(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】可変動バルブ・トレイン
(51)【国際特許分類】
F01L 13/00 20060101AFI20221219BHJP
F01L 1/04 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
F01L13/00 301U
F01L1/04 C
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018123821
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】10 2017 114 575.3
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517449763
【氏名又は名称】エムアーエヌ トラック アンド バス エスエー
【氏名又は名称原語表記】MAN Truck & Bus SE
【住所又は居所原語表記】Dachauer Strasse 667, 80995 Muenchen, Bundesrepublik Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【氏名又は名称】川上 光治
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン ヒルシュマン
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ディートリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス マリシェフスキー
【審査官】菅野 京一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-212924(JP,A)
【文献】特開2017-082698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0097306(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015106978(DE,A1)
【文献】特開2003-161126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00,13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジン用の可変動バルブ・トレイン(10)であって、
カムシャフト(12)と、
ガス交換弁(18、20)と、
前記カムシャフト(12)上に固定的に共に回転可能におよび軸方向に変位可能に配置され、第1のカム(28)および第2のカム(30)を有するカム・キャリア(22)と、
前記カム・キャリア(22)の軸方向の位置に応じて、前記第1のカム(28)と前記ガス交換弁(18、20)の間または前記第2のカム(30)と前記ガス交換弁(18、20)の間のいずれかに能動的な連結を形成する力伝達要素(40)
を有する力伝達装置(16)と、
少なくとも部分的に前記力伝達装置(16)に収容されていて、前記カム・キャリア(22)を軸方向に変位させるための第1のアクチュエータ(24)と、
前記第1のアクチュエータ(24)に制御流体を供給するよう構成された制御流体供給装置(68)と、
を含
み、
前記制御流体供給装置(68)はベアリング・ブロック(70)を含み、前記ベアリング・ブロック(70)は、前記カムシャフト(12)を回転可能に支持し、また、第1の制御流体供給チャネル(72)と、前記第1の制御流体供給チャネル(72)の下流に配置された第2の制御流体供給チャネル(74)とを有し、
前記第1の制御流体供給チャネル(72)と前記第2の制御流体供給チャネル(74)は、前記カムシャフト(12)の回転角度に応じて選択的に流体的接続を生じさせることができるものである、
可変動バルブ・トレイン。
【請求項2】
前記力伝達要素(40)がフィンガ・フォロワまたはロッカ・アームである、請求項1に記載の可変動バルブ・トレイン。
【請求項3】
前記第1のアクチュエータ(24)は
、前記
力伝達装置(16)のレバー・シャフト(42)に
少なくとも部分的に収容されるものである、
請求項1
または2に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項4】
前記レバー・シャフト(42)がロッカ・アーム・シャフトまたはフィンガ・フォロワ・シャフトである、請求項3に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項5】
前記第1のアクチュエータ(24)は、前記
力伝達装置(16)のレバー・シャフト・ベアリング・ブロック(43)に少なくとも部分的に収容されるものである、
請求項1
乃至4のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項6】
前記第1のアクチュエータ(24)は、前記力伝達要素(40)に少なくとも部分的に収容されるものである、請求項1乃至
5のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項7】
前記第1のアクチュエータ(24)は、電磁気的、空気圧的および/または液圧的に作動され、
前記第1のアクチュエータ(24)を作動させるための制御ライン(62)が
、前記力伝達装置(16)
に少なくとも部分的に収容されるものである、
請求項1乃至
6のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項8】
前記第1のアクチュエータ(24)は、電磁気的、空気圧的および/または液圧的に作動され、
前記第1のアクチュエータ(24)を作動させるための制御ライン(62)が
、前記力伝達要素(40)
および/または前記レバー・シャフト(42)
に、少なくとも部分的に収容されるものである、
請求項
3または4に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項9】
前記第1のアクチュエータ(24)は、電磁気的、空気圧的および/または液圧的に作動され、
前記第1のアクチュエータ(24)を作動させるための制御ライン(62)が
、前記力伝達要素(40)
および/または前記レバー・シャフト・ベアリング・ブロック(43)
に、少なくとも部分的に収容されるものである、
請求項
5に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項10】
前記第1のアクチュエータ(24)は、
前記カムシャフト(12)を軸方向に変位させるために、前記カムシャフト(12)の長手方向軸の周り
に伸びる第1の係合トラック(32)と係合できる伸縮可能なピン(36)を含むものである、
請求項1乃至
9のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項11】
前記第1の係合トラック(32)は前記カムシャフト(12)の長手方向軸の周りに螺旋状に伸びるものである、請求項10に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項12】
前記第1のアクチュエータ(24)は、第1のシリンダ(50)と、前記第1のシリンダ(50)に移動可能に配置された制御ピストン(52)とを有するリフト装置(46)を含んでおり、
前記制御ピストンは、前記ピン(36)に能動的に連結され、または前記ピン(36)と一体的に形成されたものである、
請求項
10または11に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項13】
前記リフト装置(46)が液圧リフト装置である、請求項12に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項14】
前記リフト装置(46)は、前記第1のアクチュエータ(24)の第2のシリンダ(64)に移動可能に配置されたものである、請求項
12または13に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項15】
突出しランプ部(32A)が前記第1の係合トラック(32)の一端部に配置されており、
前記突出しランプ部(32A)は、前記ピン(36)が前記
第1の係合トラック
(32)を離れるときに、前記リフト装置(46)を前記第2のシリンダ(64)において第1の位置から第2の位置へ、前記カム・キャリア
に向かう方向とは反対の方向に移動させるものである、
請求項
14に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項16】
第1の弾性要素(48)
が、前記リフト装置(46)を前記第1の位置に向かう方向に付勢する、請求項
15に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項17】
前記第1の弾性要素(48)がバネである、請求項16に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項18】
前記第1のアクチュエータ(24)は、さらに、
前記リフト装置(46)の前記第1の位置において、前記リフト装置(46)の制御流体チャンバ(58)に流体的に接続される制御流体供給チャネル(62)、および/または
前記リフト装置(46)の前記第2の位置において、前記リフト装置(46)の制御流体チャンバ(58)に流体的に接続される制御流体排出チャネル(66)
を含むものである
、
請求項
15乃至17のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項19】
前記第1のアクチュエータ(24)は、さらに、前記制御ピストン(52)を前記カム・キャリア(22)
に向かう方向とは反対の方向に付勢する第2の弾性要素(54)を含むものである、請求項
12乃至
18のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項20】
前記第2の弾性要素(54)がバネである、請求項19に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項21】
前記可変動バルブ・トレイン(10)は、さらに、前記カム・キャリア(22)を軸方向に変位させるための第2のアクチュエータ(26)を含み、
前記第2のアクチュエータ(26)は、前記力伝達装置(16)
に少なくとも部分的に収容され、および/または
前記第2のアクチュエータ(26)は、前記第1のアクチュエータ(24)と同様に構成され
、前記制御流体供給装置(68)は前記第2のアクチュエータ(26)にも制御流体を供給するよう構成されたものである、
請求項1乃至
20のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項22】
前記第2のアクチュエータ(26)は、前記力伝達装置(16)のレバー・シャフト(42)、前記力伝達装置(16)のレバー・シャフト・ベアリング・ブロック(43)、および/または前記力伝達装置(16)の前記力伝達要素(40)に、少なくとも部分的に収容されるものである、請求項21に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項23】
前記第1の制御流体供給チャネル(72)と前記第2の制御流体供給チャネル(74)は、
別のチャネルを介して
、前記カムシャフト(12)の回転角度に応じて選択的に流体的接続を生じさせることができるものである
、請求項1乃至
22のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項24】
前記別のチャネルが前記カムシャフト(12)の横断チャネル(82)である、請求項23に記載の可変動バルブ・トレイン(10)。
【請求項25】
請求項1乃至
24のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)を有する自動車
。
【請求項26】
請求項1乃至
24のいずれかに記載の可変動バルブ・トレイン(10)を有する
ユーティリティ・ビークル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジン用の可変動バルブ・トレイン(弁機構)に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブ制御式内燃エンジン(機関)は、1シリンダ(気筒)当り1つ以上の制御可能な吸気および排気弁を有する。可変動バルブ・トレインによって、開放時間、閉鎖時間および/またはバルブ・リフトを変化させるようにそれらの弁(バルブ)を柔軟に作動することができる。このようにして、エンジン動作は、例えば特定の負荷状況に適合化され得る。例えば、可変動バルブ・トレインは、いわゆる摺動(スライド)カム・システムによって実装されてもよい。
【0003】
独国特許第19611641号C1には、幾つかの異なるリフト曲線でガス交換弁(バルブ)を作動できるようにするのに用いられるような摺動カム・システムの例が記載されている。この目的のために、幾つかのカム・トラック(軌道)を有する少なくとも1つのカム部分を有する摺動カムが、カムシャフト上に固定的に(一体的に)共に回転可能に(rotationally fixedly)しかし軸方向に変位可能に取り付けられており、また、前記カムは、摺動カムの軸方向の変位を生じさせるために、ピンの形態のアクチュエータが外側から半径方向に導入または挿入されるリフト輪郭(contour:外形)を有する。摺動カムの軸方向変位によって、それぞれのガス交換弁に対して異なるバルブ・リフトが設定される。摺動カムは、カムシャフトに対してその軸方向に変位した後、カムシャフトに収容されて(受け入れられて)取り付けられ相対的な軸方向の位置に応じて少なくとも1つの係合(ロック)溝に係合する少なくとも1つのバネ付勢式(バネ荷重)係合球体(spring-loaded locking ball、federbeaufschlagte Rastkugel)によって、カムシャフト上のその相対的な軸方向の位置に係合(ロック、固定)される 。
【0004】
摺動カム・システムは、かなりの設置空間を占めることがある。特に、カム・キャリア(支持体)(摺動カム)を変位させるためのアクチュエータの配置は、制限された(狭い)空間的条件の場合は、課題となり得る。典型的には、アクチュエータは、シリンダ・ヘッドまたはシリンダ・ヘッド・カバーに連結されたフレームに取り付けられる。
【0005】
独国特許出願公開第102011050484号A1には、幾つかのシリンダ、シリンダ・ヘッドおよびシリンダ・ヘッド・カバーを有する内燃エンジンが開示されている。ガス交換弁を作動させるために、少なくとも1つの回転可能に取り付けられたカムシャフトには、それぞれのカムシャフト上で軸方向に変位可能な少なくとも1つの摺動カムが設けられている。各摺動カムは、少なくとも1つの溝を有する少なくとも1つの摺動ブロック案内部(sliding block guide portion、Kulissenabschnitt)を有する。それぞれの摺動カムの軸方向変位を達成するために、アクチュエータが設けられている。アクチュエータは、シリンダ・ヘッドにまたはシリンダ・ヘッド・カバーに取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許第19611641号
【文献】独国特許出願公開第102011050484号
【発明の開示】
【0007】
本発明は、設置空間に関して最適に構造化された摺動カム・システムを有する改良されたまたは代替的な可変動バルブ・トレインを実現することを目的とする。
【0008】
発明の概要
その目的は、独立請求項に記載の可変動バルブ・トレインによって達成される。有利な改良形態が、従属請求項および詳細な説明に記載されている。
【0009】
内燃エンジン用の可変動バルブ・トレインは、カムシャフト、ガス交換弁、およびカム・キャリア(支持体)(摺動カム)を有する。カム・キャリアは、カムシャフト上に固定的に(一体的に)共に回転可能におよび軸方向に変位可能に配置され、第1のカムおよび第2のカムを有する。可変動バルブ・トレインは、カム・キャリアの軸方向の位置に応じて、第1のカムとガス交換弁の間または第2のカムとガス交換弁の間のいずれかに能動的または作動的な連結(接続)を形成する力伝達要素、特にフィンガ・フォロワ(Schlepphebel:カム・フォロワ)またはロッカ・アーム、を有する力伝達装置(Kraftuebertragungsvorrichtung)を有する。可変動バルブ・トレインは、カム・キャリアを軸方向に変位させるための第1のアクチュエータを有し、第1のアクチュエータは、少なくとも部分的に力伝達装置に収容される。
【0010】
第1のアクチュエータは、いずれの場合にも存在する力伝達装置に収容されるので、第1のアクチュエータに追加の設置空間が殆どまたは全く必要ない。さらに、第1のアクチュエータを作動させるための制御装置が力伝達装置に設けられてもよい。
【0011】
特に、第1のカムおよび第2のカムは、互いに隣接して配置されてもよく、および/または異なるカム輪郭を有してもよい。
【0012】
例えば、第1のカムおよび第2のカムの異なるカム輪郭は、燃料消費を低減するのに、熱管理に、またはエンジン・ブレーキを実現するのに、役立ち得る。
【0013】
カム・キャリアおよび第1のアクチュエータは、摺動カム・システムを形成し得ることが、好ましい。
【0014】
特に好ましい実施形態では、力伝達装置はレバー・シャフト、特にロッカ・アーム・シャフトまたはフィンガ・フォロワ・シャフトを有する。第1のアクチュエータは、少なくとも部分的にレバー・シャフトに収容される。
【0015】
特に、ロッカ・アーム・シャフトは、力伝達要素を旋回可能に(ピボット式に)支持してもよい。
【0016】
別の例示的な実施形態では、力伝達装置は、レバー・シャフト・ベアリング・ブロックを有し、第1のアクチュエータは、レバー・シャフト・ベアリング・ブロックに少なくとも部分的に収容される。
【0017】
レバー・シャフト・ベアリング・ブロックは、力伝達要素を旋回可能に取り付ける力伝達装置のレバー・シャフト(軸)を支持し得ることが、好ましい。
【0018】
別の例示的な実施形態では、第1のアクチュエータは、少なくとも部分的に力伝達要素に収容される。
【0019】
一変形例では、第1のアクチュエータは、電磁気的、空気圧的および/または液圧(油圧)的に作動される。代替的にまたは追加的に、第1のアクチュエータを作動させるための制御ラインまたは駆動ライン(例えば、電気的、空気圧的および/または油圧的な制御ライン)が、少なくとも部分的に力伝達装置(例えば、力伝達要素、レバー・シャフトおよび/またはレバー・シャフト・ベアリング・ブロック)に収容される。
【0020】
改良形態では、第1のアクチュエータは、カムシャフトを軸方向に変位させるために、カムシャフトの長手方向軸の周りに好ましくは螺旋状に伸びる第1の係合トラックと係合され得る伸縮可能(伸長可能および引っ込み可能な)なピンを含んでいる。そのピンは、係合トラックと係合したとき、カムシャフトの軸方向に対して静止しており(固定しており、不動であり)、カム・キャリアを軸方向に変位させ得る。
【0021】
そのピンは、カムシャフトの長手方向軸に対して半径方向に伸縮して(引っ込みおよび伸びる)もよいことが、好ましい。
【0022】
別の実施形態の変形例では、第1のアクチュエータは、第1のシリンダと、その第1のシリンダに移動可能に配置された制御ピストンとを有する液圧(油圧)リフト装置を含んでいることが、好ましい。その制御ピストンは、ピンに能動的または作動的に連結され、またはピンと一体的に形成される。従って、ピンは、制御ピストンを介して伸ばされてもよい。
【0023】
一実施形態では、リフト装置は、第1のアクチュエータの第2のシリンダに移動可能に配置される。従って、リフト装置は、特に、アクチュエータのピンを係合トラックから外す(離脱させる)ために、カム・キャリアへ向かう方向とは反対の方向に移動され得る。
【0024】
好ましい実施形態では、突出しランプ部(傾斜部)(push-out ramp、Ausschieberampe)が、第1の係合トラックの一端部に配置され、ピンがそのトラックを離れるとき、リフト装置を第2のシリンダにおいて第1の位置から第2の位置へ、カム・キャリアへ向かう方向とは反対の方向に移動させる。
【0025】
別の実施形態では、第1の弾性要素、特にバネは、リフト装置を第1の位置に向かう方向に付勢する(pretension:予め張力を加える)。従って、リフト装置の第1の位置から第2の位置への移動は、第1の弾性要素のその付勢力(予張力)に抗して行われる。
【0026】
別の例示的な実施形態では、第1のアクチュエータは、さらに、リフト装置の第1の位置において、リフト装置の制御流体チャンバ(空間)に流体的に接続される(連通する)制御流体供給チャネル(流路)をさらに含んでいる。代替的にまたは追加的に、第1のアクチュエータは、リフト装置の第2の位置でリフト装置の制御流体チャンバに流体的に接続される(連通する)制御流体排出チャネル(通路)を含んでいる。従って、制御流体は、リフト装置の位置(設定)に応じて、供給されまたは排出されてもよい。
【0027】
別の実施形態の変形例では、第1のアクチュエータは、カム・キャリアへ向かう方向とは反対の方向に制御ピストンを付勢する第2の弾性要素、特にバネ、を含んでいる。
【0028】
好ましい実施形態の変形例では、可変動バルブ・トレインは、さらに、カム・キャリアを軸方向に変位させるための第2のアクチュエータを含んでいる。第2のアクチュエータは、力伝達装置に、特に、力伝達装置のレバー・シャフト、力伝達装置のレバー・シャフト・ベアリング・ブロック、および/または力伝達装置の力伝達要素に、少なくとも部分的に収容される。従って、第2のアクチュエータで、第1のアクチュエータの場合と同じ設置空間の利点が達成できる。
【0029】
特に、第2のアクチュエータは、第1のアクチュエータと同様に構成されてもよい。
【0030】
第1のアクチュエータと第2のアクチュエータは、互いに分離していることが、好ましい。しかし、第1のアクチュエータと第2のアクチュエータが、共通のハウジングにおいて一体型アクチュエータ装置を形成することも、可能である。
【0031】
第1のアクチュエータは、カム・キャリアを第1の軸方向位置から第2の軸方向位置に移動させることができ、第2のアクチュエータは、カム・キャリアを第2の軸方向位置から第1の軸方向位置に移動させることができることが、好ましい。
【0032】
別の実施形態では、可変動バルブ・トレインは、第1のアクチュエータおよび/または第2のアクチュエータ用の制御流体供給装置を含んでいる。制御流体供給装置は、カムシャフトを回転可能に支持するベアリング・ブロックを有する。ベアリング・ブロックは、第1の制御流体供給チャネルと、その第1の制御流体供給チャネルの下流に配置された第2の制御流体供給チャネルとを有する。第1の制御流体供給チャネルと第2の制御流体供給チャネルは、特に別のチャネルを介して、好ましくはカムシャフトの横断チャネルを介して、カムシャフトの回転角度に応じて選択的に流体的接続を生じさせることができるものである。
【0033】
特に、第1の制御流体供給チャネルは、高圧チャンバ(空間)の下流に配置されてもよい。
【0034】
好ましくは、第2の制御流体供給チャネルは、制御流体チャンバの上流に配置されてもよい。
【0035】
本発明は、さらに、ここで開示されるような可変動バルブ・トレインを有する自動車、特にユーティリティ・ビークルまたは商用車(例えば、バスまたはトラック)に関する。
【0036】
本願の別の態様によれば、ここに記載される、第1のアクチュエータおよび/または第2のアクチュエータの構成は、力伝達装置におけるそれの/それらの配置構成に関係なく(とは独立して)、開示される。これは、第1のアクチュエータおよび/または第2のアクチュエータが、力伝達装置の内部に配置されなくてもよいこと、を意味する。第1のアクチュエータおよび/または第2のアクチュエータは、ここで開示されるように構成されてもよい。この態様によれば、本願は、とりわけ、摺動カム・システム用の代替的および/または改良された液圧(油圧)アクチュエータを実現する目的を達成する。
【0037】
上述の本発明の好ましい実施形態および特徴は、任意の形態で互いに組み合わせてもよい。本発明の他の詳細および利点は、図面を参照して以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、可変動バルブ・トレインの斜視図である。
【
図2】
図2は、可変動バルブ・トレインの断面図である。
【
図3】
図3は、カムシャフトおよびベアリング・ブロックの概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図面に示された実施形態は、少なくとも部分的に互いに対応するので、同様のまたは同一の部分には同じ参照符号が付されており、その説明において繰り返しを避けるために他の実施形態または図の説明も参照される。
【0040】
図1は可変動バルブ・トレイン(valve train、Ventiltrieb:弁機構、弁駆動装置)10を示している。可変動バルブ・トレイン10は、カムシャフト12、摺動カム・システム14、力伝達装置16、第1のガス交換弁18、および第2のガス交換弁20を有する。ガス交換弁(通気弁)18、20は、吸気弁または排気弁であってもよい。
【0041】
可変動バルブ・トレイン10は、第1および第2のガス交換弁18、20のバルブ制御曲線を適合化させるために使用されてもよい。可変動バルブ・トレイン10は、内燃エンジン(図示せず)に関連付けて設けられまたは割り当てられる。内燃エンジンは、例えばユーティリティ・ビークル、例えばバスまたはトラック、に使用されるものであってもよい。
【0042】
カムシャフト12は、オーバヘッド・カムシャフト(OHC)として配置される。カムシャフト12は、ダブル・オーバヘッド・カムシャフト(DOHC)の一部として、または単一オーバヘッド・カムシャフト(SOHC)として設けられてもよい。
【0043】
摺動カム・システム14は、カム・キャリア22、第1のアクチュエータ24、および第2のアクチュエータ26を有する。
【0044】
カム・キャリア22は、カムシャフト12上に互いに固定的に(一体的に)共に回転可能におよび軸方向に移動可能に配置される。カム・キャリア22は、第1のカム28、第2のカム30、第1の係合トラック(摺動ブロック・ガイド)32、および第2の係合トラック(摺動ブロック・ガイド)34を有する。
【0045】
第1のカム28および第2のカム30は、異なる各バルブ制御曲線を生成するための異なる各カム輪郭を有する。その異なる各カム輪郭は、例えば、燃料消費を低減するのに、熱管理に、またはエンジン・ブレーキを実現するのに、使用することができる。
【0046】
第1のカム28および第2のカム30は、カムシャフト12の長手方向軸に沿って互いにずらして配置されている。詳しくは、第1のカム28および第2のカム30は、カム・キャリア22の中央部において互いに隣接して配置されている。他の実施形態では、追加のカムおよび/または代替的なカム配置構成が設けられてもよい。例えば、各ガス交換弁は、カム・キャリアの少なくとも2つのカムが割り当てられる(関連付けられる)1つのロッカ・アームを有してもよい。また、1つのカム・キャリアが、隣接する2つのシリンダのガス交換弁用の(両)カムを支持することも可能である。
【0047】
第1の係合トラック32は、カム・キャリア22の第1の端部領域に設けられる。第2の係合トラック34は、カム・キャリア22の反対側の第2の端部領域に設けられる。第1および第2の係合トラック32、34は、カム・キャリア22における凹部(depressions)(溝)として、カムシャフト12の長手方向軸の周りに螺旋状に伸びる。他の実施形態では、それらの係合トラックのうちの少なくとも1つは、カム・キャリアの軸方向端部領域に配置されなくてもよい。例えば、カム・キャリアの2つのカムの間に係合トラックが配置されてもよい。
【0048】
カム・キャリア22を軸方向に変位させるために、アクチュエータ24、26の、半径方向に移動可能な可動ピン36、38が、係合トラック32、34に選択的に係合して(を選択的に捕捉して、と選択的に噛み合って)もよい。詳しくは、第1のアクチュエータ24のピン36は、カム・キャリア22を第1の軸方向位置から第2の軸方向位置に移動させるために、第1の係合トラック32に選択的に係合してもよい。ピン36は、カムシャフト12の長手方向軸に対して半径方向に移動させられる。
図1において、カム・キャリア22が第1の軸方向位置で示されている。一方、第2のアクチュエータ26のピン38は、第2の係合トラック34に選択的に係合してもよい。次いで、カム・キャリア22が、第2の軸方向位置から第1の軸方向位置に移動される。
【0049】
カム・キャリア22の軸方向変位は、各アクチュエータ24、26の伸長ピン36、38がカムシャフト12の軸方向に対して静止している(固定している、不動である)ときに、始動される。その結果、可動カム・キャリア22は、伸長ピン36、38のうちの一方が各係合トラック32、34に係合しているときに、係合トラック32、34の螺旋形状のために、カムシャフト12の長手方向に変位する。軸方向変位プロセスの終点において、それぞれのアクチュエータ24、26の伸長ピン36または38は、伸長方向に対向する突出しランプ部32A、34Aを介してそれぞれの係合トラック32、34から外側へ案内され(外れ)、従って後退する(引っ込められる、短縮される)。それぞれのアクチュエータ24、26のピン36、38は、それぞれの係合トラック32、34から外れる。
【0050】
アクチュエータ24、26は電磁気的、空気圧的および/または液圧(油圧)的に作動されてもよい。液圧(油圧)作動を伴うアクチュエータ24、26の特に好ましい例示的な実施形態は、
図2および3を参照して後で説明される。
【0051】
摺動カム・システム14は、さらに、ロック(固定)装置(図示せず)を有していてもよい。ロック装置は、カム・キャリア22を第1の軸方向位置および第2の軸方向位置に軸方向に固定するように構成されてもよい。このために、ロック装置は、例えば、弾性的に付勢された(予め張力を加えられた)ブロック体(blocking body)を有していてもよい。ブロック体は、カム・キャリア22の第1の軸方向位置において、カム・キャリアの第1の凹所に係合し、カム・キャリア22の第2の軸方向位置において、カム・キャリア22の第2の凹所に係合する。ロック装置は、例えば、カムシャフト12に設けられてもよい。
【0052】
力伝達装置16は、力伝達要素40、レバー・シャフト42、および、レバー・シャフト42を取り付けるための、複数のレバー・シャフト・ベアリング・ブロック43(
図1には1つのレバー・シャフト・ベアリング・ブロックだけが模式的に示されている)を有する。力伝達要素40はレバー・シャフト42上に回転可能に配置されている。
【0053】
図示の実施形態では、力伝達要素40はロッカ・アームとして構成され、従ってレバー・シャフト42はロッカ・アーム・シャフトとして構成されている。しかし、力伝達要素40は、例えばフィンガ・フォロワとして構成することも、可能である。
【0054】
力伝達要素40は、例えば回転可能に取り付けられたローラの形態の、カム・フォロワ44を有する。カム・フォロワ44は、カム・キャリア22の軸方向の位置に応じて、第1のカム28のまたは第2のカム30のカム輪郭に沿って追従する。
【0055】
カム・キャリア22の第1の軸方向位置において、力伝達要素40は、カム・フォロワ44を介して第1のカム28とガス交換弁18、20の間に能動的または作動的に連結(接続)される。ガス交換弁18、20は、第1のカム28のカム輪郭によって作動される。この状況は、
図1に示されている。カム・キャリア22の第2の軸方向位置において、力伝達要素40は、カム・フォロワ44を介して第2のカム30とガス交換弁18、20の間に能動的または作動的に連結される。ガス交換弁18、20は、第2のカム30のカム輪郭に従って作動される。
【0056】
第1のアクチュエータ24および第2のアクチュエータ26は、レバー・シャフト42に部分的に収容されている(一体化されている)。これは、特に設置空間の最適な使用に関して、特に有利である。その理由は、アクチュエータ24および26は、そのように別個の設置空間をほとんどまたは全く必要としないからである。同じ利点を達成するために、第1のアクチュエータ24および第2のアクチュエータ26をレバー・シャフト42のレバー・シャフト・ベアリング・ブロックに一体化することも、可能である。別の例として、力伝達要素40がそれに対応して大きな寸法を有するように調整される場合、アクチュエータ24、26を力伝達要素40に直接一体化することも、可能である。
【0057】
図2は、第1のアクチュエータ24の断面を示している。第2のアクチュエータ26は、第1のアクチュエータ24と同様に構成してもよい。第1のアクチュエータ24は、ピン36、液圧(油圧)リフト装置46、および第1の弾性要素48を含んでいる。
【0058】
液圧(油圧)リフト装置46は、第1のシリンダ50、制御ピストン52、第2の弾性要素54、および排気(換気)チャネル(流路)56を含んでいる。
【0059】
制御ピストン52は、第1のシリンダ50の制御流体チャンバ58に長手方向に移動可能に配置されている。制御ピストン52は、ピン36と一体に構成されている。しかし、例えば、ピンが、リフト装置の制御ピストンに能動的または作動的に連結されることも、可能である。
【0060】
制御流体チャンバ58は、制御流体チャネル60を介して制御流体で満たされてもよい。第1の軸方向位置から第2の軸方向位置へのカム・キャリア22(
図1参照)の変位が望まれる場合、制御流体チャンバ58は、追加的な制御流体で満たされる。詳しくは、制御流体は、供給チャネル62から制御流体チャネル60を介して制御流体チャンバ58へと通る(流れる)。供給チャネル62は、第1のアクチュエータ24を作動させるための制御ライン(管)の一部として、少なくとも部分的にレバー・シャフト42内に収容される。制御流体チャンバ58内の圧力は、制御流体の供給(送り込み)によって上昇する。制御ピストン52、従ってピン36は、
図2に示すように、第1の係合トラック32を捕捉(に係合)するために、第1のシリンダ50においてカムシャフト22に向かう方向に移動する。制御ピストン52は、第2の弾性要素54の付勢力または予張力(復元力)に抗して移動する。第2の弾性要素54は、例えば、コイルばねであってもよい。制御流体チャンバ58から第2の弾性要素54のリング(環状)チャンバ内に侵入した漏出流体は、排気チャネル56を介して排出されてもよい。
【0061】
カム・キャリア22(
図1参照)の軸方向の変位の終点において、ピン36は、突出しランプ部32Aに達する。突出しランプ部32Aは、ピン36を制御流体チャンバ58に向かう方向に押圧する。制御流体チャンバ58内の高圧によって、ピン36は、制御ピストン52と共に制御流体チャンバ58内に入ることが、防止される。ピン36および制御ピストン52は第1のシリンダ50内に進入しない。その代わりに、リフト装置46は、全体として、アクチュエータ24の第2のシリンダ64内の第1の弾性要素48の付勢力または予張力(復帰力)に抗して移動(引っ込め、後退)される。
【0062】
第1の弾性要素48は、例えばコイル・バネであってもよい。第1の弾性要素48を収容するチャンバは、制御流体を実質的に含まなくてもよい。リフト装置46が引っ込められると、制御流体チャネル60と排出チャネル66の間に流体的接続が形成される。制御流体チャンバ58内で依然として支配的な増大した圧力は減少する。制御ピストン52は、第2の弾性要素54の力によって第1のシリンダ50内に引き込まれる。ピン36は、もはや第1の係合トラック32と接触しない。第1の弾性要素48の付勢力または予張力は、リフト装置46を開始位置に押し戻す。
【0063】
図3は、アクチュエータ24、26への制御流体の供給が、カムシャフト12の回転角度に応じてどのように構成され得るかを、模式的に示している。その制御流体の供給によって、例えば、カム28、30の基礎的円形領域内のみで、カム28、30の間の切り替えが行われる(カム・キャリア22の軸方向変位が行われる)ことが、保証され得る。
【0064】
制御流体供給装置68は、ベアリング・ブロック70およびカムシャフト12に一体化されている。ベアリング・ブロック70は、第1の供給チャネル72および第2の供給チャネル74を有する。カムシャフト12は、ベアリング・ブロック70内に、一片または複数片のベアリング・シェル(胴片、外殻片)76を介して取り付けられている。ベアリング・シェル76は、カムシャフト12とベアリング・ブロック70の間にリング・セグメント・チャネル78、80が形成されるように、各通路を含んでいる。また、カムシャフト12は横断チャネル82を有する。横断チャネル82は、カムシャフト12の長手方向の軸に垂直に伸び、例えば、通路チャネルとして形成されてもよい。
【0065】
第1の供給チャネル72は、第2の供給チャネル74の上流に配置される。第1の供給チャネル72は、高圧チャンバの下流に配置される。第2の供給チャネル74は、供給チャネル62の上流に配置される。カムシャフト12の回転位置に応じて、各リング・セグメント・チャネル78、横断チャネル82およびリング・セグメント・チャネル80を介して、第1の流体接続部72と第2の供給チャネル74の間に流体的接続が形成される。換言すれば、横断チャネル82は、カムシャフト12の回転角度に応じて選択的に供給チャネル72と74を共に接続する。示された例では、カムシャフト12が、例えば反時計回りに90°(12時から9時に)にわたって回転する場合、供給チャネル72と74の間の流体的接続はこの回転期間中において維持される。しかし、カムシャフトの反時計回りの次の90°の回転(9時から6時)の期間において、供給チャネル72と74の間に流体的接続は存在しない。供給チャネル72および74は、リング・セグメント・チャネル78、80および横断チャネル82を介して接続されることはない。
【0066】
図3に示されている制御流体供給装置68の構成は、カムシャフト角度に応じて制御流体の供給がどのように実現できるかを、純粋に模式的に例示することが意図されている。実際の実装は、示されているリング・セグメント・チャネル78、80の角度範囲に特に関連して、明らかに、異なっていてもよい。
【0067】
本発明は、上述の好ましい例示的な実施形態に限定されない。むしろ、本発明的な概念を利用し従ってその保護の範囲に入る複数の変形例および派生物が可能である。特に、本発明は、引用される請求項に関係なく、従属請求項の構成および特徴の保護を求めるものでもある。
【符号の説明】
【0068】
10 可変動バルブ・トレイン
12 カムシャフト
14 摺動カム・システム
16 力伝達装置
18 第1のガス交換弁
20 第2のガス交換弁
22 カム・キャリア
24 第1のアクチュエータ
26 第2のアクチュエータ
28 第1のカム
30 第2のカム
32 第1の係合トラック
32A 突出しランプ部
34 第2の係合トラック
34A 突出しランプ部
36 ピン
38 ピン
40 力伝達要素(ロッカ・アーム)
42 レバー・シャフト
43 レバー・シャフト・ベアリング・ブロック
44 カム・フォロワ
46 リフト装置
48 第1の弾性要素
50 第1のシリンダ
52 制御ピストン
54 第2の弾性要素
56 排気(換気)チャネル
58 制御流体チャンバ
60 制御流体チャネル
62 供給チャネル
64 第2のシリンダ
66 排出チャネル
68 制御流体供給装置
70 ベアリング・ブロック
72 第1の供給チャネル
74 第2の供給チャネル
76 ベアリング・シェル
78 第1のリング・セグメント・チャネル
80 第2のリング・セグメント・チャネル
82 横断チャネル