(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】圧電材料、圧電材料の製造方法、圧電素子、振動波モータ、光学機器、および電子機器
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20221219BHJP
H01L 41/083 20060101ALI20221219BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20221219BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/083
H01L41/09
C04B35/468 200
(21)【出願番号】P 2018022426
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2017025090
(32)【優先日】2017-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 宏
(72)【発明者】
【氏名】上林 彰
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智大
(72)【発明者】
【氏名】新沼 優人
(72)【発明者】
【氏名】清水 康志
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 俊彦
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034121(JP,A)
【文献】特開2013-218259(JP,A)
【文献】特開2015-180590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H01L 41/083
H01L 41/09
C04B 35/468
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともBa、Ca、Ti、Zr、Mnを有する金属酸化物よりなり、かつ、ペロブスカイト構造である圧電材料であって、
BaおよびCaの含有量の和であるA(mol)に対するCaの含有量(mol)の比であるxが0.10≦x≦0.18であり、
Ti、ZrおよびMnの含有量の和であるB(mol)に対するZrの含有量(mol)の比であるyが0.055≦y≦0.085であり、
前記B(mol)に対するMnの含有量(mol)の比であるzが0.003≦z≦0.012であり、
前記圧電材料を-30℃から60℃の動作温度範囲内の温度に保ち、かつ室温から-30℃まで前記圧電材料を降温し、続けて-30℃から前記圧電材料を60℃まで昇温した際、前記圧電材料を-30℃から-20℃まで昇温して計測した圧電定数d
31をd
31(-20u)、前記圧電材料を25℃から-20℃まで降温して計測した圧電定数d
31をd
31(-20d)としたときに、
0≦(|d
31(-20u)-d
31(-20d)|)/|d
31(-20u)|≦0.08
であり、
前記圧電材料の25℃における圧電定数d
31をd
31(rt)としたときに、
1.34≦(|d
31(-20u)|+|d
31(-20d)|)/2|d
31(rt)|≦1.68
であり、
かつ、|d
31(-20u)|と|d
31(-20d)|のいずれもが130pm/V以上であることを特徴とする圧電材料。
【請求項2】
前記B(mol)に対する前記A(mol)の比であるaが、0.98≦a≦1.01である、請求項1に記載の圧電材料。
【請求項3】
前記圧電材料がBiよりなる成分をさらに有し、Biの前記金属酸化物に対するモル比が0.15%以上0.40%以下である、請求項1又は2に記載の圧電材料。
【請求項4】
前記圧電材料の-20℃における機械的品質係数Q
mが400以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の圧電材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電材料の製造方法であって、
ペロブスカイト構造を有する下記の原料1、原料2および原料3の少なくとも一種以上を含有する原料粉末を、バインダーで被覆して成形用顆粒を得る工程と、
前記成形用顆粒を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を最高温度が1200℃以上1450℃以下の焼成条件で焼結して圧電材料を得る工程と、
を有することを特徴とする、圧電材料の製造方法。
原料1:Ba、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるpが0.00005≦p≦0.0020
原料2:Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるqが0.00005≦q≦0.0200
原料3:Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するTiの含有量の比であるrが0.00005≦r≦0.0060
【請求項6】
前記原料粉末における前記原料1、原料2、原料3の重量を、それぞれM1、M2、M3としたときに、前記M1、M2、M3が下記の関係を満たす、請求項5に記載の圧電材料の製造方法。
0.871≦M1/(M1+M2+M3)≦0.930
0.009≦M2/(M1+M2+M3)≦0.078
0.043≦M3/(M1+M2+M3)≦0.070
【請求項7】
電極と圧電材料部を有する圧電素子であって、前記圧電材料部を構成する圧電材料が請求項1~4のいずれか一項に記載の圧電材料である、圧電素子。
【請求項8】
前記電極と、前記圧電材料部が交互に積層された積層構造を有する、請求項7に記載の圧電素子。
【請求項9】
請求項7または8に記載の圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体とを有する、振動波モータ。
【請求項10】
駆動部を有する光学機器であって、前記駆動部が、請求項9に記載の振動波モータを備える、光学機器。
【請求項11】
請求項7または8に記載の圧電素子を備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電材料に関し、特に鉛を含有しない圧電材料に関する。また、本発明は前記圧電材料を用いた圧電素子、振動波モータ、光学機器、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛を含有するチタン酸ジルコン酸鉛は代表的な圧電材料であり、アクチュエータ、発振子、センサやフィルターなど多様な圧電デバイスで使用されている。しかし、廃棄された圧電材料中の鉛成分が土壌に溶け出し、生態系に害を及ぼす可能性がある。よって、圧電デバイスの非鉛化のために、非鉛圧電材料の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1は、圧電定数に優れる非鉛圧電材料として、{[(Ba1-x1M1x1)((Ti1-xZrx)1-y1N1y1)O3]―δ%[((Ba1-yCay)1-x2M2x2)(Ti1-y2N2y2)O3]}組成(M1、N1、M2、N2は添加元素)のチタン酸バリウム系材料を開示している。第1端成分の(Ba1-x1M1x1)((Ti1-xZrx)1-y1N1y1)O3は菱面体晶であり、第2端成分((Ba1-yCay)1-x2M2x2)(Ti1-y2N2y2)O3は正方晶である。特許文献1のチタン酸バリウム系材料では、結晶系の異なる二成分を固溶させることで、菱面体晶と正方晶との間の相転移温度を室温付近に調整している。例えば、BaTi0.8Zr0.2O3―50%Ba0.7Ca0.3TiO3の相転移温度は室温付近であり、20℃での圧電定数d33は584pC/Nであったことが特許文献1に開示されている。一方で同材料の70℃での圧電定数d33は368pC/Nであったことが開示されている。つまり、20℃での圧電定数d33と比較し、温度が50℃増加すると圧電定数d33が37%も減少していた。
【0004】
他方、非特許文献1の
図5.21によると、チタン酸バリウム系材料は、相転移温度の近傍において昇温時と降温時に圧電定数が異なる、いわゆるヒステリシス(温度履歴)を有することが開示されている。すなわち、特許文献1のような圧電定数の大きいチタン酸バリウム系材料は、動作温度範囲(例えば-30℃~60℃)において圧電定数にヒステリシスを有すると言う課題があった。このヒステリシスは組成調整により動作温度範囲外にシフトさせることが可能であるが、その反面で動作温度範囲における圧電定数が大幅に低下してしまうという別の問題があった。
【0005】
実用的な圧電デバイスは、その温度履歴に関係なく、動作温度範囲において安定した動作をすることが求められる。温度履歴によって、圧電デバイスの挙動が異なると、圧電デバイスの駆動制御が困難となったり、保証可能な動作性能が低下したりする。例えば、回転型振動波モータに、圧電定数にヒステリシスの大きい圧電材料を用いると、使用温度に至る温度履歴によってモータ回転数が大きく異なることになってしまう。そこで、最大の圧電定数に合わせて駆動回路を設計すると温度履歴のために圧電定数が小さくなった場合に、モータ回転数が低下してしまう。他方、最小の圧電定数に合わせて駆動回路を設計すると、温度履歴のために圧電定数が大きくなった場合に異常回転や故障が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bernard Jaffeら著、「PiezoelectricCeramics」、1971年、Academic Press
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の非鉛圧電材料には、圧電デバイスの駆動制御が困難であるという課題があった。本発明は、この様な課題を解決するためになされたものであり、鉛を含まず、動作温度範囲内での圧電性の温度依存性及びヒステリシスが小さい上、機械的品質係数が高く、圧電性が良好な圧電材料を提供するものである。また、本発明は前記圧電材料を用いた駆動制御性に優れる圧電素子、積層圧電素子、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、振動波モータ、光学機器、振動装置、塵埃除去装置、撮像装置、および電子機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る圧電材料は、少なくともBa、Ca、Ti、Zr、Mnを有する金属酸化物よりなり、かつ、ペロブスカイト構造を有する圧電材料であって、BaおよびCaの含有量の和であるA(mol)に対するCaの含有量(mol)の比であるxが0.10≦x≦0.18であり、Ti、ZrおよびMnの含有量の和であるB(mol)に対するZrの含有量(mol)の比であるyが0.055≦y≦0.085であり、前記B(mol)に対するMnの含有量(mol)の比であるzが0.003≦z≦0.012であり、前記圧電材料を-30℃から-20℃まで昇温して計測した圧電定数d31をd31(-20u)、前記圧電材料を25℃から-20℃まで降温して計測した圧電定数d31をd31(-20d)としたときに、0≦(|d31(-20u)-d31(-20d)|)/|d31(-20u)|≦0.08であり、かつ、|d31(-20u)|と|d31(-20d)|のいずれもが130pm/V以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る圧電材料の製造方法は、上記圧電材料の製造方法であって、ペロブスカイト構造を有する下記の原料1、原料2および原料3の少なくとも一種以上を含有する原料粉末をバインダーで被覆して成形用顆粒を得る工程と、前記成形用顆粒を成形して成形体を得る工程と、前記成形体を最高温度が1200℃以上1450℃以下の焼成条件で焼結して圧電材料を得る工程とを少なくとも有することを特徴とする。
原料1:Ba、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるpが0.00005≦p≦0.0020
原料2:Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるqが0.00005≦q≦0.0200
原料3:Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するTiの含有量の比であるrが0.00005≦r≦0.0060
【0011】
本発明に係る圧電素子は、第一の電極と圧電材料部と第二の電極とを有する圧電素子であって、前記圧電材料部を構成する圧電材料が上記の圧電材料であることを特徴とする。本発明に係る振動波モータは、圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体とを有することを特徴とする。
本発明に係る光学機器は、駆動部を有する光学機器であって、前記駆動部が、上記の振動波モータを備えることを特徴とする。
本発明に係る電子機器は、上記の圧電素子を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電性の温度依存性及びヒステリシスが小さい上、機械的品質係数が高く、圧電性が良好なことで圧電デバイスの駆動制御性に優れる圧電材料を提供することができる。本発明の圧電材料は、鉛を使用していないために環境に対する負荷が小さい。
また、本発明によれば、前記圧電材料の製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、前記圧電材料を用いた圧電素子、振動波モータおよび電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の圧電素子の構成の一実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明の積層構造を有する圧電素子の構成の一実施形態を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の振動波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
【
図4】本発明の光学機器の一実施態様を示す概略図である。
【
図5】本発明の光学機器の一実施態様を示す概略図である。
【
図6】本発明の電子機器の一実施態様を示す概略図である。
【
図7】本発明の実施例の圧電材料に含まれる各成分の存在量比を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例の圧電材料の圧電定数の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
(圧電材料)
本発明に係る圧電材料は、少なくともBa、Ca、Ti、Zr、Mnを有する金属酸化物よりなり、かつ、ペロブスカイト構造を有する圧電材料であって、BaおよびCaの含有量の和であるA(mol)に対するCaの含有量(mol)の比であるxが0.10≦x≦0.18であり、Ti、ZrおよびMnの含有量の和であるB(mol)に対するZrの含有量(mol)の比であるyが0.055≦y≦0.085であり、前記B(mol)に対するMnの含有量(mol)の比であるzが0.003≦z≦0.012であり、前記圧電材料を-30℃から-20℃まで昇温して計測した圧電定数d31をd31(-20u)、前記圧電材料を25℃から-20℃まで降温して計測した圧電定数d31をd31(-20d)としたときに、0≦(|d31(-20u)-d31(-20d)|)/|d31(-20u)|≦0.08であり、かつ、|d31(-20u)|と|d31(-20d)|のいずれもが130pm/V以上であることを特徴とする。
【0015】
前記少なくともBa、Ca、Ti、Zr、Mnを有する金属酸化物をペロブスカイト型金属酸化物の化学式で表現すると、下記一般式(1)のように表記できる。
(Ba1-xCax)a(Ti1-y-zZryMnz)O3 (1)
(式中、0.10≦x≦0.18、0.055≦y≦0.085、0.003≦z≦0.012)
【0016】
本発明において、圧電材料の主成分は、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oよりなることが好ましい。圧電材料の主成分が、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oよりなるとは、圧電材料の組成を分析した際に、モル量としての存在比の上位6元素がBa、Ca、Ti、Zr、Mn、Oの群から選択されることを意味する。前記圧電材料は、Ba、Ca、Ti、Zr、Mn、Oを総和で98.5モル%以上含むことが好ましい。
【0017】
(圧電材料の形態)
本発明に係る圧電材料の形態は限定されず、セラミックス、粉末、単結晶、薄膜、スラリー、造粒粉、成形体などのいずれの形態をも取り得るが、セラミックスの形態であることが好ましい。本明細書中において「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒子の凝集体(バルク体とも言う)、いわゆる多結晶を表す。焼結後に加工されたものも含まれる。
【0018】
(ペロブスカイト構造)
本発明において、ペロブスカイト型金属酸化物とは、岩波理化学辞典 第5版(岩波書店 1998年2月20日発行)に記載されているような、理想的には立方晶構造であるペロブスカイト構造(ペロフスカイト構造とも言う)を有する金属酸化物を指す。ペロブスカイト構造を有する金属酸化物は一般にABO3の化学式で表現される。ペロブスカイト型金属酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。
前記一般式(1)で表わされる金属酸化物は、Aサイトに位置する金属元素がBaとCa、Bサイトに位置する金属元素がTi、ZrとMnであることを意味する。ただし、一部のBaとCaがBサイトに位置してもよい。同様に、一部のTi、ZrとMnがAサイトに位置してもよい。
【0019】
前記一般式(1)における、Bサイトの元素とO元素のモル比は1対3であるが、元素量の比が若干、例えば1%以内でずれた場合でも、前記金属酸化物がペロブスカイト構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。
前記金属酸化物がペロブスカイト構造であることは、例えば、圧電材料に対するX線回折や電子線回折から判断することができる。ペロブスカイト構造が主たる結晶相であれば、圧電材料がその他の結晶相を副次的に含んでいても良い。
【0020】
(圧電材料の組成比)
本発明の圧電材料において、BaおよびCaの含有量の和であるA(mol)に対するCaの含有量(mol)の比であるxの値は0.10≦x≦0.18である。xの値が、0.10≦x≦0.18の範囲であることで、動作温度範囲(例えば-30℃~60℃)における温度に対する圧電定数の変動が小さくなる。
【0021】
xが0.10未満の場合、動作温度範囲内に圧電定数が極大となる相転移温度が存在するために、動作温度範囲における圧電定数の変動が、例えば170%と大きくなってしまい、圧電デバイスの駆動性能に支障をきたす。
一方、xが0.18より大きい場合、動作温度範囲における圧電定数が総じて、例えばd31定数が50pm/V以下と、小さくなってしまう。
xが0.12以上で0.16以下の場合は、温度に対する圧電定数の変動抑制と圧電定数の大きさが両立されるので、より好ましい。
【0022】
本発明の圧電材料において、Ti、ZrおよびMnの含有量の和であるB(mol)に対するZrの含有量(mol)の比であるyは0.055≦y≦0.085である。yが、0.055≦y≦0.085の範囲であることで、動作温度範囲(例えば-30℃~60℃)の各温度における圧電定数が総じて大きくなる。yが0.055未満の場合、動作温度範囲における圧電定数が不足して、圧電デバイスの駆動に必要な電力が過剰となってしまう。
一方、yが0.085より大きい場合は、キュリー温度が、例えば100℃未満と低くなり、圧電デバイスの動作保証温度範囲が狭くなってしまう。
【0023】
本発明の圧電材料において、B(mol)に対するMnの含有量(mol)の比であるzは0.003≦z≦0.012である。zが、0.003≦z≦0.012の範囲にあることで、前記絶縁性が良好になる。Mnは2価から4価の間で、価数変動する性質があり、圧電材料中の電荷バランスの欠陥を補償する役割を果たす。
【0024】
zが0.003未満の場合、Mn含有による絶縁性向上効果が低くなる。一方で、zが0.012より大きい場合、Mnの添加量が過剰となり圧電材料中に析出し、絶縁性向上効果がやはり低くなる。その結果、駆動時に圧電材料に流れる電流が増え、圧電デバイスの駆動に必要な電力が過剰となってしまう。
【0025】
(圧電定数のヒステリシス)
前記圧電材料を-30℃から-20℃まで昇温して計測した圧電定数d31をd31(-20u)とする。計測時の圧電材料の温度は-20℃であるが、±0.1℃程度の誤差は許容される。-30℃からの昇温以前の温度履歴は制限されないが、脱分極を誘発するような加熱は避ける。-30℃から-20℃までの加熱方法や加熱速度は制限されないが、-20℃を超えた過加熱は+0.5℃(-19.5℃)までに抑える。
【0026】
前記圧電材料の圧電定数d31および電気機械品質係数Qmは、市販のインピーダンスアナライザを用いて得られる共振周波数及び反共振周波数の測定結果から、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM-4501)に基づいて、計算により求めることができる。以下、この方法を共振-反共振法と呼ぶ。
【0027】
前記圧電材料を25℃から-20℃まで降温して計測した圧電定数d31をd31(-20d)とする。計測時の圧電材料の温度は-20℃であるが、±0.1℃程度の誤差は許容される。25℃からの降温以前の温度履歴は制限されないが、脱分極を誘発するような加熱は避ける。25℃から-20℃までの冷却方法や冷却速度は制限されないが、-20℃を超えた過冷却は-0.5℃(-20.5℃)までに抑える。
【0028】
本発明における圧電材料の圧電定数は、0≦(|d31(-20u)-d31(-20d)|)/|d31(-20u)|≦0.08の関係にあるものが好ましい。圧電材料の-20℃における圧電定数のバラツキが昇温時と降温時で8%以内であると、デバイスを正確に制御することが可能となる。より好ましくは7%以内である。さらに好ましいのは6%以内である。
【0029】
他方、(|d31(-20u)-d31(-20d)|)/|d31(-20u)|が0.08よりも大きいということは、圧電材料の温度履歴による圧電特性のバラツキが大きくなるので、-20℃での圧電定数が定まらなくなるということである。そのため、実用的な圧電デバイスでは、使用時の温度履歴を知ることが困難であるので、圧電デバイスの駆動制御の正確性が得られなくなってしまう。
【0030】
(圧電定数の絶対値)
本発明の圧電材料において、前記|d31(-20u)|と前記|d31(-20d)|のいずれの圧電定数も、130pm/V以上であることが好ましい。実用的な圧電デバイスにおいて、-20℃の使用環境になると、ゴム部材等の周辺部材が室温時より硬化して、圧電動作を阻害することがままある。そこで、-20℃においては、圧電材料の温度履歴に依らず、130pm/V以上の圧電定数d31が求められる。
圧電材料の前記|d31(-20u)|と前記|d31(-20d)|の少なくとも一方が、130pm/V未満であると、圧電デバイスの動作保証温度範囲が狭くなってしまう。
【0031】
(温度依存性)
前記圧電材料の25℃における圧電定数d31をd31(rt)としたときに、1≦(|d31(-20u)|+|d31(-20d)|)/2|d31(rt)|≦2であると、室温と-20℃の圧電特性の変動が小さくなるので、圧電デバイスにおける圧電材料への投入電力が温度に対して安定する。そうすると、簡易な電源回路で圧電デバイスを駆動することが可能となり、好ましい。
【0032】
(低温の機械的品質係数)
前記圧電材料の-20℃における機械的品質係数Qmが400以上であることが望ましい。-20℃のような低温では、デバイスの構成部材の温度変化によってデバイス特性が低下する傾向がある。そこで、-20℃における機械的品質係数Qmが400以上であると、低温であってもデバイス特性を維持できるのでより望ましい。例えば、回転型振動波モータは低温では構成部材の温度変化に伴う変形や、使用するグリスの硬化に伴う摺動損失の増加などにより回転数が低下する傾向がある。-20℃における機械的品質係数Qmが400以上であると回転数の低下傾向を軽減することができる。
【0033】
(AサイトとBサイトのモル比)
前記一般式(1)において、A(mol)とB(mol)の比を示すaは0.98以上で1.01以下であることがより好ましい。aが上記範囲であると、圧電材料のセラミックスとしての結晶粒径が3μmから30μmの範囲となり、圧電材料の強度が十分得られるので望ましい。
【0034】
(Bi量)
前記圧電材料がBiよりなる副成分を有し、Biの前記金属酸化物に対するモル比が0.15%以上0.40%以下であると、より好ましい。本発明の圧電材料が前記範囲のBiよりなる副成分を含有していると、低温領域、例えば-20℃での機械的品質係数が400以上と、大きくなり、低温領域での圧電デバイスの制御が容易となる。
【0035】
(薄膜)
本発明の圧電材料を基板上に作製された膜として利用する際、前記圧電材料の厚みは200nm以上10μm以下、より好ましくは300nm以上3μm以下であることが望ましい。圧電材料の膜厚を200nm以上10μm以下とすることで圧電素子として十分な電気機械変換機能が得られるからである。
前記膜の成膜方法は特に制限されない。例えば、化学溶液堆積法(CSD法)、ゾルゲル法、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、スパッタリング法、パルスレーザデポジション法(PLD法)、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(AD法)などが挙げられる。これらのうち、最も好ましい積層方法は、化学溶液堆積法またはスパッタリング法である。化学溶液堆積法またはスパッタリング法は、容易に成膜面積を大面積化できる。
本発明の圧電材料に用いる基板は(001)面または(110)面で切断・研磨された単結晶基板であることが好ましい。特定の結晶面で切断・研磨された単結晶基板を用いることで、その基板表面に設けられた圧電材料膜も同一方位に強く配向させることができる。
【0036】
(圧電素子)
以下に本発明の圧電材料を用いた圧電素子について説明する。
【0037】
(構造)
図1は本発明の圧電素子の構成の一実施形態を示す概略図である。本発明に係る圧電素子は、第一の電極1、圧電材料部2および第二の電極3を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料部2が本発明の圧電材料であることを特徴とする。
すなわち電極と圧電材料部を有し、当該圧電材料部を構成する圧電材料が前述の圧電材料である圧電素子である。
【0038】
(電極)
本発明に係る圧電材料は、少なくとも第一の電極と第二の電極を有する圧電素子にすることにより、その圧電特性を評価することができる。前記第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。
【0039】
前記第一の電極および第二の電極は、これらの材料のうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。すなわち、電極と、圧電材料部が交互に積層された積層構造を有する圧電素子を構成してもよい。
【0040】
前記第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いてもよい。
【0041】
(分極)
前記圧電材料および圧電素子は一定方向に分極軸が揃っているものであると、より好ましい。分極軸が一定方向に揃っていることで前記圧電素子の圧電定数は大きくなる。前記圧電材料および圧電素子が、一定方向に分極軸が揃っていることは、P-E(分極-電界)ヒステリシス測定において残留分極があることで確認することができる。
【0042】
前記圧電素子の分極方法は特に限定されない。分極処理は大気中で行ってもよいし、シリコーンオイル中で行ってもよい。分極をする際の温度は60℃から150℃の温度が好ましいが、素子を構成する圧電材料の組成によって最適な条件は多少異なる。分極処理をするために印加する電界は、600V/mmから2.0kV/mmが好ましい。
【0043】
(絶縁性)
本発明の圧電材料の25℃、周波数1kHzにおける誘電正接は0.006以下であることが好ましい。25℃における抵抗率は、1GΩcm以上であることが好ましい。誘電正接が0.006以下であると、圧電材料を素子の駆動条件下で最大500V/cmの電界を印加した際でも、安定した動作を得ることができる。抵抗率が1GΩcm以上であると、分極処理の効果を十分に得ることができる。誘電正接および抵抗率は、インピーダンスアナライザを用いて、例えば、周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加することで測定可能である。
【0044】
(密度測定)
焼結体の密度は例えばアルキメデス法で測定することができる。本発明では、焼結体の組成と格子定数から求められる理論密度(ρcalc.)に対する測定密度(ρmeas.)の割合、つまり相対密度(ρmeas./ρcalc.)が95%以上であると、圧電材料として十分に高いと言える。
【0045】
(結晶粒)
本発明における「粒径」とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。本発明においては粒径の測定方法は特に制限されない。例えば圧電材料の表面を偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で撮影して得られる写真画像を画像処理して求めることができる。対象となる粒子径により最適倍率が異なるため、光学顕微鏡と電子顕微鏡を使い分けても構わない。材料の表面ではなく研磨面や断面の画像から円相当径を求めても良い。
【0046】
(キュリー温度)
キュリー温度TCとは、その温度以上で圧電材料の圧電性が消失する温度である。本明細書においては、強誘電相(正方晶相)と常誘電相(立方晶相)の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度をTCとする。誘電率は、例えばインピーダンスアナライザを用いて、周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して測定される。
本発明の圧電材料はキュリー温度TCが100℃以上である事が好ましい。本発明に係る圧電材料は、キュリー温度TCが100℃以上に存在することにより、夏季の車中で想定される80℃という過酷な状況下においても、圧電性を損失することなく、維持することができ、安定な圧電定数と機械的品質係数を有することが可能となる。
【0047】
(相転移)
本発明の圧電材料は低温から温度が上昇するにつれて、菱面体晶、斜方晶、正方晶、立方晶へと逐次相転移を起こす。本明細書で言及する相転移とは、専ら斜方晶から正方晶、もしくは正方晶から斜方晶への相転移を指す。相転移温度はキュリー温度と同様の測定方法で評価することができ、誘電率を試料温度で微分した値が最大となる温度を相転移温度とする。結晶系はエックス線回折、電子線回折、またはラマン散乱などで評価することができる。
【0048】
相転移温度付近では誘電率、電気機械結合係数が極大となり、ヤング率が極小となる。圧電定数はこれら三つのパラメータの関数であり、相転移温度付近で極大値もしくは変曲点を示す。そのため、仮に相転移がデバイスの動作温度範囲の中心値近傍に存在すると、デバイスの性能が温度によって極端に変動したり、共振周波数が温度によって変動してデバイスの制御が困難になったりする。また、相転移温度付近では圧電定数が昇温過程と降温過程で異なる値をとるヒステリシスを示す。ヒステリシスが大きすぎると温度履歴により圧電定数が大きく変動するので、デバイスの設計を著しく困難にする。
【0049】
したがって、圧電性能の変動の最大の要因である相転移は動作温度範囲の中心値近傍にはないことが望ましい。相転移温度が動作温度範囲から遠ざかるほど、例えば相転移温度が-10℃以下-50℃以上であると、動作温度範囲での圧電性能の温度依存性は低下し、デバイスを制御するという観点からは好ましい。
【0050】
しかしながら、前述したように圧電定数は相転移温度付近で極大値を示すので、相転移温度が動作温度範囲から遠ざかりすぎると、圧電定数が低下してしまう。圧電定数が低下してしまうとデバイスの駆動電圧が上昇してしまうので、望ましくない。つまり、相転移温度と動作温度範囲との関係を前記圧電材料の組成によって制御することでデバイスの制御性と圧電定数を両立することが望ましい。
【0051】
(温度依存性測定)
共振-反共振法を用いて測定した前記圧電素子の圧電定数および電気機械品質係数の温度依存性は以下のように測定しても良い。恒温槽に前記圧電素子を入れ、雰囲気の温度を変化させる。温度の変化速度は特に限定されることはないが、例えば1~10℃/分で変化させても良い。温度を変化させた後に、前記圧電素子の温度が雰囲気温度に追従するまで温度を一定に保持してから、圧電定数および電気機械品質係数を共振-反共振法を用いて測定すると、測定結果の再現性が高くなるので、望ましい。温度を一定に保持する時間は特に限定されることはないが、1~10分であることが望ましい。
【0052】
(圧電材料の製造方法)
本発明に係る圧電材料の製造方法は特に限定されない。
【0053】
(原料)
本発明に係る圧電材料の原料粉末としては、特に限定はされないが、以下のようなペロブスカイト構造を有する原料1、原料2および原料3の少なくとも一種以上を用いることが望ましい。
原料1:Ba、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるpが0.00005≦p≦0.0020
原料2:Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるqが0.00005≦q≦0.0200
原料3:Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するTiの含有量の比であるrが0.00005≦r≦0.0060
【0054】
このような原料1、原料2、原料3を用いると、焼結した時に結晶粒ごとの微小な組成分布が発生する。しかし、結晶粒ごとの組成分布があまり大きすぎると、焼結性が悪く、密度が向上しにくいので、圧電特性が低下する可能性がある。原料1、原料2、原料3、それぞれが、0.00005≦p≦0.0020、0.00005≦q≦0.0200、0.00005≦r≦0.0060であれば、組成分布により相転移が散漫になり、かつ、圧電特性の低下を抑制できるので、圧電材料のヒステリシスの低減と良好な圧電特性を得ることができるので望ましい。
【0055】
本発明に係る圧電材料の原料粉末としては、下記のようなペロブスカイト構造を有する原料4、原料5を用いてもよい。
原料4:Ba、Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるsが0.00005≦s≦0.0020
原料5:Ba、Ca、TiおよびZrを有し、TiとZrの含有量の和(mol)に対するZrの含有量の比であるtが0.00005≦t≦0.0200
【0056】
本発明に係る圧電材料の原料粉末の製造方法として、構成元素を含んだ酸化物、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩などの固体粉末を常圧下で焼結する一般的な手法を採用することができる。固体粉末としては、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Mn化合物、Bi化合物といった金属化合物から構成される。
使用可能なBa化合物としては、酸化バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムなどが挙げられる。
使用可能なCa化合物としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、蓚酸カルシウム、酢酸カルシウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なTi化合物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なZr化合物としては、酸化ジルコニウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なMn化合物としては、炭酸マンガン、一酸化マンガン、二酸化マンガン、三酸化四マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。
使用可能なBi化合物としては、酸化ビスマス、ビスマス酸リチウムなどが挙げられる。
【0057】
(成形用顆粒を得る工程)
本発明に係る圧電材料の原料粉末を造粒する方法は特に限定されない。原料粉末を被覆して造粒する際に使用可能なバインダーの例としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。添加するバインダーの量は、原料粉末100重量部に対して1重量部から10重量部が好ましく、成形体の密度が上がるという観点において2重量部から5重量部がより好ましい。原料1、原料2、原料3、Bi化合物及びMn化合物を機械的に混合した混合粉末を造粒してもよい。あるいは、原料4、原料5、Bi化合物及びMn化合物を機械的に混合した混合粉末を造粒してもよい。あるいは、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Bi化合物及びMn化合物を機械的に混合した混合粉末を造粒してもよいし、これらの化合物を800~1300℃程度で仮焼した後に造粒してもよい。あるいは、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、およびZr化合物を仮焼したのちに、バインダーを添加させてもよい。
【0058】
例えば、混合の比率としては、前記原料1、原料2、原料3の重量をそれぞれM1、M2、M3としたときに、これらM1、M2、M3が下記の関係を満たすことが望ましい。
0.871≦M1/(M1+M2+M3)≦0.930
0.009≦M2/(M1+M2+M3)≦0.078
0.043≦M3/(M1+M2+M3)≦0.070
【0059】
これらの範囲であれば、後述する焼結して圧電材料を得る工程において、原料の揮発にともなう圧電セラミックスの組成ずれを低減でき、圧電特性の再現性に優れるので望ましい。造粒粉の粒径をより均一にできるという観点において、最も好ましい造粒方法はスプレードライ法である。
【0060】
(成形体を得る工程)
本発明に係る圧電セラミックスの成形体の作製方法は特に限定されない。成形体とは原料粉末、造粒粉、もしくはスラリーから作製される固形物である。成形体作製の手段としては、一軸加圧加工、冷間静水圧加工、温間静水圧加工、鋳込成形と押し出し成形などを用いることができる。
【0061】
(焼結して圧電材料を得る工程)
本発明に係る圧電セラミックスの焼結方法は特に限定されない。焼結方法の例としては、電気炉による焼結、ガス炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、HIP(熱間等方圧プレス)などが挙げられる。電気炉およびガスによる焼結は、連続炉であってもバッチ炉であっても構わない。
前記焼結方法におけるセラミックスの焼成条件である焼結温度は特に限定されない。各化合物が反応し、充分に結晶成長する温度であることが好ましい。好ましい焼結温度としては、セラミックスの粒径を3μmから30μmの範囲にするという観点で、1200℃以上1450℃以下である。より好ましくは1250℃以上1420℃以下である。上記温度範囲において焼結した圧電セラミックスは良好な圧電性能を示す。
焼結処理により得られる圧電セラミックスの特性を再現よく安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして2時間以上24時間以下の焼結処理を行うとよい。二段階焼結法などの焼結方法を用いてもよいが、生産性を考慮すると急激な温度変化のない方法が好ましい。
【0062】
(積層構造を有した圧電素子)
本発明に係る積層構造を有した圧電素子(積層圧電素子)は、複数の圧電材料層と、内部電極を含む複数の電極とが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電材料層が本発明の圧電材料よりなることを特徴とする。
【0063】
図2は本発明の積層圧電素子の構成の一実施形態を示す概略断面図である。本発明に係る積層圧電素子は、圧電材料層54と、内部電極55を含む電極とで構成されており、圧電材料層と層状の電極とが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電材料層54が上記の圧電材料よりなることを特徴とする。電極は、内部電極55以外に第一の電極51や第二の電極53といった外部電極を含んでいてもよい。
【0064】
図2(a)は2層の圧電材料層54と、1層の電極層としての内部電極55が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極51と第二の電極53で狭持した本発明の一実施形態に係る積層圧電素子の構成を示している。
図2(b)に示すように圧電材料層と内部電極の数を増やしてもよく、その層数に限定はない。
図2(b)の積層圧電素子は9層の圧電材料層504と8層の内部電極505a、505bが交互に積層され、その積層構造体を第一の電極501と第二の電極503で狭持した構成である。さらに交互に形成された内部電極を短絡するための外部電極506aおよび外部電極506bを有する。
【0065】
内部電極55、505および外部電極506a、506bの大きさや形状は必ずしも圧電材料層54、504と同一である必要はなく、また複数に分割されていてもよい。内部電極55、505および外部電極506a、506b、第一の電極51、501および第二の電極53、503は、厚み5nm~10μm程度の導電層よりなる。
【0066】
電極の材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。内部電極55、505および外部電極506a、506bは、これら材料のうちの1種からなるものであっても2種以上の混合物あるいは合金であってもよく、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また複数の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。
【0067】
電極材料が安価という観点からは、内部電極55、505はNiおよびCuの少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。内部電極55、505にNiおよびCuの少なくともいずれか1種を用いる場合、本発明の積層圧電素子は還元雰囲気で焼成することが好ましい。
【0068】
本発明の積層圧電素子は、内部電極がAgとPdを含み、前記Agの含有重量M1と前記Pdの含有重量M2との重量比M1/M2が0.25≦M1/M2≦4.0であることが好ましい。前記重量比M1/M2が0.25未満であると内部電極の焼結温度が高くなるので望ましくない。一方で、前記重量比M1/M2が4.0よりも大きくなると、内部電極が島状になり、面内で不均一になるので望ましくない。より好ましくは0.3≦M1/M2≦3.0である。
【0069】
図2(b)に示すように、内部電極505a、505bを含む複数の電極は、駆動電圧の位相をそろえる目的で互いに短絡させても良い。例えば、内部電極505aと第一の電極501を外部電極506aで短絡させても良い。内部電極505bと第二の電極503を外部電極506bで短絡させても良い。内部電極505aと内部電極505bは交互に配置されていても良い。また電極どうしの短絡の形態は限定されない。積層圧電素子の側面に短絡のための電極や配線を設けてもよいし、圧電材料層504を貫通するスルーホールを設け、その内側に導電材料を設けて電極同士を短絡させてもよい。
【0070】
(振動波モータ)
本発明に係る振動波モータは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体とを少なくとも有することを特徴とする。
図3は、本発明の振動波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。本発明の圧電素子が単板からなる振動波モータを、
図3(a)に示す。振動波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。
【0071】
本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。本発明の圧電素子に位相がπ/2の奇数倍異なる二相の交番電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の振動波モータは、この原理を利用したものである。
【0072】
次に、積層構造を有した圧電素子を含む振動波モータを
図3(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
圧電素子2042に位相の異なる交番電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0073】
(振動波モータを備えた光学機器)
次に、本発明の光学機器について説明する。本発明の光学機器は、駆動部に前記振動波モータを備えたことを特徴とする。
【0074】
図4は、本発明の光学機器の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の主要断面図である。また、
図5は本発明の光学機器の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の分解斜視図である。カメラとの着脱マウント711には、固定筒712と、直進案内筒713、前群鏡筒714が固定されている。これらは交換レンズ鏡筒の固定部材である。
【0075】
直進案内筒713には、フォーカスレンズ702用の光軸方向の直進案内溝713aが形成されている。フォーカスレンズ702を保持した後群鏡筒716には、径方向外方に突出するカムローラ717a、717bが軸ビス718により固定されており、このカムローラ717aがこの直進案内溝713aに嵌まっている。
【0076】
直進案内筒713の内周には、カム環715が回動自在に嵌まっている。直進案内筒713とカム環715とは、カム環715に固定されたローラ719が、直進案内筒713の周溝713bに嵌まることで、光軸方向への相対移動が規制されている。このカム環715には、フォーカスレンズ702用のカム溝715aが形成されていて、カム溝715aには、前述のカムローラ717bが同時に嵌まっている。固定筒712の外周側にはボールレース727により固定筒712に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環720が配置されている。回転伝達環720には、回転伝達環720から放射状に延びた軸720fにコロ722が回転自由に保持されており、このコロ722の径大部722aがマニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bと接触している。またコロ722の径小部722bは接合部材729と接触している。コロ722は回転伝達環720の外周に等間隔に6つ配置されており、それぞれのコロが上記の関係で構成されている。
【0077】
マニュアルフォーカス環724の内径部には低摩擦シート(ワッシャ部材)733が配置され、この低摩擦シートが固定筒712のマウント側端面712aとマニュアルフォーカス環724の前側端面724aとの間に挟持されている。また、低摩擦シート733の外径面はリング状とされマニュアルフォーカス環724の内径724cと径嵌合しており、更にマニュアルフォーカス環724の内径724cは固定筒712の外径部712bと径嵌合している。低摩擦シート733は、マニュアルフォーカス環724が固定筒712に対して光軸周りに相対回転する構成の回転環機構における摩擦を軽減する役割を果たす。
【0078】
なお、コロ722の径大部722aとマニュアルフォーカス環のマウント側端面724bとは、波ワッシャ726が振動波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、加圧力が付与された状態で接触している。また同じく、波ワッシャ726が振動波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、コロ722の径小部722bと接合部材729の間も適度な加圧力が付与された状態で接触している。
【0079】
波ワッシャ726は、固定筒712に対してバヨネット結合したワッシャ732によりマウント方向への移動を規制されている。波ワッシャ726が発生するバネ力(付勢力)は、振動波モータ725、更にはコロ722に伝わり、マニュアルフォーカス環724が固定筒712のマウント側端面712aを押し付ける力ともなる。つまり、マニュアルフォーカス環724は、低摩擦シート733を介して固定筒712のマウント側端面712aに押し付けられた状態で組み込まれている。
【0080】
従って、不図示の制御部により振動波モータ725が固定筒712に対して回転駆動されると、接合部材729がコロ722の径小部722bと摩擦接触しているため、コロ722が軸720f中心周りに回転する。コロ722が軸720f回りに回転すると、結果として回転伝達環720が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。
【0081】
また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環724に光軸周りの回転力が与えられると以下の作用が生じる。すなわち、マニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bがコロ722の径大部722aと加圧接触しているため、摩擦力によりコロ722が軸720f周りに回転する。コロ722の径大部722aが軸720f周りに回転すると、回転伝達環720が光軸周りに回転する。このとき振動波モータ725は、ロータ725cとステータ725bの摩擦保持力により回転しないようになっている(マニュアルフォーカス動作)。
【0082】
回転伝達環720には、フォーカスキー728が2つ互いに対向する位置に取り付けられており、フォーカスキー728がカム環715の先端に設けられた切り欠き部715bと嵌合している。従って、オートフォーカス動作或いはマニュアルフォーカス動作が行われて、回転伝達環720が光軸周りに回転させられると、その回転力がフォーカスキー728を介してカム環715に伝達される。カム環が光軸周りに回転させられると、カムローラ717aと直進案内溝713aにより回転規制された後群鏡筒716が、カムローラ717bによってカム環715のカム溝715aに沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ702が駆動され、フォーカス動作が行われる。
【0083】
ここで本発明の光学機器として、一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明したが、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ、カメラ付き携帯情報端末等、カメラの種類を問わず、駆動部に振動波モータを有する光学機器に適用することができる。
【0084】
(電子機器)
次に、本発明の電子機器について説明する。本発明の電子機器は、前記圧電素子または前記積層圧電素子を備えたことを特徴とする。電子機器の例として、スピーカ、ブザー、マイク、表面弾性波(SAW)素子といった圧電音響部品を内蔵した電子機器が挙げられる。
【0085】
図6は本発明の電子機器の好適な実施形態の一例であるデジタルカメラの本体931の前方から見た全体斜視図である。本体931の前面には光学装置901、マイク914、ストロボ発光部909、補助光部916が配置されている。マイク914は本体内部に組み込まれているため、破線で示している。マイク914の前方には外部からの音を拾うための穴形状が設けられている。
【0086】
本体931の上面には電源ボタン933、スピーカ912、ズームレバー932、合焦動作を実行するためのレリーズボタン908が配置される。スピーカ912は本体931内部に組み込まれており、破線で示してある。スピーカ912の前方には音声を外部へ伝えるための穴形状が設けられている。
【0087】
本発明の圧電音響部品は、マイク914、スピーカ912、また表面弾性波素子、の少なくとも一つに用いられる。
【0088】
ここで、本発明の電子機器としてデジタルカメラについて説明したが、本発明の電子機器は、音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、情報端末等各種の圧電音響部品を有する電子機器にも適用することができる。
【0089】
前述したように本発明の圧電素子および積層圧電素子は、振動波モータ、光学機器、および電子機器に好適に用いられる。
また、本発明の圧電素子および積層圧電素子を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する振動波モータを提供することができる。
【0090】
さらに、本発明の振動波モータを用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の耐久性および動作精度を有する光学機器を提供することができる。
【0091】
また、本発明の圧電素子または積層圧電素子を備えた圧電音響部品を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の発音性を有する電子機器を提供できる。
【0092】
さらに、本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、モータなどに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ等のデバイスに用いることができる。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
以下に示す手順で本発明の圧電材料を作製した(実施例1~18及び比較例1~4)。
【0094】
(原料の組成測定)
表1に示した組み合わせの原料1、原料2および原料3を固相法で合成した。原料1、原料2および原料3はいずれもペロブスカイト型構造を有していた。
原料1は、一般式Ba(Ti1-pZrp)O3で示され、原料2は、一般式Ca(Ti1-qZrq)O3で示され、原料3は、一般式Ca(TirZr1-r)O3で、それぞれ示される。表1に示されるp、q、rの値は、ICP-MS分析によって組成分析を行った結果である。
【0095】
【0096】
原料として、一般式(Ba1-xCax)a(Ti1-y-zZryMnz)O3で示される原料を用いた場合の組み合わせをHとした。
【0097】
(作製方法)
表1に示した原料1、原料2および原料3と三酸化四マンガンと酸化ビスマスを表2に示すような比率になるように秤量した。組成の比率を
図7に図示した。これらの秤量粉は、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合した。得られた混合粉末を造粒するために、混合粉末の100重量部に対して3重量部のPVAバインダーを、それぞれスプレードライヤー装置を用いて、混合粉末表面に付着させた。
【0098】
次に、得られた造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。この成形体は冷間等方加圧成型機を用いて、更に加圧してもよく、同等の結果を得られた。得られた成形体を電気炉に入れ、1300から1380℃の最高温度で5時間保持し、合計24時間かけて大気雰囲気で焼結し、セラミックス状の本発明の圧電材料を得た。
【0099】
【0100】
(混合粉末の組成測定)
前記圧電材料の混合粉末の組成分析をXRF分析によって行った。全ての圧電材料の混合粉末において、Ba、Ti、Ca、Zr、Mn、Biは秤量した組成と一致していた。
【0101】
(組成分析)
得られたセラミックスの組成分析をXRF分析によって行った。全ての圧電材料において、Ba、Ti、Ca、Zr、Mn、Biは秤量した組成と焼結後の組成が一致していていた。各圧電材料の実施例の成分比の分布を
図7に示す。
【0102】
(X線回折分析)
得られたセラミックスを厚さ0.5mmになるように研磨し、X線回折により結晶構造を解析した。その結果、ペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。
【0103】
(結晶粒径測定)
結晶粒の観察には、主に偏光顕微鏡を用いた。小さな結晶粒の粒径を特定する際には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。この観察結果より平均円相当径を算出した。測定結果を表3に示す。
【0104】
(密度測定)
相対密度は、エックス線回折から求めた格子定数と秤量組成から計算される理論密度、アルキメデス法による実測密度を用いて評価した。測定結果を表3に示す。
【0105】
(圧電素子)
前記円盤状のセラミックスの表裏両面にDCスパッタリング法により厚さ400nmの金電極を形成した。なお、電極とセラミックスの間には、密着層として30nmのチタンを成膜した。この電極付きのセラミックスを切断加工し、10mm×2.5mm×0.5mmの短冊状圧電素子を作製した。得られた圧電素子を、ホットプレートの表面を60℃から100℃になるように設定し、前記ホットプレート上で1kV/mmの電界を30分間印加し、分極処理した。
【0106】
(共振反共振測定)
実施例及び比較例に対応する圧電材料を有する圧電素子の静特性として、分極処理した圧電素子の圧電定数d31及び機械的品質係数Qmをインピーダンスアナライザ(Agilent Techonologies社製 4194A(商品名))を用いて共振反共振法により評価した。測定結果を表3に示す。
【0107】
(絶縁性測定)
実施例及び比較例に対応する圧電材料を有する圧電素子の静特性として、絶縁性特性をインピーダンスアナライザ(Agilent Techonologies社製 4194A(商品名))を用いて、室温で周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して誘電正接を測定した。測定結果を表3に示す。
【0108】
(温度依存性測定)
圧電定数d31の温度依存性を以下のように評価した。実施例及び比較例に対応する圧電材料を有する圧電素子を恒温槽(エスペック社製 SH-261(商品名))に入れ、恒温槽の雰囲気温度を変化させて、共振反共振法により圧電定数d31及び機械的品質係数Qmを測定した。恒温槽の温度を5℃/分で変化させた。温度を変化させた後は5分保持した。圧電材料を-30℃から-20℃まで昇温して計測した圧電定数d
31をd
31(-20u)、前記圧電材料を25℃から-20℃まで降温して計測した圧電定数d
31をd
31(-20d)とし、(|d
31(-20u)-d
31(-20d)|)/|d
31(-20u)|を算出した。測定結果を表3に示す。実施例1と比較例1の温度依存性の結果を
図8に示す。
【0109】
【0110】
比較例1を実施例1~18と比較すると、(|d31(-20u)-d31(-20d)|)/|d31(-20u)|が0.08を超えており、ヒステリシスが大きく、-20℃の圧電定数d31が低いので望ましくない。
比較例2~4を実施例1~18と比較すると、-20℃の圧電定数d31が130pm/Vよりも低いので、望ましくない。
比較例3を実施例1~18と比較すると、yが0.055より小さく、25℃における圧電定数が50pm/Vを下回るので、望ましくない。
比較例2、4を実施例1~18と比較すると、yが0.085より大きく、Tcが60℃を下回るので望ましくない。
比較例3を実施例1~18と比較すると、xが0.18より大きいと25℃における圧電定数が50pm/Vを下回るので、望ましくない。
比較例4を実施例1~18と比較すると、xが0.10より小さく、圧電定数の変動が大きく、(|d31(-20u)|+|d31(-20d)|)/2|d31(rt)|を1を大きく下回るので望ましくない。
比較例1、2及び4を実施例1~18と比較すると、zの値が0.012よりも大きいので、絶縁性が不良になり、誘電正接が0.01を大きく超えるので望ましくない。
比較例3を実施例1~18と比較すると、zの値が0.012よりも小さいので、同様で縁性が不良になり、誘電正接が0.01を大きく超えるので望ましくない。
【0111】
(実施例19)(振動波モータ)
実施例1の圧電素子を用いて、
図3(a)に示される振動波モータを作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
【0112】
(振動波モータの回転数の温度依存性測定)
本発明の圧電素子を用いた振動波モータの回転数の温度依存性は以下のように評価した。実施例19の振動波モータを恒温槽(エスペック社製 SH-642(商品名))に入れ、恒温槽の雰囲気温度を変化させて、振動波モータに負荷トルク150g・cmをかけ、以下に示した条件で最高回転数を測定した。振動波モータには波高値が70Vの正弦波を26kHzから29kHzまで周波数掃引した時の回転数の最高値を最高回転数とした。振動波モータの駆動には2相の正弦波を用いるが、2相の正弦波の位相差は90°とした。恒温槽の温度は5℃/分で変化させた。温度を変化させた後は15分保持した。
【0113】
(振動波モータのモータ回転数の最低値の温度依存性)
表4は、実施例1と比較例1の圧電素子を用いて製作したそれぞれ10個の振動波モータ(実施例19、比較例5)の各温度での最高回転数の最低値を示している。比較例5の振動波モータは用いている圧電材料のヒステリシスが大きく、駆動が不安定になるので最低値が低く、望ましくないことが分かる。
【0114】
【0115】
(振動波モータの駆動効率の温度依存性測定)
本発明の圧電素子を用いた振動波モータの駆動効率の温度依存性は以下のように評価した。なおモータの駆動効率は、モータの入力電力値(W)に対する仕事率(W)の比から算出した。またモータの入力電力値は、モータに入力した電圧値と電流値を用いて、仕事率はモータの回転数と負荷トルクを用いて算出した。
振動波モータを恒温槽(エスペック社製 SH-642(商品名))に入れ、恒温槽の雰囲気温度を5℃/分で変化させた。温度を変化させた後は15分保持した。その後、振動波モータに負荷トルク150g・cmをかけて位相差が90°で波高値が各々70Vの2相の正弦波を26kHzから29kHzまで周波数掃引し、回転数とモータの入力電力値を測定し駆動効率を算出した。
【0116】
(振動波モータの駆動効率の温度依存性)
表5は、実施例19および比較例5のそれぞれ10個の振動波モータの23℃および-20℃における駆動効率の平均値を示している。駆動効率は実施例19および比較例5の振動波モータ全てにおいて、回転が確認できたモータ入力電力値が2Wの時の回転数から算出した。比較例5の振動波モータは用いている圧電材料のヒステリシスが大きいので、駆動が不安定になるため駆動効率が実施例19よりも2割ほど低く、望ましくないことが分かる。
【0117】
【0118】
(実施例20)(振動波モータを備えた光学機器)
実施例19の振動波モータを用いて、
図4、
図5に示される光学機器を作製した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
【0119】
(実施例21)(積層構造を有する圧電素子)
原料1、原料2、原料3、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、三酸化四マンガン(Mn
3O
4)を、表2の実施例1の組成になるよう秤量した。秤量した原料粉末を混合し、ボールミルで一晩混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末にPVBを加えて混合した後、ドクターブレード法によりシート形成して厚み50μmのグリーンシートを得た。
上記グリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Pdペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して、その積層体を1340℃の条件で5時間焼成して焼結体を得た。前記焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断した後にその側面を研磨し、内部電極を交互に短絡させる一対の外部電極(第一の電極と第二の電極)をAuスパッタにより形成し、
図2(b)に示すような積層圧電素子を作製した。
得られた積層圧電素子の内部電極を観察したところ、電極材であるPdが圧電材料と交互に形成されていた。
圧電性の評価に先立って試料に分極処理を施した。具体的には、試料をオイルバス中で100℃に加熱し、第一の電極と第二の電極間に1kV/mmの電圧を30分間印加し、電圧を印加したままで室温まで冷却した。
得られた積層圧電素子の圧電性を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例1の圧電材料と同等の良好な圧電特性を得ることができた。
【0120】
(実施例22)(振動波モータ)
実施例21の積層圧電素子を用いて、
図3(b)に示される振動波モータを作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
【0121】
(実施例23)(振動波モータを備えた光学機器)
実施例22の振動波モータを用いて、
図4、
図5に示される光学機器を作製した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
【0122】
(実施例24)(電子機器)
実施例1の圧電素子を用いて、
図6に示される電子機器を作製した。交番電圧の印加に応じたスピーカ動作が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の圧電材料は、広い動作温度範囲においても良好で安定した圧電性を発現する。また、鉛を含まないために、環境に対する負荷が少ない。よって、本発明の圧電材料は、振動波モータ、振動波モータを備えた光学機器や電子機器などの圧電材料を多く用いる機器にも問題なく利用することができる。