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特許7195777マスクブランク用材料膜の製造装置、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】マスクブランク用材料膜の製造装置、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20221219BHJP
   G03F 1/32 20120101ALI20221219BHJP
【FI】
C23C14/34 C
G03F1/32
C23C14/34 R
C23C14/34 A
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2018116265
(22)【出願日】2018-06-19
(65)【公開番号】P2019218594
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】磯 博幸
(72)【発明者】
【氏名】影山 景弘
(72)【発明者】
【氏名】金井 修一郎
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-234209(JP,A)
【文献】特開昭63-000465(JP,A)
【文献】特開2001-027798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
G03F 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性ロングスロースパッタリング方法により、マスクブランクに用いられる材料膜を製造する装置であって、
単一の成膜空間内に、前記材料膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成されており、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSAとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なっており、
前記第1のティルト角ΔAを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角ΔBを-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動して配置する、
ことを特徴とするマスクブランク用材料膜の製造装置。
【請求項2】
反応ガスおよび不活性ガスを、それぞれ分離して前記成膜空間内に導入する第一ガス供給手段および第二ガス供給手段と、
前記成膜空間を減圧するための排気手段と、を備え、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離を、100mm以上に設定し、
前記成膜空間の圧力を、1.0×10-1Pa以下に保つとともに、
前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%を満たすように、前記第一ガス供給手段、前記第二ガス供給手段、および、前記排気手段を制御する手段を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク用材料膜の製造装置。
【請求項3】
前記第一ガス供給手段は前記反応ガスを前記基板側へ導入し、前記第二ガス供給手段は前記不活性ガスを前記第1及び第2のターゲット側へ導入する、
ことを特徴とする請求項2に記載のマスクブランク用材料膜の製造装置。
【請求項4】
前記材料膜が、モリブデンシリサイドの酸化窒化物である、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマスクブランク用材料膜の製造装置。
【請求項5】
反応性ロングスロースパッタリング方法により、マスクブランクに用いられる材料膜を製造する方法であって、
前記反応性ロングスロースパッタリング方法は、
単一の成膜空間内に、前記材料膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成され、かつ、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSAとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なるように構成するとともに、
前記第1のティルト角ΔAを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角ΔBを-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、
を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動した配置に構成した状態において、
反応ガスと不活性ガスとを、それぞれ分離して導入するとともに、
圧力が、1.0×10-1Pa以下、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離が、100mm以上であり、
前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%であることを特徴とする、マスクブランク用材料膜の製造方法。
【請求項6】
前記反応ガスは基板側へ導入され、前記不活性ガスは前記第1及び第2のターゲット側へ導入されることを特徴とする、請求項5に記載のマスクブランク用材料膜の製造方法。
【請求項7】
前記材料膜を形成する工程は、
前記材料膜を形成した後に、200℃以上の熱処理を行なう工程をさらに含む、請求項5または6に記載のマスクブランク用材料膜の製造方法。
【請求項8】
前記材料膜は、モリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる、請求項5乃至7のいずれか一項に記載のマスクブランク用材料膜の製造方法。
【請求項9】
反応性ロングスロースパッタリング法を用いて透明基板の上にマスクブランクに用いられる材料膜を位相シフタ膜として形成する工程を有する位相シフトマスク用ブランクスの製造方法であって、
前記反応性ロングスロースパッタリング方法は、
単一の成膜空間内に、前記材料膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成され、かつ、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSAとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なるように構成するとともに、
前記第1のティルト角ΔAを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角ΔBを-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、
を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動した配置に構成した状態において、
反応ガスと不活性ガスとを、それぞれ分離して導入するとともに、
圧力が、1.0×10-1Pa以下、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離が、100mm以上であり、
前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%であることを特徴とする、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項10】
前記反応ガスは基板側へ導入され、前記不活性ガスは前記第1及び第2のターゲット側へ導入されることを特徴とする、請求項9に記載の位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項11】
前記位相シフトマスク用ブランクスを形成する工程は、
前記位相シフタ膜をスパッタリング法を用いて形成した後に、200℃以上の熱処理を行なう工程を含む、請求項9または10に記載の位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項12】
前記位相シフタ膜は、モリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項13】
前記位相シフタ膜を形成する工程の後に金属膜を形成する工程をさらに含む、請求項9乃至12のいずれか一項に記載の位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項14】
前記金属膜は、モリブデン、クロム、タングステン、タンタル、チタン、シリコン、アルミのいずれかの材料からなる膜、または、これらのいずれかの組合わせからなる合金膜である、請求項13に記載の位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項15】
前記位相シフタ膜を形成する工程の後にレジスト膜を形成する工程と、
前記レジスト膜を形成する工程の後に前記レジスト膜の上に帯電防止膜を形成する工程と、をさらに含む、請求項9から14のいずれか一項に記載の位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項16】
前記帯電防止膜は、導電性の高分子材料からなる、請求項15に記載の位相シフトマスク用ブランクスの製造方法。
【請求項17】
反応性ロングスロースパッタリング方法を用いて透明基板の上に位相シフタ膜を形成する工程と、前記位相シフタ膜の上に所定のパターンを有するレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜をマスクにして前記位相シフタ膜のパターニングを行なう工程と、を含む位相シフトマスクの製造方法であって、
前記反応性ロングスロースパッタリング方法は、
単一の成膜空間内に、前記位相シフタ膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成され、かつ、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSAとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なるように構成するとともに、
前記第1のティルト角ΔAを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角ΔBを-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動した配置に構成した状態において、
反応ガスと不活性ガスとを、それぞれ分離して導入するとともに、
圧力が、1.0×10-1Pa以下、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離が、100mm以上であり、
前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%であることを特徴とする、位相シフトマスクの製造方法。
【請求項18】
前記反応ガスは基板側へ導入され、前記不活性ガスは前記第1及び第2のターゲット側へ導入されることを特徴とする、請求項17に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項19】
前記位相シフタ膜を形成する工程は、
前記位相シフタ膜を形成した後に、200℃以上の熱処理を行なう工程を含む、請求項17または18に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項20】
前記位相シフタ膜は、モリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる、請求項17乃至19のいずれか一項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項21】
前記位相シフタ膜を形成する工程と、前記レジスト膜を形成する工程との間に、金属膜を形成する工程をさらに含む、請求項20に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項22】
前記金属膜は、モリブデン、クロム、タングステン、タンタル、チタン、シリコン、アルミのいずれかの材料からなる膜、または、これらのいずれかの組合わせからなる合金膜である、請求項21に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項23】
前記位相シフタ膜のパターニングを行なう工程は、
フッ化炭素と酸素との混合ガスを用いてドライエッチング法により行なう工程を含む、請求項21乃至22のいずれか一項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項24】
前記レジスト膜を形成する工程の後に、
前記レジスト膜の上に帯電防止膜を形成する工程をさらに含む、
請求項17乃至23のいずれか一項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項25】
前記帯電防止膜は、導電性の高分子材料からなる、請求項24に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項26】
前記帯電防止膜は、モリブデン系の金属材料からなる、請求項24に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項27】
所定のパターンを有する前記レジスト膜を形成する工程は、
前記レジスト膜を露光する工程と、
前記レジスト膜の現像前に前記帯電防止膜を除去する工程と、
前記レジスト膜を現像する工程と、
を含む、請求項24乃至26のいずれか一項に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【請求項28】
前記帯電防止膜を除去する工程は、水を用いて前記帯電防止膜を除去することを特徴とする、請求項27に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の大型化に対応可能な、マスクブランク用材料膜の製造装置、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路における高集積化および微細化には目ざましいものがある。それに伴い、被処理体である半導体基板(以下、ウェハと呼称する)上に形成される回路パターンの微細化も急速に進んできている。
【0003】
中でも、フォトリソグラフィ技術が、パターン形成における基本技術として広く認識されるところである。よって、今日までに種々の開発、改良がなされてきている。しかし、パターンの微細化は止まるところをしらず、パターンの解像度向上への要求もさらに強いものとなってきている。
【0004】
近年、これらの要求を満足させる技術として、位相シフトマスクによる位相シフト露光法が各所において研究・開発され、多数の提案が開示されている。たとえば、位相シフトマスクに関連する技術としては、「位相シフトマスクおよびその製造方法ならびにその位相シフトマスクを用いた露光方法(特許文献1)」や「位相シフトフォトマスクブランクス製造方法、位相シフトフォトマスクブランクス、および位相シフトフォトマスク(特許文献2)」、「窒化チタン薄膜成膜方法(特許文献3)」などが挙げられる。
【0005】
特許文献1と特許文献2には、モリブデンシリサイド系のハーフトーン位相シフトマスクおよびその製造方法が開示されており、位相シフタ膜の成膜方式として、直流マグネトロン放電を用いた反応性スパッタが採用されている。
【0006】
特許文献1においては、供給ガスとして、不活性ガスにArを用い、反応性ガスにOまたは(O+N)を用い、ガスの供給方式として、混合ガス方式を採用している。
【0007】
特許文献2においては、供給ガスとして、不活性ガスにArを用い、反応性ガスにNOが用い、ガスの供給方式として、特許文献1と同様に混合ガス方式が採用されている。
【0008】
特許文献3には、直流マグネトロン放電による反応性の低圧スパッタ方法およびその装置が開示されている。特許文献3の目的は、微細孔内部の良好な埋込特性を維持したまま、基板表面上の薄膜の膜厚分布が均一である窒化チタン薄膜成膜方法の提供にある。
【0009】
この目的を達成するために、特許文献3においては、図21に示す、いわゆるロングスロースパッタリング法(以下、LTS法と呼称する)が採用され、Ar+Nガス雰囲気下、圧力を1×10-1Pa(7.5×10-4Torr)以下に保ち、均一な窒化チタン薄膜分布を得るために、混合ガス組成を流量比で、1/8≦Ar/N≦1/3としている。なお、ターゲットと基板との距離(T/S)は,140mm~200mmが選択されている。
【0010】
特許文献4には、「位相シフタ膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、および、位相シフトマスクの製造方法」が開示されている。特許文献4の製法は、前述した特許文献3のLTS法をマスクブランク材料膜の形成に採用したものである。特許文献4の製法においては、反応性ガスを基板側に吹き付け、不活性ガスをターゲット近傍に供給するガス分離方式が提案されている。特許文献4には、ガス分離方式を行うためには、ターゲットと基板との距離(T/S)が、100mm以上、好ましくは400mm以上であることが記載されている。
混合ガス供給方式には、ターゲット表面が酸化され、反応性ガスの供給量が大きくなると、膜の基板への堆積速度が急激に低下し、成膜不能になるという課題があった。特許文献4の製法は、ガス分離方式を採用することにより、この課題を解決した。
【0011】
特許文献5には、「位相シフトマスクブランクの製造方法、及び位相シフトマスクブランクの製造装置」が開示されている。特許文献5の製法は、透明基板上に位相シフト膜がスパッタリング法を用いて連続的に成膜される工程を採用した。成膜時に基板を回転させ、ターゲットを基板の斜め上方に配置し、基板に対して角度をつけることが記載されている。これにより、ブランクス間における位相角及び透過率のばらつきの低減と、歩留りの改善が図れると説明されている。
【0012】
近年、ウェハの大面積化に対応して、マスクブランクの大型化が求められている。特に、矩形状基板において、そのサイズが152mm(6inch)より大型になると、基板に略対向して配置されるターゲットが1つの場合、基板面内における膜厚の均一性が著しく低下する。このため、マスクブランク用材料膜としての品質が達成できない、という課題が顕在化した。
【0013】
ゆえに、大型の矩形状基板においても、基板面内における膜厚の均一性を図ることが可能な、マスクブランク用材料膜の製造装置、マスクブランク用材料膜の製造方法、及び、マスクブランクの製造方法の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第3064769号公報
【文献】特許第3594659号公報
【文献】特許第3615801号公報
【文献】特許第4163331号公報
【文献】特開2002-090978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、大型の矩形状基板においても、基板面内における膜厚の均一性を図ることが可能な、マスクブランク用材料膜の製造装置、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に係るマスクブランク用材料膜の製造装置は、反応性ロングスロースパッタリング方法により、マスクブランクに用いられる材料膜を製造する装置であって、
単一の成膜空間内に、前記材料膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成されており、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSAとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なっており、
前記第1のティルト角ΔAを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角ΔBを-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動して配置する、ことを特徴とする。
本発明の請求項2に係るマスクブランク用材料膜の製造装置は、請求項1において、反応ガスおよび不活性ガスを、それぞれ分離して前記成膜空間内に導入する第一ガス供給手段および第二ガス供給手段と、前記成膜空間を減圧するための排気手段と、を備え、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離を、100mm以上に設定し、前記成膜空間の圧力を、1.0×10-1Pa以下に保つとともに、前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%を満たすように、前記第一ガス供給手段、前記第二ガス供給手段、および、前記排気手段を制御する手段を備える、ことが好ましい。
本発明の請求項3に係るマスクブランク用材料膜の製造装置は、請求項2において、前記第一ガス供給手段は前記反応ガスを前記基板側へ導入し、前記第二ガス供給手段は前記不活性ガスを前記第1及び第2のターゲット側へ導入する、ことが好ましい。
本発明の請求項4に係るマスクブランク用材料膜の製造装置は、請求項1乃至3のいずれか一項において、前記材料膜が、モリブデンシリサイドの酸化窒化物である、ことが好ましい。
【0017】
本発明の請求項5に係るマスクブランク用材料膜の製造方法は、反応性ロングスロースパッタリング方法により、マスクブランクに用いられる材料膜を製造する方法であって、
前記反応性ロングスロースパッタリング方法は、
単一の成膜空間内に、前記材料膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成され、かつ、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なるように構成するとともに、
前記第1のティルト角Δを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角Δ-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、
を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動した配置に構成した状態において、
反応ガスと不活性ガスとを、それぞれ分離して導入するとともに、
圧力が、1.0×10-1Pa以下、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離が、100mm以上であり、
前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%であることを特徴とする。
本発明の請求項6に係るマスクブランク用材料膜の製造方法は、請求項5において、前記反応ガスは基板側へ導入され、前記不活性ガスは前記第1及び第2のターゲット側へ導入される、ことが好ましい。
本発明の請求項7に係るマスクブランク用材料膜の製造方法は、請求項5または6において、前記材料膜を形成する工程は、前記材料膜を形成した後に、200℃以上の熱処理を行なう工程をさらに含む、ことが好ましい。
本発明の請求項8に係るマスクブランク用材料膜の製造方法は、請求項5乃至7のいずれか一項において、前記材料膜は、モリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる、ことが好ましい。
【0018】
本発明の請求項9に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、反応性ロングスロースパッタリング法を用いて透明基板の上にマスクブランクに用いられる材料膜を位相シフタ膜として形成する工程を有する位相シフトマスク用ブランクスの製造方法であって、
前記反応性ロングスロースパッタリング方法は、
単一の成膜空間内に、前記材料膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成され、かつ、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSAとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なるように構成するとともに、
前記第1のティルト角ΔAを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角ΔBを-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、
を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動した配置に構成した状態において、
反応ガスと不活性ガスとを、それぞれ分離して導入するとともに、
圧力が、1.0×10-1Pa以下、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離が、100mm以上であり、
前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%であることを特徴とする。
本発明の請求項10に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、請求項9において、前記反応ガスは基板側へ導入され、前記不活性ガスは前記第1及び第2のターゲット側へ導入される、ことが好ましい。
本発明の請求項11に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、請求項9または10において、前記位相シフトマスク用ブランクスを形成する工程は、前記位相シフタ膜をスパッタリング法を用いて形成した後に、200℃以上の熱処理を行なう工程を含む、ことが好ましい。
本発明の請求項12に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、請求項9乃至11のいずれか一項において、前記位相シフタ膜は、モリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる、ことが好ましい。
本発明の請求項13に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、請求項9乃至12のいずれか一項において、前記位相シフタ膜を形成する工程の後に金属膜を形成する工程をさらに含む、ことが好ましい。
本発明の請求項14に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、請求項13において、前記金属膜は、モリブデン、クロム、タングステン、タンタル、チタン、シリコン、アルミのいずれかの材料からなる膜、または、これらのいずれかの組合わせからなる合金膜である、ことが好ましい。
本発明の請求項15に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、請求項9から14のいずれか一項において、前記位相シフタ膜を形成する工程の後にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜を形成する工程の後に前記レジスト膜の上に帯電防止膜を形成する工程と、をさらに含む、ことが好ましい。
本発明の請求項16に係る位相シフトマスク用ブランクスの製造方法は、請求項15において、前記帯電防止膜は、導電性の高分子材料からなる、ことが好ましい。
【0019】
本発明の請求項17に係る位相シフトマスクの製造方法は、反応性ロングスロースパッタリング方法を用いて透明基板の上に位相シフタ膜を形成する工程と、前記位相シフタ膜の上に所定のパターンを有するレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜をマスクにして前記位相シフタ膜のパターニングを行なう工程と、を含む位相シフトマスクの製造方法であって、
前記反応性ロングスロースパッタリング方法は、
単一の成膜空間内に、前記位相シフタ膜の母材となるモリブデンシリサイドの平板状の第1のターゲット及び第2のターゲットを、互いに離間させて配置するとともに、
それぞれの前記第1及び第2のターゲットから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板の回転する被処理面に向うように構成され、かつ、
前記第1のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第1のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSとがなす第1のティルト角ΔA、及び、前記第2のターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記第2のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSBとがなす第2のティルト角ΔBが、前記第1及び第2のターゲットごとに異なるように構成するとともに、
前記第1のティルト角Δを-22°~-19°とした前記第1のターゲットと、
前記第2のティルト角Δ-10°~-7°とした前記第2のターゲットと、
を有し、
前記第2のターゲットを、前記第1のターゲットよりも前記基板から離間する方向に移動した配置に構成した状態において、
反応ガスと不活性ガスとを、それぞれ分離して導入するとともに、
圧力が、1.0×10-1Pa以下、
前記第1及び第2のターゲットと前記基板との距離が、100mm以上であり、
前記反応ガスと前記不活性ガスとの流量比が、50%≦反応ガス/不活性ガス≦80%であることを特徴とする。
本発明の請求項18に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項17において、前記反応ガスは基板側へ導入され、前記不活性ガスは前記第1及び第2のターゲット側へ導入される、ことが好ましい。
本発明の請求項19に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項17または18において、前記位相シフタ膜を形成する工程は、前記位相シフタ膜を形成した後に、200℃以上の熱処理を行なう工程を含む、ことが好ましい。
本発明の請求項20に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項17乃至19のいずれか一項において、前記位相シフタ膜は、モリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる、ことが好ましい。
本発明の請求項21に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項20において、前記位相シフタ膜を形成する工程と、前記レジスト膜を形成する工程との間に、金属膜を形成する工程をさらに含む、ことが好ましい。
本発明の請求項22に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項21において、前記金属膜は、モリブデン、クロム、タングステン、タンタル、チタン、シリコン、アルミのいずれかの材料からなる膜、または、これらのいずれかの組合わせからなる合金膜である、ことが好ましい。
本発明の請求項23に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項21乃至22のいずれか一項において、前記位相シフタ膜のパターニングを行なう工程は、フッ化炭素と酸素との混合ガスを用いてドライエッチング法により行なう工程を含む、ことが好ましい。 本発明の請求項24に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項17乃至23のいずれか一項において、前記レジスト膜を形成する工程の後に、前記レジスト膜の上に帯電防止膜を形成する工程をさらに含む、ことが好ましい。
本発明の請求項25に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項24において、前記帯電防止膜は、導電性の高分子材料からなる、ことが好ましい。
本発明の請求項26に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項24において、前記帯電防止膜は、モリブデン系の金属材料からなる、ことが好ましい。
本発明の請求項27に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項24乃至26のいずれか一項において、所定のパターンを有する前記レジスト膜を形成する工程は、前記レジスト膜を露光する工程と、前記レジスト膜の現像前に前記帯電防止膜を除去する工程と、前記レジスト膜を現像する工程と、を含む、ことが好ましい。
本発明の請求項28に係る位相シフトマスクの製造方法は、請求項27において、前記帯電防止膜を除去する工程は、水を用いて前記帯電防止膜を除去する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマスクブランク用材料膜の製造装置は、反応性ロングスロースパッタリング方法により矩形状の基板の回転する(R:回転方向)被処理面に対して材料膜を形成する際に、前記材料膜の母材となるターゲットを複数、単一の成膜空間内に配置する。各ターゲットのスパッタ面に対する鉛直方向と、前記材料膜の母材となる平板状のターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TSとがなすティルト角Δが、前記ターゲットごとに異なるように構成する。これにより、矩形状の基板の回転する被処理面に対して、2つ以上のターゲットから各々、異なる角度でスパッタ粒子が被着し、堆積することにより、所望の厚さの材料膜が形成される。その結果、大型の矩形状基板であっても、その基板面内に均一な膜厚の成膜が可能となる。したがって、本発明は、大型の矩形状基板においても、基板面内における膜厚の均一性を図ることが可能な、マスクブランク用材料膜の製造装置の提供に寄与する。
【0021】
本発明に係るマスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法は何れも、上述したマスクブランク用材料膜の製造装置を用いる場合の設定条件のうち、反応ガスと不活性ガスとを分離して導入すること、所定の圧力以下にすること、ターゲットと基板の間隔を所定の距離以上にすること、反応ガスと不活性ガスとの流量比を所定の範囲内にすること、を規定したものである。
この規定により、矩形状の基板の回転する(R:回転方向)被処理面に対して、2つ以上のターゲットから各々、異なる角度でスパッタ粒子が被着し、堆積する際に、透過率の均一な材料膜が得られる。したがって、大型の矩形状基板であっても、その基板面内に光学特性の均一な成膜が可能となる。本発明は、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るLTS法が採用されたスパッタリング装置の構成を示す模式図。
図2図1の装置の上方から見た被処理体とターゲットの配置を示す鳥瞰図。
図3】ティルト角の条件を変えて、基板半径と規格化膜厚との関係を示すグラフ。
図4】2条件のティルト角で得られた規格化膜厚を合算した結果(SUM)を示すグラフ。
図5】本発明に係る実施形態2における位相シフトマスクの断面構造図。
図6】本発明に係る位相シフトマスクを用いた場合のマスク上の電場およびウェハ上の電場を示す模式図。
図7】実施形態2の第1製造工程を示す断面図。
図8】実施形態2、3の第2製造工程を示す断面図。
図9】実施形態2、3の第3製造工程を示す断面図。
図10】第4製造工程を示す断面図。
図11】実施形態3の第1製造工程を示す断面図。
図12】実施形態4の第1製造工程を示す断面図。
図13】実施形態4の第2製造工程を示す断面図。
図14】実施形態4の第3製造工程を示す断面図。
図15】実施形態4の第4製造工程を示す断面図。
図16】実施形態4の第5製造工程を示す断面図。
図17】(a)および(b)は実施形態5の位相シフトマスク要ブランクスの断面図。
図18】(a)および(b)は実施形態5の位相シフトマスク要ブランクスの製造方法を示す断面図。
図19】位相シフトマスクの欠陥修正方法を示す断面図。
図20】位相シフトマスクを用いた露光方法の状態を示す模式図。
図21】従来のLTS法が採用されたスパッタリング装置の構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明に係る各実施の形態について説明する。
【0024】
(実施の形態1)
まず、図1を参照して、LTS法を用いて本発明に係るマスクブランク用材料膜を形成するためのスパッタリング装置について説明する。
図1は、本発明に係るLTS法が採用されたスパッタリング装置100の構成を示す模式図である。
【0025】
スパッタリング装置100は、低圧の真空槽103を備えている。真空槽103は反応ガス導入口114a、不活性ガス導入口114b、および混合ガス導入口114cを有する。また、2つの真空排気口114d、および、真空排気口114eを有する。さらに、2つのターゲット電極105A(105)、および、ターゲット電極105B(105)と、基板ホルダ107を有する。
【0026】
ターゲット電極105Aの表面には材料膜の母材となる平板状のターゲット104A(104)を、ターゲット電極105Bの表面には材料膜の母材となる平板状のターゲット104B(104)を、各々備えている。ターゲット電極105Aおよびターゲット電極105Bは、真空槽103を構成するドーム状の天井102に沿って配置される。
すなわち、スパッタリング装置100は、真空槽103による単一の成膜空間103K内に、前記材料膜の母材となる平板状のターゲットを複数(図1の場合は2組)、互いに離間させて配置した構成例である。
【0027】
スパッタリング装置100の真空槽103内においては、それぞれの前記ターゲット104A、104Bから飛翔したスパッタ粒子が、矩形状の基板106の回転する(R:回転方向)被処理面106uに向うように構成されている。前記ターゲットのスパッタ面104As、104Bsに対する鉛直方向(点線矢印)と、前記ターゲットのスパッタ面の中心と前記基板の被処理面の中心とを結ぶ線分TS(TSA、TSB:実線矢印)とがなすティルト角Δ(ΔA、ΔB)が、前記ターゲットごとに異なっている。ここで、線分TS(TSA、TSB)は、いわゆる、ターゲットと基板との間隔である。
【0028】
真空排気口114d、および、真空排気口114eには、不図示の真空ポンプが接続されている。ターゲット電極105Aの裏面には、2重の同心円状に配置された磁石110A(110)を有するマグネットプレート109A(109)が設けられている。ターゲット電極105Aには、高周波電源112A(112)が電気的に接続されている。同様に、ターゲット電極105Bの裏面には、2重の同心円状に配置された磁石110B(110)を有するマグネットプレート109B(109)が設けられている。ターゲット電極105Bには高周波電源112B(112)が電気的に接続されている。
基板ホルダ107の内部にはヒータ111が設けられている。
以下の各実験例においては何れも、膜の形成時に、ターゲットとしてモリブデンシリサイドを用いる。
【0029】
(実験例1~7)
実験例1~7では、1つのターゲットを用い、矩形状の基板にマスク材料膜としてモリブデンシリサイド膜を形成した。
マスク材料膜の膜厚分布に関して、線幅への影響を小さくすることは、基板中央から外周に向けて、単調増加(あるいは単調減少)に変化している場合、レジスト現像などのパターンプロセスにおいて、若干の補正は可能である。しかし、膜厚変化が単調でない場合には、膜厚変化がそのまま、パターン線幅の変化として現れる。
【0030】
図3は、ティルト角の条件を変えてモリブデンシリサイド膜を形成した場合における、基板半径と規格化膜厚との関係を示すグラフである。図3において、横軸が基板半径、縦軸が規格化膜厚であり、ティルト角を-9°~+9°の範囲で変えた結果を示している。ここで、ティルト角が-9°の場合を実験例1、ティルト角が-6°の場合を実験例2、ティルト角が-3°の場合を実験例3、ティルト角が0°の場合を実験例4、ティルト角が+3°の場合を実験例5、ティルト角が+6°の場合を実験例6、ティルト角が+9°の場合を実験例7、と各々呼称する。
【0031】
本発明が対象とするブランク用の基板は、6インチ角(約152mm角)~9インチ角(約229mm角)の大きな面積を有する矩形状の基板である。
基板が6インチ角(6インチは152mmに換算する)の場合、均一な膜の形成が求められる最大半径は、108mm程度(=152×√2/2)となる。半径方向において規格化膜厚の変化が最も小さなティルト角は、図3から「+9°」の場合であることが読み取れるので、「(-16°+9°=)-7°」となることが分かった。ここで、「-16°」は、変更する前のティルト角の基本角度である。
【0032】
基板が9インチ角(9インチは229mmに換算する)の場合、均一な膜の形成が求められる最大半径は、162mm程度(=229×√2/2)となる。半径方向において規格化膜厚の変化が最も小さなティルト角は、図3から「-6°」の場合であることが読み取れるので、「(-16°-6°=)-22°」となることが分かった。
【0033】
上述した条件が、パターンプロセスにおける補正を考慮すると、膜厚のばらつきの傾向としては最も好ましい。ところが、半径位置が108mmにおけるティルト角が「+9°」の場合、規格化膜厚のばらつきの絶対値は、図3より「0.85%程度」であることが読み取れる。同様に、半径位置が162mmにおけるティルト角が「-6°」の場合、規格化膜厚のばらつきの絶対値は、図3より「0.85%程度」である。この「0.85%程度」のばらつきは、パターンプロセスにおいて問題である。
【0034】
そこで、本発明者らは、複数のターゲットを用いてスパッタ成膜を行い、膜厚を重畳させて、膜厚ばらつきの改善を検討した。
図2に示す鳥瞰図において、対向する位置(角度が180度異なる位置)にある2つのターゲット(たとえば、ターゲット104Aとターゲット104D)を用いて成膜した。その際に、ターゲット104Aのティルト角ΔAは「-22°」に、ターゲット104Bのティルト角ΔBは「-10°」とした。また、ターゲット104Bは、基板から離間する方向に40mm移動させた。すなわちTS距離を40mm増加させた。
【0035】
(実験例11~13)
実験例11~13では、異なる1条件のティルト角で得られた規格化膜厚と、この2条件のティルト角で得られた規格化膜厚を合算した結果(SUM)について検討した。
ターゲットとしては、矩形状の基板にマスク材料膜としてモリブデンシリサイド膜を形成した。
図4は、異なる1条件のティルト角で得られた規格化膜厚と、2条件のティルト角で得られた規格化膜厚を合算した結果(SUM)を示すグラフである。
【0036】
図4におけるターゲット104Aのプロット「-6」(▽印)の場合(実験例11と呼称する)は、図3に示したターゲット104Aのティルト角ΔAのプロット「-6」(実験例2)と同一である。
【0037】
一方、図4におけるターゲット104Bのプロット「+6」(□印)の場合(実験例12と呼称する)は、ターゲット104Bを基板から離間する方向に40mm移動させたことにより、規格化膜厚がシフトしたものである。すなわち、基板半径が0の位置において、規格化膜厚が0.25%程度、+側へシフト(規格化膜厚が1.0000→1.0025へ移動)したことを示している。
【0038】
図4におけるプロットSUM(網掛けの○印)の場合(実験例13と呼称する)は、ターゲット104Aのプロット「-6」(▽印)と、ターゲット104Bのプロット「+6」(□印)とを重畳した結果である。これにより、基板の最外周における規格化膜厚は若干薄くなったが、絶対値は0.60%程度に改善することができた。
【0039】
(実験例21~26)
図4の結果を受けて、後述する表1に示すような6種類の試料(実験例21~26)における膜の諸特性(膜厚[nm]、透過率[%]@193nm、位相差[°]@193nm)について評価した。この4種類の試料においては、成膜条件は「ターゲットの個数」と「ティルト角」のみ変更し、使用するガスの種類や流量は同一とした。
【0040】
実験例21は、ターゲットの個数が1つ(たとえばターゲット104A)で、ティルト角が0度の場合である。すなわち、1つのターゲット104Aの表面104Asと、基板106の表面106uとを対向に配置してスパッタ成膜した。
【0041】
実験例22は、ターゲットの個数が1つ(たとえばターゲット104A)で、ティルト角が-6度の場合であり、1つのターゲット104Aの表面104Asと、基板106の表面106uとを傾斜させてスパッタ成膜した。
【0042】
実験例23は、ターゲットの個数が1つ(たとえばターゲット104B)で、ティルト角が+6度の場合であり、1つターゲット104Bの表面104Bsと、基板106の表面106uとを傾斜させてスパッタ成膜した。
【0043】
実験例24は、ターゲットの個数が2つ(たとえばターゲット104A、ターゲット104B)で、各ターゲットのティルト角が-6°と+6°の場合であり、2つのターゲットの表面104As、104Bsと、基板106の表面106uとを異なる傾斜角として、同時にスパッタ成膜した。
【0044】
実験例25は、ターゲットの個数が2つ(たとえばターゲット104A、ターゲット104B)で、各ターゲットのティルト角が-6°と+9°の場合であり、2つのターゲットの表面104As、104Bsと、基板106の表面106uとを異なる傾斜角として、同時にスパッタ成膜した。
【0045】
実験例26は、ターゲットの個数が2つ(たとえばターゲット104A、ターゲット104B)で、各ターゲットのティルト角が-3°と+6°の場合であり、2つのターゲットの表面104As、104Bsと、基板106の表面106uとを異なる傾斜角として、同時にスパッタ成膜した。
【0046】
実験例21~26において使用するガスの種類や流量は同一とした。すなわち、使用するガスと流量は、アルゴンガス(Ar)が5sccm、ヘリウムガス(He)が40sccm、窒素ガス(N)が23sccm、一酸化窒素ガス(NO)が1sccmである。
表1は6種類の試料(実験例21~26)の作製条件であり、表2は6種類の試料(実験例21~26)における膜の諸特性(膜厚[nm]、透過率[%]@193nm、位相差[°]@193nm)の平均値、及び、最大値と最小値の差分[max-min]、について評価した結果である。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1より、以下の点が明らかとなった。
(A1)ターゲットと基板とを対向配置した場合(実験例21)は、膜厚の分布(14.8nm)が大きいため、透過率の分布(4.6%)とともに位相差の分布(38.17°)も大きい。
(A2)ティルト角を-6度とした場合(実験例22)は、膜厚の分布(0.9nm)が著しく改善する。これにより、実験例22における透過率の分布(0.27%)および位相差の分布(2.29°)は、実験例21に比べて十分の一以下となる。
(A3)ティルト角を+6度とした場合(実験例23)は、膜厚の分布(0.7nm)が著しく改善する。これにより、実験例23における透過率の分布(0.27%)および位相差の分布(2.27°)は、実験例21に比べて十分の一以下となる。実験例23の特性は、実験例22の特性と同レベルである。
(A4)2つのターゲットを用い、かつ、異なるティルト角(-6度、+6度)、(-6度、+9度)、(-3度、+6度)とした場合(実験例24、25、26)は、膜厚の分布(0.5nm、0.6nm、0.4nm)が更に改善する。これにより、実験例24、25、26における透過率の分布(0.11%、0.10%、0.15%)および位相差の分布(1.36°、1.63°、1.11°)は、実験例22や実験例23に比べて二分の一程度となる。
【0050】
以上の結果より、本発明のマスクブランク用材料膜の製造装置によれば、大型の矩形状基板であっても、その基板面内に均一な膜厚の成膜が可能となることが確認された。この作用・効果は、使用するターゲットが2つの場合に限定されるものではない。3つ以上のターゲットを用いても、上記作用・効果は同様に得られる。
本発明のマスクブランク用材料膜の製造装置は、複数のターゲットを備えることによって、異なる角度でスパッタ粒子が被着し、堆積する構成を備え、所望の厚さの材料膜を形成するものである。これにより、本発明のマスクブランク用材料膜の製造装置によれば、大型の矩形状基板であっても、その基板面内に均一な膜厚の成膜が可能となる。
よって、本発明は、大型の矩形状基板においても、基板面内における膜厚の均一性を図ることが可能な、マスクブランク用材料膜の製造装置をもたらす。
【0051】
(実施例1)
次に、バイナリー・モリブデンシリサイド膜を備えたマスクブランクの具体的な成膜条件を下記に示す。
【0052】
T/S距離:400mm
ティルト角(基本角度):-16°
ターゲット104Aのティルト角(ΔA):基本角度-6°=-22°
ターゲット104Dのティルト角(ΔB):基本角度+6°=-10°
ターゲット104Aのオフセット角(θA):46°
ターゲット104Dのオフセット角(θB):46°
ターゲット104D:基板から離間する方向に40mm移動して配置
スパッタ電流:0.5A
スパッタ電圧:520V~550V
ターゲット数:2個
ターゲット径:160mmφ
基板温度:50℃~120℃
膜厚:50nm~80nm
スパッタ時間:8min~16min(回転成膜)
ガス分離方式:基板に反応ガスを吹きつける
ターゲットには不活性ガスを供給する
上記条件の下、ガス流量(sccm)、圧力(×10-1Pa)を適宜選択し、成膜したサンプルである「TR1,2,3」を、下記表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
(実施例2)
次に、回転成膜に変えて、静止成膜した場合の具体的な成膜条件を下記に示す。他の点は、実施例1と同様とした。
T/S距離:400mm
ティルト角(基本角度):-16°
ターゲット104Aのティルト角(ΔA):基本角度-6°=-22°
ターゲット104Dのティルト角(ΔB):基本角度+6°=-10°
ターゲット104Aのオフセット角(θA):46°
ターゲット104Dのオフセット角(θB):46°
ターゲット104D:基板から離間する方向に40mm移動して配置
スパッタ電流:0.5A
スパッタ電圧:520V~550V
ターゲット数:2個
ターゲット径:160mmφ
基板温度:50℃~120℃
膜厚:50nm~80nm
スパッタ時間:8min~16min(静止成膜)
ガス分離方式:基板に反応ガスを吹きつける
ターゲットには不活性ガスを供給する
上記条件の下、ガス流量(sccm)、圧力(×10-1Pa)を適宜選択し、成膜したサンプルである「TR1,2,3」を、下記表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
(実施例3)
なお、参考までに、実施例3として、従来技術(図21の装置)におけるモリブデンシリサイド膜の成膜条件を下記に示す。
T/S距離:400mm
ティルト角(基本角度):-16°
ターゲットのティルト角:0°
ターゲットのオフセット角:0°
スパッタ電流:0.5A
スパッタ電圧:520V~550V
ターゲット数:1個
ターゲット径:160mmφ
基板温度:50℃~120℃
膜厚:50nm~80nm
スパッタ時間:8min~16min(回転成膜)
:8min~16min(静止成膜)
ガス分離方式:基板に反応ガスを吹きつける
ターゲットには不活性ガスを供給する
上記条件の下、ガス流量(sccm)、圧力(×10-1Pa)を適宜選択し、成膜したサンプルである「TR1,2,3」を、下記表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
次に、上記実施例1~3(表1~5)に示した各サンプルの、ArFレーザー(193nm)に対する光学特性を、下記表6「ArFレーザー(193nm)」に示す。なお、この各サンプルは、全て「成膜したまま(as deposition)」の状態のものである。
【0059】
【表6】
【0060】
上記表6の記載内容から、以下の点が明らかとなった。
(B1)本発明の製造装置を用い、回転成膜により作製されたサンプル(TR1~TR3)および静止成膜により作製されたサンプル(TX1~TX3)は、従来の製造装置を用い、回転成膜により作製されたサンプル(SR1~SR3)および静止成膜により作製されたサンプル(SX1~SX3)に比べて、光学定数や透過率のバラツキが小さい。
(B2)本発明の製造装置を用い、回転成膜により作製されたサンプル(TR1~TR3)と静止成膜により作製されたサンプル(TX1~TX3)とを比べた場合は、回転成膜の方が静止成膜より、光学定数や透過率のバラツキが小さい。
(B3)上記(B2)の傾向は、従来の製造装置を用いた場合も同様であった。すなわち、回転成膜の方が静止成膜より、光学定数や透過率のバラツキを抑制できる。
【0061】
上述した結果(B1)~(B3)により、本発明のマスクブランク用材料膜の製造装置は、大型の矩形状基板においても、基板面内における膜厚の均一性に寄与することが確認された。その結果、本発明のマスクブランク用材料膜の製造装置は、大型の矩形状基板であっても、その基板面内に光学特性の均一な成膜を実現する。
【0062】
また、本発明のマスクブランク用材料膜の製造装置を用いる場合の設定条件のうち、反応ガスと不活性ガスとを分離して導入すること、所定の圧力以下にすること、ターゲットと基板の間隔を所定の距離以上にすること、反応ガスと不活性ガスとの流量比を所定の範囲内にすること、を規定することにより、大型の矩形状基板であっても、その基板面内に均一な膜厚の成膜が可能となる。その結果、大型の矩形状基板であっても、その基板面内に光学特性の均一な成膜が可能となる。本発明は、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法をもたらす。
【0063】
(実施の形態2)
次に、上記位相シフタ膜を備える位相シフトマスクおよびその製造方法について、以下説明する。まず、図5を参照して、この実施の形態2におけるハーフトーン型の位相シフトマスクの構造について説明する。このハーフトーン型の位相シフトマスク200は、露光光を透過する石英からなる透明基板1と、この透明基板1の主表面上に形成された位相シフトパターン30とを備えている。この位相シフトパターン30は、透明基板1が露出する第1光透過部10と、透過する露光光の位相と透過率とが、第1光透過部10を透過する露光光の位相に対して略180°変換し、かつ、必要な透過率(例えば、1%~40%)を有し、単一の材料からなる第2光透過部4とから構成されている。
【0064】
次に、図6(a),(b),(c)を参照して、上記構造よりなる位相シフトマスク200を通過する露光光のマスク上の電場およびウェハ上の光強度について説明する。
【0065】
図6(a)を参照して、上述した位相シフトマスク200の断面図である。図6(b)を参照して、マスク上の電場は、露光パターンのエッジで位相が反転しているために、露光パターンのエッジ部での電場が必ず0となる。よって、図6(c)を参照して、露光パターンの光透過部10と位相シフタ部4とのウェハ上における電場の差が十分となり高い解像度を得ることが可能となる。
【0066】
次に、位相シフトマスク200の製造方法について、位相シフタ膜としてモリブデンシリサイド膜を用いた場合について説明する。
【0067】
図7図10は、図5に示す位相シフトマスク200の断面に従った製造工程を示す断面構造図である。
【0068】
まず、図8を参照して、透明基板1の上に、LTS法を用いて、モリブデンシリサイド膜よりなる位相シフタ膜4を形成する。ここで、上述した表1のサンプルTX1と同じ成膜条件で、単層のモリブデンシリサイド膜からなる位相シフタ膜4を、膜厚約1134Å成膜する。この場合、248nmの波長で、位相シフト量約180°の位相シフトマスク用ブランクスを得ることができた。このように、透明基板1の上に位相シフタ膜4が形成されたものを位相シフトマスク用ブランクスと呼ぶ。
【0069】
その後、この位相シフタ膜4の透過率を安定させるために、クリーンオーブンなどを用いて200℃以上の加熱処理を行なう。
【0070】
これにより、従来位相シフタ膜の成膜のレジスト塗布プロセスなどの加熱処理(約180℃)による透過率の変動(0.5~1.0%)を防止することができる。
【0071】
次に、この位相シフタ膜4の上に、電子ビーム用レジスト膜5(日本ゼオン製:ZEP-810S(登録商標))などを膜厚約5000Å形成する。その後、モリブデンシリサイド酸化窒化膜は導電性を有しないため、電子ビームによる露光時の帯電を防止するために、帯電防止膜6(昭和電工製 エスペーサ100(登録商標))などを約100Å形成する。
【0072】
次に、図8を参照して、電子ビーム用レジスト膜5に、電子ビームを露光し帯電防止膜6を水洗で除去する。その後、レジスト膜5を現像することにより、所定のレジストパターンを有するレジスト膜5を形成する。
【0073】
次に、図9を参照して、上記レジスト膜5をマスクとして、位相シフタ膜4のエッチングを行なう。このときのエッチング装置は、平行平板型のRFイオンエッチング装置を用い、電極基板間距離を60mm、作動圧力0.3Torr、反応ガスCF+Oを用いてそれぞれの流量を約95sccmおよび約5sccmにより、エッチング時間約11分によりエッチングを行なう。
【0074】
次に、図10を参照して、レジスト膜5を除去する。以上により、この実施の形態2における位相シフトマスクが完成する。
【0075】
(実施の形態3)
本発明は、図11に示すような、2つの位相シフタが積層構造をなす場合にも適用できる。たとえば、石英基板(#6025)1の上に、膜厚約818Åのモリブデンシリサイド酸化窒化膜からなる下層位相シフタ膜4Lを形成する。
【0076】
その後、この下層位相シフタ膜4Lの上に、膜厚約300Åのモリブデンシリサイド酸化窒化膜からなる上層位相シフタ膜4U形成する。この下層位相シフタ膜4Lおよび上層位相シフタ膜4Uにより位相シフタ膜4を構成する。
【0077】
次に、この2層構造からなる位相シフタ膜4に対して、大気中で350℃、3hrの焼鈍処理を行い、位相シフトマスクブランクスを完成させる。
【0078】
このようにして得られた位相シフトマスクブランクスの光学特性は、193nmの波長で、透過率約6%、位相差約180℃であった。
【0079】
位相差の評価は、レーザテック社製のArF波長用位相差計と、光学定数からの計算によって行なった。欠陥検査波長365nmにおける透過率は、36%であった。
【0080】
得られたArFレーザ露光用ハーフトーン位相シフトマスクブランクスを用いて、実施の形態1と同様のステップにより、位相シフタ膜4に所定のパターンが形成される。
【0081】
なお、上記実施の形態1~3においては、T/S間距離が400mmの場合について説明しているが、適用分野によっては、100mm~600mmの範囲で適用可能である。
【0082】
また、上記実施の形態1~3においては、反応ガスとしてNOを使用しているが、NO、N+O、または、これらの混合ガスを使用することも可能である。また、不活性ガスとしてArを使用しているが、その他の不活性ガス(周期律表0族の属するガス)He、Ne、Kr等を用いることも可能である。
【0083】
また、上記各実施の形態においては、LTS法をモリブデンシリサイド系ハーフトーン位相シフタ膜に適用したが、他のハーフトーン位相シフタ膜の材料として、CrFなどの金属フッ化物、ZrSiOなどの金属シリサイド酸化物、ZrSiOなどの金属シリサイド酸窒化物が挙げられる。
【0084】
(実施の形態4)
次に、この発明に基づいた実施の形態4について説明する。この実施の形態4は、位相シフトマスクの製造工程において、位相シフタ膜の上に電子ビームまたはレーザ光による露光時の帯電防止のための金属膜を形成するようにしたものである。
【0085】
以下、図12図16を参照して、位相シフタ膜製造工程について説明する。図12図16は、図5に示す位相シフトマスクの断面構造に対応する断面構造図である。
【0086】
まず、図12を参照して、透明基板1の上に、実施の形態1または実施の形態2と同様にモリブデンシリサイドの酸化窒化膜からなる位相シフタ膜4を形成する。
【0087】
その後、この位相シフタ膜4の上に、膜厚約100~500Å程度の帯電防止膜6を形成する。この帯電防止膜6の膜質としては、位相シフタ膜の膜質が、Mo系であるのでモリブデン膜を形成する。これは、上述した方法によって形成される、モリブデンシリサイドの酸化窒化物からなる位相シフタ膜4が導電性を有しないためである。その後、この帯電防止膜6の上に、電子線用レジスト膜5膜厚約5000Å形成する。
【0088】
次に、図13を参照して、電子ビーム用レジスト膜5の所定の箇所に、電子ビームを露光して、現像することにより、所望のレジストパターンを有するレジスト膜5を形成する。
【0089】
次に、図14を参照して、帯電防止膜6がMo系の場合は電子ビーム用レジスト膜5をマスクとして、帯電防止膜6および位相シフタ膜4をCF+Oガスを用いて、ドライエッチングにより連続的にエッチングする。
【0090】
次に、図15を参照して、Oプラズマ等を用いて、レジスト膜5を除去する。その後、図16を参照して、エッチング液(硝酸第2セリウムアンモニウム/過塩素酸混合液)等を用いて、停電防止膜6をエッチングし除去する。
【0091】
これにより、位相シフトマスクが完成する。
なお、上記位相シフトマスクのエッチングにおいて、位相シフトマスクがMoSi系の場合は、モリブデン膜からなる帯電防止膜を形成しているが、これに限られることなく、位相シフトマスクがCr系に対し、帯電防止膜としてMoSi膜を用いてもかまわないし、また、Mo系の位相シフタ膜に対して、Cr系の帯電防止膜を用いるようにしても同様の作用効果を得ることができる。
【0092】
以上説明したように、位相シフトマスクの製造工程時に、モリブデン膜を設けることにより、電子線露光時の帯電防止を図ることが可能となり、また光学式位置検出器の光反射膜としての役目をも果たすことが可能となる。
【0093】
なお、本実施の形態においては、帯電防止膜としてモリブデン膜を用いたが、同様の効果が得られる金属膜、たとえばW、Ta、Ti、Si、Alなどやそれらの合金からなる膜でもかまわない。
【0094】
(実施の形態5)
上記実施の形態に用いられる位相シフトマスク用ブランクスの構造について、実施の形態5として、以下図を参照しながら説明する。
【0095】
上記実施の形態に用いられる位相シフトマスク用ブランクスの構造は、図17(a)および図17(b)に示す2種類の構造が挙げられる。図17(a)に示す構造は、透明基板1の上に位相シフタ膜4が形成されたものであり、図17(b)に示す構造は、透明基板1の上に位相シフタ膜4が形成され、さらに、この位相シフタ膜4の上に、金属膜6が形成されているものである。
【0096】
これらの位相シフトマスク用ブランクスを用いて、位相シフトマスクを作成する場合、レジスト膜4を露光する描画装置によっては、その作成手順が異なる。たとえば、(1)電子ビームを使用してレジスト膜を露光する場合、(2)レーザを使用してレジスト膜を露光する場合は、作成手順が異なる。
【0097】
(1)電子ビームを使用してレジスト膜を露光する場合
まず、電子ビームを使用してレジスト膜を露光する場合について、図18(a)および図18(b)を参照して説明する。
【0098】
電子ビームを使用してレジスト膜を露光する場合、加速電圧が10keVと20keV以上の場合とでも、作成手順が異なる。
【0099】
<10keVの場合>
図18(a)に示すように、透明基板1の上に、位相シフト膜4が形成され、この位相シフト膜4の上にレジスト膜5が形成され、このレジスト膜5の上に導電性高分子からなる帯電防止膜6が形成される。
【0100】
次に、電子ビームにより、レジスト膜5の露光が行なわれる。その後、水洗により、帯電防止膜6が除去される。
【0101】
次に、レジスト膜5が現像される。その後、位相シフタ膜のエッチングが行なわれる。その後、レジスト膜が除去される。
【0102】
または、図18(b)に示すように、透明基板1の上に、位相シフト膜4が形成され、この位相シフト膜4の上に金属膜6bが形成され、この金属膜6bの上にレジスト膜5が形成され、このレジスト膜5の上に導電性高分子からなる帯電防止膜6aが形成される。
【0103】
次に、電子ビームにより、レジスト膜5の露光が行なわれる。その後、水洗により、帯電防止膜6が除去される。
次に、レジスト膜5が現像される。その後、金属膜6bのエッチングが行なわれる。
【0104】
次に、位相シフタ膜のエッチングが行なわれる。その後、レジスト膜が除去される。その後、金属膜が除去される。
【0105】
または、図18(b)に示す場合において、レジスト膜が除去された後に、発展的製造方法として、以下の製造方法を採用することもできる。
【0106】
レジスト膜が除去された後に、レジスト膜を形成する。その後、このレジスト膜の上に、導電膜を形成する。
【0107】
次に、電子ビームにより、レジスト膜を露光する(基板の露光時に、光を透過させたくない部分にレジストを残す)。
【0108】
次に、水洗で、帯電防止膜を除去する。その後、レジスト膜を現像する。その後、金属膜のエッチングを行なう。その後、レジスト膜の除去を行なう。
【0109】
<20keV以上の場合>
図18(a)に示す位相シフトマスク用ブランクス構造の場合、上記10keVの場合同様の手順により、位相シフトマスクが形成される。
【0110】
また、図18(b)に示す位相シフトマスク用ブランクス構造の場合は、金属膜6bが帯電防止膜として機能するため、導電性高分子からなる帯電防止膜6aの形成が不要になる。ただし、上記発展的製造方法の場合は、導電性高分子からなる帯電防止膜6aは必要である。
【0111】
(2)レーザを使用してレジスト膜を露光する場合
図18(a)に示す位相シフトマスク用ブランクス構造の場合は、導電性高分子からなる帯電防止膜6の形成は不要である。
図18(b)に示す位相シフトマスク用ブランクス構造の場合は、導電性高分子からなる帯電防止膜6bの形成は不要である。また、この場合には、上記発展的製造方法の場合においても、帯電防止膜6の形成は不要である。
【0112】
(実施の形態6)
次に、上記実施の形態1~実施の形態5おける位相シフトマスクにおいて、図18に示すように、残り欠陥(黒欠陥)50やピンホール欠陥(白欠陥)51が生じた場合の欠陥検査方法および欠陥修正方法について説明する。
【0113】
まず、製作した位相シフトマスクについて、光透過型欠陥検査装置(KLA社製 239HR型)を用いて、チップ比較方式の欠陥検査を行なう。
【0114】
この欠陥検査装置は、水銀ランプを光源とする光で検査を行なう。
検査の結果、パターンがエッチングされるべきところに位相シフタ膜が残る残り欠陥と、位相シフタ膜が残るべきところがピンホールや欠けの形状でなくなってしまうピンホール欠陥を検出する。
【0115】
次に、これらの欠陥を修正する。残り欠陥については、従来のフォトマスクで用いられている、YAGレーザによるレーザブロー修正装置を用いて行なう。
【0116】
また、他の方法として、FIBによるスパッタエッチのガス導入によるアシストエッチによっても除去することができる。
【0117】
また、上記における欠陥検査装置は、水銀ランプを光源とする光で検査を行なっているが、レーザを光源とする光で検査を行なう場合でも同様の方法により残り欠陥の修正を行なうことができる。
【0118】
次に、ピンホール欠陥については、従来のフォトマスクに用いられている、FIBアシストデポジション方法によるカーボン系膜52のデポジションにより、ピンホール欠陥部分を埋め込む修正を行なう。
【0119】
このようにして、修正された位相シフトマスクを洗浄した場合においても、カーボン系膜52が剥がれることなく、良好な位相シフトマスクを得ることができる。
【0120】
以上、本発明に係るマスクブランク用材料膜の製造装置、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、マスクブランク用材料膜の製造装置、マスクブランク用材料膜の製造方法、位相シフトマスク用ブランクスの製造方法、及び、位相シフトマスクの製造方法に広く適用可能である。大型の矩形状基板を例として説明したが、大型の円形状基板や、幅広のシート状基板などにも、本発明は好適である。また本発明は、基板の材質は問わず、適用可能である。
【符号の説明】
【0122】
Δ(ΔA、ΔB) ティルト角、θ(θA、θB) オフセット角、TS(TSA、TSB) ターゲットのスパッタ面の中心と基板の被処理面の中心とを結ぶ線分、R 基板の回転方向、100 スパッタリング装置、102 天井、103 真空槽、104(104A、104B) ターゲット、104As、104Bs スパッタ面、105(105A、105B) ターゲット電極、106 基板、106u 被処理面、107 基板ホルダ、109(109A、109B) マグネットプレート、110(110A、110B) 磁石、111 ヒータ、112(112A、112B) 高周波電源、114a 反応ガス導入口、114b 不活性ガス導入口、114c 混合ガス導入口、114d、114e 真空排気口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21