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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-16
(45)【発行日】2022-12-26
(54)【発明の名称】複合材の射出成形方法及び複合材
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20221219BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20221219BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018153216
(22)【出願日】2018-08-16
(65)【公開番号】P2020026113
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-03-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 保徳
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 了太
(72)【発明者】
【氏名】清水 正彦
(72)【発明者】
【氏名】真能 翔也
(72)【発明者】
【氏名】河村 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】岡部 良次
(72)【発明者】
【氏名】池田 航介
(72)【発明者】
【氏名】西口 輝一
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
B29C 45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板材の一方の面に、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材を射出する射出工程と、
前記射出成形材を固化させ、前記板材の外周を囲むように枠部を成形して前記板材に接合するとともに、前記枠部の内周側に該内周側の空間を区画するようにリブを成形して前記板材に接合する成形工程と、を有し、
前記射出工程において、前記射出成形材が合流するウェルド部が、前記枠部の前記板材と重ならない領域に形成されるように前記射出成形材を射出することを特徴とする複合材の射出成形方法。
【請求項2】
板材の一方の面に、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材を射出する射出工程と、
前記射出成形材を固化させ、前記板材の外周を囲むように枠部を成形して前記板材に接合するとともに、前記枠部の内周側に該内周側の空間を区画するようにリブを成形して前記板材に接合する成形工程と、を有し、
前記成形工程において、前記板材の一方の面上における前記枠部及び前記リブが成形される領域以外の全面に、前記枠部及び前記リブの厚さよりも薄い薄膜部を成形することを特徴とする複合材の射出成形方法。
【請求項3】
前記成形工程において、前記枠部と前記リブとの間を架け渡すバイパスリブを成形することを特徴とする請求項1に記載の複合材の射出成形方法。
【請求項4】
前記射出工程において、複数のゲートから前記板材の一方の面に前記射出成形材を射出することを特徴とする請求項1に記載の複合材の射出成形方法。
【請求項5】
前記射出工程において、前記板材の一方の面の中心部に向けて前記射出成形材を射出することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の複合材の射出成形方法。
【請求項6】
板材と、
前記板材の外周を囲むように成形され、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材が固化して前記板材に接合される枠部と、
前記枠部の内周側に、該内周側の空間を区画するように成形され、前記板材とは別の、前記強化繊維を含む前記射出成形材が固化して前記板材に接合されるリブと、を有し、
前記射出成形材が合流するウェルド部が、前記枠部の前記板材と重ならない領域に形成されていることを特徴とする複合材。
【請求項7】
板材と、
前記板材の外周を囲むように成形され、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材が固化して前記板材に接合される枠部と、
前記枠部の内周側に、該内周側の空間を区画するように成形され、前記板材とは別の、前記強化繊維を含む前記射出成形材が固化して前記板材に接合されるリブと、を有し、
前記板材の一方の面上における前記枠部及び前記リブが成形される領域以外の全面に、前記枠部及び前記リブの厚さよりも薄い薄膜部が成形されていることを特徴とする複合材。
【請求項8】
前記枠部と前記リブとの間を架け渡すバイパスリブが成形されていることを特徴とする請求項6に記載の複合材。
【請求項9】
前記枠部、前記リブ、又はこれらの両方において、前記射出成形材を射出したゲート跡が複数形成されていることを特徴とする請求項6に記載の複合材。
【請求項10】
前記リブは、前記板材の一方の面の中心部を横切るように成形されており、前記リブの前記中心部に対応する位置には、前記射出成形材を射出したゲート跡が形成されていることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材の射出成形方法及び複合材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性複合材から構成される板材及び射出成形材を用いて、板材に対し、射出成形によって射出成形材を流し、板材表面の樹脂を再溶融・固化させることで、板材を射出成形材と接合するオーバーモールド成形技術が知られている。当該技術においては、製品の外表面に板材を配置し、射出成形によって板材にリブ等を成形し、複合材を補強するのが一般的となっている。
【0003】
上記のようなオーバーモールド成形に用いられる装置の例としては、例えば特許文献1及び2に記載されているものが報告されている。特許文献1には、プレス成形と射出圧縮成形を組合せたオーバーモールド成形を可能にする圧縮成形装置が開示されている。また、特許文献2には、バルブピンによって射出成形体を圧縮することにより、ゲート部における板材表面のディンプルを抑制する成形装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5072133号公報
【文献】特許第5765475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下、図7~9を示して、射出成形材として強化繊維を含む熱可塑性複合材を用いて、上記のようなオーバーモールド成形を行った場合に生じる問題についてより詳しく説明する。図7は、参考例としての複合材の一例を示す上面図であり、図8は、図7に示す複合材を金型内に配置した際のA-A縦断面図であり、図9は、図7に示す複合材のB-B縦断面図である。
【0006】
図7に示すように、複合材101は、板材102と、枠部103と、リブ104と、を有する。板材102は、金属や樹脂などから構成される部材であり、枠部103及びリブ104は、強化繊維を含む射出成形材が固化してなる部材である。枠部103は、板材102の外周を囲むように成形されており、リブ104は、枠部103の内周側に、内周側の空間を4つに区画するように枠部103の短辺に平行に3本成形されている。板材102の上面の中心部を横切るように成形されたリブ104においては、この中心部に対応する位置に、射出成形材を射出したゲート跡105が形成されている。また、ゲート跡105が形成されていない2本のリブ104の中央部分、及び枠部103の短辺の中央部分には、それぞれ射出成形材が合流するウェルド部106が形成されている。なお、図7中の符号107は板材102の外形線を示している。
【0007】
次に、図7に示す複合材101の射出成形に用いられる成形金型について、図8を示して説明する。図8に示す成形金型108は、上型109と下型110とを備えている。上型109の下型110に対向する面における中心部には、射出成形材を射出するためのゲート111が、上型109内を貫通して設けられている。また、上型109の下型110に対向する面には、複合材101の形状と対応する空洞191が設けられている。この空洞191においては、枠部103及びリブ104が成形される部分の深さが、他の部分(板材102上に枠部103やリブ104が成形されない部分)の深さと比べて上型109側に向かって深くなっている。
【0008】
図9図7に示す複合材のB-B縦断面図(即ち、ウェルド部近傍における複合材の縦断面図)である。図9に示すように、リブ104は、樹脂112と強化繊維113とを含む射出成形材が固化し、板材102上に接合された状態で成形されている。なお、図9中の点線は、固化成形前の板材102及びリブ104の外形線を示している。
【0009】
図9に示すように、射出成形材(樹脂112)に含まれる強化繊維113は、ウェルド部106以外の部分では、樹脂112の流動方向(図9中の両矢印Hで示す方向)に配向するのに対し、ウェルド部106では樹脂112の流動方向と直交する方向(図9中の両矢印Vで示す方向)に配向する。このウェルド部106においては、ウェルド部106以外の部分と比較すると、射出成形材における繊維方向(図9中の両矢印Vで示す方向)の固化収縮量が小さくなるため、固化後の射出成形材(リブ104)の表面が凸状になる。板材102の板厚が薄い場合、成形品(複合材)を成形金型から取り出した後、成形品が常温まで冷却される過程で射出成形材が固化し、この射出成形材の固化収縮に追従して、図9に示すように板材102に局所変形(たわみ)が生じてしまう恐れがある。現状では、このような局所変形については特に着目されていなかった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、射出成形材の固化収縮時において、板材に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる複合材の射出成形方法及び複合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、板材の一方の面に、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材を射出する射出工程と、前記射出成形材を固化させ、前記板材の外周を囲むように枠部を成形して前記板材に接合するとともに、前記枠部の内周側に該内周側の空間を区画するようにリブを成形して前記板材に接合する成形工程と、を有し、前記射出工程において、前記射出成形材が合流するウェルド部が、前記枠部の前記板材と重ならない領域に形成されるように前記射出成形材を射出する複合材の射出成形方法を提供する。
【0012】
本発明の複合材の射出成形方法においては、射出工程において、射出成形材が合流するウェルド部が、枠部の板材と重ならない領域(例えば、枠部とリブとの合流地点や枠部の四隅等、複合材を上から見て枠部のうち板材の外形線から外側にはみ出している領域)に形成されるように射出成形材を射出する。射出成形材(溶融樹脂)に含まれる強化繊維は、ウェルド部以外の部分では、樹脂の流動方向に配向するのに対し、ウェルド部では樹脂の流動方向と直交する方向に配向する。このウェルド部においては、ウェルド部以外の部分と比較すると、射出成形材における繊維方向の固化収縮量が小さくなるため、固化後の射出成形材の表面が凸状になる。板材の板厚が薄い場合、この射出成形材の固化収縮に追従して、板材に局所変形(たわみ)が生じてしまう恐れがある。一方、本発明のように、射出工程において、ウェルド部が枠部の板材と重ならない領域に形成されるように射出成形材を射出することで、板材と重なる領域上にウェルド部が形成されてしまうことを抑制することができる。これにより、射出成形材の固化収縮時において、板材に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、板材の一方の面に、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材を射出する射出工程と、前記射出成形材を固化させ、前記板材の外周を囲むように枠部を成形して前記板材に接合するとともに、前記枠部の内周側に該内周側の空間を区画するようにリブを成形して前記板材に接合する成形工程と、を有し、前記成形工程において、前記板材の一方の面上における前記枠部及び前記リブが成形される領域以外の全面に、前記枠部及び前記リブの厚さよりも薄い薄膜部を成形する複合材の射出成形方法を提供する。
【0014】
本発明の複合材の射出成形方法においては、成形工程において、板材の一方の面上における枠部及びリブが成形される領域以外の全面に、枠部及びリブの厚さよりも薄い薄膜部を成形する。これにより、射出成形材が合流するウェルド部が形成されないように複合材を成形することができるため、板材と重なる領域上にウェルド部が形成されてしまうことを抑制することができる。従って、射出成形材の固化収縮時において、板材に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0015】
前記成形工程において、前記枠部と前記リブとの間を架け渡すバイパスリブを成形することが好ましい。
【0016】
枠部とリブとの間を架け渡すバイパスリブを成形することで、射出成形材が合流するウェルド部の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部が枠部の板材と重ならない領域に形成されるように複合材を成形することができる。
【0017】
前記射出工程において、複数のゲートから前記板材の一方の面に前記射出成形材を射出することが好ましい。
【0018】
複数のゲートから板材の一方の面に射出成形材を射出するように構成することで、射出成形材が合流するウェルド部の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部が枠部の板材と重ならない領域に形成されるように複合材を成形することができる。
【0019】
前記射出工程において、前記板材の一方の面の中心部に向けて前記射出成形材を射出することが好ましい。
【0020】
板材の一方の面の中心部に向けてゲートから射出成形材を射出すれば、射出成形材を板材の面全体に満遍なく行き渡らせることができる。これにより、効率的に複合材を射出成形することができる。
【0021】
また、本発明は、板材と、前記板材の外周を囲むように成形され、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材が固化して前記板材に接合される枠部と、前記枠部の内周側に、該内周側の空間を区画するように成形され、前記板材とは別の、前記強化繊維を含む前記射出成形材が固化して前記板材に接合されるリブと、を有し、前記射出成形材が合流するウェルド部が、前記枠部の前記板材と重ならない領域に形成されている複合材を提供する。
【0022】
本発明の複合材においては、射出成形材が合流するウェルド部が、枠部の板材と重ならない領域(例えば、枠部とリブとの合流地点や枠部の四隅等、複合材を上から見て枠部のうち板材の外形線から外側にはみ出している領域)に形成されている。射出成形材(溶融樹脂)に含まれる強化繊維は、ウェルド部以外の部分では、樹脂の流動方向に配向するのに対し、ウェルド部では樹脂の流動方向と直交する方向に配向する。このウェルド部においては、ウェルド部以外の部分と比較すると、射出成形材における繊維方向の固化収縮量が小さくなるため、固化後の射出成形材の表面が凸状になる。板材の板厚が薄い場合、この射出成形材の固化収縮に追従して、板材に局所変形(たわみ)が生じてしまう恐れがある。一方、本発明のように、ウェルド部が、枠部の板材と重ならない領域に形成されていることで、板材の面上にウェルド部が形成されてしまうことを抑制することができる。これにより、射出成形材の固化収縮時において、板材に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0023】
また、本発明は、板材と、前記板材の外周を囲むように成形され、前記板材とは別の、強化繊維を含む射出成形材が固化して前記板材に接合される枠部と、前記枠部の内周側に、該内周側の空間を区画するように成形され、前記板材とは別の、前記強化繊維を含む前記射出成形材が固化して前記板材に接合されるリブと、を有し、前記板材の一方の面上における前記枠部及び前記リブが成形される領域以外の全面に、前記枠部及び前記リブの厚さよりも薄い薄膜部が成形されている複合材を提供する。
【0024】
本発明の複合材においては、板材の一方の面上における枠部及びリブが成形される領域以外の全面に、枠部及びリブの厚さよりも薄い薄膜部が形成されている。これにより、射出成形材が合流するウェルド部が形成されないように複合材が成形されるため、板材と重なる領域上にウェルド部が形成されてしまうことを抑制することができる。従って、射出成形材の固化収縮時において、板材に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0025】
前記枠部と前記リブとの間を架け渡すバイパスリブが成形されていることが好ましい。
【0026】
枠部とリブとの間を架け渡すバイパスリブが形成されるように射出成形材を成形することで、射出成形材が合流するウェルド部の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部が枠部の板材と重ならない領域に形成されるように複合材を成形することができる。
【0027】
前記枠部、前記リブ、又はこれらの両方において、前記射出成形材を射出したゲート跡が複数形成されていることが好ましい。
【0028】
複数のゲートから板材の一方の面に射出成形材を射出するように構成することで、射出成形材が合流するウェルド部の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部が枠部の板材と重ならない領域に形成されるように複合材を成形することができる。
【0029】
前記リブは、前記板材の一方の面の中心部を横切るように成形されており、前記リブの前記中心部に対応する位置には、前記射出成形材を射出したゲート跡が形成されていることが好ましい。
【0030】
板材の一方の面の中心部に向けてゲートから射出成形材を射出すれば、射出成形材を板材の面全体に満遍なく行き渡らせることができる。これにより、効率的に複合材を射出成形することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の複合材の射出成形方法及び複合材であれば、射出成形材の固化収縮時において、板材に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の第1実施形態に係る複合材の上面図である。
図2図1に示す複合材を金型内に配置した際のA-A縦断面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る複合材の上面図である。
図4図3に示す複合材を金型内に配置した際のA-A縦断面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る複合材の上面図である。
図6図5に示す複合材を金型内に配置した際のA-A縦断面図である。
図7】参考例としての複合材の一例を示す上面図である。
図8図7に示す複合材を金型内に配置した際のA-A縦断面図である。
図9図7に示す複合材のB-B縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る複合材及び複合材の射出成形方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0034】
〔第1実施形態〕
〔複合材〕
以下、本発明の第1実施形態に係る複合材及びその射出成形方法について、図1,2を用いて説明する。
まず、本実施形態に係る複合材について説明する。
【0035】
図1は、本実施形態に係る複合材の上面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る複合材1は、板材2と、枠部3と、リブ4と、バイパスリブ14と、を有している。なお、図1中の符号7は板材2の外形線を示している。
【0036】
枠部3は、板材2の外周を囲むように成形されており、複合材1を上から見ると、板材2の外形線7から外側にはみ出して成形されている。リブ4は、枠部3の内周側に、内周側の空間を区画するように枠部3の短辺に平行に3本成形されている。バイパスリブ14は、枠部3とリブ4との間を架け渡すように、枠部3の長辺に平行に1本成形されている。これら枠部3、リブ4、及びバイパスリブ14は、強化繊維を含む射出成形材が固化して一体に成形されたものである。板材2の上面の中心部を横切るように成形されたリブ4においては、この中心部に対応する位置に、射出成形材を射出したゲート跡5が環状に形成されている。また、ゲート跡5が形成されていない2本のリブ4と枠部3との合流地点、及び枠部3の四隅には、それぞれ射出成形材が合流するウェルド部6が形成されている。即ち、ウェルド部6は、枠部3の板材2と重ならない領域に形成されている。なお、図1中のゲート跡5から延びる矢印は、射出成形材が流れた方向を示している。
【0037】
板材2は、例えば金属や樹脂などから構成される部材であり、具体的には、強化繊維を含む熱可塑性樹脂複合材料から構成される基材を複数枚積層してなる部材(積層板)を挙げることができる。強化繊維としては、例えば直径10μm程度の連続した繊維が適用される。この板材2の板厚は、特に限定されないが、好ましくは1~10mmであり、例えば約2mmである。
【0038】
枠部3、リブ4、及びバイパスリブ14は、強化繊維を含む射出成形材(例えば熱可塑性樹脂複合材料)が固化して成形される部材であり、強化繊維としては、例えば直径10μm程度で長さが0.2~0.3mm程度の繊維が適用される。リブ4及びバイパスリブ14の厚さ(高さ)は、特に限定されないが、好ましくは10~120mmであり、例えば約25mmである。また、リブ4及びバイパスリブ14の幅の長さ(図1中の射出成形材が流れた方向に対して直交する方向の長さ)は、特に限定されないが、好ましくは1~10mmであり、例えば約5mmである。
【0039】
次に、本実施形態に係る複合材1の射出成形に用いられる成形金型について、図2を示して説明する。図2に示す成形金型8は、上型9と下型10とを備えている。上型9の下型10に対向する面における中心部には、射出成形材を射出するためのゲート11が、上型9内を貫通して設けられている。また、上型9の下型10に対向する面には、複合材1の形状と対応する空洞91が設けられている。この空洞91においては、枠部3、リブ4、及びバイパスリブ14が成形される部分の深さが、他の部分(板材2上に枠部3、リブ4、又はバイパスリブ14が成形されない部分)の深さと比べて上型9側に向かって深くなっている。
【0040】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の複合材1においては、射出成形材が合流するウェルド部6が、枠部3の板材2と重ならない領域(例えば、枠部3とリブ4との合流地点や枠部3の四隅等、複合材1を上から見て枠部3のうち板材2の外形線7から外側にはみ出している領域)に形成されている。本実施形態のように、ウェルド部6が、枠部3の板材2と重ならない領域に形成されていることで、板材2の面上にウェルド部6が形成されてしまうことを抑制することができる。これにより、射出成形材の固化収縮時において、板材2に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、枠部3とリブ4との間を架け渡すように、枠部3の長辺に平行なバイパスリブ14が1本成形されている。このように枠部3とリブ4との間を架け渡すバイパスリブ14が形成されるように射出成形材を成形することで、射出成形材が合流するウェルド部6の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部6が枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように複合材1を成形することができる。なお、バイパスリブ14の本数は1本に限定されず、2本以上としてもよい。
【0042】
また、本実施形態においては、板材2の一方の面の中心部を横切るようにリブ4が1本成形されており、このリブ4における、板材2の一方の面の中心部に対応する位置には、射出成形材を射出したゲート跡5が形成されている。即ち、板材2の一方の面の中心部に向けてゲート11から射出成形材が射出されている。このようにすれば、射出成形材を板材2の面全体に満遍なく行き渡らせることができる。これにより、効率的に複合材1を射出成形することができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、ウェルド部6が、枠部3とリブ4との合流地点、及び枠部3の四隅に形成された場合を一例として説明したが、これに限定されない。ウェルド部6は、枠部3とリブ4との合流地点のみに形成される態様としてもよいし、枠部3の四隅のみに形成される態様としてもよいし、これら以外の場所に形成される態様としてもよい。即ち、本発明においては、ウェルド部6が、枠部3の板材2と重ならない領域に形成されてさえいればよい。
【0044】
〔複合材の射出成形方法〕
次に、本実施形態に係る複合材の射出成形方法について説明する。
なお、以下では、図2に示す成形金型8を用いて複合材1を射出成形する場合を一例として説明するが、これに限定されない。
【0045】
(射出工程)
射出工程においては、下型10の上型9に対向する面上に配置された板材2の上面に対し、強化繊維を含む射出成形材を、板材2の上面の中心部に向けてゲート11から射出する。このとき、射出成形材が合流するウェルド部6が、成形する枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように射出成形材を射出する。
【0046】
(成形工程)
成形工程においては、射出成形材を固化させ、図1に示すように、板材2の外周を囲むように枠部3を成形するとともに、枠部3の内周側に内周側の空間を区画するようにリブ4を成形する。このとき同時に、枠部3とリブ4との間を架け渡すバイパスリブ14も成形する。
【0047】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の複合材1の射出成形方法においては、射出工程において、射出成形材が合流するウェルド部6が、枠部3の板材2と重ならない領域(例えば、枠部3とリブ4との合流地点や枠部3の四隅等、複合材1を上から見て枠部3のうち板材2の外形線7から外側にはみ出している領域)に形成されるように射出成形材を射出する。本実施形態のように、射出工程において、ウェルド部6が枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように射出成形材を射出することで、板材2と重なる領域上にウェルド部6が形成されてしまうことを抑制することができる。これにより、射出成形材の固化収縮時において、板材2に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態では、成形工程において、枠部3とリブ4との間を架け渡すように、枠部3の長辺に平行なバイパスリブ14を1本成形する。このように枠部3とリブ4との間を架け渡すバイパスリブ14を成形することで、射出成形材が合流するウェルド部6の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部6が枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように複合材1を成形することができる。
【0049】
また、本実施形態においては、射出工程において、板材2の一方の面の中心部に向けて射出成形材を射出する。このように、板材2の一方の面の中心部に向けてゲート11から射出成形材を射出すれば、射出成形材を板材2の面全体に満遍なく行き渡らせることができる。これにより、効率的に複合材1を射出成形することができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
〔複合材〕
次に、本発明の第2実施形態に係る複合材及びその射出成形方法について、図3,4を用いて説明する。
まず、本実施形態に係る複合材について説明する。
【0051】
本実施形態の基本構成は、第1実施形態と基本的に同様であるが、第1実施形態とは、バイパスリブ14が成形される代わりに、板材2の一方の面上における枠部3及びリブ4が成形される領域以外の全面に、枠部3及びリブ4の厚さよりも薄い薄膜部15が成形されている点が異なっている。よって、本実施形態においては、この異なっている部分を説明し、その他の重複するものについては説明を省略する。
なお、第1実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0052】
図3は、本実施形態に係る複合材21の上面図である。図3に示すように、板材2の一方の面(上面)上における枠部3及びリブ4が成形される領域以外の全面に、枠部3及びリブ4の厚さよりも薄い薄膜部15が成形されている。この複合材21においては、図3に示すように、第1実施形態の複合材1において形成されていたウェルド部6は形成されていない。なお、図3中のゲート跡5から延びる矢印は、射出成形材が流れた方向を示している。
【0053】
薄膜部15は、枠部3及びリブ4同様、強化繊維を含む射出成形材(例えば熱可塑性樹脂複合材料)が固化して成形される部材であり、枠部3及びリブ4と一体に成形される。薄膜部15の厚みは、枠部3及びリブ4の厚さよりも薄い限り特に限定されないが、好ましくは0.1~10mmであり、例えば約1mmである。
【0054】
次に、本実施形態に係る複合材21の射出成形に用いられる成形金型について、図4を示して説明する。図4に示す成形金型8は、上型9と下型10とを備えている。上型9の下型10に対向する面における中心部には、射出成形材を射出するためのゲート11が、上型9内を貫通して設けられている。また、上型9の下型10に対向する面は、複合材21の形状と対応する空洞91が設けられている。この空洞91においては、板材2上に対して枠部3及びリブ4が成形される部分の深さが、薄膜部15が成形される部分の深さと比べて上型9側に向かってより深くなっている。
【0055】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の複合材21においては、板材2の一方の面上における枠部3及びリブ4が成形される領域以外の全面に、枠部3及びリブ4の厚さよりも薄い薄膜部15が形成されている。これにより、射出成形材が合流するウェルド部6が形成されないように複合材21が成形されるため、板材2と重なる領域上にウェルド部6が形成されてしまうことを抑制することができる。従って、射出成形材の固化収縮時において、板材2に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、長方形の枠部3を成形した場合を一例として説明したが、枠部3の4辺の端部(四隅)はなくてもよい。
【0057】
〔複合材の射出成形方法〕
次に、本実施形態に係る複合材の射出成形方法について説明する。
なお、以下では、図4に示す成形金型8を用いて複合材21を射出成形する場合を一例として説明するが、これに限定されない。
【0058】
(射出工程)
射出工程においては、下型10の上型9に対向する面上に配置された板材2の上面に対し、強化繊維を含む射出成形材を、板材2の上面の中心部に向けてゲート11から射出する。
【0059】
(成形工程)
成形工程においては、射出成形材を固化させ、図3に示すように、板材2の外周を囲むように枠部3を成形するとともに、枠部3の内周側に内周側の空間を区画するようにリブ4を成形する。このとき同時に、板材2の一方の面(上面)上における枠部3及びリブ4が成形される領域以外の全面に、枠部3及びリブ4の厚さよりも薄い薄膜部15を成形する。
【0060】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の複合材21の射出成形方法においては、成形工程において、板材2の一方の面上における枠部3及びリブ4が成形される領域以外の全面に、枠部3及びリブ4の厚さよりも薄い薄膜部15を成形する。これにより、射出成形材が合流するウェルド部6が形成されないように複合材21を成形することができるため、板材2と重なる領域上にウェルド部6が形成されてしまうことを抑制することができる。従って、射出成形材の固化収縮時において、板材2に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0061】
なお、上記の成形工程を行った後に、枠部3の4辺の端部(四隅)を切断する工程を追加で行ってもよい。
【0062】
〔第3実施形態〕
〔複合材〕
次に、本発明の第3実施形態に係る複合材及びその射出成形方法について、図5,6を用いて説明する。
まず、本実施形態に係る複合材について説明する。
【0063】
本実施形態の基本構成は、第1実施形態と基本的に同様であるが、第1実施形態とは、バイパスリブ14が成形される代わりに、射出成形材を射出したゲート跡5が複数形成されている点が異なっている。よって、本実施形態においては、この異なっている部分を説明し、その他の重複するものについては説明を省略する。
なお、第1実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0064】
図5は、本実施形態に係る複合材31の上面図である。図5に示すように、複合材31においては、枠部3及びリブ4の両方において、射出成形材を射出したゲート跡5が5か所形成されている。具体的には、3本のリブ4の中点、及び枠部3の2本の短辺の中点にそれぞれゲート跡5が1つずつ形成されている。また、ウェルド部6は、枠部3の2本の長辺上に等間隔にそれぞれ4か所ずつ形成されている。
【0065】
次に、本実施形態に係る複合材31の射出成形に用いられる成形金型について、図6を示して説明する。図6に示す成形金型8は、上型9と下型10とを備えている。上型9の下型10に対向する面には、中心部を含め、射出成形材を射出するためのゲート11が、上型9内を貫通して等間隔に5つ設けられている。また、上型9の下型10に対向する面は、複合材31の形状と対応する空洞91が設けられている。この空洞91においては、枠部3及びリブ4が成形される部分の深さが、他の部分(板材2上に枠部3やリブ4が成形されない部分)の深さと比べて上型9側に向かって深くなっている。
【0066】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の複合材31においては、枠部3とリブ4の両方において、射出成形材を射出したゲート跡5が複数形成されている。このように、複合材31にゲート跡5が複数形成される(即ち、複数のゲート11から板材2の一方の面に射出成形材を射出する)ように構成することで、射出成形材が合流するウェルド部6の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部6が枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように複合材31を成形することができる。
【0067】
〔複合材の射出成形方法〕
次に、本発明の複合材の射出成形方法の一実施形態について説明する。
なお、以下では、図6に示す成形金型8を用いて複合材31を射出成形する場合を一例として説明するが、これに限定されない。
【0068】
(射出工程)
射出工程においては、下型10の上型9に対向する面上に配置された板材2の上面に対し、強化繊維を含む射出成形材を、5か所のゲート11から射出する。このとき、射出成形材が合流するウェルド部6が、枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように射出成形材を射出する。
【0069】
(成形工程)
成形工程においては、射出成形材を固化させ、図5に示すように、板材2の外周を囲むように枠部3を成形するとともに、枠部3の内周側に内周側の空間を区画するようにリブ4を成形する。
【0070】
以上に説明の構成により、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態の複合材31の射出成形方法においては、射出工程において、射出成形材が合流するウェルド部6が、枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように射出成形材を射出する。本実施形態のように、射出工程において、ウェルド部6が枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように射出成形材を射出することで、板材2と重なる領域上にウェルド部6が形成されてしまうことを抑制することができる。これにより、射出成形材の固化収縮時において、板材2に局所変形が生じてしまうことを抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態のように、複数のゲート11から板材2の一方の面に射出成形材を射出するように構成することで、射出成形材が合流するウェルド部6の位置を容易に調整することができる。これにより、ウェルド部6が枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように複合材31を成形することができる。
【0072】
以上説明したような本発明の複合材は、例えば航空機の外板等に好適に適用することができる。本発明の複合材は、表面が十分な平滑度を有しているので、航空機の外板として使用しても、航行中の空気抵抗を十分に減らすことができる。
【0073】
また、以上に説明した本発明の複合材及び複合材の射出成形方法の一実施形態においては、リブ4を3本成形する場合を一例として説明したが、これに限定されない。具体的には、リブ4の本数は3本に限定されず、1本や2本としてもよいし、4本以上としてもよい。
【0074】
また、以上に説明した本発明の複合材及び複合材の射出成形方法の一実施形態においては、リブ4やバイパスリブ14を、枠部3の長辺や短辺に平行となるように直線状に成形する場合を一例として説明したが、これに限定されない。具体的には、リブ4やバイパスリブ14を、枠部3の内周側の空間を斜めに横切るように成形してもよい。また、リブ4やバイパスリブ14は、蛇行するように成形してもよい。
【0075】
また、以上に説明した本発明の複合材及び複合材の射出成形方法の一実施形態においては、上型9の下型10に対向する面における中心部(板材2の上面の中心部に対応する位置)に、射出成形材を射出するためのゲート11を設ける場合を一例として説明したが、これに限定されない。即ち、上型9における板材2の上面の中心部に対応する位置には、必ずしもゲート11を設ける必要はない。リブ4の厚さ等を変更して射出成形材の流路面積を調整することで、射出成形材の流速を変更できるため、これによりウェルド部6の位置を適宜調整することができる。従って、必ずしもゲート11が上型9の板材2の上面の中心部に対応する位置に設けられていなくとも、ウェルド部6を、枠部3の板材2と重ならない領域に形成されるように射出成形材を射出することは可能である。
【符号の説明】
【0076】
1,21,31 複合材
2 板材
3 枠部
4 リブ
5 ゲート跡
6 ウェルド部
7 板材の外形線
8 成形金型
9 上型
10 下型
11 ゲート
14 バイパスリブ
15 薄膜部
91 空洞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9