本発明を適用可能なトランスアクスル1は、トランスミッションの種類では限定されず、本発明は、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)やベルト式以外の方式の無段変速機、有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)などを備えるトランスアクスルに広く適用可能である。
【0047】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1:トランスアクスル
2:ユニットケース
3:トランスミッション
4:デファレンシャルギヤ
21:デフケース
27,28:ドライブシャフト
34:リングギヤ
36:リム(外周部)
37:外周面
38:リングギヤ斜歯(斜歯)
51:オイル捕捉部
54:L字状面(面)
図1
図2
図3
図4
図5