(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】伝送ユニット及び建設機械
(51)【国際特許分類】
H04B 3/50 20060101AFI20221219BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20221219BHJP
B66C 13/12 20060101ALI20221219BHJP
B66C 13/40 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H04B3/50
E02F9/00 C
B66C13/12 E
B66C13/40 B
(21)【出願番号】P 2017176935
(22)【出願日】2017-09-14
【審査請求日】2020-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000140719
【氏名又は名称】株式会社加藤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】加納 稔大
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 清美
(72)【発明者】
【氏名】春山 かおる
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-283737(JP,A)
【文献】特開平07-125977(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199431(WO,A1)
【文献】特表2018-506934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/50
E02F 9/00
B66C 13/12
B66C 13/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を第1の伝送対象として伝送する電圧ライン及びグランドラインとなる一対の伝送経路であって、前記第1の伝送対象を互いに対して並行して伝送する一対の導電ラインをそれぞれが備え、コードからそれぞれが形成される一対の伝送経路と、
前記一対の伝送経路の一方である前記電圧ラインにおいて前記一対の導電ラインによって前記第1の伝送対象が並行して伝送される第1の並行伝送区間に、前記第1の伝送対象とは異なる信号を第2の伝送対象として差動でそれぞれが印加可能であり、前記電圧ラインにおける前記第1の伝送対象の前記第1の並行伝送区間を介して前記第2の伝送対象を互いの間で伝送する一対の第1の伝送装置と、
前記第1の並行伝送区間の両端に設けられ、前記電圧ラインにおいて前記第1の並行伝送区間の区間外へ前記第1の伝送対象を伝送させるとともに、前記電圧ラインにおいて前記第1の並行伝送区間の前記区間外への前記第2の伝送対象の伝送を抑制する一対の第1の方向性結合回路と、
前記一対の伝送経路の他方である前記グランドラインにおいて前記一対の導電ラインによって前記第1の伝送対象が並行して伝送される第2の並行伝送区間に、前記第1の伝送対象とは異なり、かつ、前記第2の伝送対象とは通信方式が異なる信号を第3の伝送対象として差動でそれぞれが印加可能であり、前記グランドラインにおける前記第1の伝送対象の前記第2の並行伝送区間を介して前記第3の伝送対象を互いの間で伝送する一対の第2の伝送装置と、
前記第2の並行伝送区間の両端に設けられ、前記グランドラインにおいて前記第2の並行伝送区間の区間外へ前記第1の伝送対象を伝送させるとともに、前記グランドラインにおいて前記第2の並行伝送区間の前記区間外への前記第3の伝送対象の伝送を抑制する一対の
第2の方向性結合回路と、
を具備し、
前記一対の第1の方向性結合回路のそれぞれは、前記一対の第1の伝送装置の対応する一方から前記第2の伝送対象として伝送された非平衡信号を平衡信号に変換し、前記平衡信号に変換した前記第2の伝送対象を前記電圧ラインの前記第1の並行伝送区間において平衡伝送させるとともに、前記第1の並行伝送区間を平衡伝送された前記第2の伝送対象を前記平衡信号から前記非平衡信号に変換し、前記非平衡信号に変換した前記第2の伝送対象を前記一対の第1の伝送装置の対応する一方に伝送し、
前記一対の第2の方向性結合回路のそれぞれは、前記一対の第2の伝送装置の対応する一方から前記第3の伝送対象として伝送された非平衡信号を平衡信号に変換し、前記平衡信号に変換した前記第3の伝送対象を前記グランドラインの前記第2の並行伝送区間において平衡伝送させるとともに、前記第2の並行伝送区間を平衡伝送された前記第3の伝送対象を前記平衡信号から前記非平衡信号に変換し、前記非平衡信号に変換した前記第3の伝送対象を前記一対の第2の伝送装置の対応する一方に伝送する、
伝送ユニット。
【請求項2】
前記第2の伝送対象及び前記第3の伝送対象のそれぞれの周波数帯域は、前記第1の伝送対象の周波数帯域に比べて、高く、
前記一対の第1の方向性結合回路の少なくとも一方は、前記第1の伝送対象を通過させるとともに、前記第2の伝送対象の通過を抑制するチョークコイルを備え、
前記一対の第2の方向性結合回路の少なくとも一方は、前記第1の伝送対象を通過させるとともに、前記第3の伝送対象の通過を抑制するチョークコイルを備える、
請求項1の伝送ユニット。
【請求項3】
前記一対の第1の方向性結合回路の少なくとも一方は、前記第1の並行伝送区間においてコモンモードで伝送される前記第1の伝送対象を通過させるとともに、前記第1の並行伝送区間においてノーマルモードで伝送される前記第2の伝送対象の通過を抑制するノーマルモードチョークトランスを備え、
前記一対の第2の方向性結合回路の少なくとも一方は、前記第2の並行伝送区間においてコモンモードで伝送される前記第1の伝送対象を通過させるとともに、前記第2の並行伝送区間においてノーマルモードで伝送される前記第3の伝送対象の通過を抑制するノーマルモードチョークトランスを備える、
請求項1の伝送ユニット。
【請求項4】
請求項1の伝送ユニットを具備する建設機械。
【請求項5】
ベースと、
前記ベースに回転可能に連結されるロータと、
をさらに具備し、
前記電圧ラインの前記一対の導電ライン及び前記グランドラインの前記一対の導電ラインは、前記ベースと前記ロータとの連結部を通って延設され、
前記電圧ラインの前記一対の導電ライン及び前記グランドラインの前記一対の導電ラインのそれぞれは、前記連結部に対してベース側に延設されるベース側部分と、前記連結部に対してロータ側に延設され、前記ロータの回転に連動して前記ベースに対して回転するロータ側部分とを備え、
前記建設機械は、前記ベースと前記ロータとの前記連結部に設けられ、前記電圧ラインの前記一対の導電ライン及び前記グランドラインの前記一対の導電ラインのそれぞれにおいて前記ベース側部分と前記ロータ側部分とを電気的に接続する回転接続コネクタをさらに備える、
請求項4の建設機械。
【請求項6】
前記一対の第1の方向性結合回路の一方は、前記連結部に対してベース側に配置されるとともに、前記一対の第1の方向性結合回路の前記一方には、前記電圧ラインの前記一対の導電ラインのそれぞれの前記ベース側部分が接続され、
前記一対の第1の方向性結合回路の他方は、前記連結部に対してロータ側に配置されるとともに、前記一対の第1の方向性結合回路の前記他方には、前記電圧ラインの前記一対の導電ラインのそれぞれの前記ロータ側部分が接続され、
前記一対の第2の方向性結合回路の一方は、前記連結部に対してベース側に配置されるとともに、前記一対の第2の方向性結合回路の前記一方には、前記グランドラインの前記一対の導電ラインのそれぞれの前記ベース側部分が接続され、
前記一対の第2の方向性結合回路の他方は、前記連結部に対してロータ側に配置されるとともに、前記一対の第2の方向性結合回路の前記他方には、前記グランドラインの前記一対の導電ラインのそれぞれの前記ロータ側部分が接続される、
請求項5の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力又は信号等の第1の伝送対象の伝送経路に、第1の伝送対象とは異なる信号を第2の伝送対象として重畳して伝送する伝送ユニットに関する。また、その伝送ユニットを備える建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
電力(第1の伝送対象)の伝送経路に信号(第2の伝送対象)を重畳して伝送する技術としてPLC(電力線通信:Power Line Communication)という技術がある。PLCでは、直流電力又は商用電源のような低周波の交流電力の伝送経路に、例えば2MHz以上28MHz以下の高周波帯域の信号に変調された制御信号等の信号が、いわゆる周波数分割多重化(FDM:Frequency Division Multiplexing)によって重畳される。そして、電力及び重畳された信号が、共通の経路(媒体)を介して伝送される。従来のPLCでは、単相三線式の一対の電圧線に信号が重畳されたり、単相三線式の一方の電圧線及び中性線に信号が重畳されたり、電源からの電圧線(非グランド線)及びグランド線に信号が重畳されたりする。すなわち、従来のPLCでは、電力伝送のホット側経路及びコールド側経路に信号が重畳される。特許文献1では、電気自動車等の車両に外部から一対の給電線(電圧線)を通して、電力が給電される。そして、電力が伝送される一対の給電線に通信信号等の信号が重畳され、一対の給電線を介して信号が伝送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車等の車両内においては、接地されていない一本の電圧線(非グランド線)及び接地されるグランド側経路を通して電力が第1の伝送対象として伝送され、グランド側経路として車体のボディが用いられることがある。このような構成において、電力が伝送される電圧線及びグランド側経路に、信号を第2の伝送対象として重畳すると(印加すると)、信号の往路及び復路(電圧線及びグランド側経路)での互いに対する信号の平衡性(対称性)が低下する可能性がある。また、グランド側経路が車体のボディとなるため、重畳される信号の往路及び復路を形成する領域が極度に広くなり、大きな不要輻射が発生する可能性がある。平衡性の低下及び大きさ不要輻射の発生が、第2の伝送対象として伝送される信号の伝送性に影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電力等の第1の伝送対象を伝送する伝送経路に信号を第2の伝送対象として重畳して伝送する伝送ユニットにおいて、重畳された第2の伝送対象の伝送性を適切に確保する伝送ユニットを提供することにある。また、その伝送ユニットを備える建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のある態様の伝送ユニットは、直流電力を第1の伝送対象として伝送する電圧ライン及びグランドラインとなる一対の伝送経路であって、前記第1の伝送対象を互いに対して並行して伝送する一対の導電ラインをそれぞれが備え、コードからそれぞれが形成される一対の伝送経路と、前記一対の伝送経路の一方である前記電圧ラインにおいて前記一対の導電ラインによって前記第1の伝送対象が並行して伝送される第1の並行伝送区間に、前記第1の伝送対象とは異なる信号を第2の伝送対象として差動でそれぞれが印加可能であり、前記電圧ラインにおける前記第1の伝送対象の前記第1の並行伝送区間を介して前記第2の伝送対象を互いの間で伝送する一対の第1の伝送装置と、前記第1の並行伝送区間の両端に設けられ、前記電圧ラインにおいて前記第1の並行伝送区間の区間外へ前記第1の伝送対象を伝送させるとともに、前記電圧ラインにおいて前記第1の並行伝送区間の前記区間外への前記第2の伝送対象の伝送を抑制する一対の第1の方向性結合回路と、前記一対の伝送経路の他方である前記グランドラインにおいて前記一対の導電ラインによって前記第1の伝送対象が並行して伝送される第2の並行伝送区間に、前記第1の伝送対象とは異なり、かつ、前記第2の伝送対象とは通信方式が異なる信号を第3の伝送対象として差動でそれぞれが印加可能であり、前記グランドラインにおける前記第1の伝送対象の前記第2の並行伝送区間を介して前記第3の伝送対象を互いの間で伝送する一対の第2の伝送装置と、前記第2の並行伝送区間の両端に設けられ、前記グランドラインにおいて前記第2の並行伝送区間の区間外へ前記第1の伝送対象を伝送させるとともに、前記グランドラインにおいて前記第2の並行伝送区間の前記区間外への前記第3の伝送対象の伝送を抑制する一対の第2の方向性結合回路と、を備え、前記一対の第1の方向性結合回路のそれぞれは、前記一対の第1の伝送装置の対応する一方から前記第2の伝送対象として伝送された非平衡信号を平衡信号に変換し、前記平衡信号に変換した前記第2の伝送対象を前記電圧ラインの前記第1の並行伝送区間において平衡伝送させるとともに、前記第1の並行伝送区間を平衡伝送された前記第2の伝送対象を前記平衡信号から前記非平衡信号に変換し、前記非平衡信号に変換した前記第2の伝送対象を前記一対の第1の伝送装置の対応する一方に伝送し、前記一対の第2の方向性結合回路のそれぞれは、前記一対の第2の伝送装置の対応する一方から前記第3の伝送対象として伝送された非平衡信号を平衡信号に変換し、前記平衡信号に変換した前記第3の伝送対象を前記グランドラインの前記第2の並行伝送区間において平衡伝送させるとともに、前記第2の並行伝送区間を平衡伝送された前記第3の伝送対象を前記平衡信号から前記非平衡信号に変換し、前記非平衡信号に変換した前記第3の伝送対象を前記一対の第2の伝送装置の対応する一方に伝送する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力等の第1の伝送対象を伝送する伝送経路に信号を第2の伝送対象として重畳し、重畳された第2の伝送対象の伝送性を適切に確保する伝送ユニットを提供することができる。また、その伝送ユニットを備える建設機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、ある実施形態に係る伝送ユニットの構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、第1の実施例に係る方向性結合回路が適用された伝送ユニットを示す概略図である。
【
図3】
図3は、第2の実施例に係る方向性結合回路が適用された伝送ユニットを示す概略図である。
【
図4】
図4は、クレーンにおける通信応用システムの一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、ある実施形態に係る伝送ユニットの第1の適用例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、ある実施形態に係る伝送ユニットの第2の適用例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、ある実施形態に係る伝送ユニットの第3の適用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のある実施形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る伝送ユニット1の構成を概略的に示す。
図1に示すように、伝送ユニット1は、電力又は信号を第1の伝送対象(
図1では矢印S1で示す)として伝送する伝送経路2を備える。ある実施例では、第1の伝送対象として電力が伝送され、伝送経路2は、非グランド側経路(電圧ライン)及びグランド側経路の一方である。別のある実施例では、単相三線式の一対の電圧線を介しての電力伝送と同様に、接地されていない(非グランドの)一対のホット側経路及びコールド側経路を介して電力が第1の伝送対象として伝送される。そして、伝送経路2は、ホット側経路及びコールド側経路の一方である。また、別のある実施例では、信号が第1の伝送対象として伝送され、伝送経路2は、信号の往路及び復路の一方である。
【0011】
伝送経路2は、一対の方向性結合回路(方向性結合器)3,4と、導電ライン5~8を備える。方向性結合回路3には、導電ライン5の一端が接続されるとともに、導電ライン6,7の一端が接続される。また、方向性結合回路4には、導電ライン6,7の他端が接続されるとともに、導電ライン8の一端が接続される。前述のような構成であるため、導電ライン5は、方向性結合回路3を介して一対の導電ライン6,7に分岐され、導電ライン8は、方向性結合回路4を介して一対の導電ライン6,7に分岐される。そして、方向性結合回路3,4の間では、一対の導電ライン6,7が互いに対して並行する。第1の伝送対象は、一対の導電ライン6,7において、互いに対して同時に並行して伝送される。したがって、方向性結合回路3,4の間には、一対の導電ライン6,7によって第1の伝送対象が並行して伝送される並行伝送区間10が、形成される。一対の方向性結合回路3,4は、並行伝送区間10の両端に配置される。
【0012】
前述のように第1の伝送対象が伝送されるため、第1の伝送対象に基づく電流の方向は、一対の導電ライン6,7において互いに対して同一になる。そして、第1の伝送対象として交流電力又は信号が伝送される場合、第1の伝送対象は、導電ライン6,7において互いに対して同位相になる。このように、第1の伝送対象は、並行伝送区間10において、コモンモードで伝送される。
【0013】
また、伝送ユニット1は、伝送装置(送受信装置)11,12を備える。伝送装置11,12のそれぞれは、例えば、デジタル通信におけるモデム(modem)である。伝送装置11,12のそれぞれは、制御信号又は情報信号等を高周波帯域の信号に変調し(modulate)、変調した信号を第2の伝送対象(
図1では矢印S2で示す)として並行伝送区間10の導電ライン6,7に印加する。この際、いわゆる周波数分割多重化によって、第1の伝送対象とは異なる信号が、第2の伝送対象として並行伝送区間10に重畳される。並行伝送区間10に印加された第2の伝送対象は、導電ライン6,7を通して伝送される。また、伝送装置11,12のそれぞれは、導電ライン6,7を通して伝送された第2の伝送対象を受取り、受取った高周波帯域の信号を制御信号又は情報信号等に復調する(demodulate)。
【0014】
伝送装置11,12のそれぞれは、並行伝送区間10に第2の伝送対象を差動で印加し、第2の伝送対象(信号)は、並行伝送区間10において平衡伝送(差動伝送)される。差動伝送では、第2の伝送対象に基づく電流の方向は、一対の導電ライン6,7において互いに対して反対になり、第2の伝送対象は、導電ライン6,7において互いに対して逆位相になる。このように、第2の伝送対象は、並行伝送区間10において、ノーマルモード(ディファレンシャルモード)で伝送される。
【0015】
方向性結合回路3,4のそれぞれは、伝送経路2において並行伝送区間10の区間外へ、第1の伝送対象を伝送させる。したがって、第1の伝送対象は、並行伝送区間10から導電ライン5へ方向性結合回路3を通して、ほとんど減衰されることなく伝送される。そして、第1の伝送対象は、並行伝送区間10から導電ライン8へ方向性結合回路4を通して、ほとんど減衰されることなく伝送される。また、方向性結合回路3,4のそれぞれは、伝送経路2において並行伝送区間10の区間外への第2の伝送対象の伝送を抑制する。ある実施例では、方向性結合回路3,4によって、第2の伝送対象は、並行伝送区間10の区間外(導電ライン5,8)に全く伝送されない。また、別のある実施例では、第2の伝送対象は、方向性結合回路3,4のそれぞれによって、規定された減衰量以上で減衰される。規定された減衰量は、例えば、第2の伝送対象の振幅を第1の伝送対象の振幅に対して無視可能な程度にまで減衰させる減衰量である。この場合、第2の伝送対象は、第1の伝送対象との干渉が有効に防止される程度まで減衰される。
【0016】
以下、方向性結合回路3,4の構成について説明する。
図2は、第1の実施例に係る方向性結合回路3,4が適用された伝送ユニット1を示す。本実施例では、方向性結合回路3は、一対のチョークコイル15,16及びトランス21を備え、方向性結合回路4は、一対のチョークコイル17,18及びトランス22を備える。また、
図2の伝送ユニット1では、伝送装置11としてPLCモデム11Aが用いられ、伝送装置12としてPLCモデム12Aが用いられる。PLCモデム11Aは、トランス21の一方の巻線に接続され、トランス21の他方の巻線は、並行伝送区間10の一対の導電ライン6,7に並列に接続される。また、PLCモデム12Aは、トランス22の一方の巻線に接続され、トランス22の他方の巻線は、並行伝送区間10の一対の導電ライン6,7に並列に接続される。ここで、PLCモデム11A,12Aは、一方がPLCマスタとなり、他方がPLCスレーブとなる。
【0017】
PLCモデム11Aは、イーサネット(登録商標)を介して伝送された信号を、高周波帯域の非平衡信号であるPLC信号に変調する。そして、トランス21は、非平衡信号であるPLC信号を平衡信号に変換し、平衡信号に変換されたPLC信号を第2の伝送対象として並行伝送区間10に印加する。これにより、第2の伝送対象であるPLC信号が、第1の伝送対象の並行伝送区間10において、平衡伝送(差動伝送)される。そして、トランス22は、平衡信号として伝送されたPLC信号を非平衡信号に変換する。PLCモデム12Aは、非平衡信号に変換されたPLC信号を受取る。PLCモデム12Aは、受取ったPLC信号を、イーサネットを介して伝送される信号に復調する。なお、PLCモデム12AからPLCモデム11AへのPLC信号(第2の伝送対象)の伝送も、並行伝送区間10を通しての伝送方向が反対になることを除き、PLCモデム11AからPLCモデム12AへのPLC信号の伝送と同様にして行われる。
【0018】
チョークコイル15は、導電ライン6の一端に配置され、チョークコイル16は、導電ライン7の一端に配置される。また、チョークコイル17は、導電ライン6の他端に配置され、チョークコイル18は、導電ライン7の他端に配置される。チョークコイル15~18のそれぞれは、インダクタとして作用し、高周波帯域の信号に対して高いインピーダンスを有する。そして、チョークコイル15~18それぞれは、直流電力、低周波の電力及び低周波帯域の信号に対して、ゼロ又は低いインピーダンスを有する。このため、チョークコイル15~18のそれぞれは、直流電流、低周波の電流及び低周波帯域の信号を通過させ、高周波帯域の信号の通過を抑制する。
【0019】
ここで、
図2の伝送ユニット1は、第1の伝送対象が直流電力、低周波の交流電力及び低周波帯域の信号いずれかであり、かつ、第2の伝送対象が高周波帯域の信号である場合に、用いられる。このため、
図2の伝送ユニット1が用いられる場合、第2の伝送対象の周波数帯域が、第1の伝送対象の周波数帯域に比べて、高い。なお、
図2の伝送ユニット1において第2の伝送対象として伝送されるPLC信号は、例えば2MHz以上28MHz以下の高周波帯域の信号である。
図2の伝送ユニット1では、チョークコイル15~18のそれぞれは、直流電力、低周波の交流電力及び低周波帯域の信号いずれかである第1の伝送対象を通過させる。そして、チョークコイル15~18のそれぞれは、高周波帯域のPLC信号である第2の伝送対象の通過を抑制する。この際、第2の伝送対象は、チョークコイル15~18のそれぞれを全く通過しない、又は、チョークコイル15~18において大きく減衰される。本実施例では、チョークコイル15~18のそれぞれが第2の伝送対象の通過を抑制することにより、伝送経路2において並行伝送区間10の区間外への第2の伝送対象の伝送が抑制される。
【0020】
また、
図2の伝送ユニット1では、並行伝送区間10に、ロータリーブラシ又はスリップリング等の回転接続コネクタ23が配置される。
図2の伝送ユニット1が設置される構造体は、ベース(
図2では図示しない)と、ベースに対して回転可能に連結されるロータ(
図2では図示しない)と、を備える。そして、導電ライン6,7(並行伝送区間10)は、ベースとロータとの連結部を通って延設され、回転接続コネクタ23は、ベースとロータとの連結部に配置される。
図2の伝送ユニット1では、例えば、PLCモデム11A及び方向性結合回路3がベース側に配置され、PLCモデム12A及び方向性結合回路4がロータ側に配置される。また、
図2の伝送ユニット1では、一対の導電ライン6,7のそれぞれは、ベース側に延設されるベース側部分(X1びX2の対応する一方)、及び、ロータ側に延設されるロータ側部分(Y1及びY2の対応する一方)を備える。ロータ側部分Y1,Y2は、ロータの回転に連動して、ベースに対して回転する。導電ライン6のベース側部分X1は、回転接続コネクタ23によって、導電ライン6のロータ側部分Y1に電気的に接続される。そして、導電ライン7のベース側部分X2は、回転接続コネクタ23によって、導電ライン7のロータ側部分Y2に電気的に接続される。
【0021】
図3は、第2の実施例に係る方向性結合回路3,4が適用された伝送ユニット1を示す。本実施例では、方向性結合回路3は、一対のチョークコイル15,16の代わりにノーマルモードチョークトランス25を備え、方向性結合回路4は、一対のチョークコイル17,18の代わりにノーマルモードチョークトランス26を備える。なお、その他の構成については、
図2の伝送ユニット1と同様である。本実施例では、第1の伝送対象の並行伝送区間10の一端に、ノーマルモードチョークトランス25が配置され、並行伝送区間10の他端に、ノーマルモードチョークトランス26が配置される。ノーマルモードチョークトランス25は、一対のコイル31,32を備える。そして、コイル31に導電ライン6が接続され、コイル32に導電ライン7が接続される。そして、ノーマルモードチョークトランス25において並行伝送区間10とは反対側の端子で、導電ライン6,7が合流し、伝送経路2が一本の導電ライン5になる。同様に、ノーマルモードチョークトランス26は、一対のコイル33,34を備える。そして、コイル33に導電ライン6が接続され、コイル34に導電ライン7が接続される。そして、ノーマルモードチョークトランス26において並行伝送区間10とは反対側の端子で、導電ライン6,7が合流し、伝送経路2が一本の導電ライン8になる。
【0022】
ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれは、並行伝送区間10をノーマルモードで伝送される電力及び信号に対しては、インダクタとして作用する。このため、並行伝送区間10においてノーマルモードで伝送される高周波帯域の信号は、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれにおいて、通過が抑制される。また、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれは、並行伝送区間10をコモンモードで伝送される電力及び信号に対しては、インダクタとして作用しない。このため、高周波帯域の信号であっても、並行伝送区間10をコモンモードで伝送される場合は、信号は、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれを、ほとんど減衰されることなく通過する。
【0023】
前述のように、第1の伝送対象は、並行伝送区間10においてコモンモードで伝送され、高周波帯域のPLC信号である第2の伝送対象は、並行伝送区間10においてノーマルモードで伝送される。したがって、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれは、第1の伝送対象を通過させるとともに、第2の伝送対象の通過を抑制する。本実施例では、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれが第2の伝送対象の通過を抑制することにより、伝送経路2において並行伝送区間10の区間外への第2の伝送対象の伝送が抑制される。
【0024】
また、
図3の伝送ユニット1では、第1の伝送対象が例えば高周波帯域の信号であっても、並行伝送区間10において第1の伝送対象がコモンモードで伝送されるため、第1の伝送対象は、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれを、ほとんど減衰されることなく通過する。すなわち、第1の伝送対象が高周波帯域の信号であっても、並行伝送区間10から並行伝送区間10の区間外へ、ほとんど減衰されることなく伝送される。このため、
図3の伝送ユニット1は、第1の伝送対象及び第2の伝送対象の両方が高周波帯域の信号であり、かつ、第1の伝送対象及び第2の伝送対象が互いに対して周波数帯域が重なる場合にも、適用可能である。そして、
図3の伝送ユニット1では、第1の伝送対象及び第2の伝送対象の周波数帯域が互いに対して高周波帯域で重なる場合でも、並行伝送区間10の区間外への第2の伝送対象の伝送が有効に抑制され、第1の伝送対象及び第2の伝送対象の干渉が有効に防止される。
【0025】
なお、ある実施例では、方向性結合回路3にチョークコイル15,16が設けられ、方向性結合回路4にノーマルモードチョークトランス26が設けられる。この場合、並行伝送区間10の一端にチョークコイル15,16が配置され、並行伝送区間10の他端にノーマルモードチョークトランス26が配置される。また、別のある実施例では、方向性結合回路3にノーマルモードチョークトランス25が設けられ、方向性結合回路4にチョークコイル17,18が設けられる。この場合、並行伝送区間10の一端にノーマルモードチョークトランス25が配置され、並行伝送区間10の他端にチョークコイル17,18が配置される。
【0026】
前述した伝送ユニット1は、クレーン及びパワーショベル等の建設機械に設置可能である。以下、伝送ユニット1が、クレーンに設置される適用例について説明する。なお、パワーショベル等のその他の建設機械についても、クレーンと同様にして、前述の伝送ユニット1を適用可能である。
【0027】
図4は、クレーン100における通信応用システムの一例を、概略的に示す。
図4に示すように、クレーン100は、下部走行体(ベース)101と、下部走行体101に対して旋回可能(回転可能)に連結される旋回体(ロータ)102と、を備える。下部走行体101には、カメラ103A~103C、コントローラ(制御装置)105及びセンサ(
図4では図示しない)等が、通信機器(telecommunication equipment)として設けられる。また、旋回体102には、モニタ106及びコントローラ(制御装置)107等が、通信機器として設けられる。クレーン100では、下部走行体101と旋回体102との間で導電ラインを介して電力が伝送されるとともに、下部走行体101の通信機器と旋回体102の通信機器との間で導電ラインを介して信号が伝送される。また、クレーン100では、下部走行体101と旋回体102と連結部に、前述の回転接続コネクタ23としてロータリーブラシ23Aが配置される。ロータリーブラシ23Aは、導電ラインにおいて、下部走行体101側部分(ベース側部分)と旋回体102側部分(ロータ側部分)とを電気的に接続する。
【0028】
図5に示す第1の適用例では、下部走行体101と旋回体102との間での電力及び信号の伝送に、
図3に示す伝送ユニット1と同様の伝送ユニット1Aが適用される。
図5に示すように、本適用例では、下部走行体101にバッテリー36が設けられ、バッテリー36からの直流電力(直流)が第1の伝送対象として伝送される。そして、バッテリー36からの直流電力の電圧ライン(非グランド側経路)は、コードから形成され、直流電力の電圧ラインによって、伝送ユニット1Aの伝送経路2が形成される。また、本適用例では、直流電力のグランド側経路は、下部走行体101のシャーシ、及び、旋回体102のボディによって形成される。ある実施例では、伝送経路2を形成する電圧ラインは、例えば、+24Vラインである。
【0029】
前述のような構成にすることにより、直流が、第1の伝送対象として、一対の導電ライン6,7において互いに対して並行して伝送される。また、第1の伝送対象として伝送される直流電力は、前述のように、ノーマルモードチョークトランス25,26をほとんど減衰されることなく通過する。そして、第1の伝送対象として伝送される直流電力は、伝送経路2(バッテリー36の電圧ライン)において、並行伝送区間10の区間外へ伝送される。
【0030】
また、本適用例では、下部走行体101に設けられる通信機器37及びPLCモデム11Aが、伝送ユニット1Aの導電ライン5及びグランド側経路に接続され、旋回体102に設けられる通信機器38及びPLCモデム12Aが、伝送ユニット1Aの導電ライン8及びグランド側経路に接続される。また、通信機器37は、PLCモデム11Aに接続され、通信機器38は、PLCモデム12Aに接続される。通信機器37及びPLCモデム11Aは、導電ライン5を介して伝送される電力によって動作する。通信機器38及びPLCモデム12Aは、導電ライン8を介して伝送される電力によって動作する。
【0031】
例えば、通信機器37からは、センサ信号又は制御信号等の信号が、イーサネットを介してIP伝送される。そして、PLCモデム11Aは、前述のように、IP伝送された信号を、PLC信号に変調し、変調されたPLC信号は、トランス21において平衡信号に変換される。そして、平衡信号に変換されたPLC信号が第2の伝送対象として並行伝送区間10に印加され、PLC信号が、伝送ユニット1Aの並行伝送区間10において平衡伝送(差動伝送)される。そして、伝送されたPLC信号は、トランス22において、非平衡信号に変換され、PLCモデム12Aは、非平衡信号に変換されたPLC信号を受取る。そして、PLCモデム12Aは、前述のように、受取ったPLC信号を、イーサネットを介して伝送される信号に復調し、復調した信号を通信機器38にIP伝送する。また、通信機器38から通信機器37への信号の伝送も、伝送方向が反対になることを除き、通信機器37から通信機器38への信号の伝送と同様にして行われる。
【0032】
なお、下部走行体101側から旋回体102側に伝送される信号としては、カメラ103A~103Cのそれぞれからコントローラ107への画像信号、センサからコントローラ107へのセンサ信号等がある。また、旋回体102側から下部走行体101側へ伝送される信号としては、コントローラ107からカメラ103A~103Cのそれぞれへの制御信号等がある。
【0033】
また、イーサネットを介してのIP伝送においては、DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)によってPLCモデム11A,12A及び通信機器37,38のそれぞれのIPアドレスが動的に割り当てられてよく、PLCモデム11A,12A及び通信機器37,38のそれぞれのIPアドレスが固定アドレスであってもよい。ただし、IPアドレスを固定アドレスにすることにより、PLCモデム11A,12A及び通信機器37,38のいずれかのMACアドレスが機器の交換等によって変更された場合において、対応を行い易い。
【0034】
また、本適用例では、伝送ユニット1Aのノーマルモードチョークトランス25,26は、前述のように第2の伝送対象であるPLC信号の通過を抑制する。このため、第2の伝送対象として伝送されるPLC信号は、伝送経路2(バッテリー36の電圧ライン)において、並行伝送区間10の区間外へ伝送が抑制される。また、本適用例では、下部走行体(ベース)101と旋回体(ロータ)102との間の連結部に、ロータリーブラシ23Aが配置される。そして、伝送ユニット1Aでは、導電ライン6,7のそれぞれにおいて、ロータリーブラシ23Aは、ベース側部分(X1,X2の対応する一方)とロータ側部分(Y1,Y2の対応する一方)とを電気的に接続する。
【0035】
本適用例では、直流電力のグランド側経路が、下部走行体101のシャーシ、及び、下部走行体101に対して旋回する(回転する)旋回体102のボディによって形成される。また、グランド側経路では、下部走行体101のシャーシと旋回体102のボディとの間の抵抗値は、グリース及び錆等により、安定しない。ただし、本適用例では、第2の伝送体であるPLC信号は、グランド側経路には重畳されず、コードから形成される直流電力の電圧ラインにのみ重畳される。そして、PLC信号は、電力の電圧ラインに形成される伝送経路2において、並行伝送区間10に重畳される。また、伝送経路2では、並行伝送区間10の区間外へのPLC信号の伝送は、抑制される。このため、並行伝送区間10において互いに対して並行する一対の導電ライン6,7によって、PLC信号の往路及び復路が形成される。PLC信号の往路及び復路が並行することにより、往路及び復路(一対の導電ライン6,7)での互いに対するPLC信号の平衡性(対称性)が確保される。
【0036】
また、一対の導電ライン6,7によってPLC信号の往路及び復路が形成されるため、PLC信号の往路及び復路を形成する領域が広くならない。このため、不要輻射となる電磁界放射が抑制され、周辺の電子機器への不要輻射の影響が低減される。また、伝送経路2において、並行伝送区間10の区間外へのPLC信号の伝送が抑制されるため、PLC信号が伝送される並行伝送区間10の区間外への伝導ノイズも、低減される。前述のように、本適用例では、PLC信号の往路及び復路での平衡性が確保され、かつ、不要輻射及び伝導ノイズが抑制される。したがって、本適用例では、第1の伝送対象の並行伝送区間10において第2の伝送対象として平衡伝送されるPLC信号の伝送性が、適切に確保される。
【0037】
なお、ある適用例では、下部走行体101と旋回体102との間での電力及び信号の伝送に、伝送ユニット1Aの代わりに、
図2の伝送ユニット1と同様にチョークコイル15~18が設けられる伝送ユニットが用いられる。また、パワーショベル等のクレーン以外の建設機械においても、下部走行体と旋回体との間での電力及び信号の伝送に、
図5の適用例と同様の構成を適用可能である。
【0038】
図4に示すように、クレーン100では、旋回体102にブーム108の基端部が取付けられる。ブーム108は、長尺であり、旋回体102に対して起伏可能である。ブーム108の先端部には、カメラ109及びセンサ(
図4では図示しない)等が、通信機器として設けられる。クレーン100では、旋回体102とブーム108の先端部との間で導電ラインを介して電力が伝送されるとともに、旋回体102の通信機器とブーム108の先端部の通信機器との間で導電ラインを介して信号が伝送される。
【0039】
また、クレーン100では、ブーム108の基端部にコードリール110が取付けられ、コードリール(ロータ)110は、ブーム(ベース)108に対して回転可能である。旋回体102とブーム108の先端部との間では、導電ラインは、旋回体102からブーム108の基端部を通ってコードリール110まで延設される。そして、導電ラインは、コードリール110からブーム108に沿って、ブーム108の先端部まで延設される。クレーン100では、ブーム108とコードリール110との連結部に、前述の回転接続コネクタ23としてスリップリング23Bが配置される。スリップリング23Bは、導電ラインにおいて、旋回体102側部分(ベース側部分)とコードリール110側部分(ロータ側部分)とを電気的に接続する。
【0040】
図6に示す第2の適用例では、旋回体102(キャブ)とブーム108の先端部との間での電力及び信号の伝送に、前述の伝送ユニット1Aに加え伝送ユニット1Bが適用される。
図6に示すように、旋回体102とブーム108の先端部との間でも、
図5の適用例と同様に、直流電力の電圧ライン及びグランド側経路を通して、電力が伝送される。そして、本適用例でも、
図5の適用例と同様に、直流電力の電圧ラインによって、伝送ユニット1Aの伝送経路2が形成される。したがって、本適用例でも、伝送ユニット1Aの並行伝送区間10において、直流電力(直流)が第1の伝送対象として伝送される。本適用例では、旋回体102に設けられる通信機器41とブーム108の先端部に設けられる通信機器42との間での信号の伝送は、
図5の適用例の通信機器37,38の間での信号の伝送と、同様にして行われる。この際、PLC信号が第2の伝送対象として、伝送ユニット1Aの並行伝送区間10に印加され、一対の導電ライン6,7において、PLC信号が平衡伝送(差動伝送)される。
【0041】
また、本適用例で、電力のグランド側経路も、コードから形成される。実際に、ブーム108のボディを電力伝送のグランド側経路として用いた場合、下部走行体101のシャーシ及び旋回体102のボディがグランド側経路として用いられる
図5の適用例と比べても、抵抗値がさらに不安定になる。また、ブーム108は、長尺であり、空気中に露出している部分が大きいため、ブーム108のボディを電力伝送のグランド側経路として用いると、不要輻射が顕著になり易い。このため、旋回体102とブーム108の先端部との間での電力の伝送では、電圧ライン(非グランド側経路)に加えてグランド側経路(グランドライン)もコードから形成される。
【0042】
本適用例では、直流電力のグランドライン(グランド側経路)によって、伝送ユニット1Bの伝送経路2が形成される。そして、伝送ユニット1Bの並行伝送区間10では、直流電力(直流)が第1の伝送対象として伝送される。この際、伝送ユニット1Bの一対の導電ライン6,7では、直流電力が互いに対して同時に並行して伝送される。また、伝送ユニット1Bでは、PLCモデム11A,12Aの代わりにCUnet(登録商標)ICモデム11B,12Bが、伝送装置11,12として設けられる。このため、伝送ユニット1Bでは、PLC信号の代わりに高周波帯域のCUnet信号が、第2の伝送対象として、並行伝送区間10に差動で印加される。そして、伝送ユニット1Bの並行伝送区間10では、CUnet信号が、第2の伝送対象として平衡伝送される。
【0043】
旋回体102に設けられる通信機器45とブーム108の先端部に設けられる通信機器46との間での信号の伝送は、通信機器41,42の間での伝送ユニット1Aを通しての信号の伝送と、同様にして行われる。ただし、伝送ユニット1Bでは、CUnetICモデム11B,12Bのそれぞれは、対応する通信機器(45,46の対応する一方)からの信号を、CUnet信号に変調する。そして、伝送ユニット1Bでは、変調されたCUnet信号は、トランス(21,22の対応する一方)によって平衡信号に変換され、並行伝送区間10に印加される。そして、並行伝送区間10において平衡伝送されたCUnet信号は、トランス(21,22の対応する一方)によって非平衡信号に変換され、CUnetICモデム11B,12Bのそれぞれは、非平衡信号に変換されたCUnet信号を受取る。そして、CUnetICモデム11B,12Bのそれぞれは、CUnet信号を復調し、復調した信号を対応する通信機器(45,46の対応する一方)に伝送する。
【0044】
なお、伝送ユニット1Bのトランス21,22は、CUnet信号の伝送において従来備わっている部品である。このため、電力伝送のグランドライン(グランド側経路)に伝送ユニット1Bを適用する場合において、トランス21,22を新たな部品として追加する必要はない。また、本適用例の伝送ユニット1Aでは、導電ライン6,7のそれぞれにおいて、スリップリング23Bが、ベース側部分(X1,X2の対応する一方)とロータ側部分(Y1,Y2の対応する一方)とを電気的に接続する。同様に、伝送ユニット1Bでも、導電ライン6,7のそれぞれにおいて、スリップリング23Bが、ベース側部分(X1,X2の対応する一方)とロータ側部分(Y1,Y2の対応する一方)とを電気的に接続する。
【0045】
本適用例においても、
図5の適用例と同様に、PLC信号の往路及び復路での平衡性が確保され、かつ、不要輻射及び伝導ノイズが抑制される。このため、伝送ユニット1Aの並行伝送区間10において第2の伝送対象として平衡伝送されるPLC信号の伝送性が、適切に確保される。同様に、伝送ユニット1Bの並行伝送区間10において第2の伝送対象として平衡伝送されるCUnet信号についても、伝送性が確保される。
【0046】
また、本適用例では、伝送ユニット1Aの導電ライン6,7及び伝送ユニット1Bの導電ライン6,7の4本のラインで、電力、PLC信号及びCUnet信号の全てが伝送される。例えば、電力及びCUnet信号を互いに対して重畳することなく伝送する場合、電力の伝送に2本、及び、CUnet信号の伝送に2本の計4本のラインが必要なる。本適用例は、前述のような構成であるため、4本のラインで、電力及びCUnet信号に加えて、PLC信号も伝送される。
【0047】
また、本適用例では、伝送ユニット1Aの導電ライン6,7が、電力の伝送の電圧ライン(非グランド側経路)として用いられ、伝送ユニット1Bの導電ライン6,7が、電力の伝送のグランドライン(グランド側経路)として用いられる。すなわち、電力の伝送に、電圧ライン2本及びグランドライン2本の計4本のラインが用いられる。このため、例えば、電圧ライン1本及びグランドライン1本の計2本のラインで電力が伝送される場合に比べて、ブーム108の先端部へ供給される電力を2倍にすることが可能になる。
【0048】
なお、伝送ユニット1A,1Bのそれぞれにおいて導電ライン6,7をツイストペアケーブルのコードにすることにより、高周波特性が向上する。これにより、伝送されるPLC信号及びCUnet信号のそれぞれの波形の乱れが、さらに抑制される。また、伝送ユニット1Aの導電ライン6,7及び伝送ユニット1Bの導電ライン6,7の4本のコードをシールドすることにより、PLC信号及びCUnet信号への電磁界放射及び外部雑音の影響が低減される。
【0049】
図7に示す第3の適用例では、
図6の適用例において、直流電力の電圧ライン(非グランド側経路)及びグランドライン(グランド側経路)に、PLC信号及びCUnet信号に比べて周波数帯域が低い低周波信号が重畳される。本適用例では、伝送機器として低周波モデム51,52が設けられる。低周波モデム51,52のそれぞれは、伝送ユニット1Aの並行伝送区間10の区間外で、直流電力の電圧ラインに接続され、伝送ユニット1Bの並行伝送区間10の区間外で、直流電力のグランドラインに接続される。低周波モデム51は、直流電力の電圧ラインにおいて伝送ユニット1Aの導電ライン5に接続され、直流電力のグランドラインにおいて伝送ユニット1Bの導電ライン5に接続される。また、低周波モデム52は、直流電力の電圧ラインにおいて伝送ユニット1Aの導電ライン8に接続され、直流電力のグランドラインにおいて伝送ユニット1Bの導電ライン8に接続される。低周波モデム51は、コンデンサ53を介して電圧ラインに接続され、コンデンサ54を介してグランドラインに接続される。同様に、低周波モデム52は、コンデンサ55を介して電圧ラインに接続され、コンデンサ56を介してグランドラインに接続される。
【0050】
本適用例では、伝送ユニット1A,1Bのそれぞれの伝送経路2の一端は、ノーマルモードチョークトランス61に接続され、伝送ユニット1A,1Bのそれぞれの伝送経路2の他端は、ノーマルモードチョークトランス62に接続される。そして、本変形例では、ノーマルモードチョークトランス61,62の間の伝送区間60に、低周波信号が第1の伝送対象として差動で印加される。そして、伝送区間60において、低周波信号が平衡伝送(差動伝送)される。この際、低周波信号は、電圧ライン及びグランドラインにおいて互いに対して逆位相になり、伝送区間60として見たときにはノーマルモードで伝送される。また、伝送区間60の区間外への低周波信号の伝送は、ノーマルモードチョークトランス61,62によって、抑制される。
【0051】
なお、低周波モデム51,52のそれぞれは、オペアンプを用いて印加する低周波信号を生成し、コンデンサ(53,54又は55,56)を介して伝送区間60に低周波信号を印加する。このため、低周波モデム51,52のそれぞれによって、安価かつ効率的に低周波信号が印加される。また、本適用例では、伝送区間60の区間外に、平滑化用のコンデンサ65,66が設けられ、コンデンサ65,66のそれぞれは、直流電力の電圧ライン及びグランドラインに接続される。そして、コンデンサ65と伝送区間60との間にノーマルモードチョークトランス61が配置され、コンデンサ66と伝送区間60との間にノーマルモードチョークトランス62が配置される。
【0052】
また、本適用例では、第1の伝送対象である低周波信号の往路によって、伝送ユニット1Aの伝送経路2が形成され、低周波信号の復路によって、伝送ユニット1Aの伝送経路2が形成される。伝送ユニット1A,1Bのそれぞれでは、並行伝送区間10の導電ライン6,7において低周波信号が互いに対して同位相になり、並行伝送区間10において低周波信号はコモンモードで伝送される。このため、伝送ユニット1A,1Bのそれぞれでは、ノーマルモードチョークトランス25,26は、第1の伝送対象である低周波信号に対してインダクタとして作用せず、低周波信号は並行伝送区間10の区間外へ伝送される。また、本適用例では、
図6の適用例と同様に、伝送ユニット1A,1Bのそれぞれにおいて、並行伝送区間10での第2の伝送対象(PLC信号又はCUnet信号)の伝送性を確保した上で、第2の伝送対象の並行伝送区間10の区間外への伝送(漏れ)が、ノーマルモードチョークトランス25,26によって、抑制される。このため、低周波信号へのPLC信号及びCUnet信号の干渉が防止され、低周波信号を波形が乱れることなく伝送可能となる。
【0053】
本適用例においても、
図6の適用例と同様に、第2の伝送対象として平衡伝送されるPLC信号及びCUnet信号のそれぞれについて、伝送性が確保される。また、本適用例では、旋回体102とブーム108の先端部との間で、電力、PLC信号及びCUnet信号に加えて、低周波モデムからの低周波信号を伝送可能になる。すなわち、電力を伝送する導電ラインに複数の信号が重畳され通信系が形成される。なお、低周波モデムからの低周波信号は、伝送速度が低くてもよい制御信号であり、例えば、気圧計やソレノイド等を制御する制御信号である。
【0054】
また、本適用例では、電力、PLC信号及びCUnet信号の伝送経路とは別に低周波信号の伝送経路が形成される場合に比べて、コードの本数が減少され、コードリール110の芯数が減少する。このため、電力、PLC信号及びCUnet信号の伝送経路とは別に低周波信号の伝送経路が形成される場合に比べて、旋回体102とブーム108の先端部との間において、コードの1本あたりの芯径を大きくすることが可能になり、コードの1本あたりの電流容量を増大させることが可能になる。
【0055】
なお、ある適用例では、伝送ユニット1A,1Bの代わりに、
図2の伝送ユニット1と同様にチョークコイル15~18が設けられる伝送ユニットが用いられる。この場合も、電力の電圧ラインに配置される伝送ユニットでは、チョークコイル15~18のそれぞれによって、並行伝送区間10の区間外へのPLC信号の伝送が抑制され、電力のグランドラインに配置される伝送ユニットでは、チョークコイル15~18のそれぞれによって、並行伝送区間10の区間外へのCUnet信号の伝送が抑制される。このため、低周波信号へのPLC信号及びCUnet信号の干渉が防止される。
【0056】
また、ある適用例では、低周波モデム51,52の代わりに一対の高周波モデムが設けられ、直流電力の電圧ライン(非グランド側経路)及びグランドライン(グランド側経路)に、低周波信号の代わりに高周波信号が重畳される。重畳される高周波信号は、PLC信号及びCUnet信号のいずれかと周波数帯域が重なってもよい。伝送ユニット1A,1Bのそれぞれでは、第1の伝送対象である高周波信号は、コモンモードで伝送される。このため、伝送ユニット1A,1Bのそれぞれでは、
図3を用いて前述したように、第1の伝送対象である高周波信号は、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれを、ほとんど減衰されることなく通過する。そして、伝送ユニット1A,1Bのそれぞれでは、ノーマルモードチョークトランス25,26のそれぞれによって、第2の伝送対象(PLC信号又はCUnet信号)の並行伝送区間10の区間外への伝送が抑制される。このため、PLC信号等の第2の伝送対象と周波数帯域が重なる高周波信号が第1の伝送対象として伝送される場合でも、第1の伝送対象である高周波信号へのPLC信号及びCUnet信号の干渉が原理的に防止される。
【0057】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。
【符号の説明】
【0058】
1,1A,1B…伝送ユニット、2…伝送経路、3,4…方向性結合回路、5~8…導電ライン、10…並行伝送区間、11,12…伝送装置。