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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】電気化学素子用隔膜、及びその用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20221219BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20221219BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20221219BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20221219BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20221219BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20221219BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20221219BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20221219BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20221219BHJP
   H01M 8/1041 20160101ALI20221219BHJP
   H01M 8/106 20160101ALI20221219BHJP
   H01M 8/1062 20160101ALI20221219BHJP
   H01M 8/0289 20160101ALI20221219BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/449
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/489
B32B5/18
B32B27/20 Z
H01M8/1041
H01M8/106
H01M8/1062
H01M8/0289
C25B13/08 301
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018068644
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019179678
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中山 信也
(72)【発明者】
【氏名】古性 和樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 賢
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-250529(JP,A)
【文献】特開2002-198026(JP,A)
【文献】国際公開第2013/151134(WO,A1)
【文献】特開平10-101830(JP,A)
【文献】特開2014-207059(JP,A)
【文献】特開2005-310444(JP,A)
【文献】特開2016-181439(JP,A)
【文献】特開2017-183229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M50/40-50/497
C25B1/00-9/77;13/00-15/08
H01M8/00-8/0297;8/08-8/2495
B32B1/00-43/00
D06B1/00-23/30;D06C3/00-29/00;D06G1/00-5/00;D06H1/00-7/24;D06J1/00-1/12
D06M13/00-15/715
D04H1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダーポリマーを含む有機層と、支持体とを含む電気化学素子用隔膜であって、
該有機層は、更に無機化合物粒子を含み、
該バインダーポリマーは、芳香族炭化水素基含有ポリマーであり、
該有機層は、該無機化合物粒子100質量部に対して、該バインダーポリマーを22質量部以上67質量部以下含み、
該支持体は、親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体であり、
該親水性官能基は、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、フッ化カルボニル基、リン酸基、アミド基、アルキレンオキシド基、又は、フェノール基であり、
該炭化水素系多孔質体は、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、及び、ポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種の炭化水素系ポリマーからなり、
該親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する酸素元素濃度が10atm%以上である
ことを特徴とする電気化学素子用隔膜。
【請求項2】
前記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、更に、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する硫黄元素濃度が0.5atm%以上であること特徴とする請求項1に記載の電気化学素子用隔膜。
【請求項3】
前記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、更に、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対するフッ素元素濃度が3.5atm%以上であること特徴とする請求項1又は2に記載の電気化学素子用隔膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用隔膜に関する。より詳しくは、有機層と支持体との密着性に優れ、ガスバリア性に優れた電気化学素子用隔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
有機層と支持体とからなる積層膜は、各種用途への適用が種々検討され、各用途で要求される特性に優れた積層膜の開発がこれまでになされている。このような積層膜の用途の一つとして、アルカリ水電解用隔膜、電池セパレータ等の電気化学素子用隔膜が知られている。
【0003】
例えば、アルカリ水電解用隔膜は、水素の工業的な製造方法の一つである水の電気分解に使用される膜であり、電解槽において陽極室と陰極室を隔てるために使用される。
水の電気分解は、電子(又はイオン)の移動により行われる。そのため、電気分解を効率良く行うために、アルカリ水電解用隔膜には、高いイオン透過性が必要とされる。また、陽極室で発生した酸素と、陰極室で発生した水素とを遮断し得るガスバリア性が必要とされる。更に、水の電気分解は、30%程度の高濃度のアルカリ水を使用して、80~90℃で行われるので、耐高温性や耐アルカリ性も必要とされる。
【0004】
また、電池セパレータは、亜鉛二次電池等の電池において正極と負極を絶縁する目的で使用される膜であり、正極と負極を隔離し、電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を確保するために使用される。電池セパレータでは、電池の充放電に伴ってデンドライトが成長し、これが短絡の原因となることがある。そのため、電池セパレータでは、イオン伝導性に加え、デンドライトの生成をできるだけ抑制できることが必要とされる。
【0005】
このような電気化学素子用隔膜は、これまでに種々知られている。
例えば、特許文献1には、イオン透過膜と、上記イオン透過膜の片側または両側に配置された多孔性補強体とを備え、上記イオン透過膜が、中酸性イオン交換基、弱酸性イオン交換基、強塩基性イオン交換基、中塩基性イオン交換基又は弱塩基性イオン交換基を有するポリマーから構成され、上記多孔性補強体が、濃度30重量%の水酸化カリウム水溶液に対して、濡れ性を示す、アルカリ水電解用隔膜が記載されている。
また例えば、特許文献2には、特定範囲の平均単繊維繊度と捲縮数を有する熱可塑性繊維で構成されるアルカリ水電気分解隔膜用基材や、上記基材が不織布を含むアルカリ水電気分解隔膜用基材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-249509号公報
【文献】特開2016-89197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の有機層と支持体を有する電気化学素子用隔膜においては、有機層と支持体の密着性が不十分であり、ガスバリア性に劣るといった問題があった。また、近年のエネルギー技術の進歩により、電気化学素子用隔膜に要求される性能も高まっており、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、有機層と支持体の密着性に優れ、優れたガスバリア性を発揮することができる電気化学素子用隔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、バインダーポリマーを含む有機層と支持体を有する電気化学素子用隔膜について種々検討したところ、有機層が、バインダーポリマーに加えて更に無機化合物粒子を含み、支持体として、親水性官能基を有し、特定範囲量の酸素元素濃度を有する炭化水素系多孔質体を使用することにより、有機層と支持体との密着性が優れ、ガスバリア性が格段に向上することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、バインダーポリマーを含む有機層と、支持体とを含む電気化学素子用隔膜であって、上記有機層は、更に無機化合物粒子を含み、上記支持体は、親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体であり、上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する酸素元素濃度が10atm%以上であること特徴とする電気化学素子用隔膜である。
【0011】
上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、更に、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する硫黄元素濃度が0.5atm%以上であることが好ましい。
【0012】
上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、更に、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対するフッ素元素濃度が3.5atm%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電気化学素子用隔膜は、当該隔膜を構成する有機層と支持体との密着性が極めて優れたものである。そのため、本発明の電気化学素子用隔膜は、優れたガスバリア性を有する。本発明の電気化学素子用隔膜は、特にアルカリ水電解用隔膜、又は電池セパレータとして好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0015】
1.電気化学素子用隔膜
本発明の電気化学素子用隔膜は、バインダーポリマーを含む有機層と、支持体とを含む電気化学素子用隔膜であって、上記有機層は、更に無機化合物粒子を含み、上記支持体は、親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体であり、上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する酸素元素濃度が10atm%以上であることを特徴とする。
本発明の電気化学素子用隔膜は、上述の構成からなるため、当該隔膜を構成する有機層と支持体との密着性に優れ、ガスバリア性に優れる。
【0016】
本発明の電気化学素子用隔膜では、有機層と支持体の界面においてバインダーポリマー及び無機化合物粒子と支持体の親水性官能基との間で水素結合が形成されること、及び、支持体表面に親水性官能基が含まれると、支持体に有機層形成材料を塗布含浸させる際に、上記形成材料の含浸性が良好になり、支持体と有機層とが複合し易くなることから、有機層と支持体との界面及び支持体内部における密着性が優れたものとなる。
その結果、ガスは隔膜を通過しにくくなり、優れたガスバリア性が発揮されると推測される。
【0017】
本発明の電気化学素子用隔膜は、有機層と支持体を含む。以下に、各構成について説明する。
<有機層>
上記有機層は、バインダーポリマーを含み、更に無機化合物粒子を含む。上記有機層がバインダーポリマーに加えて、更に無機化合物粒子を含むことにより、後述する支持体との密着性が優れたものとなり得る。このように、上記有機層は、バインダーポリマーと無機化合物粒子を含む無機有機複合体層であることが好ましい。
【0018】
(無機化合物粒子)
上記無機化合物粒子としては、周期表の第1族~第17族から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物からなる粒子が挙げられる。上記周期表の第1族~第17族から選ばれる少なくとも1種の元素としては、周期表の第1族~第15族から選ばれる少なくとも1つの元素が好ましく、第2族、第4族及び第6族から選ばれる少なくとも1つの元素がより好ましく、その中でも、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo及びWから選ばれる少なくとも1つの元素が更に好ましく、Mg、Ti、Zr及びMoから選ばれる少なくとも1つの元素が特に好ましい。
【0019】
また、上記無機化合物粒子としては、酸化物、水酸化物又は水酸化物層を含む化合物が好ましく、上記の好ましい元素を含む酸化物、水酸化物又は水酸化物層を含む化合物が好ましい。
なかでも、有機層と支持体との密着性がより一層優れる点で、上記無機化合物粒子としては、Mg、Ca、Sr若しくはBaを含む水酸化物又は水酸化物層を含む化合物、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zr、Hf、Cr、Mo及びWから選ばれる少なくとも1つの元素を含む酸化物が好ましく、Mgを含む水酸化物又は水酸化物層を含む化合物、Mg、Ti、Zr及びMoから選ばれる少なくとも1つの元素を含む酸化物がより好ましい。
【0020】
上記Mgを含む水酸化物又は水酸化物層を含む化合物としては、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイトが好ましく、水酸化マグネシウムがより好ましい。
上記Mg、Ti、Zr及びMoから選ばれる少なくとも1つの元素を含む酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン及びこれらの酸化物に異種元素が固溶した固溶体が好ましい。
上述した好ましい無機化合物粒子を用いることにより、有機層と支持体の密着性をより一層高め、優れたガスバリア性を発揮することができる。
【0021】
上記無機化合物粒子は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記無機化合物粒子の形状としては、不定形、微粉状、粉状、粒状、顆粒状、薄片状、多面体状、ロッド状、曲面含有状等が挙げられる。なかでも、上記有機層と支持体の密着性をより一層高め、優れたガスバリア性を発揮させることができる点で、微粉状、薄片状が好ましい。
【0023】
上記無機化合物粒子は、平均粒子径が0.001μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましい。また、10μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることが更に好ましい。
上記平均粒子径は、レーザー回折法による粒度分布測定から求められる体積平均粒子径(D50)である。具体的には、上記平均粒子径は、上記無機化合物粒子をエタノール中に分散させ超音波処理したものを、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製「型番LA-920」)を用いて、装置指定の透過率に調整して測定することにより求めることができる。
【0024】
上記無機化合物粒子の含有量は、電気化学素子用隔膜100質量%に対し、30質量%以上であることが好ましく、32質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることが更に好ましい。また、上記無機化合物粒子の含有量は、電気化学素子用隔膜100質量%に対し、99質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、43質量%以下であることが更に好ましい。
【0025】
また、上記無機化合物粒子100質量部に対して、バインダーポリマーを1質量部以上含むことが好ましく、22質量部以上含むことがより好ましく、25質量部以上含むことが更に好ましく、67質量部以下含むことが好ましく、42質量部以下含むことがより好ましく、40質量部以下含むことが更に好ましい。
【0026】
(バインダーポリマー)
上記バインダーポリマーとしては、例えば、ポリエチレン等の脂肪族炭化水素基含有ポリマー;ポリスチレン等の芳香族炭化水素基含有ポリマー;アルキレングリコール等のエーテル基含有ポリマー;ポリビニルアルコール等の水酸基含有ポリマー;ポリアクリルアミド等のアミド基含有ポリマー;ポリマレイミド等のイミド基含有ポリマー;(メタ)アクリル系ポリマー;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のハロゲン原子含有ポリマー;アンモニウム塩含有ポリマー;ホスホニウム塩含有ポリマー;イオン交換性ポリマー;天然ゴム;共役ジエン系ポリマー;ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)等の糖類;ポリエチレンイミン等のアミノ基含有ポリマー等のポリマーが挙げられる。これらのバインダーポリマーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
なかでも、有機層と支持体との密着性をより一層高め、優れたガスバリア性を発揮することができる点で、脂肪族炭化水素基含有ポリマー、芳香族炭化水素基含有ポリマー、ハロゲン原子含有ポリマー、共役ジエン系ポリマー、及び、(メタ)アクリル系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、芳香族炭化水素基含有ポリマー、共役ジエン系ポリマー、ハロゲン原子含有ポリマー、及び、(メタ)アクリル系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0028】
上記脂肪族炭化水素基含有ポリマーとしては、脂肪族炭化水素基含有モノマー由来のモノマー単位を有するポリマーを挙げることができる。
上記脂肪族炭化水素基含有モノマーは、鎖状若しくは分岐状の飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基を含むモノマーであってもよいし、あるいは脂環式炭化水素基を含むモノマーであってもよい。
上記脂肪族炭化水素基含有モノマーとしては、好ましくはエチレン、プロピレン、ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等のオレフィン等が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基含有ポリマーは、上記脂肪族炭化水素基含有モノマーの1種からなるホモポリマーであってもよいし、2種以上からなるコポリマーであってもよい。
上記脂肪族炭化水素基含有ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンが好ましく、ポリエチレン、ポリプロプレンがより好ましい。
【0029】
上記芳香族炭化水素基含有ポリマーとしては、ベンゼン等の芳香族炭化水素基を有するモノマー単位を有するものが挙げられ、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。なかでも、電気化学素子用隔膜のガスバリア性をより一層高めることができる点で、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリスルホンがより好ましい。
【0030】
上記ハロゲン原子含有ポリマーとしては、塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子を含有するモノマー由来のモノマー単位を有するものが挙げられ、例えば、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体等の含フッ素ポリマー等が挙げられる。
【0031】
上記共役ジエン系ポリマーとしては、共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位を有するものであれば特に限定されないが、芳香族ビニルモノマー由来のモノマー単位を有するものであることが好ましい。
【0032】
上記共役ジエン系モノマーは、脂肪族共役ジエン系モノマーであることが好ましい。上記脂肪族共役ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン等が挙げられ、なかでも1,3-ブタジエンが好ましい。共役ジエン系モノマーは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
上記共役ジエン系ポリマーとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、電気化学素子用隔膜のガスバリア性をより一層高めることができる点で、共重合体であることが好ましく、なかでも、芳香族ビニルモノマー由来のモノマー単位を更に有する共重合体であることがより好ましい。
【0034】
上記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-エトキシスチレン、m-エトキシスチレン、p-エトキシスチレン、o-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、o-アセトキシスチレン、m-アセトキシスチレン、p-アセトキシスチレン、o-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、o-tert-ブチルスチレン、m-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらの中でも、電気化学素子用隔膜の耐熱性や機械的強度を高くできる点でスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。これらの芳香族ビニルモノマーは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
上記共役ジエン系ポリマーは、脂肪族共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位と、芳香族ビニルモノマー由来のモノマー単位との質量比が、1/9以上であることが好ましく、2/8以上であることがより好ましく、3/7以上であることが更に好ましい。上記質量比は、9/1以下であることが好ましく、8/2以下であることがより好ましく、7/3以下であることが更に好ましい。
【0036】
上記共役ジエン系ポリマーとしては、電気化学素子用隔膜の性能をより一層向上させることができる点で、スチレン-ブタジエン系共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体が好ましく、スチレン-ブタジエン系共重合体がより好ましい。これらの共重合体は、カルボキシ変性等の変性した共重合体であってもよい。
【0037】
上記共役ジエン系ポリマーは、脂肪族共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位、芳香族ビニルモノマー由来のモノマー単位以外の、その他の不飽和モノマー由来のモノマー単位を有していてもよい。
【0038】
その他の不飽和モノマーとしては、例えば、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩等の酸基含有ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の水酸基含有ビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニルモノマー、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-エチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、イソプロピレングリコールジアクリレート、テトラメチレングリコールジメタクリレート等の二官能ビニルモノマー;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコシシラン基含有ビニルモノマーを挙げることができる。これらは、1種のみ使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
上記共役ジエン系ポリマー100質量%中、その他の不飽和モノマー由来のモノマー単位の質量割合は、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
上記(メタ)アクリル系ポリマーとは、本明細書中、共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位を有さず、(メタ)アクリル系モノマー由来の構成単位を有するポリマーを言う。上記(メタ)アクリル系モノマーとは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有するモノマー又はそのようなモノマーの誘導体をいう。
【0041】
上記(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸系ポリマーであることが好ましい。(メタ)アクリル酸系ポリマーとは、(メタ)アクリル酸系モノマー由来の構成単位を有するポリマーを言い、(メタ)アクリル酸系モノマーとは、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有し、かつ、カルボン酸基(-COOH基)、カルボン酸塩基(-COOM基)、又は、その酸無水物基(-C(=O)-O-C(=O)-基)をもつモノマーである。上記Mは、金属塩、アンモニウム塩、又は、有機アミン塩を表す。金属塩を形成する金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適である。有機アミン塩を形成する有機アミンとしては、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンや、トリエチルアミンが好適である。上記(メタ)アクリル酸系モノマーは、(メタ)アクリル酸(塩)であることが好ましい。(メタ)アクリル酸(塩)は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有し、かつ、カルボン酸基(-COOH基)又はカルボン酸塩基(-COOM基)をもつモノマーである。
【0042】
例えば、(メタ)アクリル酸系ポリマーを得るためのモノマー成分が、(メタ)アクリル酸系モノマー、及び、その他の共重合可能な不飽和モノマーを含んでなるものであることが好ましい。
【0043】
上記(メタ)アクリル酸系ポリマー100質量%中、(メタ)アクリル酸系モノマー由来のモノマー単位の含有量が0.1~5質量%、その他の共重合可能な不飽和モノマー由来のモノマー単位の含有量が95~99.9質量%であることが好ましい。上記(メタ)アクリル酸系モノマー由来のモノマー単位の含有量が0.3質量%以上、その他の共重合可能な不飽和モノマー由来のモノマー単位の含有量が99.7質量%以下であることがより好ましく、(メタ)アクリル酸系モノマー由来のモノマー単位の含有量が0.5質量%以上、その他の共重合可能な不飽和モノマー由来のモノマー単位の含有量が99.5質量%以下であることが更に好ましい。このような範囲内とすることにより、モノマー成分が安定に共重合する。
【0044】
その他の共重合可能な不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー、芳香環を有する不飽和モノマー、アクリロニトリル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等の多官能性不飽和モノマー等が挙げられる。
なお、上記(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリロイル基若しくはメタクリロイル基、又は、これらの基における水素原子が他の原子若しくは原子団に置き換わった基を有し、かつ、カルボン酸エステル基をもつモノマー又はそのようなモノマーの誘導体等が挙げられる。
【0045】
上記カルボン酸エステル基をもつ(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、イソアミルアクリレート、イソアミルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、イソオクチルアクリレート、イソオクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、イソノニルアクリレート、イソノニルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、ヘキサデシルアクリレート、ヘキサデシルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタアクリレート等;これら以外の(メタ)アクリル酸系モノマーのエステル化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することが好適である。
【0046】
上記(メタ)アクリル酸系ポリマー100質量%中、上記(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー由来のモノマー単位の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上含有することがより好ましく、60質量%以上含有することが更に好ましい。また、上記(メタ)アクリル酸系モノマー以外の(メタ)アクリル系モノマー由来のモノマー単位の含有量は、99.9質量%以下であることが好ましく、99.5質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
上記芳香環を有する不飽和モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
【0048】
上記(メタ)アクリル酸系ポリマー100質量%中、上記芳香環を有する不飽和モノマー由来のモノマー単位の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが一層好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。また、上記モノマー単位の含有量は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましい。なお、上記(メタ)アクリル酸系ポリマーの原料となるモノマー成分として、芳香環を有する不飽和モノマーを用いなくてもよい。
【0049】
上記バインダーポリマーは、重量平均分子量が1万以上、650万以下であることが好ましい。重量平均分子量は、2万以上であることがより好ましい。上記重量平均分子量は、以下の条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算された重量平均分子量として測定することができる。
装置:東ソー株式会社製 HCL-8220GPC
カラム:TSKgel Super AWM-H
溶離液(LiBr・H2O、リン酸入りNMP):0.01mol/L
【0050】
上記バインダーポリマーは、例えば、上述したポリマーが含む構成単位を形成するモノマー成分を重合することにより製造することができる。重合は、公知の方法から適宜選択して行うとよい。
【0051】
上記バインダーポリマーの含有量は、電気化学素子用隔膜100質量%に対し、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましい。また、上記バインダーポリマーの含有量は、電気化学素子用隔膜100質量%に対し、70質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
(他の成分)
上記有機層は、上述した無機化合物粒子及びバインダーポリマー以外に、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、カーボン等が挙げられる。
【0053】
上記有機層は、上述した無機化合物粒子、バインダーポリマー、及び必要に応じてその他の成分を溶媒と混合して調製された有機層形成材料を使用して形成することができる。上記有機層の形成については、後述の電気化学素子用隔膜の製造方法において詳述する。
【0054】
上記有機層の厚みは、10~1000μmであることが好ましく、100~500μmであることがより好ましく、200~400μmであることが更に好ましい。
【0055】
<支持体>
本発明において、支持体は、親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体である。
上記親水性官能基としては、特に限定されず、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィド基、ジスルフィド基、フルオロ基、フッ化カルボニル基、リン酸基、アミノ基、イミノ基、アミド基、アルキレンオキシド基、フェノール基等が挙げられる。なかでも、上記親水性官能基としては、有機層中の無機化合物粒子及びバインダーポリマーとの水素結合を形成する点で、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、スルフィド基、フルオロ基、フッ化カルボニル基、リン酸基が好ましく、水酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、スルフィド基、フルオロ基、フッ化カルボニル基がより好ましい。
【0056】
上記炭化水素系多孔質体は、炭化水素系ポリマーからなる多孔質体である。上記炭化水素系ポリマーとしては、脂肪族炭化水素系ポリマー、芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。また、これらのポリマーは上記親水性官能基を有し、上記親水性官能基は、上記炭化水素系ポリマー骨格において、主鎖又は側鎖のどちらに含まれていてもよい。
上記脂肪族炭化水素系ポリマーとしては、上述の有機層において使用される脂肪族炭化水素基含有ポリマーと同様のものが挙げられる。
上記芳香族炭化水素系ポリマーとしては、上述の有機層において使用される芳香族炭化水素基含有ポリマーと同様のものが挙げられる。
なかでも、耐アルカリ性と耐熱性を両立できる点で、上記炭化水素系ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド、及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0057】
上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、上記親水性官能基を有する炭化水素系ポリマーで構成したものであってもよいし、親水性官能基を有する又は有していない炭化水素系多孔質体に親水性官能基を導入したものであってもよい。
上記親水性官能基を導入する方法としては、上記炭化水素多孔質体を、放射線グラフト重合法等のグラフト重合法;プラズマ処理、コロナ処理、UV処理、UVオゾン処理等の表面処理法;フッ素ガス処理法;亜硫酸ガス処理法;重クロム酸カリウム溶液又は過マンガン酸カリウム溶液等による酸化処理;ナトリウム処理液等によるエッチング処理;親水性ポリマー又は界面活性剤、又は繊維油剤のコーティングによる処理;等の公知の方法が挙げられる。なかでも、亜硫酸ガス処理法、フッ素ガス処理法が好ましい。
【0058】
上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する酸素元素濃度が10atm%以上である。
炭素水素系多孔質体に親水性官能基が導入されると、酸素元素濃度が増大する。本発明においては、支持体の酸素元素濃度が上述した範囲であると、親水性官能基が所望量で導入され、上述した有機層と支持体との優れた密着性が発揮され、優れたガスバリア性を有する電気化学素子用隔膜とすることができる。
上記酸素元素濃度は、10~31atm%であることがより好ましい。
【0059】
また、本発明においては、炭素水素系多孔質体に上記親水性官能基が導入されると、上記酸素元素濃度に加えて、少なくとも硫黄元素濃度又はフッ素元素濃度も増大することが好ましい。
上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、更により一層優れた密着性、ガスバリア性を発揮できる点で、更に、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する硫黄元素濃度が0.5atm%以上であることが好ましく、0.5~20atm%であることがより好ましい。
また、上記親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体は、更に、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対するフッ素元素濃度が3.5atm%以上であることが好ましく、3.5~12.5atm%であることがより好ましい。
【0060】
上記炭化水素系多孔質体が、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する酸素元素濃度が10atm%以上であり、かつ、硫黄元素濃度が0.5atm%以上である態様は、本発明においてより好ましい態様の一つである。
また、上記炭化水素系多孔質体が、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する酸素元素濃度が10atm%以上であり、かつ、フッ素元素濃度が3.5atm%以上である態様もまた、本発明においてより好ましい態様の一つである。
また、上記炭化水素系多孔質体が、X線光電子分光法(ESCA)によって測定される元素濃度において、炭素元素100atm%に対する酸素元素濃度が10atm%以上であり、硫黄元素濃度が0.5atm%以上であり、かつ、フッ素元素濃度が3.5atm%以上である態様は、本発明において更に好ましい態様の一つである。
【0061】
上記酸素元素濃度、フッ素元素濃度、及び硫黄元素濃度は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定することができ、例えば、X線光電子分光分析装置(日本電子社製JPS-9000MX、X線源:MgKα線)により測定して得られる値である。
【0062】
上記支持体は、多孔性であり、シート状であることが好ましい。
上記支持体の形態としては、本発明の電気化学素子用隔膜の目的や用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、不織布、織布、メッシュ、焼結多孔膜、又は不織布と織布の混合布等が挙げられ、好ましくは不織布、織布、又はメッシュが挙げられる。
【0063】
上記支持体は、空隙率が10~90%であることが好ましい。空隙率が上述の範囲であると、イオン伝導性、ガスバリア性に優れた電気化学素子用隔膜とすることができる。上記空隙率は、20~85%がより好ましく、25~80%が更に好ましい。
上記空隙率は、支持体を20℃のイオン交換水に一昼夜浸漬させ、浸漬前後の支持体の質量を測定することによって求めることができる。具体的には、下記の式によって求めることができる。
空隙率(体積%)=(浸漬後の支持体の質量-浸漬前の支持体の質量)/20℃におけるイオン交換水の密度/支持体の体積×100
【0064】
上記支持体の厚みは、本発明の電気化学素子用隔膜の目的や用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、10~300μmが好ましく、50~250μmがより好ましく、100~200μmが更に好ましい。
【0065】
本発明の電気化学素子用隔膜の構成としては、上述した有機層と支持体を有する構成であれば特に限定されず、目的や用途に応じて適宜設計すればよく、上記有機層の片面又は両面に上記支持体を有する構成であってもよいし、上記支持体の両面に上記有機層を有する構成であってもよい。
本発明の電気化学素子用隔膜は、上記支持体と上記有機層との少なくとも一部が一体化したものであることが好ましい。一体化することにより、上記支持体と上記有機層との密着性が優れ、隔膜のガスバリア性がより優れたものとなる。
【0066】
本発明の電気化学素子用隔膜の総厚みは、目的や用途に応じて適宜設計すればよいが、通常10~1000μmが好ましく、100~500μmがより好ましく、200~400μmが更に好ましい。
【0067】
本発明の電気化学素子用隔膜は、気孔率が20~80体積%であることが好ましく、25~75体積%であることがより好ましく、30~70体積%であることが更に好ましい。気孔率が上述の範囲であると、隔膜の気孔に電解液が連続的に満たされることにより、イオン伝導性に優れた膜とすることができる。また、ガスバリア性にも優れた膜とすることができる。
上記気孔率は、本発明の電気化学用隔膜を20℃のイオン交換水に一昼夜、浸漬させ、浸漬前後の隔膜の質量によって求めることができる。具体的には、下記の式によって求めることができる。
気孔率(体積%)=(浸漬後の隔膜の質量-浸漬前の隔膜の質量)/20℃のイオン交換水の密度/隔膜の体積×100
【0068】
2.電気化学素子用隔膜の製造方法
本発明の電気化学素子用隔膜を製造する方法としては、特に限定されず、上記支持体上に、上述した無機化合物粒子及びバインダーポリマーを含む有機層形成材料をロールで圧延して膜状に形成する方法、平板プレス等で圧延して膜状に形成する方法や、射出成形法、押出成形法、キャスト法等の膜状に成形する公知の方法を適用することができる。また、多孔質の電気化学素子用隔膜を効率良く製造する方法としては、非溶媒誘起相分離法が好ましく挙げられる。
【0069】
非溶媒誘起相分離法により、多孔質の電気化学素子用隔膜を製造する方法としては、例えば、下記の工程(1)及び(2)を含む方法が挙げられる。
(1)無機化合物粒子及びバインダーポリマーを含む有機層形成材料を調製する工程
(2)上記有機層形成材料を用いて支持体上に有機層を形成する工程
このような電気化学素子用隔膜を製造する方法、すなわち、無機化合物粒子及びバインダーポリマーを含む有機層形成材料を調製する工程(以下、「工程(1)」とも記載する。)、及び、上記有機層形成材料を用いて支持体上に有機層を形成する工程(以下、「工程(2)」とも記載する。)を含むことを特徴とする電気化学素子用隔膜の製造方法もまた、本発明において好ましい実施態様の一つである。以下に、各工程について説明する。
【0070】
工程(1)
本発明の電気化学素子用隔膜の製造方法においては、まず、上述した無機化合物粒子及びバインダーポリマーを含む有機層形成材料を調製する。
上記有機層形成材料を調製する方法としては、無機化合物粒子とバインダーポリマーを混合することができる方法であれば特に限定されず、公知の混合方法を適用することができる。
【0071】
無機化合物粒子とバインダーポリマーを混合する場合、無機化合物粒子とバインダーポリマーと必要に応じて溶媒を同時に混合してもよいし、無機化合物粒子を溶媒に分散させた分散液(スラリー)をあらかじめ調製し、上記分散液にバインダーポリマーを添加して混合してもよいし、バインダーポリマーを溶媒に溶解させた溶液を調製し、この溶液と上記分散液を混合してもよい。なかでも、無機化合物粒子とバインダーポリマーをより一層均一となるように混合することができる点で、無機化合物粒子を溶媒に分散させた分散液をあらかじめ調製し、上記分散液にバインダーポリマー、又は、バインダーポリマーを溶媒に溶解した溶液を添加して混合することが好ましい。
【0072】
混合方法としては、特に限定されず、ミキサー、ボールミル、ジェットミル、ディスパー、サンドミル、ロールミル、ポットミル、ペイントシェーカー等を用いる方法等、公知の混合分散の手段を適用することができる。
【0073】
上記無機化合物粒子を分散させるための溶媒としては、バインダーポリマーを溶解することができる性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、無機化合物粒子の分散性がより一層良好となる点で、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0074】
上記無機化合物粒子を溶媒に分散させた分散液中の無機化合物粒子の含有量は、20~70質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましく、40~50質量%であることが更に好ましい。
【0075】
上記バインダーポリマーを溶解した溶液に使用する溶媒は、バインダーポリマーを溶解することができる性質を有するものであれば特に限定されず、上記無機化合物粒子を分散させるための溶媒と同様の溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。なかでも、上記無機化合物粒子とバインダーポリマーがより一層均一となるよう混合分散できる点で、上記分散液の調製に使用した溶媒と同じ溶媒が好ましい。
【0076】
上記バインダーポリマーを溶解した溶液中のバインダーポリマーの含有量は、10~50質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることが更に好ましい。
【0077】
上記分散液とバインダーポリマー又はバインダーポリマーを溶解した溶液は、得られる電気化学素子用隔膜の目的・用途に応じて所望の量となるよう適宜混合して有機層形成材料を調製するとよい。
【0078】
工程(2)
本発明の電気化学素子用隔膜の製造方法においては、次いで、工程(1)で得た上記有機層形成材料を用いて支持体上に有機層を形成する。
上記有機層形成材料を用いて支持体上に有機層を形成する方法としては、特に限定されないが、多孔質の電気化学素子用隔膜を効率良く製造することができる点で、下記の工程(2-1)~(2-3)を含むことが好ましい。
(2-1)上記有機層形成材料の塗膜を支持体上に形成する工程、
(2-2)上記塗膜を非溶媒と接触させることにより上記塗膜を凝固させる工程、及び
(2-3)上記凝固した塗膜を乾燥させることにより有機層を得る工程
【0079】
このように、上記有機層を形成する工程が、上記有機層形成材料の塗膜を支持体上に形成する工程、上記塗膜を非溶媒と接触させることにより上記塗膜を凝固させる工程、及び、上記凝固した塗膜を乾燥させることにより有機層を得る工程を含む態様もまた、本発明の電気化学素子用隔膜の製造方法における好ましい実施態様の一つである。
【0080】
工程(2-1)
上記有機層形成材料の塗膜を支持体上に形成する方法としては、例えば、上記で得られた有機層形成材料を基材上に塗布する方法や、上記有機層形成材料中に基材を浸漬させ、表面に上記有機層形成材料が付着、又は、上記有機層形成材料が含浸した基材を得る方法等が挙げられる。なかでも、簡便に塗膜を形成できる点で、上記有機層形成材料を支持体上に塗布する方法が好ましい。
【0081】
上記樹脂混合液を基材上に塗布する方法としては、特に限定されず、ダイコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、スプレー、アプリケーター、コーター等を用いる方法等の公知の塗布手段を適用することができる。
【0082】
また、無機化合物粒子とバインダーポリマーを含む有機層と支持体とが一体化した複合体である電気化学素子用隔膜を製造する場合は、基材上に上記有機層形成材料を塗布し、その塗液上に上記支持体を置いて塗液を上記支持体に含浸させてもよい。
【0083】
上記有機層形成材料の塗布量としては、特に限定されず、得られる電気化学素子用隔膜の厚みが目的・用途に応じた厚みとなるよう適宜設定すればよい。
【0084】
工程(2-2)
次いで、上記塗膜を非溶媒と接触させて、上記塗膜を凝固させる。
上記塗膜を非溶媒と接触させることにより、上記塗膜中に非溶媒が拡散し、非溶媒に溶解しないバインダーポリマーが凝固する。一方、非溶媒に溶解しうる塗膜中の溶媒は、塗膜から溶出する。このような相分離が生じることにより、バインダーポリマーが凝固し、多孔質である有機層が形成される。
上記塗膜と非溶媒とを接触させる方法としては、上記塗膜を上記非溶媒中に浸漬させる方法(凝固浴)等が挙げられる。
【0085】
上記非溶媒としては、上記バインダーポリマーを実質的に溶解しない性質を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、イオン交換水;メタノール、エタノール、プロピルアルコール等の低級アルコール;又はこれらの混合溶媒等が挙げられ、なかでも経済性と排液処理の観点からイオン交換水が好ましい。また上記非溶媒には、上述した成分以外に、塗膜中に含まれる溶媒と同様の溶媒を少量含んでいてもよい。
【0086】
上記非溶媒の使用量は、上記塗膜、すなわち有機層形成材料の固形分100質量%に対して、50~10000質量%であることが好ましい。より好ましくは100~5000質量%であり、更に好ましくは200~1000質量%である。得られる電気化学素子用隔膜の気孔率を好ましい範囲に調整するには、非溶媒を上述した割合で使用することが好ましい。
【0087】
工程(2-3)
上記凝固した塗膜を乾燥させることにより有機層を得る。
上記工程(2-2)で凝固した塗膜を乾燥させて、上記非溶媒を除去することにより、多孔質の有機層が支持体上に形成された電気化学素子用隔膜を得ることができる。
乾燥方法としては、特に限定されず、加熱乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等の公知の乾燥手段を用いて行うことができる。
乾燥温度としては、60~80℃が好ましい。
乾燥時間としては、特に限定されず隔膜の形状、大きさ等に応じて適宜設計すればよいが、通常2~120分間、好ましくは5~60分間、より好ましくは10~30分間が挙げられる。
【0088】
以上の通り、上述した工程(1)及び(2)により、本発明の電気化学素子用隔膜を容易に製造することができる。
【0089】
3.用途
本発明の電気化学素子用隔膜は、上述した有機層と支持体との密着性に優れ、ガスバリア性に優れるものである。本発明の電気化学素子用隔膜は、例えば、アルカリ水電解用隔膜に適用した場合、優れたイオン透過性とガスバリア性を発揮することができる。また、電池セパレータに適用した場合、デンドライドの生成を十分に抑制でき、長期のサイクル寿命を発揮することができる。このように、本発明の電気化学素子用隔膜は、アルカリ水電解用隔膜、電池セパレータに特に好適に用いられる。
以下に、本発明の電気化学素子用隔膜を用いたアルカリ水電解用隔膜と電池セパレータの好ましい態様について説明する。
【0090】
3-1.アルカリ水電解用隔膜
本発明の電気化学素子用隔膜はアルカリ水電解用隔膜として好適に用いることができる。すなわち、バインダーポリマーを含む有機層と、支持体とを含むアルカリ水電解用隔膜であって、上記有機層は、更に無機化合物粒子を含み、上記支持体は、親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体であることを特徴とするアルカリ水電解用隔膜もまた、本発明の好ましい実施態様の一つである。
【0091】
上記アルカリ水電解用隔膜における無機化合物粒子としては、上述した「電気化学素子用隔膜」における無機化合物粒子と同様のものを挙げることができるが、なかでも、アルカリ溶液中で無機成分が溶出しにくい点で、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、又は酸化モリブデンがより好ましい。
【0092】
上記無機化合物粒子の平均粒子径は、バインダーポリマーとの分散性が良好となる点で、0.05~2.0μmであることが好ましく、0.1~1.5μmであることがより好ましく、0.2~1.0μmであることが更に好ましい。上記平均粒子径は、上述した「電気化学素子用隔膜」における無機化合物粒子の平均粒子径の測定方法と同様の方法で求めることができる。
【0093】
上記無機化合物粒子の形状としては、上述した「電気化学素子用隔膜」における無機化合物粒子と同様のものを挙げることができる。
【0094】
上記無機化合物粒子は、上述したもののうち1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0095】
上記アルカリ水電解用隔膜における上記無機化合物粒子の含有量としては、30~90質量%が好ましく、32~85質量%がより好ましく、35~80質量%が更に好ましい。
【0096】
上記アルカリ水電解用隔膜におけるバインダーポリマーとしては、上述した「電気化学素子用隔膜」におけるバインダーポリマーと同様のものを挙げることができるが、そのなかでも、芳香族炭化水素基含有ポリマーが好ましく、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0097】
上記アルカリ水電解用隔膜における上記バインダーポリマーの含有量としては、1~40質量%が好ましく、5~35質量%がより好ましく、7~30質量%が更に好ましい。
【0098】
上記アルカリ水電解用隔膜は、上記無機化合物粒子100質量部に対してバインダーポリマーを20~40質量部含むことが好ましく、22~38質量部含むことがより好ましく、25~35質量部含むことが更に好ましい。
【0099】
上記アルカリ水電解用隔膜における支持体としては、上述した「電気化学素子用隔膜」における支持体と同様のものを挙げることができる。
なかでも、上記アルカリ水電解用隔膜における支持体の材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン、及びポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことがより好ましい。
【0100】
上記アルカリ水電解用隔膜における支持体の形態としては、不織布、織布、又はメッシュが好ましい。
【0101】
上記アルカリ水電解用隔膜における支持体の厚みは、好ましくは30~300μm、より好ましくは50~250μm、更に好ましくは100~200μmである。
【0102】
上記アルカリ水電解用隔膜において、上記有機層は、上記支持体の一方の面に形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
また、上記有機層と上記支持体は少なくとも一部が一体化した複合体であることが好ましく、上記複合体とすることにより、アルカリ水電解用隔膜の強度と靭性を高めることができる。
【0103】
上記アルカリ水電解用隔膜の気孔率は、好ましくは20~80体積%、より好ましくは25~75体積%、更に好ましくは30~70体積%である。上記気孔率は、上述した「電気化学素子用隔膜」における気孔率の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0104】
上記アルカリ水電解用隔膜の厚みは、好ましくは50~1000μm、より好ましくは100~500μm、更に好ましくは200~400μmである。
【0105】
上記アルカリ水電解用隔膜を製造する方法としては、上述した「電気化学素子用隔膜」を製造する方法と同様の方法が挙げられる。なかでも、多孔膜を効率良く形成できる点で、非溶媒誘起相分離法が好ましい。
【0106】
上記アルカリ水電解用隔膜は、アルカリ水電解装置の部材として用いられる。上記アルカリ水電解装置としては、例えば、陽極、陰極、及び、陽極と陰極の間に配置された上記アルカリ水電解用隔膜を含むものが挙げられる。より具体的には、上記アルカリ水電解装置は、上記アルカリ水電解用隔膜によって隔てられた、陽極が存在する陽極室と、陰極が存在する陰極室とを有する。陽極、及び陰極としては、ニッケル又はニッケル合金等を含む導電性基体を含む、公知の電極が挙げられる。
【0107】
上記アルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置を用いて行う水の電気分解の方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、上述した上記アルカリ水電解用隔膜を備えたアルカリ水電解装置に、電解液を充填し、電解液中で電流を印加することにより行うことができる。
【0108】
上記電解液としては、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム等の電解質を溶解したアルカリ性水溶液が用いられる。上記電解液における電解質の濃度は、特に限定されないが、電解効率がより一層向上し得る点で、20~40質量%であることが好ましい。
【0109】
また、電気分解を行う場合の温度としては、電解液のイオン電導性がより向上し、電解効率がより一層向上し得る点で、50~120℃が好ましく、80~90℃がより好ましい。電流の印加条件は、公知の条件・方法で行うことができる。
【0110】
3-2.電池セパレータ
本発明の電気化学素子用隔膜は電池セパレータとしても好適に用いることができる。すなわち、バインダーポリマーを含む有機層と、支持体とを含む電池セパレータであって、上記有機層は、更に無機化合物粒子を含み、上記支持体は、親水性官能基を有する炭化水素系多孔質体であることを特徴とする電池セパレータもまた、本発明の好ましい実施態様の一つである。
【0111】
上記電池セパレータにおける無機化合物粒子としては、上述した「電気化学素子用隔膜」における無機化合物粒子と同様のものを挙げることができる。なかでも、イオン伝導度が良好である点で、マグネシウムを含む水酸化物又は水酸化物層を含む化合物が好ましく、水酸化マグネシウム又はハイドロタルサイトがより好ましい。
【0112】
上記電池セパレータにおける無機化合物粒子の平均粒子径は、バインダーとの分散性が良好である点で、0.001~10μmであることが好ましく、0.01~5μmであることがより好ましく、0.1~4μmであることが更に好ましい。上記平均粒子径は、上述した「電気化学素子用隔膜」における無機化合物粒子の平均粒子径の測定方法と同様の方法で求めることができる。
【0113】
上記電池セパレータにおける無機化合物粒子の含有量としては、30~99質量%が好ましく、40~95質量%がより好ましく、45~90質量%が更に好ましい。
【0114】
上記電池セパレータにおけるバインダーポリマーとしては、上述した「電気化学素子用隔膜」におけるバインダーポリマーと同様のものを挙げることができる。なかでも、電池を長寿命化させることができる点で、共役ジエン系ポリマー、ハロゲン原子含有ポリマー、及び(メタ)アクリル系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0115】
上記バインダーポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が-40℃以上、50℃以下であることが好ましい。バインダーポリマーのTgが-40℃未満の場合には電池セパレータの機械的強度が不足し、デンドライト抑制効果が低くなるおそれがある。また、Tgが50℃を超える場合には、電池セパレータが硬脆くなりすぎ、例えば、電池を形成する際に電池セパレータにクラック等が入ることにより、電池の寿命性能を低下させるおそれがある。本発明の電池セパレータにおいて、無機化合物粒子の凝集を原因とした空隙が形成されることを抑制するためには、有機層形成材料に含まれる成分を充分に混練して無機化合物粒子の凝集を抑制し、無機化合物粒子とバインダーポリマーの成分を均一な状態にすることが好ましい。バインダーポリマーのTgが-40℃以上、50℃以下であると、無機化合物粒子との混練の際の混練物がより適度な流動性となり、無機化合物粒子の凝集物を解砕したり有機層形成材料に含まれる成分をより均一な状態としたりすることができる。バインダーポリマーのTgは、より好ましくは、-15℃以上、30℃以下であり、更に好ましくは、-10℃以上、20℃以下である。
バインダーポリマーのTgは、ポリマーをガラス板に塗布し、120℃で1時間乾燥することにより、ポリマーフィルムを形成し、得られたポリマーフィルムについて、示差走査熱量計(装置名:熱分析装置DSC3100S、BRVKER)を用いて測定されるものである。
【0116】
上記電池セパレータにおけるバインダーポリマーの含有量としては、1~70質量%が好ましく、5~60質量%がより好ましい。
【0117】
上記電池セパレータは、上記無機化合物粒子100質量部に対してバインダーポリマーを1~67質量部含むことが好ましく、2~54質量部含むことがより好ましく、3~43質量部含むことが更に好ましい。
【0118】
上記電池セパレータにおける支持体としては、上述した「電気化学素子用隔膜」における支持体と同様のものを挙げることができる。
なかでも、上記電池セパレータにおける支持体の材料としては、ポリオレフィン系、ポリフェニレンサルファイド系、又はポリビニルアルコール系が好ましい。
【0119】
上記電池セパレータにおいて、上記有機層は、上記支持体の一方の面に形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。また、上記有機層と上記支持体が一体化した複合体であってもよい。
【0120】
上記電池セパレータの厚みは、10~1000μmが好ましく、15~800μmがより好ましく、20~500μmが更に好ましい。
【0121】
上記電池セパレータを製造する方法としては、上述した「電気化学素子用隔膜」を製造する方法と同様の方法が挙げられる。
【0122】
上記電池セパレータは、正極、負極、及び電解液を含んで構成される電池のセパレータとして好適に用いることができる。
上記正極は、一次電池や二次電池の正極活物質として通常用いられる活物質を含むものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
正極の活物質としては、例えば、酸素(酸素が正極活物質となる場合、正極は、酸素の還元や水の酸化が可能なペロブスカイト型化合物、コバルト含有化合物、鉄含有化合物、銅含有化合物、マンガン含有化合物、バナジウム含有化合物、ニッケル含有化合物、イリジウム含有化合物、白金含有化合物;パラジウム含有化合物;金含有化合物;銀化合物;炭素含有化合物等より構成される空気極となる);オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、コバルト含有水酸化ニッケル等のニッケル含有化合物;二酸化マンガン等のマンガン含有化合物;酸化銀;コバルト酸リチウム等のリチウム含有化合物;鉄含有化合物;金属亜鉛や酸化亜鉛等の亜鉛種等が挙げられる。
【0123】
上記負極は、一次電池や二次電池の負極活物質として通常用いられる活物質を含むものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。
上記負極の活物質としては、炭素、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、錫、シリコン含有材料等、電池の負極活物質として通常用いられるものを用いることができる。なかでも、セパレータの性能をより一層向上させることができる点で、亜鉛化合物が好ましい。
【0124】
電池を構成する電極は、集電体上に活物質層を形成することで製造することができる。
電極を構成する集電体としては、(電解)銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、(パンチング)鋼板、導電性を付与した不織布;Ni・Zn・Sn・Pb・Hg・Bi・In・Tl・真鍮等を添加した(電解)銅箔・銅メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡銅・パンチング銅・真鍮等の銅合金・真鍮箔・真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡真鍮・パンチング真鍮・ニッケル箔・耐食性ニッケル・ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)・パンチングニッケル・金属亜鉛・耐食性金属亜鉛・亜鉛箔・亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)・(パンチング)鋼板・不織布;Ni・Zn・Sn・Pb・Hg・Bi・In・Tl・真鍮等によりメッキされた(電解)銅箔・銅メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡銅・パンチング銅・真鍮等の銅合金・真鍮箔・真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)・発泡真鍮・パンチング真鍮・ニッケル箔・耐食性ニッケル・ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)・パンチングニッケル・金属亜鉛・耐食性金属亜鉛・亜鉛箔・亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)・(パンチング)鋼板・不織布;銀;アルカリ(蓄)電池や空気亜鉛電池に集電体や容器として使用される材料等が挙げられる。
【0125】
電池を構成する電解液としては、電池の電解液として通常用いられるものであれば特に制限されず、例えば、水含有電解液、有機溶剤系電解液等が挙げられ、水含有電解液が好ましい。水含有電解液とは、水のみを電解液原料として使用する電解液(水系電解液)や、水に有機溶剤を加えた液を電解液原料として使用する電解液を指す。
【0126】
上記水系電解液としては、アルカリ性電解液が好ましい。アルカリ性電解液は、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、リン酸亜鉛水溶液、酢酸亜鉛水溶液等が挙げられる。上記水系電解液は、1種でも2種以上でも使用することができる。
【0127】
また、上記水含有電解液は、有機溶剤系電解液に用いられる有機溶剤を含んでいてもよい。該有機溶剤としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、イオン性液体、フッ素含有カーボネート類、フッ素含有エーテル類、ポリエチレングリコール類、フッ素含有ポリエチレングリコール類等が挙げられる。上記有機溶剤系電解液は、1種でも2種以上でも使用することができる。上記有機溶剤系電解液の電解質としては、特に制限はないが、LiPF、LiBF、LiB(CN)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI)等が好ましい。
【0128】
有機溶剤系電解液を含む水含有電解液の場合、水系電解液と有機溶剤系電解液の合計100質量%に対して、水系電解液の含有量は、好ましくは10~99.9質量%、より好ましくは20~99.9質量%である。
【0129】
上記電池セパレータを適用することができる電池の形態は、一次電池;充放電が可能な二次電池(蓄電池);メカニカルチャージ方式の電池(亜鉛負極を機械的に交換する電池);第三極方式の電池(負極と、充電に適した電極と、放電に適した電極とを用いて構成される電池)、燃料電池等、いずれの形態であっても良いが、二次電池又は燃料電池が好ましい。
上記電池の種類は特に制限されないが、アルカリ乾電池、酸化銀電池、マンガン-亜鉛電池、ニッケル-亜鉛電池、燃料電池、空気電池等、アルカリ性電解液を使用する電池であることが好ましい。
【0130】
以上のとおり、本発明の電気化学素子用隔膜は、有機層と支持体との密着性に優れ、優れたガスバリア性を発揮する。また、長期のサイクル寿命にも優れる。本発明の電気化学素子用隔膜は、特にアルカリ水電解用隔膜や電池セパレータとして好適に使用される。
【実施例
【0131】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0132】
<実施例1>
水酸化マグネシウム(協和化学工業社製、品番200-06H、平均粒子径0.54μm)とN-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業社製)を質量比1:1となるよう混合し、ジルコニアメディアボールを入れたポットミルにて、室温で6時間分散処理を行うことにより水酸化マグネシウム分散液を調製した。
ポリスルホン樹脂(BASF社製、品番ウルトラゾーンS3010)を30質量%の濃度で80~100℃にてN-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業社製)に熱溶解させることによりポリスルホン樹脂溶解液を調製した。
上記で得られた水酸化マグネシウム分散液とポリスルホン樹脂溶解液とを、水酸化マグネシウム100質量部に対してポリスルホン樹脂(PSU)が33質量部になるように計量し、自転公転ミキサー(シンキー社製、品番あわとり練太郎ARE-500)にて室温で1000rpmで約10分間混合した。得られた混合液を、SUSの200メッシュで濾過することで塗液(有機層形成材料)を得た。
PETフィルム上に、アプリケーターにて塗液を塗布し、その上に、フッ素ガスと亜硫酸ガスで処理したポリプロピレン不織布(炭素元素100atm%に対して酸素元素22.1atm%、フッ素元素8.3atm%、硫黄元素3.3atm%、厚み160μm)を接触させることで、不織布に塗液を完全に含浸させた。その後、塗液を含浸させた不織布を、室温にて10分間水浴させ、塗液を凝固させて膜を形成し、水中でPETフィルムから不織布ごと膜を剥離した。水浴後、得られた膜を、乾燥機にて80℃で、30分間乾燥し、不織布と水酸化マグネシウム及びポリスルホン樹脂を含む膜とが一体化した複合体からなる電気化学素子用隔膜を得た。なお、得られた隔膜の総厚みは300μmであった。
【0133】
(1.バブルポイント値の測定)
上記で得られた隔膜について、リキッドポロメーター(Porous Materials社製)を用いてバブルポイント値を測定した。具体的には、2.5cmφの隔膜をイオン交換水中に室温で1時間浸漬させて十分に湿潤させた後、フッ素系溶剤であるGalwick(Porous Materials社製)を隔膜上に満たした。隔膜に対するガス圧を昇圧させていき、水の液膜が破壊されて、Galwickが膜を透過して天秤でその重量を観測した時点のガス圧をバブルポイント値とした。上記隔膜のバブルポイント値は6.8barであった。
【0134】
(2.ニッケル水素電池の充放電サイクル試験)
水酸化ニッケル粉末(田中化学社製コバルトコート品)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂(クレハ社製KFポリマー)を重量比95:5で混合しスラリー化した後、集電体として用いる発泡ニッケルに含浸させ、乾燥後に平板プレス機を用いてプレスしてニッケル正極を作成した。同様に水酸化ニッケル粉末の代わりに水素吸蔵合金粉末を用いて水素負極を作成した。上記で得られた隔膜をセパレータとして上記ニッケル正極と水素負極間に挿入し、電極サイズ2cm×2cmのニッケル水素電池を構成した。電解液として6MKOHを注液し、理論容量75mAhに対して1Cのレートで充放電サイクル試験を実施した。その結果、500サイクル経過後も問題なく電池駆動できた。
【0135】
(3.ニッケル亜鉛電池の充放電サイクル試験)
上記2.のニッケル水素電池において、水素吸蔵合金の代わりに酸化亜鉛粉末を用いて亜鉛負極を作成し、ニッケル亜鉛電池を構成したこと以外は、上記2.のニッケル水素電池と同様に、上記で得られた隔膜を電気化学素子用セパレータとして用い、同様の条件で充放電サイクル試験を実施した。その結果、200サイクルのサイクル寿命を観測した。
【0136】
<実施例2>
支持体として、不織布をフッ素ガスと亜硫酸ガスで親水化処理したポリプロピレン不織布(炭素元素100atm%に対して酸素元素10.4atm%、フッ素元素3.9atm%、硫黄元素0.8atm%、厚み90μm)を使用した以外は実施例1と同様の方法で、電気化学素子用隔膜(総厚み300μm)を作製し、同様に評価を行った。得られた隔膜のバブルポイント値は5.1barであった。ニッケル亜鉛電池の充放電サイクル試験では400サイクルのサイクル寿命を観測した。
【0137】
<実施例3>
支持体として、不織布を繊維油剤で表面処理したポリフェニレンサルファイド不織布(炭素元素100atm%に対して酸素元素12.1atm%、硫黄元素12.6atm%、厚み220μm)を使用した以外は実施例1と同様の方法で、電気化学素子用隔膜(総厚み300μm)を作製し、同様に評価を行った。得られた隔膜のバブルポイント値は7.2barであった。ニッケル亜鉛電池の充放電サイクル試験では220サイクルのサイクル寿命を観測した。
【0138】
<実施例4>
支持体として、不織布を界面活性剤で表面処理したポリフェニレンサルファイド不織布(炭素元素100atm%に対して酸素元素29.9atm%、硫黄元素4.0atm%、厚み160μm)を使用した以外は実施例1と同様の方法で、電気化学素子用隔膜(総厚み300μm)を作製し、同様に評価を行った。得られた隔膜のバブルポイント値は6.5barであった。ニッケル亜鉛電池の充放電サイクル試験では190サイクルのサイクル寿命を観測した。
【0139】
<実施例5>
水酸化マグネシウム粒子(協和化学工業社製、品番200-06H、平均粒子径0.54μm)100質量部、ポリアクリル酸塩水溶液(不揮発分40%)3質量部及びイオン交換水42質量部を計り取り、サンドミルを用いて1時間分散処理した後、ろ過を行い、水酸化マグネシウム粒子水分散液を得た。
得られた水酸化マグネシウム粒子水分散液50質量部、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマー水分散液(不揮発分:48%、日本エイアンドエル社製ナルスターSR-152)33質量部を計り取り、混合した後、ろ過及び真空脱泡を行い、有機層形成材料を得た。
得られた有機層形成材料を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥時の有機層形成材料の秤量値が9.0mg/cmとなるようにコンマコーターにて塗工し、その上に親水化処理したポリプロピレン不織布(炭素元素100atm%に対して酸素元素20.9atm%、フッ素元素10.2atm%、硫黄元素3.9atm%、厚み160μm)を接触させた後、乾燥し、PETフィルムから不織布ごと塗膜を剥離することにより、不織布と塗膜が一体化した電気化学素子用隔膜を得た。得られた隔膜について、実施例1と同様に評価を行った。得られた隔膜のバブルポイント値は8.5barであった。また、ニッケル亜鉛電池の充放電サイクル試験では170サイクル寿命を観測した。
【0140】
<実施例6>
無機粒子としてハイドロタルサイト(協和化学工業社製、品番DHT-6、平均粒子径0.20μm)を使用した以外は実施例5と同様の方法でハイドロタルサイト水分散液を得た。このハイドロタルサイト水分散液50質量部と、実施例5と同様の方法で調製したカルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマー水分散液(不揮発分:48%)21質量部とを使用して有機層形成材料を得た以外は実施例5と同様の方法で電気化学素子用隔膜を得た。得られた隔膜について、実施例1と同様の評価を行った。得られた隔膜のバブルポイント値は7.5barであった。また、ニッケル亜鉛電池の充放電サイクル試験では220サイクルのサイクル寿命を観測した。
【0141】
<比較例1>
支持体として親水処理していないポリプロピレン不織布(炭素元素100%に対して酸素元素1atm%以下、厚み380μm)を使用した以外は実施例1と同様の方法で電気化学素子用隔膜(総厚み400μm)を得た。得られた隔膜について、実施例1と同様の評価を行った。得られた隔膜のバブルポイント値は0.4barであった。ニッケル水素電池及びニッケル亜鉛電池の充放電サイクル試験ではいずれも50サイクル未満のサイクル寿命であった。
【0142】
以上の結果より、実施例1~6の電気化学素子用隔膜は、比較例1の隔膜と比較して、バブルポイント値が非常に高く、ガスバリア性に優れることが認められた。また、実施例1~6の電気化学素子用隔膜は、比較例1の隔膜と比較して、サイクル寿命が非常に長く、信頼性に優れることが認められた。