(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63B 1/24 20200101AFI20221219BHJP
B63B 43/14 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B63B1/24
B63B43/14
(21)【出願番号】P 2018137047
(22)【出願日】2018-07-20
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】武田 信玄
(72)【発明者】
【氏名】日向 泰彦
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-516785(JP,A)
【文献】特開平1-289793(JP,A)
【文献】特開2003-26075(JP,A)
【文献】特表2013-533152(JP,A)
【文献】特開平4-133893(JP,A)
【文献】実開平6-67292(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/24,43/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主船体と、
前記主船体を推進させる推進力を発生する推進機構と、
前記主船体に固定されて下方に延びる支持部、及び、前記支持部の下部に設けられた翼体を有する水中翼機構と、
前記主船体及び前記水中翼機構とは独立して設けられたフロートと、
前記フロートと前記主船体とを接続するとともに、前記主船体に対して前記フロートを上下方向に相対移動させる移動機構と、
を備え
、
前記翼体は、水面下に没して設けられ、前記推進機構で発生する推進力による航行時に前記主船体を浮上させる揚力を発生し、
前記フロートは、前記翼体よりも上方で且つ、前記主船体の下端よりも下方に突出可能とされる船舶。
【請求項2】
前記翼体が前記主船体を浮上させる前記揚力を発生しているときに、前記移動機構は、前記フロートを水面よりも上方に位置させる
請求項
1に記載の船舶。
【請求項3】
前記フロートは排水量を有する
請求項1
又は2に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、船体と、船体の両側に設けられ船体に対して昇降可能とされたフロートを備える船舶が開示されている。この船舶は、フロートの下方に、支持杆と、支持杆の下端に設けられたフィンとを備えている。このような構成の船舶は、フロートを昇降させることで、船体の水面に対する高さ位置を、船の停止時あるいは航行時を通じて常に一定に保持可能となっている。また、この船舶は、フィンの傾動量を調整することで、航行中の船体の浮力ならびに船体の動揺に対する微調整を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたような構成では、フロートの下方に、支持杆及びフィンが設けられている。このため、水深が浅い場合に船体の喫水を浅くさせるため、フロートの水中への沈下量を増やすと、フロートの下方に設けられたフィンが水底に干渉してしまう場合がある。 また、特許文献1の船舶は、船体に対して昇降可能なフロートに、支持杆及びフィンを備えている。そのため、フィンの傾動量等を調整するための油圧系統や電気系統を、船体とフロートとの間に設ける必要がある。フロートは、船体に対して昇降可能に設けられるため、油圧系統や電気系統は、フロートの昇降動作に対応できる構成とする必要がある。その結果、油圧系統や電気系統の構造が複雑となる。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水深が浅い場合であっても航行に支障が生じるのを抑え、構造の簡易化を図ることができる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
この発明の第一態様によれば、船舶は、主船体と、前記主船体を推進させる推進力を発生する推進機構と、前記主船体に固定されて下方に延びる支持部、及び、前記支持部の下部に設けられた翼体を有する水中翼機構と、前記主船体及び前記水中翼機構とは独立して設けられたフロートと、前記フロートと前記主船体とを接続するとともに、前記主船体に対して前記フロートを上下方向に相対移動させる移動機構と、を備え、前記翼体は、水面下に没して設けられ、前記推進機構で発生する推進力による航行時に前記主船体を浮上させる揚力を発生し、前記フロートは、前記翼体よりも上方で且つ、前記主船体の下端よりも下方に突出可能とされる。
【0006】
この第一態様では、移動機構により、主船体に対してフロートを上下方向に相対移動させて、フロートの水面下への沈下量を変化させると、主船体の喫水が変化する。主船体に対してフロートを下げ、フロートの水面下への沈下量を増大させると、フロートで発生する浮力が増し、主船体の喫水が浅くなる。これにより、水深が浅い水域でも、船舶の底部の一部が水底に干渉することを抑えることができる。また、フロートを主船体に対して上下動させることで、主船体の喫水を岸壁に対して調整し、船舶への乗降を容易に行うこともできる。
また、水中翼機構は、主船体に設けられている。これにより、主船体に対してフロートを上下方向に相対移動させると、水中翼機構は主船体とともに上下動する。したがって、水深が浅い水域で主船体に対してフロートを下げても、水中翼機構が水底に干渉することが抑えられる。さらに、水中翼機構は、フロートとともに主船体に対して上下動させる必要が無い。そのため、水中翼機構に油圧系統や電気系統を備える場合であっても、構造が複雑化することを抑えられる。
【0007】
さらに、推進機構で発生する推進力によって航行を行うと、翼体で発生する揚力によって、主船体が浮上し、主船体による水の抵抗を抑えることができる。このような船舶において、水深が浅い水域で主船体に対してフロートを下降させることで、主船体及び水中翼機構が水底に干渉することを有効に抑える。
【0008】
この発明の第二態様によれば、第一態様に係る船舶において、前記翼体が前記主船体を浮上させる前記揚力を発生しているときに、前記移動機構は、前記フロートを水面よりも上方に位置させるようにしてもよい。
このように構成することで、航行時に翼体で発生する揚力によって主船体が浮上しているときに、フロートを水面よりも上方に位置させれば、船舶は、いわゆる水中翼船となる。これにより、航行時における主船体及びフロートによる水の抵抗が小さくなり、より高速度で揺れの少ない快適な航行が行える。
【0009】
この発明の第三態様によれば、第一又は第二態様に係る船舶において、前記フロートは排水量を有するようにしてもよい。
このようにフロートが排水量を有することで、主船体の排水量を抑え、主船体の小型化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
上記船舶によれば、水深が浅い場合であっても航行に支障が生じるのを抑え、構造の簡易化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の
参考例における船舶の全体構成を示す側面図である。
【
図2】上記船舶の
参考例における船舶を船首側から見た前面図である。
【
図3】上記船舶の
参考例における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す側面図である。
【
図4】上記船舶の
参考例における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す前面図である。
【
図5】上記船舶の
参考例の変形例における船舶の全体構成を示す前面図である。
【
図6】上記船舶の
参考例の変形例における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す前面図である。
【
図7】この発明の
実施形態における船舶の全体構成を示す側面図である。
【
図8】上記船舶の
実施形態における船舶を船首側から見た前面図である。
【
図9】上記船舶の
実施形態における船舶において、フロートを上げ、主船体部の喫水を深くした状態を示す前面図である。
【
図10】上記船舶の
実施形態における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す前面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の一実施形態における船舶を図面に基づき説明する。
(
参考例)
図1は、この発明の
参考例における船舶の全体構成を示す側面図である。
図2は、上記船舶の
参考例における船舶を船首側から見た前面図である。
図3は、上記船舶の
参考例における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す側面図である。
図4は、上記船舶の
参考例における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す前面図である。
【0013】
図1、
図2に示すように、この実施形態の船舶1Aは、船体10Aと、推進機構20と、水中翼機構30と、移動機構50Aと、を備えている。
船体10Aは、主船体11Aと、フロート15Aと、を備えている。
主船体11Aは、船体本体12と、主胴部13と、を有する。船体本体12は、船幅方向両側に一対の舷側12sを有する。船体本体12は、その上部に上部構造12tを備える。主胴部13は、船体本体12の船幅方向中央部に設けられている。主胴部13は、船体本体12の下面12bから下方に突出している。主胴部13は、主船体11Aの船首尾方向に連続している。
【0014】
フロート15Aは、船体本体12の船幅方向両側にそれぞれ設けられている。各フロート15Aは、主胴部13に対し、船幅方向両側に間隔をあけて設けられている。各フロート15Aは、船体本体12の下面12bの下方に配置されている。フロート15Aは、主船体11Aの船首尾方向に連続している。各フロート15Aは、主船体11A及び水中翼機構30とは独立して設けられている。
【0015】
フロート15Aは、中空構造で、排水量を有している。すなわち、フロート15Aは、船体10Aの総排水量の一部を担っている。このようなフロート15Aは、例えば、FRP(繊維強化プラスチック)等から形成される。フロート15Aは、後述する移動機構50Aにより、主船体11Aに対して上下方向に相対移動可能である。
この実施形態で例示する船体10Aは、船幅方向中央部の主胴部13と、船幅方向両側のフロート15Aとを備えることで三胴船(多胴船)を構成している。
【0016】
推進機構20は、主船体11Aを推進させる推進力を発生する。推進機構20は、例えば、スクリュー21を備える。スクリュー21は、主胴部13の船尾部13Aの船底13bの下方に設けられている。スクリュー21は、スクリュー軸22の一端に一体に設けられている。スクリュー軸22は、主胴部13内に設けられた主機(図示無し)に接続されている。主機(図示無し)は、スクリュー軸22及びスクリュー21を、その中心軸回りに回転駆動する。推進機構20は、スクリュー21を回転させることで、主船体11A(船体10A)の推進力を発生する。
【0017】
水中翼機構30は、主船体11Aに設けられている。水中翼機構30は、例えば、主胴部13の船首部13Cの船底13dの下方に設けられている。水中翼機構30は、ストラット(支持部)31と、翼体32と、を備えている。ストラット31は、主船体11Aに固定されて下方に延びている。ストラット31は、上下方向に延びる中心軸回りに回動可能とされていてもよい。翼体32は、ストラット31の下部に設けられている。翼体32は、ストラット31に設けられたピボット(図示無し)回りに、傾斜角度が変更可能となっている。このような水中翼機構30は、翼体32の向きや傾斜角度を調整することで、船体10Aの姿勢を調整する。
【0018】
移動機構50Aは、各フロート15Aと主船体11Aとを接続している。
図3、
図4に示すように、移動機構50Aは、各フロート15Aを、主船体11Aに対して上下方向に相対移動させる。移動機構50Aは、例えば、ガイド部材(図示無し)と、油圧シリンダ51と、を備えている。ガイド部材(図示無し)は、フロート15Aを、主船体11Aに対して上下方向に相対移動可能に案内する。油圧シリンダ51は、例えば、各フロート15Aにおいて、船首尾方向に間隔をあけた複数個所に設けられる。各油圧シリンダ51の基端部は、船体本体12の船幅方向両側の下面12bにそれぞれ固定されている。油圧シリンダ51の下端は、フロート15Aの上面に連結されている。油圧シリンダ51は、油圧により、下方に向かって伸縮駆動される。
図1に示すように、油圧シリンダ51を縮めた状態では、油圧シリンダ51は、船体本体12又はフロート15A内に収容されている。
図3、
図4に示すように、各油圧シリンダ51を縮んだ状態から伸ばすと、フロート15Aが、ガイドレール(図示無し)に案内されて、主船体11A(主胴部13)に対して離間する方向に相対移動する。
図1、
図2に示すように、各油圧シリンダ51を伸びた状態から縮めると、フロート15Aが主船体11A(主胴部13)に対して近づく方向に相対移動する。
この実施形態では、油圧シリンダ51が最も縮んだ状態で、フロート15Aの底面15bの下端は、主船体11Aの底面11bの下端と、同等の高さに位置する場合を例示している。また、この実施形態では、油圧シリンダ51が最も伸びた状態で、フロート15Aは、主船体11Aの底面11bの下端よりも下方に突出する場合を例示している。
【0019】
このような船舶1Aは、通常航行時、移動機構50Aの油圧シリンダ51を縮め、各フロート15Aを、主船体11Aの船体本体12の下面12bに接近又は接触する位置に配置する。これにより、通常航行時の船舶1Aは、主胴部13と、その船幅方向両側のフロート15Aとが着水して、安定的に航行することができる。
【0020】
また、船舶1Aは、水深が浅い場合等に、移動機構50Aの油圧シリンダ51を伸ばし、各フロート15Aを、主船体11Aに対して下方に離間するように相対移動させる。すると、船幅方向両側のフロート15Aは、水面Wf下への沈下量が増大する。これにより、フロート15Aで発生する浮力が大きくなる。その結果、主船体11Aが水面Wfに対して上昇し、主船体11Aの喫水が浅くなる。
【0021】
したがって、上述した
参考例の船舶1Aによれば、移動機構50Aにより、主船体11Aに対してフロート15Aが上下方向に相対移動する。これにより、移動機構50Aによってフロート15Aの水面下への沈下量を変化させ、主船体11Aの喫水を変化させることができる。主船体11Aに対してフロート15Aを下げると、フロート15Aで発生する浮力が増し、主船体11Aの喫水が浅くなる。これにより、水深が浅い水域での航行時や、港湾への入港時、ドッグへの入渠時等に、船舶1Aの一部が水底Wbに干渉することを抑えることができる。また、ドッグへの入渠時、主胴部13の底面やスクリュー21等を水面Wfよりも上方に上げて、メンテナンス作業を容易に行うこともできる。さらに、
図4に示すように、フロート15Aを主船体11Aに対して上下動させることで、主船体11Aの乾舷(水面上高さ)を岸壁100に対して調整することができるため、船舶1Aへの乗降を容易に行うこともできる。
【0022】
また、水中翼機構30は、主船体11Aに設けられている。これにより、主船体11Aに対してフロート15Aを上下方向に相対移動させると、水中翼機構30は主船体11Aとともに上下動する。したがって、主船体11Aに対してフロート15Aを下げ、フロート15Aの水面Wf下への沈下量を大きくしても、水中翼機構30が水底Wbに干渉することを抑えることができる。さらに、水中翼機構30をフロート15Aともに主船体11Aに対して上下動させる必要が無い。したがって、水中翼機構30に翼体32の向きや傾斜角度を調整するための油圧系統や電気系統を備える場合であっても、構造が複雑化することを抑えることができる。
このように、船舶1Aでは、水深が浅い場合であっても航行に支障が生じるのを抑え、構造の簡易化を図ることが可能となる。
【0023】
また、フロート15Aが排水量を有することで、主船体11Aの排水量を抑え、主船体11Aの小型化を図ることが可能となる。
【0024】
さらに、フロート15Aを主船体11Aに対して下げることを、予め定められた航行速度以下で行うようにすれば、フロート15Aや、フロート15Aを上下方向に案内するガイド部材等を、例えばFRP等で形成することができる。これにより、船舶1Aの軽量化を図ることが可能となる。
【0025】
(
参考例の変形例)
上記
参考例では、船舶1Aを、主胴部13と、その幅方向両側のフロート15Aとによって、多胴船にする場合を説明した。しかし、この発明に係る船舶は、多胴船に限らない。
図5は、上記船舶の
参考例の変形例における船舶の全体構成を示す前面図である。
図6は、上記船舶の
参考例の変形例における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す前面図である。
図5、
図6に示すように、この
参考例の変形例における船舶1Bの船体10Bは、主船体11Bと、フロート15Bと、を備えている。
【0026】
主船体11Bは、船幅方向両側の船底に、フロート15Bが収容される凹部14を備えている。
【0027】
フロート15Bは、主船体11Bの船幅方向両側にそれぞれ設けられている。各フロート15Bは、凹部14に収容された状態で、主船体11Bの底面11fに連続する底面15fを有する。
フロート15Bは、油圧シリンダ52(
図6参照)等からなる移動機構50Bによって、主船体11Bに対して上下方向に相対移動される。
図5に示すように、油圧シリンダ52が縮んだ状態で、フロート15Bは、凹部14に収容される。この状態で、フロート15Bの底面15fは、主船体11Bの底面11fと連続し、単胴船を構成する船体10Bの船底面10bを形成する。
図6に示すように、フロート15Bは、油圧シリンダ52が伸びた状態で、主船体11Bの底面11fよりも下方に突出する。
【0028】
このような船舶1Bは、通常航行時、移動機構50Bの油圧シリンダ52を縮め、各フロート15Bを、主船体11Bの凹部14に収容する。
また、船舶1Bは、水深が浅い場合等に、移動機構50Bの油圧シリンダ52を伸ばし、各フロート15Bを、主船体11Bに対して相対移動させ、下方に突出させる。すると、船幅方向両側のフロート15Bは、水面Wf下への沈下量が増大する。これにより、フロート15Bで発生する浮力が大きくなる。その結果、主船体11Bが水面Wfに対して上昇し、主船体11Bの喫水が浅くなる。
【0029】
このような構成においても、主船体11Bに対してフロート15Bを下げ、主船体11Bの喫水を浅くすることができる。これにより、水深が浅い水域での航行時や、港湾への入港時、ドッグへの入渠時等に、船舶1Bの一部が水底Wbに干渉することが抑えられる。また、ドッグへの入渠時、主船体11Bの底面11f等を上方に上げて、メンテナンス作業を容易に行うこともできる。さらに、フロート15Bを主船体11Bに対して上下動させることで、主船体11Bの喫水を岸壁100に対して調整し、船舶1Bへの乗降を容易に行うこともできる。このように、船舶1Bでは、水深が浅い場合であっても航行に支障が生じるのを抑え、構造の簡易化を図ることが可能となる。
【0030】
(実施形態)
次に、この発明に係る船舶の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態においては、船舶1Cは、水中翼船であり、参考例と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複説明を省略する。
【0031】
図7は、この発明の第二実施形態における船舶の全体構成を示す側面図である。
図8は、上記船舶の第二実施形態における船舶を船首側から見た前面図である。
図9は、上記船舶の第二実施形態における船舶において、フロートを上げ、主船体部の喫水を深くした状態を示す前面図である。
図10は、上記船舶の第二実施形態における船舶において、フロートを下げ、主船体部の喫水を浅くした状態を示す前面図である。
図7、
図8に示すように、この実施形態における船舶1Cは、船体10Cと、推進機構60と、水中翼機構70と、移動機構50C(
図10参照)と、を備えている。
【0032】
船体10Cは、主船体11Cと、フロート15Cと、を備えている。
主船体11Cは、船体本体17と、主胴部18と、を有する。船体本体17は、船幅方向両側に一対の舷側17sを有する。主胴部18は、船体本体17の船幅方向中央部に設けられている。主胴部18は、船体本体17の下面17bから下方に突出している。主胴部18は、主船体11Cの船首尾方向に連続している。
【0033】
フロート15Cは、船体本体17の船幅方向両側にそれぞれ設けられている。各フロート15Cは、主胴部18に対し、船幅方向両側に間隔をあけて設けられている。各フロート15Cは、船体本体17の下面17bの下方に配置されている。フロート15Cは、主船体11Cの船首尾方向に連続している。各フロート15Cは、主船体11C及び水中翼機構70とは独立して設けられている。このようなフロート15Cは、例えば、FRP等により形成することができる。
【0034】
フロート15Cは、中空構造で、排水量を有している。すなわち、フロート15Cは、船体10Cの排水量の一部を形成する。フロート15Cは、後述する移動機構50Cにより、主船体11Cに対して上下方向に相対移動可能である。
船体10Cは、船幅方向中央部の主胴部18と、船幅方向両側のフロート15Cとを備え、三胴船(多胴船)を構成している。
【0035】
推進機構60は、主船体11C(船体10C)を推進させる推進力を発生する。この第二実施形態における推進機構60は、例えば、ウォータージェット61を備えている。ウォータージェット61は、主胴部18の船尾部18Cに設けられている。ウォータージェット61は、エンジン(図示無し)により駆動される噴射ノズルを有する。ウォータージェット61は、燃料を燃焼させることで駆動されるエンジンにより、後述する後部水中翼72に設けられた吸込口から吸い込んだ水を噴射ノズルから噴射させる。推進機構60は、水を噴射ノズルから後方に噴射することで、船体10Cを高速で推進させる。
【0036】
水中翼機構70は、主船体11Cに設けられている。水中翼機構70は、前部水中翼71と、後部水中翼72と、を備えている。
前部水中翼71は、主船体11Cの船首部11aの下方に設けられている。前部水中翼71は、ストラット(支持部)73と、翼体74と、を備えている。ストラット73は、下方に延びている。このストラット73の上端は、主船体11Cに固定されている。翼体74は、ストラット73の下部に設けられている。翼体74は、水面Wf下に没して設けられ、推進機構60で発生する推進力による航行時に、主船体11Cを浮上させる揚力を発生する。
【0037】
後部水中翼72は、主船体11Cの船尾部11rの下方に設けられている。後部水中翼72は、ストラット(支持部)75と、翼体76と、を備えている。ストラット75は、上端が主船体11Cに固定されて下方に延びている。翼体76は、ストラット75の下部に設けられている。翼体76は、前部水中翼71の翼体74に対し、例えば、船幅方向に2倍以上の長さを有している。翼体76は、水面Wf下に没して設けられ、推進機構60で発生する推進力による航行時に、主船体11Cを浮上させる揚力を発生する。
【0038】
図9、
図10に示すように、移動機構50C(
図10参照)は、各フロート15Cと主船体11Cとを接続している。移動機構50Cは、各フロート15Cを、主船体11Cに対して上下方向に相対移動させる。移動機構50Cは、例えば、油圧シリンダ53を備えている。油圧シリンダ53は、例えば、各フロート15Cにおいて、船首尾方向に間隔をあけた複数個所に設けられている。各油圧シリンダ53の基端部は、船体本体17の船幅方向両側の下面17bに固定されている。油圧シリンダ53の下端は、フロート15Cの上面に連結されている。油圧シリンダ53は、油圧により、下方に向かって伸縮駆動される。
【0039】
図8、
図9に示すように、油圧シリンダ53は、油圧シリンダ53を最も縮めた状態のときに、船体本体17又はフロート15C内に収容された状態となる。
図10に示すように、各油圧シリンダ53が下方に向かって伸びると、フロート15Cが主船体11C(主胴部18)に対して離間するように下方へ相対移動する。各油圧シリンダ53を縮めると、フロート15Cが主船体11C(主胴部18)に対して接近するように上方へ相対移動する。
【0040】
この実施形態において、油圧シリンダ53が最も縮んだ状態で、フロート15Cの底面15bの下端は、主船体11Cの底面11bの下端と、同等の高さに位置する。また、油圧シリンダ53が最も伸びた状態では、フロート15Cは、主船体11Cの底面11bよりも下方に突出する。
これらフロート15Cは、翼体76の船幅方向両端部の上方に配置されている。そのため、フロート15Cは、後部水中翼72の翼体76と、船体本体12の船幅方向両端部との間で上下動する。
【0041】
図9に示すように、このような船舶1Cは、低速での航行時、移動機構50Cの油圧シリンダ53(
図10参照)を縮め、各フロート15Cを、主船体11Cの船体本体17の下面17bに接近又は接触する位置に配置する。これにより、通常航行時の船舶1Cは、主胴部18と、その船幅方向両側のフロート15Cとが着水して、安定的に航行することができる。
【0042】
その一方で、
図7、
図8に示すように、船舶1Cは、推進機構60で発生する推進力による高速での航行時、水中に没した水中翼機構70の翼体74,76が発生する揚力により、主船体11Cが水面Wf上に浮上する。この状態で、移動機構50Cの油圧シリンダ53は、フロート15Cを主船体11Cに接近させ、フロート15Cを水面Wfよりも上方に位置させる。これにより、船体10Cが水面Wfと干渉することが抑えられ、波の影響を受けることを抑えつつ、高速で快適な航行を行うことができる。
【0043】
また、
図10に示すように、船舶1Cは、水深が浅い場合等に、移動機構50Cの油圧シリンダ53を伸ばし、各フロート15Cを、主船体11Cに対して下方に相対移動させる。すると、船幅方向両側のフロート15Cは、水面Wf下への沈下量が増大する。これにより、フロート15Cで発生する浮力が大きくなる。その結果、主船体11Cが水面Wfに対して上昇し、主船体11Cの喫水が浅くなる。
この状態で、推進機構60のウォータージェット61が水を吸い上げ不能となる場合は、ウォータージェット61に引込式スラスターを装備してもよい。
【0044】
したがって、上述した第二実施形態の船舶1Cによれば、移動機構50Cにより、主船体11Cに対してフロート15Cが上下方向に相対移動する。これにより、移動機構50Cによってフロート15Cの水面下への沈下量を変化させると、主船体11Cの喫水が変化する。主船体11Cに対してフロート15Cを下げると、フロート15Cで発生する浮力が増し、主船体11Cの喫水が浅くなる。これにより、水深が浅い水域での航行時や、港湾への入港時、ドッグへの入渠時等に、船舶1Cの一部が水底Wbに干渉することが抑えられる。また、ドッグへの入渠時、主胴部18の底面やウォータージェット61等を水面Wfよりも上方に上げて、メンテナンス作業を容易に行うこともできる。さらに、
図10に示すように、フロート15Cを主船体11Cに対して上下動させることで、主船体11Cの乾舷(水面上高さ)を岸壁100に対して調整し、船舶1Cへの乗降を容易に行うこともできる。
【0045】
この第二実施形態の水中翼機構70は、主船体11Cに設けられている。これにより、主船体11Cに対してフロート15Cを上下方向に相対移動させると、水中翼機構70は主船体11Cとともに上下動する。
したがって、主船体11Cに対してフロート15Cを下げ、フロート15Cの水面下への沈下量を大きくしても、水中翼機構70が水底Wbに干渉することが抑えられる。さらに、水中翼機構70をフロート15Cともに主船体11Cに対して上下動させる必要が無い。したがって、水中翼機構70に翼体32の向きや傾斜角度を調整するための油圧系統や電気系統を備える場合であっても、構造が複雑化することが抑えられる。
このように、船舶1Cでは、水深が浅い場合であっても航行に支障が生じるのを抑え、構造の簡易化を図ることが可能となる。
【0046】
また、推進機構60で発生する推進力によって航行を行うと、翼体74,76で発生する揚力によって、主船体11Cが浮上し、主船体11Cによる水の抵抗を抑えることができる。
このような船舶1Cでは、水深が浅い水域で、主船体11Cに対してフロート15Cを下降させることで、主船体11C及び水中翼機構70が水底Wbに干渉することを有効に抑えることができる。
【0047】
また、船体10Cは、航行時に翼体74,76で発生する揚力によって主船体11Cが浮上しているときに、移動機構50Cは、フロート15Cを水面Wfより上方に位置させる。これにより、航行時における主船体11C及びフロート15Cによる水の抵抗が無くなり、高速で揺れの少ない快適な航行を行うことができる。
【0048】
さらに、フロート15Cが排水量を有する構成とすることで、主船体11Cの排水量を抑え、主船体11Cの小型化を図ることが可能となる。
【0049】
また、フロート15Cを主船体11Cに対して下げることを、予め定められた航行速度以下で行うようにすれば、フロート15Cや、フロート15Cを上下方向に案内するガイド部材等を、例えばFRP等で形成することができる。これにより、船舶1Cの軽量化を図ることが可能となる。
【0050】
(その他の変形例)
この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、上記実施形態、参考例および参考例の変形例では、船幅方向両側にそれぞれフロート15A~15Cを1つずつ備えるようにしたが、これに限らない。船幅方向両側に、複数のフロートを備えてもよい。また、船首尾方向に複数のフロートを備えてもよい。
更に、参考例及び実施形態においては、多胴船として三胴船を例示したが、双胴船や、四胴以上の多胴船であってもよい。
また、船体10A~10Cの具体的な形状や構成は、適宜変更可能である。
また、船舶1A~1Cの船種等についても、何ら限定するものではない。
【符号の説明】
【0051】
1A、1B、1C 船舶
10A、10B、10C 船体
10b 船底面
11A、11B、11C 主船体
11a 船首部
11b 底面
11f 底面
11r 船尾部
12 船体本体
12b 下面
12s 舷側
12t 上部構造
13 主胴部
13A 船尾部
13C 船首部
13b 船底
13d 船底
14 凹部
15A、15B、15C フロート
15b 底面
15f 底面
17 船体本体
17b 下面
17s 舷側
18 主胴部
18C 船尾部
20 推進機構
21 スクリュー
22 スクリュー軸
30 水中翼機構
31、73、75 ストラット(支持部)
32、74、76 翼体
50A、50B、50C 移動機構
51、52、53 油圧シリンダ
60 推進機構
61 ウォータージェット
70 水中翼機構
71 前部水中翼
72 後部水中翼
100 岸壁
Wb 水底
Wf 水面