(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】トナーバインダー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20221219BHJP
【FI】
G03G9/087 325
(21)【出願番号】P 2019091176
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2018112381
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠原 修一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 大樹
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-175394(JP,A)
【文献】特開平03-223770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル樹脂(A)を含むトナーバインダーであって、
ビニル樹脂(A)が、単量体(a)及び単量体(b)を必須構成単量体とする重合物であり、
単量体(a)が、炭素数18~36の鎖状炭化水素基とビニル基とを有する単量体であり、
単量体(b)が、単量体(a)以外の単量体であってその単独重合体が非結晶性の重合体となる単量体
であって(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、ビニルプロピオン酸、(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として単量体(a)の重合割合が15~50重量%であり、
トナーバインダーの重量を基準としてビニル樹脂(A)の重量割合が51重量%以上であり、ビニル樹脂(A)はDSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が40~85℃であり、ビニル樹脂(A)の酸価が19mgKOH/g以下であり、ビニル樹脂(A)が次の関係式(1)~(3)の全てを満たすことを特徴とするトナーバインダー。
40≦T
1/2≦110 (1)
8≦T
1/2-Tfb≦25 (2)
0.1≦|ΔH2nd-ΔHcool|≦20.0 (3)
[関係式(1)~(3)において、T
1/2は高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の軟化点(℃)であり、Tfbは高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の流出開始温度(℃)であり、ΔH2ndはDSCで測定されるビニル樹脂(A)の2回目の昇温過程における吸熱量(J/g)であり、ΔHcoolは1回目の冷却過程における発熱量(J/g)である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター等における画像の定着方式として一般的に採用されている熱定着方式用のトナーバインダーは、低温定着性、耐ホットオフセット性及び保存安定性等を両立させることが要求されている。このため、トナーバインダーは、定着温度より低い温度では貯蔵弾性率が高く、定着し始める温度では短時間で貯蔵弾性率が低くなり、また高い温度まで一定の貯蔵弾性率を維持するというように、定着温度前後で貯蔵弾性率が適切な値に変化することが求められる。
上述の適切な貯蔵弾性率変化を達成するために、従来のトナーバインダーでは、ポリエステルを主成分として用いている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
しかし、ポリエステルを主成分とするトナーバインダー及びこれを用いたトナー組成物は、エチレン不飽和結合を有する単量体の重合物に比べて、吸湿を原因とする体積固有抵抗値の低下により帯電特性が劣化するという問題がある。
一方、ポリエステルの代わりに、従来のエチレン性不飽和結合を有する単量体の重合物を主成分として用いたトナーバインダーは、分子間凝集力がポリエステルに比べて小さいため、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立が困難である。
【0004】
この課題解決のために、低分子量と高分子量の成分を併用する技術や(例えば、特許文献3参照)、高凝集力を持つ部位を構成単位に使用する技術(例えば、特許文献4参照)などが示されているが、いずれも定着温度範囲での貯蔵弾性率の上昇に伴い、低温定着性が不充分であるという問題がある。
そこで、エチレン不飽和結合を有する単量体の重合物のうち結晶性のアクリレート樹脂を用いることで低温定着性を向上できるとする技術(特許文献5~9など)が提案されている。
【0005】
特許文献5では結晶性のアクリレート樹脂はケミカルトナー中に添加剤目的で使用するため、メインバインダーである非晶樹脂との相溶性確保のため比較的低い分子量領域でコントロールする目的や、乳化分散法による造粒のためトナー粒子への親水性を付与する目的のため、結晶性のアクリレート樹脂に酸価を導入することを必須条件としている。一方で、上記結晶性のアクリレート樹脂をメインバインダーとして用いた場合は、過剰な酸価による保存性の悪化やメインバインダーと離型剤(ワックスともいう)との相分離性の悪化による耐ホットオフセット性の悪化といった課題がある。
【0006】
特許文献6、7では結晶性のアクリレート樹脂単独やスチレンとの共重合物を用いたトナーが示されている。結晶性のアクリレート樹脂単独では高い融点による保存性とシャープメルト性による低温定着性を達成できるが、高温弾性が不足したり、離型剤との相分離性が悪化するため、耐ホットオフセット性が悪くなるという問題がある。
【0007】
特許文献8では結晶性のアクリレート樹脂と架橋剤との組合せにより、上記低温定着性及び耐ホットオフセット性を両立し定着領域を広げようとしているが、不溶成分の発生により水性媒体中への樹脂分散が困難になりケミカルトナーへの応用が難しく、粉砕トナーへの適用のみとなる事に加え、架橋による低温粘度が上昇する。そのため近年ますます求められるようになった低温定着性の要求を満たすことができない。
【0008】
特許文献9では結晶性アクリレート樹脂を用いることで、クリアトナーの離型剤による質感のムラを抑える事に応用しているが、トナーバインダーとして求められる低温定着性と十分な耐ホットオフセット性とは両立することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4493080号公報
【文献】特許第2105762号公報
【文献】特開平11-327210号公報
【文献】特許第3212860号公報
【文献】特許第4677909号公報
【文献】特開平11-44967号公報
【文献】特開平6-175394号公報
【文献】特許第3458165号公報
【文献】特開2011-095727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、低温定着性、耐ホットオフセット性、保存安定性及び耐ドキュメントオフセット性に優れたトナーに用いられるトナーバインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、これらの問題点を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、ビニル樹脂(A)を含むトナーバインダーであって、ビニル樹脂(A)が、単量体(a)及び単量体(b)を必須構成単量体とする重合物であり、単量体(a)が、炭素数18~36の鎖状炭化水素基とビニル基とを有する単量体であり、単量体(b)が、単量体(a)以外の単量体であってその単独重合体が非結晶性の重合体となる単量体であって(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、ビニルプロピオン酸、(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として単量体(a)の重合割合が15~50重量%であり、トナーバインダーの重量を基準としてビニル樹脂(A)の重量割合が51重量%以上であり、ビニル樹脂(A)はDSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が40~85℃であり、ビニル樹脂(A)の酸価が19mgKOH/g以下であり、ビニル樹脂(A)が次の関係式(1)~(3)の全てを満たすことを特徴とするトナーバインダーである。
40≦T1/2≦110 (1)
8≦T1/2-Tfb≦25 (2)
0.1≦|ΔH2nd-ΔHcool|≦20.0 (3)
[関係式(1)~(3)において、T1/2は高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の軟化点(℃)であり、Tfbは高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の流出開始温度(℃)であり、ΔH2ndはDSCで測定されるビニル樹脂(A)の2回目の昇温過程における吸熱量(J/g)であり、ΔHcoolは1回目の冷却過程における発熱量(J/g)である。]
【発明の効果】
【0012】
本発明により低温定着性、耐ホットオフセット性、保存安定性及び耐ドキュメントオフセット性に優れたトナーに用いられるトナーバインダーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ビニル樹脂(A)のフローテスター測定におけるフローチャートを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳述する。
本発明のトナーバインダーは、ビニル樹脂(A)を含むトナーバインダーであって、ビニル樹脂(A)が、単量体(a)及び単量体(b)を必須構成単量体とする重合物である。単量体(a)は、炭素数18~36の鎖状炭化水素基とビニル基とを有する単量体であり、単量体(b)は、単量体(a)以外の単量体であってその単独重合体が非結晶性の重合体となる単量体である。またビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として単量体(a)の重合割合が15~50重量%であり、トナーバインダーの重量を基準としてビニル樹脂(A)の重量割合が51重量%以上であり、ビニル樹脂(A)はDSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)が40~85℃であり、ビニル樹脂(A)の酸価が19mgKOH/g以下であり、ビニル樹脂(A)が次の関係式(1)~(3)の全てを満たすことを特徴とするトナーバインダーである。
40≦T1/2≦110 (1)
8≦T1/2-Tfb≦25 (2)
0.1≦|ΔH2nd-ΔHcool|≦20.0 (3)
[関係式(1)~(3)において、T1/2は高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の軟化点(℃)であり、Tfbは高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の流出開始温度(℃)であり、ΔH2ndはDSCで測定されるビニル樹脂(A)の2回目の昇温過程における吸熱量(J/g)であり、ΔHcoolは1回目の冷却過程における発熱量(J/g)である。]
【0015】
本発明のトナーバインダーは、単量体(a)及び単量体(b)を必須構成単量体とするビニル樹脂(A)を含有し、単量体(a)が、炭素数18~36の鎖状炭化水素基とビニル基とを有する単量体であり、単量体(b)が、単量体(a)以外の単量体であってその単独重合体が非結晶性の重合体となる単量体である。
【0016】
前記の単量体(a)は、低温定着性やトナーの保存安定性の観点から、炭素数18~36の鎖状炭化水素基とビニル基とを有する単量体である。炭素数18~36の鎖状炭化水素基とビニル基とを有する単量体としては、鎖状炭化水素基(炭素数18~36)を有する(メタ)アクリレート及び鎖状炭化水素基(炭素数18~36)を有するビニルエステルが挙げられる。なお、本発明において「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び/又は「メタクリレート」を意味する。
【0017】
鎖状炭化水素基(炭素数18~36)を有する(メタ)アクリレートとしては、直鎖のアルキル基(炭素数18~36)を有する(メタ)アクリレート[例えばオクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、アラキジル(メタ)アクリレート、ヘンエイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、リグノセリル(メタ)アクリレート、セリル(メタ)アクリレート、モンタニル(メタ)アクリレート、ミリシル(メタ)アクリレート及びドトリアコンチル(メタ)アクリレート等]及び分岐のアルキル基(炭素数18~36)を有する(メタ)アクリレート[2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート等]等が挙げられる。
【0018】
鎖状炭化水素基(炭素数18~36)を有するビニルエステルとしては、直鎖のアルキル基(炭素数18~36)を有するビニルエステル[例えば、ステアリン酸ビニル、ベヘン酸ビニル、トリアコンタン酸ビニル及びヘキサトリアコンタン酸ビニル等]及び分岐のアルキル基(炭素数18~36)を有するビニルエステル等が挙げられる。
これらの内、好ましくは直鎖のアルキル基(炭素数18~36)を有する(メタ)アクリレートであり、より好ましくは直鎖のアルキル基(炭素数18~30)を有する(メタ)アクリレートであり、さらに好ましくは、直鎖のアルキル基(炭素数18~24)を有する(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはオクタデシル(メタ)アクリレート、アラキジル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート及びリグノセリル(メタ)アクリレートであり、最も好ましいのはアラキジルアクリレート、ベヘニルアクリレート及びリグノセリルアクリレートである。
単量体(a)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
ビニル樹脂(A)を構成する単量体中の単量体(a)の重量割合は、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として、低温定着性、耐ホットオフセット性の観点から15~50重量%である。より好ましくは20~40重量%である。単量体(a)の重量割合が15重量%未満であると低温定着性が悪化し、50重量%より大きいと離型剤との相分離性が悪く耐ホットオフセット性に劣る。
単量体(a)の重量割合が50重量%以下であることで、結晶性のアクリレート樹脂との相分離性が悪い低融点のパラフィンワックスを使用しても相分離性に優れ、離型剤のブリードが発生するため、耐ホットオフセット性が著しく向上する。
【0020】
単量体(b)は、単量体(a)以外の単量体であってその単独重合体が非結晶性の重合体となる単量体である。
「非結晶性」とは、示差走査熱量計を用いて試料の転移温度測定を行った場合に、下記測定方法で吸熱ピークのピークトップ温度が存在しないことを意味する。
単量体(b)の単独重合体の吸熱ピークのピークトップ温度の測定方法を記載する。
示差走査熱量計{例えば「DSC Q20」[TA Instruments(株)製]}を用いて測定する。単量体(b)の単独重合体を20℃から10℃/分の条件で150℃まで第1回目の昇温を行い、続いて150℃から10℃/分の条件で0℃まで冷却し、続いて0℃から10℃/分の条件で150℃まで第2回目の昇温をした際の第2回目の昇温過程の吸熱ピークのトップを示す温度を単量体(b)の単独重合体の吸熱ピークのピークトップ温度とする。
【0021】
前記単量体(b)は、離型剤との相分離性、耐ホットオフセット性、低温定着性、保存安定性及び耐ドキュメントオフセット性の観点から、凝集度が高い官能基や極性が高い官能基を含むことが好ましく、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、ビニルプロピオン酸、(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体であることが好ましく、より好ましくは(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、ビニルプロピオン酸、(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体であり、さらに好ましくは(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、ビニルプロピオン酸、(メタ)アクリルアミド及びビニルピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体である。単量体(b)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
2種以上を併用する場合、前記の好ましい単量体(b)とスチレン及びアルキル基の炭素数が1~3のアルキルスチレン(例えばα-メチルスチレン及びp-メチルスチレン等)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、酪酸ビニル及びイソ酪酸ビニル等を併用しても良い。
上記のような単量体(b)を用いることでビニル樹脂(A)の融解ピーク温度Tmを上げて保存安定性を向上させたり、トナーバインダーと離型剤との相分離性が向上することでトナー耐ホットオフセット性を上げることができる。
なお、本明細書中、カルボキシル基を有する化合物及び構造における炭素数には、カルボキシル基部分に含まれる炭素数は含まない。
【0022】
ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)と単量体(b)との重量比{(a):(b)}は低温定着性や保存安定性の観点から好ましくは15:85~50:50であり、より好ましくは20:80~45:55である。
【0023】
ビニル樹脂(A)は構成単量体として前記単量体(a)及び単量体(b)以外に、(a)及び(b)以外の単量体(c)を含んでもよい。単量体(c)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
単量体(c)としては、単量体(a)、単量体(b)以外の単量体であれば特に制限はない。例えば、上記測定方法で単独重合体が吸熱ピークのピークトップ温度を有し、直鎖のアルキル基(炭素数16)を有する(メタ)アクリレートであるセチルアクリレート等が挙げられる。
【0024】
ビニル樹脂(A)を構成する単量体中に単量体(c)を含む場合、単量体(c)の重量割合は保存安定性の観点から、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として、好ましくは70重量%以下であり、より好ましくは60重量%以下である。
【0025】
本発明においてビニル樹脂(A)のDSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は、トナーとした際の結晶性、低温定着性及び保存安定性の観点から、40~85℃であり、より好ましくは45~75℃、さらに好ましくは50~70である。融解ピーク温度が40℃以上の場合は結晶性及び保存安定性が良好となり、85℃以下の場合は低温定着性が良好となる。
Tmは(A)を構成する単量体の種類や構成比率(例えば、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数を調整すること及び(A)を構成する単量体(a)の重量比率を調整すること等)、重量平均分子量などで調整することができる。例えば(a)の炭素数を増やす、(a)の重量比率を増やす、(A)の重量平均分子量を増やす等の方法によりTmを上げることができる。
結晶性ビニル樹脂(A)のDSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)の測定方法を記載する。
示差走査熱量計{例えば「DSC Q20」[TA Instruments(株)製]}を用いて測定する。結晶性ビニル樹脂(A)を20℃から10℃/分の条件で150℃まで第1回目の昇温を行い、続いて150℃から10℃/分の条件で0℃まで冷却し、続いて0℃から10℃/分の条件で150℃まで第2回目の昇温をした際の第2回目の昇温過程の吸熱ピークのトップを示す温度を結晶性ビニル樹脂(A)の吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)とする。
【0026】
本発明におけるビニル樹脂(A)の酸価は19mgKOH/g以下である。酸価が19mgKOH/gより大きいと吸湿性が上がることで保存安定性が悪化する。ビニル樹脂(A)の酸価は、より好ましくは0~15mgKOH/gであり、さらに好ましくは0~10mgKOH/gである。
ビニル樹脂(A)の酸価は、単量体の酸価及び酸価を有するカルボキシル基含有ビニルモノマー等の単量体の含有量で調整できる。(A)の酸価は、例えばJIS K 0070などの方法で測定される。
【0027】
本発明におけるビニル樹脂(A)の重量平均分子量は、低温定着性及びトナーの耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは10,000~1,000,000、より好ましくは20,000~300,000である。ビニル樹脂(A)の重量平均分子量は、重合温度、ラジカル重合開始剤量、連鎖移動剤などで調整できる。
【0028】
ビニル樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(以降GPCと略記)を用いて以下の条件で測定する。
装置(一例) : HLC-8120 〔東ソー(株)製〕
カラム(一例): TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液(不溶解分をアパチャー1μmのPTFEフィルターでろ過したものを用いる)
移動相 :テトラヒドロフラン(重合禁止剤を含まない)
溶液注入量 : 100μl
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点(重量平均分子量: 500 1050 2800 5970 9100 18100 37900 96400 190000 355000 1090000 2890000) 〔東ソー(株)製〕
【0029】
本発明においてビニル樹脂(A)はトナーとした際の結晶性、低温定着性及び保存安定性の観点から以下の関係式(1)を満たす。
40≦T1/2≦110 (1)
T1/2は高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の軟化点である。
【0030】
より好ましくは式(1-2)さらに好ましくは式(1-3)を満たすものである。
55≦T1/2≦110 (1-2)
70≦T1/2≦110 (1-3)
【0031】
軟化点(T1/2)が40℃以上の場合は結晶性及び保存安定性が良好となり、110℃以下の場合は低温定着性が良好となる。
軟化点(T1/2)はビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数を調整する、ビニル樹脂(A)中の単量体(a)の重量比率を調整する及びビニル樹脂(A)の重量平均分子量を調整する等の方法により調整することができる。例えば単量体(a)の比率を減らす、ビニル樹脂(A)の重量平均分子量を上げる等の方法により軟化点(T1/2)を上げることができる。
【0032】
本発明においてビニル樹脂(A)はトナーとした際の保存安定性及びシャープメルト性が向上することによる低温定着性の観点から以下の関係式(2)を満たす。
8≦T1/2-Tfb≦25 (2)
Tfbは高化式フローテスターで測定されるビニル樹脂(A)の流出開始温度である。
【0033】
より好ましくは式(2-2)を満たすものである。
8≦T1/2-Tfb≦20 (2-2)
【0034】
T1/2-Tfbの値が8℃以上の場合は結晶性が十分であることで保存安定性が良好となり、25℃以下の場合はシャープメルト性が良好となることで低温定着性が良好となる。
Tfbは(A)を含むトナーバインダーを用いたトナーが軟化し始める温度に相当し、T1/2はトナーが定着するのに適した粘度に達した温度に相当する。そのため関係式(2)は(A)を含むトナーバインダーを用いたトナーがいかに素早く定着に適した粘度域に到達するかの指標を示しており、すなわちシャープメルト性を評価していると言え、関係式(2)の範囲であれば優れた低温定着性を有する。
流出開始温度(Tfb)はビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数を調整することで調整することができる。例えば(a)の炭素数を増やすことにより流出開始温度(Tfb)を上げることができる。
関係式(2)は、例えばビニル樹脂(A)の設計において単量体(a)であるベヘニルアクリレートと単量体(b)とを重量比で15:85~50:50の範囲で用いることで達成できる。
【0035】
本発明においてビニル樹脂(A)は溶融時と結晶化時のヒステリシスが小さいことによる耐ドキュメントオフセット性の観点から以下の関係式(3)を満たす。
0.1≦|ΔH2nd-ΔHcool|≦20.0 (3)
ΔH2ndはDSCで測定されるビニル樹脂(A)の2回目の昇温過程における吸熱量であり、ΔHcoolは冷却過程における発熱量である。
【0036】
より好ましくは関係式(3-2)を満たすものである。
1.0≦|ΔH2nd-ΔHcool|≦20.0 (3-2)
【0037】
|ΔH2nd-ΔHcool|の値が0.1以上の場合は結晶性と非晶性のバランスが適度で低温定着性に優れる、20.0以下の場合は結晶化速度が良好となることで耐ドキュメントオフセット性が良好となる。
ΔH2ndは(A)を含むトナーバインダーを用いたトナーを用紙に定着した後の(A)の結晶化度に相当し、また、ΔHcoolはトナーを用紙に定着しドキュメントを搬送中のビニル樹脂(A)の結晶化度に相当する。そのためこれらの結晶化度の差が小さいほど、定着直後に速やかにトナーバインダーを用いたトナーが固化していると言える。
本発明以外の結晶性樹脂をメインバインダーとして使用する場合、耐ホットオフセット性を維持するために非晶性樹脂の併用や結晶性樹脂の分子中に非晶部位を導入する方法があるが、結晶化が速やかに起こりにくい事が多く、結果として関係式(3)を満たさず、ドキュメントオフセットの原因となる。
そのため、関係式(3)を満たしているビニル樹脂(A)を含むトナーバインダーは、低温定着性と耐ホットオフセット性を高いレベルで両立しながら耐ドキュメントオフセット性にも優れている。
|ΔH2nd-ΔHcool|の値はビニル樹脂(A)を構成する単量体(b)の組成を選ぶことによって目的の範囲に調整することができる。
関係式(3)は、例えばビニル樹脂(A)の設計において単量体(a)であるベヘニルアクリレートと単量体(b)とを重量比で15:85~50:50の範囲で用いることで達成できる。
【0038】
本発明におけるビニル樹脂(A)の軟化点(T
1/2)は以下の条件で測定される値である。フローテスター{たとえば、(株)島津製作所製、CFT-500D}を用いて、1gの測定試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す測定を行なった結果、得られるチャートを
図1に例示する。チャートのA点(試料の熱膨張によるピストンストロークのわずかな上昇が行われた後、再びピストンストロークが上昇し始める点)の温度を流出開始温度(Tfb)、そしてB点(図において流出終了点Smaxと最低値Sminの差の1/2(X)を求め、XとSminを加えた点)の温度を軟化点(T
1/2)とする。
【0039】
本発明におけるビニル樹脂(A)は、単量体(a)、単量体(b)及び必要に応じて単量体(c)を含有する単量体組成物を公知の方法(例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合及びリビングカチオン重合等)で重合することで製造できる。例えば、特開平5-117330号公報等に記載の方法(前記単量体を溶剤(トルエン等)中でラジカル開始剤(ジ-t-ブチルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等)とともに反応させ溶液重合法により合成する方法)、及び特開平10-326026号公報に記載の方法で重合する方法等が挙げられる。
【0040】
本発明のトナーバインダーは、ビニル樹脂(A)以外のトナーバインダー用重合体として公知であるその他の樹脂(B)(特許第4493080号公報、特許第2105762号公報及び特開平06-194876号公報に記載の重合体等)を含有しても良い。
また、本発明のトナーバインダーは、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記のビニル樹脂(A)の重合時に使用した化合物及びその残渣を含んでいてもよい。
【0041】
その他の樹脂(B)としては、ポリエステル樹脂(B1)、(A)を除くビニル樹脂(B2)等が挙げられる。
【0042】
ポリエステル樹脂(B1)は、アルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)とを構成単量体とするポリエステル樹脂あればその樹脂の組成は特に限定されない。
これらは、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0043】
ポリエステル樹脂(B1)のアルコール成分(x)としては、モノオール、ジオール及び3価以上の価数のポリオール等が挙げられる。
これらは、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0044】
モノオールとしては、炭素数1~30の直鎖又は分岐アルキルアルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、1-デカノール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール及びリグノセリルアルコール等)等が挙げられる。
【0045】
ジオールとしては、炭素数2~12のアルキレングリコール(エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-デカンジオール)、炭素数4~36のアルキレンエーテルグリコール(例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等)、炭素数4~36の脂環式ジオール(例えば1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等)、上記脂環式ジオールのアルキレンオキサイド(以下、「アルキレンオキサイド」をAOと略記する)〔エチレンオキサイド(以下、「エチレンオキサイド」をEOと略記する)、プロピレンオキサイド(以下、「プロピレンオキサイド」をPOと略記する)、ブチレンオキサイド(以下、「ブチレンオキサイド」をBOと略記する)等〕付加物(好ましくは付加モル数1~30)、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等)のAO(EO、PO、BO等)付加物(好ましくは付加モル数2~30)、ポリラクトンジオール(ポリε-カプロラクトンジオール等)及びポリブタジエンジオール等が挙げられる。
【0046】
3価以上の価数のポリオールとしては、アルカンポリオール及びその分子内もしくは分子間脱水物(例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン及びポリグリセリン等)、糖類及びその誘導体(例えばショ糖及びメチルグルコシド等)、トリスフェノール類(トリスフェノールPA等)のAO付加物(付加モル数は好ましくは2~30)、ノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等が含まれ、平均重合度としては好ましくは3~60)のAO付加物(付加モル数は好ましくは2~30)及びアクリルポリオール[ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと他のビニルモノマーの共重合物等]等が挙げられる。
【0047】
(x)のうち低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保存性の観点で、好ましくはビスフェノール類のAO付加物(付加モル数2~3)、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール及びノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等が含まれ、平均重合度としては好ましくは3~60)のAO付加物(付加モル数は好ましくは2~30)である。
【0048】
ポリエステル樹脂(B1)のカルボン酸成分(y)としてはモノカルボン酸、ジカルボン酸、3価以上の価数のポリカルボン酸及びこれらの酸の無水物や低級アルキル(炭素数1~4)エステル(メチルエステル、エチルエステル及びイソプロピルエステル等)等が挙げられる。
これらは、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0049】
モノカルボン酸としては、炭素数(カルボニル基の炭素を含める)7~37の芳香族モノカルボン酸(安息香酸、トルイル酸、4-エチル安息香酸、4-プロピル安息香酸等)、炭素数2~50の脂肪族モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、(メタ)アクリル酸[「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。]、クロトン酸、イソクロトン酸及び桂皮酸等)等が挙げられる。
【0050】
ジカルボン酸としては、炭素数2~50のアルカンジカルボン酸{鎖状飽和炭化水素基の両末端にカルボキシル基を有するアルカンジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸等)、鎖状飽和炭化水素基の末端以外にカルボキシル基を有するアルカンジカルボン酸(デシルコハク酸等)}、炭素数4~50のアルケンジカルボン酸(ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸、オクタデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸及びシトラコン酸等)、炭素数6~40の脂環式ジカルボン酸〔ダイマー酸(2量化リノール酸)等〕、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸等)等が挙げられる。
【0051】
3価以上の価数のポリカルボン酸としては、例えば、炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、炭素数6~36の脂肪族トリカルボン酸(ヘキサントリカルボン酸等)及び不飽和カルボン酸のビニル重合体[数平均分子量(Mn):450~10,000](スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体、及びスチレン/フマル酸共重合体等)等が挙げられる。
【0052】
(y)のうち低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保存性の観点で、好ましくは炭素数7~37の芳香族モノカルボン酸(安息香酸)、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸等)、2~50のアルカンジカルボン酸(アジピン酸等)、炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)及びこれらの組合せである。また、これらの酸の無水物や低級アルキルエステルであってもよい。
【0053】
炭素数2~12のアルキレングリコール(直鎖脂肪族ジオール)の含有率は使用するジオール成分の70モル%以下が好ましく、より好ましくは60モル%以下である。また、ポリエステル樹脂(B1)を構成するアルコール成分(x)において、ジオール成分が90~100モル%であることが好ましい。
【0054】
本発明において、ポリエステル樹脂(B1)は公知のポリエステルと同様にして製造することができる。
例えば、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、反応温度が好ましくは150~280℃、さらに好ましくは160~250℃、とくに好ましくは170~235℃で構成成分を反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、とくに好ましくは2~40時間である。反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
【0055】
このとき必要に応じてエステル化触媒を使用することができる。エステル化触媒の例には、スズ含有触媒(例えばジブチルスズオキシド等)、三酸化アンチモン、チタン含有触媒[例えばチタンアルコキシド、シュウ酸チタン酸カリウム、テレフタル酸チタン、テレフタル酸チタンアルコキシド、特開2006-243715号公報に記載の触媒{チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムモノヒドロキシトリス(トリエタノールアミネート)、チタニルビス(トリエタノールアミネート)及びそれらの分子内重縮合物等}及び特開2007-11307号公報に記載の触媒(チタントリブトキシテレフタレート、チタントリイソプロポキシテレフタレート及びチタンジイソプロポキシジテレフタレート等)等]、ジルコニウム含有触媒(例えば酢酸ジルコニル等)及び酢酸亜鉛等が挙げられる。これらの中で好ましくはチタン含有触媒である。
【0056】
また、ポリエステル重合安定性を得る目的で、安定剤を添加してもよい。安定剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン及びヒンダードフェノール化合物等が挙げられる。
【0057】
本発明のトナーバインダーは低温定着性の観点から、トナーバインダーの合計重量を基準として前記ビニル樹脂(A)の重量割合が51重量%以上である。好ましくは51~97重量%であり、より好ましくは70~95重量%である。ビニル樹脂(A)の重量割合が51重量%未満であると低温定着性が悪化する。
また同様の観点から、トナーバインダーの合計重量を基準としてその他の樹脂(B)の重量割合は、好ましくは0~49重量%であり、より好ましくは5~30重量%である。
【0058】
本発明においてトナーバインダーの軟化点(T1/2)は、トナーとした際の低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは40~110℃であり、より好ましくは45~100℃、さらに好ましくは50~90℃である。軟化点(T1/2)が40℃以上の場合は結晶性及び保存安定性が良好となり、110℃以下の場合は低温定着性が良好となる。
【0059】
トナーバインダーの軟化点(T1/2)はトナーバインダー中の(A)の重量比率、(A)を構成する単量体の種類や構成比率(例えば、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数を調整すること及び(A)を構成する単量体(a)の重量比率を調整する等)、重量平均分子量などで調整することができる。例えば(A)の重量比を減らす、(a)の炭素数を増やす、(a)の重量比率を減らす、(A)の重量平均分子量を増やす等の方法によりT1/2を上げることができる。
【0060】
本発明におけるトナーバインダーの軟化点(T1/2)はビニル樹脂(A)の軟化点(T1/2)と同様の条件で測定される。
【0061】
トナーバインダーのDSC測定による吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は、40~100℃であることが好ましく、より好ましくは45~85℃であり、さらに好ましくは50~75℃である。
40℃以上ではトナーとした際の保存安定性が良好となる。一方で100℃以下であると低温定着性が良好となる。
なお、トナーバインダーの吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は、ビニル樹脂(A)の吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)の説明で述べた方法と同様の方法で測定することができる。
トナーバインダーの吸熱ピークのピークトップ温度(Tm)は、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数を調整すること及び(A)を構成する単量体(a)の重量比率を調整することにより、上記の好ましい範囲に調整することができる。例えば(a)の炭素数を増やす、(a)の重量比率を増やす、(A)の重量平均分子量を増やす等の方法によりTmを上げることができる。
【0062】
本発明のトナーバインダーは、ビニル樹脂(A)と上記のその他の樹脂(B)等とを、単に公知の機械的混合方法を用いることによって均一混合することで製造する方法、及び(A)と上記のその他の樹脂(B)等とを、溶剤中に同時に溶解して均一化し、その後溶剤を除去することで製造する方法等で得ることができる。
機械的混合方法において、粉体混合する場合の混合装置としては、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びバンバリーミキサー等が挙げられ、溶融混合する場合の混合装置としては、メカニカルスターラーやマグネティックスターラーを用いた反応槽等のバッチ式混合装置及び連続式混合装置が挙げられる。連続式混合装置としては、二軸混練機、スタティックミキサー、エクストルーダー、コンティニアスニーダー及び3本ロール等が挙げられる。
機械的混合方法を用いる場合の混合時の温度としては、50~200℃であることが好ましい。また、混合時間としては、0.5~24時間であることが好ましい。
溶剤に溶解する方法を用いる場合は、溶剤としては特に制限はなく、トナーバインダーを構成する全ての樹脂を好適に溶解するものであればよい(テトラヒドロフラン、トルエン及びアセトン等)。
溶剤を除去する時の温度は50~200℃であることが好ましく、必要に応じて減圧や排風することで溶剤の除去を促進することができる。
【0063】
本発明のトナーバインダー及びビニル樹脂(A)の蒸発後固形分量は、以下の方法で求めたものである。
トナーバインダー等の試料約2.00gをはかりとり、130℃で5kPa以下の減圧度で1時間の条件で乾燥する。乾燥後の試料を取り出し重量を小数点第2位まで測定し、(乾燥後の試料の重量/乾燥前の試料の重量)×100から蒸発後固形分量を算出する。
【0064】
本発明のトナーバインダーをトナーとして用いる場合は、必要により着色剤、離型剤、荷電制御剤及び流動化剤等を含有してもよい。
【0065】
着色剤としては、トナー用着色剤として使用されている染料、顔料等のすべてを使用することができる。カーボンブラック、鉄黒、スーダンブラックSM、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、ピグメントイエロー、インドファーストオレンジ、ピグメントレッド、イルガシンレッド、パラニトロアニリンレッド、トルイジンレッド、カーミンFB、ピグメントオレンジR、レーキレッド2G、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニンブルー、ピグメントブルー、ブリリアントグリーン、フタロシアニングリーン、ピグメントイエロー、オイルイエローGG、カヤセットYG、オラゾールブラウンB及びオイルピンクOP等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、必要により磁性粉(鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性金属の粉末もしくはマグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の化合物)を着色剤としての機能を兼ねて含有させることができる。
着色剤の含有量は、本発明のトナーバインダー100部に対して、好ましくは1~40部、より好ましくは3~10部である。なお、磁性粉を用いる場合は、好ましくは20~150部、より好ましくは40~120部である。上記及び以下において、部は重量部を意味する。
【0066】
離型剤としては、軟化点(T1/2)が55~110℃のものが好ましく、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、エステルワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられる。
なお、離型剤の軟化点(T1/2)はビニル樹脂(A)の軟化点(T1/2)と同様の条件で測定される。離型剤の軟化点(T1/2)が55℃以上だと保存性が良好となる。一方で110℃以下であることで保存性と低温定着性を高いレベルで両立できる。
【0067】
ポリオレフィンワックスとしては、オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-ドデセン、1-オクタデセン及びこれらの混合物等)の(共)重合体[(共)重合により得られるもの及びそれをさらに熱減成して得られるものを含む]、(例えば低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体)、オレフィンの(共)重合体の酸素及び/又はオゾンによる酸化物、オレフィンの(共)重合体のマレイン酸変性物[マレイン酸及びその誘導体(無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル及びマレイン酸ジメチル等)変性物等]、オレフィンと不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、イタコン酸及び無水マレイン酸等]及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル[(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル及びマレイン酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル等]等との共重合体等が挙げられる。
【0068】
マイクロクリスタリンワックスとしては、例えば、日本精蝋(株)製のHi-Mic-2095、Hi-Mic-1090、Hi-Mic-1080、Hi-Mic-1070、Hi-Mic-2065、Hi-Mic-1045、Hi-Mic-2045等が挙げられる。
【0069】
パラフィンワックスとしては、例えば、日本精蝋(株)製のParaffin WAX-155、Paraffin WAX-150、Paraffin WAX-145、Paraffin WAX-140、Paraffin WAX-135、HNP-3、HNP-5、HNP-9、HNP-10、HNP-11、HNP-12、HNP-51等が挙げられる。
【0070】
フィッシャートロプシュワックスとしては、サゾール社製のSasolwax C80等が挙げられる。
【0071】
カルナバワックスとしては、株式会社加藤洋行社製の精製カルナウバワックス 特製1号等が挙げられる。
【0072】
エステルワックスとしては、脂肪酸エステルワックス(例えば、日油社製のニッサンエレクトールWEP-2、WEP-3、WEP-4、WEP-5及びWEP-8等)等が挙げられる。
【0073】
高級アルコールとしては、炭素数30~50の脂肪族アルコールなどであり、例えばトリアコンタノールが挙げられる。脂肪酸としては、炭素数30~50の脂肪酸などであり、例えばトリアコンタンカルボン酸が挙げられる。
【0074】
脂肪酸アミドとしては、三菱ケミカル社製のダイヤミッドY、ダイヤミッド200等が挙げられる。
【0075】
上記の中では低温定着性や耐ホットオフセット性及び負帯電トナーの帯電性能の観点から好ましくは、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、カルナバワックス及びエステルワックス、脂肪酸アミド類、より好ましくはマイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、カルナバワックス及びエステルワックスである。
【0076】
上記離型剤はトナーバインダーに対して重量で3~25%使用することで、トナー化した際の低温定着性や保存性のバランスが優れたものにできる。使用量が3%以上だと耐ホットオフセット性が向上し、25%以下であることで耐ホットオフセット性と保存性を高いレベルで両立できる。
本発明のビニル樹脂(A)に対して上記の離型剤の種類と量を用いることで、優れた低温定着性と保存性の両立が可能となる。
【0077】
荷電制御剤としては、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよく、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、ポリアミン、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム塩基含有重合体、含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸金属塩、ベンジル酸のホウ素錯体、スルホン酸基含有重合体、含フッ素系重合体及びハロゲン置換芳香環含有重合体等が挙げられる。
【0078】
流動化剤としては、シリカ、チタニア、アルミナ、炭酸カルシウム、脂肪酸金属塩、シリコーン樹脂粒子及びフッ素樹脂粒子等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。トナーの帯電性の観点からシリカが好ましい。また、シリカは、トナーの転写性の観点から疎水性シリカであることが好ましい。
【0079】
トナー中のトナーバインダーの含有量はトナー重量に基づき、好ましくは30~97重量%、より好ましくは40~95重量%、さらに好ましくは45~92重量%である。着色剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0.05~60重量%、より好ましくは0.1~55重量%、さらに好ましくは0.5~50重量%である。離型剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~30重量%、より好ましくは0.5~20重量%、さらに好ましくは1~10重量%である。荷電制御剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0.1~10重量%、さらに好ましくは0.5~7.5重量%である。流動化剤の含有量はトナー重量に基づき、好ましくは0~10重量%、より好ましくは0~5重量%、さらに好ましくは0.1~4重量%である。また、着色剤、離型剤、荷電制御剤及び流動化剤の合計含有量は、好ましくは3~70重量%、より好ましくは4~58重量%、さらに好ましくは5~50重量%である。トナーの組成比を上記の範囲とすることで帯電性が良好なトナーを容易に得ることができる。
【0080】
本発明のトナーバインダーをトナーとして用いる場合のトナーの製造方法は特に限定されず、混練粉砕法、乳化転相法、乳化重合法、懸濁重合法、溶解懸濁法及び乳化凝集法等の公知の方法により得られたものであってもよい。
これらの製造方法のうち、生産性、低温定着性及び保存性の観点から混練粉砕法及び溶解懸濁法が好ましい。
【0081】
例えば、混練粉砕法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分をヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びバンバリーミキサー等で乾式ブレンドした後、二軸混練機、エクストルーダー、コンティニアスニーダー及び3本ロール等の連続式の混合装置で溶融混練し、その後ミル機等で粗粉砕し、最終的に気流式微粉砕機(例えば、超音速ジェット粉砕機等)等を用いて微粒子化して、さらに気流分級機等の分級機で粒度分布を調整することにより、トナー粒子[好ましくは体積平均粒径(D50)が5~20μmの粒子]とした後、流動化剤を混合して製造することができる。なお、体積平均粒径(D50)はコールターカウンター[例えば、商品名:マルチサイザーIII(ベックマン・コールター(株)製)]を用いて測定される。
【0082】
また、乳化転相法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分を有機溶剤に溶解又は分散後、水を添加する等によりエマルジョン化し、次いで分離、分級して製造することができる。トナーの体積平均粒径は、3~15μmが好ましい。
【0083】
乳化重合法及び懸濁重合法は、公知の方法[特公昭36-10231号公報、特公昭47-518305号公報、特公昭51-14895号公報等に記載の方法]を用いることができる。
【0084】
溶解懸濁法及び乳化凝集法は、公知の方法[特許第3596104号公報、特許第3492748号公報等に記載の方法]を用いることができる。
【0085】
本発明のトナーバインダーに用いられるトナーは、必要に応じて鉄粉、ガラスビーズ、ニッケル粉、フェライト、マグネタイト及び樹脂(アクリル重合体、及びシリコーン重合体等)により表面をコーティングしたフェライト等のキャリアー粒子と混合されて電気的潜像の現像剤として用いられる。トナーとキャリアー粒子との重量比は、1/99~100/0である。また、キャリアー粒子の代わりに帯電ブレード等の部材と摩擦し、電気的潜像を形成することもできる。
【0086】
本発明のトナーバインダーを含有するトナーは、電子写真用トナーとして複写機及びプリンター等により支持体(紙及びポリエステルフィルム等)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法及びフラッシュ定着方法等が適用できる。
【0087】
本発明のトナーバインダーを用いて作成されたトナーは電子写真法、静電記録法や静電印刷法等において、静電荷像又は磁気潜像の現像に用いられる。
【実施例】
【0088】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下において部は重量部を表す。
また、以下において実施例17~18及び26は参考例1~3を意味する。
【0089】
<製造例1>
オートクレーブにトルエン67部、ベヘニルアクリレート[日油(株)製、以下同様]25部、酢酸ビニル[ナカライテクス(株)製、以下同様]75部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌下密閉状態で70℃まで昇温した。ジ-t-ブチルパーオキシド[パーブチルD、日油(株)製、以下同様]0.150部を仕込み、オートクレーブ内温度を105℃まで昇温した後、同温度にコントロールしながら、3時間かけて重合を行った。その後130℃に昇温しながら0.5~2.5kPaの減圧下で脱溶剤を行い、蒸発後固形分量が99.90%以上となった時点で取り出し、ビニル樹脂(A1)を得た。
表1に組成及び物性を記した。
【0090】
<製造例2~28>
製造例1において、単量体(a)、単量体(b)、単量体(c)、溶剤及びラジカル開始剤の仕込み量を、表1~表3に記載の部数に変更する以外は、同様にして実施し、ビニル樹脂(A2~A29)を得た。分析値はそれぞれ表1~表3に示したとおりであった。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
<製造例30>[ポリエステル樹脂(B1)の合成]
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド2モル付加物40部、ビスフェノールAのエチレンオキシド2モル付加物30部、テレフタル酸27部、ジブチルスズオキシド0.3部を入れ、窒素気流下230℃で反応させ、生成する水を留去しながら10時間反応させた。次に、0.5~2.5kPaの減圧下に5時間反応させた後、酸価が1.0となったところで、温度を220℃まで降温し、無水トリメリット酸3部を入れ、1時間保持した後、反応槽から取り出し、ポリエステル樹脂(B1)を得た。ポリエステル樹脂(B1)の酸価は16、重量平均分子量は8,000、軟化点(Tsp)は100℃であった。
【0095】
<比較製造例1~6>
製造例1において、単量体(a)、単量体(b)、単量体(c)、溶剤及びラジカル開始剤の仕込み量を、表3に記載の部数に変更する以外は、同様にして実施し、ビニル樹脂(A’1)~(A’6)を得た。分析値はそれぞれ表3に示したとおりであった。
【0096】
<実施例1~31及び比較例1~6>
製造例1~29と比較製造例1~6で得たビニル樹脂(A1)~(A29)、(A’1)~(A’6)及び製造例30で得たポリエステル樹脂(B1)を表4~表6の通りの組成比率でテトラヒドロフランと混和して蒸発後固形分量が50%の均一溶液とした。続けて80℃にて溶剤除去を行い、蒸発後固形分量が99.90%以上の樹脂混合物を得てこれをトナーバインダー(D1)~(D31)及び(D’1~D’6)として以下に記載の方法でトナー(Ts1)~(Ts36)、(Tf1)、(Ts’1)~(Ts’6)を得た。トナーバインダーの吸熱ピークのピークトップ温度及び軟化点は表4~表6に示した。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
<溶解懸濁法によるトナー(Ts1)の製造>
[微粒子分散液1の製造]
撹拌棒及び温度計をセットした反応容器に、水683部、メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩[エレミノールRS-30、三洋化成工業社製]11部、ビニルベンゼン139部、メタクリル酸138部、アクリル酸ブチル184部、過硫酸アンモニウム1部を仕込み、400回転/分で15分間撹拌したところ、白色の乳濁液が得られた。加熱して、系内温度75℃まで昇温し5時間反応させた。さらに、1%過硫酸アンモニウム水溶液30部を加え、75℃で5時間熟成してビニルポリマー(ビニルベンゼン-メタクリル酸-アクリル酸ブチル-メタクリル酸エチレンオキサイド付加物硫酸エステルのナトリウム塩の共重合体)の水性分散液[微粒子分散液1]を得た。[微粒子分散液1]をレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置[株式会社堀場製作所製、LA-920]で測定した体積平均粒径は、0.15μmであった。
【0101】
[ワックス分散液1の製造]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、HNP9[日本精蝋(株)製]15部及び酢酸エチル85部を投入し、80℃に加熱して溶解し、1時間かけて30℃まで冷却し、HNP9を微粒子状に晶析させ、さらに「ウルトラビスコミル」(アイメックス製)で湿式粉砕し[ワックス分散液1]を作製した。
【0102】
[ワックス分散液2の製造]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、Hi-Mic-1090[日本精蝋(株)製]15部及び酢酸エチル85部を投入し、80℃に加熱して溶解し、1時間かけて30℃まで冷却し、Hi-Mic-1090を微粒子状に晶析させ、さらに「ウルトラビスコミル」(アイメックス製)で湿式粉砕し[ワックス分散液2]を作製した。
【0103】
[ワックス分散液3の製造]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、SasolC80[Sasol社製]15部及び酢酸エチル85部を投入し、80℃に加熱して溶解し、1時間かけて30℃まで冷却し、SasolC80を微粒子状に晶析させ、さらに「ウルトラビスコミル」(アイメックス製)で湿式粉砕し[ワックス分散液3]を作製した。
【0104】
[ワックス分散液4の製造]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、カルナバワックスNo1[株式会社加藤洋行製]15部及び酢酸エチル85部を投入し、80℃に加熱して溶解し、1時間かけて30℃まで冷却し、カルナバワックスNo1を微粒子状に晶析させ、さらに「ウルトラビスコミル」(アイメックス製)で湿式粉砕し[ワックス分散液4]を作製した。
【0105】
[ワックス分散液5の製造]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、ニッサンエレクトールWEP-5[日油(株)製]15部及び酢酸エチル85部を投入し、80℃に加熱して溶解し、1時間かけて30℃まで冷却し、WEP-5を微粒子状に晶析させ、さらに「ウルトラビスコミル」(アイメックス製)で湿式粉砕し[ワックス分散液5]を作製した。
【0106】
[ワックス分散液6の製造]
冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応容器に、ダイヤミッドY[三菱ケミカル株式会社製 以下同様]15部及び酢酸エチル85部を投入し、80℃に加熱して溶解し、1時間かけて30℃まで冷却し、ダイヤミッドYを微粒子状に晶析させ、さらに「ウルトラビスコミル」(アイメックス製)で湿式粉砕し[ワックス分散液6]を作製した。
【0107】
[顔料マスターバッチの製造]
水1200部、カーボンブラック(キャボット社製、リーガル400R)40部、製造例18で製造したビニル樹脂(A18)20部をヘンシェルミキサー[日本コークス工業(株)製 FM10B]で混合し、混合物を3本ロールを用いて90℃で30分混練後、圧延冷却しパルペライザーで粉砕して顔料マスターバッチ[MB1]を得た。
[水相s1の製造]
攪拌棒をセットした容器に、水955部、[微粒子分散液1]15部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム水溶液(エレミノールMON7、三洋化成工業製)30部を投入し、乳白色の液体[水相s1]を得た。
【0108】
[トナー(Ts1)の製造]
・粒子化
ビーカー内にトナーバインダー(D1)191部、顔料マスターバッチ[MB1]25部、[ワックス分散液1]67部、酢酸エチル124部を投入して溶解・混合均一化し、[油相s1]を得た。この[油相s1]中に[水相s1]600部を添加し、TKホモミキサー(プライミクス(株)製)を使用し、回転数12000rpmで25℃で1分間分散操作を行い、さらにフィルムエバポレータで減圧度-0.05MPa(ゲージ圧)、温度40℃、回転数100rpmの条件で30分間脱溶剤し、水性着色重合体分散体(X1)を得た。
・分級
(X1)100部を遠心分離し、さらに水60部を加えて再分散し遠心分離して固液分離する工程を2回繰り返した後、35℃で1時間乾燥した後に、エルボジェット分級機[(株)マツボウ製、EJ-L-3(LABO)型]で、3.17μm以下の微粉が12個数%以下、8.0μm以上の粗粉が3体積%以下となるように、微粉及び粗粉を除去して着色重合体粒子[Cs1]を得た。
・外添処理
次に、得られた着色粉体の着色重合体粒子[Cs1]100部に対し、疎水性シリカ[日本アエロジル(株)製、アエロジルR972]を1部添加し、周速を15m/secとして30秒混合した後に1分間の休止を行う操作を5サイクル繰り返して行い、トナー(Ts1)を得た。
【0109】
<溶解懸濁法によるトナー(Ts2)~(Ts31)及び(Ts’1)~(Ts’6)の製造>
トナーバインダー(D1)に変えて(D2)~(D31)及び(D’1)~(D’6)を用いること以外はトナー(Ts1)と同様の手順でそれぞれ[油相s2]~[油相s31]及び[油相s’1]~[油相s’6]を得て、表7~表10に記載の組成でトナー(Ts2)~(Ts31)及び(Ts’1)~(Ts’6)を得た。
【0110】
<実施例32~36:溶解懸濁法によるトナー(Ts32)~(Ts36)の製造>
ワックス分散液として[ワックス分散液1]に変えて[ワックス分散液2]~[ワックス分散液6]用いること以外はトナー(Ts1)と同様の手順でそれぞれ[油相s32]~[油相s36]を得て、表9に記載の組成でトナー(Ts32)~(Ts36)を得た。
【0111】
<実施例37:混練粉砕法によるトナー(Tf1)の製造>
・混練
トナーバインダー(D1)85部、着色剤のカーボンブラック[三菱ケミカル(株)製、MA-100]6部、離型剤のカルナウバワックス[日本ワックス社製、カルナバワックス]4部、荷電制御剤のアイゼンスピロンブラック[保土谷化学(株)製、T-77]4部を下記の方法でトナー化した。まず、ヘンシェルミキサー[日本コークス工業(株)製 FM10B]を用いて各々の原料を予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練した。
・粉砕、分級
ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製、LJ型]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 、MDS-I]で分級し、着色樹脂粒子(FP1)を得た。
・外添処理
ついで、着色樹脂粒子(FP1)100部に流動化剤として疎水性シリカ[日本アエロジル(株)製、アエロジルR972]1部をサンプルミルにて混合して、トナー(Tf1)を得た。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
実施例1~37で得たトナー(Ts1)~(Ts36)及び(Tf1)並びに比較例1~6で得られた比較用のトナー(Ts’1)~(Ts’6)について、粒子径、低温定着性(MFT)、耐ホットオフセット性(ホットオフセット温度)及び保存安定性(ブロッキング試験)、耐ドキュメントオフセット性を下記の方法で評価した。結果を表7~表10に示す。
【0117】
<粒子径>
トナーの粒子径は以下の方法で測定した。
トナーのサンプル約0.1gをビーカーに秤量し、分散剤としてドライウェル(富士フイルム社製)2mLとイオン交換水4mLを加え、20W以上の超音波分散機で3分間分散させた後、さらにアイソトンIIを10~30mL加え、再び20W以上の超音波分散機で3分間分散させた後、速やかに粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザーIII)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;電解液(アイソトンII)、測定粒子個数;100,000個の条件下で、体積平均粒径(Dv50)と粒度分布(Dv50/Dn50)を測定し、この値をトナーの粒子径(μm)及び粒度分布とした。
【0118】
<低温定着性(MFT)と耐ホットオフセット性(ホットオフセット温度)>
トナーを紙面上に0.6mg/cm2となるよう均一に載せる。このとき粉体を紙面に載せる方法は、熱定着機を外したプリンターを用いた。この紙を加圧ローラーに定着速度(加熱ローラ周速)213mm/sec、定着圧力(加圧ローラ圧)5kg/cm2の条件で通した時の最低定着温度(MFT)とホットオフセット温度を測定した。MFTが低いほど、低温定着性に優れることを意味し、この評価条件では、一般には125℃以下であることが好ましい。またホットオフセット温度が高いほど、耐ホットオフセット性に優れることを意味する。この評価条件では、160℃以上であることが好ましい。また、表10中、MFT又はホットオフセット温度が「定着しない」とあるものは、MFT又はホットオフセット温度が測定できなかったことを意味する。
【0119】
<保存安定性(ブロッキング試験)>
・ブロッキング試験1
50℃、湿度50%に温調調湿された乾燥機にトナーを15時間静置し、ブロッキングの有無を目視で判断し、下記の基準で評価を行った。
1-◎:ブロッキングは発生しておらず目視での流動性に変化なし
1-○:ブロッキングが発生しているが容器を揺すると凝集がほどけて流動する
1-×:ブロッキングが発生している
・ブロッキング試験2
50℃、湿度80%に温調調湿された乾燥機にトナーを15時間静置し、ブロッキングの有無を目視で判断し、下記の基準で耐熱保存安定性を評価した。
2-◎:ブロッキングは発生しておらず目視での流動性に変化なし
2-○:ブロッキングが発生しているが容器を揺すると凝集がほどけて流動する
2-×:ブロッキングが発生している
保存安定性はブロッキング試験1、2の結果の組合せから以下の判定基準で6段階で評価した。この評価条件では、4以上であることが好ましい。
1:1-×かつ2-×
2:1-○かつ2-×
3:1-◎かつ2-×
4:1-○かつ2-○
5:1-◎かつ2-○
6:1-◎かつ2-◎
【0120】
<耐ドキュメントオフセット性>
低温定着性の評価で得られた画像が定着されたA4の紙2枚を、定着面同士で重ね合わせ、420gの加重(0.68g/cm2)をかけ、65℃で10分間静置した。
重ね合わせた紙同士を引き離したときの状態について、下記の判定基準で耐ドキュメントオフセット性を評価した。
【0121】
[判定基準]
○:抵抗なし
△:パリパリと音がするが、紙面から画像は剥がれない
×:紙面から画像が剥がれる
【0122】
表7~10の評価結果から明らかなように、本発明のトナーバインダーを含有するトナー(Ts1)~(Ts36)及び(Tf1)は、低温定着性、耐ホットオフセット性及び保存安定性が良好である。
一方で、比較用のトナーバインダーを含有するトナー(Ts’1)~、(Ts’6)は、低温定着性(MFT)、耐ホットオフセット性(ホットオフセット温度)及び保存安定性のうち、少なくとも1つで評価結果が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のトナーバインダーを用いたトナーは、低温定着性、耐ホットオフセット性、保存安定性及び耐ドキュメントオフセット性に優れるため、電子写真、静電記録及び静電印刷等に用いる静電荷像現像用トナーとして有用である。さらに、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、電子ペーパー用粒子などの用途として好適である。